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重積分と累次積分:フビニの定理とヤコビアンで多変数の積分を計算する

Prerequisite:多変数関数の微分と偏微分:微分とは「一次近似」のことである

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  • 2 重積分は、長方形を細かく切り、その上に立つ「柱」の体積を足し上げたリーマン和の極限として定義します。1 変数の定積分が符号付き面積だったのに対し、2 重積分は符号付き体積です。
  • 有界閉長方形の上の連続関数は可積分です。鍵になるのは一様連続性で、1 変数のときとまったく同じ筋道です。
  • フビニの定理は「重積分(体積)=累次積分(1 変数の積分を 2 回)」を保証します。これがないと、重積分は定義できても計算できません。
  • 一般の領域では、領域を縦線集合として書くか横線集合として書くかが、そのまま積分順序の選択になります。順序の取り替えで値が変わるのは、被積分関数が非有界で重積分そのものが存在しないときです。
  • 変数変換公式 dxdy=detJΦdudvdx\,dy = \lvert\det J_\Phi\rvert\,du\,dv に現れるヤコビアン detJΦ\det J_\Phi は、写像 Φ\Phi が微小な面積を何倍に引き伸ばすかという「面積の拡大率」です。極座標では rr になります。
  • 応用として、ガウス積分 ex2dx=π\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx=\sqrt{\pi} を極座標変換で計算します。

1. 動機:体積をどう定義し、どう計算するか

Section titled “1. 動機:体積をどう定義し、どう計算するか”

1 変数の定積分 abf(x)dx\int_a^b f(x)\,dx は、グラフの下の符号付き面積でした。定義は「区間を細かく切り、細長い長方形の面積を足し上げ、細かくする極限を取る」というものです。詳しくは 積分の基本定理と定積分リーマン可積分性の定義(Definition 3.1)[積分の基本定理と定積分] を参照してください。

2 変数関数 z=f(x,y)z = f(x,y) のグラフは空間内の曲面です。その下の立体の体積を測りたい、というのが 2 重積分の出発点です。定義の作り方は 1 変数と同じで、平面領域を細かい長方形に切り、その上に立つ直方体(柱)の体積 f(代表点)×(底面積)f(\text{代表点}) \times (\text{底面積}) を足し上げ、細かくする極限を取ります。

ここで素朴な疑問が出ます。「xx で積分してから yy で積分すればいいのではないか」。この操作、つまり 1 変数の積分を 2 回繰り返すことを累次積分といいます。実際これが唯一の実用的な計算法です。しかし累次積分は「操作」であって、体積の定義ではありません。定義(体積)と計算法(2 回の積分)が一致する保証は、まったく自明ではないのです。

自明でないことは、次の 2 点からわかります。第一に、累次積分には dydxdy\,dx の順と dxdydx\,dy の順の 2 通りがあり、この 2 つの値が食い違う関数が実在します(Example 5.6)。もし累次積分がいつでも体積に等しいなら、そんなことは起こりえません。第二に、累次積分は「各断面の面積 F(x)=f(x,y)dyF(x)=\int f(x,y)\,dy を求めてから、それを xx 方向に積み上げる」という操作ですが、断面の面積が定まっても立体の体積が定まる保証はありません。この橋渡しをするのがフビニの定理です。

歴史的にも、この橋渡しは繊細な問題として扱われてきました。リーマンが 1854 年の教授資格論文で積分を厳密に定義したあと、多変数への拡張と累次積分との関係が整理され、グイド・フビニが 1907 年に、ルベーグ積分の枠組みで一般的な定理を証明しました。翌々年にはトネリが、非負関数に対する使いやすい形(可積分性を仮定せずに済む形)を与えています。

もう一つの主役が変数変換です。1 変数では置換積分 f(g(t))g(t)dt\int f(g(t))g'(t)\,dt が積分計算の要でした。円板や楕円板の上の積分では、直交座標のままでは領域の記述が a2x2ya2x2-\sqrt{a^2-x^2} \le y \le \sqrt{a^2-x^2} のように醜くなります。極座標に取り替えれば領域は長方形になり、計算が一気に楽になります。そのとき dxdydx\,dyrdrdθr\,dr\,d\theta に化ける理由が、ヤコビ(1841 年に関数行列式を組織的に論じました)の名を冠したヤコビアンです。

この記事では、定義(リーマン和)→ フビニの定理 → 一般の領域と積分順序 → 変数変換とヤコビアン、の順に進みます。全体の見取り図は次のとおりです。

flowchart TD
A["2 重積分を計算したい"] --> B{"領域は縦線集合か横線集合か"}
B -- "はい" --> C["フビニの定理で累次積分に直す"]
B -- "いいえ" --> D["変数変換を探す"]
D --> E["ヤコビアンの絶対値を掛ける"]
E --> F["新しい領域は縦線集合か"]
F -- "はい" --> C
F -- "いいえ" --> D
C --> G["1 変数の定積分を 2 回実行する"]
2 重積分を計算するときの流れ

この記事では次の記号を使います。

  • R=[a,b]×[c,d]R = [a,b]\times[c,d]a<ba < b, c<dc < d)を R2\mathbb{R}^2 の閉長方形とし、その面積を R=(ba)(dc)\lvert R\rvert = (b-a)(d-c) と書きます。
  • 点は P=(x,y)P=(x,y) のように書き、PQ\lVert P - Q\rVert はユークリッド距離です。
  • ff が集合 SS有界とは、ある KK があって SS 上つねに fK\lvert f\rvert \le K となることをいいます。

前提として次の 3 つを使います。

  1. 1 変数のリーマン積分(定義、区間加法性、単調性、線形性)。積分の基本定理と定積分定積分の基本性質(Proposition 4.1)[積分の基本定理と定積分] を参照してください。
  2. 有界閉集合上の連続関数は一様連続であり、最大値・最小値を取ること(ハイネ・カントールの定理、最大値原理)。極限と連続性 (ε-δ論法)有界閉区間では連続と一様連続の差が消える(Remark 6.3)[Limits and Continuity] を参照してください。
  3. 偏微分とヤコビ行列。多変数関数の微分と偏微分偏微分係数と偏導関数の定義(Definition 3.1)[多変数関数の微分と偏微分] を参照してください。

まず、いちばん素直な領域である長方形の上で積分を定義します。一般の領域は第 5 節で扱います。

Definition 3.1長方形の分割と分割の幅

R=[a,b]×[c,d]R=[a,b]\times[c,d] とする。[a,b][a,b] の分点 a=x0<x1<<xm=ba = x_0 < x_1 < \cdots < x_m = b[c,d][c,d] の分点 c=y0<y1<<yn=dc = y_0 < y_1 < \cdots < y_n = d の組を RR分割 Δ\Delta と呼び、RR を小長方形

Rij=[xi1,xi]×[yj1,yj](1im, 1jn)R_{ij} = [x_{i-1}, x_i]\times[y_{j-1}, y_j] \qquad (1\le i\le m,\ 1\le j\le n)

に分ける。Δxi=xixi1\Delta x_i = x_i - x_{i-1}Δyj=yjyj1\Delta y_j = y_j - y_{j-1}Rij=ΔxiΔyj\lvert R_{ij}\rvert = \Delta x_i \Delta y_j と書く。また

Δ=maxi,j(Δxi)2+(Δyj)2\lvert \Delta\rvert = \max_{i,j}\sqrt{(\Delta x_i)^2 + (\Delta y_j)^2}

(小長方形の対角線の長さの最大値)を分割のという。

幅を対角線で測っておくと、「同じ小長方形に属する 2 点の距離は Δ\lvert\Delta\rvert 以下」がそのまま言えるので、あとの一様連続性の議論が楽になります。

Definition 3.2長方形上の 2 重積分

f ⁣:RRf\colon R\to\mathbb{R} を有界関数とする。分割 Δ\Delta と各小長方形から選んだ代表点 ξijRij\xi_{ij}\in R_{ij} に対し

Σ(f,Δ,ξ)=i=1mj=1nf(ξij)ΔxiΔyj\Sigma(f,\Delta,\xi) = \sum_{i=1}^{m}\sum_{j=1}^{n} f(\xi_{ij})\,\Delta x_i\,\Delta y_j

リーマン和という。ある実数 II が存在して、任意の ε>0\varepsilon > 0 に対しある δ>0\delta > 0 があり、Δ<δ\lvert\Delta\rvert < \delta を満たすすべての分割 Δ\Deltaすべての代表点の選び方 ξ\xi について

Σ(f,Δ,ξ)I<ε\lvert \Sigma(f,\Delta,\xi) - I\rvert < \varepsilon

が成り立つとき、ffRR 上**(リーマン)可積分**であるといい、IIffRR 上の 2 重積分と呼んで

Rf(x,y)dxdy=I\iint_R f(x,y)\,dx\,dy = I

と書く。

f0f \ge 0 のとき、f(ξij)ΔxiΔyjf(\xi_{ij})\Delta x_i\Delta y_j は底面 RijR_{ij}、高さ f(ξij)f(\xi_{ij}) の直方体の体積です。リーマン和はこの柱をすべて足したもの、2 重積分はそれを細かくした極限で、これが「グラフの下の立体の体積」の定義になります。

定義はこれでよいのですが、このままでは「すべての分割とすべての代表点」を相手にしなければならず、可積分性の判定に使えません。1 変数のときと同じく、代表点を inf\infsup\sup に振り切った和を考えると扱いやすくなります。分割 Δ\Delta に対し

mij=infRijf,Mij=supRijf,s(f,Δ)=i,jmijRij,S(f,Δ)=i,jMijRijm_{ij} = \inf_{R_{ij}} f,\quad M_{ij} = \sup_{R_{ij}} f,\qquad s(f,\Delta) = \sum_{i,j} m_{ij}\lvert R_{ij}\rvert,\quad S(f,\Delta) = \sum_{i,j} M_{ij}\lvert R_{ij}\rvert

とおき、それぞれ不足和(下ダルブー和)、過剰和(上ダルブー和)と呼びます。

Proposition 3.3ダルブーの判定法

f ⁣:RRf\colon R\to\mathbb{R} を有界関数とする。ffRR 上可積分であるための必要十分条件は、任意の ε>0\varepsilon > 0 に対して

S(f,Δ)s(f,Δ)<εS(f,\Delta) - s(f,\Delta) < \varepsilon

を満たす RR の分割 Δ\Delta が存在することである。またこのとき

Rf(x,y)dxdy=supΔs(f,Δ)=infΔS(f,Δ)\iint_R f(x,y)\,dx\,dy = \sup_{\Delta} s(f,\Delta) = \inf_{\Delta} S(f,\Delta)

が成り立つ。

Proof(Proposition 3.3)

準備。 任意の分割 Δ\Delta と代表点 ξ\xi に対し、ξijRij\xi_{ij}\in R_{ij} だから mijf(ξij)Mijm_{ij}\le f(\xi_{ij})\le M_{ij} であり、正の数 Rij\lvert R_{ij}\rvert を掛けて足せば

s(f,Δ)Σ(f,Δ,ξ)S(f,Δ)s(f,\Delta) \le \Sigma(f,\Delta,\xi)\le S(f,\Delta)

を得ます。さらに η>0\eta > 0 を任意に取ると、inf\inf の定義から各 (i,j)(i,j) について f(ξij)<mij+ηf(\xi_{ij}) < m_{ij}+\eta となる ξijRij\xi_{ij}\in R_{ij} が選べ、そのとき Σ<s(f,Δ)+ηR\Sigma < s(f,\Delta) + \eta\lvert R\rvert です。η\eta は任意なので、代表点をすべて動かしたときのリーマン和の下限はちょうど s(f,Δ)s(f,\Delta) です。同様に上限は S(f,Δ)S(f,\Delta) です。

(必要性) ff が可積分で I=RfI = \iint_R f とします。ε>0\varepsilon > 0 に対し Definition 3.2δ\deltaε/3\varepsilon/3 に対して取り、Δ<δ\lvert\Delta\rvert < \delta なる分割を 1 つ固定します。すべての代表点で Iε/3<Σ<I+ε/3I - \varepsilon/3 < \Sigma < I + \varepsilon/3 ですから、代表点について上限・下限を取れば、上の準備より S(f,Δ)I+ε/3S(f,\Delta)\le I+\varepsilon/3 かつ s(f,Δ)Iε/3s(f,\Delta)\ge I-\varepsilon/3。よって Ss2ε/3<εS - s \le 2\varepsilon/3 < \varepsilon です。

(十分性) まず細分についての単調性を確かめます。分割 Δ\Delta'Δ\Delta細分(分点を追加して得られる分割)であるとし、Δ\Delta の小長方形 RijR_{ij}Δ\Delta' の小長方形 R1,,RkR'_1,\dots,R'_k に分かれたとします。RlRijR'_l\subset R_{ij} なので infRlfinfRijf=mij\inf_{R'_l} f \ge \inf_{R_{ij}} f = m_{ij} であり、lRl=Rij\sum_l \lvert R'_l\rvert = \lvert R_{ij}\rvert だから

l(infRlf)Rl  mijRij.\sum_{l}\Bigl(\inf_{R'_l} f\Bigr)\lvert R'_l\rvert \ \ge\ m_{ij}\lvert R_{ij}\rvert .

(i,j)(i,j) について足せば s(f,Δ)s(f,Δ)s(f,\Delta')\ge s(f,\Delta)、同様に S(f,Δ)S(f,Δ)S(f,\Delta')\le S(f,\Delta) です。ゆえに任意の 2 つの分割 Δ1,Δ2\Delta_1,\Delta_2 に対し、両方の分点を合わせた共通細分 Δ1Δ2\Delta_1\vee\Delta_2 を挟んで

s(f,Δ1)s(f,Δ1Δ2)S(f,Δ1Δ2)S(f,Δ2)s(f,\Delta_1)\le s(f,\Delta_1\vee\Delta_2)\le S(f,\Delta_1\vee\Delta_2)\le S(f,\Delta_2)

が成り立ち、I:=supΔs(f,Δ)infΔS(f,Δ)=:I\underline{I} := \sup_\Delta s(f,\Delta) \le \inf_\Delta S(f,\Delta) =: \overline{I} を得ます。仮定よりどんな ε>0\varepsilon>0 に対しても IIS(f,Δ)s(f,Δ)<ε\overline{I}-\underline{I}\le S(f,\Delta)-s(f,\Delta)<\varepsilon となる Δ\Delta が取れるので、I=I\underline I = \overline I。これを JJ とおきます。

残るは、リーマン和が Δ0\lvert\Delta\rvert\to 0JJ に収束することです。K=supRfK = \sup_R \lvert f\rvert とおき(ff は有界)、ε>0\varepsilon>0 に対し S(f,Δ0)s(f,Δ0)<ε/2S(f,\Delta_0)-s(f,\Delta_0)<\varepsilon/2 となる Δ0\Delta_0 を取り、その内部の分点が xx 方向に pp 本、yy 方向に qq 本あるとします。C=p(dc)+q(ba)C = p(d-c)+q(b-a) とおきます。任意の分割 Δ\Delta に対し共通細分 ΔΔ0\Delta\vee\Delta_0 を考えると、Δ\Delta の小長方形のうち実際に切られるのは Δ0\Delta_0 の分点を通る直線と交わるものだけで、それらは幅 Δ\lvert\Delta\rvert 以下の帯に含まれるので、面積の合計は CΔC\lvert\Delta\rvert 以下です。切られた小長方形 1 つあたり過剰和の差は 2KRij2K\lvert R_{ij}\rvert 以下(sup\sup の値はどれも絶対値 KK 以下)だから

S(f,Δ)S(f,ΔΔ0)2KCΔ.S(f,\Delta) - S(f,\Delta\vee\Delta_0) \le 2KC\lvert\Delta\rvert .

そこで δ=ε8KC+1\delta = \dfrac{\varepsilon}{8KC+1} と取れば、Δ<δ\lvert\Delta\rvert<\delta のとき右辺は ε/4\varepsilon/4 未満で、細分の単調性 S(f,ΔΔ0)S(f,Δ0)S(f,\Delta\vee\Delta_0)\le S(f,\Delta_0) と合わせて

S(f,Δ)S(f,Δ0)+ε4<s(f,Δ0)+ε2+ε4J+3ε4S(f,\Delta) \le S(f,\Delta_0) + \frac{\varepsilon}{4} < s(f,\Delta_0)+\frac{\varepsilon}{2}+\frac{\varepsilon}{4} \le J + \frac{3\varepsilon}{4}

(最後は s(f,Δ0)I=Js(f,\Delta_0)\le \underline I = J)。同じ議論で s(f,Δ)>J3ε/4s(f,\Delta) > J - 3\varepsilon/4 です。準備の不等式 sΣSs\le\Sigma\le S より、Δ<δ\lvert\Delta\rvert<\delta なるすべての分割と代表点で ΣJ<ε\lvert \Sigma - J\rvert < \varepsilon。よって ff は可積分で積分値は JJ です。

Theorem 3.4連続関数の可積分性

R=[a,b]×[c,d]R = [a,b]\times[c,d]a<ba<b, c<dc<d)上の連続関数 ffRR 上可積分である。

Proof(Theorem 3.4)

RR は有界閉集合なので、ffRR 上一様連続です(第 2 節の前提 2)。ε>0\varepsilon>0 を与え、

PQ<δ    f(P)f(Q)<ε2R\lVert P-Q\rVert < \delta \implies \lvert f(P)-f(Q)\rvert < \frac{\varepsilon}{2\lvert R\rvert}

となる δ>0\delta>0 を取ります。Δ<δ\lvert\Delta\rvert<\delta なる分割を 1 つ取ると、Definition 3.1 の幅の定義より、同じ小長方形 RijR_{ij} に属する 2 点の距離は Δ\lvert\Delta\rvert 以下、したがって δ\delta 未満です。また RijR_{ij} は有界閉集合なので ff はそこで最大値と最小値を取り、Mij=f(Qij)M_{ij}=f(Q_{ij})mij=f(Pij)m_{ij}=f(P_{ij}) となる点 Pij,QijRijP_{ij},Q_{ij}\in R_{ij} が存在します。ゆえに

Mijmij=f(Qij)f(Pij)<ε2RM_{ij}-m_{ij} = f(Q_{ij})-f(P_{ij}) < \frac{\varepsilon}{2\lvert R\rvert}

であり、i,jRij=R\sum_{i,j}\lvert R_{ij}\rvert = \lvert R\rvert を使って

S(f,Δ)s(f,Δ)=i,j(Mijmij)Rijε2RR=ε2<ε.S(f,\Delta)-s(f,\Delta) = \sum_{i,j}(M_{ij}-m_{ij})\lvert R_{ij}\rvert \le \frac{\varepsilon}{2\lvert R\rvert}\cdot\lvert R\rvert = \frac{\varepsilon}{2} < \varepsilon .

Proposition 3.3 より ff は可積分です。

Example 3.5リーマン和から直接計算する

f(x,y)=xyf(x,y)=xyR=[0,1]×[0,1]R=[0,1]\times[0,1] とします。ff は連続なので Theorem 3.4 より可積分です。可積分だとわかっていれば、幅が 00 に近づく都合のよい分割・代表点の列を 1 つ選んで極限を計算すれば、それが積分値です。

xx 方向も yy 方向も nn 等分し、代表点を小長方形の右上頂点 ξij=(i/n, j/n)\xi_{ij}=(i/n,\ j/n) に取ります。Δxi=Δyj=1/n\Delta x_i = \Delta y_j = 1/n なので

Σ=i=1nj=1ninjn1n2=1n4(i=1ni)(j=1nj)=1n4n(n+1)2n(n+1)2=(n+1)24n2.\Sigma = \sum_{i=1}^{n}\sum_{j=1}^{n}\frac{i}{n}\cdot\frac{j}{n}\cdot\frac{1}{n^2} = \frac{1}{n^4}\Bigl(\sum_{i=1}^{n} i\Bigr)\Bigl(\sum_{j=1}^{n} j\Bigr) = \frac{1}{n^4}\cdot\frac{n(n+1)}{2}\cdot\frac{n(n+1)}{2} = \frac{(n+1)^2}{4n^2}.

分割の幅は 2/n0\sqrt{2}/n\to 0 で、(n+1)24n214\dfrac{(n+1)^2}{4n^2}\to\dfrac14 です。したがって

[0,1]2xydxdy=14.\iint_{[0,1]^2} xy\,dx\,dy = \frac14 .

可積分性を先に確かめた点が大事です。可積分性を知らずに 1 つの列だけを計算しても、他の分割で別の値になる可能性を排除できません。

Remark 3.6重積分の基本性質

f,gf,gRR 上可積分、α,βR\alpha,\beta\in\mathbb{R} のとき、次が成り立ちます。

  • 線形性:αf+βg\alpha f+\beta g は可積分で R(αf+βg)=αRf+βRg\iint_R(\alpha f+\beta g) = \alpha\iint_R f+\beta\iint_R g
  • 単調性:RR 上つねに fgf\le g なら RfRg\iint_R f\le \iint_R g。とくに f0f\ge0 なら Rf0\iint_R f\ge0
  • 領域についての加法性:RR を有限個の小長方形に分けたとき、全体の積分は各部分の積分の和。

いずれもリーマン和のレベルで対応する等式・不等式(Σ(αf+βg)=αΣ(f)+βΣ(g)\Sigma(\alpha f+\beta g)=\alpha\Sigma(f)+\beta\Sigma(g)fgΣ(f)Σ(g)f\le g \Rightarrow \Sigma(f)\le\Sigma(g))が成り立ち、Definition 3.2 の極限を取れば従います。詳しい証明は 杉浦光夫『解析入門 II』の重積分の章を参照してください。以下ではこれらを自由に使います。

Definition 4.1累次積分

f ⁣:R=[a,b]×[c,d]Rf\colon R=[a,b]\times[c,d]\to\mathbb{R} とする。各 x[a,b]x\in[a,b] を固定したとき 1 変数関数 yf(x,y)y\mapsto f(x,y)[c,d][c,d] 上可積分で、そうして定まる関数

F(x)=cdf(x,y)dyF(x) = \int_c^d f(x,y)\,dy

[a,b][a,b] 上可積分であるとき、

ab ⁣(cdf(x,y)dy)dx=abF(x)dx\int_a^b\!\left(\int_c^d f(x,y)\,dy\right)dx = \int_a^b F(x)\,dx

ff累次積分(反復積分)という。xxyy の役割を入れ替えた cd ⁣(abf(x,y)dx)dy\displaystyle\int_c^d\!\left(\int_a^b f(x,y)\,dx\right)dy も同様に定める。

2 つの積分の性格の違いを並べておきます。

重積分 Rfdxdy\displaystyle\iint_R f\,dx\,dy累次積分 ab ⁣(cdfdy)dx\displaystyle\int_a^b\!\left(\int_c^d f\,dy\right)dx
定義平面の分割によるリーマン和の極限1 変数の定積分を 2 回行う操作
幾何的意味グラフの下の符号付き体積断面積 F(x)F(x)xx 方向に積み上げたもの
存在条件有界性 + Proposition 3.3各断面の可積分性 + FF の可積分性
計算ふつう直接は計算できない1 変数の技法がそのまま使える

この 2 つを結ぶのがフビニの定理です。仮定 (ii) は「切り口ごとの面積がそもそも定義できる」ことの要請で、これを落とすと右辺の意味が失われます。

Theorem 4.2フビニの定理(長方形上)

R=[a,b]×[c,d]R=[a,b]\times[c,d] とし、f ⁣:RRf\colon R\to\mathbb{R} が次の 2 条件を満たすとする。

  1. ffRR 上有界かつ可積分である。
  2. x[a,b]x\in[a,b] に対し、1 変数関数 yf(x,y)y\mapsto f(x,y)[c,d][c,d] 上可積分である。

このとき F(x)=cdf(x,y)dyF(x)=\displaystyle\int_c^d f(x,y)\,dy[a,b][a,b] 上可積分で、

ab ⁣(cdf(x,y)dy)dx=Rf(x,y)dxdy\int_a^b\!\left(\int_c^d f(x,y)\,dy\right)dx = \iint_R f(x,y)\,dx\,dy

が成り立つ。xxyy の役割を入れ替えた主張(各 yy について xf(x,y)x\mapsto f(x,y) が可積分なら cd ⁣(abfdx)dy=Rf\int_c^d\!\left(\int_a^b f\,dx\right)dy = \iint_R f)も同様に成り立つ。

Proof(Theorem 4.2)

RR の分割 Δ\Delta を任意に取り、その xx 方向の分点だけを取り出した [a,b][a,b] の分割を Δx\Delta_x と書きます。

x[xi1,xi]x\in[x_{i-1},x_i] を固定します。仮定 2 と 1 変数の積分の区間加法性から

F(x)=cdf(x,y)dy=j=1nyj1yjf(x,y)dy.F(x) = \int_c^d f(x,y)\,dy = \sum_{j=1}^{n}\int_{y_{j-1}}^{y_j} f(x,y)\,dy .

y[yj1,yj]y\in[y_{j-1},y_j] のとき (x,y)Rij(x,y)\in R_{ij} なので mijf(x,y)Mijm_{ij}\le f(x,y)\le M_{ij} であり、1 変数の積分の単調性から

mijΔyjyj1yjf(x,y)dyMijΔyj.m_{ij}\,\Delta y_j \le \int_{y_{j-1}}^{y_j} f(x,y)\,dy \le M_{ij}\,\Delta y_j .

jj について足すと、[xi1,xi][x_{i-1},x_i] のすべての xx について

j=1nmijΔyj  F(x)  j=1nMijΔyj\sum_{j=1}^{n} m_{ij}\Delta y_j \ \le\ F(x)\ \le\ \sum_{j=1}^{n} M_{ij}\Delta y_j

が成り立ちます。左辺・右辺は xx によらない定数なので、[xi1,xi][x_{i-1},x_i] 上での FF の下限・上限について

inf[xi1,xi]F  jmijΔyj,sup[xi1,xi]F  jMijΔyj\inf_{[x_{i-1},x_i]} F \ \ge\ \sum_{j} m_{ij}\Delta y_j, \qquad \sup_{[x_{i-1},x_i]} F \ \le\ \sum_{j} M_{ij}\Delta y_j

が従います。Δxi>0\Delta x_i>0 を掛けて ii について足せば

s(f,Δ)=i,jmijΔyjΔxi  s(F,Δx)  S(F,Δx)  i,jMijΔyjΔxi=S(f,Δ)s(f,\Delta) = \sum_{i,j} m_{ij}\Delta y_j\Delta x_i \ \le\ s(F,\Delta_x) \ \le\ S(F,\Delta_x)\ \le\ \sum_{i,j} M_{ij}\Delta y_j \Delta x_i = S(f,\Delta)

を得ます(真ん中の不等号は不足和 \le 過剰和)。ここで 1 変数の下積分・上積分は s(F,Δx)abFabFS(F,Δx)s(F,\Delta_x)\le \underline{\int_a^b} F \le \overline{\int_a^b} F\le S(F,\Delta_x) を満たすので、結局すべての分割 Δ\Delta に対して

s(f,Δ)  abF  abF  S(f,Δ).s(f,\Delta)\ \le\ \underline{\int_a^b} F \ \le\ \overline{\int_a^b} F\ \le\ S(f,\Delta) .

仮定 1 と Proposition 3.3 より supΔs(f,Δ)=infΔS(f,Δ)=Rf\sup_\Delta s(f,\Delta)=\inf_\Delta S(f,\Delta)=\iint_R f ですから、Δ\Delta について上限・下限を取ると挟み撃ちで

abF=abF=Rf(x,y)dxdy.\underline{\int_a^b} F = \overline{\int_a^b} F = \iint_R f(x,y)\,dx\,dy .

上積分と下積分が一致するので FF[a,b][a,b] 上可積分であり(1 変数版の リーマンの可積分条件(Theorem 3.4)[積分の基本定理と定積分])、その積分値は Rf\iint_R f です。xxyy を入れ替えても議論はまったく同じです。

Corollary 4.3連続関数に対するフビニの定理

ffR=[a,b]×[c,d]R=[a,b]\times[c,d] 上連続ならば、2 つの累次積分はともに存在して等しく、重積分に一致する。すなわち

ab ⁣(cdf(x,y)dy)dx=cd ⁣(abf(x,y)dx)dy=Rf(x,y)dxdy.\int_a^b\!\left(\int_c^d f(x,y)\,dy\right)dx = \int_c^d\!\left(\int_a^b f(x,y)\,dx\right)dy = \iint_R f(x,y)\,dx\,dy .
Proof(Corollary 4.3)

ff は有界閉集合 RR 上の連続関数なので有界で、Theorem 3.4 より可積分です。これで Theorem 4.2 の仮定 1 が満たされます。次に x[a,b]x\in[a,b] を固定すると、yf(x,y)y\mapsto f(x,y)[c,d][c,d] 上の連続関数なので 1 変数の意味で可積分です。これで仮定 2 も満たされ、Theorem 4.2 から第 1 の式と第 3 の式が等しいことがわかります。同じ議論を xxyy を入れ替えて行えば、第 2 の式も第 3 の式に等しくなります。

Example 4.4順序の選び方で手間が変わる

[0,1]×[0,π]xcos(xy)dxdy\iint_{[0,1]\times[0,\pi]} x\cos(xy)\,dx\,dy

を計算します。被積分関数は連続なので Corollary 4.3 よりどちらの順でもよく、値は一致します。

先に yy で積分する場合。 xx を固定すると、yy の関数として cos(xy)\cos(xy) の原始関数は sin(xy)/x\sin(xy)/xx0x\neq0)ですから

0πxcos(xy)dy=x[sin(xy)x]y=0y=π=sin(πx).\int_0^{\pi} x\cos(xy)\,dy = x\cdot\left[\frac{\sin(xy)}{x}\right]_{y=0}^{y=\pi} = \sin(\pi x).

x=0x=0 のときは被積分関数が 00 なので値は 00 で、これも sin(π0)=0\sin(\pi\cdot 0)=0 と一致します。よって

01sin(πx)dx=[cos(πx)π]01=1+1π=2π.\int_0^1 \sin(\pi x)\,dx = \left[-\frac{\cos(\pi x)}{\pi}\right]_0^1 = \frac{1+1}{\pi} = \frac{2}{\pi}.

先に xx で積分する場合。 y>0y>0 を固定して部分積分(u=xu=x, dv=cos(xy)dxdv=\cos(xy)\,dx, v=sin(xy)/yv=\sin(xy)/y)を行うと

01xcos(xy)dx=[xsin(xy)y]0101sin(xy)ydx=sinyy1y[cos(xy)y]01=sinyy+cosy1y2.\int_0^1 x\cos(xy)\,dx = \left[\frac{x\sin(xy)}{y}\right]_0^1 - \int_0^1\frac{\sin(xy)}{y}\,dx = \frac{\sin y}{y} - \frac{1}{y}\left[-\frac{\cos(xy)}{y}\right]_0^1 = \frac{\sin y}{y}+\frac{\cos y - 1}{y^2}.

これを G(y)G(y) と書きます。y0y\to 0 では siny/y1\sin y/y\to1(cosy1)/y21/2(\cos y-1)/y^2\to-1/2 なので G(0+)=1/2G(0^+)=1/2 となり、y=0y=0 での直接計算 01xdx=1/2\int_0^1 x\,dx = 1/2 と一致します。次に

ddy(1cosyy)=ysiny(1cosy)y2=sinyy1cosyy2=G(y)\frac{d}{dy}\left(\frac{1-\cos y}{y}\right) = \frac{y\sin y - (1-\cos y)}{y^2} = \frac{\sin y}{y} - \frac{1-\cos y}{y^2} = G(y)

なので、(1cosy)/y(1-\cos y)/yGG の原始関数です(y0y\to0 での値は 00)。したがって

0πG(y)dy=[1cosyy]0π=2π0=2π.\int_0^{\pi} G(y)\,dy = \left[\frac{1-\cos y}{y}\right]_{0}^{\pi} = \frac{2}{\pi} - 0 = \frac{2}{\pi}.

両者は確かに一致しました。ただし手間はまるで違います。順序を選べること自体がフビニの定理の実用的な価値です。

5. 一般の領域上の重積分と積分順序

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現実に出てくる領域は長方形ではなく、三角形・円板・2 曲線に挟まれた領域などです。これらを扱う標準的な手口は「長方形まで 00 で延長する」ことです。

Definition 5.1一般の有界領域上の重積分と面積確定

DR2D\subset\mathbb{R}^2 を有界集合、f ⁣:DRf\colon D\to\mathbb{R} を有界関数とする。DRD\subset R となる閉長方形 RR を 1 つ取り、

f~(x,y)={f(x,y)((x,y)D)0((x,y)RD)\tilde f(x,y) = \begin{cases} f(x,y) & ((x,y)\in D)\\ 0 & ((x,y)\in R\setminus D)\end{cases}

とおく。f~\tilde fRR 上可積分であるとき、ffDD 上可積分であるといい

Df(x,y)dxdy:=Rf~(x,y)dxdy\iint_D f(x,y)\,dx\,dy := \iint_R \tilde f(x,y)\,dx\,dy

と定める。とくに f1f\equiv 1DD 上可積分であるとき DD面積確定であるといい、D=D1dxdy\lvert D\rvert = \iint_D 1\,dx\,dyDD面積という。

この定義が RR の取り方によらないことは次のようにわかります。RRR\subset R' なる長方形を取り、RR' の分割で RR の 4 辺を分点に含むものを考えると、RRR'\setminus R の側の小長方形では f~0\tilde f\equiv 0 なのでリーマン和に寄与せず、RR 側の和とちょうど一致します。一般の 2 つの長方形は、両方を含む長方形を経由して比べればよいです。

Lemma 5.2連続関数のグラフは面積 0

φ ⁣:[a,b]R\varphi\colon[a,b]\to\mathbb{R} を連続関数とすると、そのグラフ G={(t,φ(t))t[a,b]}G=\{(t,\varphi(t)) \mid t\in[a,b]\} は面積確定で G=0\lvert G\rvert = 0 である。同じことは横向きのグラフ {(ψ(t),t)}\{(\psi(t),t)\} についても成り立つ。

Proof(Lemma 5.2)

ε>0\varepsilon>0 を取ります。φ\varphi は有界閉区間上の連続関数なので一様連続で、tt<δφ(t)φ(t)<ε\lvert t-t'\rvert<\delta \Rightarrow \lvert\varphi(t)-\varphi(t')\rvert<\varepsilon となる δ>0\delta>0 があります。[a,b][a,b]nn 等分して (ba)/n<δ(b-a)/n<\delta とし、小区間を I1,,InI_1,\dots,I_n とします。φ\varphi は各 IkI_k 上で最大値 βk\beta_k と最小値 αk\alpha_k を取り、IkI_k 内の 2 点での値の差は ε\varepsilon 未満なので βkαkε\beta_k-\alpha_k\le\varepsilon です。

GG を含む閉長方形 R=[a,b]×[c,d]R=[a,b]\times[c,d] を取り、GG 上で 11RGR\setminus G00 となる関数を gg とします。RR の分割 Δ\Delta として、xx 方向は上の nn 等分、yy 方向は c,dc,d2n2n 個の値 α1,β1,,αn,βn\alpha_1,\beta_1,\dots,\alpha_n,\beta_n を分点に持つものを取ります。IkI_k の上にある GG の部分は帯 Ik×[αk,βk]I_k\times[\alpha_k,\beta_k] に含まれ、αk,βk\alpha_k,\beta_k は分点なので、この帯は第 kk 列の小長方形いくつかの合併になっています。それ以外の小長方形では g0g\equiv0、すなわち supg=0\sup g=0 ですから

S(g,Δ)k=1nban(βkαk)k=1nbanε=(ba)ε.S(g,\Delta) \le \sum_{k=1}^{n} \frac{b-a}{n}\,(\beta_k-\alpha_k) \le \sum_{k=1}^{n}\frac{b-a}{n}\,\varepsilon = (b-a)\varepsilon .

一方、どの小長方形も幅と高さが正であり、各 xx 座標に対して GG の点は高々 1 個しかないので、小長方形が GG に含まれることはなく、必ず GG の外の点を含みます。そこでは g=0g=0 なので infg=0\inf g=0 となり、s(g,Δ)=0s(g,\Delta)=0 です。したがって Ss(ba)εS-s\le(b-a)\varepsilon が任意の ε>0\varepsilon>0 で成り立ち、Proposition 3.3 より gg は可積分で、積分値は infΔS=0\inf_\Delta S=0 です。横向きのグラフも xxyy を入れ替えれば同じです。

Remark 5.3ここから先で認めて使う 2 つの事実

以下では、証明を与えずに次の事実を使います。

  1. リーマンの可積分条件(ジョルダン版):有界関数 g ⁣:RRg\colon R\to\mathbb{R} の不連続点全体が面積 00 の集合に含まれるならば、ggRR 上可積分である。
  2. 面積 00 の集合の有限個の合併はまた面積 00 であり、線分は面積 00 である。

2 は定義から直ちに従います(線分は高さをいくらでも小さくした長方形で覆えます)。1 の証明は 杉浦光夫『解析入門 II』の重積分の章、あるいは W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis にあります。1 は「不連続点が少なければ可積分」という直観の正確な形で、境界の上でだけ不連続になる f~\tilde f を扱うのにちょうど必要な道具です。

Theorem 5.4縦線集合上の累次積分

φ1,φ2 ⁣:[a,b]R\varphi_1,\varphi_2\colon[a,b]\to\mathbb{R} を連続関数で φ1φ2\varphi_1\le\varphi_2 を満たすものとし、

D={(x,y)R2axb, φ1(x)yφ2(x)}D = \{(x,y)\in\mathbb{R}^2 \mid a\le x\le b,\ \varphi_1(x)\le y\le \varphi_2(x)\}

とおく(このような DD縦線集合という)。f ⁣:DRf\colon D\to\mathbb{R} が連続ならば、ffDD 上可積分で

Df(x,y)dxdy=ab ⁣(φ1(x)φ2(x)f(x,y)dy)dx\iint_D f(x,y)\,dx\,dy = \int_a^b\!\left(\int_{\varphi_1(x)}^{\varphi_2(x)} f(x,y)\,dy\right)dx

が成り立つ。同様に、ψ1ψ2\psi_1\le\psi_2 を連続関数として E={(x,y)cyd, ψ1(y)xψ2(y)}E=\{(x,y)\mid c\le y\le d,\ \psi_1(y)\le x\le\psi_2(y)\}横線集合)と EE 上連続な ff に対しては

Ef(x,y)dxdy=cd ⁣(ψ1(y)ψ2(y)f(x,y)dx)dy.\iint_E f(x,y)\,dx\,dy = \int_c^d\!\left(\int_{\psi_1(y)}^{\psi_2(y)} f(x,y)\,dx\right)dy .
Proof(Theorem 5.4)

φ1,φ2\varphi_1,\varphi_2 は連続だから有界で、DD は有界です。さらに DD は有界閉集合なので、その上の連続関数 ff は有界です。そこで DR=[a,b]×[c,d]D\subset R=[a,b]\times[c,d] となる閉長方形を取り、Definition 5.1f~\tilde f を考えます。

(仮定 1 の確認) f~\tilde f の不連続点を調べます。DD の内点では、その近傍で f~=f\tilde f=f であり ff は連続です。DD の外部(補集合の内点)では近傍で f~0\tilde f\equiv0 なので連続です。したがって不連続点は境界 D\partial D に含まれます。D\partial D は 2 つのグラフ y=φ1(x)y=\varphi_1(x)y=φ2(x)y=\varphi_2(x) と、2 本の縦線分 x=ax=ax=bx=b の部分集合の合併に含まれます。Lemma 5.2Remark 5.3 の 2 より D\partial D は面積 00、よって Remark 5.3 の 1 より f~\tilde fRR 上可積分です。これで Theorem 4.2 の仮定 1 が満たされました。

(仮定 2 の確認) x[a,b]x\in[a,b] を固定します。yf~(x,y)y\mapsto\tilde f(x,y) は、[c,φ1(x))[c,\varphi_1(x))(φ2(x),d](\varphi_2(x),d] では 00[φ1(x),φ2(x)][\varphi_1(x),\varphi_2(x)] では yf(x,y)y\mapsto f(x,y) に等しく、ffDD 上連続なのでこの区間上連続です。つまり有界で、不連続点は高々 2 点 y=φ1(x),φ2(x)y=\varphi_1(x),\varphi_2(x) しかありません。1 変数の有界関数は不連続点が有限個なら可積分ですから、仮定 2 も満たされ、さらに区間加法性から

cdf~(x,y)dy=φ1(x)φ2(x)f(x,y)dy\int_c^d \tilde f(x,y)\,dy = \int_{\varphi_1(x)}^{\varphi_2(x)} f(x,y)\,dy

です(φ1(x)=φ2(x)\varphi_1(x)=\varphi_2(x) のときは両辺 00)。

以上より Theorem 4.2 が適用でき、

Df=Rf~=ab ⁣(cdf~(x,y)dy)dx=ab ⁣(φ1(x)φ2(x)f(x,y)dy)dx\iint_D f = \iint_R\tilde f = \int_a^b\!\left(\int_c^d \tilde f(x,y)\,dy\right)dx = \int_a^b\!\left(\int_{\varphi_1(x)}^{\varphi_2(x)} f(x,y)\,dy\right)dx

を得ます。横線集合の場合は xxyy の役割を入れ替えれば同じ議論です。

Example 5.5順序を換えないと計算できない積分

01 ⁣(y1ex2dx)dy\int_0^1\!\left(\int_y^1 e^{x^2}\,dx\right)dy

を計算します。内側の y1ex2dx\int_y^1 e^{x^2}dx は、ex2e^{x^2} の原始関数が初等関数で書けないため、この順序のままでは手が出ません。

積分領域を読み取ります。外側が 0y10\le y\le 1、内側が yx1y\le x\le 1 ですから、

D={(x,y)0y1, yx1}D = \{(x,y)\mid 0\le y\le 1,\ y\le x\le 1\}

で、これは (0,0),(1,0),(1,1)(0,0),(1,0),(1,1) を頂点とする三角形です(0yx10\le y\le x\le 1 と書くと見やすいです)。同じ三角形を縦線集合として書き直すと、各 x[0,1]x\in[0,1] に対して yy00 から xx まで動くので

D={(x,y)0x1, 0yx}.D = \{(x,y)\mid 0\le x\le 1,\ 0\le y\le x\}.

被積分関数 ex2e^{x^2}DD 上連続なので Theorem 5.4 が両方の表示に使え、どちらの累次積分も Dex2dxdy\iint_D e^{x^2}dx\,dy に等しくなります。したがって

01 ⁣(y1ex2dx)dy=01 ⁣(0xex2dy)dx=01ex2[y]0xdx=01xex2dx.\int_0^1\!\left(\int_y^1 e^{x^2}dx\right)dy = \int_0^1\!\left(\int_0^x e^{x^2}\,dy\right)dx = \int_0^1 e^{x^2}\bigl[y\bigr]_{0}^{x}\,dx = \int_0^1 x e^{x^2}\,dx .

最後は t=x2t=x^2 と置換して(dt=2xdxdt=2x\,dx

01xex2dx=[ex22]01=e12.\int_0^1 xe^{x^2}dx = \left[\frac{e^{x^2}}{2}\right]_0^1 = \frac{e-1}{2}.

内側の積分に現れた xx という因子は、三角形の縦の長さ(断面の長さ)です。これが xex2xe^{x^2}xx の正体で、順序交換の御利益はここに集約されています。

Example 5.62 つの累次積分が食い違う例

f(x,y)=x2y2(x2+y2)2f(x,y) = \frac{x^2-y^2}{(x^2+y^2)^2}

(0,1]×(0,1](0,1]\times(0,1] 上で考えます。この ff は原点に近づけると非有界です。実際 yy を固定して x0+x\to 0^+ とすると f(x,y)1/y2f(x,y)\to -1/y^2 ですが、y=xy=x 上では f=0f=0y0+y\to0^+ を先にすると f(x,y)1/x2f(x,y)\to 1/x^2 で、f(x,x/2)=x2x2/4(5x2/4)2=1225x2+f(x,x/2)= \frac{x^2-x^2/4}{(5x^2/4)^2}=\frac{12}{25x^2}\to+\infty です。したがって ff[0,1]2[0,1]^2 上有界でなく、Definition 3.2 の意味ではそもそも重積分が定義されません

それでも 2 つの累次積分は計算できます。x>0x>0 を固定すると yf(x,y)y\mapsto f(x,y)[0,1][0,1] 上連続です(分母は x2x^2 以上)。商の微分から

y(yx2+y2)=(x2+y2)y2y(x2+y2)2=x2y2(x2+y2)2=f(x,y)\frac{\partial}{\partial y}\left(\frac{y}{x^2+y^2}\right) = \frac{(x^2+y^2)-y\cdot 2y}{(x^2+y^2)^2} = \frac{x^2-y^2}{(x^2+y^2)^2} = f(x,y)

なので

01f(x,y)dy=[yx2+y2]y=0y=1=1x2+1.\int_0^1 f(x,y)\,dy = \left[\frac{y}{x^2+y^2}\right]_{y=0}^{y=1} = \frac{1}{x^2+1}.

これを xx で積分して

01 ⁣(01f(x,y)dy)dx=01dx1+x2=[arctanx]01=π4.\int_0^1\!\left(\int_0^1 f(x,y)\,dy\right)dx = \int_0^1\frac{dx}{1+x^2} = \Bigl[\arctan x\Bigr]_0^1 = \frac{\pi}{4}.

一方 f(y,x)=y2x2(x2+y2)2=f(x,y)f(y,x) = \dfrac{y^2-x^2}{(x^2+y^2)^2} = -f(x,y) という反対称性があるので、xxyy の名前を入れ替えて同じ計算をすれば

01 ⁣(01f(x,y)dx)dy=π4.\int_0^1\!\left(\int_0^1 f(x,y)\,dx\right)dy = -\frac{\pi}{4}.

x=0x=0 では内側の積分 01f(0,y)dy=01(y2)dy\int_0^1 f(0,y)\,dy=\int_0^1(-y^{-2})dy が発散するので、外側の積分は x(0,1]x\in(0,1] 上の広義積分として読みます。1/(1+x2)1/(1+x^2)x=0x=0 まで連続に延びるので値は π/4\pi/4 のままです。)

π/4π/4\pi/4 \ne -\pi/4 ですから、2 つの累次積分は食い違います。これは Theorem 4.2 と矛盾しません。仮定 1(RR 上可積分)が破れているからです。フビニの定理は「重積分が存在すること」を前提に、それを累次積分に翻訳する定理であって、2 つの累次積分が勝手に一致することを主張するものではありません。

Remark 5.7二重級数でも同じことが起こる

積分を和に置き換えても同じ現象が現れます。m,n1m,n\ge1 に対し

amn={1(m=n)1(m=n+1)0(その他)a_{mn} = \begin{cases} 1 & (m=n)\\ -1 & (m=n+1)\\ 0 & (\text{その他})\end{cases}

とおきます。mm を固定して nn について足すと、m=1m=1 のときだけ a11=1a_{11}=1 で他は 00 だから和は 11m2m\ge2 のときは amm=1a_{mm}=1am,m1=1a_{m,m-1}=-1 が打ち消して 00 です。よって m(namn)=1\sum_m\bigl(\sum_n a_{mn}\bigr)=1。逆に nn を固定して mm について足すと、ann=1a_{nn}=1an+1,n=1a_{n+1,n}=-1 が打ち消して毎回 00 なので n(mamn)=0\sum_n\bigl(\sum_m a_{mn}\bigr)=0。和の順序で 1100 に分かれます。

原因は Example 5.6 と同じで、m,namn=\sum_{m,n}\lvert a_{mn}\rvert=\infty(絶対収束しない)ことです。級数の絶対収束と順序交換については 級数と収束判定リーマンの再配列定理(Theorem 7.6)[級数と収束判定] を参照してください。逆に f0f\ge0(または f\lvert f\rvert の累次積分が有限)なら順序交換してよい、というのがトネリの定理で、無限区間や非有界関数を扱うにはルベーグ積分の枠組みが必要になります。

1 変数の 置換積分(Theorem 6.1)[積分の基本定理と定積分] は、ggC1C^1 級で単調なら

g(α)g(β)f(x)dx=αβf(g(t))g(t)dt\int_{g(\alpha)}^{g(\beta)} f(x)\,dx = \int_{\alpha}^{\beta} f(g(t))\,g'(t)\,dt

でした。向きを気にせず「長さ」だけで読むと、gg は微小区間 [t,t+dt][t,t+dt] を長さ g(t)dt\lvert g'(t)\rvert\,dt の区間に写すので、dx=g(t)dtdx = \lvert g'(t)\rvert\,dt という置き換えが起きています。2 変数では dxdydx\,dy が面積なので、「微小な面積を何倍にするか」を表す量が必要になります。それがヤコビアンです。

Proposition 6.1一次変換による面積の拡大率

A=(a11a12a21a22)A=\begin{pmatrix} a_{11} & a_{12}\\ a_{21} & a_{22}\end{pmatrix} を実 2 次正方行列とし、T(u)=AuT(\boldsymbol u)=A\boldsymbol u とする。

  1. 単位正方形 [0,1]×[0,1][0,1]\times[0,1] の像 T([0,1]2)T([0,1]^2)AA の 2 つの列ベクトル a1=(a11,a21)\boldsymbol a_1=(a_{11},a_{21})a2=(a12,a22)\boldsymbol a_2=(a_{12},a_{22}) の張る平行四辺形であり、その面積は detA\lvert\det A\rvert に等しい。
  2. さらに detA0\det A\ne0 とすると、面積確定な有界集合 ER2E\subset\mathbb{R}^2 に対し T(E)T(E) も面積確定で T(E)=detAE\lvert T(E)\rvert = \lvert\det A\rvert\cdot\lvert E\rvert が成り立つ。
Proof(Proposition 6.1)

(1) u=(u,v)[0,1]2\boldsymbol u=(u,v)\in[0,1]^2 に対し T(u)=ua1+va2T(\boldsymbol u)=u\boldsymbol a_1+v\boldsymbol a_2 ですから、像は a1,a2\boldsymbol a_1,\boldsymbol a_2 が張る平行四辺形そのものです。その面積は「底辺 × 高さ」で

a1a2sinθ\lVert\boldsymbol a_1\rVert\cdot\lVert\boldsymbol a_2\rVert\sin\theta

θ[0,π]\theta\in[0,\pi] は 2 つのベクトルのなす角、sinθ0\sin\theta\ge0)。cosθ=a1,a2a1a2\cos\theta = \dfrac{\langle \boldsymbol a_1,\boldsymbol a_2\rangle}{\lVert\boldsymbol a_1\rVert\lVert\boldsymbol a_2\rVert} を使って 2 乗すると

(a1a2sinθ)2=a12a22a1,a22.\bigl(\lVert\boldsymbol a_1\rVert\lVert\boldsymbol a_2\rVert\sin\theta\bigr)^2 = \lVert\boldsymbol a_1\rVert^2\lVert\boldsymbol a_2\rVert^2 - \langle\boldsymbol a_1,\boldsymbol a_2\rangle^2 .

右辺を成分で書き下すと

 (a112+a212)(a122+a222)(a11a12+a21a22)2= a112a122+a112a222+a212a122+a212a222a112a1222a11a12a21a22a212a222= a112a2222a11a22a12a21+a122a212=(a11a22a12a21)2=(detA)2.\begin{aligned} &\ (a_{11}^2+a_{21}^2)(a_{12}^2+a_{22}^2)-(a_{11}a_{12}+a_{21}a_{22})^2\\ =&\ a_{11}^2a_{12}^2+a_{11}^2a_{22}^2+a_{21}^2a_{12}^2+a_{21}^2a_{22}^2 -a_{11}^2a_{12}^2-2a_{11}a_{12}a_{21}a_{22}-a_{21}^2a_{22}^2\\ =&\ a_{11}^2a_{22}^2-2a_{11}a_{22}a_{12}a_{21}+a_{12}^2a_{21}^2 =(a_{11}a_{22}-a_{12}a_{21})^2 = (\det A)^2 . \end{aligned}

両辺の正の平方根を取って、面積は detA\lvert\det A\rvert です。

(2) 辺の長さ hh の正方形 QQ(左下の頂点を p\boldsymbol p)に対し、TT の線形性から T(Q)=T(p)+hT([0,1]2)T(Q)=T(\boldsymbol p)+h\,T([0,1]^2) です。面積は平行移動で変わらず、hh 倍の相似拡大で h2h^2 倍になるので、(1) より

T(Q)=h2detA=detAQ.\lvert T(Q)\rvert = h^2\lvert\det A\rvert = \lvert\det A\rvert\cdot\lvert Q\rvert .

次に、平面を一辺 1/N1/N の正方形の格子に分け、EE に完全に含まれる正方形の合併を ENE_N^{-}EE と交わる正方形の合併を EN+E_N^{+} とします。ENEEN+E_N^{-}\subset E\subset E_N^{+} であり、EN\lvert E_N^{-}\rvertEN+\lvert E_N^{+}\rvert はそれぞれ「EE 上で 11、外で 00」とした関数の不足和と過剰和にほかならないので、EE が面積確定であることから NN\to\infty でともに E\lvert E\rvert に収束します。detA0\det A\ne0 より TT は全単射なので T(EN)T(E)T(EN+)T(E_N^{-})\subset T(E)\subset T(E_N^{+}) であり、内部が交わらない有限個の平行四辺形の面積の和として

T(EN)=detAEN,T(EN+)=detAEN+\lvert T(E_N^{-})\rvert = \lvert\det A\rvert\,\lvert E_N^{-}\rvert, \qquad \lvert T(E_N^{+})\rvert = \lvert\det A\rvert\,\lvert E_N^{+}\rvert

です(面積の有限加法性と、Lemma 5.2 により平行四辺形の辺は面積 00 であることを使いました)。面積の単調性で挟み撃ちにすれば、T(E)T(E) は面積確定で T(E)=detAE\lvert T(E)\rvert=\lvert\det A\rvert\,\lvert E\rvert を得ます。

6.2. ヤコビアン:局所的な面積の拡大率

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Definition 6.2ヤコビ行列とヤコビアン

UR2U\subset\mathbb{R}^2 を開集合、Φ ⁣:UR2\Phi\colon U\to\mathbb{R}^2Φ(u,v)=(x(u,v),y(u,v))\Phi(u,v)=\bigl(x(u,v),\,y(u,v)\bigr)C1C^1 級写像とする。

JΦ(u,v)=(xuxvyuyv)J_\Phi(u,v) = \begin{pmatrix} \dfrac{\partial x}{\partial u} & \dfrac{\partial x}{\partial v}\\[10pt] \dfrac{\partial y}{\partial u} & \dfrac{\partial y}{\partial v} \end{pmatrix}

Φ\Phiヤコビ行列、その行列式

detJΦ(u,v)=xuyvxvyu  (=(x,y)(u,v) とも書く)\det J_\Phi(u,v) = \frac{\partial x}{\partial u}\frac{\partial y}{\partial v}-\frac{\partial x}{\partial v}\frac{\partial y}{\partial u} \ \ \left(=\frac{\partial(x,y)}{\partial(u,v)} \text{ とも書く}\right)

ヤコビアン(関数行列式)という。

ヤコビ行列は Φ\Phi の全微分(1 次近似)を表す行列でした。多変数関数の微分と偏微分C¹ 級ならば全微分可能(Theorem 4.5)[多変数関数の微分と偏微分] で見たとおり、C1C^1 級写像は各点で

Φ(u+Δu, v+Δv)=Φ(u,v)+JΦ(u,v)(ΔuΔv)+o((Δu,Δv))\Phi(u+\Delta u,\ v+\Delta v) = \Phi(u,v) + J_\Phi(u,v)\begin{pmatrix}\Delta u\\ \Delta v\end{pmatrix} + o\bigl(\lVert(\Delta u,\Delta v)\rVert\bigr)

と 1 次近似できます。そこで uvuv 平面の微小な長方形 [u,u+Δu]×[v,v+Δv][u,u+\Delta u]\times[v,v+\Delta v]Φ\Phi で写すと、誤差項を無視すれば、Φ(u,v)\Phi(u,v) を頂点として 2 つのベクトル

ΦuΔu,ΦvΔv\frac{\partial\Phi}{\partial u}\Delta u,\qquad \frac{\partial\Phi}{\partial v}\Delta v

が張る平行四辺形になります。この 2 ベクトルを列とする行列は JΦdiag(Δu,Δv)J_\Phi\,\mathrm{diag}(\Delta u,\Delta v) ですから、Proposition 6.1 よりその面積は

detJΦ(u,v)ΔuΔv\lvert\det J_\Phi(u,v)\rvert\,\Delta u\,\Delta v

です。「微小面積 ΔuΔv\Delta u\Delta v がヤコビアンの絶対値倍に化ける」——これが変数変換公式の正体です。

uv 平面xy 平面uvxyΦΔuΔv(u, v)Φu ΔuΦv Δv面積 = Δu Δv面積 ≒ |det J| Δu Δv
ヤコビアンは微小な面積の拡大率。uv 平面の小長方形は、1 次近似の下で偏微分ベクトルが張る平行四辺形に写る

Theorem 6.3重積分の変数変換公式

U,VR2U,V\subset\mathbb{R}^2 を開集合、Φ ⁣:UV\Phi\colon U\to V を全単射な C1C^1 級写像で、すべての (u,v)U(u,v)\in U において detJΦ(u,v)0\det J_\Phi(u,v)\ne0 を満たすものとする。EE を有界閉かつ面積確定な集合で EUE\subset U を満たすものとすると、Φ(E)\Phi(E) も有界閉かつ面積確定であり、Φ(E)\Phi(E) 上の任意の連続関数 ff に対して

Φ(E)f(x,y)dxdy=Ef(Φ(u,v))detJΦ(u,v)dudv\iint_{\Phi(E)} f(x,y)\,dx\,dy = \iint_{E} f\bigl(\Phi(u,v)\bigr)\,\bigl\lvert\det J_\Phi(u,v)\bigr\rvert\,du\,dv

が成り立つ。

Remark 6.4境界での例外は許される

実用上は、Φ\Phi の単射性や detJΦ0\det J_\Phi\ne0EE の中の面積 00 の集合の上で崩れていても公式はそのまま成り立ちます。次の Example 6.6 の極座標変換では、r=0r=0 の辺(θ\theta 軸上の線分)が 1 点 (0,0)(0,0) に潰れて単射性が崩れ、そこでは detJΦ=r=0\det J_\Phi = r = 0 ですが、この辺は面積 00 なので積分に寄与せず、結論は変わりません。直観的には、EE から面積 00 の閉集合を除いた開集合に定理を適用し、除いた部分の寄与が 00 であることを確かめればよい、ということです。厳密な形と証明は 杉浦光夫『解析入門 II』の変数変換の節にあります。

Remark 6.5この定理の証明について

Theorem 6.3 の完全な証明はこの記事には収めきれないので、標準的な文献に譲ります(杉浦光夫『解析入門 II』、W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis 第 10 章、M. Spivak, Calculus on Manifolds 第 3 章)。方針だけ述べておきます。

  1. 一次変換に対しては、公式は Proposition 6.1 そのものです(f1f\equiv1 の場合が面積の関係式、一般の ff はリーマン和を移し替えれば従います)。
  2. 一般の Φ\Phi は、各点の近くで「uu だけを動かす写像」と「vv だけを動かす写像」の合成に分解できます(Rudin の primitive mapping)。1 変数の置換積分と Theorem 4.2 を組み合わせると、この種の写像については公式が示せます。
  3. 微分可能性から、小さな正方形の上では Φ\Phi は一次変換 JΦJ_\Phi で近似でき、誤差は Δ\lvert\Delta\rvert について高位の無限小です。逆関数定理でこの近似を制御します。
  4. コンパクト性(有限被覆)で局所的な結果を貼り合わせます。

Example 6.6極座標変換とそのヤコビアン

Φ(r,θ)=(rcosθ, rsinθ)\Phi(r,\theta) = (r\cos\theta,\ r\sin\theta)

とします。x=rcosθx=r\cos\thetay=rsinθy=r\sin\theta の偏微分を並べると

JΦ=(cosθrsinθsinθrcosθ),detJΦ=rcos2θ+rsin2θ=r.J_\Phi = \begin{pmatrix}\cos\theta & -r\sin\theta\\ \sin\theta & r\cos\theta\end{pmatrix}, \qquad \det J_\Phi = r\cos^2\theta + r\sin^2\theta = r .

Φ\Phi は開集合 U={(r,θ)r>0, 0<θ<2π}U=\{(r,\theta)\mid r>0,\ 0<\theta<2\pi\} の上で単射で detJΦ=r>0\det J_\Phi=r>0、像は平面から半直線 {(x,0)x0}\{(x,0)\mid x\ge0\} を除いた開集合です。半径 aa の円板 Da={(x,y)x2+y2a2}D_a=\{(x,y)\mid x^2+y^2\le a^2\} に対しては E=[0,a]×[0,2π]E=[0,a]\times[0,2\pi] と取れば Φ(E)=Da\Phi(E)=D_a で、単射性が崩れるのは r=0r=0 の辺と θ=0,2π\theta=0,2\pi の 2 辺だけ、いずれも面積 00 です。Remark 6.4 より

Daf(x,y)dxdy=02π ⁣ ⁣0af(rcosθ, rsinθ)  rdrdθ\iint_{D_a} f(x,y)\,dx\,dy = \int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{a} f(r\cos\theta,\ r\sin\theta)\;r\,dr\,d\theta

が使えます(右辺は長方形上の累次積分なので Corollary 4.3 で順序も自由です)。

確認 1(円の面積)。 f1f\equiv1 とすると

02π ⁣ ⁣0ardrdθ=02πa22dθ=πa2.\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^a r\,dr\,d\theta = \int_0^{2\pi}\frac{a^2}{2}\,d\theta = \pi a^2 .

確認 2(半球の体積)。 f(x,y)=a2x2y2f(x,y)=\sqrt{a^2-x^2-y^2} とすると f(Φ(r,θ))=a2r2f(\Phi(r,\theta))=\sqrt{a^2-r^2}

02π ⁣ ⁣0aa2r2  rdrdθ=2π[(a2r2)3/23]0a=2πa33=23πa3.\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{a}\sqrt{a^2-r^2}\;r\,dr\,d\theta = 2\pi\left[-\frac{(a^2-r^2)^{3/2}}{3}\right]_0^{a} = 2\pi\cdot\frac{a^3}{3} = \frac{2}{3}\pi a^3 .

これは半径 aa の球の体積 43πa3\frac43\pi a^3 のちょうど半分で、正しい値です。

因子 rr を忘れるとどうなるかも見ておきます。02π0aa2r2drdθ=2ππa24\int_0^{2\pi}\int_0^a\sqrt{a^2-r^2}\,dr\,d\theta = 2\pi\cdot\frac{\pi a^2}{4} となり、半球の体積とは似ても似つきません。rr は「外側の θ\theta 方向の弧が半径に比例して長くなる」ことを表す、なくてはならない因子です。

Example 6.7ガウス積分

I=ex2dxI = \int_{-\infty}^{\infty} e^{-x^2}\,dx

を求めます。まず収束を確認します。x1\lvert x\rvert\ge1 では x2xx^2\ge \lvert x\rvert なので ex2exe^{-x^2}\le e^{-\lvert x\rvert} であり、1exdx=e1<\int_1^{\infty}e^{-x}dx = e^{-1}<\infty ですから広義積分は収束します。

IR=RRex2dxI_R=\int_{-R}^{R}e^{-x^2}dx とおきます。e(x2+y2)=ex2ey2e^{-(x^2+y^2)}=e^{-x^2}e^{-y^2} は連続なので Corollary 4.3 が使え、正方形 SR=[R,R]2S_R=[-R,R]^2 上で

SRe(x2+y2)dxdy=RR ⁣(RRex2ey2dx)dy=RRey2IRdy=IR2.\iint_{S_R} e^{-(x^2+y^2)}dx\,dy = \int_{-R}^{R}\!\left(\int_{-R}^{R} e^{-x^2}e^{-y^2}\,dx\right)dy = \int_{-R}^{R} e^{-y^2}I_R\,dy = I_R^{\,2}.

次に円板で挟みます。DRSRD2RD_R\subset S_R\subset D_{\sqrt2 R}(正方形の外接円の半径は 2R\sqrt2R)であり、被積分関数は正なので、Remark 3.6 の加法性と単調性から

DRe(x2+y2)dxdy  IR2  D2Re(x2+y2)dxdy.\iint_{D_R} e^{-(x^2+y^2)}\,dx\,dy \ \le\ I_R^{\,2}\ \le\ \iint_{D_{\sqrt2 R}} e^{-(x^2+y^2)}\,dx\,dy .

円板上の積分は Example 6.6 の極座標公式で計算できます。t=r2t=r^2 と置換して(dt=2rdrdt=2r\,dr

Dae(x2+y2)dxdy=02π ⁣ ⁣0aer2rdrdθ=2π[er22]0a=π(1ea2).\iint_{D_a} e^{-(x^2+y^2)}dx\,dy = \int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{a} e^{-r^2}\,r\,dr\,d\theta = 2\pi\left[-\frac{e^{-r^2}}{2}\right]_0^{a} = \pi\bigl(1-e^{-a^2}\bigr).

したがって

π(1eR2)  IR2  π(1e2R2).\pi\bigl(1-e^{-R^2}\bigr)\ \le\ I_R^{\,2}\ \le\ \pi\bigl(1-e^{-2R^2}\bigr).

RR\to\infty とすると両端はともに π\pi に収束し、IRII_R\to I なので、はさみうちの原理から I2=πI^2=\piex2>0e^{-x^2}>0 より I>0I>0 ですから

ex2dx=π.\int_{-\infty}^{\infty}e^{-x^2}\,dx = \sqrt{\pi}.

1 変数のままでは ex2e^{-x^2} の原始関数が初等関数で書けないため手が出ませんが、2 乗して 2 次元にし、極座標に移ると rdrr\,drrrer2e^{-r^2} の微分の因子をちょうど供給してくれます。ヤコビアンが計算を可能にした、いちばん有名な例です。

Exercise 7.1

[0,1]×[0,2](x+y2)dxdy\displaystyle\iint_{[0,1]\times[0,2]}(x+y^2)\,dx\,dy を、2 通りの累次積分で計算し、値が一致することを確かめてください。

Solution

被積分関数 x+y2x+y^2 は長方形 R=[0,1]×[0,2]R=[0,1]\times[0,2] 上で連続なので、Corollary 4.3 よりどちらの順序でもよく、値は重積分に一致します。

先に yy で積分すると

01 ⁣(02(x+y2)dy)dx=01[xy+y33]y=0y=2dx=01(2x+83)dx=[x2]01+83=1+83=113.\int_0^1\!\left(\int_0^2 (x+y^2)\,dy\right)dx = \int_0^1\left[xy+\frac{y^3}{3}\right]_{y=0}^{y=2}dx = \int_0^1\left(2x+\frac83\right)dx = \bigl[x^2\bigr]_0^1+\frac83 = 1+\frac83 = \frac{11}{3}.

先に xx で積分すると

02 ⁣(01(x+y2)dx)dy=02[x22+xy2]x=0x=1dy=02(12+y2)dy=1+83=113.\int_0^2\!\left(\int_0^1 (x+y^2)\,dx\right)dy = \int_0^2\left[\frac{x^2}{2}+xy^2\right]_{x=0}^{x=1}dy = \int_0^2\left(\frac12+y^2\right)dy = 1+\frac83 = \frac{11}{3}.

どちらも 113\dfrac{11}{3} です。

Exercise 7.2標準

01 ⁣(y1sinxxdx)dy\int_0^1\!\left(\int_y^1 \frac{\sin x}{x}\,dx\right)dy

の値を求めてください。ただし x=0x=0 では被積分関数の値を 11 と定めます(limx0sinx/x=1\lim_{x\to0}\sin x/x=1 なので、こうすると [0,1][0,1] 上連続になります)。

Solution

g(x)=sinxxg(x)=\dfrac{\sin x}{x}x0x\ne0)、g(0)=1g(0)=1 とおくと gg[0,1][0,1] 上連続です。y1g(x)dx\int_y^1 g(x)\,dx の原始関数は初等関数で書けないので、この順序では計算できません。積分順序を交換します。

積分領域は、外側が 0y10\le y\le 1、内側が yx1y\le x\le 1 ですから

D={(x,y)0y1, yx1}={(x,y)0yx1}D = \{(x,y)\mid 0\le y\le 1,\ y\le x\le 1\} = \{(x,y)\mid 0\le y\le x\le 1\}

で、(0,0),(1,0),(1,1)(0,0),(1,0),(1,1) を頂点とする三角形です。これを縦線集合として書き直すと、各 x[0,1]x\in[0,1] に対し yy00 から xx まで動きます。g(x)g(x)DD 上連続なので Theorem 5.4 を両方の表示に適用でき、

01 ⁣(y1g(x)dx)dy=Dg(x)dxdy=01 ⁣(0xg(x)dy)dx=01xg(x)dx.\int_0^1\!\left(\int_y^1 g(x)\,dx\right)dy = \iint_D g(x)\,dx\,dy = \int_0^1\!\left(\int_0^x g(x)\,dy\right)dx = \int_0^1 x\,g(x)\,dx .

xg(x)=sinxx\,g(x)=\sin xx=0x=0 でも両辺 00)なので

01sinxdx=[cosx]01=1cos1.\int_0^1 \sin x\,dx = \bigl[-\cos x\bigr]_0^1 = 1-\cos 1 .

数値では 1cos1=0.45971-\cos 1 = 0.4597\ldots です。

Exercise 7.3標準

a,b,c>0a,b,c>0 とする。楕円体

{(x,y,z) | x2a2+y2b2+z2c21}\left\{(x,y,z)\ \middle|\ \frac{x^2}{a^2}+\frac{y^2}{b^2}+\frac{z^2}{c^2}\le 1\right\}

の体積が 43πabc\dfrac43\pi abc であることを、変数変換 Φ(r,θ)=(arcosθ, brsinθ)\Phi(r,\theta)=(ar\cos\theta,\ br\sin\theta) を使って示してください。

Solution

楕円体は、楕円板 D={(x,y) | x2a2+y2b21}D=\left\{(x,y)\ \middle|\ \frac{x^2}{a^2}+\frac{y^2}{b^2}\le1\right\} の上で、グラフ z=h(x,y)z=h(x,y)z=h(x,y)z=-h(x,y) に挟まれた立体です。ここで

h(x,y)=c1x2a2y2b2.h(x,y)=c\sqrt{1-\frac{x^2}{a^2}-\frac{y^2}{b^2}} .

したがって体積は V=D2h(x,y)dxdyV=\displaystyle\iint_D 2h(x,y)\,dx\,dy です。

Φ(r,θ)=(arcosθ, brsinθ)\Phi(r,\theta)=(ar\cos\theta,\ br\sin\theta) のヤコビ行列と行列式は

JΦ=(acosθarsinθbsinθbrcosθ),detJΦ=abrcos2θ+abrsin2θ=abr.J_\Phi=\begin{pmatrix} a\cos\theta & -ar\sin\theta\\ b\sin\theta & br\cos\theta\end{pmatrix}, \qquad \det J_\Phi = abr\cos^2\theta+abr\sin^2\theta = abr .

E=[0,1]×[0,2π]E=[0,1]\times[0,2\pi] とすると Φ(E)=D\Phi(E)=D で、単射性が崩れるのは r=0r=0θ=0,2π\theta=0,2\pi の辺(面積 00)だけなので Remark 6.4 より変数変換が使えます。また

h(Φ(r,θ))=c1r2cos2θr2sin2θ=c1r2h(\Phi(r,\theta)) = c\sqrt{1-r^2\cos^2\theta-r^2\sin^2\theta}=c\sqrt{1-r^2}

なので、Theorem 6.3Corollary 4.3 より

V=02π ⁣ ⁣012c1r2abrdrdθ=2abc2π01r1r2dr.V = \int_0^{2\pi}\!\!\int_0^1 2c\sqrt{1-r^2}\cdot abr\,dr\,d\theta = 2abc\cdot 2\pi\int_0^1 r\sqrt{1-r^2}\,dr .

最後の 1 変数積分は t=1r2t=1-r^2dt=2rdrdt=-2r\,dr)と置換して

01r1r2dr=[(1r2)3/23]01=13.\int_0^1 r\sqrt{1-r^2}\,dr = \left[-\frac{(1-r^2)^{3/2}}{3}\right]_0^1 = \frac13 .

よって V=4πabc13=43πabcV = 4\pi abc\cdot\dfrac13 = \dfrac43\pi abc です。a=b=ca=b=c とすれば球の体積 43πa3\frac43\pi a^3 に一致します。

Exercise 7.4

DD(0,0),(1,0),(0,1)(0,0),(1,0),(0,1) を頂点とする三角形、すなわち D={(x,y)x0, y0, x+y1}D=\{(x,y)\mid x\ge0,\ y\ge0,\ x+y\le1\} とする。

Dexp(yxy+x)dxdy\iint_D \exp\left(\frac{y-x}{y+x}\right)dx\,dy

を求めてください(原点では被積分関数が定義されませんが、値を任意に 11 と定めます)。

Solution

下準備。 (x,y)D(x,y)\in D かつ (x,y)(0,0)(x,y)\ne(0,0) のとき x+y>0x+y>0 で、yxx+y\lvert y-x\rvert\le x+y より指数の値は [1,1][-1,1] に入ります。よって被積分関数は [e1,e][e^{-1},e] の範囲に収まり有界で、不連続点は原点と D\partial D だけ、すなわち面積 00 の集合に含まれます。Remark 5.3 の 1 より DD 上可積分です。

変数変換。 u=yxu=y-xv=y+xv=y+x と置きたいので、その逆写像

Φ(u,v)=(vu2, v+u2)\Phi(u,v)=\left(\frac{v-u}{2},\ \frac{v+u}{2}\right)

を考えます。Φ\PhiR2\mathbb{R}^2 全体の線形同型で

JΦ=(12121212),detJΦ=1414=12,detJΦ=12.J_\Phi = \begin{pmatrix} -\tfrac12 & \tfrac12\\[2pt] \tfrac12 & \tfrac12\end{pmatrix}, \qquad \det J_\Phi = -\frac14-\frac14 = -\frac12, \qquad \lvert\det J_\Phi\rvert = \frac12 .

Φ(u,v)=(x,y)\Phi(u,v)=(x,y) とすると、x0    uvx\ge0\iff u\le vy0    uvy\ge0\iff u\ge -vx+y=v1x+y=v\le1 なので

E={(u,v)0v1, vuv}E=\{(u,v)\mid 0\le v\le 1,\ -v\le u\le v\}

Φ\Phi によって DD に全単射に写ります(EE(0,0),(1,1),(1,1)(0,0),(1,1),(-1,1) を頂点とする三角形です)。

適用。 被積分関数 ff は原点で連続でないので、η(0,1)\eta\in(0,1) を取り Eη={(u,v)Eηv1}E_\eta=\{(u,v)\in E\mid \eta\le v\le1\}Theorem 6.3 を適用します。EηE_\eta 上で f(Φ(u,v))=eu/vf(\Phi(u,v))=e^{u/v} は連続です。EηE_\eta は縦線集合(vv を「横軸」と見て、各 vv に対し uuv-v から vv まで)なので Theorem 5.4 が使え、

Φ(Eη)fdxdy=12η1 ⁣(vveu/vdu)dv=12η1v[eu/v]u=vu=vdv=ee12η1vdv.\iint_{\Phi(E_\eta)} f\,dx\,dy = \frac12\int_\eta^1\!\left(\int_{-v}^{v} e^{u/v}\,du\right)dv = \frac12\int_\eta^1 v\Bigl[e^{u/v}\Bigr]_{u=-v}^{u=v}dv = \frac{e-e^{-1}}{2}\int_\eta^1 v\,dv .

(内側で vveu/vdu=v(e1e1)\int_{-v}^{v}e^{u/v}du = v\,(e^{1}-e^{-1}) を使いました。v>0v>0 なので ueu/vu\mapsto e^{u/v} の原始関数は veu/vv\,e^{u/v} です。)

一方 DΦ(Eη)D\setminus\Phi(E_\eta)Φ(E{vη})\Phi(E\cap\{v\le\eta\}) で、その面積は detJΦη2=η2/2\lvert\det J_\Phi\rvert\cdot\eta^2=\eta^2/2Proposition 6.1E{vη}E\cap\{v\le\eta\} は面積 η2\eta^2 の三角形)。fe\lvert f\rvert\le e なので、この部分の積分の寄与は eη2/2e\eta^2/2 以下で、η0\eta\to0 とすれば 00 に収束します。したがって

Dexp(yxy+x)dxdy=ee1201vdv=ee1212=ee14.\iint_D \exp\left(\frac{y-x}{y+x}\right)dx\,dy = \frac{e-e^{-1}}{2}\int_0^1 v\,dv = \frac{e-e^{-1}}{2}\cdot\frac12 = \frac{e-e^{-1}}{4}.

数値では 0.58760.5876\ldots です。yxy-xy+xy+x という「斜めの座標」に乗り換えることで、絡み合っていた変数が分離した点がこの問題の要点です。

  • 杉浦光夫『解析入門 II』東京大学出版会、1985 — 重積分、フビニの定理、変数変換公式を扱う章。この記事で証明を省いた事実(リーマンの可積分条件、変数変換公式)の完全な証明があります。
  • 高木貞治『解析概論』改訂第三版、岩波書店、1961 — 重積分と面積・体積を扱う章。古典的な記述で、累次積分の扱いが丁寧です。
  • W. Rudin, Principles of Mathematical Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1976 — Chapter 10。primitive mapping への分解による変数変換定理の証明。
  • M. Spivak, Calculus on Manifolds, W. A. Benjamin, 1965 — Chapter 3 (Integration)。フビニの定理と変数変換定理を、ルベーグ測度 00 の言葉で簡潔に扱っています。
  • G. Fubini, “Sugli integrali multipli”, Rendiconti della Reale Accademia dei Lincei 16 (1907) — 累次積分と重積分の関係を一般的に論じた原論文。
  • T. Tao, An Introduction to Measure Theory, American Mathematical Society, 2011 — ルベーグ積分の枠組みでのフビニ・トネリの定理。非有界関数や無限区間を扱いたいときはこちらへ。

ここまでの議論は次元を上げてもそのまま通用します。R3\mathbb{R}^3 の直方体を小直方体に分割してリーマン和を作れば 3 重積分が定義でき、Theorem 4.2 と同じ論法で「3 重積分 = 1 変数の積分 3 回」が示せます。変数変換公式も、Proposition 6.1detA\lvert\det A\rvert が「平行六面体の体積」を表すことに置き換えれば、同じ形

Φ(E)fdxdydz=Ef(Φ(u,v,w))detJΦdudvdw\iiint_{\Phi(E)} f\,dx\,dy\,dz = \iiint_{E} f(\Phi(u,v,w))\,\lvert\det J_\Phi\rvert\,du\,dv\,dw

で成り立ちます。

もっともよく使うのが球座標

Φ(r,θ,φ)=(rsinθcosφ, rsinθsinφ, rcosθ)(r>0, 0<θ<π, 0<φ<2π)\Phi(r,\theta,\varphi) = (r\sin\theta\cos\varphi,\ r\sin\theta\sin\varphi,\ r\cos\theta) \qquad (r>0,\ 0<\theta<\pi,\ 0<\varphi<2\pi)

です(θ\theta が天頂角、φ\varphi が方位角)。ヤコビ行列は

JΦ=(sinθcosφrcosθcosφrsinθsinφsinθsinφrcosθsinφrsinθcosφcosθrsinθ0)J_\Phi = \begin{pmatrix} \sin\theta\cos\varphi & r\cos\theta\cos\varphi & -r\sin\theta\sin\varphi\\ \sin\theta\sin\varphi & r\cos\theta\sin\varphi & r\sin\theta\cos\varphi\\ \cos\theta & -r\sin\theta & 0 \end{pmatrix}

で、第 3 行に沿って余因子展開します。第 (3,1)(3,1) 余因子は

+det(rcosθcosφrsinθsinφrcosθsinφrsinθcosφ)=r2sinθcosθ(cos2φ+sin2φ)=r2sinθcosθ,+\det\begin{pmatrix} r\cos\theta\cos\varphi & -r\sin\theta\sin\varphi\\ r\cos\theta\sin\varphi & r\sin\theta\cos\varphi\end{pmatrix} = r^2\sin\theta\cos\theta(\cos^2\varphi+\sin^2\varphi) = r^2\sin\theta\cos\theta,

(3,2)(3,2) 余因子は

det(sinθcosφrsinθsinφsinθsinφrsinθcosφ)=rsin2θ(cos2φ+sin2φ)=rsin2θ-\det\begin{pmatrix}\sin\theta\cos\varphi & -r\sin\theta\sin\varphi\\ \sin\theta\sin\varphi & r\sin\theta\cos\varphi\end{pmatrix} = -r\sin^2\theta(\cos^2\varphi+\sin^2\varphi) = -r\sin^2\theta

なので

detJΦ=cosθr2sinθcosθ+(rsinθ)(rsin2θ)=r2sinθ(cos2θ+sin2θ)=r2sinθ.\det J_\Phi = \cos\theta\cdot r^2\sin\theta\cos\theta + (-r\sin\theta)\cdot(-r\sin^2\theta) = r^2\sin\theta\,(\cos^2\theta+\sin^2\theta) = r^2\sin\theta .

0<θ<π0<\theta<\pi では sinθ>0\sin\theta>0 なので絶対値も r2sinθr^2\sin\theta です。これを使えば半径 aa の球の体積は

02π ⁣ ⁣0π ⁣ ⁣0ar2sinθdrdθdφ=2π[cosθ]0πa33=2π2a33=43πa3\int_0^{2\pi}\!\!\int_0^{\pi}\!\!\int_0^{a} r^2\sin\theta\,dr\,d\theta\,d\varphi = 2\pi\cdot\bigl[-\cos\theta\bigr]_0^{\pi}\cdot\frac{a^3}{3} = 2\pi\cdot2\cdot\frac{a^3}{3} = \frac43\pi a^3

と一息で求まります。Example 6.6rr が「弧長が半径に比例する」ことの反映だったのと同じく、r2sinθr^2\sin\theta は「球面の面積要素が r2sinθdθdφr^2\sin\theta\,d\theta\,d\varphi である」ことの反映です。

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