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指数定理への応用:アティヤ・シンガーからコンヌの局所指数公式へ

Prerequisite:非可換トーラス A_θ:無理数回転がつくる「点のない空間」

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  • アティヤ・シンガーの指数定理は、コンパクト多様体上の楕円型作用素について、解析的に定まる整数(核と余核の次元差)が、主表象の K-理論類だけで決まる位相的な量に等しいと主張します。
  • 指数が「二つの跡の差」として書けること(カルデロン・フェドソフの公式)が、指数を非可換幾何の言葉に翻訳する蝶番です。多様体はどこにも要りません。必要なのは代数と作用素だけです。
  • コンヌは、ド・ラームホモロジーの非可換版である巡回コホモロジーを構成し、K0(A)K_0(A) との対によって指数を「特性類どうしの対」として表しました。A=C(M)A = C^\infty(M) のときこれは古典的な指数定理に戻ります。
  • コンヌ・モスコヴィッチの局所指数公式は、この対をゼータ関数の留数(非可換な積分)で書き下します。古典的な A^\hat{A} 種数の公式はその特別な場合です。
  • 枠組みは葉層構造・被覆空間・離散群へ拡張され、そこでは指数は整数とは限らず、たとえば Z+θZ\mathbb{Z} + \theta\mathbb{Z} に値をとります。
  • 有限次元代数を掛けた「ほとんど可換な」幾何にスペクトル作用原理を適用すると、重力と標準模型のラグランジアンが同時に出てきます。これがコンヌ・ロット模型の系譜です。

1. 動機:指数はなぜ位相的なのか

Section titled “1. 動機:指数はなぜ位相的なのか”

線型代数では、有限次元空間の間の線型写像 T:VWT : V \to W について

dimkerTdimcokerT=dimVdimW\dim \ker T - \dim \operatorname{coker} T = \dim V - \dim W

が常に成り立ちます。左辺は TT の詳細に依存しそうな量ですが、右辺は TT を一切見ていません。個々の次元 dimkerT\dim\ker TTT を動かすと跳ねますが、は動かない。これが指数という思想の原型です。

無限次元では dimVdimW\dim V - \dim W が意味を失います。ところが 1950 年代までに、コンパクト多様体上の楕円型微分作用素については左辺が有限確定値をとり、作用素の連続変形で不変であることが分かってきました。ゲルファントは 1960 年、この不変量は作用素の主表象のホモトピー類だけで決まるはずだと予想します。実際、リーマン・ロッホの定理、ヒルツェブルフの符号数定理、ガウス・ボンネの定理は、すべて「ある楕円型作用素の指数 = ある特性類の積分」という同じ形をしていました。個別の定理を統一する公式があるに違いない——それがアティヤとシンガーの 1963 年の定理です。

さらに一歩進んだ問いがあります。指数定理は多様体を本当に必要としているのか。指数とは結局「TT が可逆になり損ねる度合いの符号付き総和」であり、それを測る道具は跡(トレース)です。跡は代数と表現があれば定義できます。葉層構造の葉空間や群作用の商のような「病的な空間」は、点の集合としては潰れますが(葉空間の位相は密着位相(Proposition 1.1)[非可換トーラス A_θ])、非可換 CC^*-代数としては豊かな情報を保ちます(非可換幾何学への動機 を参照してください)。そうした空間の上でも指数定理を述べたい。そのためには、ド・ラームコホモロジーに代わる「非可換な特性類の理論」——巡回コホモロジー——が必要になります。

この章では、古典的な指数定理を述べたうえで、それを非可換化する道筋を、証明可能なところは証明を付けて追い、最後にこの枠組みが標準模型をどう再構成するかに触れます。

2. 準備:フレドホルム作用素と楕円型作用素

Section titled “2. 準備:フレドホルム作用素と楕円型作用素”

Definition 2.1フレドホルム作用素と指数

H1,H2H_1, H_2 を可分ヒルベルト空間とします。有界線型作用素 TB(H1,H2)T \in \mathcal{B}(H_1, H_2)フレドホルム作用素であるとは、

  1. dimkerT<\dim \ker T < \infty
  2. 値域 ranT\operatorname{ran} TH2H_2 の閉部分空間、
  3. dimcokerT=dim(H2/ranT)<\dim \operatorname{coker} T = \dim (H_2 / \operatorname{ran} T) < \infty

の三つが成り立つことをいいます。このとき

indT:=dimkerTdimcokerTZ\operatorname{ind} T := \dim \ker T - \dim \operatorname{coker} T \in \mathbb{Z}

TT指数と呼びます。

条件 2 は実は 1 と 3 から従いますが、以下では最初から仮定しておきます。H2=ranT(ranT)H_2 = \operatorname{ran}T \oplus (\operatorname{ran}T)^{\perp} と分解すれば cokerT(ranT)=kerT\operatorname{coker}T \cong (\operatorname{ran}T)^{\perp} = \ker T^{*} なので、indT=dimkerTdimkerT\operatorname{ind} T = \dim\ker T - \dim\ker T^{*} とも書けます。

アトキンソンの定理により、TT がフレドホルムであることと、TT がコンパクト作用素を法として可逆であること、すなわち有界作用素 SS が存在して 1ST1 - ST1TS1 - TS がともにコンパクトになることは同値です。この SSパラメトリックスと呼びます。指数の理論が代数的な性質(コンパクト作用素のイデアルによる商)に帰着することが、ここで既に見えています。

さて、指数を「跡」で表す公式を用意します。これがこの記事全体の要になります。

Proposition 2.2カルデロン・フェドソフの公式

TB(H1,H2)T \in \mathcal{B}(H_1, H_2)SB(H2,H1)S \in \mathcal{B}(H_2, H_1) とし、

1H1STL1(H1),1H2TSL1(H2)1_{H_1} - ST \in \mathcal{L}^1(H_1), \qquad 1_{H_2} - TS \in \mathcal{L}^1(H_2)

がともにトレースクラスであると仮定します(L1\mathcal{L}^1 はトレースクラス作用素のイデアル)。このとき TT はフレドホルム作用素であり、

indT=Tr(1ST)Tr(1TS)\operatorname{ind} T = \operatorname{Tr}(1 - ST) - \operatorname{Tr}(1 - TS)

が成り立ちます。とくに右辺はパラメトリックス SS の取り方に依りません。

Proof(Proposition 2.2)

トレースクラス作用素はコンパクトなので、アトキンソンの定理により TT はフレドホルムです。

まず擬逆元を用意します。PPkerT\ker T の上への直交射影、QQ(ranT)(\operatorname{ran}T)^{\perp} の上への直交射影とします。Definition 2.1 の条件 1・3 より P,QP, Q は有限階数です。TT(kerT)(\ker T)^{\perp} に制限した写像 (kerT)ranT(\ker T)^{\perp} \to \operatorname{ran} T は全単射で、条件 2 より ranT\operatorname{ran}T は閉、したがってヒルベルト空間ですから、開写像定理により逆写像は有界です。この逆写像を ranT\operatorname{ran}T 上で用い、(ranT)(\operatorname{ran}T)^{\perp} 上では 00 と定めた作用素を S0B(H2,H1)S_0 \in \mathcal{B}(H_2,H_1) とすると、構成から

S0T=1P,TS0=1QS_0 T = 1 - P, \qquad T S_0 = 1 - Q

です。P,QP, Q は有限階数なのでトレースクラスであり、

Tr(1S0T)Tr(1TS0)=TrPTrQ=dimkerTdimcokerT=indT.\operatorname{Tr}(1 - S_0T) - \operatorname{Tr}(1 - TS_0) = \operatorname{Tr}P - \operatorname{Tr}Q = \dim\ker T - \dim\operatorname{coker}T = \operatorname{ind}T .

つまり S=S0S = S_0 のときは主張が成り立ちます。

次に一般の SS を扱います。K:=1STK := 1 - ST(仮定よりトレースクラス)とおき、結合法則を二通りに使います。

S(TS0)=S(1Q)=SSQ,(ST)S0=(1K)S0=S0KS0.S(TS_0) = S(1 - Q) = S - SQ, \qquad (ST)S_0 = (1-K)S_0 = S_0 - KS_0 .

左辺どうしは等しいので

R:=SS0=SQKS0R := S - S_0 = SQ - KS_0

を得ます。SQSQ は有限階数(QQ が有限階数で SS が有界)、KS0KS_0 はトレースクラス(KK がトレースクラスで S0S_0 が有界)ですから、RR 自身がトレースクラスです。これが証明の核心です。

すると

1ST=(1S0T)RT=PRT,1TS=(1TS0)TR=QTR1 - ST = (1 - S_0T) - RT = P - RT, \qquad 1 - TS = (1 - TS_0) - TR = Q - TR

であり、RR がトレースクラス、TT が有界なので Tr(RT)=Tr(TR)\operatorname{Tr}(RT) = \operatorname{Tr}(TR) が成り立ちます(トレースクラス作用素と有界作用素の積についての跡の巡回性)。したがって

Tr(1ST)Tr(1TS)=TrPTrQTr(RT)+Tr(TR)=indT\operatorname{Tr}(1-ST) - \operatorname{Tr}(1-TS) = \operatorname{Tr}P - \operatorname{Tr}Q - \operatorname{Tr}(RT) + \operatorname{Tr}(TR) = \operatorname{ind}T

となります。

Definition 2.3楕円型微分作用素と主表象

MM を境界のないコンパクト CC^\infty 多様体、E,FME, F \to M を複素ベクトル束とします。微分作用素 D:Γ(E)Γ(F)D : \Gamma^\infty(E) \to \Gamma^\infty(F) が階数 mm であるとは、局所座標で

D=αmaα(x)α,aα(x)Hom(Ex,Fx)D = \sum_{|\alpha| \le m} a_\alpha(x)\, \partial^\alpha, \qquad a_\alpha(x) \in \operatorname{Hom}(E_x, F_x)

と書けることをいいます。(x,ξ)TM(x,\xi) \in T^{*}M に対し

σm(D)(x,ξ):=α=maα(x)(iξ)αHom(Ex,Fx)\sigma_m(D)(x,\xi) := \sum_{|\alpha| = m} a_\alpha(x)\, (i\xi)^{\alpha} \in \operatorname{Hom}(E_x, F_x)

主表象と呼びます。これは座標の取り方に依らず定まります。すべての xMx \in M とすべての ξ0\xi \ne 0 に対して σm(D)(x,ξ)\sigma_m(D)(x,\xi) が可逆であるとき、DD楕円型であるといいます。

Proposition 2.4楕円型作用素のフレドホルム性

MM を境界のないコンパクト多様体、DD を上のような階数 mm の楕円型微分作用素とします。このとき DD はソボレフ空間の間の有界作用素 D:Hs(E)Hsm(F)D : H^{s}(E) \to H^{s-m}(F) に一意に延び、これはすべての sRs \in \mathbb{R} についてフレドホルム作用素です。さらに(楕円型正則性)kerD\ker Dss に依らず滑らかな切断からなる有限次元空間であり、indD\operatorname{ind}Dss に依りません。

Remark 2.5

証明は擬微分作用素の構成に基づきます。σm(D)1\sigma_m(D)^{-1} を主表象とする階数 m-m の擬微分作用素 SS を作ると、1SD1 - SD1DS1 - DS は階数 1-1 以下の擬微分作用素になり、レリッヒの定理からコンパクトです。あとはアトキンソンの定理を使います(詳細は Lawson–Michelsohn『Spin Geometry』第 III 章)。なお SS を改良すれば 1SD1-SD の階数はいくらでも下げられ、dimM\dim M より下がればトレースクラスになるので、Proposition 2.2 がそのまま適用できます。

Definition 2.6解析的指数

DD を上の楕円型作用素とするとき、

inda(D):=dimkerDdimkerDZ\operatorname{ind}_a(D) := \dim \ker D - \dim \ker D^{*} \in \mathbb{Z}

DD解析的指数と呼びます。

3. アティヤ・シンガーの指数定理

Section titled “3. アティヤ・シンガーの指数定理”

楕円型という条件は、主表象 σm(D)\sigma_m(D) が「零切断の外で πE\pi^{*}E から πF\pi^{*}F への同型を与える」ことと同じです(π:TMM\pi : T^{*}M \to M は射影)。二つの束が余接束の外側で貼り合わされている——これはまさにコンパクト台の K-理論の元を定めるデータです(K-理論入門、とくに 位相的 K-理論の定義(Definition 3.1)[K-理論入門] を参照してください)。すなわち

[σ(D)]K0(TM):=K0(BM,SM)[\sigma(D)] \in K^{0}(T^{*}M) := K^{0}(B^{*}M,\, S^{*}M)

が定まります(BM,SMB^{*}M, S^{*}M は単位余球束とその境界)。この類は DD の階数や係数の詳細を忘れ、ホモトピー類だけを覚えています。

TMT^{*}M は、TMT^{*}M 上の標準的な概複素構造(T(TM)π(TMC)T(T^{*}M) \cong \pi^{*}(TM \otimes \mathbb{C}))によって、MM が向き付け可能かどうかに関わらず標準的に向き付けられます。この向きのもとで積分が意味をもちます。

Theorem 3.1アティヤ・シンガーの指数定理

MM を境界のない nn 次元コンパクト CC^\infty 多様体、E,FME, F \to M を複素ベクトル束、D:Γ(E)Γ(F)D : \Gamma^\infty(E) \to \Gamma^\infty(F) を楕円型微分作用素とします。TMT^{*}M に標準的な概複素構造から定まる向きを入れるとき、

inda(D)  =  (1)nTMch([σ(D)])πTd(TMC)\operatorname{ind}_a(D) \;=\; (-1)^{n} \int_{T^{*}M} \operatorname{ch}\bigl([\sigma(D)]\bigr) \wedge \pi^{*}\operatorname{Td}(TM \otimes \mathbb{C})

が成り立ちます。ここで ch\operatorname{ch} はチャーン指標、Td\operatorname{Td} はトッド類であり、右辺の被積分形式はコンパクト台をもちます。右辺を位相的指数 indt(D)\operatorname{ind}_t(D) と呼びます。

Remark 3.2

符号 (1)n(-1)^n と向きの規約は文献によって異なり、ここでは Atiyah–Singer の原論文および Lawson–Michelsohn に合わせました。以下に挙げる系の形はいずれも規約に依らない標準形です。原証明は「両辺が同じ公理系(正規化条件と埋め込みに関する関手性)を満たす」ことを示す K-理論的なもので、後に熱核による局所的証明(Atiyah–Bott–Patodi、Getzler)が与えられました。Theorem 5.2 はこの局所的証明の非可換版にあたります。

指数定理が「定理の統一」として働くことを表で見ておきます。いずれも左辺は解析(微分方程式の解の個数)、右辺は位相(特性数)です。

作用素解析的指数位相的表示
d+d:ΩevΩoddd + d^{*} : \Omega^{\mathrm{ev}} \to \Omega^{\mathrm{odd}}オイラー標数 χ(M)\chi(M)Me(TM)\int_M e(TM)(ガウス・ボンネ・チャーン)
符号数作用素(dimM=4k\dim M = 4k符号数 σ(M)\sigma(M)ML(TM)\int_M L(TM)(ヒルツェブルフ)
ˉ+ˉ\bar\partial + \bar\partial^{*}(複素多様体、係数 EEχ(M,O(E))\chi(M, \mathcal{O}(E))Mch(E)Td(TM)\int_M \operatorname{ch}(E)\operatorname{Td}(TM)(リーマン・ロッホ)
ツイストされたディラック作用素 DED_EdimkerDE+dimkerDE\dim\ker D_E^{+} - \dim\ker D_E^{-}MA^(TM)ch(E)\int_M \hat{A}(TM)\operatorname{ch}(E)

Example 3.3ド・ラーム作用素とオイラー標数

MM を向き付けられたコンパクト多様体、Ω(M)C\Omega^{\bullet}(M)\otimes\mathbb{C} に次数の偶奇による Z/2\mathbb{Z}/2 次数 γ=(1)deg\gamma = (-1)^{\deg} を入れ、D=d+dD = d + d^{*} とします。DD は階数 11 の楕円型作用素で(Definition 2.3 の規約では主表象は i(ξιξ)i(\xi \wedge \cdot - \iota_{\xi}) で、σ(D)2=ξ2\sigma(D)^2 = |\xi|^2 より ξ0\xi \ne 0 で可逆)、D+:ΩevΩoddD^{+} : \Omega^{\mathrm{ev}} \to \Omega^{\mathrm{odd}} の核は調和形式のなす空間 kH2k\bigoplus_{k} \mathcal{H}^{2k}、余核は kH2k+1\bigoplus_k \mathcal{H}^{2k+1} です。ホッジ理論により HkHdRk(M;C)\mathcal{H}^{k} \cong H^{k}_{\mathrm{dR}}(M;\mathbb{C}) ですから

inda(D+)=k(1)kdimHdRk(M;C)=χ(M).\operatorname{ind}_a(D^{+}) = \sum_{k} (-1)^{k} \dim H^{k}_{\mathrm{dR}}(M;\mathbb{C}) = \chi(M).

Theorem 3.1 の右辺を計算するとオイラー類の積分 Me(TM)\int_M e(TM) になり、ガウス・ボンネ・チャーンの定理が復元されます。

Example 3.4ディラック作用素とA-hat 種数の整数性

MMn=2kn = 2k 次元のコンパクトスピン多様体、S=S+SS = S^{+}\oplus S^{-} をスピノル束、EE をエルミート接続付きの複素ベクトル束とし、DED_E をツイストされたディラック作用素とします。Theorem 3.1

ind(DE+)=MA^(TM)ch(E)\operatorname{ind}(D_E^{+}) = \int_M \hat{A}(TM)\,\operatorname{ch}(E)

に帰着します。ここから直ちに非自明な系が出ます。EE を自明束にとれば MA^(TM)Z\int_M \hat{A}(TM) \in \mathbb{Z} ですが、A^\hat{A} 種数は本来ポントリャーギン数の有理数係数の組合せです。たとえば dimM=4\dim M = 4 なら A^=1p1/24\hat{A} = 1 - p_{1}/24、すなわち MA^(TM)=124Mp1\int_M \hat{A}(TM) = -\tfrac{1}{24}\int_M p_{1} であり、スピン 4 次元多様体では Mp1=3σ(M)\int_M p_1 = 3\sigma(M)(符号数定理)と合わせて σ(M)0(mod16)\sigma(M) \equiv 0 \pmod{16} が従います。これがロホリンの定理です。「微分方程式の解の個数は整数である」という当たり前の事実が、位相不変量の整除性を強制するわけです。

指数を跡で書く方法は Proposition 2.2 だけではありません。作用素が自己共役に組める場合には、次の非常に見通しのよい表示があります。これが局所指数公式への入口になります。

Proposition 3.5マッキーン・シンガーの公式

H=H+HH = H^{+}\oplus H^{-}Z/2\mathbb{Z}/2 次数付きヒルベルト空間、γ=1(1)\gamma = 1 \oplus (-1) を次数作用素とします。DDHH 上の自己共役作用素で Dγ=γDD\gamma = -\gamma D(すなわち D=(0DD+0)D = \begin{pmatrix} 0 & D^{-} \\ D^{+} & 0\end{pmatrix})を満たし、DD はコンパクトレゾルベントをもち、さらに各 t>0t > 0 に対して etD2e^{-tD^2} がトレースクラスであるとします。このとき D+D^{+} はフレドホルムであり、すべての t>0t > 0 に対して

ind(D+)=Tr(γetD2)\operatorname{ind}(D^{+}) = \operatorname{Tr}\bigl(\gamma\, e^{-tD^{2}}\bigr)

が成り立ちます。同様に、Re(s)\operatorname{Re}(s) が十分大きいところで ind(D+)=Tr(γ(1+D2)s)\operatorname{ind}(D^{+}) = \operatorname{Tr}\bigl(\gamma\,(1+D^{2})^{-s}\bigr) が成り立ちます。

Proof(Proposition 3.5)

DD はコンパクトレゾルベントをもつので D2D^2 のスペクトルは離散的で、各固有値の重複度は有限です。D2D^2γ\gamma と可換なので D2=Δ+ΔD^2 = \Delta^{+}\oplus\Delta^{-} と分解し、Δ+=DD+\Delta^{+} = D^{-}D^{+}Δ=D+D\Delta^{-} = D^{+}D^{-} です。λ0\lambda \ge 0 に対して固有空間を Eλ±:=ker(Δ±λ)E^{\pm}_{\lambda} := \ker(\Delta^{\pm} - \lambda) と書きます。

λ>0\lambda > 0 とします。vEλ+v \in E^{+}_{\lambda} に対し Δ(D+v)=D+DD+v=D+(Δ+v)=λD+v\Delta^{-}(D^{+}v) = D^{+}D^{-}D^{+}v = D^{+}(\Delta^{+}v) = \lambda D^{+}v なので D+:Eλ+EλD^{+} : E^{+}_{\lambda} \to E^{-}_{\lambda} が定まります。同様に D:EλEλ+D^{-} : E^{-}_{\lambda}\to E^{+}_{\lambda} が定まり、合成は DD+=Δ+=λidD^{-}D^{+} = \Delta^{+} = \lambda \cdot \mathrm{id}Eλ+E^{+}_\lambda 上)、D+D=λidD^{+}D^{-} = \lambda\cdot\mathrm{id}EλE^{-}_\lambda 上)です。λ0\lambda \ne 0 だから両者は互いに逆写像の定数倍であり、dimEλ+=dimEλ\dim E^{+}_{\lambda} = \dim E^{-}_{\lambda}λ>0\lambda > 0)が従います。

etD2e^{-tD^2} はトレースクラスなので、固有基底で跡を取ると

Tr(γetD2)=λ0etλ(dimEλ+dimEλ)\operatorname{Tr}(\gamma e^{-tD^2}) = \sum_{\lambda \ge 0} e^{-t\lambda}\bigl(\dim E^{+}_{\lambda} - \dim E^{-}_{\lambda}\bigr)

と絶対収束します。λ>0\lambda > 0 の項はすべて消えるので、残るのは λ=0\lambda = 0 の項 dimE0+dimE0\dim E^{+}_{0} - \dim E^{-}_{0} だけです。最後に kerΔ+=kerDD+=kerD+\ker \Delta^{+} = \ker D^{-}D^{+} = \ker D^{+}D+v2=Δ+v,v\|D^{+}v\|^2 = \langle \Delta^{+}v, v\rangle より)、同様に kerΔ=kerD=ker(D+)\ker\Delta^{-} = \ker D^{-} = \ker (D^{+})^{*} ですから、右辺は ind(D+)\operatorname{ind}(D^{+}) に等しくなります。ζ\zeta 関数版も、etλe^{-t\lambda}(1+λ)s(1+\lambda)^{-s} に置き換えれば同じ相殺が起きるので同様です。

flowchart TB
D["楕円型作用素 D"] --> A["解析的指数<br/>dim ker D - dim ker D*"]
D --> S["主表象 σ(D)<br/>が定める K-理論類"]
A --> H["跡による表示<br/>Tr(1-SD) - Tr(1-DS)<br/>Tr(γ exp(-tD²))"]
S --> T["位相的指数<br/>ch と Td の積分"]
H -- "アティヤ・シンガー" --> T
指数定理の二つの側面と、それを繋ぐ解析的な橋

4.1. なぜ新しいコホモロジーが要るのか

Section titled “4.1. なぜ新しいコホモロジーが要るのか”

Theorem 3.1 の右辺は ch\operatorname{ch}Td\operatorname{Td} の積分、つまり「K-理論類とド・ラームコホモロジー類の対」です。この構図を非可換代数 AA に移すとき、K0(A)K_0(A) の側は問題なく定義できます(K-理論入門 を参照してください)。困るのは相手側で、AA が非可換なとき「微分形式」や「ド・ラームコホモロジー」に相当するものは何か、が問題になります。

コンヌの答えは、微分形式ではなく、微分形式に対する積分(カレント)の側を非可換化するというものでした。可換な場合、nn 次元カレント CCn+1n+1 個の関数から数を作る多重線型汎関数

φ(a0,a1,,an)=C, a0da1dan\varphi(a^{0}, a^{1}, \ldots, a^{n}) = \langle C,\ a^{0}\,da^{1}\wedge\cdots\wedge da^{n}\rangle

を定めます。da1da^{1}\wedge\cdots の反対称性を非可換な世界で書き直すと、次の二条件になります。これが巡回コサイクルの定義です。

Definition 4.1巡回コサイクルと巡回コホモロジー

AA を(局所凸な)複素代数とします。(n+1)(n+1) 重線型汎関数 φ:A(n+1)C\varphi : A^{\otimes(n+1)} \to \mathbb{C}巡回 nn-コサイクルであるとは、次の二条件を満たすことをいいます。

  1. 巡回性: φ(an,a0,,an1)=(1)nφ(a0,a1,,an)\varphi(a^{n}, a^{0}, \ldots, a^{n-1}) = (-1)^{n}\,\varphi(a^{0}, a^{1},\ldots, a^{n})
  2. コサイクル条件: ホッホシルト微分 bb について bφ=0b\varphi = 0。ここで
(bφ)(a0,,an+1)=j=0n(1)jφ(a0,,ajaj+1,,an+1)+(1)n+1φ(an+1a0,a1,,an).(b\varphi)(a^{0},\ldots,a^{n+1}) = \sum_{j=0}^{n} (-1)^{j}\varphi(a^{0},\ldots,a^{j}a^{j+1},\ldots,a^{n+1}) + (-1)^{n+1}\varphi(a^{n+1}a^{0}, a^{1},\ldots,a^{n}).

巡回 nn-コサイクル全体を Zλn(A)Z^{n}_{\lambda}(A)bb の像との商として得られるコホモロジーを巡回コホモロジー HCn(A)HC^{n}(A) と書きます。さらに周期作用素 S:HCn(A)HCn+2(A)S : HC^{n}(A)\to HC^{n+2}(A) による帰納極限を周期巡回コホモロジー HPi(A)=limHCi+2k(A)HP^{i}(A) = \varinjlim HC^{i+2k}(A)iZ/2i \in \mathbb{Z}/2)と呼びます。

n=0n = 0 のとき、巡回性は自動的に成り立ち、コサイクル条件は φ(a0a1)=φ(a1a0)\varphi(a^0a^1) = \varphi(a^1a^0)、すなわち φ\varphiAA 上の跡であることを意味します。巡回コホモロジーは跡の概念の高次への一般化だと思ってください。周期作用素 SS の具体的な定義は Appendix にまとめました。

この定義が正しい非可換化であることの根拠が、次のコンヌの計算です。

Theorem 4.2コンヌ:可換な場合の周期巡回コホモロジー

MM を境界のないコンパクト CC^\infty 多様体、A=C(M)A = C^{\infty}(M)(自然なフレシェ位相を入れ、連続コチェインを考えます)とします。このとき

  1. 連続ホッホシルトコホモロジー HHn(A)HH^{n}(A) は、MM 上の nn 次元ド・ラームカレント全体 Ωn(M)\Omega_{n}(M) と自然に同型です。
  2. 巡回コホモロジーは
HCn(A)    Zn(M)  Hn2dR(M;C)  Hn4dR(M;C)  HC^{n}(A) \;\cong\; Z_{n}(M)\ \oplus\ H^{\mathrm{dR}}_{n-2}(M;\mathbb{C})\ \oplus\ H^{\mathrm{dR}}_{n-4}(M;\mathbb{C})\ \oplus\ \cdots

です(ZnZ_n は閉カレント、HkdRH^{\mathrm{dR}}_{k} はド・ラームホモロジー)。 3. とくに

HPi(C(M))    kZHi+2kdR(M;C),iZ/2.HP^{i}(C^{\infty}(M)) \;\cong\; \bigoplus_{k \in \mathbb{Z}} H^{\mathrm{dR}}_{i+2k}(M;\mathbb{C}), \qquad i \in \mathbb{Z}/2 .

Remark 4.3

MM が向き付けられた閉多様体ならポアンカレ双対により HkdR(M)HdRnk(M)H^{\mathrm{dR}}_{k}(M) \cong H^{n-k}_{\mathrm{dR}}(M) なので、3 は「周期巡回コホモロジー == ド・ラームコホモロジーの Z/2\mathbb{Z}/2 次数版」と読めます。証明(Connes『Noncommutative Geometry』第 III 章)の鍵は、連続ホッホシルトコチェインをその台で局所化し、対角線の近傍で全微分の言葉に翻訳することです。

KK-理論との対も定義できます。φZλ2m(A)\varphi \in Z^{2m}_{\lambda}(A) と冪等元 e=e2Mq(A)e = e^{2}\in M_q(A) に対し、行列成分に φ\varphi を、行列の添字に通常の跡を施した φ#Tr\varphi \,\#\, \operatorname{Tr} を用いて

[e],[φ]:=1m!(φ#Tr)(e,e,,e2m+1 個)\langle [e], [\varphi]\rangle := \frac{1}{m!}\,(\varphi\,\#\operatorname{Tr})(\underbrace{e, e, \ldots, e}_{2m+1\ \text{個}})

と定めます。これは ee のホモトピー類・安定同値類にしか依らず、φ\varphi のコホモロジー類にしか依りません。定数 1/m!1/m! は周期作用素との両立(対が HP0HP^{0} に落ちること)を保証するために入れてあります。

Remark 4.4

SS の規格化と対の定数は文献によって異なり、2πi2\pi i の冪や 2πi\sqrt{2\pi i} が入る流儀もあります。以下で「整数値をとる」「A^\hat A 種数に一致する」と述べる主張は、いずれもコンヌの規約に合わせたものです。具体的な数値を扱うときは、必ず参照する文献の規約を確認してください。

4.2. フレドホルム加群とその指数公式

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Definition 4.5フレドホルム加群

AAC\mathbb{C}-代数とします。偶フレドホルム加群 (H,F,γ)(H, F, \gamma) とは、

  • Z/2\mathbb{Z}/2 次数付きヒルベルト空間 H=H+HH = H^{+}\oplus H^{-}(次数作用素 γ\gamma)への AA の次数を保つ表現 ρ\rho(以下 ρ(a)\rho(a) を単に aa と書きます)、
  • 有界作用素 FFF=FF = F^{*}F2=1F^{2} = 1Fγ=γFF\gamma = -\gamma F を満たすもの、

の組であって、すべての aAa\in A に対し [F,a][F, a] がコンパクトであるものをいいます。さらに、ある p1p \ge 1 について常に [F,a]Lp[F,a] \in \mathcal{L}^{p}(シャッテン pp-クラス)であるとき、pp-可総pp-summable)といいます。次数付けと γ\gamma に関する条件を落とし、AA の表現と、F=FF=F^{*}F2=1F^{2}=1、およびすべての aAa \in A について [F,a][F,a] がコンパクトであることだけを課したものを奇フレドホルム加群と呼びます。

奇フレドホルム加群では P:=(1+F)/2P := (1+F)/2 が射影になります。uAu \in A がユニタリのとき PuPPuP は「トープリッツ型」の作用素で、その指数が問題になります。まずこの最も簡単な場合を完全に証明します。この一つの定理に、非可換指数定理のすべての構造が凝縮されています。

Theorem 4.6奇フレドホルム加群の指数公式

HH をヒルベルト空間、PB(H)P \in \mathcal{B}(H) を直交射影、uB(H)u \in \mathcal{B}(H) をユニタリ作用素とし、交換子 [P,u][P, u] がトレースクラスであると仮定します。このとき T:=PuPPH:PHPHT := PuP|_{PH} : PH \to PH はフレドホルム作用素であり、

ind(T)=Tr(u[P,u])\operatorname{ind}(T) = -\operatorname{Tr}\bigl(u^{*}[P, u]\bigr)

が成り立ちます。

Proof(Theorem 4.6)

A:=Pu(1P)A := Pu(1-P)B:=(1P)uPB := (1-P)uP とおきます。まず [P,u][P,u] の四つの隅を計算します。

P[P,u]P=P(PuuP)P=PuPPuP=0,P[P,u]P = P(Pu - uP)P = PuP - PuP = 0,(1P)[P,u](1P)=(1P)(PuuP)(1P)=00=0(1-P)[P,u](1-P) = (1-P)(Pu-uP)(1-P) = 0 - 0 = 0

(1P)P=0(1-P)P = 0P(1P)=0P(1-P)=0 を使いました)。残りは

P[P,u](1P)=Pu(1P)=A,(1P)[P,u]P=(1P)uP=B.P[P,u](1-P) = Pu(1-P) = A, \qquad (1-P)[P,u]P = -(1-P)uP = -B .

したがって [P,u]=AB[P,u] = A - B であり、AABB は仮定よりトレースクラスの作用素の隅なので、いずれもトレースクラスです。

次に S:=PuPPHS := Pu^{*}P|_{PH} をパラメトリックスに取ります。uu=uu=1u^{*}u = uu^{*} = 1 を使って

1PHST=PPuPuP=Pu(1P)uP=((1P)uP)((1P)uP)=BB,1_{PH} - ST = P - Pu^{*}PuP = Pu^{*}(1-P)uP = \bigl((1-P)uP\bigr)^{*}\bigl((1-P)uP\bigr) = B^{*}B,1PHTS=PPuPuP=Pu(1P)uP=(Pu(1P))(Pu(1P))=AA.1_{PH} - TS = P - PuPu^{*}P = Pu(1-P)u^{*}P = \bigl(Pu(1-P)\bigr)\bigl(Pu(1-P)\bigr)^{*} = AA^{*} .

A,BA, B はトレースクラスですから BBB^{*}BAAAA^{*} もトレースクラスです。よって Proposition 2.2 が適用でき、TT はフレドホルムで

ind(T)=Tr(BB)Tr(AA).\operatorname{ind}(T) = \operatorname{Tr}(B^{*}B) - \operatorname{Tr}(AA^{*}) .

最後に右辺を [P,u][P,u] の言葉に戻します。A=PA(1P)A = PA(1-P) に注意して、跡の巡回性(AA がトレースクラス、他は有界)を使うと

Tr(uA)=Tr(uPA(1P))=Tr((1P)uPA)=Tr(AA),\operatorname{Tr}(u^{*}A) = \operatorname{Tr}\bigl(u^{*}\,PA(1-P)\bigr) = \operatorname{Tr}\bigl((1-P)u^{*}P\cdot A\bigr) = \operatorname{Tr}(A^{*}A),

なぜなら A=(1P)uPA^{*} = (1-P)u^{*}P だからです。同様に B=(1P)BPB = (1-P)BPB=Pu(1P)B^{*} = Pu^{*}(1-P) から

Tr(uB)=Tr(u(1P)BP)=Tr(Pu(1P)B)=Tr(BB).\operatorname{Tr}(u^{*}B) = \operatorname{Tr}\bigl(u^{*}(1-P)BP\bigr) = \operatorname{Tr}\bigl(Pu^{*}(1-P)\cdot B\bigr) = \operatorname{Tr}(B^{*}B).

[P,u]=AB[P,u] = A - BTr(AA)=Tr(AA)\operatorname{Tr}(A^{*}A) = \operatorname{Tr}(AA^{*}) を合わせて

Tr(u[P,u])=Tr(AA)Tr(BB)=Tr(AA)Tr(BB)=ind(T)\operatorname{Tr}\bigl(u^{*}[P,u]\bigr) = \operatorname{Tr}(A^{*}A) - \operatorname{Tr}(B^{*}B) = \operatorname{Tr}(AA^{*}) - \operatorname{Tr}(B^{*}B) = -\operatorname{ind}(T)

となり、主張が示されました。

ここで右辺 Tr(u[P,u])-\operatorname{Tr}(u^{*}[P,u]) をよく見てください。これは φ(a0,a1):=Tr(a0[P,a1])\varphi(a^{0}, a^{1}) := -\operatorname{Tr}\bigl(a^{0}[P, a^{1}]\bigr) という 2 変数の汎関数に (u,u)(u^{*}, u) を代入した形をしています。実際 φ\varphi は([P,a][P,a] がトレースクラスとなる aa たちのなす代数上で)巡回 11-コサイクルになります。つまり Theorem 4.6

解析的指数  =  [u]K1(A), [φ]HC1(A)\text{解析的指数} \;=\; \bigl\langle\, [u] \in K_1(A),\ [\varphi] \in HC^{1}(A) \,\bigr\rangle

という形をしているのです(ユニタリ元が定める K1K_1 類については C*-代数の K₁ 群(Definition 6.1)[K-理論入門] を見てください)。これがコンヌの指数定理の原型です。

Example 4.7円周上のトープリッツ作用素と巻き数

H=L2(S1)H = L^{2}(S^{1})en(θ)=einθe_{n}(\theta) = e^{in\theta} を正規直交基底とし、PP をハーディ空間 span{en:n0}\overline{\operatorname{span}}\{e_{n} : n \ge 0\} への直交射影とします。A=C(S1)A = C^{\infty}(S^{1}) を掛け算作用素として表現します。

(i)[P,a][P,a] はトレースクラス。 aC(S1)a \in C^\infty(S^1) に対し B=(1P)aPB = (1-P)aP の行列成分は em,aen=a^(mn)\langle e_{m}, a e_{n}\rangle = \hat{a}(m-n)m<0nm < 0 \le n)です。これは係数列 cl=a^(l1)c_{l} = \hat{a}(-l-1)l0l \ge 0)をもつハンケル行列で、Γ=l0clHl\Gamma = \sum_{l\ge 0} c_{l}H_{l}HlH_{l} は反対角 j+k=lj+k=l 上に 11 をもつ階数 l+1l+1 の行列)と分解できます。Hl1=l+1\|H_{l}\|_{1} = l+1 なので Γ1l0(l+1)a^(l1)\|\Gamma\|_{1} \le \sum_{l\ge0}(l+1)|\hat a(-l-1)| となり、aa の滑らかさから a^\hat{a} は急減少、よって収束します。A=Pa(1P)A = Pa(1-P) も同様です。

(ii)跡の計算。 a1=ena^{1} = e_{n}n>0n > 0)とすると、Penej=en+jP e_{n}e_{j} = e_{n+j}n+j0n+j\ge0 のとき)、enPej=en+je_{n}Pe_{j} = e_{n+j}j0j \ge 0 のとき)なので

[P,en]ej=en+j(nj1),[P,en]ej=0  (その他).[P, e_{n}]e_{j} = e_{n+j} \quad (-n \le j \le -1), \qquad [P,e_n]e_j = 0 \ \ (\text{その他}).

したがって a0=ema^{0} = e_{m} を掛けると ejej+n+me_{j}\mapsto e_{j+n+m}nj1-n\le j\le -1)となり、対角成分が残るのは m+n=0m+n=0 のときのみで、その重複度は nn です。n<0n < 0 の場合も同様に計算すると符号込みで同じ式になり、

Tr(em[P,en])=nδm+n,0.\operatorname{Tr}\bigl(e_{m}[P, e_{n}]\bigr) = n\,\delta_{m+n,0}.

一方 12πiS1emden=12πi02πeimθineinθdθ=nδm+n,0\dfrac{1}{2\pi i}\displaystyle\int_{S^1} e_{m}\,d e_{n} = \dfrac{1}{2\pi i}\int_{0}^{2\pi} e^{im\theta}\,in\,e^{in\theta}d\theta = n\,\delta_{m+n,0} です。双線型性と急減少性から、すべての a0,a1C(S1)a^{0},a^{1}\in C^\infty(S^1)

Tr(a0[P,a1])=12πiS1a0da1.\operatorname{Tr}\bigl(a^{0}[P,a^{1}]\bigr) = \frac{1}{2\pi i}\int_{S^{1}} a^{0}\,da^{1}.

(iii)結論。 uC(S1)u \in C^{\infty}(S^{1})u=1|u| = 1 なる関数(ユニタリ)とすると Theorem 4.6 より

ind(Tu)=Tr(u[P,u])=12πiS1u1du=wind(u).\operatorname{ind}(T_{u}) = -\operatorname{Tr}\bigl(u^{*}[P,u]\bigr) = -\frac{1}{2\pi i}\int_{S^{1}} u^{-1}\,du = -\operatorname{wind}(u).

検算しましょう。u=e1u = e_{1} のとき TuT_{u} は片側シフトで、kerTu=0\ker T_u = 0cokerTu=Ce0\operatorname{coker}T_u = \mathbb{C}e_{0} ですから ind=1\operatorname{ind} = -1。巻き数は 11 なので一致します。これが 1 次元の指数定理であり、右辺は確かに「K1K_1 類と巡回 11-コサイクルの対」です。

一般の次元では次が成り立ちます。証明の方針は Theorem 4.6 と同じで、Proposition 2.2 の右辺を交換子の高次の積に展開し、それが巡回コサイクルになることを確かめます。

Theorem 4.8コンヌ:フレドホルム加群の指数定理

(H,F,γ)(H, F, \gamma) を代数 AA 上の pp-可総な偶フレドホルム加群とし、nnnpn \ge p なる偶数とします。このとき

chFn(a0,a1,,an):=λnTr(γa0[F,a1][F,a2][F,an])\operatorname{ch}^{n}_{F}(a^{0}, a^{1},\ldots,a^{n}) := \lambda_{n}\operatorname{Tr}\bigl(\gamma\,a^{0}[F,a^{1}][F,a^{2}]\cdots[F,a^{n}]\bigr)

λn\lambda_{n}nn のみに依る正規化定数)は well-defined な巡回 nn-コサイクルであり、その巡回コホモロジー類は SS を法として nn に依りません。この類 ch(H,F,γ)HP0(A)\operatorname{ch}^{\bullet}(H,F,\gamma) \in HP^{0}(A)フレドホルム加群のチャーン指標と呼びます。さらに、任意の冪等元 e=e2Mq(A)e = e^{2} \in M_{q}(A) に対し eF+e:eH+eHe F^{+} e : eH^{+}\to eH^{-}F+F^{+}FFH+HH^{+}\to H^{-} 成分)はフレドホルムで

ind(eF+e)=[e], ch(H,F,γ)\operatorname{ind}\bigl(eF^{+}e\bigr) = \bigl\langle [e],\ \operatorname{ch}^{\bullet}(H,F,\gamma)\bigr\rangle

が成り立ちます。

Remark 4.9

npn \ge p という条件は本質的です。[F,aj]Lp[F,a^{j}] \in \mathcal{L}^{p}nn 個掛けるとヘルダーの不等式から Lp/n\mathcal{L}^{p/n} に入り、p/n1p/n \le 1 のときトレースクラスとなって跡が定義されます。nn22 増やすたびに類は SS で移り合い、周期巡回コホモロジーではひとつの類に落ち着きます。証明と λn\lambda_n の値は Connes『Noncommutative Geometry』第 IV 章にあります。

flowchart LR
K["K_0(A)(冪等元の類)"] -- "ch(冪等元のチャーン指標)" --> HPa["HP_0(A)"]
FM["フレドホルム加群 (H,F,γ)<br/>あるいはスペクトル三つ組 (A,H,D)"] -- "ch(コサイクルの構成)" --> HPb["HP^0(A)"]
HPa --> PAIR["対 ⟨ , ⟩ ∈ C<br/>= 解析的指数"]
HPb --> PAIR
非可換指数定理の構図:二つのチャーン指標の対

Example 4.10非可換トーラスと整数量子ホール効果

AθA_{\theta} を非可換トーラス(非可換トーラスの定義(Definition 3.1)[非可換トーラス A_θ]、詳しくは 非可換トーラスの例 を参照してください)、τ\tau を正規化された跡、δ1,δ2\delta_{1},\delta_{2} を標準的な二つの微分(δj(uk)=2πiδjkuk\delta_{j}(u_{k}) = 2\pi i\,\delta_{jk}u_{k})とします。

φ(a0,a1,a2):=12πiτ(a0(δ1a1δ2a2δ2a1δ1a2))\varphi(a^{0},a^{1},a^{2}) := \frac{1}{2\pi i}\,\tau\bigl(a^{0}(\delta_{1}a^{1}\,\delta_{2}a^{2} - \delta_{2}a^{1}\,\delta_{1}a^{2})\bigr)

は巡回 22-コサイクルです(可換極限では 12πiT2a0da1da2\frac{1}{2\pi i}\int_{T^2} a^0\,da^1\wedge da^2、すなわちトーラスの基本類との対)。コンヌは、これがトーラス上のディラック作用素から作った偶フレドホルム加群のチャーン指標であることを示しました。したがって Theorem 4.8 より、任意の射影 eMq(Aθ)e \in M_{q}(A_{\theta}) に対して

[e],[φ]Z.\langle [e], [\varphi]\rangle \in \mathbb{Z}.

一方、θ\theta が無理数のとき 非可換トーラスの K 群とトレースの像(Theorem 6.1)[非可換トーラス A_θ] により τ(K0(Aθ))=Z+θZ\tau_{*}(K_{0}(A_{\theta})) = \mathbb{Z} + \theta\mathbb{Z} であり、τ(e)=p+qθ\tau(e) = p + q\theta と書けば(向きの規約のもとで)[e],[φ]=q\langle[e],[\varphi]\rangle = q となります。

これがベリサールによる整数量子ホール効果の説明です。強磁場中の 2 次元電子系のブリルアン域は非可換トーラス AθA_{\theta} になり、フェルミ準位以下の状態のなす射影 ee に対して、τ(e)\tau(e) が状態密度、[e],[φ]\langle[e],[\varphi]\rangle がホール伝導度(e2/he^{2}/h 単位)を与えます。ホール伝導度が厳密に整数値をとるのは、それが指数だからです。 不純物があっても、射影 ee が連続的に動くだけなら指数は変わりません。プラトーの存在はこの離散性の帰結です。

5. 局所指数公式:留数としての特性類

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Theorem 4.8 は指数を「対」として表しましたが、チャーン指標 chFn\operatorname{ch}^{n}_{F} の表示は非局所的です。[F,a][F,a] は擬微分作用素としては大域的な対象で、古典的な MA^ch(E)\int_M \hat{A}\operatorname{ch}(E) のような「各点で決まる密度の積分」にはなっていません。古典論で局所的な表示を与えたのは熱核の対角展開でした(Proposition 3.5 がその出発点です)。非可換の世界でこれに対応するのがコンヌ・モスコヴィッチの局所指数公式です。

道具は、FF ではなく非有界な作用素 DD、すなわちスペクトル三つ組です(スペクトル三つ組の定義(Definition 3.1)[スペクトル三つ組 (A, H, D)]、および スペクトル三つ組 (A, H, D) を参照してください)。DD が可逆なら F:=DD1F := D|D|^{-1} がフレドホルム加群を与えますが、DD 自身を保持すれば Dz|D|^{-z} によるゼータ正則化が使えます。

Definition 5.1正則性と次元スペクトル

(A,H,D)(\mathcal{A}, H, D) をスペクトル三つ組(DD は自己共役、(1+D2)1(1+D^{2})^{-1} はコンパクト、aAa \in \mathcal{A} について [D,a][D,a] は有界)とします。δ(T):=[D,T]\delta(T) := [\,|D|, T\,] とおきます。

  1. 三つ組が正則であるとは、すべての aAa\in\mathcal{A} に対して aa[D,a][D,a]m1Dom(δm)\bigcap_{m \ge 1}\operatorname{Dom}(\delta^{m}) に属することをいいます。
  2. B\mathcal{B}δk(a)\delta^{k}(a)δk([D,a])\delta^{k}([D,a])aAa\in\mathcal{A}k0k\ge0)が生成する代数とします。次元スペクトル SdC\operatorname{Sd} \subset \mathbb{C} とは、離散的で任意の垂直帯状領域との交わりが有限な集合であって、すべての bBb \in \mathcal{B} に対しゼータ関数
ζb(z):=Tr(bDz)(Rez0)\zeta_{b}(z) := \operatorname{Tr}\bigl(b\,|D|^{-z}\bigr) \qquad (\operatorname{Re}z \gg 0)

CSd\mathbb{C}\setminus\operatorname{Sd} 上に有理型接続をもち、Sd\operatorname{Sd} の外では正則になるようなもののうち最小のものをいいます。すべての極が 1 位のとき、次元スペクトルは単純であるといいます。 3. 単純な次元スペクトルをもつとき、

res(T):=Resz=0Tr(TDz)\operatorname{res}(T) := \operatorname{Res}_{z=0}\operatorname{Tr}\bigl(T\,|D|^{-z}\bigr)

TT非可換積分と呼びます(コンヌは切れ目の入った積分記号で書きます)。

res\operatorname{res} が「積分」の名に値することの根拠が、コンヌの跡定理(Theorem 6.3)[スペクトル三つ組 (A, H, D)] です。MMnn 次元コンパクトリーマン多様体、(A,H,D)(\mathcal{A},H,D) を標準的なディラック型スペクトル三つ組とすると、階数 n-n の擬微分作用素 PP に対して

res(P)  =  ResW(P)  =  1(2π)nSMtrσn(P)dμ\operatorname{res}(P) \;=\; \operatorname{Res}_{W}(P) \;=\; \frac{1}{(2\pi)^{n}}\int_{S^{*}M}\operatorname{tr}\sigma_{-n}(P)\,d\mu

(ウォジツキ留数)が成り立ちます。とくに aC(M)a \in C^{\infty}(M) に対して res(aDn)\operatorname{res}(a|D|^{-n})Madv\int_M a\,dv の定数倍です。リーマン積分がスペクトルの言葉に翻訳されたわけです。

Theorem 5.2コンヌ・モスコヴィッチの局所指数公式

(A,H,D,γ)(\mathcal{A}, H, D, \gamma) を偶かつ正則な有限可総スペクトル三つ組とし、次元スペクトルは離散かつ単純であるとします(簡単のため DD は可逆とします)。(T):=[D2,T]\nabla(T) := [D^{2}, T]T[k]:=k(T)T^{[k]} := \nabla^{k}(T)、多重指数 k=(k1,,kn)Nnk = (k_{1},\ldots,k_{n}) \in \mathbb{N}^{n} に対し k=k1++kn|k| = k_{1}+\cdots+k_{n}k!=k1!kn!k! = k_{1}!\cdots k_{n}! と書きます。偶コチェイン ϕ=(ϕn)n even\phi = (\phi_{n})_{n\ \mathrm{even}}

ϕ0(a0):=Resz=0 z1Tr(γa0D2z),\phi_{0}(a^{0}) := \operatorname{Res}_{z=0}\ z^{-1}\operatorname{Tr}\bigl(\gamma\,a^{0}|D|^{-2z}\bigr),ϕn(a0,,an):=kNncn,k Resz=0Tr(γa0[D,a1][k1][D,an][kn]Dn2k2z)(n2)\phi_{n}(a^{0},\ldots,a^{n}) := \sum_{k \in \mathbb{N}^{n}} c_{n,k}\ \operatorname{Res}_{z=0}\operatorname{Tr}\Bigl(\gamma\,a^{0}\,[D,a^{1}]^{[k_{1}]}\cdots[D,a^{n}]^{[k_{n}]}\,|D|^{-n-2|k|-2z}\Bigr)\quad (n \ge 2)

で定めます。ここで

cn,k=(1)k Γ(k+n2)k!(k1+1)(k1+k2+2)(k1++kn+n).c_{n,k} = \frac{(-1)^{|k|}\ \Gamma\bigl(|k| + \tfrac{n}{2}\bigr)}{k!\,(k_{1}+1)(k_{1}+k_{2}+2)\cdots(k_{1}+\cdots+k_{n}+n)} .

このとき ϕ\phiA\mathcal{A}(b,B)(b,B)-双複体における偶コサイクルであり、上の和は有限和になります。さらに [ϕ]HP0(A)[\phi] \in HP^{0}(\mathcal{A}) はスペクトル三つ組のチャーン指標に一致し、したがって任意の冪等元 eMq(A)e \in M_{q}(\mathcal{A}) に対して

ind(eD+e)=[e],[ϕ]\operatorname{ind}\bigl(e D^{+} e\bigr) = \bigl\langle [e], [\phi]\bigr\rangle

が成り立ちます。

Remark 5.3

三点補足します。第一に、和が有限であるのは、正則性から [D,a][k][D,a]^{[k]} の「階数」が kk とともに下がり、ある k|k| を超えると対応するゼータ関数が z=0z=0 で正則になるためです。第二に、ϕ\phi の各成分は留数、すなわち漸近展開の一つの係数だけで書かれています。これが「局所的」の意味であり、古典的な場合には留数がウォジツキ留数として表象の積分になり、被積分量は曲率から各点で決まります。第三に、定数 cn,kc_{n,k}ϕ0\phi_0 の形は Connes–Moscovici (1995) の規約によります(奇の場合は 2πi\sqrt{2\pi i} 型の因子が入る流儀もあります)。証明は、ind=Tr(γ)\operatorname{ind} = \operatorname{Tr}(\gamma\,\cdot) 型の表示をレゾルベント展開し、各項のゼータ関数の極を拾う手続きの精密化です。

Example 5.4古典的な場合:A-hat 種数の再現

MMnn 次元コンパクトスピン多様体、A=C(M)\mathcal{A} = C^{\infty}(M)H=L2(M,S)H = L^{2}(M, S)DD をディラック作用素とします。この三つ組は正則で、次元スペクトルは {n,n1,n2,}\{n, n-1, n-2, \ldots\}(すべて単純)です。Theorem 5.2ϕn\phi_{n} を計算すると、各留数はウォジツキ留数、すなわち表象の球面上の積分になり、ゲッツラーの再スケーリングと同じ組合せ論を経て、ϕ=(ϕn)\phi = (\phi_{n}) の周期巡回類は Theorem 4.2 の同型のもとで

[ϕ]    A^(TM)[M]  kH2kdR(M;C)[\phi] \;\longleftrightarrow\; \hat{A}(TM) \cap [M] \ \in\ \bigoplus_{k} H^{\mathrm{dR}}_{2k}(M;\mathbb{C})

というド・ラームホモロジー類に対応します。したがって、束 EE に対応する射影 eMq(C(M))e \in M_{q}(C^{\infty}(M))セール・スワンの定理(Theorem 4.1)[K-理論入門])との対をとれば

ind(DE+)=[e],[ϕ]=MA^(TM)ch(E)\operatorname{ind}(D_{E}^{+}) = \langle [e],[\phi]\rangle = \int_{M}\hat{A}(TM)\operatorname{ch}(E)

となり、Example 3.4 の古典的な公式が復元されます。つまり局所指数公式はアティヤ・シンガーの定理の真の一般化であり、単なる形式的な言い換えではありません。

局所指数公式が本当に力を発揮するのは、可換な多様体が存在しない状況です。コンヌとモスコヴィッチの直接の動機は葉層構造の横断的指数定理であり、そこでは「曲率テンソル」に相当する古典的な対象が存在せず、留数の計算だけが頼りになります。

6. 一般化:被覆空間・葉層構造・高次指数

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指数定理の非可換化がもたらした最大の収穫は、指数が整数でなくてもよくなったことです。核の次元を数える代わりに、フォン・ノイマン環の跡による「連続次元」を使えばよい。この視点は次の二つの定理を生みました。

Theorem 6.1アティヤの L2-指数定理

MM を境界のないコンパクト多様体、M~M\widetilde{M}\to M を離散群 Γ\Gamma をガロア群とする正規被覆、DDMM 上の楕円型作用素、D~\widetilde{D} をその M~\widetilde{M} への持ち上げとします。D~\widetilde{D} の核は一般に無限次元ですが、Γ\Gamma が作用するので Γ\Gamma のフォン・ノイマン環 N(Γ)\mathcal{N}(\Gamma) の跡によるフォン・ノイマン次元 dimΓ\dim_{\Gamma} が定義されます。このとき

indΓ(D~):=dimΓkerD~+dimΓkerD~  =  ind(D)\operatorname{ind}_{\Gamma}(\widetilde{D}) := \dim_{\Gamma}\ker\widetilde{D}^{+} - \dim_{\Gamma}\ker\widetilde{D}^{-} \;=\; \operatorname{ind}(D)

が成り立ちます。とくに左辺は整数です。

Remark 6.2

証明は熱核による Proposition 3.5Γ\Gamma-版です。熱核の対角成分は局所的な量なので M~\widetilde M 上と MM 上で一致し、Γ\Gamma-跡はその基本領域上の積分になるため、両辺が同じ積分に帰着します。系として ind(D)0\operatorname{ind}(D)\ne0 なら kerD~0\ker\widetilde{D}\ne0、すなわち被覆空間上に L2L^{2} 調和スピノルが存在します。

Theorem 6.3コンヌの測度付き葉層指数定理

(V,F)(V, F) をコンパクト多様体 VV 上の葉層構造(FTVF \subset TV は可積分部分束、dimF=p\dim F = p)、Λ\Lambda をホロノミー不変な横断測度とします。DD を葉に沿った楕円型作用素とすると、kerD\ker DcokerD\operatorname{coker}D は葉層のフォン・ノイマン環の加群になり、Λ\Lambda に付随する跡によって次元 dimΛ\dim_{\Lambda} が定まります。このとき

indΛ(D):=dimΛkerDdimΛcokerD  =  ch(σ(D))Td(FC), [CΛ]\operatorname{ind}_{\Lambda}(D) := \dim_{\Lambda}\ker D - \dim_{\Lambda}\operatorname{coker}D \;=\; \bigl\langle \operatorname{ch}(\sigma(D))\,\operatorname{Td}(F\otimes\mathbb{C}),\ [C_{\Lambda}]\bigr\rangle

が(向きの規約のもとで)成り立ちます。ここで [CΛ][C_{\Lambda}]Λ\Lambda に付随するリュエル・サリヴァンのカレントです。左辺は一般に整数ではなく実数です。

Example 6.4クロネッカー葉層と有理独立な指数値

V=T2=R2/Z2V = T^{2} = \mathbb{R}^{2}/\mathbb{Z}^{2} 上に傾き θ\theta(無理数)の直線の族による葉層 FF を入れます。各葉は R\mathbb{R} と微分同相で T2T^2 に稠密に巻きつくので、葉空間 T2/FT^{2}/F は自明な位相しかもちません。ところがこの葉層のフォン・ノイマン環は II1_{1} 型因子環であり、対応する CC^{*}-代数は非可換トーラス AθA_{\theta} に他なりません。

Theorem 6.3 の右辺はリュエル・サリヴァンのカレント(葉方向のベクトル場と横断測度から作られる 1 次元カレント)との対で、その値は一般に Z\mathbb{Z} に入りません。実際、この葉層に付随する指数の取りうる値の集合は

τ(K0(Aθ))=Z+θZ\tau_{*}\bigl(K_{0}(A_{\theta})\bigr) = \mathbb{Z} + \theta\mathbb{Z}

です。Example 4.10 で見た「τ(e)=p+qθ\tau(e) = p + q\theta」がまさにこれです。古典的な指数定理が整数を返すのは、点からなるコンパクト空間という特殊事情の産物にすぎなかった——この認識が非可換幾何の出発点の一つになりました。

Remark 6.5

さらに進んだ一般化を三つ挙げます。

高次指数。 Γ\Gamma を離散群、cH(BΓ;C)c \in H^{*}(B\Gamma;\mathbb{C}) を群コサイクルとすると、cc に対応する巡回コサイクルと指数類の対として高次指数 indc(D)\operatorname{ind}_{c}(D) が定まります。ノビコフ予想(高次符号数のホモトピー不変性)はこの高次指数のホモトピー不変性に翻訳され、コンヌとモスコヴィッチは 1990 年、群コサイクルの巡回類を増大度条件つきの稠密部分代数まで延長する方法によって、双曲群に対する予想を証明しました。

バウム・コンヌ予想。 組立写像 μ:KΓ(EΓ)K(CrΓ)\mu : K^{\Gamma}_{*}(\underline{E}\Gamma) \to K_{*}(C^{*}_{r}\Gamma) が同型であるという予想で、「Γ\Gamma に付随するすべての指数は幾何学的な指数から来る」という主張です。単射性からノビコフ予想が従います。

APS 指数定理。 境界のある多様体では、境界作用素のスペクトルの非対称性を測るイータ不変量が補正項として現れ、非可換幾何ではスペクトル・フローとして、局所指数公式の奇の場合に自然に対応します。

7. 標準模型への応用:コンヌ・ロット模型とスペクトル作用

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前節までで、幾何とは「スペクトル三つ組 (A,H,D)(\mathcal{A}, H, D) である」という立場が固まりました。では、可換な代数を少しだけ非可換にしたら何が現れるでしょうか。最も素直な操作は、有限次元代数を掛けることです。

Definition 7.1ほとんど可換なスペクトル三つ組

MM をコンパクトスピン多様体、(C(M),L2(M,S),DM)(C^{\infty}(M), L^{2}(M,S), D_{M}) をその標準的なスペクトル三つ組とします。(AF,HF,DF)(\mathcal{A}_{F}, H_{F}, D_{F})有限次元のスペクトル三つ組(AF\mathcal{A}_F は有限次元 *-代数、HFH_F は有限次元ヒルベルト空間、DFD_F はエルミート行列)とするとき、テンソル積

A=C(M)AF,H=L2(M,S)HF,D=DM1+γMDF\mathcal{A} = C^{\infty}(M)\otimes \mathcal{A}_{F},\quad H = L^{2}(M,S)\otimes H_{F},\quad D = D_{M}\otimes 1 + \gamma_{M}\otimes D_{F}

ほとんど可換なスペクトル三つ組と呼びます。A\mathcal{A}MM 上の AF\mathcal{A}_{F} 値関数の代数 C(M,AF)C^{\infty}(M, \mathcal{A}_{F}) に他なりません。

コンヌとロット(1990 年)の発見は、この設定でゲージ場とヒッグス場が同じ起源から出てくるというものでした。内部摂動 DD+A+JAJ1D \mapsto D + A + JAJ^{-1}A=aj[D,bj]A = \sum a_{j}[D, b_{j}]JJ は実構造)を考えると、DMD_{M} から来る部分は通常のゲージ接続を、DFD_{F} から来る部分は AF\mathcal{A}_{F} に値をとるスカラー場、すなわちヒッグス場を与えます。ヒッグス場は「有限方向のゲージ接続」だったのです。最初期の模型では二点集合との積を考え、二枚の紙を結ぶ差分がヒッグスになりました。

標準模型に対応する有限代数は

AF=C  H  M3(C)\mathcal{A}_{F} = \mathbb{C}\ \oplus\ \mathbb{H}\ \oplus\ M_{3}(\mathbb{C})

です(H\mathbb{H} は四元数体)。そのユニタリ群から標準模型のゲージ群 U(1)×SU(2)×SU(3)U(1)\times SU(2)\times SU(3) がほぼそのまま出ます。HFH_{F} は 1 世代あたり 32 次元(16 個のワイルフェルミオン νL,eL,νR,eR\nu_{L},e_{L},\nu_{R},e_{R} と 3 色のクォーク 12 個、および反粒子)、3 世代で 96 次元です。DFD_{F} は湯川結合行列と右巻きニュートリノのマヨラナ質量を成分にもつエルミート行列で、実構造 JJ の KO-次元は 6mod86 \bmod 8 に取る必要があります。

Theorem 7.2シャムセディン・コンヌのスペクトル作用の漸近展開

(A,H,D)(\mathcal{A}, H, D) を正則で、離散かつ単純な次元スペクトル Sd\operatorname{Sd} をもつスペクトル三つ組とし、DD は可逆とします。f:[0,)Rf : [0,\infty) \to \mathbb{R} を十分滑らかで急減少な関数(カットオフ関数)とし、Λ>0\Lambda > 0 をエネルギー・スケールとします。Sd+:=Sd]0,[\operatorname{Sd}^{+} := \operatorname{Sd}\cap\, ]0,\infty[ζD(s)=Tr(Ds)\zeta_{D}(s) = \operatorname{Tr}(|D|^{-s}) と書くとき、Λ\Lambda\to\infty

Trf ⁣(DΛ)    kSd+fkΛkres(Dk)  +  f(0)ζD(0)  +  o(1),\operatorname{Tr}\,f\!\left(\frac{D}{\Lambda}\right) \;\sim\; \sum_{k\in\operatorname{Sd}^{+}} f_{k}\,\Lambda^{k}\,\operatorname{res}\bigl(|D|^{-k}\bigr) \;+\; f(0)\,\zeta_{D}(0) \;+\; o(1),fk=0f(v)vk1dvf_{k} = \int_{0}^{\infty} f(v)\,v^{k-1}\,dv

という漸近展開が成り立ちます。ここで res\operatorname{res}Definition 5.1 の非可換積分です。

スペクトル作用原理とは、物理の作用として

S[D]  =  Trf ⁣(DΛ)  +  ψ, DψS[D] \;=\; \operatorname{Tr}\,f\!\left(\frac{D}{\Lambda}\right) \;+\; \langle \psi,\ D\psi\rangle

のみを許すという要請です。第一項がボゾン的作用、第二項がフェルミオン的作用で、いずれも DD のスペクトルにしか依らず、座標の取り方に一切依存しません。Theorem 7.2 の右辺をほとんど可換な三つ組(dimM=4\dim M = 4)について書き下すと、Λ4\Lambda^{4}Λ2\Lambda^{2}Λ0\Lambda^{0} の各項は熱核展開のシーリー・ドウィット係数 a0,a2,a4a_{0}, a_{2}, a_{4} に対応し、次のようになります。

次数現れる項
Λ4\Lambda^{4}宇宙定数項
Λ2\Lambda^{2}アインシュタイン・ヒルベルト項 Rg\int R\sqrt{g}、ヒッグス質量項 H2\int \|H\|^{2}
Λ0\Lambda^{0}ヤン・ミルズ項 trFμνFμν\int \operatorname{tr}F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}、ヒッグス運動項、H4\|H\|^{4} ポテンシャル、非最小結合 RH2R\|H\|^{2}、ワイル項

つまり、重力と標準模型のラグランジアンが、たった一つの幾何学的な作用から同時に導出されます。ゲージ群も、フェルミオンの表現も、ヒッグス機構も、(AF,HF,DF)(\mathcal{A}_{F}, H_{F}, D_{F}) を選んだ時点で決まってしまいます。

Example 7.3予言とその検証

スペクトル作用は係数の間に関係式を課すので、検証可能な予言を出します。Λ\Lambda を大統一スケールと同定すると、三つのゲージ結合定数の間に

g32=g22=53g12g_{3}^{2} = g_{2}^{2} = \tfrac{5}{3}g_{1}^{2}

という関係が Λ\Lambda で成り立つことが要求されます(実際の走化ではこの一致は約 1%1\% ずれます)。またトップクォークの湯川結合とヒッグス四点結合の間の関係から、ヒッグス質量が予言されます。

歴史的には、2007 年のシャムセディン・コンヌ・マルコリの定式化は mH170GeVm_{H}\simeq 170\,\mathrm{GeV} を与えましたが、この値は 2011 年までにテバトロンと LHC の直接探索で排除されました。これは模型にとって明確な反証でした。2012 年、シャムセディンとコンヌは、右巻きニュートリノのマヨラナ質量に伴う実スカラー場 σ\sigmaBLB-L 対称性の破れに対応)を正しく取り込むと四点結合が走化を変え、mH125GeVm_{H}\simeq 125\,\mathrm{GeV} になることを示しました。同年に発見されたヒッグス粒子の質量と整合します。

誠実に評価すれば、これは「予言の的中」ではなく「反証を受けた修正が独立に確認された値と整合した」という段階であり、枠組みが実験的に確立されたわけではありません。それでも、幾何の公理だけからゲージ群と粒子の表現が決まるという構造そのものは、他に類のない結果だと思います。

Exercise 8.1

Example 4.7 の設定で、u=eku = e_{k}kZk \in \mathbb{Z}ek(θ)=eikθe_{k}(\theta) = e^{ik\theta})に対するトープリッツ作用素 Tu=PuPPHT_{u} = PuP|_{PH} の指数を、核と余核を直接数えることで求め、公式 ind(Tu)=wind(u)\operatorname{ind}(T_{u}) = -\operatorname{wind}(u) と一致することを確かめてください。

Solution

基底 {en}n0\{e_{n}\}_{n\ge0} に対し Tuen=Pen+kT_{u}e_{n} = P e_{n+k} です。

k0k \ge 0 のとき、n0n \ge 0 ならば n+k0n+k\ge0 なので Tuen=en+kT_{u}e_{n} = e_{n+k}。これは {en}n0\{e_{n}\}_{n\ge0}{em}mk\{e_{m}\}_{m\ge k} に一対一に写します。よって kerTu=0\ker T_{u} = 0ranTu=span{em:mk}\operatorname{ran}T_{u} = \overline{\operatorname{span}}\{e_{m} : m\ge k\} で余核の次元は kke0,,ek1e_{0},\ldots,e_{k-1} が代表)。したがって ind(Tu)=0k=k\operatorname{ind}(T_{u}) = 0 - k = -k

k<0k < 0 のとき、n+k0n+k \ge 0 すなわち nkn \ge -k ならば Tuen=en+kT_{u}e_{n} = e_{n+k}0nk10\le n \le -k-1 ならば Pen+k=0Pe_{n+k} = 0。よって kerTu=span{e0,,ek1}\ker T_{u} = \operatorname{span}\{e_{0},\ldots,e_{-k-1}\} で次元は k-k、値域は {em}m0\{e_{m}\}_{m\ge0} 全体を張るので余核は 00。したがって ind(Tu)=k0=k\operatorname{ind}(T_{u}) = -k - 0 = -k

いずれの場合も ind(Tu)=k\operatorname{ind}(T_{u}) = -k です。一方 wind(ek)=12πiS1eikθd(eikθ)=12πi02πikdθ=k\operatorname{wind}(e_{k}) = \frac{1}{2\pi i}\int_{S^{1}} e^{-ik\theta}\,d(e^{ik\theta}) = \frac{1}{2\pi i}\int_{0}^{2\pi} ik\,d\theta = k なので、確かに ind(Tu)=wind(u)\operatorname{ind}(T_{u}) = -\operatorname{wind}(u) です。

Exercise 8.2標準

MM をコンパクトリーマン多様体、H=L2(Ω(M)C)H = L^{2}(\Omega^{\bullet}(M)\otimes\mathbb{C})D=d+dD = d + d^{*}γ=(1)deg\gamma = (-1)^{\deg} とします。Proposition 3.5 を用いて、すべての t>0t>0 に対し

Tr(γetΔ)=χ(M)\operatorname{Tr}\bigl(\gamma\,e^{-t\Delta}\bigr) = \chi(M)

Δ=D2=dd+dd\Delta = D^{2} = dd^{*}+d^{*}d はホッジ・ラプラシアン、χ\chi はオイラー標数)が成り立つことを示してください。

Solution

まず Proposition 3.5 の仮定を確認します。D=d+dD = d+d^{*}L2L^{2} 上の本質的自己共役作用素で、γD=Dγ\gamma D = -D\gamma が成り立ちます(dd は次数を 11 上げ、dd^{*}11 下げるので、いずれも γ\gamma と反可換)。MM がコンパクトなので Δ\Delta は離散スペクトルをもち、ワイルの法則により固有値は λjcj2/n\lambda_{j}\sim c\,j^{2/n} で増大するため、etΔe^{-t\Delta} は各 t>0t>0 でトレースクラスです。

よって Proposition 3.5 が適用でき、

Tr(γetΔ)=ind(D+)=dimkerD+dimkerD\operatorname{Tr}(\gamma e^{-t\Delta}) = \operatorname{ind}(D^{+}) = \dim\ker D^{+} - \dim\ker D^{-}

となります(D±D^{\pm}ΩevΩodd\Omega^{\mathrm{ev}}\to\Omega^{\mathrm{odd}} とその逆向き)。

次に核を同定します。Dv2=D2v,v=Δv,v\|Dv\|^{2} = \langle D^{2}v, v\rangle = \langle \Delta v, v\rangle より kerD=kerΔ=H\ker D = \ker\Delta = \mathcal{H}^{\bullet}(調和形式)です。Δ\Delta は次数を保つので H=kHk\mathcal{H}^{\bullet} = \bigoplus_{k}\mathcal{H}^{k} と分解し、

kerD+=kH2k,kerD=kH2k+1.\ker D^{+} = \bigoplus_{k}\mathcal{H}^{2k}, \qquad \ker D^{-} = \bigoplus_{k}\mathcal{H}^{2k+1}.

ホッジの定理により HkHdRk(M;C)\mathcal{H}^{k}\cong H^{k}_{\mathrm{dR}}(M;\mathbb{C}) ですから

ind(D+)=k(1)kdimHdRk(M;C)=χ(M)\operatorname{ind}(D^{+}) = \sum_{k}(-1)^{k}\dim H^{k}_{\mathrm{dR}}(M;\mathbb{C}) = \chi(M)

となり、主張が示されました。なお t0t\to0 での熱核の対角展開を実行すると右辺がオイラー類の積分に等しいことが出て、ガウス・ボンネ・チャーンの定理の熱核による証明になります(Example 3.3)。

Exercise 8.3標準

XX を K3 曲面(コンパクトな単連結複素曲面で c1(X)=0c_{1}(X) = 0χ(X)=24\chi(X) = 24)とします。XX はスピン多様体です。XX 上のねじれのないディラック作用素の指数を、(i) A^\hat{A} 種数、(ii) 正則オイラー標数(リーマン・ロッホ)の二通りで計算し、一致することを確かめてください。

Solution

(i) A^\hat{A} 種数から。 44 次元では A^=1p124\hat{A} = 1 - \frac{p_{1}}{24} です。ヒルツェブルフの符号数定理により σ(X)=13Xp1\sigma(X) = \frac{1}{3}\int_{X}p_{1}。K3 曲面の符号数は σ(X)=16\sigma(X) = -16(交叉形式は 2(E8)3H2(-E_{8})\oplus 3H で、正定値部分の次元 33、負定値部分の次元 1919319=163-19=-16)ですから

Xp1=3σ(X)=48,XA^(TX)=4824=2.\int_{X}p_{1} = 3\sigma(X) = -48, \qquad \int_{X}\hat{A}(TX) = -\frac{-48}{24} = 2 .

Example 3.4 より ind(D+)=2\operatorname{ind}(D^{+}) = 2

(ii) リーマン・ロッホから。 複素曲面では Td=1+c12+c12+c212\operatorname{Td} = 1 + \frac{c_{1}}{2} + \frac{c_{1}^{2}+c_{2}}{12} です。c1(X)=0c_{1}(X)=0Xc2=χ(X)=24\int_{X}c_{2} = \chi(X) = 24 なので

χ(X,OX)=XTd(TX)=0+2412=2.\chi(X,\mathcal{O}_{X}) = \int_{X}\operatorname{Td}(TX) = \frac{0 + 24}{12} = 2 .

これは実際、h0,0h0,1+h0,2=10+1=2h^{0,0} - h^{0,1} + h^{0,2} = 1 - 0 + 1 = 2(K3 曲面は h0,1=0h^{0,1}=0、正則 2 形式が一意に存在するので h0,2=1h^{0,2}=1)と合います。

一致の理由。 Td=ec1/2A^\operatorname{Td} = e^{c_{1}/2}\,\hat{A} という一般関係があり、c1=0c_{1}=0 のときは Td=A^\operatorname{Td} = \hat{A} です。念のため直接確認すると、p1=c122c2=048=48p_{1} = c_{1}^{2} - 2c_{2} = 0 - 48 = -48 で (i) の値と整合しています。したがって両者はともに 22 を与えます。

Exercise 8.4

Proposition 2.2 を用いて、指数の乗法性を示してください。すなわち、T1B(H2,H3)T_{1} \in \mathcal{B}(H_{2},H_{3})T2B(H1,H2)T_{2}\in\mathcal{B}(H_{1},H_{2}) がそれぞれパラメトリックス S1,S2S_{1}, S_{2} をもち、Ki:=1SiTiK_{i} := 1 - S_{i}T_{i}Li:=1TiSiL_{i} := 1 - T_{i}S_{i} がすべてトレースクラスであるとき、

ind(T1T2)=ind(T1)+ind(T2)\operatorname{ind}(T_{1}T_{2}) = \operatorname{ind}(T_{1}) + \operatorname{ind}(T_{2})

が成り立つことを示してください。

Solution

T:=T1T2T := T_{1}T_{2}S:=S2S1S := S_{2}S_{1} とおきます。まず 1ST1 - ST1TS1-TSKi,LiK_{i}, L_{i} で表します。

ST=S2S1T1T2=S2(1K1)T2=S2T2S2K1T2=(1K2)S2K1T2,ST = S_{2}S_{1}T_{1}T_{2} = S_{2}(1-K_{1})T_{2} = S_{2}T_{2} - S_{2}K_{1}T_{2} = (1-K_{2}) - S_{2}K_{1}T_{2},TS=T1T2S2S1=T1(1L2)S1=T1S1T1L2S1=(1L1)T1L2S1.TS = T_{1}T_{2}S_{2}S_{1} = T_{1}(1-L_{2})S_{1} = T_{1}S_{1} - T_{1}L_{2}S_{1} = (1-L_{1}) - T_{1}L_{2}S_{1}.

よって

1ST=K2+S2K1T2,1TS=L1+T1L2S1.1 - ST = K_{2} + S_{2}K_{1}T_{2}, \qquad 1 - TS = L_{1} + T_{1}L_{2}S_{1}.

K1,K2,L1,L2K_{1}, K_{2}, L_{1}, L_{2} はトレースクラス、Si,TiS_{i}, T_{i} は有界なので、両辺はトレースクラスです。したがって Proposition 2.2TT に適用でき、

ind(T)=Tr(K2)+Tr(S2K1T2)Tr(L1)Tr(T1L2S1).\operatorname{ind}(T) = \operatorname{Tr}(K_{2}) + \operatorname{Tr}(S_{2}K_{1}T_{2}) - \operatorname{Tr}(L_{1}) - \operatorname{Tr}(T_{1}L_{2}S_{1}).

第 2 項と第 4 項を跡の巡回性(真ん中がトレースクラス、外側が有界)で書き換えます。

Tr(S2K1T2)=Tr(K1T2S2)=Tr(K1(1L2))=Tr(K1)Tr(K1L2),\operatorname{Tr}(S_{2}K_{1}T_{2}) = \operatorname{Tr}(K_{1}T_{2}S_{2}) = \operatorname{Tr}\bigl(K_{1}(1-L_{2})\bigr) = \operatorname{Tr}(K_{1}) - \operatorname{Tr}(K_{1}L_{2}),Tr(T1L2S1)=Tr(L2S1T1)=Tr(L2(1K1))=Tr(L2)Tr(L2K1).\operatorname{Tr}(T_{1}L_{2}S_{1}) = \operatorname{Tr}(L_{2}S_{1}T_{1}) = \operatorname{Tr}\bigl(L_{2}(1-K_{1})\bigr) = \operatorname{Tr}(L_{2}) - \operatorname{Tr}(L_{2}K_{1}).

K1K_{1}L2L_{2} はともにトレースクラスなので Tr(K1L2)=Tr(L2K1)\operatorname{Tr}(K_{1}L_{2}) = \operatorname{Tr}(L_{2}K_{1}) であり、この二つの補正項は差を取ると相殺します。したがって

ind(T)=(Tr(K1)Tr(L1))+(Tr(K2)Tr(L2))=ind(T1)+ind(T2)\operatorname{ind}(T) = \bigl(\operatorname{Tr}(K_{1}) - \operatorname{Tr}(L_{1})\bigr) + \bigl(\operatorname{Tr}(K_{2}) - \operatorname{Tr}(L_{2})\bigr) = \operatorname{ind}(T_{1}) + \operatorname{ind}(T_{2})

となります(最後に再び Proposition 2.2T1T_{1}T2T_{2} に使いました)。

この計算は、指数が KK-理論的な量であることの代数的な現れです。実際、乗法性は「指数写像が群準同型 K1(B/K)ZK_{1}(\mathcal{B}/\mathcal{K}) \to \mathbb{Z} を与える」という事実に他なりません。

  • M. F. Atiyah and I. M. Singer, “The index of elliptic operators I”, Annals of Mathematics 87 (1968), 484–530. — K-理論による原証明。
  • H. B. Lawson and M.-L. Michelsohn, Spin Geometry, Princeton University Press, 1989 — 第 III 章(指数定理とその古典的な系)。
  • A. Connes, Noncommutative Geometry, Academic Press, 1994 — 第 III 章(巡回コホモロジー)、第 IV 章(量子化解析とフレドホルム加群の指数定理)。全文が著者のサイトで公開されています。
  • A. Connes, “Sur la théorie non commutative de l’intégration”, in Algèbres d’opérateurs, Lecture Notes in Mathematics 725, Springer, 1979, 19–143. — 測度付き葉層の指数定理。
  • A. Connes and H. Moscovici, “The local index formula in noncommutative geometry”, Geometric and Functional Analysis 5 (1995), 174–243.
  • A. H. Chamseddine, A. Connes and M. Marcolli, “Gravity and the standard model with neutrino mixing”, Advances in Theoretical and Mathematical Physics 11 (2007), 991–1089. arXiv:hep-th/0610241

本文で触れた他の文献として、コンヌ・ロット模型の原論文は A. Connes and J. Lott, “Particle models and noncommutative geometry”, Nuclear Physics B (Proc. Suppl.) 18B (1991), 29–47、スペクトル作用原理は A. H. Chamseddine and A. Connes, “The spectral action principle”, Communications in Mathematical Physics 186 (1997), 731–750、ヒッグス質量の再検討は A. H. Chamseddine and A. Connes, “Resilience of the spectral standard model”, JHEP 09 (2012), 104 です。アティヤの L2L^{2}-指数定理は M. F. Atiyah, “Elliptic operators, discrete groups and von Neumann algebras”, Astérisque 32–33 (1976), 43–72 にあります。

Appendix: (b,B)-双複体と周期作用素

Section titled “Appendix: (b,B)-双複体と周期作用素”

なぜ二つ目の複体が要るのか。 Definition 4.1 の定義は直観的ですが、巡回性という線型な拘束を課したままホモロジー代数を回すのは面倒で、計算には向きません。等価で扱いやすいのが (b,B)(b,B)-双複体による定義です。

二つの微分。 Cn(A):=Hom(A(n+1),C)C^{n}(A) := \operatorname{Hom}(A^{\otimes(n+1)},\mathbb{C}) 上に、ホッホシルト微分 b:CnCn+1b : C^{n}\to C^{n+1}Definition 4.1 の式)と、コンヌの微分 B:CnCn1B : C^{n}\to C^{n-1} を置きます。B=A0B0B = A_{0}B_{0} で、B0φ(a0,,an1)=φ(1,a0,,an1)B_{0}\varphi(a^{0},\ldots,a^{n-1}) = \varphi(1,a^{0},\ldots,a^{n-1})A0A_{0} は巡回置換による反対称化です。これらは b2=0b^{2}=0B2=0B^{2}=0bB+Bb=0bB + Bb = 0 を満たし、双複体をなします。

周期巡回コホモロジー。 この双複体の全複体のコホモロジーが HC(A)HC^{\bullet}(A) を再現し、列を両側無限に伸ばしたもの(Z/2\mathbb{Z}/2 次数付き)のコホモロジーが HP(A)HP^{\bullet}(A) です。周期作用素 S:HCnHCn+2S : HC^{n}\to HC^{n+2} は、双複体では「一段ずらす」写像として実現され、HPHP を取る操作はこのずらしに関する帰納極限そのものです。Theorem 5.2 のコサイクル ϕ=(ϕn)\phi = (\phi_{n}) が「(b,B)(b,B)-双複体のコサイクル」であるとは、bϕn+Bϕn+2=0b\phi_{n} + B\phi_{n+2} = 0 がすべての nn で成り立つことを意味します。個々の ϕn\phi_{n} は巡回コサイクルではないので、この形でしか書けません。局所指数公式が双複体の言葉で述べられるのは、そのためです。

冪等元のチャーン指標。 双複体では、冪等元 eMq(A)e\in M_{q}(A) のチャーン指標が明示的に書けます。ch0(e)=Tr(e)\operatorname{ch}_{0}(e) = \operatorname{Tr}(e)n1n\ge1 に対して

chn(e)=(1)n(2n)!n!Tr((e12)e2n)\operatorname{ch}_{n}(e) = (-1)^{n}\frac{(2n)!}{n!}\operatorname{Tr}\Bigl(\bigl(e - \tfrac{1}{2}\bigr)\otimes e^{\otimes 2n}\Bigr)

Tr\operatorname{Tr} は行列成分についての跡と A(2n+1)A^{\otimes(2n+1)} への写像の合成)とおくと、(chn(e))n(\operatorname{ch}_{n}(e))_{n}(b,B)(b,B)-双複体の巡回サイクルとなり、その類が ch([e])HP0(A)\operatorname{ch}([e])\in HP_{0}(A) を与えます。§4.1 の対はこの類と HP0(A)HP^{0}(A) の類の自然な対にほかなりません。

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