この年度の数学は大問2題で、2問とも必答です(試験時間は90分)。第1問の前半はパウリ行列の積の表から出発して指数関数 e−iθS(n) を閉じた形に直し、随伴作用が3次元回転になること(ロドリゲスの公式)を導く一連の計算です。後半は2行2列の複素行列・エルミート行列・ユニタリー行列についての真偽判定6問で、真なら証明、偽なら反例を要求されます。第2問は連立偏微分方程式が2題で、いずれも係数行列を対角化して独立な1成分方程式に落とす、という同じ骨格です。前半は特性速度 ±2 の双曲型1階系、後半は拡散係数 1,2 の熱方程式に分解される2階系で、後半では係数行列の固有値の符号が t≥0 で解けることの根拠になります。
| 問題 | 分野 | 主題 |
|---|
| 第1問 | 線形代数・群論 | パウリ行列の積、SU(2) の随伴作用と3次元回転、エルミート行列・ユニタリー行列の真偽判定 |
| 第2問 | 微分方程式・線形代数・フーリエ解析 | 双曲型連立1階方程式の特性分解、拡散型連立2階方程式と熱核 |
単位行列と3つのパウリ行列を
I=(1001),σ1=(0110),σ2=(0i−i0),σ3=(100−1)
と定めます(i は虚数単位)。実3元ベクトル v=(v1,v2,v3) に対して
S(v)=v⋅σ=v1σ1+v2σ2+v3σ3
とおき、実単位ベクトル n と実数 θ に対して X(n,θ)=e−iθS(n) を行列の指数級数 eA=∑k≥0Ak/k! で定義します。設問1ではこの X による S(v) の変換を追い、設問2では2行2列の複素行列全体 G、その中のエルミート行列の集合 H={X∈G:X†=X}、ユニタリー行列の集合 U={X∈G:X†X=XX†=I} について6つの命題の真偽を判定します。X† は転置の複素共役です。
以下、レビ・チビタ記号 εjkl(ε123=1 で添字の互換について反対称、それ以外は 0)を使います。
(i) 直接掛け算します。対角成分の積は
σ12=(0110)2=I,σ22=(0i−i0)2=I,σ32=I
です。異なる添字の積は、たとえば
σ1σ2=(0110)(0i−i0)=(i00−i)=iσ3,σ2σ3=(0i−i0)(100−1)=(0ii0)=iσ1
σ3σ1=(100−1)(0110)=(0−110)=iσ2
となります。残る3つは計算し直す必要がありません。各 σj はエルミートなので (σjσk)†=σk†σj†=σkσj であり、(iσl)†=−iσl を使えば σ2σ1=−iσ3、σ3σ2=−iσ1、σ1σ3=−iσ2 が従います。表にまとめると次のとおりです。
| σjσk | k=1 | k=2 | k=3 |
|---|
| j=1 | I | iσ3 | −iσ2 |
| j=2 | −iσ3 | I | iσ1 |
| j=3 | iσ2 | −iσ1 | I |
9個をまとめた形で書くと、答えは
σjσk=δjkI+il=1∑3εjklσl(j,k=1,2,3)
です。対称部分と反対称部分に分ければ {σj,σk}=2δjkI、[σj,σk]=2i∑lεjklσl と同じ内容です。
(ii) 設問(i) の関係式を代入します。S は v について線形なので
S(a)S(b)=j=1∑3k=1∑3ajbkσjσk=j,k∑ajbk(δjkI+il∑εjklσl)=(a⋅b)I+il=1∑3(j,k∑εjklajbk)σl
となります。∑j,kεjklajbk=(a×b)l なので、答えは
S(a)S(b)=(a⋅b)I+iS(a×b)
すなわち成分で書けば
S(a)S(b)=(a1b1+a2b2+a3b3)I+i[(a2b3−a3b2)σ1+(a3b1−a1b3)σ2+(a1b2−a2b1)σ3]
です。a=b とすると S(a)2=∣a∣2I で、これは以下で繰り返し使います。
(iii) n は単位ベクトルなので、設問(ii) から
S(n)2=(n⋅n)I=I
です。したがって S(n)2m=I、S(n)2m+1=S(n)(m=0,1,2,…)となります。級数の並べ替えが許されることを先に確認します。行列のノルムとして劣乗法的なもの(たとえば作用素ノルム)をとると ∥Ak/k!∥≤∥A∥k/k! で、右辺の和は e∥A∥ に収束します。よって ∑kAk/k! は絶対収束し、偶数項と奇数項に分けて足す順序を変えてよいです。A=−iθS(n) に対して (−iθ)2m=(−1)mθ2m、(−iθ)2m+1=−i(−1)mθ2m+1 なので
X(n,θ)=(m=0∑∞(2m)!(−1)mθ2m)I−i(m=0∑∞(2m+1)!(−1)mθ2m+1)S(n)
となり、答えは
X(n,θ)=cosθI−isinθS(n)=cosθI−isinθ(n1σ1+n2σ2+n3σ3)
です。I の係数が cosθ、σj の係数が −injsinθ です。θ=0 で I に戻ること、θ の1次が −iθS(n) であることが定義と合っています。
この形から X の性質が直に読み取れます。S(n) はエルミートなので
X(n,θ)†=cosθI+isinθS(n)=X(n,−θ)
であり、また
X(n,θ)X(n,−θ)=(cosθI−isinθS(n))(cosθI+isinθS(n))=(cos2θ+sin2θ)I=I
です。よって X(n,−θ)=X(n,θ)−1=X(n,θ)† で、X(n,θ) はユニタリーです。行列式も見ておきます。閉じた形を2乗すると X(n,θ)2=cos2θI−isin2θS(n) なので trX=2cosθ、trX2=2cos2θ であり、2次行列の恒等式 detM=21[(trM)2−trM2] から
detX(n,θ)=21[4cos2θ−2cos2θ]=1
となり、X は SU(2) の元です。
(iv) まず形の主張を示します。M=X(n,θ)S(v)X(n,−θ) と置くと、設問(iii) より X(n,−θ)=X† なので
M†=(XS(v)X†)†=XS(v)†X†=M,trM=tr(S(v)X†X)=trS(v)=0
です(S(v) はエルミートで、trσj=0)。一方、トレースが 0 のエルミートな2次行列は
(pqˉq−p)(p∈R, q∈C)
の形に限られ、S(w)=(w3w1+iw2w1−iw2−w3) と見比べれば w3=p、w1=Req、w2=−Imq として実ベクトル w が一意に決まります。つまりトレースレスなエルミート行列の全体は {S(w):w∈R3} にちょうど一致し、M=S(v′) と書けます。
次に v′ を求めます。c=cosθ、s=sinθ、N=S(n)、V=S(v) と略記すると
M=(cI−isN)V(cI+isN)=c2V+ics(VN−NV)+s2NVN
です。設問(ii) より
NV=(n⋅v)I+iS(n×v),VN=(n⋅v)I−iS(n×v)
(v×n=−n×v を使いました)なので
ics(VN−NV)=ics⋅(−2i)S(n×v)=2csS(n×v)
です。第3項は、(n×v)⋅n=0 と (n×v)×n=v(n⋅n)−n(n⋅v)=v−(n⋅v)n を用いて
NVN=[(n⋅v)I+iS(n×v)]S(n)=(n⋅v)S(n)+i[0⋅I+iS((n×v)×n)]=(n⋅v)S(n)−S(v−(n⋅v)n)=2(n⋅v)S(n)−S(v)
となります。以上を合わせ、c2−s2=cos2θ、2cs=sin2θ、2s2=1−cos2θ を使うと
M=cos2θS(v)+sin2θS(n×v)+(1−cos2θ)(n⋅v)S(n)
です。S の線形性からこれは S(v′) に等しく、答えは
v′=cos2θv+sin2θ(n×v)+(1−cos2θ)(n⋅v)n
です。右辺は実ベクトルなので、上で示した形の主張とも整合します。これは n を軸とする角 2θ の回転を表すロドリゲスの公式です。
検算を2つ入れます。detS(v)=−v32−(v1−iv2)(v1+iv2)=−∣v∣2 であり、detM=detX⋅detS(v)⋅detX−1=detS(v) なので ∣v′∣=∣v∣ でなければなりません。実際、v を軸方向成分 v∥=(n⋅v)n と直交成分 v⊥=v−v∥ に分けると、v′ の式は n 方向成分をそのまま残し(n の係数は cos2θ(n⋅v)+(1−cos2θ)(n⋅v)=n⋅v)、直交面内では v⊥ と n×v=n×v⊥ という互いに直交して長さの等しい2本を cos2θ と sin2θ で混ぜるだけなので、長さは変わりません。もう1つ、θ が微小なとき v′≃v+2θ(n×v) で、これは軸 n まわりの微小回転(右ねじの向き、回転角 2θ)の標準形です。
(v) n⋅v=0 のとき設問(iv) の第3項が落ちて
v′=cos2θv+sin2θ(n×v)
となります。n⊥v なので ∣n×v∣=∣n∣∣v∣=∣v∣ であり、v と n×v は互いに直交する同じ長さの2本です。つまり v′ は n に垂直な平面内で、原点を中心とする半径 ∣v∣ の円周上を動きます。位置は v から測った回転角 2θ で決まり、回転の向きは v から n×v へ向かう向き、すなわち n に関する右ねじの向きです。
したがって θ が 0 から 2π まで動くと回転角 2θ は 0 から 4π まで動き、v′ はこの円周をちょうど2周します。途中 θ=π/2 と θ=3π/2 で v′=−v、θ=π と θ=2π で v′=v に戻ります。θ が π 進むごとに元に戻る点が特徴的で、行列そのものは X(n,π)=−I、X(n,2π)=I と区別されるのに、変換 S(v)↦XS(v)X−1 は ±X で同じになります。SU(2) が3次元回転群 SO(3) を2重に覆っている、という事情がここに現れています。
判定に使う道具を先に用意します。1つはエルミート共役の性質 (AB)†=B†A†、(A†)†=A です。もう1つは2次行列に対するケイリー・ハミルトンの等式
X2−(trX)X+(detX)I=O
で、X=(acbd) について直接確かめられます。実際
X2−(a+d)X=(a2+bcc(a+d)b(a+d)d2+bc)−(a2+adc(a+d)b(a+d)ad+d2)=−(ad−bc)I
です。
(a) 真です。A,B∈U とすると
(AB)†(AB)=B†A†AB=B†IB=B†B=I,(AB)(AB)†=ABB†A†=AIA†=AA†=I
なので AB∈U です。U は積について閉じています(I∈U と A−1=A†∈U も同様に確かめられ、U は群になります)。
(b) 偽です。A,B∈H のとき (AB)†=B†A†=BA なので、AB∈H となるのは AB=BA のとき、つまり2つが可換なときに限ります。反例として A=σ1、B=σ2 をとります。どちらもエルミートですが、設問1(i) より AB=σ1σ2=iσ3 で
(AB)†=(iσ3)†=−iσ3=iσ3=AB
です(σ3=O だから)。すなわち AB=(i00−i)∈/H です。
(c) 偽です。反例は A=2I です。A†=2I=A なので A∈H ですが、A†A=4I=I なので A∈/U です。エルミート性は固有値が実であることを言うだけで、絶対値が 1 であることは何も言いません。
(d) 偽です。反例は A=σ1=(0110) です。σ1†=σ1 なので A∈H で、σ1†σ1=σ12=I かつ σ1σ1†=I なので A∈U ですが、A=I です。A∈H のとき A†A=A2 なので、H∩U は A2=I を満たすエルミート行列全体、つまり固有値が +1 か −1 のエルミート行列全体です。I,−I,σ1,σ2,σ3 はいずれもこれに属します。
(e) 偽です。反例は
X=(0010)
です。X=O ですが X2=(0010)(0010)=O です。この X は Xe1=0、Xe2=e1 という写像で、2回作用させれば必ず 0 に潰れます。行列の積では X=O でも X⋅X=O となりうる(G は零因子をもつ環である)ということです。
(f) 真です。X∈G が X3=O を満たすとします。まず行列式について (detX)3=det(X3)=detO=0 なので detX=0 です。そこでケイリー・ハミルトンの等式は τ=trX と書いて
X2=τX
になります。両辺に X を掛けると X3=τX2=τ2X で、左辺は O なので
τ2X=O
です。ここで場合分けをします。τ=0 なら X=O となり、当然 X2=O です。τ=0 なら X2=τX=O です。どちらの場合も X2=O が成り立ち、これで網羅されています。
この主張が使っているのは行列のサイズが2であること(ケイリー・ハミルトンの次数が2であること)です。3次以上では成り立ちません。たとえば
X=000100010
は X3=O ですが X2=000000100=O です。
以上をまとめると、真は (a) と (f)、偽は (b), (c), (d), (e) です。
設問1では、−∞<x<+∞、−∞<t<+∞ で定義された2変数関数 u1(x,t),u2(x,t) に対する連立1階方程式
∂t∂u1+4∂x∂u2=0,∂t∂u2+∂x∂u1=0
を扱います。以下これを式(1)と呼びます。設問2では、0≤t<+∞、−∞<x<+∞ で定義された f1(x,t),f2(x,t) に対する連立2階方程式
∂t∂f1+∂x2∂2f1−6∂x2∂2f2=0,∂t∂f2+∂x2∂2f1−4∂x2∂2f2=0
を初期条件 f1(x,0)=e−x2、f2(x,0)=0 のもとで解きます。どちらも係数行列が定数なので、それを対角化して成分ごとに独立な1本の方程式に落とすのが筋です。
(i) 式(1) を u=(u1,u2)T について書くと
∂t∂u+A∂x∂u=0,A=(0140)
です。固有値は特性方程式
det(A−λI)=−λ14−λ=λ2−4=0
から λ=±2 です。固有ベクトルの成分を q=(a,b)T と書くと、(A−λI)q=0 の第2行は a−λb=0 です。λ1=2 なら a=2b、λ2=−2 なら a=−2b で、いずれも第1行 −λa+4b=0 を自動的に満たします。よって答えは
λ1=2,q1=(21),λ2=−2,q2=(−21)
です(固有ベクトルには定数倍の任意性があります)。固有値が相異なる実数なので A は実の範囲で対角化でき、式(1) は双曲型です。以下で見るように固有値そのものが特性速度になり、+2 と −2 が右向き・左向きの伝播速度を与えます。
(ii) P=(q1 q2)=(21−21) とすると detP=4=0 で
P−1=41(1−122),P−1AP=(200−2)≡Λ
です。P は定数行列なので微分と交換し、s=(s1,s2)T=P−1u に対して式(1) の両辺に左から P−1 を掛けると
∂t∂s+P−1AP∂x∂s=∂t∂s+Λ∂x∂s=0
となります。成分で書けば答えは
∂t∂s1+2∂x∂s1=0,∂t∂s2−2∂x∂s2=0
で、s1,s2 は完全に分離しました。ここで
s1=4u1+2u2,s2=4−u1+2u2,逆にu1=2s1−2s2,u2=s1+s2
です。
(iii) 1階の移流方程式 ∂ts+c∂xs=0 は、特性線 x−ct=const に沿って s が一定であることと同値です。実際 C1 級の s について dtds(ξ+ct,t)=c∂xs+∂ts=0 なので s(x,t)=s(x−ct,0) であり、逆にこの形は方程式を満たします。これで初期値から解が一意に決まります。
初期条件 u1(x,0)=e−x2、u2(x,0)=0 を設問(ii) の関係に入れると
s1(x,0)=4e−x2,s2(x,0)=−4e−x2
なので
s1(x,t)=41e−(x−2t)2,s2(x,t)=−41e−(x+2t)2
です。u=Ps に戻すと、答えは
u1(x,t)=21[e−(x−2t)2+e−(x+2t)2],u2(x,t)=41[e−(x−2t)2−e−(x+2t)2]
です。これは −∞<t<+∞ の全域で有効です。
検算します。t=0 で u1=e−x2、u2=0 となり初期条件を満たします。次に、式(1) から u2 を消去すると
∂t2∂2u1=−4∂x∂∂t∂u2=4∂x2∂2u1
で、速度 2 の波動方程式です。初期条件は u1(x,0)=e−x2 と ∂tu1(x,0)=−4∂xu2(x,0)=0 なので、ダランベールの公式は u1=21[e−(x−2t)2+e−(x+2t)2] を与え、上と一致します。さらに ∫−∞∞u1dx=π、∫−∞∞u2dx=0 が t に依らず、式(1) が保存形(∂tu1+∂x(4u2)=0 など)であることと合っています。
t=1 での概形を述べます。u1(x,1)=21[e−(x−2)2+e−(x+2)2] は x の偶関数で、つねに正です。x=±2 で値 21(1+e−16)=0.50000006 をとり、真の極大点は内側へ 5×10−7 ほどずれるだけなので、実質的に x=±2 に高さ 1/2 の山が2つ立ちます。山の幅は各ガウス関数の e−1 点で測って中心から ±1 です。x=0 は極小で値は e−4=0.0183、∣x∣→∞ では e−x2 の速さで 0 に収束します。u2(x,1)=41[e−(x−2)2−e−(x+2)2] は奇関数で、零点は x=0 だけです。x=+2 付近で最大値 41(1−e−16)=0.25、x=−2 付近で最小値 −0.25 をとり、やはり両側で 0 に減衰します。要するに、初期の1つの山が高さ半分の2つの山に分かれ、速度 +2 と −2 で左右に離れていく途中の姿です。u2 は右向きの山に正の値、左向きの山に負の値を対応させます。
実線が u1(x,1)、破線が u2(x,1) です。
f=(f1,f2)T と置くと、与えられた連立方程式は
∂t∂f+B∂x2∂2f=0,B=(11−6−4)
と書けます。trB=−3、detB=−4+6=2 なので、固有方程式 μ2−(trB)μ+detB=0 は
μ2+3μ+2=(μ+1)(μ+2)=0
で、固有値は μ1=−1、μ2=−2 です。固有ベクトルを (a,b)T とすると、(B+I)q=0 の第1行は 2a−6b=0 なので q1=(3,1)T、(B+2I)q=0 の第1行は 3a−6b=0 なので q2=(2,1)T です(第2行 a−3b=0、a−2b=0 も同じ条件です)。これを並べて
Q=(3121),detQ=1,Q−1=(1−1−23),Q−1BQ=(−100−2)
とします。g=(g1,g2)T=Q−1f、つまり
g1=f1−2f2,g2=−f1+3f2,逆にf1=3g1+2g2,f2=g1+g2
と置き、方程式に左から Q−1 を掛けると(Q は定数行列なので微分と交換します)
∂t∂g1=∂x2∂2g1,∂t∂g2=2∂x2∂2g2
となります。固有値が2つとも負だったので、符号が反転して拡散係数 D1=1、D2=2 の熱方程式(順方向)になりました。これが定義域を t≥0 にとる理由です。固有値が正だと逆向き熱方程式になり、高波数成分が ek2t で発散して初期値問題は非適切になります。
初期条件は f1(x,0)=e−x2、f2(x,0)=0 なので
g1(x,0)=e−x2,g2(x,0)=−e−x2
です。そこで拡散係数 D>0 の熱方程式 ∂tg=D∂x2g を初期値 g(x,0)=e−x2 で解きます。初期値は急減少(シュワルツ級)なのでフーリエ変換
g^(k,t)=∫−∞∞g(x,t)e−ikxdx
が存在し、微分と積分の交換も許されます。∂x2→−k2 に置き換わるので ∂tg^=−Dk2g^、したがって g^(k,t)=g^(k,0)e−Dk2t です。初期値の変換はガウス積分(指数の平方完成)から
g^(k,0)=∫−∞∞e−x2−ikxdx=e−k2/4∫−∞∞e−(x+ik/2)2dx=πe−k2/4
です。逆変換に a=41+Dt>0 と置いて ∫e−ak2+ikxdk=π/ae−x2/(4a) を使うと
g(x,t)=2π1∫−∞∞πe−ak2eikxdk=2a1e−x2/(4a)=1+4Dt1exp(−1+4Dtx2)
を得ます。これは熱核 (4πDt)−1/2e−(x−y)2/(4Dt) とガウス関数の畳み込みで、幅のパラメータが 1 と 4Dt で足し算されたものと読めます。直接代入でも確かめられます。a(t)=1+4Dt、g=a−1/2e−x2/a とすると
∂t∂g=4De−x2/a[−2a3/21+a5/2x2],D∂x2∂2g=De−x2/a[−a3/22+a5/24x2]
で両者は一致し、t=0 で e−x2 に戻ります。有界かつ連続な初期値に対する熱方程式の有界解は一意(チホノフの一意性定理)なので、これが求める解です。
D=1 と D=2 に対して、係数を初期値に合わせると
g1(x,t)=1+4t1exp(−1+4tx2),g2(x,t)=−1+8t1exp(−1+8tx2)
です。f=Qg に戻すと、答えは
f1(x,t)=1+4t3exp(−1+4tx2)−1+8t2exp(−1+8tx2)
f2(x,t)=1+4t1exp(−1+4tx2)−1+8t1exp(−1+8tx2)
です(0≤t<+∞、−∞<x<+∞)。Q は可逆なので f と g は1対1に対応し、g の一意性から f も有界解の範囲で一意です。
検算します。t=0 では f1=(3−2)e−x2=e−x2、f2=(1−1)e−x2=0 で初期条件を満たします。方程式も、g1′′≡∂x2g1、g2′′≡∂x2g2 と書けば ∂tf1=3g1′′+4g2′′、∂x2f1=3g1′′+2g2′′、∂x2f2=g1′′+g2′′ なので
∂tf1+∂x2f1−6∂x2f2∂tf2+∂x2f1−4∂x2f2=(3+3−6)g1′′+(4+2−6)g2′′=0,=(1+3−4)g1′′+(2+2−4)g2′′=0
と両方が恒等的に成り立ちます。積分量でも確認できます。∫−∞∞(1+4Dt)−1/2e−x2/(1+4Dt)dx=π は t に依らないので ∫f1dx=3π−2π=π、∫f2dx=0 で、いずれも初期値のまま保たれます。これは元の方程式が ∂tfi+∂x(⋯)=0 の保存形であることの帰結です。独立な確認として、x を区間 [−12,12] で刻み幅 0.02、時間刻み 10−5 の陽的差分で t=0.6 まで数値積分し、上の閉じた式と最大 2×10−5 の差(差分の打ち切り誤差の程度)で一致することも確かめました。
解の様子を一言添えます。f1 は幅の異なる2つのガウス関数の差で、時間が経つと両方が t−1/2 で減衰しながら幅 t に広がります。x=0 での値は t→∞ で f1(0,t)≃(3−2)/(2t)=0.793/t に近づきます(t=100 で厳密値 0.0791、この近似が 0.0793)。f2 は t=0 で恒等的に 0 ですが、2つの成分の拡散速度が違うため直ちに立ち上がり、x=0 での値は
f2(0,t)=1+4t1−1+8t1
が t=(22/3−1)/(8−4⋅22/3)=0.356 で最大値 0.133 をとり、その後 (2−2)/(4t)=0.146/t として減衰します。f1,f2 はともに x の偶関数で、∣x∣→∞ でガウス的に 0 になります。
出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成24年度 修士課程 入学試験問題 数学。問題文は要約して引用しています。
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