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整拡大:整閉包・横たわり・上昇定理と下降定理

対象読者: 本テーマ第 1〜2 章(局所化・Spec・加群・中山の補題)を学び、代数体の整数の定義を見たことがある人。平坦性は終盤で使うため、第 3 章を読んでおくと安心です。

前提となる記事:局所化と素イデアルのスペクトル:根基・分数環・Zariski 位相、加群・完全列・中山の補題:行列式のトリックと局所的性質

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放物線を横から照らして xx 軸に影を落とすと、ほとんどの影の上に点が 2 個ずつ乗ります。双曲線では、影が原点に近づくと点が果てしなく遠くへ逃げてしまいます。この記事は「点が逃げない」という性質を、環の言葉(モニック多項式の根になること)で扱う話です。読み終えると、環を大きくしたときに素イデアル(幾何でいう点にあたるもの)がどう対応するかを、定理として説明できるようになります。

  • 環 AA 上の元 bb が整であるとは、AA 係数のモニック多項式の根になることです。これは「A[b]A[b] が有限生成 AA 加群になる」ことと同値で、証明は 加群・完全列・中山の補題 の行列式のトリックそのものです。この言い換えから、整な元の和と積がまた整であること(整閉包は環)と、整性の推移性が出てきます。
  • 整閉包をとる操作は局所化と可換です。したがって整域が整閉であることは局所的な性質で、すべての素イデアルでの局所化が整閉であることと同値です。UFD は整閉です。
  • 整拡大 A⊆BA \subseteq B では、Spec⁡B→Spec⁡A\operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A は全射で(横たわり)、同じ素イデアルの上の素イデアルの間に包含関係はなく(比較不能性)、AA の素イデアルの上昇列は BB に持ち上がります(上昇定理)。とくにこの写像は閉写像(閉集合を閉集合に写す写像)です。
  • AA が整閉整域で BB が整域なら、下降列も持ち上がります(下降定理)。鍵は「整閉整域上で整な元の最小多項式の係数は AA に入る」という補題で、証明には分解体での共役(同じ最小多項式の根どうし)を使います。整閉性を外すと下降定理は壊れます(Whitney の傘の例)。
  • 平坦な環準同型でも下降定理が成り立ちます。これは テンソル積と平坦性 の章の忠実平坦性から従います。

代数的整数論では、代数体 KK の中で「整数」と呼ぶべきものを、Z\mathbb{Z} 係数のモニック多項式の根として定めました。−3\sqrt{-3} だけでなく 1+−32\frac{1 + \sqrt{-3}}{2} も x2−x+1=0x^2 - x + 1 = 0 の根なので整数で、整数環は Z[−3]\mathbb{Z}[\sqrt{-3}] より少し大きくなります。この「モニック多項式の根」という条件を、Z⊆C\mathbb{Z} \subseteq \mathbb{C} から一般の環の拡大 A⊆BA \subseteq B に移したものが整拡大です。

幾何学的には、整拡大 A⊆BA \subseteq B は「各点の上に有限個の点しかなく、点が無限遠に逃げない」写像 Spec⁡B→Spec⁡A\operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A に対応します。たとえば k[x]⊆k[x,y]/(y2−x)k[x] \subseteq k[x, y]/(y^2 - x) は放物線を xx 軸に射影する写像で、kk が標数 22 でない代数閉体なら各点の上に 2 点(x=0x = 0 では 1 点)が乗っています。一方 k[x]⊆k[x,y]/(xy−1)k[x] \subseteq k[x, y]/(xy - 1) は双曲線の射影で、x=0x = 0 の上には点がありません。yy は xy−1=0xy - 1 = 0 という、yy についてモニックでない式しか満たさず、x→0x \to 0 で y→∞y \to \infty に逃げるからです。横たわり定理は、整性がこの「逃げない」ことを保証すると言っています。

この記事の結果は次のように使われます。

  • 代数幾何: 有限射は閉写像で全射(横たわり)、正規化(整閉包)による特異点の解消の第一歩、多様体と根基イデアルの対応(次の章の零点定理)。
  • 代数的整数論: 整数環の一般論、素イデアルの上の素イデアルの存在(横たわり)。
  • 次元論(Krull 次元と単項イデアル定理 の章): 整拡大で Krull 次元が変わらないこと(上昇定理と比較不能性)、アフィン代数の鎖状性(下降定理)。

環はすべて単位元をもつ可換環です。環準同型 φ ⁣:A→B\varphi \colon A \to B が与えられたとき BB を AA 代数といい、a∈Aa \in A と b∈Bb \in B の積 φ(a)b\varphi(a)b を abab と書きます。A⊆BA \subseteq B が部分環のときは包含写像を考えます。

定義 2.1(整元・整拡大・整閉包)↗

φ ⁣:A→B\varphi \colon A \to B を環準同型とする。

  1. b∈Bb \in B が AA 上整であるとは、n≥1n \ge 1 と a1,…,an∈Aa_1, \ldots, a_n \in A があって
bn+a1bn−1+⋯+an−1b+an=0b^n + a_1 b^{n-1} + \cdots + a_{n-1} b + a_n = 0

となることをいう(整従属の式という)。BB のすべての元が AA 上整であるとき、BB は AA 上整であるという。A⊆BA \subseteq B が部分環で BB が AA 上整なとき、A⊆BA \subseteq B を整拡大という。 2. AA 上整な BB の元全体を、BB における AA の整閉包という。A⊆BA \subseteq B が部分環で整閉包が AA 自身に等しいとき、AA は BB で整閉であるという。 3. b1,…,bn∈Bb_1, \ldots, b_n \in B に対し、φ(A)\varphi(A) と b1,…,bnb_1, \ldots, b_n で生成される BB の部分環を A[b1,…,bn]A[b_1, \ldots, b_n] と書く。

定義 2.2(有限代数・有限型代数)↗

AA 代数 BB が AA 加群として有限生成であるとき、BB は AA 上有限であるという。ある b1,…,bn∈Bb_1, \ldots, b_n \in B について B=A[b1,…,bn]B = A[b_1, \ldots, b_n] となるとき、BB は AA 上有限型(有限生成 AA 代数)であるという。

有限型は「多項式環 A[x1,…,xn]A[x_1, \ldots, x_n] からの全射がある」こと、有限は「AnA^n からの AA 加群としての全射がある」ことです。有限なら有限型です(加群の生成元は代数としても生成元)。逆は成り立たず、A[x]A[x] は AA 上有限型ですが、A≠0A \ne 0 なら有限ではありません(有限個の多項式の AA 係数の一次結合では、それらの次数の最大値を超える次数の多項式は作れません)。

次の定理が整性のすべての性質の出発点です。

定理 2.3(整性の判定)✓

φ ⁣:A→B\varphi \colon A \to B を環準同型、b∈Bb \in B とする。次は同値である。

  1. bb は AA 上整である。
  2. A[b]A[b] は有限生成 AA 加群である。
  3. A[b]A[b] は、有限生成 AA 加群であるような BB の部分環 CC に含まれる。
  4. A[b]A[b] 加群 MM で、AA 加群として有限生成であり、A[b]A[b] 加群として忠実(x∈A[b]x \in A[b]、xM=0xM = 0 ならば x=0x = 0)なものが存在する。
証明(定理 2.3)

(1)⇒(2): 整従属の式 bn=−(a1bn−1+⋯+an)b^n = -(a_1 b^{n-1} + \cdots + a_n) を使うと、m≥nm \ge n について bm=bm−nbnb^m = b^{m-n} b^n は bm−1,…,bm−nb^{m-1}, \ldots, b^{m-n} の AA 係数の一次結合です。mm についての帰納法により、すべての bmb^m は 1,b,…,bn−11, b, \ldots, b^{n-1} の AA 係数の一次結合です。A[b]A[b] の元は bb の AA 係数の多項式なので、A[b]=A+Ab+⋯+Abn−1A[b] = A + Ab + \cdots + Ab^{n-1} です。

(2)⇒(3): C=A[b]C = A[b] と取ります。

(3)⇒(4): M=CM = C と取ります。CC は A[b]A[b] を含む環なので A[b]A[b] 加群で、仮定から AA 加群として有限生成です。x∈A[b]x \in A[b] が xC=0xC = 0 を満たせば、1∈C1 \in C なので x=x⋅1=0x = x \cdot 1 = 0 です。

(4)⇒(1): bb 倍の写像 β ⁣:M→M\beta \colon M \to M、m↦bmm \mapsto bm は AA 線形で、β(M)⊆M=A⋅M\beta(M) \subseteq M = A \cdot M です。行列式のトリック(定理 3.3[加群・完全列・中山の補題])を単位イデアル AA に当てると、c1,…,cn∈Ac_1, \ldots, c_n \in A があって βn+c1βn−1+⋯+cn=0\beta^n + c_1\beta^{n-1} + \cdots + c_n = 0(End⁡A(M)\operatorname{End}_A(M) の中で)となります。βi\beta^i は bib^i 倍の写像なので、x=bn+c1bn−1+⋯+cn∈A[b]x = b^n + c_1 b^{n-1} + \cdots + c_n \in A[b] は xM=0xM = 0 を満たします。MM は忠実なので x=0x = 0 で、これは bb の整従属の式です。

A=ZA = \mathbb{Z}、B=CB = \mathbb{C} の場合の (4)⇒(1) が、代数的整数論で使った加群による判定(補題 2.2[代数体の整数環と Dedekind 整域])です。そこでは C\mathbb{C} の中で行列式を取りましたが、ここでは一般の可換環の上で行列式のトリックを使っています。

系 2.4(整閉包は環・整性の推移性)✓

φ ⁣:A→B\varphi \colon A \to B を環準同型とする。

  1. (有限性の推移性)BB が AA 上有限で、BB 代数 CC が BB 上有限なら、CC は AA 上有限である。
  2. b1,…,bn∈Bb_1, \ldots, b_n \in B が AA 上整なら、A[b1,…,bn]A[b_1, \ldots, b_n] は AA 上有限である。
  3. BB における AA の整閉包は、φ(A)\varphi(A) を含む BB の部分環である。
  4. BB が AA 上有限なら BB は AA 上整である。BB が AA 上有限であることと、BB が AA 上整かつ有限型であることは同値である。
  5. (整性の推移性)BB が AA 上整で、BB 代数 CC が BB 上整なら、CC は AA 上整である。
  6. BB における AA の整閉包を CC とすると、CC は BB で整閉である。
証明(系 2.4)

(1) B=∑iAuiB = \sum_i A u_i、C=∑jBvjC = \sum_j B v_j とすると、c∈Cc \in C は c=∑jβjvjc = \sum_j \beta_j v_j(βj∈B\beta_j \in B)、βj=∑iαijui\beta_j = \sum_i \alpha_{ij} u_i(αij∈A\alpha_{ij} \in A)と書けるので c=∑i,jαij uivjc = \sum_{i,j} \alpha_{ij}\, u_i v_j です。よって CC は有限個の uivju_i v_j で AA 上生成されます。

(2) nn についての帰納法です。Ak=A[b1,…,bk]A_k = A[b_1, \ldots, b_k] とします。bk+1b_{k+1} は AA 上整なので、同じ式により AkA_k 上も整で、定理 2.3 により Ak+1=Ak[bk+1]A_{k+1} = A_k[b_{k+1}] は AkA_k 上有限です。帰納法の仮定(AkA_k は AA 上有限)と (1) により Ak+1A_{k+1} は AA 上有限です。

(3) b,b′b, b' が AA 上整なら、(2) により A[b,b′]A[b, b'] は AA 上有限で、b±b′b \pm b' と bb′bb' はこれに含まれます。定理 2.3 の (3)⇒(1) により、これらも整です。φ(a)\varphi(a) は x−ax - a の根なので整です。

(4) BB が AA 上有限なら、任意の b∈Bb \in B について A[b]⊆BA[b] \subseteq B なので、定理 2.3 の (3) から bb は整です。有限なら有限型であることは定義の直後に見ました。逆に B=A[b1,…,bn]B = A[b_1, \ldots, b_n] で各 bib_i が整なら、(2) により有限です。

(5) c∈Cc \in C は cn+β1cn−1+⋯+βn=0c^n + \beta_1 c^{n-1} + \cdots + \beta_n = 0(βi∈B\beta_i \in B)を満たします。B′=A[β1,…,βn]⊆BB' = A[\beta_1, \ldots, \beta_n] \subseteq B とおくと、(2) から B′B' は AA 上有限です。cc は B′B' 上整なので B′[c]B'[c] は B′B' 上有限で(定理 2.3)、(1) により B′[c]B'[c] は AA 上有限です。定理 2.3 の (3)⇒(1) により cc は AA 上整です。

(6) x∈Bx \in B が CC 上整なら、CC は AA 上整なので (5) により xx は AA 上整、すなわち x∈Cx \in C です。

(3) は定義だけからは見えにくい主張です。2\sqrt{2} と 3\sqrt{3} が整でも、2+3\sqrt{2} + \sqrt{3} の満たすモニック多項式 x4−10x2+1x^4 - 10x^2 + 1 を直接書き下すのは別の計算が要ります。行列式のトリックは、その多項式を「A[b,b′]A[b, b'] の生成元に関する行列の特性多項式」として自動的に作ってくれます。

命題 2.5(整性は剰余と局所化で保たれる)✓

A⊆BA \subseteq B を整拡大とする。

  1. b\mathfrak{b} を BB のイデアル、a=b∩A\mathfrak{a} = \mathfrak{b} \cap A とすると、A/a→B/bA/\mathfrak{a} \to B/\mathfrak{b} は単射で、B/bB/\mathfrak{b} は A/aA/\mathfrak{a} 上整である。
  2. SS を AA の積閉集合とすると、S−1A→S−1BS^{-1}A \to S^{-1}B は単射で、S−1BS^{-1}B は S−1AS^{-1}A 上整である。
証明(命題 2.5)

(1) A→B→B/bA \to B \to B/\mathfrak{b} の核は a\mathfrak{a} なので、誘導される A/a→B/bA/\mathfrak{a} \to B/\mathfrak{b} は単射です。b∈Bb \in B の整従属の式を b\mathfrak{b} を法として読めば、bˉ\bar b の A/aA/\mathfrak{a} 上の整従属の式になります。

(2) 単射性は、包含 A→BA \to B を AA 加群の単射とみて局所化の完全性(定理 5.2[加群・完全列・中山の補題])を当てたものです。b∈Bb \in B が bn+a1bn−1+⋯+an=0b^n + a_1 b^{n-1} + \cdots + a_n = 0 を満たすとき、s∈Ss \in S について

(bs)n+a1s(bs)n−1+⋯+ansn=bn+a1bn−1+⋯+ansn=0\Bigl(\frac{b}{s}\Bigr)^n + \frac{a_1}{s}\Bigl(\frac{b}{s}\Bigr)^{n-1} + \cdots + \frac{a_n}{s^n} = \frac{b^n + a_1 b^{n-1} + \cdots + a_n}{s^n} = 0

なので、b/sb/s は S−1AS^{-1}A 上整です。

次の命題は「整閉包を先に取ってから分母を許しても、分母を許してから整閉包を取っても同じ」と言っています。証明の後半は、分母つきの整従属の式から分母を払うだけの計算です。ただし y/1=0y/1 = 0 は y=0y = 0 とは限らず、uy=0uy = 0 となる u∈Su \in S が残るので、その uu を掛けて消します。

命題 2.6(整閉包と局所化の可換性)✓

A⊆BA \subseteq B を部分環、CC を BB における AA の整閉包、SS を AA の積閉集合とする。このとき S−1CS^{-1}C(定理 5.2[加群・完全列・中山の補題] により S−1BS^{-1}B の部分環とみなせる)は、S−1BS^{-1}B における S−1AS^{-1}A の整閉包に等しい。

証明(命題 2.6)

CC は AA 上整なので、命題 2.5 の (2) により S−1CS^{-1}C は S−1AS^{-1}A 上整です。

逆に b/s∈S−1Bb/s \in S^{-1}B が S−1AS^{-1}A 上整であるとし、整従属の式の係数の分母を払います。係数を共通の分母 t∈St \in S で ai/ta_i/t(ai∈Aa_i \in A)と書くと

(bs)n+∑i=1nait(bs)n−i=0\Bigl(\frac{b}{s}\Bigr)^n + \sum_{i=1}^{n} \frac{a_i}{t}\Bigl(\frac{b}{s}\Bigr)^{n-i} = 0

です。両辺に (st)n/1(st)^n/1 を掛けると、ait(bs)n−i(st)n=aiti−1si(tb)n−i\frac{a_i}{t}\bigl(\frac{b}{s}\bigr)^{n-i}(st)^n = a_i t^{i-1}s^{i}(tb)^{n-i} なので、

y=(tb)n+∑i=1naiti−1si (tb)n−i∈By = (tb)^n + \sum_{i=1}^{n} a_i t^{i-1} s^{i}\, (tb)^{n-i} \in B

について y/1=0y/1 = 0 です。局所化の定義から、ある u∈Su \in S で uy=0uy = 0 です。両辺に un−1u^{n-1} を掛けると

(utb)n+∑i=1naiti−1siui (utb)n−i=uny=0(utb)^n + \sum_{i=1}^{n} a_i t^{i-1}s^{i}u^{i}\,(utb)^{n-i} = u^n y = 0

となり、utbutb は AA 上整、すなわち utb∈Cutb \in C です。よって b/s=utb/(uts)∈S−1Cb/s = utb/(uts) \in S^{-1}C です。

分母を払う操作は、体上で考えると次の形になります。

命題 2.7(分母を払うと整になる)✓

AA を整域、K=Frac⁡AK = \operatorname{Frac} A をその商体(命題 3.5[局所化と素イデアルのスペクトル])、LL を KK を含む体とする。x∈Lx \in L が KK 上代数的なら、00 でない a∈Aa \in A で axax が AA 上整となるものがある。したがって LL が KK 上代数的なら、LL における AA の整閉包を CC とすると、LL の元はすべて c/ac/a(c∈Cc \in C、0≠a∈A0 \ne a \in A)の形に書け、Frac⁡C=L\operatorname{Frac} C = L である。

証明(命題 2.7)

xx はモニックな KK 係数多項式の根なので、係数の分母を払って xn+(a1/s)xn−1+⋯+an/s=0x^n + (a_1/s)x^{n-1} + \cdots + a_n/s = 0(ai∈Aa_i \in A、0≠s∈A0 \ne s \in A)と書けます。sns^n を掛けると

(sx)n+a1(sx)n−1+a2s (sx)n−2+⋯+ansn−1=0(sx)^n + a_1 (sx)^{n-1} + a_2 s\,(sx)^{n-2} + \cdots + a_n s^{n-1} = 0

なので sxsx は AA 上整です。LL が KK 上代数的なら各 x∈Lx \in L は x=(sx)/sx = (sx)/s と書け、sx∈Csx \in C です。C⊆LC \subseteq L は整域で、CC の 00 でない元は LL で可逆なので、局所化の普遍性(定理 3.4[局所化と素イデアルのスペクトル])により Frac⁡C→L\operatorname{Frac} C \to L、c/c′↦cc′−1c/c' \mapsto c c'^{-1} が定まり、これは体からの準同型なので単射、いま見たことから全射です。

定義 3.1(整閉整域・正規環)↗

整域 AA が商体 Frac⁡A\operatorname{Frac} A で整閉であるとき、AA を整閉整域という。環 AA が正規環であるとは、すべての素イデアル p\mathfrak{p} について局所化 ApA_{\mathfrak{p}} が整閉整域であることをいう。整域 AA の Frac⁡A\operatorname{Frac} A における整閉包を、AA の正規化ともいう。

命題 3.2(正規性は局所的)✓

AA を整域、K=Frac⁡AK = \operatorname{Frac} A とする。次は同値である。

  1. AA は整閉整域である。
  2. すべての素イデアル p\mathfrak{p} について ApA_{\mathfrak{p}} は整閉整域である(AA は正規環である)。
  3. すべての極大イデアル m\mathfrak{m} について AmA_{\mathfrak{m}} は整閉整域である。
証明(命題 3.2)

CC を KK における AA の整閉包とし、包含写像 f ⁣:A→Cf \colon A \to C を AA 加群の準同型とみます。(1) は ff が全射であることです。

素イデアル p\mathfrak{p} について S=A∖pS = A \setminus \mathfrak{p} とします。命題 3.5[局所化と素イデアルのスペクトル] により ApA_{\mathfrak{p}} は KK の部分環とみなせ、その商体は KK です。また SS の元は KK の単元なので、K→S−1KK \to S^{-1}K、x↦x/1x \mapsto x/1 は同型です(逆写像は x/s↦xs−1x/s \mapsto xs^{-1})。したがって 命題 2.6 を A⊆KA \subseteq K に当てると、KK における ApA_{\mathfrak{p}} の整閉包は CpC_{\mathfrak{p}} であり、ApA_{\mathfrak{p}} が整閉整域であることは、局所化した包含写像 fp ⁣:Ap→Cpf_{\mathfrak{p}} \colon A_{\mathfrak{p}} \to C_{\mathfrak{p}} が全射であることと同じです。

(1)⇒(2): ff が全射なら fpf_{\mathfrak{p}} も全射です(定理 5.2[加群・完全列・中山の補題])。(2)⇒(3) は明らかです。(3)⇒(1): すべての極大イデアル m\mathfrak{m} で fmf_{\mathfrak{m}} が全射なので、局所的性質(定理 5.3[加群・完全列・中山の補題] の (2))により ff は全射です。

とくに、整域が正規環であることと整閉整域であることは同じです。代数幾何では「すべての点で局所環が整閉」という形で正規性を扱うので、この同値は定義を局所的に読み替える根拠になります。

命題 3.3(UFD は整閉)✓

一意分解整域(定義 2.2[多項式環と体の拡大])は整閉整域である。

証明(命題 3.3)

AA を UFD、K=Frac⁡AK = \operatorname{Frac} A とし、x∈Kx \in K が AA 上整であるとします。x=a/bx = a/b(a,b∈Aa, b \in A、b≠0b \ne 0)と書き、aa と bb の両方を割る既約元があれば両方から約しておきます(bb の既約元分解は有限なので、この操作は有限回で終わります)。bb が単元なら x∈Ax \in A です。そうでないとして、bb を割る既約元 pp を取ります。UFD では既約元は素元です(補題 2.3[多項式環と体の拡大])。整従属の式 xn+c1xn−1+⋯+cn=0x^n + c_1 x^{n-1} + \cdots + c_n = 0 に bnb^n を掛けると

an=−b (c1an−1+c2an−2b+⋯+cnbn−1)a^n = -b\,(c_1 a^{n-1} + c_2 a^{n-2} b + \cdots + c_n b^{n-1})

なので p∣anp \mid a^n で、pp は素元なので p∣ap \mid a です。これは a,ba, b が共通の既約因子をもたないことに反します。よって bb は単元で、x∈Ax \in A です。

とくに Z\mathbb{Z}、体 kk 上の多項式環 k[x1,…,xn]k[x_1, \ldots, x_n] は整閉整域です(定理 3.5[多項式環と体の拡大])。

例 3.4(尖点 y² = x³ の正規化)

kk を体とし、A=k[x,y]/(y2−x3)A = k[x, y]/(y^2 - x^3) とします。k[x,y]k[x, y] の元は y2−x3y^2 - x^3(yy についてモニック)で割ると f(x)+y g(x)f(x) + y\,g(x) の形の余りに一意的に書けるので、AA の元は f(x)+y g(x)f(x) + y\,g(x) と一意に書けます。代入 x↦t2x \mapsto t^2、y↦t3y \mapsto t^3 で定まる k[x,y]→k[t]k[x, y] \to k[t] は y2−x3y^2 - x^3 を 00 に送り、f(x)+y g(x)f(x) + y\,g(x) を f(t2)+t3g(t2)f(t^2) + t^3 g(t^2) に送ります。この像の偶数次の部分は f(t2)f(t^2)、奇数次の部分は t3g(t2)t^3 g(t^2) なので、像が 00 なら f=g=0f = g = 0 です。よって

A≅k[t2,t3]={∑iciti∈k[t]:c1=0}A \cong k[t^2, t^3] = \Bigl\{ \textstyle\sum_i c_i t^i \in k[t] : c_1 = 0 \Bigr\}

で、AA は整域です。t=t3/t2t = t^3/t^2 なので Frac⁡A=k(t)\operatorname{Frac} A = k(t) で、tt は T2−t2=0T^2 - t^2 = 0(係数 t2∈At^2 \in A)を満たすので AA 上整です。

AA の正規化を求めます。k[t]=A[t]k[t] = A[t] は整な元で生成されるので AA 上整です(系 2.4 の (2)、(4))。逆に k(t)k(t) の元で AA 上整なものは k[t]k[t] 上も整で、k[t]k[t] は UFD なので(命題 3.3)k[t]k[t] に入ります。よって AA の正規化は k[t]k[t] で、t∉At \notin A なので AA は整閉ではありません。

幾何学的には、AA は原点に尖りをもつ曲線 y2=x3y^2 = x^3 の座標環で、正規化 k[t]k[t] は直線です。写像 t↦(t2,t3)t \mapsto (t^2, t^3) は直線を曲線に全単射で写しますが、原点での「尖り」は正規化によって解消されています。

t = −1t = 0t = 1t ↦ (t², t³)⟶(1, −1)(1, 1)(0, 0) 尖点
写像 t ↦ (t², t³)(実数の場合の模式図)。左の直線上の t = −1, 0, 1 が、右の曲線 y² = x³ の点 (1, −1), (0, 0), (1, 1) に写る。直線には尖りがなく、尖りは像の曲線の側にだけ現れる

例 3.5(Z[√-3] の整閉包)

K=Q(−3)⊆CK = \mathbb{Q}(\sqrt{-3}) \subseteq \mathbb{C}、ω=(1+−3)/2\omega = (1 + \sqrt{-3})/2 とします。KK における Z\mathbb{Z} の整閉包が Z[ω]\mathbb{Z}[\omega] であることを確かめます。

ω2−ω+1=0\omega^2 - \omega + 1 = 0 なので ω\omega は整で、系 2.4 から Z[ω]\mathbb{Z}[\omega] は整閉包に含まれます。逆に x=a+b−3x = a + b\sqrt{-3}(a,b∈Qa, b \in \mathbb{Q})が Z\mathbb{Z} 上整であるとします。複素共役は KK をそれ自身に写す環準同型なので、xx の整従属の式に施すと xˉ=a−b−3\bar x = a - b\sqrt{-3} も同じ式を満たし、整です。したがって x+xˉ=2ax + \bar x = 2a と xxˉ=a2+3b2x\bar x = a^2 + 3b^2 は整な有理数で、Z\mathbb{Z} は UFD なので(命題 3.3)整数です。u=2au = 2a とおくと u∈Zu \in \mathbb{Z} で、u2+3(2b)2=4(a2+3b2)∈4Zu^2 + 3(2b)^2 = 4(a^2 + 3b^2) \in 4\mathbb{Z} から 3(2b)2∈Z3(2b)^2 \in \mathbb{Z} です。2b=r/s2b = r/s(既約分数)とすると s2∣3r2s^2 \mid 3r^2 から s=1s = 1、すなわち v=2b∈Zv = 2b \in \mathbb{Z} です。さらに u2+3v2≡u2−v2≡0(mod4)u^2 + 3v^2 \equiv u^2 - v^2 \equiv 0 \pmod 4 から u≡v(mod2)u \equiv v \pmod 2 です。よって

x=u+v−32=u−v2+v ω∈Z[ω]x = \frac{u + v\sqrt{-3}}{2} = \frac{u - v}{2} + v\,\omega \in \mathbb{Z}[\omega]

です。Z[−3]⊊Z[ω]\mathbb{Z}[\sqrt{-3}] \subsetneq \mathbb{Z}[\omega] なので、Z[−3]\mathbb{Z}[\sqrt{-3}] は整閉ではありません。これは代数体の整数環の一般論(定理 2.3[代数体の整数環と Dedekind 整域])の具体例で、Z[ω]\mathbb{Z}[\omega] は Q(−3)\mathbb{Q}(\sqrt{-3}) の整数環です。

整拡大の素イデアルを調べる基本的な道具は、次の「体であることは整拡大で上下に伝わる」という命題です。

命題 4.1(整拡大と体)✓

A⊆BA \subseteq B を整域の整拡大とする。AA が体であることと、BB が体であることは同値である。

証明(命題 4.1)

AA が体とし、0≠b∈B0 \ne b \in B とします。bb の整従属の式のうち次数 nn が最小のもの bn+a1bn−1+⋯+an=0b^n + a_1 b^{n-1} + \cdots + a_n = 0 を取ります。an=0a_n = 0 なら b(bn−1+⋯+an−1)=0b(b^{n-1} + \cdots + a_{n-1}) = 0 で、BB は整域で b≠0b \ne 0 なので次数 n−1n - 1 の式が得られ(n=1n = 1 なら b=0b = 0 となり)、最小性に反します。よって an≠0a_n \ne 0 で、AA は体なので

b⋅(−an−1(bn−1+a1bn−2+⋯+an−1))=1b \cdot \bigl(-a_n^{-1}(b^{n-1} + a_1 b^{n-2} + \cdots + a_{n-1})\bigr) = 1

となり、bb は BB で可逆です。

BB が体とし、0≠a∈A0 \ne a \in A とします。a−1∈Ba^{-1} \in B は AA 上整なので a−m+a1a−m+1+⋯+am=0a^{-m} + a_1 a^{-m+1} + \cdots + a_m = 0(ai∈Aa_i \in A)です。am−1a^{m-1} を掛けると a−1=−(a1+a2a+⋯+amam−1)∈Aa^{-1} = -(a_1 + a_2 a + \cdots + a_m a^{m-1}) \in A です。

整域であるという仮定は前半で使いました。A=kA = k、B=k[x]/(x2)B = k[x]/(x^2) は整拡大ですが、BB は体ではありません。

系 4.2(整拡大と極大イデアル)✓

A⊆BA \subseteq B を整拡大、q\mathfrak{q} を BB の素イデアル、p=q∩A\mathfrak{p} = \mathfrak{q} \cap A とする。q\mathfrak{q} が極大イデアルであることと、p\mathfrak{p} が極大イデアルであることは同値である。

証明(系 4.2)

命題 2.5 の (1) により A/p⊆B/qA/\mathfrak{p} \subseteq B/\mathfrak{q} は整拡大で、どちらも整域です(p\mathfrak{p} は素イデアルの引き戻しなので素イデアルであり(補題 2.4[局所化と素イデアルのスペクトル])、命題 6.2[イデアルと剰余環] を使います)。命題 4.1 により A/pA/\mathfrak{p} が体であることと B/qB/\mathfrak{q} が体であることは同値で、定理 6.3[イデアルと剰余環] によりこれが主張です。

次の定理の証明では、AA の積閉集合 SS を BB の積閉集合とみて S−1BS^{-1}B を作ります。p\mathfrak{p} が AA の素イデアルで S=A∖pS = A \setminus \mathfrak{p} のとき、S−1BS^{-1}B を BpB_{\mathfrak{p}} と書きます(BB の素イデアルでの局所化ではないことに注意してください)。命題 2.5 の (2) により Ap⊆BpA_{\mathfrak{p}} \subseteq B_{\mathfrak{p}} は整拡大です。

定理 4.3(比較不能性)✓

A⊆BA \subseteq B を整拡大とし、q⊆q′\mathfrak{q} \subseteq \mathfrak{q}' を BB の素イデアルで q∩A=q′∩A\mathfrak{q} \cap A = \mathfrak{q}' \cap A を満たすものとする。このとき q=q′\mathfrak{q} = \mathfrak{q}' である。

証明(定理 4.3)

p=q∩A\mathfrak{p} = \mathfrak{q} \cap A、S=A∖pS = A \setminus \mathfrak{p} とします。q\mathfrak{q} と q′\mathfrak{q}' は SS と交わらないので、定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の (3) により qBp⊆q′Bp\mathfrak{q}B_{\mathfrak{p}} \subseteq \mathfrak{q}'B_{\mathfrak{p}} は BpB_{\mathfrak{p}} の素イデアルで、b/s∈qBpb/s \in \mathfrak{q}B_{\mathfrak{p}} と b∈qb \in \mathfrak{q} は同値です。したがって ApA_{\mathfrak{p}} の元 a/sa/s が qBp\mathfrak{q}B_{\mathfrak{p}} に入ることは a∈q∩A=pa \in \mathfrak{q} \cap A = \mathfrak{p} と同値で、qBp∩Ap=pAp\mathfrak{q}B_{\mathfrak{p}} \cap A_{\mathfrak{p}} = \mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} です。q′\mathfrak{q}' についても同じです。pAp\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} は局所環 ApA_{\mathfrak{p}} の極大イデアルなので(命題 3.10[局所化と素イデアルのスペクトル])、系 4.2 を整拡大 Ap⊆BpA_{\mathfrak{p}} \subseteq B_{\mathfrak{p}} に当てると、qBp\mathfrak{q}B_{\mathfrak{p}} と q′Bp\mathfrak{q}'B_{\mathfrak{p}} はともに極大イデアルです。極大イデアルの間の包含は等号なので qBp=q′Bp\mathfrak{q}B_{\mathfrak{p}} = \mathfrak{q}'B_{\mathfrak{p}} で、定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の (4) の全単射性から q=q′\mathfrak{q} = \mathfrak{q}' です。

定理 4.4(横たわり定理)✓

A⊆BA \subseteq B を整拡大、p\mathfrak{p} を AA の素イデアルとする。このとき q∩A=p\mathfrak{q} \cap A = \mathfrak{p} を満たす BB の素イデアル q\mathfrak{q} が存在する。

証明(定理 4.4)

Ap⊆BpA_{\mathfrak{p}} \subseteq B_{\mathfrak{p}} は整拡大で、Ap≠0A_{\mathfrak{p}} \ne 0 を含むので Bp≠0B_{\mathfrak{p}} \ne 0 です。極大イデアルの存在定理(定理 6.5[選択公理と Zorn の補題])により BpB_{\mathfrak{p}} の極大イデアル n\mathfrak{n} を取ります。系 4.2 により n∩Ap\mathfrak{n} \cap A_{\mathfrak{p}} は局所環 ApA_{\mathfrak{p}} の極大イデアルなので pAp\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} です。q\mathfrak{q} を n\mathfrak{n} の BB への引き戻しとすると q\mathfrak{q} は素イデアルで(補題 2.4[局所化と素イデアルのスペクトル])、図式

A⟶B↓↓Ap⟶Bp\begin{matrix} A & \longrightarrow & B \\ \downarrow & & \downarrow \\ A_{\mathfrak{p}} & \longrightarrow & B_{\mathfrak{p}} \end{matrix}

は可換なので、q∩A\mathfrak{q} \cap A は n∩Ap=pAp\mathfrak{n} \cap A_{\mathfrak{p}} = \mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}} の AA への引き戻し、すなわち p\mathfrak{p} です(定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の (3))。

A=ZA = \mathbb{Z}、BB を代数体の整数環とすれば、各素数 pp について pp の「上にある」素イデアルが存在することになります。整性を外すと横たわりは壊れます。Z⊆Q\mathbb{Z} \subseteq \mathbb{Q} では、Q\mathbb{Q} の素イデアルは 00 だけなので、(p)(p) の上には何もありません。

系 4.5(整拡大のスペクトルの写像は全射な閉写像)✓

A⊆BA \subseteq B を整拡大、ι ⁣:A→B\iota \colon A \to B を包含写像とする。BB の任意のイデアル b\mathfrak{b} について ι∗(V(b))=V(b∩A)\iota^{*}(V(\mathfrak{b})) = V(\mathfrak{b} \cap A) である。とくに ι∗ ⁣:Spec⁡B→Spec⁡A\iota^{*} \colon \operatorname{Spec} B \to \operatorname{Spec} A は全射な閉写像である。

証明(系 4.5)

q⊇b\mathfrak{q} \supseteq \mathfrak{b} なら q∩A⊇b∩A\mathfrak{q} \cap A \supseteq \mathfrak{b} \cap A なので ⊆\subseteq は明らかです。逆に p⊇a:=b∩A\mathfrak{p} \supseteq \mathfrak{a} := \mathfrak{b} \cap A を素イデアルとします。命題 2.5 の (1) により A/a⊆B/bA/\mathfrak{a} \subseteq B/\mathfrak{b} は整拡大で、p/a\mathfrak{p}/\mathfrak{a} は A/aA/\mathfrak{a} の素イデアルです(補題 2.5[局所化と素イデアルのスペクトル])。定理 4.4 により B/bB/\mathfrak{b} の素イデアル qˉ\bar{\mathfrak{q}} で qˉ∩(A/a)=p/a\bar{\mathfrak{q}} \cap (A/\mathfrak{a}) = \mathfrak{p}/\mathfrak{a} となるものがあり、その BB への引き戻し q\mathfrak{q} は b\mathfrak{b} を含む素イデアルです。a∈Aa \in A について、a∈qa \in \mathfrak{q} と aˉ∈qˉ\bar a \in \bar{\mathfrak{q}} と aˉ∈p/a\bar a \in \mathfrak{p}/\mathfrak{a} と a∈pa \in \mathfrak{p}(p⊇a\mathfrak{p} \supseteq \mathfrak{a} による)は同値なので、q∩A=p\mathfrak{q} \cap A = \mathfrak{p} です。

Spec⁡B\operatorname{Spec} B の閉集合は V(b)V(\mathfrak{b}) の形なので(補題 4.2[局所化と素イデアルのスペクトル] の (1))、その像 V(b∩A)V(\mathfrak{b} \cap A) は閉集合です。b=0\mathfrak{b} = 0 とすれば全射性を得ます。

定理 4.6(上昇定理)✓

A⊆BA \subseteq B を整拡大とし、p1⊆p2⊆⋯⊆pn\mathfrak{p}_1 \subseteq \mathfrak{p}_2 \subseteq \cdots \subseteq \mathfrak{p}_n を AA の素イデアルの列、q1⊆⋯⊆qm\mathfrak{q}_1 \subseteq \cdots \subseteq \mathfrak{q}_m(1≤m<n1 \le m < n)を BB の素イデアルの列で qi∩A=pi\mathfrak{q}_i \cap A = \mathfrak{p}_i(1≤i≤m1 \le i \le m)を満たすものとする。このとき BB の素イデアルの列 qm⊆qm+1⊆⋯⊆qn\mathfrak{q}_m \subseteq \mathfrak{q}_{m+1} \subseteq \cdots \subseteq \mathfrak{q}_n で qi∩A=pi\mathfrak{q}_i \cap A = \mathfrak{p}_i(m<i≤nm < i \le n)を満たすものが存在する。

証明(定理 4.6)

帰納法により n=2n = 2、m=1m = 1 の場合を示せば十分です。q1∩A=p1\mathfrak{q}_1 \cap A = \mathfrak{p}_1 なので、命題 2.5 の (1) により A/p1⊆B/q1A/\mathfrak{p}_1 \subseteq B/\mathfrak{q}_1 は整拡大です。p2/p1\mathfrak{p}_2/\mathfrak{p}_1 は A/p1A/\mathfrak{p}_1 の素イデアルなので、定理 4.4 により B/q1B/\mathfrak{q}_1 の素イデアル qˉ\bar{\mathfrak{q}} でその上にあるものがあります。qˉ\bar{\mathfrak{q}} の BB への引き戻しを q2\mathfrak{q}_2 とすると、q2⊇q1\mathfrak{q}_2 \supseteq \mathfrak{q}_1 は素イデアルで、系 4.5 の証明と同じ計算で q2∩A=p2\mathfrak{q}_2 \cap A = \mathfrak{p}_2 です。

p₁⊂p₂q₁⊂q₂(存在)p′⊂pq′(存在)⊂q上昇定理下降定理Spec ASpec BSpec ASpec B
上昇定理(左)と下降定理(右)。下の段が Spec A、上の段が Spec B。黒丸は与えられた素イデアル、白丸は定理が存在を保証する素イデアル。上昇は整拡大ならいつでも、下降は A が整閉整域で B が整域のとき、または A → B が平坦なときに成り立つ

上昇定理は「上の素イデアルを大きくする」方向の持ち上げでした。逆向きの「小さくする」方向の持ち上げは、整性だけでは成り立ちません(例 5.5)。AA が整閉整域であることを仮定し、整な元の最小多項式を調べます。下降定理の証明の核心は「整閉整域上で整な元の最小多項式は、係数がもとの環に入る」ことで、この節の前半(イデアル上整、およびその最小多項式の係数についての命題)はそのための準備です。

定義 5.1(イデアル上整)↗

A⊆BA \subseteq B を部分環、a\mathfrak{a} を AA のイデアルとする。x∈Bx \in B が a\mathfrak{a} 上整であるとは、n≥1n \ge 1 と a1,…,an∈aa_1, \ldots, a_n \in \mathfrak{a} があって xn+a1xn−1+⋯+an=0x^n + a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n = 0 となることをいう。

補題 5.2(イデアル上整な元の全体)✓

A⊆BA \subseteq B を部分環、CC を BB における AA の整閉包、a\mathfrak{a} を AA のイデアルとする。a\mathfrak{a} 上整な BB の元全体は、CC のイデアル aC\mathfrak{a}C の根基 aC\sqrt{\mathfrak{a}C}(CC の中での根基)に等しい。とくにそれは CC のイデアルである。

証明(補題 5.2)

xx が a\mathfrak{a} 上整なら、xx は AA 上整なので x∈Cx \in C で、xn=−(a1xn−1+⋯+an)∈aCx^n = -(a_1 x^{n-1} + \cdots + a_n) \in \mathfrak{a}C なので x∈aCx \in \sqrt{\mathfrak{a}C} です。

逆に x∈aCx \in \sqrt{\mathfrak{a}C} とし、xn=∑i=1raicix^n = \sum_{i=1}^{r} a_i c_i(ai∈aa_i \in \mathfrak{a}、ci∈Cc_i \in C)と書きます。M=A[c1,…,cr]M = A[c_1, \ldots, c_r] は 系 2.4 の (2) により有限生成 AA 加群で、ciM⊆Mc_i M \subseteq M なので xnM⊆aMx^n M \subseteq \mathfrak{a}M です。行列式のトリック(定理 3.3[加群・完全列・中山の補題])を xnx^n 倍の写像とイデアル a\mathfrak{a} に当てると、dj∈aj⊆ad_j \in \mathfrak{a}^j \subseteq \mathfrak{a} があって ((xn)m+d1(xn)m−1+⋯+dm)M=0\bigl((x^n)^m + d_1 (x^n)^{m-1} + \cdots + d_m\bigr) M = 0 で、1∈M1 \in M なので

xnm+d1xn(m−1)+⋯+dm−1xn+dm=0x^{nm} + d_1 x^{n(m-1)} + \cdots + d_{m-1}x^n + d_m = 0

です。これは xx の次数 nmnm のモニックな式で、現れない次数の係数を 0∈a0 \in \mathfrak{a} とみれば係数はすべて a\mathfrak{a} に入ります。よって xx は a\mathfrak{a} 上整です。最後の主張は 補題 2.3[局所化と素イデアルのスペクトル] によります。

次の命題の方針は、最小多項式の根(共役)を全部集めた分解体で考えることです。係数は根の基本対称式(根の積の和)なので、整な元の和と積がまた整であること(系 2.4 の (3))から、係数もまた整になります。

命題 5.3(整閉整域上の最小多項式)✓

AA を整閉整域、K=Frac⁡AK = \operatorname{Frac} A、LL を KK を含む体、a\mathfrak{a} を AA のイデアルとする。x∈Lx \in L が a\mathfrak{a} 上整なら、xx は KK 上代数的で、その KK 上の最小多項式 f(t)=tn+c1tn−1+⋯+cnf(t) = t^n + c_1 t^{n-1} + \cdots + c_n の係数はすべて a\sqrt{\mathfrak{a}} に入る。とくに(a=A\mathfrak{a} = A として)AA 上整な元の最小多項式は A[t]A[t] に属する。

証明(命題 5.3)

xx の整従属の式を g(x)=0g(x) = 0(g∈A[t]g \in A[t] はモニックで係数は a\mathfrak{a} に入る)とします。g≠0g \ne 0 なので xx は KK 上代数的で、最小多項式 ff は代入 K[t]→LK[t] \to L の核の生成元なので f∣gf \mid g です(命題 6.2[多項式環と体の拡大])。ff の LL 上の分解体 NN を取り(定理 6.6[多項式環と体の拡大])、N[t]N[t] で f=(t−x1)⋯(t−xn)f = (t - x_1)\cdots(t - x_n) と書きます。各 xix_i は ff の根なので gg の根でもあり、a\mathfrak{a} 上整です。

C′C' を NN における AA の整閉包とすると、補題 5.2 により a\mathfrak{a} 上整な NN の元全体 aC′\sqrt{\mathfrak{a}C'} は C′C' のイデアルです。ff の係数 ckc_k は x1,…,xnx_1, \ldots, x_n の基本対称式の ±1\pm 1 倍、すなわち xix_i たちの積の和なので、このイデアルに入り、a\mathfrak{a} 上整です。ck∈Kc_k \in K はとくに AA 上整で、AA は整閉なので ck∈Ac_k \in A です。さらに ckc_k が満たす a\mathfrak{a} 係数の整従属の式は KK の中の等式なので、補題 5.2 を A⊆KA \subseteq K(KK における AA の整閉包は AA 自身)に当てて、ck∈aA=ac_k \in \sqrt{\mathfrak{a}A} = \sqrt{\mathfrak{a}} を得ます。

証明の中の x1,…,xnx_1, \ldots, x_n が xx の共役です。A=ZA = \mathbb{Z} の場合、この命題は「代数的整数の最小多項式は整数係数」という主張になります。整閉性は本質的で、A=k[t2,t3]A = k[t^2, t^3](例 3.4)では tt は AA 上整ですが、Frac⁡A=k(t)\operatorname{Frac} A = k(t) 上の最小多項式は T−tT - t で、係数 tt は AA に入りません。

定理 5.4(下降定理)✓

A⊆BA \subseteq B を整拡大とし、AA は整閉整域、BB は整域であるとする。p1⊇p2⊇⋯⊇pn\mathfrak{p}_1 \supseteq \mathfrak{p}_2 \supseteq \cdots \supseteq \mathfrak{p}_n を AA の素イデアルの列、q1⊇⋯⊇qm\mathfrak{q}_1 \supseteq \cdots \supseteq \mathfrak{q}_m(1≤m<n1 \le m < n)を BB の素イデアルの列で qi∩A=pi\mathfrak{q}_i \cap A = \mathfrak{p}_i(1≤i≤m1 \le i \le m)を満たすものとする。このとき BB の素イデアルの列 qm⊇qm+1⊇⋯⊇qn\mathfrak{q}_m \supseteq \mathfrak{q}_{m+1} \supseteq \cdots \supseteq \mathfrak{q}_n で qi∩A=pi\mathfrak{q}_i \cap A = \mathfrak{p}_i(m<i≤nm < i \le n)を満たすものが存在する。

証明の方針です。段階 1 で、AA の素イデアル p′\mathfrak{p}' から作ったイデアルが AA と再び p′\mathfrak{p}' で交わること(p′\mathfrak{p}' より余計な元を拾わないこと)を、最小多項式の係数が p′\mathfrak{p}' に入るという上の命題で示します。段階 2 では、そのイデアルを含む素イデアルを取って BB に引き戻し、求める q′\mathfrak{q}' を得ます。

証明(定理 5.4)

帰納法により、次を示せば十分です: q\mathfrak{q} を BB の素イデアル、p=q∩A\mathfrak{p} = \mathfrak{q} \cap A、p′⊆p\mathfrak{p}' \subseteq \mathfrak{p} を AA の素イデアルとすると、q′⊆q\mathfrak{q}' \subseteq \mathfrak{q} で q′∩A=p′\mathfrak{q}' \cap A = \mathfrak{p}' を満たす素イデアル q′\mathfrak{q}' がある。

BB の素イデアル q\mathfrak{q} での局所化 BqB_{\mathfrak{q}} と、合成 A→B→BqA \to B \to B_{\mathfrak{q}} を考えます。BB は整域なので B→BqB \to B_{\mathfrak{q}} は単射で(命題 3.5[局所化と素イデアルのスペクトル])、BqB_{\mathfrak{q}} の元 b/sb/s を Frac⁡B\operatorname{Frac} B の元とみなせます。BqB_{\mathfrak{q}} のイデアル b=p′Bq\mathfrak{b} = \mathfrak{p}'B_{\mathfrak{q}}(p′\mathfrak{p}' の像で生成されるイデアル)を考えます。

段階 1: b∩A=p′\mathfrak{b} \cap A = \mathfrak{p}'。 ⊇\supseteq は明らかです。x∈b∩Ax \in \mathfrak{b} \cap A とします。b\mathfrak{b} の元は分母をそろえると y/sy/s(y∈p′By \in \mathfrak{p}'B、s∈B∖qs \in B \setminus \mathfrak{q})と書けるので、x=y/sx = y/s、すなわち Frac⁡B\operatorname{Frac} B の中で y=xsy = xs です。BB は AA 上整なので BB における AA の整閉包は BB で、補題 5.2 により y∈p′B⊆p′By \in \mathfrak{p}'B \subseteq \sqrt{\mathfrak{p}'B} は p′\mathfrak{p}' 上整です。K=Frac⁡A⊆L=Frac⁡BK = \operatorname{Frac} A \subseteq L = \operatorname{Frac} B とします。命題 5.3 により、yy の KK 上の最小多項式

tr+u1tr−1+⋯+urt^r + u_1 t^{r-1} + \cdots + u_r

の係数は p′=p′\sqrt{\mathfrak{p}'} = \mathfrak{p}' に入ります(素イデアルは根基イデアル。系 2.7[局所化と素イデアルのスペクトル])。

x∉p′x \notin \mathfrak{p}' と仮定して矛盾を導きます。このとき x≠0x \ne 0 なので s=y/xs = y/x です。yy の最小多項式を xrx^r で割ると、ss は

tr+u1x tr−1+⋯+urxrt^r + \frac{u_1}{x}\,t^{r-1} + \cdots + \frac{u_r}{x^r}

の根です。ss がより低い次数の KK 係数多項式 hh の根なら、y=xsy = xs は h(t/x)h(t/x) の根となって yy の最小多項式の次数に反するので、これが ss の最小多項式です。s∈Bs \in B は AA 上整なので、命題 5.3(a=A\mathfrak{a} = A)により vi=ui/xi∈Av_i = u_i/x^i \in A です。xivi=ui∈p′x^i v_i = u_i \in \mathfrak{p}' で xi∉p′x^i \notin \mathfrak{p}' なので vi∈p′v_i \in \mathfrak{p}' です。すると

sr=−(v1sr−1+⋯+vr)∈p′B⊆pB⊆qs^r = -(v_1 s^{r-1} + \cdots + v_r) \in \mathfrak{p}'B \subseteq \mathfrak{p}B \subseteq \mathfrak{q}

で、q\mathfrak{q} は素イデアルなので s∈qs \in \mathfrak{q} となり、s∈B∖qs \in B \setminus \mathfrak{q} に反します。よって x∈p′x \in \mathfrak{p}' です。

段階 2: q′\mathfrak{q}' の構成。 TT を A∖p′A \setminus \mathfrak{p}' の BqB_{\mathfrak{q}} での像とします。TT は積閉集合で、段階 1 により T∩b=∅T \cap \mathfrak{b} = \varnothing です。定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の (1) により T−1bT^{-1}\mathfrak{b} は T−1BqT^{-1}B_{\mathfrak{q}} の真のイデアルなので、それを含む極大イデアル n\mathfrak{n} があります(定理 6.5[選択公理と Zorn の補題])。n\mathfrak{n} の BqB_{\mathfrak{q}} への引き戻しを QQ とすると、QQ は b\mathfrak{b} を含む素イデアルで、TT の元は T−1BqT^{-1}B_{\mathfrak{q}} で単元なので Q∩T=∅Q \cap T = \varnothing です。したがって AA への引き戻しについて p′⊆Q∩A\mathfrak{p}' \subseteq Q \cap A かつ (Q∩A)∩(A∖p′)=∅(Q \cap A) \cap (A \setminus \mathfrak{p}') = \varnothing、すなわち Q∩A=p′Q \cap A = \mathfrak{p}' です。最後に q′\mathfrak{q}' を QQ の BB への引き戻しとすると、定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の (4) により q′\mathfrak{q}' は B∖qB \setminus \mathfrak{q} と交わらない、すなわち q′⊆q\mathfrak{q}' \subseteq \mathfrak{q} を満たす素イデアルで、q′∩A=Q∩A=p′\mathfrak{q}' \cap A = Q \cap A = \mathfrak{p}' です。

段階 2 は、整性とも整閉性とも関係のない一般的な議論です。「AA の素イデアル p′\mathfrak{p}' が環 RR の素イデアルの引き戻しになるのは、p′R\mathfrak{p}'R の引き戻しが p′\mathfrak{p}' に等しいときに限る」という判定を、R=BqR = B_{\mathfrak{q}} に使っています。整閉性は段階 1 だけで使われています。

例 5.5(整閉でないと下降定理は壊れる)

kk を標数が 22 でない体、B=k[x,y]B = k[x, y]、A=k[x,xy,y2]⊆BA = k[x, xy, y^2] \subseteq B とします。AA は単項式 xa(xy)b(y2)c=xa+byb+2cx^{a}(xy)^{b}(y^2)^{c} = x^{a+b}y^{b+2c} で張られる kk 部分空間で、y=x0y1y = x^0y^1 はこの形に書けない(a+b=0a + b = 0 なら b=0b = 0 で yy の指数は偶数)ので y∉Ay \notin A です。一方 y2∈Ay^2 \in A なので B=A[y]B = A[y] は AA 上整で、y=(xy)/xy = (xy)/x なので Frac⁡A=Frac⁡B=k(x,y)\operatorname{Frac} A = \operatorname{Frac} B = k(x, y) です。とくに AA は整閉ではありません。

q=(x,y−1)B\mathfrak{q} = (x, y - 1)B とします。B/q≅kB/\mathfrak{q} \cong k(点 (0,1)(0, 1) での値)なので q\mathfrak{q} は極大イデアルで、p=q∩A\mathfrak{p} = \mathfrak{q} \cap A とおきます。また p′=(y+1)B∩A\mathfrak{p}' = (y + 1)B \cap A とおくと、これは素イデアルです。f∈Af \in A は f(x,y)=g(x,xy,y2)f(x, y) = g(x, xy, y^2) と書けるので f(0,1)=g(0,0,1)=f(0,−1)f(0, 1) = g(0, 0, 1) = f(0, -1) です。f∈p′f \in \mathfrak{p}' なら f(0,−1)=0f(0, -1) = 0 なので f(0,1)=0f(0, 1) = 0、すなわち f∈qf \in \mathfrak{q} です。よって p′⊆p\mathfrak{p}' \subseteq \mathfrak{p} で、x∈p∖p′x \in \mathfrak{p} \setminus \mathfrak{p}' なので包含は真です。

q′⊆q\mathfrak{q}' \subseteq \mathfrak{q} で q′∩A=p′\mathfrak{q}' \cap A = \mathfrak{p}' となる素イデアル q′\mathfrak{q}' があったとします。x(y+1)=x+xyx(y + 1) = x + xy と (y−1)(y+1)=y2−1(y - 1)(y + 1) = y^2 - 1 は AA の元で (y+1)(y + 1) に入るので、p′⊆q′\mathfrak{p}' \subseteq \mathfrak{q}' に入ります。y+1∉q′y + 1 \notin \mathfrak{q}' なら、q′\mathfrak{q}' は素イデアルなので x,y−1∈q′x, y - 1 \in \mathfrak{q}' となり、q⊆q′\mathfrak{q} \subseteq \mathfrak{q}'、すなわち q′=q\mathfrak{q}' = \mathfrak{q} で q′∩A=p≠p′\mathfrak{q}' \cap A = \mathfrak{p} \ne \mathfrak{p}' となって矛盾です。よって y+1∈q′⊆qy + 1 \in \mathfrak{q}' \subseteq \mathfrak{q} で、y−1∈qy - 1 \in \mathfrak{q} と合わせて 2∈q2 \in \mathfrak{q} となりますが、22 は kk の単元なので矛盾です。したがって下降定理の結論は成り立ちません。

幾何学的には、(x,y)↦(x,xy,y2)(x, y) \mapsto (x, xy, y^2) は平面を「Whitney の傘」と呼ばれる曲面 {(a,b,c):b2=a2c}\{(a, b, c) : b^2 = a^2 c\} に写し、直線 x=0x = 0 上の 2 点 (0,1)(0, 1) と (0,−1)(0, -1) を同じ点 (0,0,1)(0, 0, 1) に貼り合わせます。p′\mathfrak{p}' は直線 y=−1y = -1 の像((0,−1)(0, -1) を通る曲線)で、その上にある BB の素イデアルは (0,1)(0, 1) を通りません。

整閉性の代わりに平坦性を仮定しても下降定理が成り立ちます。平坦性は「ファイバーの次元が一定」という幾何学的な条件の代数的な表現で、局所化や多項式環への拡大などで自然に現れます。

定理 5.6(平坦拡大の下降定理)✓

φ ⁣:A→B\varphi \colon A \to B を平坦な環準同型、q\mathfrak{q} を BB の素イデアル、p=φ−1(q)\mathfrak{p} = \varphi^{-1}(\mathfrak{q})、p′⊆p\mathfrak{p}' \subseteq \mathfrak{p} を AA の素イデアルとする。このとき q′⊆q\mathfrak{q}' \subseteq \mathfrak{q} で φ−1(q′)=p′\varphi^{-1}(\mathfrak{q}') = \mathfrak{p}' を満たす BB の素イデアル q′\mathfrak{q}' が存在する。

証明(定理 5.6)

s∈A∖ps \in A \setminus \mathfrak{p} なら φ(s)∉q\varphi(s) \notin \mathfrak{q} なので、局所化の普遍性(定理 3.4[局所化と素イデアルのスペクトル])により ψ ⁣:Ap→Bq\psi \colon A_{\mathfrak{p}} \to B_{\mathfrak{q}}、a/s↦φ(a)/φ(s)a/s \mapsto \varphi(a)/\varphi(s) が定まり、ψ(pAp)⊆qBq\psi(\mathfrak{p}A_{\mathfrak{p}}) \subseteq \mathfrak{q}B_{\mathfrak{q}} なので ψ\psi は局所環の局所準同型です(命題 3.10[局所化と素イデアルのスペクトル])。

BqB_{\mathfrak{q}} は ApA_{\mathfrak{p}} 上平坦。 BqB_{\mathfrak{q}} は BB 上平坦で(命題 4.4[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (2))、BB は AA 上平坦なので、同じ命題の (4) により BqB_{\mathfrak{q}} は AA 上平坦です。NN を ApA_{\mathfrak{p}} 加群とすると、S=A∖pS = A \setminus \mathfrak{p} の元は NN に可逆に作用するので N→S−1NN \to S^{-1}N、n↦n/1n \mapsto n/1 は同型(逆は n/s↦s−1nn/s \mapsto s^{-1}n)で、命題 2.3[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (6) と 命題 2.5[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (2) から、NN について自然な同型

Bq⊗ApN≅Bq⊗Ap(Ap⊗AN)≅Bq⊗ANB_{\mathfrak{q}} \otimes_{A_{\mathfrak{p}}} N \cong B_{\mathfrak{q}} \otimes_{A_{\mathfrak{p}}} (A_{\mathfrak{p}} \otimes_A N) \cong B_{\mathfrak{q}} \otimes_A N

があります。ApA_{\mathfrak{p}} 加群の単射 N′→NN' \to N は AA 加群の単射でもあるので、Bq⊗AN′→Bq⊗ANB_{\mathfrak{q}} \otimes_A N' \to B_{\mathfrak{q}} \otimes_A N は単射で、したがって Bq⊗ApN′→Bq⊗ApNB_{\mathfrak{q}} \otimes_{A_{\mathfrak{p}}} N' \to B_{\mathfrak{q}} \otimes_{A_{\mathfrak{p}}} N も単射です。

結論。 系 6.3[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (1) により ψ\psi は忠実平坦で、同じ系の (2) により ψ∗ ⁣:Spec⁡Bq→Spec⁡Ap\psi^{*} \colon \operatorname{Spec} B_{\mathfrak{q}} \to \operatorname{Spec} A_{\mathfrak{p}} は全射です。p′⊆p\mathfrak{p}' \subseteq \mathfrak{p} なので p′Ap\mathfrak{p}'A_{\mathfrak{p}} は ApA_{\mathfrak{p}} の素イデアルで(定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル])、ψ−1(Q)=p′Ap\psi^{-1}(Q) = \mathfrak{p}'A_{\mathfrak{p}} となる Q∈Spec⁡BqQ \in \operatorname{Spec} B_{\mathfrak{q}} があります。q′\mathfrak{q}' を QQ の BB への引き戻しとすると、定理 3.6[局所化と素イデアルのスペクトル] の (4) により q′⊆q\mathfrak{q}' \subseteq \mathfrak{q} で、図式 A→B→BqA \to B \to B_{\mathfrak{q}} と A→Ap→BqA \to A_{\mathfrak{p}} \to B_{\mathfrak{q}} の可換性から φ−1(q′)\varphi^{-1}(\mathfrak{q}') は p′Ap\mathfrak{p}'A_{\mathfrak{p}} の AA への引き戻し、すなわち p′\mathfrak{p}' です。

たとえば A→A[x]A \to A[x] は自由加群なので平坦で(命題 4.4[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (1))、下降定理が成り立ちます。これは Krull 次元と単項イデアル定理 の章で dim⁡A[x]\dim A[x] を調べるときに使えます。

演習 6.1標準

kk を標数が 22 でない体とし、A=k[x,y]/(y2−x2(x+1))A = k[x, y]/(y^2 - x^2(x + 1)) とします。AA が整域で、その正規化が k[t]k[t](t=y/xt = y/x)であることを示し、AA が整閉でないことを確かめてください。

解答

k[x,y]k[x, y] の元は y2−x2(x+1)y^2 - x^2(x+1) で割って f(x)+y g(x)f(x) + y\,g(x) と一意に書けます。代入 x↦t2−1x \mapsto t^2 - 1、y↦t(t2−1)y \mapsto t(t^2 - 1) は y2−x2(x+1)y^2 - x^2(x+1) を t2(t2−1)2−(t2−1)2t2=0t^2(t^2-1)^2 - (t^2-1)^2 t^2 = 0 に送り、f(x)+y g(x)f(x) + y\,g(x) を f(t2−1)+t(t2−1)g(t2−1)f(t^2 - 1) + t(t^2 - 1)g(t^2 - 1) に送ります。前者は tt の偶数次だけ、後者は奇数次だけを含むので、像が 00 なら f(t2−1)=0f(t^2-1) = 0 かつ (t2−1)g(t2−1)=0(t^2-1)g(t^2-1) = 0 で、t2−1t^2 - 1 は定数でないので f=g=0f = g = 0 です。よって A≅k[t2−1,t(t2−1)]⊆k[t]A \cong k[t^2 - 1, t(t^2 - 1)] \subseteq k[t] は整域です。t=t(t2−1)/(t2−1)t = t(t^2-1)/(t^2-1) なので Frac⁡A=k(t)\operatorname{Frac} A = k(t) で、t2=x+1∈At^2 = x + 1 \in A なので tt は AA 上整です。例 3.4 と同じく、k[t]=A[t]k[t] = A[t] は AA 上整で、UFD なので整閉(命題 3.3)、よって正規化は k[t]k[t] です。AA の像の元の奇数次の部分は t2−1t^2 - 1 で割り切れるので t∉At \notin A で、AA は整閉ではありません。幾何学的には、曲線 y2=x2(x+1)y^2 = x^2(x+1) は原点で自分自身と交わる(結節点)曲線で、正規化は t=±1t = \pm 1 の 2 点を原点に貼り合わせる写像です。

演習 6.2標準

整拡大 Z⊆Z[i]\mathbb{Z} \subseteq \mathbb{Z}[i] について、素数 p=2,3,5p = 2, 3, 5 の上にある Z[i]\mathbb{Z}[i] の素イデアルをすべて求めてください。それらがすべて極大イデアルであることを、この記事の定理から説明してください。

解答

Z[i]\mathbb{Z}[i] の素イデアル q\mathfrak{q} について、q∩Z=(p)\mathfrak{q} \cap \mathbb{Z} = (p) であることと q⊇pZ[i]\mathfrak{q} \supseteq p\mathbb{Z}[i] であることは同値です(後者なら q∩Z\mathfrak{q} \cap \mathbb{Z} は (p)(p) を含む素イデアルで Z\mathbb{Z} でないので (p)(p))。したがって pp の上の素イデアルは Z[i]/pZ[i]≅Fp[t]/(t2+1)\mathbb{Z}[i]/p\mathbb{Z}[i] \cong \mathbb{F}_p[t]/(t^2 + 1) の素イデアルと対応します(補題 2.5[局所化と素イデアルのスペクトル])。p=2p = 2 では t2+1=(t+1)2t^2 + 1 = (t + 1)^2 なので素イデアルは (t+1)(t + 1) だけで、Z[i]\mathbb{Z}[i] では (2,1+i)=(1+i)(2, 1 + i) = (1 + i) です。p=3p = 3 では t2+1t^2 + 1 は F3\mathbb{F}_3 に根をもたず既約なので剰余環は体で、素イデアルは (3)(3) だけです。p=5p = 5 では t2+1=(t−2)(t+2)t^2 + 1 = (t - 2)(t + 2) なので素イデアルは (5,i−2)(5, i - 2) と (5,i+2)(5, i + 2) の 2 つです。(p)(p) は極大イデアルなので、系 4.2 によりその上の素イデアルはすべて極大です(比較不能性 定理 4.3 からも、同じ素数の上の素イデアルの間に包含がないことがわかります)。

演習 6.3易

体 kk について、A=k[x]⊆B=k[x,x−1]A = k[x] \subseteq B = k[x, x^{-1}] では、AA の素イデアル (x)(x) の上にある BB の素イデアルが存在しないことを示してください。また x−1x^{-1} が AA 上整でないことを直接確かめてください。

解答

q∩A=(x)\mathfrak{q} \cap A = (x) なら x∈qx \in \mathfrak{q} ですが、xx は BB の単元なので q=B\mathfrak{q} = B となり矛盾です。x−1x^{-1} が x−n+a1x−n+1+⋯+an=0x^{-n} + a_1 x^{-n+1} + \cdots + a_n = 0(ai∈k[x]a_i \in k[x])を満たすとすると、xnx^{n} を掛けて 1=−x(a1+a2x+⋯+anxn−1)1 = -x(a_1 + a_2 x + \cdots + a_n x^{n-1}) となり、右辺は xx で割り切れるので矛盾です。定理 4.4 の仮定(整性)が本質的であることがわかります。

  • M. F. Atiyah, I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969 — Chapter 5(整従属・上昇定理・下降定理)。§4〜§5 の証明の流れはこの本に近く、細部は独自に補っています。
  • H. Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1986 — §9(整拡大、平坦拡大の下降定理)。
  • 松村英之『可換環論』共立出版、1980 — 上の英訳の原著。整拡大の節。
  • D. Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry, Graduate Texts in Mathematics 150, Springer, 1995 — Chapter 4(整従属と正規化)。
  • I. Swanson, C. Huneke, Integral Closure of Ideals, Rings, and Modules, London Mathematical Society Lecture Note Series 336, Cambridge University Press, 2006 — Chapter 1〜2(イデアル上の整性と整閉包)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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