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等角写像とリーマン写像定理:正則関数が描く「角度を保つ地図」

Prerequisite:留数定理と定積分への応用:孤立特異点の分類から実積分の計算まで

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  • ff が正則で f(z0)0f'(z_0) \neq 0 ならば、ffz0z_0 の近くで「回転と拡大の合成」に見えます。その結果、z0z_0 で交わる 2 曲線の交角が向きを込めて保たれます。これがコーシー・リーマンの関係式の幾何学的な意味です。
  • f(z0)=0f'(z_0) = 0 のときは角度が保たれません。f(z)f(z0)f(z) - f(z_0) の零点の位数が mm なら、角は正確に mm 倍になります。
  • 一次分数変換(メビウス変換)はリーマン球面 C^\hat{\mathbb{C}} の全単射で、円と直線をひとまとめにした「一般化された円」の族を保ちます。これが円円対応です。
  • 相異なる 3 点を相異なる 3 点へ写すメビウス変換はただ 1 つしかなく、交比がメビウス変換の完全な不変量になります。
  • シュワルツの補題から単位円板の正則自己同型がすべて決まり、それは eiθza1aˉze^{i\theta}\dfrac{z-a}{1-\bar{a}z} の形をしています。
  • リーマンの写像定理:C\mathbb{C} 全体ではない空でない単連結領域は、どれも単位円板と双正則に写り合います。境界がとがっていようと分かりにくかろうと、いっさい関係しません。

1. 動機:微分できるとは「無限小の相似変換」であること

Section titled “1. 動機:微分できるとは「無限小の相似変換」であること”

地図を作るとき、球面を平面に写す方法は無数にありますが、面積を正しく写すことと角度を正しく写すことは両立しません。航海者にとって死活的なのは角度のほうです。海図の上で測った針路の角を、実際の海の上でそのまま舵角として使えなければ困るからです。メルカトル図法が 16 世紀から使われ続けているのは、それが角度を保つ写像だからです。ガウスは 1822 年、「ある曲面の各部分を別の曲面の各部分に、最小の部分において相似となるように写す」という問題でコペンハーゲン科学アカデミーの懸賞論文に応えました。「最小の部分において相似」という表現が、これから扱う等角性の正体です。

一方でリーマンは 1851 年の学位論文で、複素関数論をこの幾何学的な言葉で組み立て直しました。この記事の主役である写像定理はそこで提出されたものです。

なぜ「相似」なのかを、実 2 変数の言葉で確かめておきます。領域 ΩR2\Omega \subseteq \mathbb{R}^2 上の C1C^1 級写像 F(x,y)=(u(x,y),v(x,y))F(x,y) = (u(x,y), v(x,y)) を考えると、点 pp での一次近似はヤコビ行列

DF(p)=(uxuyvxvy)DF(p) = \begin{pmatrix} u_x & u_y \\ v_x & v_y \end{pmatrix}

で与えられます。この行列の成分は 4 つとも自由で、一般には平面を引き伸ばし、ひしゃげさせ、角度をめちゃくちゃにします。ところが FF を複素関数 f=u+ivf = u + iv と見て ffz0=x0+iy0z_0 = x_0 + iy_0 で複素微分可能だとすると、コーシー・リーマンの関係式 ux=vyu_x = v_yuy=vxu_y = -v_x が成り立つので、a=ux(p)a = u_x(p)b=vx(p)b = v_x(p) とおいて

DF(p)=(abba)=r(cosαsinαsinαcosα),r=a2+b2,α=arg(a+ib)DF(p) = \begin{pmatrix} a & -b \\ b & a \end{pmatrix} = r\begin{pmatrix} \cos\alpha & -\sin\alpha \\ \sin\alpha & \cos\alpha \end{pmatrix}, \qquad r = \sqrt{a^2+b^2},\quad \alpha = \arg(a+ib)

となります(r>0r > 0 のとき。r=a2+b2=f(z0)r = \sqrt{a^2+b^2} = |f'(z_0)|α=argf(z0)\alpha = \arg f'(z_0) です)。つまり複素微分可能性とは、「一次近似が回転と相似拡大の合成になっている」という条件そのものです。4 つの自由度が 2 つに落ちる代わりに、写像は幾何学的に非常に硬くなります。コーシー・リーマンの関係式については 正則関数とコーシー・リーマンの関係式コーシー・リーマンの関係式(必要性)(Theorem 4.1)[Holomorphic Functions and the Cauchy-Riemann Equations] を参照してください。

ここから自然な問いが 2 つ出てきます。

  1. 逆に、角度を保つ写像は正則関数に限るのか。
  2. 2 つの領域が与えられたとき、それらの間に角度を保つ全単射(双正則写像)は存在するのか。

実の世界では 2 番目の問いはほとんど内容がありません。平面の空でない単連結開集合はどれも R2\mathbb{R}^2 と微分同相だからです。しかし複素の世界では正則関数が硬いぶん、答えは自明ではなくなります。驚くべきことに、リーマンの答えは「単連結でありさえすれば、C\mathbb{C} 自身という 1 つの例外を除いて、いつでも存在する」というものでした。この記事はその主張までの道を、メビウス変換とシュワルツの補題という 2 つの具体的な道具を経由して歩きます。

領域とは、C\mathbb{C} の空でない連結開集合のことをいいます。以下、記号を次のように固定します。

  • D(a,r)={zC:za<r}D(a,r) = \{z \in \mathbb{C} : |z-a| < r\}(中心 aa、半径 rr の開円板)
  • D=D(0,1)={zC:z<1}\mathbb{D} = D(0,1) = \{z \in \mathbb{C} : |z| < 1\}(単位円板)
  • H={zC:Imz>0}\mathbb{H} = \{z \in \mathbb{C} : \operatorname{Im} z > 0\}(上半平面)
  • C^=C{}\hat{\mathbb{C}} = \mathbb{C} \cup \{\infty\}(リーマン球面)

リーマン球面 C^\hat{\mathbb{C}} は、立体射影によって単位球面 S2S^2 と同一視される位相空間です。\infty の近傍は {z:z>R}{}\{z : |z| > R\} \cup \{\infty\} の形の集合とします。この 1 点を付け加えることで「1/z1/z00\infty へ写す」といった言い方が、例外なしの全単射の言葉になります。

Definition 2.1双正則写像・等角同値

Ω1,Ω2\Omega_1, \Omega_2C\mathbb{C} の領域とする。写像 f:Ω1Ω2f : \Omega_1 \to \Omega_2双正則であるとは、ff が正則な全単射であり、かつ逆写像 f1:Ω2Ω1f^{-1} : \Omega_2 \to \Omega_1 も正則であることをいう。Ω1\Omega_1 から Ω2\Omega_2 への双正則写像が存在するとき、Ω1\Omega_1Ω2\Omega_2等角同値であるという。

Remark 2.2

実は「逆写像も正則」という条件は自動的に満たされます。ff が領域 Ω1\Omega_1 上で正則かつ単射ならば、ff'Ω1\Omega_1 上で零点を持たず、f(Ω1)f(\Omega_1) は開集合で、f1f^{-1} は正則になります。これは開写像定理と、零点の位数に関する偏角の原理から従います(正則関数の強力な性質 を参照)。したがって以下では「単射な正則写像」と「像の上への双正則写像」を同じものとして扱います。

この記事では、既出の次の事実を断りなく使います。いずれも前章までで証明したものです。

使う事実内容
最大値原理領域上の正則関数 gg について g\lvert g\rvert が内点で最大値をとれば gg は定数
リウヴィルの定理(Theorem 4.2)[正則関数の強力な性質]有界な整関数は定数
開写像定理定数でない正則関数は開集合を開集合に写す
除去可能特異点定理(Theorem 3.3)[留数定理と定積分への応用]孤立特異点の近くで有界な正則関数はそこへ正則に延びる

Definition 3.1等角性

Ω\Omega を領域、f:ΩCf : \Omega \to \mathbb{C} を連続写像、z0Ωz_0 \in \Omega とする。z0z_0 を通る任意の C1C^1 級曲線 γ:(ε,ε)Ω\gamma : (-\varepsilon, \varepsilon) \to \Omegaγ(0)=z0\gamma(0) = z_0γ(0)0\gamma'(0) \neq 0)に対して像曲線 fγf \circ \gammat=0t = 000 でない接ベクトルを持ち、さらに z0z_0 を通る任意の 2 つのそのような曲線 γ1,γ2\gamma_1, \gamma_2 について

arg(fγ2)(0)(fγ1)(0)=argγ2(0)γ1(0)(mod2π)\arg \frac{(f\circ\gamma_2)'(0)}{(f\circ\gamma_1)'(0)} = \arg \frac{\gamma_2'(0)}{\gamma_1'(0)} \pmod{2\pi}

が成り立つとき、ffz0z_0等角であるという。領域の各点で等角な単射写像を等角写像という。

この定義は「交角の大きさだけでなく、向き(どちらからどちらへ測るか)も保つ」ことを要求している点が要です。たとえば複素共役 zzˉz \mapsto \bar{z} は角の大きさを保ちますが向きを逆にするので、等角ではありません(このような写像は反等角と呼ばれます)。

Theorem 3.2正則写像の局所的な角度

Ω\Omega を領域、f:ΩCf : \Omega \to \mathbb{C} を正則関数、z0Ωz_0 \in \Omega とする。

  1. f(z0)0f'(z_0) \neq 0 ならば、ffz0z_0 で等角である。さらに z0z_0 を通る曲線の接ベクトルはどれも一様に偏角 argf(z0)\arg f'(z_0) だけ回転し、長さは一様に f(z0)|f'(z_0)| 倍される。
  2. ff が定数でなく、ff(z0)f - f(z_0)z0z_0 で位数 m1m \ge 1 の零点を持つとする。このとき z0z_0 を通る C1C^1 級曲線 γ\gammaγ(0)=z0\gamma(0) = z_0γ(0)0\gamma'(0) \neq 0)に対し、極限
θ(γ)=limt0+arg(f(γ(t))f(z0))\theta(\gamma) = \lim_{t \to 0+} \arg\bigl(f(\gamma(t)) - f(z_0)\bigr)

2π2\pi を法として存在し、2 つの曲線 γ1,γ2\gamma_1, \gamma_2 について

θ(γ2)θ(γ1)=m(argγ2(0)argγ1(0))(mod2π)\theta(\gamma_2) - \theta(\gamma_1) = m\left(\arg \gamma_2'(0) - \arg \gamma_1'(0)\right) \pmod{2\pi}

が成り立つ。すなわち z0z_0 における交角はちょうど mm 倍される。

Proof(Theorem 3.2)

(1) γ\gammaγ(0)=z0\gamma(0) = z_0γ(0)0\gamma'(0) \neq 0 を満たす C1C^1 級曲線とします。ffz0z_0 で複素微分可能なので、合成関数の微分法により

(fγ)(0)=f(z0)γ(0).(f\circ\gamma)'(0) = f'(z_0)\,\gamma'(0).

仮定 f(z0)0f'(z_0) \neq 0γ(0)0\gamma'(0) \neq 0 から (fγ)(0)0(f\circ\gamma)'(0) \neq 0 です。よって像曲線は 00 でない接ベクトルを持ちます。2 本の曲線 γ1,γ2\gamma_1, \gamma_2 に対して比をとると、共通因子 f(z0)f'(z_0) が約分されて

(fγ2)(0)(fγ1)(0)=f(z0)γ2(0)f(z0)γ1(0)=γ2(0)γ1(0)\frac{(f\circ\gamma_2)'(0)}{(f\circ\gamma_1)'(0)} = \frac{f'(z_0)\gamma_2'(0)}{f'(z_0)\gamma_1'(0)} = \frac{\gamma_2'(0)}{\gamma_1'(0)}

となり、偏角も一致します。これは Definition 3.1 の条件そのものです。また (fγ)(0)=f(z0)γ(0)(f\circ\gamma)'(0) = f'(z_0)\gamma'(0) の偏角は argf(z0)+argγ(0)\arg f'(z_0) + \arg\gamma'(0)、絶対値は f(z0)γ(0)|f'(z_0)|\,|\gamma'(0)| ですから、後半の主張も従います。

(2) ff(z0)f - f(z_0)z0z_0 で位数 mm の零点を持つので、z0z_0 の近傍で正則な関数 gg が存在して

f(z)f(z0)=(zz0)mg(z),g(z0)0f(z) - f(z_0) = (z-z_0)^m g(z), \qquad g(z_0) \neq 0

と書けます(テイラー展開(Theorem 5.2)[正則関数の強力な性質] f(z)f(z0)=nman(zz0)nf(z) - f(z_0) = \sum_{n \ge m} a_n (z-z_0)^n から g(z)=nman(zz0)nmg(z) = \sum_{n\ge m} a_n (z-z_0)^{n-m} とおけばよく、g(z0)=am0g(z_0) = a_m \neq 0 です)。ここで γ\gamma を条件を満たす曲線とすると、γ\gammat=0t=0 で微分可能であることから γ(t)z0=tγ(0)+o(t)\gamma(t) - z_0 = t\gamma'(0) + o(t) なので

f(γ(t))f(z0)tm=(γ(t)z0t)mg(γ(t)) t0+ γ(0)mg(z0)0.\frac{f(\gamma(t)) - f(z_0)}{t^m} = \left(\frac{\gamma(t)-z_0}{t}\right)^{m} g(\gamma(t)) \xrightarrow{\ t\to 0+\ } \gamma'(0)^m\, g(z_0) \neq 0.

tm>0t^m > 0 なので、arg(f(γ(t))f(z0))\arg(f(\gamma(t)) - f(z_0))arg(γ(0)mg(z0))=margγ(0)+argg(z0)\arg\bigl(\gamma'(0)^m g(z_0)\bigr) = m \arg\gamma'(0) + \arg g(z_0) に収束します(2π2\pi を法として)。これが θ(γ)\theta(\gamma) の存在です。2 本の曲線について差をとると、γ\gamma に依らない項 argg(z0)\arg g(z_0) が消えて

θ(γ2)θ(γ1)=margγ2(0)margγ1(0)\theta(\gamma_2) - \theta(\gamma_1) = m\arg\gamma_2'(0) - m\arg\gamma_1'(0)

を得ます。なお m=1m = 1f(z0)0f'(z_0) \neq 0 と同値なので、(2) は (1) の一般化になっています。

Remark 3.3

逆も成り立ちます。F:ΩR2F : \Omega \to \mathbb{R}^2C1C^1 級で、各点で detDF>0\det DF > 0 かつ角度を保つならば、FF は正則です。実際、線型写像 TT が角度を保つとしましょう。e1,e2e_1, e_2 を標準基底とすると、e1e2e_1 \perp e_2 より Te1,Te2=0\langle Te_1, Te_2\rangle = 0 です。また e1+e2e_1+e_2e1e2e_1-e_2 も直交するので T(e1+e2),T(e1e2)=Te12Te22=0\langle T(e_1+e_2), T(e_1-e_2)\rangle = |Te_1|^2 - |Te_2|^2 = 0、すなわち Te1=Te2=:λ>0|Te_1| = |Te_2| =: \lambda > 0 です。したがって λ1T\lambda^{-1}T は正規直交基底を正規直交基底に写す直交変換で、detT>0\det T > 0 より回転になります。つまり DFDF は各点で「正数倍された回転」であり、これは §1 で見たとおりコーシー・リーマンの関係式にほかなりません。等角写像と単射正則写像は同じものだ、と言ってよいわけです。

Example 3.42 乗写像:第一象限を上半平面へ

Q={reiθ:r>0, 0<θ<π/2}Q = \{re^{i\theta} : r > 0,\ 0 < \theta < \pi/2\}(第一象限)上で f(z)=z2f(z) = z^2 を考えます。z=reiθQz = re^{i\theta} \in Q に対し f(z)=r2e2iθf(z) = r^2 e^{2i\theta} で、θ2θ\theta \mapsto 2\theta(0,π/2)(0,\pi/2) から (0,π)(0,\pi) への全単射、rr2r \mapsto r^2(0,)(0,\infty) から (0,)(0,\infty) への全単射ですから、ffQQ から H\mathbb{H} の上への全単射です。QQ 上では f(z)=2z0f'(z) = 2z \neq 0 なので、Theorem 3.2 (1) より ffQQ の各点で等角です。

一方、境界点 z0=0z_0 = 0 では様子が変わります。f(z)f(0)=z2f(z) - f(0) = z^200 で位数 22 の零点を持つので、Theorem 3.2 (2) より角は 22 倍されます。実際、QQ の境界がなす直角(正の実軸と正の虚軸のなす角 π/2\pi/2)は、像では平角 π\pi(実軸全体)になっています。角が保たれない点はここだけで、しかもそれは f(0)=0f'(0) = 0 という 1 つの等式に完全に記録されています。

Example 3.5指数写像:帯を上半平面へ

S={zC:0<Imz<π}S = \{z \in \mathbb{C} : 0 < \operatorname{Im} z < \pi\} とし、f(z)=ezf(z) = e^z を考えます。

単射性。 ez1=ez2e^{z_1} = e^{z_2} ならば z1z22πiZz_1 - z_2 \in 2\pi i \mathbb{Z} です。z1,z2Sz_1, z_2 \in S なら Im(z1z2)<π<2π|\operatorname{Im}(z_1-z_2)| < \pi < 2\pi なので z1=z2z_1 = z_2 となります。

像。 z=x+iySz = x+iy \in S に対し ez=ex(cosy+isiny)e^z = e^x(\cos y + i \sin y) で、0<y<π0 < y < \pi より siny>0\sin y > 0、したがって Imez=exsiny>0\operatorname{Im} e^z = e^x \sin y > 0 です。よって f(S)Hf(S) \subseteq \mathbb{H}。逆に wHw \in \mathbb{H}w=ρeiϕw = \rho e^{i\phi}ρ>0\rho > 00<ϕ<π0 < \phi < \pi)と極形式で書けば、z=logρ+iϕSz = \log\rho + i\phi \in Sez=we^z = w を満たします。ゆえに f(S)=Hf(S) = \mathbb{H} です。

f(z)=ez0f'(z) = e^z \neq 0 なので ff は等角写像であり、SSH\mathbb{H} は等角同値です。この写像は格子の像を見ると直感がつかめます。水平線 Imz=c\operatorname{Im} z = c0<c<π0 < c < \pi)は偏角 cc の半直線 {ρeic:ρ>0}\{\rho e^{ic} : \rho > 0\} に写り、垂直線分 Rez=c\operatorname{Re} z = c は半円 {eceiϕ:0<ϕ<π}\{e^{c}e^{i\phi} : 0 < \phi < \pi\} に写ります。左側で直交していた格子が、右側でも直交したままであることが等角性の目に見える表れです。

z 平面w 平面w = ez0iπ/2i
指数写像による格子の対応。左の帯の直交格子(垂直線と水平線)が、右では上半平面の同心半円と放射状の半直線に写り、交角の直角がそのまま保たれます。

等角写像のもっとも基本的な供給源が、次の変換の族です。これらはリーマン球面全体の等角同型をすべて尽くすことが知られており、複素関数論のあらゆる場面に顔を出します。

Definition 4.1一次分数変換(メビウス変換)

a,b,c,dCa,b,c,d \in \mathbb{C}adbc0ad-bc \neq 0 を満たすとき、

T(z)=az+bcz+dT(z) = \frac{az+b}{cz+d}

で定まる写像を一次分数変換またはメビウス変換という。TTC^\hat{\mathbb{C}} 上の写像として、次の規約で定義域を拡張する。

  • c0c \neq 0 のとき:T(d/c)=T(-d/c) = \inftyT()=a/cT(\infty) = a/c
  • c=0c = 0 のとき:T()=T(\infty) = \infty

条件 adbc0ad-bc \neq 0 は本質的です。adbc=0ad-bc = 0 なら TT は定数写像になってしまい(たとえば c0c \neq 0 のとき a=λca = \lambda c, b=λdb = \lambda d と書けて TλT \equiv \lambda)、写像としての意味を失います。

Proposition 4.2メビウス変換の基本性質

メビウス変換全体のなす集合を M\mathcal{M} と書く。

  1. M\mathcal{M} は写像の合成に関して群をなし、各元は C^\hat{\mathbb{C}} から C^\hat{\mathbb{C}} への全単射である。
  2. 正則行列
A=(abcd)GL2(C)A = \begin{pmatrix} a & b \\ c & d\end{pmatrix} \in GL_2(\mathbb{C})

に対し TA(z)=(az+b)/(cz+d)T_A(z) = (az+b)/(cz+d) と定めると、Φ(A)=TA\Phi(A) = T_A で与えられる写像 Φ:GL2(C)M\Phi : GL_2(\mathbb{C}) \to \mathcal{M} は全射群準同型で、その核は 00 でないスカラー行列全体である。したがって MPGL2(C)\mathcal{M} \cong PGL_2(\mathbb{C})。 3. 各メビウス変換は、平行移動 zz+βz \mapsto z+\beta、回転と拡大 zαzz \mapsto \alpha zα0\alpha \neq 0)、反転 z1/zz \mapsto 1/z の有限個の合成として表せる。

Proof(Proposition 4.2)

(2) から示します。Tj(z)=(ajz+bj)/(cjz+dj)T_j(z) = (a_jz+b_j)/(c_jz+d_j)j=1,2j=1,2)に対して

T1(T2(z))=a1a2z+b2c2z+d2+b1c1a2z+b2c2z+d2+d1=(a1a2+b1c2)z+(a1b2+b1d2)(c1a2+d1c2)z+(c1b2+d1d2)T_1(T_2(z)) = \frac{a_1\dfrac{a_2z+b_2}{c_2z+d_2}+b_1}{c_1\dfrac{a_2z+b_2}{c_2z+d_2}+d_1} = \frac{(a_1a_2+b_1c_2)z + (a_1b_2+b_1d_2)}{(c_1a_2+d_1c_2)z + (c_1b_2+d_1d_2)}

となります(分母・分子に c2z+d2c_2z+d_2 を掛けました)。右辺の係数は行列の積

(a1b1c1d1)(a2b2c2d2)=(a1a2+b1c2a1b2+b1d2c1a2+d1c2c1b2+d1d2)\begin{pmatrix} a_1 & b_1 \\ c_1 & d_1\end{pmatrix}\begin{pmatrix} a_2 & b_2 \\ c_2 & d_2\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} a_1a_2+b_1c_2 & a_1b_2+b_1d_2 \\ c_1a_2+d_1c_2 & c_1b_2+d_1d_2\end{pmatrix}

の成分そのものです。行列式は積で保たれるので det0\det \neq 0 も保たれます。よって Φ\Phi は準同型で、定義から全射です。核については、T=idT = \mathrm{id}az+b=z(cz+d)az+b = z(cz+d) すなわち cz2+(da)zb=0cz^2 + (d-a)z - b = 0 がすべての zz で成り立つことと同値で、多項式の係数比較から c=0c = 0, b=0b = 0, a=da = d、つまりスカラー行列に限ります。

(1):単位行列は恒等写像を与え、逆行列(成分を上から順に d,b,c,ad, -b, -c, a とし、全体を adbcad-bc で割ったもの)に対応する変換が TT の逆写像になります。準同型性から TT1=T1T=idT \circ T^{-1} = T^{-1}\circ T = \mathrm{id} で、これは C^\hat{\mathbb{C}} 上の等式です(\infty や極での規約もこの計算と整合します。実際、C^\hat{\mathbb{C}} を複素射影直線 P1(C)\mathbb{P}^1(\mathbb{C})z[z:1]z \mapsto [z:1][1:0]\infty \mapsto [1:0] で同一視すれば、TT は同次座標に対する線型写像 [z:w][az+bw:cz+dw][z:w]\mapsto [az+bw : cz+dw] の誘導する写像そのものであり、規約は自動的に正しくなります)。したがって各 TT は全単射で、M\mathcal{M} は群です。

(3):c=0c = 0 のときは ad0ad \neq 0 より T(z)=(a/d)z+(b/d)T(z) = (a/d)z + (b/d) で、拡大と平行移動の合成です。c0c \neq 0 のときは、分子を az+b=ac(cz+d)+badcaz+b = \frac{a}{c}(cz+d) + b - \frac{ad}{c} と書き直して

T(z)=ac+bcadc1cz+dT(z) = \frac{a}{c} + \frac{bc-ad}{c}\cdot\frac{1}{cz+d}

を得ます。よって T1(z)=cz+dT_1(z) = cz+dT2(w)=1/wT_2(w) = 1/wT3(w)=bcadcwT_3(w) = \frac{bc-ad}{c}wT4(w)=w+acT_4(w) = w + \frac{a}{c} とおけば T=T4T3T2T1T = T_4\circ T_3\circ T_2\circ T_1 です。T1T_1 は拡大と平行移動、T3T_3 は拡大(bcad0bc-ad\neq 0 に注意)、T2T_2 は反転です。

C^\hat{\mathbb{C}}一般化された円とは、C\mathbb{C} 内の円、または直線に \infty を付け加えた集合のことをいいます。立体射影のもとで、これらはちょうど球面 S2S^2 上の円(平面による切り口)に対応します。直線が「北極を通る円」になるわけで、\infty を足すという操作がこの言い換えを可能にしています。

Theorem 4.3円円対応

メビウス変換は C^\hat{\mathbb{C}} の一般化された円を一般化された円に写す。より詳しく、C\mathbb{C} の部分集合が円または直線であることは、A,CRA, C \in \mathbb{R}BCB \in \mathbb{C}B2>AC|B|^2 > AC を満たすある組 (A,B,C)(A,B,C) によって

Azzˉ+Bˉz+Bzˉ+C=0A z\bar{z} + \bar{B}z + B\bar{z} + C = 0

と表されることと同値であり(A0A \neq 0 なら円、A=0A = 0 なら直線)、メビウス変換はこの形の方程式をこの形の方程式に移す。

Proof(Theorem 4.3)

まず方程式の形を確かめます。z=x+iyz = x+iyB=β1+iβ2B = \beta_1 + i\beta_2 とおくと Bˉz+Bzˉ=2Re(Bˉz)=2(β1x+β2y)\bar{B}z + B\bar{z} = 2\operatorname{Re}(\bar{B}z) = 2(\beta_1x + \beta_2 y) なので、方程式は

A(x2+y2)+2β1x+2β2y+C=0A(x^2+y^2) + 2\beta_1 x + 2\beta_2 y + C = 0

と書けます。A0A \neq 0 のとき、両辺を AA で割って平方完成すると

(x+β1A)2+(y+β2A)2=B2ACA2\left(x + \frac{\beta_1}{A}\right)^2 + \left(y+\frac{\beta_2}{A}\right)^2 = \frac{|B|^2 - AC}{A^2}

となり、B2>AC|B|^2 > AC のときちょうど中心 B/A-B/A、半径 B2AC/A\sqrt{|B|^2-AC}/|A| の円を表します。A=0A = 0 のときは B2>0|B|^2 > 0 より B0B \neq 0 で、方程式は実 1 次方程式 2β1x+2β2y+C=02\beta_1x+2\beta_2y + C = 0、すなわち直線です。逆に任意の円・直線がこの形に書けることは同じ計算を逆にたどればわかります。

次に Proposition 4.2 (3) により、平行移動・拡大・反転の 3 種類について方程式の形が保たれることを見れば十分です。以下、zz の方程式を ww の方程式に書き直します。

平行移動 w=z+βw = z+\beta z=wβz = w - \beta を代入すると、Awβ2+Bˉ(wβ)+B(wˉβˉ)+C=0A|w-\beta|^2 + \bar{B}(w-\beta) + B(\bar{w}-\bar{\beta}) + C = 0、すなわち Awwˉ+(BAβ)w+(BAβ)wˉ+(Aβ22Re(Bˉβ)+C)=0A w\bar w + \overline{(B - A\beta)}w + (B-A\beta)\bar w + (A|\beta|^2 - 2\operatorname{Re}(\bar B \beta) + C) = 0 です。新しい係数を A=AA' = A, B=BAβB' = B - A\beta, C=Aβ22Re(Bˉβ)+CC' = A|\beta|^2 - 2\operatorname{Re}(\bar B\beta)+C とすると、A,CA', C' は実数で、直接計算すると B2AC=B2AC>0|B'|^2 - A'C' = |B|^2 - AC > 0 が成り立ちます。

拡大・回転 w=αzw = \alpha zα0\alpha \neq 0)。 z=w/αz = w/\alpha を代入し、両辺に α2|\alpha|^2 を掛けると Awwˉ+Bαw+Bαwˉ+Cα2=0A w\bar w + \overline{B\alpha}\,w + B\alpha\,\bar w + C|\alpha|^2 = 0。よって A=AA'=A, B=BαB'=B\alpha, C=Cα2C'=C|\alpha|^2 で、B2AC=α2(B2AC)>0|B'|^2 - A'C' = |\alpha|^2(|B|^2-AC) > 0

反転 w=1/zw = 1/z z=1/wz = 1/w を代入して両辺に wwˉw\bar w を掛けると A+Bˉwˉ+Bw+Cwwˉ=0A + \bar{B}\bar{w} + Bw + C w\bar{w} = 0。すなわち A=CA' = C, B=BˉB' = \bar{B}, C=AC' = A で、B2AC=B2CA>0|B'|^2 - A'C' = |B|^2 - CA > 0 です。

以上より 3 種類すべてで形が保たれ、条件 B2>AC|B|^2 > AC も保たれます。最後に \infty の扱いを確認します。一般化された円が \infty を含むのは A=0A = 0(直線)のときちょうどで、00 を含むのは C=0C = 0 のときちょうどです。反転は 00\infty を入れ替えますが、上の計算はまさに AACC を入れ替えており、辻褄が合っています。

Theorem 4.43 点の対応で決まる

z1,z2,z3C^z_1,z_2,z_3 \in \hat{\mathbb{C}} を相異なる 3 点、w1,w2,w3C^w_1,w_2,w_3 \in \hat{\mathbb{C}} を相異なる 3 点とする。このとき T(zj)=wjT(z_j) = w_jj=1,2,3j=1,2,3)を満たすメビウス変換 TT がただ 1 つ存在する。

Proof(Theorem 4.4)

存在。 まず (w1,w2,w3)=(0,1,)(w_1,w_2,w_3) = (0,1,\infty) の場合を作ります。z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 がすべて有限のとき

S(z)=zz1zz3z2z3z2z1S(z) = \frac{z-z_1}{z-z_3}\cdot\frac{z_2-z_3}{z_2-z_1}

とおきます。これは S(z)=(az+b)/(cz+d)S(z) = (az+b)/(cz+d) の形で、a=z2z3a = z_2-z_3b=z1(z2z3)b = -z_1(z_2-z_3)c=z2z1c = z_2-z_1d=z3(z2z1)d = -z_3(z_2-z_1) です。行列式を計算すると

adbc=z3(z2z3)(z2z1)+z1(z2z3)(z2z1)=(z2z3)(z2z1)(z1z3)ad-bc = -z_3(z_2-z_3)(z_2-z_1) + z_1(z_2-z_3)(z_2-z_1) = (z_2-z_3)(z_2-z_1)(z_1-z_3)

となり、3 点が相異なることから 00 ではありません。よって SS はメビウス変換で、代入すれば S(z1)=0S(z_1)=0S(z2)=1S(z_2)=1S(z3)=S(z_3)=\infty を満たします。zjz_j のいずれかが \infty のときは、その因子を 11 に置き換えた式(たとえば z1=z_1=\infty なら S(z)=z2z3zz3S(z) = \frac{z_2-z_3}{z-z_3})を使えば同じ結論を得ます。同様に w1,w2,w3w_1,w_2,w_30,1,0,1,\infty へ写すメビウス変換 SS' をとれば、Proposition 4.2 (1) より T=S1ST = S'^{-1}\circ S がメビウス変換で、T(zj)=wjT(z_j) = w_j を満たします。

一意性。 T1,T2T_1, T_2 がともに条件を満たすとすると、U=ST1T21S1U = S' \circ T_1 \circ T_2^{-1}\circ S'^{-1}0,1,0,1,\infty を固定するメビウス変換です。U(z)=(az+b)/(cz+d)U(z) = (az+b)/(cz+d) と書きます。U()=U(\infty)=\infty から c=0c = 0c0c\neq 0 なら U()=a/cU(\infty)=a/c \neq \infty)、よって U(z)=(az+b)/dU(z) = (az+b)/dad0ad \neq 0U(0)=0U(0)=0 から b=0b = 0U(1)=1U(1)=1 から a=da = d。ゆえに U=idU = \mathrm{id} です。SS' は全単射なので T1=T2T_1 = T_2 を得ます。

Definition 4.5交比

相異なる 3 点 z1,z2,z3C^z_1,z_2,z_3 \in \hat{\mathbb{C}}zC^z \in \hat{\mathbb{C}} に対し、z10z_1 \mapsto 0z21z_2 \mapsto 1z3z_3 \mapsto \infty を満たす唯一のメビウス変換 SSTheorem 4.4)による像

(z,z1,z2,z3):=S(z)=zz1zz3z2z3z2z1(z, z_1, z_2, z_3) := S(z) = \frac{z-z_1}{z-z_3}\cdot\frac{z_2-z_3}{z_2-z_1}

を、この 4 点の交比という(zjz_j\infty のときは対応する因子を 11 と読む)。

交比はメビウス変換で不変です。実際、TT をメビウス変換とし、SS'Tz1,Tz2,Tz3Tz_1, Tz_2, Tz_30,1,0,1,\infty に写す唯一の変換とすると、STS'\circ Tz1,z2,z3z_1,z_2,z_30,1,0,1,\infty に写すメビウス変換なので Theorem 4.4 の一意性から ST=SS'\circ T = S です。したがって

(Tz,Tz1,Tz2,Tz3)=S(Tz)=S(z)=(z,z1,z2,z3)(Tz, Tz_1, Tz_2, Tz_3) = S'(Tz) = S(z) = (z,z_1,z_2,z_3)

が成り立ちます。この不変性は実用的です。「z1,z2,z3z_1,z_2,z_3w1,w2,w3w_1,w_2,w_3 へ写す変換」を求めたければ、(w,w1,w2,w3)=(z,z1,z2,z3)(w,w_1,w_2,w_3) = (z,z_1,z_2,z_3)ww について解けばよいのです。

Remark 4.6

交比 (z,z1,z2,z3)(z,z_1,z_2,z_3) が実数(または \infty)であることは、4 点 z,z1,z2,z3z,z_1,z_2,z_3 が同一の一般化された円の上にあることと同値です。実際、R^=R{}\hat{\mathbb{R}}=\mathbb{R}\cup\{\infty\}0,1,0,1,\infty を通る一般化された円であり、S1S^{-1}Theorem 4.3 により R^\hat{\mathbb{R}}z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 を通る一般化された円へ写すからです。この事実は円円対応の別証明にもなっています。

Example 4.7ケーリー変換:上半平面から単位円板へ

C(z)=ziz+iC(z) = \dfrac{z-i}{z+i}ケーリー変換といいます。これが H\mathbb{H} から D\mathbb{D} の上への双正則写像であることを確かめます。

adbc=1i(i)1=2i0ad-bc = 1\cdot i - (-i)\cdot 1 = 2i \neq 0 なのでメビウス変換です。核心は次の同値変形です。

C(z)<1    zi<z+i    z が i より i に近い    Imz>0.|C(z)| < 1 \iff |z-i| < |z+i| \iff z \text{ が } -i \text{ より } i \text{ に近い} \iff \operatorname{Im} z > 0.

最後の同値は、zi2z+i2=4Imz|z-i|^2 - |z+i|^2 = -4\operatorname{Im}z を直接計算すれば確かめられます。よって C(H)DC(\mathbb{H}) \subseteq \mathbb{D} であり、まったく同じ計算で C(z)>1    Imz<0|C(z)| > 1 \iff \operatorname{Im}z < 0C(z)=1    zR|C(z)|=1 \iff z \in \mathbb{R} がわかります。CCC^\hat{\mathbb{C}} の全単射(Proposition 4.2)なので、H\mathbb{H}D\mathbb{D} の上へ写ります。逆写像は w(z+i)=ziw(z+i) = z-izz について解いて

C1(w)=i1+w1wC^{-1}(w) = i\,\frac{1+w}{1-w}

です。境界の対応も見ておきましょう。C(0)=1C(0) = -1C(1)=1i1+i=(1i)22=iC(1) = \frac{1-i}{1+i} = \frac{(1-i)^2}{2} = -iC()=1C(\infty) = 1 なので、R^\hat{\mathbb{R}} 上を 010 \to 1 \to \infty と進むとき像は単位円周上を 1i1-1 \to -i \to 1 と、下半分を通って進みます。どちらの場合も進行方向の左手側が領域(H\mathbb{H} とその像 D\mathbb{D})であり、向きが保たれていることがわかります。また C(i)=0C(i) = 0 なので、H\mathbb{H} の「中心」にあたる ii が円板の中心へ行きます。

5. シュワルツの補題と単位円板の自己同型

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リーマンの写像定理は「単位円板へ写せる」という形で述べられます。そこで基準となる単位円板そのものの対称性を先に調べておきます。鍵になるのは、最大値原理のごく素直な帰結である次の補題です。

Lemma 5.1シュワルツの補題

f:DDf : \mathbb{D} \to \mathbb{D} を正則で f(0)=0f(0)=0 を満たすものとする。このとき

f(z)z(zD),f(0)1|f(z)| \le |z| \quad (z \in \mathbb{D}), \qquad |f'(0)| \le 1

が成り立つ。さらに、ある z0D{0}z_0 \in \mathbb{D}\setminus\{0\}f(z0)=z0|f(z_0)| = |z_0| となるか、または f(0)=1|f'(0)| = 1 となるならば、λ=1|\lambda| = 1 なる定数 λ\lambda が存在して f(z)=λzf(z) = \lambda z(すべての zDz\in\mathbb{D})である。

Proof(Lemma 5.1)

ffD\mathbb{D} 上正則で f(0)=0f(0)=0 なので、テイラー展開は f(z)=n1anznf(z) = \sum_{n\ge 1}a_nz^n の形です。そこで

g(z)=n1anzn1={f(z)/z(z0)a1=f(0)(z=0)g(z) = \sum_{n \ge 1} a_n z^{n-1} = \begin{cases} f(z)/z & (z \neq 0)\\ a_1 = f'(0) & (z = 0)\end{cases}

とおくと、右辺のべき級数は ff の級数と同じ収束半径(1\ge 1)を持つので、ggD\mathbb{D} 上正則です。

0<r<10 < r < 1 を固定します。z=r|z| = r のとき f(z)<1|f(z)| < 1ff の像が D\mathbb{D} に入るから)なので g(z)=f(z)/r<1/r|g(z)| = |f(z)|/r < 1/r です。gg は閉円板 D(0,r)\overline{D(0,r)} で正則、その内部で最大値原理が使えるので、g|g|D(0,r)\overline{D(0,r)} 上の最大値は境界 z=r|z|=r で達成されます。ゆえに zr|z| \le r なるすべての zzg(z)1/r|g(z)| \le 1/r です。

ここで zDz \in \mathbb{D} を固定し、rrz<r<1|z| < r < 1 の範囲で 11 に近づけると g(z)1/r1|g(z)| \le 1/r \to 1、すなわち g(z)1|g(z)| \le 1 を得ます。これは z0z \neq 0 のとき f(z)z|f(z)| \le |z|z=0z=0 のとき f(0)1|f'(0)| \le 1 を意味します(z=0z=0 では f(0)=0=0|f(0)|=0=|0| も成り立ちます)。

等号の場合を見ます。f(z0)=z0|f(z_0)|=|z_0|z00z_0 \neq 0)なら g(z0)=1|g(z_0)| = 1f(0)=1|f'(0)|=1 なら g(0)=1|g(0)|=1 です。いずれの場合も g|g| は領域 D\mathbb{D} の内点で最大値 11 に達しているので、最大値原理より gg は定数 λ\lambda、しかも λ=1|\lambda| = 1 です。よって f(z)=λzf(z) = \lambda z となります。

つづいて、円板の点 aa を中心へ動かす標準的な写像を用意します。aDa \in \mathbb{D} に対し

φa(z)=za1aˉz\varphi_a(z) = \frac{z-a}{1-\bar{a}z}

とおきます。分母の零点は z=1/aˉz = 1/\bar{a} で、1/aˉ=1/a>1|1/\bar a| = 1/|a| > 1a0a\neq 0 のとき)ですから、φa\varphi_aD\overline{\mathbb{D}} を含む開集合上で正則です。adbc=11(a)(aˉ)=1a20ad-bc = 1\cdot 1 - (-a)(-\bar a) = 1-|a|^2 \neq 0 なのでメビウス変換でもあります。基本的な性質を確認しておきます。

  • z=1|z| = 1 のとき 1aˉz=zzˉaˉ=za=za|1-\bar{a}z| = |z|\,|\bar{z}-\bar{a}| = |\overline{z-a}| = |z-a| なので φa(z)=1|\varphi_a(z)| = 1。すなわち単位円周は単位円周へ写ります。したがって最大値原理から D\mathbb{D} 上で φa1|\varphi_a| \le 1 であり、φa\varphi_a は定数でないので φa<1|\varphi_a| < 1、つまり φa(D)D\varphi_a(\mathbb{D}) \subseteq \mathbb{D} です。
  • φaφa=id\varphi_{-a}\circ\varphi_a = \mathrm{id}。実際
φa(φa(z))=za1aˉz+a1+aˉza1aˉz=(za)+a(1aˉz)(1aˉz)+aˉ(za)=z(1a2)1a2=z.\varphi_{-a}(\varphi_a(z)) = \frac{\dfrac{z-a}{1-\bar{a}z}+a}{1+\bar{a}\dfrac{z-a}{1-\bar{a}z}} = \frac{(z-a)+a(1-\bar{a}z)}{(1-\bar{a}z)+\bar{a}(z-a)} = \frac{z(1-|a|^2)}{1-|a|^2} = z.

同様に φaφa=id\varphi_a \circ \varphi_{-a} = \mathrm{id} なので、φa\varphi_aD\mathbb{D} から D\mathbb{D} の上への双正則写像です。

  • φa(a)=0\varphi_a(a) = 0φa(0)=a\varphi_a(0) = -a

Definition 5.2単連結領域

領域 ΩC\Omega \subseteq \mathbb{C}単連結であるとは、Ω\Omega 内の任意の閉曲線が Ω\Omega の中で 1 点にホモトープであることをいう。同値な言い換えとして、Ω\Omega が単連結であることは C^Ω\hat{\mathbb{C}}\setminus\Omega が連結であることと同値であり、また「Ω\Omega 上の任意の正則関数が原始関数を持つ」「Ω\Omega 上の零点を持たない任意の正則関数が正則な対数を持つ」とも同値である。

D\mathbb{D}H\mathbb{H}、凸領域、星形領域はいずれも単連結です。一方、円環 {1<z<2}\{1 < |z| < 2\} や穴あき円板 D{0}\mathbb{D}\setminus\{0\} は単連結ではありません。Definition 5.2 に挙げた同値条件のうち「零点を持たない正則関数が正則な対数(したがって正則な平方根)を持つ」は、リーマンの写像定理の証明で決定的に効きます。

Theorem 5.3単位円板の自己同型群

Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D})D\mathbb{D} から D\mathbb{D} の上への双正則写像全体(合成に関する群)とすると、

Aut(D)={zeiθza1aˉz : θR, aD}.\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) = \left\{ z \mapsto e^{i\theta}\,\frac{z-a}{1-\bar{a}z} \ :\ \theta \in \mathbb{R},\ a \in \mathbb{D}\right\}.

とくに D\mathbb{D} の自己同型はすべてメビウス変換であり、Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D})D\mathbb{D} に推移的に作用する。

Proof(Theorem 5.3)

\supseteq 上で確かめたとおり φaAut(D)\varphi_a \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) であり、回転 zeiθzz \mapsto e^{i\theta}z も明らかに D\mathbb{D} の自己同型(逆写像は zeiθzz\mapsto e^{-i\theta}z)ですから、その合成 eiθφae^{i\theta}\varphi_aAut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) に属します。

\subseteq fAut(D)f \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) とし、a=f1(0)Da = f^{-1}(0) \in \mathbb{D} とおきます。g=fφag = f \circ \varphi_{-a} と定めると、φa=φa1\varphi_{-a} = \varphi_a^{-1} も自己同型なので gAut(D)g \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) であり、

g(0)=f(φa(0))=f(a)=0g(0) = f(\varphi_{-a}(0)) = f(a) = 0

です(φa(0)=(a)=a\varphi_{-a}(0) = -(-a) = a を使いました)。ggD\mathbb{D} から D\mathbb{D} への正則写像で g(0)=0g(0)=0 なので Lemma 5.1 より g(z)z|g(z)| \le |z| です。同じ議論を g1g^{-1}(これも Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) の元で g1(0)=0g^{-1}(0)=0)に適用すると g1(w)w|g^{-1}(w)| \le |w| で、w=g(z)w = g(z) を代入して zg(z)|z| \le |g(z)| を得ます。両者を合わせて g(z)=z|g(z)| = |z| がすべての zz で成り立つので、z0z \neq 0 を 1 つとれば Lemma 5.1 の等号の場合が適用でき、λ=1|\lambda|=1 なる λ\lambda を用いて g(z)=λzg(z) = \lambda z と書けます。λ=eiθ\lambda = e^{i\theta} とおけば

f=gφa1=gφa,すなわちf(z)=eiθφa(z)f = g \circ \varphi_{-a}^{-1} = g\circ\varphi_a, \qquad \text{すなわち} \quad f(z) = e^{i\theta}\varphi_a(z)

です。推移性は、任意の a,bDa, b \in \mathbb{D} に対し φb1φa\varphi_b^{-1}\circ\varphi_aaabb へ写すことからわかります。

ここまでで、円板・上半平面・帯・第一象限といった具体的な領域が互いに等角同値であることを見てきました。では、もっと複雑な領域はどうでしょうか。境界がフラクタルのようにギザギザな領域や、細長く曲がりくねった領域も円板と等角同値なのでしょうか。リーマンの答えは「C\mathbb{C} 全体でない単連結領域なら、いつでもそうだ」という、驚くほど強いものです。

Theorem 6.1リーマンの写像定理

ΩC\Omega \subseteq \mathbb{C} を単連結領域で ΩC\Omega \neq \mathbb{C} を満たすものとし、z0Ωz_0 \in \Omega とする。このとき、双正則写像 f:ΩDf : \Omega \to \mathbb{D}

f(z0)=0,f(z0)>0f(z_0) = 0, \qquad f'(z_0) > 0

f(z0)f'(z_0) が正の実数)を満たすものがただ 1 つ存在する。とくに、C\mathbb{C} でない単連結領域はすべて互いに等角同値である。

Proof(Theorem 6.1)

ここでは一意性を示します。存在の証明は Appendix に回します。

f,gf, g がともに条件を満たすとします。h=fg1:DDh = f \circ g^{-1} : \mathbb{D}\to\mathbb{D} は双正則写像の合成なので hAut(D)h \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) であり、h(0)=f(g1(0))=f(z0)=0h(0) = f(g^{-1}(0)) = f(z_0) = 0 です。Theorem 5.3 より h(z)=eiθφa(z)h(z) = e^{i\theta}\varphi_a(z) と書けますが、h(0)=eiθφa(0)=eiθa=0h(0) = e^{i\theta}\varphi_a(0) = -e^{i\theta}a = 0 から a=0a = 0、すなわち h(z)=eiθzh(z) = e^{i\theta}z です。

次に hh00 での微分を計算します。合成関数の微分法と逆関数の微分法から

h(0)=f(g1(0))(g1)(0)=f(z0)g(z0).h'(0) = f'(g^{-1}(0))\cdot (g^{-1})'(0) = \frac{f'(z_0)}{g'(z_0)}.

仮定より f(z0)>0f'(z_0) > 0g(z0)>0g'(z_0) > 0 なので h(0)>0h'(0) > 0 です。一方 h(0)=eiθh'(0) = e^{i\theta} ですから、eiθe^{i\theta} は正の実数で絶対値 11、つまり eiθ=1e^{i\theta} = 1。よって h=idh = \mathrm{id}、すなわち f=gf = g です。

最後の主張は、Ω1,Ω2\Omega_1, \Omega_2 が条件を満たす領域のとき、fj:ΩjDf_j : \Omega_j \to \mathbb{D} を上の写像とすれば f21f1:Ω1Ω2f_2^{-1}\circ f_1 : \Omega_1 \to \Omega_2 が双正則であることからわかります。

正規化条件「f(z0)=0f(z_0)=0 かつ f(z0)>0f'(z_0) > 0」は、Theorem 5.3 が示す Aut(D)\mathrm{Aut}(\mathbb{D}) の自由度(aa が 2 次元、θ\theta が 1 次元の計 3 次元)をちょうど消し去るために置かれています。写像は 1 つに決まりますが、z0z_0 の取り方を変えれば別の写像になります。

Remark 6.2

2 つの仮定はどちらも落とせません。

ΩC\Omega \neq \mathbb{C} が必要。 もし双正則写像 f:CDf : \mathbb{C}\to\mathbb{D} があれば、ff は有界な整関数なのでリウヴィルの定理から定数となり、全単射であることに矛盾します。したがって C\mathbb{C} は単連結ですが D\mathbb{D} と等角同値ではありません。C^\hat{\mathbb{C}}C\mathbb{C}D\mathbb{D} の 3 つが単連結リーマン面の同型類のすべてである、というのが一般化された形(一意化定理)です。

単連結性が必要。 双正則写像は同相写像でもあるので、Ω\OmegaD\mathbb{D} と等角同値なら Ω\OmegaD\mathbb{D} と同相であり、単連結性は位相的性質ですから Ω\Omega も単連結です。つまり単連結性は必要条件でもあります。

さらに、単連結でない領域では「形」が連続的な不変量として残ります。円環 A(r,R)={z:r<z<R}A(r,R) = \{z : r < |z| < R\}A(r,R)A(r',R') が等角同値であるための必要十分条件は R/r=R/rR/r = R'/r' であることが知られています。比 R/rR/r(の対数)は円環のモジュラスと呼ばれ、連続的に変化する不変量です。したがって二重連結領域に対する写像定理は成り立ちません。証明は Ahlfors の教科書の円環の章にあります。

Remark 6.3

リーマンの写像定理は純粋な存在定理で、写像を具体的に書き下す方法は与えません。実際、明示的な公式が得られる領域は限られています。多角形に対してはシュワルツ・クリストッフェルの公式があり、内角 α1π,,αnπ\alpha_1\pi, \ldots, \alpha_n\pi の多角形の内部へ H\mathbb{H} を写す双正則写像は

f(z)=C1+C2z1zk=1n(ζxk)αk1dζf(z) = C_1 + C_2\int_{z_1}^{z}\prod_{k=1}^{n}(\zeta - x_k)^{\alpha_k - 1}\,d\zeta

の形になります(xkRx_k \in \mathbb{R} は頂点に対応する境界点)。ただし xkx_k を所望の多角形に合わせて決める部分は、一般には数値的にしか解けません。

境界の対応についてはカラテオドリの定理があります。Ω\Omega の境界がジョルダン曲線(単純閉曲線)ならば、リーマン写像 f:ΩDf:\Omega\to\mathbb{D} は閉包の間の同相写像 ΩD\overline{\Omega}\to\overline{\mathbb{D}} に延長されます。定理の主張自体は境界に何も要求しないのに、境界が良ければ写像も境界まで良く延びる、というわけです。

Example 6.4上半円板を単位円板へ写す

D+={zD:Imz>0}D^{+} = \{z \in \mathbb{D} : \operatorname{Im}z > 0\}(上半円板)は凸領域なので単連結で、C\mathbb{C} とは異なります。Theorem 6.1 により D\mathbb{D} と等角同値ですが、この場合は写像を手で作れます。3 段階に分けます。

第 1 段:D+QD^{+} \to Q(第一象限)。 T(z)=1+z1zT(z) = \dfrac{1+z}{1-z} とおきます。TT はメビウス変換(adbc=111(1)=20ad-bc = 1\cdot 1 - 1\cdot(-1) = 2 \neq 0)で、T(1)=0T(-1) = 0T(i)=1+i1i=(1+i)22=iT(i) = \dfrac{1+i}{1-i} = \dfrac{(1+i)^2}{2} = iT(1)=T(1) = \infty です。Theorem 4.3 より、上半単位円周(1,i,1-1, i, 1 を通る一般化された円の一部)は 0,i,0, i, \infty を通る一般化された円、すなわち虚軸に写ります。同様に区間 (1,1)(-1,1)00\infty を結ぶ実軸の一部、正の実軸に写ります(T(0)=1>0T(0) = 1 > 0 による)。内点 z=i/2z = i/2 の像は

T(i/2)=1+i/21i/2=(1+i/2)21i/22=3/4+i5/4=35+45iT(i/2) = \frac{1+i/2}{1-i/2} = \frac{(1+i/2)^2}{|1-i/2|^2} = \frac{3/4 + i}{5/4} = \frac{3}{5}+\frac{4}{5}i

で第一象限にあります。TTC^\hat{\mathbb{C}} の全単射で境界が第一象限の境界に写ることから、T(D+)=QT(D^{+}) = Q です。

第 2 段:QHQ \to \mathbb{H} Example 3.4ww2w \mapsto w^2 です。

第 3 段:HD\mathbb{H}\to\mathbb{D} Example 4.7 のケーリー変換 CC です。

合成すると

F(z)=C((1+z1z)2)=(1+z)2i(1z)2(1+z)2+i(1z)2F(z) = C\left(\left(\frac{1+z}{1-z}\right)^{2}\right) = \frac{(1+z)^2 - i(1-z)^2}{(1+z)^2 + i(1-z)^2}

(分母・分子に (1z)2(1-z)^2 を掛けました)が D+D^{+} から D\mathbb{D} への双正則写像です。検算しましょう。z=i/2z = i/2 のとき第 1 段の像は 35+45i\frac35+\frac45 i、第 2 段でその 2 乗 725+2425i-\frac{7}{25}+\frac{24}{25}i(確かに上半平面)、第 3 段で

725+2425ii725+2425i+i=7i7+49i=(7+i)7(1+7i)=(7+i)(17i)71+7i2=50i750=i7\frac{-\frac{7}{25}+\frac{24}{25}i - i}{-\frac{7}{25}+\frac{24}{25}i+i} = \frac{-7-i}{-7+49i} = \frac{-(7+i)}{7(-1+7i)} = \frac{-(7+i)(-1-7i)}{7\,|-1+7i|^{2}} = \frac{50i}{7\cdot 50} = \frac{i}{7}

となります((7+i)(17i)=(749ii+7)=50i-(7+i)(-1-7i) = -(-7-49i-i+7) = 50i1+7i2=50|-1+7i|^2 = 50 を使いました)。確かに i/7<1|i/7| < 1 で、D\mathbb{D} の中に入っています。

flowchart LR
A["上半円板"] -->|"(1+z)/(1-z)"| B["第一象限"]
B -->|"2 乗"| C["上半平面"]
C -->|"(z-i)/(z+i)"| D["単位円板"]
上半円板を単位円板へ写す 3 段階。各段はメビウス変換・べき乗・メビウス変換で、いずれも等角です。

7. 応用:調和関数の移送とディリクレ問題

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等角写像が単なる幾何学的な余興ではなく道具になるのは、次の性質があるからです。実 2 変数関数 uu が領域 Ω\Omega 上で調和であるとは、uuC2C^2 級でラプラス方程式 Δu=uxx+uyy=0\Delta u = u_{xx}+u_{yy} = 0 を満たすことをいいます。定常温度分布、静電ポテンシャル、非圧縮非回転流れの速度ポテンシャルなど、物理に現れる場の多くが調和関数です。

Proposition 7.1調和性は正則写像で保たれる

Ω,Ω\Omega, \Omega' を領域、f:ΩΩf : \Omega \to \Omega' を正則写像、u:ΩRu : \Omega' \to \mathbb{R} を調和関数とする。このとき ufu \circ fΩ\Omega 上で調和である。さらに恒等式

Δ(uf)=((Δu)f)f2\Delta(u\circ f) = \bigl((\Delta u)\circ f\bigr)\,|f'|^2

が成り立つ。

Proof(Proposition 7.1)

調和性は局所的な性質なので、各点の近傍で示せば十分です。z1Ωz_1 \in \Omega をとり、w1=f(z1)Ωw_1 = f(z_1) \in \Omega' とします。Ω\Omega' は開集合なので円板 D=D(w1,R)ΩD = D(w_1, R) \subseteq \Omega' がとれます。

円板上で uu は正則関数の実部になる。 g=uxiuyg = u_x - i u_y とおきます。uu が調和で C2C^2 級(実は調和関数は CC^\infty 級です)なので、g=P+iQg = P + iQP=uxP = u_xQ=uyQ = -u_y)に対して

Px=uxx=uyy=Qy,Py=uxy=uyx=QxP_x = u_{xx} = -u_{yy} = Q_y, \qquad P_y = u_{xy} = u_{yx} = -Q_x

が成り立ちます。1 つ目の等号で Δu=0\Delta u = 0 を、2 つ目で偏微分の順序交換(シュワルツの定理(Theorem 7.1)[多変数関数の微分と偏微分]uC2u \in C^2)を使いました。これはコーシー・リーマンの関係式なので ggDD 上正則です。DD は円板なので gg は原始関数 FF を持ちます(DD 上の正則関数の積分は経路に依らない、という コーシーの積分定理(Theorem 4.3)[コーシーの積分定理と積分公式] の帰結です。コーシーの積分定理と積分公式 を参照)。F=U+iVF = U+iV と書くと、コーシー・リーマンの関係式から F=Ux+iVx=UxiUyF' = U_x + iV_x = U_x - iU_y です。F=g=uxiuyF' = g = u_x - iu_y と比べて Ux=uxU_x = u_xUy=uyU_y = u_y、すなわち uUu - U は連結集合 DD 上で定数です。この定数を FF に足して u=ReFu = \operatorname{Re}F としてよいことになります。

合成。 V1=f1(D)V_1 = f^{-1}(D)z1z_1 を含む開集合で、その上で FfF\circ f は正則関数の合成なので正則です。したがって

(uf)(z)=Re(F(f(z)))(zV1)(u\circ f)(z) = \operatorname{Re}\bigl(F(f(z))\bigr) \qquad (z \in V_1)

は正則関数の実部であり、V1V_1 上で調和です(正則関数の実部・虚部が調和であることは、コーシー・リーマンの関係式を微分して得られます。実部・虚部は調和関数(Corollary 5.7)[Holomorphic Functions and the Cauchy-Riemann Equations])。z1z_1 は任意だったので ufu\circ fΩ\Omega 全体で調和です。

恒等式については、uu が調和でない一般の C2C^2 級関数についても、f=p+iqf = p+iq と書いて連鎖律を 2 回使い、コーシー・リーマンの関係式 px=qyp_x = q_ypy=qxp_y = -q_xp,qp, q の調和性を用いると、交叉項が消えて Δ(uf)=(uxx+uyy)f(px2+qx2)=((Δu)f)f2\Delta(u\circ f) = (u_{xx}+u_{yy})\circ f\cdot(p_x^2+q_x^2) = ((\Delta u)\circ f)|f'|^2 が得られます。

この命題は、ディリクレ問題(領域 Ω\Omega 上で調和、境界で与えられた値をとる関数を求める問題)を「解ける領域」へ移す道を開きます。Ω\Omega から解ける領域 Ω\Omega' への双正則写像 ff があり、ff が境界まで連続に延びるならば、Ω\Omega' 上の解 uu を引き戻した ufu\circ fΩ\Omega 上の解になるからです。

Example 7.2上半円板のディリクレ問題を解く

D+={zD:Imz>0}D^{+} = \{z\in\mathbb{D} : \operatorname{Im}z > 0\} 上で調和で、直径部分 (1,1)(-1,1) で値 00、上半円周 {eiϕ:0<ϕ<π}\{e^{i\phi} : 0 < \phi < \pi\} で値 11 をとる関数 uu を求めます。

上半平面・第一象限では解ける。 主枝の対数 Logw=logw+iArgw\operatorname{Log}w = \log|w| + i\operatorname{Arg}wπ<Argw<π-\pi < \operatorname{Arg}w < \pi)は C(,0]\mathbb{C}\setminus(-\infty,0] 上で正則(対数の主枝の正則性(Theorem 6.9)[Holomorphic Functions and the Cauchy-Riemann Equations])なので、その虚部 Argw\operatorname{Arg}w はそこで調和です。第一象限 QQ 上では Argw(0,π/2)\operatorname{Arg}w \in (0,\pi/2) で、正の実軸に近づけると 00、正の虚軸に近づけると π/2\pi/2 に収束します。したがって

v(w)=2πArgwv(w) = \frac{2}{\pi}\operatorname{Arg}w

QQ 上で調和、正の実軸で 00、正の虚軸で 11 という境界値を持ちます。

引き戻す。 Example 6.4 の第 1 段で見たとおり、T(z)=1+z1zT(z) = \dfrac{1+z}{1-z}D+D^{+}QQ の上へ双正則に写し、直径 (1,1)(-1,1) を正の実軸へ、上半円周を正の虚軸へ写します。よって Proposition 7.1 により

u(z)=v(T(z))=2πArg1+z1zu(z) = v(T(z)) = \frac{2}{\pi}\operatorname{Arg}\frac{1+z}{1-z}

D+D^{+} 上で調和で、TT が境界まで連続(z=1z = 1 を除く)であることから所望の境界値をとります。

値をひとつ計算する。 z=i/2z = i/2 では T(i/2)=35+45iT(i/2) = \frac35+\frac45 i なので

u(i/2)=2πarctan4/53/5=2πarctan43=2×0.92733.1416=0.590u(i/2) = \frac{2}{\pi}\arctan\frac{4/5}{3/5} = \frac{2}{\pi}\arctan\frac43 = \frac{2 \times 0.9273}{3.1416} = 0.590\ldots

です。i/2i/2 は直径からも円周からも距離 1/21/2 ですが、円周のほうが「見込む角」が大きいぶん、値が 1/21/2 より大きくなっています。この uu は物理的には、直径を 00 度、円弧を 11 度に保った半円板の定常温度分布です。

Exercise 8.1

恒等写像でないメビウス変換 TTC^\hat{\mathbb{C}} における不動点(T(z)=zT(z)=z を満たす zz)は、たかだか 2 個であることを示してください。またこれを用いて、Theorem 4.4 の一意性の部分に別証明を与えてください。

Solution

T(z)=az+bcz+dT(z) = \dfrac{az+b}{cz+d}adbc0ad-bc \neq 0TidT \neq \mathrm{id} とします。

場合 1:c0c \neq 0 このとき T()=a/cT(\infty) = a/c \neq \infty なので \infty は不動点ではありません。有限な不動点は az+bcz+d=z\dfrac{az+b}{cz+d} = z、すなわち

cz2+(da)zb=0cz^2 + (d-a)z - b = 0

の解です。c0c \neq 0 なのでこれは真の 2 次方程式で、解はたかだか 2 個です。

場合 2:c=0c = 0 このとき ad0ad \neq 0T(z)=αz+βT(z) = \alpha z + \betaα=a/d0\alpha = a/d \neq 0β=b/d\beta = b/d)と書け、\infty は不動点です。有限な不動点は αz+β=z\alpha z + \beta = z の解です。α1\alpha \neq 1 なら z=β/(1α)z = \beta/(1-\alpha) のただ 1 個で、不動点は合計 2 個。α=1\alpha = 1 かつ β0\beta \neq 0 なら有限な不動点はなく、合計 1 個。α=1\alpha = 1 かつ β=0\beta = 0T=idT = \mathrm{id} で除外されています。

いずれの場合もたかだか 2 個です。

一意性の別証明。 T1,T2T_1, T_2 がともに zjwjz_j \mapsto w_jj=1,2,3j=1,2,3)を満たすとすると、T21T1T_2^{-1}\circ T_1 はメビウス変換(Proposition 4.2)で、相異なる 3 点 z1,z2,z3z_1,z_2,z_3 をすべて固定します。上で示したことから、不動点を 3 個以上持つメビウス変換は恒等写像しかないので T21T1=idT_2^{-1}\circ T_1 = \mathrm{id}、すなわち T1=T2T_1 = T_2 です。

Exercise 8.2標準

S={z:0<Imz<π}S = \{z : 0 < \operatorname{Im}z < \pi\} から単位円板 D\mathbb{D} への双正則写像を 1 つ具体的に構成し、それが Theorem 6.1 の正規化条件を z0=iπ/2z_0 = i\pi/2 に対して満たすことを確かめてください。

Solution

Example 3.5 より zezz \mapsto e^zSS から H\mathbb{H} への双正則写像、Example 4.7 より C(w)=wiw+iC(w) = \dfrac{w-i}{w+i}H\mathbb{H} から D\mathbb{D} への双正則写像です。双正則写像の合成は双正則なので

f(z)=eziez+if(z) = \frac{e^{z}-i}{e^{z}+i}

SS から D\mathbb{D} への双正則写像です。

z0=iπ/2z_0 = i\pi/2 では ez0=eiπ/2=ie^{z_0} = e^{i\pi/2} = i なので f(z0)=iii+i=0f(z_0) = \dfrac{i-i}{i+i} = 0 で、第 1 の条件を満たします。

微分を計算します。w=ezw = e^z とおくと dCdw=(w+i)(wi)(w+i)2=2i(w+i)2\dfrac{dC}{dw} = \dfrac{(w+i)-(w-i)}{(w+i)^2} = \dfrac{2i}{(w+i)^2}dwdz=ez\dfrac{dw}{dz} = e^z なので、連鎖律より

f(z)=2iez(ez+i)2,f ⁣(iπ2)=2ii(i+i)2=24=12>0.f'(z) = \frac{2i\,e^{z}}{(e^{z}+i)^{2}}, \qquad f'\!\left(\frac{i\pi}{2}\right) = \frac{2i\cdot i}{(i+i)^2} = \frac{-2}{-4} = \frac12 > 0.

よって第 2 の条件も満たします。Theorem 6.1 の一意性から、この ff(S,iπ/2)(S, i\pi/2) に対するリーマン写像そのものです。

Exercise 8.3標準

上半平面の自己同型群が

Aut(H)={zaz+bcz+d : a,b,c,dR, adbc>0}\mathrm{Aut}(\mathbb{H}) = \left\{ z\mapsto \frac{az+b}{cz+d} \ :\ a,b,c,d\in\mathbb{R},\ ad-bc > 0\right\}

であることを示してください。

Solution

\supseteq a,b,c,da,b,c,d を実数、adbc>0ad-bc>0 とし、T(z)=(az+b)/(cz+d)T(z)=(az+b)/(cz+d) とします。分母を実数化すると

T(z)=(az+b)(cz+d)cz+d2=acz2+adz+bczˉ+bdcz+d2T(z) = \frac{(az+b)\overline{(cz+d)}}{|cz+d|^2} = \frac{ac|z|^2 + adz + bc\bar{z} + bd}{|cz+d|^2}

で、分子の虚部は adImz+bcImzˉ=(adbc)Imzad\operatorname{Im}z + bc\operatorname{Im}\bar{z} = (ad-bc)\operatorname{Im}z です(acz2ac|z|^2bdbd は実数)。よって

ImT(z)=(adbc)Imzcz+d2.\operatorname{Im}T(z) = \frac{(ad-bc)\operatorname{Im}z}{|cz+d|^2}.

adbc>0ad-bc>0 なので Imz>0ImT(z)>0\operatorname{Im}z>0 \Rightarrow \operatorname{Im}T(z)>0、つまり T(H)HT(\mathbb{H})\subseteq\mathbb{H} です。逆変換 T1T^{-1} の係数 d,b,c,ad, -b, -c, a も実数で行列式は同じ adbc>0ad-bc>0 ですから、同じ理由で T1(H)HT^{-1}(\mathbb{H})\subseteq\mathbb{H}。したがって TAut(H)T \in \mathrm{Aut}(\mathbb{H}) です。

\subseteq fAut(H)f\in\mathrm{Aut}(\mathbb{H}) とします。ケーリー変換 CCExample 4.7)を使うと g=CfC1Aut(D)g = C\circ f\circ C^{-1} \in \mathrm{Aut}(\mathbb{D}) で、Theorem 5.3 より gg はメビウス変換です。よって f=C1gCf = C^{-1}\circ g\circ C もメビウス変換です(Proposition 4.2 の群構造)。

ffC^\hat{\mathbb{C}} の同相写像で f(H)=Hf(\mathbb{H})=\mathbb{H} なので、境界も境界へ写り f(R^)=R^f(\hat{\mathbb{R}}) = \hat{\mathbb{R}} です。そこで x1=f1(0)x_1 = f^{-1}(0)x2=f1(1)x_2 = f^{-1}(1)x3=f1()x_3 = f^{-1}(\infty) とおくと、これらは R^\hat{\mathbb{R}} の相異なる 3 点です。ffx1,x2,x3x_1,x_2,x_30,1,0,1,\infty へ写すので、Theorem 4.4 の一意性から ffDefinition 4.5S(z)=(z,x1,x2,x3)S(z) = (z,x_1,x_2,x_3) に一致します。この SS の係数は x1,x2,x3x_1,x_2,x_3 の有理式で、xjx_j が実数(または \infty)なのですべて実数にとれます。

最後に符号です。上で導いた式に z=iz = i を代入すると Imf(i)=adbcci+d2\operatorname{Im}f(i) = \dfrac{ad-bc}{|ci+d|^2} で、f(i)Hf(i)\in\mathbb{H} より左辺は正、よって adbc>0ad-bc>0 です。

なお係数を adbc=1ad-bc=1 と正規化すれば(全体を adbc\sqrt{ad-bc} で割る)、Aut(H)PSL2(R)=SL2(R)/{±I}\mathrm{Aut}(\mathbb{H}) \cong PSL_2(\mathbb{R}) = SL_2(\mathbb{R})/\{\pm I\} が得られます。

Exercise 8.4

(シュワルツ・ピックの補題)f:DDf : \mathbb{D}\to\mathbb{D} を正則とする。任意の z1,z2Dz_1, z_2 \in \mathbb{D} に対し

f(z1)f(z2)1f(z2)f(z1)z1z21zˉ2z1\left|\frac{f(z_1)-f(z_2)}{1-\overline{f(z_2)}\,f(z_1)}\right| \le \left|\frac{z_1-z_2}{1-\bar{z}_2 z_1}\right|

が成り立つことを示してください。さらに z1z2z_1 \to z_2 の極限をとって、微分形

f(z)1f(z)211z2(zD)\frac{|f'(z)|}{1-|f(z)|^2} \le \frac{1}{1-|z|^2} \qquad (z\in\mathbb{D})

を導いてください。

Solution

a=z2Da = z_2 \in \mathbb{D} を固定し、b=f(a)Db = f(a) \in \mathbb{D} とおきます。§5 で導入した φa(z)=za1aˉz\varphi_a(z) = \dfrac{z-a}{1-\bar{a}z} を用いて

g=φbfφag = \varphi_b \circ f \circ \varphi_{-a}

と定めます。φa=φa1:DD\varphi_{-a} = \varphi_a^{-1} : \mathbb{D}\to\mathbb{D}f:DDf:\mathbb{D}\to\mathbb{D}φb:DD\varphi_b:\mathbb{D}\to\mathbb{D} はいずれも D\mathbb{D}D\mathbb{D} の中へ写す正則写像なので、g:DDg : \mathbb{D}\to\mathbb{D} は正則です。さらに φa(0)=a\varphi_{-a}(0) = a より

g(0)=φb(f(a))=φb(b)=0g(0) = \varphi_b(f(a)) = \varphi_b(b) = 0

です。したがって Lemma 5.1 が適用でき、g(w)w|g(w)| \le |w|wDw\in\mathbb{D})を得ます。

ここで w=φa(z1)w = \varphi_a(z_1) とおくと φa(w)=z1\varphi_{-a}(w) = z_1 なので g(w)=φb(f(z1))g(w) = \varphi_b(f(z_1)) で、不等式は

φf(z2)(f(z1))φz2(z1),すなわちf(z1)f(z2)1f(z2)f(z1)z1z21zˉ2z1\left|\varphi_{f(z_2)}\bigl(f(z_1)\bigr)\right| \le \left|\varphi_{z_2}(z_1)\right|, \qquad\text{すなわち}\qquad \left|\frac{f(z_1)-f(z_2)}{1-\overline{f(z_2)}f(z_1)}\right| \le \left|\frac{z_1-z_2}{1-\bar{z}_2z_1}\right|

となります。これが求める不等式です。

微分形。 z2=zz_2 = z を固定し、両辺を z1z|z_1 - z| で割ります。左辺は

f(z1)f(z)z1z11f(z)f(z1) z1z f(z)11f(z)2\frac{|f(z_1)-f(z)|}{|z_1-z|}\cdot\frac{1}{\left|1-\overline{f(z)}f(z_1)\right|} \xrightarrow{\ z_1\to z\ } |f'(z)|\cdot\frac{1}{1-|f(z)|^2}

ffzz での微分可能性と、ff の連続性から f(z1)f(z)f(z_1)\to f(z)、および 1f(z)2>01-|f(z)|^2 > 0 を使いました)。右辺は 11zˉz111z2\dfrac{1}{|1-\bar{z}z_1|} \to \dfrac{1}{1-|z|^2} です。よって

f(z)1f(z)211z2\frac{|f'(z)|}{1-|f(z)|^2}\le\frac{1}{1-|z|^2}

を得ます。これは、円板上の計量 2dz1z2\dfrac{2|dz|}{1-|z|^2}(ポアンカレ計量)に関して、D\mathbb{D} の任意の正則自己写像が距離を伸ばさないことを意味します。Theorem 5.3 の元はこの不等式で等号を与え、ポアンカレ計量の等長変換になっています。

  • L. V. Ahlfors, Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1979 — 第 3 章(等角性・一次分数変換)と第 6 章(等角写像とリーマンの写像定理、円環の等角同値)。
  • W. Rudin, Real and Complex Analysis, 3rd ed., McGraw-Hill, 1987 — 第 14 章 Conformal Mapping(単連結性の同値条件の一覧、写像定理、カラテオドリの定理)。
  • E. M. Stein and R. Shakarchi, Complex Analysis, Princeton University Press, 2003 — 第 8 章 Conformal Mappings(具体的な写像の辞書とモンテルの定理を用いた証明)。
  • 高橋礼司『新版 複素解析』東京大学出版会、1990 — 等角写像とリーマンの写像定理の章。
  • B. Riemann, “Grundlagen für eine allgemeine Theorie der Functionen einer veränderlichen complexen Grösse”, Inauguraldissertation, Göttingen, 1851(写像定理が最初に述べられた学位論文)。
  • T. A. Driscoll and L. N. Trefethen, Schwarz–Christoffel Mapping, Cambridge University Press, 2002 — 多角形への等角写像の理論と数値計算。

Appendix: リーマンの写像定理の存在部分の証明

Section titled “Appendix: リーマンの写像定理の存在部分の証明”

Theorem 6.1 の一意性は本文で示しました。ここでは存在の証明の筋道を、使う道具を明示しながらたどります。証明の戦略は「f(z0)|f'(z_0)| を最大にする単射写像を取り出すと、それが自動的に全射になる」という極値問題です。

使う 3 つの道具。 いずれも正則関数の族に関する標準的な定理です。

  • モンテルの定理:領域 Ω\Omega 上の正則関数の族が一様有界(ある MM について族のすべての元が fM|f|\le M を満たす)ならば正規族である。すなわち、その族の任意の点列は Ω\Omega 上で局所一様収束する部分列を持つ。
  • ワイエルシュトラスの定理:正則関数列が局所一様収束すれば極限も正則で、導関数の列も導関数へ局所一様収束する。
  • フルヴィッツの定理の系:領域上の単射正則関数の列が局所一様収束するとき、極限は単射であるか、または定数である。

第 1 段:Ω\Omega を単位円板の中に押し込める。 ΩC\Omega \neq \mathbb{C} なので aCΩa \in \mathbb{C}\setminus\Omega がとれます。zzaz \mapsto z-aΩ\Omega 上で零点を持たない正則関数なので、Ω\Omega が単連結であること(Definition 5.2 の同値条件)から正則な平方根 hh、すなわち h(z)2=zah(z)^2 = z-a を満たす正則関数が存在します。

この hh は単射です。h(z1)=h(z2)h(z_1)=h(z_2) なら両辺を 2 乗して z1a=z2az_1 - a = z_2 - a、よって z1=z2z_1 = z_2 だからです。さらに h(Ω)h(\Omega)h(Ω)-h(\Omega) は交わりません。もし h(z1)=h(z2)h(z_1) = -h(z_2) なら 2 乗して z1=z2z_1 = z_2、したがって h(z1)=h(z1)h(z_1) = -h(z_1) すなわち h(z1)=0h(z_1)=0 となり、z1=aΩz_1 = a \notin \Omega となって矛盾するからです。

hh は定数でない正則関数なので、開写像定理から h(Ω)h(\Omega) は開集合です。そこで D(w0,ρ)h(Ω)D(w_0,\rho)\subseteq h(\Omega) となる w0,ρ>0w_0, \rho > 0 をとると、上の非交叉性から D(w0,ρ)D(-w_0,\rho)h(Ω)h(\Omega) と交わりません。つまりすべての zΩz\in\Omegah(z)+w0ρ|h(z)+w_0| \ge \rho です。ここで

ψ(z)=ρ2(h(z)+w0)\psi(z) = \frac{\rho}{2\bigl(h(z)+w_0\bigr)}

とおくと、ψ\psiΩ\Omega 上正則、ψ(z)1/2<1|\psi(z)| \le 1/2 < 1、そして hh が単射でメビウス変換が単射だから ψ\psi も単射です。最後に φψ(z0)ψ\varphi_{\psi(z_0)}\circ\psiφ\varphi は §5 の写像)を考えれば、Ω\Omega から D\mathbb{D} への単射正則写像で z0z_000 へ写すものが得られます。

第 2 段:極値問題を解く。 上で存在を確かめた族

F={f:ΩD 単射正則, f(z0)=0}\mathcal{F} = \{\,f : \Omega\to\mathbb{D} \ \text{単射正則},\ f(z_0)=0\,\}

は空ではありません。D(z0,r)Ω\overline{D(z_0,r)}\subseteq\Omega となる r>0r>0 をとると、コーシーの評価式(Proposition 4.1)[正則関数の強力な性質] から任意の fFf\in\mathcal{F}f(z0)1/r|f'(z_0)| \le 1/r です。したがって

M=supfFf(z0)1r<M = \sup_{f\in\mathcal{F}}|f'(z_0)| \le \frac{1}{r} < \infty

は有限で、F\mathcal{F} の元は単射なので定数ではなく、M>0M > 0 です。

fn(z0)M|f_n'(z_0)| \to M となる列 fnFf_n \in \mathcal{F} をとります。F\mathcal{F}f<1|f|<1 で一様有界なのでモンテルの定理より正規族で、局所一様収束する部分列 fnkff_{n_k}\to f がとれます。ワイエルシュトラスの定理より ff は正則で fnk(z0)f(z0)f_{n_k}'(z_0)\to f'(z_0)、ゆえに f(z0)=M>0|f'(z_0)| = M > 0 です。とくに ff は定数ではないので、フルヴィッツの定理の系から ff は単射です。また f1|f|\le 1 で、ff は定数でないから最大値原理により f<1|f| < 1、すなわち f(Ω)Df(\Omega)\subseteq\mathbb{D} です。f(z0)=limfnk(z0)=0f(z_0) = \lim f_{n_k}(z_0) = 0 なので fFf \in \mathcal{F} であり、上限 MM は実際に達成されます。

第 3 段:最大値を与える写像は全射である。 ff が全射でないと仮定し、w0Df(Ω)w_0 \in \mathbb{D}\setminus f(\Omega) をとります。φw0f\varphi_{w_0}\circ fΩ\Omega 上で零点を持たない正則関数なので(f(z)w0f(z) \neq w_0 より)、単連結性から正則な平方根 GG、つまり G2=φw0fG^2 = \varphi_{w_0}\circ f を満たす GG が存在します。G2=φw0f<1|G|^2 = |\varphi_{w_0}\circ f| < 1 より GGD\mathbb{D} に値をとり、G(z1)=G(z2)G(z_1)=G(z_2) なら 2 乗して φw0(f(z1))=φw0(f(z2))\varphi_{w_0}(f(z_1)) = \varphi_{w_0}(f(z_2))φw0\varphi_{w_0}ff の単射性から z1=z2z_1=z_2 なので GG は単射です。

そこで f~=φG(z0)G\tilde{f} = \varphi_{G(z_0)}\circ G とおくと、f~\tilde f は単射正則で D\mathbb{D} に値をとり、f~(z0)=φG(z0)(G(z0))=0\tilde f(z_0) = \varphi_{G(z_0)}(G(z_0)) = 0 ですから f~F\tilde f \in \mathcal{F} です。

ここで s(w)=w2s(w) = w^2 とし、

Φ=φw01sφG(z0)1:DD\Phi = \varphi_{w_0}^{-1}\circ s \circ \varphi_{G(z_0)}^{-1} : \mathbb{D}\to\mathbb{D}

とおきます。これは正則で、φG(z0)1(0)=G(z0)\varphi_{G(z_0)}^{-1}(0) = G(z_0)s(G(z0))=φw0(f(z0))=φw0(0)=w0s(G(z_0)) = \varphi_{w_0}(f(z_0)) = \varphi_{w_0}(0) = -w_0φw01(w0)=0\varphi_{w_0}^{-1}(-w_0) = 0 より Φ(0)=0\Phi(0)=0 を満たします。さらに

Φf~=φw01sφG(z0)1φG(z0)G=φw01sG=φw01(φw0f)=f\Phi\circ\tilde f = \varphi_{w_0}^{-1}\circ s\circ\varphi_{G(z_0)}^{-1}\circ\varphi_{G(z_0)}\circ G = \varphi_{w_0}^{-1}\circ s\circ G = \varphi_{w_0}^{-1}\bigl(\varphi_{w_0}\circ f\bigr) = f

が成り立ちます。φw01\varphi_{w_0}^{-1}φG(z0)1\varphi_{G(z_0)}^{-1} は全単射で ssD{0}\mathbb{D}\setminus\{0\} 上 2 対 1 なので、Φ\Phi は単射ではありません。したがって Φ\Phi は回転 wλww\mapsto \lambda wλ=1|\lambda|=1)ではありえず、Lemma 5.1 の等号の場合が排除されて Φ(0)<1|\Phi'(0)| < 1 を得ます。連鎖律より

M=f(z0)=Φ(0)f~(z0)<f~(z0)MM = |f'(z_0)| = |\Phi'(0)|\cdot|\tilde f'(z_0)| < |\tilde f'(z_0)| \le M

となって矛盾します。ゆえに ffD\mathbb{D} の上への全単射で、Remark 2.2 により双正則です。

仕上げ。 最後に f(z0)=f(z0)eiαf'(z_0) = |f'(z_0)|e^{i\alpha} と書いて eiαfe^{-i\alpha}f に取り替えれば、eiαfe^{-i\alpha}fF\mathcal{F} の元で D\mathbb{D} の上への双正則写像であり、その z0z_0 での微分は f(z0)=M>0|f'(z_0)| = M > 0 です。これで正規化条件を満たす写像の存在が示されました。

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