群のコホモロジーと群の拡大:bar 分解・交差準同型・Schur–Zassenhaus・Hilbert 90
対象読者: 本テーマの鎖複体の章と射影・入射対象の章を学び、群の作用・正規部分群・半直積を学部の群論で知っている人。群の拡大は仮定しません。
前提となる記事:鎖複体とホモトピー圏:長完全列・写像錐・非輪状集成補題、射影対象・入射対象と Grothendieck 圏:十分な入射対象と入射包
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”群が整数や体の元のような「数の集まり」に作用しているとき、「作用で動かない元はどれだけあるか」「作用でねじれた準同型はどれだけあるか」「その集まりを核にもつ群は何通りあるか」といった問いが自然に出てきます。この記事は、これらの問いを群のコホモロジーという一つの道具で数える方法を作ります。読み終えると、小さな群でコホモロジーを実際に計算し、群の拡大が半直積になるかどうかを判定できるようになります。
- 群 が Abel 群 に作用しているとき( 加群)、 加群の圏はアーベル圏で、核・余核・完全性は台の Abel 群で判定できます。群のコホモロジー は、自明な 加群 の射影分解 をとって のコホモロジーとして定め、分解の取り方によりません。これは 加群の です。
- 具体的な射影分解として bar 分解があり、その完全性は台の Abel 群の縮約ホモトピーで示せます。これから は「 上の 値関数」のなすコチェイン複体のコホモロジーとして計算できます。
- 、 は交差準同型を主交差準同型で割ったもの、 です。 は「 を核とし作用を固定した の拡大」の同値類と 1 対 1 に対応し、 は半直積に対応します。
- 巡回群には周期 2 の自由分解があり、 は が正の偶数なら 、奇数なら です。Shapiro の補題は部分群のコホモロジーを余誘導加群(部分群の加群から 加群を作る操作の一つ)のコホモロジーに移します。
- 指数有限の部分群について余制限と制限の合成は指数倍で、有限群では の は で消えます。系として、位数と指数が互いに素な Abel 正規部分群は補群をもち、補群はすべて共役です(Schur–Zassenhaus の定理の Abel 核の場合)。
- 体 の有限な自己同型群 について 、 です(Hilbert の定理 90 の一般形と加法版)。証明は Dedekind の補題(相異なる体の準同型は一次独立である、という補題)だけを使います。
群 が Abel 群 に作用しているとき、次の三つの問いは一見ばらばらです。
- の元のうち、 のすべての元で動かないものはどれだけあるか。
- 写像 で を満たすもの(作用でねじれた準同型)は、どれだけ「自明でない」か。
- を正規部分群とし、商が になる群 はどれだけあるか。とくに はいつ半直積 になるか。
群のコホモロジーは、これらがそれぞれ 、、 という一つの理論の低次の項であることを教えます。(1) は不変部分 です。(2) の写像は Galois 理論の Hilbert の定理 90 や、表現の拡大の分類に現れます。(3) は有限群論で群を「核と商」から組み立てるときの基本問題で、Schur–Zassenhaus の定理はその答えの一つです。
理論の形は可換環論の と同じです。自明な 加群 の射影分解を作り、 をとってコホモロジーを計算します。ただし、係数環 は が可換でない限り可換環ではないので、可換環上の加群の結果をそのまま引用することはできません。この章では、 加群の圏を「1 対象の圏 から Abel 群の圏への関手の圏」と見てアーベル圏の一般論に乗せ、鎖複体とホモトピー圏の章のホモトピーと長完全列、射影対象・入射対象と Grothendieck 圏の章の射影対象を使って、必要な比較定理をこの章の中で証明します。
計算の主役は bar 分解です。これは の自由分解を群の乗法だけから書き下したもので、そこから得られるコチェインの式が (2)・(3) の条件式そのものになります。後半では、部分群と商群の間でコホモロジーを移す制限・余制限・インフレーションを導入し、有限群と Galois 理論への応用を証明します。
2. 群環と G 加群
Section titled “2. 群環と G 加群”以下 は群で、単位元を と書きます。宇宙の約束(圏・関手・自然変換の章、公理 2.2[圏・関手・自然変換])のもとで、 と、これから扱う Abel 群はすべて小さい集合とします。Abel 群の圏 はアーベル圏で、mono は単射、epi は全射です(命題 4.6[加法圏とアーベル圏])。
の元を基底とする自由 Abel 群 (定義 2.2[加群・完全列・中山の補題])に、基底の上で (群の積)となる双線形な積
を入れたものを の群環という。結合法則は群の結合法則から、単位元は である。環準同型 、 を添加写像という。
- Abel 群 と の への作用(定義 2.1[群の作用と Sylow の定理]) で、各 について が群準同型であるものの組を 加群という。 加群 の間の群準同型 で を満たすものを 準同型といい、その全体を と書く。 加群と 準同型のなす圏を と書く。
- すべての で となる 加群を自明な 加群という。とくに断らない限り は自明な 加群とみなす。
- を不変部分、 を余不変部分という。
- 集合 について、 を基底とする自由 Abel 群に で作用を入れた 加群を と書き、 上の自由 加群という。 と書く。
加群の構造は、作用を線形に延ばして とおけば 加群の構造と同じものです。逆に 加群は の作用で 加群になります。 は 加群としては の 個の直和です。
はアーベル圏である。 準同型 の核・余核は、台の Abel 群の核 ・余核 に誘導された作用を入れたものである。 が mono であることと単射であること、epi であることと全射であることはそれぞれ同値で、 加群の列が で完全であることと、台の Abel 群の列として完全であることは同値である。
証明(命題 2.3)
1 つの対象 をもち、、合成を群の積、恒等射を とする圏を と書きます。合成の結合法則と単位法則は群の公理そのものなので は圏で、 が小さいので小さい圏です(定義 3.2[圏・関手・自然変換])。
関手 は Abel 群 と群準同型の族 で 、 を満たすもの、すなわち 加群 、 と同じものです。自然変換 は 1 つの準同型 で、自然性 は 準同型の条件 そのものです。合成も一致するので、 は関手圏 (定義 5.3[圏・関手・自然変換])と同型な圏です。
はアーベル圏(命題 4.6[加法圏とアーベル圏])なので、命題 5.7[加法圏とアーベル圏] により はアーベル圏で、核・余核は各対象で、すなわち唯一の対象 で の核・余核をとって得られ、mono・epi・完全性も での の性質で判定されます。 の核・余核は と 、mono は単射、epi は全射です(命題 4.6[加法圏とアーベル圏] の 1・2)。
以下、 加群の完全列・部分加群・商加群は、台の Abel 群のそれに作用を入れたものとして扱います。
を集合とし、 とする。
- 任意の 加群 と元の族 に対し、 を満たす 準同型 がただ一つある。したがって 、 は Abel 群の同型で、 について自然である。
- は の射影対象である(定義 3.1[射影対象・入射対象と Grothendieck 圏])。
- で、同型は で与えられる。
- を の部分群とすると、 は作用を に制限して自由 加群である。正確には、右剰余類 の代表系 を一つ選ぶと、( 加群として)で、同型は で与えられる。
証明(補題 2.4)
1. は 加群として を基底とする自由加群なので、補題 2.5[加群・完全列・中山の補題] の 1 により を満たす群準同型 がただ一つあります。 が基底で成り立ち、両辺は 線形なので は 準同型です。 準同型 が を満たせば なので です。対応 は和を保ち、 との合成は成分ごとの に対応するので自然です。
2. の epi は全射です(命題 2.3)。全射 と について、各 で となる を選び、1 の をとると、 と はともに 準同型で での値が一致するので、1 の一意性から です。
3. 線形写像 、 は全射で、 なので を誘導します。逆向きに とおくと、 では なので、二つの写像は互いに逆です。
4. は右剰余類の交わらない和 で、 は の全単射です。よって と は で全単射に対応し、 の作用(左からの積)はこの対応で保たれます。基底の全単射は自由 Abel 群の同型を与えます。
次の比較定理は、どの射影分解を選んでもコホモロジーが同じになることを示すための道具です。考え方は、射影対象が全射に沿って写像を持ち上げられることを使い、左の項から順に一段ずつ写像を作っていく、というものです。2 の「ホモトピー」は、そうして作った二つの持ち上げの差が境界の形に書ける、という主張です。
を、各 が の射影対象である 加群の複体とし、 を 加群の完全列とする。 準同型 に対し、次が成り立つ。
- 、()を満たす 準同型 が存在する( の持ち上げ)。
- と がともに の持ち上げなら、 準同型 ()で を満たすものがある。
証明(補題 2.5)
記号を揃えるため 、、( 側)、( 側)、 とおきます。 側の列が完全なので、各 で は全射です( では と読み、 が全射であることを指します)。
1. について まで作ったとします( では も仮定します)。 なら なので、 の値は に入ります( では の値は に入ります)。 は全射、すなわち の epi で(命題 2.3)、 は射影対象なので、 を満たす があります。
2. とおくと、、 です。 とおき、 について まで作ったとして を考えます。 では です。 では、帰納法の仮定 から
です。いずれにせよ の値は に入り、 は全射なので、 の射影性から となる があります。これが求める式です。
可換環上の加群についての同じ主張が可換環論の 比較定理(定理 3.3)[Tor・Ext と深さ] です。 は一般に可換でないので、ここでは で直接示しました。
3. bar 分解と群のコホモロジー
Section titled “3. bar 分解と群のコホモロジー”について を 上の自由 加群とし、基底 を と書く( の基底は の 1 つ)。 準同型 ()と を、基底の上で
となるものとして定める(補題 2.4 の 1)。たとえば 、 である。列 を bar 分解(標準分解)という。
次の定理の証明の方針は、列が完全であることを直接調べる代わりに、「先頭に元を一つ付け足す」写像 (縮約ホモトピー)を作り、 を確かめることです。この式が成り立てば、 の元は と書けるので、完全性が出ます。たとえば の基底 では、 に を足すと に戻ります。
証明(定理 3.2)
記号を揃えるため 、 とおきます。 加群の列の完全性は台の Abel 群で判定できるので(命題 2.3)、Abel 群の準同型( 準同型である必要はない)で議論します。
縮約ホモトピー。 を 、()を 基底の上で となる 線形写像とします(補題 2.5[加群・完全列・中山の補題] の 1)。次を示します。
から最初の式が出ます。 では について です。 で とすると、定義から
です( の和のうち第 1 項 が 、第 項が上の和の項です)。足すと 以外はすべて打ち消し合います。両辺は 線形なので、基底で成り立てば全体で成り立ちます。
。 と の 線形性から です。 で を仮定すると、上の式を 2 回使って
です( では最後の式は で、 を使います)。 の 基底の元は の形で、 は 線形なので、 全体で です。
完全性。 ()が を満たせば( では条件なし)、 なので は像に入ります。したがって列は各項で完全で、各 は自由 加群、とくに射影対象です(補題 2.4 の 2)。
縮約ホモトピー は 準同型ではありません。 加群の複体としては可縮でないが、Abel 群の複体としては可縮である、というのが bar 分解の要点です。
自明な 加群 の射影分解とは、各 が の射影対象である完全列 をいう(定理 3.2 により存在する)。 加群 について、
- (、 では )、 とする Abel 群の複体の 次コホモロジー(定義 2.3[鎖複体とホモトピー圏])を と書き、 の に係数をもつ 次コホモロジーという。
- に対角作用 を入れ(テンソル積の普遍性 定理 2.2[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] により各 で準同型が定まる)、鎖複体 の 次ホモロジーを と書き、 次ホモロジーという。
準同型 は により鎖写像を誘導するので、 は から への加法関手です。定義が分解の選び方によらないことを次に示します。
証明(命題 3.4)
は完全で の各項は射影対象なので、補題 2.5 の 1 により持ち上げ があります。 を二つの持ち上げとし、同じ補題の 2 の をとります。 を ()とおくと、
なので、 と は Abel 群の複体の鎖写像としてホモトピック(定義 4.1[鎖複体とホモトピー圏])で、コホモロジーで同じ写像を誘導します(命題 4.2[鎖複体とホモトピー圏] の 2)。
を逆向きの持ち上げとすると、 と はどちらも の の持ち上げなので、いま示したことから がコホモロジーで成り立ちます。同様に で、 は同型です。 についての自然性は、 について であることから従います。
ホモロジーも同じです。 準同型 に を対応させる操作は和と合成を保つので( はテンソル積の普遍性から定まり、対角作用と可換です)、上のホモトピーの式に を施せば と が鎖ホモトピックであることがわかり、以下同様です。
を写像 全体()とし、 を
で定める。
- は複体で、 が について自然に成り立つ。 の元を コチェイン、 の元を コサイクル、 の元を コバウンダリという。
- は、 を項とし、微分を基底の上で とする鎖複体の 次ホモロジーと同型である。
- 加群の短完全列 から、自然な長完全列 が得られる。
証明(系 3.5)
1. 補題 2.4 の 1 により、 は について自然な同型 です。この同型で を移すと、 の 線形性 により上の になります。bar 分解は射影分解なので(定理 3.2)、命題 3.4 から主張が出ます。
2. 命題 2.3[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の 1・4 により ()で、 の作用は自明なので対角作用は の作用に一致します。補題 2.4 の 3 により ()で、 はこの同一視で になります(第 1 項の係数 が消えます)。
3. は射影対象なので は完全関手です(命題 3.2[射影対象・入射対象と Grothendieck 圏] の 1 ⇒ 3)。よって は の複体の短完全列で(命題 2.2[鎖複体とホモトピー圏] の 4)、定理 3.1[鎖複体とホモトピー圏] と 命題 3.3[鎖複体とホモトピー圏] から自然な長完全列が得られます。 の項は です。
注意 3.6(Ext としての群のコホモロジー)
加群を 加群と同一視すると、定義 3.3 は の右導来関手、すなわち であり、 です(導来関手と Ext の一般論は 定義 6.1[導来関手と δ 関手]、比較定理は 定理 3.1[導来関手と δ 関手])。この章の証明はその一般論を使わず、上の比較定理と bar 分解だけで閉じています。
4. 低次のコホモロジー
Section titled “4. 低次のコホモロジー”証明(命題 4.2)
系 3.5 の 1 の式を低次で書き下します。、、 です。
1: なので 。2: は交差準同型の条件、 は主交差準同型全体です。3:作用が自明なら主交差準同型は だけで、交差準同型の条件は です。4: と の式そのものです。
証明(命題 4.3)
系 3.5 の 2 の鎖複体を使います。 なので、、 で、 です。
を加法的に書きます。、(補題 2.5[加群・完全列・中山の補題] の 1)は を満たすので、 を誘導します。逆に 、 の類は、 で なので Abel 群への群準同型で、命題 6.1[随伴関手と随伴関手定理] の 2 により 、 を誘導します。 と は生成元 、 を固定するので恒等写像です。
と は、作用が自明なら「準同型」と「アーベル化」という双対な形をしています。 は、代数的位相幾何の Hurewicz の定理( は のアーベル化)の群論版です。
5. H^2 と群の拡大
Section titled “5. H^2 と群の拡大”を群、 を 加群とする。
- による の拡大とは、群 、単射準同型 ( は加法群、 は乗法的に書く)、全射準同型 の組で、 かつ を満たすものをいう( の共役による への作用が、与えられた の作用と一致する)。
- 二つの拡大 、 が同値であるとは、群の同型 で 、 を満たすものがあることをいう。
- 写像 で を満たすもの(準同型とは限らない)を切断という。準同型である切断があるとき、拡大は分裂するという。
- 切断 について、 なので、 により が定まる。 を の因子団という。
次の定理の要点は、集合としての切断 を一つ選ぶと、それが準同型からどれだけずれているか(因子団)が 2 コサイクルになり、切断を取り替えるとそれがコバウンダリだけ変わる、ということです。したがって拡大の同値類はコホモロジー類で決まり、逆に任意の 2 コサイクルから群を組み立てられます。
を群、 を 加群とする。
- 拡大 の任意の切断 について で、その類 は の選び方によらず、拡大の同値類だけで決まる。
- 対応 は、 による の拡大の同値類全体から への全単射である。
- であることと拡大が分裂することは同値である。このとき は半直積 (、定義 5.2[群の作用と Sylow の定理])と同型である。
証明(定理 5.2)
コサイクルとコバウンダリの式は 命題 4.2 の 4 を使います。
基本の計算。 について とおくと なので、 となる がただ一つあります( は単射)。拡大の条件から です。よって
1:コサイクル。 を二通りに計算します。
表示の一意性から 、すなわち です。
1:切断によらないこと。 別の切断 について なので となる があります。逆に任意の についてこの は切断です。 から
なので で、類は同じです。同値な拡大 があれば は の切断で、 なので です。
2:単射。 拡大 と切断 について なら、上の計算で を に取り替えると にできます。 とおくと、 の右辺の形が と で同じなので は準同型で、表示の一意性から全単射です。 は明らかです。 から 、同様に なので、 で、 です。
2:全射。 とし、 とおきます。コサイクルの条件で とすると 、 とすると です。定数写像 について なので、 は を満たし、 と同じ類です。 に
で積を入れます。 と の第 1 成分はそれぞれ と で、コサイクルの条件から等しいので結合的です。 から は単位元で、 なので各元は右逆元をもちます。結合的で単位元をもち各元が右逆元をもてば群です(、 なら で、 は の両側逆元)。、 は準同型で です。 とおくと 、 なので、 について で、これは拡大です。 なので です。
3. 準同型の切断 については です。逆に 、 なら、 は 、すなわち準同型です。このとき は部分群で、 は 上で単射なので 、表示 から です。 は正規部分群なので、命題 5.3[群の作用と Sylow の定理] により で、 の への共役作用は です。、 で移せば です。
作用が自明な場合、拡大の条件は が の中心に含まれることで、そのような拡大を中心拡大といいます。
例 5.3(四元数群と二面体群を 2 コサイクルで区別する)
、(自明な作用)とします。 を満たすコサイクルを正規化されたコサイクルと呼び、 とおきます。正規化された が同じ類なら で、 が なので、 から 、すなわち です。したがって は類の不変量です。
中心拡大 の切断を ととると因子団は正規化されていて、 です。つまり は「 の持ち上げの位数が 」ということです(持ち上げは と 、 の 2 つで、 は中心にあるので平方は同じです)。
- 二面体群 の中心 による商は位数 で、、、 がすべて中心に入るので全元の位数が 以下で、、 により と同型です。 の持ち上げ は位数 、 の持ち上げ と の持ち上げ は位数 なので、 です。
- 四元数群 の中心 による商も で、 はすべて位数 なので です。
が違うので、二つの中心拡大は の異なる類を与えます。 を の生成元の取り方で並べ替えても と は移り合わないので、群として同型でないこともここから読めます。
注意 5.4(Abel 群の拡大との比較)
が Abel 群で作用が自明でも、群の拡大 は可換とは限りません(上の 、)。 も Abel 群である拡大だけを数えるのが Abel 群の で(定理 4.2[Ext と拡大])、それは の部分群(対称なコサイクルの類)に当たります。Lie 代数の 1 次元中心拡大が第 2 コホモロジーで分類されること(定理 3.3[Witt 代数と Virasoro 代数])も、上の証明と同じ「切断のずれがコサイクルになる」という議論です。
6. 巡回群と Shapiro の補題
Section titled “6. 巡回群と Shapiro の補題”証明(定理 6.1)
1. は可換なので は可換環で、元 の掛け算は 準同型です。 の元は と一意に書けます。、 なので複体です。完全性を 3 か所で確かめます。
- : なら で、 です。
- :添字を で読むと なので、これが ならすべての が等しく、 です。逆の包含は です。
- : から で、これが であることは と同値なので、最初の項目に帰着します。
は全射です。各項 は 1 点上の自由 加群なので射影対象です(補題 2.4 の 2)。
2. 、 で(補題 2.4 の 1)、 の掛け算から誘導される は により 上の の作用に対応します。よってコチェイン複体は で、命題 3.4 によりそのコホモロジーが です。 が を生成するので で、主張の形になります。
例 6.2( Z))
を の部分群、 を 加群とする。写像 で (、)を満たすもの全体に、 で の作用を入れた 加群を と書き、余誘導加群という。 のときは、Abel 群 について は写像 全体である。
なので は再び条件を満たし、 なので作用です。 を誘導加群といい、指数 が有限なら余誘導加群と同型になりますが、この章では余誘導加群だけを使います。
次の補題は、部分群 のコホモロジーを、 全体の加群のコホモロジーとして読み替えるものです。証明の中心は で、 準同型 を「 に、 ごとに を返す関数を対応させる写像」に包み直します。定義域と値域は、 は から へ、 は から余誘導加群( から への写像の集まり)へ、と一段ずつ確かめれば追えます。
証明(補題 6.4)
が与える自然な全単射は、制限関手 が の左随伴であることを言っています(定義 2.1[随伴関手と随伴関手定理])。制限は完全で、自由 加群を自由 加群に移すので、Shapiro の補題は「随伴は導来関手に伝わる」という一般的な事実(命題 6.3[導来関手と δ 関手])の特別な場合です。
7. 制限・余制限・インフレーションと Schur–Zassenhaus の定理
Section titled “7. 制限・余制限・インフレーションと Schur–Zassenhaus の定理”部分群 について、 の bar 分解 は の射影分解でもあります(補題 6.4 の証明の第 1 段落)。したがって 加群 について と計算できます。
を部分群、 を 加群、 を の bar 分解とする。
- 包含 が誘導する を制限という。
- 指数 が有限のとき、左剰余類の代表系 ()をとり、 を で定める。これが誘導する を余制限という。
- を の正規部分群とする。、、 について なので は の作用で閉じ、 により 加群になる。コチェイン に を対応させる写像は と可換で( の式の第 1 項の の作用は の作用と同じ)、 を誘導する。これをインフレーションという。
余制限の直感は、 の上で決まったものを、 の剰余類の代表元 ごとに動かして足し合わせ、 全体の上のものにする、ということです。 上のものを制限してから余制限すると、同じものを剰余類の個数だけ足すことになるので、指数倍になります。
を部分群、 を 加群とする。
- 系 3.5 のコチェインで表すと、 は ( 上の写像を に制限する)で与えられる。 では包含 である。
- が有限なら、 は代表系 の選び方によらずに定まり、 が 上で成り立つ。 では は である。
証明(命題 7.2)
1. の bar 分解を とし、 を基底の包含 から定まる 準同型とします。 と の式は同じなので は の持ち上げで、命題 3.4 により は二つの計算の間の標準的な同型です。合成 は、コチェインでは です。 では で、この写像は恒等写像なので、 の上では です。
2. を 準同型とします。代表 を ()に替えると なので、 は によりません。 について、 も左剰余類の代表系なので
で、 は 準同型です。 は 準同型なので で、 は複体の写像です。 が 準同型なら なので で、コホモロジーでも です。
: が を満たすことは (すべての )と同値で、 線形性から です。こうして 、 で、 です。
証明(系 7.3)
1. に 命題 7.2 の 2 を使うと、 は を経由します。補題 6.4 の証明の最後に示したとおり で なので、 倍は です。
2. は 準同型で、全単射なら の同型なので、関手 で移した も同型です。コチェインの上で は なので、 は 倍写像で、1 によりこれは です。同型が なので です。 が有限で のとき、 なら の位数は を割り、また巡回部分群 の位数として 定理 6.1[部分群と剰余類] により を割るので です。よって 倍は有限集合 上の単射、したがって全単射です。
次の系の方針は、補群を「準同型の切断」、補群どうしの共役を「交差準同型」に読み替えることです。 なら拡大が分裂して補群が存在し、 なら二つの補群の差の交差準同型が主交差準同型になり、共役であることが出ます。
系 7.4(Schur–Zassenhaus の定理(Abel 核の場合))✓
を有限群、 を Abel 群である正規部分群とし、 と指数 は互いに素とする。
- は補群をもつ。すなわち 、 を満たす部分群 があり、 である。
- の補群はすべて の元で共役である。
証明(系 7.4)
とおきます(定理 5.1[正規部分群と商群]。)。 について とおくと、 が可換なので で代表によらず、(演算を加法的に書く)は 加群です。包含 と商写像 は、 による の拡大です(定義 5.1)。 と は互いに素なので、系 7.3 の 2 により です。
1. 定理 5.2 の 3 により拡大は分裂し、準同型の切断 があります。 が補群で、半直積の同型は同じ定理の証明の 3 で示したとおりです。
2. を別の補群とします。 は核が なので単射で、 から全射です。その逆写像 は準同型の切断です。 とおくと、
なので、加法的に書けば 、すなわち は交差準同型です(定義 4.1)。 と 命題 4.2 の 2 から、ある で 、乗法的には ( は可換)です。よって で、 です。
が可換でない場合も Schur–Zassenhaus の定理(補群の存在)は成り立ちますが、Sylow 部分群と中心を使った帰納法が加わるので、この章では扱いません。
証明(命題 7.5)
注意 7.6(Maschke の定理をコホモロジーで読む)
体 上の有限群 の表現 と不変部分空間 について、 線形写像の空間 は で 加群になり、 の 線形な切断を 線形なものに取り替えられるかどうかの障害は の元です(切断を一つ固定し、 で動かしたものとの差が交差準同型になります)。 が で可逆なら、この群は ベクトル空間で 倍が全単射なので、系 7.3 の 2 により です。これは Maschke の定理(定理 3.1)[有限群の表現] の言い換えで、平均化による通常の証明は余制限 の計算そのものです。
8. Hilbert の定理 90
Section titled “8. Hilbert の定理 90”体 と、 の自己同型からなる有限群 を考えます。 の加法群と乗法群 は、 の作用で 加群です( の演算は乗法なので、交差準同型の条件は 、主交差準同型は と書かれます)。有限次 Galois 拡大 の Galois 群 はその典型例です。
を体、 を の自己同型からなる有限群とする。 である。すなわち、写像 が を満たすなら、ある によりすべての で と書ける。とくに有限次 Galois 拡大 について 。
証明(定理 8.1)
の元は相異なる体の準同型 で、係数 はすべて でないので、補題 7.6[ガロア理論への招待] により は の関数として恒等的に ではありません。 となる をとります。 について、交差準同型の条件 を使うと
です( は の全単射)。 なので ()で、 は主交差準同型です。命題 4.2 の 2 から です。
証明(命題 8.2)
例 8.3(巡回拡大の Hilbert 90 を読み直す)
を次数 の巡回拡大、 を Galois 群 の生成元とします。定理 6.1 の 2 を に使うと(乗法的に書くと は 、 はノルム です)
で、定理 8.1 によりこれは自明です。つまりノルム の は と書け、 とおけば です。これは数論の章の Hilbert の定理 90(定理 4.1)[S 単数と Kummer 理論] そのもので、Kummer 理論の出発点になります。
注意 8.4(この先の話題)
- Galois コホモロジー。 Galois 拡大の塔 ( も Galois)では、 について で(標数 なら 定理 4.1[ガロア理論への招待] の 1 を に使えばわかります)、命題 7.5 は を拡大の塔に沿って比べる道具になります。(相対 Brauer 群)、カップ積、Tate コホモロジーは類体論で扱います。インフレーション–制限完全列を高次に延ばすのが Lyndon–Hochschild–Serre のスペクトル系列です。
- 分類空間。 離散群 の分類空間 (定義 6.4[ホモトピー群とファイブレーション])について、自明な係数の特異コホモロジー は と同型です。 の特異鎖複体が の自由 分解になることが理由で、bar 分解はその組合せ的な模型です。この同型はこの章では使いません。
演習はいずれもこの記事のために作ったものです。
演習 9.1標準
を位数 の群とし、 を で作用させた 加群とします。すべての について を求め、 の でない類を交差準同型で表してください。
解答
定理 6.1 を で使います。 は 倍、 は 写像です。。奇数次は 、正の偶数次は です。
交差準同型 は と で決まり、条件 は任意の で成り立ちます。主交差準同型は なので、 で、 が でない類です。
を有限群とします。自明な 加群について と を示してください。 のとき後者の位数はいくつですか。
解答
命題 4.2 の 3 により です。 が準同型なら、 の位数を として なので です。後者はそのままです。 では準同型は生成元の行き先 で を満たすもので決まり、そのような は の 個なので、位数は です。
- K. S. Brown, Cohomology of Groups, Graduate Texts in Mathematics 87, Springer, 1982 — 第 I〜IV 章(群環、bar 分解、低次のコホモロジーと拡大、制限・余制限・Shapiro の補題)。
- C. A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994 — 第 6 章(群のホモロジーとコホモロジー)。
- J.-P. Serre, Local Fields, Graduate Texts in Mathematics 67, Springer, 1979 — 第 VII 章(群のコホモロジー)、第 X 章(Hilbert の定理 90)。
- J. Neukirch, A. Schmidt, K. Wingberg, Cohomology of Number Fields, 2nd ed., Springer, 2008 — 第 I 章。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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