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米田の補題と表現可能関手:対象を「そこへの射の全体」で知る

対象読者: 本テーマ第 1 章の圏・関手・自然変換を理解した人。群・加群・テンソル積の普遍性を学部レベルで知っていると例が読みやすくなります。

前提となる記事:圏・関手・自然変換:Grothendieck 宇宙の上で「構造と写像」を一つの言葉にする

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抽象的な数学の対象は、集合の元のように中身を一つずつ取り出せないことがよくあります。この記事の話は、そのような対象でも、そこへ入ってくる写像(矢印)のふるまいをすべて集めれば、対象そのものを知ることができる、というものです。読み終えると、商群やテンソル積のように「普遍性で定義された対象」がなぜ同型を除いて一意なのかを、一度の議論で説明できるようになります。

  • 局所的に小さい圏 C\mathcal{C} の対象 XX は、前層(集合に値をとる反変関手のこと)hX=Hom⁡C(−,X)h_X = \operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(-, X) を定めます。米田の補題は、任意の前層 FF について自然変換 hX⇒Fh_X \Rightarrow F が F(X)F(X) の元と 1 対 1 に対応し、その対応が XX と FF の両方について自然であることを主張します。
  • その系として、X↦hXX \mapsto h_X は充満忠実(射の集合の写像がすべて全単射になること)な関手(米田埋め込み)です。したがって hX≅hYh_X \cong h_Y なら X≅YX \cong Y で、その同型は前層の同型からただ一つに決まります(米田の原理)。対象は「そこへ入ってくる射の全体」で決まる、ということです。
  • 前層 FF が hXh_X と同型なとき表現可能といいます。表現を与えることは、普遍元 ξ∈F(X)\xi \in F(X)(FF のどの元も、ただ一つの射で ξ\xi から引き出せるような元)を与えることと同じです。商群・局所化・テンソル積など「普遍性で定義される対象」は、どれもある関手の表現対象で、一意性は米田の原理から一度に出ます。
  • 関手 GG への普遍射はコンマ圏の始対象と同じものです。
  • パラメータ付きの表現可能性:二変数の関手 F(X,D)F(X, D) が各 DD で XX について表現可能なら、表現対象 R(D)R(D) は DD について自動的に関手になり、同型は二変数について自然になります。次の章以降で極限・随伴を組み立てる道具です。

群 GG の元 gg は、Z\mathbb{Z} からの準同型 n↦gnn \mapsto g^{n} と同じものです。集合 XX の部分集合は、XX から 2 元集合 {0,1}\{0, 1\} への写像と同じものです。AA 加群 M,NM, N の双線形写像 M×N→PM \times N \to P は、テンソル積からの線形写像 M⊗N→PM \otimes N \to P と同じものです。どれも「ある種類の構造」が「ある固定した対象からの(または対象への)射」として表されている例です。

この現象を一般の圏で考えたのが米田信夫で、1954 年ごろ Mac Lane との会話の中で述べた補題が米田の補題と呼ばれています。主張は短く、証明もほぼ一行ですが、帰結は広い範囲に及びます。

  • 「普遍性で定義した対象は一意な同型を除いて一意」という議論を、商群・局所化・テンソル積ごとに繰り返す必要がなくなります。
  • 圏 C\mathcal{C} を前層の圏 [Cop,Set][\mathcal{C}^{\mathrm{op}}, \mathsf{Set}] に埋め込めます。前層の圏は集合の圏に似た良い性質(極限・余極限をもつ)をもつので、C\mathcal{C} に無い構成を前層の圏で行い、その結果が C\mathcal{C} の対象で表されるか(表現可能か)を問う、という考え方ができます。代数幾何学で「スキームを関手として見る」のはこの考え方です。

この記事では、前の章 圏・関手・自然変換 の記号と、そこで固定した宇宙 U\mathbb{U}(公理 2.2[圏・関手・自然変換])についての「小さい」を使います。

定義 2.1(前層と前層の圏)↗

C\mathcal{C} を局所的に小さい圏とする。関手 F:Cop→SetF : \mathcal{C}^{\mathrm{op}} \to \mathsf{Set} を C\mathcal{C} 上の前層という。前層を対象、自然変換を射とする圏 [Cop,Set][\mathcal{C}^{\mathrm{op}}, \mathsf{Set}] を PSh(C)\mathrm{PSh}(\mathcal{C}) と書く。対象 X∈CX \in \mathcal{C} について前層 hX=Hom⁡C(−,X)h_X = \operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(-, X) と関手 hX=Hom⁡C(X,−):C→Seth^{X} = \operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(X, -) : \mathcal{C} \to \mathsf{Set} を考え、射 f:X→Yf : X \to Y に自然変換 hf:hX⇒hYh_f : h_X \Rightarrow h_Y、(hf)W(u)=f∘u(h_f)_W(u) = f \circ u を対応させる。

hXh_X と hXh^{X} が関手であることは 命題 4.4[圏・関手・自然変換] で、hfh_f の自然性は結合法則 f∘(u∘v)=(f∘u)∘vf \circ (u \circ v) = (f \circ u) \circ v そのものです。hgf=hg∘hfh_{gf} = h_g \circ h_f は (g∘f)∘u=g∘(f∘u)(g \circ f) \circ u = g \circ (f \circ u) から、hid=idh_{\mathrm{id}} = \mathrm{id} は単位法則から従うので、X↦hXX \mapsto h_X は関手 y:C→PSh(C)\mathbf{y} : \mathcal{C} \to \mathrm{PSh}(\mathcal{C}) です。C\mathcal{C} が小さいとき PSh(C)\mathrm{PSh}(\mathcal{C}) は局所的に小さい圏です(命題 5.4[圏・関手・自然変換])。C\mathcal{C} が大きいときも、PSh(C)\mathrm{PSh}(\mathcal{C}) は U\mathbb{U} を含む大きい宇宙の中で圏として扱えます。

前層の名前は位相空間 TT の開集合の順序集合 O(T)\mathcal{O}(T) から来ています。O(T)\mathcal{O}(T) を圏と見ると(例 3.4[圏・関手・自然変換])、その上の前層は「開集合 UU ごとの集合 F(U)F(U) と、V⊆UV \subseteq U に対する制限写像 F(U)→F(V)F(U) \to F(V)」で、たとえば F(U)F(U) を UU 上の連続関数全体とした例が典型です。

例 2.2(小さい圏の上の前層)

(a) 群 GG を 1 対象の圏 BG\mathbf{B}G と見ると、BG\mathbf{B}G 上の前層は集合 F(∗)F(\ast) と、各 gg に対する写像 F(g)F(g) で F(gh)=F(h)F(g)F(gh) = F(h)F(g)、F(e)=idF(e) = \mathrm{id} を満たすもの、すなわち右 GG 集合です(x⋅g=F(g)(x)x \cdot g = F(g)(x) と書けば (x⋅g)⋅h=x⋅(gh)(x \cdot g) \cdot h = x \cdot (gh))。自然変換は GG 同変写像です。表現可能な前層 h∗h_\ast は、GG に右から掛け算で作用させた右 GG 集合です。

(b) 圏 [1]={0→1}[1] = \{0 \to 1\} 上の前層は、集合 F(1)F(1)、F(0)F(0) と写像 F(1)→F(0)F(1) \to F(0) の組です。h0h_0 は ∅→{∗}\varnothing \to \{\ast\}、h1h_1 は {∗}→{∗}\{\ast\} \to \{\ast\} に当たります。

(c) 2 対象 V,EV, E と 2 本の射 s,t:V→Es, t : V \to E だけをもつ圏上の前層は、「辺の集合 F(E)F(E)、頂点の集合 F(V)F(V)、始点・終点の写像 F(s),F(t):F(E)→F(V)F(s), F(t) : F(E) \to F(V)」で、有向グラフ(多重辺・ループを許すもの)そのものです。前層の圏は、グラフとグラフ準同型の圏になります。

定義 2.3(表現可能関手)↗

前層 FF が表現可能であるとは、ある対象 XX と自然同型 α:hX⇒F\alpha : h_X \Rightarrow F が存在することをいう。組 (X,α)(X, \alpha) を FF の表現、XX を表現対象という。関手 G:C→SetG : \mathcal{C} \to \mathsf{Set} が hXh^{X} と自然同型なときも表現可能という(Cop\mathcal{C}^{\mathrm{op}} 上の前層として表現可能であることと同じ)。

定義 2.4(部分関手と篩)↗

前層 FF の部分関手 G⊆FG \subseteq F とは、各 XX で G(X)⊆F(X)G(X) \subseteq F(X) であり、任意の f:Y→Xf : Y \to X について F(f)F(f) が G(X)G(X) を G(Y)G(Y) へ写すものをいう(GG は F(f)F(f) の制限によって前層になる)。hXh_X の部分関手を XX 上の篩(ふるい)という。

XX 上の篩 SS は、射の集合 ⋃WS(W)\bigcup_W S(W)(行き先が XX の射の集まり)で、「u∈Su \in S なら任意の vv について u∘v∈Su \circ v \in S」を満たすものと同じです。最大の篩は hXh_X 自身です。O(T)\mathcal{O}(T) の場合、UU 上の篩は「UU の開部分集合の族で、部分集合をとる操作で閉じたもの」です。篩は、層・Grothendieck 位相を定義するときの「被覆」の言葉になります。この記事の後半では篩を使わないので、初めて読むときは読み飛ばしても構いません。

次の定理は、hXh_X から FF への自然変換が、見かけよりずっと少ない情報で決まると言っています。hXh_X のどの元も idX\mathrm{id}_X から作れるので、自然変換は idX\mathrm{id}_X をどこへ送るかだけで決まります。定理の最後の式は、この対応が XX や FF を取り替えても崩れないこと(自然性)を式に書いたもので、証明では idX\mathrm{id}_X の行き先に帰着して確かめます。

定理 3.1(米田の補題)✓

C\mathcal{C} を局所的に小さい圏、FF を C\mathcal{C} 上の前層、X∈CX \in \mathcal{C} とする。写像

θX,F:Nat⁡(hX,F)→F(X),α↦αX(idX)\theta_{X, F} : \operatorname{Nat}(h_X, F) \to F(X), \qquad \alpha \mapsto \alpha_X(\mathrm{id}_X)

は全単射で、逆写像は ξ∈F(X)\xi \in F(X) に自然変換 αξ\alpha^{\xi}、αWξ(u)=F(u)(ξ)\alpha^{\xi}_W(u) = F(u)(\xi)(u:W→Xu : W \to X)を対応させる。さらに θ\theta は XX と FF の両方について自然である。すなわち、射 f:Y→Xf : Y \to X と自然変換 τ:F⇒G\tau : F \Rightarrow G について

θY,G(τ∘α∘hf)=G(f)(τX(θX,F(α)))(α∈Nat⁡(hX,F)).\theta_{Y, G}(\tau \circ \alpha \circ h_f) = G(f)\bigl(\tau_X(\theta_{X, F}(\alpha))\bigr) \qquad (\alpha \in \operatorname{Nat}(h_X, F)).
証明(定理 3.1)

αξ\alpha^{\xi} は自然変換. v:W′→Wv : W' \to W について、αW′ξ(hX(v)(u))=F(u∘v)(ξ)=F(v)(F(u)(ξ))=F(v)(αWξ(u))\alpha^{\xi}_{W'}(h_X(v)(u)) = F(u \circ v)(\xi) = F(v)(F(u)(\xi)) = F(v)(\alpha^{\xi}_W(u))(FF は反変なので F(u∘v)=F(v)∘F(u)F(u \circ v) = F(v) \circ F(u))。

互いに逆. θ(αξ)=F(idX)(ξ)=ξ\theta(\alpha^{\xi}) = F(\mathrm{id}_X)(\xi) = \xi。逆に α∈Nat⁡(hX,F)\alpha \in \operatorname{Nat}(h_X, F) と u:W→Xu : W \to X について、自然性を射 uu と元 idX∈hX(X)\mathrm{id}_X \in h_X(X) に適用すると

αW(u)=αW(hX(u)(idX))=F(u)(αX(idX))=αWθ(α)(u).\alpha_W(u) = \alpha_W(h_X(u)(\mathrm{id}_X)) = F(u)(\alpha_X(\mathrm{id}_X)) = \alpha^{\theta(\alpha)}_W(u).

よって α=αθ(α)\alpha = \alpha^{\theta(\alpha)}。

自然性. 左辺は (τ∘α∘hf)Y(idY)=τY(αY(f))(\tau \circ \alpha \circ h_f)_Y(\mathrm{id}_Y) = \tau_Y(\alpha_Y(f)) である。上の計算から αY(f)=F(f)(αX(idX))\alpha_Y(f) = F(f)(\alpha_X(\mathrm{id}_X)) で、τ\tau の自然性から τY∘F(f)=G(f)∘τX\tau_Y \circ F(f) = G(f) \circ \tau_X なので、左辺は G(f)(τX(αX(idX)))G(f)(\tau_X(\alpha_X(\mathrm{id}_X))) に等しい。

証明の要点は二行目にあります。自然変換 α:hX⇒F\alpha : h_X \Rightarrow F は、恒等射 idX\mathrm{id}_X の行き先だけで決まります。hXh_X のどの元 uu も idX\mathrm{id}_X を hX(u)h_X(u) で引き戻したものだからです。

例 3.2(米田の補題を具体的な圏で読む)

(a) 半順序集合 PP を圏と見ると、hx(y)h_x(y) は y≤xy \le x なら 1 点、そうでなければ空です。自然変換 hx⇒hx′h_x \Rightarrow h_{x'} は「y≤xy \le x なら y≤x′y \le x'」という含意と同じもので、定理 3.1 は、その存在が hx′(x)≠∅h_{x'}(x) \ne \varnothing、すなわち x≤x′x \le x' と同値であることを言っています。米田埋め込みは「xx を下集合 {y∣y≤x}\{y \mid y \le x\} で表す」埋め込み P→P(P)P \to \mathcal{P}(P) です。

(b) 群 GG の圏 BG\mathbf{B}G では、例 2.2 の (a) により前層は右 GG 集合 FF で、定理 3.1 は「GG 同変写像 G→FG \to F は単位元 ee の行き先 x∈Fx \in F で決まり、g↦x⋅gg \mapsto x \cdot g で与えられる」という、軌道写像についてのおなじみの事実になります。

(c) Set\mathsf{Set} で 1 点集合 11 をとると、共変な h1=Hom⁡(1,−)h^{1} = \operatorname{Hom}(1, -) は「元の集合」を返す関手で(Hom⁡(1,X)≅X\operatorname{Hom}(1, X) \cong X)、恒等関手と自然同型です(反変な h1=Hom⁡(−,1)h_1 = \operatorname{Hom}(-, 1) のほうは、どの XX にも 1 点集合を返します)。下の段落で述べる共変版 Nat⁡(h1,G)≅G(1)\operatorname{Nat}(h^{1}, G) \cong G(1) は、恒等関手から関手 G:Set→SetG : \mathsf{Set} \to \mathsf{Set} への自然変換が、1 点集合での成分が 1 点をどこへ送るかで決まることを言っています。

最後の等式は、θ\theta が二つの関手 Cop×PSh(C)→Set\mathcal{C}^{\mathrm{op}} \times \mathrm{PSh}(\mathcal{C}) \to \mathsf{Set}、(X,F)↦Nat⁡(hX,F)(X, F) \mapsto \operatorname{Nat}(h_X, F) と (X,F)↦F(X)(X, F) \mapsto F(X)(評価関手)の間の自然同型であることを言っています。定理 3.1 を Cop\mathcal{C}^{\mathrm{op}} に適用すると、関手 G:C→SetG : \mathcal{C} \to \mathsf{Set} について Nat⁡(hX,G)≅G(X)\operatorname{Nat}(h^{X}, G) \cong G(X)(α↦αX(idX)\alpha \mapsto \alpha_X(\mathrm{id}_X))が得られます。

系 3.3(米田埋め込み)✓

関手 y:C→PSh(C)\mathbf{y} : \mathcal{C} \to \mathrm{PSh}(\mathcal{C})、X↦hXX \mapsto h_X は充満忠実であり、対象の上で単射である。

証明(系 3.3)

定理 3.1 を F=hYF = h_Y に適用すると、θ:Nat⁡(hX,hY)→hY(X)=Hom⁡(X,Y)\theta : \operatorname{Nat}(h_X, h_Y) \to h_Y(X) = \operatorname{Hom}(X, Y) は全単射である。逆写像は f↦αff \mapsto \alpha^{f}、αWf(u)=hY(u)(f)=f∘u\alpha^{f}_W(u) = h_Y(u)(f) = f \circ u で、これは hfh_f そのものである。よって f↦hff \mapsto h_f は全単射。hX=hYh_X = h_Y なら idX∈hX(X)=hY(X)=Hom⁡(X,Y)\mathrm{id}_X \in h_X(X) = h_Y(X) = \operatorname{Hom}(X, Y) で、Hom 集合が互いに交わらないこと(定義 3.1[圏・関手・自然変換])から X=YX = Y。

系 3.4(米田の原理)✓

α:hX⇒hY\alpha : h_X \Rightarrow h_Y が自然同型なら、hf=αh_f = \alpha となる射 f:X→Yf : X \to Y がただ一つあり、ff は同型である。とくに hX≅hYh_X \cong h_Y なら X≅YX \cong Y である。双対的に、hX≅hYh^{X} \cong h^{Y} なら X≅YX \cong Y である。

証明(系 3.4)

系 3.3 から α=hf\alpha = h_f となる ff がただ一つある。y\mathbf{y} は充満忠実なので同型を反映し(補題 4.6[圏・関手・自然変換])、hfh_f が同型だから ff も同型である。双対は Cop\mathcal{C}^{\mathrm{op}} に適用する。

米田の原理は、「XX と YY が同型であることを示すには、任意の WW について Hom⁡(W,X)\operatorname{Hom}(W, X) と Hom⁡(W,Y)\operatorname{Hom}(W, Y) の間に WW について自然な全単射を作ればよい」という証明法を与えます。全単射だけでなく自然性が要ることに注意してください。

注意 3.5(一般化された元)

射 u:W→Xu : W \to X を「XX の WW に値をとる元」と呼ぶことがあります。WW が 1 点集合なら Set\mathsf{Set} のふつうの元、W=ZW = \mathbb{Z} なら Grp\mathsf{Grp} の元(命題 4.4)です。米田埋め込みが充満忠実であることは、「射 X→YX \to Y は、あらゆる WW に値をとる元を、WW の取り替えと両立するように送る規則と同じものだ」と言い換えられます。集合の写像が元の行き先で決まるのと同じ考え方を、元をもたない一般の圏の対象に持ち込んだのが米田の補題です。ただし Grp\mathsf{Grp} では W=ZW = \mathbb{Z} という一つの「試験対象」で足りるのに対し、一般の圏では WW を全部動かす必要があります。

次の命題は、米田の補題を 1 対象の圏 BG\mathbf{B}G に使うと Cayley の定理(群は置換群の部分群とみなせる)が出ることを示します。1 対象の圏では射が群の元に当たり、前層は群が右から作用する集合になります。

命題 3.6(米田の補題による Cayley の定理)✓

群 GG について、写像 λ:G→Sym⁡(G)\lambda : G \to \operatorname{Sym}(G)、λ(g)(x)=gx\lambda(g)(x) = gx は単射な群準同型であり、その像は右からの掛け算 x↦xkx \mapsto xk(k∈Gk \in G)とすべて可換な置換の全体に等しい。とくに GG は Sym⁡(G)\operatorname{Sym}(G) の部分群と同型である。

証明(命題 3.6)

GG を対象 ∗\ast ただ一つの圏 BG\mathbf{B}G と見る(Hom⁡(∗,∗)=G\operatorname{Hom}(\ast, \ast) = G、合成は群の積、恒等射は単位元。結合法則と単位法則は群の公理 定義 3.1[群論入門] そのもので、定義 3.1[圏・関手・自然変換] の条件を満たす)。前層 h∗h_\ast は集合 GG に、射 kk を写像 h∗(k):x↦xkh_\ast(k) : x \mapsto xk として作用させるものである。自然変換 h∗⇒h∗h_\ast \Rightarrow h_\ast は、成分 σ:G→G\sigma : G \to G ただ一つで、すべての kk について σ(xk)=σ(x)k\sigma(xk) = \sigma(x)k を満たすもの、すなわち右からの掛け算と可換な写像である。

系 3.3 から k↦hkk \mapsto h_k は GG から Nat⁡(h∗,h∗)\operatorname{Nat}(h_\ast, h_\ast) への全単射で、hk(x)=kx=λ(k)(x)h_k(x) = kx = \lambda(k)(x)。y\mathbf{y} は関手なので λ(gk)=hgk=hg∘hk=λ(g)λ(k)\lambda(gk) = h_{gk} = h_g \circ h_k = \lambda(g)\lambda(k)。h∗h_\ast は前層の圏の対象で、その自己同型は可逆な自然変換なので、命題 5.2[圏・関手・自然変換] から成分が全単射なものである。λ(g)\lambda(g) は逆 λ(g−1)\lambda(g^{-1}) をもつので Sym⁡(G)\operatorname{Sym}(G) に入り、λ\lambda は単射準同型で、その像は右掛け算と可換な写像全体(それらは全単射 λ(g)\lambda(g) に限られる)に等しい。

左からの掛け算 g⋅x=gxg \cdot x = gx は GG の GG 自身への作用(定義 2.1[群の作用と Sylow の定理])で、Cayley の定理はふつうこの作用が忠実であることとして示されます。米田の補題の言葉では、「GG は GG を右 GG 集合と見たときの自己同型群である」と、像まで特定した形で得られます。

定義 4.1(普遍元)↗

前層 FF について、組 (X,ξ)(X, \xi)(X∈CX \in \mathcal{C}、ξ∈F(X)\xi \in F(X))が FF の普遍元であるとは、任意の YY と η∈F(Y)\eta \in F(Y) に対し、F(f)(ξ)=ηF(f)(\xi) = \eta となる射 f:Y→Xf : Y \to X がただ一つ存在することをいう。関手 G:C→SetG : \mathcal{C} \to \mathsf{Set} の普遍元 (X,ξ∈G(X))(X, \xi \in G(X)) も同様に(任意の η∈G(Y)\eta \in G(Y) に G(f)(ξ)=ηG(f)(\xi) = \eta となる f:X→Yf : X \to Y がただ一つ)定める。

命題 4.2(表現と普遍元)✓

前層 FF と ξ∈F(X)\xi \in F(X) について、(X,ξ)(X, \xi) が普遍元であることと、定理 3.1 の自然変換 αξ:hX⇒F\alpha^{\xi} : h_X \Rightarrow F が自然同型であることは同値である。したがって (X,α)↦(X,αX(idX))(X, \alpha) \mapsto (X, \alpha_X(\mathrm{id}_X)) は、FF の表現と FF の普遍元の間の全単射である。関手 C→Set\mathcal{C} \to \mathsf{Set} についても同様である。

証明(命題 4.2)

αYξ(f)=F(f)(ξ)\alpha^{\xi}_Y(f) = F(f)(\xi) なので、(X,ξ)(X, \xi) が普遍元であることは、すべての YY で αYξ:Hom⁡(Y,X)→F(Y)\alpha^{\xi}_Y : \operatorname{Hom}(Y, X) \to F(Y) が全単射であることと同じである。命題 5.2[圏・関手・自然変換] により、これは αξ\alpha^{\xi} が自然同型であることと同値である。定理 3.1 により Nat⁡(hX,F)\operatorname{Nat}(h_X, F) と F(X)F(X) は α↦αX(idX)\alpha \mapsto \alpha_X(\mathrm{id}_X)、ξ↦αξ\xi \mapsto \alpha^{\xi} で 1 対 1 に対応するので、自然同型と普遍元が対応する。関手 C→Set\mathcal{C} \to \mathsf{Set} の場合は Cop\mathcal{C}^{\mathrm{op}} 上の前層として同じ議論をする。

系 4.3(表現対象の一意性)✓

(X,ξ)(X, \xi) と (X′,ξ′)(X', \xi') がともに前層 FF の普遍元なら、F(f)(ξ)=ξ′F(f)(\xi) = \xi' を満たす射 f:X′→Xf : X' \to X がただ一つ存在し、ff は同型である。関手 C→Set\mathcal{C} \to \mathsf{Set} の普遍元についても同様である(射の向きは X→X′X \to X')。

証明(系 4.3)

ff の存在と一意性は (X,ξ)(X, \xi) の普遍性を η=ξ′\eta = \xi' に使ったもの。同様に (X′,ξ′)(X', \xi') の普遍性から F(g)(ξ′)=ξF(g)(\xi') = \xi となる g:X→X′g : X \to X' がある。F(f∘g)(ξ)=F(g)(F(f)(ξ))=F(g)(ξ′)=ξ=F(idX)(ξ)F(f \circ g)(\xi) = F(g)(F(f)(\xi)) = F(g)(\xi') = \xi = F(\mathrm{id}_X)(\xi) なので、(X,ξ)(X, \xi) の普遍性の一意性の部分から f∘g=idXf \circ g = \mathrm{id}_X。同様に g∘f=idX′g \circ f = \mathrm{id}_{X'}。関手 C→Set\mathcal{C} \to \mathsf{Set} の場合は Cop\mathcal{C}^{\mathrm{op}} に適用する。

この系が、「普遍性をもつ対象は一意な同型を除いて一意」という定型の議論の一般形です。商群でもテンソル積でも、以後この系を引用すれば済みます。

命題 4.4(忘却関手と冪集合関手の表現)✓

  1. 忘却関手 U:Grp→SetU : \mathsf{Grp} \to \mathsf{Set} は hZh^{\mathbb{Z}} で表現され、普遍元は 1∈Z1 \in \mathbb{Z} である。
  2. 可換環 AA について、忘却関手 U:ModA→SetU : \mathsf{Mod}_A \to \mathsf{Set} は hAh^{A} で表現され、普遍元は 1∈A1 \in A である。とくに Ab→Set\mathsf{Ab} \to \mathsf{Set} は hZh^{\mathbb{Z}} で表現される。
  3. 逆像による冪集合関手 P∗:Setop→Set\mathcal{P}^{*} : \mathsf{Set}^{\mathrm{op}} \to \mathsf{Set} は h{0,1}h_{\{0, 1\}} で表現され、普遍元は {1}∈P∗({0,1})\{1\} \in \mathcal{P}^{*}(\{0, 1\}) である。
証明(命題 4.4)

命題 4.2 により、それぞれ普遍元であることを示せばよい。

1: 群 GG と g∈Gg \in G について、φ(n)=gn\varphi(n) = g^{n} は gm+n=gmgng^{m+n} = g^{m}g^{n} より準同型 Z→G\mathbb{Z} \to G で φ(1)=g\varphi(1) = g。準同型 ψ\psi が ψ(1)=g\psi(1) = g を満たせば、ψ(n)=ψ(1)n=gn\psi(n) = \psi(1)^{n} = g^{n}(n≥0n \ge 0 は帰納法、n<0n < 0 は ψ(−n)=ψ(n)−1\psi(-n) = \psi(n)^{-1} から)なので ψ=φ\psi = \varphi。

2: AA 加群 MM と m∈Mm \in M について、a↦ama \mapsto am は AA 線形で 1↦m1 \mapsto m、AA 線形な ψ\psi で ψ(1)=m\psi(1) = m なら ψ(a)=aψ(1)=am\psi(a) = a\psi(1) = am。

3: S⊆XS \subseteq X について、φ−1({1})=S\varphi^{-1}(\{1\}) = S を満たす写像 φ:X→{0,1}\varphi : X \to \{0, 1\} は、SS の上で 11、その外で 00 をとる特性関数ただ一つである。P∗(φ)({1})=φ−1({1})\mathcal{P}^{*}(\varphi)(\{1\}) = \varphi^{-1}(\{1\}) なので、これが普遍性である。

定義 4.5(普遍射)↗

関手 G:D→CG : \mathcal{D} \to \mathcal{C} と Y∈CY \in \mathcal{C} について、組 (R,u)(R, u)(R∈DR \in \mathcal{D}、u:Y→GRu : Y \to GR)が YY から GG への普遍射であるとは、任意の D∈DD \in \mathcal{D} と射 g:Y→GDg : Y \to GD に対し、G(gˉ)∘u=gG(\bar g) \circ u = g となる射 gˉ:R→D\bar g : R \to D がただ一つ存在することをいう。双対的に、組 (R,c:GR→Y)(R, c : GR \to Y) が GG から YY への普遍射であるとは、任意の g:GD→Yg : GD \to Y に対し c∘G(gˉ)=gc \circ G(\bar g) = g となる gˉ:D→R\bar g : D \to R がただ一つ存在することをいう。

命題 4.6(普遍射はコンマ圏の始対象)✓

C,D\mathcal{C}, \mathcal{D} を局所的に小さい圏、G:D→CG : \mathcal{D} \to \mathcal{C} を関手、Y∈CY \in \mathcal{C} とし、YY を 1 対象の圏 1\mathbf{1} からの関手と見る。組 (R,u:Y→GR)(R, u : Y \to GR) について次は同値である。

  1. (R,u)(R, u) は YY から GG への普遍射である。
  2. (R,u)(R, u) は関手 Hom⁡C(Y,G(−)):D→Set\operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(Y, G(-)) : \mathcal{D} \to \mathsf{Set} の普遍元である。
  3. (∗,R,u)(\ast, R, u) はコンマ圏 (Y↓G)(Y \downarrow G) の始対象である。

とくに YY から GG への普遍射は、存在すれば一意な同型を除いて一意である。双対的に、GG から YY への普遍射は (G↓Y)(G \downarrow Y) の終対象である。

証明(命題 4.6)

関手 Hom⁡(Y,G(−))\operatorname{Hom}(Y, G(-)) は gˉ:R→D\bar g : R \to D を u↦G(gˉ)∘uu \mapsto G(\bar g) \circ u に送るので、1 と 2 は定義そのものである。コンマ圏(定義 7.1[圏・関手・自然変換])(Y↓G)(Y \downarrow G) の対象は組 (∗,D,g:Y→GD)(\ast, D, g : Y \to GD) で、(∗,R,u)(\ast, R, u) から (∗,D,g)(\ast, D, g) への射は、1\mathbf{1} の射が恒等射しかないので、G(gˉ)∘u=gG(\bar g) \circ u = g を満たす gˉ:R→D\bar g : R \to D と同じものである。よって 1 と 3 は同値である。一意性は 命題 3.10[圏・関手・自然変換] による。双対は Cop\mathcal{C}^{\mathrm{op}}、Dop\mathcal{D}^{\mathrm{op}} に適用する。

例 4.7(既出の普遍性を表現可能性として読む)

Rikai の既存の記事で証明した普遍性は、どれも「ある関手の普遍元」と言い直せます。表現対象の一意性は、どの場合も 系 4.3 から一度に出ます。

構成表現される関手普遍元既出の普遍性
商集合 X/∼X/{\sim}Y↦{f:X→Y∣a∼b⇒f(a)=f(b)}Y \mapsto \{f : X \to Y \mid a \sim b \Rightarrow f(a) = f(b)\}(Set→Set\mathsf{Set} \to \mathsf{Set})射影 π\pi定理 5.1[関係と同値関係]
商群 G/NG/NH↦{f:G→H∣N⊆Ker⁡f}H \mapsto \{f : G \to H \mid N \subseteq \operatorname{Ker} f\}(Grp→Set\mathsf{Grp} \to \mathsf{Set})標準全射 π\pi定理 7.1[群の準同型定理]
局所化 S−1AS^{-1}AB↦{f:A→B∣f(S)⊆B×}B \mapsto \{f : A \to B \mid f(S) \subseteq B^{\times}\}(CRing→Set\mathsf{CRing} \to \mathsf{Set})a↦a/1a \mapsto a/1定理 3.4[局所化と素イデアルのスペクトル]
Kähler 微分 ΩB/A\Omega_{B/A}M↦Der⁡A(B,M)M \mapsto \operatorname{Der}_A(B, M)(ModB→Set\mathsf{Mod}_B \to \mathsf{Set})dd定理 2.5[Kähler 微分と滑らかさの入口]
Grothendieck 群 G(M)G(M)可換群 H↦H \mapsto モノイド準同型 M→HM \to H 全体γM\gamma_M命題 2.2[K-理論入門] の 4

たとえば商群の行は、π\pi が普遍元であること、すなわち「N⊆Ker⁡fN \subseteq \operatorname{Ker} f なる ff はただ一つの fˉ\bar f によって f=fˉ∘πf = \bar f \circ \pi と書ける」ことが既出の定理の内容です。Grothendieck 群の行は、忘却関手 Ab→CMon\mathsf{Ab} \to \mathsf{CMon}(可換モノイドの圏)への MM からの普遍射とも読めます(定義 4.5)。

注意 4.8(関手としての空間)

代数幾何学では、可換環 AA に集合 {(x,y)∈A2∣x2+y2=1}\{(x, y) \in A^{2} \mid x^{2} + y^{2} = 1\} を対応させる関手 CRing→Set\mathsf{CRing} \to \mathsf{Set} のように、方程式の「AA に値をとる解の集合」を考えます。この関手は環 Z[x,y]/(x2+y2−1)\mathbb{Z}[x, y]/(x^{2} + y^{2} - 1) で表現され(解 (a,b)(a, b) は x↦ax \mapsto a、y↦by \mapsto b で定まる環準同型と同じもの)、米田の原理により、表現する環は関手から同型を除いて決まります。スキームを「環から集合への関手」として扱う見方はここから始まり、表現可能でない関手(たとえばモジュライ問題の関手)がいつ表現可能になるかが中心的な問題になります。代数幾何のテーマで、この見方を本格的に使います。

5. パラメータ付きの表現可能性

Section titled “5. パラメータ付きの表現可能性”

表現可能な関手が「もう一つの変数」に依存しているとき、表現対象はその変数について自動的に関手になります。以下の双関手は、二つの変数をもつ関手のことです。

証明の見通しは次のとおりです。R(d)R(d) は、普遍元の「ただ一つ」の部分から決めます。RR が関手になること(恒等射と合成を保つこと)も、同じ一意性を使って、双関手 FF の可換性を一段ずつ当てはめるだけで確かめられます。

命題 5.1(パラメータ付きの表現可能性)✓

C,D\mathcal{C}, \mathcal{D} を局所的に小さい圏、F:Cop×D→SetF : \mathcal{C}^{\mathrm{op}} \times \mathcal{D} \to \mathsf{Set} を双関手とし、各 D∈DD \in \mathcal{D} について前層 F(−,D)F(-, D) が表現可能であるとする。各 DD に普遍元 (R(D),ξD)(R(D), \xi_D)(ξD∈F(R(D),D)\xi_D \in F(R(D), D))を一つずつ選ぶ。このとき次が成り立つ。

  1. 射 d:D→D′d : D \to D' に、F(R(d),D′)(ξD′)=F(R(D),d)(ξD)F(R(d), D')(\xi_{D'}) = F(R(D), d)(\xi_D) を満たすただ一つの射 R(d):R(D)→R(D′)R(d) : R(D) \to R(D') を対応させると、R:D→CR : \mathcal{D} \to \mathcal{C} は関手になる。
  2. φX,D:Hom⁡C(X,R(D))→F(X,D)\varphi_{X, D} : \operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(X, R(D)) \to F(X, D)、u↦F(u,D)(ξD)u \mapsto F(u, D)(\xi_D) は双関手 Hom⁡C(−,R(−))\operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(-, R(-)) から FF への自然同型である。
  3. 関手 R′:D→CR' : \mathcal{D} \to \mathcal{C} と自然同型 Hom⁡C(−,R′(−))≅F\operatorname{Hom}_{\mathcal{C}}(-, R'(-)) \cong F がほかにあれば、R≅R′R \cong R' である。
証明(命題 5.1)

普遍元の選択には選択公理(公理 3.1[選択公理と Zorn の補題])を Ob⁡D\operatorname{Ob}\mathcal{D} 上で使う。

1: F(R(D),d)(ξD)∈F(R(D),D′)F(R(D), d)(\xi_D) \in F(R(D), D') なので、(R(D′),ξD′)(R(D'), \xi_{D'}) の普遍性から R(d)R(d) がただ一つ定まる。d=idDd = \mathrm{id}_D なら R(d)=idR(d) = \mathrm{id} が条件を満たすので一意性から R(id)=idR(\mathrm{id}) = \mathrm{id}。d′:D′→D′′d' : D' \to D'' について、FF が双関手であること(補題 4.3[圏・関手・自然変換] の可換性)を使うと

F(R(d′)R(d),D′′)(ξD′′)=F(R(d),D′′) F(R(d′),D′′)(ξD′′)=F(R(d),D′′) F(R(D′),d′)(ξD′)=F(R(D),d′) F(R(d),D′)(ξD′)=F(R(D),d′) F(R(D),d)(ξD)=F(R(D),d′d)(ξD)\begin{aligned} F(R(d')R(d), D'')(\xi_{D''}) &= F(R(d), D'')\,F(R(d'), D'')(\xi_{D''}) = F(R(d), D'')\,F(R(D'), d')(\xi_{D'}) \\ &= F(R(D), d')\,F(R(d), D')(\xi_{D'}) = F(R(D), d')\,F(R(D), d)(\xi_D) = F(R(D), d'd)(\xi_D) \end{aligned}

なので、一意性から R(d′d)=R(d′)R(d)R(d'd) = R(d')R(d)。

2: 各 φX,D\varphi_{X, D} が全単射であることは普遍元の定義そのもの(命題 4.2)。XX についての自然性は 定理 3.1 の αξD\alpha^{\xi_D} の自然性である。DD についての自然性:d:D→D′d : D \to D'、u:X→R(D)u : X \to R(D) について

φX,D′(R(d)∘u)=F(u,D′) F(R(d),D′)(ξD′)=F(u,D′) F(R(D),d)(ξD)=F(X,d) F(u,D)(ξD)=F(X,d)(φX,D(u)).\varphi_{X, D'}(R(d) \circ u) = F(u, D')\,F(R(d), D')(\xi_{D'}) = F(u, D')\,F(R(D), d)(\xi_D) = F(X, d)\,F(u, D)(\xi_D) = F(X, d)(\varphi_{X, D}(u)).

3 つ目の等号は再び FF の双関手性である。

3: 自然同型 Hom⁡(−,R(−))≅F≅Hom⁡(−,R′(−))\operatorname{Hom}(-, R(-)) \cong F \cong \operatorname{Hom}(-, R'(-)) を合成すると、各 DD で自然同型 hR(D)≅hR′(D)h_{R(D)} \cong h_{R'(D)} が得られ、系 3.4 によりそれは同型 ρD:R(D)→R′(D)\rho_D : R(D) \to R'(D) によって hρDh_{\rho_D} と書ける。DD についての自然性を X=R(D)X = R(D)、u=idu = \mathrm{id} で評価すると ρD′R(d)=R′(d)ρD\rho_{D'} R(d) = R'(d)\rho_D が得られるので、ρ\rho は自然同型 R⇒R′R \Rightarrow R' である。

例 5.2(直積を関手にする)

C=Set\mathcal{C} = \mathsf{Set}、D=Set×Set\mathcal{D} = \mathsf{Set} \times \mathsf{Set} とし、F(X,(A,B))=Hom⁡(X,A)×Hom⁡(X,B)F(X, (A, B)) = \operatorname{Hom}(X, A) \times \operatorname{Hom}(X, B) とおきます。各 (A,B)(A, B) で F(−,(A,B))F(-, (A, B)) は直積集合 A×BA \times B と射影の組 (pA,pB)(p_A, p_B) を普遍元として表現されます(写像の組 (f,g)(f, g) に x↦(f(x),g(x))x \mapsto (f(x), g(x)) がただ一つ対応する)。命題 5.1 の 1 の条件は、写像の組 (a,b):(A,B)→(A′,B′)(a, b) : (A, B) \to (A', B') に対して R(a,b)R(a, b) が pA′∘R(a,b)=a∘pAp_{A'} \circ R(a, b) = a \circ p_A、pB′∘R(a,b)=b∘pBp_{B'} \circ R(a, b) = b \circ p_B を満たすこと、すなわち R(a,b)=a×bR(a, b) = a \times b であることを言っています。こうして直積は双関手 Set×Set→Set\mathsf{Set} \times \mathsf{Set} \to \mathsf{Set} になり、Hom⁡(X,A×B)≅Hom⁡(X,A)×Hom⁡(X,B)\operatorname{Hom}(X, A \times B) \cong \operatorname{Hom}(X, A) \times \operatorname{Hom}(X, B) は三つの変数について自然になります。次の章では、これを一般の図式の極限に広げます。

この命題は次の二つの章で繰り返し使います。極限と余極限 では「各図式の極限」を図式について関手にするために、随伴関手と随伴関手定理 では「各対象への普遍射」から随伴関手を組み立てるために使います。

6. テンソル積を表現として読む

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可換環 AA 上の加群 M,N,PM, N, P について、双線形写像 M×N→PM \times N \to P 全体を Bil⁡(M,N;P)\operatorname{Bil}(M, N; P) と書きます。準同型 α:M′→M\alpha : M' \to M、β:N′→N\beta : N' \to N、γ:P→P′\gamma : P \to P' について b↦γ∘b∘(α×β)b \mapsto \gamma \circ b \circ (\alpha \times \beta) は Bil⁡(M,N;P)→Bil⁡(M′,N′;P′)\operatorname{Bil}(M, N; P) \to \operatorname{Bil}(M', N'; P') を与え、これにより Bil⁡\operatorname{Bil} は (M,N)(M, N) について反変、PP について共変な関手です(各変数の写像の合成が可換なことは 補題 4.3[圏・関手・自然変換] の条件で、写像の合成の結合法則から従います)。

命題 6.1(テンソル積は双線形写像の関手を表現する)✓

AA を可換環とする。

  1. AA 加群 M,NM, N について、関手 Bil⁡(M,N;−):ModA→Set\operatorname{Bil}(M, N; -) : \mathsf{Mod}_A \to \mathsf{Set} は表現可能で、(M⊗AN,⊗)(M \otimes_A N, \otimes) がその普遍元である。
  2. 準同型 α:M→M′\alpha : M \to M'、β:N→N′\beta : N \to N' に、m⊗n↦α(m)⊗β(n)m \otimes n \mapsto \alpha(m) \otimes \beta(n) を満たすただ一つの準同型 α⊗β\alpha \otimes \beta を対応させると、⊗:ModA×ModA→ModA\otimes : \mathsf{Mod}_A \times \mathsf{Mod}_A \to \mathsf{Mod}_A は双関手であり、全単射 Hom⁡A(M⊗N,P)≅Bil⁡(M,N;P)\operatorname{Hom}_A(M \otimes N, P) \cong \operatorname{Bil}(M, N; P) は M,N,PM, N, P について自然である。
証明(命題 6.1)

1: テンソル積の定義(定義 2.1[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])の普遍性は、(M⊗N,⊗)(M \otimes N, \otimes) が Bil⁡(M,N;−)\operatorname{Bil}(M, N; -) の普遍元である(定義 4.1)という主張そのもので、存在は 定理 2.2[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] による。

2: C=ModAop\mathcal{C} = \mathsf{Mod}_A^{\mathrm{op}}、D=(ModA×ModA)op\mathcal{D} = (\mathsf{Mod}_A \times \mathsf{Mod}_A)^{\mathrm{op}} とし、F:Cop×D→SetF : \mathcal{C}^{\mathrm{op}} \times \mathcal{D} \to \mathsf{Set} を F(P,(M,N))=Bil⁡(M,N;P)F(P, (M, N)) = \operatorname{Bil}(M, N; P) とおく。1 により各 (M,N)(M, N) で F(−,(M,N))F(-, (M, N)) は C\mathcal{C} 上の前層として表現可能で、普遍元は (M⊗N,⊗)(M \otimes N, \otimes)。命題 5.1 により R(M,N)=M⊗NR(M, N) = M \otimes N は関手 D→C\mathcal{D} \to \mathcal{C}、すなわち共変関手 ModA×ModA→ModA\mathsf{Mod}_A \times \mathsf{Mod}_A \to \mathsf{Mod}_A になり、全単射は自然である。R(α,β)R(\alpha, \beta) は、命題の 1 の条件を書き下すと R(α,β)∘⊗=⊗∘(α×β)R(\alpha, \beta) \circ \otimes = \otimes \circ (\alpha \times \beta)、すなわち m⊗n↦α(m)⊗β(n)m \otimes n \mapsto \alpha(m) \otimes \beta(n) を満たすただ一つの準同型で、α⊗β\alpha \otimes \beta に一致する。

有限次元ベクトル空間のテンソル積(定義 3.1[テンソル積と外積代数]、存在は 定理 3.2[テンソル積と外積代数])も同じ議論で双関手になります。α⊗β\alpha \otimes \beta が well-defined で (α′α)⊗(β′β)=(α′⊗β′)(α⊗β)(\alpha'\alpha) \otimes (\beta'\beta) = (\alpha' \otimes \beta')(\alpha \otimes \beta) を満たすことを、ここでは純テンソルの計算をせずに得ている点に注目してください。関手性は表現対象の一意性から自動的に出てきます。

演習 7.1易

圏 [1]={0→1}[1] = \{0 \to 1\} 上の前層 FF を、F(1)={a,b}F(1) = \{a, b\}、F(0)={x,y,z}F(0) = \{x, y, z\}、射 0→10 \to 1 が誘導する写像 F(1)→F(0)F(1) \to F(0) を a↦xa \mapsto x、b↦xb \mapsto x で定める。自然変換 h0⇒Fh_0 \Rightarrow F と h1⇒Fh_1 \Rightarrow F はそれぞれ何個あるか。

解答

定理 3.1 により ∣Nat⁡(h0,F)∣=∣F(0)∣=3|\operatorname{Nat}(h_0, F)| = |F(0)| = 3、∣Nat⁡(h1,F)∣=∣F(1)∣=2|\operatorname{Nat}(h_1, F)| = |F(1)| = 2 です。直接確かめると、h1(1)={id1}h_1(1) = \{\mathrm{id}_1\}、h1(0)={0→1}h_1(0) = \{0 \to 1\} なので、自然変換 h1⇒Fh_1 \Rightarrow F は id1\mathrm{id}_1 の行き先 c∈F(1)c \in F(1) を決めれば、自然性から 0→10 \to 1 の行き先が cc の像 xx に決まります。h0(1)=∅h_0(1) = \varnothing、h0(0)={id0}h_0(0) = \{\mathrm{id}_0\} なので、自然変換 h0⇒Fh_0 \Rightarrow F は id0\mathrm{id}_0 の行き先を F(0)F(0) から自由に選ぶだけです。

演習 7.2標準

集合 XX に XX 上の同値関係全体 E(X)E(X) を対応させ、写像 f:X→Yf : X \to Y に「YY 上の同値関係 ∼\sim を x∼′x′  ⟺  f(x)∼f(x′)x \sim' x' \iff f(x) \sim f(x') で引き戻す」写像 E(f):E(Y)→E(X)E(f) : E(Y) \to E(X) を対応させる。EE は Set\mathsf{Set} 上の前層であるが、表現可能でないことを示せ。

解答

∼′\sim' が同値関係であることと E(gf)=E(f)E(g)E(gf) = E(f)E(g) は定義から確かめられます。E≅hRE \cong h_R とすると、1 点集合 11 について ∣R∣=∣Hom⁡(1,R)∣=∣E(1)∣=1|R| = |\operatorname{Hom}(1, R)| = |E(1)| = 1 なので RR は 1 点集合で、どの XX についても ∣Hom⁡(X,R)∣=1|\operatorname{Hom}(X, R)| = 1 です。しかし 2 点集合 22 には相等関係と全関係の 2 つの同値関係があり、∣E(2)∣=2|E(2)| = 2 です。これは矛盾です。

演習 7.3標準

正の整数 nn について、関手 Tn:Grp→SetT_n : \mathsf{Grp} \to \mathsf{Set}、Tn(G)={g∈G∣gn=e}T_n(G) = \{g \in G \mid g^{n} = e\}(準同型は制限で作用する)が Z/nZ\mathbb{Z}/n\mathbb{Z} で表現されることを示し、普遍元を答えよ。

解答

普遍元は 1ˉ∈Tn(Z/n)\bar 1 \in T_n(\mathbb{Z}/n) です。gn=eg^{n} = e を満たす g∈Gg \in G について、φ:Z→G\varphi : \mathbb{Z} \to G、k↦gkk \mapsto g^{k} は準同型で(命題 4.4 の 1)、nZ⊆Ker⁡φn\mathbb{Z} \subseteq \operatorname{Ker}\varphi です。商群の普遍性(定理 7.1[群の準同型定理])から φˉ(kˉ)=gk\bar\varphi(\bar k) = g^{k} となる準同型 φˉ:Z/n→G\bar\varphi : \mathbb{Z}/n \to G がただ一つあり、φˉ(1ˉ)=g\bar\varphi(\bar 1) = g です。1ˉ\bar 1 の行き先を決めた準同型は Z/n\mathbb{Z}/n が 1ˉ\bar 1 で生成されることから一意です。命題 4.2 により Tn≅hZ/nT_n \cong h^{\mathbb{Z}/n} です。

演習 7.4難

位相空間 XX に開集合全体 O(X)\mathcal{O}(X) を、連続写像 ff に逆像 U↦f−1(U)U \mapsto f^{-1}(U) を対応させる前層 O:Topop→Set\mathcal{O} : \mathsf{Top}^{\mathrm{op}} \to \mathsf{Set} が表現可能であることを示せ。さらに、O\mathcal{O} の自己同型(自然同型 O⇒O\mathcal{O} \Rightarrow \mathcal{O})は恒等変換だけであることを示せ。

解答

S={0,1}S = \{0, 1\} に開集合系 {∅,{1},S}\{\varnothing, \{1\}, S\} を入れた空間(Sierpiński 空間)を考えます。写像 φ:X→S\varphi : X \to S が連続であることは φ−1({1})\varphi^{-1}(\{1\}) が開集合であることと同値なので、開集合 UU に対し、その特性関数が φ−1({1})=U\varphi^{-1}(\{1\}) = U を満たすただ一つの連続写像です。よって (S,{1})(S, \{1\}) が O\mathcal{O} の普遍元で(命題 4.2)、O≅hS\mathcal{O} \cong h_S です。

O\mathcal{O} の自己同型は hSh_S の自己同型に対応し、系 3.4 によりそれは SS の自己同相 ff による hfh_f です。SS の全単射は恒等写像と 0↔10 \leftrightarrow 1 の入れ替え τ\tau だけで、τ−1({1})={0}\tau^{-1}(\{1\}) = \{0\} は開集合でないので τ\tau は連続ではありません。よって f=idf = \mathrm{id} で、自己同型は恒等変換だけです。たとえば「開集合を補集合の内部に送る」操作は、各 XX で O(X)\mathcal{O}(X) の写像を与えますが、自然な全単射にはなりえないことが分かります。

  • S. Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, 1998 — 第 III 章(普遍射・米田の補題)。
  • E. Riehl, Category Theory in Context, Dover, 2016 — 第 2 章(普遍性・表現可能性・米田の補題)。
  • M. Kashiwara, P. Schapira, Categories and Sheaves, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 332, Springer, 2006 — 第 1 章(米田の補題と表現可能関手)。
  • S. Awodey, Category Theory, 2nd ed., Oxford University Press, 2010 — 第 8 章。
  • T. Leinster, Basic Category Theory, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 143, Cambridge University Press, 2014 — 第 4 章(表現可能関手)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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