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加群・完全列・中山の補題:行列式のトリックと局所的性質

対象読者: 本テーマ第 1 章(局所化と Spec)の内容と、学部の線形代数(行列式・余因子行列)、PID 上の加群の構造定理を学んだ人。ホモロジー代数は仮定しません。

前提となる記事:局所化と素イデアルのスペクトル:根基・分数環・Zariski 位相、加群と PID 上の構造定理:アーベル群の分類とジョルダン標準形を一つの定理で、行列式とその性質:符号付き体積としての det

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ベクトル空間のスカラーを、割り算のできる体から、割り算ができるとは限らない環に広げたものが加群です。割り算が使えないと、基底を取ったり逆行列を作ったりという線形代数の定番の手が使えなくなります。この記事では、割り算を使わずに書ける行列式の公式だけを頼りに、生成元の個数が有限の加群について強い結論を引き出します。読み終えると、中山の補題がなぜ成り立つかと、完全列を使って加群を「各点で局所的に」調べる方法がわかります。

  • 可換環上の正方行列でも adj⁡(X) X=det⁡(X) E\operatorname{adj}(X)\,X = \det(X)\,E が成り立ちます。割り算を使わないライプニッツの公式から直接示せます。
  • この恒等式から行列式のトリックが出ます。nn 元で生成される加群 MM の自己準同型 φ\varphi が φ(M)⊆aM\varphi(M) \subseteq \mathfrak{a}M を満たせば、φ\varphi は係数が ai\mathfrak{a}^i に入るモニック多項式(最高次の係数が 11 の多項式)の根です。
  • その系が中山の補題です。有限生成加群 MM とJacobson 根基に含まれるイデアル a\mathfrak{a} について aM=M\mathfrak{a}M = M なら M=0M = 0 で、局所環では「剰余体上の基底を持ち上げると極小生成系になる」という形で使います。有限生成でなければ成り立ちません。
  • 蛇の補題は可換図式から長い完全列を作る基本の道具です。局所化は完全列を保ち(完全関手)、加群が 00 であること・写像の単射性や全射性は極大イデアルごとの局所化で判定できます。
  • 有限生成加群の台(局所化しても 00 にならない素イデアルの集まり)は V(Ann⁡M)V(\operatorname{Ann} M) に等しく、有限表示加群(有限個の生成元と有限個の関係式で書ける加群)では Hom⁡\operatorname{Hom} が局所化と交換します。

線形代数の議論の多くは、体上のベクトル空間に限らず可換環上の加群でも通用します。しかし二つの点で事情が変わります。一つは**基底がないことです。Z\mathbb{Z} 加群 Z/2\mathbb{Z}/2 には基底がなく、部分加群に補空間があるとも限りません。もう一つは割り算ができない**ことです。行列 XX の逆行列 adj⁡(X)/det⁡(X)\operatorname{adj}(X)/\det(X) は det⁡X\det X が単元でなければ作れません。

それでも残る道具があります。行列式は四則のうち割り算を使わずに定義でき、余因子行列との関係 adj⁡(X)X=det⁡(X)E\operatorname{adj}(X)X = \det(X)E も割り算を含みません。この恒等式を加群に作用させると、「φ(M)⊆aM\varphi(M) \subseteq \mathfrak{a}M なら φ\varphi はある多項式を満たす」という Cayley–Hamilton 型の主張が得られ、そこから中山の補題が出ます。中山の補題は「局所環上の有限生成加群は、剰余体に落として調べれば生成系がわかる」という原理で、次元論・完備化・正則局所環など、このテーマのあらゆる場所で使われます。

もう一つの柱は完全列です。加群の情報を短い完全列に分けて扱い、蛇の補題で長い完全列につなぎ、局所化でそれを保ったまま各点に持ち込みます。前章の局所化を加群に広げ、「局所的に調べれば大域的にわかる」性質を整理するのがこの章の後半です。

以下、環 AA はすべて単位元をもつ可換環で、加群は 加群の定義(定義 2.1)[加群と PID 上の構造定理] の意味の AA 加群です。

定義 2.1(部分加群・剰余加群・準同型)↗

M,NM, N を AA 加群とする。

  1. 加法部分群 N⊆MN \subseteq M が AN⊆NAN \subseteq N を満たすとき部分加群といい、剰余群 M/NM/N に a(m+N)=am+Na(m + N) = am + N で AA の作用を入れたものを剰余加群という。
  2. 写像 f ⁣:M→Nf\colon M \to N が f(m+m′)=f(m)+f(m′)f(m + m') = f(m) + f(m')、f(am)=af(m)f(am) = af(m) を満たすとき(AA 加群の)準同型という。ker⁡f\ker f、Im⁡f\operatorname{Im} f は部分加群で、Coker⁡f=N/Im⁡f\operatorname{Coker} f = N/\operatorname{Im} f を余核という。
  3. 準同型 M→NM \to N の全体 Hom⁡A(M,N)\operatorname{Hom}_A(M, N) は、(f+g)(m)=f(m)+g(m)(f + g)(m) = f(m) + g(m)、(af)(m)=af(m)(af)(m) = af(m) で AA 加群になる(AA の可換性により afaf も準同型)。

全射準同型 f ⁣:M→Nf\colon M \to N については 加群の準同型定理(定理 2.3)[加群と PID 上の構造定理] により M/ker⁡f≅NM/\ker f \cong N です。

定義 2.2(直和・直積・自由加群・有限生成・有限表示)↗

(Mi)i∈I(M_i)_{i \in I} を AA 加群の族とする。

  1. 直積 ∏iMi\prod_i M_i は成分ごとの演算による加群、直和 ⨁iMi\bigoplus_i M_i はその中で有限個を除き成分が 00 の元全体である。II が有限なら両者は一致する。
  2. A(I)=⨁i∈IAA^{(I)} = \bigoplus_{i \in I} A と同型な加群を自由加群という。eie_i を第 ii 成分だけが 11 の元とすると、A(I)A^{(I)} の各元は ∑iaiei\sum_i a_i e_i(有限和)と一意に書ける。(ei)(e_i) を基底という。
  3. MM が有限個の元 m1,…,mnm_1, \ldots, m_n で生成される(M=Am1+⋯+AmnM = Am_1 + \cdots + Am_n)とき有限生成という。これは全射 An→MA^n \to M があることと同値である。
  4. 完全列(下の 定義 2.3)Am→An→M→0A^m \to A^n \to M \to 0 が存在するとき、MM は有限表示であるという。

定義 2.3(完全列と分裂)↗

準同型の列 ⋯→Mi−1→fi−1Mi→fiMi+1→⋯\cdots \to M_{i-1} \xrightarrow{f_{i-1}} M_i \xrightarrow{f_i} M_{i+1} \to \cdots が MiM_i で完全であるとは Im⁡fi−1=ker⁡fi\operatorname{Im} f_{i-1} = \ker f_i となることをいい、各項で完全な列を完全列という。0→M′→fM→gM′′→00 \to M' \xrightarrow{f} M \xrightarrow{g} M'' \to 0 が完全なとき短完全列という(ff は単射、gg は全射、Im⁡f=ker⁡g\operatorname{Im} f = \ker g)。短完全列が分裂するとは、g∘s=idM′′g \circ s = \mathrm{id}_{M''} となる準同型 s ⁣:M′′→Ms\colon M'' \to M が存在することをいう。

定義 2.4(零化イデアルと台)↗

AA 加群 MM について、Ann⁡(M)={a∈A:aM=0}\operatorname{Ann}(M) = \{ a \in A : aM = 0 \} を MM の零化イデアルという。m∈Mm \in M について Ann⁡(m)={a:am=0}\operatorname{Ann}(m) = \{ a : am = 0 \} とする。MM の台を

Supp⁡(M)={p∈Spec⁡A:Mp≠0}\operatorname{Supp}(M) = \{ \mathfrak{p} \in \operatorname{Spec} A : M_{\mathfrak{p}} \ne 0 \}

で定める。ここで MpM_{\mathfrak{p}} は下の 定義 5.1 の局所化である。

補題 2.5(自由加群からの持ち上げ)✓

FF を基底 (ei)i∈I(e_i)_{i \in I} をもつ自由加群とする。

  1. 任意の加群 MM と元の族 (mi)i∈I(m_i)_{i \in I} に対し、ψ(ei)=mi\psi(e_i) = m_i を満たす準同型 ψ ⁣:F→M\psi\colon F \to M がただ一つ存在する。
  2. g ⁣:M→Ng\colon M \to N を全射、φ ⁣:F→N\varphi\colon F \to N を準同型とすると、g∘ψ=φg \circ \psi = \varphi を満たす準同型 ψ ⁣:F→M\psi\colon F \to M が存在する。
証明(補題 2.5)

(1) ψ(∑iaiei)=∑iaimi\psi\bigl(\sum_i a_i e_i\bigr) = \sum_i a_i m_i とおけば、表示の一意性から ψ\psi は定まり、準同型です。準同型は eie_i での値で決まるので一意です。(2) 各 ii について g(mi)=φ(ei)g(m_i) = \varphi(e_i) となる mi∈Mm_i \in M を選びます(II が無限のときは 選択公理(公理 3.1)[選択公理と Zorn の補題] を使います)。(1) の ψ\psi について gψ(ei)=φ(ei)g\psi(e_i) = \varphi(e_i) なので、(1) の一意性から g∘ψ=φg \circ \psi = \varphi です。

3. 行列式のトリックと中山の補題

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可換環 AA 上の nn 次正方行列 X=(xij)X = (x_{ij}) に対し、行列式 det⁡X\det X と余因子行列 adj⁡X\operatorname{adj} X を、体の場合と同じ式(ライプニッツの公式(定義 3.1)[行列式とその性質] と 余因子行列の定義(定義 5.1)[行列式とその性質])で定めます。どちらも成分の整数係数の多項式で、割り算を含みません。n=1n = 1 のときは adj⁡X=(1)\operatorname{adj} X = (1) とします。

補題 3.1(多項式環からの代入)✓

RR を可換環、BB を可換環、ψ ⁣:R→B\psi\colon R \to B を環準同型、b∈Bb \in B とする。∑irixi↦∑iψ(ri)bi\sum_i r_i x^i \mapsto \sum_i \psi(r_i) b^i は環準同型 R[x]→BR[x] \to B であり、xx を bb に写し RR 上では ψ\psi に一致するものはこれに限る。とくに、整数係数の NN 変数多項式環 Z[x1,…,xN]\mathbb{Z}[x_1, \ldots, x_N](Z\mathbb{Z} に変数を一つずつ添加した環)から可換環 BB への、xkx_k を与えられた bkb_k に写す環準同型がただ一つ存在する。

証明(補題 3.1)

和を保つことは明らかです。積は、多項式環の積の定義(定義 6.1)[環と体の基礎] (∑rixi)(∑sjxj)=∑k(∑i+j=krisj)xk\bigl(\sum r_i x^i\bigr)\bigl(\sum s_j x^j\bigr) = \sum_k \bigl(\sum_{i+j=k} r_i s_j\bigr)x^k の像が ∑k∑i+j=kψ(ri)ψ(sj)bi+j\sum_k \sum_{i+j=k}\psi(r_i)\psi(s_j) b^{i+j} で、BB の可換性によりこれは (∑ψ(ri)bi)(∑ψ(sj)bj)\bigl(\sum\psi(r_i)b^i\bigr)\bigl(\sum\psi(s_j)b^j\bigr) に等しいことからわかります。1↦11 \mapsto 1 も明らかです。一意性は、RR と xx が R[x]R[x] を環として生成することから従います。後半は、Z→B\mathbb{Z} \to B、n↦n⋅1n \mapsto n \cdot 1 から始めてこの構成を NN 回くり返せば得られます。

次の補題は、体の上でよく知られた余因子行列の恒等式を、割り算を使わずに可換環の上でも示すものです。証明はライプニッツの公式の項を並べ替えて符号を比べる計算で、長くなります。初めて読むときは主張だけを確認して先の行列式のトリックに進み、必要になってから戻る読み方でも構いません。

補題 3.2(可換環上の余因子行列の恒等式)✓

AA を可換環、X∈Mn(A)X \in M_n(A) とすると

adj⁡(X) X=X adj⁡(X)=det⁡(X) En\operatorname{adj}(X)\,X = X\,\operatorname{adj}(X) = \det(X)\,E_n

が成り立つ。また X,Y∈Mn(A)X, Y \in M_n(A) について det⁡(XY)=det⁡X⋅det⁡Y\det(XY) = \det X \cdot \det Y である。

証明(補題 3.2)

n=1n = 1 は adj⁡X=(1)\operatorname{adj} X = (1) と det⁡(XY)=x11y11\det(XY) = x_{11}y_{11} から明らかなので n≥2n \ge 2 とします。体の場合の証明も割り算を使いませんが、ここでは係数環によらない置換の符号の性質(補題 2.2[行列式とその性質])とライプニッツの公式だけから直接示します。X=(xij)X = (x_{ij})、XX の (i,j)(i, j) 余因子を x~ij=(−1)i+jdet⁡Xij\tilde x_{ij} = (-1)^{i+j}\det X_{ij}(XijX_{ij} は第 ii 行と第 jj 列を除いた小行列)と書きます。

(a) 二つの列が等しければ行列式は 00。 第 pp 列と第 qq 列(p≠qp \ne q)が等しいとし、τ=(p q)\tau = (p\ q) とします。σ↦στ\sigma \mapsto \sigma\tau は SnS_n の不動点のない対合なので、SnS_n は組 {σ,στ}\{\sigma, \sigma\tau\} に分かれます。列が等しいので xστ(p) p=xσ(q) p=xσ(q) qx_{\sigma\tau(p)\,p} = x_{\sigma(q)\,p} = x_{\sigma(q)\,q}、xστ(q) q=xσ(p) q=xσ(p) px_{\sigma\tau(q)\,q} = x_{\sigma(p)\,q} = x_{\sigma(p)\,p} で、∏jxστ(j) j=∏jxσ(j) j\prod_j x_{\sigma\tau(j)\,j} = \prod_j x_{\sigma(j)\,j} です。一方 補題 2.2[行列式とその性質] の (2)(3) より sgn⁡(στ)=−sgn⁡(σ)\operatorname{sgn}(\sigma\tau) = -\operatorname{sgn}(\sigma) です。よって各組の 2 項は c+(−c)=0c + (-c) = 0 と打ち消し合い、det⁡X=0\det X = 0 です(2=02 = 0 となる環でもこの議論は通ります)。

(b) 転置で不変。 det⁡XT=∑σsgn⁡(σ)∏jxj σ(j)\det X^{\mathsf{T}} = \sum_\sigma \operatorname{sgn}(\sigma)\prod_j x_{j\,\sigma(j)} で、i=σ(j)i = \sigma(j) と付け替えると積は ∏ixσ−1(i) i\prod_i x_{\sigma^{-1}(i)\,i} です。sgn⁡(σ−1)=sgn⁡(σ)\operatorname{sgn}(\sigma^{-1}) = \operatorname{sgn}(\sigma)(同じ補題の (2))なので、これは σ−1\sigma^{-1} についての和として det⁡X\det X に等しくなります。

(c) 列についての余因子展開 det⁡X=∑ixijx~ij\det X = \sum_i x_{ij}\tilde x_{ij}。 jj を固定し、ライプニッツの公式の項を σ(j)=i\sigma(j) = i の値で分類すると

det⁡X=∑i=1nxij∑σ(j)=isgn⁡(σ)∏k≠jxσ(k) k\det X = \sum_{i=1}^n x_{ij} \sum_{\sigma(j) = i} \operatorname{sgn}(\sigma) \prod_{k \ne j} x_{\sigma(k)\,k}

です。σ(j)=i\sigma(j) = i となる σ\sigma に、{1,…,n}∖{j}\{1, \ldots, n\} \setminus \{j\} と {1,…,n}∖{i}\{1, \ldots, n\} \setminus \{i\} をそれぞれ順序を保って {1,…,n−1}\{1, \ldots, n-1\} と同一視して得られる σ′∈Sn−1\sigma' \in S_{n-1} を対応させると、これは全単射で、∏k≠jxσ(k) k\prod_{k \ne j} x_{\sigma(k)\,k} は XijX_{ij} のライプニッツの公式の σ′\sigma' の項の積になります。転倒数を比べます。jj を含まない組の転倒は、順序を保つ同一視なので σ′\sigma' の転倒とちょうど対応します。jj を含む転倒は、k<jk < j で σ(k)>i\sigma(k) > i のものと、k>jk > j で σ(k)<i\sigma(k) < i のものです。前者の個数を aa とすると、k<jk < j で σ(k)<i\sigma(k) < i となる kk は (j−1)−a(j - 1) - a 個、σ(k)<i\sigma(k) < i となる k≠jk \ne j は全部で i−1i - 1 個なので、後者は (i−1)−(j−1−a)=i−j+a(i - 1) - (j - 1 - a) = i - j + a 個です。よって inv⁡(σ)=inv⁡(σ′)+2a+i−j\operatorname{inv}(\sigma) = \operatorname{inv}(\sigma') + 2a + i - j、sgn⁡(σ)=(−1)i+jsgn⁡(σ′)\operatorname{sgn}(\sigma) = (-1)^{i+j}\operatorname{sgn}(\sigma') で、内側の和は (−1)i+jdet⁡Xij=x~ij(-1)^{i+j}\det X_{ij} = \tilde x_{ij} です。

(d) adj⁡(X) X=det⁡(X) En\operatorname{adj}(X)\,X = \det(X)\,E_n。 (adj⁡(X)X)ik=∑jx~ji xjk(\operatorname{adj}(X)X)_{ik} = \sum_j \tilde x_{ji}\,x_{jk} です。XX の第 ii 列を第 kk 列で置き換えた行列を X′X' とすると、X′X' の (j,i)(j, i) 余因子は第 ii 列を除いて作るので x~ji\tilde x_{ji} に等しく、X′X' の (j,i)(j, i) 成分は xjkx_{jk} です。(c) を X′X' の第 ii 列に使うと (adj⁡(X)X)ik=det⁡X′(\operatorname{adj}(X)X)_{ik} = \det X' です。k=ik = i なら X′=XX' = X で値は det⁡X\det X、k≠ik \ne i なら X′X' の第 ii 列と第 kk 列が等しいので (a) より 00 です。

(e) Xadj⁡(X)=det⁡(X) EnX\operatorname{adj}(X) = \det(X)\,E_n。 (XT)ji=(Xij)T(X^{\mathsf{T}})_{ji} = (X_{ij})^{\mathsf{T}} と (b) から XTX^{\mathsf{T}} の (j,i)(j, i) 余因子は x~ij\tilde x_{ij} で、adj⁡(XT)=adj⁡(X)T\operatorname{adj}(X^{\mathsf{T}}) = \operatorname{adj}(X)^{\mathsf{T}} です。(d) を XTX^{\mathsf{T}} に使って転置すると(可換環上でも (YZ)T=ZTYT(YZ)^{\mathsf{T}} = Z^{\mathsf{T}}Y^{\mathsf{T}} です)、(b) とあわせて Xadj⁡(X)=(adj⁡(XT)XT)T=det⁡(XT)En=det⁡(X)EnX\operatorname{adj}(X) = \bigl(\operatorname{adj}(X^{\mathsf{T}})X^{\mathsf{T}}\bigr)^{\mathsf{T}} = \det(X^{\mathsf{T}})E_n = \det(X)E_n です。

(f) 積の公式。 Y=(yij)Y = (y_{ij}) とすると det⁡(XY)=∑σsgn⁡(σ)∏j∑kxσ(j) k ykj\det(XY) = \sum_\sigma \operatorname{sgn}(\sigma)\prod_j \sum_k x_{\sigma(j)\,k}\,y_{kj} です。積を展開して写像 f ⁣:{1,…,n}→{1,…,n}f\colon \{1, \ldots, n\} \to \{1, \ldots, n\} についての和に書き直すと

det⁡(XY)=∑f(∏jyf(j) j)∑σsgn⁡(σ)∏jxσ(j) f(j)\det(XY) = \sum_{f} \Bigl(\prod_j y_{f(j)\,j}\Bigr) \sum_{\sigma} \operatorname{sgn}(\sigma) \prod_j x_{\sigma(j)\,f(j)}

で、内側の和は第 jj 列が XX の第 f(j)f(j) 列である行列 XfX_f の行列式です。ff が単射でなければ XfX_f は等しい 2 列をもつので (a) より 00 です。f=τf = \tau が置換なら、m=τ(j)m = \tau(j) と付け替えて ∏jxσ(j) τ(j)=∏mxστ−1(m) m\prod_j x_{\sigma(j)\,\tau(j)} = \prod_m x_{\sigma\tau^{-1}(m)\,m}、sgn⁡(σ)=sgn⁡(στ−1)sgn⁡(τ)\operatorname{sgn}(\sigma) = \operatorname{sgn}(\sigma\tau^{-1})\operatorname{sgn}(\tau) なので、ρ=στ−1\rho = \sigma\tau^{-1} についての和として det⁡Xτ=sgn⁡(τ)det⁡X\det X_\tau = \operatorname{sgn}(\tau)\det X です。よって det⁡(XY)=det⁡X∑τsgn⁡(τ)∏jyτ(j) j=det⁡X⋅det⁡Y\det(XY) = \det X \sum_\tau \operatorname{sgn}(\tau)\prod_j y_{\tau(j)\,j} = \det X \cdot \det Y です。

体の場合の結果(命題 5.4[行列式とその性質])から環の場合を導く方法もあります。整数係数の多項式環 Z[uij]\mathbb{Z}[u_{ij}] 上の普遍行列 U=(uij)U = (u_{ij})(成分を文字のままにした行列)について商体の中で恒等式を得て、補題 3.1 の代入 uij↦xiju_{ij} \mapsto x_{ij} で特殊化する、という「普遍行列への帰着」です。多項式の恒等式を一度示せば任意の可換環で使える、という考え方はこのテーマでくり返し現れます。

次の定理の証明の方針を先に述べます。生成元 m1,…,mnm_1, \ldots, m_n を縦に並べたベクトルに、φ\varphi と係数 aija_{ij} から作った行列を掛けると 00 になります。この行列の成分は MM の元ではなく、MM に作用する φ\varphi やスカラー倍で、これらは互いに可換です。そこで余因子行列を左から掛けると、行列式が生成元をすべて 00 にすることがわかり、行列式が求める多項式になります。

定理 3.3(行列式のトリック)✓

MM を nn 個の元で生成される AA 加群、a\mathfrak{a} を AA のイデアル、φ ⁣:M→M\varphi\colon M \to M を φ(M)⊆aM\varphi(M) \subseteq \mathfrak{a}M を満たす準同型とする。このとき ci∈aic_i \in \mathfrak{a}^i(1≤i≤n1 \le i \le n)が存在して

φn+c1φn−1+⋯+cn−1φ+cn=0(End⁡A(M) の中で)\varphi^n + c_1 \varphi^{n-1} + \cdots + c_{n-1}\varphi + c_n = 0 \qquad (\operatorname{End}_A(M) \text{ の中で})

が成り立つ。

証明(定理 3.3)

生成元を m1,…,mnm_1, \ldots, m_n とします。φ(mi)∈aM\varphi(m_i) \in \mathfrak{a}M なので φ(mi)=∑jaijmj\varphi(m_i) = \sum_j a_{ij} m_j(aij∈aa_{ij} \in \mathfrak{a})と書けます。End⁡A(M)\operatorname{End}_A(M) の中で、AA の元によるスカラー倍と φ\varphi で生成される部分環を BB とします。φ\varphi は AA 線形なのでスカラー倍と可換で、BB は可換環です。

多項式環 A[t]A[t] で P(t)=det⁡(tEn−(aij))P(t) = \det(tE_n - (a_{ij})) を考えます。ライプニッツの公式の各項は nn 個の因子の積で、各因子は t−ajjt - a_{jj} か −ajk-a_{jk}(j≠kj \ne k)です。tt を n−in - i 個の因子から選ぶと、残りの ii 個の因子から a\mathfrak{a} の元が選ばれるので、P(t)=tn+c1tn−1+⋯+cnP(t) = t^n + c_1 t^{n-1} + \cdots + c_n、ci∈aic_i \in \mathfrak{a}^i と書けます。

補題 3.1 により、A→BA \to B(スカラー倍)を延長して t↦φt \mapsto \varphi となる環準同型 A[t]→BA[t] \to B があります。これで Δ=φEn−(aij)∈Mn(B)\Delta = \varphi E_n - (a_{ij}) \in M_n(B) の行列式は P(φ)P(\varphi) に写ります(行列式は成分の多項式だからです)。BB の元は MM に作用するので、Mn(B)M_n(B) は MnM^n に行列として作用し、列ベクトル m=(m1,…,mn)T\mathbf{m} = (m_1, \ldots, m_n)^{\mathsf{T}} について Δm=0\Delta\mathbf{m} = 0 です(第 ii 成分が φ(mi)−∑jaijmj=0\varphi(m_i) - \sum_j a_{ij}m_j = 0)。左から adj⁡(Δ)\operatorname{adj}(\Delta) を掛けると、可換環 BB 上の 補題 3.2 により det⁡(Δ) m=adj⁡(Δ)Δm=0\det(\Delta)\,\mathbf{m} = \operatorname{adj}(\Delta)\Delta\mathbf{m} = 0、すなわち P(φ)(mi)=0P(\varphi)(m_i) = 0 がすべての ii で成り立ちます。mim_i は MM を生成するので P(φ)=0P(\varphi) = 0 です。

A=KA = K が体、M=VM = V が nn 次元ベクトル空間、a=K\mathfrak{a} = K の場合、P(t)P(t) は φ\varphi の特性多項式で、これは ケーリー・ハミルトンの定理(系 7.3)[加群と PID 上の構造定理] の別証明になっています。次の系が中山の補題のすべての形の源です。

系 3.4(aM = M の帰結)✓

MM を有限生成 AA 加群、a\mathfrak{a} をイデアルとし、aM=M\mathfrak{a}M = M とする。このとき x≡1(moda)x \equiv 1 \pmod{\mathfrak{a}} となる x∈Ax \in A で xM=0xM = 0 を満たすものが存在する。

証明(系 3.4)

φ=idM\varphi = \mathrm{id}_M は φ(M)=M=aM\varphi(M) = M = \mathfrak{a}M を満たすので、定理 3.3 により (1+c1+⋯+cn) idM=0(1 + c_1 + \cdots + c_n)\,\mathrm{id}_M = 0(ci∈ai⊆ac_i \in \mathfrak{a}^i \subseteq \mathfrak{a})です。x=1+c1+⋯+cnx = 1 + c_1 + \cdots + c_n とおけばよいです。

中山の補題は、この系から、Jacobson 根基の元に 11 を足すと単元になるという性質を使って得られます。系で得た xx が単元なら、xM=0xM = 0 の両辺に x−1x^{-1} を掛けて M=0M = 0 とわかる、というのが (1) の筋道です。

定理 3.5(中山の補題)✓

MM を有限生成 AA 加群、a\mathfrak{a} を Jacobson 根基 Jac⁡(A)\operatorname{Jac}(A) に含まれるイデアルとする。

  1. aM=M\mathfrak{a}M = M ならば M=0M = 0 である。
  2. N⊆MN \subseteq M が部分加群で M=N+aMM = N + \mathfrak{a}M ならば M=NM = N である。
  3. (A,m,k)(A, \mathfrak{m}, k) が局所環で、m1,…,mn∈Mm_1, \ldots, m_n \in M の M/mMM/\mathfrak{m}M での像が kk ベクトル空間 M/mMM/\mathfrak{m}M を生成するならば、m1,…,mnm_1, \ldots, m_n は MM を生成する。
証明(定理 3.5)

(1) 系 3.4 の xx は x=1+ax = 1 + a(a∈a⊆Jac⁡(A)a \in \mathfrak{a} \subseteq \operatorname{Jac}(A))の形です。命題 2.8[局所化と素イデアルのスペクトル] を y=−1y = -1 で使うと 1+a1 + a は単元なので、M=x−1xM=0M = x^{-1}xM = 0 です。

(2) M/NM/N は有限生成で、a(M/N)=(aM+N)/N=M/N\mathfrak{a}(M/N) = (\mathfrak{a}M + N)/N = M/N です。(1) より M/N=0M/N = 0 です。

(3) N=Am1+⋯+AmnN = Am_1 + \cdots + Am_n とします。仮定は M=N+mMM = N + \mathfrak{m}M を意味し、局所環では Jac⁡(A)=m\operatorname{Jac}(A) = \mathfrak{m} なので、(2) より M=NM = N です。

系 3.6(極小生成系の個数)✓

(A,m,k)(A, \mathfrak{m}, k) を局所環、MM を有限生成 AA 加群とする。M/mMM/\mathfrak{m}M は有限次元 kk ベクトル空間であり、MM の生成系 m1,…,mnm_1, \ldots, m_n でどの真部分集合も MM を生成しないもの(極小生成系)について、像 mˉ1,…,mˉn\bar m_1, \ldots, \bar m_n は M/mMM/\mathfrak{m}M の基底をなす。とくに極小生成系の元の個数は dim⁡kM/mM\dim_k M/\mathfrak{m}M に等しく、生成系の取り方によらない。

証明(系 3.6)

m\mathfrak{m} は M/mMM/\mathfrak{m}M に 00 として作用するので、これは k=A/mk = A/\mathfrak{m} 上のベクトル空間で、MM の生成系の像が全体を張るので有限次元です。極小生成系の像が一次従属だとすると、ある mˉi\bar m_i が残りの一次結合になり、残りの n−1n - 1 個の像が M/mMM/\mathfrak{m}M を張ります。定理 3.5 の (3) によりそれらは MM を生成し、極小性に反します。よって mˉ1,…,mˉn\bar m_1, \ldots, \bar m_n は基底で、次元の一意性(定理 5.5)[ベクトル空間と線形変換] により n=dim⁡kM/mMn = \dim_k M/\mathfrak{m}M です。

次の定理では、φ\varphi を「変数 tt を掛ける操作」とみなして MM を多項式環 A[t]A[t] 上の加群と見直します。すると φ\varphi が全射であることは、イデアル (t)(t) について (t)M=M(t)M = M と言い換えられ、上の系がそのまま使えます。

定理 3.7(有限生成加群の全射自己準同型は同型)✓

MM を有限生成 AA 加群、φ ⁣:M→M\varphi\colon M \to M を全射準同型とする。このとき φ\varphi は単射であり、したがって同型である。

証明(定理 3.7)

補題 3.1 により A[t]→End⁡A(M)A[t] \to \operatorname{End}_A(M)、t↦φt \mapsto \varphi という環準同型があり、これで MM を A[t]A[t] 加群と見なします(t⋅m=φ(m)t \cdot m = \varphi(m))。AA 上の生成元はそのまま A[t]A[t] 上の生成元なので MM は A[t]A[t] 上有限生成です。イデアル a=(t)⊆A[t]\mathfrak{a} = (t) \subseteq A[t] について、φ\varphi が全射なので aM=φ(M)=M\mathfrak{a}M = \varphi(M) = M です。系 3.4 により、x≡1(mod(t))x \equiv 1 \pmod{(t)}、すなわち x=1+t g(t)x = 1 + t\,g(t)(g∈A[t]g \in A[t])で xM=0xM = 0 となるものがあります。m∈ker⁡φm \in \ker\varphi なら 0=xm=m+g(φ)(φ(m))=m0 = xm = m + g(\varphi)(\varphi(m)) = m です。

単射な自己準同型は全射とは限りません。Z→Z\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}、m↦2mm \mapsto 2m が反例です。また MM が有限生成でなければ全射でも単射とは限りません(演習 7.3)。

蛇の補題は、完全な 2 つの行の間に縦の準同型が並んでいるとき、縦の準同型の核を並べた列と余核を並べた列が、一つの写像 δ\delta で 1 本の長い完全列につながる、という主張です。δ\delta は、右上の核の元を vv で持ち上げ、縦の写像で下の行へ送り、u′u' で引き戻して余核の類を取る、という 3 手順で作ります。証明の中ほどの長い部分は、この δ\delta が well-defined であることの確認です。

補題 4.1(蛇の補題)✓

AA 加群の可換図式

M′→uM→vM′′→0↓f′↓f↓f′′0→N′→u′N→v′N′′\begin{matrix} & & M' & \xrightarrow{u} & M & \xrightarrow{v} & M'' & \to & 0 \\ & & \downarrow f' & & \downarrow f & & \downarrow f'' & & \\ 0 & \to & N' & \xrightarrow{u'} & N & \xrightarrow{v'} & N'' & & \end{matrix}

で、二つの行が完全であるとする(fu=u′f′f u = u' f'、f′′v=v′ff'' v = v' f)。このとき準同型 δ ⁣:ker⁡f′′→Coker⁡f′\delta\colon \ker f'' \to \operatorname{Coker} f' があって、列

ker⁡f′→ker⁡f→ker⁡f′′→δCoker⁡f′→Coker⁡f→Coker⁡f′′\ker f' \to \ker f \to \ker f'' \xrightarrow{\delta} \operatorname{Coker} f' \to \operatorname{Coker} f \to \operatorname{Coker} f''

は完全である。ここで δ\delta 以外の写像は u,v,u′,v′u, v, u', v' から誘導されるものである。さらに uu が単射なら ker⁡f′→ker⁡f\ker f' \to \ker f は単射であり、v′v' が全射なら Coker⁡f→Coker⁡f′′\operatorname{Coker} f \to \operatorname{Coker} f'' は全射である。

証明(補題 4.1)

誘導される写像。 fu=u′f′f u = u' f' から u(ker⁡f′)⊆ker⁡fu(\ker f') \subseteq \ker f、u′(Im⁡f′)⊆Im⁡fu'(\operatorname{Im} f') \subseteq \operatorname{Im} f なので、uu は ker⁡f′→ker⁡f\ker f' \to \ker f と uˉ′ ⁣:Coker⁡f′→Coker⁡f\bar u'\colon \operatorname{Coker} f' \to \operatorname{Coker} f を誘導します。v,v′v, v' についても同様です。以下 [y][y] で余核での類を表します。

δ\delta の定義。 x′′∈ker⁡f′′x'' \in \ker f'' とし、vv の全射性から v(x)=x′′v(x) = x'' となる x∈Mx \in M を取ります。v′(f(x))=f′′(v(x))=0v'(f(x)) = f''(v(x)) = 0 なので、下の行の完全性から f(x)=u′(y′)f(x) = u'(y') となる y′∈N′y' \in N' があり、u′u' の単射性から一意です。δ(x′′)=[y′]\delta(x'') = [y'] とおきます。別の x1x_1 を取ると x−x1∈ker⁡v=Im⁡ux - x_1 \in \ker v = \operatorname{Im} u で、x−x1=u(z′)x - x_1 = u(z') と書けば f(x)−f(x1)=fu(z′)=u′f′(z′)f(x) - f(x_1) = fu(z') = u'f'(z') なので、対応する y′y' の差は f′(z′)∈Im⁡f′f'(z') \in \operatorname{Im} f' です。よって δ\delta は well-defined です。x1,x2x_1, x_2 がそれぞれ x1′′,x2′′x_1'', x_2'' の持ち上げなら、x1+x2x_1 + x_2 と ax1ax_1(a∈Aa \in A)は x1′′+x2′′x_1'' + x_2'' と ax1′′ax_1'' の持ち上げで、対応する y′y' も y1′+y2′y_1' + y_2'、ay1′ay_1' になる(u′u' の単射性)ので、δ\delta は準同型です。

ker⁡f\ker f での完全性。 vu=0vu = 0 なので合成は 00 です。x∈ker⁡fx \in \ker f、v(x)=0v(x) = 0 なら x=u(x′)x = u(x') で、u′(f′(x′))=f(u(x′))=0u'(f'(x')) = f(u(x')) = 0、u′u' の単射性から f′(x′)=0f'(x') = 0 です。

ker⁡f′′\ker f'' での完全性。 x∈ker⁡fx \in \ker f で x′′=v(x)x'' = v(x) なら、δ\delta の定義で f(x)=0=u′(0)f(x) = 0 = u'(0) なので δ(x′′)=0\delta(x'') = 0 です。逆に δ(x′′)=0\delta(x'') = 0 なら y′=f′(z′)y' = f'(z') と書け、x−u(z′)x - u(z') は vv で x′′x'' に写り、f(x−u(z′))=u′(y′)−u′f′(z′)=0f(x - u(z')) = u'(y') - u'f'(z') = 0 です。

Coker⁡f′\operatorname{Coker} f' での完全性。 uˉ′(δ(x′′))=[u′(y′)]=[f(x)]=0\bar u'(\delta(x'')) = [u'(y')] = [f(x)] = 0 です。逆に uˉ′[y′]=0\bar u'[y'] = 0、すなわち u′(y′)=f(x)u'(y') = f(x) なら、f′′(v(x))=v′(f(x))=v′u′(y′)=0f''(v(x)) = v'(f(x)) = v'u'(y') = 0 なので x′′=v(x)∈ker⁡f′′x'' = v(x) \in \ker f'' で、δ(x′′)=[y′]\delta(x'') = [y'] です。

Coker⁡f\operatorname{Coker} f での完全性。 v′u′=0v'u' = 0 から合成は 00 です。[y]∈Coker⁡f[y] \in \operatorname{Coker} f が Coker⁡f′′\operatorname{Coker} f'' で 00 なら v′(y)=f′′(x′′)v'(y) = f''(x'') と書け、x′′=v(x)x'' = v(x) とすると v′(y)=f′′v(x)=v′f(x)v'(y) = f''v(x) = v'f(x) です。よって y−f(x)∈ker⁡v′=Im⁡u′y - f(x) \in \ker v' = \operatorname{Im} u'、y−f(x)=u′(y′)y - f(x) = u'(y') で、[y]=uˉ′[y′][y] = \bar u'[y'] です。

最後の主張: uu が単射ならその制限も単射です。v′v' が全射なら y′′=v′(y)y'' = v'(y) と書けるので [y′′]=vˉ′[y][y''] = \bar v'[y] です。

系 4.2(五項補題(加群))✓

AA 加群と準同型の可換図式で二つの行が完全な 5 項の列 M1→⋯→M5M_1 \to \cdots \to M_5、N1→⋯→N5N_1 \to \cdots \to N_5 と縦の準同型 αi ⁣:Mi→Ni\alpha_i\colon M_i \to N_i が与えられ、α1,α2,α4,α5\alpha_1, \alpha_2, \alpha_4, \alpha_5 が同型であるとする。このとき α3\alpha_3 は AA 加群の同型である。

証明(系 4.2)

加群をアーベル群と見れば、五項補題(補題 3.3)[特異ホモロジー] により α3\alpha_3 は群の同型、すなわち全単射です。α3\alpha_3 は AA 線形なので、逆写像も α3−1(ay)=α3−1(aα3(α3−1y))=α3−1α3(aα3−1y)=aα3−1(y)\alpha_3^{-1}(ay) = \alpha_3^{-1}(a\alpha_3(\alpha_3^{-1}y)) = \alpha_3^{-1}\alpha_3(a\alpha_3^{-1}y) = a\alpha_3^{-1}(y) により AA 線形です。

命題 4.3(Hom の左完全性)✓

  1. 0→M′→uM→vM′′0 \to M' \xrightarrow{u} M \xrightarrow{v} M'' が完全なら、任意の NN について 0→Hom⁡A(N,M′)→u∗Hom⁡A(N,M)→v∗Hom⁡A(N,M′′)0 \to \operatorname{Hom}_A(N, M') \xrightarrow{u_*} \operatorname{Hom}_A(N, M) \xrightarrow{v_*} \operatorname{Hom}_A(N, M'') は完全である。
  2. M′→uM→vM′′→0M' \xrightarrow{u} M \xrightarrow{v} M'' \to 0 が完全なら、任意の NN について 0→Hom⁡A(M′′,N)→v∗Hom⁡A(M,N)→u∗Hom⁡A(M′,N)0 \to \operatorname{Hom}_A(M'', N) \xrightarrow{v^*} \operatorname{Hom}_A(M, N) \xrightarrow{u^*} \operatorname{Hom}_A(M', N) は完全である。

ここで u∗(φ)=u∘φu_*(\varphi) = u \circ \varphi、u∗(ψ)=ψ∘uu^*(\psi) = \psi \circ u である。

証明(命題 4.3)

(1) uu が単射なので u∘φ=0u \circ \varphi = 0 なら φ=0\varphi = 0 です。vu=0vu = 0 から v∗u∗=0v_*u_* = 0 です。v∘φ=0v \circ \varphi = 0 なら φ(N)⊆ker⁡v=u(M′)\varphi(N) \subseteq \ker v = u(M') で、uu は M′M' から u(M′)u(M') への同型なので ψ=u−1∘φ ⁣:N→M′\psi = u^{-1} \circ \varphi\colon N \to M' は準同型で φ=u∘ψ\varphi = u \circ \psi です。

(2) vv が全射なので ψ∘v=0\psi \circ v = 0 なら ψ=0\psi = 0 です。vu=0vu = 0 から u∗v∗=0u^*v^* = 0 です。ψ∘u=0\psi \circ u = 0 なら ψ\psi は Im⁡u=ker⁡v\operatorname{Im} u = \ker v 上で 00 なので、ψˉ(v(x))=ψ(x)\bar\psi(v(x)) = \psi(x) が well-defined な準同型 M′′→NM'' \to N を与えます(v(x)=v(x1)v(x) = v(x_1) なら x−x1∈ker⁡vx - x_1 \in \ker v)。ψ=ψˉ∘v\psi = \bar\psi \circ v です。

右側の 00 は一般には付けられません。0→Z→2Z→Z/2→00 \to \mathbb{Z} \xrightarrow{2} \mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/2 \to 0 に Hom⁡Z(Z/2,−)\operatorname{Hom}_{\mathbb{Z}}(\mathbb{Z}/2, -) を施すと 0→0→0→Z/20 \to 0 \to 0 \to \mathbb{Z}/2 となり、最後の写像は全射ではありません。この「右側の欠け」を測るのが Tor・Ext と深さ の章の Ext⁡\operatorname{Ext} です。

命題 4.4(分裂の同値条件)✓

短完全列 0→M′→fM→gM′′→00 \to M' \xrightarrow{f} M \xrightarrow{g} M'' \to 0 について次は同値である。

  1. r∘f=idM′r \circ f = \mathrm{id}_{M'} となる準同型 r ⁣:M→M′r\colon M \to M' が存在する。
  2. g∘s=idM′′g \circ s = \mathrm{id}_{M''} となる準同型 s ⁣:M′′→Ms\colon M'' \to M が存在する(分裂する)。
  3. 同型 h ⁣:M→M′⊕M′′h\colon M \to M' \oplus M'' で、h∘fh \circ f が第 1 成分への包含、hh に続く第 2 成分への射影が gg になるものが存在する。

さらに M′′M'' が自由加群ならこれらが成り立つ。

証明(命題 4.4)

(1) ⇒ (3): h(x)=(r(x),g(x))h(x) = (r(x), g(x)) とします。h(x)=0h(x) = 0 なら x=f(x′)x = f(x') と書け、x′=rf(x′)=r(x)=0x' = rf(x') = r(x) = 0 です。(x′,x′′)(x', x'') が与えられたら、g(x)=x′′g(x) = x'' となる xx を取り、y=x+f(x′−r(x))y = x + f(x' - r(x)) とおくと r(y)=x′r(y) = x'、g(y)=x′′g(y) = x'' です。hf(x′)=(x′,0)hf(x') = (x', 0) も確かめられます。

(3) ⇒ (1)(2): rr を hh と第 1 成分への射影の合成、s(x′′)=h−1(0,x′′)s(x'') = h^{-1}(0, x'') とすればよいです。

(2) ⇒ (3): k(x′,x′′)=f(x′)+s(x′′)k(x', x'') = f(x') + s(x'') とします。k(x′,x′′)=0k(x', x'') = 0 に gg を施すと x′′=0x'' = 0、すると f(x′)=0f(x') = 0 から x′=0x' = 0 です。任意の xx について g(x−sg(x))=0g(x - sg(x)) = 0 なので x−sg(x)=f(x′)x - sg(x) = f(x') と書け、x=k(x′,g(x))x = k(x', g(x)) です。h=k−1h = k^{-1} が求める同型です。

M′′M'' が自由なら、補題 2.5 の (2) を全射 gg と idM′′\mathrm{id}_{M''} に使って ss が得られます。

例 4.5(体上ではいつも分裂する)

kk を体、0→V′→fV→gV′′→00 \to V' \xrightarrow{f} V \xrightarrow{g} V'' \to 0 を有限次元ベクトル空間の短完全列とします。補空間の存在(定理 5.3)[双対空間と商空間] により V=f(V′)⊕WV = f(V') \oplus W となる WW があり、W→V/f(V′)W \to V/f(V') は同型です。gg は 準同型定理(定理 2.3)[加群と PID 上の構造定理] により V/f(V′)=V/ker⁡g≅V′′V/f(V') = V/\ker g \cong V'' を誘導するので、g∣W ⁣:W→V′′g|_W\colon W \to V'' は同型で、s=(g∣W)−1s = (g|_W)^{-1} が分裂を与えます。一方 0→Z→2Z→Z/2→00 \to \mathbb{Z} \xrightarrow{2} \mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/2 \to 0 は分裂しません。Z\mathbb{Z} には位数 22 の元がないので、Z/2→Z\mathbb{Z}/2 \to \mathbb{Z} の準同型は 00 しかないからです。

定義 5.1(加群の局所化)↗

SS を AA の積閉集合、MM を AA 加群とする。M×SM \times S 上の関係 (m,s)∼(m′,s′)  ⟺  (m, s) \sim (m', s') \iff ある u∈Su \in S で u(s′m−sm′)=0u(s'm - sm') = 0 による同値類 m/sm/s の全体 S−1MS^{-1}M に、m/s+m′/s′=(s′m+sm′)/ss′m/s + m'/s' = (s'm + sm')/ss'、(a/t)(m/s)=am/ts(a/t)(m/s) = am/ts で S−1AS^{-1}A 加群の構造を入れたものを MM の局所化という。準同型 f ⁣:M→Nf\colon M \to N に対し S−1f(m/s)=f(m)/sS^{-1}f(m/s) = f(m)/s とする。ApA_{\mathfrak{p}}、AfA_f と同じく MpM_{\mathfrak{p}}、MfM_f と書く。

同値関係であること、演算と S−1fS^{-1}f が well-defined であることは、補題 3.3[局所化と素イデアルのスペクトル] の証明と同じ計算で確かめられます。要になる式だけ書いておきます。推移律は、u(s′m−sm′)=0u(s'm - sm') = 0、v(s′′m′−s′m′′)=0v(s''m' - s'm'') = 0 のとき

s′uv(s′′m−sm′′)=s′′v⋅u(s′m−sm′)+su⋅v(s′′m′−s′m′′)=0s'uv(s''m - sm'') = s''v \cdot u(s'm - sm') + su \cdot v(s''m' - s'm'') = 0

から従います。u(s′m−sm′)=0u(s'm - sm') = 0 なら、和については u(s′t(tm+sn)−st(tm′+s′n))=t2⋅u(s′m−sm′)=0u\bigl(s't(tm + sn) - st(tm' + s'n)\bigr) = t^2 \cdot u(s'm - sm') = 0、スカラー倍については u(ts′(am)−ts(am′))=ta⋅u(s′m−sm′)=0u\bigl(ts'(am) - ts(am')\bigr) = ta \cdot u(s'm - sm') = 0、S−1fS^{-1}f については u(s′f(m)−sf(m′))=f(u(s′m−sm′))=0u\bigl(s'f(m) - sf(m')\bigr) = f\bigl(u(s'm - sm')\bigr) = 0 です。a/ta/t の代表元の取り替え w(t′a−tb)=0w(t'a - tb) = 0 も w(t′s(am)−ts(bm))=s w(t′a−tb) m=0w\bigl(t's(am) - ts(bm)\bigr) = s\,w(t'a - tb)\,m = 0 で済みます。加群の公理は、通分すれば MM の中の等式に帰着します。また定義から、m/1=0m/1 = 0 は「ある u∈Su \in S で um=0um = 0」と同値です。

定理 5.2(局所化は完全)✓

M′→fM→gM′′M' \xrightarrow{f} M \xrightarrow{g} M'' が MM で完全なら、S−1M′→S−1fS−1M→S−1gS−1M′′S^{-1}M' \xrightarrow{S^{-1}f} S^{-1}M \xrightarrow{S^{-1}g} S^{-1}M'' も S−1MS^{-1}M で完全である。とくに、部分加群 N⊆MN \subseteq M について S−1N→S−1MS^{-1}N \to S^{-1}M は単射で S−1(M/N)≅S−1M/S−1NS^{-1}(M/N) \cong S^{-1}M/S^{-1}N であり、有限直和について S−1(M1⊕M2)≅S−1M1⊕S−1M2S^{-1}(M_1 \oplus M_2) \cong S^{-1}M_1 \oplus S^{-1}M_2 である。

証明(定理 5.2)

gf=0gf = 0 から S−1g∘S−1f=0S^{-1}g \circ S^{-1}f = 0 です。S−1g(m/s)=g(m)/s=0S^{-1}g(m/s) = g(m)/s = 0 とすると、ある u∈Su \in S で ug(m)=g(um)=0ug(m) = g(um) = 0 なので um=f(m′)um = f(m') と書け、m/s=um/us=S−1f(m′/us)m/s = um/us = S^{-1}f(m'/us) です。後半: 0→N→M→M/N→00 \to N \to M \to M/N \to 0 の各項で完全性を使うと、0→S−1N→S−1M→S−1(M/N)→00 \to S^{-1}N \to S^{-1}M \to S^{-1}(M/N) \to 0 が完全になります(00 の局所化は 00 です)。直和は (m1,m2)/s↦(m1/s,m2/s)(m_1, m_2)/s \mapsto (m_1/s, m_2/s) が同型であることを、通分して確かめればよいです。

定理 5.3(局所的性質)✓

AA 加群 MM と準同型 f ⁣:M→Nf\colon M \to N について次が成り立つ。

  1. M=0M = 0、すべての素イデアル p\mathfrak{p} で Mp=0M_{\mathfrak{p}} = 0、すべての極大イデアル m\mathfrak{m} で Mm=0M_{\mathfrak{m}} = 0、の三つは同値である。
  2. ff が単射(全射)であることと、すべての極大イデアル m\mathfrak{m} で fm ⁣:Mm→Nmf_{\mathfrak{m}}\colon M_{\mathfrak{m}} \to N_{\mathfrak{m}} が単射(全射)であることは同値である。
  3. 列 M′→M→M′′M' \to M \to M'' が MM で完全であることと、すべての極大イデアル m\mathfrak{m} でその局所化が完全であることは同値である。
証明(定理 5.3)

(1) 前から後ろへの含意は明らかです。最後の条件を仮定し、m∈Mm \in M を 00 でないとします。Ann⁡(m)\operatorname{Ann}(m) は 11 を含まない真のイデアルなので、極大イデアルの存在(定理 6.5)[選択公理と Zorn の補題] によりある極大イデアル m\mathfrak{m} に含まれます(m≠0m \ne 0 なら A≠0A \ne 0 です)。Mm=0M_{\mathfrak{m}} = 0 なので m/1=0m/1 = 0、すなわち u∉mu \notin \mathfrak{m} で um=0um = 0 となるものがありますが、これは u∈Ann⁡(m)⊆mu \in \operatorname{Ann}(m) \subseteq \mathfrak{m} に反します。

(2) 完全列 0→ker⁡f→M→N→Coker⁡f→00 \to \ker f \to M \to N \to \operatorname{Coker} f \to 0 に 定理 5.2 を使うと (ker⁡f)m=ker⁡(fm)(\ker f)_{\mathfrak{m}} = \ker(f_{\mathfrak{m}})、(Coker⁡f)m=Coker⁡(fm)(\operatorname{Coker} f)_{\mathfrak{m}} = \operatorname{Coker}(f_{\mathfrak{m}}) です。(1) を ker⁡f\ker f と Coker⁡f\operatorname{Coker} f に使えばよいです。

(3) 列を M′→aM→bM′′M' \xrightarrow{a} M \xrightarrow{b} M'' とします。完全性は Im⁡(ba)=0\operatorname{Im}(ba) = 0 と H=ker⁡b/Im⁡a=0H = \ker b/\operatorname{Im} a = 0 の二条件です。定理 5.2 から Im⁡(ba)m=Im⁡(bmam)\operatorname{Im}(ba)_{\mathfrak{m}} = \operatorname{Im}(b_{\mathfrak{m}}a_{\mathfrak{m}})、Hm=ker⁡bm/Im⁡amH_{\mathfrak{m}} = \ker b_{\mathfrak{m}}/\operatorname{Im} a_{\mathfrak{m}} なので、(1) を二つの加群に使えばよいです。

命題 5.4(台の性質)✓

  1. 短完全列 0→M′→M→M′′→00 \to M' \to M \to M'' \to 0 について Supp⁡M=Supp⁡M′∪Supp⁡M′′\operatorname{Supp} M = \operatorname{Supp} M' \cup \operatorname{Supp} M'' である。
  2. MM が有限生成なら Supp⁡M=V(Ann⁡M)\operatorname{Supp} M = V(\operatorname{Ann} M) であり、とくに Supp⁡M\operatorname{Supp} M は Spec⁡A\operatorname{Spec} A の閉集合である。
  3. イデアル a\mathfrak{a} について Supp⁡(A/a)=V(a)\operatorname{Supp}(A/\mathfrak{a}) = V(\mathfrak{a}) である。
証明(命題 5.4)

(1) 定理 5.2 により 0→Mp′→Mp→Mp′′→00 \to M'_{\mathfrak{p}} \to M_{\mathfrak{p}} \to M''_{\mathfrak{p}} \to 0 は完全なので、Mp=0M_{\mathfrak{p}} = 0 は Mp′=0M'_{\mathfrak{p}} = 0 かつ Mp′′=0M''_{\mathfrak{p}} = 0 と同値です。

(2) p⊉Ann⁡M\mathfrak{p} \not\supseteq \operatorname{Ann} M なら a∈Ann⁡M∖pa \in \operatorname{Ann} M \setminus \mathfrak{p} があり、m/s=am/as=0m/s = am/as = 0 なので Mp=0M_{\mathfrak{p}} = 0 です。逆に M=Am1+⋯+AmnM = Am_1 + \cdots + Am_n で Mp=0M_{\mathfrak{p}} = 0 なら、各 ii で uimi=0u_i m_i = 0 となる ui∉pu_i \notin \mathfrak{p} があり、u=u1⋯un∉pu = u_1 \cdots u_n \notin \mathfrak{p}(p\mathfrak{p} は素)は MM を零化するので Ann⁡M⊈p\operatorname{Ann} M \not\subseteq \mathfrak{p} です。よって Supp⁡M=V(Ann⁡M)\operatorname{Supp} M = V(\operatorname{Ann} M) で、Zariski 位相(定義 4.1)[局所化と素イデアルのスペクトル] の閉集合です。

(3) A/aA/\mathfrak{a} は 11 元で生成され、Ann⁡(A/a)=a\operatorname{Ann}(A/\mathfrak{a}) = \mathfrak{a} なので (2) から従います。

次の命題の証明は、自由加群の場合を先に確かめ、有限表示の完全列 Am→An→M→0A^m \to A^n \to M \to 0 を使って一般の場合に広げる流れです。最後に五項補題を使うために、完全列の左端に 0→00 \to 0 を付け足して 5 項に数えます。付け足した 2 つの縦の写像は 0 加群から 0 加群への写像なので同型で、五項補題の仮定の数が揃います。

命題 5.5(有限表示加群の Hom と局所化)✓

MM を有限表示 AA 加群、NN を任意の AA 加群、SS を積閉集合とする。θ(φ/s)(m/t)=φ(m)/st\theta(\varphi/s)(m/t) = \varphi(m)/st で定まる写像

θM ⁣:S−1Hom⁡A(M,N)→Hom⁡S−1A(S−1M,S−1N)\theta_M\colon S^{-1}\operatorname{Hom}_A(M, N) \to \operatorname{Hom}_{S^{-1}A}(S^{-1}M, S^{-1}N)

は S−1AS^{-1}A 加群の同型である。

証明(命題 5.5)

well-defined と自然性。 u(s′φ−sψ)=0u(s'\varphi - s\psi) = 0(u∈Su \in S)なら us′φ(m)=usψ(m)us'\varphi(m) = us\psi(m) なので φ(m)/st=ψ(m)/s′t\varphi(m)/st = \psi(m)/s't です。v(t′m−tm′)=0v(t'm - tm') = 0 なら v(t′φ(m)−tφ(m′))=0v(t'\varphi(m) - t\varphi(m')) = 0 なので値は m/tm/t の代表元によりません。θ(φ/s)\theta(\varphi/s) が S−1AS^{-1}A 線形であること、θ\theta が S−1AS^{-1}A 線形であることは定義から確かめられます。準同型 α ⁣:M1→M2\alpha\colon M_1 \to M_2 について、θM1((φ∘α)/s)=θM2(φ/s)∘S−1α\theta_{M_1}\bigl((\varphi \circ \alpha)/s\bigr) = \theta_{M_2}(\varphi/s) \circ S^{-1}\alpha です(両辺とも m/t↦φ(α(m))/stm/t \mapsto \varphi(\alpha(m))/st)。

M=AnM = A^n の場合。 Hom⁡A(A,N)≅N\operatorname{Hom}_A(A, N) \cong N(φ↦φ(1)\varphi \mapsto \varphi(1))と Hom⁡S−1A(S−1A,S−1N)≅S−1N\operatorname{Hom}_{S^{-1}A}(S^{-1}A, S^{-1}N) \cong S^{-1}N のもとで θA\theta_A は φ/s↦φ(1)/s\varphi/s \mapsto \varphi(1)/s、すなわち恒等写像なので同型です。Hom⁡\operatorname{Hom} は有限直和の第 1 変数について直和に分かれ、局所化も有限直和と交換する(定理 5.2)ので、θAn\theta_{A^n} も同型です。

一般の場合。 完全列 Am→An→M→0A^m \to A^n \to M \to 0 を取ります。命題 4.3 の (2) と 定理 5.2 により

0→S−1Hom⁡(M,N)→S−1Hom⁡(An,N)→S−1Hom⁡(Am,N)0 \to S^{-1}\operatorname{Hom}(M, N) \to S^{-1}\operatorname{Hom}(A^n, N) \to S^{-1}\operatorname{Hom}(A^m, N)

は完全です。また (S−1A)m→(S−1A)n→S−1M→0(S^{-1}A)^m \to (S^{-1}A)^n \to S^{-1}M \to 0 も完全なので、同じ命題により

0→Hom⁡(S−1M,S−1N)→Hom⁡((S−1A)n,S−1N)→Hom⁡((S−1A)m,S−1N)0 \to \operatorname{Hom}(S^{-1}M, S^{-1}N) \to \operatorname{Hom}((S^{-1}A)^n, S^{-1}N) \to \operatorname{Hom}((S^{-1}A)^m, S^{-1}N)

も完全です。θ\theta の自然性から縦の写像 θM,θAn,θAm\theta_M, \theta_{A^n}, \theta_{A^m} は可換図式をなします。各行の左に 0→00 \to 0 を付け足して 5 項の完全列とみなすと、縦の写像は 0,0,θM,θAn,θAm0, 0, \theta_M, \theta_{A^n}, \theta_{A^m} で、θM\theta_M 以外は同型です。系 4.2 により θM\theta_M は同型です。

補題 5.6(Schanuel の補題)✓

  1. 0→K→P→πM→00 \to K \to P \xrightarrow{\pi} M \to 0 と 0→K′→P′→π′M→00 \to K' \to P' \xrightarrow{\pi'} M \to 0 を短完全列とし、P,P′P, P' を自由加群とする。このとき K⊕P′≅K′⊕PK \oplus P' \cong K' \oplus P である。
  2. MM が有限表示なら、任意の全射 π ⁣:Ak→M\pi\colon A^k \to M について ker⁡π\ker \pi は有限生成である。
証明(補題 5.6)

(1) X={(p,p′)∈P⊕P′:π(p)=π′(p′)}X = \{ (p, p') \in P \oplus P' : \pi(p) = \pi'(p') \} とおきます。第 1 成分への射影 X→PX \to P は全射です(pp に対し π′(p′)=π(p)\pi'(p') = \pi(p) となる p′p' を取ればよい)。その核は {(0,p′):π′(p′)=0}=0⊕K′≅K′\{(0, p') : \pi'(p') = 0\} = 0 \oplus K' \cong K' です。よって 0→K′→X→P→00 \to K' \to X \to P \to 0 は短完全列で、PP は自由なので 命題 4.4 により分裂し、X≅K′⊕PX \cong K' \oplus P です。同様に第 2 成分への射影から X≅K⊕P′X \cong K \oplus P' です。

(2) 有限表示の定義から、全射 π′ ⁣:An→M\pi'\colon A^n \to M で K′=ker⁡π′K' = \ker\pi' が AmA^m の像、したがって有限生成であるものがあります。(1) により K⊕An≅K′⊕AkK \oplus A^n \cong K' \oplus A^k で、右辺は有限生成です。KK は左辺の第 1 成分への射影の像なので、有限生成です。

テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群 で射影加群を導入すると、(1) は P,P′P, P' が射影加群の場合にも同じ証明で成り立ちます(使ったのは P,P′P, P' への全射が分裂することだけです)。

例 6.1(有限生成でないと中山の補題は壊れる)

A=Z(p)A = \mathbb{Z}_{(p)}(極大イデアル m=pZ(p)\mathfrak{m} = p\mathbb{Z}_{(p)})と M=QM = \mathbb{Q} を考えます。任意の q∈Qq \in \mathbb{Q} は q=p⋅(q/p)q = p \cdot (q/p) なので mM=M\mathfrak{m}M = M ですが、M≠0M \ne 0 です。定理 3.5 に反しないのは、Q\mathbb{Q} が Z(p)\mathbb{Z}_{(p)} 上有限生成でないからです。実際、有限個の ai/bia_i/b_i で生成されるなら、すべての元の分母に現れる pp の冪は bib_i に現れる冪の最大値で抑えられますが、1/pN1/p^N はいくらでも大きな冪をもちます。

例 6.2(有限生成だが有限表示でない加群)

kk を体、A=k[x1,x2,…]A = k[x_1, x_2, \ldots] を可算無限個の変数の多項式環、m=(x1,x2,…)\mathfrak{m} = (x_1, x_2, \ldots) とし、M=A/m≅kM = A/\mathfrak{m} \cong k とします。MM は 11 元で生成されます。全射 π ⁣:A→M\pi\colon A \to M の核 m\mathfrak{m} が有限生成だとすると、有限個の生成元に現れる変数は x1,…,xNx_1, \ldots, x_N に収まり、m⊆(x1,…,xN)\mathfrak{m} \subseteq (x_1, \ldots, x_N) となります。しかし xN+1x_{N+1} に x1=⋯=xN=0x_1 = \cdots = x_N = 0、xN+1=1x_{N+1} = 1 を代入すると 11 になるので、xN+1∉(x1,…,xN)x_{N+1} \notin (x_1, \ldots, x_N) です(このイデアルの元はこの代入で 00 になります)。よって ker⁡π\ker\pi は有限生成でなく、補題 5.6 の (2) により MM は有限表示ではありません。

例 6.3(有限生成でない加群の台)

Z\mathbb{Z} 加群 M=Q/ZM = \mathbb{Q}/\mathbb{Z} を考えます。各元 mm は位数有限なので、その位数 s≠0s \ne 0 について sm=0sm = 0、よって (0)(0) での局所化で m/1=0m/1 = 0 となり、M(0)=0M_{(0)} = 0 です。一方 m=1/p+Zm = 1/p + \mathbb{Z} の零化イデアルは (p)(p) なので、u∉(p)u \notin (p) について um≠0um \ne 0 であり、M(p)M_{(p)} で m/1≠0m/1 \ne 0 です。よって Supp⁡M={(p):p は素数}\operatorname{Supp} M = \{(p) : p \text{ は素数}\} で、これは Spec⁡Z\operatorname{Spec}\mathbb{Z} の閉集合ではありません(無限個の閉点の集合)。Ann⁡M=0\operatorname{Ann} M = 0 で V(Ann⁡M)=Spec⁡ZV(\operatorname{Ann} M) = \operatorname{Spec}\mathbb{Z} なので、命題 5.4 の (2) は有限生成の仮定なしには成り立ちません。

演習 7.1標準

kk を体、A=k[x,y](x,y)A = k[x, y]_{(x, y)}、m=(x,y)A\mathfrak{m} = (x, y)A とします。m\mathfrak{m} を AA 加群として生成するのに必要な元の最小個数を求めてください。

解答

系 3.6 により、答えは dim⁡km/m2\dim_k \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 です。x,yx, y の像は m/m2\mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 を張ります。a,b∈ka, b \in k で ax+by∈m2ax + by \in \mathfrak{m}^2 とすると、m2=(x2,xy,y2)A\mathfrak{m}^2 = (x^2, xy, y^2)A なので、s(0,0)≠0s(0, 0) \ne 0 となる s∈k[x,y]s \in k[x, y] で s (ax+by)∈(x2,xy,y2)s\,(ax + by) \in (x^2, xy, y^2) となります(分母を払いました)。左辺の 1 次の部分は s(0,0)(ax+by)s(0,0)(ax + by) で、右辺の元には 1 次以下の項がないので a=b=0a = b = 0 です。よって dim⁡km/m2=2\dim_k \mathfrak{m}/\mathfrak{m}^2 = 2 で、最小個数は 22 です。m\mathfrak{m} は単項イデアルではありません。

演習 7.2標準

正の整数 m,nm, n について、短完全列 0→Z→mZ→Z/m→00 \to \mathbb{Z} \xrightarrow{m} \mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/m \to 0 からそれ自身への「nn 倍」の写像に蛇の補題を適用し、{x∈Z/m:nx=0}\{ x \in \mathbb{Z}/m : nx = 0 \} と (Z/m)/n(Z/m)(\mathbb{Z}/m)/n(\mathbb{Z}/m) がともに Z/gcd⁡(m,n)\mathbb{Z}/\gcd(m, n) と同型であることを示してください。

解答

縦の写像はすべて nn 倍で、図式は可換です。Z\mathbb{Z} 上の nn 倍は単射で余核は Z/n\mathbb{Z}/n です。補題 4.1(上の行の uu は単射、下の行の v′v' は全射)から完全列

0→0→0→(Z/m)[n]→δZ/n→mZ/n→(Z/m)/n(Z/m)→00 \to 0 \to 0 \to (\mathbb{Z}/m)[n] \xrightarrow{\delta} \mathbb{Z}/n \xrightarrow{m} \mathbb{Z}/n \to (\mathbb{Z}/m)/n(\mathbb{Z}/m) \to 0

を得ます((Z/m)[n](\mathbb{Z}/m)[n] は nn で零化される元)。中央の Z/n→Z/n\mathbb{Z}/n \to \mathbb{Z}/n は mm 倍で、その核は {x:mx≡0(modn)}=(n/d)Z/nZ≅Z/d\{ x : mx \equiv 0 \pmod n \} = (n/d)\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} \cong \mathbb{Z}/d、余核は Z/(m,n)=Z/d\mathbb{Z}/(m, n) = \mathbb{Z}/d です(d=gcd⁡(m,n)d = \gcd(m, n))。完全性から δ\delta は核への同型、最後の写像は余核からの同型です。

演習 7.3易

体 kk 上の多項式の空間 M=k[x]M = k[x] を kk 加群(ベクトル空間)とみて、φ(xi)=xi−1\varphi(x^i) = x^{i-1}(i≥1i \ge 1)、φ(1)=0\varphi(1) = 0 で定まる kk 線形写像 φ\varphi は全射だが単射でないことを確かめ、定理 3.7 と矛盾しない理由を説明してください。

解答

xi=φ(xi+1)x^{i} = \varphi(x^{i+1}) なので全射で、φ(1)=0\varphi(1) = 0 なので単射ではありません。MM は kk 上無限次元で、有限個の元では生成されない(次元の議論(定理 5.5)[ベクトル空間と線形変換] と同じく、NN 個の元の張る空間に 1,x,…,xN1, x, \ldots, x^N が入ることはない)ので、定理の仮定を満たしません。

  • M. F. Atiyah, I. G. Macdonald, Introduction to Commutative Algebra, Addison-Wesley, 1969 — Chapter 2(加群・中山の補題・完全列)、Chapter 3(加群の局所化・局所的性質)。
  • H. Matsumura, Commutative Ring Theory, Cambridge University Press, 1986 — §2(行列式のトリックと中山の補題、全射自己準同型)、§4(台)。
  • D. Eisenbud, Commutative Algebra with a View Toward Algebraic Geometry, Springer GTM 150, 1995 — Chapter 2(局所化)、§4.1(Cayley–Hamilton と中山の補題)。
  • 松村英之『可換環論』共立出版、1980 — 第 1 章。
  • C. A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994 — §1.3(蛇の補題)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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