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ゲージ理論と自発的対称性の破れ:ヒッグス機構はなぜ質量を生むのか

Prerequisite:くりこみ理論入門:ループ発散の正則化から、くりこみ群の流れまで

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  • 場の位相を時空の各点で独立に選び直す自由(局所対称性)を要請すると、それを補償する場としてゲージ場 AμA_\mu が必然的に現れます。電磁場はこの要請の帰結として導かれ、同じ要請が光子の質量項 12m2AμAμ\frac{1}{2}m^2A_\mu A^\mu を禁じます。
  • ラグランジアンが対称でも、最低エネルギー状態(真空)がその対称性を保つとは限りません。これが自発的対称性の破れで、メキシカンハット型ポテンシャルがその典型です。
  • 連続的な大域対称性が自発的に破れると、破れた生成子の数だけ質量ゼロの粒子(南部・ゴールドストーン粒子)が現れます。この記事ではこれを、ポテンシャルの質量行列の零固有ベクトルとして証明します。
  • 破れる対称性がゲージ対称性の場合、ゴールドストーン粒子は独立な粒子として現れず、ゲージ場の縦波自由度として吸収され、ゲージ場が質量を得ます(ヒッグス機構)。自由度の総数は前後で変わりません。
  • 標準模型では SU(2)L×U(1)YU(1)emSU(2)_L \times U(1)_Y \to U(1)_{\mathrm{em}} の破れにより W±,ZW^\pm, Z が質量を得、光子は質量ゼロのまま残ります。MW=gv/2M_W = gv/2MZ=vg2+g2/2M_Z = v\sqrt{g^2+g'^2}/2 から、実験でよく検証された関係 MW=MZcosθWM_W = M_Z\cos\theta_W が従います。

1. 動機:位相の自由度と、質量が書けないという困難

Section titled “1. 動機:位相の自由度と、質量が書けないという困難”

量子力学では、波動関数の全体位相は観測できません。ψeiαψ\psi \to e^{i\alpha}\psi としても ψ2|\psi|^2 は変わらず、期待値も変わりません。ところがこの α\alpha は時空全体で共通の一つの定数です。ここで位相の基準を決めると、アンドロメダ銀河での基準も同時に決まってしまう。ヘルマン・ワイルは 1918 年に長さの基準(Eichung、ゲージ)を各点で自由に選べるとする理論を提案し、1929 年にそれを位相の自由度として読み替えました。位相の基準は各点で勝手に選べるはずだ、という要請です。

この要請には代償があります。位相を各点で別々に回すと、微分 μψ\partial_\mu\psieiα(x)μψe^{i\alpha(x)}\partial_\mu\psi にはならず、余分な項 i(μα)ψi(\partial_\mu\alpha)\psi が出ます。ラグランジアンの微分項がこわれるのです。これを打ち消すには、同じ変換のもとで μα\partial_\mu\alpha だけずれる補償場を導入するしかありません。それが AμA_\mu であり、その正体は電磁ポテンシャルです。相互作用が「対称性の要請から導かれた」——これがゲージ原理で、1954 年のヤンとミルズによる非可換版を経て、現代の素粒子論の設計図になりました。

しかしこの美しい原理は、そのままでは自然を説明できません。弱い相互作用は到達距離がきわめて短く、その媒介粒子は重いはずです。実際 MW80.4 GeVM_W \simeq 80.4\ \mathrm{GeV} から到達距離を見積もると

RMWc=197.3 MeVfm8.04×104 MeV2.5×103 fmR \sim \frac{\hbar}{M_W c} = \frac{197.3\ \mathrm{MeV\cdot fm}}{8.04\times 10^{4}\ \mathrm{MeV}} \simeq 2.5\times 10^{-3}\ \mathrm{fm}

となり、陽子の半径(約 0.84 fm0.84\ \mathrm{fm})の 300 分の 1 以下です。ところが後で示すとおり、ゲージ不変性はゲージ場の質量項を禁じます。さらに悪いことに、弱い相互作用は左巻きフェルミオンだけに働くので、ディラック質量項 mψˉψ=m(ψˉLψR+ψˉRψL)m\bar\psi\psi = m(\bar\psi_L\psi_R + \bar\psi_R\psi_L) すらゲージ不変になりません。ゲージ原理を採用する限り、ゲージ場もフェルミオンも、ラグランジアンに質量を書き込めないのです。

出口は 1960 年前後に、素粒子論ではなく物性論から来ました。超伝導体の BCS 理論を眺めていた南部陽一郎は、「法則の対称性」と「状態の対称性」は別物だと気づきます。強磁性体のハミルトニアンは回転対称ですが、基底状態は特定の向きに磁化している。同じことが場の理論の真空でも起きるなら、ラグランジアンを対称に保ったまま真空だけが対称性を破れます。1964 年、アンダーソン、エングレール・ブラウト、ヒッグス、グラルニク・ヘーゲン・キッブルらは、この機構をゲージ理論と組み合わせるとゲージ場が質量を獲得することを見出しました。1967 年のワインバーグ「A Model of Leptons」がそれを弱い相互作用に適用し、2012 年のヒッグス粒子発見で話は閉じます。

以下ではこの筋道を、計算を省かずにたどります。

2. 準備:記法とくりかえしの確認

Section titled “2. 準備:記法とくりかえしの確認”

自然単位系 =c=1\hbar = c = 1 を使い、計量は ημν=diag(+1,1,1,1)\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1) とします。ギリシャ添字は 0,1,2,30,1,2,3 を走り、繰り返す添字は和を取ります。μ=/xμ\partial_\mu = \partial/\partial x^\mu=μμ\Box = \partial_\mu\partial^\mu です。

場の理論の作用は S=d4xL(ϕ,μϕ)S = \int d^4x\, \mathcal{L}(\phi, \partial_\mu\phi) で、停留条件からオイラー・ラグランジュ方程式

μ ⁣(L(μϕ))Lϕ=0\partial_\mu\!\left(\frac{\partial\mathcal{L}}{\partial(\partial_\mu\phi)}\right) - \frac{\partial\mathcal{L}}{\partial\phi} = 0

が出ます。この枠組みは 古典場の理論とラグランジアン場のオイラー・ラグランジュ方程式(Theorem 4.3)[Classical Field Theory and the Lagrangian] で扱いました。作用が連続的な大域対称性をもつとき保存カレントが対応する、という事実は 対称性と保存則(ネーターの定理)ネーターの定理(Theorem 4.1)[対称性と保存則] を前提とします。

以後くりかえし使うのが複素スカラー場です。

L0=μϕμϕm2ϕϕ\mathcal{L}_0 = \partial_\mu\phi^{*}\partial^\mu\phi - m^2\phi^{*}\phi

は、定数 α\alpha による大域的 U(1) 変換 ϕeiαϕ\phi \to e^{i\alpha}\phi で不変です。無限小変換 δϕ=iαϕ, δϕ=iαϕ\delta\phi = i\alpha\phi,\ \delta\phi^{*} = -i\alpha\phi^{*} に対応するネーターカレント(大域的 U(1) 対称性と保存カレント(Example 6.7)[Classical Field Theory and the Lagrangian])は

jμ=i(ϕμϕϕμϕ)j^\mu = i\left(\phi^{*}\partial^\mu\phi - \phi\,\partial^\mu\phi^{*}\right)

で(全体の符号は規約により、電荷の符号の取り方に対応します)、運動方程式のもとで μjμ=0\partial_\mu j^\mu = 0 が成り立ちます。実際 μjμ=i(ϕϕϕϕ)=i(ϕ(m2ϕ)ϕ(m2ϕ))=0\partial_\mu j^\mu = i(\phi^{*}\Box\phi - \phi\Box\phi^{*}) = i(\phi^{*}(-m^2\phi) - \phi(-m^2\phi^{*})) = 0 です。

最後に「質量項」の意味を確認します。ベクトル場の 12m2AμAμ\frac{1}{2}m^2A_\mu A^\mu は運動方程式を (+m2)Aν=(\Box + m^2)A^\nu = \cdots の形にし、静的な源のまわりのポテンシャルを湯川型 emr/re^{-mr}/r にします(点源が作る場と核力の到達距離(Example 5.2)[Classical Field Theory and the Lagrangian])。m=0m = 0 なら 1/r1/r のクーロン型で無限遠まで届き、m0m \ne 0 なら距離 1/m1/m で指数関数的に切れる。「質量」と「力の到達距離」は同じことの言い換えです。

3. U(1) ゲージ理論:局所対称性から電磁場を導く

Section titled “3. U(1) ゲージ理論:局所対称性から電磁場を導く”

大域から局所へ。 L0\mathcal{L}_0 の対称性 ϕeiαϕ\phi \to e^{i\alpha}\phi で、α\alpha を時空の関数 α(x)\alpha(x) に置き換えてみます。ポテンシャル項 ϕϕ\phi^{*}\phieiα(x)=1|e^{i\alpha(x)}|=1 なので何も変わりません。壊れるのは微分項だけです。

μ(eiqα(x)ϕ)=eiqα(x)(μϕ+iq(μα)ϕ)\partial_\mu\left(e^{iq\alpha(x)}\phi\right) = e^{iq\alpha(x)}\left(\partial_\mu\phi + iq(\partial_\mu\alpha)\phi\right)

ここで場の U(1) 電荷を qq と書きました。第 2 項が邪魔者です。これを打ち消すため、変換のもとでちょうど μα\partial_\mu\alpha だけずれる場を用意します。

Definition 3.1局所 U(1) 変換と共変微分

α:R1,3R\alpha : \mathbb{R}^{1,3} \to \mathbb{R} を任意の滑らかな関数、qq を実定数(場 ϕ\phi の電荷)とする。複素スカラー場 ϕ\phi とベクトル場 AμA_\mu に対する局所 U(1)(ゲージ)変換

ϕ(x)ϕ(x)=eiqα(x)ϕ(x),Aμ(x)Aμ(x)=Aμ(x)+μα(x)\phi(x) \longmapsto \phi'(x) = e^{iq\alpha(x)}\phi(x), \qquad A_\mu(x) \longmapsto A'_\mu(x) = A_\mu(x) + \partial_\mu\alpha(x)

で定める。また ϕ\phi に対する共変微分

Dμϕ(μiqAμ)ϕD_\mu\phi \equiv \left(\partial_\mu - iqA_\mu\right)\phi

で定める。

Lemma 3.2共変微分の共変性

Definition 3.1 の変換のもとで

Dμϕ(μiqAμ)ϕ=eiqα(x)DμϕD'_\mu\phi' \equiv (\partial_\mu - iqA'_\mu)\phi' = e^{iq\alpha(x)}\,D_\mu\phi

が成り立つ。すなわち DμϕD_\mu\phiϕ\phi とまったく同じように変換する。したがって (Dμϕ)(Dμϕ)(D_\mu\phi)^{*}(D^\mu\phi) は局所 U(1) 変換で不変である。逆に、AμAμ+ΛμA_\mu \mapsto A_\mu + \Lambda_\muΛμ\Lambda_\muAμA_\mu に依らない)という形のずれで共変性が成り立つのは Λμ=μα\Lambda_\mu = \partial_\mu\alpha のときに限る。

Proof(Lemma 3.2)

まず前半を示します。定義に代入して

(μiqAμ)ϕ=μ ⁣(eiqαϕ)iq(Aμ+μα)eiqαϕ=eiqα(μϕ+iq(μα)ϕ)iqeiqα(Aμ+μα)ϕ=eiqα(μϕ+iq(μα)ϕiqAμϕiq(μα)ϕ)=eiqα(μiqAμ)ϕ.\begin{aligned} (\partial_\mu - iqA'_\mu)\phi' &= \partial_\mu\!\left(e^{iq\alpha}\phi\right) - iq\left(A_\mu + \partial_\mu\alpha\right)e^{iq\alpha}\phi \\ &= e^{iq\alpha}\Big(\partial_\mu\phi + iq(\partial_\mu\alpha)\phi\Big) - iq e^{iq\alpha}\left(A_\mu + \partial_\mu\alpha\right)\phi \\ &= e^{iq\alpha}\Big(\partial_\mu\phi + iq(\partial_\mu\alpha)\phi - iqA_\mu\phi - iq(\partial_\mu\alpha)\phi\Big) \\ &= e^{iq\alpha}\left(\partial_\mu - iqA_\mu\right)\phi . \end{aligned}

第 2 行では積の微分則を使い、第 3 行で eiqαe^{iq\alpha} をくくり出しました。第 4 行で iq(μα)ϕiq(\partial_\mu\alpha)\phi が符号違いで相殺します。これがまさに補償場を導入した目的です。

不変性は Dμϕ2=eiqα2Dμϕ2=Dμϕ2\left|D'_\mu\phi'\right|^2 = \left|e^{iq\alpha}\right|^2\left|D_\mu\phi\right|^2 = \left|D_\mu\phi\right|^2 から従います(α\alpha が実数だから eiqα=1|e^{iq\alpha}|=1)。

後半(必要性)を示します。(μiq(Aμ+Λμ))(eiqαϕ)=eiqα(μiqAμ)ϕ(\partial_\mu - iq(A_\mu+\Lambda_\mu))(e^{iq\alpha}\phi) = e^{iq\alpha}(\partial_\mu - iqA_\mu)\phi を要求します。左辺は上と同じ計算で

eiqα(μϕ+iq(μα)ϕiqAμϕiqΛμϕ)e^{iq\alpha}\Big(\partial_\mu\phi + iq(\partial_\mu\alpha)\phi - iqA_\mu\phi - iq\Lambda_\mu\phi\Big)

となるので、両辺を比べると任意の ϕ\phi に対して iq(μα)ϕiqΛμϕ=0iq(\partial_\mu\alpha)\phi - iq\Lambda_\mu\phi = 0、すなわち q0q \ne 0 より Λμ=μα\Lambda_\mu = \partial_\mu\alpha です。

補償場 AμA_\mu を導入したからには、それ自身の運動項が要ります。ゲージ不変な量を作るには、次の組み合わせが鍵になります。

Definition 3.3場の強さテンソル

ゲージ場 AμA_\mu に対し

FμνμAννAμF_{\mu\nu} \equiv \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu

場の強さテンソルという。これは共変微分の交換子としても書ける:任意の ϕ\phi に対し [Dμ,Dν]ϕ=iqFμνϕ[D_\mu, D_\nu]\phi = -iq\,F_{\mu\nu}\,\phi

FμνF_{\mu\nu} がゲージ不変であることはすぐ確かめられます。

Fμν=μ(Aν+να)ν(Aμ+μα)=Fμν+(μννμ)α=FμνF'_{\mu\nu} = \partial_\mu(A_\nu + \partial_\nu\alpha) - \partial_\nu(A_\mu + \partial_\mu\alpha) = F_{\mu\nu} + (\partial_\mu\partial_\nu - \partial_\nu\partial_\mu)\alpha = F_{\mu\nu}

最後の等号は α\alphaC2C^2 級なら偏微分が可換(シュワルツの定理)だからです。成分を書けば F0i=EiF_{0i} = E_iFij=ϵijkBkF_{ij} = -\epsilon_{ijk}B_k で、FμνF_{\mu\nu} は電場と磁場をまとめたものにほかなりません。

以上を合わせると、局所 U(1) 対称性をもつ最も簡単な理論が決まります。

LsQED=14FμνFμν+(Dμϕ)(Dμϕ)V(ϕϕ)\mathcal{L}_{\mathrm{sQED}} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} + (D_\mu\phi)^{*}(D^\mu\phi) - V(\phi^{*}\phi)

ディラック場なら LQED=ψˉ(iγμDμm)ψ14FμνFμν\mathcal{L}_{\mathrm{QED}} = \bar\psi(i\gamma^\mu D_\mu - m)\psi - \frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}、すなわち量子電磁力学です。相互作用の形(最小結合)を我々が選んだのではなく局所対称性が選んだ、という点が重要です。

flowchart TD
A["大域的 U(1) 対称性<br/>位相 α は時空全体で共通"] --> B["位相を各点で独立に選びたい<br/>局所化 α → α(x)"]
B --> C["微分 ∂μφ が余分な項 iq(∂μα)φ を生み<br/>ラグランジアンが不変でなくなる"]
C --> D["補償場 Aμ を導入<br/>Aμ → Aμ + ∂μα"]
D --> E["共変微分 Dμ = ∂μ − iqAμ<br/>Dμφ は φ と同じ変換をする"]
E --> F["Aμ 自身の運動項に許されるのは<br/>ゲージ不変な −FμνF^μν/4"]
F --> G["質量項 m²AμA^μ は不変でない<br/>⇒ 光子の質量はゼロ"]
ゲージ原理の論理の流れ。位相の局所化という要請が、ゲージ場・共変微分・質量ゼロの光子を順に強制します。

Example 3.4マクスウェル方程式が運動方程式として出てくる

LsQED\mathcal{L}_{\mathrm{sQED}}AνA_\nu について変分します。運動項からは

(μAν)(14FαβFαβ)=Fμν\frac{\partial}{\partial(\partial_\mu A_\nu)}\left(-\frac{1}{4}F_{\alpha\beta}F^{\alpha\beta}\right) = -F^{\mu\nu}

が出ます。一方 AνA_\nu そのものへの依存は共変微分から来ます。(Dμϕ)/Aν=iqημνϕ\partial (D^\mu\phi)/\partial A_\nu = -iq\eta^{\mu\nu}\phi(Dμϕ)/Aν=+iqδμνϕ\partial (D_\mu\phi)^{*}/\partial A_\nu = +iq\delta^\nu_\mu\phi^{*} なので

Aν[(Dμϕ)(Dμϕ)]=iqϕDνϕiqϕ(Dνϕ).\frac{\partial}{\partial A_\nu}\Big[(D_\mu\phi)^{*}(D^\mu\phi)\Big] = iq\phi^{*}D^\nu\phi - iq\,\phi\,(D^\nu\phi)^{*} .

オイラー・ラグランジュ方程式 μ[L/(μAν)]L/Aν=0\partial_\mu\big[\partial\mathcal{L}/\partial(\partial_\mu A_\nu)\big] - \partial\mathcal{L}/\partial A_\nu = 0 に入れると

μFμν=Jν,Jνiq(ϕDνϕϕ(Dνϕ))=2qIm ⁣(ϕDνϕ)\partial_\mu F^{\mu\nu} = J^\nu, \qquad J^\nu \equiv -iq\Big(\phi^{*}D^\nu\phi - \phi\,(D^\nu\phi)^{*}\Big) = 2q\,\mathrm{Im}\!\left(\phi^{*}D^\nu\phi\right)

を得ます。これはマクスウェル方程式(ガウスの法則とアンペール・マクスウェルの法則)そのものです。JνJ^\nuL0\mathcal{L}_0 のネーターカレントの μDμ\partial_\mu \to D_\mu 置き換え版で、実数値です。さらに FμνF^{\mu\nu} が反対称なので

νJν=νμFμν=0\partial_\nu J^\nu = \partial_\nu\partial_\mu F^{\mu\nu} = 0

恒等的に成り立ちます。電荷保存は運動方程式の副産物ではなく、ゲージ場を導入した時点で構造的に保証されているのです。残る 2 本のマクスウェル方程式(B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B}=0 とファラデーの法則)は F=dAF = dA から自動的に従うビアンキ恒等式 λFμν+μFνλ+νFλμ=0\partial_\lambda F_{\mu\nu} + \partial_\mu F_{\nu\lambda} + \partial_\nu F_{\lambda\mu} = 0 です。

Proposition 3.5ゲージ不変性はゲージ場の質量項を禁じる

m0m \ne 0 とする。作用に項 Sm=d4x12m2AμAμS_m = \int d^4x\,\tfrac{1}{2}m^2 A_\mu A^\mu を加えると、Definition 3.1 のゲージ変換で SmS_m は不変にならない。より正確に、Aμ0A_\mu \equiv 0 かつ α\alphax1x^1 だけに依存する定数でないコンパクト台の関数のとき、SmS_m の変化量は厳密に負である。したがってゲージ不変な作用はゲージ場の質量項を含まない。

Proof(Proposition 3.5)

AμAμ+μαA_\mu \to A_\mu + \partial_\mu\alpha を代入すると

δSm=d4x[m2Aμμα+12m2μαμα].\delta S_m = \int d^4x\left[m^2 A_\mu\partial^\mu\alpha + \frac{1}{2}m^2\,\partial_\mu\alpha\,\partial^\mu\alpha\right].

第 1 項は部分積分(表面項は α\alpha のコンパクト台性から落ちる)で d4xm2(μAμ)α-\int d^4x\, m^2(\partial_\mu A^\mu)\alpha となり、μAμ=0\partial_\mu A^\mu = 0 という特別な配位でしか消えません。これは恒等式ではないので、この時点ですでに不変性は破れています。

念のため反例を明示します。Aμ0A_\mu \equiv 0 と取れば第 1 項は消え、α=α(x1)\alpha = \alpha(x^1)CC^\infty、コンパクト台、定数でない)と取ると μαμα=η11(1α)2=(1α)2\partial_\mu\alpha\,\partial^\mu\alpha = \eta^{11}(\partial_1\alpha)^2 = -(\partial_1\alpha)^2 なので

δSm=m22d4x(1α)20\delta S_m = -\frac{m^2}{2}\int d^4x\,\left(\partial_1\alpha\right)^2 \ne 0

α\alpha が定数でないので 1α\partial_1\alpha はどこかで 00 でなく、被積分関数は非負で恒等的に 00 ではない)。よって δSm0\delta S_m \ne 0 であり、SmS_m はゲージ不変でありません。\square

この命題は Example 3.4 の裏返しでもあります。質量項を入れた運動方程式 μFμν+m2Aν=Jν\partial_\mu F^{\mu\nu} + m^2A^\nu = J^\nu の両辺に ν\partial_\nu を作用させると m2νAν=νJνm^2\partial_\nu A^\nu = \partial_\nu J^\nu となり、JνJ^\nu が保存するなら νAν=0\partial_\nu A^\nu = 0運動方程式として強制されます。これがプロカ理論で、4 成分から拘束 1 本を引いて自由度は 3。質量ゼロのゲージ場の自由度 2(4 成分 − ゲージ固定 1 − 残留ゲージ 1)とは食い違います。

Remark 3.6

質量項を手で入れる代償は自由度の数だけではありません。プロカ場の伝播関数は

ik2m2(ημνkμkνm2)\frac{-i}{k^2-m^2}\left(\eta_{\mu\nu} - \frac{k_\mu k_\nu}{m^2}\right)

で、kk \to \infty で第 2 項が定数に留まるため発散が悪化し、素朴にはくりこみ可能性が失われます(くりこみ理論入門くりこみ可能性の分類(Definition 5.4)[くりこみ理論入門] を思い出してください)。カレントが保存していれば kμkνk_\mu k_\nu の項は落ちますが、弱い相互作用のカレントはフェルミオン質量のせいで厳密には保存しません。この困難を解いたのがヒッグス機構で、質量を真空の性質として生成すればゲージ不変性もくりこみ可能性も保たれます(‘t Hooft, 1971)。Appendix で確認します。

4. 自発的対称性の破れ:法則の対称性と状態の対称性

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対称性の話をするとき、私たちは無意識に二つのものを混同しています。法則(ラグランジアン)の対称性と、状態(真空)の対称性です。鉛筆を先端で立ててみてください。重力と鉛筆の形が作る系は鉛直軸まわりの回転対称ですが、鉛筆が倒れた後の状態は特定の方向を向いています。法則は対称、状態は非対称。このずれが自発的対称性の破れです。

Definition 4.1自発的対称性の破れ

実スカラー場の組 ϕ=(ϕ1,,ϕN)\phi = (\phi^1,\dots,\phi^N) と、その上に線形に作用する群 GG を考える。GG が作用 S[ϕ]S[\phi] を不変に保つとする。ポテンシャル VV の最小点 vRNv \in \mathbb{R}^N に対し

H{gG  :  R(g)v=v}H \equiv \{\,g \in G \;:\; R(g)v = v\,\}

vv固定部分群(残留対称性)という。HGH \subsetneq G のとき、すなわち R(g)vvR(g)v \ne v となる gGg \in G が存在するとき、対称性 GG は真空 vv において HH へ自発的に破れているという。

場の量子論では、これは「ある局所演算子 O\mathcal{O}GG の非自明な表現に属しながら 0O00\langle 0|\mathcal{O}|0\rangle \ne 0 である」と言い換えられる。この 0O0\langle 0|\mathcal{O}|0\rangle秩序変数という。

「破れている」という語には注意してください。ハミルトニアンの対称性は破れていません。破れるのは、対称性が真空を一つに保つという性質です。対称な理論は同じエネルギーの真空を複数もち、系はそのうち一つを選びます。

Definition 4.2真空多様体

Definition 4.1 の状況で、VV の最小点全体の集合 M={ϕ:V(ϕ)=minV}\mathcal{M} = \{\phi : V(\phi) = \min V\}真空多様体という。GGM\mathcal{M} に推移的に作用するとき、軌道・固定部分群の対応により MG/H\mathcal{M} \cong G/H である。

Example 4.3離散対称性の破れ:二重井戸

実スカラー場 1 個で

L=12μϕμϕλ4(ϕ2v2)2,λ>0, v>0\mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi\,\partial^\mu\phi - \frac{\lambda}{4}\left(\phi^2 - v^2\right)^2, \qquad \lambda > 0,\ v > 0

を考えます。対称性は G=Z2={1,P}G = \mathbb{Z}_2 = \{1, P\}P:ϕϕP:\phi \to -\phi です。V(ϕ)=λϕ(ϕ2v2)V'(\phi) = \lambda\phi(\phi^2-v^2) の零点は ϕ=0,±v\phi = 0, \pm vV(ϕ)=λ(3ϕ2v2)V''(\phi) = \lambda(3\phi^2 - v^2) なので V(0)=λv2<0V''(0) = -\lambda v^2 < 0(極大)、V(±v)=2λv2>0V''(\pm v) = 2\lambda v^2 > 0(極小)です。真空は ϕ=±v\phi = \pm v の 2 点で、PP はこの 2 点を入れ替えます。H={1}H = \{1\} で、Z2\mathbb{Z}_2 は完全に破れています。

ϕ=v+h\phi = v + h と展開すると

V=λ4((v+h)2v2)2=λ4(2vh+h2)2=λv2h2+λvh3+λ4h4V = \frac{\lambda}{4}\left((v+h)^2 - v^2\right)^2 = \frac{\lambda}{4}\left(2vh + h^2\right)^2 = \lambda v^2 h^2 + \lambda v h^3 + \frac{\lambda}{4}h^4

なので、揺らぎ hh の質量は 12mh2=λv2\frac{1}{2}m_h^2 = \lambda v^2、すなわち mh=2λvm_h = \sqrt{2\lambda}\,v です。質量ゼロの粒子は現れません。GG が離散群だからです。

なぜ量子力学のようにトンネル効果で 2 つの真空が混ざり、対称な基底状態 (+v+v)/2(|+v\rangle + |-v\rangle)/\sqrt{2} にならないのか。空間の体積を V\mathcal{V} とすると、+v+vv-v の領域を隔てる壁(ドメインウォール)の作用が V\mathcal{V} に比例するため、遷移振幅が ecVe^{-c\mathcal{V}} で抑えられるからです。無限体積極限で振幅は 00 になり、2 つの真空は交わらない別世界(超選択則の部門)に分かれます。

Example 4.4連続対称性の破れ:O(N) 模型の質量行列

実スカラー場 NN 個を並べ、ϕaϕaa=1N(ϕa)2\phi^a\phi^a \equiv \sum_{a=1}^N (\phi^a)^2 と書いて

L=12μϕaμϕaλ4(ϕaϕav2)2\mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi^a\partial^\mu\phi^a - \frac{\lambda}{4}\left(\phi^a\phi^a - v^2\right)^2

を考えます。VVϕaϕa\phi^a\phi^a にしか依らないので G=O(N)G = O(N) で不変です。真空多様体は半径 vv の球面 SN1S^{N-1} で、veN=(0,,0,v)v \boldsymbol{e}_N = (0,\dots,0,v) を選ぶと、これを固定するのは残りの N1N-1 成分を回す H=O(N1)H = O(N-1) です。

質量行列を最後まで計算します。V=λ4(ϕ2v2)2V = \frac{\lambda}{4}(\phi^2 - v^2)^2ϕ2ϕcϕc\phi^2 \equiv \phi^c\phi^c)に対し

Vϕa=λ(ϕ2v2)ϕa,2Vϕbϕa=2λϕaϕb+λ(ϕ2v2)δab.\frac{\partial V}{\partial\phi^a} = \lambda\left(\phi^2 - v^2\right)\phi^a, \qquad \frac{\partial^2 V}{\partial\phi^b\partial\phi^a} = 2\lambda\,\phi^a\phi^b + \lambda\left(\phi^2-v^2\right)\delta^{ab}.

ϕ=veN\phi = v\boldsymbol{e}_N では ϕ2v2=0\phi^2 - v^2 = 0ϕa=vδaN\phi^a = v\delta^{aN} なので

Mab2=2VϕaϕbveN=2λv2δaNδbN=diag(0,,0N1,2λv2).M^2_{ab} = \left.\frac{\partial^2V}{\partial\phi^a\partial\phi^b}\right|_{v\boldsymbol{e}_N} = 2\lambda v^2\,\delta^{aN}\delta^{bN} = \mathrm{diag}\big(\underbrace{0,\dots,0}_{N-1},\,2\lambda v^2\big).

N1N-1 個の質量ゼロモード(球面に沿う方向)と、質量 2λv\sqrt{2\lambda}\,v の 1 個(半径方向)です。ここで dimO(N)dimO(N1)=N(N1)2(N1)(N2)2=(N1)(N(N2))2=N1\dim O(N) - \dim O(N-1) = \frac{N(N-1)}{2} - \frac{(N-1)(N-2)}{2} = \frac{(N-1)\big(N-(N-2)\big)}{2} = N-1 であり、質量ゼロモードの個数とぴったり一致しています。この一致は偶然ではありません。次節の定理がその理由です。

Vφ₁−vvhθV の断面真空多様体 |φ| = v動径方向 h:m² = 2λv²角度方向 θ:m² = 0(南部・ゴールドストーン粒子)
メキシカンハット型ポテンシャルの断面(左)と真空多様体(右)。真空多様体に沿って動いてもポテンシャルは変わらないので、その方向の揺らぎは質量をもちません。

Example 4.4 で観察した「質量ゼロモードの個数 = 破れた生成子の個数」は一般に成り立ちます。まず古典場(=樹木レベル)の版を、線形代数だけで証明します。

Theorem 5.1ゴールドストーンの定理(古典場の版)

ϕ=(ϕ1,,ϕN)\phi = (\phi^1,\dots,\phi^N) を実スカラー場の組とし、

L=12μϕaμϕaV(ϕ),VC2(RN)\mathcal{L} = \frac{1}{2}\partial_\mu\phi^a\partial^\mu\phi^a - V(\phi), \qquad V \in C^2(\mathbb{R}^N)

とする。GG を次元 nn連結リー群とし、実直交表現 R:GO(N)R : G \to O(N) によって ϕR(g)ϕ\phi \mapsto R(g)\phi と作用し、すべての gGg \in GϕRN\phi \in \mathbb{R}^N について V(R(g)ϕ)=V(ϕ)V(R(g)\phi) = V(\phi) が成り立つとする。リー環の基底 {TA}A=1n\{T^A\}_{A=1}^{n} の表現行列(実反対称 N×NN\times N 行列)も同じ記号で書き、無限小変換を δAϕa=(TA)abϕb\delta_A\phi^a = (T^A)^{ab}\phi^b とする。

vRNv \in \mathbb{R}^NVV の(内点における)極小点とし、H={gG:R(g)v=v}H = \{g \in G : R(g)v = v\}h=dimHh = \dim H とおく。このとき、質量行列

Mab22Vϕaϕbϕ=vM^2_{ab} \equiv \left.\frac{\partial^2 V}{\partial\phi^a\partial\phi^b}\right|_{\phi=v}

は実対称かつ半正定値で、その核は span{TAv  :  A=1,,n}\mathrm{span}\{\,T^A v \;:\; A = 1,\dots,n\,\} を含み、この部分空間の次元は nhn - h である。したがって vv のまわりの微小振動の質量スペクトルには、少なくとも nhn-h 個の質量ゼロのモードが含まれる。

Proof(Theorem 5.1)

第 1 段:不変性の無限小形。 GG は連結なので、単位元の近傍は exp\exp の像で覆われ、GG はその近傍で生成されます。よって V(R(g)ϕ)=V(ϕ)V(R(g)\phi) = V(\phi) は、すべての AA とすべての εR\varepsilon \in \mathbb{R} について V(eεTAϕ)=V(ϕ)V(e^{\varepsilon T^A}\phi) = V(\phi) と同値です。両辺を ε\varepsilon で微分して ε=0\varepsilon = 0 とおくと、任意の ϕ\phi について

Vϕa(ϕ)(TAϕ)a=0()\frac{\partial V}{\partial\phi^a}(\phi)\,\left(T^A\phi\right)^a = 0 \qquad (\ast)

を得ます((TAϕ)a=(TA)abϕb(T^A\phi)^a = (T^A)^{ab}\phi^b)。

第 2 段:もう一度微分する。 ()(\ast)ϕ\phi についての恒等式なので、ϕb\phi^b で偏微分できます。積の微分則により

2Vϕbϕa(ϕ)(TAϕ)a+Vϕa(ϕ)(TA)ab=0.\frac{\partial^2 V}{\partial\phi^b\partial\phi^a}(\phi)\left(T^A\phi\right)^a + \frac{\partial V}{\partial\phi^a}(\phi)\,(T^A)^{ab} = 0 .

第 3 段:極小点で評価する。 vv は内点での極小点なので V/ϕav=0\partial V/\partial\phi^a|_v = 0 です。よって第 2 項が落ち、

Mba2(TAv)a=0(A=1,,n)M^2_{ba}\,\left(T^A v\right)^a = 0 \qquad (A = 1,\dots,n)

が成り立ちます。つまり各ベクトル TAvT^AvM2M^2 の核に属します。また M2M^2 は 2 階偏導関数の行列なので実対称(VC2V \in C^2 よりシュワルツの定理)で、極小点では半正定値です。したがって M2M^2 は直交行列で対角化でき、固有値はすべて 0\ge 0、核の次元がゼロ固有値の重複度に等しくなります。

第 4 段:核の次元を数える。 線形写像

ρ:gRN,ρ(X)=Xv\rho : \mathfrak{g} \longrightarrow \mathbb{R}^N, \qquad \rho(X) = Xv

を考えます(g\mathfrak{g}GG のリー環、dimg=n\dim\mathfrak{g} = n)。XkerρX \in \ker\rho とは Xv=0Xv = 0 のことです。このとき tetXvt \mapsto e^{tX}vddtetXv=XetXv\frac{d}{dt}e^{tX}v = X e^{tX}v を満たす解で、Xv=0Xv=0 より定数解 etXv=ve^{tX}v = v が解の一意性から従います。逆に etXv=ve^{tX}v = v がすべての tt で成り立てば、tt で微分して t=0t=0 とおくと Xv=0Xv = 0 です。よって

kerρ={Xg:etXv=v (t)}=h=Lie(H),\ker\rho = \{X \in \mathfrak{g} : e^{tX}v = v \ (\forall t)\} = \mathfrak{h} = \mathrm{Lie}(H),

すなわち dimkerρ=h\dim\ker\rho = h です。次元定理(階数・退化次数の定理)より

dimspan{TAv}=dimimρ=nh.\dim\,\mathrm{span}\{T^Av\} = \dim\,\mathrm{im}\,\rho = n - h .

第 5 段:結論。 第 3 段より span{TAv}kerM2\mathrm{span}\{T^Av\} \subseteq \ker M^2 で、第 4 段よりその次元は nhn-h。よって M2M^2 のゼロ固有値は重複度 nhn-h 以上です。ϕ=v+χ\phi = v + \chi と展開したときの 2 次のラグランジアンは 12μχaμχa12Mab2χaχb\frac{1}{2}\partial_\mu\chi^a\partial^\mu\chi^a - \frac{1}{2}M^2_{ab}\chi^a\chi^b であり、M2M^2 を対角化する基底で固有値 mk2m_k^2 のモードは (+mk2)χk=0(\Box + m_k^2)\chi_k = 0 に従います。mk2=0m_k^2 = 0 のモードは質量ゼロの粒子です。\square

証明の第 4 段が語っているのは幾何です。TAvT^Av は真空 vv における真空多様体 MG/H\mathcal{M} \cong G/H の接ベクトルです。M\mathcal{M} に沿って動いてもポテンシャルは一定なので、その方向の「復元力」はゼロ、つまり質量がゼロ。破れた生成子(g\mathfrak{g} のうち h\mathfrak{h} に入らないもの)と M\mathcal{M} の接方向が 1 対 1 に対応する、というのが定理の内容です。Example 4.3 で質量ゼロモードが出なかったのは、Z2\mathbb{Z}_2 が離散群で dimG=0\dim G = 0 だったからです。定理の「連結リー群」という仮定は落とせません。

樹木レベルを超えた主張も成り立ちます。仮定を明示して述べます。

Theorem 5.2ゴールドストーンの定理(場の量子論版)

次を仮定する。(i) 理論はローレンツ不変な局所場の理論で、状態空間の計量は正定値(負ノルム状態を含まない)である。(ii) 真空 0|0\rangle はポアンカレ変換で不変である。(iii) 局所的な保存カレント jμ(x)j^\mu(x) が存在し、μjμ=0\partial_\mu j^\mu = 0 を満たす。QRx<Rd3xj0(0,x)Q_R \equiv \int_{|\boldsymbol{x}| < R} d^3x\, j^0(0,\boldsymbol{x}) とおく。(iv) ある局所演算子 O\mathcal{O} が存在して

limR0[QR, O(0)]0=η0\lim_{R\to\infty}\langle 0|\left[Q_R,\ \mathcal{O}(0)\right]|0\rangle = \eta \ne 0

(対称性が自発的に破れている、の意味)。

このとき理論のスペクトルには質量ゼロの 1 粒子状態 π(k)|\pi(\boldsymbol{k})\rangle が存在し、

0jμ(0)π(k)=ifkμ,f0,k2=0\langle 0|\,j^\mu(0)\,|\pi(\boldsymbol{k})\rangle = i f\,k^\mu, \qquad f \ne 0,\quad k^2 = 0

を満たす。この粒子を南部・ゴールドストーン粒子という。

Remark 5.3

証明は 0[jμ(x),O(0)]0\langle 0|[j^\mu(x), \mathcal{O}(0)]|0\rangle のスペクトル表示(ケレン・レーマン表示)を用いるもので、ワインバーグ『The Quantum Theory of Fields, Vol. II』第 19 章、または Goldstone・Salam・Weinberg (1962) にあります。ここでは仮定の役割だけ注意します。

まず、電荷 Q=d3xj0Q = \int d^3x\,j^0 自体は対称性が破れた真空上では定義できません0Q20=d3x0j0(x)Q0\langle 0|Q^2|0\rangle = \int d^3x\,\langle 0|j^0(x)Q|0\rangle は並進不変性から被積分関数が定数となり、体積に比例して発散するからです(ファブリ・ピカソの議論)。仮定 (iv) が有限領域の QRQ_R で書かれているのはそのためです。

次に、次節でヒッグス機構が「ゴールドストーン粒子を出さない」ことを見ますが、それは定理の反例ではありません。ゲージ理論では仮定 (i) を満たせないのです。クーロンゲージのように正定値計量を保つゲージでは明白なローレンツ共変性が失われ、RξR_\xi ゲージのように共変的なゲージでは負ノルム状態(不定計量)が入ります。どちらのゲージでも定理の前提が崩れており、質量ゼロのスカラー粒子が物理的スペクトルに現れる必要はありません。

Example 5.4実例:パイ中間子はほぼゴールドストーン粒子

QCD で u,du, d クォークの質量を 00 とおくと、ラグランジアンは左巻き・右巻きを独立に回す SU(2)L×SU(2)RSU(2)_L \times SU(2)_R で不変です(カイラル対称性、dimG=3+3=6\dim G = 3+3 = 6)。強い相互作用はクォーク凝縮 uˉu=dˉd0\langle \bar{u}u\rangle = \langle\bar{d}d\rangle \ne 0 を作り、これは左巻きと右巻きを結ぶので、対称性は同時に回す SU(2)VSU(2)_V(アイソスピン、dimH=3\dim H = 3)へ破れます。Theorem 5.1 の数え方で 63=36 - 3 = 3 個の質量ゼロ粒子が予言され、実際に π+,π0,π\pi^+, \pi^0, \pi^- の 3 個が対応します。

現実の u,du, d クォークは小さいながら質量をもつので対称性は明示的にも破れており、パイ中間子の質量は厳密には 00 になりません。この「擬ゴールドストーン粒子」の質量は Gell-Mann・Oakes・Renner の関係

mπ2fπ2=(mu+md)qˉq+O(mq2)m_\pi^2 f_\pi^2 = -\left(m_u + m_d\right)\langle\bar{q}q\rangle + O(m_q^2)

に従い、mq0m_q \to 0mπ20m_\pi^2 \to 0 です。数値で確かめると、mπ±=139.6 MeVm_{\pi^\pm} = 139.6\ \mathrm{MeV}mπ0=135.0 MeVm_{\pi^0} = 135.0\ \mathrm{MeV} に対し、次に軽いハドロンである ρ\rho 中間子は 775 MeV775\ \mathrm{MeV}、核子は 939 MeV939\ \mathrm{MeV} です。パイ中間子だけが他のハドロンより 5 倍以上軽い。この階層こそ、パイ中間子がゴールドストーン粒子である証拠です(fπ92 MeVf_\pi \simeq 92\ \mathrm{MeV}、規約により 2\sqrt{2} 倍の値を使う文献もあります)。

6. ヒッグス機構:ゴールドストーン粒子はどこへ行ったか

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ここまでで二つの困難が向かい合っています。Proposition 3.5 によりゲージ場に質量を書き込めず、Theorem 5.1 により連続対称性を破ると自然界に対応物のない質量ゼロ粒子が出てしまう。1964 年の発見は、この二つを同時に解消するものでした。破れる対称性がゲージ対称性なら、質量ゼロのスカラーが消え、代わりにゲージ場が質量を得るのです。

§3\S3LsQED\mathcal{L}_{\mathrm{sQED}} に、§4\S4 のメキシカンハット型ポテンシャルを入れます。

Theorem 6.1ヒッグス機構(アーベリアン・ヒッグス模型)

q0q \ne 0μ2>0\mu^2 > 0λ>0\lambda > 0 とし、複素スカラー場 ϕ\phi とゲージ場 AμA_\mu の理論

L=14FμνFμν+(Dμϕ)(Dμϕ)V(ϕ),V(ϕ)=μ2ϕϕ+λ(ϕϕ)2\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu} + (D_\mu\phi)^{*}(D^\mu\phi) - V(\phi), \qquad V(\phi) = -\mu^2\phi^{*}\phi + \lambda\left(\phi^{*}\phi\right)^2

を考える(Dμ=μiqAμD_\mu = \partial_\mu - iqA_\mu)。vμ/λv \equiv \mu/\sqrt{\lambda} とおく。このとき次が成り立つ。

  1. VV の最小点の集合は円 ϕ=v/2|\phi| = v/\sqrt{2} であり、局所 U(1) 対称性は完全に破れる(H={1}H = \{1\})。
  2. ϕ(x)0\phi(x) \ne 0 なる任意の場の配位は、ゲージ変換によって ϕ=(v+h(x))/2\phi = \big(v + h(x)\big)/\sqrt{2}hh は実場)の形に移せる(ユニタリーゲージ)。このゲージで、ゲージ場を BμB_\mu と書くと
L=14Fμν[B]Fμν[B]+12mA2BμBμ+12μhμh12mh2h2+Lint+const.\mathcal{L} = -\frac{1}{4}F_{\mu\nu}[B]F^{\mu\nu}[B] + \frac{1}{2}m_A^2\,B_\mu B^\mu + \frac{1}{2}\partial_\mu h\,\partial^\mu h - \frac{1}{2}m_h^2 h^2 + \mathcal{L}_{\mathrm{int}} + \mathrm{const.}

となる。ここで

mA=qv,mh=2λv=2μ,m_A = |q|\,v, \qquad m_h = \sqrt{2\lambda}\,v = \sqrt{2}\,\mu,Lint=q2vhBμBμ+q22h2BμBμλvh3λ4h4.\mathcal{L}_{\mathrm{int}} = q^2 v\,h\,B_\mu B^\mu + \frac{q^2}{2}h^2 B_\mu B^\mu - \lambda v h^3 - \frac{\lambda}{4}h^4 .
  1. 物理的自由度の総数は破れの前後で変わらない。破れる前は質量ゼロのゲージ場 2 と複素スカラー 2 で計 4、破れた後は質量をもつベクトル場 3 と実スカラー 1 で計 4 である。
  2. 物理的スペクトルに質量ゼロのスカラー粒子は現れない。
Proof(Theorem 6.1)

(1) VVrϕ0r \equiv |\phi| \ge 0 にしか依らず V=μ2r2+λr4V = -\mu^2 r^2 + \lambda r^4 です。dV/dr=2μ2r+4λr3=2r(2λr2μ2)dV/dr = -2\mu^2 r + 4\lambda r^3 = 2r\left(2\lambda r^2 - \mu^2\right) の零点は r=0r = 0r0=μ/2λr_0 = \mu/\sqrt{2\lambda}d2V/dr2=2μ2+12λr2d^2V/dr^2 = -2\mu^2 + 12\lambda r^2 より r=0r=02μ2<0-2\mu^2 < 0(極大)、r=r0r = r_02μ2+6μ2=4μ2>0-2\mu^2 + 6\mu^2 = 4\mu^2 > 0(極小)です。r0=μ/2λ=v/2r_0 = \mu/\sqrt{2\lambda} = v/\sqrt{2} なので最小点は円 ϕ=v/2|\phi| = v/\sqrt{2}ϕ0\phi_0 をこの円上の 1 点とすると、eiqαϕ0=ϕ0e^{iq\alpha}\phi_0 = \phi_0 となるのは qα2πZq\alpha \in 2\pi\mathbb{Z} のときだけで、局所変換としては恒等変換のみです。よって HH は自明群です。

(2) ϕ0\phi \ne 0 なので極形式 ϕ(x)=12ρ(x)eiχ(x)\phi(x) = \frac{1}{\sqrt{2}}\rho(x)\,e^{i\chi(x)}ρ>0\rho > 0)に書けます。Definition 3.1 のゲージ変換で α(x)=χ(x)/q\alpha(x) = -\chi(x)/q を選ぶと

ϕeiqαϕ=eiχϕ=ρ2,AμBμAμ1qμχ\phi \to e^{iq\alpha}\phi = e^{-i\chi}\phi = \frac{\rho}{\sqrt{2}}, \qquad A_\mu \to B_\mu \equiv A_\mu - \frac{1}{q}\partial_\mu\chi

となり、位相場 χ\chi が消えます。Fμν[B]=Fμν[A]1q(μννμ)χ=Fμν[A]F_{\mu\nu}[B] = F_{\mu\nu}[A] - \frac{1}{q}(\partial_\mu\partial_\nu - \partial_\nu\partial_\mu)\chi = F_{\mu\nu}[A] なので運動項は変わりません。ρ=v+h\rho = v + h とおくと

Dμϕ=(μiqBμ)v+h2=12(μhiqBμ(v+h)),D_\mu\phi = \left(\partial_\mu - iqB_\mu\right)\frac{v+h}{\sqrt{2}} = \frac{1}{\sqrt{2}}\Big(\partial_\mu h - iq\,B_\mu (v+h)\Big),Dμϕ2=12μhμh+q22(v+h)2BμBμ.\left|D_\mu\phi\right|^2 = \frac{1}{2}\partial_\mu h\,\partial^\mu h + \frac{q^2}{2}(v+h)^2 B_\mu B^\mu .

(実部と虚部が直交するので交差項は出ません。)第 2 項を展開すると

q22(v+h)2B2=q2v22BμBμ質量項+q2vhBμBμ+q22h2BμBμ\frac{q^2}{2}(v+h)^2 B^2 = \underbrace{\frac{q^2v^2}{2}B_\mu B^\mu}_{\text{質量項}} + q^2 v\,h\,B_\mu B^\mu + \frac{q^2}{2}h^2 B_\mu B^\mu

で、質量項の係数を 12mA2\frac{1}{2}m_A^2 と読めば mA2=q2v2m_A^2 = q^2v^2mA=qvm_A = |q|v です。

ポテンシャルは μ2=λv2\mu^2 = \lambda v^2 を使って平方完成できます。uv+hu \equiv v+h とすると

V=λv22u2+λ4u4=λ4(u2v2)2λv44V = -\frac{\lambda v^2}{2}u^2 + \frac{\lambda}{4}u^4 = \frac{\lambda}{4}\left(u^2 - v^2\right)^2 - \frac{\lambda v^4}{4}

ϕ2=u2/2|\phi|^2 = u^2/2 を代入しました)。u2v2=2vh+h2u^2 - v^2 = 2vh + h^2 なので

V+λv44=λ4(2vh+h2)2=λv2h2+λvh3+λ4h4.V + \frac{\lambda v^4}{4} = \frac{\lambda}{4}\left(2vh+h^2\right)^2 = \lambda v^2h^2 + \lambda v h^3 + \frac{\lambda}{4}h^4 .

12mh2h2=λv2h2\frac{1}{2}m_h^2 h^2 = \lambda v^2 h^2 より mh2=2λv2=2μ2m_h^2 = 2\lambda v^2 = 2\mu^2。以上を合わせると主張のラグランジアンになります。

(3) 質量ゼロのゲージ場は 4 成分から、ゲージ固定条件 1 本と残留ゲージ自由度 1 本を差し引いて 2 自由度(横波 2 偏極)。複素スカラーは実 2 成分。合計 4。一方、質量をもつベクトル場 BμB_\mu の運動方程式 μFμν[B]+mA2Bν=0\partial_\mu F^{\mu\nu}[B] + m_A^2 B^\nu = 0ν\partial_\nu を作用させると、FF の反対称性から第 1 項が消えて mA2νBν=0m_A^2\,\partial_\nu B^\nu = 0mA0m_A \ne 0 より νBν=0\partial_\nu B^\nu = 0運動方程式として従います。4 成分 − 拘束 1 = 3 自由度。実スカラー hh が 1。合計 4。一致します。

(4) ユニタリーゲージのラグランジアンに現れるスカラー場は hh だけで、その質量は mh=2λv0m_h = \sqrt{2\lambda}v \ne 0 です。位相場 χ\chi(本来なら Theorem 5.1 の質量ゼロモード)はゲージ変換で消えました。消えた自由度は BμB_\mu の縦波成分になっています。実際、自由度の勘定 (3) で AμA_\mu の 2 が BμB_\mu の 3 に増えた分が、ちょうど χ\chi の 1 自由度です。\square

ひとことで言えば、ゲージ場がゴールドストーン粒子を食べて太ったわけです。式の上では「χ\chi をゲージ変換で消した」だけですが、自由度は消えておらず、ゲージ場の縦波偏極として保存されています。Appendix の RξR_\xi ゲージでは χ\chi が明示的に残り、この描像がはっきりします。

Example 6.2超伝導体の中の光子は重い(マイスナー効果)

ヒッグス機構は実験室にもあります。超伝導体をギンツブルグ・ランダウ理論で書くと、クーパー対の複素秩序変数 ψ\psi(電荷 q=2eq = -2e)が

F=12m(iqA)ψ2aψ2+b2ψ4+B22μ0\mathcal{F} = \frac{1}{2m^{*}}\left|\left(-i\hbar\nabla - q\boldsymbol{A}\right)\psi\right|^2 - a|\psi|^2 + \frac{b}{2}|\psi|^4 + \frac{|\boldsymbol{B}|^2}{2\mu_0}

に従います。これは Theorem 6.1 のアーベリアン・ヒッグス模型の非相対論版そのものです。T<TcT < T_ca>0a > 0 となり ψ2=a/bns/20|\psi|^2 = a/b \equiv n_s/2 \ne 0、U(1) が破れて「光子」が質量を得ます。得られた質量の逆数がロンドン侵入長

λL=mμ0nsq2,2B=1λL2B\lambda_L = \sqrt{\frac{m^{*}}{\mu_0 n_s q^2}}, \qquad \nabla^2\boldsymbol{B} = \frac{1}{\lambda_L^2}\boldsymbol{B}

で、磁場は表面から ex/λLe^{-x/\lambda_L} で減衰します。これがマイスナー効果です。

数値を入れてみます。金属超伝導体の λL\lambda_L は数十 nm 程度(鉛でおよそ 37 nm37\ \mathrm{nm})なので、λL=40 nm\lambda_L = 40\ \mathrm{nm} とすると光子の実効質量は

mγc2=cλL=197.3 eVnm40 nm4.9 eVm_\gamma c^2 = \frac{\hbar c}{\lambda_L} = \frac{197.3\ \mathrm{eV\cdot nm}}{40\ \mathrm{nm}} \simeq 4.9\ \mathrm{eV}

です。真空中では厳密にゼロの光子質量が、超伝導体という「別の真空」では 5 eV になる。アンダーソンが 1963 年にこの現象を相対論的な場の理論に翻訳したことが、ヒッグス機構の直接の前身でした。

Remark 6.3

「ゲージ対称性が自発的に破れる」という言い方は、厳密には正しくありません。ゲージ変換は物理状態を変えない冗長性であり、格子ゲージ理論の枠組みで示されたエリツァーの定理(Elitzur, 1975)によれば、ゲージ不変でない局所演算子の期待値は必ずゼロになります。つまり ϕ0\langle\phi\rangle \ne 0 という式はゲージを固定して初めて意味をもつ表現です。

では物理的内容は何か。ゲージ場のスペクトルにギャップ(質量)が開くこと、そしてマイスナー効果のように電磁応答が変わることです。これらはゲージ不変な言明で、ゲージ固定の仕方に依りません。実用上は、ユニタリーゲージで ϕ=v/2\langle\phi\rangle = v/\sqrt{2} と書いて計算するのが最も手早く、その結果(質量、散乱断面積)はゲージ不変です。

7. 標準模型:ワインバーグ・サラム模型と質量の起源

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非可換ゲージ理論への拡張。 U(1) を非可換群 GG に置き換えるには、リー環の生成子 TaT^a[Ta,Tb]=ifabcTc[T^a,T^b] = if^{abc}T^c)を使って

Dμ=μigWμaTa,Fμνa=μWνaνWμa+gfabcWμbWνcD_\mu = \partial_\mu - i g\,W^a_\mu T^a, \qquad F^a_{\mu\nu} = \partial_\mu W^a_\nu - \partial_\nu W^a_\mu + g f^{abc}W^b_\mu W^c_\nu

とします。Lemma 3.2 に対応するのが DμUDμU1D_\mu \to U D_\mu U^{-1}U=eiαaTaU = e^{i\alpha^a T^a})で、WμWμaTaW_\mu \equiv W^a_\mu T^aWμUWμU1ig(μU)U1W_\mu \to U W_\mu U^{-1} - \frac{i}{g}(\partial_\mu U)U^{-1} と変換します(アーベリアンの場合 U=eiqαU = e^{iq\alpha}AμAμ+μαA_\mu \to A_\mu + \partial_\mu\alpha に戻ります)。FμνaF^a_{\mu\nu} の非線形項 gfabcWbWcg f^{abc}W^bW^c が可換な場合との違いで、これがゲージ場どうしの自己相互作用を生みます。

標準模型のゲージ群とヒッグス二重項。 電弱理論のゲージ群は SU(2)L×U(1)YSU(2)_L \times U(1)_Y で、生成子は Ta=τa/2T^a = \tau^a/2τa\tau^aパウリ行列(Proposition 5.2)[角運動量とスピン])と超電荷 YY、結合定数はそれぞれ gggg' です。ここに SU(2)LSU(2)_L の 2 重項で Y=1/2Y = 1/2 をもつ複素スカラー場(ヒッグス二重項)

Φ=(ϕ+ϕ0),DμΦ=(μigWμaτa2ig12Bμ)Φ\Phi = \begin{pmatrix}\phi^{+}\\ \phi^{0}\end{pmatrix}, \qquad D_\mu\Phi = \left(\partial_\mu - i g W^a_\mu\frac{\tau^a}{2} - i g' \frac{1}{2}B_\mu\right)\Phi

を導入し、ポテンシャルを V=μ2ΦΦ+λ(ΦΦ)2V = -\mu^2\Phi^\dagger\Phi + \lambda(\Phi^\dagger\Phi)^2μ2,λ>0\mu^2, \lambda > 0)とします。VVΦΦ\Phi^\dagger\Phi にしか依らないので、最小値は ΦΦ=μ2/(2λ)=v2/2\Phi^\dagger\Phi = \mu^2/(2\lambda) = v^2/2v=μ/λv = \mu/\sqrt{\lambda} を満たす配位すべてで実現され、SU(2)L×U(1)YSU(2)_L\times U(1)_Y 変換で真空多様体 S3S^3 上を自由に動けます。そこで

Φ=12(0v)\langle\Phi\rangle = \frac{1}{\sqrt{2}}\begin{pmatrix}0\\ v\end{pmatrix}

を選びます。残留対称性を調べましょう。生成子 Q=T3+YQ = T^3 + YΦ\langle\Phi\rangle に作用させると、下成分では T3=12T^3 = -\tfrac{1}{2}Y=+12Y = +\tfrac{1}{2} なので

QΦ=(12+12)Φ=0Q\,\langle\Phi\rangle = \left(-\frac{1}{2}+\frac{1}{2}\right)\langle\Phi\rangle = 0

となり、eiθQΦ=Φe^{i\theta Q}\langle\Phi\rangle = \langle\Phi\rangleQQ が生成する U(1) は破れずに残ります。これが電磁気の U(1)emU(1)_{\mathrm{em}} で、QQ が電荷です(上成分では T3+Y=1T^3+Y = 1 で電荷 +1+1、下成分では 00。だから ϕ+,ϕ0\phi^{+}, \phi^{0} と書いたのです)。したがって

SU(2)L×U(1)Y  U(1)em,dimGdimH=(3+1)1=3.SU(2)_L\times U(1)_Y \ \longrightarrow\ U(1)_{\mathrm{em}}, \qquad \dim G - \dim H = (3+1) - 1 = 3 .

Theorem 5.1 の数え方で 3 個の南部・ゴールドストーン粒子が現れるはずですが、これらはゲージ対称性の破れなので Theorem 6.1 により 3 個のゲージ場に吸収されます。ヒッグス二重項の実自由度 4 から 3 が食われ、残る 1 個が物理的なヒッグス粒子 hh です。

ゲージ場の質量。 ユニタリーゲージで Φ=12(0v+h)\Phi = \frac{1}{\sqrt{2}}\binom{0}{\,v+h\,} とおき、DμΦ2|D_\mu\Phi|^2h=0h = 0 での値を計算します。行列を書き下すと

gWμaτa2+g2Bμ=12(gWμ3+gBμg(Wμ1iWμ2)g(Wμ1+iWμ2)gWμ3+gBμ)g W^a_\mu\frac{\tau^a}{2} + \frac{g'}{2}B_\mu = \frac{1}{2}\begin{pmatrix} gW^3_\mu + g'B_\mu & g\left(W^1_\mu - iW^2_\mu\right)\\[2pt] g\left(W^1_\mu + iW^2_\mu\right) & -gW^3_\mu + g'B_\mu\end{pmatrix}

なので、これを v2(01)\frac{v}{\sqrt{2}}\binom{0}{1} に掛けて

DμΦh=0=i2v2(g(Wμ1iWμ2)gWμ3+gBμ),D_\mu\Phi\Big|_{h=0} = -\frac{i}{2}\cdot\frac{v}{\sqrt{2}} \begin{pmatrix} g\left(W^1_\mu - iW^2_\mu\right)\\[2pt] -gW^3_\mu + g'B_\mu\end{pmatrix},DμΦ2h=0=v28[g2((Wμ1)2+(Wμ2)2)+(gWμ3gBμ)2].\left|D_\mu\Phi\right|^2\Big|_{h=0} = \frac{v^2}{8}\Big[\,g^2\big((W^1_\mu)^2 + (W^2_\mu)^2\big) + \big(gW^3_\mu - g'B_\mu\big)^2\,\Big].

質量固有状態を作ります。Wμ±(Wμ1iWμ2)/2W^\pm_\mu \equiv \left(W^1_\mu \mp i W^2_\mu\right)/\sqrt{2} とすると Wμ+Wμ=12((W1)2+(W2)2)W^+_\mu W^{-\mu} = \frac{1}{2}\big((W^1)^2+(W^2)^2\big) なので第 1 項は g2v24Wμ+Wμ\frac{g^2v^2}{4}W^+_\mu W^{-\mu}、つまり複素ベクトル場の質量項 MW2W+WM_W^2 W^+W^- と比べて

MW=gv2.M_W = \frac{gv}{2}.

第 2 項は W3W^3BB の混合です。ワインバーグ角 θW\theta_WcosθW=g/g2+g2\cos\theta_W = g/\sqrt{g^2+g'^2}sinθW=g/g2+g2\sin\theta_W = g'/\sqrt{g^2+g'^2}(すなわち tanθW=g/g\tan\theta_W = g'/g)で定め、直交変換

(ZμAμ)=(cosθWsinθWsinθWcosθW)(Wμ3Bμ)\begin{pmatrix}Z_\mu\\ A_\mu\end{pmatrix} = \begin{pmatrix}\cos\theta_W & -\sin\theta_W\\ \sin\theta_W & \cos\theta_W\end{pmatrix} \begin{pmatrix}W^3_\mu\\ B_\mu\end{pmatrix}

を行うと gW3gB=g2+g2ZgW^3 - g'B = \sqrt{g^2+g'^2}\,Z、そして AμA_\mu は現れません。よって

v28(g2+g2)ZμZμ=12MZ2ZμZμ,MZ=v2g2+g2,MA=0.\frac{v^2}{8}\left(g^2+g'^2\right)Z_\mu Z^\mu = \frac{1}{2}M_Z^2 Z_\mu Z^\mu, \qquad M_Z = \frac{v}{2}\sqrt{g^2+g'^2}, \qquad M_A = 0 .

光子 AμA_\mu が質量ゼロで残るのは偶然ではなく、QΦ=0Q\langle\Phi\rangle = 0 の帰結です。Theorem 5.1 の証明第 4 段と同じ理屈で、真空を固定する生成子に対応するゲージ場だけが質量を得ないのです。

Corollary 7.1ワインバーグ角の関係式

上記の最小ヒッグス模型(SU(2)LSU(2)_L 2 重項 1 個で破る)では、樹木レベルで

MWMZ=cosθW,すなわちρMW2MZ2cos2θW=1\frac{M_W}{M_Z} = \cos\theta_W, \qquad \text{すなわち}\qquad \rho \equiv \frac{M_W^2}{M_Z^2\cos^2\theta_W} = 1

が成り立つ。

Proof(Corollary 7.1)

上で得た MW=gv/2M_W = gv/2MZ=vg2+g2/2M_Z = v\sqrt{g^2+g'^2}/2 の比を取ると

MWMZ=gv/2vg2+g2/2=gg2+g2=cosθW\frac{M_W}{M_Z} = \frac{gv/2}{v\sqrt{g^2+g'^2}/2} = \frac{g}{\sqrt{g^2+g'^2}} = \cos\theta_W

で、これは cosθW\cos\theta_W の定義そのものです。両辺を 2 乗して MZ2cos2θWM_Z^2\cos^2\theta_W で割れば ρ=1\rho = 1\square

ρ=1\rho = 1 はヒッグス場が 2 重項であることに依存する予言で(Exercise 8.3 で確かめます)、実験値は輻射補正込みで ρ=1.000\rho = 1.000 近傍に精密に一致しています。

フェルミオンの質量:湯川結合。 左巻きフェルミオンは SU(2)LSU(2)_L 2 重項、右巻きは 1 重項なので、mψˉψm\bar\psi\psi はゲージ不変になりません。しかしヒッグス二重項をはさんだ 3 点項なら不変にできます。

LYukawa=yeLLΦeRydQLΦdRyuQLΦ~uR+h.c.,Φ~iτ2Φ\mathcal{L}_{\mathrm{Yukawa}} = -\,y_e\,\overline{L_L}\,\Phi\,e_R - y_d\,\overline{Q_L}\,\Phi\,d_R - y_u\,\overline{Q_L}\,\tilde\Phi\,u_R + \mathrm{h.c.}, \qquad \tilde\Phi \equiv i\tau^2\Phi^{*}

Φ~\tilde\PhiY=1/2Y=-1/2 の 2 重項として変換し、上型クォークに質量を与えるために必要です。)ΦΦ\Phi \to \langle\Phi\rangle を代入すると LLΦeR=v2eˉLeR\overline{L_L}\langle\Phi\rangle e_R = \frac{v}{\sqrt{2}}\bar e_L e_R となるので

mf=yfv2.m_f = \frac{y_f\,v}{\sqrt{2}} .

質量は湯川結合定数 yfy_f に比例しますが、yfy_f 自体は理論が予言しない自由パラメータです。標準模型は「なぜ電子は軽くトップクォークは重いか」には答えません。答えるのは「質量とヒッグス粒子への結合が比例する」という検証可能な関係で、実際 t,b,τt, b, \tau への結合は確立しています。

Example 7.2数値を入れてみる

真空期待値はミューオン崩壊から測ったフェルミ定数 GF=1.1664×105 GeV2G_F = 1.1664\times10^{-5}\ \mathrm{GeV}^{-2} で決まります。

v=(2GF)1/2=(1.6495×105 GeV2)1/2=6.062×104 GeV=246.2 GeV.v = \left(\sqrt{2}\,G_F\right)^{-1/2} = \left(1.6495\times10^{-5}\ \mathrm{GeV}^{-2}\right)^{-1/2} = \sqrt{6.062\times10^{4}}\ \mathrm{GeV} = 246.2\ \mathrm{GeV}.

ヒッグス粒子の質量 mh=125.2 GeVm_h = 125.2\ \mathrm{GeV} を使うと、Theorem 6.1mh2=2λv2m_h^2 = 2\lambda v^2 から

λ=mh22v2=(125.2)22(246.2)2=15675121240=0.129,μ=mh2=88.5 GeV.\lambda = \frac{m_h^2}{2v^2} = \frac{(125.2)^2}{2(246.2)^2} = \frac{15675}{121240} = 0.129, \qquad \mu = \frac{m_h}{\sqrt{2}} = 88.5\ \mathrm{GeV}.

逆に測定された MW=80.37 GeVM_W = 80.37\ \mathrm{GeV}MZ=91.19 GeVM_Z = 91.19\ \mathrm{GeV} から結合定数を求めてみます。Corollary 7.1 より cosθW=80.37/91.19=0.8814\cos\theta_W = 80.37/91.19 = 0.8814sin2θW=0.2231\sin^2\theta_W = 0.2231sinθW=0.4723\sin\theta_W = 0.4723。また MW=gv/2M_W = gv/2 から

g=2MWv=160.74246.2=0.653,g=gtanθW=0.653×0.47230.8814=0.350.g = \frac{2M_W}{v} = \frac{160.74}{246.2} = 0.653, \qquad g' = g\tan\theta_W = 0.653\times\frac{0.4723}{0.8814} = 0.350 .

電磁結合は e=gsinθWe = g\sin\theta_W なので e=0.653×0.4723=0.3084e = 0.653\times0.4723 = 0.3084、微細構造定数は

α=e24π=0.095112.566=7.57×103=1132.\alpha = \frac{e^2}{4\pi} = \frac{0.0951}{12.566} = 7.57\times10^{-3} = \frac{1}{132}.

実測値は低エネルギーで α1=137.04\alpha^{-1} = 137.04ZZ 質量スケールで α1(MZ)128\alpha^{-1}(M_Z) \simeq 128 です。樹木レベルの見積もりはその中間に落ち、ずれは数 %。これが電弱輻射補正の大きさで、精密測定はこの補正まで含めて標準模型と合っています。

湯川結合も見ておきます。yf=2mf/vy_f = \sqrt{2}m_f/v より

yt=2×172.6246.2=0.99,ye=2×5.11×104246.2=2.9×106.y_t = \frac{\sqrt{2}\times 172.6}{246.2} = 0.99, \qquad y_e = \frac{\sqrt{2}\times 5.11\times10^{-4}}{246.2} = 2.9\times10^{-6}.

トップクォークだけが yt1y_t \simeq 1 という「自然な」値をもち、電子は 10610^{-6} です。この 6 桁の開きに理由を与えることは、標準模型を超える理論の主要な課題の一つです。

最後に注意を一つ。ヒッグス機構が説明するのは素粒子の質量です。あなたの体重の大部分を占める陽子・中性子の質量 939 MeV939\ \mathrm{MeV} のうち、クォークの質量に由来するのは 2mu+md2×2.2+4.7=9.1 MeV2m_u + m_d \simeq 2\times2.2 + 4.7 = 9.1\ \mathrm{MeV}、つまり約 1 % にすぎません。残り 99 % は QCD の場のエネルギー(クォークとグルーオンの束縛エネルギー)です。「ヒッグスが万物に質量を与える」という説明は、この意味で不正確です。

Exercise 8.1

Definition 3.1 の共変微分 Dμ=μiqAμD_\mu = \partial_\mu - iqA_\mu について、任意の滑らかな場 ϕ\phi に対し

[Dμ,Dν]ϕ=iqFμνϕ,Fμν=μAννAμ\left[D_\mu, D_\nu\right]\phi = -iq\,F_{\mu\nu}\,\phi, \qquad F_{\mu\nu} = \partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu

を示せ。さらにこの関係と Lemma 3.2 を用いて、FμνF_{\mu\nu} がゲージ不変であることを(α\alpha の 2 階微分の可換性を使わずに)導け。

Solution

前半。 交換子を 4 つに分けます。

[Dμ,Dν]=[μ,ν]+[μ,iqAν]+[iqAμ,ν]+[iqAμ,iqAν].\left[D_\mu, D_\nu\right] = \left[\partial_\mu, \partial_\nu\right] + \left[\partial_\mu, -iqA_\nu\right] + \left[-iqA_\mu, \partial_\nu\right] + \left[-iqA_\mu, -iqA_\nu\right].

第 1 項は ϕ\phiC2C^2 級なら 00。第 4 項は Aμ,AνA_\mu, A_\nu が単なる掛け算演算子なので 00。残る 2 項を ϕ\phi に作用させます。

[μ,iqAν]ϕ=μ ⁣(iqAνϕ)(iqAν)μϕ=iq(μAν)ϕ,\left[\partial_\mu, -iqA_\nu\right]\phi = \partial_\mu\!\left(-iqA_\nu\phi\right) - \left(-iqA_\nu\right)\partial_\mu\phi = -iq\left(\partial_\mu A_\nu\right)\phi,[iqAμ,ν]ϕ=iqAμνϕν ⁣(iqAμϕ)=+iq(νAμ)ϕ.\left[-iqA_\mu, \partial_\nu\right]\phi = -iqA_\mu\partial_\nu\phi - \partial_\nu\!\left(-iqA_\mu\phi\right) = +iq\left(\partial_\nu A_\mu\right)\phi .

(どちらも積の微分則で ϕ\phi に掛かる微分が相殺し、AA に掛かる微分だけが残ります。)足すと

[Dμ,Dν]ϕ=iq(μAννAμ)ϕ=iqFμνϕ.\left[D_\mu,D_\nu\right]\phi = -iq\left(\partial_\mu A_\nu - \partial_\nu A_\mu\right)\phi = -iqF_{\mu\nu}\phi .

後半。 Lemma 3.2 より Dμϕ=eiqαDμϕD'_\mu\phi' = e^{iq\alpha}D_\mu\phi です。これを 2 回使うと

DμDνϕ=Dμ ⁣(eiqαDνϕ)=eiqαDμDνϕD'_\mu D'_\nu \phi' = D'_\mu\!\left(e^{iq\alpha}D_\nu\phi\right) = e^{iq\alpha}D_\mu D_\nu\phi

DνϕD_\nu\phiϕ\phi と同じ変換をするので、補題がそのまま適用できます)。添字を入れ替えて引くと [Dμ,Dν]ϕ=eiqα[Dμ,Dν]ϕ[D'_\mu,D'_\nu]\phi' = e^{iq\alpha}[D_\mu,D_\nu]\phi。前半の結果を両辺に入れると

iqFμνeiqαϕ=eiqα(iqFμνϕ)  (FμνFμν)ϕ=0.-iq F'_{\mu\nu}\,e^{iq\alpha}\phi = e^{iq\alpha}\left(-iqF_{\mu\nu}\phi\right) \ \Longrightarrow\ \left(F'_{\mu\nu} - F_{\mu\nu}\right)\phi = 0 .

q0q \ne 0 で、ϕ\phi は任意(少なくとも 1 点で ϕ0\phi \ne 0 となる配位を取る)なので Fμν=FμνF'_{\mu\nu} = F_{\mu\nu} です。ゲージ不変性が、共変微分の変換則だけから出ました。

Exercise 8.2標準

SU(2)SU(2) の随伴表現に属する実スカラー場 ϕ=(ϕ1,ϕ2,ϕ3)\phi = (\phi^1,\phi^2,\phi^3) に対し

V(ϕ)=λ4(ϕaϕav2)2,λ,v>0V(\phi) = \frac{\lambda}{4}\left(\phi^a\phi^a - v^2\right)^2, \qquad \lambda, v > 0

を考える。生成子の随伴表現を (TA)bc=ϵAbc(T^A)^{bc} = \epsilon^{Abc}(実反対称)とし、真空を ϕ=(0,0,v)\langle\phi\rangle = (0,0,v) に取る。

(a) 残留対称性 HH を求めよ。 (b) Theorem 5.1 により質量ゼロモードの個数を予言せよ。 (c) 質量行列 Mab2M^2_{ab} を直接計算し、(b) と一致することを確かめよ。

Solution

(a) R(g)ϕ=ϕR(g)\langle\phi\rangle = \langle\phi\rangle となる回転は、e3\boldsymbol{e}_3 軸まわりの回転です。T3T^3 が生成する H=U(1)SO(2)H = U(1) \cong SO(2) で、dimH=1\dim H = 1。(SU(2)SU(2) は随伴表現では SO(3)SO(3) として作用するので、GG の実効的な作用は SO(3)SO(3)dimG=3\dim G = 3 です。)

(b) dimGdimH=31=2\dim G - \dim H = 3 - 1 = 2。質量ゼロモードは 2 個と予言されます。実際に破れた生成子の作用を見ると、T1ϕT^1\langle\phi\rangle の第 bb 成分は ϵ1b3v\epsilon^{1b3}v なので b=2b=2 のときだけ ϵ123v=v\epsilon^{123}v = v、つまり T1ϕ=(0,v,0)T^1\langle\phi\rangle = (0,v,0)。同様に T2ϕT^2\langle\phi\rangleϵ2b3v\epsilon^{2b3}vb=1b=1 のとき ϵ213v=v\epsilon^{213}v = -v、つまり (v,0,0)(-v,0,0)。そして T3ϕT^3\langle\phi\rangleϵ3b3=0\epsilon^{3b3} = 0 よりゼロベクトルです。よって span{TAϕ}=span{e1,e2}\mathrm{span}\{T^A\langle\phi\rangle\} = \mathrm{span}\{\boldsymbol{e}_1,\boldsymbol{e}_2\} で 2 次元、kerρ=span{T3}\ker\rho = \mathrm{span}\{T^3\} で 1 次元。次元定理 3=2+13 = 2 + 1 と整合します。

(c) Example 4.4 の計算を N=3N = 3 で使えます。

Vϕa=λ(ϕ2v2)ϕa,2Vϕaϕb=2λϕaϕb+λ(ϕ2v2)δab.\frac{\partial V}{\partial\phi^a} = \lambda\left(\phi^2-v^2\right)\phi^a, \qquad \frac{\partial^2V}{\partial\phi^a\partial\phi^b} = 2\lambda\phi^a\phi^b + \lambda\left(\phi^2-v^2\right)\delta^{ab}.

ϕ=(0,0,v)\langle\phi\rangle = (0,0,v) では ϕ2v2=0\phi^2 - v^2 = 0 かつ ϕa=vδa3\phi^a = v\delta^{a3} なので

M2=2λv2(000000001)=diag(0, 0, 2λv2).M^2 = 2\lambda v^2 \begin{pmatrix}0&0&0\\0&0&0\\0&0&1\end{pmatrix} = \mathrm{diag}\left(0,\ 0,\ 2\lambda v^2\right).

ゼロ固有値は 2 個で、固有ベクトルは e1,e2\boldsymbol{e}_1, \boldsymbol{e}_2。(b) で求めた span{TAϕ}\mathrm{span}\{T^A\langle\phi\rangle\} と完全に一致します。質量をもつ 1 個(動径方向 ϕ3\phi^3)の質量は 2λv\sqrt{2\lambda}\,v です。

Exercise 8.3

標準模型のヒッグス 2 重項の代わりに、SU(2)LSU(2)_L の随伴表現(実 3 重項)で超電荷 Y=0Y = 0 をもつスカラー場 Φ=(Φ1,Φ2,Φ3)\Phi = (\Phi^1,\Phi^2,\Phi^3) を使って電弱対称性を破ることを考える。共変微分は

DμΦa=μΦa+gϵabcWμbΦcD_\mu\Phi^a = \partial_\mu\Phi^a + g\,\epsilon^{abc}W^b_\mu\Phi^c

であり(Y=0Y=0 なので BμB_\mu は結合しない)、運動項は 12DμΦaDμΦa\frac{1}{2}D_\mu\Phi^a D^\mu\Phi^a、真空は Φ=(0,0,u)\langle\Phi\rangle = (0,0,u) とする。

(a) ゲージ場の質量項を計算し、W1,W2W^1, W^2 の質量を求めよ。 (b) Wμ3W^3_\muBμB_\mu の質量を求めよ。 (c) この模型が実験と矛盾する理由を、ρ\rho パラメータと光子の個数の観点から述べよ。

Solution

(a) Φ=(0,0,u)\langle\Phi\rangle = (0,0,u) を代入すると μΦa=0\partial_\mu\Phi^a = 0 なので

DμΦaΦ=gϵab3Wμbu.D_\mu\Phi^a\Big|_{\langle\Phi\rangle} = g\,\epsilon^{ab3}W^b_\mu\,u .

成分ごとに見ます。a=1a=1ϵ1b3\epsilon^{1b3} が非零になるのは b=2b=2ϵ123=+1\epsilon^{123}=+1、よって guWμ2g u W^2_\mua=2a=2ϵ2b3\epsilon^{2b3} が非零なのは b=1b=1ϵ213=1\epsilon^{213}=-1、よって guWμ1-g u W^1_\mua=3a=3ϵ3b3=0\epsilon^{3b3}=0 なのでゼロ。したがって

12DμΦaDμΦaΦ=12g2u2[(Wμ2)2+(Wμ1)2].\frac{1}{2}D_\mu\Phi^a D^\mu\Phi^a\Big|_{\langle\Phi\rangle} = \frac{1}{2}g^2u^2\left[\left(W^2_\mu\right)^2 + \left(W^1_\mu\right)^2\right].

実ベクトル場の質量項は 12M2WμWμ\frac{1}{2}M^2 W_\mu W^\mu の形なので、MW12=MW22=g2u2M_{W^1}^2 = M_{W^2}^2 = g^2u^2、すなわち MW=guM_W = g u。(2 重項の場合の MW=gv/2M_W = gv/2 と係数が違うことに注意してください。表現が変われば係数も変わります。)

(b) (a) の計算で a=3a=3 成分がゼロだったので、Wμ3W^3_\mu は質量項をもちません。BμB_\muY=0Y=0 のため Φ\Phi とそもそも結合せず、やはり質量ゼロです。W3W^3BB の混合も起こりません。破れは SU(2)L×U(1)YU(1)T3×U(1)YSU(2)_L\times U(1)_Y \to U(1)_{T^3}\times U(1)_Y で、破れた生成子は 2 個、残留対称性は 2 次元です。

(c) 二つの理由で実験と矛盾します。

第一に、質量ゼロのゲージボソンが 2 個残ります。自然界に質量ゼロのゲージボソンは光子 1 個しかありません(もう 1 個あれば新しい長距離力として観測されているはずです)。特に ZZ ボソンに相当する中性の重いボソンが存在せず、MZ=91.19 GeVM_Z = 91.19\ \mathrm{GeV} の測定と真っ向から食い違います。

第二に、Corollary 7.1ρ\rho パラメータが壊れます。ρ=MW2/(MZ2cos2θW)\rho = M_W^2/(M_Z^2\cos^2\theta_W) に (a)(b) を入れると MZ=0M_Z = 0 なので ρ\rho は発散し、実験値 ρ1\rho \simeq 1(輻射補正を含めて 0.1 % 精度で 1)とは比べものになりません。一般に ρ=1\rho = 1 が自動的に成り立つのはヒッグス場が SU(2)LSU(2)_L 2 重項のときで、3 重項を主役にすると成立しません。ρ\rho の精密測定は、電弱対称性を破る主役が 2 重項であることを支持しています。

  • M. E. Peskin, D. V. Schroeder, An Introduction to Quantum Field Theory, Addison-Wesley, 1995 — 第 20 章「Gauge Theories with Spontaneous Symmetry Breaking」。アーベリアン・ヒッグス模型から標準模型までを計算付きで扱っています。
  • S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Volume II: Modern Applications, Cambridge University Press, 1996 — 第 19 章(自発的に破れた大域対称性、ゴールドストーンの定理の厳密な証明)、第 21 章(自発的に破れたゲージ対称性、RξR_\xi ゲージ)。
  • 九後汰一郎『ゲージ場の量子論 I・II』培風館、1989 — ゲージ対称性と共変的量子化、BRST 対称性。
  • P. W. Higgs, “Broken Symmetries and the Masses of Gauge Bosons”, Physical Review Letters 13 (1964), 508–509. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.13.508
  • F. Englert, R. Brout, “Broken Symmetry and the Mass of Gauge Vector Mesons”, Physical Review Letters 13 (1964), 321–323. https://doi.org/10.1103/PhysRevLett.13.321
  • Particle Data Group, Review of Particle Physicshttps://pdg.lbl.gov/vvMWM_WMZM_Zmhm_h、湯川結合などの数値の出典)

Appendix: RξR_\xi ゲージとゴールドストーン粒子の行方

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ユニタリーゲージの長所と短所。 Theorem 6.1 のユニタリーゲージは、物理的スペクトルが一目で読める点が長所です。短所は伝播関数で、Remark 3.6 のとおり kμkν/mA2k_\mu k_\nu/m_A^2 という高エネルギーで落ちない項があり、各ファインマン図が実際より激しく発散して見えます。物理量では相殺するのですが、くりこみ可能性を図ごとに示せません。

混合項を消すゲージ固定。 そこで位相場を残したまま計算します。ϕ=12(v+h+iθ)\phi = \frac{1}{\sqrt{2}}\left(v + h + i\theta\right) と書くと(h,θh,\theta は実場)、実部・虚部に分けて

Dμϕ2=12(μh+qAμθ)2+12(μθqAμ(v+h))2\left|D_\mu\phi\right|^2 = \frac{1}{2}\left(\partial_\mu h + qA_\mu\theta\right)^2 + \frac{1}{2}\left(\partial_\mu\theta - qA_\mu(v+h)\right)^2

となり、2 次の部分は

12(h)2+12(θ)2+q2v22AμAμqvAμμθ\frac{1}{2}\left(\partial h\right)^2 + \frac{1}{2}\left(\partial\theta\right)^2 + \frac{q^2v^2}{2}A_\mu A^\mu - q v\,A^\mu\partial_\mu\theta

です。最後の AAθ\theta 混合項が邪魔で、このままでは伝播関数が対角化されません。部分積分すると +qv(μAμ)θ+qv\left(\partial_\mu A^\mu\right)\theta なので、これを打ち消すゲージ固定項

Lgf=12ξ(μAμ+ξqvθ)2=12ξ(A)2qv(A)θξq2v22θ2\mathcal{L}_{\mathrm{gf}} = -\frac{1}{2\xi}\left(\partial_\mu A^\mu + \xi\, q v\,\theta\right)^2 = -\frac{1}{2\xi}\left(\partial\cdot A\right)^2 - qv\left(\partial\cdot A\right)\theta - \frac{\xi q^2v^2}{2}\theta^2

を加えます(ξ>0\xi > 0 は任意のパラメータ)。第 2 項が混合項をちょうど相殺します。これが RξR_\xi ゲージです。

その帰結。 残った 2 次の項から読み取れるスペクトルは次のとおりです。ゲージ場の質量は mA=qvm_A = |q|v で変わりません。ヒッグス場 hh の質量も mh=2λvm_h = \sqrt{2\lambda}\,v のままです。一方、ゴールドストーン場 θ\thetaLgf\mathcal{L}_{\mathrm{gf}} の第 3 項から質量 mθ2=ξmA2m_\theta^2 = \xi\,m_A^2 を得ます。伝播関数は

ΔμνA(k)=ik2mA2[ημν(1ξ)kμkνk2ξmA2],Δθ(k)=ik2ξmA2\Delta^{A}_{\mu\nu}(k) = \frac{-i}{k^2-m_A^2}\left[\eta_{\mu\nu} - (1-\xi)\frac{k_\mu k_\nu}{k^2 - \xi m_A^2}\right], \qquad \Delta^{\theta}(k) = \frac{i}{k^2-\xi m_A^2}

です。ξ\xi \to \infty でユニタリーゲージ(θ\theta が無限に重くなって落ち、ゲージ場の伝播関数がプロカ型に戻る)、ξ=1\xi = 1 でトフーフト・ファインマンゲージ(ΔμνA=iημν/(k2mA2)\Delta^A_{\mu\nu} = -i\eta_{\mu\nu}/(k^2-m_A^2))になります。ξ=1\xi = 1 では伝播関数が 1/k21/k^2 で落ちるので、くりこみ可能性を通常のやり方で議論できます。これがトフーフトが 1971 年に示した「自発的に破れたゲージ理論はくりこみ可能」の技術的な核心で、くりこみ理論入門くりこみ可能性定理(BPHZ)(Theorem 5.5)[くりこみ理論入門] の枠組みがそのまま使えるようになります。

自由度の勘定と非物理的な状態。 ξ\xi に依存する質量 ξmA\sqrt{\xi}\,m_A をもつ粒子(θ\theta)が現れましたが、物理量は ξ\xi に依ってはいけません。実際、非可換の場合に現れるファデーエフ・ポポフ・ゴースト(ファデーエフ–ポポフの公式(Theorem 7.2)[経路積分量子化])も同じ ξmA2\xi m_A^2 の質量をもち、θ\theta の寄与とゴーストの寄与が物理的な散乱振幅で相殺します。自由度を数えると、AμA_\mu が 4、hh が 1、θ\theta が 1 で計 6、ここから負ノルムのゴースト 2 を引いて 4 となり、Theorem 6.1 の (3) と一致します。負ノルム状態が入ることが、Remark 5.3 で述べた「ゴールドストーンの定理の仮定 (i) が満たされない」の正体です。

ゴールドストーン粒子は本当に消えたのか。 消えていません。EmAE \gg m_A では、質量をもつゲージ場の縦波成分の散乱振幅が、対応する θ\theta の散乱振幅に一致します(ゴールドストーン等価定理)。高エネルギーでの WW ボソンの縦波は、食われたゴールドストーン粒子そのものとして振る舞うのです。WWWW 散乱の高エネルギー振る舞いからヒッグス粒子の存在が要請される、という有名な議論はこの定理に基づいています。

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