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くりこみ理論入門:ループ発散の正則化から、くりこみ群の流れまで

Prerequisite:経路積分量子化:時間分割から生成汎関数とファインマン則へ

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  • 摂動計算に現れる紫外発散は、理論が破綻していることの証拠ではありません。ラグランジアンに書き込んだ「裸のパラメータ」と、実験で測る「くりこまれたパラメータ」を取り違えたことの帰結です。
  • 手続きは 3 段階です。(1) カットオフ Λ\Lambda などで積分を正則化し、(2) 裸のパラメータを Λ\Lambda の関数として選び直し、(3) 有限個のくりこみ条件で観測量に合わせる。これで Λ\Lambda \to \infty の極限が取れます。
  • 有限個の条件で済むかどうかは、結合定数の質量次元だけで判定できます。4 次元 ϕ4\phi^4 理論では 1PI 図の表面的発散次数が D=4ED = 4 - E となり、発散するのは外線 E=2E = 2E=4E = 4 の 2 種類だけです(Corollary 5.3)。
  • くりこみ条件は必ず基準スケール μ\mu を含むので、くりこまれた結合は μ\mu に依存します。この依存性を支配するのがくりこみ群方程式(Theorem 6.2)とベータ関数です。
  • 4 次元 ϕ4\phi^4 理論では β(λ)=3λ2/(16π2)>0\beta(\lambda) = 3\lambda^2/(16\pi^2) > 0 で、高エネルギーほど結合が強くなります。QCD はこの符号が逆転し、漸近的に自由になります。
  • くりこみ不可能な理論も、あるカットオフ以下でだけ通用する近似理論(有効場の理論)として完全な予言能力を持ちます。弱い相互作用のフェルミ理論がその典型です。

1. 動機 — 無限大はどこから来たのか

Section titled “1. 動機 — 無限大はどこから来たのか”

場の量子論の摂動論は、最低次では信じがたいほどうまく機能します。電子の異常磁気モーメントは木レベルで g=2g = 2、1 ループのシュウィンガー項を足すと

g22=α2π=0.0011614\frac{g-2}{2} = \frac{\alpha}{2\pi} = 0.0011614\ldots

となり、実測値 0.001159650.00115965\ldots と 3 桁一致します。ところが同じ 1 ループの範囲で電子の自己エネルギーを計算しようとすると、ループ運動量 kk についての積分が k|k| \to \infty で発散します。摂動級数の第 2 項が無限大なのですから、これは小さな技術的不都合ではありません。

この問題は 1930 年に J. R. オッペンハイマーが指摘して以来、四半世紀にわたって場の量子論の正当性そのものを脅かしました。転機は実験から来ます。1947 年、ラムとレザフォードは水素原子の 2s1/22s_{1/2}2p1/22p_{1/2} の縮退が約 1000 MHz1000\ \mathrm{MHz} 破れていることを測定しました(現在の値は約 1057 MHz1057\ \mathrm{MHz})。ディラック方程式はこの 2 準位を厳密に縮退させるので、これは輻射補正の直接の証拠です。ベーテはこの直後、自由電子の自己エネルギーを束縛電子のそれから差し引くという処方で、非相対論的近似のもとに 1040 MHz1040\ \mathrm{MHz} という値を得ました。差を取ると発散が消えたのです。

ここに、くりこみの発想の核心があります。発散するのは「観測できない量」であって、「観測できる量の差」ではない。1947 年から 1949 年にかけて、朝永振一郎、シュウィンガー、ファインマンがこの処方を相対論的に共変な形に整え、ダイソンが摂動論の全次数で整合的に実行できることを示しました。

1.1. 古典物理にも同じことが起こる

Section titled “1.1. 古典物理にも同じことが起こる”

無限大が量子論に特有の病だと考えるのは誤りです。古典電磁気学で半径 aa の一様帯電球の静電エネルギーは

U=35e24πε0aU = \frac{3}{5}\cdot\frac{e^2}{4\pi\varepsilon_0 a}

で、点電荷の極限 a0a \to 0 で発散します。このエネルギーは U/c2U/c^2 だけ電子の慣性質量に寄与するので、電子の質量は発散するはずです。しかし実験室で測れるのは「裸の質量 ++ 電磁的自己エネルギー」という和だけであり、その和は 0.511 MeV/c20.511\ \mathrm{MeV}/c^2 という有限値です。二つの項を個別に問うこと自体に意味がありません。

もっと日常的な例もあります。密度 ρ\rho の非粘性流体の中で半径 aa の球を加速すると、球は自分の質量 mm ではなく

meff=m+12ρ43πa3m_{\text{eff}} = m + \tfrac{1}{2}\rho\cdot\tfrac{4}{3}\pi a^3

という有効質量を持つように振る舞います(付加質量)。流体中の実験者が測るのは常に meffm_{\text{eff}} であって mm ではありません。mm は「流体を取り去ったら測れるはずの量」ですが、真空という流体は取り去れません。

以下ではユークリッド化した 1 成分スカラー場の ϕ4\phi^4 理論を舞台にします。経路積分の構成については 経路積分量子化 を前提とします。dd 次元ユークリッド時空での作用を

S[ϕ]=ddx [ 12(μϕ)2+12m02ϕ2+λ04!ϕ4 ]S[\phi] = \int d^dx\ \Big[\ \tfrac{1}{2}(\partial_\mu\phi)^2 + \tfrac{1}{2}m_0^2\phi^2 + \frac{\lambda_0}{4!}\phi^4 \ \Big]

とし、生成汎関数(Definition 5.1[経路積分量子化])を Z[J]=Dϕ eS[ϕ]+JϕZ[J] = \int \mathcal{D}\phi\ e^{-S[\phi] + \int J\phi}、その対数 W[J]=lnZ[J]W[J] = \ln Z[J] のルジャンドル変換を Γ[Φ]\Gamma[\Phi] と書きます。Γ[Φ]\Gamma[\Phi]nn 階微分が 1 粒子既約(1PI)頂点関数 Γ(n)\Gamma^{(n)} で、運動量空間では

Γ[Φ]=n1n!i=1nddpi(2π)d (2π)dδd(ipi) Γ(n)(p1,,pn) Φ(p1)Φ(pn)\Gamma[\Phi] = \sum_{n}\frac{1}{n!}\int \prod_{i=1}^{n}\frac{d^dp_i}{(2\pi)^d}\ (2\pi)^d\delta^d\Big(\sum_i p_i\Big)\ \Gamma^{(n)}(p_1,\ldots,p_n)\ \Phi(p_1)\cdots\Phi(p_n)

と定義します。ファインマン則は、内線が伝播関数 1/(k2+m02)1/(k^2+m_0^2)、頂点が λ0-\lambda_0、独立なループごとに ddk/(2π)d\int d^dk/(2\pi)^d です(相互作用項の展開とウィックの定理から出る規則です。Theorem 5.3[経路積分量子化])。木レベルでは Γ(2)(p)=p2+m02\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2Γ(4)=λ0\Gamma^{(4)} = \lambda_0 となります。

添字 00 を付けた m0,λ0m_0, \lambda_0裸のパラメータと呼びます。これはラグランジアンに書かれた記号にすぎず、まだ何の測定値とも結び付いていない点に注意してください。

質量次元も確認しておきます。作用が無次元であることから [ϕ]=(d2)/2[\phi] = (d-2)/2、したがって

[λ0]=d4d22=4d.[\lambda_0] = d - 4\cdot\frac{d-2}{2} = 4 - d .

d=4d = 4 では λ0\lambda_0 は無次元です(質量次元が相互作用の性質を分ける、という古典場の段階での議論は Remark 5.3[Classical Field Theory and the Lagrangian] にあります)。この事実がこの記事全体を貫く主役になります。

3. 1 ループの発散を実際に取り出す

Section titled “3. 1 ループの発散を実際に取り出す”

抽象論の前に、発散がどんな形で現れるかを最後まで計算しておきます。正則化には運動量カットオフ k<Λ|k| < \Lambda を使います。4 次元ユークリッド空間の角度積分は d4k=2π2k3dk\int d^4k = 2\pi^2\int k^3\,dkS3S^3 の面積が 2π22\pi^2)なので、球対称な被積分関数 f(k2)f(k^2) に対して

Λd4k(2π)4f(k2)=18π20Λdk k3f(k2)=116π20Λ2du uf(u)\int^\Lambda \frac{d^4k}{(2\pi)^4} f(k^2) = \frac{1}{8\pi^2}\int_0^\Lambda dk\ k^3 f(k^2) = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2} du\ u\, f(u)

が成り立ちます(u=k2u = k^2 と置換しました)。この 1 本の公式で以下の積分はすべて片付きます。

Example 3.12 点関数の 1 ループ補正(2 次発散)

Γ(2)\Gamma^{(2)} への O(λ0)O(\lambda_0) の寄与は、1 個の頂点の 4 本の脚のうち 2 本を外線に、残る 2 本を互いに結んだ図(タドポール)です。頂点の 4 本から外線 2 本を選ぶ選び方が 4×3=124\times 3 = 12 通り、残り 2 本の結び方が 1 通りで、1/4!1/4! と合わせて対称因子 1/21/2 が残ります(この数え方の一般論は Remark 6.4[経路積分量子化] のとおりです)。したがって

Γ(2)(p)=p2+m02+λ02Λd4k(2π)41k2+m02+O(λ02).\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2 + \frac{\lambda_0}{2}\int^\Lambda\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\frac{1}{k^2+m_0^2} + O(\lambda_0^2).

積分を実行します。

Λd4k(2π)41k2+m02=116π20Λ2uduu+m02=116π20Λ2(1m02u+m02)du=116π2[Λ2m02lnΛ2+m02m02].\begin{aligned} \int^\Lambda\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\frac{1}{k^2+m_0^2} &= \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\frac{u\,du}{u+m_0^2} = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\Big(1 - \frac{m_0^2}{u+m_0^2}\Big)du\\ &= \frac{1}{16\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_0^2\ln\frac{\Lambda^2+m_0^2}{m_0^2}\Big]. \end{aligned}

Λm0\Lambda \gg m_0 では

Γ(2)(p)=p2+m02+λ032π2[Λ2m02lnΛ2m02]+O(λ02, m04/Λ2).\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2 + \frac{\lambda_0}{32\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_0^2\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2}\Big] + O(\lambda_0^2,\ m_0^4/\Lambda^2).

二つの点に注目してください。第一に、発散は Λ2\Lambda^2 という2 次発散です。第二に、この補正は外線運動量 ppまったく依存しません。したがって p2p^2 の係数は 1 のままで、1 ループでは波動関数のくりこみが不要です(Zϕ=1+O(λ02)Z_\phi = 1 + O(\lambda_0^2))。

Example 3.2バブル積分(対数発散)

4 点関数の 1 ループ図に現れる基本積分

B(q2)Λd4k(2π)4 1(k2+m02)((k+q)2+m02)B(q^2) \equiv \int^\Lambda\frac{d^4k}{(2\pi)^4}\ \frac{1}{(k^2+m_0^2)\big((k+q)^2+m_0^2\big)}

を計算します。まず q=0q = 0 の場合を厳密に実行します。

B(0)=116π20Λ2udu(u+m02)2=116π20Λ2[1u+m02m02(u+m02)2]du=116π2[lnΛ2+m02m02+m02Λ2+m021]=116π2[lnΛ2m021]+O ⁣(m02Λ2).\begin{aligned} B(0) &= \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\frac{u\,du}{(u+m_0^2)^2} = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^{\Lambda^2}\Big[\frac{1}{u+m_0^2} - \frac{m_0^2}{(u+m_0^2)^2}\Big]du\\ &= \frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2+m_0^2}{m_0^2} + \frac{m_0^2}{\Lambda^2+m_0^2} - 1\Big] = \frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2} - 1\Big] + O\!\Big(\frac{m_0^2}{\Lambda^2}\Big). \end{aligned}

一般の qq ではファインマン・パラメータ 1AB=01dx[xA+(1x)B]2\frac{1}{AB} = \int_0^1 \frac{dx}{[xA+(1-x)B]^2} を使います。A=(k+q)2+m02A = (k+q)^2+m_0^2B=k2+m02B = k^2+m_0^2 とすると

xA+(1x)B=k2+2xk ⁣ ⁣q+xq2+m02=(k+xq)2+Δ,Δm02+x(1x)q2xA + (1-x)B = k^2 + 2x\,k\!\cdot\! q + x q^2 + m_0^2 = (k+xq)^2 + \Delta,\qquad \Delta \equiv m_0^2 + x(1-x)q^2

なので、=k+xq\ell = k + xq と積分変数を移して

B(q2)=01dxΛd4(2π)41(2+Δ)2=116π201dx [lnΛ2Δ1]+O ⁣(q2Λ2).B(q^2) = \int_0^1 dx \int^\Lambda\frac{d^4\ell}{(2\pi)^4}\frac{1}{(\ell^2+\Delta)^2} = \frac{1}{16\pi^2}\int_0^1 dx\ \Big[\ln\frac{\Lambda^2}{\Delta} - 1\Big] + O\!\Big(\frac{q^2}{\Lambda^2}\Big).

Δ\Delta の定義を代入して整理すると

B(q2)=116π2[lnΛ2m021F(q2)],F(q2)01dx ln(1+x(1x)q2m02).B(q^2) = \frac{1}{16\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2} - 1 - F(q^2)\Big],\qquad F(q^2) \equiv \int_0^1 dx\ \ln\Big(1 + \frac{x(1-x)q^2}{m_0^2}\Big).

ここが決定的です。Λ\Lambda を含む項は ln(Λ2/m02)\ln(\Lambda^2/m_0^2) だけで、これは外線運動量 qq に依存しません。運動量依存性はすべて有限な関数 FF に閉じ込められています。q2m02q^2 \gg m_0^2 では 01ln(x(1x))dx=201lnxdx=2\int_0^1\ln\big(x(1-x)\big)dx = 2\int_0^1 \ln x\,dx = -2 を使って F(q2)ln(q2/m02)2F(q^2) \simeq \ln(q^2/m_0^2) - 2 となります。

Proposition 3.34 点頂点関数の 1 ループ表式

4 次元ユークリッド ϕ4\phi^4 理論を運動量カットオフ Λ\Lambda で正則化する。4 本の外線運動量をすべて流入向きに取り p1+p2+p3+p4=0p_1+p_2+p_3+p_4 = 0 とし、

s=(p1+p2)2,t=(p1+p3)2,u=(p1+p4)2s = (p_1+p_2)^2,\qquad t = (p_1+p_3)^2,\qquad u = (p_1+p_4)^2

とおく。このとき 4 点 1PI 頂点関数は

Γ(4)(p1,,p4)=λ0λ022[B(s)+B(t)+B(u)]+O(λ03)\Gamma^{(4)}(p_1,\ldots,p_4) = \lambda_0 - \frac{\lambda_0^2}{2}\big[B(s)+B(t)+B(u)\big] + O(\lambda_0^3)

であり、BBExample 3.2 で計算した積分である。

Proof(Proposition 3.3)

O(λ02)O(\lambda_0^2) の 1PI 図は、2 個の頂点を 2 本の内線で結び、各頂点に外線を 2 本ずつ付けたものです。外線 4 本を 2 個ずつに分ける分け方が 3 通りあり、これが ss, tt, uu チャネルに対応します。

係数を数えます。摂動展開の 2 次の項は 12!(λ04!)2\frac{1}{2!}\big(\frac{\lambda_0}{4!}\big)^2 を伴います。ss チャネル(外線 1,21,2 が同じ頂点に付く)の縮約数は、外線 1,21,2 をどちらの頂点に付けるかで 22 通り、その頂点の 4 本の脚から 2 本を選んで割り当てる仕方が 43=124\cdot 3 = 12 通り、もう一方の頂点で外線 3,43,4 を割り当てる仕方が 1212 通り、残った各頂点 2 本ずつの脚を結ぶ仕方が 22 通りで、合計 212122=5762\cdot 12\cdot 12\cdot 2 = 576 通りです。したがって係数は

12!1(4!)2576=5762576=12\frac{1}{2!}\cdot\frac{1}{(4!)^2}\cdot 576 = \frac{576}{2\cdot 576} = \frac{1}{2}

となり、ss チャネルの寄与は λ02B(s)/2\lambda_0^2 B(s)/2 の大きさを持ちます。符号は、eSinte^{-S_{\text{int}}} の展開で頂点が偶数個現れることと、Γ(4)\Gamma^{(4)} が切断された連結 4 点関数の符号を反転したものであることから、木レベルの +λ0+\lambda_0 に対して - になります。tt, uu チャネルも同様なので主張を得ます。

4. くりこみ — 裸のパラメータに発散を吸収する

Section titled “4. くりこみ — 裸のパラメータに発散を吸収する”

Definition 4.1裸のパラメータとくりこまれたパラメータ

正則化された理論において、作用に現れる m0,λ0m_0, \lambda_0 および場の正規化を裸の量と呼ぶ。これに対し、指定した運動量点での頂点関数の値によって定義される量

mR2,λR,ϕR=Zϕ1/2ϕ0m_R^2,\quad \lambda_R,\quad \phi_R = Z_\phi^{-1/2}\phi_0

くりこまれた量と呼び、m0,λ0,Zϕm_0, \lambda_0, Z_\phimR,λRm_R, \lambda_R と正則化パラメータ(Λ\Lambda など)の関数として定める式をくりこみ条件と呼ぶ。くりこまれた量を固定したまま正則化を外す極限(Λ\Lambda \to \infty)が存在し、そこで全ての 1PI 関数が有限になるとき、理論はその次数でくりこまれたという。

くりこみ条件は物理から決まるものではなく、こちらが選ぶ約束(くりこみスキーム)です。ここでは最も見やすい零運動量条件

Γ(2)(p)p2=0=mR2,Γ(2)p2p2=0=1,Γ(4)(0,0,0,0)=λR\Gamma^{(2)}(p)\big|_{p^2=0} = m_R^2,\qquad \frac{\partial\Gamma^{(2)}}{\partial p^2}\Big|_{p^2=0} = 1,\qquad \Gamma^{(4)}(0,0,0,0) = \lambda_R

を採用します。mRm_RλR\lambda_R は「そう測定された量」であり、Λ\Lambda に依存しない有限な数です。

Theorem 4.21 ループでのくりこみ

4 次元ユークリッド ϕ4\phi^4 理論を運動量カットオフ Λ\Lambda で正則化し、ΛmR\Lambda \gg m_R とする。裸のパラメータを

m02(Λ)=mR2λR32π2[Λ2mR2lnΛ2mR2]+O(λR2),λ0(Λ)=λR+3λR232π2[lnΛ2mR21]+O(λR3)\begin{gathered} m_0^2(\Lambda) = m_R^2 - \frac{\lambda_R}{32\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_R^2\ln\frac{\Lambda^2}{m_R^2}\Big] + O(\lambda_R^2),\\ \lambda_0(\Lambda) = \lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{32\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_R^2} - 1\Big] + O(\lambda_R^3) \end{gathered}

と選べば、上の 3 つのくりこみ条件が O(λR2)O(\lambda_R^2) まで満たされ、さらに任意の外線運動量に対して

Γ(2)(p)=p2+mR2+O(λR2),Γ(4)(p1,,p4)=λR+λR232π2[F(s)+F(t)+F(u)]+O(λR3),F(q2)=01dxln(1+x(1x)q2mR2)\begin{gathered} \Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_R^2 + O(\lambda_R^2),\\ \Gamma^{(4)}(p_1,\ldots,p_4) = \lambda_R + \frac{\lambda_R^2}{32\pi^2}\big[F(s)+F(t)+F(u)\big] + O(\lambda_R^3),\\ F(q^2) = \int_0^1 dx\,\ln\Big(1+\frac{x(1-x)q^2}{m_R^2}\Big) \end{gathered}

が成り立つ。右辺は Λ\Lambda を含まず、Λ\Lambda \to \infty で有限な極限を持つ。

Proof(Theorem 4.2)

2 点関数。 Example 3.1 より Γ(2)(p)=p2+m02+λ032π2[Λ2m02ln(Λ2/m02)]+O(λ02)\Gamma^{(2)}(p) = p^2 + m_0^2 + \frac{\lambda_0}{32\pi^2}\big[\Lambda^2 - m_0^2\ln(\Lambda^2/m_0^2)\big] + O(\lambda_0^2) です。p2=0p^2 = 0 とおいて mR2m_R^2 に等しいと要求すると

m02=mR2λ032π2[Λ2m02lnΛ2m02].m_0^2 = m_R^2 - \frac{\lambda_0}{32\pi^2}\Big[\Lambda^2 - m_0^2\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2}\Big].

右辺の補正項はすでに O(λ)O(\lambda) なので、その中の λ0,m0\lambda_0, m_0λR,mR\lambda_R, m_R で置き換えて生じる差は O(λR2)O(\lambda_R^2) であり、主張の精度では無視できます。これで第 1 式を得ます。補正項が pp に依存しないので、Γ(2)(p)Γ(2)(0)=p2\Gamma^{(2)}(p) - \Gamma^{(2)}(0) = p^2 が厳密に成り立ち、条件 Γ(2)/p2=1\partial\Gamma^{(2)}/\partial p^2 = 1 は自動的に満たされます。よって Γ(2)(p)=p2+mR2+O(λR2)\Gamma^{(2)}(p) = p^2+m_R^2 + O(\lambda_R^2) です。

4 点関数。 Proposition 3.3Example 3.2 より、零運動量では B(0)=116π2[ln(Λ2/m02)1]B(0) = \frac{1}{16\pi^2}\big[\ln(\Lambda^2/m_0^2)-1\big] なので

Γ(4)(0)=λ03λ022B(0)=λ03λ0232π2[lnΛ2m021].\Gamma^{(4)}(0) = \lambda_0 - \frac{3\lambda_0^2}{2}B(0) = \lambda_0 - \frac{3\lambda_0^2}{32\pi^2}\Big[\ln\frac{\Lambda^2}{m_0^2}-1\Big].

これを λR\lambda_R に等しいと置いて λ0\lambda_0 について解けば(同じく O(λ2)O(\lambda^2) の項の中では λ0λR\lambda_0 \to \lambda_R, m0mRm_0 \to m_R と置き換えてよい)第 2 式が出ます。

Λ\Lambda 依存性の相殺。 得られた λ0\lambda_0Proposition 3.3 に代入します。

Γ(4)(pi)={λR+3λR22B(0)}λR22[B(s)+B(t)+B(u)]+O(λR3)=λRλR22[(B(s)B(0))+(B(t)B(0))+(B(u)B(0))]+O(λR3).\begin{aligned} \Gamma^{(4)}(p_i) &= \Big\{\lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{2}B(0)\Big\} - \frac{\lambda_R^2}{2}\big[B(s)+B(t)+B(u)\big] + O(\lambda_R^3)\\ &= \lambda_R - \frac{\lambda_R^2}{2}\Big[\big(B(s)-B(0)\big)+\big(B(t)-B(0)\big)+\big(B(u)-B(0)\big)\Big] + O(\lambda_R^3). \end{aligned}

Example 3.2 の表式で ln(Λ2/m02)\ln(\Lambda^2/m_0^2) の項は qq に依らないので差を取ると消え、B(q2)B(0)=F(q2)/(16π2)B(q^2)-B(0) = -F(q^2)/(16\pi^2) が残ります。これを代入すると

Γ(4)(pi)=λR+λR232π2[F(s)+F(t)+F(u)]+O(λR3)\Gamma^{(4)}(p_i) = \lambda_R + \frac{\lambda_R^2}{32\pi^2}\big[F(s)+F(t)+F(u)\big] + O(\lambda_R^3)

となり、Λ\Lambda は完全に消えました。FF は有限なので Λ\Lambda \to \infty の極限が存在します。

この定理の内容を、意味の順に読み直しておきます。

  1. 裸のパラメータは発散する。 Λ\Lambda \to \inftym02m_0^2 \to -\inftyλ0+\lambda_0 \to +\infty です。しかし m0,λ0m_0, \lambda_0 は測定できないので、これは何も困りません。
  2. 測れる量は有限。 Γ(2)\Gamma^{(2)}Γ(4)\Gamma^{(4)}mR,λRm_R, \lambda_R と外線運動量だけで書けます。
  3. 予言が残る。 2 つの測定値(mRm_RλR\lambda_R)を入力すれば、Γ(4)\Gamma^{(4)}運動量依存性は理論が決めます。これは調整の余地がない予言です。FFq2q^2 の増加関数であることから、散乱の実効的な結合は高エネルギーほど強くなると分かります。
flowchart TD
A["裸のラグランジアン: 未測定の m0, lambda0"] --> B["摂動計算: ループ積分が紫外発散"]
B --> C["正則化: カットオフ Lambda を入れる"]
C --> D["Lambda に依存する有限な表式"]
D --> E["くりこみ条件: 測定量 mR, lambdaR を指定"]
E --> F["裸のパラメータを Lambda の関数として解く"]
F --> G["Lambda 無限大の極限で n 点関数が有限"]
G --> H["基準スケールを動かすとどうなるか: くりこみ群へ"]
くりこみの手順。発散した級数を有限の予言に変える流れ

Remark 4.3

質量の補正には Λ2\Lambda^2 という 2 次発散が現れました(Example 3.1)。対数発散と違い、これはカットオフに極端に敏感です。Λ\Lambda を物理的な新現象のスケールと読むなら、スカラー場の質量二乗は「新しい物理のスケールの二乗」に自然に引き上げられるはずだ、ということになります。ヒッグス粒子の質量 125 GeV125\ \mathrm{GeV} がプランクスケール 1019 GeV10^{19}\ \mathrm{GeV} よりはるかに小さい理由を問うのが階層性問題で、その源はまさにこの式です。演習 Exercise 8.2 で数値を確かめてください。フェルミオンの質量はカイラル対称性、ゲージボソンの質量はゲージ対称性(Proposition 3.5[ゲージ理論と自発的対称性の破れ])に守られて対数発散に留まるので、この問題はスカラーに特有です。

5. どの理論が救えるのか — 次元による数え上げ

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Theorem 4.2 では 2 個のパラメータを調整するだけで済みました。これはたまたまではありません。何個のパラメータが必要かは、積分の紫外での振る舞いを数えるだけで分かります。

Definition 5.1表面的発散次数

連結ファインマン図 GG に対し、すべてのループ運動量を一斉に kσkk \to \sigma k とスケールしたとき、被積分関数と測度の積が σ\sigma \to \inftyσD(G)\sigma^{D(G)} のように振る舞う指数 D(G)D(G) を、GG表面的発散次数と呼ぶ。LL 個のループ、II 本の内線を持つスカラー場の図では

D(G)=dL2ID(G) = dL - 2I

である。D0D \ge 0 なら図全体の積分は発散する。

「表面的」と付くのは、D<0D < 0 でも部分図(サブダイアグラム)が発散すれば全体は発散しうるからです。この点は後で Theorem 5.5 として補います。

Proposition 5.2スカラー場の理論の次数勘定

dd 次元時空の 1 成分スカラー場の理論で、相互作用項が igini!ϕni\sum_i \frac{g_i}{n_i!}\phi^{n_i} の形をしているとする。EE 本の外線を持つ 1PI 図 GG が、種類 ii の頂点を ViV_i 個含むとき、その表面的発散次数は

D(G)=dd22EiViδi,δi[gi]=dd22niD(G) = d - \frac{d-2}{2}E - \sum_i V_i\,\delta_i,\qquad \delta_i \equiv [g_i] = d - \frac{d-2}{2}n_i

で与えられる。ここで [gi][g_i] は結合定数 gig_i の質量次元である。

Proof(Proposition 5.2)

記号を揃えます。図 GG の内線数を II、ループ数を LL、頂点の総数を V=iViV = \sum_i V_i とします。

(a) ループ数。 各内線に運動量を割り当てると独立変数は II 個、各頂点で運動量保存が 1 本ずつ課されて VV 個の条件、ただしそのうち 1 本は全体の運動量保存(外線だけで書ける)なので独立な条件は V1V-1 個です。よって

L=IV+1.L = I - V + 1 .

(b) 脚の数え上げ。 頂点の脚は全部で iniVi\sum_i n_i V_i 本あり、その各々は外線になるか、内線の端点になるかのどちらかです。内線は端点を 2 つ持つので

iniVi=E+2II=12(iniViE).\sum_i n_i V_i = E + 2I \quad\Longrightarrow\quad I = \frac{1}{2}\Big(\sum_i n_i V_i - E\Big).

(c) 代入。 Definition 5.1D=dL2ID = dL - 2I に (a) を入れると

D=d(IV+1)2I=(d2)IdV+d.D = d(I-V+1) - 2I = (d-2)I - dV + d .

ここに (b) を代入して

D=d22(iniViE)diVi+d=dd22E+iVi(d22nid)=dd22EiVi(dd22ni).\begin{aligned} D &= \frac{d-2}{2}\Big(\sum_i n_i V_i - E\Big) - d\sum_i V_i + d\\ &= d - \frac{d-2}{2}E + \sum_i V_i\Big(\frac{d-2}{2}n_i - d\Big) = d - \frac{d-2}{2}E - \sum_i V_i\Big(d - \frac{d-2}{2}n_i\Big). \end{aligned}

最後に、相互作用項 giϕnig_i\phi^{n_i} を含む作用が無次元であることから [gi]+ni[ϕ]=d[g_i] + n_i[\phi] = d、すなわち [ϕ]=(d2)/2[\phi] = (d-2)/2 を使って [gi]=dd22ni=δi[g_i] = d - \frac{d-2}{2}n_i = \delta_i です。これで主張の形になりました。

Corollary 5.34 次元 φ⁴ 理論では発散は 2 種類だけ

d=4d = 4ϕ4\phi^4 理論では、EE 本の外線を持つ任意の 1PI 図の表面的発散次数は、ループ数にも頂点数にもよらず

D=4ED = 4 - E

である。したがって表面的に発散するのは E=2E = 2D=2D = 2)と E=4E = 4D=0D = 0)の場合だけであり、EE が奇数の 1PI 関数は ϕϕ\phi \to -\phi 対称性により恒等的に消える。

Proof(Corollary 5.3)

d=4d = 4, n=4n = 4 なので Proposition 5.2δ=44224=44=0\delta = 4 - \frac{4-2}{2}\cdot 4 = 4-4 = 0 です。また d22=1\frac{d-2}{2} = 1 です。これらを代入すると D=4EiVi0=4ED = 4 - E - \sum_i V_i\cdot 0 = 4 - E となります。VV に依存しないことが要点です。奇数の EE については、作用が ϕϕ\phi \to -\phi で不変であり、頂点は常に偶数本の脚を持つので、奇数本の外線を持つ図を作れません。

この系が意味することは重大です。摂動の何次に行っても、Λ\Lambda 依存性が現れる関数は Γ(2)\Gamma^{(2)}Γ(4)\Gamma^{(4)} の 2 つだけです。Γ(2)\Gamma^{(2)} の発散は Λ2\Lambda^2(定数部分)と lnΛ\ln\Lambdap2p^2 の係数)の 2 種類、Γ(4)\Gamma^{(4)} の発散は lnΛ\ln\Lambda(定数部分)の 1 種類で、合計 3 個の量です。これらをそれぞれ m02m_0^2ZϕZ_\phiλ0\lambda_0 という 3 個の裸の量に吸収させれば、全次数で有限化できます。発散の種類が有限個であることが、くりこみ可能性の実質です。

Definition 5.4くりこみ可能性の分類

dd 次元で相互作用 gOg\,\mathcal{O}O\mathcal{O} は場とその微分の積)を持つ理論を、結合定数の質量次元 [g][g] によって次のように分類する。

[g][g]呼び名高次で発散する関数の種類
[g]>0[g] > 0超くりこみ可能有限個の図だけが発散する
[g]=0[g] = 0くりこみ可能(周辺的)有限個の関数が全次数で発散する
[g]<0[g] < 0くりこみ不可能次数を上げるほど発散する関数の種類が増える

分類の根拠は Proposition 5.2 です。D=dd22EiViδiD = d - \frac{d-2}{2}E - \sum_i V_i\delta_i において、δi<0\delta_i < 0 なら ViV_i を増やすほど DD が大きくなるので、外線をいくら増やしても発散する図が作れてしまいます。逆に δi>0\delta_i > 0 なら ViV_i を増やすほど DD が下がり、発散する図は低次の有限個に限られます。

d=4d = 4 での代表例を挙げます(フェルミオンは [ψ]=3/2[\psi] = 3/2、ゲージ場は [Aμ]=1[A_\mu] = 1)。

相互作用結合定数の質量次元分類
ϕ3\phi^3+1+1超くりこみ可能
ϕ4\phi^400くりこみ可能
ϕ6\phi^62-2くりこみ不可能
湯川 gψˉψϕg\,\bar\psi\psi\phi00くりこみ可能
QED eψˉγμψAμe\,\bar\psi\gamma^\mu\psi A_\mu00くりこみ可能
フェルミ GF(ψˉψ)2G_F(\bar\psi\psi)^22-2くりこみ不可能
一般相対論 R/(16πGN)R/(16\pi G_N)2-2くりこみ不可能

標準模型の相互作用がすべて [g]0[g] \ge 0 に収まっているのは、偶然ではなく必然です。この点は §7 で有効場の理論の言葉で説明します。

Theorem 5.5くりこみ可能性定理(BPHZ)

くりこみ可能な理論において、すべての部分図(1PI サブダイアグラム)を含めて表面的発散次数が負であるような図の積分は絶対収束する(ワインバーグの定理)。さらに、各 1PI サブダイアグラムのテイラー展開の発散部分を再帰的に差し引く操作(BPHZ の森公式)によって、全次数の発散が、ラグランジアンにもともと存在する項と同じ形の有限個のカウンター項

Lc.t.=12δZ(ϕ)2+12δmϕ2+δλ4!ϕ4\mathcal{L}_{\text{c.t.}} = \tfrac{1}{2}\delta_Z(\partial\phi)^2 + \tfrac{1}{2}\delta_m\phi^2 + \frac{\delta_\lambda}{4!}\phi^4

で相殺できる。

Remark 5.6

この定理の証明は本記事の範囲を超えます。ワインバーグの収束定理は S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Vol. I の第 12 章に、森公式による全次数の証明は J. Zinn-Justin, Quantum Field Theory and Critical Phenomena の第 10 章に詳しい議論があります。証明の核心は、ループ運動量が異なる速さで無限大に行く「入れ子」や「重なり合った」発散をどう組織的に処理するかにあり、部分図の発散を先に引き算しておけば残りは収束する、という点にあります。

6. くりこみ群 — スケールを動かす

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Theorem 4.2 では零運動量でくりこみ条件を課しました。しかし高エネルギー散乱を扱うときに零運動量を基準にするのは不自然です。基準点を運動量スケール μ\mu に取り替えると、くりこまれた結合 λR\lambda_R の値も変わります。この μ\mu 依存性が、くりこみ群の主題です。

Definition 6.1ベータ関数と異常次元

くりこまれた結合 λR\lambda_R、くりこまれた質量 mRm_R、場のくりこみ定数 ZϕZ_\phiϕ0=Zϕ1/2ϕR\phi_0 = Z_\phi^{1/2}\phi_R)が、裸の量を固定したまま基準スケール μ\mu に依存するとき

β(λR)μλRμ,γ(λR)12μlnZϕμ,γm(λR)μmRmRμ\beta(\lambda_R) \equiv \mu\frac{\partial\lambda_R}{\partial\mu},\qquad \gamma(\lambda_R) \equiv \frac{1}{2}\,\mu\frac{\partial \ln Z_\phi}{\partial\mu},\qquad \gamma_m(\lambda_R) \equiv \frac{\mu}{m_R}\frac{\partial m_R}{\partial\mu}

をそれぞれベータ関数、場の異常次元質量の異常次元と呼ぶ。微分はすべて裸のパラメータと正則化を固定して取る。

Theorem 6.2くりこみ群方程式

くりこみ可能な理論を、質量に依存しないくりこみスキーム(β,γ,γm\beta, \gamma, \gamma_mλR\lambda_R のみの関数となる処方)でくりこむ。裸の nn 点 1PI 関数 Γ0(n)\Gamma^{(n)}_0 とくりこまれた ΓR(n)\Gamma^{(n)}_R

ΓR(n)(pi;λR,mR,μ)=Zϕn/2Γ0(n)(pi;λ0,m0,Λ)\Gamma^{(n)}_R(p_i;\lambda_R,m_R,\mu) = Z_\phi^{\,n/2}\,\Gamma^{(n)}_0(p_i;\lambda_0,m_0,\Lambda)

で関係しているとき、ΓR(n)\Gamma^{(n)}_R は次の偏微分方程式を満たす。

[μμ+β(λR)λR+γm(λR)mRmRnγ(λR)]ΓR(n)(pi;λR,mR,μ)=0.\Big[\mu\frac{\partial}{\partial\mu} + \beta(\lambda_R)\frac{\partial}{\partial\lambda_R} + \gamma_m(\lambda_R)\,m_R\frac{\partial}{\partial m_R} - n\,\gamma(\lambda_R)\Big]\Gamma^{(n)}_R(p_i;\lambda_R,m_R,\mu) = 0 .
Proof(Theorem 6.2)

出発点は、裸の関数が μ\mu を知らないという一言に尽きます。Γ0(n)\Gamma^{(n)}_0 は裸のパラメータ λ0,m0\lambda_0, m_0 と正則化 Λ\Lambda だけで書かれており、μ\mu は我々が後から導入した基準点にすぎません。したがって裸の量と Λ\Lambda を固定して μ\mu で微分すると

μddμΓ0(n)=μddμ[Zϕn/2ΓR(n)]=0.\mu\frac{d}{d\mu}\Gamma^{(n)}_0 = \mu\frac{d}{d\mu}\Big[Z_\phi^{-n/2}\,\Gamma^{(n)}_R\Big] = 0 .

積の微分を実行します。Zϕn/2Z_\phi^{-n/2} の微分は

μddμZϕn/2=n2Zϕn/2μdlnZϕdμ=nγZϕn/2\mu\frac{d}{d\mu}Z_\phi^{-n/2} = -\frac{n}{2}\,Z_\phi^{-n/2}\,\mu\frac{d\ln Z_\phi}{d\mu} = -n\gamma\,Z_\phi^{-n/2}

です(Definition 6.1γ\gamma の定義を使いました)。一方 ΓR(n)\Gamma^{(n)}_Rμ\mu に陽に依存するほか、λR(μ)\lambda_R(\mu)mR(μ)m_R(\mu) を通じても依存するので、連鎖律により

μdΓR(n)dμ=[μμ+βλR+γmmRmR]ΓR(n)\mu\frac{d\Gamma^{(n)}_R}{d\mu} = \Big[\mu\frac{\partial}{\partial\mu} + \beta\frac{\partial}{\partial\lambda_R} + \gamma_m m_R\frac{\partial}{\partial m_R}\Big]\Gamma^{(n)}_R

となります。二つを足して Zϕn/2Z_\phi^{-n/2}00 ではない)で割れば主張の式を得ます。

くりこみ群方程式は「同じ物理を違う基準点で記述したとき、記述が互いに整合するための条件」です。方程式自体は何も新しい物理を含みませんが、μ\mu を実際の運動量スケールに合わせて選び直すことで、単純な摂動論では大きな対数 ln(p/μ)\ln(p/\mu) が現れて破綻する領域を、系統的に扱えるようになります。

Proposition 6.34 次元 φ⁴ 理論の 1 ループのベータ関数

4 次元 ϕ4\phi^4 理論のベータ関数は

β(λ)=3λ216π2+O(λ3)\beta(\lambda) = \frac{3\lambda^2}{16\pi^2} + O(\lambda^3)

である。λ>0\lambda > 0 では β>0\beta > 0 なので、結合はスケールを上げるほど強くなる。これを積分すると、基準点 μ0\mu_0 での値 λ(μ0)\lambda(\mu_0) に対して

λ(μ)=λ(μ0)13λ(μ0)16π2lnμμ0\lambda(\mu) = \frac{\lambda(\mu_0)}{\,1 - \dfrac{3\lambda(\mu_0)}{16\pi^2}\ln\dfrac{\mu}{\mu_0}\,}

となり、μL=μ0exp ⁣[16π2/(3λ(μ0))]\mu_L = \mu_0\exp\!\big[16\pi^2/(3\lambda(\mu_0))\big] で発散する(ランダウ極)。

Proof(Proposition 6.3)

ベータ関数。 Theorem 4.2 で得た散乱振幅を使うのが最も物理的です。すべての運動量不変量が q2mR2q^2 \gg m_R^2 の領域では、Example 3.2 の末尾で示したように F(q2)ln(q2/mR2)2F(q^2) \simeq \ln(q^2/m_R^2) - 2 なので

Γ(4)λR+3λR232π2[lnq2mR22]=λR+3λR216π2lnqmR+constλR2.\Gamma^{(4)} \simeq \lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{32\pi^2}\Big[\ln\frac{q^2}{m_R^2} - 2\Big] = \lambda_R + \frac{3\lambda_R^2}{16\pi^2}\ln\frac{q}{m_R} + \text{const}\cdot\lambda_R^2 .

この Γ(4)\Gamma^{(4)} そのものを、スケール qq で定義した実効結合 λ(q)\lambda(q) と読みます。すると

β=dλ(q)dlnq=3λR216π2=3λ216π2+O(λ3)\beta = \frac{d\lambda(q)}{d\ln q} = \frac{3\lambda_R^2}{16\pi^2} = \frac{3\lambda^2}{16\pi^2} + O(\lambda^3)

です(最後に λR=λ+O(λ2)\lambda_R = \lambda + O(\lambda^2) を使いました。差は O(λ3)O(\lambda^3))。同じ結果は形式的にも出ます。基準点をスケール μ\mu に取ると λR(μ)=λ03λ0232π2[ln(Λ2/μ2)+c]\lambda_R(\mu) = \lambda_0 - \frac{3\lambda_0^2}{32\pi^2}\big[\ln(\Lambda^2/\mu^2) + c\big]cc は処方に依る定数)なので、λ0,Λ\lambda_0,\Lambda を固定して μμ\mu\partial_\mu を作用させると、μ\mu を含むのは lnμ2-\ln\mu^2 の項だけで、μμ(lnμ2)=2\mu\partial_\mu(-\ln\mu^2) = -2 より

β=3λ0232π2(2)=3λ0216π2\beta = -\frac{3\lambda_0^2}{32\pi^2}\cdot(-2) = \frac{3\lambda_0^2}{16\pi^2}

を得ます。

積分。 dλ/dlnμ=3λ2/(16π2)d\lambda/d\ln\mu = 3\lambda^2/(16\pi^2) を変数分離して μ0\mu_0 から μ\mu まで積分すると

1λ(μ)+1λ(μ0)=316π2lnμμ01λ(μ)=1λ(μ0)316π2lnμμ0-\frac{1}{\lambda(\mu)} + \frac{1}{\lambda(\mu_0)} = \frac{3}{16\pi^2}\ln\frac{\mu}{\mu_0} \quad\Longleftrightarrow\quad \frac{1}{\lambda(\mu)} = \frac{1}{\lambda(\mu_0)} - \frac{3}{16\pi^2}\ln\frac{\mu}{\mu_0}

です。これを λ(μ)\lambda(\mu) について解けば主張の式になり、分母が 00 になる点が μL\mu_L です。

Remark 6.4

β\beta の値はくりこみスキームに依存します。λλ=λ+aλ2+\lambda \to \lambda' = \lambda + a\lambda^2 + \cdots という有限な取り替えを行うと β\beta も変わるからです。しかし摂動展開 β=b1λ2+b2λ3+\beta = b_1\lambda^2 + b_2\lambda^3 + \cdots最初の 2 つの係数 b1,b2b_1, b_2 は処方に依りません(結合が 1 個の場合)。上で計算した b1=3/(16π2)b_1 = 3/(16\pi^2) は、したがって物理的に意味のある数です。Proposition 6.3 の証明で、物理的な散乱振幅から読んだ値と形式的な μ\mu 微分から読んだ値が一致したのはこのためです。

ランダウ極の位置を数値で見ておきます。λ(μ0)=1\lambda(\mu_0) = 1 なら 16π2/352.616\pi^2/3 \approx 52.6 なので μL/μ0=e52.67×1022\mu_L/\mu_0 = e^{52.6} \approx 7\times 10^{22} です。摂動論で扱える範囲をはるかに超えた高エネルギーなので、この極が本当に存在するかを摂動論だけでは判定できません。格子上の数値計算は、4 次元の ϕ4\phi^4 理論が連続極限で自由場になる(トリビアリティ)ことを強く示唆しています。ヒッグス場は ϕ4\phi^4 型の自己相互作用を持つので、標準模型もまた、それ自身では任意に高いエネルギーまで通用する理論ではないと考えられています。

Example 6.5走る結合定数:QED と QCD

QED。 電子 1 種類のとき、ベータ関数は β(e)=e3/(12π2)\beta(e) = e^3/(12\pi^2) です。微細構造定数 α=e2/4π\alpha = e^2/4\pi で書き直すと dα/dlnμ=2α2/(3π)d\alpha/d\ln\mu = 2\alpha^2/(3\pi) となり、ϕ4\phi^4 と同じく正の符号です。実際、電子の電荷は短距離ほど大きく見えます(真空偏極による遮蔽が弱くなるため)。数値でも確かめられていて、トムソン極限(μ0\mu \to 0)では α1=137.036\alpha^{-1} = 137.036ZZ ボソン質量スケール μ=91.2 GeV\mu = 91.2\ \mathrm{GeV} では α1129\alpha^{-1} \approx 129 です。これは「結合定数」が定数でないことの実験的証拠です。

QCD。 非可換ゲージ理論では、グルーオン自身が色荷を持つために符号が逆転します。nfn_f 種類のクォークがあるとき

β(g)=g316π2(1123nf)\beta(g) = -\frac{g^3}{16\pi^2}\Big(11 - \frac{2}{3}n_f\Big)

で、nf16n_f \le 16 なら括弧内が正、すなわち β<0\beta < 0 です。積分すると

αs(μ)=2π(1123nf)ln(μ/ΛQCD)\alpha_s(\mu) = \frac{2\pi}{\big(11-\frac{2}{3}n_f\big)\ln(\mu/\Lambda_{\text{QCD}})}

となり、高エネルギーで結合が対数的に 00 に近づきます(漸近的自由性、Gross–Wilczek と Politzer、1973 年)。積分定数を ΛQCD200300 MeV\Lambda_{\text{QCD}} \approx 200\text{–}300\ \mathrm{MeV} という次元を持つ量として書き直した点に注意してください。もとのラグランジアンには質量スケールがないのに、くりこみが物理的なスケールを生み出しています(次元転換)。実測では αs(mZ)0.118\alpha_s(m_Z) \approx 0.118αs(1 GeV)0.5\alpha_s(1\ \mathrm{GeV}) \approx 0.5 で、低エネルギーでは摂動論が使えません。これがクォークの閉じ込めと整合します。

7. ウィルソン的描像と有効場の理論

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ここまでは「発散を消す技術」としてくりこみを見てきました。ウィルソンは 1970 年代初頭に、これを理論そのものの定義に読み替えました。

出発点は、カットオフ Λ\Lambda を物理的な意味を持つ量と見ることです。k<Λ|k| < \Lambda のモードだけを持つ場の理論から始め、殻 Λ/b<k<Λ\Lambda/b < |k| < \Lambdab>1b > 1)のモードだけを経路積分で積み去ります。すると残った低運動量モードに対する新しい作用 SΛ/bS_{\Lambda/b} が得られます。次に運動量を k=bkk' = bk と測り直してカットオフを Λ\Lambda に戻し、場を規格化し直すと、元と同じ形式の作用が得られます。この 2 段階を繰り返す操作がウィルソンのくりこみ群で、結合定数の空間における流れ(フロー)を定義します。

この見方では、次のように整理できます。

Definition 7.1演算子の分類

dd 次元の固定点近傍で、作用に加えた演算子 Oi\mathcal{O}_i の結合を無次元化した量 g^i=giμδi\hat g_i = g_i\mu^{-\delta_i}δi=[gi]\delta_i = [g_i])とする。低エネルギー(IR)へ流したとき

  • δi>0\delta_i > 0g^i\hat g_i が増大する。Oi\mathcal{O}_i を**関連演算子(relevant)**という。
  • δi=0\delta_i = 0:1 ループ以上の効果で緩やかに流れる。**周辺演算子(marginal)**という。
  • δi<0\delta_i < 0g^i\hat g_i が減衰する。**無関連演算子(irrelevant)**という。

g^i=giμδi\hat g_i = g_i \mu^{-\delta_i}μ\mu で微分すれば μdg^i/dμ=δig^i+(ループ補正)\mu\,d\hat g_i/d\mu = -\delta_i\hat g_i + (\text{ループ補正}) なので、μ\mu を下げる(IR に向かう)と δi>0\delta_i > 0 の結合が伸び、δi<0\delta_i < 0 の結合が縮むことがすぐ分かります。

この分類は Definition 5.4 と同じものです。ただし読み方が正反対になります。古い読み方は「くりこみ不可能な理論は捨てるべきだ」でした。ウィルソン的な読み方は「無関連演算子は低エネルギーで自動的に消えるので、低エネルギーの有効理論は必ずくりこみ可能な形をしている」です。標準模型の相互作用がすべて [g]0[g] \ge 0 に収まっているのは、自然が上品だからではなく、我々が低エネルギーでしか実験していないからだ、というのがこの立場の主張です。

Example 7.2フェルミ理論:くりこみ不可能な理論が働く仕組み

ベータ崩壊のフェルミ理論は 4 フェルミ相互作用 GF2(ψˉΓψ)(ψˉΓψ)\frac{G_F}{\sqrt{2}}(\bar\psi\Gamma\psi)(\bar\psi\Gamma\psi) で記述され、[GF]=4432=2[G_F] = 4 - 4\cdot\frac{3}{2} = -2、実測値は GF=1.166×105 GeV2G_F = 1.166\times 10^{-5}\ \mathrm{GeV}^{-2} です。Definition 5.4 の分類ではくりこみ不可能ですが、この理論は 20 世紀の弱い相互作用の現象論を極めて高い精度で記述しました。

理由は明快です。無次元の展開パラメータは GFE2G_F E^2 であり、ミューオン崩壊のスケール Emμ=0.106 GeVE \sim m_\mu = 0.106\ \mathrm{GeV} では

GFmμ21.166×105×(0.106)21.3×107G_F m_\mu^2 \approx 1.166\times 10^{-5} \times (0.106)^2 \approx 1.3\times 10^{-7}

という極小の量です。高次項が効かないので、最低次だけで十分な精度が出ます。一方で断面積は σGF2s\sigma \sim G_F^2 s と増大するので、sGF1/2300 GeV\sqrt{s}\sim G_F^{-1/2}\approx 300\ \mathrm{GeV} 付近でユニタリティ限界を破ります。理論自身が自分の適用限界を教えているわけです。

実際の破れは予想より早く、MW=80.4 GeVM_W = 80.4\ \mathrm{GeV}WW ボソンが姿を現しました(この質量の由来は Theorem 6.1[ゲージ理論と自発的対称性の破れ] です)。関係は GF2=g28MW2\frac{G_F}{\sqrt{2}} = \frac{g^2}{8M_W^2} で、WW 伝播関数 1/(q2MW2)1/(q^2-M_W^2)q2MW2q^2 \ll M_W^2 で展開したときの最低次がフェルミ相互作用に一致します。次の項は q2/MW2q^2/M_W^2 の補正で、これがまさに「無関連演算子」です。

固定点の役割も、この描像から明らかになります。β(λ)=0\beta(\lambda^*) = 0 となる点ではフローが止まり、理論はスケール変換で形を変えません。そこでは相関関数がべき則に従います。

Theorem 7.3固定点でのスケーリングと異常次元

質量項が 00 に調整された(臨界の)くりこみ可能理論を dd 次元で考え、Γ(n)(pi;λ,μ)\Gamma^{(n)}(p_i;\lambda,\mu) は運動量、μ\mu、無次元結合 λ\lambda のみの関数で、質量次元 Dn=dnd22D_n = d - n\frac{d-2}{2} を持つとする。β(λ)=0\beta(\lambda^*) = 0γ(λ)=γ\gamma(\lambda^*) = \gamma^* とすると、λ=λ\lambda = \lambda^* において任意の t>0t > 0 に対し

Γ(n)(tp1,,tpn;λ,μ)=tdnΔϕΓ(n)(p1,,pn;λ,μ),Δϕ=d22+γ\Gamma^{(n)}(tp_1,\ldots,tp_n;\lambda^*,\mu) = t^{\,d - n\Delta_\phi}\,\Gamma^{(n)}(p_1,\ldots,p_n;\lambda^*,\mu), \qquad \Delta_\phi = \frac{d-2}{2} + \gamma^*

が成り立つ。すなわち場は自由場の次元 (d2)/2(d-2)/2 からずれた異常次元 γ\gamma^* を獲得する。

Proof(Theorem 7.3)

Γ(n)\Gamma^{(n)} が質量次元 DnD_n を持ち、引数が ppμ\mu(および無次元の λ\lambda)だけであることから、次元解析により

Γ(n)(tpi;λ,μ)=tDnΓ(n)(pi;λ,μ/t)\Gamma^{(n)}(tp_i;\lambda,\mu) = t^{D_n}\,\Gamma^{(n)}\big(p_i;\lambda,\mu/t\big)

が成り立ちます。両辺のすべての質量次元を tt で測り直しただけです。F(t)F(t) を左辺と定め、ν=μ/t\nu = \mu/t とおいて td/dtt\,d/dt を作用させます。右辺の tt 依存性は前因子 tDnt^{D_n}ν=μ/t\nu = \mu/t の両方から来て、tdνdtν=ννt\,\frac{d\nu}{dt}\frac{\partial}{\partial\nu} = -\nu\frac{\partial}{\partial\nu} なので

tdFdt=tDn[Dnνν]Γ(n)(pi;λ,ν).t\frac{dF}{dt} = t^{D_n}\Big[D_n - \nu\frac{\partial}{\partial\nu}\Big]\Gamma^{(n)}(p_i;\lambda,\nu).

ここで Theorem 6.2 を質量が 00 の場合に使います。γm\gamma_m の項が落ちるので

ννΓ(n)=[β(λ)λ+nγ(λ)]Γ(n)\nu\frac{\partial}{\partial\nu}\Gamma^{(n)} = \Big[-\beta(\lambda)\frac{\partial}{\partial\lambda} + n\gamma(\lambda)\Big]\Gamma^{(n)}

です。これを代入すると

tdFdt=tDn[Dn+β(λ)λnγ(λ)]Γ(n)(pi;λ,ν).t\frac{dF}{dt} = t^{D_n}\Big[D_n + \beta(\lambda)\frac{\partial}{\partial\lambda} - n\gamma(\lambda)\Big]\Gamma^{(n)}(p_i;\lambda,\nu).

λ=λ\lambda = \lambda^* では仮定より β(λ)=0\beta(\lambda^*) = 0 なので /λ\partial/\partial\lambda の項が消え、γ(λ)=γ\gamma(\lambda^*) = \gamma^* は定数なので

tdFdt=(Dnnγ)F(t)t\frac{dF}{dt} = (D_n - n\gamma^*)\,F(t)

という常微分方程式になります。F(t)=tDnnγF(1)F(t) = t^{D_n - n\gamma^*}F(1) が解で、F(1)=Γ(n)(pi;λ,μ)F(1) = \Gamma^{(n)}(p_i;\lambda^*,\mu) です。最後に

Dnnγ=dnd22nγ=dn(d22+γ)=dnΔϕD_n - n\gamma^* = d - n\frac{d-2}{2} - n\gamma^* = d - n\Big(\frac{d-2}{2}+\gamma^*\Big) = d - n\Delta_\phi

と書き直せば主張を得ます。

Example 7.4ウィルソン–フィッシャー固定点と臨界指数

d=4εd = 4-\varepsilon 次元では [λ]=4d=ε[\lambda] = 4-d = \varepsilon なので、無次元結合 λ^=λμε\hat\lambda = \lambda\mu^{-\varepsilon} のベータ関数は、次元から来る項と Proposition 6.3 のループ項の和になります。

β(λ^)=ελ^+3λ^216π2.\beta(\hat\lambda) = -\varepsilon\hat\lambda + \frac{3\hat\lambda^2}{16\pi^2}.

β=0\beta = 0 の解は λ^=0\hat\lambda = 0(ガウス固定点)と

λ^=16π23ε\hat\lambda^* = \frac{16\pi^2}{3}\varepsilon

の 2 つです。後者がウィルソン–フィッシャー固定点で、ε\varepsilon が小さければ結合も小さく、摂動論が使えます。この固定点は 3 次元イジング模型の臨界点を記述し、ε\varepsilon の 1 次で相関長の指数 ν=12+ε12\nu = \frac{1}{2}+\frac{\varepsilon}{12}、場の異常次元は γ=O(ε2)\gamma^* = O(\varepsilon^2) となります。ε=1\varepsilon = 1(3 次元)を代入すると ν0.58\nu \approx 0.58 で、モンテカルロ法や共形ブートストラップによる値 ν=0.6300\nu = 0.6300 とおおむね合致します。物性物理の臨界現象と素粒子論のくりこみが同じ方程式で記述されることを示した点が、ウィルソンの仕事の核心でした。

d = 4 : ベータ関数は正、固定点は原点のみd = 4 − ε : 非自明な固定点が現れるλλ0(IR で安定)UV で増大 → ランダウ極0(IR で不安定)λ*(ウィルソン–フィッシャー固定点)
結合定数空間のくりこみ群フロー。矢印は低エネルギー(IR)方向への流れを表す

自発的対称性の破れとゲージ理論のくりこみについては ゲージ理論と自発的対称性の破れ を、場の量子論がそもそもなぜ必要かという問いについては なぜ場の量子論が必要か を参照してください。ここで使った摂動展開の構造そのものは、量子力学の 摂動論Theorem 3.1[摂動論])と スカラー場の正準量子化Definition 3.1[スカラー場の正準量子化])の延長線上にあります。

Exercise 8.1

dd 次元時空のスカラー場理論で相互作用 gϕng\phi^n を考えます。

(a) gg の質量次元を求めてください。

(b) d=3d = 3ϕ6\phi^6 理論と d=6d = 6ϕ3\phi^3 理論が、いずれも周辺的([g]=0[g] = 0)であることを示してください。

(c) 4 次元での湯川結合 gψˉψϕg\bar\psi\psi\phi とフェルミ結合 G(ψˉψ)2G(\bar\psi\psi)^2 の質量次元を求め、Definition 5.4 に従って分類してください。

Solution

(a) 作用 ddxgϕn\int d^dx\, g\phi^n が無次元であることから d+[g]+n[ϕ]=0-d + [g] + n[\phi] = 0[ϕ]=(d2)/2[\phi] = (d-2)/2 なので

[g]=dnd22.[g] = d - n\frac{d-2}{2}.

これは Proposition 5.2δi\delta_i そのものです。

(b) d=3d = 3, n=6n = 6 のとき [ϕ]=1/2[\phi] = 1/2 なので [g]=3612=0[g] = 3 - 6\cdot\frac{1}{2} = 0d=6d = 6, n=3n = 3 のとき [ϕ]=2[\phi] = 2 なので [g]=632=0[g] = 6 - 3\cdot 2 = 0。どちらも周辺的です。

(c) 4 次元でのフェルミオン場の次元は、運動項 ψˉγμμψ\bar\psi\gamma^\mu\partial_\mu\psi の次元が 44 であることから 2[ψ]+1=42[\psi] + 1 = 4、すなわち [ψ]=3/2[\psi] = 3/2 です。よって

[g]=42321=0,[G]=4432=2.[g] = 4 - 2\cdot\frac{3}{2} - 1 = 0,\qquad [G] = 4 - 4\cdot\frac{3}{2} = -2 .

湯川結合はくりこみ可能(周辺的)、フェルミ結合はくりこみ不可能(無関連)です。後者が低エネルギーで有用である理由は Example 7.2 のとおりです。

Exercise 8.2標準

Example 3.1 の結果を使い、Λ\Lambda をプランクスケール Λ=1.2×1019 GeV\Lambda = 1.2\times 10^{19}\ \mathrm{GeV}、結合を λR=1\lambda_R = 1 として、Λ2\Lambda^2 に比例する補正項の大きさを評価してください。そのうえで、くりこまれた質量が mR=125 GeVm_R = 125\ \mathrm{GeV} になるためには、m02m_0^2 と補正項がどれほどの精度で相殺しなければならないか、有効数字の桁数で述べてください。

Solution

補正項の大きさは Example 3.1 より λR32π2Λ2\dfrac{\lambda_R}{32\pi^2}\Lambda^2 です。32π2=32×9.8696315.832\pi^2 = 32\times 9.8696 \approx 315.8 なので

1315.8×(1.2×1019)2 GeV2=1.44×1038315.8 GeV24.6×1035 GeV2.\frac{1}{315.8}\times(1.2\times 10^{19})^2\ \mathrm{GeV}^2 = \frac{1.44\times 10^{38}}{315.8}\ \mathrm{GeV}^2 \approx 4.6\times 10^{35}\ \mathrm{GeV}^2 .

一方 mR2=(125)2=1.56×104 GeV2m_R^2 = (125)^2 = 1.56\times 10^4\ \mathrm{GeV}^2 です。比は

1.56×1044.6×10353.4×1032\frac{1.56\times 10^4}{4.6\times 10^{35}} \approx 3.4\times 10^{-32}

なので、m02m_0^2 と補正項は約 32 桁の精度で相殺しなければなりません。裸のパラメータの選び方を 32 桁目でわずかに変えるだけでヒッグス質量がプランクスケールに飛んでしまう、という意味です。

この計算は「くりこみが破綻している」ことを示すのではありません。Theorem 4.2 の意味でくりこみは完全に機能しており、mRm_R を入力として与えれば予言はすべて有限です。問題は mRΛm_R \ll \Lambda という入力値の小ささを説明する原理がないことで、これを自然さの問題と呼びます(Remark 4.3)。なお次元正則化では Λ2\Lambda^2 に相当する項が現れないので(Appendix 参照)、この問題は処方を変えれば見えなくなります。それでも問題が残るのは、Λ\Lambda を単なる計算道具ではなく実在の新物理スケール(たとえば大統一スケール)と読むときです。

Exercise 8.3標準

(a) Proposition 6.3 のランダウ極の位置を、λ(μ0)=0.1\lambda(\mu_0) = 0.1 の場合について評価してください。

(b) QCD のベータ関数 β(g)=g316π2b0\beta(g) = -\dfrac{g^3}{16\pi^2}b_0b0=1123nfb_0 = 11-\frac{2}{3}n_fαs=g2/4π\alpha_s = g^2/4\pi について書き直し、積分して Example 6.5 の表式を導いてください。

Solution

(a) ln(μL/μ0)=16π23λ(μ0)=157.90.3526\ln(\mu_L/\mu_0) = \dfrac{16\pi^2}{3\lambda(\mu_0)} = \dfrac{157.9}{0.3} \approx 526。よって μL/μ0=e52610228\mu_L/\mu_0 = e^{526} \approx 10^{228} です。結合が小さいほどランダウ極は指数関数的に遠のきます。摂動論の破綻は、実用上は無限に遠い先の話になります。

(b) αs=g2/4π\alpha_s = g^2/4\pi の両辺を lnμ\ln\mu で微分すると

dαsdlnμ=2g4πdgdlnμ=2g4π(b0g316π2)=b0g432π3.\frac{d\alpha_s}{d\ln\mu} = \frac{2g}{4\pi}\frac{dg}{d\ln\mu} = \frac{2g}{4\pi}\cdot\Big(-\frac{b_0 g^3}{16\pi^2}\Big) = -\frac{b_0 g^4}{32\pi^3}.

g2=4παsg^2 = 4\pi\alpha_s より g4=16π2αs2g^4 = 16\pi^2\alpha_s^2 なので

dαsdlnμ=b016π2αs232π3=b02παs2.\frac{d\alpha_s}{d\ln\mu} = -\frac{b_0\cdot 16\pi^2\alpha_s^2}{32\pi^3} = -\frac{b_0}{2\pi}\alpha_s^2 .

変数分離して積分すると 1αs(μ)=1αs(μ0)+b02πlnμμ0\dfrac{1}{\alpha_s(\mu)} = \dfrac{1}{\alpha_s(\mu_0)} + \dfrac{b_0}{2\pi}\ln\dfrac{\mu}{\mu_0} です。ここで積分定数を ΛQCD\Lambda_{\text{QCD}} で書き直します。1αs(μ0)=b02πlnμ0ΛQCD\dfrac{1}{\alpha_s(\mu_0)} = \dfrac{b_0}{2\pi}\ln\dfrac{\mu_0}{\Lambda_{\text{QCD}}} となるように ΛQCD\Lambda_{\text{QCD}} を定義すれば

1αs(μ)=b02πlnμΛQCDαs(μ)=2πb0ln(μ/ΛQCD)\frac{1}{\alpha_s(\mu)} = \frac{b_0}{2\pi}\ln\frac{\mu}{\Lambda_{\text{QCD}}} \quad\Longleftrightarrow\quad \alpha_s(\mu) = \frac{2\pi}{b_0\ln(\mu/\Lambda_{\text{QCD}})}

が得られます。b0>0b_0 > 0 なので μ\mu \to \inftyαs0\alpha_s \to 0(漸近的自由性)、μΛQCD\mu \to \Lambda_{\text{QCD}} で発散します。

Exercise 8.4

d=4εd = 4-\varepsilon 次元の ϕ4\phi^4 理論を考えます。

(a) 無次元結合 λ^=λμε\hat\lambda = \lambda\mu^{-\varepsilon} のベータ関数が β(λ^)=ελ^+3λ^216π2\beta(\hat\lambda) = -\varepsilon\hat\lambda + \dfrac{3\hat\lambda^2}{16\pi^2} となる理由を、次元解析と Proposition 6.3 から説明してください。

(b) 2 つの固定点を求め、それぞれの近傍で β\beta を線形化して、固定点からのずれ δλ^\delta\hat\lambdaμ\mu とともにどう振る舞うかを求めてください。どちらが IR で安定でしょうか。

Solution

(a) [λ]=4d=ε[\lambda] = 4 - d = \varepsilon なので λ^=λμε\hat\lambda = \lambda\mu^{-\varepsilon} は無次元です。裸の λ\lambda を固定したまま μ\mu で微分すると、明示的な με\mu^{-\varepsilon} から

μλ^μtree=ελμε=ελ^\mu\frac{\partial\hat\lambda}{\partial\mu}\bigg|_{\text{tree}} = -\varepsilon\,\lambda\mu^{-\varepsilon} = -\varepsilon\hat\lambda

という古典的な項が出ます。これは相互作用が d<4d < 4 で関連演算子であることの表れです。ループからの寄与は Proposition 6.3 で計算した 3λ^2/(16π2)3\hat\lambda^2/(16\pi^2) で、ε\varepsilon の 1 次までは 4 次元の係数をそのまま使えます(係数の ε\varepsilon 依存性は O(λ^2ε)O(\hat\lambda^2\varepsilon) の高次補正)。両者を足して主張の式になります。

(b) β(λ^)=λ^(ε+3λ^16π2)=0\beta(\hat\lambda) = \hat\lambda\Big(-\varepsilon + \dfrac{3\hat\lambda}{16\pi^2}\Big) = 0 より

λ^=0(ガウス固定点),λ^=16π2ε3(ウィルソン–フィッシャー固定点).\hat\lambda = 0 \quad\text{(ガウス固定点)},\qquad \hat\lambda^* = \frac{16\pi^2\varepsilon}{3}\quad\text{(ウィルソン–フィッシャー固定点)} .

微分は β(λ^)=ε+6λ^16π2\beta'(\hat\lambda) = -\varepsilon + \dfrac{6\hat\lambda}{16\pi^2} なので

β(0)=ε,β(λ^)=ε+616π216π2ε3=ε+2ε=+ε.\beta'(0) = -\varepsilon,\qquad \beta'(\hat\lambda^*) = -\varepsilon + \frac{6}{16\pi^2}\cdot\frac{16\pi^2\varepsilon}{3} = -\varepsilon + 2\varepsilon = +\varepsilon .

固定点近傍では μd(δλ^)/dμ=β(λ^)δλ^\mu\,d(\delta\hat\lambda)/d\mu = \beta'(\hat\lambda^*)\,\delta\hat\lambda なので δλ^(μ)=δλ^(μ0)(μ/μ0)β\delta\hat\lambda(\mu) = \delta\hat\lambda(\mu_0)\big(\mu/\mu_0\big)^{\beta'} です。

  • ガウス固定点:β=ε<0\beta' = -\varepsilon < 0 なので μ0\mu \to 0(IR)で δλ^\delta\hat\lambda は増大します。IR で不安定です。
  • ウィルソン–フィッシャー固定点:β=+ε>0\beta' = +\varepsilon > 0 なので μ0\mu \to 0δλ^0\delta\hat\lambda \to 0IR で安定です。

したがって d<4d < 4 では、臨界点に調整された系の長距離の振る舞いは、初期条件によらずウィルソン–フィッシャー固定点で決まります。これが臨界現象の普遍性の起源です。なお β(λ^)=ε\beta'(\hat\lambda^*) = \varepsilon は補正指数 ω\omega と呼ばれ、臨界点への近づき方の補正を支配します。d=4d = 4ε=0\varepsilon = 0)では 2 つの固定点が合流し、Proposition 6.3 の対数的な流れだけが残ります。

教科書。 M. E. Peskin and D. V. Schroeder, An Introduction to Quantum Field Theory, Addison-Wesley, 1995 — 第 10 章(系統的なくりこみ)と第 12 章(くりこみ群)。本記事の ϕ4\phi^4 の 1 ループ計算とベータ関数は、この 2 章の内容をユークリッド形式で書き直したものです。

S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Vol. I: Foundations, Cambridge University Press, 1995 — 第 11 章・第 12 章。ワインバーグの収束定理とくりこみ可能性の一般論。

J. Zinn-Justin, Quantum Field Theory and Critical Phenomena, Oxford University Press — 第 8 章から第 10 章。BPHZ の森公式による全次数の証明と、臨界現象との関係。

M. Srednicki, Quantum Field Theory, Cambridge University Press, 2007 — 第 I 部後半。ϕ3\phi^3 理論を舞台にした、計算が最後まで追える入門。

九後汰一郎『ゲージ場の量子論 I・II』培風館、1989 — くりこみとくりこみ群の章。ゲージ理論のくりこみを日本語で扱った標準的な文献です。

原論文。 K. G. Wilson and J. Kogut, “The renormalization group and the ε\varepsilon expansion”, Physics Reports 12 (1974), 75–199 — ウィルソン的くりこみ群と ε\varepsilon 展開の総説。

D. J. Gross and F. Wilczek, “Ultraviolet Behavior of Non-Abelian Gauge Theories”, Physical Review Letters 30 (1973), 1343; H. D. Politzer, “Reliable Perturbative Results for Strong Interactions?”, Physical Review Letters 30 (1973), 1346 — 漸近的自由性の発見。

データ。 結合定数の実測値(α(mZ)\alpha(m_Z)αs(mZ)\alpha_s(m_Z)GFG_FMWM_W)は Particle Data Group の Review of Particle Physics によります。

なぜ別の正則化が要るのか。 本文では運動量カットオフを使いました。直観的で、ウィルソン的な描像とも相性がよい方法です。しかし欠点があります。k<Λ|k| < \Lambda という条件はローレンツ不変ではなく、ゲージ変換とも両立しません。実際、QED にカットオフを入れると光子が質量を持つような発散項が現れ、対称性の回復に余分な手間がかかります。‘t Hooft と Veltman が 1972 年に導入した次元正則化は、時空の次元 dd を複素数に解析接続して積分を有限にする方法で、ローレンツ不変性とゲージ不変性を保ったまま正則化できます。

基本公式。 ユークリッド空間で

dd(2π)d1(2+Δ)n=1(4π)d/2Γ ⁣(nd2)Γ(n)Δd2n\int\frac{d^d\ell}{(2\pi)^d}\frac{1}{(\ell^2+\Delta)^n} = \frac{1}{(4\pi)^{d/2}}\frac{\Gamma\!\big(n-\frac{d}{2}\big)}{\Gamma(n)}\,\Delta^{\frac{d}{2}-n}

が成り立ちます。n=2n = 2d=4εd = 4-\varepsilon とすると Γ(ε/2)=2/εγE+O(ε)\Gamma(\varepsilon/2) = 2/\varepsilon - \gamma_E + O(\varepsilon)γE\gamma_E はオイラー定数)を使って

dd(2π)d1(2+Δ)2=116π2[2εγE+ln4πlnΔ]+O(ε)\int\frac{d^d\ell}{(2\pi)^d}\frac{1}{(\ell^2+\Delta)^2} = \frac{1}{16\pi^2}\Big[\frac{2}{\varepsilon} - \gamma_E + \ln 4\pi - \ln\Delta\Big] + O(\varepsilon)

となります。本文の Example 3.2 でカットオフが lnΛ2\ln\Lambda^2 という形で現れた場所に、ここでは 2/ε2/\varepsilon という極が現れています。対応は lnΛ22/ε\ln\Lambda^2 \leftrightarrow 2/\varepsilon で、Δ\Delta 依存性(つまり物理的な運動量依存性)はどちらでも同一です。γE+ln4π-\gamma_E+\ln4\pi を極と一緒に差し引く処方を MS\overline{\text{MS}} スキームと呼びます。

べき発散が見えないこと。 n=1n = 1 の場合は Γ(1d/2)\Gamma(1-d/2) で、d=4εd = 4-\varepsilon では Γ(1+ε/2)\Gamma(-1+\varepsilon/2) となって単純極を持ちますが、Λ2\Lambda^2 に相当する項はどこにも現れません。次元正則化では、対数発散だけが 1/ε1/\varepsilon の極として姿を見せ、2 次発散は自動的に 00 と置かれます。Remark 4.3 の階層性問題が「処方の選び方の問題ではないか」と言われることがあるのはこのためです。しかし標準模型を、より高いスケール Λnew\Lambda_{\text{new}} の理論の低エネルギー有効理論と見るなら、重い粒子のループが Λnew2\Lambda_{\text{new}}^2 に比例する寄与を実際に生むので、問題は処方に依らない形で戻ってきます。

質量に依存しないスキームの利点。 MS\overline{\text{MS}} では、くりこみ定数が極とその係数だけで決まり、質量に依存しません。この性質のおかげで Theorem 6.2β\beta, γ\gamma, γm\gamma_mλR\lambda_R のみの関数になり、くりこみ群方程式が扱いやすい形になります。本文で計算した β(λ)=3λ2/(16π2)\beta(\lambda) = 3\lambda^2/(16\pi^2) は、この処方でも同じ値になります(Remark 6.4)。

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