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L^p 空間と関数解析への導入:ヘルダーの不等式から完備性・ヒルベルト空間まで

Prerequisite:ルベーグ積分の定義と収束定理:値域を分割して極限と積分を交換する

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  • 測度空間 (X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) の上で Xfpdμ<\int_X |f|^p\,d\mu < \infty を満たす可測関数を集め、ほとんど至るところ一致する関数どうしを同一視すると、線形空間 Lp(μ)L^p(\mu) が得られます。この同一視をしないと fp=0f=0\|f\|_p = 0 \Rightarrow f = 0 が成り立たず、ノルムになりません。
  • p\|\cdot\|_p が三角不等式を満たすこと(ミンコフスキーの不等式)は p=1p = 1 以外では自明ではありません。ヤングの不等式 → ヘルダーの不等式 → ミンコフスキーの不等式という順に積み上げて証明します。
  • 1p1 \le p \le \infty のとき Lp(μ)L^p(\mu)完備、すなわちバナッハ空間です(リース–フィッシャーの定理)。完備性はルベーグ積分の収束定理から出るもので、リーマン積分の枠内では得られません。ここが微分積分学と実解析の分かれ目です。
  • p=2p = 2 のときに限り、ノルム 2\|\cdot\|_2 は内積 f,g=Xfgˉdμ\langle f,g\rangle = \int_X f\bar{g}\,d\mu から誘導されます。L2(μ)L^2(\mu) はヒルベルト空間であり、フーリエ級数論・直交射影・量子力学の状態空間はすべてここに乗ります。
  • LpL^p 空間は「関数を空間の点とみなす」最初の本格的な例です。稠密性・双対性・弱収束といった関数解析の基本語彙が、この空間の上で具体的な計算として現れます。

1. 動機 — 関数を「点」とみなすということ

Section titled “1. 動機 — 関数を「点」とみなすということ”

19 世紀の解析学は、関数を「変数 xx に値を対応させる規則」として扱ってきました。しかしフーリエ級数の研究が進むにつれて、別の見方が必要になります。三角級数 ncneinx\sum_{n} c_n e^{inx} が「どういう意味で」もとの関数に収束するのかを論じるには、関数の集まりの上に距離を入れて、収束を論じる舞台を作らなければなりません。つまり、関数 1 個を空間の 1 点とみなすという発想の転換です。

このとき距離をどう入れるかが問題になります。素朴には、各点での値の差の上限 supxf(x)g(x)\sup_x |f(x)-g(x)| を距離にすればよさそうです。これは一様収束の距離(一様ノルム(Definition 2.1)[関数列と一様収束])であり、扱いやすい性質をたくさん持っています(関数列と一様収束 を参照してください)。しかしフーリエ級数は一般には一様収束しません。連続関数のフーリエ級数がある点で発散しうることさえ知られています。一様収束の距離は、フーリエ解析にとっては細かすぎるのです。

そこで「平均としてどれだけ違うか」を測る距離、たとえば 01fgdx\int_0^1 |f-g|\,dx(01fg2dx)1/2\bigl(\int_0^1 |f-g|^2\,dx\bigr)^{1/2} を考えます。ところが、これらの距離を連続関数やリーマン可積分関数の全体に入れると、完備でないという致命的な欠陥が現れます。

Example 1.1連続関数の空間は平均距離で完備でない

C([0,1])C([0,1])[0,1][0,1] 上の実数値連続関数全体とし、距離を d(f,g)=01f(x)g(x)dxd(f,g) = \int_0^1 |f(x)-g(x)|\,dx で定めます。n3n \ge 3 に対して

fn(x)={0,0x12,n(x12),12<x<12+1n,1,12+1nx1f_n(x) = \begin{cases} 0, & 0 \le x \le \tfrac12, \\[2pt] n\bigl(x - \tfrac12\bigr), & \tfrac12 < x < \tfrac12 + \tfrac1n, \\[2pt] 1, & \tfrac12 + \tfrac1n \le x \le 1 \end{cases}

と置くと、各 fnf_n は連続です。m>nm > n のとき fmfnf_m - f_n[12,12+1n][\tfrac12, \tfrac12 + \tfrac1n] の外で 00 であり、その上で fmfn1|f_m - f_n| \le 1 ですから

d(fn,fm)1/21/2+1/n1dx=1nn0d(f_n, f_m) \le \int_{1/2}^{1/2+1/n} 1 \, dx = \frac{1}{n} \xrightarrow[n\to\infty]{} 0

となり、(fn)(f_n) はコーシー列です。ところが、この列が C([0,1])C([0,1]) の元 gg に収束したとしましょう。[0,12][0,\tfrac12] 上では fn0f_n \equiv 0 なので 01/2gdx=limn01/2gfndxlimnd(fn,g)=0\int_0^{1/2}|g| \,dx = \lim_n \int_0^{1/2} |g - f_n|\,dx \le \lim_n d(f_n,g) = 0、したがって g=0|g| = 0[0,12][0,\tfrac12] 上ほとんど至るところ成り立ちます。gg は連続なので、[0,12][0,\tfrac12] 全体で g0g \equiv 0 です(連続関数がある区間上でほとんど至るところ 00 なら、g(x0)0g(x_0)\ne0 となる点があれば連続性より x0x_0 の近傍全体で g>g(x0)/2|g| > |g(x_0)|/2 となり、正の測度の集合で g0g \ne 0 となって矛盾します)。同様に、任意の ε>0\varepsilon > 0 に対して [12+ε,1][\tfrac12+\varepsilon, 1] 上では十分大きい nnfn1f_n \equiv 1 なので g1g \equiv 1 が従い、連続性から [12,1][\tfrac12, 1] 上で g1g \equiv 1 です。すると g(12)=0g(\tfrac12) = 0 かつ g(12)=1g(\tfrac12) = 1 となって矛盾します。

つまり (C([0,1]),d)(C([0,1]), d) は完備ではありません。

この状況は、有理数体 Q\mathbb{Q} が完備でないのとまったく同じ構図です。Q\mathbb{Q} の穴を埋めて R\mathbb{R} を作ったように、関数空間の穴も埋めなければなりません(実数の完備性とコーシー列、とくに Theorem 7.3[Completeness of the Real Numbers and Cauchy Sequences] を参照してください)。そして決定的な事実として、ルベーグ積分を使って空間を作り直すと、穴はちょうど埋まりますExample 1.1(fn)(f_n) の「行き先」は不連続関数 χ(1/2,1]\chi_{(1/2,1]} であり、リーマン積分でも扱えますが、一般のコーシー列の極限はリーマン可積分とは限りません。ルベーグ可測関数まで広げて初めて閉じるのです。

この事実を 1907 年にほぼ同時に発見したのが F. リースと E. フィッシャーで、以後この定理はリース–フィッシャーの定理と呼ばれています。本章の目標は、この定理を含む LpL^p 空間の基本性質を、定義から順に証明することです。

以下、(X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu)測度空間とします。すなわち XX は集合、M\mathcal{M}XX の部分集合からなる σ\sigma-加法族、μ ⁣:M[0,]\mu \colon \mathcal{M} \to [0,\infty] は可算加法的な測度です(可測集合とルベーグ測度、とくに Definition 4.5[可測集合とルベーグ測度] を参照してください)。関数の値域は実数体 R\mathbb{R} または複素数体 C\mathbb{C} とし、スカラー体を K\mathbb{K} と書きます。以下の議論は K\mathbb{K} がどちらでも同じように通ります。

ルベーグ積分の定義と収束定理 で確立した次の道具を、断りなく使います。

  • 単調収束定理Theorem 5.2[ルベーグ積分の定義と収束定理]):可測関数の列 0g1g20 \le g_1 \le g_2 \le \cdots が各点で gg に収束するなら XgndμXgdμ\int_X g_n \, d\mu \to \int_X g\, d\mu
  • 優収束定理Theorem 7.3[ルベーグ積分の定義と収束定理]):可測関数列 (hn)(h_n) がほとんど至るところ hh に収束し、ある GL1(μ)G \in L^1(\mu) が存在して各 nn について hnG|h_n| \le G がほとんど至るところ成り立つなら、Xhnhdμ0\int_X |h_n - h|\,d\mu \to 0
  • 零集合に鈍感であることProposition 6.4[ルベーグ積分の定義と収束定理]):f=gf = gμ\mu-ほとんど至るところ成り立てば Xfdμ=Xgdμ\int_X f\,d\mu = \int_X g\,d\mu。特に f0f \ge 0 可測で Xfdμ=0\int_X f\,d\mu = 0 なら f=0f = 0 ほとんど至るところ。

「ほとんど至るところ」(almost everywhere、以下 a.e.)とは、その性質が成り立たない点の集合が μ\mu-零集合に含まれる、という意味です。本章では、この概念が単なる技術的な但し書きではなく、空間そのものの定義に組み込まれることを見ます。

3.1. pp 乗可積分関数と pp ノルム

Section titled “3.1. ppp 乗可積分関数と ppp ノルム”

Definition 3.1L^p 空間

1p<1 \le p < \infty とする。可測関数 f ⁣:XKf \colon X \to \mathbb{K} に対して

fp:=(Xfpdμ)1/p[0,]\|f\|_p := \left( \int_X |f|^p \, d\mu \right)^{1/p} \in [0,\infty]

と定め、fp<\|f\|_p < \infty となる ffpp 乗可積分という。pp 乗可積分な可測関数の全体を Lp(μ)\mathcal{L}^p(\mu) と書き、f=gf = g a.e. という同値関係による商集合を

Lp(μ):=Lp(μ)/{f=g a.e.}L^p(\mu) := \mathcal{L}^p(\mu) / \{\,f = g \ \text{a.e.}\,\}

と書く。Lp(μ)L^p(\mu) の元 [f][f] に対して [f]p:=fp\|[f]\|_p := \|f\|_p と定める。

商をとる操作を明示したのは、これが本質的だからです。f=gf = g a.e. ならば fp=gp|f|^p = |g|^p a.e. なので Xfp=Xgp\int_X |f|^p = \int_X |g|^p となり、p\|\cdot\|_p の値は同値類の代表元の取り方によりません。つまり [f]p\|[f]\|_p は矛盾なく定まります。逆に商をとらないと何が困るかは Remark 3.3 で述べます。以後は煩雑さを避けて [f][f] を単に ff と書き、「LpL^p の関数」という言い方をしますが、頭の中では常に同値類を考えてください。

p=p = \infty の場合は、上限を「零集合を無視した上限」に取り替えて定義します。

Definition 3.2本質的上限と L^∞ 空間

可測関数 f ⁣:XKf\colon X \to \mathbb{K} に対して

f:=inf{M[0,]  :  f(x)M が a.e. x で成り立つ}\|f\|_\infty := \inf \bigl\{ M \in [0,\infty] \;:\; |f(x)| \le M \ \text{が a.e. } x \text{ で成り立つ} \bigr\}

と定め、本質的上限(essential supremum)という。f<\|f\|_\infty < \infty となる可測関数を本質的有界といい、その全体を a.e. 同値で割った空間を L(μ)L^\infty(\mu) と書く。

定義に現れた下限は実際に最小値です。この点は後で繰り返し使うので、証明しておきます。M:=f<M := \|f\|_\infty < \infty とすると、下限の定義から各 nNn \in \mathbb{N} に対して Mn<M+1/nM_n < M + 1/n かつ fMn|f| \le M_n a.e. となる MnM_n が取れます。Nn:={x:f(x)>Mn}N_n := \{x : |f(x)| > M_n\} は零集合であり、可算個の零集合の合併 N:=nNnN := \bigcup_{n} N_n もまた零集合です(測度の可算劣加法性)。xNx \notin N ならすべての nnf(x)Mn<M+1/n|f(x)| \le M_n < M + 1/n なので、nn \to \infty として f(x)M|f(x)| \le M を得ます。したがって

f(x)fa.e. x|f(x)| \le \|f\|_\infty \quad \text{a.e. } x

が成り立ちます。「ほとんど至るところ」を無限個の条件に対して同時に扱うときに、可算個であれば零集合の合併は零集合という事実が効いている点に注意してください。これは本章を通じて何度も使う型です。

Remark 3.3商をとらないとノルムにならない

p\|\cdot\|_pLp(μ)\mathcal{L}^p(\mu) の上でノルムの公理を満たすかどうかを見てみます。斉次性 cfp=cfp\|cf\|_p = |c|\,\|f\|_pcfp=cpfp\int |cf|^p = |c|^p \int |f|^p から直ちに従い、三角不等式は後の Theorem 4.5 で示されます。問題は正定値性 fp=0f=0\|f\|_p = 0 \Rightarrow f = 0 です。

μ\mu をルベーグ測度、X=[0,1]X = [0,1]f=χ{1/2}f = \chi_{\{1/2\}}(1 点だけで 11、他は 00)とすると 01fpdμ=0\int_0^1 |f|^p \, d\mu = 0 なので fp=0\|f\|_p = 0 ですが、関数としては f0f \ne 0 です。つまり p\|\cdot\|_pLp(μ)\mathcal{L}^p(\mu) の上では半ノルムにしかなりません。

しかし逆向きの主張は成り立ちます。1p<1 \le p < \inftyfp=0\|f\|_p = 0 とすると、ε>0\varepsilon > 0 に対して集合 Aε:={x:f(x)>ε}A_\varepsilon := \{x : |f(x)| > \varepsilon\} 上で fp>εp|f|^p > \varepsilon^p なので

0=Xfpdμ  Aεfpdμ  εpμ(Aε)0 = \int_X |f|^p \, d\mu \ \ge \ \int_{A_\varepsilon} |f|^p \, d\mu \ \ge \ \varepsilon^p \mu(A_\varepsilon)

となり μ(Aε)=0\mu(A_\varepsilon) = 0 を得ます(これはチェビシェフの不等式と呼ばれる評価です)。{x:f(x)0}=nNA1/n\{x : f(x) \ne 0\} = \bigcup_{n\in\mathbb{N}} A_{1/n} は零集合の可算合併なので零集合であり、f=0f = 0 a.e. が従います。p=p=\infty でも f=0\|f\|_\infty = 0 なら定義から直ちに f=0f = 0 a.e. です。

すなわち、fp=0\|f\|_p = 0f=0f = 0 a.e. は同値です。だからこそ a.e. 同値で商をとれば、ちょうど正定値性が回復します。LpL^p の定義に「ほとんど至るところ」が組み込まれているのは、ノルム空間にするための必然なのです。

Remark 3.4L^p の元に点ごとの値はない

Lp(μ)L^p(\mu) の元は関数ではなく関数の同値類です。したがって、μ({x0})=0\mu(\{x_0\}) = 0 であるような点 x0x_0 について「f(x0)f(x_0) の値」は LpL^p の元の情報として意味を持ちません。代表元を取り替えれば好きな値にできるからです。

一方、Afdμ\int_A f \, d\muAA は可測集合)や fp\|f\|_p は同値類の情報だけで決まります。LpL^p の議論で扱ってよいのは、このような「積分を通した量」だけです。逆に、LpL^p の元に対して点ごとの値を意味づけたい場面(たとえば偏微分方程式の境界値)では、連続な代表元を選ぶなどの追加の議論が必要になります。

3.3. どの関数がどの LpL^p に属するか

Section titled “3.3. どの関数がどの LpL^pLp に属するか”

Example 3.5べき関数の可積分性

α>0\alpha > 0 とし、R\mathbb{R} 上のルベーグ測度を考えます。

(1) f(x)=xαf(x) = x^{-\alpha} を区間 (0,1)(0,1) で考える場合。 1p<1 \le p < \infty に対して 01xαpdx\int_0^1 x^{-\alpha p}\,dx を計算します。αp1\alpha p \ne 1 のとき、0<ϵ<10 < \epsilon < 1 に対して

ϵ1xαpdx=[x1αp1αp]ϵ1=1ϵ1αp1αp\int_\epsilon^1 x^{-\alpha p}\,dx = \left[ \frac{x^{1-\alpha p}}{1-\alpha p} \right]_\epsilon^1 = \frac{1 - \epsilon^{\,1-\alpha p}}{1-\alpha p}

です。単調収束定理より ϵ0\epsilon \downarrow 0 の極限が 01xαpdx\int_0^1 x^{-\alpha p}dx を与えます。αp<1\alpha p < 1 なら 1αp>01 - \alpha p > 0ϵ1αp0\epsilon^{1-\alpha p} \to 0 となり、極限は 11αp<\frac{1}{1-\alpha p} < \inftyαp>1\alpha p > 1 なら 1αp<01 - \alpha p < 0ϵ1αp\epsilon^{1-\alpha p} \to \infty となり、極限は ++\inftyαp=1\alpha p = 1 のときは ϵ1x1dx=logϵ+\int_\epsilon^1 x^{-1}dx = -\log\epsilon \to +\infty。まとめると

fLp((0,1))    αp<1    p<1α.f \in L^p((0,1)) \iff \alpha p < 1 \iff p < \frac{1}{\alpha}.

(2) 同じ f(x)=xαf(x) = x^{-\alpha} を区間 (1,)(1,\infty) で考える場合。 R>1R > 1 に対して 1Rxαpdx=R1αp11αp\int_1^R x^{-\alpha p}dx = \frac{R^{1-\alpha p}-1}{1-\alpha p}αp1\alpha p \ne 1)ですから、RR \to \infty で有限に留まるのは 1αp<01 - \alpha p < 0 のとき、すなわち

fLp((1,))    αp>1    p>1α.f \in L^p((1,\infty)) \iff \alpha p > 1 \iff p > \frac{1}{\alpha}.

(3) 結論。 条件 (1) と (2) は両立しないので、xαx^{-\alpha}(0,)(0,\infty) 全体ではどの LpL^p にも属しません。たとえば α=1/2\alpha = 1/2 とすると、x1/2χ(0,1)L1x^{-1/2}\chi_{(0,1)} \in L^1 ですが L2L^2 には属さず(p=2p=2p<2p < 2 を満たさない)、x1/2χ(1,)L3x^{-1/2}\chi_{(1,\infty)} \in L^3 ですが L2L^2 には属しません。原点付近の特異性は pp が小さいほど許され、無限遠での減衰の遅さは pp が大きいほど許される、というのが LpL^p の指数 pp の意味です。

flowchart TD
A["X 上の可測関数の全体"] --> B["p 乗可積分なものの全体(線形空間)"]
B --> C["p ノルムは半ノルムにとどまる"]
C --> D["ほとんど至るところ等しい関数を同一視する"]
D --> E["ノルム空間 L^p"]
E --> F["ミンコフスキーの不等式:三角不等式"]
E --> G["リース–フィッシャーの定理:完備性"]
F --> H["バナッハ空間 L^p"]
G --> H
H --> I["p = 2 のとき内積が入る:ヒルベルト空間 L^2"]
L^p 空間の構成の流れ

4. ヘルダーの不等式とミンコフスキーの不等式

Section titled “4. ヘルダーの不等式とミンコフスキーの不等式”

Lp(μ)\mathcal{L}^p(\mu) が線形空間であること、すなわち f,gLpf, g \in \mathcal{L}^p なら f+gLpf+g \in \mathcal{L}^p であることさえ、p>1p > 1 では自明ではありません。f+gp(f+g)p|f+g|^p \le (|f|+|g|)^p は正しいものの、右辺を fp+gp|f|^p + |g|^p で押さえることはできないからです。この節では、必要な不等式を根本から積み上げます。

まず記号を 1 つ用意します。1p1 \le p \le \infty に対して

1p+1q=1\frac{1}{p} + \frac{1}{q} = 1

を満たす q[1,]q \in [1,\infty]pp共役指数と呼びます(1/=01/\infty = 0 の約束によります)。具体的には 1<p<1 < p < \infty なら q=pp1q = \dfrac{p}{p-1}p=1p=1 なら q=q=\inftyp=p=\infty なら q=1q=1 です。p=2p=2 の共役指数は 22 自身であり、この自己共役性が後で L2L^2 を特別な空間にします。

Lemma 4.1ヤングの不等式

1<p<1 < p < \inftyqq をその共役指数とする。任意の a,b0a, b \ge 0 に対して

abapp+bqqab \le \frac{a^p}{p} + \frac{b^q}{q}

が成り立つ。等号が成立するのは ap=bqa^p = b^q のとき、かつそのときに限る。

Proof(Lemma 4.1)

a=0a = 0 または b=0b = 0 のときは左辺が 00、右辺が 0\ge 0 なので不等式は成立し、等号は ap=bqa^p = b^q(すなわち両方 00)のときだけです。以下 a,b>0a, b > 0 とします。

対数関数 log\log(0,)(0,\infty) 上で (logt)=1/t2<0(\log t)'' = -1/t^2 < 0 を満たすので狭義凹です。狭義凹関数に対するイェンセンの不等式(2 点版)とは、λ(0,1)\lambda \in (0,1)uvu \ne v のとき

log(λu+(1λ)v)>λlogu+(1λ)logv\log\bigl(\lambda u + (1-\lambda) v\bigr) > \lambda \log u + (1-\lambda)\log v

が成り立ち、u=vu = v のときは等号になる、という主張です。ここで λ=1/p\lambda = 1/p1λ=1/q1-\lambda = 1/q(共役指数の定義より 1/p+1/q=11/p + 1/q = 1 なので、この 2 つは和が 11 の正の重みです)、u=apu = a^pv=bqv = b^q と取ると

log(app+bqq)  1plogap+1qlogbq=loga+logb=log(ab)\log\left( \frac{a^p}{p} + \frac{b^q}{q} \right) \ \ge \ \frac{1}{p}\log a^p + \frac{1}{q}\log b^q = \log a + \log b = \log(ab)

を得ます。log\log は狭義単調増加なので、両辺の指数をとって app+bqqab\dfrac{a^p}{p} + \dfrac{b^q}{q} \ge ab が従います。さらに狭義凹性から、等号が成り立つのは u=vu = v すなわち ap=bqa^p = b^q のとき、かつそのときに限ります。

この不等式には面積による解釈があり、そちらの方が「なぜ 1/p1/p1/q1/q が現れるのか」が見えやすいと思います。

y = xp−1abxyap/pbq/q破線の長方形の面積 = ab
ヤングの不等式の面積による解釈

曲線 y=xp1y = x^{p-1} は、q=p/(p1)q = p/(p-1) を使うと x=yq1x = y^{q-1} とも書けます(y=xp1y = x^{p-1} の両辺を 1/(p1)1/(p-1) 乗すると x=y1/(p1)=yq1x = y^{1/(p-1)} = y^{q-1} です。実際 q1=pp11=1p1q - 1 = \frac{p}{p-1} - 1 = \frac{1}{p-1})。したがって曲線より下で 0xa0 \le x \le a の部分の面積は 0axp1dx=ap/p\int_0^a x^{p-1}dx = a^p/p、曲線より左で 0yb0 \le y \le b の部分の面積は 0byq1dy=bq/q\int_0^b y^{q-1}dy = b^q/q です。この 2 つの領域は曲線を境に重なりを持たず、合わせて長方形 [0,a]×[0,b][0,a]\times[0,b] を覆います。面積を比較すれば abap/p+bq/qab \le a^p/p + b^q/q が読み取れます。等号は 2 領域の和がちょうど長方形になるとき、すなわち点 (a,b)(a,b) が曲線上にあるとき、つまり b=ap1b = a^{p-1} すなわち bq=a(p1)q=apb^q = a^{(p-1)q} = a^p のときです。Lemma 4.1 の等号条件と一致しています。

Theorem 4.2ヘルダーの不等式

(X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) を測度空間、1p1 \le p \le \inftyqqpp の共役指数とする。可測関数 f,g ⁣:XKf, g \colon X \to \mathbb{K}fLp(μ)f \in \mathcal{L}^p(\mu)gLq(μ)g \in \mathcal{L}^q(\mu) を満たすならば、積 fgfg は可積分であり

Xfgdμ  fpgq\int_X |fg| \, d\mu \ \le \ \|f\|_p \, \|g\|_q

が成り立つ。すなわち fg1fpgq\|fg\|_1 \le \|f\|_p\|g\|_q である。

Proof(Theorem 4.2)

f,gf, g が可測なら fg|fg| も可測なので、積分 Xfgdμ[0,]\int_X |fg|\,d\mu \in [0,\infty] は定義されています。以下、これが右辺以下であることを示します。

(i) p=1p = 1q=q = \infty の場合。 Definition 3.2 の直後に示したとおり gg|g| \le \|g\|_\infty a.e. です。よって fggf|fg| \le \|g\|_\infty |f| が a.e. で成り立ち、積分の単調性(a.e. の不等式でも成立します)から

XfgdμgXfdμ=f1g.\int_X |fg|\,d\mu \le \|g\|_\infty \int_X |f| \, d\mu = \|f\|_1 \|g\|_\infty .

p=p=\inftyq=1q=1 の場合も ffgg の役割を入れ替えれば同じです。

(ii) 1<p<1 < p < \inftyfp=0\|f\|_p = 0 または gq=0\|g\|_q = 0 の場合。 たとえば fp=0\|f\|_p = 0 とすると Remark 3.3 より f=0f = 0 a.e.、したがって fg=0fg = 0 a.e. となり Xfgdμ=0=fpgq\int_X |fg|\,d\mu = 0 = \|f\|_p\|g\|_q で、等号として成立します。

(iii) 1<p<1 < p < \inftyfp>0\|f\|_p > 0 かつ gq>0\|g\|_q > 0 の場合。 A:=fpA := \|f\|_pB:=gqB := \|g\|_q と置き、正規化された関数

F:=fA,G:=gBF := \frac{|f|}{A}, \qquad G := \frac{|g|}{B}

を考えます。このとき XFpdμ=1ApXfpdμ=1\int_X F^p \, d\mu = \dfrac{1}{A^p}\int_X |f|^p d\mu = 1、同様に XGqdμ=1\int_X G^q\,d\mu = 1 です。各点 xxLemma 4.1a=F(x)a = F(x)b=G(x)b = G(x) に適用すると

F(x)G(x)  F(x)pp+G(x)qqF(x) G(x) \ \le \ \frac{F(x)^p}{p} + \frac{G(x)^q}{q}

が成り立ちます。右辺は可積分(Fp,GqF^p, G^q がともに可積分)なので、両辺を XX 上で積分して

XFGdμ  1pXFpdμ+1qXGqdμ=1p+1q=1\int_X FG \, d\mu \ \le \ \frac{1}{p}\int_X F^p d\mu + \frac{1}{q}\int_X G^q d\mu = \frac{1}{p} + \frac{1}{q} = 1

を得ます(最後の等号は共役指数の定義 1/p+1/q=11/p+1/q=1 によります)。左辺は 1ABXfgdμ\dfrac{1}{AB}\int_X |fg|\,d\mu ですから、両辺に AB>0AB > 0 を掛けて

Xfgdμ  AB=fpgq\int_X |fg|\,d\mu \ \le \ AB = \|f\|_p\|g\|_q

となります。特に右辺は有限なので fgL1(μ)fg \in \mathcal{L}^1(\mu) です。

p=q=2p = q = 2 の場合がコーシー–シュワルツの不等式 Xfgdμf2g2\int_X |fg| \, d\mu \le \|f\|_2\|g\|_2 です。Theorem 4.2 はその一般化であり、「pp で測った大きさ」と「qq で測った大きさ」を掛けると積分を支配する、という形で LpL^pLqL^q を対にします。この対応が後の双対性(Remark 7.2)の原型になります。

Corollary 4.3有限測度空間における包含関係

μ(X)<\mu(X) < \infty とし、1p<q1 \le p < q \le \infty とする。このとき Lq(μ)Lp(μ)L^q(\mu) \subseteq L^p(\mu) であり、任意の fLq(μ)f \in L^q(\mu) に対して

fp  μ(X)1p1qfq\|f\|_p \ \le \ \mu(X)^{\frac1p - \frac1q} \, \|f\|_q

が成り立つ。

Proof(Corollary 4.3)

μ(X)=0\mu(X) = 0 ならすべての可測関数が 00 a.e. で両辺とも 00 なので、以下 μ(X)>0\mu(X) > 0 とします。

q=q = \infty の場合。 ff|f| \le \|f\|_\infty a.e. なので Xfpdμfpμ(X)\int_X |f|^p d\mu \le \|f\|_\infty^p \mu(X)pp 乗根をとって fpμ(X)1/pf\|f\|_p \le \mu(X)^{1/p}\|f\|_\infty であり、1/q=01/q = 0 より主張の形と一致します。

q<q < \infty の場合。 r:=q/p>1r := q/p > 1 と置き、その共役指数を r=rr1=qqpr' = \dfrac{r}{r-1} = \dfrac{q}{q-p} とします。関数 fp|f|^p と定数関数 11Theorem 4.2 を指数 (r,r)(r, r') で適用すると

Xfp1dμ  (Xfprdμ)1/r(X1rdμ)1/r=(Xfqdμ)p/qμ(X)qpq\int_X |f|^p \cdot 1 \, d\mu \ \le \ \left( \int_X |f|^{pr}\,d\mu \right)^{1/r} \left( \int_X 1^{r'} d\mu \right)^{1/r'} = \left( \int_X |f|^{q} d\mu \right)^{p/q} \mu(X)^{\frac{q-p}{q}}

となります(pr=qpr = q1/r=p/q1/r = p/q1/r=(qp)/q1/r' = (q-p)/q を使いました)。右辺は仮定より有限なので fLp(μ)f \in L^p(\mu) です。両辺を 1/p1/p 乗すると

fp  fqμ(X)qppq=μ(X)1p1qfq\|f\|_p \ \le \ \|f\|_q \cdot \mu(X)^{\frac{q-p}{pq}} = \mu(X)^{\frac1p-\frac1q}\|f\|_q

を得ます。

Remark 4.4有限測度という仮定は落とせない

Corollary 4.3 の仮定 μ(X)<\mu(X) < \infty は本質的です。Example 3.5 の (2) で見たように、g(x)=x1χ(1,)(x)g(x) = x^{-1}\chi_{(1,\infty)}(x)R\mathbb{R} 上で α=1\alpha=1 の場合であり、p>1p > 1 のとき LpL^p に属し p=1p = 1 では属しません。つまり L2(R)⊈L1(R)L^2(\mathbb{R}) \not\subseteq L^1(\mathbb{R}) です。逆向きは (1) から作れます(Exercise 8.1)。一般の測度空間では LpL^p たちの間に包含関係はありません。

Theorem 4.5ミンコフスキーの不等式

(X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) を測度空間、1p1 \le p \le \infty とする。f,gLp(μ)f, g \in \mathcal{L}^p(\mu) ならば f+gLp(μ)f + g \in \mathcal{L}^p(\mu) であり

f+gp  fp+gp\|f+g\|_p \ \le \ \|f\|_p + \|g\|_p

が成り立つ。

Proof(Theorem 4.5)

(i) p=1p = 1 の場合。 各点で f+gf+g|f+g| \le |f| + |g| なので、積分の単調性と線形性から f+gf+g\int|f+g| \le \int|f| + \int|g|、すなわち主張が従います。

(ii) p=p = \infty の場合。 ff|f| \le \|f\|_\infty が零集合 N1N_1 の外で、gg|g| \le \|g\|_\infty が零集合 N2N_2 の外で成り立ちます。N1N2N_1 \cup N_2 も零集合であり、その外では f+gf+gf+g|f+g| \le |f|+|g| \le \|f\|_\infty + \|g\|_\infty です。本質的上限は「a.e. で上から押さえる定数」の下限(Definition 3.2)でしたから、f+gf+g\|f+g\|_\infty \le \|f\|_\infty + \|g\|_\infty を得ます。

(iii) 1<p<1 < p < \infty の場合。 まず f+gLpf+g \in \mathcal{L}^p を示します。各点で f+gf+g2max(f,g)|f+g| \le |f|+|g| \le 2\max(|f|,|g|) なので

f+gp2pmax(f,g)p2p(fp+gp)|f+g|^p \le 2^p \max(|f|,|g|)^p \le 2^p\bigl(|f|^p + |g|^p\bigr)

であり、右辺は可積分です。よって f+gp<\|f+g\|_p < \infty です。

f+gp=0\|f+g\|_p = 0 なら主張は自明(左辺 00、右辺 0\ge 0)なので、f+gp>0\|f+g\|_p > 0 とします。q=p/(p1)q = p/(p-1) を共役指数とし、h:=f+gp1h := |f+g|^{p-1} と置きます。このとき

Xhqdμ=Xf+g(p1)qdμ=Xf+gpdμ<\int_X h^q \, d\mu = \int_X |f+g|^{(p-1)q}\,d\mu = \int_X |f+g|^{p}\,d\mu < \infty

です((p1)q=(p1)pp1=p(p-1)q = (p-1)\cdot\frac{p}{p-1} = p を使いました)。すなわち hLq(μ)h \in \mathcal{L}^q(\mu) で、hq=(f+gp)1/q=f+gpp/q=f+gpp1\|h\|_q = \bigl(\int|f+g|^p\bigr)^{1/q} = \|f+g\|_p^{\,p/q} = \|f+g\|_p^{\,p-1} です。

さて f+gp=f+gf+gp1fh+gh|f+g|^p = |f+g|\cdot|f+g|^{p-1} \le |f|h + |g|h を積分し、右辺の各項に Theorem 4.2 を指数 (p,q)(p,q) で適用します。

Xf+gpdμXfhdμ+Xghdμfphq+gphq=(fp+gp)f+gpp1.\begin{aligned} \int_X |f+g|^p\,d\mu &\le \int_X |f|\,h\,d\mu + \int_X |g|\,h\,d\mu \\ &\le \|f\|_p\|h\|_q + \|g\|_p\|h\|_q \\ &= \bigl( \|f\|_p + \|g\|_p \bigr)\,\|f+g\|_p^{\,p-1}. \end{aligned}

左辺は f+gpp\|f+g\|_p^{\,p} です。0<f+gpp1<0 < \|f+g\|_p^{\,p-1} < \infty なのでこれで両辺を割ることができ、

f+gp=f+gppf+gpp1fp+gp\|f+g\|_p = \frac{\|f+g\|_p^{\,p}}{\|f+g\|_p^{\,p-1}} \le \|f\|_p + \|g\|_p

を得ます。

Corollary 4.6L^p はノルム空間

1p1 \le p \le \infty とする。Lp(μ)L^p(\mu)K\mathbb{K} 上の線形空間であり、p\|\cdot\|_p はその上のノルムである。すなわち任意の f,gLp(μ)f, g \in L^p(\mu)cKc \in \mathbb{K} に対して

fp0,fp=0    f=0,cfp=cfp,f+gpfp+gp\|f\|_p \ge 0, \qquad \|f\|_p = 0 \iff f = 0, \qquad \|cf\|_p = |c|\,\|f\|_p, \qquad \|f+g\|_p \le \|f\|_p + \|g\|_p

が成り立つ。

Proof(Corollary 4.6)

線形空間であること:f,gLpf, g \in \mathcal{L}^pcKc \in \mathbb{K} とすると Theorem 4.5 より f+gLpf+g \in \mathcal{L}^p、また cfp=cpfp<\int |cf|^p = |c|^p\int|f|^p < \infty より cfLpcf \in \mathcal{L}^p です。よって Lp(μ)\mathcal{L}^p(\mu) は可測関数全体の線形部分空間です。さらに「a.e. で 00 に等しい関数の全体」はその線形部分空間なので、商空間 Lp(μ)L^p(\mu) にも線形空間の構造が誘導されます。演算が代表元の取り方によらないことは、f1=f2f_1 = f_2 a.e. かつ g1=g2g_1 = g_2 a.e. なら f1+g1=f2+g2f_1+g_1 = f_2+g_2 a.e.(例外集合は 2 つの零集合の合併)から従います。

ノルムの公理:非負性は定義から明らか(pp 乗根の主値をとっているため)。fp=0    f=0\|f\|_p = 0 \iff f = 0 a.e. は Remark 3.3 で示しました。LpL^p では f=0f = 0 a.e. がゼロ元そのものなので、これは正定値性です。斉次性は 1p<1\le p < \infty のときは上の計算の pp 乗根、p=p=\infty のときは cfM|cf| \le M a.e. と fM/c|f| \le M/|c| a.e.(c0c \ne 0)が同値であることから従います。三角不等式が Theorem 4.5 です。

5. 完備性 — リース–フィッシャーの定理

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5.1. バナッハ空間と絶対収束判定法

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Definition 5.1バナッハ空間

ノルム空間 (V,)(V, \|\cdot\|) において、点列 (xn)(x_n)コーシー列であるとは、任意の ε>0\varepsilon>0 に対してある NNN \in \mathbb{N} が存在して m,nNm,n \ge N ならば xnxm<ε\|x_n - x_m\| < \varepsilon となることをいう。すべてのコーシー列が VV の元に収束するとき、VV完備であるといい、完備なノルム空間をバナッハ空間という。

完備性の検証は、任意のコーシー列を相手にすると扱いにくいものです。次の判定法は、コーシー列の代わりに「絶対収束級数」だけを見ればよいことを教えてくれます。LpL^p の完備性の証明はこの形が最も見通しよく進みます。

Lemma 5.2絶対収束による完備性の判定

ノルム空間 (V,)(V,\|\cdot\|) について、次の 2 条件は同値である。

  1. VV は完備である。
  2. VV の元の列 (xk)(x_k)k=1xk<\sum_{k=1}^\infty \|x_k\| < \infty を満たすならば、部分和の列 Sn=k=1nxkS_n = \sum_{k=1}^n x_k はある xVx \in V に収束する。
Proof(Lemma 5.2)

(1) \Rightarrow (2)。 kxk<\sum_k \|x_k\| < \infty とします。m<nm < n に対して三角不等式から

SnSm=k=m+1nxkk=m+1nxkk=m+1xk\|S_n - S_m\| = \Bigl\| \sum_{k=m+1}^{n} x_k \Bigr\| \le \sum_{k=m+1}^{n}\|x_k\| \le \sum_{k=m+1}^{\infty}\|x_k\|

です。右辺は収束級数の剰余なので mm \to \infty00 に収束します。よって任意の ε>0\varepsilon > 0 に対し、k>Nxk<ε\sum_{k > N}\|x_k\| < \varepsilon となる NN を取れば m,nNm,n \ge NSnSm<ε\|S_n - S_m\| < \varepsilon となり、(Sn)(S_n) はコーシー列です。VV が完備なので収束します。

(2) \Rightarrow (1)。 (yn)(y_n)VV のコーシー列とします。コーシー性より、各 kNk \in \mathbb{N} に対して「m,nNkm,n \ge N_k ならば ynym<2k\|y_n - y_m\| < 2^{-k}」となる NkN_k が取れます。n1<n2<n_1 < n_2 < \cdotsnkNkn_k \ge N_k かつ狭義単調増加になるように選べば(たとえば nk:=max(N1,,Nk)+kn_k := \max(N_1,\ldots,N_k) + k とすればよい)、

ynk+1ynk<2k(kN)\|y_{n_{k+1}} - y_{n_k}\| < 2^{-k} \qquad (k \in \mathbb{N})

が成り立ちます。ここで x1:=yn1x_1 := y_{n_1}xk+1:=ynk+1ynkx_{k+1} := y_{n_{k+1}} - y_{n_k} と置くと kxkyn1+k12k=yn1+1<\sum_{k}\|x_k\| \le \|y_{n_1}\| + \sum_{k\ge1}2^{-k} = \|y_{n_1}\| + 1 < \infty であり、部分和は jkxj=ynk\sum_{j\le k} x_j = y_{n_k} です。仮定 (2) より ynkyy_{n_k} \to y となる yVy \in V が存在します。

最後に、元の列全体が yy に収束することを示します。ε>0\varepsilon > 0 を任意にとります。コーシー性から m,nNm, n \ge Nynym<ε/2\|y_n - y_m\| < \varepsilon/2 となる NN を取り、さらに nkNn_k \ge N かつ ynky<ε/2\|y_{n_k} - y\| < \varepsilon/2 となる kk を取ります(nkn_k \to \infty かつ ynkyy_{n_k}\to y なので可能です)。すると nNn \ge N に対して

ynyynynk+ynky<ε2+ε2=ε\|y_n - y\| \le \|y_n - y_{n_k}\| + \|y_{n_k} - y\| < \frac{\varepsilon}{2} + \frac{\varepsilon}{2} = \varepsilon

となり、ynyy_n \to y が示されました。

5.2. リース–フィッシャーの定理

Section titled “5.2. リース–フィッシャーの定理”

Theorem 5.3リース–フィッシャーの定理

(X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) を任意の測度空間、1p1 \le p \le \infty とする。このとき Lp(μ)L^p(\mu) はノルム p\|\cdot\|_p に関して完備である。すなわち Lp(μ)L^p(\mu) はバナッハ空間である。

Proof(Theorem 5.3)

(A) 1p<1 \le p < \infty の場合。 Lemma 5.2 により、k=1fkp=:M<\sum_{k=1}^\infty \|f_k\|_p =: M < \infty を満たす fkLp(μ)f_k \in L^p(\mu) に対して kfk\sum_k f_kLpL^p で収束することを示せば十分です。

kk について代表元を 1 つ固定し、

Gn(x):=k=1nfk(x),G(x):=k=1fk(x)[0,]G_n(x) := \sum_{k=1}^n |f_k(x)|, \qquad G(x) := \sum_{k=1}^\infty |f_k(x)| \in [0,\infty]

と置きます。GnG_n は可測、0G1G20 \le G_1 \le G_2 \le \cdots で各点 GnGG_n \uparrow G なので GG も可測です。Theorem 4.5 を繰り返し使うと Gnpk=1nfkpM\|G_n\|_p \le \sum_{k=1}^n \|f_k\|_p \le M です。GnpGpG_n^p \uparrow G^p単調収束定理を適用して

XGpdμ=limnXGnpdμMp<\int_X G^p \, d\mu = \lim_{n\to\infty}\int_X G_n^p\,d\mu \le M^p < \infty

を得ます。したがって GLp(μ)G \in \mathcal{L}^p(\mu) であり、特に G<G < \infty が a.e. で成り立ちます(もし E:={G=}E := \{G = \infty\}μ(E)>0\mu(E) > 0 なら GpEGp=\int G^p \ge \int_E G^p = \infty となって矛盾します)。

そこで零集合 N:={x:G(x)=}N := \{x : G(x) = \infty\} の外では級数 kfk(x)\sum_k f_k(x)絶対収束するので、スカラー体の完備性によりその和が存在します。

F(x):={k=1fk(x),xN,0,xNF(x) := \begin{cases} \sum_{k=1}^\infty f_k(x), & x \notin N,\\ 0, & x \in N \end{cases}

と定めると、FF は可測関数(各点収束する可測関数列の極限)であり、FG|F| \le G が a.e. で成り立つので FLp(μ)F \in \mathcal{L}^p(\mu) です。

最後に FSnp0\|F - S_n\|_p \to 0Sn:=knfkS_n := \sum_{k\le n} f_k)を示します。xNx \notin N では定義から Sn(x)F(x)S_n(x) \to F(x) なので FSnp0|F - S_n|^p \to 0 が a.e. で成り立ちます。また

FSnF+k=1nfkG+G=2Ga.e.|F - S_n| \le |F| + \sum_{k=1}^n |f_k| \le G + G = 2G \quad \text{a.e.}

より FSnp2pGp|F-S_n|^p \le 2^p G^p であり、右辺は nn によらない可積分関数です。よって優収束定理が使えて

FSnpp=XFSnpdμ0\|F - S_n\|_p^p = \int_X |F-S_n|^p \, d\mu \longrightarrow 0

となります。Lemma 5.2 の条件 (2) が確かめられたので、Lp(μ)L^p(\mu) は完備です。

(B) p=p = \infty の場合。 (fn)(f_n)L(μ)L^\infty(\mu) のコーシー列とし、代表元を固定します。各 nn に対して An:={x:fn(x)>fn}A_n := \{x : |f_n(x)| > \|f_n\|_\infty\}、各 m,nm,n に対して Bm,n:={x:fn(x)fm(x)>fnfm}B_{m,n} := \{x : |f_n(x)-f_m(x)| > \|f_n-f_m\|_\infty\} と置くと、Definition 3.2 の直後に示したことからこれらはすべて零集合です。これらは可算個なので

N:=(nAn)(m,nBm,n)N := \Bigl(\bigcup_n A_n\Bigr) \cup \Bigl(\bigcup_{m,n} B_{m,n}\Bigr)

も零集合です。xNx \notin N ならばすべての m,nm,nfn(x)fm(x)fnfm|f_n(x) - f_m(x)| \le \|f_n - f_m\|_\infty が成り立ちます。右辺は m,nm,n\to\infty00 に収束するので、(fn)(f_n)XNX \setminus N 上で一様コーシー列です。スカラー体の完備性から各点で極限が存在し、収束は一様です。f(x):=limnfn(x)f(x) := \lim_n f_n(x)xNx \notin N)、f(x):=0f(x) := 0xNx \in N)と定めると ff は可測です。

ε>0\varepsilon>0 に対し m,nNεm,n\ge N_\varepsilonfnfmε\|f_n-f_m\|_\infty \le \varepsilon となる NεN_\varepsilon を取ると、xNx \notin N かつ nNεn \ge N_\varepsilonmm \to \infty の極限をとって fn(x)f(x)ε|f_n(x)-f(x)| \le \varepsilon を得ます。よって fnfε\|f_n - f\|_\infty \le \varepsilonnNεn \ge N_\varepsilon)であり、また ffNε+ε<\|f\|_\infty \le \|f_{N_\varepsilon}\|_\infty + \varepsilon < \infty なので fL(μ)f \in L^\infty(\mu) です。したがって fnff_n \to fLL^\infty で成り立ち、完備性が示されました。

Remark 5.4L^p 収束から取り出せる部分列

証明 (A) は、単に完備性を示す以上のものを与えています。fnff_n \to fLpL^p1p<1\le p < \infty)で成り立つとき、Lemma 5.2 の (2) \Rightarrow (1) の議論で作った部分列 (fnk)(f_{n_k}) に対しては、kfnk+1fnkp<\sum_k \| f_{n_{k+1}} - f_{n_k}\|_p < \infty となり、証明 (A) の GG が a.e. 有限であることから

fnk(x)f(x)a.e. xf_{n_k}(x) \longrightarrow f(x) \qquad \text{a.e. } x

が従います。つまり、LpL^p 収束する列からは、ほとんど至るところ収束する部分列が取り出せます。この事実は実解析で日常的に使われます。ただし列全体が a.e. 収束するとは限りません(Example 5.5)。

Example 5.5L^p 収束するがどの点でも収束しない列

X=[0,1]X = [0,1]μ\mu をルベーグ測度とします。各 nNn \in \mathbb{N} を一意に n=2k+jn = 2^k + jk0k \ge 00j<2k0 \le j < 2^k)と表し、

In:=[j2k, j+12k],fn:=χInI_n := \left[ \frac{j}{2^k},\ \frac{j+1}{2^k} \right], \qquad f_n := \chi_{I_n}

と定めます。n=1n=1 なら I1=[0,1]I_1 = [0,1]n=2,3n=2,3 なら [0,12],[12,1][0,\tfrac12], [\tfrac12,1]n=4,,7n=4,\ldots,7 なら長さ 14\tfrac14 の 4 区間、というように、幅 2k2^{-k} の区間が左から右へ「タイプライターのように」走査されます。

1p<1 \le p < \infty に対して

fnpp=01χIndμ=12k\|f_n\|_p^p = \int_0^1 \chi_{I_n}\,d\mu = \frac{1}{2^k}

であり、nn \to \infty のとき kk \to \infty なので fnp=2k/p0\|f_n\|_p = 2^{-k/p} \to 0、すなわち fn0f_n \to 0LpL^p で成り立ちます。

一方、点ごとの挙動を見ます。x[0,1]x \in [0,1] を固定すると、各 kk に対して xInx \in I_n となる n=2k+jn = 2^k+j が少なくとも 1 つ存在します(幅 2k2^{-k} の区間が [0,1][0,1] を覆うため)。よって fn(x)=1f_n(x)=1 となる nn が無限に多くあります。また k1k \ge 1 ならば xInx \notin I_{n'} となる n=2k+jn' = 2^k + j' も存在するので、fn(x)=0f_{n'}(x)=0 となる nn' も無限に多くあります。したがって

lim supnfn(x)=1,lim infnfn(x)=0\limsup_{n\to\infty} f_n(x) = 1, \qquad \liminf_{n\to\infty} f_n(x) = 0

となり、(fn(x))(f_n(x))どの点 xx でも収束しませんLpL^p 収束と各点収束はまったく別物であることがわかります。

なお Remark 5.4 の通り、部分列 f2kf_{2^k}kk\to\infty)を取れば x>0x > 0f2k(x)=0f_{2^k}(x) = 0 となり、a.e. で 00 に収束します。

Remark 5.6なぜリーマン積分では駄目なのか

Theorem 5.3 の証明で本質的に効いたのは、単調収束定理と優収束定理という極限と積分の交換定理です。リーマン積分でこれらに対応する定理は「一様収束すれば交換できる」という弱いものしかありません(Theorem 5.2[関数列と一様収束]関数列と一様収束 を参照)。Example 5.5 のように LpL^p 収束する列は一様収束からほど遠いので、リーマン積分の枠内では極限関数を作ることすらできません。

Example 1.1 で見た「穴」が、測度論的な積分に切り替えるとちょうど埋まる——これが実解析を微分積分学から分ける最大の成果の 1 つです。

6. p=2p=2 の特別扱い — ヒルベルト空間

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6.1. 内積が入るのは p=2p=2 のときだけ

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Definition 6.1内積空間とヒルベルト空間

K\mathbb{K} 上の線形空間 HH 上の写像 , ⁣:H×HK\langle\cdot,\cdot\rangle \colon H\times H \to \mathbb{K} が次を満たすとき内積という。

  1. 第 1 変数について線形:αu+βv,w=αu,w+βv,w\langle \alpha u + \beta v, w\rangle = \alpha\langle u,w\rangle + \beta\langle v,w\rangle
  2. 共役対称:v,u=u,v\langle v,u \rangle = \overline{\langle u,v\rangle}K=R\mathbb{K}=\mathbb{R} なら対称)。
  3. 正定値:u,u0\langle u,u\rangle \ge 0 であり、u,u=0    u=0\langle u,u\rangle = 0 \iff u = 0

このとき u:=u,u\|u\| := \sqrt{\langle u,u\rangle} はノルムになる。このノルムに関して完備な内積空間をヒルベルト空間という。

Theorem 6.2L^2 はヒルベルト空間

(X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) を測度空間とする。f,gL2(μ)f,g \in L^2(\mu) に対して

f,g:=Xfgˉdμ\langle f, g\rangle := \int_X f \, \bar{g} \, d\mu

と定めると、この積分は絶対収束して有限の値をとり、,\langle\cdot,\cdot\rangleL2(μ)L^2(\mu) 上の内積である。さらに f,f=f2\sqrt{\langle f,f\rangle} = \|f\|_2 であり、L2(μ)L^2(\mu) はこの内積に関するヒルベルト空間である。

Proof(Theorem 6.2)

定義可能性。 p=q=2p=q=2 は互いに共役指数なので、Theorem 4.2 より

Xfgˉdμ=Xfgdμf2g2<\int_X |f\bar g| \, d\mu = \int_X |f||g|\,d\mu \le \|f\|_2\|g\|_2 < \infty

です。よって fgˉL1(μ)f\bar g \in \mathcal{L}^1(\mu) で、Xfgˉdμ\int_X f\bar g\,d\mu は有限確定です。代表元を取り替えても fgˉf\bar g は a.e. で変わらないので、値は同値類のみで定まります。

内積の公理。 第 1 変数の線形性は積分の線形性そのものです。共役対称性は Xfgˉdμ=Xfˉgdμ=g,f\overline{\int_X f\bar g\,d\mu} = \int_X \bar f g\,d\mu = \langle g,f\rangle から従います(複素共役は積分と交換します)。正定値性については f,f=Xf2dμ=f220\langle f,f\rangle = \int_X |f|^2 d\mu = \|f\|_2^2 \ge 0 であり、これが 00 になるのは Remark 3.3 より f=0f = 0 a.e.、すなわち L2(μ)L^2(\mu) のゼロ元のとき、かつそのときに限ります。同時に f,f=f2\sqrt{\langle f,f\rangle} = \|f\|_2 も示されました。

完備性。 Theorem 5.3p=2p=2 の場合です。以上より L2(μ)L^2(\mu) はヒルベルト空間です。

内積から誘導されたノルムは、必ず中線定理(平行四辺形の法則)

f+g2+fg2=2f2+2g2\|f+g\|^2 + \|f-g\|^2 = 2\|f\|^2 + 2\|g\|^2

を満たします。実際、f±g2=f±g,f±g=f2±2Ref,g+g2\|f\pm g\|^2 = \langle f\pm g, f\pm g\rangle = \|f\|^2 \pm 2\operatorname{Re}\langle f,g\rangle + \|g\|^2 を足せば交差項が消えて右辺になります。逆に、この等式を満たすノルムは必ずある内積から来る、というのがヨルダン–フォン・ノイマンの定理です(内積を f,g=14(f+g2fg2)\langle f,g\rangle = \frac14(\|f+g\|^2 - \|f-g\|^2) などで復元します)。したがって、中線定理が破れることを 1 つの例で示せば、その空間がヒルベルト空間でないことが言えます。p2p \ne 2LpL^p がまさにそうです(Exercise 8.4)。

Definition 6.3正規直交系と完全性

ヒルベルト空間 HH の元の族 (en)nI(e_n)_{n\in I}II は可算集合)が

en,em={1,n=m0,nm\langle e_n, e_m \rangle = \begin{cases} 1, & n = m \\ 0, & n \ne m \end{cases}

を満たすとき正規直交系という。さらに、(en)(e_n) の有限線形結合の全体が HH で稠密であるとき、完全正規直交系(正規直交基底)という。

Example 6.4三角関数系とバーゼル問題

X=[π,π]X = [-\pi,\pi]μ\mu をルベーグ測度、K=C\mathbb{K}=\mathbb{C} とし、H=L2([π,π])H = L^2([-\pi,\pi]) を考えます。nZn \in \mathbb{Z} に対して

en(x):=12πeinxe_n(x) := \frac{1}{\sqrt{2\pi}} e^{inx}

と置きます。en=1/2π|e_n| = 1/\sqrt{2\pi} は有界なので enL2e_n \in L^2 です。直交性を確かめます。nmn \ne m のとき

en,em=12πππei(nm)xdx=12π[ei(nm)xi(nm)]ππ=ei(nm)πei(nm)π2πi(nm)=0\langle e_n, e_m\rangle = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^{\pi} e^{i(n-m)x}\,dx = \frac{1}{2\pi}\left[ \frac{e^{i(n-m)x}}{i(n-m)} \right]_{-\pi}^{\pi} = \frac{e^{i(n-m)\pi} - e^{-i(n-m)\pi}}{2\pi i (n-m)} = 0

です(k:=nmk := n-m00 でない整数なので eikπ=eikπ=(1)ke^{ik\pi} = e^{-ik\pi} = (-1)^k となり分子が消えます)。n=mn = m のときは en,en=12πππ1dx=1\langle e_n,e_n\rangle = \frac{1}{2\pi}\int_{-\pi}^\pi 1\,dx = 1。よって (en)nZ(e_n)_{n\in\mathbb{Z}} は正規直交系です。

ベッセルの不等式。 fHf \in H に対して cn:=f,enc_n := \langle f, e_n\rangle と置き、NNN \in \mathbb{N} を固定して SN:=nNcnenS_N := \sum_{|n|\le N} c_n e_n とします。正規直交性から

0fSN22=f22f,SNSN,f+SN22=f22nNcnf,ennNcnen,f+nNcn2=f22nNcn2\begin{aligned} 0 \le \|f - S_N\|_2^2 &= \|f\|_2^2 - \langle f, S_N\rangle - \langle S_N, f\rangle + \|S_N\|_2^2 \\ &= \|f\|_2^2 - \sum_{|n|\le N}\overline{c_n}\langle f,e_n\rangle - \sum_{|n|\le N} c_n \langle e_n, f\rangle + \sum_{|n|\le N}|c_n|^2 \\ &= \|f\|_2^2 - \sum_{|n|\le N}|c_n|^2 \end{aligned}

f,SN=cnf,en=cn2\langle f, S_N\rangle = \sum \overline{c_n}\langle f, e_n\rangle = \sum |c_n|^2SN,f=f,SN=cn2\langle S_N,f\rangle = \overline{\langle f,S_N\rangle} = \sum|c_n|^2SN22=cn2\|S_N\|_2^2 = \sum |c_n|^2)。したがって nNcn2f22\sum_{|n|\le N}|c_n|^2 \le \|f\|_2^2 が任意の NN で成り立ち、NN\to\infty として

nZcn2  f22\sum_{n\in\mathbb{Z}} |c_n|^2 \ \le \ \|f\|_2^2

を得ます。これがベッセルの不等式です。(en)(e_n) が完全であれば等号になり、パーセバルの等式と呼ばれます。三角関数系が L2([π,π])L^2([-\pi,\pi]) の完全正規直交系であることはよく知られた事実です(Remark 7.1 の稠密性から導かれます)。

具体計算。 f(x)=xf(x) = x とすると fL2f \in L^2f22=ππx2dx=2π33\|f\|_2^2 = \int_{-\pi}^{\pi}x^2dx = \frac{2\pi^3}{3} です。c0=12πππxdx=0c_0 = \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\int_{-\pi}^\pi x\,dx = 0(奇関数)。n0n \ne 0 では部分積分により

ππxeinxdx=[xeinxin]ππ+1inππeinxdx=π(1)n+π(1)nin+0=2π(1)nin\int_{-\pi}^{\pi} x e^{-inx}\,dx = \left[ \frac{x e^{-inx}}{-in} \right]_{-\pi}^{\pi} + \frac{1}{in}\int_{-\pi}^{\pi} e^{-inx}dx = \frac{\pi(-1)^n + \pi(-1)^n}{-in} + 0 = \frac{2\pi(-1)^n i}{n}

einπ=(1)ne^{\mp in\pi} = (-1)^n1in=in\frac{1}{-in} = \frac{i}{n} を使い、第 2 の積分は n0n\ne0 より 00)。よって

cn=12π2π(1)nin,cn2=12π4π2n2=2πn2.c_n = \frac{1}{\sqrt{2\pi}}\cdot\frac{2\pi(-1)^n i}{n}, \qquad |c_n|^2 = \frac{1}{2\pi}\cdot\frac{4\pi^2}{n^2} = \frac{2\pi}{n^2}.

パーセバルの等式に代入すると

2π33=n02πn2=4πn=11n2\frac{2\pi^3}{3} = \sum_{n \ne 0}\frac{2\pi}{n^2} = 4\pi \sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2}

となり、両辺を 4π4\pi で割って

n=11n2=π26\sum_{n=1}^{\infty}\frac{1}{n^2} = \frac{\pi^2}{6}

を得ます。オイラーが解いたバーゼル問題の答えが、L2L^2 の幾何学から出てきました(級数の収束そのものについては 級数と収束判定 を参照してください)。

Remark 7.1単関数と連続関数による近似

1p<1 \le p < \infty とします。fLp(μ)f \in L^p(\mu) に対し、単関数近似定理(Theorem 3.7)[ルベーグ積分の定義と収束定理] により、単関数(有限個の値しかとらない可測関数)の列 (sn)(s_n)snf|s_n| \le |f| かつ各点 snfs_n \to f となるものが取れます。このとき fsnp(f+sn)p2pfpL1|f - s_n|^p \le (|f|+|s_n|)^p \le 2^p|f|^p \in \mathcal{L}^1 が優関数になるので、優収束定理から fsnp0\|f - s_n\|_p \to 0 です。さらに snLps_n \in L^p かつ単関数なので、sns_n に現れる集合 AAμ(A)<\mu(A) < \infty を満たします。つまり測度有限な集合の指示関数の有限線形結合の全体は Lp(μ)L^p(\mu) で稠密です。

X=RdX = \mathbb{R}^d でルベーグ測度の場合には、さらに進んでコンパクト台を持つ連続関数の全体 Cc(Rd)C_c(\mathbb{R}^d)Lp(Rd)L^p(\mathbb{R}^d) で稠密1p<1\le p < \infty)であることが示せます。ここから Lp(Rd)L^p(\mathbb{R}^d)可分(可算稠密部分集合を持つ)であることが従います:有理数係数・有理端点の階段関数の全体が可算稠密集合になるからです。

p=p=\infty ではこれらはすべて成り立ちません。Cc(R)C_c(\mathbb{R})LL^\infty における閉包は「無限遠で 00 に収束する連続関数」の全体であり、χ[0,1]\chi_{[0,1]} はそこに入りません。また t[0,1]t \in [0,1] に対する χ[0,t]\chi_{[0,t]} たちは sts \ne t のとき χ[0,s]χ[0,t]=1\|\chi_{[0,s]}-\chi_{[0,t]}\|_\infty = 1 を満たすので、非可算個の元が互いに距離 11 離れており、L([0,1])L^\infty([0,1]) は可分ではありません。

Remark 7.2ヘルダーの不等式が語る双対性

1p1\le p\le\inftyqq をその共役指数とします。gLq(μ)g \in L^q(\mu) を固定すると、写像

Λg ⁣:Lp(μ)K,Λg(f):=Xfgdμ\Lambda_g \colon L^p(\mu) \to \mathbb{K}, \qquad \Lambda_g(f) := \int_X fg \, d\mu

は線形であり、Theorem 4.2 より Λg(f)gqfp|\Lambda_g(f)| \le \|g\|_q\|f\|_p なので有界線形汎関数、すなわち連続な線形写像です。しかも作用素ノルムは Λggq\|\Lambda_g\| \le \|g\|_q を満たします。実は(μ\muσ\sigma-有限で 1q1\le q\le\infty のとき)等号 Λg=gq\|\Lambda_g\| = \|g\|_q が成り立ち、gΛgg \mapsto \Lambda_g は等長線形写像になります。

さらに強く、1p<1 \le p < \inftyμ\muσ\sigma-有限ならば、Lp(μ)L^p(\mu) の連続双対空間 (Lp)(L^p)^* の任意の元がある gLq(μ)g \in L^q(\mu) によって Λg\Lambda_g の形に表されます(LpL^p の双対性定理、p=2p=2 の場合はリースの表現定理)。証明にはラドン–ニコディムの定理が必要なので本章では扱いません。本章末の参考文献に挙げた Rudin と Folland を参照してください。

p=p = \infty では対応が崩れます。(L)(L^\infty)^*L1L^1 より真に大きく、有限加法的測度によって記述されます。この非対称性が、L1L^1LL^\infty が扱いにくい理由の 1 つです。

双対性があると、ノルム収束より弱い収束の概念が使えます。fnff_n \to f弱収束するとは、すべての gLqg \in L^q について fngfg\int f_n g \to \int fg となることです。たとえば L2([π,π])L^2([-\pi,\pi])un(x):=sin(nx)u_n(x) := \sin(nx) を考えると、un2=π\|u_n\|_2 = \sqrt{\pi}00 に収束しませんが、リーマン–ルベーグの補題により任意の gL2g \in L^2 に対して ππungdx0\int_{-\pi}^{\pi} u_n g \, dx \to 0 となり、un0u_n \to 0 が弱収束します。ノルムが落ちないのに「弱く消える」この現象は、振動が細かくなって平均が打ち消し合うことを表しています。

LpL^pバナッハ空間であるという事実は、単に極限が取れるという以上の意味を持ちます。完備距離空間ではベールのカテゴリー定理が使え、そこから関数解析の三大定理——一様有界性原理、開写像定理、閉グラフ定理——が導かれます。これらはいずれも「完備性がなければ偽」の定理です。また、バナッハの不動点定理を LpL^p 上の写像に適用することで、微分方程式や積分方程式の解の存在と一意性が得られます。

pp ごとの性質を整理すると次のようになります(可分性は Rd\mathbb{R}^d 上のルベーグ測度の場合)。

pp双対空間回帰的可分ヒルベルト空間
p=1p=1LL^\inftyいいえはいいいえ
1<p<1 < p < \infty, p2p \ne 2LqL^qはいはいいいえ
p=2p = 2L2L^2はいはいはい
p=p=\inftyL1L^1 より真に大きいいいえいいえいいえ

この表の「p=2p=2 の行だけ全部そろっている」という事実が、L2L^2 が解析学のあらゆる場所に現れる理由です。フーリエ変換が L2(Rd)L^2(\mathbb{R}^d) 上のユニタリ作用素になること(プランシュレルの定理)、偏微分方程式の弱解がソボレフ空間(L2L^2 系の空間)で構成されること、量子力学の状態が L2L^2 の単位ベクトルであること、確率論の条件付き期待値が L2L^2 の直交射影であること——どれも Theorem 6.2 の帰結です。

一方で p2p \ne 2LpL^p も不可欠です。特異積分作用素の有界性、ソボレフの埋め込み定理、調和解析の補間定理などは、pp を動かして初めて意味を持ちます。LpL^p の族は、解析学における「解像度のつまみ」なのです。

Exercise 8.1

R\mathbb{R} 上のルベーグ測度を考える。

  1. L1(R)⊈L2(R)L^1(\mathbb{R}) \not\subseteq L^2(\mathbb{R}) かつ L2(R)⊈L1(R)L^2(\mathbb{R})\not\subseteq L^1(\mathbb{R}) を、具体的な関数を挙げて示せ。
  2. 1p1 \le p \le \infty に対して L1(R)L(R)Lp(R)L^1(\mathbb{R}) \cap L^\infty(\mathbb{R}) \subseteq L^p(\mathbb{R}) を示せ。
Solution

1. f(x):=x1/2χ(0,1)(x)f(x) := x^{-1/2}\chi_{(0,1)}(x) と置きます。Example 3.5 の (1) で α=1/2\alpha=1/2 とすると、fLp((0,1))f \in L^p((0,1)) となるのは p<1/α=2p < 1/\alpha = 2 のときです。よって fL1f \in L^1 かつ fL2f \notin L^2。念のため直接計算すると 01x1/2dx=[2x1/2]01=2<\int_0^1 x^{-1/2}dx = [2x^{1/2}]_0^1 = 2 < \infty01x1dx=+\int_0^1 x^{-1}dx = +\infty です。

g(x):=x1χ(1,)(x)g(x) := x^{-1}\chi_{(1,\infty)}(x) と置きます。Example 3.5 の (2) で α=1\alpha=1 とすると gLp((1,))g \in L^p((1,\infty)) となるのは p>1p > 1 のときです。よって gL2g \in L^2 かつ gL1g \notin L^1。直接には 1x2dx=1<\int_1^\infty x^{-2}dx = 1 < \infty1x1dx=+\int_1^\infty x^{-1}dx = +\infty です。

2. fL1Lf \in L^1 \cap L^\infty とします。p=1,p = 1, \infty のときは仮定そのものです。1<p<1 < p < \infty のとき、ff|f| \le \|f\|_\infty が a.e. で成り立つので fp1fp1|f|^{p-1} \le \|f\|_\infty^{p-1} が a.e. で成り立ち、

Rfpdμ=Rfp1fdμfp1Rfdμ=fp1f1<\int_{\mathbb{R}} |f|^p \, d\mu = \int_{\mathbb{R}} |f|^{p-1}|f| \, d\mu \le \|f\|_\infty^{p-1}\int_{\mathbb{R}}|f|\,d\mu = \|f\|_\infty^{p-1}\|f\|_1 < \infty

となります。よって fLpf \in L^p であり、さらに fpf11/pf11/p\|f\|_p \le \|f\|_\infty^{1-1/p}\|f\|_1^{1/p} という定量的評価も得られます。

Exercise 8.2標準

(X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) を測度空間、1p<1 \le p < \infty とする。

  1. fnff_n \to fLp(μ)L^p(\mu) で成り立つならば、任意の ε>0\varepsilon>0 に対して μ({x:fn(x)f(x)>ε})0\mu(\{x : |f_n(x)-f(x)| > \varepsilon\}) \to 0(測度収束)となることを示せ。
  2. 逆は成り立たないことを、X=(0,1)X=(0,1) 上の具体例で示せ。
Solution

1. Enε:={x:fn(x)f(x)>ε}E_n^\varepsilon := \{x : |f_n(x)-f(x)|>\varepsilon\} と置きます。この集合の上では fnfp>εp|f_n-f|^p > \varepsilon^p なので、積分の単調性から

fnfpp=Xfnfpdμ  Enεfnfpdμ  εpμ(Enε)\|f_n - f\|_p^p = \int_X |f_n-f|^p\,d\mu \ \ge \ \int_{E_n^\varepsilon} |f_n-f|^p \, d\mu \ \ge \ \varepsilon^p \mu(E_n^\varepsilon)

すなわち μ(Enε)εpfnfpp\mu(E_n^\varepsilon) \le \varepsilon^{-p}\|f_n-f\|_p^p です(チェビシェフの不等式。Remark 3.3 と同じ評価です)。仮定より右辺は nn\to\infty00 に収束するので、μ(Enε)0\mu(E_n^\varepsilon)\to0 が従います。

2. X=(0,1)X=(0,1)μ\mu をルベーグ測度、fn:=nχ(0,1/n)f_n := n\,\chi_{(0,1/n)}f:=0f := 0 とします。ε>0\varepsilon > 0 に対し n>εn > \varepsilon ならば {fn>ε}=(0,1/n)\{|f_n| > \varepsilon\} = (0,1/n) なので μ({fn>ε})=1/n0\mu(\{|f_n|>\varepsilon\}) = 1/n \to 0 となり、fnf_n00 に測度収束します。しかし

fn0pp=01/nnpdx=np1n=np1\|f_n - 0\|_p^p = \int_0^{1/n} n^p \, dx = n^p \cdot \frac1n = n^{p-1}

であり、p=1p = 1 なら fn1=1↛0\|f_n\|_1 = 1 \not\to 0p>1p>1 なら fnp=n(p1)/p\|f_n\|_p = n^{(p-1)/p} \to \infty です。いずれにせよ LpL^p 収束しません。質量が「細く高く」逃げる典型例で、優収束定理の優関数の仮定が外せないことも同時に示しています。

Exercise 8.3標準

(X,M,μ)(X,\mathcal{M},\mu) を測度空間、1p<r<q1 \le p < r < q \le \infty とし、θ(0,1)\theta \in (0,1)

1r=θp+1θq\frac{1}{r} = \frac{\theta}{p} + \frac{1-\theta}{q}

で定める。fLp(μ)Lq(μ)f \in L^p(\mu)\cap L^q(\mu) ならば fLr(μ)f \in L^r(\mu) であり

fr  fpθfq1θ\|f\|_r \ \le \ \|f\|_p^{\,\theta}\,\|f\|_q^{\,1-\theta}

が成り立つことを示せ(補間不等式)。

Solution

q<q < \infty の場合。 fr=fθrf(1θ)r|f|^r = |f|^{\theta r}\cdot |f|^{(1-\theta)r} と分解し、指数

s:=pθr,s:=q(1θ)rs := \frac{p}{\theta r}, \qquad s' := \frac{q}{(1-\theta)r}

を考えます。これらが共役であることを確認します:

1s+1s=θrp+(1θ)rq=r(θp+1θq)=r1r=1.\frac{1}{s} + \frac{1}{s'} = \frac{\theta r}{p} + \frac{(1-\theta)r}{q} = r\left( \frac{\theta}{p} + \frac{1-\theta}{q} \right) = r \cdot \frac1r = 1 .

また s>1s > 1 です(1/s=θr/p<11/s = \theta r/p < 1θ/p<1/r\theta/p < 1/r から従い、これは θ/p=1/r(1θ)/q<1/r\theta/p = 1/r - (1-\theta)/q < 1/r による)。よって Theorem 4.2 が指数 (s,s)(s,s') で使えて

Xfrdμ=Xfθrf(1θ)rdμ(Xfθrsdμ)1/s(Xf(1θ)rsdμ)1/s.\int_X |f|^r d\mu = \int_X |f|^{\theta r}\,|f|^{(1-\theta)r}\,d\mu \le \left( \int_X |f|^{\theta r s} d\mu\right)^{1/s}\left( \int_X |f|^{(1-\theta)rs'}d\mu \right)^{1/s'} .

ここで θrs=p\theta r s = p(1θ)rs=q(1-\theta)rs' = q1/s=θr/p1/s = \theta r/p1/s=(1θ)r/q1/s' = (1-\theta)r/q ですから右辺は

(Xfp)θr/p(Xfq)(1θ)r/q=fpθrfq(1θ)r\left( \int_X |f|^p \right)^{\theta r/p}\left( \int_X |f|^q \right)^{(1-\theta)r/q} = \|f\|_p^{\,\theta r}\,\|f\|_q^{\,(1-\theta)r}

となります。両辺は有限なので fLrf\in L^r であり、1/r1/r 乗して frfpθfq1θ\|f\|_r \le \|f\|_p^\theta\|f\|_q^{1-\theta} を得ます。

q=q=\infty の場合。 条件は 1/r=θ/p1/r = \theta/p、すなわち θ=p/r\theta = p/r1θ=(rp)/r1-\theta = (r-p)/r です。ff|f| \le \|f\|_\infty a.e. より

Xfrdμ=XfrpfpdμfrpXfpdμ=frpfpp\int_X |f|^r d\mu = \int_X |f|^{r-p}|f|^p \, d\mu \le \|f\|_\infty^{\,r-p}\int_X |f|^p d\mu = \|f\|_\infty^{\,r-p}\|f\|_p^{\,p}

であり、1/r1/r 乗すると frf(rp)/rfpp/r=fpθf1θ\|f\|_r \le \|f\|_\infty^{(r-p)/r}\|f\|_p^{p/r} = \|f\|_p^\theta \|f\|_\infty^{1-\theta} を得ます。

Exercise 8.4

X=[0,1]X=[0,1]μ\mu をルベーグ測度とする。1p1 \le p \le \inftyp2p \ne 2 のとき、ノルム p\|\cdot\|_p は中線定理

f+gp2+fgp2=2fp2+2gp2\|f+g\|_p^2 + \|f-g\|_p^2 = 2\|f\|_p^2 + 2\|g\|_p^2

を満たさないことを示し、Lp([0,1])L^p([0,1]) が(p2p\ne2 のとき)どんな内積からも誘導されないノルム空間であること、すなわちヒルベルト空間でないことを結論せよ。

Solution

f:=χ[0,1/2]f := \chi_{[0,1/2]}g:=χ(1/2,1]g := \chi_{(1/2,1]} と置きます。この 2 つは台が交わりません。

1p<1 \le p < \infty のとき。 fpp=01/21dx=12\|f\|_p^p = \int_0^{1/2}1\,dx = \tfrac12 なので fp=21/p\|f\|_p = 2^{-1/p}、同様に gp=21/p\|g\|_p = 2^{-1/p} です。また f+g=χ[0,1]f+g = \chi_{[0,1]}fg=χ[0,1/2]χ(1/2,1]f - g = \chi_{[0,1/2]} - \chi_{(1/2,1]}fg=χ[0,1]|f-g| = \chi_{[0,1]} なので

f+gp=fgp=(011dx)1/p=1.\|f+g\|_p = \|f-g\|_p = \left(\int_0^1 1\,dx\right)^{1/p} = 1 .

中線定理の左辺は 1+1=21 + 1 = 2、右辺は 222/p+222/p=422/p=222/p2\cdot 2^{-2/p} + 2\cdot 2^{-2/p} = 4\cdot 2^{-2/p} = 2^{2 - 2/p} です。等号 2=222/p2 = 2^{2-2/p} は指数を比べて 1=22/p1 = 2 - 2/p、すなわち p=2p = 2 と同値です。よって p2p \ne 2 のときは中線定理が破れます。

p=p=\infty のとき。 f=g=f+g=fg=1\|f\|_\infty = \|g\|_\infty = \|f+g\|_\infty = \|f-g\|_\infty = 1 なので、左辺は 22、右辺は 44 で一致しません。

結論。 Definition 6.1 の直後で述べたとおり、内積 ,\langle\cdot,\cdot\rangle から u=u,u\|u\| = \sqrt{\langle u,u\rangle} として誘導されるノルムは必ず中線定理を満たします。Lp([0,1])L^p([0,1])p2p\ne2)のノルムはそれを満たさないので、p\|\cdot\|_p を誘導する内積は存在しません。Theorem 5.3 よりこの空間はバナッハ空間ですが、ヒルベルト空間ではありません。

なお、この議論は「台が交わらない 2 つの関数」を使っただけなので、[0,1][0,1] を測度が正の 2 つの互いに素な可測集合に分けられる任意の測度空間で通用します。

本章で証明を省略した事項の所在。 LpL^p の双対性定理(1p<1\le p < \infty(Lp)Lq(L^p)^* \cong L^q)、CcC_c の稠密性、三角関数系の完全性、ヨルダン–フォン・ノイマンの定理は、下記の文献で扱われています。特に Rudin と Folland は LpL^p 空間を独立の章として扱っており、本章の続きを読むのに適しています。

  • 伊藤清三『ルベーグ積分入門』裳華房、1963 — LpL^p 空間とヒルベルト空間を扱う章。
  • 猪狩惺『実解析入門』岩波書店、1996 — LpL^p 空間、双対性、フーリエ解析への応用。
  • W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw–Hill, 1987 — Chapter 3 “LpL^p-Spaces”, Chapter 4 “Elementary Hilbert Space Theory”.
  • G. B. Folland, Real Analysis: Modern Techniques and Their Applications, 2nd ed., Wiley, 1999 — Chapter 6 ”LpL^p Spaces”.
  • E. M. Stein and R. Shakarchi, Real Analysis: Measure Theory, Integration, and Hilbert Spaces, Princeton University Press, 2005 — Chapter 4 (Hilbert Spaces).
  • H. Brezis, Functional Analysis, Sobolev Spaces and Partial Differential Equations, Springer, 2011 — Chapter 4 (”LpL^p Spaces”) 以降。

Appendix: 0<p<10 < p < 1 では何が壊れるか

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三角不等式が逆向きになります。 0<p<10 < p < 1 に対しても fp:=(Xfpdμ)1/p\|f\|_p := (\int_X|f|^p d\mu)^{1/p} という量は定義できますが、これはノルムではありません。X=[0,1]X=[0,1]f=χ[0,1/2]f = \chi_{[0,1/2]}g=χ(1/2,1]g = \chi_{(1/2,1]} とすると Exercise 8.4 と同じ計算で fp=gp=21/p\|f\|_p = \|g\|_p = 2^{-1/p}f+gp=1\|f+g\|_p = 1 です。0<p<10 < p < 1 より 1/p>11/p > 1 なので

fp+gp=221/p=211/p<20=1=f+gp\|f\|_p + \|g\|_p = 2\cdot 2^{-1/p} = 2^{\,1-1/p} < 2^0 = 1 = \|f+g\|_p

となり、三角不等式が破れます。実は f,g0f, g \ge 0 のときには常に f+gpfp+gp\|f+g\|_p \ge \|f\|_p + \|g\|_p(逆ミンコフスキー不等式)が成り立ちます。

距離は入りますが、ノルムは入りません。 0<p<10 < p < 1 のとき、実数 a,b0a,b\ge0 に対して (a+b)pap+bp(a+b)^p \le a^p + b^p が成り立ちます(t(1+t)p1tpt \mapsto (1+t)^p - 1 - t^pt=0t=000t>0t>0 で微分 p((1+t)p1tp1)0p((1+t)^{p-1}-t^{p-1}) \le 0 となるため)。これを使うと

d(f,g):=Xfgpdμd(f,g) := \int_X |f-g|^p \, d\mu

が三角不等式を満たす距離になり、Lp(μ)L^p(\mu)0<p<10 < p < 1)はこの距離に関して完備な距離線形空間になります。Theorem 5.3 の証明 (A) と同じ道具立てで示せます。

しかし双対空間が消えます。 0<p<10 < p < 1 のとき Lp([0,1])L^p([0,1]) の開凸集合は空集合と全体しかなく(局所凸でない)、その結果、連続線形汎関数はゼロ写像しかありません。(Lp)={0}(L^p)^* = \{0\} です。Remark 7.2 のような双対性の議論がまったく使えないため、0<p<10 < p < 1LpL^p は関数解析の主流からは外れた対象になっています。p1p \ge 1 という仮定が、単に不等式の都合ではなく理論全体の成立条件であることがわかります。

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