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量子統計:不可弁別性から生まれるボース統計とフェルミ統計

Prerequisite:グランドカノニカル集団:粒子数を手放して化学ポテンシャルを握る

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  • 同種粒子は原理的に「番号を付けて区別する」ことができません。この不可弁別性は、多体状態を粒子の並べ方ではなく各 1 粒子準位の占有数で指定せよ、という要請に翻訳されます。
  • 占有数に許される値が 0,1,2,0,1,2,\ldots ならボース粒子、0011 だけ(パウリの排他律)ならフェルミ粒子です。相互作用のない気体では、この 1 点だけがボース統計とフェルミ統計を分けます。
  • グランドカノニカル分布を使うと、大分配関数が 1 粒子準位ごとの積に完全に因子化します。ここから平均占有数 ni=(eβ(εiμ)+θ)1\langle n_i\rangle = \left(e^{\beta(\varepsilon_i-\mu)}+\theta\right)^{-1}(フェルミは θ=+1\theta=+1、ボースは θ=1\theta=-1)が 2 行で出ます。
  • 縮退度 nλT3n\lambda_T^3 が小さい極限で両者はマクスウェル・ボルツマン分布に一致し、同時に古典理想気体の 1/N!1/N!(ギブスの補正因子)が自動的に現れます。
  • フェルミ気体は TTFT \ll T_F で縮退し、比熱が TT に比例します。銅の伝導電子では TF8.2×104T_F \approx 8.2\times10^4 K で、室温の電子比熱は古典値の約 1.2%1.2\,\% です。
  • ボース気体は TTcT \le T_c で最低準位にマクロな数の粒子が落ち込みます(ボース・アインシュタイン凝縮)。液体 4^4He の密度から計算すると Tc3.1T_c\approx3.1 K となり、観測される λ\lambda2.172.17 K と同程度です。

1. 動機:古典統計はどこで破綻するか

Section titled “1. 動機:古典統計はどこで破綻するか”

カノニカル集団で理想気体を扱ったとき(Example 7.4[カノニカル集団])、NN 粒子の分配関数を

ZN=1N!Z1NZ_N = \frac{1}{N!}\,Z_1^{\,N}

と書きました。この 1/N!1/N! は、粒子に番号を付けて数えると同じ状態を N!N! 回重複して数えてしまうから、という説明とともに導入されたはずです。しかしこの説明は、よく考えると論理的に宙に浮いています。古典力学では粒子は軌道で追跡できるので、「粒子 1 が箱の左、粒子 2 が右」と「粒子 2 が左、粒子 1 が右」は別の状態です。にもかかわらず N!N! で割らないと、エントロピーが示量的にならない(ギブスのパラドックス、Example 5.3[ミクロカノニカル集団])。ボルツマン自身もギブスも、この補正因子を経験的に入れるほかありませんでした。

もう一つ、古典統計では説明できない事実が 19 世紀末から積み上がっていました。

  • 金属中の自由電子は 1 個あたり 32kB\tfrac32 k_B の比熱を持つはずなのに、実測では室温でほとんど比熱に寄与しない。
  • 二原子分子気体の回転・振動の自由度が低温で「凍結」する。
  • 空洞放射のエネルギー密度が、古典的に計算すると紫外側で発散する(レイリー・ジーンズの破綻)。

これらはすべて、状態を数える段階に量子力学が入ってくることの帰結です。とくに最初の 2 つは、エネルギーが離散的であることに加えて、同種粒子を区別できないという第二の量子的性質を必要とします。この記事では、その第二の性質だけを正面から扱います。相互作用は最後まで無視し、「数え方を変えるとどれだけ物理が変わるか」を見ます。

flowchart TD
A["同種粒子の不可弁別性"] --> B["多体状態は置換に対して<br/>対称または反対称"]
B --> C["ボース粒子<br/>占有数 n = 0,1,2,..."]
B --> D["フェルミ粒子<br/>占有数 n = 0,1"]
C --> E["大分配関数が<br/>1粒子準位ごとに因子化"]
D --> E
E --> F["ボース・アインシュタイン分布"]
E --> G["フェルミ・ディラック分布"]
F --> H["ボース・アインシュタイン凝縮"]
G --> I["フェルミ縮退・電子比熱"]
この記事の論理の流れ。不可弁別性という 1 つの原理から 2 つの分布関数が分岐し、それぞれ低温で特徴的な現象を生みます。

2. 準備:グランドカノニカル形式の復習

Section titled “2. 準備:グランドカノニカル形式の復習”

粒子数を固定したまま量子統計を扱うのは、実は非常に厄介です。占有数の和が ini=N\sum_i n_i = N という拘束条件のせいで、和が積に分解しないからです。粒子数を揺らがせるグランドカノニカル集団Theorem 3.2[グランドカノニカル集団])を使うと、この拘束が消えます。これが本章で一貫してグランドカノニカル形式を採る理由です。

温度 TT、体積 VV、化学ポテンシャル μ\mu の熱浴と接した系について、β=1/(kBT)\beta = 1/(k_BT)、フガシティ z=eβμz = e^{\beta\mu} とおき、

Ξ(T,V,μ)=N=0 粒子数 N の量子状態 seβ(EsμN)\Xi(T,V,\mu) = \sum_{N=0}^{\infty}\ \sum_{\substack{\text{粒子数 }N\text{ の}\\ \text{量子状態 }s}} e^{-\beta\left(E_s - \mu N\right)}

を大分配関数(Definition 4.1[グランドカノニカル集団])、J=kBTlnΞJ = -k_BT\ln\Xi をグランドポテンシャル(Definition 4.2[グランドカノニカル集団])と呼びました。基本関係式は

J=PV,N=(Jμ)T,V=zlnΞz,S=(JT)V,μJ = -PV,\qquad \langle N\rangle = -\left(\frac{\partial J}{\partial \mu}\right)_{T,V} = z\frac{\partial \ln\Xi}{\partial z},\qquad S = -\left(\frac{\partial J}{\partial T}\right)_{V,\mu}

です。以下では N\langle N\rangle を単に NN と書きます。熱力学的極限では相対ゆらぎが O(N1/2)O(N^{-1/2}) なので(Proposition 5.1[グランドカノニカル集団])、この同一視は正当化されます(ただしボース・アインシュタイン凝縮の直下ではこの点に注意が要ります。Remark 7.2 を見てください)。

2 個の電子を考えます。量子力学では電子に「1 番」「2 番」という恒久的なラベルを貼ることができません。位置測定で 2 つの電子を見つけても、次の測定でどちらがどちらか追跡する手段がないからです。この事実を状態ベクトルの言葉にすると、次の要請になります。

Definition 3.1同種粒子と置換対称性

NN 個の同種粒子からなる系の状態を Ψ(ξ1,,ξN)\Psi(\xi_1,\ldots,\xi_N) と書く(ξk\xi_kkk 番目の引数に入る位置・スピン変数)。任意の 2 つの引数を入れ替える演算子を PjkP_{jk} とするとき、物理的に許される状態は

PjkΨ=+Ψ(すべての j,k)またはPjkΨ=Ψ(すべての j,k)P_{jk}\Psi = +\Psi \quad(\text{すべての } j,k) \qquad\text{または}\qquad P_{jk}\Psi = -\Psi \quad(\text{すべての } j,k)

のいずれかを満たすものに限られる。前者に従う粒子をボース粒子(ボソン)、後者に従う粒子をフェルミ粒子(フェルミオン)と呼ぶ。

Remark 3.2

どちらの符号になるかは粒子ごとに決まっていて、スピンが整数ならボース粒子、半奇整数ならフェルミ粒子です(スピン統計定理)。これは相対論的場の量子論から導かれる結果で、非相対論的量子力学の内部では証明できません。本章では実験事実として受け入れます。なお 2 次元系では「エニオン」と呼ばれる中間的な統計が可能ですが、3 次元空間ではこの 2 択に限られます。

複合粒子については、構成するフェルミ粒子の個数が偶数ならボース粒子、奇数ならフェルミ粒子として振る舞います。4^4He 原子(陽子 2・中性子 2・電子 2 で計 6 個)はボース粒子、3^3He 原子(陽子 2・中性子 1・電子 2 で計 5 個)はフェルミ粒子です。この 1 個の中性子の差が、4^4He は超流動を示し 3^3He は(はるかに低温で対を作るまで)示さない、という劇的な違いを生みます。

反対称性の直接の帰結が排他律です。フェルミ粒子で ξj=ξk\xi_j = \xi_k とおくと Definition 3.1 より Ψ=Ψ\Psi = -\Psi、すなわち Ψ=0\Psi = 0 となり、2 個のフェルミ粒子が同じ 1 粒子状態を占めることはできません。

相互作用のない系では、1 粒子ハミルトニアンの固有状態(1 粒子準位)φ1,φ2,\varphi_1,\varphi_2,\ldots とその固有エネルギー ε1,ε2,\varepsilon_1,\varepsilon_2,\ldots が定まります。対称化・反対称化した多体状態は、「どの粒子がどの準位にいるか」ではなく「各準位に何個いるか」だけで一意に決まります。

Definition 3.3占有数表示

1 粒子準位 ii を占める粒子数を nin_i とし、状態を数列 {ni}\{n_i\} で指定する。全粒子数とエネルギーは

N=ini,E=iεiniN = \sum_i n_i,\qquad E = \sum_i \varepsilon_i n_i

で与えられる。許される値は

ni{0,1,2,} (ボース粒子),ni{0,1} (フェルミ粒子)n_i \in \{0,1,2,\ldots\}\ (\text{ボース粒子}),\qquad n_i \in \{0,1\}\ (\text{フェルミ粒子})

である。異なる数列 {ni}\{n_i\} は異なる物理状態を表し、同じ数列は同じ状態を表す。

最後の一文が要点です。古典的な数え上げでは「粒子 A が準位 1、粒子 B が準位 2」と「粒子 B が準位 1、粒子 A が準位 2」を 2 通りと数えますが、Definition 3.3 の下ではどちらも {n1,n2}={1,1}\{n_1,n_2\}=\{1,1\} という 1 つの状態です。

Example 3.42 粒子・2 準位の数え上げ

準位が φ1,φ2\varphi_1,\varphi_2 の 2 つ、粒子が 2 個の場合を全部書き出します。

統計許される状態 (n1,n2)(n_1,n_2)状態数
マクスウェル・ボルツマン(粒子を区別する)(2,0)(2,0), (0,2)(0,2), (1,1)AB(1,1)_{AB}, (1,1)BA(1,1)_{BA}4
ボース・アインシュタイン(2,0)(2,0), (0,2)(0,2), (1,1)(1,1)3
フェルミ・ディラック(1,1)(1,1)1

「2 個が同じ準位に入る」確率を等重率で見積もると、古典では 2/4=0.52/4 = 0.5、ボースでは 2/30.672/3 \approx 0.67、フェルミでは 00 です。ボース粒子は古典粒子より集まりたがり、フェルミ粒子は避け合う。相互作用を一切入れていないのに、数え方だけでこの傾向が生じます。ボース粒子の集まりたがる性質がレーザーや超流動を、フェルミ粒子の避け合う性質が原子の電子殻構造と物質の硬さを生みます。

4. 理想量子気体の大分配関数と分布関数

Section titled “4. 理想量子気体の大分配関数と分布関数”

以下、フェルミとボースを一括して扱うために

θ={+1(フェルミ・ディラック統計)1(ボース・アインシュタイン統計)\theta = \begin{cases} +1 & (\text{フェルミ・ディラック統計}) \\ -1 & (\text{ボース・アインシュタイン統計})\end{cases}

とおきます。

Theorem 4.1理想量子気体の大分配関数

相互作用のない同種粒子系で、1 粒子準位のエネルギーを ε1,ε2,\varepsilon_1,\varepsilon_2,\ldots とする。ボース粒子の場合はさらに、すべての ii について μ<εi\mu < \varepsilon_i(すなわち μ\mu が基底準位のエネルギー ε0\varepsilon_0 より小さい)と仮定する。このとき大分配関数は 1 粒子準位ごとの積に分解し、

Ξ=iΞi,Ξi={1+eβ(εiμ)(θ=+1)(1eβ(εiμ))1(θ=1)\Xi = \prod_i \Xi_i,\qquad \Xi_i = \begin{cases} 1 + e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)} & (\theta = +1)\\[2pt] \left(1 - e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)}\right)^{-1} & (\theta = -1) \end{cases}

が成り立つ。まとめて

lnΞ=θiln ⁣(1+θeβ(εiμ))\ln \Xi = \theta\sum_i \ln\!\left(1 + \theta\, e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)}\right)

と書ける。

Proof(Theorem 4.1)

Definition 3.3 より、粒子数 NN の状態全体を渡る和と NN についての和を合わせたものは、拘束なしの占有数列 {ni}\{n_i\} 全体を渡る和に等しくなります。実際、各数列 {ni}\{n_i\} はちょうど 1 つの状態に対応し、その粒子数は ini\sum_i n_i で決まるからです。したがって §2 の定義から

Ξ={ni}exp ⁣[β(iεiniμini)]={ni}ieβ(εiμ)ni.\Xi = \sum_{\{n_i\}} \exp\!\left[-\beta\left(\sum_i \varepsilon_i n_i - \mu \sum_i n_i\right)\right] = \sum_{\{n_i\}} \prod_i e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)n_i}.

ここで各 nin_i は他の njn_j とは無関係に動けます(粒子数の拘束を外したのがまさにこの効果です)。多重和と積の順序を交換して

Ξ=i(nieβ(εiμ)ni)=iΞi.\Xi = \prod_i \left(\sum_{n_i} e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)n_i}\right) = \prod_i \Xi_i .

あとは各 Ξi\Xi_i を計算します。xi=eβ(εiμ)x_i = e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)} とおきます。

フェルミ粒子では Definition 3.3 より ni{0,1}n_i \in \{0,1\} なので、和は 2 項だけで Ξi=1+xi\Xi_i = 1 + x_i です。

ボース粒子では nin_i00 から無限大まで動くので、Ξi=n=0xin\Xi_i = \sum_{n=0}^\infty x_i^{\,n} という等比級数です。これが収束するのは xi<1x_i < 1、すなわち μ<εi\mu < \varepsilon_i のときで、これは仮定されています。このとき Ξi=(1xi)1\Xi_i = (1-x_i)^{-1} です。

最後にまとめの式を確かめます。θ=+1\theta=+1 なら θln(1+θxi)=ln(1+xi)\theta\ln(1+\theta x_i) = \ln(1+x_i) で第 1 の式に一致します。θ=1\theta=-1 なら θln(1+θxi)=ln(1xi)=ln[(1xi)1]\theta\ln(1+\theta x_i) = -\ln(1-x_i) = \ln\left[(1-x_i)^{-1}\right] で第 2 の式に一致します。

Remark 4.2

ボース粒子で μ<ε0\mu < \varepsilon_0 が必要になったのは、単なる数学的な都合ではありません。με0\mu \ge \varepsilon_0 なら基底準位の占有数の期待値が発散し、系が定常な平衡状態を持ちません。この境界 με0\mu \to \varepsilon_0 にどこまで近づけるかが、後の Theorem 7.1 で決定的な役割を果たします。フェルミ粒子には ni1n_i \le 1 という上限があるので、μ\mu に制限はなく、正でも負でも構いません。

Theorem 4.3ボース・アインシュタイン分布とフェルミ・ディラック分布

Theorem 4.1 の仮定のもとで、1 粒子準位 ii の平均占有数は

ni=1eβ(εiμ)+θ\langle n_i\rangle = \frac{1}{e^{\beta(\varepsilon_i-\mu)}+\theta}

で与えられる。すなわち

ni=1eβ(εiμ)+1  (フェルミ),ni=1eβ(εiμ)1  (ボース).\langle n_i\rangle = \frac{1}{e^{\beta(\varepsilon_i-\mu)}+1}\ \ (\text{フェルミ}),\qquad \langle n_i\rangle = \frac{1}{e^{\beta(\varepsilon_i-\mu)}-1}\ \ (\text{ボース}).

エネルギー ε\varepsilon の関数と見たものをそれぞれフェルミ・ディラック分布関数 f(ε)f(\varepsilon)、ボース・アインシュタイン分布関数と呼ぶ。

Proof(Theorem 4.3)

Ξ\Xi の中で εi\varepsilon_i を含むのは因子 Ξi\Xi_i だけです(Theorem 4.1)。したがって

1βlnΞεi=1βεiln ⁣(neβ(εiμ)n)=nneβ(εiμ)nneβ(εiμ)n=ni-\frac{1}{\beta}\frac{\partial \ln\Xi}{\partial \varepsilon_i} = -\frac{1}{\beta}\frac{\partial}{\partial\varepsilon_i}\ln\!\left(\sum_{n} e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)n}\right) = \frac{\sum_n n\, e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)n}}{\sum_n e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)n}} = \langle n_i\rangle

です(中央の式で微分を実行すると分子に βn-\beta n が下りてきます)。あとは実際に微分するだけです。xi=eβ(εiμ)x_i = e^{-\beta(\varepsilon_i-\mu)} とすると xi/εi=βxi\partial x_i/\partial \varepsilon_i = -\beta x_i で、

εi[θln(1+θxi)]=θθ(βxi)1+θxi=βxi1+θxi\frac{\partial}{\partial \varepsilon_i}\left[\theta\ln(1+\theta x_i)\right] = \theta\cdot\frac{\theta\,(-\beta x_i)}{1+\theta x_i} = \frac{-\beta x_i}{1+\theta x_i}

θ2=1\theta^2 = 1 を使いました)。よって

ni=1ββxi1+θxi=xi1+θxi=1xi1+θ=1eβ(εiμ)+θ.\langle n_i\rangle = -\frac1\beta\cdot\frac{-\beta x_i}{1+\theta x_i} = \frac{x_i}{1+\theta x_i} = \frac{1}{x_i^{-1}+\theta} = \frac{1}{e^{\beta(\varepsilon_i-\mu)}+\theta}.

フェルミ分布は 0f10 \le f \le 1 を常に満たし(分母が 11 以上)、排他律と整合します。ボース分布は εiμ+\varepsilon_i \to \mu^{+} で発散し、Remark 4.2 の警告がここに現れています。

-3-2-101234012(ε − μ) / k_B T⟨n⟩フェルミ・ディラックボース・アインシュタインマクスウェル・ボルツマン
3 つの分布関数。横軸は (ε − μ)/k_BT、縦軸は平均占有数。フェルミ分布は 1 を超えず、ボース分布は ε → μ で発散し、両者は右側(高エネルギー側)でマクスウェル・ボルツマン分布に漸近します。

Proposition 4.4占有数のゆらぎ

Theorem 4.1 の仮定のもとで

ni2ni2=ni(1θni)\left\langle n_i^2\right\rangle - \left\langle n_i\right\rangle^2 = \left\langle n_i\right\rangle\left(1 - \theta\left\langle n_i\right\rangle\right)

が成り立つ。すなわちフェルミ粒子では ni(1ni)\langle n_i\rangle(1-\langle n_i\rangle)、ボース粒子では ni(1+ni)\langle n_i\rangle(1+\langle n_i\rangle) である。

Proof(Proposition 4.4)

各準位は独立なので、準位 ii だけを持つ小さなグランドカノニカル系と見なせます(Theorem 4.1 の因子化。この 1 準位系そのものの扱いは Example 7.2[グランドカノニカル集団] にあります)。一般のグランドカノニカル分布と同様に

1βniμ=1βμ(1βlnΞiμ)=ni2ni2\frac{1}{\beta}\frac{\partial \langle n_i\rangle}{\partial\mu} = \frac{1}{\beta}\frac{\partial}{\partial\mu}\left(\frac{1}{\beta}\frac{\partial \ln\Xi_i}{\partial\mu}\right) = \left\langle n_i^2\right\rangle - \left\langle n_i\right\rangle^2

です。Theorem 4.3 の結果を x=β(εiμ)x = \beta(\varepsilon_i-\mu) を通して μ\mu で微分すると、x/μ=β\partial x/\partial\mu = -\beta より

niμ=βx(ex+θ)1=βex(ex+θ)2.\frac{\partial \langle n_i\rangle}{\partial \mu} = -\beta\frac{\partial}{\partial x}\left(e^{x}+\theta\right)^{-1} = \beta\frac{e^{x}}{\left(e^{x}+\theta\right)^{2}} .

一方

ni(1θni)=1ex+θ(1θex+θ)=1ex+θexex+θ=ex(ex+θ)2\left\langle n_i\right\rangle\left(1-\theta\left\langle n_i\right\rangle\right) = \frac{1}{e^{x}+\theta}\left(1-\frac{\theta}{e^{x}+\theta}\right) = \frac{1}{e^{x}+\theta}\cdot\frac{e^{x}}{e^{x}+\theta} = \frac{e^{x}}{\left(e^{x}+\theta\right)^{2}}

なので、両者は β\beta 倍を除いて一致します。

フェルミの場合は nin_i0011 のベルヌーイ変数なので、この形は当然です。注目すべきはボースの n(1+n)\langle n\rangle(1+\langle n\rangle) で、n1\langle n\rangle \gg 1 ではゆらぎが n2\langle n\rangle^2 のオーダーになります。これは光のバンチング(光子が束になって到来する)として実験的に観測される効果で、ハンベリー・ブラウンとトゥイスの干渉計はこのゆらぎを利用しています。

自由粒子を一辺 LL、体積 V=L3V=L^3 の箱に周期境界条件で閉じ込めると、波数は k=(2π/L)m\boldsymbol{k} = (2\pi/L)\boldsymbol{m}mZ3\boldsymbol{m}\in\mathbb{Z}^3)に量子化され、エネルギーは ε=2k2/(2m)\varepsilon = \hbar^2 k^2/(2m) です。内部自由度(スピン)の縮重度を gg とすると、k|\boldsymbol{k}|kk 以下の状態数は gVk3/(6π2)g\,V k^3/(6\pi^2) なので、エネルギー ε\varepsilon 以下の状態数は gV(2mε)3/2/(6π23)g\,V(2m\varepsilon)^{3/2}/(6\pi^2\hbar^3)、これを微分して

D(ε)=gV4π23(2m)3/2ε(ε>0)D(\varepsilon) = \frac{gV}{4\pi^2\hbar^3}\,(2m)^{3/2}\sqrt{\varepsilon}\qquad(\varepsilon > 0)

を得ます。以後、準位についての和はこの状態密度による積分 i0D(ε)dε\sum_i \to \int_0^\infty D(\varepsilon)\,d\varepsilon で置き換えます。

Proposition 4.5非相対論的理想量子気体の状態方程式

3 次元自由粒子の理想量子気体では、統計の種類(θ=±1\theta=\pm1)によらず

PV=23UPV = \frac{2}{3}U

が成り立つ。ここで U=0εD(ε)n(ε)dεU = \int_0^\infty \varepsilon\, D(\varepsilon)\,\langle n(\varepsilon)\rangle\, d\varepsilon は内部エネルギーである。

Proof(Proposition 4.5)

§2 より PV=J=kBTlnΞPV = -J = k_BT\ln\Xi で、Theorem 4.1 を連続化すると

PV=θkBT0D(ε)ln ⁣(1+θzeβε)dε.PV = \theta k_BT\int_0^\infty D(\varepsilon)\ln\!\left(1+\theta z e^{-\beta\varepsilon}\right)d\varepsilon .

D(ε)=CεD(\varepsilon) = C\sqrt{\varepsilon} の原始関数は N(ε)=23Cε3/2=23εD(ε)\mathcal{N}(\varepsilon) = \tfrac23 C\varepsilon^{3/2} = \tfrac23\varepsilon D(\varepsilon) です。これを使って部分積分します。ε\varepsilon\to\infty で対数は eβεe^{-\beta\varepsilon} のように減衰し、ε0\varepsilon\to0N0\mathcal{N}\to0 なので境界項は消え、

PV=θkBT023εD(ε)θ(β)zeβε1+θzeβεdε=230εD(ε)1z1eβε+θdε.PV = -\theta k_BT\int_0^\infty \frac{2}{3}\varepsilon D(\varepsilon)\cdot\frac{\theta\,(-\beta) z e^{-\beta\varepsilon}}{1+\theta z e^{-\beta\varepsilon}}\,d\varepsilon = \frac{2}{3}\int_0^\infty \varepsilon D(\varepsilon)\,\frac{1}{z^{-1}e^{\beta\varepsilon}+\theta}\,d\varepsilon .

θ2=1\theta^2=1kBTβ=1k_BT\beta = 1 を使い、最後に分子分母を zeβεz e^{-\beta\varepsilon} で割りました。)被積分関数の後半は Theorem 4.3n(ε)\langle n(\varepsilon)\rangle そのものなので、右辺は 23U\tfrac23 U です。

この関係は温度にも統計にもよらず、状態密度が ε1/2\varepsilon^{1/2} に比例することだけから出ています。後で T=0T=0 のフェルミ気体の圧力を求めるときに使います。

5. 古典極限とギブスのパラドックス

Section titled “5. 古典極限とギブスのパラドックス”

Definition 5.1熱的ド・ブロイ波長と縮退度

質量 mm の粒子について

λT=h2πmkBT\lambda_T = \frac{h}{\sqrt{2\pi m k_B T}}

を熱的ド・ブロイ波長という。数密度 n=N/Vn = N/V に対して無次元量 nλT3n\lambda_T^3縮退度と呼ぶ。

λT\lambda_T は温度 TT での典型的な運動量 2πmkBT\sqrt{2\pi m k_BT} に対応するド・ブロイ波長です。nλT3n\lambda_T^3 は「1 粒子の波束が占める体積の中に何個の粒子がいるか」を測る量で、これが 11 より十分小さければ波束は重ならず、粒子を区別できるかどうかは物理に影響しません。

Proposition 5.2古典極限

z=eβμz = e^{\beta\mu} について z1z \ll 1(すなわち μ\mu が十分負)のとき、Theorem 4.3 の分布は統計の種類によらず

n(ε)zeβε\langle n(\varepsilon)\rangle \simeq z\,e^{-\beta\varepsilon}

に帰着し、大分配関数は lnΞzZ1\ln\Xi \simeq z Z_1Z1=ieβεi=gV/λT3Z_1 = \sum_i e^{-\beta\varepsilon_i} = gV/\lambda_T^3 は 1 粒子分配関数)となる。このとき nλT3=gz1n\lambda_T^3 = gz \ll 1 であり、状態方程式は PV=NkBTPV = Nk_BT に一致する。

Proof(Proposition 5.2)

Theorem 4.3zz で書き直すと n(ε)=(z1eβε+θ)1\langle n(\varepsilon)\rangle = \left(z^{-1}e^{\beta\varepsilon}+\theta\right)^{-1} です。z1z\ll1 なら z1eβεz11θz^{-1}e^{\beta\varepsilon} \ge z^{-1} \gg 1 \ge |\theta| なので、分母の θ\theta を落とせて n(ε)zeβε\langle n(\varepsilon)\rangle \simeq z e^{-\beta\varepsilon} を得ます。統計に依存する項が θ\theta だけだったので、極限では両統計が一致します。

同様に Theorem 4.1ln(1+u)u\ln(1+u)\simeq uu1|u|\ll1)を使うと

lnΞθiθzeβεi=zieβεi=zZ1.\ln\Xi \simeq \theta\sum_i \theta z e^{-\beta\varepsilon_i} = z\sum_i e^{-\beta\varepsilon_i} = zZ_1 .

ここで自由粒子の Z1Z_1 を計算すると、§4.4 の状態密度を使って

Z1=0D(ε)eβεdε=gV(2m)3/24π230εeβεdε=gV(2m)3/24π23π2(kBT)3/2=gVλT3Z_1 = \int_0^\infty D(\varepsilon)e^{-\beta\varepsilon}d\varepsilon = \frac{gV(2m)^{3/2}}{4\pi^2\hbar^3}\int_0^\infty \sqrt{\varepsilon}\,e^{-\beta\varepsilon}d\varepsilon = \frac{gV(2m)^{3/2}}{4\pi^2\hbar^3}\cdot\frac{\sqrt\pi}{2}(k_BT)^{3/2} = \frac{gV}{\lambda_T^3}

となります(0εeβεdε=Γ(3/2)β3/2=π2(kBT)3/2\int_0^\infty\sqrt{\varepsilon}e^{-\beta\varepsilon}d\varepsilon = \Gamma(3/2)\beta^{-3/2} = \tfrac{\sqrt\pi}{2}(k_BT)^{3/2}=h/2π\hbar = h/2\pi を使いました)。したがって N=zzlnΞ=zZ1=gVz/λT3N = z\,\partial_z\ln\Xi = zZ_1 = gVz/\lambda_T^3、すなわち nλT3=gzn\lambda_T^3 = gz です。また PV=kBTlnΞ=kBTzZ1=NkBTPV = k_BT\ln\Xi = k_BT\,zZ_1 = Nk_BT となります。

5.2. 補正因子 1/N! はどこから来たか

Section titled “5.2. 補正因子 1/N! はどこから来たか”

Proposition 5.2lnΞ=zZ1\ln\Xi = zZ_1、すなわち Ξ=ezZ1\Xi = e^{zZ_1} を、粒子数で展開してみます。

Ξ=exp(zZ1)=N=0(zZ1)NN!=N=0zNZ1NN!.\Xi = \exp\left(zZ_1\right) = \sum_{N=0}^{\infty} \frac{\left(zZ_1\right)^N}{N!} = \sum_{N=0}^{\infty} z^N \cdot \frac{Z_1^{\,N}}{N!} .

グランドカノニカル形式では Ξ=NzNZN\Xi = \sum_N z^N Z_N が定義なので、係数を比較して

ZN=1N!Z1NZ_N = \frac{1}{N!}Z_1^{\,N}

が出ます。§1 で経験的に導入した 1/N!1/N! が、Definition 3.3 の数え方から導出されたわけです。これでギブスのパラドックスは解消します。エントロピーの示量性を救うための場当たり的な補正だったものは、同種粒子を区別できないという量子力学の帰結でした。この ZNZ_N からサッカー・テトローデの式(Theorem 5.1[ミクロカノニカル集団]

S=NkB[lngVNλT3+52]S = Nk_B\left[\ln\frac{gV}{N\lambda_T^3} + \frac52\right]

が従い、λT\lambda_Thh が入っているおかげでエントロピーの絶対値まで確定します(熱力学ポテンシャルで扱った SS の基準の任意性が、量子力学によって固定されます)。

Example 5.3縮退度の実際の値

λT=h/2πmkBT\lambda_T = h/\sqrt{2\pi m k_BT} に数値を入れます。

(a) 常温常圧のヘリウムガスT=300T = 300 K、P=1.013×105P = 1.013\times10^5 Pa、m=6.65×1027m = 6.65\times10^{-27} kg)。n=P/(kBT)=1.013×105/(4.14×1021)=2.45×1025 m3n = P/(k_BT) = 1.013\times10^5 / (4.14\times10^{-21}) = 2.45\times10^{25}\ \mathrm{m^{-3}}2πmkBT=1.73×10462\pi m k_BT = 1.73\times10^{-46} より λT=6.63×1034/1.32×1023=5.0×1011\lambda_T = 6.63\times10^{-34}/1.32\times10^{-23} = 5.0\times10^{-11} m。よって

nλT3=2.45×1025×(5.0×1011)33×106.n\lambda_T^3 = 2.45\times10^{25}\times\left(5.0\times10^{-11}\right)^3 \approx 3\times10^{-6} .

完全に古典領域です。ヘリウムをボース粒子として扱うかどうかは、室温では何も変えません。

(b) 銅中の伝導電子T=300T = 300 K、n=8.5×1028 m3n = 8.5\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}m=9.11×1031m = 9.11\times10^{-31} kg)。2πmkBT=2.37×10502\pi mk_BT = 2.37\times10^{-50} より λT=6.63×1034/1.54×1025=4.3×109\lambda_T = 6.63\times10^{-34}/1.54\times10^{-25} = 4.3\times10^{-9} m。よって

nλT3=8.5×1028×(4.3×109)36.8×103.n\lambda_T^3 = 8.5\times10^{28}\times\left(4.3\times10^{-9}\right)^3 \approx 6.8\times10^{3} .

11 をはるかに超えており、室温ですら強く縮退しています。電子の質量が原子より 4 桁小さいことと、金属中の電子密度が気体より 3 桁高いことが効いています。金属の電子を古典気体として扱ってはいけない理由がここにあります。

Definition 6.1フェルミエネルギーとフェルミ温度

T0T\to 0 における理想フェルミ気体の化学ポテンシャルの極限値をフェルミエネルギー εF\varepsilon_F という。TF=εF/kBT_F = \varepsilon_F/k_Bフェルミ温度kF=2mεF/k_F = \sqrt{2m\varepsilon_F}/\hbarフェルミ波数と呼ぶ。

T0T\to0Theorem 4.3 のフェルミ分布は階段関数 f(ε)Θ(εFε)f(\varepsilon)\to \Theta(\varepsilon_F-\varepsilon) に近づきます。実際 ε<μ\varepsilon < \mu なら β(εμ)\beta(\varepsilon-\mu)\to-\inftyf1f\to1ε>μ\varepsilon > \mu なら f0f\to0 です。したがって粒子はエネルギーの低い準位から 1 個ずつ詰まり、εF\varepsilon_F まで隙間なく埋まります。

Proposition 6.2絶対零度の自由フェルミ気体

縮重度 gg、数密度 n=N/Vn = N/V の 3 次元自由フェルミ気体について、T=0T=0

εF=22m(6π2ng)2/3,U=35NεF,P=25nεF\varepsilon_F = \frac{\hbar^2}{2m}\left(\frac{6\pi^2 n}{g}\right)^{2/3},\qquad U = \frac{3}{5}N\varepsilon_F,\qquad P = \frac{2}{5}n\varepsilon_F

が成り立つ。

Proof(Proposition 6.2)

f(ε)=Θ(εFε)f(\varepsilon)=\Theta(\varepsilon_F-\varepsilon) と §4.4 の D(ε)=CεD(\varepsilon) = C\sqrt\varepsilonC=gV(2m)3/2/(4π23)C = gV(2m)^{3/2}/(4\pi^2\hbar^3))から

N=0εFCεdε=23CεF3/2=gV6π23(2mεF)3/2.N = \int_0^{\varepsilon_F} C\sqrt{\varepsilon}\,d\varepsilon = \frac{2}{3}C\varepsilon_F^{3/2} = \frac{gV}{6\pi^2\hbar^3}\left(2m\varepsilon_F\right)^{3/2} .

これを εF\varepsilon_F について解くと (2mεF)3/2=6π23n/g\left(2m\varepsilon_F\right)^{3/2} = 6\pi^2\hbar^3 n/g、両辺を 2/32/3 乗して 2mεF=2(6π2n/g)2/32m\varepsilon_F = \hbar^2(6\pi^2n/g)^{2/3}、すなわち第 1 式です。

内部エネルギーは

U=0εFεCεdε=25CεF5/2=25CεF3/2εF=35(23CεF3/2)εF=35NεF.U = \int_0^{\varepsilon_F}\varepsilon\, C\sqrt\varepsilon\,d\varepsilon = \frac{2}{5}C\varepsilon_F^{5/2} = \frac{2}{5}C\varepsilon_F^{3/2}\cdot\varepsilon_F = \frac{3}{5}\left(\frac{2}{3}C\varepsilon_F^{3/2}\right)\varepsilon_F = \frac35 N\varepsilon_F .

圧力は Proposition 4.5 から P=23U/V=2335nεF=25nεFP = \tfrac{2}{3}U/V = \tfrac23\cdot\tfrac35 n\varepsilon_F = \tfrac25 n\varepsilon_F です。

Example 6.3銅の伝導電子:フェルミエネルギーと縮退圧

銅は 1 原子あたり 1 個の伝導電子を出し、n=8.5×1028 m3n = 8.5\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}}、電子スピンより g=2g=2 です。Proposition 6.2g=2g=2 とすると 6π2n/g=3π2n6\pi^2n/g = 3\pi^2 n で、

kF=(3π2n)1/3=(29.6×8.5×1028)1/3=(2.52×1030)1/3=1.36×1010 m1.k_F = \left(3\pi^2 n\right)^{1/3} = \left(29.6\times8.5\times10^{28}\right)^{1/3} = \left(2.52\times10^{30}\right)^{1/3} = 1.36\times10^{10}\ \mathrm{m^{-1}} .εF=2kF22m=(1.055×1034)2×(1.36×1010)22×9.11×1031=1.13×1018 J=7.0 eV.\varepsilon_F = \frac{\hbar^2k_F^2}{2m} = \frac{\left(1.055\times10^{-34}\right)^2\times\left(1.36\times10^{10}\right)^2}{2\times9.11\times10^{-31}} = 1.13\times10^{-18}\ \mathrm{J} = 7.0\ \mathrm{eV} .

フェルミ温度は TF=1.13×1018/1.38×1023=8.2×104T_F = 1.13\times10^{-18}/1.38\times10^{-23} = 8.2\times10^{4} K。室温はこれの 0.4%0.4\,\% にすぎず、電子系にとって室温は「ほぼ絶対零度」です。

縮退圧は Proposition 6.2 より

P=25nεF=0.4×8.5×1028×1.13×1018=3.8×1010 PaP = \frac25 n\varepsilon_F = 0.4\times8.5\times10^{28}\times1.13\times10^{-18} = 3.8\times10^{10}\ \mathrm{Pa}

で、約 38 万気圧です。これは金属の体積弾性率と同じオーダーで、金属が容易に圧縮できない理由の主要部分が電子の縮退圧であることを示しています。粒子間に力が働いていないのにこれだけの圧力が出るのは、排他律によって粒子が高い運動エネルギーの準位に押し上げられているからです。

6.2. 有限温度:ゾンマーフェルト展開と電子比熱

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TTFT \ll T_F では、フェルミ分布が階段からずれるのは εF\varepsilon_F の周り幅 kBT\sim k_BT の薄い層だけです。この層の中の電子だけが熱的に励起でき、その割合はおよそ T/TFT/T_F。したがって比熱は古典値 32NkB\tfrac32Nk_BT/TFT/T_F 倍程度になるはずです。これを厳密にするのが次の展開です。

Theorem 6.4ゾンマーフェルト展開

H:RRH:\mathbb{R}\to\mathbb{R}ε<0\varepsilon < 000ε0\varepsilon \ge 0 で滑らかかつ高々多項式増大とする。フェルミ分布 f(ε)=[eβ(εμ)+1]1f(\varepsilon) = \left[e^{\beta(\varepsilon-\mu)}+1\right]^{-1} に対し、μ>0\mu > 0 を固定して kBT/μ0k_BT/\mu \to 0 とするとき

H(ε)f(ε)dε=μH(ε)dε+π26(kBT)2H(μ)+O ⁣((kBT)4)\int_{-\infty}^{\infty}H(\varepsilon)f(\varepsilon)\,d\varepsilon = \int_{-\infty}^{\mu}H(\varepsilon)\,d\varepsilon + \frac{\pi^2}{6}\left(k_BT\right)^2 H'(\mu) + O\!\left(\left(k_BT\right)^4\right)

が成り立つ。

Remark 6.5

証明は Appendix に置きます。要点は、f(ε)-f'(\varepsilon)ε=μ\varepsilon=\mu に幅 kBTk_BT で局在し、全積分が 11、1 次モーメントが 00、2 次モーメントが π23(kBT)2\tfrac{\pi^2}{3}(k_BT)^2 である、ということだけです。

Proposition 6.6縮退フェルミ気体の化学ポテンシャルと比熱

3 次元自由フェルミ気体で粒子数 NN を固定したまま温度を上げるとき、TTFT \ll T_F

μ(T)=εF[1π212(TTF)2+],CV=π23kB2TD(εF)=π22NkBTTF\mu(T) = \varepsilon_F\left[1 - \frac{\pi^2}{12}\left(\frac{T}{T_F}\right)^2 + \cdots\right],\qquad C_V = \frac{\pi^2}{3}k_B^2\,T\,D(\varepsilon_F) = \frac{\pi^2}{2}Nk_B\frac{T}{T_F}

が成り立つ。

Proof(Proposition 6.6)

まず粒子数条件に Theorem 6.4H=DH = D として適用します。

N=0μD(ε)dε+π26(kBT)2D(μ)+N = \int_0^{\mu}D(\varepsilon)\,d\varepsilon + \frac{\pi^2}{6}(k_BT)^2 D'(\mu) + \cdots

μεF\mu-\varepsilon_FO(T2)O(T^2) の小量なので、0μD=0εFD+D(εF)(μεF)+O ⁣((μεF)2)\int_0^\mu D = \int_0^{\varepsilon_F}D + D(\varepsilon_F)(\mu-\varepsilon_F) + O\!\left((\mu-\varepsilon_F)^2\right) と展開し、D(μ)D(εF)D'(\mu)\simeq D'(\varepsilon_F) とします。0εFD=N\int_0^{\varepsilon_F}D = NProposition 6.2 の定義)なので、残りが打ち消し合って

D(εF)(μεF)=π26(kBT)2D(εF).D(\varepsilon_F)\left(\mu-\varepsilon_F\right) = -\frac{\pi^2}{6}(k_BT)^2 D'(\varepsilon_F) .

Dε1/2D\propto\varepsilon^{1/2} より D(εF)/D(εF)=1/(2εF)D'(\varepsilon_F)/D(\varepsilon_F) = 1/(2\varepsilon_F) なので μεF=π212(kBT)2/εF\mu-\varepsilon_F = -\frac{\pi^2}{12}(k_BT)^2/\varepsilon_F、これが第 1 式です。化学ポテンシャルが温度とともに下がるのは、DDε\varepsilon の増加関数で、εF\varepsilon_F より上に空いた席のほうが下に空く席より多いためです。

次に内部エネルギーに H(ε)=εD(ε)H(\varepsilon) = \varepsilon D(\varepsilon) を適用します。

U=0μεD(ε)dε+π26(kBT)2[D(εF)+εFD(εF)].U = \int_0^{\mu}\varepsilon D(\varepsilon)d\varepsilon + \frac{\pi^2}{6}(k_BT)^2\left[D(\varepsilon_F)+\varepsilon_F D'(\varepsilon_F)\right] .

第 1 項を同様に展開すると 0εFεDdε+εFD(εF)(μεF)\int_0^{\varepsilon_F}\varepsilon D\,d\varepsilon + \varepsilon_F D(\varepsilon_F)(\mu-\varepsilon_F) で、上で求めた (μεF)(\mu-\varepsilon_F) を代入すると U0π26(kBT)2εFD(εF)U_0 - \frac{\pi^2}{6}(k_BT)^2\varepsilon_F D'(\varepsilon_F)。これを第 2 項と足すと εFD\varepsilon_F D' の項が消え、

U=U0+π26(kBT)2D(εF),U0=35NεF.U = U_0 + \frac{\pi^2}{6}\left(k_BT\right)^2 D(\varepsilon_F),\qquad U_0 = \frac35N\varepsilon_F .

TT で微分して CV=π23kB2TD(εF)C_V = \frac{\pi^2}{3}k_B^2 T D(\varepsilon_F)。最後に Proposition 6.2 の証明中の N=23CεF3/2N = \tfrac23 C\varepsilon_F^{3/2}D(εF)=CεF1/2D(\varepsilon_F) = C\varepsilon_F^{1/2} から D(εF)=3N/(2εF)D(\varepsilon_F) = 3N/(2\varepsilon_F) なので、

CV=π23kB2T3N2εF=π22NkBTTF.C_V = \frac{\pi^2}{3}k_B^2T\cdot\frac{3N}{2\varepsilon_F} = \frac{\pi^2}{2}Nk_B\frac{T}{T_F} .

銅の伝導電子(Example 6.3)に入れると、T=300T=300 K で

CVNkB=π223008.2×104=4.93×3.66×103=1.8×102\frac{C_V}{Nk_B} = \frac{\pi^2}{2}\cdot\frac{300}{8.2\times10^4} = 4.93\times3.66\times10^{-3} = 1.8\times10^{-2}

です。古典的な期待値 3/23/2 と比べると 1.2%1.2\,\% にすぎません。「金属の比熱にはデュロン・プティの格子寄与しか見えない」という 19 世紀以来の謎(§1)は、これで説明されます。実験では十分な低温で

CT=γ+AT2\frac{C}{T} = \gamma + A T^2

の形が観測され、切片 γ\gamma(ゾンマーフェルト係数)が電子由来、AT2AT^2 がデバイの格子振動由来です。γ\gamma の測定値から D(εF)D(\varepsilon_F) が直接読み取れます。

7. ボース・アインシュタイン凝縮

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7.1. 励起状態の収容能力には上限がある

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ボース気体では Remark 4.2 により μ<ε0\mu < \varepsilon_0 です。基底準位を ε0=0\varepsilon_0 = 0 にとると μ<0\mu < 0、すなわち z=eβμ<1z = e^{\beta\mu} < 1 です。ここで重要な観察をします。ε>0\varepsilon > 0 の準位(励起状態)に収容できる粒子数は、μ\mu をいくら 00 に近づけても有限の値で頭打ちになります。

Theorem 7.1ボース・アインシュタイン凝縮

縮重度 gg、数密度 n=N/Vn=N/V の 3 次元自由ボース気体を考える。ζ\zeta をリーマンゼータ関数とし

Tc=2π2mkB(ngζ(3/2))2/3,ζ(3/2)=2.612T_c = \frac{2\pi\hbar^2}{mk_B}\left(\frac{n}{g\,\zeta(3/2)}\right)^{2/3},\qquad \zeta(3/2)=2.612\ldots

と定義する。このとき、TTcT \le T_c では基底準位の占有数 N0N_0 がマクロな値をとり、熱力学的極限で

N0N=1(TTc)3/2\frac{N_0}{N} = 1 - \left(\frac{T}{T_c}\right)^{3/2}

が成り立つ。T>TcT > T_c では N0/N0N_0/N \to 0 である。TcT_cnλT3=gζ(3/2)n\lambda_{T}^{3} = g\,\zeta(3/2) となる温度に等しい。

Proof(Theorem 7.1)

粒子数を、基底準位(ε=0\varepsilon=0)とそれ以外に分けて書きます。状態密度 D(ε)εD(\varepsilon)\propto\sqrt\varepsilonε=0\varepsilon=0 で消えるため、基底準位を積分に含めてしまうとその寄与が失われます。そこで明示的に分離します。

N=N0+Nex,N0=1z11,Nex=0D(ε)1z1eβε1dε.N = N_0 + N_{\mathrm{ex}},\qquad N_0 = \frac{1}{z^{-1}-1},\qquad N_{\mathrm{ex}} = \int_0^\infty D(\varepsilon)\,\frac{1}{z^{-1}e^{\beta\varepsilon}-1}\,d\varepsilon .

NexN_{\mathrm{ex}}zz について単調増加なので、z1z \le 1 の範囲での最大値は z=1z=1 でとります。C=gV(2m)3/2/(4π23)C = gV(2m)^{3/2}/(4\pi^2\hbar^3) として

Nexmax=C0εeβε1dε=C(kBT)3/20xex1dx.N_{\mathrm{ex}}^{\max} = C\int_0^\infty\frac{\sqrt\varepsilon}{e^{\beta\varepsilon}-1}d\varepsilon = C\left(k_BT\right)^{3/2}\int_0^\infty\frac{\sqrt{x}}{e^{x}-1}dx .

積分は 1ex1=l1elx\frac{1}{e^x-1} = \sum_{l\ge1}e^{-lx} と展開して項別に積分すると

0xex1dx=l=10xelxdx=l=1Γ(3/2)l3/2=π2ζ(3/2)\int_0^\infty\frac{\sqrt x}{e^x-1}dx = \sum_{l=1}^\infty\int_0^\infty \sqrt{x}\,e^{-lx}dx = \sum_{l=1}^\infty\frac{\Gamma(3/2)}{l^{3/2}} = \frac{\sqrt\pi}{2}\zeta(3/2)

です。C(kBT)3/2π2C(k_BT)^{3/2}\frac{\sqrt\pi}{2} を整理すると(Proposition 5.2Z1Z_1 の計算と同じ変形で)gV/λT3gV/\lambda_T^3 になるので、

Nexmax=gVλT3ζ(3/2),すなわちNexmaxV=gζ(3/2)λT3.N_{\mathrm{ex}}^{\max} = \frac{gV}{\lambda_T^3}\,\zeta(3/2),\qquad\text{すなわち}\qquad \frac{N_{\mathrm{ex}}^{\max}}{V} = \frac{g\,\zeta(3/2)}{\lambda_T^3} .

これが定理の最後の主張です。nn が与えられたとき、n>gζ(3/2)/λT3n > g\zeta(3/2)/\lambda_T^3 なら励起状態だけでは粒子を収容しきれません。この不等式が等号になる温度を解くと、λT2=h2/(2πmkBT)\lambda_T^2 = h^2/(2\pi mk_BT) より

Tc=h22πmkB(ngζ(3/2))2/3=2π2mkB(ngζ(3/2))2/3T_c = \frac{h^2}{2\pi m k_B}\left(\frac{n}{g\zeta(3/2)}\right)^{2/3} = \frac{2\pi\hbar^2}{mk_B}\left(\frac{n}{g\zeta(3/2)}\right)^{2/3}

となり、定理の TcT_c の式を得ます。

T<TcT < T_c では NexNexmax<NN_{\mathrm{ex}} \le N_{\mathrm{ex}}^{\max} < N なので、余った粒子は基底準位に入るほかありません。λTT1/2\lambda_T\propto T^{-1/2} より NexmaxT3/2N_{\mathrm{ex}}^{\max}\propto T^{3/2} で、T=TcT=T_cNN に等しいので Nexmax(T)=N(T/Tc)3/2N_{\mathrm{ex}}^{\max}(T) = N(T/T_c)^{3/2}。このとき zz11 からの差が O(1/N)O(1/N) になり(N0=(z11)1N_0 = (z^{-1}-1)^{-1} がマクロになるにはそうでなければなりません)、熱力学的極限では Nex=NexmaxN_{\mathrm{ex}} = N_{\mathrm{ex}}^{\max} とみなせます。よって

N0N=1NexN=1(TTc)3/2(TTc).\frac{N_0}{N} = 1 - \frac{N_{\mathrm{ex}}}{N} = 1-\left(\frac{T}{T_c}\right)^{3/2}\qquad (T\le T_c).

T>TcT > T_c では z<1z<1Nex=NN_{\mathrm{ex}} = N を満たすように決まり、N0=(z11)1N_0 = (z^{-1}-1)^{-1}NN に比べて無視できる O(1)O(1) の量にとどまります。

Remark 7.2

凝縮相ではグランドカノニカル形式の粒子数ゆらぎが病的に大きくなります。Proposition 4.4n0=N0N\langle n_0\rangle = N_0 \sim N とすると、基底準位だけでゆらぎが N0(1+N0)N\sqrt{N_0(1+N_0)}\sim N、つまり相対ゆらぎが O(1)O(1) です。これはアンサンブル間の等価性が凝縮相で破れることを意味します(Remark 5.3[グランドカノニカル集団])。ただし N0/NN_0/N の期待値そのものは正しく、実験と一致します。厳密な扱いにはカノニカル集団での計算が必要です。

T=TcT=T_c で凝縮が始まるとき、粒子は空間的に集まるのではなく運動量空間の 1 点k=0\boldsymbol{k}=0)に集まります。これが通常の相転移と異なる点で、相互作用がまったくない系に相転移が起こる稀な例になっています。

7.2. 具体例:液体ヘリウムと光子気体

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Example 7.3液体 4He の臨界温度

4^4He は Remark 3.2 よりボース粒子で、スピン 00 なので g=1g=1 です。液体 4^4He の密度は 0.145 g/cm3=145 kg/m30.145\ \mathrm{g/cm^3} = 145\ \mathrm{kg/m^3}、原子質量は m=6.65×1027m = 6.65\times10^{-27} kg なので

n=1456.65×1027=2.18×1028 m3.n = \frac{145}{6.65\times10^{-27}} = 2.18\times10^{28}\ \mathrm{m^{-3}} .

Theorem 7.1 に代入します。n/ζ(3/2)=2.18×1028/2.612=8.35×1027n/\zeta(3/2) = 2.18\times10^{28}/2.612 = 8.35\times10^{27}、この 2/32/3 乗は (2.03×109)2=4.11×1018\left(2.03\times10^{9}\right)^2 = 4.11\times10^{18}。前係数は

2π2mkB=6.28×1.11×10686.65×1027×1.38×1023=6.99×10689.18×1050=7.61×1019\frac{2\pi\hbar^2}{mk_B} = \frac{6.28\times1.11\times10^{-68}}{6.65\times10^{-27}\times1.38\times10^{-23}} = \frac{6.99\times10^{-68}}{9.18\times10^{-50}} = 7.61\times10^{-19}

なので Tc=7.61×1019×4.11×1018=3.1T_c = 7.61\times10^{-19}\times4.11\times10^{18} = 3.1 K です。

実際の 4^4He は 2.172.17 K(λ\lambda 点)で超流動に転移します。理想気体近似で 40%40\,\% の誤差というのは、原子間に強い斥力芯がある液体としては驚くほどよい一致です。カメルリン・オネスの液化以来知られていた λ\lambda 点の起源が量子統計にあることを、この一致がロンドンに確信させました(1938 年)。ただし超流動そのものの説明には相互作用が不可欠で、理想ボース気体は超流動臨界速度をもちません。

Example 7.4化学ポテンシャルが 0 のボース気体:光子と黒体放射

空洞内の電磁場は、各モードを 1 粒子準位と見なすと光子(スピン 11、ただし横波 2 偏極なので g=2g=2)のボース気体です。光子は壁で自由に生成・消滅するため粒子数が保存せず、平衡条件は μ=0\mu = 0 になります。Theorem 4.3μ=0\mu=0ε=ω\varepsilon = \hbar\omega を入れると

n(ω)=1eβω1\langle n(\omega)\rangle = \frac{1}{e^{\beta\hbar\omega}-1}

で、これはプランク分布です。光子は ε=ck\varepsilon = c\hbar k という線形分散を持つので状態密度が D(ω)ω2D(\omega)\propto\omega^2 となり、エネルギー密度は

u(ω)dω=ω3π2c3dωeβω1u(\omega)\,d\omega = \frac{\hbar\omega^3}{\pi^2c^3}\frac{d\omega}{e^{\beta\hbar\omega}-1}

(プランクの放射公式)。ωkBT\hbar\omega\ll k_BT で分母を βω\beta\hbar\omega と近似すると uω2kBTu \propto \omega^2 k_BT でレイリー・ジーンズ則になり、高振動数側では eβωe^{-\beta\hbar\omega} で切れます。§1 で挙げた紫外発散は、n\langle n\rangle1/(ex1)1/(e^{x}-1) であって古典的な等分配 kBTk_BT ではないことによって回避されます。なお μ\mu が常に 00 に固定されているので、光子気体には Theorem 7.1 の意味の凝縮は起こりません(低温では単に光子数が減ります)。

Remark 7.5

希薄原子気体での純粋なボース・アインシュタイン凝縮は、レーザー冷却と蒸発冷却の発達を待って 1995 年に実現しました。コーネルとワイマンのグループが 87^{87}Rb で、ケターレのグループが 23^{23}Na で観測し、3 名は 2001 年のノーベル物理学賞を受賞しています。磁気トラップ中の気体は調和ポテンシャルに閉じ込められているため状態密度が箱の場合と異なり、凝縮率は 1(T/Tc)31-(T/T_c)^3 となります。同じ議論を状態密度を変えて繰り返せば導けます。

Exercise 8.1標準

理想フェルミ気体の 1 粒子準位 ii について、占有数 nin_i の確率分布を直接書き下し、ni\langle n_i\rangleni2\langle n_i^2\rangle を計算して Proposition 4.4 を確かめてください。またボース気体について、ni1\langle n_i\rangle \gg 1 のときの相対ゆらぎ ni2ni2/ni\sqrt{\langle n_i^2\rangle-\langle n_i\rangle^2}/\langle n_i\rangle を求めてください。

Solution

フェルミの場合、Theorem 4.1 の証明で見たように準位 ii の状態は ni{0,1}n_i\in\{0,1\} の 2 つだけで、x=β(εiμ)x = \beta(\varepsilon_i-\mu) とおくと

p(0)=11+ex,p(1)=ex1+ex=1ex+1p(0) = \frac{1}{1+e^{-x}},\qquad p(1) = \frac{e^{-x}}{1+e^{-x}} = \frac{1}{e^{x}+1}

です。よって ni=0p(0)+1p(1)=(ex+1)1\langle n_i\rangle = 0\cdot p(0)+1\cdot p(1) = (e^x+1)^{-1}Theorem 4.3 と一致します。さらに ni2=nin_i^2 = n_i(値が 0011 しかないから)なので ni2=ni\langle n_i^2\rangle = \langle n_i\rangle、したがって

ni2ni2=nini2=ni(1ni)\langle n_i^2\rangle - \langle n_i\rangle^2 = \langle n_i\rangle - \langle n_i\rangle^2 = \langle n_i\rangle\left(1-\langle n_i\rangle\right)

Proposition 4.4θ=+1\theta=+1 の場合に一致します。

ボースの場合、Proposition 4.4 より分散は ni(1+ni)\langle n_i\rangle(1+\langle n_i\rangle) なので

ni(1+ni)ni=1ni+1  ni  1.\frac{\sqrt{\langle n_i\rangle\left(1+\langle n_i\rangle\right)}}{\langle n_i\rangle} = \sqrt{\frac{1}{\langle n_i\rangle}+1}\ \xrightarrow[\ \langle n_i\rangle\to\infty\ ]{}\ 1 .

相対ゆらぎが 11 に近づく、つまり粒子数がまったく平均値に集中しません。これがカオス光(熱光源)の強度ゆらぎで、レーザー光(コヒーレント状態、ポアソン統計で相対ゆらぎ n1/2\langle n\rangle^{-1/2})との決定的な違いです。

Exercise 8.2

理想量子気体の状態方程式を縮退度 α=nλT3/g\alpha = n\lambda_T^3/g について 2 次まで展開し、

PnkBT=1+θnλT325/2g+O ⁣(α2)\frac{P}{nk_BT} = 1 + \theta\,\frac{n\lambda_T^3}{2^{5/2}\,g} + O\!\left(\alpha^2\right)

を示してください。フェルミ気体とボース気体で圧力が古典値からどちらにずれるか、Example 3.4 の描像と整合するか確認してください。

Solution

Theorem 4.1 を連続化し、ln(1+u)=l1(1)l1ul/l\ln(1+u) = \sum_{l\ge1}(-1)^{l-1}u^l/lu=θzeβεu=\theta z e^{-\beta\varepsilon} に適用します。θθl=θl+1=θl1\theta\cdot\theta^{l} = \theta^{l+1} = \theta^{l-1}θ2=1\theta^2=1)なので

lnΞ=l=1(θ)l1lzl0D(ε)elβεdε.\ln\Xi = \sum_{l=1}^\infty \frac{(-\theta)^{l-1}}{l}z^l\int_0^\infty D(\varepsilon)e^{-l\beta\varepsilon}d\varepsilon .

内側の積分は温度を T/lT/l に置き換えた 1 粒子分配関数なので、Proposition 5.2 の計算より gV/λT/l3=gVl3/2/λT3gV/\lambda_{T/l}^3 = gVl^{-3/2}/\lambda_T^3 です。したがって

PVkBT=lnΞ=gVλT3l1(θ)l1l5/2zl,N=zlnΞz=gVλT3l1(θ)l1l3/2zl.\frac{PV}{k_BT} = \ln\Xi = \frac{gV}{\lambda_T^3}\sum_{l\ge1}\frac{(-\theta)^{l-1}}{l^{5/2}}z^l,\qquad N = z\frac{\partial\ln\Xi}{\partial z} = \frac{gV}{\lambda_T^3}\sum_{l\ge1}\frac{(-\theta)^{l-1}}{l^{3/2}}z^l .

α=nλT3/g\alpha = n\lambda_T^3/g とおくと、第 2 式は α=zθz2/23/2+O(z3)\alpha = z - \theta z^2/2^{3/2}+O(z^3)。これを zz について反転すると z=α+θα2/23/2+O(α3)z = \alpha + \theta\alpha^2/2^{3/2}+O(\alpha^3) です(z=α+cα2z=\alpha+c\alpha^2 を代入して 2 次の係数を比較すれば c=θ/23/2c=\theta/2^{3/2})。第 1 式に代入して

βPλT3g=zθz225/2+O(z3)=α+θα223/2θα225/2+O(α3)=α+θα225/2+O(α3)\frac{\beta P\lambda_T^3}{g} = z - \frac{\theta z^2}{2^{5/2}} + O(z^3) = \alpha + \frac{\theta\alpha^2}{2^{3/2}} - \frac{\theta\alpha^2}{2^{5/2}} + O(\alpha^3) = \alpha + \frac{\theta\alpha^2}{2^{5/2}} + O(\alpha^3)

23/225/2=25/2(21)=25/22^{-3/2}-2^{-5/2} = 2^{-5/2}(2-1) = 2^{-5/2} を使いました)。両辺を α\alpha で割り βP/n\beta P/n の形にすれば求める式です。

θ=+1\theta=+1(フェルミ)では圧力が古典値より高く、θ=1\theta=-1(ボース)では低くなります。Example 3.4 でフェルミ粒子は互いを避け、ボース粒子は集まりたがると見ました。避け合う粒子は実効的な斥力を受けているように振る舞って圧力を上げ、集まりたがる粒子は実効的な引力のように振る舞って圧力を下げます。統計だけから生じるこの見かけの力を交換相互作用と呼びます。

Exercise 8.3

面積 AA の 2 次元箱に閉じ込められた自由ボース気体を考えます。2 次元の状態密度が D2D(ε)=gmA/(2π2)D_{2\mathrm{D}}(\varepsilon) = gmA/(2\pi\hbar^2)ε>0\varepsilon>0 で定数)であることを示し、T>0T>0 のかぎりボース・アインシュタイン凝縮が起こらないことを示してください。

Solution

2 次元では kk|\boldsymbol k|\le k の状態数が gAπk2/(2π)2=gAk2/(4π)g\,A\pi k^2/(2\pi)^2 = gAk^2/(4\pi) です。ε=2k2/(2m)\varepsilon = \hbar^2k^2/(2m) より k2=2mε/2k^2 = 2m\varepsilon/\hbar^2 なので、ε\varepsilon 以下の状態数は gAmε/(2π2)gAm\varepsilon/(2\pi\hbar^2)ε\varepsilon で微分して D2D=gAm/(2π2)D_{2\mathrm{D}} = gAm/(2\pi\hbar^2)、確かに定数です。

励起状態が収容できる粒子数は Theorem 7.1 の証明と同じく z1z\to1 で最大になります。その値は

Nexmax=gAm2π20dεz1eβε1=gAm2π21β0zet1zetdt.N_{\mathrm{ex}}^{\max} = \frac{gAm}{2\pi\hbar^2}\int_0^\infty\frac{d\varepsilon}{z^{-1}e^{\beta\varepsilon}-1} = \frac{gAm}{2\pi\hbar^2}\cdot\frac{1}{\beta}\int_0^\infty\frac{ze^{-t}}{1-ze^{-t}}dt .

被積分関数は ddtln(1zet)\frac{d}{dt}\ln\left(1-ze^{-t}\right) に等しいので、積分は [ln(1zet)]0=ln(1z)\left[\ln(1-ze^{-t})\right]_0^\infty = -\ln(1-z)。よって

Nexmax=gAmkBT2π2(ln(1z)).N_{\mathrm{ex}}^{\max} = \frac{gAmk_BT}{2\pi\hbar^2}\left(-\ln(1-z)\right) .

z1z\to1^- でこれは対数的に発散します。したがって、どんなに大きな NN に対しても、それを NexN_{\mathrm{ex}} だけで実現する z<1z<1 が必ず存在します。余りが基底準位に落ちる必要がなく、T>0T>0 では凝縮が起こりません。3 次元との違いは状態密度の ε0\varepsilon\to0 でのふるまいだけ(3 次元は ε\sqrt\varepsilon で消え、2 次元は有限値に留まる)で、それが低エネルギー準位の「収容力」を決めています。

なお 2 次元系でも、調和トラップに閉じ込めると状態密度が ε\varepsilon に比例して 00 で消えるため凝縮が復活します。また相互作用がある 2 次元系では、凝縮なしに超流動が現れるベレジンスキー・コステリッツ・サウレス転移が起こります。

Exercise 8.4標準

白色矮星を、質量 M=2.0×1030M = 2.0\times10^{30} kg(太陽質量程度)、半径 R=7.0×106R = 7.0\times10^6 m(地球程度)の球とし、内部は完全電離した炭素からなるとします。電子の数密度を見積もり、Proposition 6.2 を非相対論的な式のまま使ってフェルミエネルギーを求め、内部温度 10710^7 K と比べてください。

Solution

炭素は核子 12 個あたり電子 6 個、つまり核子 2 個あたり電子 1 個です。核子質量を 1.67×10271.67\times10^{-27} kg として全核子数は 2.0×1030/1.67×1027=1.20×10572.0\times10^{30}/1.67\times10^{-27} = 1.20\times10^{57}、電子数はその半分で 6.0×10566.0\times10^{56}。体積は 43πR3=4.19×(7.0×106)3=1.44×1021 m3\frac43\pi R^3 = 4.19\times(7.0\times10^6)^3 = 1.44\times10^{21}\ \mathrm{m^3} なので

n=6.0×10561.44×1021=4.2×1035 m3.n = \frac{6.0\times10^{56}}{1.44\times10^{21}} = 4.2\times10^{35}\ \mathrm{m^{-3}} .

Proposition 6.2g=2g=2 を入れて kF=(3π2n)1/3=(29.6×4.2×1035)1/3=(1.24×1037)1/3=2.31×1012 m1k_F = (3\pi^2n)^{1/3} = \left(29.6\times4.2\times10^{35}\right)^{1/3} = \left(1.24\times10^{37}\right)^{1/3} = 2.31\times10^{12}\ \mathrm{m^{-1}}。よって

εF=2kF22m=1.11×1068×5.34×10241.82×1030=3.3×1014 J2.0×105 eV=0.20 MeV.\varepsilon_F = \frac{\hbar^2k_F^2}{2m} = \frac{1.11\times10^{-68}\times5.34\times10^{24}}{1.82\times10^{-30}} = 3.3\times10^{-14}\ \mathrm{J} \approx 2.0\times10^{5}\ \mathrm{eV} = 0.20\ \mathrm{MeV}.

フェルミ温度は TF=3.3×1014/1.38×1023=2.4×109T_F = 3.3\times10^{-14}/1.38\times10^{-23} = 2.4\times10^{9} K で、内部温度 10710^7 K の 240 倍です。T/TF4×103T/T_F\approx4\times10^{-3} なので、10710^7 K という高温にもかかわらず電子気体は強く縮退しています。白色矮星を支えているのは熱圧力ではなく縮退圧です。

なお εF=0.20\varepsilon_F = 0.20 MeV は電子の静止エネルギー 0.510.51 MeV の 40%40\,\% に達しており、非相対論的近似はぎりぎりです。密度をさらに上げると相対論的になって Pn4/3P\propto n^{4/3} となり、重力に対抗できなくなる質量の上限(チャンドラセカール限界、約 1.41.4 太陽質量)が現れます。

  • 久保亮五 編『大学演習 熱学・統計力学』裳華房、1961 — 第 6 章「量子統計」。分布関数の導出と縮退気体の演習が豊富です。
  • 田崎晴明『統計力学 II』培風館、2008 — 第 9 章・第 10 章。理想量子気体とボース・アインシュタイン凝縮を、熱力学的極限の扱いまで含めて厳密に議論しています。
  • K. Huang, Statistical Mechanics, 2nd ed., Wiley, 1987 — Chapters 8–12。理想ボース気体・フェルミ気体の系統的な扱いと、フガシティ展開の詳細。
  • N. W. Ashcroft and N. D. Mermin, Solid State Physics, Holt-Saunders, 1976 — Chapter 2。ゾンマーフェルト展開と金属電子論への応用。
  • R. P. Feynman, Statistical Mechanics: A Set of Lectures, Benjamin, 1972 — 液体ヘリウムと超流動の章。理想ボース気体と実際の 4^4He の違いについて。
  • M. H. Anderson, J. R. Ensher, M. R. Matthews, C. E. Wieman, E. A. Cornell, “Observation of Bose-Einstein Condensation in a Dilute Atomic Vapor”, Science 269 (1995), 198–201. DOI: 10.1126/science.269.5221.198

Appendix: ゾンマーフェルト展開の証明

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方針. Theorem 6.4 の主張は、f(ε)-f'(\varepsilon)ε=μ\varepsilon=\mu の周りに幅 kBTk_BT で局在したほぼ偶な「重み関数」であり、そのモーメントが計算できる、という一点に帰着します。

K(ε)=εH(ε)dεK(\varepsilon) = \int_{-\infty}^{\varepsilon}H(\varepsilon')\,d\varepsilon' とおくと K=HK' = H です。ε+\varepsilon\to+\inftyff は指数的に 00 に、ε\varepsilon\to-\inftyK0K\to0HH が負の領域で 00 だから)なので、部分積分の境界項は消えて

Hfdε=[Kf]K(ε)f(ε)dε=K(ε)(f(ε))dε.\int_{-\infty}^{\infty}H f\,d\varepsilon = \left[Kf\right]_{-\infty}^{\infty} - \int_{-\infty}^{\infty}K(\varepsilon)f'(\varepsilon)\,d\varepsilon = \int_{-\infty}^{\infty}K(\varepsilon)\left(-f'(\varepsilon)\right)d\varepsilon .

ここで u=β(εμ)u = \beta(\varepsilon-\mu) とすると

f(ε)=βeu(eu+1)2=β4cosh2(u/2)-f'(\varepsilon) = \frac{\beta e^{u}}{\left(e^{u}+1\right)^2} = \frac{\beta}{4\cosh^2(u/2)}

で、これは uu の偶関数、u1|u|\gg1eue^{-|u|} のように減衰し、(f)dε=[f]\int_{-\infty}^\infty(-f')\,d\varepsilon = \left[f\right] の差から 11 です(正確には f()f(+)=1f(-\infty)-f(+\infty)=1)。

KKε=μ\varepsilon=\mu の周りにテイラー展開します。

K(ε)=K(μ)+K(μ)(εμ)+K(μ)2(εμ)2+K(\varepsilon) = K(\mu) + K'(\mu)(\varepsilon-\mu) + \frac{K''(\mu)}{2}(\varepsilon-\mu)^2+\cdots

これを代入し、f-f' が偶関数であることから奇数次のモーメントが消えます(積分下限を -\infty に延ばす際に生じる誤差は eβμe^{-\beta\mu} のオーダーで、T0T\to0 ではどの TT の冪よりも速く 00 に向かうため無視できます)。2 次のモーメントは

(εμ)2(f)dε=(kBT)2u2eu(eu+1)2du=π23(kBT)2\int_{-\infty}^{\infty}(\varepsilon-\mu)^2\left(-f'\right)d\varepsilon = \left(k_BT\right)^2\int_{-\infty}^{\infty}\frac{u^2e^u}{\left(e^u+1\right)^2}du = \frac{\pi^2}{3}\left(k_BT\right)^2

です(この積分値は l1(1)l1/l2=π2/12\sum_{l\ge1}(-1)^{l-1}/l^2 = \pi^2/12 を経由して得られる標準的な結果です)。したがって

Hfdε=K(μ)+K(μ)2π23(kBT)2+O ⁣((kBT)4)=μHdε+π26(kBT)2H(μ)+O ⁣((kBT)4)\int H f\,d\varepsilon = K(\mu) + \frac{K''(\mu)}{2}\cdot\frac{\pi^2}{3}\left(k_BT\right)^2 + O\!\left((k_BT)^4\right) = \int_{-\infty}^{\mu}H\,d\varepsilon + \frac{\pi^2}{6}\left(k_BT\right)^2H'(\mu)+O\!\left((k_BT)^4\right)

となり(K(μ)=μHK(\mu)=\int_{-\infty}^\mu HK=HK'' = H')、Theorem 6.4 が示されました。同じ手続きを 4 次まで進めると、次の項が 7π4360(kBT)4H(μ)\frac{7\pi^4}{360}(k_BT)^4H'''(\mu) であることもわかります。

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