平成9年度(試験実施は平成8年8月)の数学は全3問で、3問すべてに解答する形式です。第1問は2次形式の対角化から始めて、直交行列を回転として読む幾何の問題に発展します。第2問は連立2階微分方程式の求積で、実体はポアンカレ上半平面の測地線です。第3問はピタゴラス数の一般解を段階的に証明させる整数問題で、素因数分解の一意性を使う (c) の証明をきちんと書けるかが差になります。なお、この問題冊子には数学と物理学の両方が収録されていますが、この記事では数学の3問のみを扱います。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 線形代数 | 2次形式の対角化と回転行列の位数 |
| 第2問 | 微分方程式 | 上半平面の曲線族(半直線と半円) |
| 第3問 | 整数論 | ピタゴラス数の一般解 |
実変数 x,y,z の2次形式
f(x,y,z)=2x2+3y2+4z2−6xy+6yz
を考えます。r=(x,y,z)T として f=rTAr と書いたときの対称行列 A の固有値・固有ベクトルを求め、固有ベクトルを並べた直交行列 P を座標回転として調べる問題です。
対称行列で書くには交差項の係数を半分ずつ振り分けます。
A=2−260−263260264
特性方程式 det(A−λE)=0 を第1行で展開すると
det(A−λE)=(2−λ)[(3−λ)(4−λ)−23]−26⋅26(4−λ)=−λ3+9λ2−23λ+15=−(λ−1)(λ−3)(λ−5)
となるので、固有値は λ=1,3,5 です。
λ=1: (A−E)p=0 の第1行から x=26y、第3行から z=−66y となり、y=6 と取ると p∝(3,6,−1)T。ノルムの2乗は 9+6+1=16 です。
λ=3: 第1行から x=−26y、第3行から z=−26y となり、p∝(−6,2,−6)T。ノルムの2乗は 6+4+6=16 です。
λ=5: 第1行から x=−66y、第3行から z=26y となり、p∝(−1,6,3)T。ノルムの2乗は 1+6+9=16 です。
第2成分が非負になる符号を選んで規格化すると、答えは
λ1=1: p1=4136−1,λ2=3: p2=41−62−6,λ3=5: p3=41−163
です。検算として Ap1 の第2成分は −26⋅3+36−26=6 となり、たしかに p1 の第2成分の1倍です(他成分・他固有値も同様に確認できます)。
P=(p1,p2,p3) は実対称行列の異なる固有値に属する単位固有ベクトルを並べたものなので、列が正規直交系をなし、PTP=E、すなわち P は直交行列です(実際 p1⋅p2=161(−36+26+6)=0 などで直接確認できます)。r=Pr′ を代入すると
f=rTAr=r′TPTAPr′=r′T100030005r′
となります。PTAP が固有値を並べた対角行列になるのは AP=Pdiag(1,3,5) と PT=P−1 によります。答えは
f=x′2+3y′2+5z′2
で、交差項のない標準形に変換されます。また、任意のベクトル v に対して
∥Pv∥2=(Pv)T(Pv)=vTPTPv=vTv=∥v∥2
なので、P による変換はベクトルの大きさを変えません。これが示すべきことでした。
まず P が回転であることを確認します。行列式を計算すると
detP=641[3(6+6)+6(36+6)−(−6+2)]=6436+24+4=1
なので、P は行列式 +1 の直交行列、すなわち回転です。回転軸の方向ベクトル n は Pn=n を満たすベクトルです。(P−E)n=0 を成分で書くと、第1行と第3行はともに −x−6y−z=0、第2行は 6x−2y+6z=0 を与えます。第2行から y=26(x+z) で、これを第1行に入れると −(x+z)−3(x+z)=0、よって z=−x、y=0 です。答えは
n=2110−1
(およびその逆向き)です。実際 P(1,0,−1)T=41(3+1, 6−6, −1−3)T=(1,0,−1)T となり、不変であることが確かめられます。
回転角 θ はトレースから求まります。回転行列では TrP=1+2cosθ であり、
TrP=43+2+3=2⟹cosθ=21,θ=3π
です(回転の向きは軸の向きの取り方に依存しますが、以下の議論に影響しません)。Pn は同じ軸まわりの角 nθ=nπ/3 の回転なので、Pn=E となるのは nπ/3 が 2π の整数倍のとき、すなわち n が 6 の倍数のときに限ります。n=1,…,5 では回転角が 2π の整数倍にならないため Pn=E です。よって最小の自然数は n=6 です。
上半平面 −∞<x<∞, y>0 内のなめらかな曲線を実パラメータ s で (x(s),y(s)) と表し、連立微分方程式
{yx′′−2x′y′=0yy′′+x′2−y′2=0
を満たすとします。′ は s 微分です。これはポアンカレ上半平面の測地線の方程式で、解曲線が x 軸に垂直な半直線と x 軸上に中心を持つ半円になることを、変数変換 X=x′/y、Y=y′/y を通して導く問題です。
X=x′/y を s で微分し、第1式 x′′=2x′y′/y を使うと
X′=yx′′−y2x′y′=y22x′y′−y2x′y′=y2x′y′=XY
となります。同様に Y=y′/y を微分し、第2式 y′′=(y′2−x′2)/y を使うと
Y′=yy′′−y2y′2=y2y′2−x′2−y2y′2=−y2x′2=−X2
です。答えは
X′=XY,Y′=−X2
です。この2式から
dsd(X2+Y2)=2XX′+2YY′=2X2Y−2X2Y=0
となるので、X2+Y2 は s によらない定数 C に等しく、X2+Y2=C が成り立ちます。これが示すべきことでした。
C=1 とします。このとき x′2+y′2=y2 であり、s は計量 ds2=(dx2+dy2)/y2 に関する弧長パラメータです。
X=0 の場合。X′=XY から X は恒等的に 0 で(ある s で X=0 なら初期値 0 の線形方程式の解として常に 0)、x′=0、すなわち x=x0(定数)です。Y2=1 から y′/y=±1 で、y=y0e±s(y0>0)となります。曲線は
x=x0,y>0
の、x 軸に垂直な半直線の族です。y=y0e±s は yy′′−y′2=y2−y2=0 と第1式(両辺 0)を満たすことが直接確認できます。
X=0 の場合。Y′=−X2=Y2−1 を解きます。∣Y∣<1(X=0 より)なので変数分離して
∫Y2−1dY=s+const.⟹Y=−tanh(s−s0)
を得ます(s0 は積分定数)。すると X2=1−Y2=sech2(s−s0) より X=±sech(s−s0) です(符号は s によらず一定。X は連続で 0 にならないためです)。u=s−s0 と書きます。y′/y=Y=−tanhu を積分して
y=coshuR(R>0)
となり、x′=Xy=±Rsech2u を積分して
x=x0±Rtanhu
を得ます。この2式から u を消去すると
(x−x0)2+y2=R2tanh2u+R2sech2u=R2
です。よって曲線は、中心 (x0,0) を x 軸上に持つ半径 R の半円(上半平面にある部分)の族です。中心の位置 x0 と半径 R>0 は任意です。逆にこの解が元の方程式を満たすことは、x′=Rsech2u、y′=−Rsechutanhu、x′′=−2Rsech2utanhu、y′′=Rsechu(tanh2u−sech2u) を代入すると、第1式は −2R2sech3utanhu+2R2sech3utanhu=0、第2式は R2sech2u(tanh2u−sech2u)+R2sech4u−R2sech2utanh2u=0 となって確かめられます。
まとめると、答えは次のとおりです。X=0 のとき、曲線群は x 軸に垂直な半直線 x=x0(y>0)。X=0 のとき、曲線群は x 軸上に中心を持つ半円 (x−x0)2+y2=R2(y>0)。これらはポアンカレ上半平面模型の測地線にほかなりません。
x2+y2=z2 を満たす正の整数 x,y,z で、どの2つも互いに素(最大公約数が 1)であるものをすべて求める方法を、小問を積み重ねて構成します。以下、gcd で最大公約数を表します。
x と y の一方が偶数、他方が奇数であることを示します。
まず、x,y がともに偶数だとすると gcd(x,y)≥2 となり、互いに素という仮定に反します。
次に、x,y がともに奇数だとします。奇数の2乗は (2k+1)2=4k(k+1)+1≡1(mod4) なので、x2+y2≡2(mod4) です。一方 z2 は、z が偶数なら z2≡0(mod4)、奇数なら z2≡1(mod4) であり、いずれにせよ 2(mod4) にはなりません。よって x2+y2=z2 と矛盾します。
したがって残る可能性は、一方が偶数でもう一方が奇数の場合だけです。これが示すべきことでした。なおこのとき z2=x2+y2 は奇数なので z も奇数です。
偶数の方を x とすると、(a) の帰結から y と z はともに奇数です。よって z+y と z−y はともに偶数で、
A=2z+y,B=2z−y
はどちらも整数です。また z>y>0(z2=x2+y2>y2 と正値性から)なので A>B>0 であり、A,B は正の整数です。
互いに素であることを示します。d を A と B の公約数とすると、d は A+B=z と A−B=y の両方を割ります。仮定より gcd(y,z)=1 なので d=1、すなわち gcd(A,B)=1 です。これが示すべきことでした。
あとで使うので付記すると、A と B の積は
AB=4z2−y2=4x2=(2x)2
となり、x が偶数なので x/2 は正の整数です。つまり互いに素な A,B の積が平方数になっています。
互いに素な正の整数 A,B が AB=C2(C は正の整数)を満たすとき、A=α2、B=β2 となる整数 α,β が存在することを、素因数分解の一意性を用いて証明します。
p を任意の素数とし、整数 m の素因数分解における p の指数を ordpm と書きます。素因数分解の一意性から、指数は乗法的で
ordp(AB)=ordpA+ordpB=ordp(C2)=2ordpC
が成り立ちます。ここで gcd(A,B)=1 なので、p が A と B の両方を割ることはなく、ordpA と ordpB の少なくとも一方は 0 です。したがって ordpA=0 ならば ordpB=0 であり、上式から ordpA=2ordpC は偶数です。すなわち A の素因数分解に現れるすべての素数の指数は偶数であり、
α=p∏pordpA/2
とおけば A=α2 です。まったく同様に B のすべての素因数の指数も偶数で、B=β2 となる整数 β が存在します。これが示すべきことでした。
(b) の A,B は互いに素な正の整数で AB=(x/2)2 を満たすので、(c) より A=α2、B=β2 となる正の整数 α,β が取れます。A>B>0 から α>β>0 です。このとき
z=A+B=α2+β2,y=A−B=α2−β2,(2x)2=AB=α2β2
なので、答えは
x=2αβ,y=α2−β2,z=α2+β2(α>β>0)
です。実際 x2+y2=4α2β2+(α2−β2)2=(α2+β2)2=z2 が恒等式として成り立ちます。なお x,y,z がどの2つも互いに素になるためには、gcd(α,β)=1 かつ α,β の偶奇が異なることが必要十分です。gcd(α,β)=1 は gcd(A,B)=1 から従い、α,β がともに奇数だと y,z がともに偶数になって互いに素でなくなるため、偶奇は異なります。
α≤6 の範囲で、(d) の式に α>β>0、gcd(α,β)=1、偶奇が異なる、という条件を満たす組 (α,β) をすべて代入します。除外されるのは、偶奇が一致する (3,1)、(5,1)、(5,3)(ともに奇数。たとえば (3,1) は (x,y,z)=(6,8,10) となり互いに素でない)と、公約数を持つ (4,2)、(6,2)、(6,3)、(6,4) です。残る組と得られる (x,y,z) は次のとおりです。
| (α,β) | x=2αβ | y=α2−β2 | z=α2+β2 |
|---|
| (2,1) | 4 | 3 | 5 |
| (3,2) | 12 | 5 | 13 |
| (4,1) | 8 | 15 | 17 |
| (4,3) | 24 | 7 | 25 |
| (5,2) | 20 | 21 | 29 |
| (5,4) | 40 | 9 | 41 |
| (6,1) | 12 | 35 | 37 |
| (6,5) | 60 | 11 | 61 |
いずれも x2+y2=z2 を満たし(たとえば 602+112=3600+121=3721=612)、どの2つも互いに素です。答えはこの8組です。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成9年度 修士課程 入学試験問題 数学。問題文は要約して引用しています。
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