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局所化と素イデアルのスペクトル:根基・分数環・Zariski 位相

対象読者: 学部の代数学(環・イデアル・剰余環)と位相空間の基本概念を学び、選択公理と Zorn の補題を知っている人。可換環論は初めてでも読めます。スキームの知識は仮定しません。

前提となる記事:イデアルと剰余環:環を「割る」ための正規部分群、選択公理と Zorn の補題:「無限個の選択」を極大元に置き換える、位相空間の定義と基本概念:距離を捨てても「近さ」は残る

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整数を素数ごとに分けて調べるとき、「ほかの素数で割ることは自由にしてよい」と決めた世界で考えると話が簡単になります。この記事は、その考え方を一般の環に広げ、環の中の素イデアルを「点」と見て、点の集まりに形(位相)を入れるまでを扱います。読み終えると、環の性質(たとえば 2 つの環の直積に分かれるか)を、点の集まりの形(つながっているか)として読み取れるようになります。

  • 冪零元全体(冪零根基)はすべての素イデアルの共通部分であり、イデアル a\mathfrak{a} の根基 a\sqrt{\mathfrak{a}} は a\mathfrak{a} を含む素イデアルの共通部分です。素イデアルの存在はすべて Zorn の補題から出ます。
  • 積閉集合 SS による局所化 S−1AS^{-1}A は「SS の元を可逆にする最も普遍的な環」です。分数の同値関係に「余分な因子 uu」が入るのは、零因子がある環でも推移律を保つためです。
  • S−1AS^{-1}A の素イデアルは、SS と交わらない AA の素イデアルと一対一に対応します。とくに ApA_{\mathfrak{p}} は局所環で、その剰余体は A/pA/\mathfrak{p} の商体です。商体は S=A∖{0}S = A \setminus \{0\} の局所化として得られます。
  • 素イデアル全体 Spec⁡A\operatorname{Spec} A に Zariski 位相を入れると、コンパクトで T0 だが一般には T1 でない空間になり、閉点(1 点だけの集合が閉集合になる点)は極大イデアル、既約閉集合は V(p)V(\mathfrak{p}) に限ります。
  • Spec⁡A\operatorname{Spec} A が連結でないことは、AA に 0,10, 1 以外の冪等元があること、すなわち AA が 2 つの 00 でない環の直積に分かれることと同値です。

整数の性質を素数ごとに調べるとき、私たちは「pp 以外の素数で割ることを許した世界」で考えます。たとえば pp と互いに素な分母をもつ有理数の全体 Z(p)\mathbb{Z}_{(p)} では、pp と素な整数はすべて可逆になり、残る素数は pp だけです。方程式が Z(p)\mathbb{Z}_{(p)} で解けるかを pp ごとに調べ、あとで情報を貼り合わせる、という手法は整数論の基本です。可換環論の局所化はこの操作を一般の可換環に移したもので、「点 p\mathfrak{p} の近くだけを見る」ための道具です。

では「点」とは何でしょうか。多項式環 C[x,y]\mathbb{C}[x, y] の点 (a,b)∈C2(a, b) \in \mathbb{C}^2 には、そこで値が 00 になる多項式全体という極大イデアル (x−a,y−b)(x - a, y - b) が対応します。逆に、Hilbert の零点定理(Noether の正規化と Hilbert の零点定理)によって、C[x,y]\mathbb{C}[x,y] の極大イデアルはこの形に限ります。極大イデアルだけでなく素イデアル全体を「点」とみなすと、既約な曲線 f=0f = 0 も素イデアル (f)(f) という 1 つの点(その曲線の生成点)として扱えます。この点集合が Spec⁡A\operatorname{Spec} A で、閉集合を「イデアルの共通零点」として定めたものが Zariski 位相です。

この記事では、環 AA からこの二つの道具を作ります。以下、環はすべて単位元 11 をもつ可換環とし、環準同型は 11 を 11 に写すもの(環準同型の定義(定義 7.1)[環と体の基礎])とします。1=01 = 0 となる零環も環に含めますが、零環には素イデアルがありません。

定義 2.1(イデアルの和・積・共通部分・商)↗

a,b\mathfrak{a}, \mathfrak{b} を環 AA のイデアルとする。

  1. 和 a+b={a+b:a∈a, b∈b}\mathfrak{a} + \mathfrak{b} = \{ a + b : a \in \mathfrak{a},\ b \in \mathfrak{b} \}、共通部分 a∩b\mathfrak{a} \cap \mathfrak{b}。
  2. 積 ab\mathfrak{a}\mathfrak{b} は、積 abab(a∈aa \in \mathfrak{a}、b∈bb \in \mathfrak{b})の有限和全体。an\mathfrak{a}^n は a\mathfrak{a} の nn 個の積。
  3. イデアル商 (a:b)={x∈A:xb⊆a}(\mathfrak{a} : \mathfrak{b}) = \{ x \in A : x\mathfrak{b} \subseteq \mathfrak{a} \}。とくに (0:b)(0 : \mathfrak{b}) を b\mathfrak{b} の零化イデアルという。

いずれも AA のイデアルであり、ab⊆a∩b\mathfrak{a}\mathfrak{b} \subseteq \mathfrak{a} \cap \mathfrak{b}、a⊆(a:b)\mathfrak{a} \subseteq (\mathfrak{a} : \mathfrak{b}) が成り立つ。

たとえば A=ZA = \mathbb{Z} では (m)+(n)=(gcd⁡(m,n))(m) + (n) = (\gcd(m,n))、(m)∩(n)=(lcm⁡(m,n))(m) \cap (n) = (\operatorname{lcm}(m,n))、(m)(n)=(mn)(m)(n) = (mn) です。イデアル商は「割り算」にあたり、((12):(4))=(3)((12) : (4)) = (3) です。

定義 2.2(根基・冪零根基・Jacobson 根基・被約環)↗

AA を環、a\mathfrak{a} をそのイデアルとする。

  1. a={x∈A:ある n≥1 で xn∈a}\sqrt{\mathfrak{a}} = \{ x \in A : \text{ある } n \ge 1 \text{ で } x^n \in \mathfrak{a} \} を a\mathfrak{a} の根基という。a=a\sqrt{\mathfrak{a}} = \mathfrak{a} のとき a\mathfrak{a} を根基イデアルという。
  2. nil⁡(A)=(0)\operatorname{nil}(A) = \sqrt{(0)}、すなわち冪零元全体を AA の冪零根基という。nil⁡(A)=0\operatorname{nil}(A) = 0 のとき AA を被約であるという。
  3. AA のすべての極大イデアルの共通部分を AA の Jacobson 根基といい、Jac⁡(A)\operatorname{Jac}(A) と書く(零環では Jac⁡(A)=A\operatorname{Jac}(A) = A とする)。

補題 2.3(根基はイデアル)✓

a\sqrt{\mathfrak{a}} は a\mathfrak{a} を含むイデアルであり、a=a\sqrt{\sqrt{\mathfrak{a}}} = \sqrt{\mathfrak{a}} を満たす。

証明(補題 2.3)

a⊆a\mathfrak{a} \subseteq \sqrt{\mathfrak{a}} は n=1n = 1 と取ればわかります。xm∈ax^m \in \mathfrak{a}、yn∈ay^n \in \mathfrak{a} とします。二項展開

(x+y)m+n−1=∑k=0m+n−1(m+n−1k)xkym+n−1−k(x + y)^{m+n-1} = \sum_{k=0}^{m+n-1} \binom{m+n-1}{k} x^k y^{m+n-1-k}

の各項では k≥mk \ge m か m+n−1−k≥nm + n - 1 - k \ge n のどちらかが成り立つので、各項は a\mathfrak{a} に入り、x+y∈ax + y \in \sqrt{\mathfrak{a}} です(可換性を使っています)。a∈Aa \in A なら (ax)m=amxm∈a(ax)^m = a^m x^m \in \mathfrak{a} です。よって a\sqrt{\mathfrak{a}} はイデアルです。最後に xn∈ax^n \in \sqrt{\mathfrak{a}} なら (xn)k∈a(x^n)^k \in \mathfrak{a} となる kk があり、xnk∈ax^{nk} \in \mathfrak{a} なので x∈ax \in \sqrt{\mathfrak{a}} です。

素イデアルについて、以下でくり返し使う二つの基本事項を先に確かめておきます。

補題 2.4(素イデアルの引き戻し)✓

φ ⁣:A→B\varphi\colon A \to B を環準同型、q\mathfrak{q} を BB の素イデアルとする。このとき φ−1(q)\varphi^{-1}(\mathfrak{q}) は AA の素イデアルである。

証明(補題 2.4)

φ−1(q)\varphi^{-1}(\mathfrak{q}) は加法と AA の元の掛け算で閉じるのでイデアルです。環準同型(定義 7.1)[環と体の基礎] は φ(1)=1\varphi(1) = 1 を満たし、1∉q1 \notin \mathfrak{q} なので 1∉φ−1(q)1 \notin \varphi^{-1}(\mathfrak{q})、すなわち真のイデアルです。ab∈φ−1(q)ab \in \varphi^{-1}(\mathfrak{q}) なら φ(a)φ(b)=φ(ab)∈q\varphi(a)\varphi(b) = \varphi(ab) \in \mathfrak{q} なので、q\mathfrak{q} が素イデアルであること(定義 6.1[イデアルと剰余環])から φ(a)∈q\varphi(a) \in \mathfrak{q} または φ(b)∈q\varphi(b) \in \mathfrak{q} です。

補題 2.5(剰余環のイデアルの対応)✓

a\mathfrak{a} を AA のイデアル、π ⁣:A→A/a\pi\colon A \to A/\mathfrak{a} を自然な全射とする。b↦π−1(b)\mathfrak{b} \mapsto \pi^{-1}(\mathfrak{b}) は、A/aA/\mathfrak{a} のイデアル全体から a\mathfrak{a} を含む AA のイデアル全体への、包含関係を保つ全単射であり、逆写像は c↦π(c)\mathfrak{c} \mapsto \pi(\mathfrak{c}) である。さらに c⊇a\mathfrak{c} \supseteq \mathfrak{a} について (A/a)/π(c)≅A/c(A/\mathfrak{a})/\pi(\mathfrak{c}) \cong A/\mathfrak{c} であり、この対応で素イデアルは素イデアルに、極大イデアルは極大イデアルに対応する。

証明(補題 2.5)

π−1(b)\pi^{-1}(\mathfrak{b}) は ker⁡π=a\ker \pi = \mathfrak{a} を含むイデアルです。π\pi が全射なので π(c)\pi(\mathfrak{c}) はイデアルで、π(π−1(b))=b\pi(\pi^{-1}(\mathfrak{b})) = \mathfrak{b} です。また π−1(π(c))=c+a\pi^{-1}(\pi(\mathfrak{c})) = \mathfrak{c} + \mathfrak{a} であり、c⊇a\mathfrak{c} \supseteq \mathfrak{a} ならこれは c\mathfrak{c} です。以上で全単射であることと、包含を保つことがわかります。

合成 A→A/a→(A/a)/π(c)A \to A/\mathfrak{a} \to (A/\mathfrak{a})/\pi(\mathfrak{c}) は全射で、核は π−1(π(c))=c\pi^{-1}(\pi(\mathfrak{c})) = \mathfrak{c} です。環の準同型定理(定理 5.1)[イデアルと剰余環] より (A/a)/π(c)≅A/c(A/\mathfrak{a})/\pi(\mathfrak{c}) \cong A/\mathfrak{c} です。素イデアルは剰余環が整域になるイデアル(命題 6.2[イデアルと剰余環])、極大イデアルは剰余環が体になるイデアル(定理 6.3[イデアルと剰余環])なので、この同型から最後の主張が従います。

定理 2.6(冪零根基は素イデアルの共通部分)✓

環 AA について

nil⁡(A)=⋂p∈Spec⁡Ap\operatorname{nil}(A) = \bigcap_{\mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} A} \mathfrak{p}

が成り立つ。ここで Spec⁡A\operatorname{Spec} A は AA の素イデアル全体であり、空集合の共通部分は AA とする。

証明(定理 2.6)

(⊆)(\subseteq) xn=0x^n = 0 とし、p\mathfrak{p} を素イデアルとします。xn=0∈px^n = 0 \in \mathfrak{p} で、x⋅xn−1∈px \cdot x^{n-1} \in \mathfrak{p} から素イデアルの定義により x∈px \in \mathfrak{p} または xn−1∈px^{n-1} \in \mathfrak{p} です。nn についての帰納法で x∈px \in \mathfrak{p} を得ます。

(⊇)(\supseteq) ff が冪零でないとして、f∉pf \notin \mathfrak{p} となる素イデアル p\mathfrak{p} を作ります。S={1,f,f2,…}S = \{1, f, f^2, \ldots\} とおくと、ff が冪零でないので 0∉S0 \notin S です。SS と交わらないイデアル全体を Σ\Sigma とし、包含で順序を入れます。(0)∈Σ(0) \in \Sigma なので Σ\Sigma は空でありません。Σ\Sigma の空でない鎖 (cλ)(\mathfrak{c}_\lambda) の合併 c\mathfrak{c} は、2 元が同じ cλ\mathfrak{c}_\lambda に入ることからイデアルで、SS と交わらないので Σ\Sigma の中の上界です。Zorn の補題(定理 5.1)[選択公理と Zorn の補題] により Σ\Sigma は極大元 p\mathfrak{p} をもちます。

p\mathfrak{p} が素イデアルであることを示します。1∈S1 \in S なので p≠A\mathfrak{p} \ne A です。a∉pa \notin \mathfrak{p}、b∉pb \notin \mathfrak{p} とすると、p+(a)\mathfrak{p} + (a) と p+(b)\mathfrak{p} + (b) は p\mathfrak{p} より真に大きいので、極大性から SS と交わります。fm=p1+xaf^m = p_1 + xa、fn=p2+ybf^n = p_2 + yb(pi∈pp_i \in \mathfrak{p}、x,y∈Ax, y \in A)と書けば

fm+n=p1p2+p1yb+p2xa+xy ab∈p+(ab)f^{m+n} = p_1 p_2 + p_1 y b + p_2 x a + xy\,ab \in \mathfrak{p} + (ab)

なので、p+(ab)\mathfrak{p} + (ab) も SS と交わります。ab∈pab \in \mathfrak{p} なら p+(ab)=p\mathfrak{p} + (ab) = \mathfrak{p} が SS と交わることになり矛盾するので、ab∉pab \notin \mathfrak{p} です。よって p\mathfrak{p} は素イデアルで、f∈Sf \in S だから f∉pf \notin \mathfrak{p} です。

系 2.7(根基は素イデアルの共通部分)✓

AA のイデアル a\mathfrak{a} について、a\sqrt{\mathfrak{a}} は a\mathfrak{a} を含む素イデアル全体の共通部分に等しい。とくに素イデアルは根基イデアルである。

証明(系 2.7)

π ⁣:A→A/a\pi\colon A \to A/\mathfrak{a} を自然な全射とします。x∈ax \in \sqrt{\mathfrak{a}} は π(x)\pi(x) が冪零であることと同値で、定理 2.6 によりそれは π(x)\pi(x) が A/aA/\mathfrak{a} のすべての素イデアル q\mathfrak{q} に入ること、すなわち xx がすべての π−1(q)\pi^{-1}(\mathfrak{q}) に入ることと同値です。補題 2.5 により π−1(q)\pi^{-1}(\mathfrak{q}) は a\mathfrak{a} を含む素イデアルをちょうど一度ずつ動きます。素イデアル p\mathfrak{p} については、p\mathfrak{p} を含む素イデアルの共通部分は p\mathfrak{p} 自身なので p=p\sqrt{\mathfrak{p}} = \mathfrak{p} です。

冪零根基が「すべての素イデアル」の共通部分であるのに対し、Jacobson 根基は「極大イデアル」の共通部分で、一般に大きくなります。次の特徴づけは、加群・完全列・中山の補題 の中山の補題の土台になります。

命題 2.8(Jacobson 根基の特徴づけ)✓

環 AA と x∈Ax \in A について、x∈Jac⁡(A)x \in \operatorname{Jac}(A) であることと、すべての y∈Ay \in A に対して 1−xy1 - xy が単元であることは同値である。

証明(命題 2.8)

零環ではどちらの条件も常に成り立つので、1≠01 \ne 0 とします。

(⇒)(\Rightarrow) 1−xy1 - xy が単元でないとすると、(1−xy)(1 - xy) は真のイデアルなので、極大イデアルの存在(定理 6.5)[選択公理と Zorn の補題] によりそれを含む極大イデアル m\mathfrak{m} があります。x∈mx \in \mathfrak{m} なので xy∈mxy \in \mathfrak{m} で、1=(1−xy)+xy∈m1 = (1 - xy) + xy \in \mathfrak{m} となり、補題 3.3[イデアルと剰余環] から m=A\mathfrak{m} = A となって矛盾します。

(⇐)(\Leftarrow) ある極大イデアル m\mathfrak{m} について x∉mx \notin \mathfrak{m} とします。m+(x)\mathfrak{m} + (x) は m\mathfrak{m} より真に大きいので AA に等しく、1=u+xy1 = u + xy(u∈mu \in \mathfrak{m}、y∈Ay \in A)と書けます。すると 1−xy=u∈m1 - xy = u \in \mathfrak{m} は単元ではありません(単元なら 補題 3.3[イデアルと剰余環] により m=A\mathfrak{m} = A)。

次の補題は、素イデアルの有限和集合に含まれるイデアルは、そのうちの 1 つに含まれる、というものです。証明では、どの素イデアルにも入らない元 yy を、xnx_n と残りの積 x1⋯xn−1x_1 \cdots x_{n-1} の和として作ります。和にすると、前の n−1n-1 個の素イデアルでは積の項が消え、pn\mathfrak{p}_n では xnx_n の項が消えるので、すべての素イデアルから外れるからです。Krull 次元と単項イデアル定理 の章で高さの議論に、Tor・Ext と深さ の章で正則列の存在に使います。

補題 2.9(素イデアル回避)✓

AA を環とする。

  1. p1,…,pn\mathfrak{p}_1, \ldots, \mathfrak{p}_n を素イデアル、a\mathfrak{a} をイデアルとし、a⊆⋃i=1npi\mathfrak{a} \subseteq \bigcup_{i=1}^n \mathfrak{p}_i とする。このとき、ある ii について a⊆pi\mathfrak{a} \subseteq \mathfrak{p}_i である。
  2. a1,…,an\mathfrak{a}_1, \ldots, \mathfrak{a}_n をイデアル、p\mathfrak{p} を素イデアルとし、p⊇⋂i=1nai\mathfrak{p} \supseteq \bigcap_{i=1}^n \mathfrak{a}_i とする。このとき、ある ii について p⊇ai\mathfrak{p} \supseteq \mathfrak{a}_i である。とくに p=⋂iai\mathfrak{p} = \bigcap_i \mathfrak{a}_i なら、ある ii について p=ai\mathfrak{p} = \mathfrak{a}_i である。
証明(補題 2.9)

(1) nn についての帰納法で示します。n=1n = 1 は仮定そのものです。n≥2n \ge 2 とし、どの ii についても a⊈⋃j≠ipj\mathfrak{a} \not\subseteq \bigcup_{j \ne i} \mathfrak{p}_j と仮定してよいです(そうでなければ n−1n - 1 個の場合の帰納法の仮定から結論が出ます)。各 ii について xi∈a∖⋃j≠ipjx_i \in \mathfrak{a} \setminus \bigcup_{j \ne i} \mathfrak{p}_j を選ぶと、a⊆⋃jpj\mathfrak{a} \subseteq \bigcup_j \mathfrak{p}_j なので xi∈pix_i \in \mathfrak{p}_i です。

y=xn+x1x2⋯xn−1∈ay = x_n + x_1 x_2 \cdots x_{n-1} \in \mathfrak{a}

とおきます。j<nj < n について xn∉pjx_n \notin \mathfrak{p}_j、x1⋯xn−1∈pjx_1 \cdots x_{n-1} \in \mathfrak{p}_j(因子 xjx_j を含む)なので y∉pjy \notin \mathfrak{p}_j です。また xn∈pnx_n \in \mathfrak{p}_n で、x1,…,xn−1∉pnx_1, \ldots, x_{n-1} \notin \mathfrak{p}_n と pn\mathfrak{p}_n が素であることから x1⋯xn−1∉pnx_1 \cdots x_{n-1} \notin \mathfrak{p}_n、よって y∉pny \notin \mathfrak{p}_n です。y∈ay \in \mathfrak{a} がどの pj\mathfrak{p}_j にも入らないことになり、仮定に反します。

(2) どの ii についても ai⊈p\mathfrak{a}_i \not\subseteq \mathfrak{p} とし、xi∈ai∖px_i \in \mathfrak{a}_i \setminus \mathfrak{p} を選びます。x1⋯xn∈a1⋯an⊆⋂iai⊆px_1 \cdots x_n \in \mathfrak{a}_1 \cdots \mathfrak{a}_n \subseteq \bigcap_i \mathfrak{a}_i \subseteq \mathfrak{p} ですが、p\mathfrak{p} は素なのでいずれかの xix_i が p\mathfrak{p} に入り、矛盾します。p=⋂iai\mathfrak{p} = \bigcap_i \mathfrak{a}_i のときは、p⊇ai\mathfrak{p} \supseteq \mathfrak{a}_i となる ii について ai⊇⋂jaj=p\mathfrak{a}_i \supseteq \bigcap_j \mathfrak{a}_j = \mathfrak{p} でもあるので p=ai\mathfrak{p} = \mathfrak{a}_i です。

(1) で素イデアルの仮定は外せません。A=F2[x,y]/(x,y)2A = \mathbb{F}_2[x, y]/(x, y)^2 では、極大イデアル m=(x,y)\mathfrak{m} = (x, y) が 3 つのイデアル (x)(x)、(y)(y)、(x+y)(x + y) の和集合になります(m\mathfrak{m} の元は ax+byax + by(a,b∈F2a, b \in \mathbb{F}_2)の 4 つしかないからです)が、どの 1 つにも含まれません。

定義 3.1(積閉集合)↗

環 AA の部分集合 SS が積閉集合であるとは、1∈S1 \in S であり、s,t∈Ss, t \in S ならば st∈Sst \in S であることをいう。

代表的な積閉集合は次の 3 つです。(a) f∈Af \in A の冪の全体 {1,f,f2,…}\{1, f, f^2, \ldots\}。(b) 素イデアル p\mathfrak{p} の補集合 A∖pA \setminus \mathfrak{p}(st∈pst \in \mathfrak{p} なら ss か tt が p\mathfrak{p} に入るので、補集合は積で閉じます)。(c) 整域 AA の A∖{0}A \setminus \{0\}((b) で p=(0)\mathfrak{p} = (0) とした場合)。

次の定義で余分な因子 uu が入るのは、零因子(かけて 00 になる 00 でない元)がある環でも分数を正しく扱うためです。たとえば Z/6\mathbb{Z}/6 で 22 を可逆にしたいとします。3⋅2=03 \cdot 2 = 0 なので、両辺に 2−12^{-1} を掛けると 3=03 = 0 でなければなりません。定義の関係では、u=2u = 2 とすると 2(3⋅1−0⋅1)=6=02(3 \cdot 1 - 0 \cdot 1) = 6 = 0 なので (3,1)∼(0,1)(3, 1) \sim (0, 1) となり、3/1=03/1 = 0 が実現されます。uu がないと、この 33 を 00 とみなせません。

定義 3.2(局所化)↗

SS を環 AA の積閉集合とする。A×SA \times S 上の関係を

(a,s)∼(b,t)  ⟺  ある u∈S について u(at−bs)=0(a, s) \sim (b, t) \iff \text{ある } u \in S \text{ について } u(at - bs) = 0

で定め、(a,s)(a, s) の同値類を a/sa/s と書く。同値類全体 S−1AS^{-1}A に

as+bt=at+bsst,as⋅bt=abst\frac{a}{s} + \frac{b}{t} = \frac{at + bs}{st}, \qquad \frac{a}{s}\cdot\frac{b}{t} = \frac{ab}{st}

で演算を入れたものを AA の SS による局所化(分数環)という。ι ⁣:A→S−1A\iota\colon A \to S^{-1}A、ι(a)=a/1\iota(a) = a/1 を標準写像という。 S={1,f,f2,…}S = \{1, f, f^2, \ldots\} のとき S−1AS^{-1}A を AfA_f、S=A∖pS = A \setminus \mathfrak{p} のとき ApA_{\mathfrak{p}} と書く。

次の補題は、この分数の計算規則が通常の分数と同じように使えることの確認です。証明の推移律では、2 つの関係に出てくる u,vu, v をまとめて掛け、a/s=b/ta/s = b/t と b/t=c/rb/t = c/r から a/s=c/ra/s = c/r を導きます。

補題 3.3(局所化は環になる)✓

定義 3.2 の ∼\sim は同値関係であり、演算は代表元の取り方によらずに定まって S−1AS^{-1}A は環になる。ι\iota は環準同型で、各 s∈Ss \in S について ι(s)\iota(s) は単元である。さらに

  1. a/1=0a/1 = 0 であることと、ある u∈Su \in S について ua=0ua = 0 であることは同値である。
  2. S−1A=0S^{-1}A = 0 であることと 0∈S0 \in S であることは同値である。
証明(補題 3.3)

反射律・対称律は u=1u = 1 と符号の反転でわかります。推移律: u(at−bs)=0u(at - bs) = 0、v(br−ct)=0v(br - ct) = 0 とすると

tuv(ar−cs)=rv⋅u(at−bs)+su⋅v(br−ct)=0tuv(ar - cs) = rv \cdot u(at - bs) + su \cdot v(br - ct) = 0

であり(右辺を展開すると uv(art−brs)+uv(brs−cst)uv(art - brs) + uv(brs - cst) です)、tuv∈Stuv \in S なので (a,s)∼(c,r)(a, s) \sim (c, r) です。

加法の well-definedness: u(as′−a′s)=0u(as' - a's) = 0 なら

u((at+bs)s′t−(a′t+bs′)st)=t2⋅u(as′−a′s)=0u\bigl((at + bs)s't - (a't + bs')st\bigr) = t^2 \cdot u(as' - a's) = 0

なので (at+bs)/st=(a′t+bs′)/s′t(at + bs)/st = (a't + bs')/s't です。乗法も u(ab s′t−a′b st)=bt⋅u(as′−a′s)=0u(ab\,s't - a'b\,st) = bt \cdot u(as' - a's) = 0 から同様です。第 2 成分についても対称に確かめられます。環の公理は、通分すれば AA の中の恒等式に帰着します。たとえば分配法則は as(bt+cr)=a(br+ct)str\frac{a}{s}\bigl(\frac{b}{t} + \frac{c}{r}\bigr) = \frac{a(br + ct)}{str} と abst+acsr=ab sr+ac sts2tr\frac{ab}{st} + \frac{ac}{sr} = \frac{ab\,sr + ac\,st}{s^2 tr} が、分子分母に ss を掛けた関係にあることからわかります(x/y=sx/syx/y = sx/sy は 1⋅(x⋅sy−sx⋅y)=01 \cdot (x \cdot sy - sx \cdot y) = 0 から従います)。零元は 0/10/1、単位元は 1/11/1 です。

ι\iota が和・積・単位元を保つことは定義から直ちにわかり、ι(s)⋅(1/s)=s/s=1/1\iota(s) \cdot (1/s) = s/s = 1/1 です。(1) は a/1=0/1a/1 = 0/1 の定義そのものです。(2) S−1A=0S^{-1}A = 0 は 1/1=0/11/1 = 0/1、すなわち (1) より u⋅1=0u \cdot 1 = 0 となる u∈Su \in S があること、つまり 0∈S0 \in S と同値です。

定理 3.4(局所化の普遍性)✓

SS を環 AA の積閉集合とし、f ⁣:A→Bf\colon A \to B を、f(S)f(S) が BB の単元からなるような環準同型とする。このとき g∘ι=fg \circ \iota = f を満たす環準同型 g ⁣:S−1A→Bg\colon S^{-1}A \to B がただ一つ存在し、g(a/s)=f(a)f(s)−1g(a/s) = f(a)f(s)^{-1} で与えられる。

証明(定理 3.4)

一意性: g∘ι=fg \circ \iota = f なら、a/s=ι(a) ι(s)−1a/s = \iota(a)\,\iota(s)^{-1} なので g(a/s)=g(ι(a)) g(ι(s))−1=f(a)f(s)−1g(a/s) = g(\iota(a))\,g(\iota(s))^{-1} = f(a)f(s)^{-1} です(環準同型(定義 7.1)[環と体の基礎] は単元を単元に、逆元を逆元に写します)。

存在: g(a/s)=f(a)f(s)−1g(a/s) = f(a)f(s)^{-1} と定めます。u(at−bs)=0u(at - bs) = 0 なら f(u)(f(a)f(t)−f(b)f(s))=0f(u)\bigl(f(a)f(t) - f(b)f(s)\bigr) = 0 で、f(u)f(u) は単元なので f(a)f(t)=f(b)f(s)f(a)f(t) = f(b)f(s)、両辺に f(s)−1f(t)−1f(s)^{-1}f(t)^{-1} を掛けて f(a)f(s)−1=f(b)f(t)−1f(a)f(s)^{-1} = f(b)f(t)^{-1} です。よって gg は定まります。g(at+bsst)=(f(a)f(t)+f(b)f(s))f(s)−1f(t)−1=g(a/s)+g(b/t)g\bigl(\frac{at + bs}{st}\bigr) = \bigl(f(a)f(t) + f(b)f(s)\bigr)f(s)^{-1}f(t)^{-1} = g(a/s) + g(b/t)、積と g(1/1)=1g(1/1) = 1 も同様で、g(ι(a))=f(a)g(\iota(a)) = f(a) です。

普遍性から、S−1AS^{-1}A は同型を除いて一意に定まります。「SS を可逆にする環準同型はすべて S−1AS^{-1}A を経由する」という性質だけで局所化を扱えることが、この構成の強みです。

命題 3.5(商体)✓

AA を整域とし、S=A∖{0}S = A \setminus \{0\} とする。K=S−1AK = S^{-1}A は体であり、標準写像 ι ⁣:A→K\iota\colon A \to K は単射である。KK を AA の商体といい Frac⁡A\operatorname{Frac} A と書く。さらに、0∉T0 \notin T となる任意の積閉集合 TT について、自然な写像 T−1A→KT^{-1}A \to K、a/t↦a/ta/t \mapsto a/t は単射な環準同型である。

証明(命題 3.5)

AA は整域なので SS は積閉で 0∉S0 \notin S です。補題 3.3 の (2) より K≠0K \ne 0 です。同じ補題の (1) より、a/s=0a/s = 0 は「ある u≠0u \ne 0 について ua=0ua = 0」、すなわち a=0a = 0 と同値です(整域だからです)。したがって ι\iota は単射で、a/s≠0a/s \ne 0 なら a≠0a \ne 0 なので s/a∈Ks/a \in K が定まり、(a/s)(s/a)=as/sa=1(a/s)(s/a) = as/sa = 1 です。よって KK は体です。

T⊆ST \subseteq S なので、合成 A→KA \to K は TT の元を単元に写し、定理 3.4 により T−1A→KT^{-1}A \to K、a/t↦a/ta/t \mapsto a/t が環準同型として定まります。a/ta/t が KK で 00 なら上で見たように a=0a = 0 なので、T−1AT^{-1}A でも a/t=0a/t = 0 です。

とくに整域 AA と素イデアル p\mathfrak{p} について、A⊆Ap⊆Frac⁡AA \subseteq A_{\mathfrak{p}} \subseteq \operatorname{Frac} A と見なせます。整域でない環では ι\iota は単射とは限りません。たとえば A=Z/6A = \mathbb{Z}/6、f=2f = 2 とすると 3⋅2=03 \cdot 2 = 0 なので ι(3)=0\iota(3) = 0 となり、A2≅Z/3A_2 \cong \mathbb{Z}/3 です。

AA のイデアル a\mathfrak{a} に対し S−1a={a/s:a∈a, s∈S}S^{-1}\mathfrak{a} = \{ a/s : a \in \mathfrak{a},\ s \in S \} とおきます。

定理 3.6(局所化のイデアルと素イデアルの対応)✓

SS を環 AA の積閉集合、ι ⁣:A→S−1A\iota\colon A \to S^{-1}A を標準写像とする。

  1. AA のイデアル a\mathfrak{a} について、S−1aS^{-1}\mathfrak{a} は ι(a)\iota(\mathfrak{a}) で生成される S−1AS^{-1}A のイデアルである。S−1a=S−1AS^{-1}\mathfrak{a} = S^{-1}A であることと a∩S≠∅\mathfrak{a} \cap S \ne \varnothing であることは同値である。
  2. S−1AS^{-1}A の任意のイデアル b\mathfrak{b} について b=S−1(ι−1(b))\mathfrak{b} = S^{-1}\bigl(\iota^{-1}(\mathfrak{b})\bigr) である。
  3. p\mathfrak{p} を SS と交わらない素イデアルとすると、a/s∈S−1pa/s \in S^{-1}\mathfrak{p} と a∈pa \in \mathfrak{p} は同値であり、S−1pS^{-1}\mathfrak{p} は素イデアルで、ι−1(S−1p)=p\iota^{-1}(S^{-1}\mathfrak{p}) = \mathfrak{p} である。
  4. p↦S−1p\mathfrak{p} \mapsto S^{-1}\mathfrak{p} は、SS と交わらない AA の素イデアル全体から Spec⁡S−1A\operatorname{Spec} S^{-1}A への、包含関係を保つ全単射であり、逆写像は q↦ι−1(q)\mathfrak{q} \mapsto \iota^{-1}(\mathfrak{q}) である。
証明(定理 3.6)

(1) a/s+b/t=(at+bs)/sta/s + b/t = (at + bs)/st と (c/u)(a/s)=ca/us(c/u)(a/s) = ca/us から S−1aS^{-1}\mathfrak{a} はイデアルで、a/s=(1/s) ι(a)a/s = (1/s)\,\iota(a) なので ι(a)\iota(\mathfrak{a}) で生成されるイデアルに一致します。s∈a∩Ss \in \mathfrak{a} \cap S なら単元 s/1s/1 を含むので全体です(補題 3.3[イデアルと剰余環])。逆に 1/1=a/s1/1 = a/s(a∈aa \in \mathfrak{a})なら u(s−a)=0u(s - a) = 0 となる u∈Su \in S があり、us=ua∈a∩Sus = ua \in \mathfrak{a} \cap S です。

(2) a∈ι−1(b)a \in \iota^{-1}(\mathfrak{b}) なら a/s=(1/s)(a/1)∈ba/s = (1/s)(a/1) \in \mathfrak{b} です。逆に a/s∈ba/s \in \mathfrak{b} なら a/1=(s/1)(a/s)∈ba/1 = (s/1)(a/s) \in \mathfrak{b} なので a∈ι−1(b)a \in \iota^{-1}(\mathfrak{b}) で、a/s∈S−1(ι−1(b))a/s \in S^{-1}(\iota^{-1}(\mathfrak{b})) です。

(3) a/s=b/ta/s = b/t(b∈pb \in \mathfrak{p})なら u(at−bs)=0u(at - bs) = 0 となる u∈Su \in S があり、uta=usb∈puta = usb \in \mathfrak{p} です。ut∈Sut \in S は p\mathfrak{p} に入らないので、素イデアルの定義から a∈pa \in \mathfrak{p} です。これで同値性がわかり、a/1∈S−1p  ⟺  a∈pa/1 \in S^{-1}\mathfrak{p} \iff a \in \mathfrak{p}、すなわち ι−1(S−1p)=p\iota^{-1}(S^{-1}\mathfrak{p}) = \mathfrak{p} です。1∉p1 \notin \mathfrak{p} なので 1/1∉S−1p1/1 \notin S^{-1}\mathfrak{p} で真のイデアルです。(a/s)(b/t)=ab/st∈S−1p(a/s)(b/t) = ab/st \in S^{-1}\mathfrak{p} なら ab∈pab \in \mathfrak{p} なので aa か bb が p\mathfrak{p} に入り、S−1pS^{-1}\mathfrak{p} は素イデアルです。

(4) q\mathfrak{q} を S−1AS^{-1}A の素イデアルとすると、補題 2.4 より ι−1(q)\iota^{-1}(\mathfrak{q}) は素イデアルです。s∈Ss \in S について ι(s)\iota(s) は単元なので q\mathfrak{q} に入らず、ι−1(q)∩S=∅\iota^{-1}(\mathfrak{q}) \cap S = \varnothing です。(2) より S−1(ι−1(q))=qS^{-1}(\iota^{-1}(\mathfrak{q})) = \mathfrak{q}、(3) より ι−1(S−1p)=p\iota^{-1}(S^{-1}\mathfrak{p}) = \mathfrak{p} なので、二つの写像は互いに逆です。どちらも包含関係を保つことは定義から明らかです。

命題 3.7(局所化と剰余の可換性)✓

SS を環 AA の積閉集合、a\mathfrak{a} をイデアル、Sˉ\bar S を SS の A/aA/\mathfrak{a} での像とする。このとき環の同型

S−1A/S−1a  ≅  Sˉ−1(A/a),as mod S−1a ⟼ aˉsˉS^{-1}A / S^{-1}\mathfrak{a} \;\cong\; \bar S^{-1}(A/\mathfrak{a}), \qquad \frac{a}{s} \bmod S^{-1}\mathfrak{a} \ \longmapsto\ \frac{\bar a}{\bar s}

がある。

証明(命題 3.7)

合成 A→A/a→Sˉ−1(A/a)A \to A/\mathfrak{a} \to \bar S^{-1}(A/\mathfrak{a}) は SS を単元に写すので、定理 3.4 により環準同型 φ ⁣:S−1A→Sˉ−1(A/a)\varphi\colon S^{-1}A \to \bar S^{-1}(A/\mathfrak{a})、φ(a/s)=aˉ/sˉ\varphi(a/s) = \bar a/\bar s が得られます。Sˉ\bar S の元はすべて sˉ\bar s(s∈Ss \in S)の形なので φ\varphi は全射です。核を求めます。補題 3.3 の (1) を Sˉ−1(A/a)\bar S^{-1}(A/\mathfrak{a}) に使うと、aˉ/sˉ=0\bar a/\bar s = 0 は(単元 sˉ/1\bar s/1 を掛けて)aˉ/1=0\bar a/1 = 0 と同値で、それは「ある u∈Su \in S について uˉaˉ=0\bar u \bar a = 0」、すなわち ua∈aua \in \mathfrak{a} と同値です。このとき a/s=ua/us∈S−1aa/s = ua/us \in S^{-1}\mathfrak{a} です。逆に S−1aS^{-1}\mathfrak{a} の元が 00 に写ることは明らかです。よって ker⁡φ=S−1a\ker\varphi = S^{-1}\mathfrak{a} で、環の準同型定理(定理 5.1)[イデアルと剰余環] から主張が従います。

定義 3.8(局所環・半局所環・剰余体)↗

1≠01 \ne 0 の環 AA が極大イデアルをただ一つもつとき局所環といい、その極大イデアルを m\mathfrak{m} として (A,m)(A, \mathfrak{m}) と書く。体 k=A/mk = A/\mathfrak{m} を AA の剰余体という。極大イデアルを有限個しかもたない環を半局所環という。

補題 3.9(局所環の判定)✓

1≠01 \ne 0 の環 AA が局所環であることと、AA の非単元全体がイデアルをなすことは同値である。このとき非単元全体が唯一の極大イデアルである。

証明(補題 3.9)

(⇒)(\Rightarrow) m\mathfrak{m} を唯一の極大イデアルとします。xx が非単元なら (x)(x) は真のイデアルで、極大イデアルの存在(定理 6.5)[選択公理と Zorn の補題] によりある極大イデアル、すなわち m\mathfrak{m} に含まれます。単元は 補題 3.3[イデアルと剰余環] により m\mathfrak{m} に入りません。よって m\mathfrak{m} は非単元全体です。

(⇐)(\Leftarrow) 非単元全体 m\mathfrak{m} がイデアルなら、1∉m1 \notin \mathfrak{m} なので真のイデアルです。任意の真のイデアルは単元を含まない(補題 3.3[イデアルと剰余環])ので m\mathfrak{m} に含まれます。よって m\mathfrak{m} は極大イデアルで、ほかの極大イデアルはありません。

命題 3.10(素イデアルでの局所化は局所環)✓

p\mathfrak{p} を環 AA の素イデアルとする。ApA_{\mathfrak{p}} は極大イデアル pAp=(A∖p)−1p\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} = (A \setminus \mathfrak{p})^{-1}\mathfrak{p} をもつ局所環であり、その剰余体は

Ap/pAp  ≅  Frac⁡(A/p)A_{\mathfrak{p}}/\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} \;\cong\; \operatorname{Frac}(A/\mathfrak{p})

である。

証明(命題 3.10)

S=A∖pS = A \setminus \mathfrak{p} とします。0∉S0 \notin S なので 補題 3.3 より Ap≠0A_{\mathfrak{p}} \ne 0 です。a/sa/s が単元であることと a∉pa \notin \mathfrak{p} が同値であることを示します。a∉pa \notin \mathfrak{p} なら s/a∈Aps/a \in A_{\mathfrak{p}} が逆元です。a∈pa \in \mathfrak{p} なら 定理 3.6 の (3) により a/sa/s は真のイデアル pAp\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} に入るので単元ではありません。よって非単元全体は pAp\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} でイデアルをなし、補題 3.9 により ApA_{\mathfrak{p}} は pAp\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} を極大イデアルとする局所環です。

剰余体: 命題 3.7 により Ap/pAp≅Sˉ−1(A/p)A_{\mathfrak{p}}/\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} \cong \bar S^{-1}(A/\mathfrak{p}) です。A/pA/\mathfrak{p} は整域で(命題 6.2[イデアルと剰余環])、Sˉ\bar S は A∖pA \setminus \mathfrak{p} の像、すなわち A/pA/\mathfrak{p} の 00 でない元全体なので、右辺は 命題 3.5 の商体です。

p\mathfrak{p} が極大イデアルなら A/pA/\mathfrak{p} はすでに体(定理 6.3[イデアルと剰余環])なので、剰余体は A/pA/\mathfrak{p} そのものです。代数幾何では Spec⁡A\operatorname{Spec} A の点 p\mathfrak{p} における構造層の茎が ApA_{\mathfrak{p}}、その点の剰余体が κ(p)=Ap/pAp\kappa(\mathfrak{p}) = A_{\mathfrak{p}}/\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} で、関数 f∈Af \in A の点 p\mathfrak{p} での「値」は ff の κ(p)\kappa(\mathfrak{p}) での像です。

4. 素イデアルのスペクトルと Zariski 位相

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定義 4.1(素スペクトルと Zariski 位相)↗

環 AA の素イデアル全体を Spec⁡A\operatorname{Spec} A と書く。部分集合 E⊆AE \subseteq A と f∈Af \in A に対し

V(E)={p∈Spec⁡A:E⊆p},D(f)=Spec⁡A∖V({f})={p:f∉p}V(E) = \{ \mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} A : E \subseteq \mathfrak{p} \}, \qquad D(f) = \operatorname{Spec} A \setminus V(\{f\}) = \{ \mathfrak{p} : f \notin \mathfrak{p} \}

とおく。V(E)V(E) の形の集合を閉集合とする位相(補題 4.2 で位相になることを示す)を Zariski 位相という。

補題 4.2(V の性質)✓

環 AA について次が成り立つ。

  1. V(E)=V((E))V(E) = V((E))。ここで (E)(E) は EE で生成されるイデアル。また V(a)=V(a)V(\mathfrak{a}) = V(\sqrt{\mathfrak{a}})。
  2. V(0)=Spec⁡AV(0) = \operatorname{Spec} A、V(1)=∅V(1) = \varnothing。
  3. ⋂λV(Eλ)=V(⋃λEλ)\bigcap_\lambda V(E_\lambda) = V\bigl(\bigcup_\lambda E_\lambda\bigr)。
  4. V(a)∪V(b)=V(ab)=V(a∩b)V(\mathfrak{a}) \cup V(\mathfrak{b}) = V(\mathfrak{a}\mathfrak{b}) = V(\mathfrak{a} \cap \mathfrak{b})。
  5. V(a)⊆V(b)V(\mathfrak{a}) \subseteq V(\mathfrak{b}) であることと b⊆a\sqrt{\mathfrak{b}} \subseteq \sqrt{\mathfrak{a}} であることは同値である。

とくに V(E)V(E) の補集合全体は位相の開集合系の公理を満たす。

証明(補題 4.2)

(1) イデアル p\mathfrak{p} が EE を含むことと (E)(E) を含むことは同値です。また素イデアル p\mathfrak{p} は根基イデアル(系 2.7)なので、a⊆p\mathfrak{a} \subseteq \mathfrak{p} なら a⊆p=p\sqrt{\mathfrak{a}} \subseteq \sqrt{\mathfrak{p}} = \mathfrak{p} です。(2)(3) は定義から直ちに従います。(4) ab⊆a∩b⊆a\mathfrak{a}\mathfrak{b} \subseteq \mathfrak{a} \cap \mathfrak{b} \subseteq \mathfrak{a} から V(a)⊆V(a∩b)⊆V(ab)V(\mathfrak{a}) \subseteq V(\mathfrak{a} \cap \mathfrak{b}) \subseteq V(\mathfrak{a}\mathfrak{b}) で、b\mathfrak{b} についても同様です。逆に p⊇ab\mathfrak{p} \supseteq \mathfrak{a}\mathfrak{b} で p⊉a\mathfrak{p} \not\supseteq \mathfrak{a} なら、a∈a∖pa \in \mathfrak{a} \setminus \mathfrak{p} を取ると任意の b∈bb \in \mathfrak{b} で ab∈pab \in \mathfrak{p} なので b∈pb \in \mathfrak{p}、すなわち p∈V(b)\mathfrak{p} \in V(\mathfrak{b}) です。(5) 系 2.7 により a=⋂p∈V(a)p\sqrt{\mathfrak{a}} = \bigcap_{\mathfrak{p} \in V(\mathfrak{a})} \mathfrak{p} なので、V(a)⊆V(b)V(\mathfrak{a}) \subseteq V(\mathfrak{b}) なら a⊇⋂p∈V(b)p=b\sqrt{\mathfrak{a}} \supseteq \bigcap_{\mathfrak{p} \in V(\mathfrak{b})} \mathfrak{p} = \sqrt{\mathfrak{b}} です。逆は (1) から V(a)=V(a)⊆V(b)=V(b)V(\mathfrak{a}) = V(\sqrt{\mathfrak{a}}) \subseteq V(\sqrt{\mathfrak{b}}) = V(\mathfrak{b}) です。最後の主張は (2)(3)(4) の補集合を取ったものです。

定義 4.3(既約な空間)↗

位相空間 XX が既約であるとは、X≠∅X \ne \varnothing であり、X=Z1∪Z2X = Z_1 \cup Z_2(ZiZ_i は閉集合)ならば X=Z1X = Z_1 または X=Z2X = Z_2 となることをいう。部分集合が既約であるとは、相対位相で既約であることをいう。

既約とは、閉集合が 2 つの小さい閉集合の和に分けられない、ひとかたまりの閉集合であることです。次の定理の (2) の証明は、開被覆を基底 D(g)D(g) の被覆に直したうえで、ff のある冪がイデアルの有限個の生成元で書けることから有限個で足りると結論します。(5) では、既約な閉集合が素イデアルの定める V(p)V(\mathfrak{p}) に限ることを示します。

定理 4.4(Spec の位相の基本性質)✓

環 AA について次が成り立つ。

  1. {D(f):f∈A}\{D(f) : f \in A\} は Zariski 位相の基底であり、D(f)∩D(g)=D(fg)D(f) \cap D(g) = D(fg)、D(f)=∅  ⟺  f∈nil⁡(A)D(f) = \varnothing \iff f \in \operatorname{nil}(A) である。
  2. Spec⁡A\operatorname{Spec} A と各 D(f)D(f) はコンパクト(Hausdorff 性を仮定しない意味で。準コンパクトともいう)である。
  3. 点 p\mathfrak{p} の閉包は V(p)V(\mathfrak{p}) であり、{p}\{\mathfrak{p}\} が閉集合であることと p\mathfrak{p} が極大イデアルであることは同値である。
  4. Spec⁡A\operatorname{Spec} A は T0 空間である。
  5. Spec⁡A\operatorname{Spec} A の既約閉集合は V(p)V(\mathfrak{p})(p∈Spec⁡A\mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} A)の形のものに限り、p\mathfrak{p} は既約閉集合から一意に定まる。
証明(定理 4.4)

(1) 開集合 U=Spec⁡A∖V(E)U = \operatorname{Spec} A \setminus V(E) は ⋃f∈ED(f)\bigcup_{f \in E} D(f) に等しい(p∉V(E)\mathfrak{p} \notin V(E) は「ある f∈Ef \in E が p\mathfrak{p} に入らない」ことだから)ので、UU の各点 p\mathfrak{p} は UU に含まれるある D(f)D(f) に属します。これは 基底の定義(定義 5.1)[位相空間の定義と基本概念] の条件です。fg∉pfg \notin \mathfrak{p} は f∉pf \notin \mathfrak{p} かつ g∉pg \notin \mathfrak{p} と同値(素イデアルの定義)なので D(f)∩D(g)=D(fg)D(f) \cap D(g) = D(fg) です。D(f)=∅D(f) = \varnothing は ff がすべての素イデアルに入ることなので、定理 2.6 により ff が冪零であることと同値です。

(2) まず被覆を基底の元によるものに直します。D(f)D(f) は開集合なので、相対位相での D(f)D(f) の開集合 W∩D(f)W \cap D(f)(WW は Spec⁡A\operatorname{Spec} A の開集合)は Spec⁡A\operatorname{Spec} A の開集合でもあり、(1) により D(f)D(f) に含まれる基底の元 D(g)D(g) の合併です。そこで D(f)D(f) の開被覆 (Wμ)(W_\mu) が与えられたら、各 WμW_\mu を D(g)D(g) たちの合併に書き、現れた D(g)D(g) 全体で D(f)D(f) を覆います。この被覆から有限個 D(g1),…,D(gr)D(g_1), \ldots, D(g_r) が選べれば、各 D(gi)D(g_i) を含む WμiW_{\mu_i} を 1 つずつ選んで Wμ1,…,WμrW_{\mu_1}, \ldots, W_{\mu_r} が有限部分被覆になります。したがって、D(f)⊆⋃λD(gλ)D(f) \subseteq \bigcup_{\lambda} D(g_\lambda) のとき有限個の D(gλ)D(g_\lambda) で覆えることを示せば十分です。補集合を取ると V({gλ}λ)⊆V(f)V(\{g_\lambda\}_\lambda) \subseteq V(f) で、補題 4.2 の (1)(5) により f∈bf \in \sqrt{\mathfrak{b}}(b=(gλ)λ\mathfrak{b} = (g_\lambda)_\lambda)です。fn∈bf^n \in \mathfrak{b} なら fn=∑i=1rcigλif^n = \sum_{i=1}^r c_i g_{\lambda_i} と有限和で書け、fn∈(gλ1,…,gλr)f^n \in (g_{\lambda_1}, \ldots, g_{\lambda_r}) なので同じ補題から D(f)⊆D(gλ1)∪⋯∪D(gλr)D(f) \subseteq D(g_{\lambda_1}) \cup \cdots \cup D(g_{\lambda_r}) です。f=1f = 1 とすれば Spec⁡A=D(1)\operatorname{Spec} A = D(1) の場合になります。よって コンパクトの定義(定義 3.2)[コンパクト性] を満たします。

(3) p\mathfrak{p} を含む閉集合 V(E)V(E) は E⊆pE \subseteq \mathfrak{p} を満たし、このとき V(p)⊆V(E)V(\mathfrak{p}) \subseteq V(E) です。V(p)V(\mathfrak{p}) 自身も p\mathfrak{p} を含む閉集合なので、これが閉包です。p\mathfrak{p} が極大なら V(p)={p}V(\mathfrak{p}) = \{\mathfrak{p}\} です。極大でなければ、p\mathfrak{p} を真に含む真のイデアルがあり、極大イデアルの存在(定理 6.5)[選択公理と Zorn の補題] によりそれを含む極大イデアル m≠p\mathfrak{m} \ne \mathfrak{p} があります。極大イデアルは素イデアル(系 6.4[イデアルと剰余環])なので m∈V(p)∖{p}\mathfrak{m} \in V(\mathfrak{p}) \setminus \{\mathfrak{p}\} で、{p}\{\mathfrak{p}\} は閉じていません。

(4) p≠q\mathfrak{p} \ne \mathfrak{q} なら p⊈q\mathfrak{p} \not\subseteq \mathfrak{q} か q⊈p\mathfrak{q} \not\subseteq \mathfrak{p} です。前者なら f∈p∖qf \in \mathfrak{p} \setminus \mathfrak{q} を取ると、開集合 D(f)D(f) は q\mathfrak{q} を含み p\mathfrak{p} を含みません。後者も同様です。これは T0 の定義(定義 3.1)[分離公理と距離づけ可能性] の条件です。

(5) V(p)V(\mathfrak{p}) が既約であることを示します。V(p)=Z1∪Z2V(\mathfrak{p}) = Z_1 \cup Z_2(ZiZ_i は V(p)V(\mathfrak{p}) の閉集合、したがって Spec⁡A\operatorname{Spec} A の閉集合)とすると、p∈Z1\mathfrak{p} \in Z_1 としてよく、(3) より V(p)={p}‾⊆Z1V(\mathfrak{p}) = \overline{\{\mathfrak{p}\}} \subseteq Z_1 です。逆に Z=V(a)Z = V(\mathfrak{a}) を既約閉集合とし、p=a\mathfrak{p} = \sqrt{\mathfrak{a}} とおきます。Z≠∅Z \ne \varnothing なので p≠A\mathfrak{p} \ne A です(p=A\mathfrak{p} = A なら 補題 4.2 の (1) で Z=V(1)=∅Z = V(1) = \varnothing)。ab∈pab \in \mathfrak{p} とします。ZZ の点 q\mathfrak{q} は p=a\mathfrak{p} = \sqrt{\mathfrak{a}} を含むので ab∈qab \in \mathfrak{q}、したがって aa か bb を含み、Z=V(p+(a))∪V(p+(b))Z = V(\mathfrak{p} + (a)) \cup V(\mathfrak{p} + (b)) です。既約性から、たとえば Z=V(p+(a))Z = V(\mathfrak{p} + (a)) となり、aa は p\mathfrak{p} を含むすべての素イデアルに入るので、系 2.7 と 補題 2.3 より a∈p=pa \in \sqrt{\mathfrak{p}} = \mathfrak{p} です。よって p\mathfrak{p} は素イデアルで Z=V(p)Z = V(\mathfrak{p}) です。一意性: V(p)=V(q)V(\mathfrak{p}) = V(\mathfrak{q}) なら q∈V(p)\mathfrak{q} \in V(\mathfrak{p})、p∈V(q)\mathfrak{p} \in V(\mathfrak{q}) より p⊆q⊆p\mathfrak{p} \subseteq \mathfrak{q} \subseteq \mathfrak{p} です。

(5) の p\mathfrak{p} を既約閉集合 V(p)V(\mathfrak{p}) の生成点と呼びます。Spec⁡A\operatorname{Spec} A は一般に T1 ではありません。(3) より、極大でない素イデアルがあれば、その点は閉じていないからです(例 5.1)。

命題 4.5(環準同型が誘導する連続写像)✓

φ ⁣:A→B\varphi\colon A \to B を環準同型とする。φ∗(q)=φ−1(q)\varphi^{*}(\mathfrak{q}) = \varphi^{-1}(\mathfrak{q}) は写像 φ∗ ⁣:Spec⁡B→Spec⁡A\varphi^{*}\colon \operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A を定め、(φ∗)−1(V(E))=V(φ(E))(\varphi^{*})^{-1}(V(E)) = V(\varphi(E))、(φ∗)−1(D(f))=D(φ(f))(\varphi^{*})^{-1}(D(f)) = D(\varphi(f)) が成り立つ。とくに φ∗\varphi^{*} は連続である。また ψ ⁣:B→C\psi\colon B \to C について (ψ∘φ)∗=φ∗∘ψ∗(\psi \circ \varphi)^{*} = \varphi^{*} \circ \psi^{*} である。

証明(命題 4.5)

補題 2.4 により φ−1(q)\varphi^{-1}(\mathfrak{q}) は素イデアルです。q∈(φ∗)−1(V(E))\mathfrak{q} \in (\varphi^{*})^{-1}(V(E)) は E⊆φ−1(q)E \subseteq \varphi^{-1}(\mathfrak{q})、すなわち φ(E)⊆q\varphi(E) \subseteq \mathfrak{q} と同値です。D(f)D(f) はその補集合の場合です。閉集合の逆像が閉集合なので連続です。最後の式は (ψ∘φ)−1(r)=φ−1(ψ−1(r))(\psi\circ\varphi)^{-1}(\mathfrak{r}) = \varphi^{-1}(\psi^{-1}(\mathfrak{r})) そのものです。

命題 4.6(剰余環と局所化のスペクトル)✓

  1. a\mathfrak{a} を AA のイデアル、π ⁣:A→A/a\pi\colon A \to A/\mathfrak{a} を自然な全射とする。π∗\pi^{*} は Spec⁡(A/a)\operatorname{Spec}(A/\mathfrak{a}) から閉集合 V(a)V(\mathfrak{a}) への同相写像である。
  2. SS を積閉集合とし、Y={p∈Spec⁡A:p∩S=∅}Y = \{ \mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} A : \mathfrak{p} \cap S = \varnothing \} に相対位相を入れる。ι∗\iota^{*} は Spec⁡(S−1A)\operatorname{Spec}(S^{-1}A) から YY への同相写像である。とくに Spec⁡Af≅D(f)\operatorname{Spec} A_f \cong D(f) であり、Spec⁡Ap\operatorname{Spec} A_{\mathfrak{p}} は p\mathfrak{p} に含まれる素イデアル全体と同相である。
証明(命題 4.6)

どちらも 命題 4.5 により連続です。

(1) 補題 2.5 により π∗\pi^{*} は Spec⁡(A/a)\operatorname{Spec}(A/\mathfrak{a}) から V(a)V(\mathfrak{a}) への全単射で、包含関係を両方向に保ちます。A/aA/\mathfrak{a} のイデアル b\mathfrak{b} について、素イデアル q\mathfrak{q} が b\mathfrak{b} を含むことと π−1(q)⊇π−1(b)\pi^{-1}(\mathfrak{q}) \supseteq \pi^{-1}(\mathfrak{b}) は同値なので、π∗(V(b))=V(π−1(b))\pi^{*}(V(\mathfrak{b})) = V(\pi^{-1}(\mathfrak{b})) は閉集合です。閉集合を閉集合に写す連続な全単射なので同相です。

(2) 定理 3.6 の (4) により ι∗\iota^{*} は YY への全単射です。S−1AS^{-1}A のイデアル b\mathfrak{b} と素イデアル q\mathfrak{q} について、q⊇b\mathfrak{q} \supseteq \mathfrak{b} なら ι−1(q)⊇ι−1(b)\iota^{-1}(\mathfrak{q}) \supseteq \iota^{-1}(\mathfrak{b}) です。逆に後者が成り立てば、同じ定理の (2) により q=S−1ι−1(q)⊇S−1ι−1(b)=b\mathfrak{q} = S^{-1}\iota^{-1}(\mathfrak{q}) \supseteq S^{-1}\iota^{-1}(\mathfrak{b}) = \mathfrak{b} です。よって ι∗(V(b))=V(ι−1(b))∩Y\iota^{*}(V(\mathfrak{b})) = V(\iota^{-1}(\mathfrak{b})) \cap Y は YY の閉集合で、ι∗\iota^{*} は同相です。S={fn}S = \{f^n\} のとき、素イデアル p\mathfrak{p} が SS と交わらないことは f∉pf \notin \mathfrak{p} と同値なので Y=D(f)Y = D(f) です。S=A∖pS = A \setminus \mathfrak{p} のとき、q∩S=∅\mathfrak{q} \cap S = \varnothing は q⊆p\mathfrak{q} \subseteq \mathfrak{p} と同値です。

命題 4.7(極小素イデアルの存在)✓

環 AA の任意の素イデアル p\mathfrak{p} は、ある極小素イデアル(それより真に小さい素イデアルをもたない素イデアル)を含む。したがって A≠0A \ne 0 なら極小素イデアルが存在し、nil⁡(A)\operatorname{nil}(A) は極小素イデアル全体の共通部分に等しい。

証明(命題 4.7)

p\mathfrak{p} に含まれる素イデアル全体を Σ\Sigma とし、逆向きの包含 ⊇\supseteq で順序を入れます。p∈Σ\mathfrak{p} \in \Sigma なので空ではありません。Σ\Sigma の空でない鎖 (pλ)(\mathfrak{p}_\lambda) に対し q=⋂λpλ\mathfrak{q} = \bigcap_\lambda \mathfrak{p}_\lambda が素イデアルであることを示します。q\mathfrak{q} は 11 を含まないイデアルです。ab∈qab \in \mathfrak{q}、a∉qa \notin \mathfrak{q} とし、a∉pμa \notin \mathfrak{p}_\mu となる μ\mu を取ります。鎖の各元 pλ\mathfrak{p}_\lambda について、pλ⊆pμ\mathfrak{p}_\lambda \subseteq \mathfrak{p}_\mu なら a∉pλa \notin \mathfrak{p}_\lambda なので b∈pλb \in \mathfrak{p}_\lambda、pλ⊇pμ\mathfrak{p}_\lambda \supseteq \mathfrak{p}_\mu なら ab∈pμab \in \mathfrak{p}_\mu と a∉pμa \notin \mathfrak{p}_\mu から b∈pμ⊆pλb \in \mathfrak{p}_\mu \subseteq \mathfrak{p}_\lambda です。よって b∈qb \in \mathfrak{q} で、q\mathfrak{q} は素イデアルであり、鎖の(逆順序での)上界です。Zorn の補題(定理 5.1)[選択公理と Zorn の補題] により Σ\Sigma に極大元、すなわち p\mathfrak{p} に含まれる極小素イデアルが存在します。

A≠0A \ne 0 なら 極大イデアルの存在(定理 6.5)[選択公理と Zorn の補題] と 系 6.4[イデアルと剰余環] により素イデアルがあるので、極小素イデアルも存在します。最後に、すべての素イデアルは極小素イデアルを含むので、極小素イデアル全体の共通部分は全素イデアルの共通部分に等しく、定理 2.6 によりそれは nil⁡(A)\operatorname{nil}(A) です。

命題 4.8(Spec の連結性と冪等元)✓

A≠0A \ne 0 とする。次は同値である。

  1. Spec⁡A\operatorname{Spec} A は連結でない。
  2. AA は 0,10, 1 以外の冪等元 ee(e2=ee^2 = e)をもつ。
  3. 00 でない環 A1,A2A_1, A_2 によって A≅A1×A2A \cong A_1 \times A_2 と書ける。

さらに (2) の ee について A≅A/(1−e)×A/(e)A \cong A/(1 - e) \times A/(e) であり、V(e)V(e) と V(1−e)V(1-e) が Spec⁡A\operatorname{Spec} A の分離を与える。

証明(命題 4.8)

(2) ⇒ (1) と最後の主張: e(1−e)=e−e2=0e(1 - e) = e - e^2 = 0 はすべての素イデアルに入るので、各素イデアルは ee か 1−e1 - e を含み、e+(1−e)=1e + (1-e) = 1 なので両方は含みません。よって Spec⁡A=V(e)⊔V(1−e)\operatorname{Spec} A = V(e) \sqcup V(1 - e) は互いに素な閉集合の和、したがって互いに素な開集合の和です。ee が単元なら e=e−1e2=e−1e=1e = e^{-1}e^2 = e^{-1}e = 1 となるので、e≠1e \ne 1 から (e)(e) は真のイデアルで、極大イデアルの存在(定理 6.5)[選択公理と Zorn の補題] と 系 6.4[イデアルと剰余環] から V(e)≠∅V(e) \ne \varnothing です。1−e1 - e も 0,10, 1 でない冪等元なので V(1−e)≠∅V(1 - e) \ne \varnothing です。これは 分離(定義 2.1)[連結性] です。また (e)+(1−e)=A(e) + (1 - e) = A、(e)(1−e)=(e−e2)=0(e)(1 - e) = (e - e^2) = 0 なので、中国剰余定理(補題 5.2)[代数体の整数環と Dedekind 整域] により A≅A/(e)×A/(1−e)A \cong A/(e) \times A/(1 - e) です。

(1) ⇒ (2): 分離を Spec⁡A=V(a)⊔V(b)\operatorname{Spec} A = V(\mathfrak{a}) \sqcup V(\mathfrak{b})(どちらも空でない閉集合)とします。補題 4.2 より V(a+b)=V(a)∩V(b)=∅V(\mathfrak{a} + \mathfrak{b}) = V(\mathfrak{a}) \cap V(\mathfrak{b}) = \varnothing なので、極大イデアルの存在から a+b=A\mathfrak{a} + \mathfrak{b} = A です。また V(ab)=V(a)∪V(b)=Spec⁡AV(\mathfrak{a}\mathfrak{b}) = V(\mathfrak{a}) \cup V(\mathfrak{b}) = \operatorname{Spec} A なので、定理 2.6 より ab⊆nil⁡(A)\mathfrak{a}\mathfrak{b} \subseteq \operatorname{nil}(A) です。1=a+b1 = a + b(a∈aa \in \mathfrak{a}、b∈bb \in \mathfrak{b})と書くと abab は冪零で、(ab)n=0(ab)^n = 0 となる nn があります。ana^n と bnb^n を両方含む素イデアルは aa と bb を含み、したがって 11 を含むので、V(an,bn)=∅V(a^n, b^n) = \varnothing、よって (an)+(bn)=A(a^n) + (b^n) = A です。1=uan+vbn1 = u a^n + v b^n とおき e=uane = u a^n とすると、e(1−e)=uv anbn=0e(1 - e) = uv\,a^n b^n = 0 なので ee は冪等です。e=0e = 0 なら vbn=1v b^n = 1 で bb は単元ですが、b∈bb \in \mathfrak{b} で V(b)≠∅V(\mathfrak{b}) \ne \varnothing なので b\mathfrak{b} は真のイデアルであり、矛盾します。e=1e = 1 なら uan=1u a^n = 1 で同様に a\mathfrak{a} について矛盾します。

(2) ⇔ (3): (2) なら上で見た A≅A/(e)×A/(1−e)A \cong A/(e) \times A/(1 - e) で、e≠1e \ne 1、1−e≠11 - e \ne 1 から両因子は 00 でありません。(3) なら (0,1)(0, 1) が 0,10, 1 以外の冪等元です。

代数幾何の言葉では、Spec⁡A\operatorname{Spec} A が二つの開かつ閉な部分 V(1−e)≅Spec⁡A/(1−e)V(1-e) \cong \operatorname{Spec} A/(1-e) と V(e)V(e) に分かれることが、環が直積に分かれることに対応します。

例 5.1(Spec Z)

Z\mathbb{Z} は PID(命題 7.2[イデアルと剰余環])なので、素イデアルは (0)(0) と素数 pp による (p)(p) です。(p)(p) は極大で閉点、(0)(0) の閉包は V(0)=Spec⁡ZV(0) = \operatorname{Spec}\mathbb{Z} 全体なので、(0)(0) は全体の生成点です。閉集合は全体と、有限個の閉点の集合(V(n)={(p):p∣n}V(n) = \{(p) : p \mid n\}、n≠0n \ne 0)に限ります。(0)(0) は閉点でないので Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} は T1 ではありません。また空でない開集合はどれも (0)(0) を含むので、任意の 2 つの空でない開集合は交わり、Hausdorff でもありません。

例 5.2(Spec k[x] と Spec k[x]/(x2)k[x]/(x^2))

kk を体とすると k[x]k[x] も PID で、素イデアルは (0)(0) とモニックな既約多項式 ff による (f)(f) です。kk が代数閉体なら (f)=(x−a)(f) = (x - a) で、閉点はアフィン直線の点 a∈ka \in k と一対一に対応し、(0)(0) が直線全体の生成点です。k=Rk = \mathbb{R} なら (x2+1)(x^2 + 1) のような「共役な複素数の対」にあたる閉点も現れます。

A=k[x]/(x2)A = k[x]/(x^2) の素イデアルは、補題 2.5 により (x2)(x^2) を含む k[x]k[x] の素イデアル、すなわち (x)(x) だけです。Spec⁡A\operatorname{Spec} A は 1 点ですが、nil⁡(A)=(x)≠0\operatorname{nil}(A) = (x) \ne 0 なので AA は被約でなく、体 k=A/(x)k = A/(x) とは環として異なります。Spec⁡\operatorname{Spec} の位相は冪零元を見分けられない(補題 4.2 の (1))ので、「接線方向の情報」をもつ点という幾何的な描像はこの冪零元に担わせます。

例 5.3(Spec Z[x] の図)

P\mathfrak{P} を Z[x]\mathbb{Z}[x] の素イデアルとすると、補題 2.4 より P∩Z\mathfrak{P} \cap \mathbb{Z} は (0)(0) か (p)(p) です。

  • P∩Z=(p)\mathfrak{P} \cap \mathbb{Z} = (p) のとき、P\mathfrak{P} は Z[x]/(p)≅Fp[x]\mathbb{Z}[x]/(p) \cong \mathbb{F}_p[x] の素イデアルに対応し(補題 2.5)、P=(p)\mathfrak{P} = (p) か、fˉ\bar f が Fp\mathbb{F}_p 上既約となる ff による極大イデアル (p,f)(p, f) です。(p)(p) は「pp の上のファイバー」V(p)≅Spec⁡Fp[x]V(p) \cong \operatorname{Spec}\mathbb{F}_p[x] の生成点です。
  • P∩Z=(0)\mathfrak{P} \cap \mathbb{Z} = (0) のとき、P\mathfrak{P} は S=Z∖{0}S = \mathbb{Z} \setminus \{0\} と交わらないので、定理 3.6 により S−1Z[x]=Q[x]S^{-1}\mathbb{Z}[x] = \mathbb{Q}[x] の素イデアルに対応し、P=(0)\mathfrak{P} = (0) か、Q[x]\mathbb{Q}[x] の既約多項式に対応する (f)(f)(ff は原始的な既約多項式。Gauss の補題による)です。(f)(f) は「曲線」V(f)V(f) の生成点です。

下の図で、縦線が各素数の上のファイバー、横に走る線が V(x)V(x) と V(x2+1)V(x^2 + 1) です。x2+1x^2 + 1 は法 55 で (x−2)(x+2)(x - 2)(x + 2) と分解するので、V(x2+1)V(x^2+1) は p=5p = 5 のファイバーと 2 点で交わり、法 33 では既約なので 1 点 (3,x2+1)(3, x^2+1) で交わり、法 22 では (x+1)2(x + 1)^2 なので 1 点 (2,x+1)(2, x+1) で接します。

(2)(3)(5)(7)2357Spec ZV(x)V(x²+1)(5, x−2)(5, x+2)(2, x+1)(3, x)(0):全体の生成点
Spec Z[x] の模式図。縦線 V(p) はファイバー、黒丸は極大イデアル、横の線は既約多項式 f の定める V(f)。全体の生成点 (0) は図のどこにでもある「ぼやけた点」として右に記した。

例 5.4(Z(p)Z_(p) と Q)

pp を素数、p=(p)\mathfrak{p} = (p) とすると、Z(p)={a/s∈Q:p∤s}\mathbb{Z}_{(p)} = \{ a/s \in \mathbb{Q} : p \nmid s \} です(命題 3.5 により Q\mathbb{Q} の部分環と見なせます)。命題 3.10 により極大イデアルは pZ(p)p\mathbb{Z}_{(p)} だけで、剰余体は Fp\mathbb{F}_p です。定理 3.6 により素イデアルは (0)(0) と pZ(p)p\mathbb{Z}_{(p)} の 2 つで、Spec⁡Z(p)\operatorname{Spec}\mathbb{Z}_{(p)} は「閉点 1 つと生成点 1 つ」の 2 点空間です。命題 2.8 を確かめると、x∈pZ(p)x \in p\mathbb{Z}_{(p)} なら 1−xy1 - xy の分子は pp で割れないので単元です。S=Z∖{0}S = \mathbb{Z} \setminus \{0\} とすれば S−1Z=QS^{-1}\mathbb{Z} = \mathbb{Q} で、Spec⁡Q\operatorname{Spec}\mathbb{Q} は生成点 (0)(0) だけの 1 点です。

演習 6.1易

環 AA と f∈Af \in A について、Af=0A_f = 0 であることと ff が冪零であることは同値であることを示してください。また A=Z/12A = \mathbb{Z}/12 について A2A_2、A3A_3 を求めてください。

解答

補題 3.3 の (2) より、Af=0A_f = 0 は 0∈{1,f,f2,…}0 \in \{1, f, f^2, \ldots\}、すなわち ff が冪零であることと同値です。

A=Z/12A = \mathbb{Z}/12 で 22 は冪零でないので A2≠0A_2 \ne 0 です。命題 4.6 により Spec⁡A2≅D(2)\operatorname{Spec} A_2 \cong D(2) で、Spec⁡A={(2),(3)}\operatorname{Spec} A = \{(2), (3)\} のうち 22 を含まないのは (3)(3) だけです。具体的には A2A_2 で 22 は可逆なので 4=224 = 2^2 も可逆で、4⋅3=04 \cdot 3 = 0 から 3/1=03/1 = 0、すなわち S−1(3)=0S^{-1}(3) = 0 です。命題 3.7 より A2=A2/S−1(3)≅Sˉ−1(Z/3)A_2 = A_2/S^{-1}(3) \cong \bar S^{-1}(\mathbb{Z}/3) で、Z/3\mathbb{Z}/3 では 22 はすでに可逆なので、定理 3.4 により Sˉ−1(Z/3)≅Z/3\bar S^{-1}(\mathbb{Z}/3) \cong \mathbb{Z}/3、したがって A2≅Z/3A_2 \cong \mathbb{Z}/3 です。同様に A3A_3 では 33 が可逆、3⋅4=03 \cdot 4 = 0 から 4/1=04/1 = 0 なので A3≅Z/4A_3 \cong \mathbb{Z}/4 です。Z/12≅Z/4×Z/3\mathbb{Z}/12 \cong \mathbb{Z}/4 \times \mathbb{Z}/3 と見比べると、局所化が直積の片方の因子を取り出していることがわかります。

演習 6.2標準

(1) A=ZA = \mathbb{Z} と A=Z/36A = \mathbb{Z}/36 について、nil⁡(A)\operatorname{nil}(A) と Jac⁡(A)\operatorname{Jac}(A) を求めてください。 (2) AA を局所環 (A,m)(A, \mathfrak{m}) とするとき Jac⁡(A)=m\operatorname{Jac}(A) = \mathfrak{m} であり、nil⁡(A)≠m\operatorname{nil}(A) \ne \mathfrak{m} となる例を挙げてください。

解答

(1) Z\mathbb{Z} は整域なので nil⁡=0\operatorname{nil} = 0 です。極大イデアルは (p)(p) で、すべての素数で割り切れる整数は 00 だけなので Jac⁡(Z)=0\operatorname{Jac}(\mathbb{Z}) = 0 です。Z/36\mathbb{Z}/36 の素イデアルは 補題 2.5 により (2)(2)、(3)(3) で、どちらも極大です。よって 定理 2.6 から nil⁡=Jac⁡=(2)∩(3)=(6)/(36)\operatorname{nil} = \operatorname{Jac} = (2) \cap (3) = (6)/(36) です。実際 62=36≡06^2 = 36 \equiv 0 です。

(2) 極大イデアルが m\mathfrak{m} だけなので、定義から Jac⁡(A)=m\operatorname{Jac}(A) = \mathfrak{m} です。A=Z(p)A = \mathbb{Z}_{(p)} は整域なので nil⁡(A)=0≠pZ(p)\operatorname{nil}(A) = 0 \ne p\mathbb{Z}_{(p)} です(例 5.4)。

演習 6.3標準

A=Z/30A = \mathbb{Z}/30 の冪等元をすべて求め、Spec⁡A\operatorname{Spec} A の連結成分と対応させてください。

解答

Spec⁡A={(2),(3),(5)}\operatorname{Spec} A = \{(2), (3), (5)\} で、各点は極大イデアルなので閉点です(定理 4.4 の (3))。3 点からなる有限空間で各点が閉なので、各点は開かつ閉で、連結成分は 3 つの 1 点集合です。中国剰余定理(補題 5.2)[代数体の整数環と Dedekind 整域] により A≅Z/2×Z/3×Z/5A \cong \mathbb{Z}/2 \times \mathbb{Z}/3 \times \mathbb{Z}/5 で、冪等元は各成分が 00 か 11 の元、全部で 23=82^3 = 8 個です。Z/30\mathbb{Z}/30 の元で書くと 0,1,6,10,15,16,21,250, 1, 6, 10, 15, 16, 21, 25 です(たとえば 6≡0(mod2)6 \equiv 0 \pmod 2、≡0(mod3)\equiv 0 \pmod 3、≡1(mod5)\equiv 1 \pmod 5 で、62=36≡66^2 = 36 \equiv 6)。冪等元 ee に対して V(1−e)V(1 - e) は「ee の成分が 11 である素数」の集合です。たとえば e=6e = 6 なら V(1−6)=V(−5)={(5)}V(1 - 6) = V(-5) = \{(5)\} です。

  • M. F. Atiyah, I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969 — Chapter 1(根基・素イデアル)、Chapter 3(局所化)、Chapter 1 の演習(Spec と Zariski 位相)。
  • H. Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1986 — §1(イデアル)、§4(局所化)。
  • D. Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry, Springer GTM 150, 1995 — Chapter 2(局所化)。
  • 松村英之『可換環論』共立出版、1980 — 第 1 章。
  • R. Hartshorne, Algebraic Geometry, Springer GTM 52, 1977 — II.2(Spec と構造層。代数幾何での使われ方)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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