極限と余極限:積・等化子・引き戻しからフィルター余極限の完全性まで
対象読者: 本テーマ第 1〜2 章(圏・関手・米田の補題)と、積位相・Tychonoff の定理を学んだ人。極限や余極限は仮定しません。
前提となる記事:米田の補題と表現可能関手:対象を「そこへの射の全体」で知る、積位相・商位相と Tychonoff の定理:ネットと超フィルターで見るコンパクト性
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”直積集合、積位相、群の直積、核といったものは、一見ばらばらですが、「ほかの対象から入ってくる射を、まとめて一つの射にする」という同じ性質で特徴づけられます。この記事は、その共通の形に「極限」という名前を付け、いつ存在するか、どう計算するか、ほかの操作と順序を入れ替えてよいかを調べます。読み終えると、積と等化子さえ作れれば他の極限はすべて作れること、そして無限個の対象を貼り合わせた「順極限」が完全列を壊さない理由が分かります。
- 図式 の極限は、「 から への錐全体」という前層の表現対象(表現可能関手が表す対象のこと)です。したがって極限は一意な同型を除いて一意で、図式について関手的に選べます。積・等化子・引き戻し・終対象・逆極限はすべてその特別な場合で、双対の余極限には余積・余等化子・押し出し・順極限が入ります。
- 小さい積と等化子があれば、すべての小さい極限が作れます。これを使うと、・・・ が完備かつ余完備であること、 が完備であることが、それぞれ積と等化子(余積と余等化子)を作るだけで分かります。
- 関手圏 の極限は各点で計算できます。 は極限を保ち、極限どうしは交換します。
- では、フィルター余極限は有限極限と交換します。その帰結として、 のフィルター余極限は完全列を保ちます。フィルターでない余極限(たとえば 2 個の集合の余積)ではこれが崩れます。
- 射 が mono(左から簡約できる射)であることは核対で、余極限が変わらないことは共終性(図式の添字を「十分遠くまで」減らしてよい性質)で判定できます。・・ では「余等化子として現れる epi」(正則エピ射)は全射と同じものです。
直積集合 は「 から への写像と への写像の組」を「 から への写像」一つにまとめる対象です。積位相も、群の直積も、加群の直積も、同じ形の普遍性で特徴づけられます。核 は「 と が一致する部分」で、同じ形の普遍性をもつ対象として等化子があります。 進整数環 は 完備化と Artin–Rees の補題 の逆極限として作りました。
これらはすべて、前の章 米田の補題と表現可能関手 の意味で「ある前層を表現する対象」です。この章では、それを図式の極限という一つの定義にまとめ、いつ存在するか、どう計算するか、他の構成とどう交換するかを調べます。極限は、次の章で随伴関手を扱うとき(右随伴は極限を保つ)、アーベル圏で核と余核を扱うとき、層の茎(開近傍に沿った順極限)を扱うときの共通の言葉になります。
以下、圏はすべて局所的に小さいとし、「小さい」は 圏・関手・自然変換 で固定した宇宙についての言葉です(定義 3.2[圏・関手・自然変換])。
2. 図式・錐・極限
Section titled “2. 図式・錐・極限”まず言葉の確認です。図式とは、点と矢印からなる形を圏の中に写したものです。錐とは、一つの対象 から図式のすべての点 へ矢印を引き、どの三角形も可換になるようにしたものです(図式の矢印 に沿って と が一致する)。極限は、そうした錐のうち「どの錐もちょうど一通りに通り抜けられる、いちばん手前の錐」のことです。
小さい圏 からの関手 を、 の 型の図式という。対象 について、 を値が 、射の値が の定数関手とする。
- を頂点とする 上の錐とは、自然変換 、すなわち射の族 で、すべての について を満たすものをいう。その全体を と書く。
- 双対的に、 を頂点とする 下の余錐とは自然変換 、すなわち を満たす族 をいう。
射 と錐 から錐 が得られます。これにより は 上の前層です(値は の部分集合なので小さい集合です)。
図式 の極限とは、前層 の普遍元(定義 4.1[米田の補題と表現可能関手])、すなわち錐 であって、任意の錐 に対し (すべての )を満たす射 がただ一つ存在するものをいう。 を や と書く。双対的に、関手 の普遍元を余極限といい、 や と書く。
- が完備(余完備)であるとは、すべての小さい圏 について 型の図式がすべて極限(余極限)をもつことをいう。 を有限圏(対象も射も有限個)に限るとき、有限完備(有限余完備)という。
- 関手 が の極限を保つとは、 の極限錐 の像 が の極限錐であることをいう。
- と がともに の極限なら、(すべての )を満たす射 がただ一つあり、 は同型である。
- 型の図式がすべて極限をもつなら、各 に極限 を選ぶことで、 は関手になり、全単射 は と について自然である。
余極限についても双対の主張が成り立つ。
証明(命題 2.3)
1 は 系 4.3[米田の補題と表現可能関手] を前層 に適用したものである。2:双関手 、 を考える( と は で作用し、二つの作用は可換)。仮定から各 は表現可能なので、命題 5.1[米田の補題と表現可能関手] により主張が従う。具体的には、 に対し は を満たすただ一つの射である。
次の形の図式の極限・余極限に名前を付ける。
- が離散圏(恒等射しかない圏) のとき、図式は対象の族 で、極限を積 (射影 )、余極限を余積 (入射 )という。 のときの極限は終対象、余極限は始対象である。
- (平行な 2 本の射)のとき、図式は平行な射 で、極限 を の等化子、余極限 を余等化子という。極限の錐は で決まり( への成分は )、条件は「 を満たす任意の が をただ一通りに経由する」ことである。
- のとき、図式は 、 で、極限 (射影 、)を引き戻し(ファイバー積)という。双対の の余極限 を押し出しという。 を 自身に沿って引き戻した とその二つの射影を の核対という。
では、積は直積集合、等化子は とその包含、引き戻しは です。 の余積は直和 です。
3. 積と等化子からすべての極限を作る
Section titled “3. 積と等化子からすべての極限を作る”次の定理は、一般の図式の極限を「積を作り、そこから条件を満たす部分を等化子で切り出す」という二段階で作れる、と言っています。証明の方針は集合の場合と同じで、まず全対象の積 の元(すべての の成分の組)を考え、次に「矢印 に沿って成分が整合する」という条件を、二つの射 が一致する部分として表します。
証明(定理 3.1)
を小さい図式とし、
とおく( は の行き先。添字集合は小さい)。射 を、 成分が 、 となるように積の普遍性で定める(、 はそれぞれの射影)。 を の等化子とし、 とおく。
錐であること. について 。
普遍性. 錐 に対し、積の普遍性から となる がただ一つある。 がすべての で成り立つので、積の普遍性の一意性から 。等化子の普遍性から となる がただ一つあり、。逆に なら から 、よって 。
が有限なら 、 は有限積である。双対は に適用する。
4. 具体的な圏の極限と余極限
Section titled “4. 具体的な圏の極限と余極限”・(とくに )・ は完備かつ余完備であり、 は完備である。極限と余極限は、以下の証明の中の積・等化子・余積・余等化子から 定理 3.1 の構成で与えられる。
証明(定理 4.1)
定理 3.1 により、小さい積・等化子(・余積・余等化子)を作ればよい。以下の集合がすべて小さいことは 命題 2.3[圏・関手・自然変換] による。
. 積は直積 と射影で、写像 の族に がただ一つ対応する。 の等化子は の包含で、 なら の値は に入る。余積は直和 と入射で、写像の族 に がただ一つ対応する。余等化子は、()を含む最小の同値関係(それらを含む同値関係すべての共通部分)による商 である。実際 なら、 で定まる同値関係はこれらの組を含むので を含み、商集合の普遍性(定理 5.1[関係と同値関係])から は をただ一通りに経由する。
. 積は直積加群(定義 2.2[加群・完全列・中山の補題])で、上の写像 は が線形なら線形。等化子は部分加群 の包含。余積は直和 で、線形写像の族 に (有限和)がただ一つ対応する(直和は各成分の像で生成されるので一意)。余等化子は剰余加群 への射影 (定義 2.1[加群・完全列・中山の補題])で、 なら は 上で だから、 が well-defined な線形写像で、 が全射なので一意である。
. 積は積空間で、普遍性は 定理 3.4[積位相・商位相と Tychonoff の定理](写像は の場合のもの)。等化子は に部分空間の位相を入れたもので、部分空間の位相は包含に関する始位相なので(定理 2.4[積位相・商位相と Tychonoff の定理] の 3)、 の連続性は包含との合成の連続性と同値(同定理の 1)。余積は直和空間で 命題 4.7[積位相・商位相と Tychonoff の定理]、余等化子は の余等化子 に商位相を入れたもので 定理 4.2[積位相・商位相と Tychonoff の定理] による。
. 積は直積群、等化子は部分群 の包含で、いずれも の場合の写像が準同型になることを確かめればよい。直積群の演算は成分ごとなので、準同型 の族について は準同型である。、 なら なので、等化子の台集合は部分群で、 を満たす準同型 の値はそこに入る。
の余完備性(余積は自由積、余等化子は正規閉包による商)は、自由群を作ってから示すのが見通しがよいので、随伴関手と随伴関手定理 で一般随伴関手定理の系として示します。
例 4.2(p 進整数と Prüfer 群)
素数 について、自然数の順序集合 の双対を圏と見て、図式 (射は自然な全射)を考えます。定理 3.1 の構成を で書き下すと、極限は のうち隣り合う成分が整合する列全体で、完備化と Artin–Rees の補題 の逆極限 定義 2.1[完備化と Artin–Rees の補題] と一致します。これが 進整数 です(錐の条件は合成 についての条件ですが、隣り合う成分の条件から帰納的に従います)。
逆向きに、(射は 倍)の余極限は、下の 命題 6.3 の記述から、各 を と同一視して和集合をとった になります。これを Prüfer 群 といいます。
注意 4.3(van Kampen の定理は押し出し)
基本群と被覆空間 の van Kampen の定理(定理 6.1[基本群と被覆空間])は、 のとき が の での押し出しであることを、普遍性の形で述べています。押し出しが存在するかどうかを問わずに、 が押し出しの普遍性を満たすと主張している点に注意してください。 の押し出しが一般に存在すること(融合積)は、 の余完備性から従います。
位相空間の積・商・直和は、それぞれ射影の族に関する始位相、商写像・入射の族に関する終位相で、上の証明で見たとおり の積・余等化子・余積です。一般の極限は「 の極限に、錐の射の族に関する始位相を入れたもの」、余極限は「 の余極限に終位相を入れたもの」になります(定理 2.4[積位相・商位相と Tychonoff の定理])。
5. 極限の計算規則
Section titled “5. 極限の計算規則”5.1. 関手圏の極限は各点で計算できる
Section titled “5.1. 関手圏の極限は各点で計算できる”を小さい圏、 を図式とし、 を の での値と書く。各 について図式 が極限 をもつなら、 は関手 になり、 は自然変換で、 は の極限である。とくに が完備(余完備)なら も完備(余完備)である。
証明(命題 5.1)
について、 の自然性から なので、 は 上の錐である。極限の普遍性から を満たす がただ一つあり、一意性から 、 となる。この等式は の自然性そのものである。 が錐であることは各 で が錐であることから従う。
を 上の錐()とする。各 で は 上の錐なので、 となる がただ一つある。 について
がすべての で成り立つ。極限への射は錐の成分との合成で決まるので(普遍性の一意性)、、すなわち は自然変換で、。一意性は各成分の一意性から従う。極限の選択には選択公理(公理 3.1[選択公理と Zorn の補題])を 上で使う。余極限は双対である。
5.2. Hom は極限を保つ
Section titled “5.2. Hom は極限を保つ”を図式、 を 上の錐とする。
- で、図式 の極限は と射影である。
- が の極限であるための必要十分条件は、すべての について、 が の図式 の極限であることである。とくに は極限を保つ。
- 双対的に、 は の余極限を の極限に写す。
証明(命題 5.2)
命題 4.4[米田の補題と表現可能関手] と合わせると、・ の忘却関手は表現可能なので極限を保ちます。群の極限の台集合は台集合の極限です。
5.3. 極限は極限と交換する
Section titled “5.3. 極限は極限と交換する”簡単な場合で意味を見ておきます。、 がともに離散圏なら極限は積なので、次の同型は「 全体にわたる積は、先に について積をとってから について積をとっても、順序を逆にしても同じ」と言っています。一般の図式でも、極限どうしは順序を入れ替えてよい、というのが主張です。
証明(命題 5.3)
からの錐を比べる。 上の錐は族 で ()を満たすもの。極限 の普遍性から、 は 上の錐 と 1 対 1 に対応する。 は で特徴づけられるので(命題 2.3 の 2)、条件 は、成分ごとに見て (すべての )と同値である。
したがって 上の錐は、族 で「各 で について整合し、各 で について整合する」もの、すなわち と の形の射について整合するものと 1 対 1 に対応する。 の任意の射は と分解するので、これは 上の錐と同じである。この対応は について自然(どちらも 側の射との合成で動く)なので、 が について自然な全単射になり、 は対応する錐とともに の極限である(命題 4.2[米田の補題と表現可能関手])。 と の役割を入れ替えれば第 2 の同型が得られ、命題 2.3 の 1 により三つは同型である。
極限と余極限は一般には交換しません。次の節で、交換する重要な場合を扱います。
6. フィルター余極限
Section titled “6. フィルター余極限”フィルター圏は、有向集合(どの 2 元にも共通の上界がある順序集合)を圏に一般化したものです。条件 (ii) は「どの 2 つの対象にも共通の行き先がある」という有向性そのもので、条件 (iii) は、同じ 2 点を結ぶ平行な射が複数あっても、先へ進めばそれらを一致させられる、という要請です。有向集合では射が高々一つなので (iii) は自動的に成り立ちます。この節の目標は、有限個の条件は先へ進めば一度にまとめて満たせる、というこの性質を使って、余極限が有限極限と交換することを示すことです。
小さい圏 がフィルター圏であるとは、次の 3 条件を満たすことをいう。(i) は空でない。(ii) 任意の に対し、射 、 をもつ がある。(iii) 任意の平行な射 に対し、 となる がある。フィルター圏を添字とする余極限をフィルター余極限という。
有向集合(定義 5.1[積位相・商位相と Tychonoff の定理])を圏と見たものはフィルター圏で((iii) は Hom が高々 1 元なので自動的)、その上の余極限を順極限、その双対圏の上の極限を逆極限という。
証明(補題 6.2)
(ii) を 回使って、すべての から射 をもつ をとる。平行な射 に (iii) を使って で等化し、次に と を等化し、と 回繰り返すと、合成 で がすべて等しくなるものが得られる。 とおけばよい。後半は、有限個の対象 に (ii) を繰り返し使えばよい( が空でないので でも成り立つ)。
をフィルター圏、 を図式とする。 上の関係 を「射 、 で となるものがある」で定めると、 は同値関係であり、(入射は )である。とくに、同じ の 2 元 が余極限で等しいことは、ある で となることと同値である。
証明(命題 6.3)
証明(定理 6.4)
極限は 命題 5.2 の 1 の整合する族、余極限は 命題 6.3 の記述を使う。 は各成分 が余錐を与えることから well-defined である。
全射. をとり、 と書く。 は有限なので、補題 6.2 により共通の行き先 と射 があり、 をそれで送ると、()と書ける。 の各射 について、 が整合することから で、命題 6.3 の最後の主張から、ある で 。 の射は有限個なので、補題 6.2 で がすべて等しい一つの射 にまとめられる。 とおくと、 の双関手性から なので で、。
単射. とする。共通の行き先に送ることで としてよい。各 で なので、ある で 。 の対象は有限個なので、補題 6.2 で一つの にまとめると、すべての で 、すなわち が と を同じ元に送る。よって 。
証明で「 が有限」を使ったのは、有限個の条件を一つの射 でまとめて満たす箇所だけです。演習 8.2 で見るように、 がフィルターでないと結論は成り立ちません。
をフィルター圏とする。
- 図式 の余極限は、台集合の余極限 に、、 で加群の構造を入れたものである。
- 自然変換 、 が各 で完全列 (定義 2.3[加群・完全列・中山の補題])を与えるなら、余極限の列 も完全である。とくにフィルター余極限は短完全列を短完全列に写す。
証明(系 6.5)
1: 2 元は 補題 6.2 により同じ の元で代表できる。和が代表元によらないこと:、 なら、命題 6.3 で と にそれぞれ射の組をとり、 から出る 2 本を 補題 6.2 で、続いて から出る 2 本を 定義 6.1 の (iii) で一つにまとめると、、 で 、 となるものがとれ、、 が線形なので 。スカラー倍も同様で、加群の公理は代表元の計算に帰着する。入射は線形で、線形な余錐 に対して での誘導写像 は線形なので、これが の余極限である。
2: 余極限の写像は である。合成が なのは各 で だから。 が で に写るとすると、 だから、ある で 、すなわち 。 での完全性から となる があり、 は の像に入る。単射・全射の保存も同じ議論( の単射性、 の全射性を代表元で使う)で示せる。
2 は「核( での有限極限 )がフィルター余極限と交換する」ことの具体的な形で、定理 6.4 の特別な場合と見ることもできます。層の茎は開近傍の有向集合に沿った順極限なので、2 から「層の短完全列は茎ごとに完全」という性質が出てきます。
7. mono・共終性・正則エピ射
Section titled “7. mono・共終性・正則エピ射”7.1. mono の核対による判定
Section titled “7.1. mono の核対による判定”証明(命題 7.1)
1 ⇒ 2: を満たす に対し、 が mono なので で、、 を満たす は ただ一つ。これが引き戻しの普遍性である。
2 ⇒ 3:核対として がとれ、二つの射影は等しい。核対は一意な同型を除いて一意(命題 2.3)なので、どの核対でも 。
3 ⇒ 1: なら引き戻しの普遍性から 、 となる があり、。
この判定は「mono は引き戻しで表せる性質」であることを示しています。たとえば右随伴は引き戻しを保つので mono を保ちます(随伴関手と随伴関手定理 で使います)。
7.2. 共終関手
Section titled “7.2. 共終関手”関手 ( は小さい)が共終であるとは、各 についてコンマ圏 (定義 7.1[圏・関手・自然変換]。対象は射 )が空でなく連結(任意の 2 対象が、向きを問わない射の有限列で結ばれる)であることをいう。 が共終なら、図式 について、 下の余錐を に制限する写像は、 下の余錐と 下の余錐の間の(頂点について自然な)全単射である。したがって の余極限が存在することと の余極限が存在することは同値で、標準射 は同型である。
証明(補題 7.2)
下の余錐 が与えられたとする。 と の対象 に対し を考える。 の射 ()について ( が余錐)なので、この値は射で結ばれた対象で等しく、 が連結だから の選び方によらない。空でないので値が定まり、これを とおく。 と について は の対象なので、。よって は 下の余錐で、 をとれば 。
逆に 下の余錐 を に制限して上の構成をすると、 なので元の に戻る。こうして制限は全単射で、頂点 側の射との合成と可換だから について自然である。命題 4.2[米田の補題と表現可能関手] により、二つの余錐の関手の一方が表現可能なら他方もそうで、表現対象は一致する。
有向集合 の部分集合 で、任意の に対し となる があるもの(共終部分集合)は、包含が共終関手です( は で、空でなく、有向なので連結)。たとえば順極限 は部分列 と同じです。
7.3. 部分対象と正則エピ射
Section titled “7.3. 部分対象と正則エピ射”を行き先とする mono 、 について、 となる同型 があるとき同値とし、その同値類を の部分対象という。 が を経由するとき と書く。双対的に、 から出る epi の同値類を の商対象という。
や では、部分対象は部分集合・部分加群と 1 対 1 に対応します(命題 3.8[圏・関手・自然変換] により mono は単射で、単射は像への同型と包含の合成)。
次の正則エピ射の定義は、「全射」という集合の言葉を、射だけの言葉(余等化子)に言い換えるためのものです。この節の後半の正則圏・拡張的圏の定義は、そうした圏の分類のための用語で、この記事の他の部分の証明には使いません。
正則エピ射は epi です(余等化子の普遍性の一意性の部分から)。
証明(命題 7.5)
正則エピ射なら全射. ・ では、定理 4.1 の証明で作った余等化子は商写像で全射であり、余等化子は一意な同型を除いて一意なので(命題 2.3)、どの余等化子も全射である。 では、 に対し、 を含む正規部分群すべての共通部分 (正規部分群の共通部分は正規部分群)による商 (定理 5.1[正規部分群と商群])が余等化子である。実際 なら は を含む正規部分群なので で、定理 7.1[群の準同型定理] から は をただ一通りに経由する。 は全射なので、同じ理由でどの余等化子も全射である。
全射なら正則エピ射. を の全射とし、、 を包含、 を自明な準同型とする。 は と同値なので、定理 7.1[群の準同型定理] により の余等化子は で、定理 5.1[群の準同型定理] の同型 を合成すると が余等化子になる。 も同様(核の包含と零写像、定理 2.3[加群と PID 上の構造定理])。 では、全射 はその核対 の余等化子である。実際、核対で となる は「 なら 」を満たし、 が全射なので を通じて商集合の普遍性(定理 5.1[関係と同値関係])から はただ一通りに を経由する。
- 有限完備な圏 が正則圏であるとは、すべての射の核対が余等化子をもち、正則エピ射が引き戻しで保たれる(正則エピ射 を任意の射に沿って引き戻した射が正則エピ射である)ことをいう。
- 有限余積をもつ圏 が拡張的であるとは、余積の入射に沿った引き戻しが存在し、 を入射に沿って引き戻した 、 について、標準射 がつねに同型であり、さらに 上の対象がこの形の分解でただ一通りに決まる(スライス圏の圏同値 )ことをいう。
は正則かつ拡張的で、・・ は正則です。 は拡張的ではありません(余積 への対角 を各入射に沿って引き戻すと になり、 は同型でない)。 は拡張的ですが正則ではありません(商写像は引き戻しで保たれるとは限らない)。正則圏は「像」がよく振る舞う圏で、アーベル圏はその典型例です。
小さい圏 について、前層 が表現可能前層のフィルター余極限 ( はフィルター圏)と同型なとき、 を の Ind 対象といい、それらがなす の充満部分圏を と書く。 の対象を pro 対象という。
Ind 対象は「 の中には無いフィルター余極限を、形式的に付け加えたもの」です。たとえば有限生成アーベル群の圏の Ind 対象はすべてのアーベル群に対応し(どのアーベル群も有限生成部分群の順極限)、有限群の圏の pro 対象は副有限群( や Galois 群のような、有限群の逆極限として現れる位相群)を形式的に表します。極限を使って「無限の対象を有限の対象の系として扱う」考え方は、代数幾何学や数論で繰り返し現れます。
で、、、 とし、 を 、、 を 、 とする。引き戻し の元の個数と、 の核対 の元の個数を求めよ。
解答
です。 の上には 個、 の上には 個あるので、合計 個です。核対は で、 個です。 は単射でないので、命題 7.1 のとおり核対は対角(4 個)より大きくなっています。
演習 8.2標準
を 2 対象の離散圏(フィルター圏でない)、 を 2 対象の離散圏とし、 をすべての値が 1 点集合の関手とする。 と の元の個数を比べ、定理 6.4 でフィルター性が必要なことを確かめよ。
解答
離散圏上の極限は積、余極限は余積(直和)です。 は 1 点なので、 はその 2 個の直和で 点です。一方 は 2 点なので、 はその積で 点です。 なので標準写像は全単射ではありません。 は (ii) を満たさない(2 つの対象に共通の行き先がない)ので、フィルター圏ではありません。
演習 8.3標準
引き戻しの四角形 、 において、 が mono なら、それを に沿って引き戻した も mono であることを示せ。
解答
とします。 より で、 が mono なので です。二つの射影との合成が一致するので、引き戻しの普遍性の一意性から です。
を小さい図式とする。 の極限の台集合は、台集合の図式 の極限であることを、命題 5.2 と 命題 4.4[米田の補題と表現可能関手] から導け。さらに、 の余積の台集合は台集合の余積(直和)と一致しないことを、 の 2 つのコピーの余積 が無限群であることを示して確かめよ( の余積の存在は 随伴関手と随伴関手定理 で示す)。
解答
忘却関手は で、命題 5.2 の 2 により は極限を保つので、 です。後半:2 つのコピーの生成元をそれぞれ位数 2 の元 に送る準同型の組 を考えます。ここで は の変換 、 が生成する置換群です。 なので は位数無限の元です。余積の普遍性から で二つの生成元を に送る準同型があり、像が無限群なので も無限群です。一方、台集合の直和は 4 元集合なので一致しません。
- S. Mac Lane, Categories for the Working Mathematician, 2nd ed., Graduate Texts in Mathematics 5, Springer, 1998 — 第 III 章(極限)、第 V 章(極限の構成)、第 IX 章(フィルター余極限と有限極限の交換、共終関手)。
- E. Riehl, Category Theory in Context, Dover, 2016 — 第 3 章。
- M. Kashiwara, P. Schapira, Categories and Sheaves, Grundlehren der mathematischen Wissenschaften 332, Springer, 2006 — 第 2 章・第 3 章(極限、フィルター余極限)、第 6 章(Ind 対象)。
- F. Borceux, Handbook of Categorical Algebra 1, Encyclopedia of Mathematics and its Applications 50, Cambridge University Press, 1994 — 第 2 章(極限)。
- T. Leinster, Basic Category Theory, Cambridge Studies in Advanced Mathematics 143, Cambridge University Press, 2014 — 第 5 章。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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