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公理的集合論 ZFC:数学のすべてを「集合」から組み立てる

対象読者: 学部レベルの集合と論理、選択公理と Zorn の補題、および本テーマ第 1 章の一階述語論理(構造・モデル・完全性定理)を学んだ人。順序数や基数は仮定しません。

前提となる記事:数学の国語:集合と論理を正確に読み書きする、選択公理と Zorn の補題:「無限個の選択」を極大元に置き換える、一階述語論理と完全性定理:「証明できる」と「真である」が一致する理由

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数学で扱う数も関数も空間も、じつはすべて「集合」という一種類のものだけで作れます。この記事は、そのために「集合についてどんな主張を出発点にしてよいか」を決める約束事(公理)を一つずつ確かめ、そこから自然数や実数を実際に組み立てます。読み終えると、実数の「切れ目のなさ」が仮定ではなく証明できる事実だと分かり、さらに「無限の大きさ」を比べる道具である順序数と基数が使えるようになります。

  • ZFC は、記号 ∈\in だけをもつ一階述語論理の理論です。公理は ZF の 9 個(うち 2 個は図式)に選択公理を加えた 10 個で、数学で使う対象(数、関数、空間、写像の族)はすべてこの公理から存在を示せる「集合」として作れます。Rikai の数学の記事で使う命題を前提へ前提へとさかのぼると、最後はこの記事の公理に着きます。
  • 自然数は 0=∅0=\varnothing、n+1=n∪{n}n+1=n\cup\{n\} と作り、ペアノの公理と再帰的定義の原理を定理として証明します(定理 3.2、定理 3.3)。整数・有理数は同値関係の商として、実数はデデキントの切断として作り、実数の上限性質を証明します(定理 4.3)。
  • 順序数は「整列集合の標準的な代表」です。順序数どうしは ∈\in で比較でき(定理 5.3)、どの整列集合もただ一つの順序数と同型になります(定理 5.6)。超限帰納法と超限再帰はこの上で動きます。
  • 基数は「それより小さい順序数とは対等にならない順序数」です。無限基数 κ\kappa について κ⋅κ=κ\kappa\cdot\kappa=\kappa(定理 6.3)が成り立ち、無限基数の和と積は大きいほうに一致します。
  • 選択公理は Zorn の補題・整列可能定理と同値です(既出の同値定理を ZFC の中で読み直します)。連続体仮説 2ℵ0=ℵ12^{\aleph_0}=\aleph_1 は ZFC から証明も反証もできません(ゲーデルとコーエン。主張として述べます)。

1. 動機:「集合とは何か」に答えずに数学を始めるために

Section titled “1. 動機:「集合とは何か」に答えずに数学を始めるために”

1.1. 素朴な集合論はどこで壊れるか

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集合と論理 では、集合を「ものの集まり」と説明しました。ふだんの数学はこれで困りません。けれども、「性質 P(x)P(x) を満たす xx 全体」がいつでも集合になると考えると、P(x)P(x) として x∉xx\notin x をとった瞬間に破綻します。R={x∣x∉x}R=\{x\mid x\notin x\} が集合なら、R∈RR\in R と R∉RR\notin R が同値になってしまうからです(ラッセルのパラドックス、1901 年)。

この矛盾は「集合」という言葉の意味を日常語に任せていたことから来ています。そこで 20 世紀の初めに、ツェルメロ (1908) とフレンケル・スコーレム (1922) は、意味を定義する代わりに使ってよい操作を公理として列挙することにしました。「集合とは何か」には答えず、「どういう集合が存在すると言ってよいか」だけを決めるのです。これが ZFC(Zermelo–Fraenkel + Choice)です。

この記事には、Rikai 全体の中で特別な役目があります。Rikai の記事では、定理の証明で使う事実を、記事内で証明するか、既出の定理として参照するかのどちらかにしています。参照を順にたどると、解析学の定理は 実数の完備性とコーシー列 の完備性の公理に、その公理は 数とは何か の実数の公理に行き着きます。けれども、そこで止まってしまうと「実数の公理を満たすものは本当にあるのか」という問いが残ります。

この記事はその問いに答えます。ZFC の公理だけから、自然数・整数・有理数・実数を実際に作り、実数の公理(とくに上限性質)を定理として証明します。これで、実数の公理は仮定ではなく ZFC の定理になり、解析学の命題は ZFC までさかのぼれます。

ZFC記号は ∈ だけω = ℕ∪{0}無限公理・ペアノℤ と ℚ対の同値類ℝデデキント切断上限性質→ 解析学の完備性定理 ペアノ・再帰商集合定理 切断の上限系 単調収束
ZFC から実数までの構成の鎖。各矢印は、この記事で証明する定理に対応する。

後半では、無限の大きさを測る道具(順序数と基数)を ZFC の中で作り、選択公理と連続体仮説の位置を確かめます。「ZFC で証明できる」とは 一階述語論理と完全性定理 の意味での導出があることで、完全性定理により「ZFC のすべてのモデルで成り立つ」と同じことです。

ZFC の言語は、2 変数関係記号 ∈\in と等号だけからなる一階の言語です。対象はすべて集合で、「元」も集合です。x⊆yx\subseteq y は ∀z (z∈x→z∈y)\forall z\,(z\in x\to z\in y) の略記とします。

公理 2.1(ZFC の公理)↗

  1. 外延性:∀x ∀y (∀z (z∈x↔z∈y)→x=y)\forall x\,\forall y\,\bigl(\forall z\,(z\in x\leftrightarrow z\in y)\to x=y\bigr)。同じ元をもつ集合は等しい。
  2. 空集合:元をもたない集合 ∅\varnothing が存在する。
  3. 対:任意の a,ba,b に対し、元がちょうど a,ba,b である集合 {a,b}\{a,b\} が存在する。
  4. 和集合:任意の xx に対し、xx の元の元全体からなる集合 ⋃x\bigcup x が存在する。
  5. 冪集合:任意の xx に対し、xx の部分集合全体からなる集合 P(x)\mathcal{P}(x) が存在する。
  6. 分出(図式):各論理式 φ(z,p⃗)\varphi(z,\vec p) ごとに、任意の xx と p⃗\vec p に対して {z∈x∣φ(z,p⃗)}\{z\in x\mid \varphi(z,\vec p)\} が存在する。
  7. 置換(図式):各論理式 φ(u,v,p⃗)\varphi(u,v,\vec p) ごとに、φ\varphi が xx 上で関数的(各 u∈xu\in x に対して φ(u,v)\varphi(u,v) を満たす vv がただ一つ)ならば、その vv 全体の集合 {v∣∃u∈x φ(u,v)}\{v\mid \exists u\in x\ \varphi(u,v)\} が存在する。
  8. 無限:∅∈I\varnothing\in I かつ ∀y (y∈I→y∪{y}∈I)\forall y\,(y\in I\to y\cup\{y\}\in I) を満たす集合 II が存在する。
  9. 正則性(基礎):空でない任意の xx は、xx と共通部分をもたない元 y∈xy\in x(y∩x=∅y\cap x=\varnothing)をもつ。

これらを ZF と呼び、ZF に次を加えたものを ZFC と呼ぶ。

  1. 選択:空でない集合からなる任意の集合 xx に対し、各 y∈xy\in x に yy の元 f(y)∈yf(y)\in y を対応させる関数 ff が存在する。

外延性により、2〜5 で存在が主張される集合はただ一つに決まります。だから ∅\varnothing、{a,b}\{a,b\}、⋃x\bigcup x、P(x)\mathcal{P}(x) という記号を使ってよいのです。x∪y=⋃{x,y}x\cup y=\bigcup\{x,y\}、{a}={a,a}\{a\}=\{a,a\}、x∩y={z∈x∣z∈y}x\cap y=\{z\in x\mid z\in y\} のように、おなじみの操作はすべてこれらの組み合わせです。分出と置換は無限個の公理をまとめた図式で、論理式ごとに一つの公理があります。分出は「すでにある集合から、条件を満たす元だけを切り出す」公理、置換は「集合の各元を一つずつ別の集合の元に置き換えたものも集合になる」公理で、たとえば x={0,1,2}x=\{0,1,2\} の各元 nn を n+10n+10 に置き換えた集まりが集合になる、といった形で使います。選択公理の内容は 選択公理と Zorn の補題 の 公理 3.1[選択公理と Zorn の補題] と同じです。

命題 2.2(すべての集合の集合は存在しない)✓

すべての集合を元にもつ集合 VV は存在しない。

証明(命題 2.2)

VV が存在したとする。分出公理を論理式 z∉zz\notin z に使うと、集合 R={z∈V∣z∉z}R=\{z\in V\mid z\notin z\} が存在する。RR も集合だから R∈VR\in V である。したがって R∈R↔(R∈V∧R∉R)↔R∉RR\in R\leftrightarrow (R\in V\wedge R\notin R)\leftrightarrow R\notin R となり矛盾する。

ラッセルのパラドックスは、ZFC では「矛盾」ではなく「VV は集合ではない」という定理になります。分出公理はすでにある集合 xx の中から切り出すことしか許さないので、{z∣z∉z}\{z\mid z\notin z\} を作れないのです。VV や「すべての順序数」のように、論理式で定まるが集合とは限らない集まりをクラスと呼び、あくまで論理式の略記として扱います。

関数や関係も集合として表します。鍵は順序対です。

定義 2.3(順序対(クラトフスキー))↗

(a,b)={{a},{a,b}}(a,b)=\{\{a\},\{a,b\}\} と定める。集合 A,BA,B の直積を A×B={p∈P(P(A∪B))∣∃a∈A ∃b∈B p=(a,b)}A\times B=\{p\in\mathcal{P}(\mathcal{P}(A\cup B))\mid \exists a\in A\ \exists b\in B\ p=(a,b)\} とする。A×BA\times B の部分集合を関係、各 a∈Aa\in A に対して (a,b)∈f(a,b)\in f となる b∈Bb\in B がただ一つある関係 f⊆A×Bf\subseteq A\times B を AA から BB への関数という。

a,b∈A∪Ba,b\in A\cup B なら {a},{a,b}⊆A∪B\{a\},\{a,b\}\subseteq A\cup B なので (a,b)∈P(P(A∪B))(a,b)\in\mathcal{P}(\mathcal{P}(A\cup B)) です。だから直積は冪集合と分出で作れます。

補題 2.4(順序対の基本性質)✓

(a,b)=(c,d)(a,b)=(c,d) ならば a=ca=c かつ b=db=d である。

証明(補題 2.4)

a=ba=b の場合。 (a,b)={{a}}(a,b)=\{\{a\}\} は元を一つしかもたないので、{{c},{c,d}}\{\{c\},\{c,d\}\} も元が一つであり、{c}={c,d}={a}\{c\}=\{c,d\}=\{a\}。よって c=d=a=bc=d=a=b。

a≠ba\ne b の場合。 (a,b)(a,b) は 1 元集合 {a}\{a\} と 2 元集合 {a,b}\{a,b\} からなる。(c,d)(c,d) も元を二つもつので c≠dc\ne d であり、{c}\{c\} は 1 元、{c,d}\{c,d\} は 2 元である。外延性により 1 元集合どうし、2 元集合どうしが等しいので {a}={c}\{a\}=\{c\}、{a,b}={c,d}\{a,b\}=\{c,d\}。前者から a=ca=c。後者から b∈{a,d}b\in\{a,d\} で b≠ab\ne a だから b=db=d。

定義 3.1(後者と自然数)↗

集合 xx の後者を S(x)=x∪{x}S(x)=x\cup\{x\} とする。∅\varnothing を含み SS で閉じた集合を帰納的集合という。無限公理の II をとり、

ω={n∈I∣n はすべての帰納的集合の元である}\omega=\{n\in I\mid n \text{ はすべての帰納的集合の元である}\}

と定める(分出公理)。0=∅0=\varnothing、1=S(0)={0}1=S(0)=\{0\}、2=S(1)={0,1}2=S(1)=\{0,1\}、… と書く。

ω\omega の定義は II の選び方によりません(どの帰納的集合 JJ を使っても、II と JJ の両方に属することと、すべての帰納的集合に属することは同値だからです)。各自然数 nn は「nn より小さい自然数全体」{0,1,…,n−1}\{0,1,\ldots,n-1\} そのものになっています。この記事では ω\omega は 00 を含みます。Rikai の既定の記号では N={1,2,…}\mathbb{N}=\{1,2,\ldots\} なので、ω=N∪{0}\omega=\mathbb{N}\cup\{0\} です。

定理 3.2(ペアノの公理)✓

次が成り立つ。

  1. 0∈ω0\in\omega であり、n∈ωn\in\omega ならば S(n)∈ωS(n)\in\omega。
  2. 任意の n∈ωn\in\omega について S(n)≠0S(n)\ne 0。
  3. m,n∈ωm,n\in\omega かつ S(m)=S(n)S(m)=S(n) ならば m=nm=n。
  4. (帰納法)A⊆ωA\subseteq\omega が 0∈A0\in A を満たし、n∈An\in A ならば S(n)∈AS(n)\in A であるとき、A=ωA=\omega。

これは 証明の技術 でペアノの公理(公理 4.1[証明の技術])として仮定したものです。ZFC ではそれが定理になります。

証明(定理 3.2)

(1) ω\omega の元はすべての帰納的集合に属する。∅\varnothing はどの帰納的集合にも属し、nn がすべての帰納的集合に属せば S(n)S(n) もそうである。したがって ω\omega 自身が帰納的集合である。

(4) 仮定より AA は帰納的集合だから、ω\omega の定義により ω⊆A\omega\subseteq A。よって A=ωA=\omega。

(2) n∈S(n)n\in S(n) なので S(n)≠∅S(n)\ne\varnothing。

(3) まず二つの補助命題を (4) で示す。

(a) 各 n∈ωn\in\omega は推移的(x∈n⇒x⊆nx\in n\Rightarrow x\subseteq n)。0=∅0=\varnothing では自明に成り立つ。nn が推移的とし、x∈S(n)=n∪{n}x\in S(n)=n\cup\{n\} とする。x∈nx\in n なら x⊆n⊆S(n)x\subseteq n\subseteq S(n)、x=nx=n なら x⊆S(n)x\subseteq S(n)。よって S(n)S(n) も推移的。

(b) 各 n∈ωn\in\omega について n∉nn\notin n。0∉00\notin 0 は自明。n∉nn\notin n とし、S(n)∈S(n)S(n)\in S(n) と仮定する。すると S(n)∈nS(n)\in n または S(n)=nS(n)=n。後者なら n∈S(n)=nn\in S(n)=n で矛盾。前者なら n∈S(n)n\in S(n) と (a) の推移性 S(n)⊆nS(n)\subseteq n から n∈nn\in n となり矛盾。

さて S(m)=S(n)S(m)=S(n) かつ m≠nm\ne n とする。m∈S(m)=S(n)m\in S(m)=S(n) かつ m≠nm\ne n なので m∈nm\in n。同様に n∈mn\in m。(a) より n⊆mn\subseteq m なので m∈n⊆mm\in n\subseteq m、すなわち m∈mm\in m となり (b) に反する。

(b) は正則性公理からも直ちに従いますが、ここでは正則性を使わずに示しました。自然数の理論は正則性公理なしで展開できる、ということです。

足し算 m+0=mm+0=m、m+S(n)=S(m+n)m+S(n)=S(m+n) のような再帰的定義が実際に関数を一つ定めることも、ZFC では証明が要ります。

定理 3.3(再帰的定義の原理)✓

集合 AA、元 a∈Aa\in A、関数 g:A→Ag:A\to A が与えられたとき、

F(0)=a,F(S(n))=g(F(n))(n∈ω)F(0)=a,\qquad F(S(n))=g(F(n))\quad(n\in\omega)

を満たす関数 F:ω→AF:\omega\to A がただ一つ存在する。

この定理のねらいは、「F(0)F(0) を決め、F(n)F(n) から F(S(n))F(S(n)) を決める」という書き方が、本当に一つの関数を定めると保証することです。証明の方針は、この二つの条件を満たす関係(対の集合)を全部集め、その共通部分、つまり必要最小限の関係を取り、それが各 nn にちょうど一つの値を与える(関数になる)ことを帰納法で確かめる、というものです。

証明(定理 3.3)

関係 R⊆ω×AR\subseteq\omega\times A が適合的であるとは、(0,a)∈R(0,a)\in R であり、(n,y)∈R(n,y)\in R ならば (S(n),g(y))∈R(S(n),g(y))\in R であることとする。ω×A\omega\times A 自身は適合的である。FF を適合的な関係すべての共通部分とする(P(ω×A)\mathcal{P}(\omega\times A) から分出で作れる)。FF も適合的であり、適合的な関係の中で最小である。

FF が ω\omega から AA への関数であることを、D={n∈ω∣(n,y)∈F となる y がただ一つ}D=\{n\in\omega\mid (n,y)\in F \text{ となる } y \text{ がただ一つ}\} に 定理 3.2 (4) を使って示す。

  • 0∈D0\in D:(0,a)∈F(0,a)\in F。b≠ab\ne a で (0,b)∈F(0,b)\in F なら、F∖{(0,b)}F\setminus\{(0,b)\} も適合的である(定理 3.2 (2) より 00 はどの S(n)S(n) とも異なるので、取り除いた対が適合性のために必要になることはない)。これは FF の最小性に反する。
  • n∈D⇒S(n)∈Dn\in D\Rightarrow S(n)\in D:(n,y)∈F(n,y)\in F となる yy がただ一つとする。適合性より (S(n),g(y))∈F(S(n),g(y))\in F。z≠g(y)z\ne g(y) で (S(n),z)∈F(S(n),z)\in F なら、F′=F∖{(S(n),z)}F'=F\setminus\{(S(n),z)\} が適合的であることを確かめる。(0,a)∈F′(0,a)\in F' は S(n)≠0S(n)\ne0 から。(m,w)∈F′(m,w)\in F' のとき (S(m),g(w))∈F(S(m),g(w))\in F であり、これが (S(n),z)(S(n),z) に等しければ 定理 3.2 (3) より m=nm=n、n∈Dn\in D より w=yw=y、よって g(w)=g(y)≠zg(w)=g(y)\ne z となり矛盾する。したがって (S(m),g(w))∈F′(S(m),g(w))\in F'。FF の最小性に反する。

よって D=ωD=\omega で、FF は関数であり、適合性がそのまま求める等式である。一意性:F,F′F,F' が両方とも等式を満たせば、{n∣F(n)=F′(n)}\{n\mid F(n)=F'(n)\} は 00 を含み SS で閉じるので ω\omega に等しい。

この定理を A=ωA=\omega、a=ma=m、g=Sg=S に使えば n↦m+nn\mapsto m+n が定まり、a=0a=0、g(y)=y+mg(y)=y+m に使えば n↦m⋅nn\mapsto m\cdot n が定まります。結合法則・交換法則・分配法則・順序の性質は、定理 3.2 (4) による帰納法で順に示せます(証明の技術 の帰納法の議論がそのまま使えます)。ω\omega 上の順序は m<n  ⟺  m∈nm<n\iff m\in n と定めます。

引き算ができるように数を広げるには、「a−ba-b」を対 (a,b)(a,b) で表し、同じ差を表す対を同一視します。

定義 4.1(整数と有理数)↗

ω×ω\omega\times\omega 上の関係 (a,b)∼(c,d)  ⟺  a+d=b+c(a,b)\sim(c,d)\iff a+d=b+c は同値関係であり、その商集合を Z\mathbb{Z} とする。(a,b)(a,b) の同値類を a−ba-b と書く。和と積を

[(a,b)]+[(c,d)]=[(a+c, b+d)],[(a,b)]⋅[(c,d)]=[(ac+bd, ad+bc)][(a,b)]+[(c,d)]=[(a+c,\,b+d)],\qquad [(a,b)]\cdot[(c,d)]=[(ac+bd,\,ad+bc)]

で定める。さらに Z×(Z∖{0})\mathbb{Z}\times(\mathbb{Z}\setminus\{0\}) 上の関係 (a,b)∼(c,d)  ⟺  ad=bc(a,b)\sim(c,d)\iff ad=bc による商集合を Q\mathbb{Q} とし、(a,b)(a,b) の類を a/ba/b と書く。

Z\mathbb{Z} の関係の推移律には、ω\omega での簡約律 a+x=b+x⇒a=ba+x=b+x\Rightarrow a=b(xx についての帰納法)を使います。Q\mathbb{Q} のほうの関係が同値関係であることは 命題 6.1[関係と同値関係] で示しました。和と積が代表元の取り方によらないこと(well-defined 性)は 関係と同値関係 の 定理 5.4[関係と同値関係] と同じ型の計算で確かめられます。商集合は P(ω×ω)\mathcal{P}(\omega\times\omega) の部分集合として分出公理で作れるので、ここまですべて ZF の中の構成です。n∈ωn\in\omega を n−0∈Zn-0\in\mathbb{Z} と、k∈Zk\in\mathbb{Z} を k/1∈Qk/1\in\mathbb{Q} と同一視します。こうして Q\mathbb{Q} は順序体(定義 2.1[数とは何か])になります。

定義 4.2(デデキントの切断)↗

Q\mathbb{Q} の部分集合 AA が次の 3 条件を満たすとき、切断という。

  1. A≠∅A\ne\varnothing かつ A≠QA\ne\mathbb{Q}。
  2. (下に閉じる)a∈Aa\in A かつ q<aq<a ならば q∈Aq\in A。
  3. (最大元をもたない)任意の a∈Aa\in A に対し、a<a′a<a' となる a′∈Aa'\in A がある。

切断全体の集合を R\mathbb{R} とし(P(Q)\mathcal{P}(\mathbb{Q}) から分出)、A≤B  ⟺  A⊆BA\le B\iff A\subseteq B と定める。q∈Qq\in\mathbb{Q} には切断 q∗={r∈Q∣r<q}q^{*}=\{r\in\mathbb{Q}\mid r<q\} を対応させる。

切断 AA は「実数 xx より小さい有理数全体」のつもりです。2\sqrt2 には {q∣q<0 または q2<2}\{q\mid q<0 \text{ または } q^2<2\} が対応します(数とは何か の 例 5.3[数とは何か])。

定理 4.3(切断の全順序性と上限性質)✓

(1) (R,≤)(\mathbb{R},\le) は全順序集合である。

(2) R\mathbb{R} の空でない部分集合 S\mathcal{S} が上に有界ならば、S\mathcal{S} は R\mathbb{R} の中に上限をもち、それは和集合 ⋃S\bigcup\mathcal{S} である。

証明(定理 4.3)

(1) 包含関係は半順序である。全順序性を示す。A⊈BA\not\subseteq B とし、a∈A∖Ba\in A\setminus B をとる。b∈Bb\in B とする。もし a≤ba\le b なら、a=ba=b のときは a∈Ba\in B、a<ba<b のときは BB が下に閉じることから a∈Ba\in B となり、いずれも a∉Ba\notin B に反する。よって b<ab<a であり、AA が下に閉じることから b∈Ab\in A。したがって B⊆AB\subseteq A。

(2) CC を S\mathcal{S} の上界とし、U=⋃SU=\bigcup\mathcal{S} とおく。UU が切断であることを確かめる。S≠∅\mathcal{S}\ne\varnothing で各元は空でないので U≠∅U\ne\varnothing。すべての A∈SA\in\mathcal{S} で A⊆CA\subseteq C なので U⊆C≠QU\subseteq C\ne\mathbb{Q}、よって U≠QU\ne\mathbb{Q}。u∈Uu\in U、q<uq<u なら、u∈Au\in A となる A∈SA\in\mathcal{S} について q∈A⊆Uq\in A\subseteq U。u∈A∈Su\in A\in\mathcal{S} なら AA に u<u′u<u' となる u′u' があり u′∈Uu'\in U。よって U∈RU\in\mathbb{R}。各 A∈SA\in\mathcal{S} について A⊆UA\subseteq U だから UU は上界である。DD が任意の上界なら、各 A⊆DA\subseteq D より U⊆DU\subseteq D。よって UU は最小の上界である。

上限性質は、包含で順序を入れた集合の族の和集合という、ほとんど自明な操作から出てきました。困難は体の演算のほうにあります。

定義 4.4(切断の演算)↗

切断 A,BA,B に対し A+B={a+b∣a∈A, b∈B}A+B=\{a+b\mid a\in A,\ b\in B\}、−A={q∈Q∣∃r>0, −q−r∉A}-A=\{q\in\mathbb{Q}\mid \exists r>0,\ -q-r\notin A\} とする。A,B≥0∗A,B\ge0^{*} のとき A⋅B={q∈Q∣q<0}∪{ab∣a∈A, b∈B, a≥0, b≥0}A\cdot B=\{q\in\mathbb{Q}\mid q<0\}\cup\{ab\mid a\in A,\ b\in B,\ a\ge0,\ b\ge0\} とし、一般の符号へは (−A)⋅B=−(A⋅B)(-A)\cdot B=-(A\cdot B) などで拡げる。

例 4.5(0* が加法の単位元であること)

A+0∗=AA+0^{*}=A を確かめます。a∈Aa\in A、r<0r<0 なら a+r<aa+r<a なので a+r∈Aa+r\in A(下に閉じる)。よって A+0∗⊆AA+0^{*}\subseteq A。逆に a∈Aa\in A に対し、最大元がないので a<a′a<a' となる a′∈Aa'\in A をとると、a=a′+(a−a′)a=a'+(a-a') で a−a′<0a-a'<0、つまり a−a′∈0∗a-a'\in0^{*}。よって A⊆A+0∗A\subseteq A+0^{*}。切断の定義の条件 3 がここで効いています。

注意 4.6(順序体の公理の検証)

同じ型の計算(各公理について Q\mathbb{Q} での等式を代表元ごとに使い、条件 3 で端を調整する)で、(R,+,⋅,≤)(\mathbb{R},+,\cdot,\le) が順序体であり、q↦q∗q\mapsto q^{*} が Q\mathbb{Q} からの順序体の埋め込みであることが確かめられます。乗法の逆元と分配法則の検証は場合分けが多く長いので、ここでは省略し、全体を書き下した文献として Rudin の Principles of Mathematical Analysis 第 1 章付録を挙げます(参考文献)。この検証は有理数の四則と大小だけを使う有限の計算で、新しい公理は要りません。

系 4.7(単調収束の原理)✓

上で構成した R\mathbb{R} において、単調増加で上に有界な数列 (an)(a_n) は s=sup⁡nans=\sup_n a_n に収束する。

証明(系 4.7)

{an}\{a_n\} は空でなく上に有界なので、定理 4.3 により上限 ss が存在する。ε>0\varepsilon>0 とする。s−ε<ss-\varepsilon<s は上界ではないので、aN>s−εa_N>s-\varepsilon となる NN がある。単調性から n≥Nn\ge N で s−ε<aN≤an≤ss-\varepsilon<a_N\le a_n\le s、すなわち ∣an−s∣<ε|a_n-s|<\varepsilon。

これで、数とは何か の上限性質(公理 5.1[数とは何か])と、実数の完備性とコーシー列 が出発点に置いた単調収束の公理(公理 3.1[実数の完備性とコーシー列])は、どちらも ZFC の定理になりました。そこから先、コーシー列の収束(定理 7.3[実数の完備性とコーシー列])や Bolzano–Weierstrass の定理は、それぞれの記事の証明がそのまま ZFC の中の証明になります。

注意 4.8(もう一つの構成と一意性)

有理数のコーシー列の同値類として実数を作ることもできます(注意 5.2[数とは何か])。どちらの構成でも上限性質をもつ順序体が得られ、上限性質をもつ順序体は互いに順序体として同型です。したがって「実数とは何か」は構成の選び方によりません。数学者が実数を使うときに参照しているのは、個々の構成ではなく、この同型類だといえます。

ω\omega は 0,1,2,…0,1,2,\ldots を「それより前の自然数全体」として並べたものでした。この並べ方を ω\omega の先まで続けたものが順序数です。

定義 5.1(順序数)↗

集合 α\alpha が推移的であるとは、x∈αx\in\alpha ならば x⊆αx\subseteq\alpha であることをいう。推移的であって、関係 ∈\in が α\alpha 上の狭義の整列順序(狭義全順序で、空でない任意の部分集合が ∈\in に関する最小元をもつ)であるような集合を順序数という。順序数 α,β\alpha,\beta について α<β\alpha<\beta を α∈β\alpha\in\beta で定める。

定理 3.2 の証明の (a) と同様の帰納法で、各 n∈ωn\in\omega と ω\omega 自身が順序数であることが示せます。ω+1=S(ω)=ω∪{ω}\omega+1=S(\omega)=\omega\cup\{\omega\}、ω+2\omega+2、… も順序数です。

補題 5.2(順序数の基本性質)✓

α,β\alpha,\beta を順序数とする。

  1. α∉α\alpha\notin\alpha。
  2. α\alpha の元は順序数である。
  3. α∩β\alpha\cap\beta は順序数である。
  4. α⊊β\alpha\subsetneq\beta ならば α∈β\alpha\in\beta。
証明(補題 5.2)

(1) α∈α\alpha\in\alpha なら、α\alpha は α\alpha の元で、∈\in が α\alpha 上で非反射的であることに反する。

(2) β′∈α\beta'\in\alpha とする。推移性から β′⊆α\beta'\subseteq\alpha なので、β′\beta' 上の ∈\in は α\alpha 上の整列順序の制限であり、整列順序である。β′\beta' が推移的であること:δ∈γ∈β′\delta\in\gamma\in\beta' とすると、γ∈α\gamma\in\alpha、さらに δ∈α\delta\in\alpha(α\alpha の推移性を 2 回)。∈\in は α\alpha 上で推移的な関係だから δ∈β′\delta\in\beta'。

(3) 推移的集合の共通部分は推移的であり、α∩β⊆α\alpha\cap\beta\subseteq\alpha 上の ∈\in は整列順序の制限である。

(4) β∖α≠∅\beta\setminus\alpha\ne\varnothing の ∈\in に関する最小元を γ\gamma とし、γ=α\gamma=\alpha を示す。δ∈γ\delta\in\gamma なら δ∈β\delta\in\beta(推移性)で、最小性より δ∉β∖α\delta\notin\beta\setminus\alpha、つまり δ∈α\delta\in\alpha。よって γ⊆α\gamma\subseteq\alpha。逆に δ∈α\delta\in\alpha とする。δ,γ∈β\delta,\gamma\in\beta は ∈\in で比較できる。δ=γ\delta=\gamma は γ∉α\gamma\notin\alpha に反し、γ∈δ\gamma\in\delta なら α\alpha の推移性で γ∈α\gamma\in\alpha となり反する。よって δ∈γ\delta\in\gamma。ゆえに α=γ∈β\alpha=\gamma\in\beta。

定理 5.3(順序数の比較可能性)✓

順序数 α,β\alpha,\beta について、α∈β\alpha\in\beta、α=β\alpha=\beta、β∈α\beta\in\alpha のちょうど一つが成り立つ。さらに、順序数からなる空でない集合は ∈\in に関する最小元をもつ。

証明(定理 5.3)

δ=α∩β\delta=\alpha\cap\beta は順序数である(補題 5.2 (3))。δ≠α\delta\ne\alpha かつ δ≠β\delta\ne\beta なら、補題 5.2 (4) より δ∈α\delta\in\alpha かつ δ∈β\delta\in\beta、つまり δ∈δ\delta\in\delta となり (1) に反する。よって δ=α\delta=\alpha または δ=β\delta=\beta。δ=α\delta=\alpha なら α⊆β\alpha\subseteq\beta で、α=β\alpha=\beta か((4) より)α∈β\alpha\in\beta。δ=β\delta=\beta も同様。二つが同時に成り立たないこと:α∈β\alpha\in\beta と β∈α\beta\in\alpha なら推移性で α∈α\alpha\in\alpha、α∈β=α\alpha\in\beta=\alpha も α∈α\alpha\in\alpha で、いずれも (1) に反する。

最小元:CC を順序数の空でない集合とし、α∈C\alpha\in C をとる。α∩C=∅\alpha\cap C=\varnothing なら、どの β∈C\beta\in C も β∈α\beta\in\alpha ではないので、比較可能性より α≤β\alpha\le\beta、α\alpha が最小元。α∩C≠∅\alpha\cap C\ne\varnothing なら、その α\alpha における最小元 γ\gamma が CC の最小元である(β∈C\beta\in C が β∈γ\beta\in\gamma なら β∈α∩C\beta\in\alpha\cap C で γ\gamma の最小性に反する)。

系 5.4(順序数の集まりについて)✓

(1) 順序数からなる推移的集合は順序数である。特に順序数からなる集合 XX に対し ⋃X\bigcup X は順序数で、XX の上限である。

(2)(ブラリ=フォルティ)すべての順序数を元とする集合は存在しない。

証明(系 5.4)

(1) 推移的で、定理 5.3 により ∈\in は狭義全順序(推移律は順序数 γ\gamma の推移性から:α∈β∈γ⇒α∈γ\alpha\in\beta\in\gamma\Rightarrow\alpha\in\gamma)、最小元も存在する。⋃X\bigcup X は順序数の元すなわち順序数(補題 5.2 (2))からなり、推移的集合の和集合は推移的である。α∈X\alpha\in X なら α⊆⋃X\alpha\subseteq\bigcup X なので α≤⋃X\alpha\le\bigcup X で、上界 β\beta に対しては各 α⊆β\alpha\subseteq\beta だから ⋃X⊆β\bigcup X\subseteq\beta。

(2) そのような集合 Ω\Omega は (1) により順序数であり、Ω∈Ω\Omega\in\Omega となって 補題 5.2 (1) に反する。

順序数は 00、後者 S(α)S(\alpha)、そして後者でない 00 以外の順序数(極限順序数。ω\omega が最小)の 3 種類に分かれます。

定理 5.5(順序数上の超限帰納法と超限再帰)✓

(1) 論理式 φ(α)\varphi(\alpha) について、すべての順序数 α\alpha で「すべての β<α\beta<\alpha で φ(β)\varphi(\beta) ならば φ(α)\varphi(\alpha)」が成り立つなら、すべての順序数で φ(α)\varphi(\alpha) が成り立つ。

(2) 論理式で定まる「関数」GG(各集合 xx に集合 G(x)G(x) をただ一つ対応させるもの)が与えられたとき、すべての順序数 α\alpha について F(α)=G(F↾α)F(\alpha)=G(F\restriction\alpha) を満たす FF がただ一つ存在する。ここで F↾αF\restriction\alpha は α\alpha に制限した関数(集合)である。

(1) は自然数の帰納法を順序数に広げたもの、(2) は再帰的定義を順序数に広げたものです。(2) の証明の方針は、「δ\delta 未満の部分だけ正しく定まった関数」(近似)を考え、近似が一つしかないことと、各 δ\delta に近似があることを (1) で示し、最後にそれらを貼り合わせて FF を作る、というものです。

証明(定理 5.5)

(1) φ(α0)\varphi(\alpha_0) が偽となる α0\alpha_0 があれば、集合 {β∈S(α0)∣¬φ(β)}\{\beta\in S(\alpha_0)\mid\neg\varphi(\beta)\} は空でなく、最小元 α\alpha をもつ(定理 5.3)。β<α\beta<\alpha では φ(β)\varphi(\beta) が成り立つので仮定から φ(α)\varphi(\alpha) となり矛盾する。

(2) 順序数 δ\delta を定義域とする関数 ff で、すべての α<δ\alpha<\delta について f(α)=G(f↾α)f(\alpha)=G(f\restriction\alpha) を満たすものを δ\delta-近似と呼ぶ。二つの近似は共通の定義域で一致する(一致しない最小の α\alpha をとると、そこまでの制限が等しいので値も等しく、矛盾)。各 δ\delta に δ\delta-近似が存在することを (1) で示す。β<δ\beta<\delta について β\beta-近似 fβf_\beta がある(一意)とする。置換公理で集合 {fβ∣β<δ}\{f_\beta\mid\beta<\delta\} を作り、その和集合 ff は(互いに整合するので)定義域 ⋃β<δβ\bigcup_{\beta<\delta}\beta の近似になる。δ\delta が極限順序数ならこれが δ\delta-近似、δ=S(β)\delta=S(\beta) なら fβ∪{(β,G(fβ))}f_\beta\cup\{(\beta,G(f_\beta))\} が δ\delta-近似である。F(α)F(\alpha) を「任意の δ>α\delta>\alpha の δ\delta-近似の α\alpha での値」と定めればよい。一意性は (1) による。

選択公理と Zorn の補題 の超限帰納法(定理 4.1[選択公理と Zorn の補題])は一つの整列集合の上の議論でした。ここでは順序数全体という「集合でない」範囲で同じ議論をしています。次の定理によって、二つの見方は一致します。

定理 5.6(整列集合の表現定理)✓

任意の整列集合 (W,<)(W,<) は、ただ一つの順序数と順序同型である。

この定理は、どんな整列集合も「並べ方の見本」である順序数のどれかと同じ並びをもつ、という主張です。証明では、WW の元 ww より前の部分 W<wW_{<w}(始切片。先頭から途中までを切り取った部分)が順序数と同じ並びになるような ww を集めて、それらが WW 全体になることを示します。

証明(定理 5.6)

一意性。 順序数 α,β\alpha,\beta の間の順序同型 ff は恒等写像であることを示す。γ<α\gamma<\alpha について、δ<γ\delta<\gamma なら f(δ)=δf(\delta)=\delta だとする。ff は順序同型だから β\beta のうち f(γ)f(\gamma) より小さい元全体、すなわち集合 f(γ)f(\gamma) は {f(δ)∣δ<γ}=γ\{f(\delta)\mid\delta<\gamma\}=\gamma に等しい。よって f(γ)=γf(\gamma)=\gamma。定理 5.5 (1) により ff は恒等写像で、α=β\alpha=\beta。

存在。 w∈Ww\in W に対し W<w={v∈W∣v<w}W_{<w}=\{v\in W\mid v<w\} とする。W′={w∈W∣W<wW'=\{w\in W\mid W_{<w} はある順序数と同型}\} とし、w∈W′w\in W' に対しその順序数(一意性からただ一つ)を F(w)F(w) とする。置換公理により β={F(w)∣w∈W′}\beta=\{F(w)\mid w\in W'\} は集合である。

h:W<w→F(w)h:W_{<w}\to F(w) を同型とする。v<wv<w なら hh は W<vW_{<v} を {γ∈F(w)∣γ<h(v)}=h(v)\{\gamma\in F(w)\mid\gamma<h(v)\}=h(v) の上に同型に写すので、v∈W′v\in W' かつ F(v)=h(v)∈F(w)F(v)=h(v)\in F(w)。したがって W′W' は WW の始切片、FF は順序を保ち、β\beta の元 F(w)F(w) の元 γ=h(v)\gamma=h(v) は F(v)F(v) として β\beta に属する。β\beta は順序数からなる推移的集合だから順序数で(系 5.4 (1))、F:W′→βF:W'\to\beta は順序同型である。

W′≠WW'\ne W と仮定し、W∖W′W\setminus W' の最小元を ww とする。W′W' は始切片で w∉W′w\notin W' だから W′=W<wW'=W_{<w} となり、W<w≅βW_{<w}\cong\beta、つまり w∈W′w\in W' で矛盾する。よって W≅βW\cong\beta。

注意 5.7(置換公理がなぜ要るか)

存在の証明で置換公理を使いました。実際、置換公理を除いた体系(ツェルメロの集合論 Z)では、順序数 ω+ω=ω⋅2\omega+\omega=\omega\cdot2 の存在すら証明できないことが知られています。ω, P(ω), P(P(ω)),…\omega,\ \mathcal{P}(\omega),\ \mathcal{P}(\mathcal{P}(\omega)),\ldots を並べた集合を作るにも置換公理が要ります。置換公理は「関数の像は集合」という自然な原理ですが、日常の数学ではほとんど意識されず、超限的な構成で初めて表に出ます。

濃度と無限 では「AA と BB が対等」という関係だけを扱い、「濃度そのもの」の定義は保留しました(注意 3.3[濃度と無限])。順序数を使うと、各同値類から標準的な代表を一つ選べます。

定義 6.1(基数)↗

順序数 κ\kappa が、どの α<κ\alpha<\kappa とも対等でないとき、κ\kappa を基数という。集合 XX がある順序数と対等なとき、XX と対等な最小の順序数(これは基数である)を ∣X∣|X| と書く。基数 κ,λ\kappa,\lambda に対し

κ+λ=∣κ×{0}∪λ×{1}∣,κ⋅λ=∣κ×λ∣,2κ=∣P(κ)∣\kappa+\lambda=|\kappa\times\{0\}\cup\lambda\times\{1\}|,\qquad \kappa\cdot\lambda=|\kappa\times\lambda|,\qquad 2^{\kappa}=|\mathcal{P}(\kappa)|

と定める(右辺の ∣⋅∣|\cdot| が定義されることは選択公理のもとで保証される。命題 7.1)。

各 n∈ωn\in\omega と ω\omega は基数です(nn については鳩の巣原理を nn に関する帰納法で示せばよく、ω\omega についてはそれが有限でないことから)。ℵ0=ω\aleph_0=\omega と書きます。ω+1\omega+1 は ω\omega と対等なので基数ではありません。この観察を一般化します。

補題 6.2(無限基数は極限順序数)✓

無限基数 κ\kappa(すなわち κ≥ω\kappa\ge\omega である基数)は極限順序数である。

証明(補題 6.2)

κ=S(γ)=γ∪{γ}\kappa=S(\gamma)=\gamma\cup\{\gamma\} とすると、κ∉ω\kappa\notin\omega だから γ∉ω\gamma\notin\omega、つまり ω≤γ\omega\le\gamma。f(γ)=0f(\gamma)=0、f(n)=n+1f(n)=n+1(n∈ωn\in\omega)、それ以外の ξ\xi で f(ξ)=ξf(\xi)=\xi と定めると、f:S(γ)→γf:S(\gamma)\to\gamma は全単射である。γ<κ\gamma<\kappa と κ\kappa が対等になり、κ\kappa が基数であることに反する。

定理 6.3(ヘッセンベルクの定理)✓

任意の無限基数 κ\kappa について κ⋅κ=κ\kappa\cdot\kappa=\kappa。

ℵ0⋅ℵ0=ℵ0\aleph_0\cdot\aleph_0=\aleph_0 は 濃度と無限 の 補題 5.4[濃度と無限] で、対角線に沿って数える方法で示しました。一般の κ\kappa でもアイデアは同じで、「正方形 μ×μ\mu\times\mu を大きくしていく順」に並べます。証明の筋は、κ×κ\kappa\times\kappa を整列して並べると、各元の前にくる元の個数が κ\kappa 未満になる、というものです。もし並べた全体が κ\kappa より長ければ、ある元の前に κ\kappa 個の元が並んでしまい、これと矛盾します。

証明(定理 6.3)

無限基数 κ\kappa についての超限帰納法(定理 5.5 (1))で示す。κ\kappa より小さい無限基数 ν\nu では ν⋅ν=ν\nu\cdot\nu=\nu と仮定する。

κ×κ\kappa\times\kappa に順序 ⊲\lhd を

(α,β)⊲(γ,δ)  ⟺  (max⁡(α,β),α,β) が (max⁡(γ,δ),γ,δ) より辞書式に小さい(\alpha,\beta)\lhd(\gamma,\delta)\iff \bigl(\max(\alpha,\beta),\alpha,\beta\bigr) \text{ が } \bigl(\max(\gamma,\delta),\gamma,\delta\bigr) \text{ より辞書式に小さい}

で定める。これは整列順序である:空でない部分集合に対し、まず max⁡\max の値が最小のものに絞り、その中で α\alpha が最小のもの、さらに β\beta が最小のものをとればよい(定理 5.3 を 3 回使う)。

(α,β)∈κ×κ(\alpha,\beta)\in\kappa\times\kappa を固定し、μ=S(max⁡(α,β))\mu=S(\max(\alpha,\beta)) とおく。(γ,δ)⊲(α,β)(\gamma,\delta)\lhd(\alpha,\beta) なら max⁡(γ,δ)≤max⁡(α,β)<μ\max(\gamma,\delta)\le\max(\alpha,\beta)<\mu なので、(α,β)(\alpha,\beta) の前にある元全体は μ×μ\mu\times\mu に含まれる。補題 6.2 より μ<κ\mu<\kappa である。μ\mu が有限なら μ×μ\mu\times\mu は有限。μ\mu が無限なら ν=∣μ∣\nu=|\mu| は ν≤μ<κ\nu\le\mu<\kappa を満たす無限基数で、帰納法の仮定から ∣μ×μ∣=ν⋅ν=ν<κ|\mu\times\mu|=\nu\cdot\nu=\nu<\kappa。いずれにせよ、各元の前にある元全体は κ\kappa より小さい順序数と対等である。

定理 5.6 により (κ×κ,⊲)(\kappa\times\kappa,\lhd) はある順序数 θ\theta と同型である。κ<θ\kappa<\theta なら、同型で κ∈θ\kappa\in\theta に対応する元 pp の前にある元全体は κ\kappa と同型、とくに対等となり、前段に反する。よって θ≤κ\theta\le\kappa で、κ×κ\kappa\times\kappa から θ⊆κ\theta\subseteq\kappa への単射がある。逆向きには α↦(α,0)\alpha\mapsto(\alpha,0) が単射である。カントール–シュレーダー–ベルンシュタインの定理(定理 3.5[濃度と無限])により ∣κ×κ∣=κ|\kappa\times\kappa|=\kappa。

系 6.4(無限基数の和と積)✓

基数 κ,λ\kappa,\lambda の少なくとも一方が無限で、どちらも 00 でないとき、κ+λ=κ⋅λ=max⁡(κ,λ)\kappa+\lambda=\kappa\cdot\lambda=\max(\kappa,\lambda)。

証明(系 6.4)

μ=max⁡(κ,λ)\mu=\max(\kappa,\lambda) とおくと μ\mu は無限基数。単射の列

μ↪κ×{0}∪λ×{1}↪μ×{0,1}↪μ×μ\mu\hookrightarrow\kappa\times\{0\}\cup\lambda\times\{1\}\hookrightarrow\mu\times\{0,1\}\hookrightarrow\mu\times\mu

と 定理 6.3 より μ≤κ+λ≤μ\mu\le\kappa+\lambda\le\mu。積も μ↪κ×λ↪μ×μ\mu\hookrightarrow\kappa\times\lambda\hookrightarrow\mu\times\mu(最初の単射は、小さいほうの因子の元 00 を固定して作る)から同様である。

和と積が「大きいほうを取る」だけになってしまうのに対し、冪は本当に大きくなります。カントールの定理(定理 7.1[濃度と無限])により 2κ>κ2^{\kappa}>\kappa です。無限基数を小さい順に ℵ0<ℵ1<ℵ2<⋯<ℵω<⋯\aleph_0<\aleph_1<\aleph_2<\cdots<\aleph_\omega<\cdots と並べることもできます。ℵα+1\aleph_{\alpha+1} は ℵα\aleph_\alpha より大きい最小の基数、極限順序数 λ\lambda では ℵλ=sup⁡α<λℵα\aleph_\lambda=\sup_{\alpha<\lambda}\aleph_\alpha と、超限再帰(定理 5.5 (2))で定めます。ℵα\aleph_{\alpha} より大きい基数が存在することは、選択公理のもとでは P(ℵα)\mathcal{P}(\aleph_\alpha) を整列すれば分かります(選択公理がなくてもハルトークスの定理で示せます)。

和と積は「大きいほうを取る」でしたが、無限基数はもう一つ、「下から何段で届くか」という量を持ちます。ω\omega には 0,1,2,…0, 1, 2, \ldots の ω\omega 段で届き、ℵω\aleph_\omega にも ℵ0,ℵ1,ℵ2,…\aleph_0, \aleph_1, \aleph_2, \ldots の ω\omega 段で届きますが、ℵ1\aleph_1 には可算段では届きません。この違いを捉えるのが共終数です。次の定義の「非有界な写像」とは、β\beta 段の階段を上がっていくとき、α\alpha より小さいどの順序数も、いつかは踏み越えられる、という性質をもつ写像のことです。

定義 6.5(共終数・正則基数)↗

α\alpha を順序数とする。順序数 β\beta からの写像 f:β→αf : \beta \to \alpha が α\alpha で非有界であるとは、すべての γ<α\gamma < \alpha に対し γ≤f(ξ)\gamma \le f(\xi) となる ξ<β\xi < \beta が存在することをいう。非有界な写像 f:β→αf : \beta \to \alpha が存在するような順序数 β\beta の最小のものを α\alpha の共終数といい、cf(α)\mathrm{cf}(\alpha) と書く(β=α\beta = \alpha、ff = 恒等写像が条件を満たすので、S(α)S(\alpha) の部分集合の最小元として存在する。定理 5.3)。無限基数 κ\kappa が cf(κ)=κ\mathrm{cf}(\kappa) = \kappa を満たすとき、κ\kappa は正則であるといい、そうでないとき特異であるという。

命題 6.6(共終数の基本的な値)✓

  1. cf(0)=0\mathrm{cf}(0) = 0 で、cf(S(γ))=1\mathrm{cf}(S(\gamma)) = 1 である。
  2. α\alpha が極限順序数なら ω≤cf(α)≤α\omega \le \mathrm{cf}(\alpha) \le \alpha である。とくに cf(ω)=ω\mathrm{cf}(\omega) = \omega である。
  3. cf(ℵω)=ω\mathrm{cf}(\aleph_\omega) = \omega である。したがって ℵω\aleph_\omega は特異基数である。
証明(命題 6.6)

1: α=0\alpha = 0 では、空写像 0→00 \to 0 が(γ<0\gamma < 0 となる γ\gamma がないので)非有界で、β=0\beta = 0 が最小です。α=S(γ)\alpha = S(\gamma) では、γ≤f(ξ)\gamma \le f(\xi) となる ξ\xi が必要なので β≠0\beta \ne 0 で、f(0)=γf(0) = \gamma とおけば β=1\beta = 1 の非有界写像です。

2: ≤α\le \alpha は恒等写像です。β=n∈ω\beta = n \in \omega とし f:n→αf : n \to \alpha を取る。n=0n = 0 なら γ=0<α\gamma = 0 < \alpha に対し γ≤f(ξ)\gamma \le f(\xi) となる ξ\xi がなく非有界でない。n≥1n \ge 1 なら m=max⁡ξ<nf(ξ)<αm = \max_{\xi<n}f(\xi) < \alpha で、α\alpha が極限順序数なので m+1<αm + 1 < \alpha であり、γ=m+1\gamma = m + 1 はどの f(ξ)f(\xi) 以下でもない。よって有限な β\beta では非有界写像がなく、cf(α)≥ω\mathrm{cf}(\alpha) \ge \omega です。

3: f(n)=ℵnf(n) = \aleph_n は ω→ℵω=sup⁡nℵn\omega \to \aleph_\omega = \sup_n \aleph_n の非有界写像です(γ<ℵω\gamma < \aleph_\omega なら上限の最小性から γ<ℵn\gamma < \aleph_n となる nn がある)。よって cf(ℵω)≤ω\mathrm{cf}(\aleph_\omega) \le \omega です。ℵω\aleph_\omega は無限基数なので極限順序数で(補題 6.2)、2 より cf(ℵω)=ω<ℵω\mathrm{cf}(\aleph_\omega) = \omega < \aleph_\omega です。

定理 6.7(共終数は正則基数である)✓

α\alpha が極限順序数ならば、cf(α)\mathrm{cf}(\alpha) は正則基数である。すなわち cf(α)\mathrm{cf}(\alpha) は無限基数で、cf(cf(α))=cf(α)\mathrm{cf}(\mathrm{cf}(\alpha)) = \mathrm{cf}(\alpha) である。

証明(定理 6.7)

β=cf(α)\beta = \mathrm{cf}(\alpha) とし、非有界写像 f:β→αf : \beta \to \alpha を 1 つ取る。命題 6.6 の 2 より β≥ω\beta \ge \omega である。

(i) β\beta は極限順序数である。 β=δ+1\beta = \delta + 1 とすると、β≥ω\beta \ge \omega から δ≥ω\delta \ge \omega、とくに δ>0\delta > 0 である。g(η)=max⁡(f(η),f(δ))g(\eta) = \max(f(\eta), f(\delta))(η<δ\eta < \delta)と定めると、g:δ→αg : \delta \to \alpha は非有界である。実際、γ<α\gamma < \alpha に対し γ≤f(ξ)\gamma \le f(\xi) となる ξ≤δ\xi \le \delta をとり、ξ<δ\xi < \delta なら γ≤g(ξ)\gamma \le g(\xi)、ξ=δ\xi = \delta なら γ≤f(δ)≤g(0)\gamma \le f(\delta) \le g(0) である。これは β\beta の最小性に反する。

(ii) ff は単調非減少としてよい。 f′(ξ)=sup⁡η≤ξf(η)f'(\xi) = \sup_{\eta \le \xi} f(\eta)(系 5.4 (1) により ⋃η≤ξf(η)\bigcup_{\eta \le \xi} f(\eta))と定める。f′(ξ)≥f(ξ)f'(\xi) \ge f(\xi) で f′f' は単調非減少である。f′(ξ)=αf'(\xi) = \alpha となる ξ<β\xi < \beta があれば、γ<α=sup⁡η≤ξf(η)\gamma < \alpha = \sup_{\eta \le \xi}f(\eta) から γ<f(η)\gamma < f(\eta) となる η≤ξ\eta \le \xi があるので、ff を ξ+1\xi + 1 に制限した写像が非有界になる。(i) より ξ+1<β\xi + 1 < \beta なので、これも β\beta の最小性に反する。したがって f′:β→αf' : \beta \to \alpha は単調非減少な非有界写像である。

(iii) cf(β)=β\mathrm{cf}(\beta) = \beta。 cf(β)≤β\mathrm{cf}(\beta) \le \beta は 命題 6.6 の 2 による。h:γ→βh : \gamma \to \beta を非有界写像で γ<β\gamma < \beta とする。このとき f′∘h:γ→αf' \circ h : \gamma \to \alpha は非有界である:δ<α\delta < \alpha に対し δ≤f′(ξ)\delta \le f'(\xi) となる ξ<β\xi < \beta があり、hh が非有界なので ξ≤h(η)\xi \le h(\eta) となる η<γ\eta < \gamma があり、f′f' の単調性から δ≤f′(ξ)≤f′(h(η))\delta \le f'(\xi) \le f'(h(\eta)) である。これは β\beta の最小性に反するので、cf(β)=β\mathrm{cf}(\beta) = \beta である。

(iv) β\beta は基数である。 そうでなければ、ある δ<β\delta < \beta と全単射 k:δ→βk : \delta \to \beta がある(定義 6.1)。全射なので kk は非有界で、cf(β)≤δ<β\mathrm{cf}(\beta) \le \delta < \beta となり (iii) に反する。

この証明は選択公理を使わない((ii) の単調化も上限を取るだけで、選択は要らない)。

定理 6.8(後者基数は正則である)✓

選択公理を仮定する。κ\kappa を無限基数、λ\lambda を κ\kappa より大きい最小の基数とする。このとき λ\lambda は正則基数である。とくに ℵ1\aleph_1 は正則で、ℵ1\aleph_1 の可算部分集合は ℵ1\aleph_1 の中に上界を持つ。

証明(定理 6.8)

λ\lambda は無限基数なので極限順序数で(補題 6.2)、命題 6.6 の 2 より cf(λ)≤λ\mathrm{cf}(\lambda) \le \lambda である。非有界写像 f:β→λf : \beta \to \lambda で β<λ\beta < \lambda のものがあったと仮定して矛盾を導く。

β<λ\beta < \lambda なら ∣β∣≤β<λ|\beta| \le \beta < \lambda で、∣β∣|\beta| は基数なので λ\lambda の最小性から ∣β∣≤κ|\beta| \le \kappa である。同様に f(ξ)<λf(\xi) < \lambda から、∣f(ξ)+1∣≤κ+1=κ|f(\xi) + 1| \le \kappa + 1 = \kappa である(系 6.4)。非有界性から λ=⋃ξ<β(f(ξ)+1)\lambda = \bigcup_{\xi < \beta} (f(\xi) + 1) である。選択公理により、各 ξ<β\xi < \beta に単射 gξ:f(ξ)+1→κg_\xi : f(\xi) + 1 \to \kappa を選ぶ。γ<λ\gamma < \lambda に対し ξγ\xi_\gamma を γ≤f(ξ)\gamma \le f(\xi) となる最小の ξ\xi とし、Φ(γ)=(ξγ,gξγ(γ))∈β×κ\Phi(\gamma) = (\xi_\gamma, g_{\xi_\gamma}(\gamma)) \in \beta \times \kappa と定める。Φ(γ)=Φ(γ′)\Phi(\gamma) = \Phi(\gamma') なら ξγ=ξγ′\xi_\gamma = \xi_{\gamma'} で、gξγg_{\xi_\gamma} の単射性から γ=γ′\gamma = \gamma' である。よって Φ\Phi は単射で、∣β∣≤κ|\beta| \le \kappa と 定理 6.3 から λ≤∣β×κ∣≤κ⋅κ=κ\lambda \le |\beta \times \kappa| \le \kappa \cdot \kappa = \kappa となり、λ>κ\lambda > \kappa に反する。したがって cf(λ)=λ\mathrm{cf}(\lambda) = \lambda である。

λ=ℵ1\lambda = \aleph_1(κ=ℵ0\kappa = \aleph_0)の場合の後半:可算部分集合 X⊆ℵ1X \subseteq \aleph_1 が上界を持たないとすると、XX を可算順序数 β≤ω\beta \le \omega で数え上げる(XX が有限なら最大元があり上界を持つので、XX は可算無限としてよい)ことで非有界写像 β→ℵ1\beta \to \aleph_1 ができ、cf(ℵ1)≤ω<ℵ1\mathrm{cf}(\aleph_1) \le \omega < \aleph_1 となって前半に反する。

注意 6.9(一般の順序集合の共終数)

順序数に限らず、半順序集合 PP の部分集合 SS が共終であるとは、すべての p∈Pp \in P に対し p≤sp \le s となる s∈Ss \in S があることをいい、共終な部分集合の濃度の最小値を PP の共終数と呼びます。たとえば R\mathbb{R} の共終数は ℵ0\aleph_0(N\mathbb{N} が共終)、最大元をもつ半順序集合では 11 です。順序数 α\alpha(極限順序数)の場合、共終な部分集合の濃度の最小値は、ここで定義した cf(α)\mathrm{cf}(\alpha) と一致します。定理 6.7 の (ii) の単調化と同じ議論で、非有界写像から共終な部分集合(像)が、共終な部分集合を整列して数え上げれば非有界写像が得られるからです。

選択公理と Zorn の補題 では、選択公理、Zorn の補題、整列可能定理が同値であることを示しました(定理 5.3[選択公理と Zorn の補題])。その証明が使っているのは、部分集合の切り出し、和集合、冪集合、関数の制限と合併、そして整列集合上の超限帰納法だけです。どれも ZF の公理で正当化できる操作なので、あの同値定理はZF の定理として読めます。ここに、順序数を使った同値形を一つ加えます。

命題 7.1(選択公理と順序数)✓

ZF において、次は同値である。

  1. 選択公理。
  2. すべての集合はある順序数と対等である(したがって ∣X∣|X| が定義される)。
証明(命題 7.1)

(1)⇒(2):選択公理から整列可能定理(定理 5.2[選択公理と Zorn の補題])により XX に整列順序が入り、定理 5.6 により XX はある順序数と順序同型、とくに対等である。

(2)⇒(1):xx を空でない集合からなる集合とし、⋃x\bigcup x と順序数 α\alpha の全単射 g:⋃x→αg:\bigcup x\to\alpha をとる。y∈xy\in x に対し、g[y]⊆αg[y]\subseteq\alpha は空でないので最小元をもつ。f(y)=g−1(min⁡g[y])f(y)=g^{-1}(\min g[y]) と定めれば f(y)∈yf(y)\in y であり、ff は(分出公理で x×⋃xx\times\bigcup x の部分集合として作れる)選択関数である。

(2)⇒(1) の証明では、選ぶたびに「最小のもの」という規則を使っているので、選択公理は要りません。整列された世界では選択は自由にできる、というのが選択公理の正体だと読むことができます。

注意 7.2(Rikai の記事で選択公理が効く場所)

選択公理は、ベクトル空間の基底の存在(定理 6.3[選択公理と Zorn の補題])や極大イデアルの存在(定理 6.5[選択公理と Zorn の補題])のほか、Banach 空間の基本定理 のハーン–バナッハの定理(一般の場合)で使われます。解析学でも、可算個の選択(命題 5.8[濃度と無限] の証明で各 nn に単射を選んでいる箇所など)は頻繁に現れます。これらの定理を ZFC までさかのぼるときには、公理 10 を使っていることになります。

∣R∣=∣P(N)∣=2ℵ0|\mathbb{R}|=|\mathcal{P}(\mathbb{N})|=2^{\aleph_0} でした(命題 6.6[濃度と無限])。カントールの定理から 2ℵ0≥ℵ12^{\aleph_0}\ge\aleph_1 です。カントールは等号が成り立つと予想しました。

定義 8.1(連続体仮説)↗

連続体仮説 (CH) とは、2ℵ0=ℵ12^{\aleph_0}=\aleph_1 という主張である。すなわち、R\mathbb{R} の無限部分集合は N\mathbb{N} と対等か R\mathbb{R} と対等かのいずれかである。

定理 8.2(連続体仮説の独立性(ゲーデル、コーエン))※

ZF が無矛盾ならば、

  1. (ゲーデル 1938)ZFC + CH は無矛盾である。
  2. (コーエン 1963)ZFC + ¬CH は無矛盾である。

したがって ZFC が無矛盾なら、CH は ZFC から証明も反証もできない。同じことが選択公理と ZF の間にも成り立つ。

注意 8.3(証明の所在)

この定理は主張だけを述べます。(1) はゲーデルの構成可能集合のクラス LL が ZFC + CH のモデルになることを示し、(2) はコーエンの強制法で、ZFC のモデルに ℵ2\aleph_2 個の新しい実数を付け加えたモデルを作ります。いずれも本格的な道具立てが要り、Kunen や Jech の教科書(参考文献)で 1 章から数章を占めます。

定理 8.2 が「ZF が無矛盾ならば」という条件付きの形をしているのには理由があります。ZFC は自然数の算術を含む帰納的に公理化された理論なので、第二不完全性定理(定理 6.1[ゲーデルの不完全性定理])により、ZFC が無矛盾なら ZFC は自分の無矛盾性を証明できません。だから独立性の結果は、いつも相対的な無矛盾性として述べられます。CH の独立性は、不完全性定理の「ゲーデル文」とは性質が違い、算術の文ではない点にも注意してください(注意 8.4[ゲーデルの不完全性定理])。

ZFC は Rikai の数学側の土台ですが、ZFC で決まらない自然な問いがあることも、この節が示しています。この先の章では、同じ「証明とは何か」を別の角度、つまり計算と型の側から見直します。型なしラムダ計算 で計算の素朴なモデルを作り、カリー=ハワード対応を経て、集合ではなく型を土台に数学を組み立てる依存型理論と Lean へ進みます。

演習 9.1易

正則性公理から、どの集合 xx についても x∉xx\notin x であること、また x∈yx\in y かつ y∈xy\in x となる x,yx,y は存在しないことを示せ。

解答

x∈xx\in x とする。集合 {x}\{x\} に正則性公理を使うと、{x}\{x\} の元で {x}\{x\} と交わらないものがある。元は xx だけなので x∩{x}=∅x\cap\{x\}=\varnothing。しかし x∈xx\in x より x∈x∩{x}x\in x\cap\{x\} で矛盾。x∈y∈xx\in y\in x なら、{x,y}\{x,y\} に正則性公理を使う。x∩{x,y}x\cap\{x,y\} は yy を含み、y∩{x,y}y\cap\{x,y\} は xx を含むので、どちらの元も {x,y}\{x,y\} と交わり、矛盾。

演習 9.2標準

順序数 α,β\alpha,\beta に対し、α×{0}∪β×{1}\alpha\times\{0\}\cup\beta\times\{1\} に「{0}\{0\} の部分をすべて {1}\{1\} の部分より前に置き、各部分の中では元の順序」で整列順序を入れ、その順序型(定理 5.6)を α+β\alpha+\beta と書く。1+ω=ω1+\omega=\omega だが ω+1≠ω\omega+1\ne\omega であることを示せ。

解答

1+ω1+\omega は (0,0)(0,0) のあとに (0,1),(1,1),(2,1),…(0,1),(1,1),(2,1),\ldots が続く順序である。(0,0)↦0(0,0)\mapsto0、(n,1)↦n+1(n,1)\mapsto n+1 は ω\omega への順序同型なので、定理 5.6 の一意性から 1+ω=ω1+\omega=\omega。一方 ω+1\omega+1 には最大元 (0,1)(0,1) があるが、ω\omega には最大元がない(n<n+1n<n+1)。順序同型は最大元を最大元に写すので、両者は同型でなく、ω+1≠ω\omega+1\ne\omega。順序数の和は可換ではありません。ただし ω+1\omega+1 と ω\omega は対等なので、基数としては ℵ0+1=ℵ0\aleph_0+1=\aleph_0 です。

演習 9.3標準

(1) 任意の集合 XX について、P(X)×P(X)\mathcal{P}(X)\times\mathcal{P}(X) と P(X×{0,1})\mathcal{P}(X\times\{0,1\}) は対等であることを示せ(選択公理は使わない)。(2) これと 系 6.4 を使い、∣R×R∣=∣R∣|\mathbb{R}\times\mathbb{R}|=|\mathbb{R}| を示せ。

解答

(1) (A,B)↦A×{0}∪B×{1}(A,B)\mapsto A\times\{0\}\cup B\times\{1\} は全単射で、逆写像は C↦({x∣(x,0)∈C},{x∣(x,1)∈C})C\mapsto(\{x\mid(x,0)\in C\},\{x\mid(x,1)\in C\})。順序対の性質(補題 2.4)で 2 つの成分が区別できることを使っている。(2) ∣R∣=∣P(ω)∣|\mathbb{R}|=|\mathcal{P}(\omega)|(命題 6.6[濃度と無限]。N\mathbb{N} と ω\omega は対等)。(1) より R×R\mathbb{R}\times\mathbb{R} は P(ω×{0,1})\mathcal{P}(\omega\times\{0,1\}) と対等で、系 6.4 より ω×{0,1}\omega\times\{0,1\} は ω\omega と対等(ここは ℵ0+ℵ0=ℵ0\aleph_0+\aleph_0=\aleph_0 なので、偶数と奇数に振り分ける明示的な全単射でもよい)。対等な集合の冪集合は対等なので、∣R×R∣=∣P(ω)∣=∣R∣|\mathbb{R}\times\mathbb{R}|=|\mathcal{P}(\omega)|=|\mathbb{R}|。平面と直線は「点の個数」では区別できません。

演習 9.4難

ω1=ℵ1\omega_1=\aleph_1 を最小の非可算順序数とする。選択公理を仮定して、ω1\omega_1 の可算部分集合 XX は ω1\omega_1 の中に上界をもつこと(すなわち sup⁡X<ω1\sup X<\omega_1)を示せ。

解答

XX の各元 α\alpha は α<ω1\alpha<\omega_1 なので高々可算である(ω1\omega_1 は最小の非可算順序数)。系 5.4 (1) より sup⁡X=⋃X\sup X=\bigcup X は順序数で、可算個の高々可算集合の和集合だから、命題 5.8[濃度と無限](各 α\alpha に単射を選ぶところで選択公理を使う)により高々可算である。よって ⋃X≠ω1\bigcup X\ne\omega_1 で、比較可能性(定理 5.3)から ⋃X<ω1\bigcup X<\omega_1。⋃X+1<ω1\bigcup X+1<\omega_1(補題 6.2)も上界になる。可算の段数で ω1\omega_1 に届かないこの性質は、ボレル集合の階層などで繰り返し使われます。

  • K. Kunen, Set Theory, Studies in Logic 34, College Publications, 2011 — 第 I 章(ZFC の公理、順序数、基数)、第 II 章(構成可能集合)、第 IV 章(強制法)。
  • T. Jech, Set Theory, The Third Millennium Edition, Springer, 2003 — 第 1〜3 章(公理、順序数、基数算術)、第 13・14 章(LL と強制法)。
  • H. B. Enderton, Elements of Set Theory, Academic Press, 1977 — 第 4・5 章(自然数と、整数・有理数・実数の構成)。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — 第 1 章付録(デデキント切断による実数の構成)。
  • K. Gödel, “The consistency of the axiom of choice and of the generalized continuum-hypothesis”, Proceedings of the National Academy of Sciences 24 (1938), 556–557.
  • P. J. Cohen, “The independence of the continuum hypothesis”, Proceedings of the National Academy of Sciences 50 (1963), 1143–1148.

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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