試験時間は4時間で、4問すべてに解答する形式です。第1問は2次元調和振動子を生成消滅演算子だけで解ききる問題、第2問はディラック分散をもつ電子系の統計力学、第3問は電気双極子と電気四極子の多極子展開、第4問は複素積分と行列の指数関数です。個々の手筋はどれも標準的ですが、第1問設問6の β,γ の決め方と第3問設問8の符号処理でつまずきやすくなっています。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 量子力学 | 2次元調和振動子の角運動量とエネルギーの同時固有状態 |
| 第2問 | 統計力学・物性物理 | ディラック電子系の状態密度と低温比熱 |
| 第3問 | 電磁気学 | 電気双極子・電気四極子のつくる場と相互作用エネルギー |
| 第4問 | 複素解析・線形代数 | 単位円上の複素積分と行列の指数関数 |
質量 m、角振動数 ω の等方な2次元調和振動子
H^=k=1∑2(2m1P^k2+21mω2X^k2)
を考えます。正準交換関係は [X^k,X^ℓ]=[P^k,P^ℓ]=0、[X^k,P^ℓ]=iℏδkℓ です。生成消滅演算子は
a^k=2ℏmω1(mωX^k+iP^k),a^k†=2ℏmω1(mωX^k−iP^k)
で定義され、面内の角運動量演算子は L^=X^1P^2−X^2P^1 です。最終的に、H^ と L^ の同時固有状態を「右回り/左回り」の2種類の生成演算子で組み立てます。
定義式を代入して交換子を展開します。X^ 同士、P^ 同士は可換なので
[a^k,a^ℓ†]=2ℏmω1[mωX^k+iP^k,mωX^ℓ−iP^ℓ]=2ℏmω1(−imω[X^k,P^ℓ]+imω[P^k,X^ℓ])=2ℏmω1(−imω⋅iℏδkℓ+imω⋅(−iℏδkℓ))=2ℏmω2ℏmωδkℓ=δkℓ.
答えは [a^k,a^ℓ†]=δkℓ です。異なる自由度 k=ℓ の演算子は互いに可換で、[a^k,a^ℓ]=[a^k†,a^ℓ†]=0 も同様に確かめられます。
各 k について
a^k†a^k=2ℏmω1(m2ω2X^k2+P^k2+imω[X^k,P^k])=ℏω1(2mP^k2+2mω2X^k2)−21
なので
H^=ℏωk=1∑2(a^k†a^k+21)=ℏω(a^1†a^1+a^2†a^2+1).
交換子は設問1の結果から直ちに得られます。[a^ℓ†a^ℓ,a^k]=a^ℓ†[a^ℓ,a^k]+[a^ℓ†,a^k]a^ℓ=−δkℓa^k より
[H^,a^k]=−ℏωa^k,[H^,a^k†]=+ℏωa^k†.
a^k† はエネルギーを ℏω だけ上げ、a^k は ℏω だけ下げます。
a^k∣0⟩=0 なので a^k†a^k∣0⟩=0 となり、設問2の表式から
H^∣0⟩=ℏω(0+0+1)∣0⟩=ℏω∣0⟩.
答えは E0=ℏω です。1次元の零点エネルギー ℏω/2 が2自由度分足し合わされた値になっています。
a^k† を合計 n 個作用させた状態
(a^1†)n1(a^2†)n2∣0⟩,n1+n2=n,n1,n2≥0
が固有状態です。実際、設問2の交換子を n 回使うと固有値は E0+nℏω になり
En=(n+1)ℏω.
n を固定したときの (n1,n2) の組は (0,n),(1,n−1),…,(n,0) の n+1 通りなので、縮退度は n+1 です。
a^k,a^k† の定義を逆に解くと
X^k=2mωℏ(a^k+a^k†),P^k=−i2ℏmω(a^k−a^k†)
です。これを代入すると
L^=−2iℏ[(a^1+a^1†)(a^2−a^2†)−(a^2+a^2†)(a^1−a^1†)].
添字1と2の演算子は互いに可換なので、展開すると a^1a^2 の項と a^1†a^2† の項が打ち消し合い、残りが2倍になります。
L^=−iℏ(a^1†a^2−a^1a^2†).
(a^1†a^2)†=a^1a^2† より括弧は反エルミートで、L^ はエルミートです。次に H^ との交換子を計算します。[a^1†a^1,a^1†a^2]=a^1†a^2、[a^2†a^2,a^1†a^2]=−a^1†a^2 なので、全粒子数 a^1†a^1+a^2†a^2 との交換子は打ち消し合って 0 になります。a^1a^2† についても同様なので
[H^,L^]=0.
L^ は自由度1と2の間で量子を移すだけで総数を変えないため、エネルギーと同時対角化できます。
まず L^ と生成演算子の交換子を用意します。設問5の表式と [a^k,a^ℓ†]=δkℓ から
[L^,a^1†]=iℏa^2†,[L^,a^2†]=−iℏa^1†.
したがって
[L^,βa^1†+γa^2†]=−iℏγa^1†+iℏβa^2†.
これが c(βa^1†+γa^2†) に等しいという条件は
−iℏγ=cβ,iℏβ=cγ
です。両式を掛けると c2βγ=ℏ2βγ、すなわち c=±ℏ となり、c=+ℏ のとき γ=iβ、c=−ℏ のとき γ=−iβ です。A^+†=βa^1†+γa^2† と A^−†=βa^1†−γa^2† は γ の符号だけが違うので、γ=iβ を選べば A^+† が c+=+ℏ、A^−† が c−=−ℏ に対応します。c+>c− の指定から、この選び方(γ=−iβ ではない方)が要求されます。
規格化 [A^η,A^η′†]=δηη′ が成り立つように大きさを決めると、具体例として
β=21,γ=2i,A^±†=21(a^1†±ia^2†)
が取れます。このとき c+=ℏ、c−=−ℏ です。実際 [A^+,A^+†]=[A^−,A^−†]=1、[A^+,A^−†]=0 となり、A^± は独立な2つのモードの消滅演算子として振る舞います。
A^±† は a^k† の線形結合なので、設問2から
[H^,A^±†]=ℏωA^±†.
これと設問6の [L^,A^±†]=c±A^±† を使うと
H^A^±†∣α⟩L^A^±†∣α⟩=([H^,A^±†]+A^±†H^)∣α⟩=(Eα+ℏω)A^±†∣α⟩,=([L^,A^±†]+A^±†L^)∣α⟩=(Lα+c±)A^±†∣α⟩.
よって A^+†∣α⟩ のエネルギーと角運動量は Eα+ℏω と Lα+ℏ、A^−†∣α⟩ については Eα+ℏω と Lα−ℏ です。エネルギーはどちらも同じだけ上がり、角運動量だけが ±ℏ に分かれます。
基底状態は a^k∣0⟩=0 から L^∣0⟩=0 をみたし、(E,L)=(ℏω,0) です。∣n,ℓ⟩ は A^+† を ℓ 個、A^−† を n−ℓ 個作用させた状態なので、設問7を n 回繰り返して
En=(n+1)ℏω,Ln,ℓ=ℏℓ−ℏ(n−ℓ)=(2ℓ−n)ℏ.
n を固定すると ℓ=0,1,…,n に対して Ln,ℓ は −nℏ から nℏ まで 2ℏ 刻みに並び、状態数は n+1 個です。これは設問4で求めた縮退度と一致します。
図は次のようになります。横軸を L/ℏ、縦軸を E/(ℏω) とすると、点は高さ E=(n+1)ℏω の水平な段ごとに並びます。n=0 の段(E=ℏω)には L=0 の1点、n=1 の段(E=2ℏω)には L=±ℏ の2点、n=2 の段(E=3ℏω)には L=0,±2ℏ の3点、n=3 の段(E=4ℏω)には L=±ℏ,±3ℏ の4点があります。合計10点で、全体は下向きの頂点をもつ二等辺三角形状の格子をなし、L=0 軸に関して左右対称です。n が偶数の段には L=0 の点があり、奇数の段にはありません。
一辺 L、体積 V=L3 の立方体に周期境界条件を課し、温度 T、化学ポテンシャル μ の粒子浴に接した相互作用のない電子系を考えます。スピン自由度は無視し、代わりに2成分の内部自由度をもつ模型
H(k)=ℏv(kxσx+kyσy+kzσz)
を採用します。σx,σy,σz はパウリ行列、v は定数です。固有値を εk,1≤εk,2 と書き、波数には ∣k∣≤k0 の上限を課します。ε0≡ℏvk0 とおきます。ディラック点が化学ポテンシャルに一致する μ=0 の場合を扱います。
周期境界条件 ψ(x+L,y,z)=ψ(x,y,z) などから eikzL=1、すなわち
kz=L2πnz,nz=0,±1,±2,…
です。∣kz∣≤k0 の制限から ∣nz∣≤Lk0/(2π) に限られます。
kx=ky=0 では H=ℏvkzσz=diag(ℏvkz,−ℏvkz) が対角なので、固有値は ±ℏvkz です。εk,1≤εk,2 の約束に従って
εk,1=−ℏv∣kz∣,εk,2=+ℏv∣kz∣.
図は次の通りです。横軸 kz、縦軸 ε とすると、εk,2 は原点を頂点とし傾き ±ℏv で上に開くV字、εk,1 はそれを上下反転した下に開く逆V字です。定義域は −k0≤kz≤k0 で、εk,2 の端点は (±k0, ℏvk0)、εk,1 の端点は (±k0, −ℏvk0) です。2本は kz=0 でのみ接触して ε=0 に二重縮退し(ディラック点)、それ以外では εk,2>0>εk,1 です。全体としては原点で交わる2本の直線(傾き +ℏv と −ℏv)が描く X 字形になります。厳密には kz が 2π/L 刻みなので、この2直線上に等間隔に並ぶ点の集まりです。
kx=ky=0 の状態のうち、エネルギーが 0 と ε>0 の間にあるのは上のバンド εk,2=ℏv∣kz∣ だけです(下のバンドは kz=0 で負)。条件は
ℏv∣kz∣≤ε⟺∣kz∣≤ℏvε
で、ε≤ε0 とします。kz の刻み幅は 2π/L なので、区間の長さを刻み幅で割って
Ω0(ε)=2π/L2ε/(ℏv)=πℏvLε.
系が十分大きいときは端点の ±1 程度のずれは無視できます。ℏv はエネルギー×長さの次元をもつので Lε/(ℏv) は無次元で、状態数として正しい次元です。
H(k)=ℏvk⋅σ について、パウリ行列の性質 σiσj+σjσi=2δij から
(k⋅σ)2=∣k∣2I
が成り立ちます。また TrH(k)=0 です。したがって2つの固有値は絶対値が等しく符号が逆で、k≡∣k∣ とおくと
εk,1=−ℏvk,εk,2=+ℏvk.
kx=ky=0 とすれば設問1の結果に戻ります。
0<ε≤ε0 に対して、エネルギーが 0 から ε の間にある状態は上のバンドで k≤ε/(ℏv) をみたすものです。波数空間の状態密度は V/(2π)3 なので、半径 ε/(ℏv) の球の体積をかけて
Ω(ε)=(2π)3V⋅34π(ℏvε)3=6π2ℏ3v3Vε3.
微分して
D(ε)=dεdΩ(ε)=2π2ℏ3v3Vε2.
状態密度がエネルギーの2乗に比例して ε→0 で消えるのが、3次元線形分散の特徴です。Vε3/(ℏv)3 は無次元で、D はエネルギーの逆数の次元をもちます。スペクトルが上下対称なので、下のバンドについても ε<0 での状態密度は D(∣ε∣) で与えられます。
μ=0 のフェルミ分布に対する大分配関数の対数は
logΞ=k∑a=1∑2log(1+e−βεk,a)
です。上のバンド(0≤ε≤ε0)の和を状態密度 D(ε) による積分に置き換え、下のバンド(−ε0≤ε≤0)の和では ε→−ε と変数変換して状態密度 D(ε) を使うと
logΞ=∫0ε0D(ε)[log(1+e−βε)+log(1+eβε)]dε.
したがって
F(ε)=D(ε)[log(1+e−βε)+log(1+eβε)]=D(ε)[βε+2log(1+e−βε)].
2つ目の表式では log(1+eβε)=βε+log(1+e−βε) を使いました。第1項は絶対零度で満たされた下のバンドからの寄与、第2項が熱励起の寄与です。
A≡V/(2π2ℏ3v3) とおくと D(ε)=Aε2 で
logΞ=Aβ∫0ε0ε3dε+2A∫0ε0ε2log(1+e−βε)dε.
第1項は Aβε04/4 で、ε0 の4次の多項式です。第2項の被積分関数は ε≳kBT で指数的に小さくなるので、ε0≫kBT のもとで積分の上限を ∞ に置き換えられます。差
G(ε0)=−2A∫ε0∞ε2log(1+e−βε)dε
が ε0→∞ で 0 になる項で、これを無視します。x=βε と置いて部分積分すると
∫0∞ε2log(1+e−βε)dε=β31∫0∞x2log(1+e−x)dx=3β31∫0∞ex+1x3dx=360β37π4
です(部分積分の表面項は両端で消えます)。以上より
logΞ≃4Aβε04+180β37π4A=8π2ℏ3v3kBTVε04+3607π2ℏ3v3V(kBT)3.
問題文の「ε0 の有限次の多項式」は、第1項(4次)と第2項(ε0 を含まない0次)の和に対応します。
μ=0 なので E=−∂logΞ/∂β です。設問6の結果を β で微分して
E=−∂β∂(4Aβε04+180β37π4A)=−4Aε04+60β47π4A,
すなわち
E=−8π2ℏ3v3Vε04+1207π2ℏ3v3V(kBT)4.
第1項は温度によらない負の定数で、絶対零度で下のバンドがすべて占有されているときのエネルギー −∫0ε0εD(ε)dε=−Aε04/4 に一致します。比熱には効きません。T で微分して
C=∂T∂E=307π2ℏ3v3VkB4T3=307π2VkB(ℏvkBT)3.
kBT/(ℏv) は長さの逆数なので、その3乗に V をかけると無次元となり、C は kB の次元をもちます。また熱励起部分の係数は、2つの偏光をもつ光子気体の u=π2(kBT)4/(15(ℏc)3) にフェルミ統計の因子 7/8 をかけた値 7π2(kBT)4/(120(ℏv)3) と一致しており、独立な検算になります。
通常の金属では化学ポテンシャルがバンドの途中にあってフェルミ面が存在し、フェルミ準位の状態密度 D(εF) が有限の値をとります。温度 T で熱的に励起できるのはフェルミ準位から幅 ∼kBT の範囲にある電子だけで、その数は ∼D(εF)kBT、1個あたりのエネルギー増加は ∼kBT です。したがって内部エネルギーの温度依存部分は ∼D(εF)(kBT)2 となり、比熱は C∼kB2D(εF)T、つまり温度に比例します。
設問7の系では化学ポテンシャルが2つのバンドの接点(ディラック点)にあり、状態密度が D(ε)∝ε2 でフェルミ準位において 0 になります。そのため励起に使える状態が温度とともに増えていき、熱励起される電子・正孔の数は ∼D(kBT)kBT∝T3、エネルギーは ∝T4 になります。比熱はその微分で C∝T3 となり、線形項が現れません。低温で比熱が通常の金属と定性的に異なるのは、フェルミ準位の状態密度が消えていることが原因です。
電気定数を ε0、観測点を r=(x,y,z)、r=∣r∣ とします。図はすべて xy 平面(z=0)内の配置です。
図1(a) では正電荷 e を (0,d/2,0)、負電荷 −e を (0,−d/2,0) に置きます。これを負電荷から正電荷に向く矢印(図1(b))で表し、図1(c) では +y 方向を向いた電気双極子を原点に、x 軸の正方向から測った角度 θ の向きの電気双極子を (0,a,0) に置きます。設問2から5では d≪r,a とし、最も支配的な項だけを残します。
図2(a) では原点に 2e、(0,±d/2,0) に −e を置いて電気四極子をつくります。設問6から8では与えられた多極子展開
φ(r)≃4πε01(rq+i=1∑3r3xipi+i=1∑3j=1∑3r5xixjQij)
と、q=∫ρd3r′、pi=∫xi′ρd3r′、Qij=21∫(3xi′xj′−(r′)2δij)ρd3r′ を使います。
∣r−r0∣2=r2−2r⋅r0+r02 なので
∣r−r0∣=r1−r22r⋅r0+r2r02.
r0/r≪1 として平方根を展開すると、r0/r の1次までは根号内の第3項が2次なので落ちて
∣r−r0∣≃r(1−r2r⋅r0)=r−rr⋅r0.
これは r 方向の単位ベクトル r^=r/r を使えば r−r^⋅r0 です。あとで使う形として、逆数も同じ精度で
∣r−r0∣1≃r1(1+r2r⋅r0)
となります。
r±=(0,±d/2,0) に ±e が置かれているので
φ(r)=4πε01(∣r−r+∣e−∣r−r−∣e).
設問1の逆数の展開で r⋅r±=±yd/2 を代入すると
φ(r)≃4πε0re[(1+2r2yd)−(1−2r2yd)]=4πε0edr3y.
(d/r)0 の項は全電荷が 0 なので打ち消し、最低次は d/r の1次です。答えは
φ(r)=4πε0edr3y
で、p=ede^y とおけば標準的な双極子ポテンシャル p⋅r/(4πε0r3) に一致します。無限遠で 0 になっており、境界条件をみたします。
p≡ed とおき、E=−∇φ を計算します。∂r/∂xi=xi/r を使って
∂x∂r3y=−r53xy,∂y∂r3y=r31−r53y2,∂z∂r3y=−r53yz
なので
Ex=4πε0pr53xy,Ey=4πε0p(r53y2−r31),Ez=4πε0pr53yz
です(p=ed)。まとめると E=[3(p⋅r^)r^−p]/(4πε0r3) という双極子場の標準形になっています。y 軸上(x=z=0)では E は +y 向きで大きさ 2p/(4πε0r3)、x 軸上では −y 向きで大きさ p/(4πε0r3) という、双極子場の見慣れた値を再現します。
原点の双極子は p1=pe^y、(0,a,0) の双極子は図1(c) より x 軸正方向から角度 θ をなすので
p2=p(cosθ, sinθ, 0),p=ed.
p1 がつくる場を設問3の式で (x,y,z)=(0,a,0)、r=a として評価すると
Ex=0,Ey=4πε0p(a53a2−a31)=4πε0a32p,Ez=0.
したがって
U=−p2⋅E(0,a,0)=−psinθ⋅4πε0a32p=−2πε0a3e2d2sinθ.
答えは U=−2πε0a3e2d2sinθ です。実際の点電荷4個のクーロン相互作用エネルギーを d/a≪1 で展開しても同じ式が得られます。
U は sinθ に負の係数で比例するので、sinθ=1 すなわち
θ=2π
のとき最小になり、最小値は U=−e2d2/(2πε0a3) です。このとき2つの双極子はどちらも +y 向き、つまり両者を結ぶ直線に沿って頭と尾をそろえた配置で、双極子どうしがもっとも強く引き合う向きです。
図2(a) の電荷分布は原点の 2e と (0,±d/2,0) の −e です。全電荷は
q=2e−e−e=0.
双極子モーメントは、x′=z′=0 なので p1=p3=0 であり、y 成分も
p2=2e⋅0+(−e)2d+(−e)(−2d)=0
と消えます。すべての i について pi=0 です。四極子モーメントは、原点の電荷が r′=0 で寄与しないので (0,±d/2,0) の2個だけを足します。この2点では x1′=x3′=0、x2′=±d/2、(r′)2=d2/4 なので、i=j の成分はすべて 0 で、対角成分は
Q11Q22Q33=21⋅2⋅(−e)(0−4d2)=4ed2,=21⋅2⋅(−e)(3⋅4d2−4d2)=−2ed2,=Q11=4ed2.
まとめると
q=0,pi=0,Qij=4ed21000−20001ij.
トレースが Q11+Q22+Q33=0 となっており、定義から要求される無跡性をみたしています。
q=pi=0 なので、多極子展開の第3項だけが残ります。
φ(r)≃4πε0r51(Q11x2+Q22y2+Q33z2)=16πε0ed2r5x2−2y2+z2.
x2+z2=r2−y2 を使えば x2−2y2+z2=r2−3y2 なので、K≡ed2/(16πε0) とおいて
φ(r)=K(r31−r53y2).
E=−∇φ を成分ごとに計算すると
Ex=K(r53x−r715xy2),Ey=K(r59y−r715y3),Ez=K(r53z−r715y2z)
となります(K=ed2/(16πε0))。検算として、y 軸上では φ=−2K/∣y∣3、x 軸上では φ=K/∣x∣3 となり、これは3個の点電荷のクーロンポテンシャルを d の2次まで展開した値と一致します。また ∇⋅E を計算すると、1/r5、y2/r7、y4/r9 の各係数がそれぞれ打ち消してゼロになり、電荷のない領域でのラプラス方程式をみたしています。
原点の四極子は y 軸に沿った向きなので、設問6の
Qij(y)=4ed2diag(1,−2,1)
をもち、その場は設問7で求めたものです。(0,a,0) に置く四極子は、y 軸に沿う場合が Q(y)、x 軸に沿う場合は x と y の役割を入れ替えて
Qij(x)=4ed2diag(−2,1,1)
です。まず場の勾配を (0,a,0) で評価します。設問7の Ei を微分して x=z=0、y=r=a を代入すると、非対角成分は消えて
∂x∂Ex=−a512K,∂y∂Ey=a524K,∂z∂Ez=−a512K
となります。3つの和が 0 で、∇⋅E=0 と整合しています。与えられた公式 U=−31∑i,jQij∂Ej/∂xi は、Q と勾配がともに対角なので3項の和になります。
図2(c1) では Qij=Qij(y) なので
Uc1=−31⋅4a5ed2K[1⋅(−12)+(−2)⋅24+1⋅(−12)]=−31⋅4a5ed2K(−72)=a56ed2K.
K=ed2/(16πε0) を戻して
Uc1=8πε0a53e2d4 (>0).
図2(c2) では Qij=Qij(x) なので
Uc2=−31⋅4a5ed2K[(−2)⋅(−12)+1⋅24+1⋅(−12)]=−31⋅4a5ed2K⋅36=−a53ed2K,
すなわち
Uc2=−16πε0a53e2d4 (<0).
Uc1=−2Uc2>0>Uc2 なので、静電エネルギーが小さいのは図2(c2) の系、つまり2つの四極子の向きが直交している配置です。検算として、点電荷6個のクーロンエネルギーを直接 d/a で展開すると、(d/a)0 から (d/a)3 までの項がすべて打ち消し、(c1) では +4πε0e22a53d4、(c2) では −4πε0e24a53d4 が残って上の2式に一致します。
前半は 0<b<a、n を正の整数として
I=∫02πa+bcosθcos(nθ)dθ
を単位円上の複素積分に直して評価します。後半は正方行列の指数関数 eX=∑k≥0Xk/k! について、相似変換との交換関係を示し、与えられた 4×4 行列 A を対角化して eitA を求めます。
(a) オイラーの公式 eiθ=cosθ+isinθ の実部と虚部を比べて
x=cosθ,y=sinθ.
θ が実数なので x2+y2=1、すなわち eiθ は単位円上を動きます。
(b) z=eiθ とおくと dz=ieiθdθ=izdθ より dθ=dz/(iz) です。また
cosθ=2z+z−1,cos(nθ)=2zn+z−n
なので
I=∮Ca+2b(z+z−1)(zn+z−n)/2⋅izdz=∮Ciz(2a+bz+bz−1)zn+z−ndz.
分母を iz(2a+bz+bz−1)=i(bz2+2az+b) と整理し、分子を zn+z−n=(z2n+1)/zn と書き直すと
f(z)=izn(bz2+2az+b)z2n+1.
積分経路 C は、θ が 0 から 2π まで動くときの z=eiθ の軌跡です。図示すると、複素平面の原点を中心とする半径 1 の円(単位円)を、θ の増加に伴って反時計回りに 1 周する閉曲線です。始点と終点はともに z=1 で、向きは正の向き(内部を左に見る向き)です。
(c) 分母の因子を順に見ます。zn は z=0 を n 位の零点にしますが、分子は z=0 で 1 なので z=0 は f(z) の n 位の極です。次に bz2+2az+b=0 を解くと
z=b−a±a2−b2≡α±
で、0<b<a より a2−b2 は実数、しかも 0<a2−b2<a なので α± はどちらも負の実数です。2解の積は α+α−=b/b=1 なので ∣α+∣∣α−∣=1 です。ここで
∣α+∣=ba−a2−b2<1⟺a−b<(a−b)(a+b)⟺a−b<a+b
が b>0 から成り立つので、α+ は単位円の内側、α− は外側にあります。したがって経路 C の内部にある極は
z=0,z=α+=b−a+a2−b2
の2つです。前者は n 位の極で、後者は α+=α− なので1位(単純)の極です。
(d) s≡a2−b2、α≡α+ と略記します。n=2 のとき f(z)=iz2(bz2+2az+b)z4+1 です。
z=α での留数は、bz2+2az+b=b(z−α+)(z−α−) と b(α+−α−)=2s を使って
z=αResf=iα2⋅b(α+−α−)α4+1=2isα2+α−2.
α−1=α− なので α+α−1=α++α−=−2a/b であり、α2+α−2=(α+α−1)2−2=4a2/b2−2 です。よって
z=αResf=2is1(b24a2−2)=ib2s2a2−b2.
z=0 は2位の極なので
z=0Resf=z→0limdzd[i(bz2+2az+b)z4+1]=i1⋅b20−1⋅2a=−ib22a.
留数定理より
I=2πi(−ib22a+ib2s2a2−b2)=b22π(s2a2−b2−2a)=b22π⋅sa2+s2−2as
となり(2a2−b2=a2+s2 を使いました)、答えは
I=b2a2−b22π(a−a2−b2)2
です。a>b>0 なので I>0 です。重み 1/(a+bcosθ) は θ=π 付近で最大になり、そこで cos2θ>0 なので、符号は自然です。同じ計算を一般の n で行うと I=a2−b22π(b−a+a2−b2)n が得られ、n=0 で既知の 2π/a2−b2 に帰着します。b→0 の極限では I→0 となり、∫02πcos2θdθ/a=0 と一致します。
(a) まず (VXV−1)k=VXkV−1 を k についての帰納法で示します。k=0 のとき両辺は I=VIV−1 で成立します。k で成立すると仮定すると
(VXV−1)k+1=(VXkV−1)(VXV−1)=VXk(V−1V)XV−1=VXk+1V−1
となり、k+1 でも成立します。次に、有限和については行列の積の分配則から
k=0∑Mk!1(VXV−1)k=k=0∑Mk!1VXkV−1=V(k=0∑Mk!Xk)V−1
が成り立ちます。指数関数の級数は任意の正方行列について絶対収束し、Y↦VYV−1 は行列の成分について線形(したがって連続)な写像なので、M→∞ の極限と交換できます。よって
eVXV−1=M→∞limV(k=0∑Mk!Xk)V−1=VeXV−1
が示されました。
(b) A は第2成分と第3成分が他と混ざらないので、{e1,e4} の張る2次元部分空間と e2、e3 に分解して考えられます。e2 上では A は 1 倍、e3 上では −1 倍です。{e1,e4} 上での A の表現は
21(11−11)=(cos4πsin4π−sin4πcos4π)
で、角 π/4 の回転行列です。実際、特性多項式は
det(A−λI)=(1−λ)(−1−λ)(λ2−2λ+1)
となり、最後の因子の根は λ=(1±i)/2=e±iπ/4 です。回転行列 R(ϕ) の固有ベクトルは (1,∓i)T(固有値 e±iϕ)なので、規格化して並べると
λλλλ=eiπ/4=21+i:=e−iπ/4=21−i:=1:=−1:v1v2v3v4=21(1,0,0,−i)T,=21(1,0,0,i)T,=(0,1,0,0)T,=(0,0,1,0)T
が答えです。v1 を代入して確かめると、Av1 の第1成分は 21⋅1+(−21)⋅(−i)=21+i、第4成分は 21⋅1+21⋅(−i)=21−i=eiπ/4⋅(−i) となり、確かに固有値 eiπ/4 の固有ベクトルです。A は実直交行列(ATA=I)なので固有値の絶対値がすべて 1 であることも整合しています。
(c) 固有ベクトルを列に並べた行列と、対応する固有値を並べた対角行列をとればよいので
U=21100−i100i02000020,D=eiπ/40000e−iπ/4000010000−1
です。v1,…,v4 は互いに直交し規格化されているので U†U=I、すなわち U はユニタリーで U−1=U† です。実際に UDU† を計算すると A に戻ります。固有ベクトルの並べ方(および各ベクトルの位相)には任意性があり、対応する D の並びを合わせれば他の選び方でも構いません。
(d) 設問2(a) を V=U、X=itD に適用すると eitA=eU(itD)U−1=UeitDU−1 です。D は対角なので
eitD=diag(eiteiπ/4, eite−iπ/4, eit, e−it)=diag(e(i−1)t/2, e(i+1)t/2, eit, e−it)
となります。U を掛けて整理すると、{e1,e4} の成分では
2e(i−1)t/2+e(i+1)t/2=eit/2cosh2t,2e(i−1)t/2−e(i+1)t/2=−eit/2sinh2t
の組み合わせが現れ、結果は
eitA=eit/2cosh(t/2)00ieit/2sinh(t/2)0eit0000e−it0−ieit/2sinh(t/2)00eit/2cosh(t/2)
です。t=0 で単位行列になり、t で微分して t=0 とすると各成分が iA の対応する成分(i/2、−i/2、i、−i など)に一致するので、定義と整合しています。A は直交行列ですが対称ではないため iA は反エルミートではなく、eitA もユニタリーではありません。実際 cosh(t/2) が ∣t∣→∞ で発散します。なお {e1,e4} 部分空間では A=cos4πI2+sin4πJ(J2=−I2)と書けるので、eitA=eit/2(cosh2tI2+isinh2tJ) として直接導くこともできます。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 令和5年度 修士課程 入学試験問題 専門科目。問題文は要約して引用しています。
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