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コーシーの積分定理と積分公式:正則関数の値は周囲の積分だけで決まる

Prerequisite:Holomorphic Functions and the Cauchy-Riemann Equations: Why Complex Differentiability Is So Strong

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  • 複素線積分 γf(z)dz\int_\gamma f(z)\,dz は、曲線のパラメータ表示を使って実 1 変数の積分に翻訳することで定義します。値はパラメータの取り替えでは変わらず、曲線の向きを逆にすると符号だけが変わります。
  • 原始関数 FFF=fF' = f)をもつ関数の積分は端点の値の差 F(終点)F(始点)F(\text{終点}) - F(\text{始点}) だけで決まり、閉じた道の上では 00 になります。逆に z=1dzz=2πi0\oint_{|z|=1}\frac{dz}{z} = 2\pi i \ne 0 という計算は、1/z1/z が原点を除いた平面全体では原始関数をもたないことの証明になります。
  • コーシーの積分定理:穴のない領域で正則な関数は、その中の任意の閉じた道の上で積分すると 00 になります。導関数 ff' が連続だという余分な仮定を置けば、グリーンの定理とコーシー・リーマンの関係式から数行で従います。
  • グルサの定理により、この「ff' が連続」という仮定は不要です。「各点で 1 回複素微分できる」という最小限の仮定だけから定理が出るという事実が、複素関数論の骨格を決めています。
  • コーシーの積分公式 f(a)=12πiCf(z)zadzf(a) = \dfrac{1}{2\pi i}\oint_C \dfrac{f(z)}{z-a}\,dz:円周上の値だけで内部の値がすべて決まります。実関数ではありえない剛性で、これ以降の理論(無限回微分可能性、一致の定理、留数定理)はすべてこの一つの式から流れ出します。

1. 動機:積分は道に依存するか

Section titled “1. 動機:積分は道に依存するか”

実 1 変数の積分 abf(x)dx\int_a^b f(x)\,dx には「道」という概念がありません。aa から bb へ行く道は実軸上に一本しかないからです。ところが複素平面では、aa から bb へ行く道は無数にあります。円弧を通っても、折れ線を通っても、大きく回り道をしてもよい。そこで、複素平面上の曲線 γ\gamma に沿った積分 γf(z)dz\int_\gamma f(z)\,dz を定義したとたん、次の素朴な疑問が生じます。

始点と終点を固定したとき、積分の値は途中の道の取り方に依存するのか。

答えは「関数による」です。f(z)=zˉf(z) = \bar{z} のように正則でない関数では、道を変えると値が変わります(Example 2.6 で実際に計算します)。しかし ff が正則ならば、しかも領域に「穴」がなければ、値は道によらない。これがコーシーの積分定理です。同じことを閉じた道の言葉で言い換えると「正則関数を閉曲線に沿って一周積分すると 00」となります。

この事実は 19 世紀前半に発見されました。ガウスは 1811 年のベッセル宛の手紙で、複素積分が道によらないことをすでに述べています。オーギュスタン・コーシーは 1825 年の論文「虚の限界の間でとった定積分について」で、この定理を長方形の周に沿った積分として定式化しました。当時の証明は現代の目で見ると導関数の連続性を暗黙に使っており、この仮定が本当に不要であることをエドゥアール・グルサが示すのは 1900 年前後のことです。

コーシーの積分定理そのものは「00 になる」という消極的な主張に見えます。しかし、そこから一歩進めて被積分関数を f(z)za\frac{f(z)}{z-a} に取り替えると、劇的な帰結が現れます。閉曲線 CC の内部の一点 aa における値 f(a)f(a) が、CC 上の値だけを使った積分で書けてしまうのです。実関数では考えられないことです。実際、区間 [0,1][0,1] 上の CC^\infty 級関数は、両端 f(0),f(1)f(0), f(1) の値を固定しても中身をいくらでも自由に動かせます。正則関数はそれができない。この「硬さ」こそが複素関数論の主役で、本章はその源泉を作る章です。

flowchart TD
A["f が D 上で正則"] --> B["グルサの定理: 三角形の周上で積分が 0"]
A --> C["グリーンの定理 + コーシー・リーマンの関係式"]
B --> D["凸領域で原始関数が存在"]
C --> E["コーシーの積分定理"]
D --> E
E --> F["積分路の変形定理"]
F --> G["コーシーの積分公式"]
G --> H["平均値の性質"]
G --> I["高階導関数の公式・一致の定理・留数定理(次章以降)"]
本章で組み上げる論理の流れ

まず積分する「道」を定義します。折れ線や円弧のように、有限個の角があってもよいことにしておくと後で便利です。

Definition 2.1区分的に滑らかな道

閉区間 [a,b]R[a,b] \subset \mathbb{R} 上の連続写像 γ:[a,b]C\gamma : [a,b] \to \mathbb{C}区分的に滑らかな道であるとは、分点 a=t0<t1<<tn=ba = t_0 < t_1 < \cdots < t_n = b が存在して、各小区間 [tk1,tk][t_{k-1}, t_k] 上で γ\gammaC1C^1 級(導関数 γ\gamma' が存在して連続。端点では片側微分)であることをいう。

γ:=γ([a,b])\gamma^{*} := \gamma([a,b]) を道のγ(a)\gamma(a)始点γ(b)\gamma(b)終点と呼ぶ。γ(a)=γ(b)\gamma(a) = \gamma(b) のとき γ\gamma閉道という。さらに γ[a,b)\gamma|_{[a,b)} が単射である閉道を単純閉曲線(ジョルダン閉曲線)という。

道の長さL(γ):=abγ(t)dtL(\gamma) := \int_a^b |\gamma'(t)|\,dt で定める。

たとえば中心 aa、半径 rr の円周を反時計回りに 1 周する道は γ(t)=a+reit\gamma(t) = a + re^{it}t[0,2π]t \in [0, 2\pi])で、γ(t)=ireit\gamma'(t) = ire^{it}L(γ)=02πrdt=2πrL(\gamma) = \int_0^{2\pi} r\,dt = 2\pi r です。これは以後 za=r|z - a| = r と略記します(断りがなければ反時計回り、すなわち正の向きとします)。2 点 p,qp, q を結ぶ線分は γ(t)=(1t)p+tq\gamma(t) = (1-t)p + tqt[0,1]t\in[0,1])で、これを [p,q][p,q] と書きます。

複素数値関数を実変数で積分するときは、実部と虚部に分けて考えます。すなわち連続な g:[a,b]Cg:[a,b]\to\mathbb{C} に対し

abg(t)dt:=abReg(t)dt+iabImg(t)dt\int_a^b g(t)\,dt := \int_a^b \operatorname{Re} g(t)\,dt + i\int_a^b \operatorname{Im} g(t)\,dt

と定めます。右辺は実 1 変数の定積分で、積分の基本定理と定積分Definition 3.1[積分の基本定理と定積分] で扱ったものです。

Definition 2.2複素線積分

γ:[a,b]C\gamma:[a,b]\to\mathbb{C} を区分的に滑らかな道、ffγ\gamma^{*} を含む集合上で定義された連続な複素数値関数とする。ffγ\gamma に沿う複素線積分

γf(z)dz:=abf(γ(t))γ(t)dt\int_\gamma f(z)\,dz := \int_a^b f(\gamma(t))\,\gamma'(t)\,dt

で定める。γ\gamma が閉道のときは γf(z)dz\oint_\gamma f(z)\,dz とも書く。また

γf(z)dz:=abf(γ(t))γ(t)dt\int_\gamma f(z)\,|dz| := \int_a^b f(\gamma(t))\,|\gamma'(t)|\,dt

弧長に関する積分という。

右辺の被積分関数 f(γ(t))γ(t)f(\gamma(t))\gamma'(t) は各小区間で連続なので、分点ごとの積分の和として定積分が定まります。定義の心は単純で、「z=γ(t)z = \gamma(t) と置換すると dz=γ(t)dtdz = \gamma'(t)\,dt」という形式的な計算をそのまま定義にしただけです。

Proposition 2.3複素線積分の基本性質

γ:[a,b]C\gamma:[a,b]\to\mathbb{C} を区分的に滑らかな道、f,gf, gγ\gamma^{*} 上連続な複素数値関数、α,βC\alpha,\beta\in\mathbb{C} とする。

  1. (線形性)γ(αf+βg)dz=αγfdz+βγgdz\displaystyle\int_\gamma (\alpha f + \beta g)\,dz = \alpha\int_\gamma f\,dz + \beta\int_\gamma g\,dz
  2. (向きの反転)(γ)(t):=γ(a+bt)(-\gamma)(t) := \gamma(a + b - t)t[a,b]t\in[a,b])と定めると、γfdz=γfdz\displaystyle\int_{-\gamma} f\,dz = -\int_\gamma f\,dz
  3. (道の連結)γ\gamma の終点と道 σ\sigma の始点が一致するとき、γ\gamma に続けて σ\sigma を進む道を γ+σ\gamma + \sigma と書けば γ+σfdz=γfdz+σfdz\displaystyle\int_{\gamma+\sigma} f\,dz = \int_\gamma f\,dz + \int_\sigma f\,dz
  4. (パラメータ変換不変性)φ:[c,d][a,b]\varphi:[c,d]\to[a,b]C1C^1 級の全単射で φ>0\varphi' > 0φ(c)=a\varphi(c) = aφ(d)=b\varphi(d) = b ならば γφfdz=γfdz\displaystyle\int_{\gamma\circ\varphi} f\,dz = \int_\gamma f\,dz
Proof(Proposition 2.3)

(1) は Definition 2.2 の右辺が実 1 変数の定積分であり、実部・虚部それぞれで積分の線形性が成り立つことから直ちに従います。

(2) 連鎖律より (γ)(t)=γ(a+bt)(-\gamma)'(t) = -\gamma'(a+b-t) なので

γfdz=abf(γ(a+bt))(γ(a+bt))dt.\int_{-\gamma} f\,dz = \int_a^b f(\gamma(a+b-t))\bigl(-\gamma'(a+b-t)\bigr)\,dt .

s=a+bts = a + b - t と置換すると ds=dtds = -dtt=at = a のとき s=bs = bt=bt = b のとき s=as = a ですから

=baf(γ(s))(γ(s))(ds)=baf(γ(s))γ(s)ds=γfdz.= \int_b^a f(\gamma(s))\bigl(-\gamma'(s)\bigr)(-ds) = \int_b^a f(\gamma(s))\gamma'(s)\,ds = -\int_\gamma f\,dz .

(3) は定積分の区間加法性そのものです。γ+σ\gamma + \sigma のパラメータ区間を γ\gamma の分と σ\sigma の分に分ければ、それぞれの積分になります。

(4) 連鎖律より (γφ)(u)=γ(φ(u))φ(u)(\gamma\circ\varphi)'(u) = \gamma'(\varphi(u))\varphi'(u) なので

γφfdz=cdf(γ(φ(u)))γ(φ(u))φ(u)du.\int_{\gamma\circ\varphi} f\,dz = \int_c^d f(\gamma(\varphi(u)))\,\gamma'(\varphi(u))\,\varphi'(u)\,du .

t=φ(u)t = \varphi(u) と置換すれば dt=φ(u)dudt = \varphi'(u)\,du で、φ\varphi[c,d][c,d] から [a,b][a,b] への増加全単射だから積分区間は [a,b][a,b] に移り、右辺は abf(γ(t))γ(t)dt\int_a^b f(\gamma(t))\gamma'(t)\,dt に等しくなります。

(4) は「線積分は道の跡と向きだけで決まり、どんな速さで走るかにはよらない」という当たり前であってほしい性質で、これがあるので円周を γ(t)=eit\gamma(t) = e^{it} と表そうと γ(t)=e2it\gamma(t) = e^{2it}t[0,π]t\in[0,\pi])と表そうと結果は同じです。

次の不等式は本章で最も頻繁に使う道具です。値そのものは分からなくても、大きさの上からの評価はいつでも書ける、というのが利点です。

Lemma 2.4ML 不等式

γ\gamma を区分的に滑らかな道、ffγ\gamma^{*} 上連続とする。このとき

γf(z)dzγf(z)dzML(γ),M:=supzγf(z).\left|\int_\gamma f(z)\,dz\right| \le \int_\gamma |f(z)|\,|dz| \le M\,L(\gamma), \qquad M := \sup_{z\in\gamma^{*}} |f(z)| .
Proof(Lemma 2.4)

まず複素数値関数 g:[a,b]Cg:[a,b]\to\mathbb{C}(連続)に対して abgdtabgdt\bigl|\int_a^b g\,dt\bigr| \le \int_a^b |g|\,dt を示します。I:=abg(t)dtI := \int_a^b g(t)\,dt とおく。I=0I = 0 のときは左辺が 00、右辺 abgdt\int_a^b|g|\,dt は非負値関数の積分だから 00 以上で、不等式は成り立ちます。そこで I0I \ne 0 とし、I=IeiθI = |I|e^{i\theta}θR\theta\in\mathbb{R})と極形式に書きます。すると

I=eiθI=abeiθg(t)dt.|I| = e^{-i\theta} I = \int_a^b e^{-i\theta} g(t)\,dt .

左辺は実数なので、右辺の虚部は 00 であり、右辺は実部だけを取ったものに等しい。すなわち

I=abRe(eiθg(t))dtabeiθg(t)dt=abg(t)dt.|I| = \int_a^b \operatorname{Re}\bigl(e^{-i\theta}g(t)\bigr)\,dt \le \int_a^b \bigl|e^{-i\theta}g(t)\bigr|\,dt = \int_a^b |g(t)|\,dt .

途中で実数値関数に対する不等式 Reww\operatorname{Re} w \le |w| と定積分の単調性を使いました。

これを g(t)=f(γ(t))γ(t)g(t) = f(\gamma(t))\gamma'(t) に適用すると

γfdzabf(γ(t))γ(t)dt=γfdz.\left|\int_\gamma f\,dz\right| \le \int_a^b |f(\gamma(t))|\,|\gamma'(t)|\,dt = \int_\gamma |f|\,|dz| .

さらに f(γ(t))M|f(\gamma(t))| \le M を使えば、右辺は Mabγ(t)dt=ML(γ)M\int_a^b|\gamma'(t)|\,dt = M L(\gamma) 以下です。

次の計算は本章のすべての土台になります。値が n=1n = -1 のときだけ 00 でなくなること、しかもその値が半径 rr にも中心 aa にもよらないことに注目してください。

Example 2.5べき関数の円周上の積分

aCa\in\mathbb{C}r>0r > 0nZn\in\mathbb{Z} とする。円 za=r|z - a| = r(正の向き)に沿って (za)n(z-a)^n を積分します。γ(t)=a+reit\gamma(t) = a + re^{it}t[0,2π]t\in[0,2\pi])、γ(t)=ireit\gamma'(t) = ire^{it} なので

za=r(za)ndz=02π(reit)nireitdt=irn+102πei(n+1)tdt.\oint_{|z-a|=r} (z-a)^n\,dz = \int_0^{2\pi} \bigl(re^{it}\bigr)^n \cdot ire^{it}\,dt = i\,r^{n+1}\int_0^{2\pi} e^{i(n+1)t}\,dt .

n1n \ne -1 のときは n+10n + 1 \ne 0 なので、ddtei(n+1)ti(n+1)=ei(n+1)t\frac{d}{dt}\frac{e^{i(n+1)t}}{i(n+1)} = e^{i(n+1)t} より

02πei(n+1)tdt=[ei(n+1)ti(n+1)]02π=e2πi(n+1)1i(n+1)=0.\int_0^{2\pi} e^{i(n+1)t}\,dt = \left[\frac{e^{i(n+1)t}}{i(n+1)}\right]_0^{2\pi} = \frac{e^{2\pi i (n+1)} - 1}{i(n+1)} = 0 .

最後は n+1n+1 が整数だから e2πi(n+1)=1e^{2\pi i(n+1)} = 1 であることによります。

n=1n = -1 のときは rn+1=r0=1r^{n+1} = r^0 = 1ei(n+1)t=1e^{i(n+1)t} = 1 なので

za=rdzza=i02π1dt=2πi.\oint_{|z-a|=r} \frac{dz}{z-a} = i\int_0^{2\pi} 1\,dt = 2\pi i .

まとめると

za=r(za)ndz={2πi,n=1,0,nZ, n1.\oint_{|z-a|=r} (z-a)^n\,dz = \begin{cases} 2\pi i, & n = -1,\\ 0, & n \in \mathbb{Z},\ n \ne -1. \end{cases}

Example 2.6道に依存する積分・しない積分

00 から 1+i1+i へ向かう 2 つの道を取ります。

  • γ1\gamma_1:線分 [0,1+i][0, 1+i]、すなわち γ1(t)=t(1+i)\gamma_1(t) = t(1+i)γ1(t)=1+i\gamma_1'(t) = 1 + it[0,1]t\in[0,1])。
  • γ2\gamma_2:線分 [0,1][0,1] に続けて線分 [1,1+i][1, 1+i]。前半は σ(t)=t\sigma(t) = tσ(t)=1\sigma'(t) = 1、後半は τ(t)=1+it\tau(t) = 1 + itτ(t)=i\tau'(t) = i(ともに t[0,1]t\in[0,1])。

まず f(z)=zˉf(z) = \bar{z} γ1\gamma_1 上では γ1(t)=t(1i)\overline{\gamma_1(t)} = t(1-i) なので

γ1zˉdz=01t(1i)(1+i)dt=(1i)(1+i)01tdt=212=1.\int_{\gamma_1} \bar{z}\,dz = \int_0^1 t(1-i)(1+i)\,dt = (1-i)(1+i)\int_0^1 t\,dt = 2\cdot\frac12 = 1 .

γ2\gamma_2 上では、Proposition 2.3 (3) より 2 本の線分の和として

σzˉdz=01t1dt=12,τzˉdz=01(1it)idt=i01dt+01tdt=i+12\int_\sigma \bar{z}\,dz = \int_0^1 t\cdot 1\,dt = \frac12,\qquad \int_\tau \bar{z}\,dz = \int_0^1 (1 - it)\,i\,dt = i\int_0^1 dt + \int_0^1 t\,dt = i + \frac12

(it)i=i2t=t(-it)\cdot i = -i^2 t = t を使いました)。合わせて γ2zˉdz=12+i+12=1+i\int_{\gamma_2}\bar z\,dz = \frac12 + i + \frac12 = 1 + i

11+i1 \ne 1+i ですから、zˉ\bar{z} の積分は道に依存します

次に f(z)=zf(z) = z 同じ計算をすると

γ1zdz=01t(1+i)(1+i)dt=(1+i)22=2i2=i,\int_{\gamma_1} z\,dz = \int_0^1 t(1+i)\cdot(1+i)\,dt = \frac{(1+i)^2}{2} = \frac{2i}{2} = i,σzdz=01tdt=12,τzdz=01(1+it)idt=i+i201tdt=i12,\int_\sigma z\,dz = \int_0^1 t\,dt = \frac12,\qquad \int_\tau z\,dz = \int_0^1 (1+it)\,i\,dt = i + i^2\int_0^1 t\,dt = i - \frac12 ,

なので γ2zdz=12+i12=i\int_{\gamma_2} z\,dz = \frac12 + i - \frac12 = i。今度は一致しました。

zz は正則、zˉ\bar{z} はコーシー・リーマンの関係式を満たさないのでどこでも正則でない(Example 4.3[Holomorphic Functions and the Cauchy-Riemann Equations])。この差が結果の差に現れています。

なぜ zz の積分は道によらなかったのか。理由は単純で、zz には原始関数 z2/2z^2/2 があるからです。実 1 変数の微積分の基本定理が、そのまま複素線積分でも成り立ちます。

Definition 3.1原始関数

DCD\subset\mathbb{C} を領域(空でない連結開集合)、f:DCf:D\to\mathbb{C} を連続関数とする。DD 上の正則関数 FFF(z)=f(z)F'(z) = f(z)zDz\in D)を満たすものを、ffDD 上の原始関数という。

Theorem 3.2複素線積分に対する微積分の基本定理

DCD\subset\mathbb{C} を領域、f:DCf:D\to\mathbb{C} を連続関数とし、ffDD 上に原始関数 FF をもつとする。このとき DD 内の任意の区分的に滑らかな道 γ:[a,b]D\gamma:[a,b]\to D に対して

γf(z)dz=F(γ(b))F(γ(a))\int_\gamma f(z)\,dz = F(\gamma(b)) - F(\gamma(a))

が成り立つ。とくに γ\gamma が閉道(γ(a)=γ(b)\gamma(a) = \gamma(b))ならば γf(z)dz=0\displaystyle\int_\gamma f(z)\,dz = 0 であり、積分の値は始点と終点だけで決まって途中の道によらない。

Proof(Theorem 3.2)

まず γ\gamma[a,b][a,b] 全体で C1C^1 級の場合を示し、後で分点のある場合に拡張します。

h(t):=F(γ(t))h(t) := F(\gamma(t))t[a,b]t\in[a,b])とおき、hh が微分可能で h(t)=f(γ(t))γ(t)h'(t) = f(\gamma(t))\gamma'(t) となることを確かめます。t0[a,b]t_0\in[a,b] を固定し、w0:=γ(t0)w_0 := \gamma(t_0) とおきます。FFw0w_0 で複素微分可能なので、

Φ(w):={F(w)F(w0)ww0,wD, ww0,F(w0),w=w0\Phi(w) := \begin{cases} \dfrac{F(w) - F(w_0)}{w - w_0}, & w \in D,\ w \ne w_0,\\[2mm] F'(w_0), & w = w_0 \end{cases}

と定めると Φ\Phiw0w_0 で連続です(これが複素微分可能性の定義そのものです)。しかもすべての wDw\in D に対して等式

F(w)F(w0)=Φ(w)(ww0)F(w) - F(w_0) = \Phi(w)\,(w - w_0)

が成り立ちます(w=w0w = w_0 のときは両辺 00)。w=γ(t)w = \gamma(t) を代入して tt0t - t_0 で割ると

h(t)h(t0)tt0=Φ(γ(t))γ(t)γ(t0)tt0.\frac{h(t) - h(t_0)}{t - t_0} = \Phi(\gamma(t))\cdot\frac{\gamma(t)-\gamma(t_0)}{t-t_0} .

tt0t\to t_0 とすると、γ\gamma の連続性と Φ\Phiw0w_0 での連続性から第 1 因子は Φ(w0)=F(w0)=f(γ(t0))\Phi(w_0) = F'(w_0) = f(\gamma(t_0)) に収束し、第 2 因子は γ(t0)\gamma'(t_0) に収束します。よって

h(t0)=f(γ(t0))γ(t0).h'(t_0) = f(\gamma(t_0))\,\gamma'(t_0) .

ffγ\gammaγ\gamma' が連続なので hh'[a,b][a,b] 上連続です。したがって実部・虚部それぞれに実 1 変数の微積分の基本定理(ニュートン–ライプニッツの公式(Theorem 5.4)[積分の基本定理と定積分])を適用でき、

γf(z)dz=abh(t)dt=h(b)h(a)=F(γ(b))F(γ(a)).\int_\gamma f(z)\,dz = \int_a^b h'(t)\,dt = h(b) - h(a) = F(\gamma(b)) - F(\gamma(a)) .

一般の区分的に滑らかな道の場合は、分点 a=t0<<tn=ba = t_0 < \cdots < t_n = b に対して各 [tk1,tk][t_{k-1},t_k] 上で上の結果を使い、Proposition 2.3 (3) で足し合わせます。すると

γfdz=k=1n(F(γ(tk))F(γ(tk1)))=F(γ(b))F(γ(a))\int_\gamma f\,dz = \sum_{k=1}^n \bigl(F(\gamma(t_k)) - F(\gamma(t_{k-1}))\bigr) = F(\gamma(b)) - F(\gamma(a))

と、途中の項が打ち消し合って(望遠鏡和)結論を得ます。

閉道なら γ(b)=γ(a)\gamma(b) = \gamma(a) なので右辺は 00 です。また 2 つの道 γ,γ~\gamma, \tilde\gamma が同じ始点・終点をもつなら、どちらの積分も F(終点)F(始点)F(\text{終点}) - F(\text{始点}) に等しいので一致します。

Example 2.6 の後半はこの定理の実例です。F(z)=z2/2F(z) = z^2/2C\mathbb{C} 上正則で F(z)=zF'(z) = z ですから、γzdz=(1+i)220=i\int_\gamma z\,dz = \frac{(1+i)^2}{2} - 0 = i が道によらず得られます。

逆向きに読むと、この定理は「原始関数が存在しないこと」を示す道具にもなります。

Corollary 3.31/z は穴あき平面上に原始関数をもたない

D:=C{0}D := \mathbb{C}\setminus\{0\} 上の正則関数 FF で、すべての zDz\in D に対して F(z)=1/zF'(z) = 1/z となるものは存在しない。

Proof(Corollary 3.3)

そのような FF が存在したとします。1/z1/zDD 上連続なので Theorem 3.2 が使え、DD 内の閉道である単位円 z=1|z| = 1 に沿った積分は 00 でなければなりません。ところが Example 2.5a=0a = 0r=1r = 1n=1n = -1 の場合)により

z=1dzz=2πi0\oint_{|z|=1}\frac{dz}{z} = 2\pi i \ne 0

です。矛盾します。

Remark 3.4

これは「複素対数関数 logz\log zC{0}\mathbb{C}\setminus\{0\} 全体では一価に定義できない」という事実の、積分による言い換えです。原点のまわりを 1 周すると偏角が 2π2\pi だけ増えてしまい、log\log の値が元に戻らない。その「ずれ」がちょうど dz/z=2πi\oint dz/z = 2\pi i として現れています。

一方、負の実軸を除いた領域 C(,0]\mathbb{C}\setminus(-\infty, 0] の上では主枝 Logz=lnz+iArgz\operatorname{Log} z = \ln|z| + i\operatorname{Arg} zπ<Argz<π-\pi < \operatorname{Arg} z < \pi)が正則で (Logz)=1/z(\operatorname{Log} z)' = 1/z となり(Theorem 6.9[Holomorphic Functions and the Cauchy-Riemann Equations])、原始関数が存在します。切れ込みを入れて「原点のまわりを回れなくする」と問題が消えるわけです。この観察が、次節の単連結性という条件の正体です。

Definition 4.1単連結領域

領域 DCD\subset\mathbb{C}単連結であるとは、DD 内の任意の閉道が DD の中で連続的に 1 点に縮められること、すなわち任意の閉道 γ:[0,1]D\gamma:[0,1]\to D に対して連続写像 H:[0,1]×[0,1]DH:[0,1]\times[0,1]\to D と点 pDp\in D が存在して

H(s,0)=γ(s),H(s,1)=p,H(0,u)=H(1,u)  (すべての s,u[0,1])H(s,0) = \gamma(s),\quad H(s,1) = p,\quad H(0,u) = H(1,u)\ \ (\text{すべての } s, u \in [0,1])

を満たすことをいう。直観的には「DD に穴が開いていない」ということである。

円板、長方形、凸領域、星形領域、半平面、複素平面全体はすべて単連結です。一方、穴あき平面 C{0}\mathbb{C}\setminus\{0\} や円環 {1<z<2}\{1 < |z| < 2\} は単連結ではありません。Corollary 3.3 は、まさに単連結でない領域で起こる現象でした。

ここでは実 2 変数のグリーンの定理を認めて、コーシーの積分定理を導きます。証明の見通しが非常によいのが利点で、代償として「ff' が連続」という余分な仮定が必要になります(§4.4 でこれを外します)。

グリーンの定理(復習) ΩR2\Omega\subset\mathbb{R}^2 を有界領域で、その境界 Ω\partial\Omega が有限個の互いに交わらない区分的に滑らかな単純閉曲線からなるとする。実数値関数 P,QP, QΩ\overline{\Omega} を含むある開集合上で C1C^1 級ならば

Ω(Pdx+Qdy)=Ω(QxPy)dxdy\oint_{\partial\Omega} \bigl(P\,dx + Q\,dy\bigr) = \iint_\Omega \left(\frac{\partial Q}{\partial x} - \frac{\partial P}{\partial y}\right)dx\,dy

が成り立つ。ここで Ω\partial\Omega には正の向き(領域を左手に見ながら進む向き。外側の境界は反時計回り、内側の穴の境界は時計回り)を入れる。累次積分による証明は 重積分と累次積分 の技法、とくに 縦線集合上の累次積分(Theorem 5.4)[重積分と累次積分] に基づきます。

これを複素線積分の言葉に翻訳します。

Lemma 4.2複素線積分に対するグリーンの公式

ΩC\Omega\subset\mathbb{C} を有界領域で、境界 Ω\partial\Omega が有限個の区分的に滑らかな単純閉曲線からなるとする。f=u+ivf = u + ivu,vu,v は実数値)が Ω\overline{\Omega} を含むある開集合上で定義され、u,vu, vC1C^1 級であるとする。Ω\partial\Omega を正の向きに取れば

Ωf(z)dz=iΩ[(uxvy)+i(vx+uy)]dxdy.\oint_{\partial\Omega} f(z)\,dz = i\iint_\Omega \Bigl[\bigl(u_x - v_y\bigr) + i\bigl(v_x + u_y\bigr)\Bigr]\,dx\,dy .
Proof(Lemma 4.2)

道を γ(t)=x(t)+iy(t)\gamma(t) = x(t) + iy(t) と成分表示すると γ(t)=x(t)+iy(t)\gamma'(t) = x'(t) + iy'(t) なので、Definition 2.2 の被積分関数は

f(γ(t))γ(t)=(u+iv)(x+iy)=(uxvy)+i(vx+uy)f(\gamma(t))\gamma'(t) = (u + iv)(x' + iy') = \bigl(ux' - vy'\bigr) + i\bigl(vx' + uy'\bigr)

となります(u,vu, vγ(t)\gamma(t) での値)。tt で積分すると、これはまさに実の線積分の定義そのもので

Ωfdz=Ω(udxvdy)+iΩ(vdx+udy)\oint_{\partial\Omega} f\,dz = \oint_{\partial\Omega}\bigl(u\,dx - v\,dy\bigr) + i\oint_{\partial\Omega}\bigl(v\,dx + u\,dy\bigr)

が得られます。第 1 項にグリーンの定理を P=uP = uQ=vQ = -v として、第 2 項に P=vP = vQ=uQ = u として適用すると

Ωfdz=Ω(vxuy)dxdy+iΩ(uxvy)dxdy.\oint_{\partial\Omega} f\,dz = \iint_\Omega \bigl(-v_x - u_y\bigr)\,dx\,dy + i\iint_\Omega\bigl(u_x - v_y\bigr)\,dx\,dy .

右辺を ii でくくると

=iΩ[(uxvy)+i(vx+uy)]dxdy= i\iint_\Omega \Bigl[\bigl(u_x - v_y\bigr) + i\bigl(v_x + u_y\bigr)\Bigr]dx\,dy

となり(ii(vx+uy)=(vx+uy)i\cdot i(v_x+u_y) = -(v_x+u_y) に注意)、主張を得ます。

被積分関数の中身をよく見てください。uxvyu_x - v_yvx+uyv_x + u_y は、どちらもコーシー・リーマンの関係式 ux=vyu_x = v_yuy=vxu_y = -v_x が成り立つときにちょうど 00 になる量です。つまりこの公式は「一周積分の値は、コーシー・リーマンの関係式の破れを内部全体で集めたものである」と述べています。

Theorem 4.3コーシーの積分定理(導関数の連続性を仮定した形)

DCD\subset\mathbb{C} を領域、f:DCf:D\to\mathbb{C}DD 上の正則関数で、導関数 ff'DD 上連続であるとする。CCDD 内の正の向きの区分的に滑らかな単純閉曲線とし、CC が囲む有界領域を Ω\Omega とするとき、Ω=ΩCD\overline{\Omega} = \Omega\cup C^{*} \subset D が成り立つならば

Cf(z)dz=0.\oint_C f(z)\,dz = 0 .

とくに DD が単連結ならば、DD 内の任意の正の向きの区分的に滑らかな単純閉曲線 CC に対して Cf(z)dz=0\oint_C f(z)\,dz = 0 である。

Proof(Theorem 4.3)

f=u+ivf = u + iv と書きます。ff が正則であることから、正則関数とコーシー・リーマンの関係式Theorem 4.1[Holomorphic Functions and the Cauchy-Riemann Equations] で示したように u,vu, v は偏微分可能でコーシー・リーマンの関係式

ux=vy,uy=vxu_x = v_y, \qquad u_y = -v_x

を満たし、しかも f=ux+ivxf' = u_x + iv_x です。仮定より ff' は連続なので ux,vxu_x, v_x は連続、コーシー・リーマンの関係式から vy=uxv_y = u_xuy=vxu_y = -v_x も連続です。したがって u,vu, vDDC1C^1 級で、Lemma 4.2 の仮定が満たされます。

CC は正の向きの単純閉曲線で Ω=C\partial\Omega = CΩD\overline\Omega\subset D なので

Cf(z)dz=iΩ[(uxvy)+i(vx+uy)]dxdy.\oint_C f(z)\,dz = i\iint_\Omega\Bigl[(u_x - v_y) + i(v_x + u_y)\Bigr]dx\,dy .

コーシー・リーマンの関係式より uxvy=0u_x - v_y = 0 かつ vx+uy=0v_x + u_y = 0 ですから、被積分関数は Ω\Omega 上恒等的に 00 で、積分は 00 です。

DD が単連結の場合:DD 内の単純閉曲線 CC が囲む有界領域 Ω\Omega は必ず DD に含まれます。実際、qΩq\in\OmegaqDq\notin D となる点があったとしましょう。qqCC の内部の点なので、CCqq のまわりの回転数は ±1\pm 1 です。回転数は C{q}\mathbb{C}\setminus\{q\} 内のホモトピーで不変な整数ですから、CCC{q}\mathbb{C}\setminus\{q\} の中で 1 点に縮められません。ところが qDq\notin D より DC{q}D\subset\mathbb{C}\setminus\{q\} であり、Definition 4.1 により CCDD の中で(したがって C{q}\mathbb{C}\setminus\{q\} の中でも)1 点に縮められます。矛盾です。よって ΩD\overline\Omega\subset D が自動的に成り立ち、前半が適用できます。

定理には「正則である」と「囲む領域が DD に含まれる(単連結性)」という 2 つの仮定があります。どちらも外せません。

Remark 4.4

正則性を落とすと壊れる。 f(z)=zˉf(z) = \bar{z} を単位円周上で積分すると、γ(t)=eit\gamma(t) = e^{it}γ(t)=eit\overline{\gamma(t)} = e^{-it}γ(t)=ieit\gamma'(t) = ie^{it} より

z=1zˉdz=02πeitieitdt=i02πdt=2πi0.\oint_{|z|=1}\bar{z}\,dz = \int_0^{2\pi} e^{-it}\cdot ie^{it}\,dt = i\int_0^{2\pi} dt = 2\pi i \ne 0 .

Lemma 4.2 でも同じ値が出ることを確かめておきます。zˉ=xiy\bar z = x - iy なので u=xu = xv=yv = -y、したがって ux=1u_x = 1vy=1v_y = -1vx=0v_x = 0uy=0u_y = 0

z=1zˉdz=iz<1[(1(1))+i0]dxdy=2iπ12=2πi.\oint_{|z|=1}\bar z\,dz = i\iint_{|z| < 1}\bigl[(1 - (-1)) + i\cdot 0\bigr]dx\,dy = 2i\cdot\pi\cdot 1^2 = 2\pi i .

一致しました。uxvy=20u_x - v_y = 2 \ne 0、つまりコーシー・リーマンの関係式の破れがそのまま答えを作っています。

単連結性を落としても壊れる。 f(z)=1/zf(z) = 1/zD=C{0}D = \mathbb{C}\setminus\{0\} 上で正則、f(z)=1/z2f'(z) = -1/z^2 も連続ですが、Example 2.5 のとおり z=1dz/z=2πi0\oint_{|z|=1} dz/z = 2\pi i \ne 0 です。単位円が囲む領域には DD に属さない点 00 が含まれており、ΩD\overline\Omega\subset D が成り立っていません。

4.4. グルサの定理:導関数の連続性を落とす

Section titled “4.4. グルサの定理:導関数の連続性を落とす”

Theorem 4.3 の証明には、ff' の連続性という、正則性の定義には含まれていない仮定が紛れ込んでいました。グリーンの定理を使う以上避けられません。ところが実は、この仮定は不要です。グルサが 1900 年前後に示したこの事実は、単なる技術的改良ではありません。次章で見るように、コーシーの積分公式から ff は自動的に無限回微分可能であることが従うので、「ff' の連続性」は結論として得られるものであり、仮定として置くのは循環に近いのです。それを断ち切るのがグルサの定理です。

Theorem 4.5グルサの定理(三角形版)

DCD\subset\mathbb{C} を開集合、f:DCf:D\to\mathbb{C}DD の各点で複素微分可能な関数とする(ff' の連続性は仮定しない)。ΔD\Delta\subset D を閉三角形(3 頂点の凸包、周と内部を含む)とし、その周を正の向きに 1 周する道を Δ\partial\Delta と書くと

Δf(z)dz=0.\oint_{\partial\Delta} f(z)\,dz = 0 .
Proof(Theorem 4.5)

I:=Δf(z)dzI := \oint_{\partial\Delta} f(z)\,dzL:=L(Δ)L := L(\partial\Delta)(周の長さ)、d:=diamΔd := \operatorname{diam}\Delta(直径)とおきます。

第 1 段:四等分と選択。 Δ\Delta の 3 辺の中点を結ぶと、Δ\Delta は 4 つの互いに合同な小三角形 Δ1,,Δ4\Delta_1,\dots,\Delta_4(中央の 1 つと隅の 3 つ)に分かれます。中点連結定理により、どれも Δ\Delta と相似で相似比は 1/21/2 です。各 Δj\partial\Delta_j を正の向きに回る積分をすべて足すと、内部に現れる 3 本の中線はそれぞれちょうど 2 回、互いに逆向きに通られます。Proposition 2.3 の (2)(向きの反転)と (3)(道の連結)により、それらの寄与は打ち消し合い

I=j=14Δjf(z)dzI = \sum_{j=1}^4 \oint_{\partial\Delta_j} f(z)\,dz

が成り立ちます。4 つの項の絶対値がすべて I/4|I|/4 未満だとすると三角不等式から I<I|I| < |I| となって矛盾するので、少なくとも 1 つの jj について

ΔjfdzI4\left|\oint_{\partial\Delta_j} f\,dz\right| \ge \frac{|I|}{4}

です。その Δj\Delta_j を 1 つ選んで Δ(1)\Delta^{(1)} と書きます。

第 2 段:入れ子の列。 同じ操作を Δ(1)\Delta^{(1)} に適用し、以下繰り返すと、閉三角形の減少列

Δ=Δ(0)Δ(1)Δ(2)\Delta = \Delta^{(0)} \supset \Delta^{(1)} \supset \Delta^{(2)} \supset \cdots

で、各 nn について

Δ(n)fdz4nI,L(Δ(n))=2nL,diamΔ(n)=2nd\left|\oint_{\partial\Delta^{(n)}} f\,dz\right| \ge 4^{-n}|I|,\qquad L(\partial\Delta^{(n)}) = 2^{-n}L,\qquad \operatorname{diam}\Delta^{(n)} = 2^{-n}d

を満たすものが得られます(中点分割で辺の長さも直径もちょうど半分になります)。

第 3 段:共通点。 Δ(n)\Delta^{(n)} は空でないコンパクト集合の減少列で直径が 00 に収束するので、共通部分はちょうど 1 点です。実際、各 Δ(n)\Delta^{(n)} から 1 点 znz_n を取ると、m,nNm, n \ge N のとき zm,znΔ(N)z_m, z_n\in\Delta^{(N)} より zmzn2Nd0|z_m - z_n| \le 2^{-N}d \to 0 なので (zn)(z_n) はコーシー列で、極限 z0z_0 が存在します。各 NN について nNn\ge Nznz_n はすべて閉集合 Δ(N)\Delta^{(N)} に属するので z0Δ(N)z_0\in\Delta^{(N)}。よって z0nΔ(n)z_0\in\bigcap_n \Delta^{(n)} です。

第 4 段:微分可能性による評価。 z0ΔDz_0\in\Delta\subset Dff は複素微分可能なので、任意の ε>0\varepsilon > 0 に対して δ>0\delta > 0 が存在し、zz0<δ|z - z_0| < \deltazDz\in D)ならば

f(z)f(z0)f(z0)(zz0)εzz0.\bigl|f(z) - f(z_0) - f'(z_0)(z - z_0)\bigr| \le \varepsilon|z - z_0| .

ここで g(z):=f(z0)+f(z0)(zz0)g(z) := f(z_0) + f'(z_0)(z - z_0) とおくと、gg は 1 次多項式で、G(z):=f(z0)z+f(z0)2(zz0)2G(z) := f(z_0)z + \frac{f'(z_0)}{2}(z-z_0)^2C\mathbb{C} 上の原始関数です。よって Theorem 3.2 より、任意の閉道の上で gdz=0\oint g\,dz = 0 です。

2nd<δ2^{-n}d < \delta となる nn を取ると、z0Δ(n)z_0\in\Delta^{(n)} かつ diamΔ(n)=2nd\operatorname{diam}\Delta^{(n)} = 2^{-n}d なので Δ(n)\Delta^{(n)} は円板 zz0<δ|z - z_0| < \delta に含まれます。したがって Δ(n)\partial\Delta^{(n)} 上で上の評価が使えて、Lemma 2.4 より

Δ(n)fdz=Δ(n)(fg)dz(supzΔ(n)εzz0)L(Δ(n))ε2nd2nL=4nεdL.\left|\oint_{\partial\Delta^{(n)}} f\,dz\right| = \left|\oint_{\partial\Delta^{(n)}} (f - g)\,dz\right| \le \Bigl(\sup_{z\in\partial\Delta^{(n)}}\varepsilon|z - z_0|\Bigr)\cdot L(\partial\Delta^{(n)}) \le \varepsilon\cdot 2^{-n}d\cdot 2^{-n}L = 4^{-n}\varepsilon\,dL .

第 5 段:結論。 第 2 段の下からの評価と合わせて

4nIΔ(n)fdz4nεdL4^{-n}|I| \le \left|\oint_{\partial\Delta^{(n)}} f\,dz\right| \le 4^{-n}\varepsilon\,dL

なので、両辺を 4n4^n 倍して IεdL|I| \le \varepsilon\,dLε>0\varepsilon > 0 は任意で d,Ld, Lε\varepsilon によらない定数なので I=0|I| = 0、すなわち I=0I = 0 です。

Remark 4.6

三角形の場合だけで十分なのか、と思われるかもしれません。実は十分です。凸領域では、グルサの定理を使って原始関数を「積分によって作る」ことができ、そこから Theorem 3.2 によって任意の閉道の上での積分が 00 であることが従います。さらに一般の単連結領域については、積分のホモトピー不変性を経由して同じ結論が得られます。この道筋を Appendix にまとめました。

結果として、本章で以後使う主張はすべて次の形で正しいと思ってください。

コーシーの積分定理(最終形) DD を単連結領域、ffDD 上の正則関数とする。このとき DD 内の任意の区分的に滑らかな閉道 γ\gamma に対して γf(z)dz=0\oint_\gamma f(z)\,dz = 0 である。ここで ff' の連続性は仮定しない。

コーシーの積分定理からすぐに出る、実用上きわめて重要な帰結が「積分路は、被積分関数が正則な範囲で自由に変形してよい」という原理です。

C₁C₂切れ込み切れ込みA(環状領域)
環状領域に 2 本の切れ込みを入れると、2 つの単連結な部分に分かれる。切れ込みは往復で相殺する。

Theorem 5.1積分路の変形定理

C1,C2C_1, C_2 を正の向きの区分的に滑らかな単純閉曲線で、C2C_2 の跡とその内部がすべて C1C_1 の内部に含まれているとする。AA を「C1C_1 の内部かつ C2C_2 の外部」である環状領域とし、A=AC1C2\overline{A} = A\cup C_1^{*}\cup C_2^{*} とおく。ffA\overline{A} を含むある開集合上で正則で、ff' が連続ならば

C1f(z)dz=C2f(z)dz.\oint_{C_1} f(z)\,dz = \oint_{C_2} f(z)\,dz .
Proof(Theorem 5.1)

AA は有界領域で、その境界は C1C_1^{*}C2C_2^{*} の 2 本の単純閉曲線からなります。AA を左手に見ながら進む向き(正の向き)は、外側の C1C_1 については反時計回り、内側の C2C_2 については時計回りです。つまり境界を正の向きに一周する道は、C1C_1 と、向きを逆にした C2-C_2 の合併です。Proposition 2.3 (2)(3) より

Afdz=C1fdzC2fdz.\oint_{\partial A} f\,dz = \oint_{C_1} f\,dz - \oint_{C_2} f\,dz .

一方、f=u+ivf = u+ivA\overline A の近傍で正則で ff' が連続なので、Theorem 4.3 の証明と同じ議論により u,vu,vC1C^1 級でコーシー・リーマンの関係式を満たします。Lemma 4.2 は境界が有限個の単純閉曲線からなる領域に対して述べてあるので、そのまま Ω=A\Omega = A に適用できて

Afdz=iA[(uxvy)+i(vx+uy)]dxdy=0\oint_{\partial A} f\,dz = i\iint_A\Bigl[(u_x - v_y) + i(v_x + u_y)\Bigr]dx\,dy = 0

です。2 式を合わせて C1fdz=C2fdz\oint_{C_1} f\,dz = \oint_{C_2} f\,dz を得ます。

上の図が示す古典的な議論も紹介しておきます。環状領域 AA に 2 本の切れ込みを入れて上半分と下半分に分けると、それぞれは穴のない(単連結な)領域になります。各部分の境界に Theorem 4.3 を適用すると積分は 00。2 つを足すと、切れ込みの上を往復する部分は向きが逆なので Proposition 2.3 (2) により打ち消し合い、残るのは C1C_1 を反時計回りに回る分と C2C_2 を時計回りに回る分です。その和が 00、すなわち C1f=C2f\oint_{C_1} f = \oint_{C_2} f となります。

Example 2.5 で「za=rdzza=2πi\oint_{|z-a|=r}\frac{dz}{z-a} = 2\pi i が半径 rr によらない」ことを計算で確かめましたが、変形定理はその理由を説明しています。1/(za)1/(z-a)aa を除けば正則なので、aa を囲む閉曲線どうしは自由に移り合え、積分値は変わらないのです。

Theorem 6.1コーシーの積分公式

DCD\subset\mathbb{C} を領域、f:DCf:D\to\mathbb{C}DD 上の正則関数で ff'DD 上連続であるとする。CCDD 内の正の向きの区分的に滑らかな単純閉曲線で、CC が囲む有界領域 Ω\OmegaΩD\overline{\Omega}\subset D を満たすものとする。このとき任意の aΩa\in\Omega に対して

f(a)=12πiCf(z)zadzf(a) = \frac{1}{2\pi i}\oint_C \frac{f(z)}{z - a}\,dz

が成り立つ。

Proof(Theorem 6.1)

aΩa\in\Omega を固定し、g(z):=f(z)zag(z) := \dfrac{f(z)}{z-a} とおきます。ggD{a}D\setminus\{a\} 上で正則で、そこでは gg' も連続です(正則関数の商の微分法と、f,ff, f' の連続性による)。

Ω\Omega は開集合なので、B(a,ρ0):={z:zaρ0}Ω\overline{B}(a,\rho_0) := \{z : |z - a|\le\rho_0\}\subset\Omega となる ρ0>0\rho_0 > 0 が存在します。0<ρρ00 < \rho \le \rho_0 を任意に取り、CρC_\rho を円 za=ρ|z - a| = \rho(正の向き)とします。CCCρC_\rho に挟まれた環状領域の閉包は ΩB(a,ρ)\overline\Omega\setminus B(a,\rho) に含まれ、これは aa を含まないので開集合 D{a}D\setminus\{a\} の中にあります。したがって Theorem 5.1gg に適用できて

Cf(z)zadz=Cρf(z)zadz(0<ρρ0).\oint_C \frac{f(z)}{z-a}\,dz = \oint_{C_\rho}\frac{f(z)}{z-a}\,dz \qquad (0 < \rho \le \rho_0) .

とくに右辺は ρ\rho によりません。

右辺を分解します。Proposition 2.3 (1) より

Cρf(z)zadz=f(a)Cρdzza+Cρf(z)f(a)zadz.\oint_{C_\rho}\frac{f(z)}{z-a}\,dz = f(a)\oint_{C_\rho}\frac{dz}{z-a} + \oint_{C_\rho}\frac{f(z) - f(a)}{z-a}\,dz .

第 1 項は Example 2.5n=1n = -1)より f(a)2πif(a)\cdot 2\pi i です。第 2 項を E(ρ)E(\rho) と書き、これを評価します。CρC_\rho 上では za=ρ|z - a| = \rho なので

f(z)f(a)za=f(z)f(a)ρω(ρ)ρ,ω(ρ):=supza=ρf(z)f(a).\left|\frac{f(z) - f(a)}{z - a}\right| = \frac{|f(z) - f(a)|}{\rho} \le \frac{\omega(\rho)}{\rho}, \qquad \omega(\rho) := \sup_{|z-a|=\rho}|f(z) - f(a)| .

L(Cρ)=2πρL(C_\rho) = 2\pi\rho ですから Lemma 2.4 より

E(ρ)ω(ρ)ρ2πρ=2πω(ρ).|E(\rho)| \le \frac{\omega(\rho)}{\rho}\cdot 2\pi\rho = 2\pi\,\omega(\rho) .

ffaa で連続なので ρ0+\rho\to 0^{+} のとき ω(ρ)0\omega(\rho)\to 0、したがって E(ρ)0E(\rho)\to 0 です。

ところが

E(ρ)=Cf(z)zadz2πif(a)E(\rho) = \oint_C \frac{f(z)}{z-a}\,dz - 2\pi i f(a)

であり、右辺は ρ\rho を含みません。すなわち E(ρ)E(\rho)ρ\rho によらない定数です。ρ0+\rho\to 0^{+}00 に収束する定数は 00 しかないので E(ρ)0E(\rho) \equiv 0、つまり

Cf(z)zadz=2πif(a)\oint_C\frac{f(z)}{z-a}\,dz = 2\pi i f(a)

です。両辺を 2πi2\pi i で割れば主張を得ます。

Remark 6.2

この式の意味を噛みしめてください。左辺は 1 点 aa における値、右辺は aa にはまったく触れずに、遠く離れた曲線 CC の上での ff の値だけから作られた量です。CC の内部で ff がどうなっているかを知らなくても、境界の値さえ分かれば内部の値が完全に復元できる。しかも aaΩ\Omega の任意の点でよいので、境界の値が内部の関数を一意に決めてしまうことになります。

実 1 変数では絶対に起こらない現象です。[0,1][0,1] 上の CC^\infty 級関数は f(0),f(1)f(0), f(1) を固定したまま中身をいくらでも変えられます。正則性は、それほど強い拘束条件なのです。

なお Remark 4.6 の最終形を使えば、ff' の連続性の仮定は不要になります。実際、次章 正則関数の強力な性質 では、この積分公式の右辺を aa について微分することで ff が自動的に無限回微分可能であることを示します(Corollary 3.3[正則関数の強力な性質])。「1 回微分できれば何回でも微分できる」という、実関数論とは決定的に異なる性質です。

積分公式は、そのまま強力な計算道具になります。使い方は「被積分関数を (正則な部分)z(中の 1 点)\dfrac{(\text{正則な部分})}{z - (\text{中の 1 点})} の形に見る」ことです。

Example 6.3指数関数と単純極

z=2ezz1dz\displaystyle\oint_{|z|=2}\frac{e^z}{z-1}\,dz を求めます。f(z)=ezf(z) = e^zC\mathbb{C} 全体で正則で f=ezf' = e^z も連続、C:z=2C: |z| = 2 が囲む領域は z<2|z| < 2 で、a=1a = 1 はその中にあります(1=1<2|1| = 1 < 2)。よって Theorem 6.1 より

z=2ezz1dz=2πif(1)=2πie.\oint_{|z|=2}\frac{e^z}{z-1}\,dz = 2\pi i\,f(1) = 2\pi i\,e .

一方 z=2ezz3dz\displaystyle\oint_{|z|=2}\frac{e^z}{z-3}\,dz00 です。今度は a=3a = 3z<2|z| < 2 の外にあるので積分公式は使えませんが、代わりに g(z)=ezz3g(z) = \dfrac{e^z}{z-3} が円板 z<3|z| < 3 上で正則(分母が 00 になるのは z=3z = 3 だけ)であることに注目します。z<3|z| < 3 は単連結で、z=2|z| = 2 が囲む閉領域はその中に含まれるので Theorem 4.3 により積分は 00 です。

「中に特異点があるか、外にあるか」で答えが 2πie2\pi i e00 に分かれる。この対比が留数計算の原型です。

Example 6.4特異点が 2 つある場合:部分分数分解

J:=z=3zz2+1dz\displaystyle J := \oint_{|z|=3}\frac{z}{z^2+1}\,dz を求めます。分母の零点は z=±iz = \pm i で、どちらも z<3|z| < 3 の内部にあります。特異点が 2 つあるので積分公式を直接は使えません。部分分数に分けます。

zz2+1=z(zi)(z+i)=Azi+Bz+i.\frac{z}{z^2+1} = \frac{z}{(z-i)(z+i)} = \frac{A}{z-i} + \frac{B}{z+i} .

両辺に (zi)(z-i) を掛けて z=iz = i とすると A=ii+i=i2i=12A = \dfrac{i}{i+i} = \dfrac{i}{2i} = \dfrac12。同様に (z+i)(z+i) を掛けて z=iz = -i とすると B=iii=i2i=12B = \dfrac{-i}{-i-i} = \dfrac{-i}{-2i} = \dfrac12。よって

J=12z=3dzzi+12z=3dzz+i.J = \frac12\oint_{|z|=3}\frac{dz}{z-i} + \frac12\oint_{|z|=3}\frac{dz}{z+i} .

各項は Theorem 6.1f1f \equiv 1 に適用して(あるいは Theorem 5.1 で小円に変形してから Example 2.5 を使って)2πi2\pi i です。したがって

J=122πi+122πi=2πi.J = \frac12\cdot 2\pi i + \frac12\cdot 2\pi i = 2\pi i .

積分路を小さくすると。 同じ被積分関数を zi=1|z - i| = 1 上で積分してみます。この円が囲むのは zi<1|z-i| < 1 で、ii は入っていますが i-iii=2>1|-i - i| = 2 > 1 より外です。そこで

zz2+1=g(z)zi,g(z):=zz+i\frac{z}{z^2+1} = \frac{g(z)}{z - i},\qquad g(z) := \frac{z}{z+i}

と見ます。ggzi<3/2|z - i| < 3/2 上で正則(i-i はこの円板の外)で、zi1|z-i|\le 1 はその中に含まれます。よって Theorem 6.1 より

zi=1zz2+1dz=2πig(i)=2πii2i=πi.\oint_{|z-i|=1}\frac{z}{z^2+1}\,dz = 2\pi i\,g(i) = 2\pi i\cdot\frac{i}{2i} = \pi i .

2πi2\pi i の半分になりました。積分路がどの特異点を囲むかで値が決まる、という構造がはっきり見えます。この一般化が 留数定理(Theorem 5.1)[留数定理と定積分への応用]留数定理と定積分への応用)です。

積分公式で CCaa を中心とする円に取ると、見た目がぐっと簡単になります。

Example 6.5円周平均の性質と実積分への応用

ffB(a,r)\overline{B}(a,r) を含む開集合上の正則関数(ff' は連続)とします。C:za=rC: |z - a| = rγ(θ)=a+reiθ\gamma(\theta) = a + re^{i\theta}θ[0,2π]\theta\in[0,2\pi])と表すと γ(θ)=ireiθ\gamma'(\theta) = ire^{i\theta}γ(θ)a=reiθ\gamma(\theta) - a = re^{i\theta} なので、Theorem 6.1 より

f(a)=12πi02πf(a+reiθ)reiθireiθdθ=12π02πf(a+reiθ)dθ.f(a) = \frac{1}{2\pi i}\int_0^{2\pi}\frac{f(a + re^{i\theta})}{re^{i\theta}}\,ire^{i\theta}\,d\theta = \frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi} f(a + re^{i\theta})\,d\theta .

すなわち正則関数の中心での値は、円周上の値の平均に等しい(平均値の性質)。

これを実積分の計算に使ってみます。f(z)=ezf(z) = e^{z}a=0a = 0r=1r = 1 とすると f(0)=1f(0) = 1 で、eeiθ=ecosθ+isinθ=ecosθ(cos(sinθ)+isin(sinθ))e^{e^{i\theta}} = e^{\cos\theta + i\sin\theta} = e^{\cos\theta}\bigl(\cos(\sin\theta) + i\sin(\sin\theta)\bigr) ですから

1=12π02πecosθ(cos(sinθ)+isin(sinθ))dθ.1 = \frac{1}{2\pi}\int_0^{2\pi} e^{\cos\theta}\bigl(\cos(\sin\theta) + i\sin(\sin\theta)\bigr)\,d\theta .

実部と虚部を比べて

02πecosθcos(sinθ)dθ=2π,02πecosθsin(sinθ)dθ=0.\int_0^{2\pi} e^{\cos\theta}\cos(\sin\theta)\,d\theta = 2\pi, \qquad \int_0^{2\pi} e^{\cos\theta}\sin(\sin\theta)\,d\theta = 0 .

左の積分は実関数の初等的な方法では手が出ません。複素の側から眺めると、単に「eze^z00 での値が 11 である」と言っているだけなのです。

Exercise 7.1

11 から 1-1 へ向かう次の 2 つの道に沿って γzˉdz\int_\gamma \bar{z}\,dz を計算し、値が異なることを確かめてください。

(a) 上半平面にある単位半円 γ(t)=eit\gamma(t) = e^{it}t[0,π]t\in[0,\pi])。 (b) 実軸上の線分 [1,1][1,-1]

Solution

(a) γ(t)=eit=eit\overline{\gamma(t)} = \overline{e^{it}} = e^{-it}γ(t)=ieit\gamma'(t) = ie^{it} なので Definition 2.2 より

γzˉdz=0πeitieitdt=i0πe0dt=iπ.\int_\gamma \bar z\,dz = \int_0^{\pi} e^{-it}\cdot ie^{it}\,dt = i\int_0^\pi e^{0}\,dt = i\pi .

(b) σ(t)=12t\sigma(t) = 1 - 2tt[0,1]t\in[0,1])とパラメータ表示すると σ\sigma は実数値なので σ(t)=12t\overline{\sigma(t)} = 1-2tσ(t)=2\sigma'(t) = -2。よって

σzˉdz=01(12t)(2)dt=2[tt2]01=2(11)=0.\int_\sigma \bar z\,dz = \int_0^1 (1-2t)(-2)\,dt = -2\Bigl[t - t^2\Bigr]_0^1 = -2(1 - 1) = 0 .

iπ0i\pi \ne 0 なので、始点と終点が同じでも道が違えば値が違います。これは zˉ\bar z が原始関数をもたない(したがって Theorem 3.2 が使えない)ことの現れです。実際、2 つの道をつないだ閉道の上での積分は iπ0=iπ0i\pi - 0 = i\pi \ne 0 になります。

Exercise 7.2標準

z=2coszz(z2+9)dz\displaystyle\oint_{|z|=2}\frac{\cos z}{z\,(z^2+9)}\,dz を求めてください。

Solution

被積分関数の分母の零点は z=0z = 0z=±3iz = \pm 3i です。z=2|z| = 2 が囲むのは z<2|z| < 2 で、この中にあるのは z=0z = 0 だけです(±3i=3>2|\pm 3i| = 3 > 2)。そこで

coszz(z2+9)=f(z)z0,f(z):=coszz2+9\frac{\cos z}{z(z^2+9)} = \frac{f(z)}{z - 0},\qquad f(z) := \frac{\cos z}{z^2 + 9}

と見ます。D:={z:z<5/2}D := \{z : |z| < 5/2\} とおくと、±3iD\pm 3i\notin D なので ffDD 上で正則、ff'DD 上連続です。また z=2|z| = 2 が囲む閉領域 z2|z|\le 2DD に含まれます。

したがって Theorem 6.1a=0a = 0 に対して適用でき、

z=2coszz(z2+9)dz=2πif(0)=2πicos00+9=2πi9.\oint_{|z|=2}\frac{\cos z}{z(z^2+9)}\,dz = 2\pi i\,f(0) = 2\pi i\cdot\frac{\cos 0}{0 + 9} = \frac{2\pi i}{9} .

Exercise 7.3標準

R>1R > 1 とし、CRC_R を上半平面にある半円 γ(t)=Reit\gamma(t) = Re^{it}t[0,π]t\in[0,\pi])とします。

CRdzz2+1πRR21\left|\int_{C_R}\frac{dz}{z^2+1}\right| \le \frac{\pi R}{R^2 - 1}

を示し、RR\to\infty でこの積分が 00 に収束することを結論してください。

Solution

CRC_R 上では z=R|z| = R です。三角不等式の変形(逆三角不等式)w1+w2w1w2|w_1 + w_2| \ge |w_1| - |w_2|w1=z2w_1 = z^2w2=1w_2 = 1 に適用すると

z2+1z21=R21>0|z^2 + 1| \ge |z^2| - 1 = R^2 - 1 > 0

R>1R > 1 より正)。したがって CRC_R 上で

1z2+11R21=:M.\left|\frac{1}{z^2+1}\right| \le \frac{1}{R^2 - 1} =: M .

また L(CR)=0πiReitdt=0πRdt=πRL(C_R) = \int_0^\pi |iRe^{it}|\,dt = \int_0^\pi R\,dt = \pi R です。Lemma 2.4 より

CRdzz2+1ML(CR)=πRR21.\left|\int_{C_R}\frac{dz}{z^2+1}\right| \le M\,L(C_R) = \frac{\pi R}{R^2 - 1} .

最後に πRR21=π/R11/R201=0\dfrac{\pi R}{R^2-1} = \dfrac{\pi/R}{1 - 1/R^2} \to \dfrac{0}{1} = 0RR\to\infty)なので、はさみうちにより積分は 00 に収束します。

この評価は、留数定理を使って実軸上の広義積分 dxx2+1\int_{-\infty}^{\infty}\frac{dx}{x^2+1} を計算するときに、「半円部分の寄与が消える」ことを保証する典型的な議論です。

Exercise 7.4

ffC\mathbb{C} 全体で正則な関数(整関数)で、ff' は連続、さらにある定数 M0M \ge 0 があってすべての zCz\in\mathbb{C}f(z)M|f(z)|\le M を満たすとします。このとき ff は定数であることを示してください(リウヴィルの定理)。

Solution

a,bCa, b\in\mathbb{C} を任意に取り、f(a)=f(b)f(a) = f(b) を示せば十分です。a=ba = b なら自明なので aba\ne b とします。

R>2max(a,b)R > 2\max(|a|, |b|) を満たす RR を取り、CR:z=RC_R : |z| = R(正の向き)とします。a,ba, b はともに z<R|z| < R の内部にあるので、Theorem 6.1 より

f(a)=12πiCRf(z)zadz,f(b)=12πiCRf(z)zbdz.f(a) = \frac{1}{2\pi i}\oint_{C_R}\frac{f(z)}{z-a}\,dz,\qquad f(b) = \frac{1}{2\pi i}\oint_{C_R}\frac{f(z)}{z-b}\,dz .

辺々引いて、Proposition 2.3 (1) と通分

1za1zb=(zb)(za)(za)(zb)=ab(za)(zb)\frac{1}{z-a} - \frac{1}{z-b} = \frac{(z-b)-(z-a)}{(z-a)(z-b)} = \frac{a-b}{(z-a)(z-b)}

を使うと

f(a)f(b)=ab2πiCRf(z)(za)(zb)dz.f(a) - f(b) = \frac{a-b}{2\pi i}\oint_{C_R}\frac{f(z)}{(z-a)(z-b)}\,dz .

CRC_R 上での評価をします。z=R|z| = R かつ a<R/2|a| < R/2 なので、逆三角不等式から zaza>RR/2=R/2|z - a| \ge |z| - |a| > R - R/2 = R/2。同様に zb>R/2|z-b| > R/2。よって

f(z)(za)(zb)M(R/2)2=4MR2\left|\frac{f(z)}{(z-a)(z-b)}\right| \le \frac{M}{(R/2)^2} = \frac{4M}{R^2}

です。L(CR)=2πRL(C_R) = 2\pi R なので Lemma 2.4 より

f(a)f(b)ab2π4MR22πR=4MabR.|f(a) - f(b)| \le \frac{|a-b|}{2\pi}\cdot\frac{4M}{R^2}\cdot 2\pi R = \frac{4M|a-b|}{R} .

左辺は RR によらない定数であり、右辺は RR\to\infty00 に収束します。RRR>2max(a,b)R > 2\max(|a|,|b|) を満たす限りいくらでも大きく取れるので、f(a)f(b)0|f(a) - f(b)| \le 0、すなわち f(a)=f(b)f(a) = f(b) です。a,ba, b は任意だったので ff は定数です。

(この証明の核心は、f(a)f(a)f(b)f(b)同じ 1 つの積分路 CRC_R の上の積分で表し、差を取ると分子に aba - b が現れて分母の次数が 1 つ上がる、という点です。おかげで RR\to\infty での減衰が得られます。ff' の連続性は Theorem 6.1 をそのまま使うために書きましたが、Remark 4.6 のとおり本来は不要です。)

  • L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979 — Chapter 4「Complex Integration」。グルサの定理から出発してコーシーの理論を組み立てる標準的な構成です。
  • E. M. Stein and R. Shakarchi, Complex Analysis (Princeton Lectures in Analysis II), Princeton University Press, 2003 — Chapter 2。三角形版グルサの定理と鍵穴型積分路による積分公式の証明が丁寧です。
  • W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1987 — Chapter 10「Elementary Properties of Holomorphic Functions」。凸集合上での原始関数の構成が明快です。
  • 神保道夫『複素関数入門』岩波書店、2003 — 第 2 章・第 3 章。日本語で読める入門書として、線積分から積分公式までの流れが標準的にまとまっています。
  • 高橋礼司『新版 複素解析』東京大学出版会、1990 — コーシーの積分定理のホモトピー版の扱いが詳しいです。
  • É. Goursat, “Sur la définition générale des fonctions analytiques, d’après Cauchy”, Transactions of the American Mathematical Society 1 (1900), 14–16 — 導関数の連続性を仮定しない証明の原論文です。

Appendix: 単連結領域上の一般形へ

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凸領域での原始関数の構成。 Theorem 4.5 は三角形についての主張ですが、これだけで凸領域上のコーシーの積分定理が出ます。DD を凸領域、ffDD 上正則とし、z0Dz_0\in D を 1 つ固定して

F(z):=[z0,z]f(w)dw(zD)F(z) := \int_{[z_0, z]} f(w)\,dw \qquad (z\in D)

と定めます。DD が凸なので線分 [z0,z][z_0,z]DD に含まれ、この定義は意味をもちます。

zDz\in D と、z+hDz + h\in D となる十分小さい h0h\ne 0 を取ります。凸性から 3 点 z0,z,z+hz_0, z, z+h を頂点とする閉三角形は DD に含まれるので、Theorem 4.5 よりその周に沿う積分は 00、すなわち

[z0,z]f+[z,z+h]f+[z+h,z0]f=0.\int_{[z_0,z]} f + \int_{[z,z+h]} f + \int_{[z+h,z_0]} f = 0 .

Proposition 2.3 (2) より [z+h,z0]f=[z0,z+h]f=F(z+h)\int_{[z+h,z_0]} f = -\int_{[z_0,z+h]} f = -F(z+h) なので、これは

F(z+h)F(z)=[z,z+h]f(w)dwF(z+h) - F(z) = \int_{[z,z+h]} f(w)\,dw

と書き直せます。ここで定数関数 11 の原始関数は ww ですから Theorem 3.2 より [z,z+h]dw=(z+h)z=h\int_{[z,z+h]} dw = (z+h) - z = h、したがって

F(z+h)F(z)hf(z)=1h[z,z+h](f(w)f(z))dw.\frac{F(z+h) - F(z)}{h} - f(z) = \frac{1}{h}\int_{[z,z+h]}\bigl(f(w) - f(z)\bigr)\,dw .

ffzz で連続なので、ε>0\varepsilon > 0 に対し δ>0\delta > 0 を取って wz<δ|w - z| < \delta ならば f(w)f(z)<ε|f(w) - f(z)| < \varepsilon とできます。0<h<δ0 < |h| < \delta のとき線分 [z,z+h][z,z+h] 上の点はすべてこの条件を満たし、L([z,z+h])=hL([z,z+h]) = |h| なので Lemma 2.4 より右辺の絶対値は 1hεh=ε\frac{1}{|h|}\cdot\varepsilon\cdot|h| = \varepsilon 以下です。よって F(z)=f(z)F'(z) = f(z)、つまり FFff の原始関数です。Theorem 3.2 により、DD 内の任意の閉道に沿う ff の積分は 00 になります。ここで ff' の連続性は一切使っていません。

一般の単連結領域へ。 凸領域から一般の単連結領域に進むには、積分のホモトピー不変性を示します。γ0,γ1\gamma_0, \gamma_1DD 内で(端点を固定して、あるいは閉道として自由に)ホモトープならば γ0f=γ1f\int_{\gamma_0} f = \int_{\gamma_1} f、という主張です。証明の骨格は次のとおりです。ホモトピー H:[0,1]2DH:[0,1]^2\to D の像はコンパクトなので、DD の補集合との距離 d>0d > 0 が正であり、さらに HH は一様連続です。そこで [0,1]2[0,1]^2 を十分細かい格子に分けると、隣り合う格子点に対応する曲線の断片はすべて半径 dd の同一の円板(凸領域)に収まります。各円板の上では前段により ff が原始関数をもつので積分が局所的に一致し、格子を横断して積み上げると γ0f=γ1f\int_{\gamma_0} f = \int_{\gamma_1} f が従います。

DD が単連結ならば Definition 4.1 により任意の閉道は 1 点にホモトープで、1 点に退化した道の上の積分は 00 です。よって

γf(z)dz=0(γ は D 内の任意の閉道)\oint_\gamma f(z)\,dz = 0 \qquad (\gamma \text{ は } D \text{ 内の任意の閉道})

が、ff' の連続性を仮定せずに成り立ちます。Remark 4.6 に掲げた「最終形」がこれです。同じ議論を Theorem 5.1 に適用すれば、変形定理からも ff' の連続性の仮定を外せます。詳細は Ahlfors の第 4 章、あるいは高橋『新版 複素解析』を参照してください。

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