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射影対象・入射対象と Grothendieck 圏:十分な入射対象と入射包

対象読者: 本テーマ前章のアーベル圏と、可換環論の平坦・射影・入射加群(Baer の判定法)を学んだ人。Grothendieck 圏は仮定しません。

前提となる記事:加法圏とアーベル圏:像分解から「元」による図式追跡まで、テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群:Baer の判定法から忠実平坦まで

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加群の世界では、どの加群も自由加群の商になり、また入射加群の中に埋め込めるので、Tor や Ext を作る足場がありました。この記事は、元を取り出せない一般のアーベル圏(たとえば層の圏)でも、同じ足場がどこまで作れるかを調べます。読み終えると、どんな条件があれば「どの対象も入射対象に埋め込める」と言えるのか、その仕組みが分かります。

  • アーベル圏の対象 PP が射影対象であるとは、epi に沿って射が持ち上がることで、これは Hom⁡(P,−)\operatorname{Hom}(P, -) が完全であることと同値です。双対に入射対象は Hom⁡(−,I)\operatorname{Hom}(-, I) が完全な対象で、反対圏に移ると射影と入射が入れ替わります。
  • 随伴 F⊣GF \dashv G があると、左随伴 FF は右完全、右随伴 GG は左完全です。さらに FF が完全なら GG は入射対象を保ち、GG が完全なら FF は射影対象を保ちます。導来関手を随伴で比べるときの基本道具です。
  • ModA\mathsf{Mod}_A は十分に射影対象と入射対象をもちます(可換環論の既存の結果を圏の言葉で読み直す)。一方、有限 Abel 群の圏には 00 以外の射影対象がありません。
  • 生成子(その対象からの射で、射が 00 かどうかを試せる対象)をもち、フィルター余極限が完全(AB5。順序のそろった族の余極限を取る操作が、完全列を完全列に写すこと)なアーベル圏を Grothendieck 圏といいます。ModA\mathsf{Mod}_A と関手圏 [C,ModA][\mathcal C, \mathsf{Mod}_A] はその例で、Abel 群の層の圏もそうです。
  • Grothendieck 圏では、入射性を「生成子の部分対象からの延長」だけで判定でき(Baer 型の判定法)、正則基数の長さの超限的な押し出しの列(順序数を添字にして、押し出しを何度も繰り返す構成)で、どの対象も入射対象に埋め込めます。さらに入射包が同型を除いて一意に存在し、入射余生成子があります。Ab\mathsf{Ab} の入射余生成子の代表は Q/Z\mathbb Q/\mathbb Z です。

可換環論では、射影加群と入射加群を定め、どの加群も自由加群の商であり、入射加群の部分加群であることを示しました(テンソル積・平坦性・射影加群と入射加群)。この二つの事実が、射影分解・入射分解の存在、したがって Tor と Ext の定義を支えていました(Tor・Ext と深さ)。

導来関手を一般のアーベル圏で定義するには、同じことが要ります。左完全関手 FF の右導来関手は「入射分解を取って FF を施し、コホモロジーを取る」ことで定義するので、まずどの対象も入射対象に埋め込めることが必要です。代数幾何で層のコホモロジーを大域切断関手の右導来関手として定義するとき、舞台は Abel 群の層の圏で、そこには自由加群に当たるものが乏しく、射影対象は一般に十分にありません。しかし入射対象は十分にあります。その理由を一般的に説明するのが、Grothendieck が 1957 年の論文で導入した AB 条件と、この章の主定理 定理 7.3 です。

加群の場合の証明は、Q/Z\mathbb Q/\mathbb Z が入射的であることと、余誘導加群 Hom⁡Z(A,Q/Z)\operatorname{Hom}_{\mathbb Z}(A, \mathbb Q/\mathbb Z) を使う「具体的な」ものでした。層の圏ではこの具体的な構成が使えないので、方針を変えます。

  1. 入射性を、ある一つの対象 UU(生成子)の部分対象からの延長だけで判定できるようにする(Baer の判定法の一般化)。
  2. 延長できない状況を押し出しで一斉に解消する操作を、十分長い順序数の長さだけ繰り返す。長さを正則基数に取ると、どの延長問題もどこかの段階で解消済みになる。

2 の議論で、フィルター余極限の完全性(AB5)が「繰り返しの極限で単射性が保たれる」ことを保証し、正則基数の性質が「部分対象の上昇列がどこかで止まる」ことを保証します。集合論(順序数・基数・共終数)が本質的に使われる、ホモロジー代数では珍しい場面です。

以下 A,B\mathcal A, \mathcal B はアーベル圏(定義 4.1[加法圏とアーベル圏])で、Hom はすべて小さい集合とします。核・余核・像、完全列、左完全・右完全・完全関手は 加法圏とアーベル圏 の章の意味です。射の合成 g∘fg \circ f を gfgf と書きます。余積は ⨁λXλ\bigoplus_{\lambda} X_\lambda、その標準的な入射を inλ\mathrm{in}_\lambda と書き、射の族 fλ ⁣:Xλ→Yf_\lambda\colon X_\lambda \to Y が誘導する射を [fλ]λ ⁣:⨁λXλ→Y[f_\lambda]_\lambda\colon \bigoplus_\lambda X_\lambda \to Y と書きます。同じ対象 UU の SS 個の余積を U(S)U^{(S)} と書きます。

部分対象。 対象 XX への mono j ⁣:K→Xj\colon K \to X と j′ ⁣:K′→Xj'\colon K' \to X について、j=j′tj = j't となる tt があるとき j≤j′j \le j' と書きます。j′j' が mono なので tt は一意で、tt 自身も mono です。j≤j′≤jj \le j' \le j のとき tt は同型で(j′=jt′j' = jt' とすると j=jt′tj = jt't、j′=j′tt′j' = j'tt' と mono 性から t′t=1t't = 1、tt′=1tt' = 1)、このとき jj と j′j' は同じ部分対象を表すといいます(定義 7.3[極限と余極限])。部分対象の全体を Sub⁡(X)\operatorname{Sub}(X) と書くと、≤\le はその上の半順序です。部分対象 j ⁣:K→Xj\colon K \to X に対し、余核 πK=coker⁡j ⁣:X→X/K\pi_K = \operatorname{coker} j\colon X \to X/K を商と呼びます。命題 4.3[加法圏とアーベル圏] の (1) により j=ker⁡πKj = \ker \pi_K なので、KK は πK\pi_K から復元できます。

次の事実は、加群でいえば「写像の像は、それを含む部分加群のどれにも収まる」ことの言い換えで、後の証明で何度も使います。

像は最小の部分対象。 射 f ⁣:Y→Xf\colon Y \to X が mono jj を経由する(f=jgf = jg)なら、im⁡f≤j\operatorname{im} f \le j です。実際 g=meg = me を像分解すると f=(jm)ef = (jm)e は mono と epi への分解なので、定理 4.4[加法圏とアーベル圏] の (3) により im⁡f\operatorname{im} f は jm≤jjm \le j と同じ部分対象です。この事実を以下で何度も使います。

定義 3.1(射影対象・入射対象)↗

A\mathcal A をアーベル圏とする。

  1. 対象 PP が射影対象(射影的)であるとは、任意の epi g ⁣:B→Cg\colon B \to C と任意の射 φ ⁣:P→C\varphi\colon P \to C に対し、gψ=φg\psi = \varphi を満たす ψ ⁣:P→B\psi\colon P \to B が存在することをいう。
  2. 対象 II が入射対象(入射的)であるとは、任意の mono i ⁣:A→Bi\colon A \to B と任意の射 φ ⁣:A→I\varphi\colon A \to I に対し、ψi=φ\psi i = \varphi を満たす ψ ⁣:B→I\psi\colon B \to I が存在することをいう。

ψ\psi の一意性は要求しません。射影対象は「epi の向こうへ持ち上がる」、入射対象は「mono の外へ延びる」対象です。矢印を逆にすると mono と epi が入れ替わるので(命題 4.2[加法圏とアーベル圏])、II が A\mathcal A の入射対象であることと、II が反対圏 Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} の射影対象であることは、定義を書き下しただけで同値です。

命題 3.2(射影対象と Hom の完全性)✓

A\mathcal A をアーベル圏、PP をその対象とする。次は同値である。

  1. PP は射影対象である。
  2. Hom⁡(P,−) ⁣:A→Ab\operatorname{Hom}(P, -)\colon \mathcal A \to \mathsf{Ab} は epi を全射に写す。
  3. Hom⁡(P,−)\operatorname{Hom}(P, -) は完全関手である。
  4. PP への epi q ⁣:Q→Pq\colon Q \to P はすべて分裂する(qs=1Pqs = 1_P となる ss がある)。

双対に、対象 II について次は同値である:II は入射対象、Hom⁡(−,I)\operatorname{Hom}(-, I) は完全(すなわち A\mathcal A の短完全列 0→A′→A→A′′→00 \to A' \to A \to A'' \to 0 を短完全列 0→Hom⁡(A′′,I)→Hom⁡(A,I)→Hom⁡(A′,I)→00 \to \operatorname{Hom}(A'', I) \to \operatorname{Hom}(A, I) \to \operatorname{Hom}(A', I) \to 0 に写す)、II からの mono はすべて分裂する。さらに、II が A\mathcal A の入射対象であることと Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} の射影対象であることは同値である。

証明(命題 3.2)

(1 ⇔ 2) g∗=g∘− ⁣:Hom⁡(P,B)→Hom⁡(P,C)g_* = g \circ -\colon \operatorname{Hom}(P, B) \to \operatorname{Hom}(P, C) が全射であることは、定義の持ち上げ ψ\psi の存在そのものです。

(2 ⇒ 3) 命題 5.5[加法圏とアーベル圏] により Hom⁡(P,−)\operatorname{Hom}(P, -) は左完全な加法関手です。短完全列 0→A′→A→gA′′→00 \to A' \to A \xrightarrow{g} A'' \to 0 を写すと、左完全性から 0→Hom⁡(P,A′)→Hom⁡(P,A)→Hom⁡(P,A′′)0 \to \operatorname{Hom}(P, A') \to \operatorname{Hom}(P, A) \to \operatorname{Hom}(P, A'') が完全で、gg は epi(補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の (2))なので (2) により g∗g_* は全射です。よって短完全列が短完全列に写り、命題 5.4[加法圏とアーベル圏] の (3) により完全です。

(3 ⇒ 2) epi g ⁣:B→Cg\colon B \to C は ker⁡g\ker g の余核なので(命題 4.3[加法圏とアーベル圏] の (1))、0→Ker⁡g→B→gC→00 \to \operatorname{Ker} g \to B \xrightarrow{g} C \to 0 は短完全列です(補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の (2))。完全関手で写すと g∗g_* は全射です。

(1 ⇒ 4) epi qq に沿って 1P1_P を持ち上げます。

(4 ⇒ 1) epi g ⁣:B→Cg\colon B \to C と φ ⁣:P→C\varphi\colon P \to C を取り、gg と φ\varphi の引き戻し q1 ⁣:Q→Bq_1\colon Q \to B、q2 ⁣:Q→Pq_2\colon Q \to P(gq1=φq2gq_1 = \varphi q_2)を作ります。命題 4.5[加法圏とアーベル圏] の (2) により q2q_2 は epi なので、(4) により q2s=1Pq_2s = 1_P となる ss があります。ψ=q1s\psi = q_1s とおくと gψ=gq1s=φq2s=φg\psi = gq_1s = \varphi q_2s = \varphi です。

双対。 定義の直後に述べたとおり、II が A\mathcal A で入射的であることと Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} で射影的であることは同値です。Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} はアーベル圏で(命題 4.2[加法圏とアーベル圏])、Hom⁡A(−,I)=Hom⁡Aop(I,−)\operatorname{Hom}_{\mathcal A}(-, I) = \operatorname{Hom}_{\mathcal A^{\mathrm{op}}}(I, -) です。A\mathcal A の短完全列は矢印を逆にすると Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} の短完全列です(補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の (3))。したがって入射対象の主張は、射影対象の主張を Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} に適用したものです。

(4 ⇒ 1) の証明は、持ち上げ問題を「PP への epi の分裂」に帰着させています。加群では、(4) は「PP は自由加群の直和因子」と言い換えられました(定理 3.3[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])。一般のアーベル圏には自由対象が無いので、この言い換えはありません。

命題 3.3(射影対象の直和と直和因子)✓

A\mathcal A をアーベル圏とする。

  1. 射影対象の族 (Pλ)λ∈Λ(P_\lambda)_{\lambda \in \Lambda} の余積 ⨁λPλ\bigoplus_\lambda P_\lambda が存在すれば、それは射影対象である。
  2. 射影対象 PP のレトラクト(rs=1P′rs = 1_{P'} を満たす s ⁣:P′→Ps\colon P' \to P、r ⁣:P→P′r\colon P \to P' があるときの P′P')は射影対象である。とくに P⊕P′P \oplus P' が射影的であることと、PP と P′P' がともに射影的であることは同値である。

双対に、入射対象の族の積は(存在すれば)入射対象であり、入射対象のレトラクトは入射対象である。

証明(命題 3.3)

(1) epi g ⁣:B→Cg\colon B \to C と φ ⁣:⨁Pλ→C\varphi\colon \bigoplus P_\lambda \to C を取ります。各 λ\lambda で φ inλ\varphi\,\mathrm{in}_\lambda を ψλ ⁣:Pλ→B\psi_\lambda\colon P_\lambda \to B に持ち上げ、ψ=[ψλ]λ\psi = [\psi_\lambda]_\lambda とおくと、gψ inλ=gψλ=φ inλg\psi\,\mathrm{in}_\lambda = g\psi_\lambda = \varphi\,\mathrm{in}_\lambda がすべての λ\lambda で成り立つので、余積の普遍性の一意性から gψ=φg\psi = \varphi です。

(2) φ ⁣:P′→C\varphi\colon P' \to C に対し、φr ⁣:P→C\varphi r\colon P \to C を ψ ⁣:P→B\psi\colon P \to B に持ち上げると g(ψs)=φrs=φg(\psi s) = \varphi rs = \varphi です。双積 P⊕P′P \oplus P' の入射・射影は PP と P′P' をレトラクトとして示すので、(1) と合わせて同値が出ます(双積は余積です。命題 3.3[加法圏とアーベル圏] の (1))。

双対の主張は、命題 3.2 の最後の主張により、Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} で (1)・(2) を適用したものです(Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} の余積は A\mathcal A の積です)。

定義 3.4(十分に射影対象・入射対象をもつ)↗

アーベル圏 A\mathcal A が十分に射影対象をもつとは、任意の対象 XX に対し、射影対象 PP と epi P→XP \to X が存在することをいう。双対に、任意の対象 XX に対し、入射対象 II と mono X→IX \to I が存在するとき、十分に入射対象をもつという。

十分に射影対象があれば、P0→XP_0 \to X の核に再び射影対象から epi を当て、と続けて射影分解 ⋯→P1→P0→X→0\cdots \to P_1 \to P_0 \to X \to 0 が作れます。この構成とその一意性(比較定理)は「導来関手と δ 関手」の章で扱います。

例 3.5(有限 Abel 群の圏には射影対象が乏しい)

有限 Abel 群のなす Ab\mathsf{Ab} の充満部分圏 Abfin\mathsf{Ab}_{\mathrm{fin}} は、Ab\mathsf{Ab} での核・余核が有限群なのでアーベル圏です(例 4.7[加法圏とアーベル圏] と同じ理由)。この圏の射影対象は 00 だけです。

実際、P≠0P \ne 0 を有限 Abel 群とし、素数 pp を ∣P∣|P| の約数とします。Cauchy の定理により PP は位数 pp の元をもつので、pp 倍写像 P→PP \to P は単射でなく、PP は有限なので全射でもありません。よって P/pPP/pP は 00 でない Fp\mathbb F_p ベクトル空間なので、全射 φ ⁣:P→Z/p\varphi\colon P \to \mathbb Z/p があります。pN>∣P∣p^N > |P| となる NN を取り、全射 π ⁣:Z/pN→Z/p\pi\colon \mathbb Z/p^N \to \mathbb Z/p を考えます(全射は epi)。πψ=φ\pi\psi = \varphi となる ψ\psi があったとすると、φ(x)≠0\varphi(x) \ne 0 となる xx について ψ(x)∉p(Z/pN)\psi(x) \notin p(\mathbb Z/p^N)、すなわち ψ(x)\psi(x) は位数 pNp^N の元です。ところが ψ(x)\psi(x) の位数は xx の位数を割り、xx の位数は ∣P∣|P| 以下で ∣P∣<pN|P| < p^N なので矛盾です。

したがって、X≠0X \ne 0 に対して射影対象からの epi 0→X0 \to X は存在せず、Abfin\mathsf{Ab}_{\mathrm{fin}} は十分な射影対象をもちません。Z\mathbb Z のような「自由な」対象が圏から外れたことが原因です。

例 3.6(Z/n 加群の圏で Z/n は入射的)

n≥1n \ge 1 とし、可換環 R=Z/nR = \mathbb Z/n 上の加群の圏 ModR\mathsf{Mod}_R を考えます。RR 自身は入射対象です。Baer の判定法(定理 3.5[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])により、イデアル a⊆R\mathfrak a \subseteq R からの準同型 φ ⁣:a→R\varphi\colon \mathfrak a \to R が RR 全体に延びることを確かめれば十分です。RR のイデアルは nn の約数 dd について a=dR\mathfrak a = dR の形で、φ\varphi は y=φ(dˉ)y = \varphi(\bar d) で決まります。(n/d)dˉ=0(n/d)\bar d = 0 なので (n/d)y=0(n/d)y = 0、すなわち yy の代表元 y′y' について n∣(n/d)y′n \mid (n/d)y' で、d∣y′d \mid y' です。y′=dzy' = dz と書くと φ(adˉ)=adˉzˉ\varphi(a\bar d) = a\bar d \bar z なので、φ\varphi は 1↦zˉ1 \mapsto \bar z で定まる R→RR \to R に延びます。一方 Z\mathbb Z 加群としての Z/n\mathbb Z/n(n≥2n \ge 2)は可除でないので入射的ではありません(命題 3.6[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (1))。入射性は「どの圏で考えるか」に依存します。

この節では F ⁣:A→BF\colon \mathcal A \to \mathcal B と G ⁣:B→AG\colon \mathcal B \to \mathcal A をアーベル圏の間の関手とし、FF が GG の左随伴であるとします(F⊣GF \dashv G。定義 2.1[随伴関手と随伴関手定理])。すなわち全単射

θX,Y ⁣:Hom⁡B(FX,Y)→ ∼ Hom⁡A(X,GY)\theta_{X, Y}\colon \operatorname{Hom}_{\mathcal B}(FX, Y) \xrightarrow{\ \sim\ } \operatorname{Hom}_{\mathcal A}(X, GY)

が XX と YY について自然に与えられています。XX についての自然性は、u ⁣:X′→Xu\colon X' \to X と ψ ⁣:FX→Y\psi\colon FX \to Y について θ(ψ∘Fu)=θ(ψ)∘u\theta(\psi \circ Fu) = \theta(\psi) \circ u が成り立つことです。

随伴は反対圏に移すと向きが入れ替わります。Hom⁡Aop(GY,X)=Hom⁡A(X,GY)\operatorname{Hom}_{\mathcal A^{\mathrm{op}}}(GY, X) = \operatorname{Hom}_{\mathcal A}(X, GY)、Hom⁡Bop(Y,FX)=Hom⁡B(FX,Y)\operatorname{Hom}_{\mathcal B^{\mathrm{op}}}(Y, FX) = \operatorname{Hom}_{\mathcal B}(FX, Y) なので、θ−1\theta^{-1} は Gop ⁣:Bop→AopG^{\mathrm{op}}\colon \mathcal B^{\mathrm{op}} \to \mathcal A^{\mathrm{op}} が FopF^{\mathrm{op}} の左随伴であることを示す自然な全単射です(Gop⊣FopG^{\mathrm{op}} \dashv F^{\mathrm{op}})。以下、双対の主張はこの入れ替えで得ます。

命題 4.1(随伴と完全性)✓

アーベル圏の間の随伴 F⊣GF \dashv G(F ⁣:A→BF\colon \mathcal A \to \mathcal B)について次が成り立つ。

  1. FF と GG はともに加法関手である。
  2. GG は左完全であり、FF は右完全である。

証明の方針は、右随伴が極限(核は極限の一種)を保つことを使って GG の左完全性を示し、FF の側は反対圏に移して同じ議論をする、というものです。

証明(命題 4.1)

(1) 右随伴は極限を保ちます(定理 3.1[随伴関手と随伴関手定理])。B\mathcal B の零対象 00 は空図式の極限(終対象)なので G0G0 は A\mathcal A の終対象で、命題 3.3[加法圏とアーベル圏] の (3) により零対象です。したがって零射 Y→0→Y′Y \to 0 \to Y' は GY→G0→GY′GY \to G0 \to GY' に写り、零射です。次に (Y1⊕Y2,ik,pk)(Y_1 \oplus Y_2, i_k, p_k) を双積とします。命題 3.3[加法圏とアーベル圏] の (1) により (Y1⊕Y2,pk)(Y_1 \oplus Y_2, p_k) は積なので、(G(Y1⊕Y2),Gpk)(G(Y_1 \oplus Y_2), Gp_k) は GY1,GY2GY_1, GY_2 の積です。同じ命題の (2) により、この積は Gpl ik′=δlkGp_l\, i'_k = \delta_{lk} で定まる ik′i'_k によって双積になります。ところが Gpl Gik=G(δlk)=δlkGp_l\,Gi_k = G(\delta_{lk}) = \delta_{lk}(GG は恒等射と零射を保つ)なので Gik=ik′Gi_k = i'_k です。よって GG は 2 対象の双積を保ち、命題 3.7[加法圏とアーベル圏] により加法関手です。FF については、同じ定理により FF は余極限を保つので、始対象と余積について双対の議論をします(あるいは、FopF^{\mathrm{op}} が GopG^{\mathrm{op}} の右随伴であることに上の議論を適用します。加法性は反対圏に移しても変わりません)。

(2) g ⁣:A→A′′g\colon A \to A'' の核 kk は、gg と零射 00 の等化子です(定義 2.1[加法圏とアーベル圏])。GG は等化子を保つので、GkGk は GgGg と G0=0G0 = 0 の等化子、すなわち Gk=ker⁡(Gg)Gk = \ker(Gg) です。完全列 0→A′→fA→gA′′0 \to A' \xrightarrow{f} A \xrightarrow{g} A'' では f=ker⁡gf = \ker g なので(補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の (2))、Gf=ker⁡(Gg)Gf = \ker(Gg) となり、同じ判定から 0→GA′→GA→GA′′0 \to GA' \to GA \to GA'' は完全です。FF の右完全性は、FopF^{\mathrm{op}} が右随伴であることから FopF^{\mathrm{op}} が左完全であることを得て、補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の (3) で A\mathcal A の列に戻します。

命題 4.2(随伴は入射対象・射影対象を保つ)✓

アーベル圏の間の随伴 F⊣GF \dashv G(F ⁣:A→BF\colon \mathcal A \to \mathcal B)について次が成り立つ。

  1. FF が mono を保つなら(たとえば FF が完全なら)、GG は入射対象を入射対象に写す。
  2. GG が epi を保つなら(たとえば GG が完全なら)、FF は射影対象を射影対象に写す。
証明(命題 4.2)

(1) II を B\mathcal B の入射対象とし、mono i ⁣:X′→Xi\colon X' \to X と φ ⁣:X′→GI\varphi\colon X' \to GI を取ります。θ−1(φ) ⁣:FX′→I\theta^{-1}(\varphi)\colon FX' \to I は、仮定から mono である FiFi に沿って ψ ⁣:FX→I\psi\colon FX \to I に延び、ψ∘Fi=θ−1(φ)\psi \circ Fi = \theta^{-1}(\varphi) です。θ\theta の自然性から

θ(ψ)∘i=θ(ψ∘Fi)=φ\theta(\psi) \circ i = \theta(\psi \circ Fi) = \varphi

なので、θ(ψ) ⁣:X→GI\theta(\psi)\colon X \to GI が求める延長です。完全関手は mono を保ちます(命題 5.4[加法圏とアーベル圏] の (1))。

(2) Gop⊣FopG^{\mathrm{op}} \dashv F^{\mathrm{op}} に (1) を適用します。GopG^{\mathrm{op}} が Bop\mathcal B^{\mathrm{op}} の mono(B\mathcal B の epi)を保つので、FopF^{\mathrm{op}} は Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} の入射対象、すなわち A\mathcal A の射影対象(命題 3.2)を保ちます。

この命題は導来関手の比較に使います。たとえば GG の右導来関手を、完全な左随伴をもつ関手との合成で計算するとき、入射分解を GG で写したものが再び入射分解になることが鍵です(「導来関手と δ 関手」の章)。

例 4.3(係数の制限と二つの随伴)

ρ ⁣:A→B\rho\colon A \to B を可換環の準同型とし、係数の制限 ρ∗ ⁣:ModB→ModA\rho_*\colon \mathsf{Mod}_B \to \mathsf{Mod}_A(定義 2.4[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])を考えます。ρ∗\rho_* は台の加群と写像を変えないので、核・余核をそのまま保つ完全関手です。

  • 右随伴。AA 加群 MM に対し Hom⁡A(B,M)\operatorname{Hom}_A(B, M) を (bf)(b′)=f(b′b)(bf)(b') = f(b'b) で BB 加群とみなすと、g↦(n↦g(n)(1))g \mapsto (n \mapsto g(n)(1)) が自然な全単射 Hom⁡B(N,Hom⁡A(B,M))≅Hom⁡A(ρ∗N,M)\operatorname{Hom}_B(N, \operatorname{Hom}_A(B, M)) \cong \operatorname{Hom}_A(\rho_*N, M) を与えます(計算は 補題 3.8[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の Z→A\mathbb Z \to A の場合と同じです)。ρ∗⊣Hom⁡A(B,−)\rho_* \dashv \operatorname{Hom}_A(B, -) で ρ∗\rho_* は完全なので、命題 4.2 の (1) により、入射 AA 加群 II について Hom⁡A(B,I)\operatorname{Hom}_A(B, I) は入射 BB 加群です。A=ZA = \mathbb Z とすると、可換環論で入射加群を作るのに使った余誘導加群です。
  • 左随伴。係数の拡大 B⊗A−B \otimes_A - は ρ∗\rho_* の左随伴です(h↦(m↦h(1⊗m))h \mapsto (m \mapsto h(1 \otimes m)))。ρ∗\rho_* は epi を保つので、命題 4.2 の (2) により射影 AA 加群 PP について B⊗APB \otimes_A P は射影 BB 加群です。

また −⊗AN- \otimes_A N は Hom⁡A(N,−)\operatorname{Hom}_A(N, -) の左随伴なので(定理 2.6[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])、命題 4.1 からテンソル積の右完全性(定理 2.8[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])がもう一度得られます。

5. 加群の圏の射影対象と入射対象

Section titled “5. 加群の圏の射影対象と入射対象”

以下 AA は可換環で、ModA\mathsf{Mod}_A はアーベル圏です(命題 4.6[加法圏とアーベル圏])。

命題 5.1(加群の圏は十分に射影対象・入射対象をもつ)✓

AA を可換環とする。

  1. ModA\mathsf{Mod}_A の射影対象は射影 AA 加群(定義 3.1[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])と一致し、入射対象は入射 AA 加群(定義 3.4[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])と一致する。
  2. ModA\mathsf{Mod}_A は十分に射影対象をもつ。より強く、任意の AA 加群は自由加群からの epi を受ける。
  3. ModA\mathsf{Mod}_A は十分に入射対象をもつ。
証明(命題 5.1)

(1) 命題 4.6[加法圏とアーベル圏] の (2) により、ModA\mathsf{Mod}_A の epi は全射、mono は単射と同じものです。したがって 定義 3.1 の条件は射影加群・入射加群の定義の条件と文字どおり一致します。

(2) 命題 3.2[Tor・Ext と深さ] により任意の AA 加群 MM は自由分解をもち、とくに自由加群 F0F_0 からの全射 F0→MF_0 \to M があります。自由加群は射影的です(定理 3.3[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])。(1) によりこれは射影対象からの epi です。

(3) 定理 3.9[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] により MM はある入射加群 II の部分加群に同型で、包含と同型の合成 M→IM \to I は単射、すなわち mono です。(1) により II は入射対象です。

例 5.2(Ab の入射対象は可除群)

Ab=ModZ\mathsf{Ab} = \mathsf{Mod}_{\mathbb Z} では、命題 5.1 の (1) と 命題 3.6[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] により、入射対象とは可除 Abel 群のことです。Q\mathbb Q、Q/Z\mathbb Q/\mathbb Z、Z(p∞)\mathbb Z(p^\infty) は入射対象で、Z\mathbb Z や Z/n\mathbb Z/n(n≥2n \ge 2)はそうではありません。射影対象は自由 Abel 群の直和因子です(定理 3.3[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])。有限生成なら、PID 上の有限階数の自由加群の部分加群は自由なので(定理 3.1[加群と PID 上の構造定理])、自由 Abel 群そのものです。この圏では、可除群の商がまた可除なので、入射分解が長さ 11 で止まります(0→X→I0→I1→00 \to X \to I^0 \to I^1 \to 0)。

注意 5.3(可換環論の結果との関係)

命題 5.1 の証明は、可換環論で示した Baer の判定法(定理 3.5[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])と入射加群への埋め込み(定理 3.9[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群])をそのまま使っています。次の 2 節では、これらを一般の Grothendieck 圏に拡張します(補題 7.1、定理 7.3)。ModA\mathsf{Mod}_A は Grothendieck 圏なので(命題 6.7)、可換環論の二つの定理は一般論の特別な場合として読めますが、一般論の証明は可換環論の定理を使わず、逆に可換環論の証明も一般論を使わないので、循環はありません。

定義 6.1(生成子・余生成子)↗

A\mathcal A をアーベル圏とする。

  1. 対象の族 (Us)s∈S(U_s)_{s \in S}(SS は小さい集合)が生成集合であるとは、00 でない任意の射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y に対し、ある s∈Ss \in S と u ⁣:Us→Xu\colon U_s \to X で fu≠0fu \ne 0 となるものが存在することをいう。1 つの対象 UU からなる生成集合 {U}\{U\} を生成子という。
  2. 双対に、対象 QQ が余生成子であるとは、00 でない任意の射 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y に対し、gf≠0gf \ne 0 となる g ⁣:Y→Qg\colon Y \to Q が存在することをいう。

f≠f′f \ne f' を区別したいときは f−f′f - f' に適用します。つまり生成子とは「UU からの射で試せば、射が等しいかどうかが分かる」対象です。ModA\mathsf{Mod}_A では AA が生成子で、u ⁣:A→Xu\colon A \to X は XX の元 u(1)u(1) と同じものです。生成子は、元をもたない圏で元の代わりをする対象だといえます。

補題 6.2(余積から余極限へ)✓

アーベル圏 A\mathcal A が任意の小さい族の余積をもつとする。

  1. A\mathcal A は小さい余極限をすべてもつ(余完備)。
  2. II を小さい圏とし、各 F∈[I,A]F \in [I, \mathcal A] に余極限 (colim⁡F,ιiF)(\operatorname{colim} F, \iota^F_i) を一つずつ選ぶ。自然変換 α ⁣:F→F′\alpha\colon F \to F' に対し、colim⁡α∘ιiF=ιiF′αi\operatorname{colim}\alpha \circ \iota^F_i = \iota^{F'}_i \alpha_i(すべての ii)を満たす射 colim⁡α\operatorname{colim}\alpha がただ一つ存在し、colim⁡ ⁣:[I,A]→A\operatorname{colim}\colon [I, \mathcal A] \to \mathcal A は加法関手になる。
  3. 空でない有向集合 JJ(任意の 2 元が上界をもつ半順序集合)を圏とみなすと、JJ はフィルター圏(定義 6.1[極限と余極限])である。JJ 上の定値図式 ΔX\Delta X(値がすべて XX、射がすべて 1X1_X)の余極限は、XX と恒等射の族である。
証明(補題 6.2)

(1) f,g ⁣:A→Bf, g\colon A \to B について、yf=ygyf = yg と y(f−g)=0y(f - g) = 0 は同値なので、coker⁡(f−g)\operatorname{coker}(f - g) は f,gf, g の余等化子です。小さい余積と余等化子があれば小さい余極限がすべて作れます(定理 3.1[極限と余極限] の双対)。

(2) (ιiF′αi)i(\iota^{F'}_i\alpha_i)_i は FF 上の余錐なので(ιi′F′αi′F(a)=ιi′F′F′(a)αi=ιiF′αi\iota^{F'}_{i'}\alpha_{i'}F(a) = \iota^{F'}_{i'}F'(a)\alpha_i = \iota^{F'}_i\alpha_i)、余極限の普遍性から colim⁡α\operatorname{colim}\alpha がただ一つ定まります。合成と恒等射を保つこと、colim⁡(α+β)=colim⁡α+colim⁡β\operatorname{colim}(\alpha + \beta) = \operatorname{colim}\alpha + \operatorname{colim}\beta は、両辺に ιiF\iota^F_i を右から合成すると一致することと、普遍性の一意性から従います。

(3) JJ は空でなく、任意の i,ji, j に上界 kk があります。半順序集合では 2 対象の間の射は高々一つなので、平行な射 u,v ⁣:i→ju, v\colon i \to j は等しく、1j1_j で等化されます。よってフィルター圏の 3 条件を満たします(定義 6.1[極限と余極限] の直後で述べられているのと同じ確認です)。ΔX\Delta X 上の余錐 (cj ⁣:X→Y)j(c_j\colon X \to Y)_j では、j≤kj \le k について cj=ck∘1X=ckc_j = c_k \circ 1_X = c_k なので、上界を経由して cj=cj′c_j = c_{j'} がすべての j,j′j, j' で成り立ちます。この共通の射を cc とすると、c∘1X=cjc \circ 1_X = c_j を満たす射は cc だけです。

定義 6.3(AB3・AB4・AB5 の条件)↗

A\mathcal A をアーベル圏とする。

  1. (AB3)任意の小さい族が余積をもつ。
  2. (AB4)AB3 を満たし、小さい族の mono ιλ ⁣:Xλ→Yλ\iota_\lambda\colon X_\lambda \to Y_\lambda の余積 ⨁λιλ ⁣:⨁λXλ→⨁λYλ\bigoplus_\lambda \iota_\lambda\colon \bigoplus_\lambda X_\lambda \to \bigoplus_\lambda Y_\lambda(inλιλ\mathrm{in}_\lambda\iota_\lambda の誘導する射)が mono である。
  3. (AB5)AB3 を満たし、任意の小さいフィルター圏 II について、補題 6.2 の (2) の関手 colim⁡ ⁣:[I,A]→A\operatorname{colim}\colon [I, \mathcal A] \to \mathcal A が完全である。

[I,A][I, \mathcal A] はアーベル圏で(命題 5.7[加法圏とアーベル圏])、完全性は余極限の選び方によらない。Aop\mathcal A^{\mathrm{op}} がこれらを満たすとき、A\mathcal A は AB3*・AB4*・AB5* を満たすという。

定義 6.4(Grothendieck 圏)↗

AB5 を満たし、生成子をもつアーベル圏を Grothendieck 圏という。

次の補題は、証明の中で「部分対象の増大列の合併」を作るための道具です。加群なら部分加群の合併を取るだけの操作を、元のない圏では余極限で行い、それが単射性や核と交換することを AB5 で保証します。

次の補題が、この章で AB5 を使う形のすべてです。部分対象の「和」が、有向な族については余極限と一致し、核を取る操作と交換します。

補題 6.5(有向な部分対象の族と AB5)✓

A\mathcal A を AB5 を満たすアーベル圏、EE をその対象、JJ を空でない有向集合とする。EE の部分対象の族 (jk ⁣:Kk→E)k∈J(j_k\colon K_k \to E)_{k \in J} が有向である(k≤k′k \le k' なら jk=jk′tkk′j_k = j_{k'}t_{kk'})とする。tkk′t_{kk'} は一意なので K ⁣:J→AK\colon J \to \mathcal A は関手になる。

  1. ιk ⁣:Kk→colim⁡K\iota_k\colon K_k \to \operatorname{colim} K を余極限とし、cιk=jkc\iota_k = j_k で定まる c ⁣:colim⁡K→Ec\colon \operatorname{colim}K \to E は mono である。cc の表す部分対象を ∑kKk\sum_k K_k と書くと、これは各 KkK_k を含む部分対象のうち最小のものである。
  2. 任意の射 h ⁣:H→Eh\colon H \to E について、Lk=ker⁡(πKkh)L_k = \ker(\pi_{K_k}h) は HH の部分対象の有向な族で、∑kLk=ker⁡(π∑Kh)\sum_k L_k = \ker(\pi_{\sum K}h) である。とくに、(a) すべての kk で πKkh\pi_{K_k}h が mono なら π∑Kh\pi_{\sum K}h も mono であり、(b) ∑kKk=E\sum_k K_k = E なら ∑kLk=H\sum_k L_k = H である。
  3. A\mathcal A は AB4 を満たす。
証明(補題 6.5)

補題 6.2 の (3) により JJ はフィルター圏なので、AB5 により colim⁡ ⁣:[J,A]→A\operatorname{colim}\colon [J, \mathcal A] \to \mathcal A は完全です。

(1) j=(jk)kj = (j_k)_k は KK から定値関手 ΔE\Delta E への自然変換で、各成分が mono なので [J,A][J, \mathcal A] で mono です(命題 5.7[加法圏とアーベル圏])。完全関手は mono を保つので(命題 5.4[加法圏とアーベル圏] の (1))、colim⁡j\operatorname{colim} j は mono です。補題 6.2 の (3) により colim⁡ΔE=E\operatorname{colim}\Delta E = E(恒等射の族)なので colim⁡j=c\operatorname{colim} j = c です。jk=cιkj_k = c\iota_k なので Kk≤∑KK_k \le \sum K です。mono j′j' がすべての jkj_k を jk=j′skj_k = j's_k と経由するなら、j′j' の mono 性から (sk)(s_k) は余錐で、sιk=sks\iota_k = s_k となる ss について j′sιk=cιkj's\iota_k = c\iota_k、よって j′s=cj's = c です。

(2) πk=πKk\pi_k = \pi_{K_k} とおきます。k≤k′k \le k' なら πk′jk=πk′jk′tkk′=0\pi_{k'}j_k = \pi_{k'}j_{k'}t_{kk'} = 0 なので πk′=qkk′πk\pi_{k'} = q_{kk'}\pi_k となる qkk′q_{kk'} がただ一つあり、商 Qk=E/KkQ_k = E/K_k は関手 QQ をなします。各 kk で 0→Kk→E→Qk→00 \to K_k \to E \to Q_k \to 0 は短完全列なので、0→K→ΔE→Q→00 \to K \to \Delta E \to Q \to 0 は [J,A][J, \mathcal A] の短完全列です(同じく各点で判定できます)。colim⁡\operatorname{colim} で写すと 0→colim⁡K→cE→πˉcolim⁡Q→00 \to \operatorname{colim} K \xrightarrow{c} E \xrightarrow{\bar\pi} \operatorname{colim} Q \to 0 が完全なので、πˉ=colim⁡π\bar\pi = \operatorname{colim}\pi は cc の余核、すなわち同型を除いて π∑K\pi_{\sum K} です(補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の (2))。次に lk=ker⁡(πkh)l_k = \ker(\pi_kh) とおくと、πk′h=qkk′πkh\pi_{k'}h = q_{kk'}\pi_kh から πk′hlk=0\pi_{k'}hl_k = 0 なので Lk≤Lk′L_k \le L_{k'} で、0→L→ΔH→πhQ0 \to L \to \Delta H \xrightarrow{\pi h} Q は [J,A][J, \mathcal A] の完全列です。colim⁡\operatorname{colim} で写すと 0→colim⁡L→H→πˉhcolim⁡Q0 \to \operatorname{colim}L \to H \xrightarrow{\bar\pi h} \operatorname{colim}Q が完全で(命題 5.4[加法圏とアーベル圏] の (1))、colim⁡L→H\operatorname{colim}L \to H は (1) により ∑Lk\sum L_k を表す mono です。よって ∑Lk=ker⁡(πˉh)=ker⁡(π∑Kh)\sum L_k = \ker(\bar\pi h) = \ker(\pi_{\sum K}h) です。(a) すべての LkL_k が 00 なら colim⁡L=0\operatorname{colim}L = 0 で、ker⁡(π∑Kh)=0\ker(\pi_{\sum K}h) = 0 です。(b) cc が同型なら π∑K=0\pi_{\sum K} = 0 で、その核は 1H1_H です。

(3) 小さい族 ιλ ⁣:Xλ→Yλ\iota_\lambda\colon X_\lambda \to Y_\lambda(λ∈Λ\lambda \in \Lambda)を取ります。有限部分集合 F⊆ΛF \subseteq \Lambda 全体は包含で空でない有向集合で、有限双積 XF=⨁λ∈FXλX_F = \bigoplus_{\lambda \in F}X_\lambda は包含の誘導する射で関手をなします。その余極限は ⨁ΛXλ\bigoplus_\Lambda X_\lambda です(余錐 XF→ZX_F \to Z の族は、射の族 Xλ→ZX_\lambda \to Z と一対一に対応します)。有限の ιF=⨁λ∈Fιλ\iota_F = \bigoplus_{\lambda \in F}\iota_\lambda は mono です。実際 ιFx=0\iota_Fx = 0 なら、射影 pλp_\lambda について ιλpλx=pλιFx=0\iota_\lambda p_\lambda x = p_\lambda\iota_Fx = 0 から pλx=0p_\lambda x = 0 で、x=∑λinλpλx=0x = \sum_\lambda \mathrm{in}_\lambda p_\lambda x = 0 です(補題 2.2[加法圏とアーベル圏] の (2))。(ιF)F(\iota_F)_F は各点で mono な自然変換なので、AB5 により colim⁡FιF=⨁Λιλ\operatorname{colim}_F\iota_F = \bigoplus_\Lambda\iota_\lambda は mono です。

補題 6.6(生成子の性質)✓

A\mathcal A を AB3 を満たすアーベル圏とする。

  1. (Us)s∈S(U_s)_{s \in S} が生成集合なら、⨁sUs\bigoplus_s U_s は生成子である。
  2. UU が生成子なら、各対象 XX について cX=[u]u∈Hom⁡(U,X) ⁣:U(Hom⁡(U,X))→Xc_X = [u]_{u \in \operatorname{Hom}(U, X)}\colon U^{(\operatorname{Hom}(U, X))} \to X は epi である。
  3. UU を生成子とし、XX の部分対象 KK に対して H(K)⊆Hom⁡(U,X)\mathrm H(K) \subseteq \operatorname{Hom}(U, X) を KK を経由する射の集合とする。K≤K′K \le K' と H(K)⊆H(K′)\mathrm H(K) \subseteq \mathrm H(K') は同値である。とくに K↦H(K)K \mapsto \mathrm H(K) は Sub⁡(X)\operatorname{Sub}(X) から小さい集合 P(Hom⁡(U,X))\mathcal P(\operatorname{Hom}(U, X)) への単射であり、Sub⁡(X)\operatorname{Sub}(X) はある小さい集合と全単射で結ばれる。
証明(補題 6.6)

(1) f≠0f \ne 0 なら fu≠0fu \ne 0 となる u ⁣:Us→Xu\colon U_s \to X があります。u′=[ut]tu' = [u_t]_t(us=uu_s = u、t≠st \ne s では ut=0u_t = 0)とおくと u′ins=uu'\mathrm{in}_s = u なので fu′≠0fu' \ne 0 です。

(2) tcX=0tc_X = 0 なら、各 uu について tu=tcXinu=0tu = tc_X\mathrm{in}_u = 0 なので、生成子の定義から t=0t = 0 です。補題 2.2[加法圏とアーベル圏] の (2) により cXc_X は epi です。

(3) K≤K′K \le K' なら H(K)⊆H(K′)\mathrm H(K) \subseteq \mathrm H(K') は明らかです。逆を示します。j ⁣:K→Xj\colon K \to X、j′ ⁣:K′→Xj'\colon K' \to X とし、a ⁣:U→Ka\colon U \to K ごとに ja∈H(K′)ja \in \mathrm H(K') なので ja=j′baja = j'b_a となる bab_a を取り、b=[ba]a ⁣:U(Hom⁡(U,K))→K′b = [b_a]_a\colon U^{(\operatorname{Hom}(U, K))} \to K' とおきます。各成分で比べて jcK=j′bjc_K = j'b です。(2) により cKc_K は epi なので、jcKjc_K の像は jj 自身です(定理 4.4[加法圏とアーベル圏] の (3))。一方 jcK=j′bjc_K = j'b は mono j′j' を経由するので、§2 で述べたとおり像は j′j' 以下です。よって K≤K′K \le K' です。後半は前半の帰結で、Hom⁡(U,X)\operatorname{Hom}(U, X) は小さいので P(Hom⁡(U,X))\mathcal P(\operatorname{Hom}(U, X)) も小さく(命題 2.3[圏・関手・自然変換])、その部分集合も小さい集合です。

(3) の後半を「A\mathcal A は局所的に小さい部分対象をもつ(well-powered)」といいます。圏の対象の集まりは大きいので、部分対象の同値類が小さい集合で数えられることは自明ではなく、生成子があって初めて言えます。次節で、部分対象を添字にした余積を作るときにこれが必要になります。

命題 6.7(Grothendieck 圏の例)✓

AA を可換環とする。

  1. ModA\mathsf{Mod}_A は Grothendieck 圏であり、AA は生成子である。
  2. C\mathcal C を小さい圏とする。関手圏 [C,ModA][\mathcal C, \mathsf{Mod}_A] は Grothendieck 圏である。c∈Cc \in \mathcal C について Pc(d)=A(Hom⁡(c,d))P_c(d) = A^{(\operatorname{Hom}(c, d))}(Hom⁡(c,d)\operatorname{Hom}(c, d) を基底とする自由加群)とおくと、(Pc)c(P_c)_{c} は生成集合で、⨁cPc\bigoplus_c P_c は生成子である。とくに [C,Ab][\mathcal C, \mathsf{Ab}] は Grothendieck 圏である。
証明(命題 6.7)

(1) アーベル圏であることは 命題 4.6[加法圏とアーベル圏] です。AB3:小さい族 (Mλ)(M_\lambda) の直和 ⨁Mλ\bigoplus M_\lambda(有限個を除いて 00 の族全体)と標準的な入射は余積です。fλ ⁣:Mλ→Nf_\lambda\colon M_\lambda \to N に対し (xλ)↦∑λfλ(xλ)(x_\lambda) \mapsto \sum_\lambda f_\lambda(x_\lambda)(有限和)が inλ\mathrm{in}_\lambda との合成で fλf_\lambda を与え、直和は inλ(Mλ)\mathrm{in}_\lambda(M_\lambda) たちで生成されるので一意です。AB5:[I,ModA][I, \mathsf{Mod}_A] の短完全列は各点で短完全なので(命題 5.7[加法圏とアーベル圏])、フィルター余極限はそれを短完全列に写し(系 6.5[極限と余極限] の (2))、命題 5.4[加法圏とアーベル圏] の (3) により完全です。生成子:f ⁣:X→Yf\colon X \to Y が 00 でなければ f(x)≠0f(x) \ne 0 となる xx があり、u(a)=axu(a) = ax で定まる u ⁣:A→Xu\colon A \to X は fu(1)=f(x)≠0fu(1) = f(x) \ne 0 を満たします。

(2) アーベル圏であることは 命題 5.7[加法圏とアーベル圏] です。(1) と 補題 6.2 の (1) により ModA\mathsf{Mod}_A は余完備なので、[C,ModA][\mathcal C, \mathsf{Mod}_A] の余極限は各点で計算できます(命題 5.1[極限と余極限])。とくに AB3 が成り立ちます。AB5:II を小さいフィルター圏とし、[I,[C,ModA]][I, [\mathcal C, \mathsf{Mod}_A]] の短完全列 0→F′→F→F′′→00 \to F' \to F \to F'' \to 0 を取ります。命題 5.7[加法圏とアーベル圏] を 2 回使うと、各 i∈Ii \in I、c∈Cc \in \mathcal C で 0→Fi′(c)→Fi(c)→Fi′′(c)→00 \to F'_i(c) \to F_i(c) \to F''_i(c) \to 0 は完全です。余極限は各点で計算されるので、colim⁡F\operatorname{colim}F の cc での値は colim⁡iFi(c)\operatorname{colim}_iF_i(c) で、(1) の AB5 により 0→colim⁡iFi′(c)→colim⁡iFi(c)→colim⁡iFi′′(c)→00 \to \operatorname{colim}_iF'_i(c) \to \operatorname{colim}_iF_i(c) \to \operatorname{colim}_iF''_i(c) \to 0 は完全です。再び各点の判定により colim⁡\operatorname{colim} は完全です。生成集合:PcP_c は ψ ⁣:d→d′\psi\colon d \to d' に基底の写像 eφ↦eψφe_\varphi \mapsto e_{\psi\varphi} を対応させて関手です。x∈F(c)x \in F(c) に対し、τd ⁣:Pc(d)→F(d)\tau_d\colon P_c(d) \to F(d) を eφ↦F(φ)(x)e_\varphi \mapsto F(\varphi)(x) で定めます(補題 2.5[加群・完全列・中山の補題] の (1))。基底の上で F(ψ)τd(eφ)=F(ψφ)(x)=τd′(eψφ)F(\psi)\tau_d(e_\varphi) = F(\psi\varphi)(x) = \tau_{d'}(e_{\psi\varphi}) なので、同じ補題の一意性から τ\tau は自然変換で、τc(e1c)=x\tau_c(e_{1_c}) = x です。自然変換 α ⁣:F→G\alpha\colon F \to G が 00 でなければ、ある cc と x∈F(c)x \in F(c) で αc(x)≠0\alpha_c(x) \ne 0 となり、(ατ)c(e1c)=αc(x)≠0(\alpha\tau)_c(e_{1_c}) = \alpha_c(x) \ne 0 です。Ob⁡C\operatorname{Ob}\mathcal C は小さいので、補題 6.6 の (1) により ⨁cPc\bigoplus_cP_c は生成子です。A=ZA = \mathbb Z として最後の主張を得ます。

例 6.8(AB5 は自己双対でない)

Ab\mathsf{Ab} は Grothendieck 圏ですが、Abop\mathsf{Ab}^{\mathrm{op}} は AB5 を満たしません。Abop\mathsf{Ab}^{\mathrm{op}} のフィルター余極限は Ab\mathsf{Ab} の逆極限なので、逆極限が完全でない例を挙げれば十分です。素数 pp について、短完全列 0→pnZ→Z→Z/pn→00 \to p^n\mathbb Z \to \mathbb Z \to \mathbb Z/p^n \to 0 を nn について並べ、包含・恒等射・射影で逆系にします。逆極限(定義 2.1[完備化と Artin–Rees の補題])を取ると 0→⋂npnZ=0→Z→Zp0 \to \bigcap_np^n\mathbb Z = 0 \to \mathbb Z \to \mathbb Z_p となり、最後の写像は全射ではありません(Z\mathbb Z は可算、pp 進整数環 Zp\mathbb Z_p は非可算)。したがって Abop\mathsf{Ab}^{\mathrm{op}} は十分に入射対象をもつ(Ab\mathsf{Ab} が十分に射影対象をもつ)にもかかわらず、Grothendieck 圏ではありません。Grothendieck 圏の理論は射影対象について何も言わないことに注意してください。

注意 6.9(層の圏(予告))

位相空間 XX 上の Abel 群の層の圏は Grothendieck 圏です。生成子は、開集合 VV ごとに「VV 上の定数層 Z\mathbb Z を 00 で延長した層」を取り、その直和をとったものです。AB5 は、フィルター余極限が茎ごとに計算できることから従います。証明は代数幾何のテーマで行います。この事実と 定理 7.3 により層の圏は十分に入射対象をもち、層のコホモロジーを大域切断関手の右導来関手として定義できます。一方、層の圏は一般に十分な射影対象をもちません。

注意 6.10(Gabriel–Popescu の定理)

Grothendieck 圏 A\mathcal A と生成子 UU について、R=End⁡(U)R = \operatorname{End}(U) とおくと、関手 Hom⁡(U,−)\operatorname{Hom}(U, -) は A\mathcal A から(一般には非可換な)環 RR 上の右加群の圏への充満忠実な関手で、完全な左随伴をもちます。つまり Grothendieck 圏は加群の圏の「局所化」として表せます。これが Gabriel–Popescu の定理です(N. Popescu and P. Gabriel, C. R. Acad. Sci. Paris 258 (1964)、N. Popescu『Abelian Categories with Applications to Rings and Modules』Academic Press 1973)。このテーマでは使わないので、主張と文献を挙げるにとどめます。

7. Grothendieck 圏は十分に入射対象をもつ

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加群の Baer の判定法は「イデアル a⊆A\mathfrak a \subseteq A からの射が AA に延びれば入射的」というものでした。イデアルは生成子 AA の部分対象なので、次の補題はその直接の一般化です。

補題 7.1(Baer 型の判定法)✓

A\mathcal A を Grothendieck 圏、UU をその生成子とする。対象 EE が入射対象であるための必要十分条件は、任意の mono ι ⁣:I→U\iota\colon I \to U と任意の射 f ⁣:I→Ef\colon I \to E に対し、gι=fg\iota = f を満たす g ⁣:U→Eg\colon U \to E が存在することである。

証明の筋道は次のとおりです。まず、延長を「どこまで延ばせたか」の組として並べ、Zorn の補題で延ばせる限り延ばした極大の組を取ります(増大列の合併を作る部分で AB5 を使います)。次に、極大の組が BB 全体でないとすると、生成子からの射 uu を使ってもう一段延ばせてしまい、極大性に反することを示します。

証明(補題 7.1)

必要性は入射対象の定義そのものです。十分性を示します。mono a ⁣:A→Ba\colon A \to B と f ⁣:A→Ef\colon A \to E を取ります。

延長の集合。 BB の部分対象 jK ⁣:K→Bj_K\colon K \to B で a≤jKa \le j_K(a=jKtKa = j_Kt_K)を満たすものと、fKtK=ff_Kt_K = f を満たす fK ⁣:K→Ef_K\colon K \to E の組 (K,fK)(K, f_K) を考えます(jKj_K を同型 φ\varphi で取り替えたものは (jKφ,fKφ)(j_K\varphi, f_K\varphi) と同一視します)。(K,fK)≤(K′,fK′)(K, f_K) \le (K', f_{K'}) を「jK=jK′sj_K = j_{K'}s かつ fK′s=fKf_{K'}s = f_K」で定めると、これは半順序で、Sub⁡(B)\operatorname{Sub}(B) が集合なので(補題 6.6 の (3))組の全体 P\mathcal P も集合です。(a,f)∈P(a, f) \in \mathcal P なので空ではありません。

鎖の上界。 P\mathcal P の空でない鎖 (Kc,fc)c(K_c, f_c)_{c} を取ると、(Kc)(K_c) は全順序、とくに有向な部分対象の族です。補題 6.5 の (1) により余極限 colim⁡cKc→B\operatorname{colim}_c K_c \to B は mono で、部分対象 ∑cKc\sum_c K_c を表します。(fc)(f_c) は鎖の条件 fc′s=fcf_{c'}s = f_c により余錐をなすので、f∞ιc=fcf_\infty\iota_c = f_c を満たす f∞ ⁣:colim⁡Kc→Ef_\infty\colon \operatorname{colim}K_c \to E が誘導され、(∑Kc,f∞)(\sum K_c, f_\infty) は鎖の上界です(a≤Kc≤∑Kca \le K_c \le \sum K_c で、f∞ιctKc=ff_\infty\iota_ct_{K_c} = f)。Zorn の補題(定理 5.1)[選択公理と Zorn の補題] により極大元 (K,fK)(K, f_K) があります。

極大元は BB 全体。 j=jKj = j_K が epi でないと仮定します。このとき πK=coker⁡j≠0\pi_K = \operatorname{coker}j \ne 0 で、生成子の定義から πKu≠0\pi_Ku \ne 0 となる u ⁣:U→Bu\colon U \to B があります。jj と uu の引き戻し p ⁣:P→Kp\colon P \to K、q ⁣:P→Uq\colon P \to U(jp=uqjp = uq)を取ります。qx=0qx = 0 なら jpx=uqx=0jpx = uqx = 0 から px=0px = 0 で、引き戻しの普遍性の一意性から x=0x = 0 なので、qq は mono です(補題 2.2[加法圏とアーベル圏] の (2))。仮定を mono qq と fKp ⁣:P→Ef_Kp\colon P \to E に適用し、gq=fKpgq = f_Kp を満たす g ⁣:U→Eg\colon U \to E を取ります。

σ=[j,u] ⁣:K⊕U→B\sigma = [j, u]\colon K \oplus U \to B と τ=[fK,g] ⁣:K⊕U→E\tau = [f_K, g]\colon K \oplus U \to E を考えます。k=ker⁡σk = \ker\sigma とすると j(π1k)=u(−π2k)j(\pi_1k) = u(-\pi_2k) なので(π1,π2\pi_1, \pi_2 は双積の射影)、引き戻しの性質から π1k=pz\pi_1k = pz、−π2k=qz-\pi_2k = qz となる zz があり、

τk=fKπ1k+gπ2k=fKpz−gqz=0\tau k = f_K\pi_1k + g\pi_2k = f_Kpz - gqz = 0

です。σ=me\sigma = me を像分解すると、ee は ker⁡σ\ker\sigma の余核なので(定理 4.4[加法圏とアーベル圏] の (2))、τ=τ′e\tau = \tau'e となる τ′\tau' があります。j=σ in1=m(e in1)j = \sigma\,\mathrm{in}_1 = m(e\,\mathrm{in}_1) かつ τ′(e in1)=τ in1=fK\tau'(e\,\mathrm{in}_1) = \tau\,\mathrm{in}_1 = f_K なので、(K,fK)≤(im⁡σ,τ′)(K, f_K) \le (\operatorname{im}\sigma, \tau') です。一方 u=m(e in2)u = m(e\,\mathrm{in}_2) は mm を経由しますが、πKu≠0\pi_Ku \ne 0 なので uu は j=ker⁡πKj = \ker\pi_K を経由しません。よって im⁡σ≠K\operatorname{im}\sigma \ne K で、極大性に反します。

したがって jj は epi です。mono かつ epi なので同型で(命題 4.3[加法圏とアーベル圏] の (2))、ψ=fKj−1 ⁣:B→E\psi = f_Kj^{-1}\colon B \to E は ψa=fKj−1jtK=f\psi a = f_Kj^{-1}jt_K = f を満たします。

注意 7.2(加群の Baer の判定法との関係)

A=ModA\mathcal A = \mathsf{Mod}_A、U=AU = A とすると、AA の部分対象はイデアルなので、補題 7.1 は可換環論の 定理 3.5[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] になります。証明の骨格(Zorn の補題で極大な延長を取り、生成子からの射 uu で延長を一段広げる)も同じです。一般の圏では「鎖の合併」を余極限で作るので AB5 が要り、「元 x∉Kx \notin K を取る」代わりに生成子からの射 uu を使います。

主定理の証明の方針を図にしておきます。各段階で、生成子の部分対象から MαM_\alpha への射をすべて集め、それらが UU に延びるように押し出しで MαM_\alpha を広げます。極限順序数の段階では余極限を取ります。

⊕I⊕UM0M1M2⋯Mω⋯Mκmono押し出し余極限(AB5)
超限的な押し出しの列。各段で I_r → M_α の射をすべて U まで延ばし、極限段では余極限を取る。長さ κ を正則基数に取ると、M_κ への射はどこかの段 M_γ から来ている

定理 7.3(Grothendieck 圏は十分に入射対象をもつ)✓

Grothendieck 圏 A\mathcal A の任意の対象 MM に対し、入射対象 EE と mono M→EM \to E が存在する。すなわち A\mathcal A は十分に入射対象をもつ。

証明の流れは四つの段階です。段階 0 は、繰り返す回数(順序数)を選ぶ準備です。「宇宙」は、どこまでを「小さい集合」とみなすかを決めておく約束で、ここでは繰り返しの長さが小さい集合の範囲に収まることを保証するために使います。段階 1 は押し出しによる一段の拡大、段階 2 はそれを順序数の長さだけ繰り返す構成、段階 3 は最後の対象 MκM_\kappa が入射的であることの確認です。段階 3 の要点は、IrI_r から MκM_\kappa への射が、途中のどこかの MγM_\gamma を経由することです。κ\kappa を「UU の部分対象の個数より大きい正則基数」に選ぶのは、このためです。

証明(定理 7.3)

UU を生成子とします。

段階 0:添字の大きさ。 補題 6.6 の (3) により、小さい集合 RR と mono の族 ιr ⁣:Ir→U\iota_r\colon I_r \to U(r∈Rr \in R)で、UU の各部分対象をちょうど一つの ιr\iota_r が表すものが取れます(RR は H\mathrm H の像とし、各部分対象から代表を一つ選ぶ)。ω∈U\omega \in \mathbb U(定義 2.1[圏・関手・自然変換] の (5))なので R∪ωR \cup \omega は小さい集合で(命題 2.3[圏・関手・自然変換] の (2))、選択公理のもとでその濃度 μ=∣R∪ω∣\mu = |R \cup \omega| は無限基数で(命題 7.1[公理的集合論 ZFC])、定理 2.5[圏・関手・自然変換] の (1) により宇宙の順序数 κU\kappa_{\mathbb U} より小さく、したがって μ∈U\mu \in \mathbb U です。カントールの定理(定理 7.1[濃度と無限])により ∣P(μ)∣>μ|\mathcal P(\mu)| > \mu なので、μ\mu より大きい基数のうち最小のもの κ\kappa が存在し、κ≤∣P(μ)∣<κU\kappa \le |\mathcal P(\mu)| < \kappa_{\mathbb U}(P(μ)∈U\mathcal P(\mu) \in \mathbb U に同じ定理の (1) を使う)です。よって κ\kappa は小さい順序数です。定理 6.8[公理的集合論 ZFC] により κ\kappa は正則基数で、補題 6.2[公理的集合論 ZFC] により極限順序数です。

段階 1:一段の拡大。 対象 NN に対し、Λ(N)={(r,f)∣r∈R, f ⁣:Ir→N}\Lambda(N) = \{(r, f) \mid r \in R,\ f\colon I_r \to N\} とおくと、これは小さい集合です(命題 2.3[圏・関手・自然変換] の (3))。λ=(r,f)\lambda = (r, f) について Iλ=IrI_\lambda = I_r、fλ=ff_\lambda = f と書きます。補題 6.5 の (3)(AB4)により ιΛ=⨁λιr ⁣:⨁λIλ→U(Λ(N))\iota_\Lambda = \bigoplus_\lambda\iota_{r}\colon \bigoplus_\lambda I_\lambda \to U^{(\Lambda(N))} は mono です。ιΛ\iota_\Lambda と [fλ]λ ⁣:⨁λIλ→N[f_\lambda]_\lambda\colon \bigoplus_\lambda I_\lambda \to N の押し出しを T(N)T(N) とし、

εN ⁣:N→T(N),ψ ⁣:U(Λ(N))→T(N),εN[fλ]λ=ψ ιΛ\varepsilon_N\colon N \to T(N), \qquad \psi\colon U^{(\Lambda(N))} \to T(N), \qquad \varepsilon_N[f_\lambda]_\lambda = \psi\,\iota_\Lambda

とします(命題 4.5[加法圏とアーベル圏] の (1))。同じ命題の (3) により εN\varepsilon_N は mono です。λ=(r,f)\lambda = (r, f) について gλ=ψ inλ ⁣:U→T(N)g_\lambda = \psi\,\mathrm{in}_\lambda\colon U \to T(N) とおくと

gλιr=ψ ιΛinλ=εN[fμ]μinλ=εNfg_\lambda\iota_r = \psi\,\iota_\Lambda\mathrm{in}_\lambda = \varepsilon_N[f_\mu]_\mu\mathrm{in}_\lambda = \varepsilon_Nf

です。つまり Ir→NI_r \to N の射は、T(N)T(N) に押し出すとすべて UU に延びます。

段階 2:超限的な列。 圏の対象と射は集合をなすので、選択公理で押し出しと余極限を一つずつ選んでおきます。超限再帰(定理 5.5[公理的集合論 ZFC] の (2))で、順序数 α≤κ\alpha \le \kappa に対象 MαM_\alpha と射 mβα ⁣:Mβ→Mαm_{\beta\alpha}\colon M_\beta \to M_\alpha(β≤α\beta \le \alpha)を次のように定めます。M0=MM_0 = M、mαα=1m_{\alpha\alpha} = 1。Mα+1=T(Mα)M_{\alpha + 1} = T(M_\alpha)、mβ,α+1=εMαmβαm_{\beta, \alpha + 1} = \varepsilon_{M_\alpha}m_{\beta\alpha}。α\alpha が極限順序数なら、(Mβ,mβγ)β≤γ<α(M_\beta, m_{\beta\gamma})_{\beta \le \gamma < \alpha} の余極限を MαM_\alpha とし、mβαm_{\beta\alpha} をその標準射とします。構成から mγαmβγ=mβαm_{\gamma\alpha}m_{\beta\gamma} = m_{\beta\alpha} です。

すべての mβαm_{\beta\alpha} が mono であることを α\alpha についての超限帰納法(同じ定理の (1))で示します。α=0\alpha = 0 と後者順序数の場合は、mono の合成が mono であることから従います。α\alpha が極限順序数で β<α\beta < \alpha とします。γ<α\gamma < \alpha について、γ≤β\gamma \le \beta なら Nγ=MγN_\gamma = M_\gamma、γ≥β\gamma \ge \beta なら Nγ=MβN_\gamma = M_\beta とおき(推移射は mm と恒等射)、νγ ⁣:Nγ→Mγ\nu_\gamma\colon N_\gamma \to M_\gamma を γ≤β\gamma \le \beta では 11、γ≥β\gamma \ge \beta では mβγm_{\beta\gamma} とします。帰納法の仮定から ν\nu は各点で mono な自然変換です。NN は β\beta から先が定値なので、余錐は β\beta での成分で決まり、colim⁡N=Mβ\operatorname{colim}N = M_\beta(標準射は γ≤β\gamma \le \beta で mγβm_{\gamma\beta}、γ≥β\gamma \ge \beta で 11)です。colim⁡ν\operatorname{colim}\nu は β\beta 成分で mβαm_{\beta\alpha} なので colim⁡ν=mβα\operatorname{colim}\nu = m_{\beta\alpha} です。α\alpha は空でない有向集合で、補題 6.2 の (3) によりフィルター圏なので、AB5 と 命題 5.4[加法圏とアーベル圏] の (1) により mβαm_{\beta\alpha} は mono です。

段階 3:MκM_\kappa は入射的。 補題 7.1 を使います。UU への mono は同型を除いてある ιr\iota_r に等しいので、f ⁣:Ir→Mκf\colon I_r \to M_\kappa が UU に延びることを示せば十分です。(mβκ)β<κ(m_{\beta\kappa})_{\beta < \kappa} は MκM_\kappa の部分対象の有向な族で、余極限の定義から ∑βMβ=Mκ\sum_\beta M_\beta = M_\kappa です。補題 6.5 の (2)(b) を h=fh = f に適用すると、Lβ=ker⁡(πMβf)L_\beta = \ker(\pi_{M_\beta}f) は IrI_r の部分対象の増大列で ∑βLβ=Ir\sum_\beta L_\beta = I_r です。

IrI_r の部分対象は ιr\iota_r と合成して UU の部分対象とみなせ、この対応は単射なので(ιra=ιrbφ\iota_ra = \iota_rb\varphi なら a=bφa = b\varphi)、S={Lβ∣β<κ}S = \{L_\beta \mid \beta < \kappa\}(部分対象としての集合)の濃度は ∣R∣|R| 以下で、∣R∣≤μ<κ|R| \le \mu < \kappa です。s∈Ss \in S ごとに Lβ=sL_\beta = s となる最小の β\beta を βs\beta_s とし、B={βs∣s∈S}⊆κB = \{\beta_s \mid s \in S\} \subseteq \kappa とおきます。BB が κ\kappa の中で上に有界でないとすると、全単射 ∣B∣→B|B| \to B は ∣B∣<κ|B| < \kappa からの非有界写像になり、κ\kappa の正則性 cf(κ)=κ\mathrm{cf}(\kappa) = \kappa(定義 6.5[公理的集合論 ZFC])に反します。よって BB のすべての元以上の γ<κ\gamma < \kappa があります。β≥γ\beta \ge \gamma なら、s=Lβs = L_\beta について βs≤γ≤β\beta_s \le \gamma \le \beta なので s=Lβs≤Lγ≤Lβ=ss = L_{\beta_s} \le L_\gamma \le L_\beta = s、すなわち Lβ=LγL_\beta = L_\gamma です。したがってすべての LβL_\beta が LγL_\gamma 以下で、補題 6.5 の (1) の最小性から Ir=∑Lβ≤LγI_r = \sum L_\beta \le L_\gamma、つまり πMγf=0\pi_{M_\gamma}f = 0 です。mγκ=ker⁡πMγm_{\gamma\kappa} = \ker\pi_{M_\gamma}(命題 4.3[加法圏とアーベル圏] の (1))なので f=mγκf′f = m_{\gamma\kappa}f' と書けます。

(r,f′)∈Λ(Mγ)(r, f') \in \Lambda(M_\gamma) なので、段階 1 により gιr=εMγf′=mγ,γ+1f′g\iota_r = \varepsilon_{M_\gamma}f' = m_{\gamma, \gamma + 1}f' となる g ⁣:U→Mγ+1g\colon U \to M_{\gamma + 1} があります。κ\kappa は極限順序数なので γ+1<κ\gamma + 1 < \kappa で、mγ+1,κg ⁣:U→Mκm_{\gamma + 1, \kappa}g\colon U \to M_\kappa は

mγ+1,κgιr=mγκf′=fm_{\gamma + 1, \kappa}g\iota_r = m_{\gamma\kappa}f' = f

を満たします。よって MκM_\kappa は入射対象で、m0κ ⁣:M→Mκm_{0\kappa}\colon M \to M_\kappa が求める mono です。

正則基数が要る理由は段階 3 にあります。長さを ω\omega にすると、IrI_r の部分対象の増大列が ω\omega 回で止まる保証はありません(IrI_r が「無限生成」でありうるため)。κ\kappa を「UU の部分対象の個数より大きい正則基数」に取ることで、どの f ⁣:Ir→Mκf\colon I_r \to M_\kappa も途中の段階 MγM_\gamma から来ることが保証されます。この種の議論は Quillen の小対象の議論として、モデル圏の理論で広く使われています。

注意 7.4(加群の場合との比較)

ModA\mathsf{Mod}_A に 定理 7.3 を適用すると、可換環論の 定理 3.9[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] がもう一度得られます。可換環論の証明は Q/Z\mathbb Q/\mathbb Z と余誘導加群を使った一段の構成で、より短く具体的です(その構成は 例 4.3 の右随伴の特別な場合です)。一般論の証明は具体的な入射対象を一つも使わない点が対照的で、そのおかげで層の圏のように具体的な入射対象が見えない圏にも適用できます。

対象を入射対象に埋め込む仕方はたくさんありますが、その中に「無駄のない」ものが同型を除いてただ一つあります。それが入射包です。

定義 8.1(本質的拡大・入射包)↗

A\mathcal A をアーベル圏とする。

  1. mono i ⁣:X→Yi\colon X \to Y が本質的であるとは、任意の射 g ⁣:Y→Zg\colon Y \to Z について、gigi が mono なら gg も mono であることをいう。このとき YY を XX の本質的拡大という。
  2. 本質的な mono i ⁣:X→Ei\colon X \to E で EE が入射対象であるものを、XX の入射包という。

部分対象の言葉では、ii が本質的であることは「YY の 00 でない部分対象はどれも XX と 00 でない共通部分をもつ」ことに当たります(gg の核が XX と交わらなければ gigi は mono)。たとえば Ab\mathsf{Ab} で i ⁣:Z→Z⊕Zi\colon \mathbb Z \to \mathbb Z \oplus \mathbb Z(第 1 成分への入射)は本質的ではありません。第 1 成分への射影 gg について gi=1gi = 1 は mono ですが、gg は mono ではないからです。

補題 8.2(本質的拡大の基本性質)✓

  1. アーベル圏で、本質的な mono の合成は本質的である。
  2. A\mathcal A を Grothendieck 圏とし、h ⁣:H→Eh\colon H \to E を mono とする。このとき EE の部分対象 KK で、πKh ⁣:H→E/K\pi_Kh\colon H \to E/K が本質的な mono となるものが存在する。
証明(補題 8.2)

(1) i ⁣:X→Yi\colon X \to Y、i′ ⁣:Y→Zi'\colon Y \to Z を本質的とし、g ⁣:Z→Wg\colon Z \to W について gi′igi'i が mono とします。ii が本質的なので gi′gi' は mono、i′i' が本質的なので gg は mono です。i′ii'i は mono の合成なので mono です。

(2) K={K∈Sub⁡(E)∣πKh は mono}\mathcal K = \{K \in \operatorname{Sub}(E) \mid \pi_Kh \text{ は mono}\} を包含の順序で考えます。Sub⁡(E)\operatorname{Sub}(E) は集合です(補題 6.6 の (3))。0→E0 \to E の余核は 1E1_E なので 0∈K0 \in \mathcal K です。空でない鎖 (Kc)(K_c) は有向な族で、補題 6.5 の (2)(a) により ∑Kc∈K\sum K_c \in \mathcal K、同じ補題の (1) により ∑Kc\sum K_c は上界です。Zorn の補題(定理 5.1[選択公理と Zorn の補題])により極大元 KK があります。

πKh\pi_Kh が本質的であることを示します。g ⁣:E/K→Zg\colon E/K \to Z について gπKhg\pi_Kh が mono とします。gπKg\pi_K を像分解すると(定理 4.4[加法圏とアーベル圏])gπK=meg\pi_K = me で、ee は K′=ker⁡(gπK)K' = \ker(g\pi_K) の余核、すなわち e=πK′e = \pi_{K'} です。gπKh=mπK′hg\pi_Kh = m\pi_{K'}h が mono なので πK′h\pi_{K'}h は mono、つまり K′∈KK' \in \mathcal K です。gπKg\pi_K は KK 上で 00 なので K≤K′K \le K' で、極大性から K′=KK' = K です。いま gy=0gy = 0 となる y ⁣:Y→E/Ky\colon Y \to E/K を取ります。πK\pi_K と yy の引き戻し y′ ⁣:P→Ey'\colon P \to E、e′ ⁣:P→Ye'\colon P \to Y(πKy′=ye′\pi_Ky' = ye')では e′e' が epi です(命題 4.5[加法圏とアーベル圏] の (2))。gπKy′=gye′=0g\pi_Ky' = gye' = 0 なので y′y' は K′=KK' = K を経由し、ye′=πKy′=0ye' = \pi_Ky' = 0、e′e' の epi 性から y=0y = 0 です。補題 2.2[加法圏とアーベル圏] の (2) により gg は mono です。

定理 8.3(入射包の存在と一意性)✓

A\mathcal A を Grothendieck 圏とする。

  1. 任意の対象 XX は入射包をもつ。
  2. i ⁣:X→Ei\colon X \to E と i′ ⁣:X→E′i'\colon X \to E' がともに XX の入射包なら、φi=i′\varphi i = i' を満たす同型 φ ⁣:E→E′\varphi\colon E \to E' が存在する。
  3. i ⁣:X→Ei\colon X \to E を入射包、j ⁣:X→Ij\colon X \to I を入射対象への任意の mono とすると、φi=j\varphi i = j を満たす mono φ ⁣:E→I\varphi\colon E \to I が存在する。
証明(定理 8.3)

(1) 定理 7.3 により mono i ⁣:X→Ei\colon X \to E(EE は入射対象)があります。EE の部分対象 h ⁣:H→Eh\colon H \to E で、i=hti = ht となる tt が本質的な mono であるもの全体を H\mathcal H とし、EE の部分対象としての順序を入れます。tt は hh から一意に決まります。ii 自身(t=1Xt = 1_X)が H\mathcal H に属します。

鎖の上界。 空でない鎖 (hc ⁣:Hc→E,tc)(h_c\colon H_c \to E, t_c) の和 H∞=∑HcH_\infty = \sum H_c を 補題 6.5 の (1) で作り、ιc′ ⁣:Hc→H∞\iota'_c\colon H_c \to H_\infty を標準射、t∞=ιc′tct_\infty = \iota'_ct_c(cc によらない)とします。g ⁣:H∞→Zg\colon H_\infty \to Z について gt∞gt_\infty が mono とすると、gιc′tcg\iota'_ct_c が mono で tct_c は本質的なので、各 gιc′g\iota'_c は mono です。k=ker⁡g ⁣:N→H∞k = \ker g\colon N \to H_\infty とします。(ιc′)(\iota'_c) は H∞H_\infty の部分対象の有向な族で、その和は H∞H_\infty 全体です(余極限から H∞H_\infty への射が同型なので)。この族に 補題 6.5 の (2)(b) を h=kh = k で適用します。πHckx=0\pi_{H_c}kx = 0 なら kx=ιc′ykx = \iota'_cy と書け、gιc′y=gkx=0g\iota'_cy = gkx = 0 から y=0y = 0、よって kx=0kx = 0、x=0x = 0 なので、ker⁡(πHck)=0\ker(\pi_{H_c}k) = 0 です。したがって N=∑c0=0N = \sum_c 0 = 0 で、gg は mono です(命題 4.3[加法圏とアーベル圏] の (1))。よって t∞t_\infty は本質的で、H∞H_\infty は鎖の上界です。Zorn の補題(定理 5.1[選択公理と Zorn の補題])により極大元 (h ⁣:H→E,t)(h\colon H \to E, t) があります。

極大元は入射的。 補題 8.2 の (2) により、πKh ⁣:H→E/K\pi_Kh\colon H \to E/K が本質的な mono となる KK があります。EE は入射的なので、hh を mono πKh\pi_Kh に沿って延ばした φ ⁣:E/K→E\varphi\colon E/K \to E(φπKh=h\varphi\pi_Kh = h)が取れます。φ(πKh)=h\varphi(\pi_Kh) = h は mono で πKh\pi_Kh は本質的なので φ\varphi は mono です。φ(πKht)=ht=i\varphi(\pi_Kht) = ht = i で、πKht\pi_Kht は本質的な mono の合成なので本質的です(補題 8.2 の (1))。よって φ∈H\varphi \in \mathcal H で、h=φ(πKh)h = \varphi(\pi_Kh) から H≤φH \le \varphi です。極大性から φ=hψ\varphi = h\psi となる同型 ψ\psi があり、hψπKh=φπKh=hh\psi\pi_Kh = \varphi\pi_Kh = h と hh の mono 性から ψπKh=1H\psi\pi_Kh = 1_H です。r=ψπK ⁣:E→Hr = \psi\pi_K\colon E \to H は rh=1Hrh = 1_H を満たすので、HH は入射対象 EE のレトラクトで、入射的です(命題 3.3)。t ⁣:X→Ht\colon X \to H が入射包です。

(3) II が入射的なので、jj を ii に沿って延ばした φ\varphi(φi=j\varphi i = j)があります。φi\varphi i は mono で ii は本質的なので φ\varphi は mono です。

(2) (3) により φi=i′\varphi i = i' を満たす mono φ ⁣:E→E′\varphi\colon E \to E' があります。EE は入射的なので、1E1_E を φ\varphi に沿って延ばした r ⁣:E′→Er\colon E' \to E(rφ=1Er\varphi = 1_E)があります。ri′=rφi=iri' = r\varphi i = i は mono で i′i' は本質的なので rr は mono です。r(φr)=r=r1E′r(\varphi r) = r = r1_{E'} と rr の mono 性から φr=1E′\varphi r = 1_{E'} で、φ\varphi は同型です。

(2) の同型 φ\varphi は一意とは限りません。入射包は「同型を除いて一意」ですが「一意な同型を除いて一意」ではないので、関手的には選べません。これが、導来関手を定義するときに入射包ではなく任意の入射分解を使い、比較定理で分解の取り方によらないことを示す理由の一つです。

例 8.4(Ab の入射包)

  1. Z→Q\mathbb Z \to \mathbb Q は Z\mathbb Z の入射包です。Q\mathbb Q は入射的です(例 5.2)。g ⁣:Q→Zg\colon \mathbb Q \to Z が Z\mathbb Z 上で単射なら、g(a/b)=0g(a/b) = 0(a≠0a \ne 0)から g(a)=bg(a/b)=0g(a) = bg(a/b) = 0 となって矛盾するので、gg は単射です。
  2. 素数 pp について、Z/p→Z(p∞)\mathbb Z/p \to \mathbb Z(p^\infty)(1↦1/p1 \mapsto 1/p)は入射包です。x≠0x \ne 0 の位数を pkp^k とすると pk−1xp^{k-1}x は位数 pp で 1/p1/p の倍数なので、Z/p\mathbb Z/p 上で単射な gg について g(x)=0g(x) = 0 なら g(pk−1x)=0g(p^{k-1}x) = 0 となって矛盾します。
  3. Z→Q⊕Q\mathbb Z \to \mathbb Q \oplus \mathbb Q は入射対象への mono ですが入射包ではありません。定理 8.3 の (3) により、入射包 Q\mathbb Q はその直和因子として埋め込まれます。

系 8.5(入射余生成子の存在)✓

  1. Grothendieck 圏は入射的な余生成子をもつ。
  2. Q/Z\mathbb Q/\mathbb Z は Ab\mathsf{Ab} の入射的な余生成子である。
証明(系 8.5)

(1) 定理 7.3 の証明の段階 0 と同じく(補題 6.6 の (3))、UU を生成子、ιr ⁣:Ir→U\iota_r\colon I_r \to U(r∈Rr \in R)を UU の部分対象の代表とし、qr=coker⁡ιr ⁣:U→U/Irq_r = \operatorname{coker}\iota_r\colon U \to U/I_r とおきます。Q0=⨁r∈RU/IrQ_0 = \bigoplus_{r \in R}U/I_r を mono ν0 ⁣:Q0→E\nu_0\colon Q_0 \to E で入射対象 EE に埋め込みます(定理 7.3)。EE が余生成子であることを示します。f ⁣:X→Yf\colon X \to Y を 00 でない射とすると、fu≠0fu \ne 0 となる u ⁣:U→Xu\colon U \to X があります。fu=mefu = me と像分解すると e ⁣:U→Ce\colon U \to C は k=ker⁡(fu)k = \ker(fu) の余核で(定理 4.4[加法圏とアーベル圏] の (2))、e≠0e \ne 0 です。kk はある ιr\iota_r と同じ部分対象なので、qrq_r も kk の余核で、e=χqre = \chi q_r となる同型 χ\chi があります(補題 2.2[加法圏とアーベル圏] の (1) の双対)。余積の入射 inr\mathrm{in}_r は、rr 成分を 11、他を 00 とする射 Q0→U/IrQ_0 \to U/I_r を左逆にもつので mono です。よって ν=ν0 inrχ−1 ⁣:C→E\nu = \nu_0\,\mathrm{in}_r\chi^{-1}\colon C \to E は mono です。EE は入射的なので、ν\nu を mono mm に沿って延ばした g ⁣:Y→Eg\colon Y \to E(gm=νgm = \nu)があり、gfu=gme=νe≠0gfu = gme = \nu e \ne 0 です(ν\nu は mono で e≠0e \ne 0)。よって gf≠0gf \ne 0 です。

(2) Q/Z\mathbb Q/\mathbb Z は入射 Z\mathbb Z 加群で(命題 3.6[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (3))、命題 5.1 の (1) により Ab\mathsf{Ab} の入射対象です。f ⁣:X→Yf\colon X \to Y が 00 でなければ f(x)≠0f(x) \ne 0 となる xx があり、補題 3.7[テンソル積と平坦性・射影加群・入射加群] の (1) により φ(f(x))≠0\varphi(f(x)) \ne 0 となる φ ⁣:Y→Q/Z\varphi\colon Y \to \mathbb Q/\mathbb Z があります。φf≠0\varphi f \ne 0 です。

入射余生成子 EE があると、任意の対象 XX は EE の積 EHom⁡(X,E)E^{\operatorname{Hom}(X, E)} に埋め込めます(積が存在すれば)。Ab\mathsf{Ab} では、これは可換環論で MM を (Q/Z)M∨(\mathbb Q/\mathbb Z)^{M^\vee} に埋め込んだ議論そのものです。入射余生成子は Freyd–Mitchell の埋め込み定理(定理 8.1[加法圏とアーベル圏])の証明でも鍵になります。ただし、このテーマのどの証明もこの定理を使いません。

この章の結果は、次のように使われます。十分な射影対象・入射対象(定義 3.4)と Hom の完全性(命題 3.2)は、射影分解・入射分解の存在と比較定理の基礎です。随伴と入射対象(命題 4.2)は導来関手の比較と、群のコホモロジーの Shapiro の補題に使います。定理 7.3 は、層の圏で導来関手を定義するための入口です。

演習はいずれもこの記事のために作ったものです。

演習 9.1易

アーベル圏の短完全列 0→A→B→gP→00 \to A \to B \xrightarrow{g} P \to 0 で PP が射影対象なら、B≅A⊕PB \cong A \oplus P であることを示してください。双対に、0→I→B→C→00 \to I \to B \to C \to 0 で II が入射対象なら B≅I⊕CB \cong I \oplus C です。

解答

gg は epi なので、命題 3.2 の (4) により gs=1Pgs = 1_P となる ss があります。加法圏とアーベル圏 の演習 演習 9.2[加法圏とアーベル圏] の (b) ⇒ (c) により、BB は AA と PP の双積です。入射対象の場合は、I→BI \to B が分裂する mono であること(同じ命題の双対)から (a) ⇒ (c) を使います。

演習 9.2標準

Q\mathbb Q は Ab\mathsf{Ab} の射影対象ではないことを示してください。

解答

射影的だとすると、自由 Abel 群 F=Z(Q)F = \mathbb Z^{(\mathbb Q)} からの全射 F→QF \to \mathbb Q が分裂し(命題 3.2 の (4))、00 でない準同型 s ⁣:Q→Fs\colon \mathbb Q \to F が得られます。FF の座標への射影のどれかと合成すると、00 でない準同型 t ⁣:Q→Zt\colon \mathbb Q \to \mathbb Z があることになります。像 t(Q)t(\mathbb Q) は可除な部分群ですが、00 でない整数 nn について n=2∣n∣⋅yn = 2|n| \cdot y を満たす整数 yy は無いので、Z\mathbb Z の可除な部分群は 00 だけです。これは t≠0t \ne 0 に反します。

演習 9.3標準

Grothendieck 圏で、対象 EE が入射的であることと、「EE からの本質的な mono はすべて同型」であることが同値であることを示してください。

解答

入射的とし、i ⁣:E→Yi\colon E \to Y を本質的な mono とします。1E1_E を ii に沿って延ばした rr(ri=1Eri = 1_E)について、riri は mono なので rr は mono です。rr は ri=1ri = 1 から epi でもあるので同型で(平衡性)、i=r−1i = r^{-1} も同型です。逆に条件が成り立つとすると、定理 8.3 の (1) により入射包 E→HE \to H があり、これは本質的な mono なので同型です。入射対象に同型な対象は入射的です。

  • A. Grothendieck, “Sur quelques points d’algèbre homologique”, Tôhoku Mathematical Journal (2) 9 (1957), 119–221.
  • C. A. Weibel『An Introduction to Homological Algebra』Cambridge University Press、1994 — 第 2 章(射影対象・入射対象と分解)。
  • M. Kashiwara and P. Schapira『Categories and Sheaves』Springer(Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 332)、2006 — Grothendieck 圏と入射対象の存在。
  • N. Popescu『Abelian Categories with Applications to Rings and Modules』Academic Press、1973。
  • B. Eckmann and A. Schopf, “Über injektive Moduln”, Archiv der Mathematik 4 (1953), 75–78.
  • The Stacks Project Authors, The Stacks Project — 「Injectives」の章(stacks.math.columbia.edu)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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