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リーマン予想とは何か:ゼータ関数の零点が素数を支配する

Prerequisite:Congruences and Fermat's Little Theorem: Computing in a World of Remainders

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  • リーマン・ゼータ関数 ζ(s)=n1ns\zeta(s) = \sum_{n \ge 1} n^{-s}Res>1\operatorname{Re} s > 1 で絶対収束し、そこでオイラー積 p(1ps)1\prod_p (1-p^{-s})^{-1} に等しくなります。この一つの等式が「和(すべての自然数)」と「積(素数)」を橋渡しし、ゼータ関数を素数の言語に変えます。
  • ζ\zetas=1s = 1 を唯一の極(単純極、留数 11)として複素平面全体へ有理型に解析接続され、ss1s1-s を結ぶ関数等式を満たします。
  • 関数等式から s=2,4,6,s = -2, -4, -6, \ldots が零点になります(自明な零点)。それ以外の零点は帯 0Res10 \le \operatorname{Re} s \le 1 に閉じ込められます。
  • リーマン予想とは「非自明零点の実部はすべて 1/21/2 である」という主張です。1859 年にリーマンが提示して以来、証明も反証もされていません。
  • 重要性の核心は明示公式にあります。素数の個数の誤差項は ρxρ/ρ\sum_\rho x^{\rho}/\rho という零点にわたる和で書かれ、誤差の大きさは零点の実部そのものです。リーマン予想は π(x)=li(x)+O(xlogx)\pi(x) = \operatorname{li}(x) + O(\sqrt{x}\log x)同値です。

1. 動機:素数の分布を「関数の零点」に翻訳する

Section titled “1. 動機:素数の分布を「関数の零点」に翻訳する”

素数は 2,3,5,7,11,2, 3, 5, 7, 11, \ldots と、規則がありそうでない並び方をします。素数の魅力 - 素数定理 で見たように、xx 以下の素数の個数 π(x)\pi(x) は大域的には x/logxx/\log x に近づきます(素数定理(Theorem 6.2)[Primes and the Prime Number Theorem])。しかし「近づく」だけでは足りません。数論の実際の問題では、π(x)\pi(x) と近似値のがどれくらい小さいかが決定的に効きます。差が x0.9x^{0.9} 程度なのか x\sqrt{x} 程度なのかで、そこから導ける結論はまるで変わります。

素数そのものを直接眺めても、この誤差の大きさは見えてきません。オイラーは 18 世紀に、まったく別の入口を見つけました。s>1s > 1 の実数に対し

n=11ns=p: 素数11ps\sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^{s}} = \prod_{p:\ \text{素数}} \frac{1}{1 - p^{-s}}

が成り立つ、というのです。左辺には素数が一つも現れず、右辺は素数だけでできています。両者が等しいのは、素因数分解の一意性という算術の根本事実の言い換えにほかなりません(合同式とフェルマーの小定理 で使った一意分解、すなわち 算術の基本定理(Theorem 4.2)[Primes and the Prime Number Theorem] が、ここで解析の道具に化けます)。

リーマンは 1859 年の論文で決定的な一歩を踏み出しました。ss複素数に拡張し、ζ(s)\zeta(s) を複素平面全体で定義しなおしたのです。すると素数の個数を表す明示的な公式が得られ、その公式の中に ζ\zeta の零点が現れました。素数の分布のゆらぎは、零点の位置によって完全に支配されていたのです。零点がどこにあるか——それがリーマン予想です。

この章では、ζ(s)\zeta(s) の定義から出発して、オイラー積・解析接続・関数等式を経て、リーマン予想の主張と、それが素数分布と同値である仕組みまでを追います。

2. 準備:複素べきと級数の収束

Section titled “2. 準備:複素べきと級数の収束”

複素数 ss と正の実数 nn に対し、ns:=eslognn^{-s} := e^{-s \log n}logn\log n は実自然対数)と定めます。s=σ+its = \sigma + itσ,tR\sigma, t \in \mathbb{R})と書くと

ns=e(σ+it)logn=eσlogn=nσ|n^{-s}| = |e^{-(\sigma + it)\log n}| = e^{-\sigma \log n} = n^{-\sigma}

です。つまり絶対値は実部だけで決まります。この一行が以後すべての収束判定の土台になります。

以下、ss の実部を σ\sigma、虚部を tt と書く習慣に従います。また pp は常に素数を走る変数とし、N={1,2,3,}\mathbb{N} = \{1, 2, 3, \ldots\}00 を含めない)とします。

Definition 2.1リーマン・ゼータ関数(級数表示)

複素数 ssRes>1\operatorname{Re} s > 1 を満たすとき、

ζ(s):=n=11ns\zeta(s) := \sum_{n=1}^{\infty} \frac{1}{n^{s}}

と定める。この級数は Res>1\operatorname{Re} s > 1 で絶対収束し、さらに任意の δ>0\delta > 0 に対し半平面 Res1+δ\operatorname{Re} s \ge 1 + \delta 上で一様収束する。したがって ζ\zetaRes>1\operatorname{Re} s > 1 で正則である。

収束を確かめておきます。σ1+δ\sigma \ge 1 + \delta のとき ns=nσn1δ|n^{-s}| = n^{-\sigma} \le n^{-1-\delta} であり、n1n1δ\sum_{n \ge 1} n^{-1-\delta} は積分判定法(1x1δdx=1/δ<\int_1^\infty x^{-1-\delta}dx = 1/\delta < \infty)により収束します。よってワイヤシュトラスの MM 判定法から一様収束が従い、正則関数列の一様収束極限は正則なので ζ\zeta は正則です。一方 σ1\sigma \le 1 では nσn1=\sum n^{-\sigma} \ge \sum n^{-1} = \infty なので、この級数はもう使えません。σ=1\sigma = 1 が級数表示の限界です。

3. オイラー積:ゼータ関数が素数を知っている理由

Section titled “3. オイラー積:ゼータ関数が素数を知っている理由”

Theorem 3.1オイラー積表示

Res>1\operatorname{Re} s > 1 を満たすすべての複素数 ss に対して

ζ(s)=p: 素数(1ps)1\zeta(s) = \prod_{p:\ \text{素数}} \left(1 - p^{-s}\right)^{-1}

が成り立つ。ここで右辺は limNpN(1ps)1\lim_{N \to \infty} \prod_{p \le N} (1 - p^{-s})^{-1} の意味であり、この極限は存在する。

Proof(Theorem 3.1)

σ=Res>1\sigma = \operatorname{Re} s > 1 を固定します。

第 1 段(各因子の展開). 任意の素数 pp に対し ps=pσ2σ<1|p^{-s}| = p^{-\sigma} \le 2^{-\sigma} < 1 ですから、等比級数の公式が使えて

(1ps)1=k=0pks\left(1 - p^{-s}\right)^{-1} = \sum_{k=0}^{\infty} p^{-ks}

が絶対収束します。

第 2 段(有限個の積の展開). NN 以下の素数を p1<p2<<prp_1 < p_2 < \cdots < p_r とします。絶対収束する級数は有限個であれば自由に掛け合わせて項別に並べ替えられるので

pN(1ps)1=k1,,kr0(p1k1p2k2prkr)s=nANns\prod_{p \le N} \left(1 - p^{-s}\right)^{-1} = \sum_{k_1, \ldots, k_r \ge 0} \left(p_1^{k_1} p_2^{k_2} \cdots p_r^{k_r}\right)^{-s} = \sum_{n \in A_N} n^{-s}

となります。ここで ANA_N は「素因数がすべて NN 以下であるような自然数」の集合です。二つ目の等号で素因数分解の一意性Theorem 4.2[Primes and the Prime Number Theorem])を使いました。ANA_N の各元 nn は指数の組 (k1,,kr)(k_1,\ldots,k_r) とちょうど一対一に対応するので、右辺で各 nn が過不足なく一度だけ現れます。

第 3 段(極限). nNn \le N ならば nn の素因数はすべて nn 以下、したがって NN 以下ですから nANn \in A_N です。対偶を取れば nANn>Nn \notin A_N \Rightarrow n > N、すなわち ANA_N の補集合は {n:n>N}\{n : n > N\} に含まれます。したがって

ζ(s)pN(1ps)1=nANnsn>Nnσ.\left|\zeta(s) - \prod_{p \le N}\left(1 - p^{-s}\right)^{-1}\right| = \left|\sum_{n \notin A_N} n^{-s}\right| \le \sum_{n > N} n^{-\sigma}.

最後の量は収束級数 nnσ\sum_n n^{-\sigma} の剰余項なので NN \to \infty00 に収束します。以上より主張が従います。

この証明で使った算術の事実は素因数分解の一意性だけです。逆に言えば、オイラー積は一意分解の解析的な言い換えです。だからこそ、ζ\zeta の解析的な性質を調べることが素数を調べることになるのです。

まず、この積表示から ζ\zeta が右半平面で消えないことが出ます。

Corollary 3.2右半平面での非零性

Res>1\operatorname{Re} s > 1 ならば ζ(s)0\zeta(s) \neq 0 である。

Proof(Corollary 3.2)

σ>1\sigma > 1 とします。nns\sum_n |n^{-s}| が収束するので並べ替えが自由にでき、任意の素数 pp に対し

ζ(s)(1ps)=n1nsn1(pn)s=pnns\zeta(s)\left(1 - p^{-s}\right) = \sum_{n \ge 1} n^{-s} - \sum_{n \ge 1} (pn)^{-s} = \sum_{p \,\nmid\, n} n^{-s}

が成り立ちます(n(pn)s\sum_n (pn)^{-s} はちょうど pp の倍数にわたる和だからです)。これを pNp \le N なる素数について順に繰り返すと

ζ(s)pN(1ps)=nBNns,BN:={nN:n の素因数はすべて N より大きい}\zeta(s) \prod_{p \le N} \left(1 - p^{-s}\right) = \sum_{n \in B_N} n^{-s}, \qquad B_N := \{n \in \mathbb{N} : n \text{ の素因数はすべて } N \text{ より大きい}\}

を得ます。BNB_N には 11 が属し、11 以外の元は NN より大きい素因数を持つので NN より大きい数です。よって

ζ(s)pN(1ps)1n>Nnσ.\left|\zeta(s)\prod_{p \le N}\left(1 - p^{-s}\right)\right| \ge 1 - \sum_{n > N} n^{-\sigma}.

nnσ\sum_n n^{-\sigma} が収束するので、NN を十分大きく取れば n>Nnσ1/2\sum_{n>N} n^{-\sigma} \le 1/2 とできます。そのとき左辺は 1/21/2 以上、特に 00 ではありません。積の一因子である ζ(s)\zeta(s)00 なら左辺は 00 になってしまうので、ζ(s)0\zeta(s) \neq 0 です。

Corollary 3.3素数の無限性(オイラー)

素数は無限個存在する。

Proof(Corollary 3.3)

ss11 より大きい実数に限って考えます。まず ζ(s)\zeta(s) \to \inftys1+0s \to 1+0)を示します。任意の NN を固定すると、正項級数なので ζ(s)n=1Nns\zeta(s) \ge \sum_{n=1}^{N} n^{-s} です。右辺は ss の連続関数で、s1+0s \to 1+0 のとき調和数 HN=nN1/nH_N = \sum_{n \le N} 1/n に収束します。よって lim infs1+0ζ(s)HN\liminf_{s \to 1+0} \zeta(s) \ge H_N が任意の NN で成り立ち、HNH_N \to \infty ですから ζ(s)\zeta(s) \to \infty です。

さて素数が有限個 p1,,prp_1, \ldots, p_r しかないと仮定します。Theorem 3.1 の右辺は有限積になり、s1+0s \to 1+0 のとき

i=1r(1pis)1i=1r(1pi1)1<\prod_{i=1}^{r} \left(1 - p_i^{-s}\right)^{-1} \longrightarrow \prod_{i=1}^{r}\left(1 - p_i^{-1}\right)^{-1} < \infty

と有限値に収束します。これは ζ(s)\zeta(s) \to \infty に矛盾します。

同じ道具をもう少し押すと、ユークリッドの証明(ユークリッドの定理(Theorem 3.2)[Primes and the Prime Number Theorem])では届かない「素数の密度」の情報が出ます。

Proposition 3.4素数の逆数和の発散

p: 素数1p=\displaystyle\sum_{p:\ \text{素数}} \frac{1}{p} = \infty である。

Proof(Proposition 3.4)

s>1s > 1 を実数とします。Theorem 3.1 の両辺は正の実数なので対数が取れ、log(1u)=k1uk/k-\log(1-u) = \sum_{k \ge 1} u^{k}/k0<u<10 < u < 1)を各因子に適用して

logζ(s)=pk=1pksk=pps+R(s),R(s):=pk2pksk\log \zeta(s) = \sum_{p} \sum_{k=1}^{\infty} \frac{p^{-ks}}{k} = \sum_{p} p^{-s} + R(s), \qquad R(s) := \sum_{p}\sum_{k \ge 2} \frac{p^{-ks}}{k}

を得ます(二重級数はすべて正項なので順序交換は自由です)。剰余項 R(s)R(s) を評価します。1/k11/k \le 1 と等比級数の和から

0R(s)pk2pks=pp2s1ps2pp2s2n21n2=2(π261)<1.30 \le R(s) \le \sum_{p} \sum_{k \ge 2} p^{-ks} = \sum_{p} \frac{p^{-2s}}{1 - p^{-s}} \le 2\sum_{p} p^{-2s} \le 2 \sum_{n \ge 2} \frac{1}{n^{2}} = 2\left(\frac{\pi^{2}}{6} - 1\right) < 1.3

です。ここで s>1s > 1, p2p \ge 2 より ps1/2p^{-s} \le 1/2、したがって (1ps)12(1-p^{-s})^{-1} \le 2 を使いました。よって

ppslogζ(s)1.3.\sum_{p} p^{-s} \ge \log \zeta(s) - 1.3.

Corollary 3.3 の証明で示したとおり s1+0s \to 1+0ζ(s)\zeta(s) \to \infty、すなわち logζ(s)\log \zeta(s) \to \infty ですから、pps\sum_p p^{-s} \to \infty です。

もし p1/p\sum_p 1/p が収束していたとすると、s>1s > 1 のとき ps<p1p^{-s} < p^{-1} なので ppspp1<\sum_p p^{-s} \le \sum_p p^{-1} < \infty となり、s1+0s \to 1+0 で有界のままです。これは矛盾です。

n1/n2\sum_n 1/n^{2} は収束するのに p1/p\sum_p 1/p は発散する。これは「素数は平方数よりずっと多い」という定量的な情報で、素数の無限性よりはるかに強い主張です。オイラー積が素数の分布を掴んでいることの最初の証拠と言えます(この発散は Theorem 5.2[Primes and the Prime Number Theorem] としても扱いました)。

Example 3.5バーゼル問題と「二数が互いに素である確率」

バーゼル問題の答え ζ(2)=π2/6=1.644934\zeta(2) = \pi^{2}/6 = 1.644934\ldots を認めます。Theorem 3.1s=2s = 2 で使うと

p(11p2)=1ζ(2)=6π2=0.607927\prod_{p}\left(1 - \frac{1}{p^{2}}\right) = \frac{1}{\zeta(2)} = \frac{6}{\pi^{2}} = 0.607927\ldots

です。左辺の意味を考えます。1a,bX1 \le a, b \le X からランダムに二つ選ぶとき、両方が pp で割り切れる確率はおよそ 1/p21/p^{2}、割り切れない確率はおよそ 11/p21 - 1/p^{2} です。異なる素数についてこれらが独立に振る舞うと信じれば、aabb が互いに素である確率は p(1p2)=6/π260.79%\prod_p (1-p^{-2}) = 6/\pi^{2} \approx 60.79\% になります。

実際、X=100X = 100 で数えると、1a,b1001 \le a, b \le 1001000010000 組のうち gcd(a,b)=1\gcd(a,b)=1 となるのは 60876087 組で、60.87%60.87\% です。予言との差は 0.10.1 ポイント未満でした。素数の「独立性」という素朴な直観が、オイラー積という等式によって正確な形を与えられています。

4. 解析接続:級数の外側へゼータ関数を延ばす

Section titled “4. 解析接続:級数の外側へゼータ関数を延ばす”

級数表示 Definition 2.1Res>1\operatorname{Re} s > 1 でしか意味を持ちません。しかし素数の情報が濃く現れるのは、むしろその外側です。そこで解析接続という操作が要ります。

Definition 4.1解析接続

領域 UCU \subset \mathbb{C} 上の正則関数 ff と、UU を含む領域 VUV \supset U 上の正則関数 FFFU=fF|_{U} = f を満たすとき、FFffVV への解析接続という。VV が連結ならば、そのような FF は存在すれば一意である(一致の定理)。有理型関数への拡張も同様に「有理型接続」として扱う。

一意性は重要です。「ζ(1)=1/12\zeta(-1) = -1/12」といった等式が、勝手な定義の産物ではなく一意に決まった値であることを保証するのがこの定理だからです。実際の接続には、Res>1\operatorname{Re} s > 1ζ\zeta に一致し、より広い範囲で収束する式を一つ見つければ十分です。交代級数がその役を果たします。

Lemma 4.2ディリクレのエータ関数

η(s):=n=1(1)n1ns\eta(s) := \sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-1)^{n-1}}{n^{s}}

は半平面 Res>0\operatorname{Re} s > 0 の各コンパクト部分集合上で一様収束し、そこで正則関数を定める。

Proof(Lemma 4.2)

2n12n-1 項と第 2n2n 項を組にして gn(s):=(2n1)s(2n)sg_n(s) := (2n-1)^{-s} - (2n)^{-s} とおきます。ddx(xs)=sxs1\frac{d}{dx}\left(-x^{-s}\right) = s x^{-s-1} ですから、微積分学の基本定理より

gn(s)=2n12nsxs1dx.g_n(s) = \int_{2n-1}^{2n} s\, x^{-s-1}\,dx.

xs1=xσ1|x^{-s-1}| = x^{-\sigma-1} なので、σδ>0\sigma \ge \delta > 0 かつ sM|s| \le M を満たす ss に対し

gn(s)s2n12nxσ1dxM(2n1)δ1.|g_n(s)| \le |s| \int_{2n-1}^{2n} x^{-\sigma-1}dx \le M (2n-1)^{-\delta-1}.

n(2n1)1δ<\sum_n (2n-1)^{-1-\delta} < \infty ですから、ワイヤシュトラスの MM 判定法により ngn\sum_n g_n はこの集合上で一様収束します。各 gng_n は整関数なので、和は正則です。半平面 Res>0\operatorname{Re} s > 0 の任意のコンパクト集合はこの形の集合に含まれるので、広義一様収束が言えました。

n2N(1)n1ns=nNgn(s)\sum_{n \le 2N} (-1)^{n-1}n^{-s} = \sum_{n \le N} g_n(s) ですから、η\eta の偶数番目の部分和は収束します。奇数番目の部分和との差は (2N+1)s(2N+1)^{-s} で、絶対値は (2N+1)σ0(2N+1)^{-\sigma} \to 0σ>0\sigma > 0)ですから、η(s)\eta(s) 自身も同じ値に収束します。

Theorem 4.3ゼータ関数の有理型接続と単純極

ζ\zeta は半平面 Res>0\operatorname{Re} s > 0 上の有理型関数に一意に接続され、その接続は s=1s = 1 のみを極として持つ。この極は単純極で、留数は 11 である。すなわち

lims1(s1)ζ(s)=1.\lim_{s \to 1}\,(s-1)\zeta(s) = 1 .
Proof(Theorem 4.3)

第 1 段(恒等式). Res>1\operatorname{Re} s > 1 では級数が絶対収束するので、偶数項だけを取り出して

n 偶数ns=m1(2m)s=2sζ(s)\sum_{n \text{ 偶数}} n^{-s} = \sum_{m \ge 1} (2m)^{-s} = 2^{-s}\zeta(s)

と書けます。したがって

η(s)=n1ns2n 偶数ns=ζ(s)22sζ(s)=(121s)ζ(s).\eta(s) = \sum_{n \ge 1} n^{-s} - 2\sum_{n \text{ 偶数}} n^{-s} = \zeta(s) - 2 \cdot 2^{-s}\zeta(s) = \left(1 - 2^{1-s}\right)\zeta(s).

第 2 段(接続の定義). そこで Res>0\operatorname{Re} s > 0s1s \ne 1 において

ζ(s):=η(s)121s\zeta(s) := \frac{\eta(s)}{1 - 2^{1-s}}

と定めます。Lemma 4.2 より分子は Res>0\operatorname{Re} s > 0 で正則、分母は整関数ですから、右辺は分母の零点を除いて正則で、そこでは有理型です。第 1 段よりこの関数は Res>1\operatorname{Re} s > 1 で元の ζ\zeta に一致します。一意性は Definition 4.1 の一致の定理によります。

第 3 段(s=1s=1 での挙動). 分母 h(s)=121sh(s) = 1 - 2^{1-s}h(1)=0h(1) = 0h(s)=21slog2h'(s) = 2^{1-s}\log 2 より h(1)=log20h'(1) = \log 2 \ne 0 なので、s=1s=1hh の単純零点です。一方、分子は交代調和級数の和 η(1)=log20\eta(1) = \log 2 \ne 0 です。よって s=1s=1ζ\zeta の単純極であり、

lims1(s1)ζ(s)=lims1η(s)h(s)/(s1)=η(1)h(1)=log2log2=1.\lim_{s \to 1}(s-1)\zeta(s) = \lim_{s\to 1}\frac{\eta(s)}{h(s)/(s-1)} = \frac{\eta(1)}{h'(1)} = \frac{\log 2}{\log 2} = 1 .

Remark 4.4

上の式の分母 121s1 - 2^{1-s}s=1+2πik/log2s = 1 + 2\pi i k/\log 2kZk \in \mathbb{Z})でも消えます。k0k \ne 0 のこれらの点で本当に極が立つのかが気になりますが、実は立ちません。33 を使った同じ計算

(131s)ζ(s)=n1anns,an={2(3n)1(3n)\left(1 - 3^{1-s}\right)\zeta(s) = \sum_{n \ge 1} \frac{a_n}{n^{s}}, \qquad a_n = \begin{cases} -2 & (3 \mid n) \\ 1 & (3 \nmid n)\end{cases}

において、ana_n は周期 33 で一周期の和が 1+12=01+1-2=0 ですから部分和が有界で、この級数も Res>0\operatorname{Re} s > 0 で収束します。したがって ζ\zeta131s1 - 3^{1-s} の零点 s=1+2πik/log3s = 1 + 2\pi i k/\log 3 の外では正則です。二つの零点集合の共通部分は s=1s = 1 のみ(log2/log3\log 2/\log 3 が無理数であることによります)なので、s1s \ne 1 ではどちらかの表示が正則性を保証します。

同じ手口をさらに進める(あるいはテータ関数のメリン変換を使う)と、ζ\zeta は複素平面全体へ接続され、次の顕著な対称性が現れます。

Theorem 4.5リーマンの関数等式

ζ\zetaC\mathbb{C} 全体へ有理型に接続され、s=1s = 1 を唯一の極(単純極、留数 11)とする。さらに、すべての sCs \in \mathbb{C} に対して

ζ(s)=2sπs1sin ⁣(πs2)Γ(1s)ζ(1s)\zeta(s) = 2^{s}\,\pi^{s-1}\,\sin\!\left(\frac{\pi s}{2}\right)\Gamma(1-s)\,\zeta(1-s)

が有理型関数の等式として成り立つ。同値な形として、完備ゼータ関数

ξ(s):=12s(s1)πs/2Γ ⁣(s2)ζ(s)\xi(s) := \frac{1}{2}\,s(s-1)\,\pi^{-s/2}\,\Gamma\!\left(\frac{s}{2}\right)\zeta(s)

は整関数であり、ξ(s)=ξ(1s)\xi(s) = \xi(1-s) を満たす。

Remark 4.6

この定理の証明はリーマンの 1859 年の論文にあり、ヤコビのテータ関数 θ(x)=nZeπn2x\theta(x) = \sum_{n \in \mathbb{Z}} e^{-\pi n^{2}x} の変換公式 θ(1/x)=xθ(x)\theta(1/x) = \sqrt{x}\,\theta(x)(ポアソン和公式から出ます)をメリン変換に通すのが標準的です。詳しい証明は Edwards『Riemann’s Zeta Function』第 1 章、または Titchmarsh 第 2 章にあります。ここでは主張を認めて先に進みます。

ξ(s)=ξ(1s)\xi(s) = \xi(1-s) は、複素平面を直線 Res=1/2\operatorname{Re} s = 1/2 で折り返す鏡映対称性です。この直線が「臨界線」と呼ばれるのは、関数等式の対称軸だからです。さらに nsˉ=nsn^{-\bar{s}} = \overline{n^{-s}} より ζ(sˉ)=ζ(s)\zeta(\bar{s}) = \overline{\zeta(s)}Res>1\operatorname{Re} s > 1 で成り立ち、一致の定理で全平面へ伝わります。したがって零点は実軸に関しても対称です。零点は上下左右の二重の対称性を持って配置されているわけです。

Example 4.7関数等式から特殊値を計算する

s=1s = -1Theorem 4.5 に代入します。sin(π/2)=1\sin(-\pi/2) = -1Γ(2)=1\Gamma(2) = 1ζ(2)=π2/6\zeta(2) = \pi^{2}/6 ですから

ζ(1)=21π2(1)1π26=112.\zeta(-1) = 2^{-1}\pi^{-2}\cdot(-1)\cdot 1 \cdot \frac{\pi^{2}}{6} = -\frac{1}{12}.

s=0s = 0 では sin0=0\sin 0 = 0ζ(1)=\zeta(1) = \infty が打ち消しあうので、極限で計算します。s0s \to 0 のとき sin(πs/2)πs/2\sin(\pi s/2) \sim \pi s/2、また Theorem 4.3 より ζ(1s)1(1s)1=1s\zeta(1-s) \sim \frac{1}{(1-s)-1} = -\frac{1}{s} ですから

ζ(0)=lims02sπs1πs2Γ(1s)(1s)=1π1π21(1)=12.\zeta(0) = \lim_{s\to 0} 2^{s}\pi^{s-1}\cdot\frac{\pi s}{2}\cdot \Gamma(1-s)\cdot\left(-\frac{1}{s}\right) = 1 \cdot \pi^{-1}\cdot\frac{\pi}{2}\cdot 1 \cdot(-1) = -\frac{1}{2}.

特に s=0s = 0ζ\zeta の零点ではありません。この一点の確認が、次の命題で s=0s=0 を除外する根拠になります。

Proposition 5.1自明な零点

k=1,2,3,k = 1, 2, 3, \ldots に対し ζ(2k)=0\zeta(-2k) = 0 である。さらに、半平面 Res<0\operatorname{Re} s < 0 における ζ\zeta の零点はこれらに限る。

Proof(Proposition 5.1)

σ=Res<0\sigma = \operatorname{Re} s < 0 とし、Theorem 4.5 の右辺の各因子を調べます。

  • 2sπs12^{s}\pi^{s-1} は決して 00 になりません。
  • Re(1s)=1σ>1\operatorname{Re}(1-s) = 1 - \sigma > 1 なので、Γ(1s)\Gamma(1-s) は極を持たず、しかもガンマ関数は零点を持たない(1/Γ1/\Gamma が整関数であることによります)ので Γ(1s)0\Gamma(1-s) \neq 0 です。
  • 同じく Re(1s)>1\operatorname{Re}(1-s) > 1 なので、Corollary 3.2 より ζ(1s)0\zeta(1-s) \neq 0 です。また級数表示があるので有限値です。

したがって右辺が 00 になるのは sin(πs/2)=0\sin(\pi s/2) = 0 のとき、つまり ss が偶数のときに限ります。σ<0\sigma < 0 の範囲でこれを満たすのは s=2,4,6,s = -2, -4, -6, \ldots です。逆にこれらの ss では上の三つの因子が有限かつ非零で sin(πs/2)=0\sin(\pi s/2)=0 なので、積は 00 になります。

Definition 5.2非自明零点と臨界帯

ζ\zeta の零点のうち s=2,4,6,s = -2, -4, -6, \ldots 以外のものを非自明零点と呼ぶ。Corollary 3.2Res>1\operatorname{Re} s > 1 に零点なし)と Proposition 5.1Res<0\operatorname{Re} s < 0 には自明零点のみ)により、非自明零点はすべて帯

0Res10 \le \operatorname{Re} s \le 1

に属する。この帯を臨界帯、直線 Res=1/2\operatorname{Re} s = 1/2臨界線という。

ReIm−2−4−6自明な零点01単純極臨界帯臨界線 Re s = 1/2非自明零点(実軸に関して対称)
臨界帯と零点の配置(虚部の目盛りは模式的)

Axiom 5.3リーマン予想(未解決の主張)

ζ\zeta のすべての非自明零点 ρ\rho

Reρ=12\operatorname{Re}\rho = \frac{1}{2}

を満たす。同値な形で述べれば、ξ(s)=0Res=1/2\xi(s) = 0 \Rightarrow \operatorname{Re} s = 1/2 である。

Remark 5.4

上の主張は定理ではありません。1859 年にリーマンが論文中で「証明を試みたが本筋から外れるので保留する」と述べたまま、今日まで証明も反証もされていない予想です。仮定として置いたうえで結論を導く(「リーマン予想の下で〜が成り立つ」)という使い方をされるため、ここでは公準の枠で提示しています。クレイ数学研究所のミレニアム懸賞問題の一つでもあります。

現在わかっていることを列挙します。

  • ハーディ(1914)は臨界線上に非自明零点が無限個あることを示しました。ただし「無限個ある」ことと「すべてそこにある」ことは別です。
  • コンリー(1989)は非自明零点の 2/52/5 以上が臨界線上にあることを示しました。この方向の記録は少しずつ更新されていますが、100%100\% には遠く及びません。
  • 数値計算では、虚部の小さいほうから 101310^{13} 個の非自明零点がすべて臨界線上にあることが確認されています(ゴードン、2004)。反例は見つかっていません。
  • 一方、Res=1\operatorname{Re} s = 1 上に零点がないことは証明されています(アダマールとド・ラ・ヴァレ・プーサン、1896)。これは素数定理と同値な事実で、リーマン予想はこの「11」を「1/21/2」まで押し下げよという要求だと読めます。

Example 5.5虚部 100 までの零点を数える

虚部が 0<γ<T0 < \gamma < T の範囲にある非自明零点の個数 N(T)N(T) について、リーマン・フォン・マンゴルトの公式

N(T)=T2πlogT2πT2π+78+O(logT)N(T) = \frac{T}{2\pi}\log\frac{T}{2\pi} - \frac{T}{2\pi} + \frac{7}{8} + O(\log T)

が知られています。T=100T = 100 で主要項を計算すると、T/(2π)=15.9155T/(2\pi) = 15.9155log(15.9155)=2.7673\log(15.9155) = 2.7673 より

15.9155×2.767315.9155+0.875=44.0415.92+0.88=29.00.15.9155 \times 2.7673 - 15.9155 + 0.875 = 44.04 - 15.92 + 0.88 = 29.00 .

実際に 0<γ<1000 < \gamma < 100 にある非自明零点は 29 個で、主要項の予言とぴたりと一致します。虚部の小さいほうから並べると

γ1=14.134725,γ2=21.022040,γ3=25.010858,γ4=30.424876\gamma_1 = 14.134725\ldots,\quad \gamma_2 = 21.022040\ldots,\quad \gamma_3 = 25.010858\ldots,\quad \gamma_4 = 30.424876\ldots

で、対応する零点は ρk=12+iγk\rho_k = \tfrac{1}{2} + i\gamma_k と、その複素共役 12iγk\tfrac{1}{2} - i\gamma_k です。零点は虚部が大きくなるほど密に並んでおり、高さ TT あたりの密度は 12πlogT2π\frac{1}{2\pi}\log\frac{T}{2\pi} でゆっくり増えます。

6. なぜこれが素数分布の最重要問題なのか

Section titled “6. なぜこれが素数分布の最重要問題なのか”

リーマン予想が「ゼータ関数のマニアックな性質」ではなく素数の問題である理由は、明示公式にあります。素数を数える代わりに、素数べきに logp\log p の重みを付けたチェビシェフ関数を使うと式が最も簡単になります。

Definition 6.1チェビシェフ関数と対数積分

フォン・マンゴルト関数を

Λ(n):={logp(n=pk, p は素数, k1)0(それ以外)\Lambda(n) := \begin{cases} \log p & (n = p^{k},\ p \text{ は素数},\ k \ge 1) \\ 0 & (\text{それ以外}) \end{cases}

で定め、ψ(x):=nxΛ(n)\psi(x) := \sum_{n \le x}\Lambda(n) とおく。また対数積分(Definition 6.1[Primes and the Prime Number Theorem])を主値積分

li(x):=p.v. ⁣0xdtlogt\operatorname{li}(x) := \mathrm{p.v.}\!\int_{0}^{x} \frac{dt}{\log t}

で定める。素数定理は ψ(x)x\psi(x) \sim x、あるいは π(x)li(x)\pi(x) \sim \operatorname{li}(x) と表される。

Remark 6.2リーマンの明示公式

x>1x > 1 が素数べきでないとき、非自明零点 ρ\rho 全体にわたる和として

ψ(x)=xρxρρlog(2π)12log ⁣(1x2)\psi(x) = x - \sum_{\rho} \frac{x^{\rho}}{\rho} - \log(2\pi) - \frac{1}{2}\log\!\left(1 - x^{-2}\right)

が成り立ちます(和は ImρT|\operatorname{Im}\rho| \le T で切って TT \to \infty とする対称的な極限の意味です)。この式は、ζ(s)/ζ(s)=n1Λ(n)ns-\zeta'(s)/\zeta(s) = \sum_{n\ge1}\Lambda(n)n^{-s} を複素積分(ペロンの公式)で反転し、留数定理を使って得られます。s=1s=1 の極が主要項 xx を、非自明零点 ρ\rho が項 xρ/ρ-x^{\rho}/\rho を、自明な零点が最後の対数項を生みます。証明は Edwards 第 3 章、または Apostol 第 13 章にあります。

この式は驚くべきものです。左辺は素数を数える階段関数、右辺は滑らかな項 xx と、零点ごとの波の重ね合わせです。ρ=β+iγ\rho = \beta + i\gamma と書くと

xρρ=xβρ\left|\frac{x^{\rho}}{\rho}\right| = \frac{x^{\beta}}{|\rho|}

ですから、各零点の寄与の大きさは実部 β\beta だけで決まりますβ\beta11 に近い零点があれば誤差は xx とほぼ同じ大きさになり、素数の分布は大きく乱れます。逆にすべての β\beta1/21/2 なら、誤差はどれも x\sqrt{x} の程度に揃います。リーマン予想とは「誤差項が可能な限り小さい」という主張なのです。

flowchart TD
A["オイラー積: zeta(s) = prod (1 - p^-s)^-1"] --> B["対数微分: -zeta'/zeta(s) = sum Lambda(n) n^-s"]
B --> C["ペロンの公式で複素積分に直す"]
C --> D["留数定理: s=1 の極 と 非自明零点 rho の寄与を拾う"]
D --> E["明示公式: psi(x) = x - sum_rho x^rho / rho - ..."]
E --> F["|x^rho| = x^(Re rho): 誤差の指数 = 零点の実部"]
F --> G["リーマン予想 (Re rho = 1/2) は誤差 O(sqrt(x)) と同値"]
ゼータ関数から素数分布へ至る論理の流れ

この直観を厳密にしたのがフォン・コッホの定理です。

Theorem 6.3フォン・コッホの同値定理

次の二つは同値である。

  1. リーマン予想(Axiom 5.3)が成り立つ。
  2. ある定数 C>0C > 0 が存在して、すべての x2x \ge 2 に対し
π(x)li(x)Cxlogx.\left|\pi(x) - \operatorname{li}(x)\right| \le C\sqrt{x}\,\log x .

同値な別形として、リーマン予想は「任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し ψ(x)=x+O ⁣(x1/2+ε)\psi(x) = x + O\!\left(x^{1/2+\varepsilon}\right)」とも同値である。

Remark 6.4

証明の骨格だけ述べます。(1)(2)(1) \Rightarrow (2)Remark 6.2 の明示公式で xρ=x|x^{\rho}| = \sqrt{x} を代入し、γT1/ρ\sum_{|\gamma| \le T} 1/|\rho|Example 5.5 の零点密度で評価し、TTxx の関数として最適に選ぶことで得られます。(2)(1)(2) \Rightarrow (1) は対偶で、β>1/2\beta > 1/2 なる零点があればランダウの定理により誤差項が xβεx^{\beta - \varepsilon} より小さくならないことを示します。完全な証明は von Koch (1901)、あるいは Titchmarsh 第 14 章にあります。なお定数まで込めた精密形として、リーマン予想の下で x2657x \ge 2657 ならば π(x)li(x)18πxlogx|\pi(x)-\operatorname{li}(x)| \le \frac{1}{8\pi}\sqrt{x}\log x が成り立つことが Schoenfeld (1976) により示されています。

Example 6.5素数計数関数と対数積分の差を実際に見る

既知の値を並べます。

xxπ(x)\pi(x)li(x)\operatorname{li}(x)(概算)li(x)π(x)\operatorname{li}(x)-\pi(x)x\sqrt{x}
10410^{4}12291\,2291246.11\,246.117.117.1100100
10610^{6}7849878\,49878627.578\,627.5129.5129.510001\,000
10810^{8}57614555\,761\,4555762209.45\,762\,209.4754.4754.410410^{4}
101010^{10}455052511455\,052\,511455055614.6455\,055\,614.63103.63\,103.610510^{5}
101210^{12}3760791201837\,607\,912\,01837607950280.837\,607\,950\,280.838262.838\,262.810610^{6}

差はどの行でも x\sqrt{x} より小さく、xx10810^{8} 倍になっても差は 20002000 倍程度にしか増えていません。x\sqrt{x}10410^{4} 倍になっているので、経験的には x\sqrt{x} よりむしろ緩やかです。Theorem 6.3 の主張する xlogx\sqrt{x}\log x の枠に、余裕をもって収まっています。

表を見ると li(x)>π(x)\operatorname{li}(x) > \pi(x) が常に成り立ちそうに見えますが、これは誤りです。リトルウッド(1914)は li(x)π(x)\operatorname{li}(x) - \pi(x)符号を無限回変えることを証明しました。最初の符号変化が起きる xx の位置は今も特定されておらず、上界(スキューズ数と呼ばれる系列の評価)が知られているだけです。有限の数値実験がどれほど説得的に見えても証明にはならない、という数論の教訓がここにあります。

リーマン予想が素数以外にも波及することを示すため、同値な言明をいくつか挙げます。見た目の分野がまったく違うのに、すべて臨界線上の零点という一点に帰着します。

同値な言明内容出典
素数計数の誤差π(x)=li(x)+O(xlogx)\pi(x) = \operatorname{li}(x) + O(\sqrt{x}\log x)von Koch (1901)
チェビシェフ関数任意の ε>0\varepsilon > 0ψ(x)=x+O(x1/2+ε)\psi(x) = x + O(x^{1/2+\varepsilon})明示公式から
メルテンス関数任意の ε>0\varepsilon > 0nxμ(n)=O(x1/2+ε)\sum_{n \le x}\mu(n) = O(x^{1/2+\varepsilon})古典的
約数和の上界n>5040n > 5040 なるすべての nnσ(n)<eγnloglogn\sigma(n) < e^{\gamma} n \log\log nRobin (1984)
調和数による判定すべての n1n \ge 1σ(n)Hn+eHnlogHn\sigma(n) \le H_n + e^{H_n}\log H_n(等号は n=1n=1 のみ)Lagarias (2002)

ここで μ\mu はメビウス関数、σ(n)\sigma(n)nn の約数の総和、Hn=kn1/kH_n = \sum_{k \le n} 1/kγ\gamma はオイラー・マスケローニ定数です。最後の二つは複素解析をまったく含まない初等的な形をしていますが、リーマン予想と完全に同値です。とくに Lagarias の判定は、リーマン予想を算術の Π1\Pi_1 文として書き下すための道具にもなります(Example 8.2[ゲーデルの不完全性定理])。

さらに、この構図は ζ\zeta に限りません。数論に現れる多くの対象——ディリクレの LL 関数、代数体のデデキント・ゼータ関数、そして 楕円曲線とモジュラー形式 で扱う楕円曲線の LL 関数(Definition 4.4[楕円曲線とモジュラー形式] のトレース apa_p から作られます)——にも同型の関数等式と「一般化リーマン予想」があります。同じ形の予想が広い範囲で立つこと自体が、零点の位置が偶然ではないことを示唆しています。リーマン予想は、素数分布という一つの問題であると同時に、LL 関数という一族全体の設計図についての問いでもあるのです。

Exercise 7.1

Res>1\operatorname{Re} s > 1 のとき (121s)ζ(s)=n1(1)n1ns\left(1 - 2^{1-s}\right)\zeta(s) = \sum_{n\ge1}(-1)^{n-1}n^{-s} が成り立つことを、絶対収束を根拠として示してください。また s=2s = 2 でこの等式を確かめ、n1(1)n1/n2\sum_{n \ge 1}(-1)^{n-1}/n^{2} の値を求めてください。

Solution

Res=σ>1\operatorname{Re} s = \sigma > 1nns=nnσ<\sum_n |n^{-s}| = \sum_n n^{-\sigma} < \infty なので、級数の項を自由に並べ替え・分割できます。偶数 n=2mn = 2m にわたる和は

m1(2m)s=2sm1ms=2sζ(s)\sum_{m \ge 1}(2m)^{-s} = 2^{-s}\sum_{m\ge1} m^{-s} = 2^{-s}\zeta(s)

です。したがって

n1(1)n1ns=n1ns2n 偶数ns=ζ(s)22sζ(s)=(121s)ζ(s).\sum_{n\ge1}\frac{(-1)^{n-1}}{n^{s}} = \sum_{n \ge 1}n^{-s} - 2\sum_{n \text{ 偶数}} n^{-s} = \zeta(s) - 2\cdot 2^{-s}\zeta(s) = \left(1-2^{1-s}\right)\zeta(s).

s=2s = 2 とすると 121=1/21 - 2^{-1} = 1/2 なので

n1(1)n1n2=12ζ(2)=12π26=π212=0.822467\sum_{n\ge1}\frac{(-1)^{n-1}}{n^{2}} = \frac{1}{2}\zeta(2) = \frac{1}{2}\cdot\frac{\pi^{2}}{6} = \frac{\pi^{2}}{12} = 0.822467\ldots

です。

Exercise 7.2標準

μ\mu をメビウス関数とします。μ(n)2\mu(n)^{2}nn が平方因子を持たないとき 11、そうでないとき 00 です。Res>1\operatorname{Re} s > 1 において

n=1μ(n)2ns=ζ(s)ζ(2s)\sum_{n=1}^{\infty}\frac{\mu(n)^{2}}{n^{s}} = \frac{\zeta(s)}{\zeta(2s)}

を示してください。

Solution

σ>1\sigma > 1 とします。Theorem 3.1 の証明と同じ論法を使います。nn が平方因子を持たないことは、nn の素因数分解に各素数が高々 11 回しか現れないことと同値です。したがって有限積を展開すると

pN(1+ps)=nAN, μ(n)2=1ns\prod_{p \le N}\left(1 + p^{-s}\right) = \sum_{n \in A_N,\ \mu(n)^2 = 1} n^{-s}

となります(各素数について「使わない」か「11 回だけ使う」かの二択で、素因数分解の一意性からこれらの nn が重複なく現れます)。ここで ANA_N は素因数がすべて NN 以下の自然数の集合です。nNn \le N なら必ず nANn \in A_N ですから、左辺と無限和の差は n>Nn > N の項だけからなり、その絶対値は n>Nnσ0\sum_{n>N} n^{-\sigma} \to 0 で抑えられます。よって NN \to \infty として

n1μ(n)2ns=p(1+ps).\sum_{n\ge1}\frac{\mu(n)^{2}}{n^{s}} = \prod_{p}\left(1+p^{-s}\right).

nμ(n)2nσζ(σ)<\sum_n \mu(n)^2 n^{-\sigma} \le \zeta(\sigma) < \infty なので絶対収束は保証されます。)

次に恒等式 1+u=1u21u1 + u = \dfrac{1-u^{2}}{1-u}u=psu = p^{-s})を使うと

p(1+ps)=p1p2s1ps=p(1p2s)p(1ps)=ζ(s)ζ(2s).\prod_p \left(1+p^{-s}\right) = \prod_p \frac{1 - p^{-2s}}{1-p^{-s}} = \frac{\prod_p\left(1-p^{-2s}\right)}{\prod_p\left(1-p^{-s}\right)} = \frac{\zeta(s)}{\zeta(2s)} .

最後の等号で Theorem 3.1ss2s2s の両方に適用しました(Re(2s)>2>1\operatorname{Re}(2s) > 2 > 1 なので適用可能で、Corollary 3.2 より ζ(2s)0\zeta(2s) \ne 0 なので割り算も正当です)。

Exercise 7.3標準

Theorem 4.5ζ(4)=π4/90\zeta(4) = \pi^{4}/90 を使って ζ(3)\zeta(-3) を求めてください。

Solution

関数等式

ζ(s)=2sπs1sin ⁣(πs2)Γ(1s)ζ(1s)\zeta(s) = 2^{s}\pi^{s-1}\sin\!\left(\frac{\pi s}{2}\right)\Gamma(1-s)\zeta(1-s)

s=3s = -3 を代入します。各因子を順に計算します。

  • 23=182^{-3} = \dfrac18π31=π4\pi^{-3-1} = \pi^{-4}
  • sin(3π2)=+1\sin\left(\dfrac{-3\pi}{2}\right) = +13π/2-3\pi/2π/2\pi/22π2\pi の差なので値は 11 です)。
  • Γ(1(3))=Γ(4)=3!=6\Gamma(1-(-3)) = \Gamma(4) = 3! = 6
  • ζ(1(3))=ζ(4)=π490\zeta(1-(-3)) = \zeta(4) = \dfrac{\pi^{4}}{90}

したがって

ζ(3)=181π416π490=6890=1120.\zeta(-3) = \frac{1}{8}\cdot\frac{1}{\pi^{4}}\cdot 1 \cdot 6 \cdot \frac{\pi^{4}}{90} = \frac{6}{8 \cdot 90} = \frac{1}{120}.

π4\pi^{4} が約分されて有理数になる点に注意してください。一般に負の奇数点 ζ(12m)\zeta(1-2m) はベルヌーイ数を用いて B2m/(2m)-B_{2m}/(2m) と書ける有理数になります。実際 m=2m=2 では B4=1/30B_4 = -1/30 より B4/4=1/120-B_4/4 = 1/120 で、上の計算と一致します。

Exercise 7.4

Res>1\operatorname{Re} s > 1 において

ζ(s)ζ(s)=n=1Λ(n)ns-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)} = \sum_{n=1}^{\infty}\frac{\Lambda(n)}{n^{s}}

が成り立つことを示してください(Λ\LambdaDefinition 6.1 のフォン・マンゴルト関数)。これが Remark 6.2 の明示公式の出発点です。

Solution

σ0>1\sigma_0 > 1 を固定し、半平面 Resσ0\operatorname{Re} s \ge \sigma_0 で考えます。Corollary 3.2 より ζ(s)0\zeta(s)\ne0 なので ζ/ζ\zeta'/\zeta はここで正則です。

Proposition 3.4 の証明と同じ展開により、Res>1\operatorname{Re} s > 1

logζ(s)=pk=1pksk\log \zeta(s) = \sum_{p}\sum_{k=1}^{\infty}\frac{p^{-ks}}{k}

が成り立ちます(対数は ζ\zeta の連続な分枝を取ります)。右辺の二重級数は Resσ0\operatorname{Re} s \ge \sigma_0

pkpkσ0kpkpkσ02ppσ02ζ(σ0)<\sum_p \sum_k \frac{p^{-k\sigma_0}}{k} \le \sum_p\sum_k p^{-k\sigma_0} \le 2\sum_p p^{-\sigma_0} \le 2\zeta(\sigma_0) < \infty

と一様に評価できるので、広義一様収束します。正則関数列が広義一様収束するとき項別微分できる(ワイヤシュトラスの定理)ので、ddspks=(klogp)pks\frac{d}{ds}p^{-ks} = -(k\log p)\,p^{-ks} を使って

ζ(s)ζ(s)=ddslogζ(s)=pk1(klogp)pksk=pk1(logp)pks.\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)} = \frac{d}{ds}\log\zeta(s) = \sum_p \sum_{k\ge1} \frac{-(k\log p)p^{-ks}}{k} = -\sum_p\sum_{k \ge 1}(\log p)\, p^{-ks}.

符号を移すと

ζ(s)ζ(s)=pk1logp(pk)s.-\frac{\zeta'(s)}{\zeta(s)} = \sum_p \sum_{k\ge1}\frac{\log p}{\left(p^{k}\right)^{s}} .

右辺の和は「素数べき n=pkn = p^{k}」を走り、そのとき係数は logp=Λ(n)\log p = \Lambda(n) です。素数べきでない nn には Λ(n)=0\Lambda(n)=0 を割り当てればよいので、右辺は n1Λ(n)ns\sum_{n \ge 1}\Lambda(n)n^{-s} に等しくなります。素因数分解の一意性より、各素数べき nn を与える組 (p,k)(p,k) は一意なので、重複はありません。

  • B. Riemann, “Über die Anzahl der Primzahlen unter einer gegebenen Grösse”, Monatsberichte der Berliner Akademie, 1859. — 関数等式・明示公式・リーマン予想が最初に現れた原論文。
  • H. M. Edwards, Riemann’s Zeta Function, Academic Press, 1974(Dover 版 2001)— 第 1 章がリーマンの原論文の逐条解説、第 3 章が明示公式。
  • E. C. Titchmarsh, The Theory of the Riemann Zeta-Function, 2nd ed. (revised by D. R. Heath-Brown), Oxford University Press, 1986. — 第 2 章に関数等式、第 14 章にリーマン予想と誤差項の同値性。
  • T. M. Apostol, Introduction to Analytic Number Theory, Springer, 1976. — 第 11〜13 章。オイラー積から素数定理までを学部レベルで丁寧に扱う。
  • H. von Koch, “Sur la distribution des nombres premiers”, Acta Mathematica 24 (1901), 159–182. — Theorem 6.3 の原論文。
  • J. B. Conrey, “The Riemann Hypothesis”, Notices of the American Mathematical Society 50 (2003), 341–353. — 現代的な研究状況の概観。

Appendix: 零点はなぜ「波」なのか

Section titled “Appendix: 零点はなぜ「波」なのか”

明示公式の各項を波として読む方法を補足します。 Remark 6.2 の和に現れる零点は共役対 ρ=12+iγ\rho = \tfrac12 + i\gammaρˉ=12iγ\bar\rho = \tfrac12 - i\gamma で現れます(Theorem 4.5 の後で述べた実軸対称性によります)。リーマン予想を仮定してこの対の寄与をまとめると、xρ=x1/2eiγlogxx^{\rho} = x^{1/2}e^{i\gamma\log x}xρ=x1/2eiγlogx\overline{x^{\rho}} = x^{1/2}e^{-i\gamma\log x} の和になるので

xρρ+xρˉρˉ=2Rexρρ=2xρcos ⁣(γlogxargρ)\frac{x^{\rho}}{\rho} + \frac{x^{\bar\rho}}{\bar\rho} = 2\operatorname{Re}\frac{x^{\rho}}{\rho} = \frac{2\sqrt{x}}{|\rho|}\cos\!\left(\gamma\log x - \arg\rho\right)

という実数の式になります。これは変数 u=logxu = \log x について周期 2π/γ2\pi/\gamma の余弦波で、振幅は 2x/ρ2\sqrt{x}/|\rho| です。

つまり明示公式は「ψ(x)=x(無数の余弦波の重ね合わせ)\psi(x) = x - (\text{無数の余弦波の重ね合わせ})」と読めます。素数の分布は、主要項 xx に零点由来の波が干渉して階段状の形が作られる、という描像です。振幅は 2x/ρ2\sqrt{x}/|\rho| なので、虚部 γ\gamma の小さい零点ほど大きく効きます。γ1=14.13\gamma_1 = 14.13 の零点が最も強い波を出し、その周期は logx\log x について 2π/14.130.4452\pi/14.13 \approx 0.445、すなわち xxe0.4451.56e^{0.445} \approx 1.56 倍になるごとに一周します。

もし臨界線から外れた零点 ρ=β+iγ\rho = \beta + i\gammaβ>1/2\beta > 1/2)が存在すれば、その波の振幅は xβx^{\beta} に比例して他より速く育ち、いずれすべての波を圧倒します。リーマン予想とは「どの波も突出しない」、言い換えれば素数の分布が主要項のまわりで可能な限り整然と揺れている、という主張なのです。

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