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三角圏とホモトピー圏の三角構造:写像錐を公理にする

対象読者: 本テーマの鎖複体とホモトピー圏(写像錐・鎖ホモトピー)とアーベル圏の章を学んだ人。三角圏の公理は仮定しません。

前提となる記事:鎖複体とホモトピー圏:長完全列・写像錐・非輪状集成補題、加法圏とアーベル圏:像分解から「元」による図式追跡まで

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複体をホモトピーを除いて同じものと見なす世界では、「核」や「余核」がうまく定義できません。その代わりに、写像錐という対象が「核と余核を一度に記録するもの」の役目を果たします。この記事は、写像錐が満たす性質を取り出して公理にまとめ(三角圏)、その公理だけから長完全列などの道具が使えることを示します。読み終えると、ホモトピー圏でアーベル圏の議論に代わるものが何かが分かります。

  • ホモトピー圏 K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は一般にアーベル圏ではなく、核・余核の代わりに写像錐があります。写像錐の三角形 X→Y→Cone⁡(f)→X[1]X \to Y \to \operatorname{Cone}(f) \to X[1] がもつ性質を公理にしたものが三角圏(公理 TR1〜TR4)です。
  • 公理だけから、完全三角形の連続する射の合成は 00、Hom⁡(W,−)\operatorname{Hom}(W, -) と Hom⁡(−,W)\operatorname{Hom}(-, W) は完全三角形を長完全列に送る(コホモロジー的。三角形をアーベル群の完全列に写す、という性質のこと)、三角形の射の二成分が同型なら三つ目も同型(三角形の五項補題)、が出ます。
  • その帰結として、射 uu の「錐」は同型を除いて一意ですが、その同型は一意ではなく、錐を関手として選ぶことはできません。完全三角形の直和は完全で、三つ目の射が 00 の完全三角形は双積(直和と直積を同一視したもの)に分裂します。回転の逆向き(TR2 の後半)は他の公理から従います。
  • K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は写像錐の三角形と同型な三角形を完全三角形として三角圏になります。TR3 では正方形がホモトピーを除いてしか可換でないので、ホモトピー hh を使った射 (x,y)↦(ax,by+hx)(x, y) \mapsto (ax, by + hx) を作ります。八面体公理 TR4(2 つの射 u,vu, v とその合成 vuvu の三つの錐の間の関係を述べた公理で、第三同型定理の類似)は Appendix で明示的なホモトピーにより証明します。
  • H0 ⁣:K(A)→AH^0\colon \mathrm{K}(\mathcal{A}) \to \mathcal{A} はコホモロジー的関手で、非輪状複体は厚い部分圏(完全三角形について閉じた三角部分圏のうち、直和因子をとる操作でも閉じたもの)をなします。次数ごとに分裂する短完全列は完全三角形を与えますが、分裂しない短完全列はそのままでは完全三角形になりません。これを直すのが導来圏(擬同型を可逆にした圏)です。

アーベル圏では、短完全列 0→X→Y→Z→00 \to X \to Y \to Z \to 0 から Hom やコホモロジーの長完全列が出ます。複体をホモトピーを除いて扱う K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) では、核や余核が一般には存在せず、短完全列という言葉がそのままでは使えません。その代わりに使えるのが、鎖複体とホモトピー圏の章で作った写像錐です。鎖写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y から

X→fY→iCone⁡(f)→pX[1]X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{i} \operatorname{Cone}(f) \xrightarrow{p} X[1]

という列ができ、コホモロジーをとると長完全列になります(定理 5.3[鎖複体とホモトピー圏])。錐は短完全列 0→Y→Cone⁡(f)→X[1]→00 \to Y \to \operatorname{Cone}(f) \to X[1] \to 0 の真ん中にあり、「ff の核と余核を一度に記録した対象」と見なせます。

Verdier と Grothendieck は、この列のふるまいを公理にまとめました。そうしておけば、K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) でも、擬同型を可逆にした導来圏 D(A)\mathrm{D}(\mathcal{A}) でも、位相空間のスペクトラムの安定ホモトピー圏でも、同じ議論が使えます。この章では公理(TR1〜TR4)を述べ、公理から出る基本性質を証明し、K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) が実際に公理を満たすことを示します。

公理の中でいちばん目立たないのは TR3 です。写像錐は、正方形が厳密に可換なら関手的に作れます(命題 5.2[鎖複体とホモトピー圏] の 4)。しかし K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の射はホモトピー類なので、正方形はホモトピーを除いてしか可換になりません。そこでホモトピーそのものを使って錐の間の射を作ります。そのときホモトピーの選び方によって射が変わることが、「錐は同型を除いて一意だが関手的ではない」という三角圏の弱点の源です。この弱点を直す試み(dg 圏・安定 ∞\infty 圏による強化)は、三角圏の先の話題として最後の注意で触れます。

以下、圏は局所的に小さい(定義 3.2[圏・関手・自然変換])とし、加法圏・加法関手・双積の言葉は加法圏とアーベル圏の章(定義 3.4[加法圏とアーベル圏]、定義 3.5[加法圏とアーベル圏]、定義 3.2[加法圏とアーベル圏])に従います。

定義 2.1(シフトをもつ加法圏・三角形・三角形の射)↗

  1. シフトをもつ加法圏とは、加法圏 D\mathcal{D} と加法関手 [1] ⁣:D→D[1]\colon \mathcal{D} \to \mathcal{D} の組で、[1][1] が逆関手 [−1][-1] をもつ(圏の同型である)ものをいう。X[1]X[1] を XX のシフトと呼び、[n][n] を [1][1] または [−1][-1] の ∣n∣|n| 回の合成とする。
  2. 三角形とは、対象 X,Y,ZX, Y, Z と射 u ⁣:X→Yu\colon X \to Y、v ⁣:Y→Zv\colon Y \to Z、w ⁣:Z→X[1]w\colon Z \to X[1] の組 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) をいい、X→uY→vZ→wX[1]X \xrightarrow{u} Y \xrightarrow{v} Z \xrightarrow{w} X[1] と書く。
  3. 三角形 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) から (X′,Y′,Z′,u′,v′,w′)(X', Y', Z', u', v', w') への射とは、射の組 (a,b,c)(a, b, c)(a ⁣:X→X′a\colon X \to X'、b ⁣:Y→Y′b\colon Y \to Y'、c ⁣:Z→Z′c\colon Z \to Z')で bu=u′ab u = u' a、cv=v′bc v = v' b、a[1] w=w′ca[1]\, w = w' c を満たすものをいう。a,b,ca, b, c がすべて同型のとき三角形の同型という(このとき (a−1,b−1,c−1)(a^{-1}, b^{-1}, c^{-1}) は逆向きの射である)。
  4. 三角形 T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) の回転を (Y,Z,X[1],v,w,−u[1])(Y, Z, X[1], v, w, -u[1]) とする。

[1][1] は圏の同型なので、各 Hom⁡(X,Y)→Hom⁡(X[1],Y[1])\operatorname{Hom}(X, Y) \to \operatorname{Hom}(X[1], Y[1]) は全単射で、加法関手なので群の同型です。以下この事実を「[1][1] は Hom の同型を与える」と言って使います。

定義 2.2(三角圏)↗

シフトをもつ加法圏 D\mathcal{D} と、完全三角形(distinguished triangle)と呼ぶ三角形の類が与えられ、次の公理を満たすとき、D\mathcal{D} を三角圏という。

  • TR1. (a) 完全三角形と同型な三角形は完全である。(b) 各対象 XX について X→1X→0→X[1]X \xrightarrow{1} X \to 0 \to X[1] は完全である。(c) 各射 u ⁣:X→Yu\colon X \to Y について、uu を最初の射とする完全三角形 X→uY→Z→X[1]X \xrightarrow{u} Y \to Z \to X[1] が存在する。
  • TR2. (a) 完全三角形の回転は完全である。(b) 逆に、回転が完全な三角形は完全である。
  • TR3. 完全三角形 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w)、(X′,Y′,Z′,u′,v′,w′)(X', Y', Z', u', v', w') と射 a ⁣:X→X′a\colon X \to X'、b ⁣:Y→Y′b\colon Y \to Y' が bu=u′ab u = u' a を満たせば、(a,b,c)(a, b, c) が三角形の射になる c ⁣:Z→Z′c\colon Z \to Z' が存在する。

TR4(八面体公理). 射 u ⁣:X→Yu\colon X \to Y、v ⁣:Y→Zv\colon Y \to Z と完全三角形

X→uY→juCu→kuX[1],X→vuZ→jvuCvu→kvuX[1],Y→vZ→jvCv→kvY[1]X \xrightarrow{u} Y \xrightarrow{j_u} C_u \xrightarrow{k_u} X[1], \quad X \xrightarrow{vu} Z \xrightarrow{j_{vu}} C_{vu} \xrightarrow{k_{vu}} X[1], \quad Y \xrightarrow{v} Z \xrightarrow{j_v} C_v \xrightarrow{k_v} Y[1]

が与えられたとき、射 α ⁣:Cu→Cvu\alpha\colon C_u \to C_{vu}、β ⁣:Cvu→Cv\beta\colon C_{vu} \to C_v で、(1X,v,α)(1_X, v, \alpha) と (u,1Z,β)(u, 1_Z, \beta) が三角形の射であり、かつ

Cu→αCvu→βCv→ju[1] kvCu[1]C_u \xrightarrow{\alpha} C_{vu} \xrightarrow{\beta} C_v \xrightarrow{j_u[1]\, k_v} C_u[1]

が完全三角形であるものが存在する。

TR1〜TR3 だけを満たす(TR4 を課さない)ものを前三角圏と呼ぶことがある。

TR3 の cc は一意とは限りません(例 3.6)。TR1 (c) の完全三角形 X→uY→Z→X[1]X \xrightarrow{u} Y \to Z \to X[1] の ZZ を uu の錐と呼ぶことがあります。TR4 の (1X,v,α)(1_X, v, \alpha) が三角形の射であるという条件は、αju=jvuv\alpha j_u = j_{vu} v と kvuα=kuk_{vu} \alpha = k_u を意味し、(u,1Z,β)(u, 1_Z, \beta) のほうは βjvu=jv\beta j_{vu} = j_v と kvβ=u[1]kvuk_v \beta = u[1] k_{vu} を意味します。

TR4 は文字が多いですが、言っていることは、2 つの射 u,vu, v とその合成 vuvu の 3 つの錐 Cu,Cvu,CvC_u, C_{vu}, C_v が、またひとつの完全三角形でつながる、ということです。求める射は α,β\alpha, \beta の 2 つだけで、条件は「(1X,v,α)(1_X, v, \alpha) と (u,1Z,β)(u, 1_Z, \beta) が三角形の射であること」と「Cu→Cvu→CvC_u \to C_{vu} \to C_v が完全三角形に延びること」です。

TR4 は「Y/XY/X、Z/XZ/X、Z/YZ/Y の間に (Z/X)/(Y/X)≅Z/Y(Z/X)/(Y/X) \cong Z/Y という第三同型定理の類似がある」と読めます。X⊂Y⊂ZX \subset Y \subset Z が加群なら、Cu,Cvu,CvC_u, C_{vu}, C_v をそれぞれ Y/XY/X、Z/XZ/X、Z/YZ/Y と思えば、0→Y/X→Z/X→Z/Y→00 \to Y/X \to Z/X \to Z/Y \to 0 が完全です。

XYZuvw+1
完全三角形。三つ目の射 w は次数を 1 つ上げて X[1] に戻る。三角形の頂点を回る向きに回転しても完全三角形になる(TR2)。

この節の命題はどれも、TR1・TR2 (a)・TR3 だけを使って証明します(TR2 (b) と TR4 は使いません)。あとで K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) が三角圏であることを示すとき、TR2 (b) をこの節の結果から導くためです。そこで次の言い方をします。

(P) D\mathcal{D} はシフトをもつ加法圏で、完全三角形の類が TR1・TR2 (a)・TR3 を満たす。

三角圏は (P) を満たします。

命題 3.1(完全三角形の基本性質)✓

D\mathcal{D} が (P) を満たすとし、T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) を完全三角形とする。

  1. vu=0v u = 0、wv=0w v = 0、u[1] w=0u[1]\, w = 0 である。
  2. (a,b,c)(a, b, c) が三角形の射 T→T′T \to T' なら、(b,c,a[1])(b, c, a[1]) は回転どうしの射である。
  3. WW を対象とする。(W,0,W[1],0,0,−1W[1])(W, 0, W[1], 0, 0, -1_{W[1]}) と (0,W,W,0,−1W,0)(0, W, W, 0, -1_W, 0) は完全三角形である。
証明(命題 3.1)

3. TR1 (b) の (W,W,0,1,0,0)(W, W, 0, 1, 0, 0) の回転は (W,0,W[1],0,0,−1W[1])(W, 0, W[1], 0, 0, -1_{W[1]}) で、TR2 (a) により完全です。W[−1]W[-1] について同じことをして、さらにもう一度回転すると (0,W,W,0,−1W,0)(0, W, W, 0, -1_W, 0) を得ます(00 の射のシフトは 00)。

1. TR1 (b) の (X,X,0,1,0,0)(X, X, 0, 1, 0, 0) から TT へ、a=1Xa = 1_X、b=ub = u をとると b⋅1=u⋅ab \cdot 1 = u \cdot a なので、TR3 により三角形の射 (1X,u,c)(1_X, u, c) があります。二つ目の正方形の条件は c⋅0=vuc \cdot 0 = v u なので vu=0v u = 0 です。TT の回転 (Y,Z,X[1],v,w,−u[1])(Y, Z, X[1], v, w, -u[1]) は TR2 (a) により完全なので、同じ議論で wv=0w v = 0 です。もう一度回転した (Z,X[1],Y[1],w,−u[1],−v[1])(Z, X[1], Y[1], w, -u[1], -v[1]) に使えば (−u[1])w=0(-u[1]) w = 0 です。

2. 回転どうしの射の条件は cv=v′bc v = v' b、a[1]w=w′ca[1] w = w' c、b[1](−u[1])=(−u′[1])a[1]b[1](-u[1]) = (-u'[1]) a[1] です。前の二つは (a,b,c)(a, b, c) の条件そのもので、最後は bu=u′ab u = u' a に [1][1] を施したものです。

次の命題がこの章の中心です。三角圏での議論の多くは、Hom をとってアーベル群の完全列に持ち込むことで進みます。証明の方針は、TR3 で「射の存在」を取り出すことです。たとえば 1 では、vg=0v g = 0 となる gg から、零への射などを使って gg が uu を経由することを TR3 で作り出します。どの三角形からどの三角形へ送るのかに注意して読んでください。

命題 3.2(Hom の完全性)✓

D\mathcal{D} が (P) を満たすとし、T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) を完全三角形、WW を対象とする。次のアーベル群の列は完全である。

  1. Hom⁡(W,X)→u∗Hom⁡(W,Y)→v∗Hom⁡(W,Z)\operatorname{Hom}(W, X) \xrightarrow{u_*} \operatorname{Hom}(W, Y) \xrightarrow{v_*} \operatorname{Hom}(W, Z)。
  2. Hom⁡(Z,W)→v∗Hom⁡(Y,W)→u∗Hom⁡(X,W)\operatorname{Hom}(Z, W) \xrightarrow{v^*} \operatorname{Hom}(Y, W) \xrightarrow{u^*} \operatorname{Hom}(X, W)。
  3. Hom⁡(W,X)→u∗Hom⁡(W,Y)→v∗Hom⁡(W,Z)→w∗Hom⁡(W,X[1])→u[1]∗Hom⁡(W,Y[1])\operatorname{Hom}(W, X) \xrightarrow{u_*} \operatorname{Hom}(W, Y) \xrightarrow{v_*} \operatorname{Hom}(W, Z) \xrightarrow{w_*} \operatorname{Hom}(W, X[1]) \xrightarrow{u[1]_*} \operatorname{Hom}(W, Y[1])。
  4. Hom⁡(Y[1],W)→u[1]∗Hom⁡(X[1],W)→w∗Hom⁡(Z,W)→v∗Hom⁡(Y,W)→u∗Hom⁡(X,W)\operatorname{Hom}(Y[1], W) \xrightarrow{u[1]^*} \operatorname{Hom}(X[1], W) \xrightarrow{w^*} \operatorname{Hom}(Z, W) \xrightarrow{v^*} \operatorname{Hom}(Y, W) \xrightarrow{u^*} \operatorname{Hom}(X, W)。

ここで u∗=u∘−u_* = u \circ -、u∗=−∘uu^* = - \circ u である。

証明(命題 3.2)

1. 命題 3.1 の 1 より v∗u∗=(vu)∗=0v_* u_* = (vu)_* = 0 です。逆に g ⁣:W→Yg\colon W \to Y が vg=0v g = 0 を満たすとします。命題 3.1 の 3 の完全三角形 (W,0,W[1],0,0,−1W[1])(W, 0, W[1], 0, 0, -1_{W[1]}) から、TT の回転 (Y,Z,X[1],v,w,−u[1])(Y, Z, X[1], v, w, -u[1])(TR2 (a) により完全)へ、a=ga = g、b=0 ⁣:0→Zb = 0\colon 0 \to Z をとります。b⋅0=0=vgb \cdot 0 = 0 = v g なので、TR3 により三角形の射 (g,0,c)(g, 0, c) があり、三つ目の正方形の条件は g[1](−1W[1])=(−u[1])cg[1](-1_{W[1]}) = (-u[1]) c、すなわち g[1]=u[1]cg[1] = u[1] c です。[1][1] は Hom の同型を与えるので c=h[1]c = h[1] となる h ⁣:W→Xh\colon W \to X があり、g[1]=(uh)[1]g[1] = (uh)[1] から g=uhg = u h です。

2. 命題 3.1 の 1 より u∗v∗=(vu)∗=0u^* v^* = (vu)^* = 0 です。逆に g ⁣:Y→Wg\colon Y \to W が gu=0g u = 0 を満たすとします。TT から 命題 3.1 の 3 の完全三角形 (0,W,W,0,−1W,0)(0, W, W, 0, -1_W, 0) へ、a=0 ⁣:X→0a = 0\colon X \to 0、b=−gb = -g をとります。bu=−gu=0=0⋅ab u = -g u = 0 = 0 \cdot a なので、TR3 により三角形の射 (0,−g,c)(0, -g, c) があり、二つ目の正方形の条件 cv=(−1W)(−g)=gc v = (-1_W)(-g) = g から g∈Im⁡v∗g \in \operatorname{Im} v^* です。

3. Hom⁡(W,Y)\operatorname{Hom}(W, Y) での完全性は 1 です。Hom⁡(W,Z)\operatorname{Hom}(W, Z) での完全性は、1 を TT の回転 (Y,Z,X[1],v,w,−u[1])(Y, Z, X[1], v, w, -u[1]) に使えば得られます。Hom⁡(W,X[1])\operatorname{Hom}(W, X[1]) での完全性は、1 を二度回転した (Z,X[1],Y[1],w,−u[1],−v[1])(Z, X[1], Y[1], w, -u[1], -v[1]) に使えば、列 Hom⁡(W,Z)→w∗Hom⁡(W,X[1])→(−u[1])∗Hom⁡(W,Y[1])\operatorname{Hom}(W, Z) \xrightarrow{w_*} \operatorname{Hom}(W, X[1]) \xrightarrow{(-u[1])_*} \operatorname{Hom}(W, Y[1]) の完全性として得られます。準同型の符号を変えても核と像は変わらないので、u[1]∗u[1]_* に置き換えてよいです。

4. 3 と同じく、2 を TT、その回転、二度の回転に使います。

アーベル群の五項補題を使うため、次の補題を用意します。ねらいは、三角形の射 (a,b,c)(a, b, c) で a,ba, b が同型なら cc も同型であること(次の命題)を、Hom をとった完全列の五項補題に帰着させることです。三角形が完全であることを仮定せず、Hom の完全性だけを仮定しているのは、あとで完全性がまだ分からない三角形(直和)にも使うためです。

補題 3.3(Hom による五項補題)✓

D\mathcal{D} をシフトをもつ加法圏とし、(a,b,c)(a, b, c) を三角形 T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) から T′=(X′,Y′,Z′,u′,v′,w′)T' = (X', Y', Z', u', v', w') への射とする。すべての対象 WW について TT と T′T' の 命題 3.2 の 3 の列が完全であり、aa と bb が同型なら、cc は同型である。

証明(補題 3.3)

WW を固定し、TT の列を上の行、T′T' の列を下の行とし、縦の射を a∗,b∗,c∗,a[1]∗,b[1]∗a_*, b_*, c_*, a[1]_*, b[1]_* とします。三角形の射の条件 bu=u′abu = u'a、cv=v′bcv = v'b、a[1]w=w′ca[1] w = w' c と、bu=u′abu = u'a に [1][1] を施した b[1]u[1]=u′[1]a[1]b[1] u[1] = u'[1] a[1] により、四つの正方形は可換です。a,ba, b は同型なので、a∗,b∗,a[1]∗,b[1]∗a_*, b_*, a[1]_*, b[1]_* は(逆射との合成を逆写像として)群の同型です。

Ab\mathsf{Ab} はアーベル圏(命題 4.6[加法圏とアーベル圏])で、Abel 群の列が Ab\mathsf{Ab} の列として完全であることは「像 = 核」と同値です(補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の 4)。よって五項補題(系 7.2[加法圏とアーベル圏] の 3)により c∗ ⁣:Hom⁡(W,Z)→Hom⁡(W,Z′)c_*\colon \operatorname{Hom}(W, Z) \to \operatorname{Hom}(W, Z') は同型、とくに全単射です。

W=Z′W = Z' として、cs=1Z′c s = 1_{Z'} を満たす s ⁣:Z′→Zs\colon Z' \to Z があります。W=ZW = Z とすると c(sc)=(cs)c=c=c⋅1Zc (s c) = (c s) c = c = c \cdot 1_Z で、c∗c_* が単射なので sc=1Zs c = 1_Z です。よって cc は同型です。

命題 3.4(三角形の五項補題)✓

D\mathcal{D} が (P) を満たすとし、(a,b,c)(a, b, c) を完全三角形 TT から完全三角形 T′T' への射とする。a,b,ca, b, c のうち二つが同型なら、三つ目も同型であり、(a,b,c)(a, b, c) は三角形の同型である。

証明(命題 3.4)

a,ba, b が同型のとき: 命題 3.2 の 3 により、TT と T′T' はすべての WW について 補題 3.3 の仮定を満たすので、cc は同型です。

b,cb, c が同型のとき: 命題 3.1 の 2 により (b,c,a[1])(b, c, a[1]) は回転どうしの射で、回転は TR2 (a) により完全です。前段により a[1]a[1] は同型で、[1][1] は圏の同型なので aa も同型です。

a,ca, c が同型のとき: 二度回転すると (c,a[1],b[1])(c, a[1], b[1]) は二度回転した三角形どうしの射で、前段と同じく b[1]b[1]、したがって bb が同型です。

系 3.5(錐の一意性)✓

D\mathcal{D} が (P) を満たすとし、(X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) と (X,Y,Z′,u,v′,w′)(X, Y, Z', u, v', w') を同じ射 uu をもつ完全三角形とする。このとき同型 c ⁣:Z→Z′c\colon Z \to Z' で、(1X,1Y,c)(1_X, 1_Y, c) が三角形の同型になるものが存在する。

証明(系 3.5)

a=1Xa = 1_X、b=1Yb = 1_Y は 1⋅u=u⋅11 \cdot u = u \cdot 1 を満たすので、TR3 により三角形の射 (1X,1Y,c)(1_X, 1_Y, c) があります。命題 3.4 により cc は同型です。

錐は同型を除いて一意ですが、その同型 cc は一意とは限りません。次の例はそれを最も簡単な形で示します。

例 3.6(TR3 の射は一意でない)

D\mathcal{D} を三角圏、X,Z′X, Z' を対象とします。命題 3.1 の 3 から、T=(X,0,X[1],0,0,−1X[1])T = (X, 0, X[1], 0, 0, -1_{X[1]}) と T′=(0,Z′,Z′,0,−1Z′,0)T' = (0, Z', Z', 0, -1_{Z'}, 0) は完全三角形です。a=0 ⁣:X→0a = 0\colon X \to 0、b=0 ⁣:0→Z′b = 0\colon 0 \to Z' は b⋅0=0⋅ab \cdot 0 = 0 \cdot a を満たします。このとき任意の射 c ⁣:X[1]→Z′c\colon X[1] \to Z' について、c⋅0=(−1Z′)⋅0c \cdot 0 = (-1_{Z'}) \cdot 0、a[1](−1X[1])=0=0⋅ca[1](-1_{X[1]}) = 0 = 0 \cdot c なので、(0,0,c)(0, 0, c) は三角形の射です。たとえば Abel 群の圏 Ab\mathsf{Ab} のホモトピー圏(定理 5.5 で三角圏であることを示します)で、次数 00 に Z\mathbb{Z} を置いた複体を Z\mathbb{Z} と書き、X=Z[−1]X = \mathbb{Z}[-1]、Z′=ZZ' = \mathbb{Z} とすると、cc は Hom⁡(Z,Z)=Z\operatorname{Hom}(\mathbb{Z}, \mathbb{Z}) = \mathbb{Z} の任意の元をとれます(次数 00 だけの複体の間には 00 でないホモトピーがないので、ホモトピー類は鎖写像そのものです)。aa と bb が決まっても cc は決まりません。

注意 3.7(錐は関手的に選べない)

例 3.6 のような非一意性のため、射 uu に錐 CuC_u を対応させ、可換な正方形に TR3 の cc を対応させて関手 Mor⁡(D)→D\operatorname{Mor}(\mathcal{D}) \to \mathcal{D} を作ることは一般にはできません。K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) では鎖写像の水準で錐を作れば関手的ですが(命題 5.2[鎖複体とホモトピー圏] の 4)、正方形がホモトピーを除いてしか可換でないときは、補題 5.2 で見るように射がホモトピーの選び方に依存します。この欠点が、三角圏を dg 圏や安定 ∞\infty 圏で強化する動機の一つです。

次の補題により、TR2 の後半は他の公理から従います。K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) について TR2 (b) を直接確かめる代わりに、これを使います。

補題 3.8(TR2 の後半は他の公理から従う)✓

D\mathcal{D} が (P) を満たせば、TR2 (b) も成り立つ。すなわち、三角形 T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) の回転が完全なら TT は完全である。

証明(補題 3.8)

三角形を三度回転すると

(X[1],Y[1],Z[1],−u[1],−v[1],−w[1])(X[1], Y[1], Z[1], -u[1], -v[1], -w[1])

になります(回転のたびに最後の射の前に符号が付くことを順に追うと、(Y,Z,X[1],v,w,−u[1])(Y, Z, X[1], v, w, -u[1])、(Z,X[1],Y[1],w,−u[1],−v[1])(Z, X[1], Y[1], w, -u[1], -v[1])、そして上の形です)。TT の回転が完全なので、TR2 (a) を二回使うと、TT を三度回転した上の三角形は完全です。

TR1 (c) により完全三角形 T′=(X,Y,Z′,u,v′,w′)T' = (X, Y, Z', u, v', w') をとります。TR2 (a) を三回使うと (X[1],Y[1],Z′[1],−u[1],−v′[1],−w′[1])(X[1], Y[1], Z'[1], -u[1], -v'[1], -w'[1]) も完全です。二つの完全三角形は同じ最初の射 −u[1]-u[1] をもつので、系 3.5 により同型 γ ⁣:Z[1]→Z′[1]\gamma\colon Z[1] \to Z'[1] で

γ(−v[1])=−v′[1],(−w′[1])γ=−w[1]\gamma(-v[1]) = -v'[1], \qquad (-w'[1])\gamma = -w[1]

を満たすものがあります。[1][1] は Hom の同型を与えるので γ=c[1]\gamma = c[1] となる同型 c ⁣:Z→Z′c\colon Z \to Z' があり、cv=v′c v = v'、w′c=ww' c = w です。よって (1X,1Y,c)(1_X, 1_Y, c) は三角形の同型 T→T′T \to T' で、TR1 (a) により TT は完全です。

系 3.9(三角形のシフト)✓

D\mathcal{D} が (P) を満たし、T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) が完全三角形なら、すべての n∈Zn \in \mathbb{Z} について

T[n]=(X[n],Y[n],Z[n],(−1)nu[n],(−1)nv[n],(−1)nw[n])T[n] = \bigl(X[n], Y[n], Z[n], (-1)^n u[n], (-1)^n v[n], (-1)^n w[n]\bigr)

は完全三角形である。

証明(系 3.9)

補題 3.8 の証明で見たとおり、三角形 SS を三度回転したものは S[1]S[1] です。TR2 (a) を三回使うと、SS が完全なら S[1]S[1] も完全です。T[n+1]=(T[n])[1]T[n+1] = (T[n])[1] なので、n≥0n \ge 0 は帰納法で従います。逆に T[−1]T[-1] を三度回転すると TT になるので、補題 3.8(TR2 (b))を三回使えば T[−1]T[-1] は完全で、n<0n < 0 も帰納法で従います。

4. コホモロジー的関手・直和・分裂

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定義 4.1(コホモロジー的関手)↗

D\mathcal{D} を三角圏、B\mathcal{B} をアーベル圏とする。加法関手 H ⁣:D→BH\colon \mathcal{D} \to \mathcal{B} がコホモロジー的であるとは、すべての完全三角形 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) について H(X)→H(u)H(Y)→H(v)H(Z)H(X) \xrightarrow{H(u)} H(Y) \xrightarrow{H(v)} H(Z) が完全であることをいう。反変の加法関手 H ⁣:Dop→BH\colon \mathcal{D}^{\mathrm{op}} \to \mathcal{B} がコホモロジー的であるとは、すべての完全三角形について H(Z)→H(v)H(Y)→H(u)H(X)H(Z) \xrightarrow{H(v)} H(Y) \xrightarrow{H(u)} H(X) が完全であることをいう。Hn(X)=H(X[n])H^n(X) = H(X[n]) と書くことがある。

命題 3.2 の 1・2 は、Hom⁡(W,−) ⁣:D→Ab\operatorname{Hom}(W, -)\colon \mathcal{D} \to \mathsf{Ab} と Hom⁡(−,W) ⁣:Dop→Ab\operatorname{Hom}(-, W)\colon \mathcal{D}^{\mathrm{op}} \to \mathsf{Ab} がコホモロジー的であることを言っています(Abel 群の列の完全性は 補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の 4 で Ab\mathsf{Ab} の完全性と同じです)。名前の由来は次の長完全列です。

命題 4.2(コホモロジー的関手の長完全列)✓

D\mathcal{D} を三角圏、T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) を完全三角形とする。

  1. H ⁣:D→BH\colon \mathcal{D} \to \mathcal{B} が(共変の)コホモロジー的関手なら、次の列は完全である。

    ⋯→H(X[n])→H(u[n])H(Y[n])→H(v[n])H(Z[n])→H(w[n])H(X[n+1])→H(u[n+1])⋯\cdots \to H(X[n]) \xrightarrow{H(u[n])} H(Y[n]) \xrightarrow{H(v[n])} H(Z[n]) \xrightarrow{H(w[n])} H(X[n+1]) \xrightarrow{H(u[n+1])} \cdots
  2. H ⁣:Dop→BH\colon \mathcal{D}^{\mathrm{op}} \to \mathcal{B} がコホモロジー的関手なら、次の列は完全である。

    ⋯→H(X[n+1])→H(w[n])H(Z[n])→H(v[n])H(Y[n])→H(u[n])H(X[n])→H(w[n−1])⋯\cdots \to H(X[n+1]) \xrightarrow{H(w[n])} H(Z[n]) \xrightarrow{H(v[n])} H(Y[n]) \xrightarrow{H(u[n])} H(X[n]) \xrightarrow{H(w[n-1])} \cdots
証明(命題 4.2)

アーベル圏で射 f,gf, g の符号を変えても、列 A→fB→gCA \xrightarrow{f} B \xrightarrow{g} C の完全性は変わりません。実際、補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の 1 の条件「gf=0gf = 0 かつ (coker⁡f)(ker⁡g)=0(\operatorname{coker} f)(\ker g) = 0」で、−f=f∘(−1)-f = f \circ (-1) と −1-1 が同型であることから coker⁡(−f)\operatorname{coker}(-f) は coker⁡f\operatorname{coker} f と同じ射でとれ、同様に ker⁡(−g)\ker(-g) は ker⁡g\ker g でとれます。また HH は加法関手なので H(−φ)=−H(φ)H(-\varphi) = -H(\varphi) です。

1. 系 3.9 により T[n]T[n] は完全で、TR2 (a) によりその回転と二度の回転も完全です。それぞれに定義の 3 項の完全性を使うと、上の符号の注意から、列の H(Y[n])H(Y[n])、H(Z[n])H(Z[n])、H(X[n+1])H(X[n+1]) での完全性が得られます(回転は (Y[n],Z[n],X[n+1],±v[n],±w[n],∓u[n+1])(Y[n], Z[n], X[n+1], \pm v[n], \pm w[n], \mp u[n+1])、二度の回転は (Z[n],X[n+1],Y[n+1],±w[n],∓u[n+1],∓v[n+1])(Z[n], X[n+1], Y[n+1], \pm w[n], \mp u[n+1], \mp v[n+1]) です)。nn はすべての整数を動くので、列のすべての項で完全です。

2. 同じ三つの完全三角形に反変の定義を使えば、H(Y[n])H(Y[n])、H(Z[n])H(Z[n])、H(X[n+1])H(X[n+1]) での完全性が得られます。

次の命題は、2 つの完全三角形の成分ごとの直和がまた完全三角形であることを示します。直和が完全かどうかは直接は分からないので、TR1 (c) で完全三角形 EE を作り、直和との間の射 cc が同型であることを前の補題で示す、という方針です。

命題 4.3(完全三角形の直和)✓

D\mathcal{D} が三角圏(より一般に (P) を満たす)とし、T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w)、T′=(X′,Y′,Z′,u′,v′,w′)T' = (X', Y', Z', u', v', w') を完全三角形とする。双積 X⊕X′X \oplus X' のシフト (X⊕X′)[1](X \oplus X')[1] を、[1][1] で送った包含と射影により X[1]⊕X′[1]X[1] \oplus X'[1] と見なす。このとき直和

T⊕T′=(X⊕X′, Y⊕Y′, Z⊕Z′, u⊕u′, v⊕v′, w⊕w′)T \oplus T' = (X \oplus X',\ Y \oplus Y',\ Z \oplus Z',\ u \oplus u',\ v \oplus v',\ w \oplus w')

は完全三角形である。

証明(命題 4.3)

[1][1] は加法関手なので双積を双積に送り(命題 3.7[加法圏とアーベル圏])、上の同一視は意味をもちます。包含を ι1,ι2\iota_1, \iota_2、射影を π1,π2\pi_1, \pi_2 と書き、どの双積でも同じ記号を使います。

T⊕T′T \oplus T' は Hom の完全性をもつ。 対象 WW について、双積は積なので(命題 3.3[加法圏とアーベル圏] の 1)、Hom⁡(W,X⊕X′)→Hom⁡(W,X)⊕Hom⁡(W,X′)\operatorname{Hom}(W, X \oplus X') \to \operatorname{Hom}(W, X) \oplus \operatorname{Hom}(W, X')、g↦(π1g,π2g)g \mapsto (\pi_1 g, \pi_2 g) は群の同型です。この同型で (u⊕u′)∗(u \oplus u')_* は u∗⊕u∗′u_* \oplus u'_* に対応し、他の射も同様です。したがって T⊕T′T \oplus T' の 命題 3.2 の 3 の列は、TT の列と T′T' の列(どちらも完全)の直和で、成分ごとに考えれば完全です。

錐との比較。 TR1 (c) により完全三角形 E=(X⊕X′,Y⊕Y′,C,u⊕u′,j,k)E = (X \oplus X', Y \oplus Y', C, u \oplus u', j, k) をとります。π1(u⊕u′)=uπ1\pi_1 (u \oplus u') = u \pi_1 なので、TR3 により三角形の射 (π1,π1,c1) ⁣:E→T(\pi_1, \pi_1, c_1)\colon E \to T があり、同様に (π2,π2,c2) ⁣:E→T′(\pi_2, \pi_2, c_2)\colon E \to T' があります。c=ι1c1+ι2c2 ⁣:C→Z⊕Z′c = \iota_1 c_1 + \iota_2 c_2\colon C \to Z \oplus Z' とおくと

cj=ι1vπ1+ι2v′π2=v⊕v′,(w⊕w′)c=ι1[1]wc1+ι2[1]w′c2=(ι1π1+ι2π2)[1] k=kc j = \iota_1 v \pi_1 + \iota_2 v' \pi_2 = v \oplus v', \qquad (w \oplus w') c = \iota_1[1] w c_1 + \iota_2[1] w' c_2 = (\iota_1 \pi_1 + \iota_2 \pi_2)[1]\, k = k

(c1j=vπ1c_1 j = v \pi_1、wc1=π1[1]kw c_1 = \pi_1[1] k などを使った)なので、(1,1,c) ⁣:E→T⊕T′(1, 1, c)\colon E \to T \oplus T' は三角形の射です。EE は完全なので 命題 3.2 の 3 の列が完全で、前段より T⊕T′T \oplus T' もそうです。補題 3.3 により cc は同型で、TR1 (a) により T⊕T′T \oplus T' は完全です。

命題 4.4(分裂する完全三角形)✓

D\mathcal{D} が三角圏(より一般に (P) を満たす)とし、T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w) を完全三角形とする。

  1. 次は同値である。(a) w=0w = 0。(b) uu はレトラクションをもつ(ru=1Xr u = 1_X となる rr がある)。(c) vv は切断をもつ(vs=1Zv s = 1_Z となる ss がある)。
  2. これらが成り立つとき、射 r′ ⁣:Y→Xr'\colon Y \to X と s ⁣:Z→Ys\colon Z \to Y で (Y,u,s,r′,v)(Y, u, s, r', v) が X,ZX, Z の双積になる(r′u=1r' u = 1、vs=1v s = 1、ur′+sv=1u r' + s v = 1、vu=0v u = 0、r′s=0r' s = 0)ものがある。
  3. 任意の X,ZX, Z について、双積の包含と射影による X→ι1X⊕Z→π2Z→0X[1]X \xrightarrow{\iota_1} X \oplus Z \xrightarrow{\pi_2} Z \xrightarrow{0} X[1] は完全三角形である。
証明(命題 4.4)

1. (a) ⇒ (b): 命題 3.2 の 4 で W=X[1]W = X[1] とすると、Hom⁡(Y[1],X[1])→u[1]∗Hom⁡(X[1],X[1])→w∗Hom⁡(Z,X[1])\operatorname{Hom}(Y[1], X[1]) \xrightarrow{u[1]^*} \operatorname{Hom}(X[1], X[1]) \xrightarrow{w^*} \operatorname{Hom}(Z, X[1]) は完全です。w∗(1X[1])=w=0w^*(1_{X[1]}) = w = 0 なので 1X[1]=ρ u[1]1_{X[1]} = \rho\, u[1] となる ρ\rho があります。[1][1] は Hom の同型を与えるので ρ=r[1]\rho = r[1] と書け、(ru)[1]=1X[1](r u)[1] = 1_{X[1]} から ru=1Xr u = 1_X です。(b) ⇒ (a): 命題 3.1 の 1 より u[1]w=0u[1] w = 0 なので w=r[1]u[1]w=0w = r[1] u[1] w = 0 です。(a) ⇒ (c): 命題 3.2 の 3 で W=ZW = Z とすると Hom⁡(Z,Y)→v∗Hom⁡(Z,Z)→w∗Hom⁡(Z,X[1])\operatorname{Hom}(Z, Y) \xrightarrow{v_*} \operatorname{Hom}(Z, Z) \xrightarrow{w_*} \operatorname{Hom}(Z, X[1]) は完全で、w∗(1Z)=w=0w_*(1_Z) = w = 0 なので 1Z=vs1_Z = v s となる ss があります。(c) ⇒ (a): wv=0w v = 0 より w=wvs=0w = w v s = 0 です。

2. 1 の rr、ss をとります。v(1Y−sv)=v−v=0v(1_Y - s v) = v - v = 0 なので、命題 3.2 の 1(W=YW = Y)により 1Y−sv=ur′1_Y - s v = u r' となる r′ ⁣:Y→Xr'\colon Y \to X があります。ur′u=(1−sv)u=uu r' u = (1 - s v) u = u(vu=0vu = 0)に左から rr を合成して r′u=1Xr' u = 1_X、ur′s=s−svs=0u r' s = s - s v s = 0 に rr を合成して r′s=0r' s = 0 です。残りの等式は作り方から成り立つので、(Y,u,s,r′,v)(Y, u, s, r', v) は双積です(定義 3.2[加法圏とアーベル圏])。

3. TR1 (b) の (X,X,0,1,0,0)(X, X, 0, 1, 0, 0) と、命題 3.1 の 3 の (0,Z,Z,0,−1Z,0)(0, Z, Z, 0, -1_Z, 0) は完全です。後者は (10,1Z,−1Z)(1_0, 1_Z, -1_Z) によって (0,Z,Z,0,1Z,0)(0, Z, Z, 0, 1_Z, 0) と同型((−1Z)(−1Z)=1Z⋅1Z(-1_Z)(-1_Z) = 1_Z \cdot 1_Z で他の条件は 0=00 = 0)なので、TR1 (a) により (0,Z,Z,0,1Z,0)(0, Z, Z, 0, 1_Z, 0) も完全です。命題 4.3 によりその直和は完全で、直和は X⊕0≅XX \oplus 0 \cong X、0⊕Z≅Z0 \oplus Z \cong Z の同一視のもとで (X,X⊕Z,Z,ι1,π2,0)(X, X \oplus Z, Z, \iota_1, \pi_2, 0) と同型です。TR1 (a) により後者も完全です。

とくに、三角圏では mono な射は分裂します(演習 7.3)。アーベル圏の「mono」は三角圏ではほとんど意味をもたず、代わりに完全三角形が核と余核の役割を同時に担います。

次に、三角圏の間の射と部分圏を定義します。

定義 4.5(三角関手)↗

D,D′\mathcal{D}, \mathcal{D}' を三角圏とする。三角関手(完全関手)とは、加法関手 F ⁣:D→D′F\colon \mathcal{D} \to \mathcal{D}' と自然同型 ξ ⁣:F∘[1]⇒[1]∘F\xi\colon F \circ [1] \Rightarrow [1] \circ F の組で、すべての完全三角形 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) について

FX→FuFY→FvFZ→ξX∘Fw(FX)[1]F X \xrightarrow{F u} F Y \xrightarrow{F v} F Z \xrightarrow{\xi_X \circ F w} (F X)[1]

が D′\mathcal{D}' の完全三角形になるものをいう。

定義 4.6(充満三角部分圏・厚い部分圏)↗

D\mathcal{D} を三角圏とする。充満部分圏 N\mathcal{N} が充満三角部分圏であるとは、零対象を含み、同型で閉じ(X∈NX \in \mathcal{N}、X≅X′X \cong X' なら X′∈NX' \in \mathcal{N})、[1][1] と [−1][-1] で閉じ、完全三角形 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) で X,Y∈NX, Y \in \mathcal{N} なら Z∈NZ \in \mathcal{N} となることをいう。さらに直和因子で閉じる(X⊕X′∈NX \oplus X' \in \mathcal{N} なら X∈NX \in \mathcal{N})とき、N\mathcal{N} を厚い部分圏(épaisse)という。

充満三角部分圏では、完全三角形の三つの頂点のうち二つが N\mathcal{N} に入れば三つ目も入ります。Y,Z∈NY, Z \in \mathcal{N} なら回転 (Y,Z,X[1],… )(Y, Z, X[1], \dots) から X[1]∈NX[1] \in \mathcal{N}、したがって X∈NX \in \mathcal{N} で、X,Z∈NX, Z \in \mathcal{N} なら二度の回転 (Z,X[1],Y[1],… )(Z, X[1], Y[1], \dots) から Y[1]∈NY[1] \in \mathcal{N} です。N\mathcal{N} の三角形で D\mathcal{D} で完全なものを完全三角形とすれば、TR1〜TR4 で存在を要求される対象と射は D\mathcal{D} でとれて、頂点はこの性質により N\mathcal{N} に入り、射は N\mathcal{N} が充満なので N\mathcal{N} の射なので、N\mathcal{N} はそれ自身三角圏で、包含は三角関手です。

命題 4.7(コホモロジー的関手の核は厚い)✓

D\mathcal{D} を三角圏、H ⁣:D→BH\colon \mathcal{D} \to \mathcal{B} をコホモロジー的関手とする。すべての n∈Zn \in \mathbb{Z} で H(X[n])=0H(X[n]) = 0 となる XX のなす充満部分圏 NH\mathcal{N}_H は厚い部分圏である。

証明(命題 4.7)

零対象 00 について H(0)H(0) は零対象です(加法関手は零対象を保つ。命題 3.7[加法圏とアーベル圏])。X≅X′X \cong X' なら H(X[n])≅H(X′[n])H(X[n]) \cong H(X'[n]) なので同型で閉じ、X[±1][n]=X[n±1]X[\pm 1][n] = X[n \pm 1] なのでシフトで閉じます。

完全三角形 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) で X,Y∈NHX, Y \in \mathcal{N}_H とします。命題 4.2 の 1 の H(Y[n])→H(Z[n])→H(X[n+1])H(Y[n]) \to H(Z[n]) \to H(X[n+1]) は完全で両端が 00 です。アーベル圏で 0→B→00 \to B \to 0 が BB で完全なら、像 00 と核 BB が一致するので B=0B = 0 です。よって H(Z[n])=0H(Z[n]) = 0 で、Z∈NHZ \in \mathcal{N}_H です。

X⊕X′∈NHX \oplus X' \in \mathcal{N}_H とします。HH と [n][n] は加法関手なので双積を保ち、H(X[n])H(X[n]) は 0=H((X⊕X′)[n])0 = H((X \oplus X')[n]) の直和因子です。直和因子の恒等射は 1=πι1 = \pi \iota と 00 を経由するので 00 で、命題 3.3[加法圏とアーベル圏] の 3 により H(X[n])H(X[n]) は零対象です。

定義 4.8(Verdier 商)↗

D\mathcal{D} を三角圏、N\mathcal{N} を充満三角部分圏とする。三角圏 D/N\mathcal{D}/\mathcal{N} と三角関手 Q ⁣:D→D/NQ\colon \mathcal{D} \to \mathcal{D}/\mathcal{N} の組で、X∈NX \in \mathcal{N} なら Q(X)≅0Q(X) \cong 0 であり、N\mathcal{N} の対象を零対象に送る任意の三角関手 F ⁣:D→D′F\colon \mathcal{D} \to \mathcal{D}' が三角関手 Fˉ ⁣:D/N→D′\bar F\colon \mathcal{D}/\mathcal{N} \to \mathcal{D}' によって F=Fˉ∘QF = \bar F \circ Q と一意に分解するものを、D\mathcal{D} の N\mathcal{N} による Verdier 商という。

Verdier 商は、N\mathcal{N} の対象を錐にもつ射の全体を形式的に可逆にする局所化として構成されます。存在の証明には圏の局所化(分数の圏)が要るので、導来圏の章で扱います。そこでの主役は、次の節で示す「非輪状複体は厚い部分圏をなす」ことで、D(A)=K(A)/Kac(A)\mathrm{D}(\mathcal{A}) = \mathrm{K}(\mathcal{A}) / \mathrm{K}_{\mathrm{ac}}(\mathcal{A}) となります。

以下、A\mathcal{A} はアーベル圏で、複体の圏 C(A)\mathrm{C}(\mathcal{A})、シフト、写像錐、ホモトピー圏 K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は鎖複体とホモトピー圏の章のもの(定義 2.5[鎖複体とホモトピー圏]、定義 5.1[鎖複体とホモトピー圏]、定義 4.3[鎖複体とホモトピー圏])とします。符号の約束を確認しておきます。

  • X[1]n=Xn+1X[1]^n = X^{n+1}、dX[1]=−dXd_{X[1]} = -d_X、f[1]n=fn+1f[1]^n = f^{n+1}。
  • Cone⁡(f)n=Xn+1⊕Yn\operatorname{Cone}(f)^n = X^{n+1} \oplus Y^n、d(x,y)=(−dx, fx+dy)d(x, y) = (-dx,\ f x + dy)。i(y)=(0,y)i(y) = (0, y)、p(x,y)=xp(x, y) = x。

双積の成分を元のように書きますが、各式は成分ごとの射の等式です。鎖写像とその K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) での類を同じ文字で書きます。命題 4.4[鎖複体とホモトピー圏] により K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は加法圏で、[1][1] は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の自己同型を誘導し、(f+g)[1]=f[1]+g[1](f + g)[1] = f[1] + g[1] なので加法関手です。こうして K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) はシフトをもつ加法圏です。

定義 5.1(標準三角形と K(A) の完全三角形)↗

鎖写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y について、K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の三角形

X→fY→iCone⁡(f)→pX[1]X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{i} \operatorname{Cone}(f) \xrightarrow{p} X[1]

を ff の標準三角形という(命題 5.2[鎖複体とホモトピー圏] の 1 により i,pi, p は鎖写像)。K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の三角形が完全であるとは、ある鎖写像の標準三角形と K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) で同型であることをいう。

まず TR3 の材料を作ります。ねらいは、K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) で TR3 を示すとき、可換でない正方形(ホモトピーを除いて可換なだけ)から錐の間の射を作ることです。錐の元 (x,y)(x, y) の yy 成分に hxh x という補正を足すのが、次の補題の考え方です。命題 5.2[鎖複体とホモトピー圏] の 4 は正方形が鎖写像として可換な場合だけを扱っていました。ホモトピーを除いて可換な正方形には、ホモトピーを錐の非対角成分に入れます。

補題 5.2(ホモトピー可換な正方形から錐の射を作る)✓

鎖写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y、f1 ⁣:X1→Y1f_1\colon X_1 \to Y_1、a ⁣:X→X1a\colon X \to X_1、b ⁣:Y→Y1b\colon Y \to Y_1 と、射の族 hn ⁣:Xn→Y1n−1h^n\colon X^n \to Y_1^{n-1} で

bf−f1a=dh+hdb f - f_1 a = d h + h d

を満たすものが与えられたとする。このとき

ch ⁣:Cone⁡(f)→Cone⁡(f1),ch(x,y)=(ax, by+hx)c_h\colon \operatorname{Cone}(f) \to \operatorname{Cone}(f_1), \qquad c_h(x, y) = (a x,\ b y + h x)

(x∈Xn+1x \in X^{n+1}、y∈Yny \in Y^n、hx∈Y1nh x \in Y_1^n)は鎖写像で、chi=i1bc_h i = i_1 b、p1ch=a[1]pp_1 c_h = a[1] p が鎖写像として成り立つ。

証明(補題 5.2)

次数 nn の元 (x,y)(x, y) について

d ch(x,y)=(−dax, f1ax+dby+dhx),ch d(x,y)=ch(−dx, fx+dy)=(−adx, bfx+bdy−hdx)d\, c_h(x, y) = \bigl(-d a x,\ f_1 a x + d b y + d h x\bigr), \qquad c_h\, d(x, y) = c_h(-dx,\ f x + dy) = \bigl(-a d x,\ b f x + b d y - h d x\bigr)

です。第 1 成分は aa が鎖写像なので等しく、第 2 成分は bd=dbb d = d b と仮定 bf−hd=f1a+dhb f - h d = f_1 a + d h により等しくなります。よって chc_h は鎖写像です。ch(0,y)=(0,by)c_h(0, y) = (0, b y) と p1ch(x,y)=axp_1 c_h(x, y) = a x から残りの等式が従います。

h=0h = 0 のときが 命題 5.2[鎖複体とホモトピー圏] の 4 です。hh を h+h′h + h'(dh′+h′d=0d h' + h' d = 0)に取り替えると chc_h は (x,y)↦(0,h′x)(x, y) \mapsto (0, h' x) だけ変わり、これは一般に零ホモトピックではありません。これが 注意 3.7 の非関手性の具体的な姿です。

次に回転を調べます。TR2 (a) を確かめるには、標準三角形を回転したものがまた標準三角形(ii のもの)と同型であることを示せば十分です。証明は、錐の元 (y′,x,y)(y', x, y) の成分ごとに微分を書き下し、ホモトピーを 1 つ見つけるだけの計算です。

補題 5.3(標準三角形の回転)✓

鎖写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y について、標準三角形の回転

Y→iCone⁡(f)→pX[1]→−f[1]Y[1]Y \xrightarrow{i} \operatorname{Cone}(f) \xrightarrow{p} X[1] \xrightarrow{-f[1]} Y[1]

は、ii の標準三角形と K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) で同型である。

証明(補題 5.3)

Cone⁡(i)n=Yn+1⊕Cone⁡(f)n=Yn+1⊕Xn+1⊕Yn\operatorname{Cone}(i)^n = Y^{n+1} \oplus \operatorname{Cone}(f)^n = Y^{n+1} \oplus X^{n+1} \oplus Y^n で、元を (y′,x,y)(y', x, y) と書くと、錐の微分の定義から

d(y′,x,y)=(−dy′, −dx, fx+dy+y′)d(y', x, y) = \bigl(-d y',\ -d x,\ f x + d y + y'\bigr)

です(i(y′)=(0,y′)i(y') = (0, y') が第 3 成分に加わる)。ii の標準三角形の射を i′ ⁣:Cone⁡(f)→Cone⁡(i)i'\colon \operatorname{Cone}(f) \to \operatorname{Cone}(i)、p′ ⁣:Cone⁡(i)→Y[1]p'\colon \operatorname{Cone}(i) \to Y[1] とします。

φ ⁣:X[1]→Cone⁡(i)\varphi\colon X[1] \to \operatorname{Cone}(i)、φ(x)=(−fx,x,0)\varphi(x) = (-f x, x, 0) と ψ ⁣:Cone⁡(i)→X[1]\psi\colon \operatorname{Cone}(i) \to X[1]、ψ(y′,x,y)=x\psi(y', x, y) = x を考えます。dφ(x)=(dfx,−dx,fx−fx)=(fdx,−dx,0)=φ(−dx)=φ(dX[1]x)d \varphi(x) = (d f x, -d x, f x - f x) = (f d x, -dx, 0) = \varphi(-dx) = \varphi(d_{X[1]} x)、ψd(y′,x,y)=−dx=dX[1]ψ(y′,x,y)\psi d (y', x, y) = -d x = d_{X[1]} \psi(y', x, y) なので、どちらも鎖写像です。ψφ=1\psi \varphi = 1 です。s(y′,x,y)=(y,0,0)∈Cone⁡(i)n−1s(y', x, y) = (y, 0, 0) \in \operatorname{Cone}(i)^{n-1} とおくと

(ds+sd)(y′,x,y)=(−dy,0,y)+(fx+dy+y′,0,0)=(y′+fx, 0, y)=(1−φψ)(y′,x,y)(d s + s d)(y', x, y) = (-d y, 0, y) + (f x + d y + y', 0, 0) = (y' + f x,\ 0,\ y) = (1 - \varphi \psi)(y', x, y)

なので φψ≃1\varphi \psi \simeq 1 で、φ\varphi は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の同型です(命題 4.4[鎖複体とホモトピー圏] の 5)。

(1Y,1Cone⁡(f),φ)(1_Y, 1_{\operatorname{Cone}(f)}, \varphi) が回転から ii の標準三角形への射であることを確かめます。一つ目の正方形は i=ii = i です。二つ目は φp≃i′\varphi p \simeq i' で、i′−φp=(1−φψ)i′i' - \varphi p = (1 - \varphi\psi) i'(ψi′=p\psi i' = p による)と 1−φψ≃01 - \varphi \psi \simeq 0 から従います(零ホモトピックな写像との合成は零ホモトピック。命題 4.4[鎖複体とホモトピー圏] の 1)。三つ目は p′φ=−f[1]p' \varphi = -f[1] で、p′φ(x)=−fxp' \varphi(x) = -f x から成り立ちます。三成分とも同型なので三角形の同型です。

命題 5.4(K(A) は TR1〜TR3 を満たす)✓

K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の完全三角形(定義 5.1)は TR1、TR2 (a)・(b)、TR3 を満たす。

証明(命題 5.4)

TR1. (a) は定義です。(c): K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の射は鎖写像 ff の類なので、ff の標準三角形をとればよいです。(b): 1X1_X はホモトピー同値なので、命題 5.5[鎖複体とホモトピー圏] により Cone⁡(1X)\operatorname{Cone}(1_X) は可縮、すなわち K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) で 1=01 = 0 で、命題 3.3[加法圏とアーベル圏] の 3 により零対象です。零対象への射・零対象からの射は 00 なので、(1X,1X,0)(1_X, 1_X, 0) は 1X1_X の標準三角形から (X,X,0,1,0,0)(X, X, 0, 1, 0, 0) への三角形の同型で、後者は完全です。

TR2 (a). TT が標準三角形 SS と同型 (α,β,γ) ⁣:T→S(\alpha, \beta, \gamma)\colon T \to S で結ばれているとします。(β,γ,α[1])(\beta, \gamma, \alpha[1]) は回転どうしの射で(条件は (α,β,γ)(\alpha, \beta, \gamma) の条件と、βu=uSα\beta u = u_S \alpha に [1][1] を施して符号を付けたもの)、三成分とも同型です。補題 5.3 により SS の回転は標準三角形と同型なので、TT の回転は完全です。

TR3. 完全三角形 T=(X,Y,Z,u,v,w)T = (X, Y, Z, u, v, w)、T′=(X′,Y′,Z′,u′,v′,w′)T' = (X', Y', Z', u', v', w') と、bu=u′ab u = u' a を満たす a,ba, b をとります。同型 (α,β,γ) ⁣:T→Sf(\alpha, \beta, \gamma)\colon T \to S_f、(α′,β′,γ′) ⁣:T′→Sf′(\alpha', \beta', \gamma')\colon T' \to S_{f'} を標準三角形へのものとし、aS=α′aα−1a_S = \alpha' a \alpha^{-1}、bS=β′bβ−1b_S = \beta' b \beta^{-1} とおくと、f=βuα−1f = \beta u \alpha^{-1}、f′=β′u′α′−1f' = \beta' u' \alpha'^{-1} から K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) で bSf=f′aSb_S f = f' a_S です。aS,bSa_S, b_S を鎖写像で代表させ、bSf−f′aS=dh+hdb_S f - f' a_S = d h + h d となるホモトピー hh をとり、補題 5.2 の chc_h をとると、(aS,bS,ch) ⁣:Sf→Sf′(a_S, b_S, c_h)\colon S_f \to S_{f'} は三角形の射です。c=γ′−1chγc = \gamma'^{-1} c_h \gamma とおけば、

cv=γ′−1chiβ=γ′−1i′bSβ=γ′−1i′β′b=v′b,w′c=α′[1]−1p′chγ=α′[1]−1aS[1] pγ=a[1] α[1]−1pγ=a[1]wc v = \gamma'^{-1} c_h i \beta = \gamma'^{-1} i' b_S \beta = \gamma'^{-1} i' \beta' b = v' b, \qquad w' c = \alpha'[1]^{-1} p' c_h \gamma = \alpha'[1]^{-1} a_S[1]\, p \gamma = a[1]\, \alpha[1]^{-1} p \gamma = a[1] w

(γv=iβ\gamma v = i \beta、γ′v′=i′β′\gamma' v' = i' \beta'、α[1]w=pγ\alpha[1] w = p \gamma、α′[1]w′=p′γ′\alpha'[1] w' = p' \gamma' を使った)なので、(a,b,c)(a, b, c) は三角形の射です。

TR2 (b). ここまでで K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は (P) を満たすので、補題 3.8 により成り立ちます。

定理 5.5(ホモトピー圏は三角圏)✓

A\mathcal{A} をアーベル圏とする。K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は、シフト [1][1] と、標準三角形と同型な三角形を完全三角形として、三角圏である。K+(A)\mathrm{K}^+(\mathcal{A})、K−(A)\mathrm{K}^-(\mathcal{A})、Kb(A)\mathrm{K}^b(\mathcal{A}) も、頂点がそこに入る K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の完全三角形を完全三角形として三角圏であり、包含は三角関手である。

証明(定理 5.5)

TR1〜TR3 は 命題 5.4、TR4 は Appendix の 補題 7.5 です。

K+(A)\mathrm{K}^+(\mathcal{A}) について。下に有界な複体のシフトと写像錐は下に有界なので、K+(A)\mathrm{K}^+(\mathcal{A}) はシフトで閉じ、その射の標準三角形は K+(A)\mathrm{K}^+(\mathcal{A}) に入ります(TR1 (c))。TR1 (b) の三角形の頂点 X,X,0X, X, 0 も入ります。TR1 (a)・TR2 は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) での性質とシフトで閉じることから従います。TR3 と TR4 で存在が要求される射は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) でとれ、K+(A)\mathrm{K}^+(\mathcal{A}) は充満部分圏なのでその射でもあり、TR4 の三角形の頂点 Cu,Cvu,CvC_u, C_{vu}, C_v ははじめから K+(A)\mathrm{K}^+(\mathcal{A}) にあります。K−(A)\mathrm{K}^-(\mathcal{A})、Kb(A)\mathrm{K}^b(\mathcal{A}) も同じです。包含が三角関手であること(ξ\xi は恒等)は、K+(A)\mathrm{K}^+(\mathcal{A}) の完全三角形が K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) で完全な三角形として定めてあることそのものです。

命題 5.6(H0H^0 はコホモロジー的)✓

A\mathcal{A} をアーベル圏とする。

  1. H0 ⁣:K(A)→AH^0\colon \mathrm{K}(\mathcal{A}) \to \mathcal{A} はコホモロジー的関手で、H0(X[n])=Hn(X)H^0(X[n]) = H^n(X)、H0(g[n])=Hn(g)H^0(g[n]) = H^n(g) である。ff の標準三角形に対する 命題 4.2 の長完全列は、写像錐の長完全列(定理 5.3[鎖複体とホモトピー圏])と一致する。
  2. 非輪状複体のなす充満部分圏 Kac(A)\mathrm{K}_{\mathrm{ac}}(\mathcal{A}) は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の厚い部分圏である。
  3. (X,Y,Z,f,v,w)(X, Y, Z, f, v, w) を K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の完全三角形とする。ff が擬同型(すべての Hn(f)H^n(f) が同型)であることと、ZZ が非輪状であることは同値である。
証明(命題 5.6)

定理 5.5 により K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は三角圏なので、定義 4.1・命題 4.7・系 3.5 を K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) に使えます。

1. H0H^0 は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) 上の加法関手です(命題 4.4[鎖複体とホモトピー圏] の 4)。H0(X[n])=Hn(X)H^0(X[n]) = H^n(X) などは Hn(X[1])=Hn+1(X)H^n(X[1]) = H^{n+1}(X)、Hn(g[1])=Hn+1(g)H^n(g[1]) = H^{n+1}(g)(定義 2.5[鎖複体とホモトピー圏] の直後の同一視)を繰り返したものです。標準三角形については、定理 5.3[鎖複体とホモトピー圏] の n=0n = 0 の部分により H0(X)→H0(Y)→H0(Cone⁡(f))H^0(X) \to H^0(Y) \to H^0(\operatorname{Cone}(f)) は完全です。

一般の完全三角形 TT は標準三角形 SS と同型 (α,β,γ)(\alpha, \beta, \gamma) で結ばれます。列 A→gB→kCA \xrightarrow{g} B \xrightarrow{k} C が完全で、同型 α′,β′,γ′\alpha', \beta', \gamma' により g′=β′gα′−1g' = \beta' g \alpha'^{-1}、k′=γ′kβ′−1k' = \gamma' k \beta'^{-1} とおくと、k′g′=γ′kgα′−1=0k' g' = \gamma' k g \alpha'^{-1} = 0 で、β′∘ker⁡k\beta' \circ \ker k は k′k' の核、coker⁡g∘β′−1\operatorname{coker} g \circ \beta'^{-1} は g′g' の余核なので、(coker⁡g′)(ker⁡k′)=(coker⁡g)(ker⁡k)=0(\operatorname{coker} g') (\ker k') = (\operatorname{coker} g)(\ker k) = 0 です。補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の 1 により A→g′B→k′CA \xrightarrow{g'} B \xrightarrow{k'} C も完全です。これを H0(S)H^0(S) と H0(T)H^0(T) に使えば H0H^0 はコホモロジー的です。長完全列の連結射は H0(p[n])=Hn(p)H^0(p[n]) = H^n(p) で、定理 5.3[鎖複体とホモトピー圏] の列の射と同じです。

2. XX が非輪状であることは、すべての nn で H0(X[n])=Hn(X)=0H^0(X[n]) = H^n(X) = 0 であることなので、Kac(A)\mathrm{K}_{\mathrm{ac}}(\mathcal{A}) は 1 の H0H^0 について 命題 4.7 の NH0\mathcal{N}_{H^0} です。よって厚い部分圏です。

3. ff を鎖写像で代表させます。系 3.5 により Z≅Cone⁡(f)Z \cong \operatorname{Cone}(f)(K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) での同型)で、HnH^n は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) 上の関手なので、ZZ が非輪状であることと Cone⁡(f)\operatorname{Cone}(f) が非輪状であることは同値です。後者は 系 5.4[鎖複体とホモトピー圏] により ff が擬同型であることと同値です。

アーベル圏では短完全列が基本でした。K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) では、次数ごとに分裂する短完全列が完全三角形を与え、逆にすべての完全三角形がこの形で得られます。

命題 5.7(次数ごとに分裂する短完全列の三角形)✓

  1. 0→X→uY→vZ→00 \to X \xrightarrow{u} Y \xrightarrow{v} Z \to 0 を C(A)\mathrm{C}(\mathcal{A}) の短完全列とし、各 nn で vnsn=1v^n s^n = 1 となる射 sn ⁣:Zn→Yns^n\colon Z^n \to Y^n があるとする(ss は鎖写像でなくてよい)。補題 3.2[鎖複体とホモトピー圏] の 2 の鎖写像 τ ⁣:Z→X[1]\tau\colon Z \to X[1](uτ=ds−sdu \tau = d s - s d で定まる)をとると、X→uY→vZ→−τX[1]X \xrightarrow{u} Y \xrightarrow{v} Z \xrightarrow{-\tau} X[1] は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の完全三角形である。
  2. K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の任意の完全三角形は、1 の形の三角形と同型である。
証明(命題 5.7)

1. 命題 2.2[鎖複体とホモトピー圏] の 4 により各次数で 0→Xn→Yn→Zn→00 \to X^n \to Y^n \to Z^n \to 0 は完全で、unu^n は vnv^n の核です(補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の 2)。v(1−sv)=0v(1 - s v) = 0 なので 1−sv=ur1 - s v = u r となる rn ⁣:Yn→Xnr^n\colon Y^n \to X^n があり、uru=u−svu=uu r u = u - s v u = u と uu が mono であることから ru=1r u = 1 です。さらに u(rd−dr)=(1−sv)d−d(1−sv)=(ds−sd)v=uτvu(r d - d r) = (1 - sv) d - d (1 - s v) = (d s - s d) v = u \tau v なので、rd−dr=τvr d - d r = \tau v です(ここで vd=dvv d = d v、du=udd u = u d を使った)。

θ ⁣:Cone⁡(u)→Z\theta\colon \operatorname{Cone}(u) \to Z、θ(x,y)=vy\theta(x, y) = v y と ζ ⁣:Z→Cone⁡(u)\zeta\colon Z \to \operatorname{Cone}(u)、ζ(z)=(−τz, sz)\zeta(z) = (-\tau z,\ s z) を考えます。θd(x,y)=v(ux+dy)=dvy\theta d(x, y) = v(u x + d y) = d v y なので θ\theta は鎖写像です。ζ\zeta については

dζ(z)=(dτz, −uτz+dsz)=(−τdz, sdz)=ζ(dz)d \zeta(z) = \bigl(d \tau z,\ -u \tau z + d s z\bigr) = \bigl(-\tau d z,\ s d z\bigr) = \zeta(d z)

です(τ\tau が鎖写像 Z→X[1]Z \to X[1] であることは −dτ=τd-d \tau = \tau d、また −uτ+ds=sd-u \tau + d s = s d)。θζ=vs=1\theta \zeta = v s = 1 です。t(x,y)=(ry,0)∈Cone⁡(u)n−1t(x, y) = (r y, 0) \in \operatorname{Cone}(u)^{n-1} とおくと

(dt+td)(x,y)=(−dry, ury)+(rux+rdy, 0)=(x+τvy, ury)=(1−ζθ)(x,y)(d t + t d)(x, y) = (-d r y,\ u r y) + (r u x + r d y,\ 0) = (x + \tau v y,\ u r y) = (1 - \zeta \theta)(x, y)

なので ζθ≃1\zeta \theta \simeq 1 で、θ\theta は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の同型です。

(1X,1Y,θ)(1_X, 1_Y, \theta) が uu の標準三角形から (X,Y,Z,u,v,−τ)(X, Y, Z, u, v, -\tau) への射であることを確かめます。θi=v\theta i = v は定義から、(−τ)θ=pζθ≃p(-\tau)\theta = p \zeta \theta \simeq p は pζ=−τp \zeta = -\tau と ζθ≃1\zeta\theta \simeq 1 から従います。三成分とも同型なので、TR1 (a)(定義)により完全です。

2. 完全三角形は鎖写像 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y の標準三角形と同型なので、標準三角形について示せば十分です。写像柱の短完全列 0→X→αCyl⁡(f)→ϖCone⁡(f)→00 \to X \xrightarrow{\alpha} \operatorname{Cyl}(f) \xrightarrow{\varpi} \operatorname{Cone}(f) \to 0 は次数ごとに分裂し(命題 5.6[鎖複体とホモトピー圏] の 2)、切断 s(x′,y)=(0,x′,y)s(x', y) = (0, x', y) について

ds(x′,y)−s d(x′,y)=(−x′, −dx′, fx′+dy)−(0, −dx′, fx′+dy)=(−x′,0,0)=α(−p(x′,y))d s(x', y) - s\, d(x', y) = (-x',\ -d x',\ f x' + d y) - (0,\ -d x',\ f x' + d y) = (-x', 0, 0) = \alpha(-p(x', y))

なので τ=−p\tau = -p です。1 により (X,Cyl⁡(f),Cone⁡(f),α,ϖ,p)(X, \operatorname{Cyl}(f), \operatorname{Cone}(f), \alpha, \varpi, p) は完全です。命題 5.6[鎖複体とホモトピー圏] の 1 の β ⁣:Cyl⁡(f)→Y\beta\colon \operatorname{Cyl}(f) \to Y は βα=f\beta \alpha = f を満たすホモトピー同値で、γβ≃1\gamma\beta \simeq 1 から ϖ≃ϖγβ=iβ\varpi \simeq \varpi \gamma \beta = i \beta(ϖγ(y)=(0,y)=i(y)\varpi \gamma(y) = (0, y) = i(y))です。よって (1X,β,1)(1_X, \beta, 1) はこの三角形から ff の標準三角形への同型です。

この命題の 1 で「次数ごとに分裂する」という仮定は外せません。次の例では、シフトの約束 X[1]n=Xn+1X[1]^n = X^{n+1} を思い出してください。次数 00 だけに置いた複体 Z\mathbb{Z} のシフト Z[1]\mathbb{Z}[1] は、次数 −1-1 だけに Z\mathbb{Z} がある複体になります。

例 5.8(分裂しない短完全列は三角形を与えない)

Abel 群の短完全列 0→Z→2Z→πZ/2→00 \to \mathbb{Z} \xrightarrow{2} \mathbb{Z} \xrightarrow{\pi} \mathbb{Z}/2 \to 0 を、次数 00 だけに置いた複体の短完全列と見ます。これは次数 00 で分裂しません。K(Ab)\mathrm{K}(\mathsf{Ab}) で (Z,Z,Z/2,2,π,w)(\mathbb{Z}, \mathbb{Z}, \mathbb{Z}/2, 2, \pi, w) が完全三角形になる w ⁣:Z/2→Z[1]w\colon \mathbb{Z}/2 \to \mathbb{Z}[1] は存在しません。

実際、Z[1]\mathbb{Z}[1] は次数 −1-1 だけに Z\mathbb{Z} を置いた複体なので、鎖写像 Z/2→Z[1]\mathbb{Z}/2 \to \mathbb{Z}[1] は 00 しかなく、w=0w = 0 です。すると 命題 4.4 により 2 ⁣:Z→Z2\colon \mathbb{Z} \to \mathbb{Z} は K(Ab)\mathrm{K}(\mathsf{Ab}) でレトラクションをもちます。次数 00 だけの複体の間には 00 でないホモトピーがないので、これは Ab\mathsf{Ab} で r∘2=1r \circ 2 = 1 となる rr があることを意味しますが、r(2)=2r(1)r(2) = 2 r(1) は 11 になりえません。

22 の標準三角形の錐は Z→2Z\mathbb{Z} \xrightarrow{2} \mathbb{Z}(次数 −1,0-1, 0)で、Z/2\mathbb{Z}/2 と擬同型ですが K(Ab)\mathrm{K}(\mathsf{Ab}) で同型ではありません(演習 7.2)。擬同型を可逆にした導来圏では両者が同型になり、すべての短完全列が完全三角形を与えます。これが導来圏を作る理由の一つです。

5.2. 加法関手が誘導する三角関手

Section titled “5.2. 加法関手が誘導する三角関手”

命題 5.9(加法関手は三角関手を誘導する)✓

A,B\mathcal{A}, \mathcal{B} をアーベル圏、F ⁣:A→BF\colon \mathcal{A} \to \mathcal{B} を加法関手とする。複体 XX に (FXn,Fdn)(F X^n, F d^n) を対応させると関手 K(F) ⁣:K(A)→K(B)\mathrm{K}(F)\colon \mathrm{K}(\mathcal{A}) \to \mathrm{K}(\mathcal{B}) が定まり、ξ=1\xi = 1 によって三角関手になる。

証明(命題 5.9)

Fd∘Fd=F(dd)=0F d \circ F d = F(dd) = 0 なので FXF X は複体で、鎖写像は鎖写像に移ります。f−g=dh+hdf - g = d h + h d なら FF が加法的なので Ff−Fg=Fd Fh+Fh FdF f - F g = F d\, F h + F h\, F d で、ホモトピーはホモトピーに移ります。零ホモトピックな写像が零ホモトピックに移り、FF は Hom の準同型を与えるので、K(F)\mathrm{K}(F) は well-defined な加法関手です。F(−d)=−FdF(-d) = -F d から F(X[1])=(FX)[1]F(X[1]) = (F X)[1]、F(g[1])=(Fg)[1]F(g[1]) = (Fg)[1] が文字どおり成り立つので、ξ=1\xi = 1 は自然同型です。

完全三角形は標準三角形と同型で、関手は同型を同型に移すので、標準三角形の像が完全であることを示せば十分です。FF は双積を双積に送るので(命題 3.7[加法圏とアーベル圏])、F(Xn+1⊕Yn)F(X^{n+1} \oplus Y^n) は FXn+1,FYnF X^{n+1}, F Y^n の双積で、Cone⁡(Ff)n\operatorname{Cone}(F f)^n として選んだ双積との間に、包含・射影と可換な同型 κn\kappa^n がただ一つあります(命題 3.3[加法圏とアーベル圏] の 1 により双積は積なので)。錐の微分の行列成分は −d,f,d,0-d, f, d, 0 で、FF で送った成分は −Fd,Ff,Fd,0-F d, F f, F d, 0 なので、κ\kappa は鎖写像の同型 F(Cone⁡(f))→Cone⁡(Ff)F(\operatorname{Cone}(f)) \to \operatorname{Cone}(F f) で、κF(i)=iFf\kappa F(i) = i_{Ff}、pFfκ=F(p)p_{Ff} \kappa = F(p) を満たします。よって (1,1,κ)(1, 1, \kappa) は FF で送った標準三角形から FfF f の標準三角形への同型です。

導来圏の章では、この K(F)\mathrm{K}(F) を擬同型について「補正」したものとして全導来関手を定義します。

例 5.10(体上の複体のホモトピー圏)

kk を体、A=Vectk\mathcal{A} = \mathsf{Vect}_k とします。複体 XX の各次数で、像 Bn=Im⁡dn−1B^n = \operatorname{Im} d^{n-1} の Zn=Ker⁡dnZ^n = \operatorname{Ker} d^n での補空間 H~n\tilde H^n と、ZnZ^n の XnX^n での補空間 CnC^n を選びます(H~n≅Hn(X)\tilde H^n \cong H^n(X))。dnd^n は CnC^n を Bn+1B^{n+1} に同型に写すので、XX は、微分 00 の複体 (H~n)n(\tilde H^n)_n と、各 nn について Cn→≅Bn+1C^n \xrightarrow{\cong} B^{n+1} だけからなる複体たちの直和に、C(Vectk)\mathrm{C}(\mathsf{Vect}_k) で同型です。後者の各成分は同型を微分とする 2 項の複体なので可縮で、K(Vectk)\mathrm{K}(\mathsf{Vect}_k) では零対象です。したがって

X≅(Hn(X))n∈Z (微分 0)in K(Vectk)X \cong \bigl(H^n(X)\bigr)_{n \in \mathbb{Z}} \ (\text{微分 } 0) \quad \text{in } \mathrm{K}(\mathsf{Vect}_k)

で、微分 00 の複体の間ではホモトピー dh+hdd h + h d はすべて 00 なので、Hom⁡K(X,Y)≅∏nHom⁡k(HnX,HnY)\operatorname{Hom}_{\mathrm{K}}(X, Y) \cong \prod_n \operatorname{Hom}_k(H^n X, H^n Y) です。K(Vectk)\mathrm{K}(\mathsf{Vect}_k) は Z\mathbb{Z} 次数付きベクトル空間の圏と圏同値です(関手 X↦(HnX)nX \mapsto (H^n X)_n が充満忠実で、次数付き空間は微分 00 の複体として像に入ります)。シフトは次数をずらす操作で、完全三角形からはコホモロジーの長完全列が出ます(命題 5.6)。擬同型はすべて同型なので、体上では K\mathrm{K} と D\mathrm{D} の差はありません。

三角圏の理論には、この章で扱わない大きな道具がいくつかあります。どれも以後の章の証明では使わないので、定理としては述べず、何が成り立つかと文献だけを示します。

注意 6.1(t 構造と心臓)

三角圏 D\mathcal{D} の t 構造とは、充満部分圏の組 (D≤0,D≥0)(\mathcal{D}^{\le 0}, \mathcal{D}^{\ge 0}) で、D≤0[1]⊂D≤0\mathcal{D}^{\le 0}[1] \subset \mathcal{D}^{\le 0}、D≥0[−1]⊂D≥0\mathcal{D}^{\ge 0}[-1] \subset \mathcal{D}^{\ge 0}、Hom⁡(X,Y)=0\operatorname{Hom}(X, Y) = 0(X∈D≤0X \in \mathcal{D}^{\le 0}、Y∈D≥0[−1]Y \in \mathcal{D}^{\ge 0}[-1])を満たし、各対象 XX が完全三角形 A→X→B→A[1]A \to X \to B \to A[1](A∈D≤0A \in \mathcal{D}^{\le 0}、B∈D≥0[−1]B \in \mathcal{D}^{\ge 0}[-1])に入るものをいいます。Beilinson–Bernstein–Deligne は、心臓 D≤0∩D≥0\mathcal{D}^{\le 0} \cap \mathcal{D}^{\ge 0} がアーベル圏であり、切り詰めがコホモロジー的関手を与えることを示しました。導来圏 D(A)\mathrm{D}(\mathcal{A}) では、鎖複体とホモトピー圏の章の切り詰めから標準的な t 構造ができ、その心臓が A\mathcal{A} です。偏屈層は別の t 構造の心臓として得られます。出典は Beilinson–Bernstein–Deligne の第 1 章、Kashiwara–Schapira の第 10 章です。

注意 6.2(Brown の表現可能性定理)

任意の直和をもち、コンパクト対象の集合で生成される三角圏 D\mathcal{D} では、直和を直積に送るコホモロジー的関手 Dop→Ab\mathcal{D}^{\mathrm{op}} \to \mathsf{Ab} はすべて表現可能です(Neeman)。名前は、位相空間のホモトピー圏での Brown の定理(一般コホモロジー論は表現可能)に由来します。系として、直和を保つ三角関手は右随伴をもち、Grothendieck 双対性の f!f^! の構成に使われます。この章の範囲を超えるので扱いません。出典は Neeman の論文(J. Amer. Math. Soc. 9, 1996)と著書『Triangulated Categories』です。

注意 6.3(三角圏の強化)

注意 3.7 の欠点は、三角圏が「ホモトピーそのもの」を忘れて類だけを覚えていることから来ます。複体の圏を Hom が複体であるような圏(dg 圏)として扱う Bondal–Kapranov の「強化された三角圏」、さらに安定 ∞\infty 圏(Lurie『Higher Algebra』第 1 章)では、錐が関手的に選べ、TR4 は定理として自動的に従います。K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) はアーベル圏の複体のなす dg 圏のホモトピー圏で、この章の具体的な計算(ホモトピー hh の入った錐の射)は、その強化の影です。高次圏論のテーマで扱う予定です。

演習 7.1易

D\mathcal{D} を三角圏、(X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) を完全三角形とする。uu が同型であることと Z≅0Z \cong 0 は同値であることを示せ。

解答

TR1 (b) の完全三角形 (X,X,0,1,0,0)(X, X, 0, 1, 0, 0) を使います。

uu が同型なら、a=1Xa = 1_X、b=ub = u は b⋅1=u⋅ab \cdot 1 = u \cdot a を満たすので、TR3 により三角形の射 (1X,u,c)(1_X, u, c) があり(c ⁣:0→Zc\colon 0 \to Z)、命題 3.4 により cc は同型です。よって Z≅0Z \cong 0 です。

逆に ZZ が零対象なら、v=0v = 0、w=0w = 0 で、(1X,u,0)(1_X, u, 0) は (X,X,0,1,0,0)(X, X, 0, 1, 0, 0) から TT への三角形の射です(条件は u=uu = u、0=00 = 0、0=00 = 0)。1X1_X と 0→Z0 \to Z(零対象どうしの射は同型)が同型なので、命題 3.4 により uu も同型です。

演習 7.2易

Abel 群の複体 CC を C−1=Z→2C0=ZC^{-1} = \mathbb{Z} \xrightarrow{2} C^0 = \mathbb{Z}(他は 00)とし、次数 00 に Z/2\mathbb{Z}/2 を置いた複体を Z/2\mathbb{Z}/2 と書く。CC と Z/2\mathbb{Z}/2 は擬同型だが、K(Ab)\mathrm{K}(\mathsf{Ab}) で同型でないことを示せ。

解答

次数 00 の射影 Z→Z/2\mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/2 は 22 倍の後で 00 なので鎖写像 C→Z/2C \to \mathbb{Z}/2 で、H−1(C)=0H^{-1}(C) = 0、H0(C)=Z/2H^0(C) = \mathbb{Z}/2 への写像は同型なので擬同型です(鎖複体とホモトピー圏の章の擬同型の例と同じ状況です)。

鎖写像 g ⁣:Z/2→Cg\colon \mathbb{Z}/2 \to C の次数 00 の成分は Z/2→Z\mathbb{Z}/2 \to \mathbb{Z} なので 00 で、Hom⁡K(Z/2,C)=0\operatorname{Hom}_{\mathrm{K}}(\mathbb{Z}/2, C) = 0 です。同型 φ ⁣:C→Z/2\varphi\colon C \to \mathbb{Z}/2 があれば φ−1=0\varphi^{-1} = 0 で 1Z/2=φφ−1=01_{\mathbb{Z}/2} = \varphi \varphi^{-1} = 0 となり、H0H^0 をとると 1Z/2=01_{\mathbb{Z}/2} = 0 という矛盾です。

演習 7.3標準

三角圏 D\mathcal{D} で、mono な射 u ⁣:X→Yu\colon X \to Y はレトラクションをもつことを示せ。さらに、三角圏 D\mathcal{D} がアーベル圏でもあるなら、D\mathcal{D} のすべての短完全列は分裂することを示せ。

解答

TR1 (c) により完全三角形 (X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) をとります。命題 3.1 の 1 の u[1]w=0u[1] w = 0 に [−1][-1] を施すと u∘w[−1]=0=u∘0u \circ w[-1] = 0 = u \circ 0 で、uu は mono なので w[−1]=0w[-1] = 0、したがって w=0w = 0 です。命題 4.4 の 1 により uu はレトラクションをもちます。

D\mathcal{D} がアーベル圏なら、短完全列 0→X→uY→Y′′→00 \to X \xrightarrow{u} Y \to Y'' \to 0 の uu は mono なので、ru=1r u = 1 となる rr があり、短完全列は分裂します。たとえば Ab\mathsf{Ab} は分裂しない短完全列 0→Z→2Z→Z/2→00 \to \mathbb{Z} \xrightarrow{2} \mathbb{Z} \to \mathbb{Z}/2 \to 0 をもつので、どのようなシフトと完全三角形の類を与えても三角圏にはなりません(加法圏の加法は圏から一意に決まるので、加法を取り替えて逃げることもできません)。

演習 7.4標準

H ⁣:D→BH\colon \mathcal{D} \to \mathcal{B} をコホモロジー的関手、(X,Y,Z,u,v,w)(X, Y, Z, u, v, w) を完全三角形とし、すべての nn で H(X[n])=0H(X[n]) = 0 とする。すべての nn で H(v[n]) ⁣:H(Y[n])→H(Z[n])H(v[n])\colon H(Y[n]) \to H(Z[n]) が同型であることを示せ。とくに、鎖写像 ff の写像錐が非輪状なら ff は擬同型であることを、命題 5.6 から導け。

解答

命題 4.2 の 1 の列の一部 0=H(X[n])→H(Y[n])→H(v[n])H(Z[n])→H(X[n+1])=00 = H(X[n]) \to H(Y[n]) \xrightarrow{H(v[n])} H(Z[n]) \to H(X[n+1]) = 0 は完全です。補題 5.2[加法圏とアーベル圏] の 2 により H(v[n])H(v[n]) は mono かつ epi で、アーベル圏では同型です(命題 4.3[加法圏とアーベル圏] の 2)。

後半: f ⁣:X→Yf\colon X \to Y の標準三角形を回転した (Y,Cone⁡(f),X[1],i,p,−f[1])(Y, \operatorname{Cone}(f), X[1], i, p, -f[1]) は完全で、さらに回転した (Cone⁡(f),X[1],Y[1],p,−f[1],−i[1])(\operatorname{Cone}(f), X[1], Y[1], p, -f[1], -i[1]) も完全です。H=H0H = H^0 について Cone⁡(f)\operatorname{Cone}(f) が非輪状なら、前半を後者に使って H0((−f[1])[n])=−Hn+1(f)H^0((-f[1])[n]) = -H^{n+1}(f) が同型、すなわちすべての Hn(f)H^n(f) が同型です。

  • J.-L. Verdier, Des catégories dérivées des catégories abéliennes, Astérisque 239, Société Mathématique de France, 1996 — 三角圏の公理と Verdier 商の原典(1967 年の学位論文の刊行)。
  • C. A. Weibel, An Introduction to Homological Algebra, Cambridge University Press, 1994 — §10.1–§10.2(ホモトピー圏と三角圏)。
  • M. Kashiwara, P. Schapira, Categories and Sheaves, Springer, 2006 — 第 10 章(三角圏)、第 11 章(加法圏の複体のホモトピー圏)。
  • S. I. Gelfand, Yu. I. Manin, Methods of Homological Algebra, 2nd ed., Springer, 2003 — 第 IV 章(三角圏)。
  • A. Neeman, Triangulated Categories, Annals of Mathematics Studies 148, Princeton University Press, 2001 — 三角圏の一般論と Brown の表現可能性。
  • A. A. Beilinson, J. Bernstein, P. Deligne, “Faisceaux pervers”, Astérisque 100 (1982) — 第 1 章(t 構造と心臓)。

記号。 f ⁣:X→Yf\colon X \to Y、g ⁣:Y→Zg\colon Y \to Z を鎖写像とし、三つの標準三角形

X→fY→ifCone⁡(f)→pfX[1],X→gfZ→igfCone⁡(gf)→pgfX[1],Y→gZ→igCone⁡(g)→pgY[1]X \xrightarrow{f} Y \xrightarrow{i_f} \operatorname{Cone}(f) \xrightarrow{p_f} X[1], \quad X \xrightarrow{gf} Z \xrightarrow{i_{gf}} \operatorname{Cone}(gf) \xrightarrow{p_{gf}} X[1], \quad Y \xrightarrow{g} Z \xrightarrow{i_g} \operatorname{Cone}(g) \xrightarrow{p_g} Y[1]

を考えます。まず標準三角形について TR4 の射を明示的に作り、次に一般の完全三角形に移します。

次の補題のねらいは、TR4 の射 α,β\alpha, \beta を成分で書いた具体的な鎖写像 a,ba, b として与え、aa の錐が Cone⁡(g)\operatorname{Cone}(g) とホモトピー同値であることを調べることです。証明は、錐 Cone⁡(a)\operatorname{Cone}(a) の元を 4 成分 (x′,y,x,z)(x', y, x, z) で書き、ホモトピーを 1 つ見つける計算が中心です。

補題 7.5(ホモトピー圏の八面体公理)✓

K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の完全三角形は TR4 を満たす。とくに標準三角形については、

a ⁣:Cone⁡(f)→Cone⁡(gf), a(x,y)=(x,gy),b ⁣:Cone⁡(gf)→Cone⁡(g), b(x,z)=(fx,z)a\colon \operatorname{Cone}(f) \to \operatorname{Cone}(gf),\ a(x, y) = (x, g y), \qquad b\colon \operatorname{Cone}(gf) \to \operatorname{Cone}(g),\ b(x, z) = (f x, z)

が TR4 の α,β\alpha, \beta になる。すなわち (1X,g,a)(1_X, g, a) と (f,1Z,b)(f, 1_Z, b) は三角形の射で、Cone⁡(f)→aCone⁡(gf)→bCone⁡(g)→if[1] pgCone⁡(f)[1]\operatorname{Cone}(f) \xrightarrow{a} \operatorname{Cone}(gf) \xrightarrow{b} \operatorname{Cone}(g) \xrightarrow{i_f[1]\, p_g} \operatorname{Cone}(f)[1] は完全三角形である。

証明(補題 7.5)

三角形の射であること。 gf=(gf)⋅1Xg f = (gf) \cdot 1_X なので、命題 5.2[鎖複体とホモトピー圏] の 4 により aa は鎖写像で、aif=igfga i_f = i_{gf} g、pgfa=pfp_{gf} a = p_f です。1Z(gf)=g⋅f1_Z (g f) = g \cdot f なので同じく bb は鎖写像で、bigf=igb i_{gf} = i_g、pgb=f[1]pgfp_g b = f[1] p_{gf} です。これらは TR4 の四つの条件そのものです。

錐 Cone⁡(a)\operatorname{Cone}(a) の計算。 Cone⁡(a)n=Cone⁡(f)n+1⊕Cone⁡(gf)n=Xn+2⊕Yn+1⊕Xn+1⊕Zn\operatorname{Cone}(a)^n = \operatorname{Cone}(f)^{n+1} \oplus \operatorname{Cone}(gf)^n = X^{n+2} \oplus Y^{n+1} \oplus X^{n+1} \oplus Z^n で、元を (x′,y,x,z)(x', y, x, z) と書くと、錐の微分の定義から

d(x′,y,x,z)=(dx′, −fx′−dy, x′−dx, gy+gfx+dz)d(x', y, x, z) = \bigl(d x',\ -f x' - d y,\ x' - d x,\ g y + g f x + d z\bigr)

です(第 1・2 成分は −dCone⁡(f)(x′,y)=(dx′,−fx′−dy)-d_{\operatorname{Cone}(f)}(x', y) = (dx', -fx' - dy)、第 3・4 成分は a(x′,y)+dCone⁡(gf)(x,z)=(x′−dx, gy+gfx+dz)a(x', y) + d_{\operatorname{Cone}(gf)}(x, z) = (x' - dx,\ g y + g f x + d z))。

ホモトピー同値。 φ ⁣:Cone⁡(g)→Cone⁡(a)\varphi\colon \operatorname{Cone}(g) \to \operatorname{Cone}(a)、φ(y,z)=(0,y,0,z)\varphi(y, z) = (0, y, 0, z) と ψ ⁣:Cone⁡(a)→Cone⁡(g)\psi\colon \operatorname{Cone}(a) \to \operatorname{Cone}(g)、ψ(x′,y,x,z)=(y+fx,z)\psi(x', y, x, z) = (y + f x, z) を考えます。

dφ(y,z)=(0, −dy, 0, gy+dz)=φ(−dy, gy+dz)=φ d(y,z)d \varphi(y, z) = (0,\ -d y,\ 0,\ g y + d z) = \varphi(-dy,\ g y + dz) = \varphi\, d(y, z)

なので φ\varphi は鎖写像です。また

ψ d(x′,y,x,z)=(−fx′−dy+fx′−fdx, gy+gfx+dz)=(−d(y+fx), g(y+fx)+dz)=d ψ(x′,y,x,z)\psi\, d(x', y, x, z) = \bigl(-f x' - dy + f x' - f d x,\ g y + g f x + d z\bigr) = \bigl(-d(y + f x),\ g(y + f x) + d z\bigr) = d\, \psi(x', y, x, z)

なので ψ\psi も鎖写像です。ψφ=1\psi \varphi = 1 です。s(x′,y,x,z)=(x,0,0,0)∈Cone⁡(a)n−1s(x', y, x, z) = (x, 0, 0, 0) \in \operatorname{Cone}(a)^{n-1} とおくと

(ds+sd)(x′,y,x,z)=(dx, −fx, x, 0)+(x′−dx, 0, 0, 0)=(x′, −fx, x, 0)(d s + s d)(x', y, x, z) = (d x,\ -f x,\ x,\ 0) + (x' - d x,\ 0,\ 0,\ 0) = (x',\ -f x,\ x,\ 0)

で、これは (1−φψ)(x′,y,x,z)=(x′, y−y−fx, x, z−z)(1 - \varphi \psi)(x', y, x, z) = (x',\ y - y - f x,\ x,\ z - z) に等しいので、φψ≃1\varphi \psi \simeq 1 です。よって φ\varphi は K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) の同型です(命題 4.4[鎖複体とホモトピー圏] の 5)。

三角形の同型。 (1,1,φ)(1, 1, \varphi) が三角形 (Cone⁡(f),Cone⁡(gf),Cone⁡(g),a,b,if[1]pg)(\operatorname{Cone}(f), \operatorname{Cone}(gf), \operatorname{Cone}(g), a, b, i_f[1] p_g) から aa の標準三角形 (Cone⁡(f),Cone⁡(gf),Cone⁡(a),a,ia,pa)(\operatorname{Cone}(f), \operatorname{Cone}(gf), \operatorname{Cone}(a), a, i_a, p_a) への射であることを確かめます。一つ目の正方形は a=aa = a です。二つ目は φb≃ia\varphi b \simeq i_a で、φb(x,z)=(0,fx,0,z)\varphi b(x, z) = (0, f x, 0, z)、ia(x,z)=(0,0,x,z)i_a(x, z) = (0, 0, x, z) から ia−φb=(1−φψ)iai_a - \varphi b = (1 - \varphi \psi) i_a(ψia(x,z)=(fx,z)=b(x,z)\psi i_a(x, z) = (f x, z) = b(x, z) による)で、1−φψ≃01 - \varphi\psi \simeq 0 なので従います(命題 4.4[鎖複体とホモトピー圏] の 1)。三つ目は paφ=if[1] pgp_a \varphi = i_f[1]\, p_g で、両辺とも (y,z)↦(0,y)∈Cone⁡(f)n+1(y, z) \mapsto (0, y) \in \operatorname{Cone}(f)^{n+1} です。三成分とも同型なので、この三角形は完全です。

一般の完全三角形。 TR4 の状況で、u,vu, v を鎖写像 f,gf, g で代表させると vuvu は gfgf で代表されます。命題 5.4 により K(A)\mathrm{K}(\mathcal{A}) は (P) を満たすので、系 3.5 により、与えられた三つの完全三角形から対応する標準三角形への同型 (1,1,γ1)(1, 1, \gamma_1)、(1,1,γ2)(1, 1, \gamma_2)、(1,1,γ3)(1, 1, \gamma_3) があります(γ1 ⁣:Cu→Cone⁡(f)\gamma_1\colon C_u \to \operatorname{Cone}(f) など)。すなわち γ1ju=if\gamma_1 j_u = i_f、pfγ1=kup_f \gamma_1 = k_u などが成り立ちます。α=γ2−1aγ1\alpha = \gamma_2^{-1} a \gamma_1、β=γ3−1bγ2\beta = \gamma_3^{-1} b \gamma_2 とおくと、

αju=γ2−1aif=γ2−1igfg=jvuv,kvuα=pgfaγ1=pfγ1=ku\alpha j_u = \gamma_2^{-1} a i_f = \gamma_2^{-1} i_{gf} g = j_{vu} v, \qquad k_{vu} \alpha = p_{gf} a \gamma_1 = p_f \gamma_1 = k_u

で、同様に βjvu=jv\beta j_{vu} = j_v、kvβ=u[1]kvuk_v \beta = u[1] k_{vu} です。さらに (γ1,γ2,γ3)(\gamma_1, \gamma_2, \gamma_3) は三角形 (Cu,Cvu,Cv,α,β,ju[1]kv)(C_u, C_{vu}, C_v, \alpha, \beta, j_u[1] k_v) から前段の完全三角形への同型です。実際 γ2α=aγ1\gamma_2 \alpha = a \gamma_1、γ3β=bγ2\gamma_3 \beta = b \gamma_2 で、三つ目は γ1[1] ju[1] kv=if[1] kv=if[1] pgγ3\gamma_1[1]\, j_u[1]\, k_v = i_f[1]\, k_v = i_f[1]\, p_g \gamma_3 です。TR1 (a) により (Cu,Cvu,Cv,α,β,ju[1]kv)(C_u, C_{vu}, C_v, \alpha, \beta, j_u[1] k_v) は完全で、TR4 が成り立ちます。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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