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平成27年度 東大院 物理学専攻 修士 物理学 解答

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計算量よりも設定の読み取りで差がつく回です。第1問は円周という位相が、第2問は歩数のパリティが答えの構造を決めます。第3問から第6問は相対論が縦糸で、Lorentz 変換を電磁場・コンプトン散乱・光の到達時刻という三通りの舞台で使わせます。第4問から第6問はグラフと数値の読み取りが要求され、そこが実質的な難所です。

問題分野主題
第1問量子力学円周上のデルタ関数ポテンシャルと束縛状態
第2問統計力学・フーリエ解析高分子鎖のランダムウォークと揺動応答関係
第3問電磁気学・相対論等速運動する荷電粒子列がつくる電磁場
第4問原子核・量子力学コンプトン散乱とガンマ線スペクトル
第5問物性物理磁気天秤による磁化率測定とキュリー則
第6問相対論・確率統計見かけの超光速運動

第1問から第3問が全員解答、第4問から第6問のうち1問を選択する形式ですが、ここでは全問の解答を載せます。

第1問 円周上のデルタ関数ポテンシャル

Section titled “第1問 円周上のデルタ関数ポテンシャル”

周長 2πL2\pi L の一次元円周(xxx+2πLx+2\pi L を同一点とみなす)の上を動く質量 mm の粒子を考えます。ハミルトニアンは

H=22md2dx2+V(x)H=-\frac{\hbar^{2}}{2m}\frac{d^{2}}{dx^{2}}+V(x)

で、波動関数とポテンシャルはともに周期 2πL2\pi L を持ちます。設問2以降は円周を x[πL,πL]x\in[-\pi L,\pi L] と表して

V(x)=2v2mδ(x)V(x)=\frac{\hbar^{2}v}{2m}\delta(x)

とします。δ(x)\delta(x) が長さの逆数の次元を持つので vv も長さの逆数の次元を持ち、2v/(mL)\hbar^{2}v/(mL) がエネルギーの次元になります。これを以下の検算に使います。

V=0V=0 ではシュレディンガー方程式は (2/2m)ψ=Eψ-(\hbar^{2}/2m)\psi''=E\psi です。E>0E>0 として E=2k2/(2m)E=\hbar^{2}k^{2}/(2m)k>0k>0 と置くと一般解は e±ikxe^{\pm ikx} の重ね合わせで、周期条件 ψ(x+2πL)=ψ(x)\psi(x+2\pi L)=\psi(x)e2πikL=1e^{2\pi ikL}=1、すなわち

k=nL(n=0,±1,±2,)k=\frac{n}{L}\qquad(n=0,\pm1,\pm2,\dots)

を要求します。E<0E<0 なら解は実指数 e±κxe^{\pm\kappa x} の重ね合わせですが、c1eκx+c2eκxc_{1}e^{\kappa x}+c_{2}e^{-\kappa x} が周期 2πL2\pi L を持つには c1=c2=0c_{1}=c_{2}=0 しかないので、負エネルギー固有値はありません。E=0E=0 では ψ=a+bx\psi=a+bx で、周期性から b=0b=0、定数解だけが残ります。以上をまとめると規格化された固有関数と固有値は

ψn(x)=12πLeinx/L,En=2n22mL2(nZ)\psi_{n}(x)=\frac{1}{\sqrt{2\pi L}}e^{inx/L},\qquad E_{n}=\frac{\hbar^{2}n^{2}}{2mL^{2}}\qquad(n\in\mathbb{Z})

です。答えは EEn2n^{2} に比例して En=2n2/(2mL2)E_{n}=\hbar^{2}n^{2}/(2mL^{2}) と量子化される、というものです。

縮退については、n=0n=0 の状態(定数波動関数、E=0E=0)は非縮退で、n0n\neq0 の各準位は nnn-n の二つの固有関数を持つので二重縮退です。これは円周上を右回りに進む波と左回りに進む波が同じエネルギーを持つことに対応し、実数の基底では cos(nx/L)\cos(nx/L)sin(nx/L)\sin(nx/L) の組になります。

x=0x=0 をはさむ区間で方程式を積分します。まず ψ\psi 自身は連続です。もし ψ\psix=0x=0 で跳びを持てば ψ\psi''δ(x)\delta'(x) が現れ、方程式の他の項(δ(x)\delta(x) と有界な項)と釣り合いません。したがって ψ\psi は有界で、ϵ0+\epsilon\to0+

22mϵϵψ(x)dx+2v2mϵϵδ(x)ψ(x)dx=Eϵϵψ(x)dx-\frac{\hbar^{2}}{2m}\int_{-\epsilon}^{\epsilon}\psi''(x)\,dx+\frac{\hbar^{2}v}{2m}\int_{-\epsilon}^{\epsilon}\delta(x)\psi(x)\,dx=E\int_{-\epsilon}^{\epsilon}\psi(x)\,dx

の右辺は 00 に収束します。左辺第1項の積分は ψ(ϵ)ψ(ϵ)\psi'(\epsilon)-\psi'(-\epsilon)、第2項の積分は ψ(0)\psi(0) なので

22m(ψ(ϵ)ψ(ϵ))+2v2mψ(0)0-\frac{\hbar^{2}}{2m}\bigl(\psi'(\epsilon)-\psi'(-\epsilon)\bigr)+\frac{\hbar^{2}v}{2m}\psi(0)\longrightarrow 0

すなわち

limϵ0+(ψ(ϵ)ψ(ϵ))=vψ(0)\lim_{\epsilon\to0+}\bigl(\psi'(\epsilon)-\psi'(-\epsilon)\bigr)=v\psi(0)

が成り立ちます。デルタ関数ポテンシャルの効果は、ψ\psi は連続に保ったまま ψ\psi'vψ(0)v\psi(0) の跳びを与える、という接続条件に集約されます。

x0x\neq0 では V=0V=0 です。ψ(x)=eκx+Aeκx\psi(x)=e^{\kappa x}+Ae^{-\kappa x}ψ=κ2ψ\psi''=\kappa^{2}\psi を満たすので

22mψ=2κ22mψ=Eψ,E=2κ22m-\frac{\hbar^{2}}{2m}\psi''=-\frac{\hbar^{2}\kappa^{2}}{2m}\psi=E\psi,\qquad E=-\frac{\hbar^{2}\kappa^{2}}{2m}

となり、確かに固有値 E=2κ2/(2m)E=-\hbar^{2}\kappa^{2}/(2m) の解です。

接続条件を書きます。円周上では x=0x=0x=2πLx=2\pi L が同一点なので、連続性は ψ(0+)=ψ(2πL)\psi(0+)=\psi(2\pi L-)、微分の跳びは ψ(0+)ψ(2πL)=vψ(0)\psi'(0+)-\psi'(2\pi L-)=v\psi(0) です。連続性から

1+A=e2πκL+Ae2πκL,A(1e2πκL)=e2πκL(1e2πκL)1+A=e^{2\pi\kappa L}+Ae^{-2\pi\kappa L},\qquad A\bigl(1-e^{-2\pi\kappa L}\bigr)=e^{2\pi\kappa L}\bigl(1-e^{-2\pi\kappa L}\bigr)

したがって A=e2πκLA=e^{2\pi\kappa L} です。これを代入すると

ψ(x)=eκx+e2πκLeκx=2eπκLcosh(κ(xπL))\psi(x)=e^{\kappa x}+e^{2\pi\kappa L}e^{-\kappa x}=2e^{\pi\kappa L}\cosh\bigl(\kappa(x-\pi L)\bigr)

で、規格化定数を除けば ψcosh(κ(xπL))\psi\propto\cosh(\kappa(x-\pi L)) です。デルタの位置 x=0 (2πL)x=0\ (\equiv2\pi L) で最大、対蹠点 x=πLx=\pi L で最小という、引力ポテンシャルに束縛された波動関数の形になっています。

微分は ψ(x)=2κeπκLsinh(κ(xπL))\psi'(x)=2\kappa e^{\pi\kappa L}\sinh(\kappa(x-\pi L)) なので

ψ(0+)ψ(2πL)=4κeπκLsinh(πκL),ψ(0)=2eπκLcosh(πκL)\begin{aligned} \psi'(0+)-\psi'(2\pi L-)&=-4\kappa e^{\pi\kappa L}\sinh(\pi\kappa L),\\ \psi(0)&=2e^{\pi\kappa L}\cosh(\pi\kappa L) \end{aligned}

であり、接続条件は

4κsinh(πκL)=2vcosh(πκL)-4\kappa\sinh(\pi\kappa L)=2v\cosh(\pi\kappa L)

となります。cosh(πκL)\cosh(\pi\kappa L) で割れば vvκ\kappa の関係

2κtanh(πκL)=v=v2\kappa\tanh(\pi\kappa L)=-v=\lvert v\rvert

が得られます。κ>0\kappa>0 では左辺が正なので、この関係が解を持つのは v<0v<0 のときだけです。

グラフで解の個数を見ます。g(κ)=2κtanh(πκL)g(\kappa)=2\kappa\tanh(\pi\kappa L)g(0)=0g(0)=0 で、

g(κ)=2tanh(πκL)+2πLκcosh2(πκL)>0(κ>0)g'(\kappa)=2\tanh(\pi\kappa L)+\frac{2\pi L\kappa}{\cosh^{2}(\pi\kappa L)}>0\qquad(\kappa>0)

より狭義単調増加です。κ0\kappa\to0 では g2πLκ2g\simeq2\pi L\kappa^{2} の放物線、κ\kappa\to\infty では g2κg\simeq2\kappa の直線に漸近し、gg\to\infty です。原点から立ち上がって単調に無限大まで増える曲線なので、水平線 y=vy=\lvert v\rvert とはちょうど1点で交わります。よって任意の v<0v<0 に対して κ\kappa が一つだけ定まります。

これで負エネルギー状態が一つだけであることも言えます。E<0E<0 の一般解は x(0,2πL)x\in(0,2\pi L)c1eκx+c2eκxc_{1}e^{\kappa x}+c_{2}e^{-\kappa x} であり、c10c_{1}\neq0 なら全体を定数倍して c1=1c_{1}=1 とおけるので上の議論に帰着します。c1=0c_{1}=0 の場合は ψ=c2eκx\psi=c_{2}e^{-\kappa x} ですが、連続性 c2=c2e2πκLc_{2}=c_{2}e^{-2\pi\kappa L}κ>0\kappa>0 では満たされません。

極限で検算します。v\lvert v\rvert が大きいと tanh1\tanh\to1κv/2\kappa\to\lvert v\rvert/2E2v2/(8m)E\to-\hbar^{2}v^{2}/(8m) となり、無限直線上の引力デルタ井戸 V=(2v/2m)δ(x)V=-(\hbar^{2}\lvert v\rvert/2m)\delta(x) の束縛エネルギーに一致します。逆に v\lvert v\rvert が小さいと κ2v/(2πL)\kappa^{2}\simeq\lvert v\rvert/(2\pi L)E2v/(4πmL)E\simeq-\hbar^{2}\lvert v\rvert/(4\pi mL) となり、これは基底状態 ψ0=1/2πL\psi_{0}=1/\sqrt{2\pi L} に対する一次摂動 ψ0Vψ0=2v/(4πmL)\langle\psi_{0}|V|\psi_{0}\rangle=\hbar^{2}v/(4\pi mL) と一致します。

E=2k2/(2m)E=\hbar^{2}k^{2}/(2m)k>0k>0 とすると x0x\neq0ψ=k2ψ\psi''=-k^{2}\psi です。設問3と同じ手順で x(0,2πL)x\in(0,2\pi L)ψ=eikx+Aeikx\psi=e^{ikx}+Ae^{-ikx} と置くと、連続性は

A(1e2πikL)=e2πikL(1e2πikL)A\bigl(1-e^{-2\pi ikL}\bigr)=e^{2\pi ikL}\bigl(1-e^{-2\pi ikL}\bigr)

です。e2πikL1e^{2\pi ikL}\neq1 のときは A=e2πikLA=e^{2\pi ikL} となり、設問3で coshcos\cosh\to\cossinhsin\sinh\to\sin と置き換えるだけで

ψ(x)cos(k(xπL)),4ksin(πkL)=2vcos(πkL)\psi(x)\propto\cos\bigl(k(x-\pi L)\bigr),\qquad 4k\sin(\pi kL)=2v\cos(\pi kL)

を得ます。円周を x[πL,πL]x\in[-\pi L,\pi L] で表すと ψ(x)=cos(k(πLx))\psi(x)=\cos\bigl(k(\pi L-\lvert x\rvert)\bigr) で、x=0x=0 について偶な解です。kkvv の関係は

2ktan(πkL)=v2k\tan(\pi kL)=v

です。tan\tan の極が k=(2n+1)/(2L)k=(2n+1)/(2L) にあり、区間 n/L<k<(n+1/2)/Ln/L<k<(n+1/2)/L で左辺は 00 から ++\infty まで単調に増えるので、v>0v>0 に対して根は各区間にちょうど1つ、すなわち n=0,1,2,n=0,1,2,\dots に対して kn(n/L,(n+1/2)/L)k_{n}\in(n/L,(n+1/2)/L) が1つずつあります。

e2πikL=1e^{2\pi ikL}=1、すなわち k=n/Lk=n/Ln=1,2,n=1,2,\dots)の場合は上式が AA を決めず、別扱いになります。このとき

ψ(x)=sinnxL\psi(x)=\sin\frac{nx}{L}

が解です。周期 2πL2\pi L を持ち、x=0x=0ψ(0)=0\psi(0)=0 なので微分の跳びも 00 で、接続条件が vv の値に関係なく満たされます。これがポテンシャルの影響を受けない解で、固有値は v=0v=0 のときと同じ E=2n2/(2mL2)E=\hbar^{2}n^{2}/(2mL^{2}) です。

結局、v>0v>0E>0E>0 の固有状態は二系列あります。x=0x=0 で偶な解 ψ=cos(k(πLx))\psi=\cos(k(\pi L-\lvert x\rvert))2ktan(πkL)=v2k\tan(\pi kL)=v の根で与えられ、x=0x=0 で奇な解 ψ=sin(nx/L)\psi=\sin(nx/L)k=n/Lk=n/Ln1n\geq1)でポテンシャルの影響を受けません。v=0v=0 で二重縮退していた n1n\geq1 の準位は、偶な解だけがエネルギーを上げるので縮退が解けます。

偶な解の根が自由解 kn(0)=n/Lk_{n}^{(0)}=n/L からわずかにずれる状況が kvk\gg v です。k=kn(0)+δkk=k_{n}^{(0)}+\delta k と置くと tan(πkL)=tan(πn+πLδk)πLδk\tan(\pi kL)=\tan(\pi n+\pi L\delta k)\simeq\pi L\delta k なので、2ktan(πkL)=v2k\tan(\pi kL)=v

2kn(0)πLδkv,δkv2πLkn(0)2k_{n}^{(0)}\cdot\pi L\,\delta k\simeq v,\qquad \delta k\simeq\frac{v}{2\pi Lk_{n}^{(0)}}

を与えます。エネルギーは E=2k2/(2m)E=\hbar^{2}k^{2}/(2m) なので、vv の一次までの補正は

ΔE=2kn(0)mδk=2v2πmL\Delta E=\frac{\hbar^{2}k_{n}^{(0)}}{m}\delta k=\frac{\hbar^{2}v}{2\pi mL}

となり、nn によらない共通のずれです。奇な解は vv によらず動かないので ΔE=0\Delta E=0 です。答えは、偶な状態が 2v/(2πmL)\hbar^{2}v/(2\pi mL) だけ上がり、奇な状態は変化しない、というものです。次元は 2/(mL2)\hbar^{2}/(mL^{2}) にあたる量に無次元量 vLvL を掛けた形でエネルギーになっています。

一次摂動論で検算します。n1n\geq1 の準位は二重縮退なので VV を対角化する基底を選ぶ必要がありますが、VV が偶関数なので cosVsincos0sin0=0\langle\cos|V|\sin\rangle\propto\cos0\cdot\sin0=0 となり、cos\cossin\sin の基底がそれを与えます。規格化した固有関数は ψn(±)=cos(nx/L)/πL\psi_{n}^{(\pm)}=\cos(nx/L)/\sqrt{\pi L}sin(nx/L)/πL\sin(nx/L)/\sqrt{\pi L}ψ0=1/2πL\psi_{0}=1/\sqrt{2\pi L} で、

ΔE=ψVψ=2v2mψ(0)2\Delta E=\langle\psi|V|\psi\rangle=\frac{\hbar^{2}v}{2m}\lvert\psi(0)\rvert^{2}

です。偶な解では ψ(0)2=1/(πL)\lvert\psi(0)\rvert^{2}=1/(\pi L) なので ΔE=2v/(2πmL)\Delta E=\hbar^{2}v/(2\pi mL)、奇な解では ψ(0)=0\psi(0)=0 なので ΔE=0\Delta E=0 で、上の結果と一致します。最低状態 n=0n=0 だけは k0v/(2πL)k_{0}\simeq\sqrt{v/(2\pi L)}kvk\gg vv1/(2πL)v\ll1/(2\pi L) を意味し、2ktan(πkL)2πLk2=v2k\tan(\pi kL)\simeq2\pi Lk^{2}=v から

E02v4πmLE_{0}\simeq\frac{\hbar^{2}v}{4\pi mL}

となります。これは ψ0(0)2=1/(2πL)\lvert\psi_{0}(0)\rvert^{2}=1/(2\pi L) からの一次摂動と一致し、設問3で v<0v<0 の側から得た E2v/(4πmL)E\simeq-\hbar^{2}\lvert v\rvert/(4\pi mL) とも連続につながります。

第2問 高分子鎖のランダムウォークと揺動応答関係

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二次元正方格子上の高分子鎖を、始点を原点に固定し、各手が長さ 2\sqrt{2} で右斜上45度または左斜上45度のいずれかに伸びるモデルで表します。1本の手は (x,y)(x,y)(±1,+1)(\pm1,+1) だけ動かすので、yy 方向の長さ LL の鎖は手が LL 本、モノマーが L+1L+1 個で、配位の総数は 2L2^{L} です。終点が (x,L)(x,L) である配位数を C(x,L)C(x,L) とすると

C(x,L+1)=C(x1,L)+C(x+1,L)C(x,L+1)=C(x-1,L)+C(x+1,L)

が成り立ちます。以下 xx は手の xx 方向射影(この設定では 11)を長さの単位として測った座標です。後半では終点のモノマーに電荷 qq を与え、xx 軸正方向の静電場 EE の下で温度 TT の熱平衡を考えます。

右向きの手の本数を n+n_{+}、左向きを nn_{-} とすると n++n=Ln_{+}+n_{-}=Ln+n=xn_{+}-n_{-}=x なので

n±=L±x2n_{\pm}=\frac{L\pm x}{2}

です。これが非負整数であることが配位の存在条件で、L+xL+x が偶数かつ xL\lvert x\rvert\leq L と同じです。条件が満たされるとき、LL 本の手のうちどれを右向きにするかを選ぶ場合の数が配位数なので

C(x,L)=(Ln+)=L!((Lx)/2)!((L+x)/2)!C(x,L)=\binom{L}{n_{+}}=\frac{L!}{\bigl((L-x)/2\bigr)!\,\bigl((L+x)/2\bigr)!}

となり、それ以外では条件を満たす配位がないので 00 です。これで式(2)が示されました。

漸化式と初期条件からの帰納法でも確認できます。L=0L=0 では鎖が原点にあるだけなので C(x,0)=δx,0C(x,0)=\delta_{x,0} で、式(2)の値と一致します。L+x+1L+x+1 が偶数のとき a=(L+x+1)/2a=(L+x+1)/2b=(Lx+1)/2b=(L-x+1)/2a+b=L+1a+b=L+1)と置くと (L+x1)/2=a1(L+x-1)/2=a-1(Lx1)/2=b1(L-x-1)/2=b-1 なので

C(x1,L)+C(x+1,L)=L!b!(a1)!+L!(b1)!a!=L!(a+b)a!b!=(L+1)!a!b!=C(x,L+1)C(x-1,L)+C(x+1,L)=\frac{L!}{b!\,(a-1)!}+\frac{L!}{(b-1)!\,a!}=\frac{L!\,(a+b)}{a!\,b!}=\frac{(L+1)!}{a!\,b!}=C(x,L+1)

となります。パリティも整合します。C(x,L+1)C(x,L+1)00 でないのは L+x+1L+x+1 が偶数のときで、それは L+(x1)L+(x\mp1) が偶数のとき、つまり右辺の項が生き残るときです。端 x=L+1x=L+1 では C(L,L)=1C(L,L)=1C(L+2,L)=0C(L+2,L)=0 で、式(2)の (L+1)!/(0!(L+1)!)=1(L+1)!/(0!\,(L+1)!)=1 と合います。

式(1)の両辺に eikxe^{-ikx} を掛けて xx について和をとります。右辺第1項は x1=xx-1=x' と置き換えて xeik(x+1)C(x,L)=eikC~(k,L)\sum_{x'}e^{-ik(x'+1)}C(x',L)=e^{-ik}\tilde{C}(k,L)、第2項は同様に eikC~(k,L)e^{ik}\tilde{C}(k,L) なので

C~(k,L+1)=(eik+eik)C~(k,L)=2coskC~(k,L)\tilde{C}(k,L+1)=\bigl(e^{ik}+e^{-ik}\bigr)\tilde{C}(k,L)=2\cos k\,\tilde{C}(k,L)

です。フーリエ変換で漸化式が積の形になり、LL について一気に解ける形になりました。

L=0L=0 の初期条件 C(x,0)=δx,0C(x,0)=\delta_{x,0} から C~(k,0)=1\tilde{C}(k,0)=1 です。設問2の漸化式を LL 回使うと

C~(k,L)=(2cosk)L\tilde{C}(k,L)=(2\cos k)^{L}

を得ます。k=0k=0 とすると C~(0,L)=xC(x,L)=2L\tilde{C}(0,L)=\sum_{x}C(x,L)=2^{L} で、全配位数と一致します。

log(1+u)\log(1+u) 型の展開ではなく logcosk=k2/2k4/12\log\cos k=-k^{2}/2-k^{4}/12-\cdots を使います。

logC~(k,L)=Llog2+Llogcosk=Llog2Lk22+O(Lk4)\log\tilde{C}(k,L)=L\log2+L\log\cos k=L\log2-\frac{Lk^{2}}{2}+O(Lk^{4})

k2Lk^{2}L を一定に保って LL を大きくすると Lk4=(Lk2)2/L0Lk^{4}=(Lk^{2})^{2}/L\to0 なので、2次で打ち切ることが正当化されます。よって C~(k,L)2LeLk2/2\tilde{C}(k,L)\simeq2^{L}e^{-Lk^{2}/2} です。

逆変換では、k=0k=0 のまわりの Gauss 関数の幅が 1/Lπ1/\sqrt{L}\ll\pi なので積分区間を (,)(-\infty,\infty) に広げてよく、

12πeikx2LeLk2/2dk=2L2π2πLex2/(2L)=2L2πLex2/(2L)\frac{1}{2\pi}\int_{-\infty}^{\infty}e^{ikx}\,2^{L}e^{-Lk^{2}/2}\,dk=\frac{2^{L}}{2\pi}\sqrt{\frac{2\pi}{L}}\,e^{-x^{2}/(2L)}=\frac{2^{L}}{\sqrt{2\pi L}}e^{-x^{2}/(2L)}

となります。ただし 2cosk\lvert2\cos k\rvertk=±πk=\pm\pi でも最大値 22 をとるので、そこからの寄与を落としてはいけません。k=πqk=\pi-q と置くと 2cosk=2cosq2\cos k=-2\cos qC~=(1)L(2cosq)L(1)L2LeLq2/2\tilde{C}=(-1)^{L}(2\cos q)^{L}\simeq(-1)^{L}2^{L}e^{-Lq^{2}/2} となり、この寄与は上の結果に eiπx(1)L=(1)L+xe^{i\pi x}(-1)^{L}=(-1)^{L+x} を掛けたものになります。両者を足すと

C(x,L)[1+(1)L+x]2L2πLex2/(2L)C(x,L)\simeq\bigl[1+(-1)^{L+x}\bigr]\frac{2^{L}}{\sqrt{2\pi L}}e^{-x^{2}/(2L)}

すなわち

C(x,L){2L2πLex2/(2L)(L+x even)0(otherwise)C(x,L)\simeq \begin{cases} 2^{L}\sqrt{\dfrac{2}{\pi L}}\,e^{-x^{2}/(2L)} & (L+x\ \text{even})\\[2mm] 0 & (\text{otherwise}) \end{cases}

が漸近形です。妥当性は x\lvert x\rvertL\sqrt{L} の程度までで、CC が一つ飛びの格子点にしか値を持たないことが因子 22 に反映されています。検算として、間隔 22 の和は x12dx\sum_{x}\to\frac{1}{2}\int dx で近似できるので

xC(x,L)122L2πL2πL=2L\sum_{x}C(x,L)\simeq\frac{1}{2}\cdot2^{L}\sqrt{\frac{2}{\pi L}}\sqrt{2\pi L}=2^{L}

と全配位数に戻ります。二項係数に Stirling の公式を直接使っても同じ形が出ます(L=200L=200x=0x=0 で厳密値との比は 0.99880.9988 です)。

終点の電荷 qq が静電場から受ける位置エネルギーは U=qExU=-qEx で、他の自由度にエネルギー差はありません。β=1/(kBT)\beta=1/(k_{\mathrm{B}}T) として

Z=xC(x,L)eβqExZ=\sum_{x}C(x,L)e^{\beta qEx}

です。各手の xx 方向変位 si=±1s_{i}=\pm1 は独立なので、配位についての和を手ごとの和に分解できて

Z=s1=±1sL=±1exp(βqEisi)=(eβqE+eβqE)L=[2coshqEkBT]LZ=\sum_{s_{1}=\pm1}\cdots\sum_{s_{L}=\pm1}\exp\Bigl(\beta qE\sum_{i}s_{i}\Bigr)=\bigl(e^{\beta qE}+e^{-\beta qE}\bigr)^{L}=\left[2\cosh\frac{qE}{k_{\mathrm{B}}T}\right]^{L}

となります。答えは Z=[2cosh(qE/kBT)]LZ=[2\cosh(qE/k_{\mathrm{B}}T)]^{L} です。これは設問3の C~(k,L)=(2cosk)L\tilde{C}(k,L)=(2\cos k)^{L}kiβqEk\to i\beta qE と置いたものにあたり、E=0E=0Z=2LZ=2^{L} に戻ります。

lnZ=Lln[2cosh(βqE)]\ln Z=L\ln[2\cosh(\beta qE)]βqE\beta qE で微分すれば x\langle x\rangle が出ます。

x=lnZ(βqE)=LtanhqEkBT\langle x\rangle=\frac{\partial\ln Z}{\partial(\beta qE)}=L\tanh\frac{qE}{k_{\mathrm{B}}T}

が答えです。qEkBTqE\ll k_{\mathrm{B}}T では xLqE/(kBT)\langle x\rangle\simeq LqE/(k_{\mathrm{B}}T) と場に比例し(線形応答)、qEkBTqE\gg k_{\mathrm{B}}T では xL\langle x\rangle\to L で鎖が完全に伸びきります。E=0E=0x=0\langle x\rangle=0 となるのも対称性から期待される通りです。

Z(E)=xC(x,L)eβqExZ(E)=\sum_{x}C(x,L)e^{\beta qEx} から

x=1ZxxC(x,L)eβqEx=lnZ(βqE)\langle x\rangle=\frac{1}{Z}\sum_{x}xC(x,L)e^{\beta qEx}=\frac{\partial\ln Z}{\partial(\beta qE)}

なので、EE で微分すると

xE=βq(x2x2)\frac{\partial\langle x\rangle}{\partial E}=\beta q\bigl(\langle x^{2}\rangle-\langle x\rangle^{2}\bigr)

です。E=0E=0 では、すべての手の向きを反転させる操作が配位の1対1対応を与えるので C(x,L)=C(x,L)C(-x,L)=C(x,L) であり、xE=0=0\langle x\rangle_{E=0}=0 です。したがって

xEE=0=qkBTx2E=0\left.\frac{\partial\langle x\rangle}{\partial E}\right|_{E=0}=\frac{q}{k_{\mathrm{B}}T}\langle x^{2}\rangle_{E=0}

が成り立ち、比例係数は q/(kBT)q/(k_{\mathrm{B}}T) です。使ったのは左右対称性と分配関数の定義だけで、C(x,L)C(x,L) の具体形は使っていません。これは平衡揺らぎが線形応答係数を決めるという揺動応答関係の一例です。実際に設問5と設問6の結果を使うと x2E=0=L\langle x^{2}\rangle_{E=0}=Lx/EE=0=Lq/(kBT)\partial\langle x\rangle/\partial E|_{E=0}=Lq/(k_{\mathrm{B}}T) で、比が q/(kBT)q/(k_{\mathrm{B}}T) になることを確かめられます。

第3問 等速運動する荷電粒子列がつくる電磁場

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座標系 O\mathcal{O}zz 軸上に、電荷 qq の粒子が間隔 aa-\infty から ++\infty まで並び、全体が速度 v=(0,0,vz)\boldsymbol{v}=(0,0,v_{z}) で等速運動しています。これを粒子とともに動く座標系 O\mathcal{O}' で見て、Lorentz 変換

(ct,x,y,z)=(γ(ctβz),x,y,γ(zβct))(ct',x',y',z')=\bigl(\gamma(ct-\beta z),\,x,\,y,\,\gamma(z-\beta ct)\bigr)

と場の変換則(式(2)(3))で O\mathcal{O} に戻します。β=vz/c\beta=v_{z}/cγ=1/1β2\gamma=1/\sqrt{1-\beta^{2}}ϵ0μ0=1/c2\epsilon_{0}\mu_{0}=1/c^{2} です。最後に粒子1個の場を同じ方法で求めます。

粒子列は zz について周期 aa を持つので、電荷密度と電流密度を zz のフーリエ級数に分解できます。n0n\neq0 のモードがつくる場は変形 Bessel 関数 K0(2πnρ/a)K_{0}(2\pi n\rho/a) に比例し、ρ=x2+y2\rho=\sqrt{x^{2}+y^{2}}aa より大きい領域では e2πnρ/ae^{-2\pi n\rho/a} で指数的に減衰します。したがって xa\lvert x\rvert\gg a では n=0n=0 成分、すなわち一様な線電荷密度と線電流だけが効きます。

λ=qa,I=λvz=qvza\lambda=\frac{q}{a},\qquad I=\lambda v_{z}=\frac{qv_{z}}{a}

Gauss の法則から EE は動径方向、Ampère の法則から BB は方位角方向で、点 (x,0,0)(x,0,0) では

E=(q2πϵ0ax,0,0),B=(0,μ0qvz2πax,0)\boldsymbol{E}=\left(\frac{q}{2\pi\epsilon_{0}ax},\,0,\,0\right),\qquad \boldsymbol{B}=\left(0,\,\frac{\mu_{0}qv_{z}}{2\pi ax},\,0\right)

です。xx の符号をそのまま代入すれば x<0x<0 でも向きが正しく出ます(x>0x>0 では E\boldsymbol{E}+x+xB\boldsymbol{B}+y+y 向き)。両者は By=βEx/cB_{y}=\beta E_{x}/c の関係にあり、B/EB/E1/c1/c より β\beta 倍小さいという静的な電流系の特徴を示しています。

O\mathcal{O} で時刻 ttnn 番目の粒子は z=na+vztz=na+v_{z}t にあります。この事象を式(1)で変換すると

z=γ(zβct)=γ(na+vztvzt)=γnaz'=\gamma(z-\beta ct)=\gamma(na+v_{z}t-v_{z}t)=\gamma na

となり、tt に依存しません。粒子は O\mathcal{O}' で静止しているのでこの zz' がそのまま O\mathcal{O}' における位置であり、隣接粒子の間隔は

a=γaa'=\gamma a

です。O\mathcal{O} での間隔 aa は同時刻(tt 一定)で測った長さで、静止系の間隔 aa' が Lorentz 収縮して a=a/γa=a'/\gamma に見えていた、という関係になっています。二つの事象は O\mathcal{O} で同時刻でも O\mathcal{O}' では同時刻ではありませんが、粒子が O\mathcal{O}' で静止しているため位置の差はそのまま間隔として読めます。

O\mathcal{O}' では電荷 qq が間隔 a=γaa'=\gamma a で静止しているだけなので、線電荷密度は λ=q/a=q/(γa)\lambda'=q/a'=q/(\gamma a)、電流は 00 です。設問1と同じ理由で x2+y2a2x'^{2}+y'^{2}\gg a'^{2} では一様線電荷の静電場になり、ρ=x2+y2\rho'=\sqrt{x'^{2}+y'^{2}} として

E=q2πϵ0γaρ2(x,y,0),B=0\boldsymbol{E}'=\frac{q}{2\pi\epsilon_{0}\gamma a\rho'^{2}}(x',\,y',\,0),\qquad \boldsymbol{B}'=\boldsymbol{0}

です。zz' には依存しません。

B=0\boldsymbol{B}'=\boldsymbol{0} を式(2)(3)に入れると

(Ex,Ey,Ez)=(γEx,γEy,0),(Bx,By,Bz)=(γβcEy,γβcEx,0)\begin{aligned} (E_{x},E_{y},E_{z})&=(\gamma E'_{x},\,\gamma E'_{y},\,0),\\ (B_{x},B_{y},B_{z})&=\left(-\frac{\gamma\beta}{c}E'_{y},\,\frac{\gamma\beta}{c}E'_{x},\,0\right) \end{aligned}

です。横方向の座標は変換で変わらないので x=xx'=xy=yy'=yρ=ρ=x2+y2\rho'=\rho=\sqrt{x^{2}+y^{2}} であり、

E=q2πϵ0aρ2(x,y,0),B=μ0qvz2πaρ2(y,x,0)=1c2v×E\boldsymbol{E}=\frac{q}{2\pi\epsilon_{0}a\rho^{2}}(x,\,y,\,0),\qquad \boldsymbol{B}=\frac{\mu_{0}qv_{z}}{2\pi a\rho^{2}}(-y,\,x,\,0)=\frac{1}{c^{2}}\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{E}

を得ます。点 (x,0,0)(x,0,0) では

E=(q2πϵ0ax,0,0),B=(0,μ0qvz2πax,0)\boldsymbol{E}=\left(\frac{q}{2\pi\epsilon_{0}ax},0,0\right),\qquad \boldsymbol{B}=\left(0,\frac{\mu_{0}qv_{z}}{2\pi ax},0\right)

となり、設問1の結果と完全に一致します。γ\gamma が消えるのは、Lorentz 収縮で O\mathcal{O}' の線電荷密度が λ/γ\lambda/\gamma に薄まる効果と、場の変換の E=γEE=\gamma E' がちょうど打ち消し合うためです。同じ物理系を二通りに計算して同じ答えを得たことになり、式(2)(3)と Lorentz 収縮の整合性の確認になっています。

O\mathcal{O}' では電荷が原点に静止しているので Coulomb 場です。r=(x,y,z)\boldsymbol{r}'=(x',y',z')r=rr'=\lvert\boldsymbol{r}'\rvert として

E=q4πϵ0rr3=q(x,y,z)4πϵ0(x2+y2+z2)3/2,B=0\boldsymbol{E}'=\frac{q}{4\pi\epsilon_{0}}\frac{\boldsymbol{r}'}{r'^{3}}=\frac{q\,(x',y',z')}{4\pi\epsilon_{0}(x'^{2}+y'^{2}+z'^{2})^{3/2}},\qquad \boldsymbol{B}'=\boldsymbol{0}

です(原点を除く)。

O\mathcal{O} の時刻 tt、点 (x,0,0)(x,0,0) は、式(1)により O\mathcal{O}'x=xx'=xy=0y'=0z=γ(0βct)=γvztz'=\gamma(0-\beta ct)=-\gamma v_{z}t に対応します。r2=x2+γ2vz2t2r'^{2}=x^{2}+\gamma^{2}v_{z}^{2}t^{2} なので設問5から

Ex=qx4πϵ0r3,Ey=0,Ez=qγvzt4πϵ0r3E'_{x}=\frac{qx}{4\pi\epsilon_{0}r'^{3}},\qquad E'_{y}=0,\qquad E'_{z}=-\frac{q\gamma v_{z}t}{4\pi\epsilon_{0}r'^{3}}

で、式(2)(3)を使うと R(x2+γ2vz2t2)1/2R\equiv(x^{2}+\gamma^{2}v_{z}^{2}t^{2})^{1/2} として

E=γq4πϵ0R3(x,0,vzt),B=(0,γμ0qvzx4πR3,0)=1c2v×E\boldsymbol{E}=\frac{\gamma q}{4\pi\epsilon_{0}R^{3}}(x,\,0,\,-v_{z}t),\qquad \boldsymbol{B}=\left(0,\,\frac{\gamma\mu_{0}qv_{z}x}{4\pi R^{3}},\,0\right)=\frac{1}{c^{2}}\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{E}

となります。特に粒子が原点を通過する瞬間 t=0t=0 では

E=(γq4πϵ0x2,0,0),B=(0,γμ0qvz4πx2,0)\boldsymbol{E}=\left(\frac{\gamma q}{4\pi\epsilon_{0}x^{2}},0,0\right),\qquad \boldsymbol{B}=\left(0,\frac{\gamma\mu_{0}qv_{z}}{4\pi x^{2}},0\right)

です。静止電荷の Coulomb 場に比べ、横方向の電場が γ\gamma 倍に強められています。一般の tt でも E\boldsymbol{E} は同時刻の粒子位置 (0,0,vzt)(0,0,v_{z}t) から見た動径方向を向き(上式の (x,0,vzt)(x,0,-v_{z}t) がその方向)、大きさは進行方向で 1/γ21/\gamma^{2} 倍、横方向で γ\gamma 倍という等速運動する点電荷の場の標準形になっています。設問1と設問4で線電荷の場合に γ\gamma が消えたのは、zz 方向に積分(無限個の和)をとることで縦方向の 1/γ21/\gamma^{2} と横方向の γ\gamma が均されるためで、1個の場合には γ\gamma が残ります。

第4問 コンプトン散乱とガンマ線スペクトル

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表で与えられた c=3.0×108m/sc=3.0\times10^{8}\,\mathrm{m/s}h=2π=6.6×1034Jsh=2\pi\hbar=6.6\times10^{-34}\,\mathrm{J\,s}c=200MeVfm\hbar c=200\,\mathrm{MeV\,fm}mec2=0.5MeVm_{\mathrm{e}}c^{2}=0.5\,\mathrm{MeV} などを使います。設問1から設問3はコンプトン散乱の運動学、設問4と設問5は NaI シンチレータによる 137Cs^{137}\mathrm{Cs} ガンマ線測定、設問6はレーザー光の逆コンプトン散乱です。

λ=hcE=2π(c)E=2π×200 MeVfm0.5 MeV=2.5×103 fm=2.5×1012 m\lambda=\frac{hc}{E}=\frac{2\pi(\hbar c)}{E}=\frac{2\pi\times200\ \mathrm{MeV\,fm}}{0.5\ \mathrm{MeV}}=2.5\times10^{3}\ \mathrm{fm}=2.5\times10^{-12}\ \mathrm{m}

が答えです。hhcc の数値から計算しても hc=2.0×1025Jmhc=2.0\times10^{-25}\,\mathrm{J\,m}E=0.5×1.6×1013J=8.0×1014JE=0.5\times1.6\times10^{-13}\,\mathrm{J}=8.0\times10^{-14}\,\mathrm{J}λ=2.5×1012m\lambda=2.5\times10^{-12}\,\mathrm{m} と同じ値になります。表の mec2=0.5MeVm_{\mathrm{e}}c^{2}=0.5\,\mathrm{MeV} を使うと電子の Compton 波長 λe=h/(mec)=hc/(mec2)\lambda_{\mathrm{e}}=h/(m_{\mathrm{e}}c)=hc/(m_{\mathrm{e}}c^{2}) もこれと同じ 2.5×1012m2.5\times10^{-12}\,\mathrm{m} です。

入射光子の進行方向を基準にとり、散乱光子が角 θ\theta、反跳電子が反対側に角 ψ\psi の方向へ出るとします(2体反応なので運動量は同一平面内)。エネルギー保存則は

hcλ+mec2=hcλ+pe2c2+me2c4\frac{hc}{\lambda}+m_{\mathrm{e}}c^{2}=\frac{hc}{\lambda'}+\sqrt{p_{\mathrm{e}}^{2}c^{2}+m_{\mathrm{e}}^{2}c^{4}}

運動量保存則は入射方向成分と垂直成分に分けて

hλ=hλcosθ+pecosψ,0=hλsinθpesinψ\frac{h}{\lambda}=\frac{h}{\lambda'}\cos\theta+p_{\mathrm{e}}\cos\psi,\qquad 0=\frac{h}{\lambda'}\sin\theta-p_{\mathrm{e}}\sin\psi

です。光子のエネルギーと運動量に E=hc/λE=hc/\lambdap=h/λp=h/\lambda を、電子に相対論的な E=p2c2+m2c4E=\sqrt{p^{2}c^{2}+m^{2}c^{4}} を使っている点が要点です。

運動量の2式を pecosψp_{\mathrm{e}}\cos\psipesinψp_{\mathrm{e}}\sin\psi の形に整えて2乗して足すと ψ\psi が消えて

pe2=h2(1λ22cosθλλ+1λ2)p_{\mathrm{e}}^{2}=h^{2}\left(\frac{1}{\lambda^{2}}-\frac{2\cos\theta}{\lambda\lambda'}+\frac{1}{\lambda'^{2}}\right)

を得ます。エネルギー保存則を平方根の項について整理して2乗すると

h2c2(1λ1λ)2+2mec3h(1λ1λ)=pe2c2h^{2}c^{2}\left(\frac{1}{\lambda}-\frac{1}{\lambda'}\right)^{2}+2m_{\mathrm{e}}c^{3}h\left(\frac{1}{\lambda}-\frac{1}{\lambda'}\right)=p_{\mathrm{e}}^{2}c^{2}

です。ここに pe2p_{\mathrm{e}}^{2} を代入すると h2c2(1/λ22/(λλ)+1/λ2)h^{2}c^{2}(1/\lambda^{2}-2/(\lambda\lambda')+1/\lambda'^{2}) が両辺から消えて

2mec3h(1λ1λ)=2c2h2(1cosθ)λλ,mecλλλλ=h(1cosθ)λλ2m_{\mathrm{e}}c^{3}h\left(\frac{1}{\lambda}-\frac{1}{\lambda'}\right)=\frac{2c^{2}h^{2}(1-\cos\theta)}{\lambda\lambda'},\qquad m_{\mathrm{e}}c\,\frac{\lambda'-\lambda}{\lambda\lambda'}=\frac{h(1-\cos\theta)}{\lambda\lambda'}

したがって

λ=λ+λe(1cosθ),λe=hmec\lambda'=\lambda+\lambda_{\mathrm{e}}(1-\cos\theta),\qquad \lambda_{\mathrm{e}}=\frac{h}{m_{\mathrm{e}}c}

が答えです。θ=0\theta=0λ=λ\lambda'=\lambdaθ=π\theta=\piλ=λ+2λe\lambda'=\lambda+2\lambda_{\mathrm{e}} が最大となり、波長の増加は入射波長によらず λe\lambda_{\mathrm{e}} のスケールで決まります。

設問2と設問3で扱ったのは光子が自由電子に弾性散乱される過程、すなわちコンプトン散乱で、図1では曲線 B が対応します。低エネルギー側で μ0.6 cm1\mu\simeq0.6\ \mathrm{cm^{-1}} とほぼ一定、0.1 MeV0.1\ \mathrm{MeV} を超えると緩やかに減り、100 MeV100\ \mathrm{MeV}102 cm110^{-2}\ \mathrm{cm^{-1}} 台になるという振る舞いは、電子1個あたりの Klein-Nishina 断面積の形に対応します。曲線 A は低エネルギーで急激に増大する光電効果、曲線 C は 2 MeV2\ \mathrm{MeV} 付近から立ち上がる電子対生成(閾値 2mec21.0 MeV2m_{\mathrm{e}}c^{2}\simeq1.0\ \mathrm{MeV})です。

矢印が示す急激な増大は、光電効果の K 吸収端です。エネルギーは NaI に含まれるヨウ素の K 殻電子の束縛エネルギー(約 33 keV33\ \mathrm{keV}、図の 3×102 MeV3\times10^{-2}\ \mathrm{MeV})に対応します。光子エネルギーがこの値を下から超えると K 殻電子を光電離できるようになり、寄与する電子の数が増えるため吸収係数が不連続に跳ね上がります。

図中の崩壊様式から、55137Cs^{137}_{55}\mathrm{Cs}7/2+7/2^{+}、半減期 30 年)は 95 パーセントが 56137Ba^{137}_{56}\mathrm{Ba}0.66 MeV0.66\ \mathrm{MeV} 励起状態(11/211/2^{-})へ、5 パーセントが基底状態(3/2+3/2^{+})へベータ崩壊します。前者が基底状態へ落ちるときに 0.66 MeV0.66\ \mathrm{MeV} のガンマ線が1本出るので、検出器に入るのは単色のガンマ線です。エネルギーが 1.0 MeV1.0\ \mathrm{MeV} 以下なので電子対生成は起こらず、スペクトルの構造は光電効果とコンプトン散乱だけで説明できます。以下 Eγ=0.662 MeVE_{\gamma}=0.662\ \mathrm{MeV}mec2=0.5 MeVm_{\mathrm{e}}c^{2}=0.5\ \mathrm{MeV} とします。

(a) 全エネルギーピーク(光電ピーク)です。ガンマ線が結晶内で全エネルギーを落とした事象で、直接の光電吸収と、結晶内で何回かコンプトン散乱した後に光電吸収される事象の両方が寄与します。エネルギーは 0.66 MeV0.66\ \mathrm{MeV} です。

(b) コンプトン端です。結晶内で1回コンプトン散乱し、散乱光子が結晶から逃げた事象では、反跳電子に渡るエネルギーが 00 から最大値までの連続分布((b) の左側に広がる平坦な連続部分がこれです)になります。最大値は θ=π\theta=\pi の場合で、設問3から

Emin=Eγ1+2Eγ/(mec2)=0.6621+2.65=0.18 MeV,Emax=EγEmin=0.48 MeVE'_{\min}=\frac{E_{\gamma}}{1+2E_{\gamma}/(m_{\mathrm{e}}c^{2})}=\frac{0.662}{1+2.65}=0.18\ \mathrm{MeV},\qquad E_{\max}=E_{\gamma}-E'_{\min}=0.48\ \mathrm{MeV}

です。したがって (b) のエネルギーは約 0.48 MeV0.48\ \mathrm{MeV} です。

(c) 後方散乱ピークです。線源の容器や鉛遮蔽箱など検出器の外側の物質で θπ\theta\simeq\pi のコンプトン散乱を受けた光子が結晶に入り、そこで全エネルギーを失った事象に対応します。エネルギーは上の EminE'_{\min} で約 0.18 MeV0.18\ \mathrm{MeV} です。

検算になります。定義から (b) と (c) のエネルギーの和は EγE_{\gamma} に等しく、図の横軸でも (b) の約 1210 チャンネルと (c) の約 510 チャンネルの和が (a) の約 1710 チャンネルにほぼ一致します。横軸が原点を通るほぼ線形な較正になっていることの確認にもなります。

正面衝突なので、電子の進行方向を +z+z、光子は z-z 方向から入射し θ=π\theta=\pi+z+z 方向に散乱されるとします。計量を (+,,,)(+,-,-,-) にとり、4元運動量を

k=Ec(1,0,0,1),p=(γmec,0,0,γmeβc),k=Ec(1,0,0,1)k=\frac{E}{c}(1,0,0,-1),\qquad p=(\gamma m_{\mathrm{e}}c,0,0,\gamma m_{\mathrm{e}}\beta c),\qquad k'=\frac{E'}{c}(1,0,0,1)

と書きます(E=hc/λE=hc/\lambdaE=hc/λE'=hc/\lambda')。散乱後の電子は p=p+kkp'=p+k-k' で、p2=p2=(mec)2p'^{2}=p^{2}=(m_{\mathrm{e}}c)^{2}k2=k2=0k^{2}=k'^{2}=0 から

pk=pk+kkp\cdot k=p\cdot k'+k\cdot k'

が出ます。各内積は

pk=γmeE(1+β),pk=γmeE(1β),kk=2EEc2p\cdot k=\gamma m_{\mathrm{e}}E(1+\beta),\qquad p\cdot k'=\gamma m_{\mathrm{e}}E'(1-\beta),\qquad k\cdot k'=\frac{2EE'}{c^{2}}

なので

γmeE(1+β)=γmeE(1β)+2EEc2,E=E(1+β)(1β)+2E/(γmec2)\gamma m_{\mathrm{e}}E(1+\beta)=\gamma m_{\mathrm{e}}E'(1-\beta)+\frac{2EE'}{c^{2}},\qquad E'=\frac{E(1+\beta)}{(1-\beta)+2E/(\gamma m_{\mathrm{e}}c^{2})}

です。1β=1/[γ2(1+β)]1-\beta=1/[\gamma^{2}(1+\beta)] を使って分母を整理すると

E=[(1+β)γ]2E1+2γ(1+β)E/(mec2)E'=\frac{[(1+\beta)\gamma]^{2}E}{1+2\gamma(1+\beta)E/(m_{\mathrm{e}}c^{2})}

となります。ここで E/(mec2)=h/(λmec)E/(m_{\mathrm{e}}c^{2})=h/(\lambda m_{\mathrm{e}}c) であり、1+β<21+\beta<2 なので分母の第2項は

2γ(1+β)hλmec<4γhλmec=4γλmec/h\frac{2\gamma(1+\beta)h}{\lambda m_{\mathrm{e}}c}<\frac{4\gamma h}{\lambda m_{\mathrm{e}}c}=\frac{4\gamma}{\lambda m_{\mathrm{e}}c/h}

で押さえられます。与えられた条件 λmec/h4γ\lambda m_{\mathrm{e}}c/h\gg4\gamma は、これが 11 に比べて無視できることをちょうど意味します。したがって

E[(1+β)γ]2E,λ=λ[(1+β)γ]2E'\simeq[(1+\beta)\gamma]^{2}E,\qquad \lambda'=\frac{\lambda}{[(1+\beta)\gamma]^{2}}

が示されました。

物理的には Doppler 効果が2回かかっています。電子静止系での入射光子の波長は λ=λ/[(1+β)γ]\lambda^{*}=\lambda/[(1+\beta)\gamma] で、条件 λ/λe4γ\lambda/\lambda_{\mathrm{e}}\gg4\gammaλλe\lambda^{*}\gg\lambda_{\mathrm{e}}、すなわち光子エネルギーが mec2m_{\mathrm{e}}c^{2} に比べて小さい Thomson 領域であることを意味します。この領域では設問3の λ=λ+2λeλ\lambda'^{*}=\lambda^{*}+2\lambda_{\mathrm{e}}\simeq\lambda^{*} で散乱は弾性的に見え、実験室系に戻すときにもう一度 (1+β)γ(1+\beta)\gamma 倍の昇位を受けます。γ1\gamma\gg1 では [(1+β)γ]24γ2[(1+\beta)\gamma]^{2}\simeq4\gamma^{2} なので、γ104\gamma\simeq10^{4} の電子と可視光レーザーから GeV 領域の光子が得られます。

第5問 磁気天秤による磁化率測定とキュリー則

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常磁性体(M=χHM=\chi Hχ>0\chi>0)の試料を電磁石の磁場勾配中に吊り、天秤で力を測って磁化率を決める実験です。磁場は xx 方向、勾配は yy 方向(上下)で、試料位置を y=0y=0 として Hx(y)=H0αyH_{x}(y)=H_{0}-\alpha yα>0\alpha>0H0>0H_{0}>0)と近似します。数値は μ0=1.26×106 NA2\mu_{0}=1.26\times10^{-6}\ \mathrm{N\cdot A^{-2}}μB=9.27×1024 JT1\mu_{\mathrm{B}}=9.27\times10^{-24}\ \mathrm{J\cdot T^{-1}}kB=1.38×1023 JK1k_{\mathrm{B}}=1.38\times10^{-23}\ \mathrm{J\cdot K^{-1}} です。後半はキュリー則 χ(T)=Nm(peffμB)2μ0/(3kBT)\chi(T)=N_{m}(p_{\mathrm{eff}}\mu_{\mathrm{B}})^{2}\mu_{0}/(3k_{\mathrm{B}}T)Gd3+\mathrm{Gd^{3+}} の電子配置を扱います。

磁場を 00 から HxH_{x} まで準静的に上げると、試料の磁化は M=χHM=\chi H に追随します。単位体積あたりのエネルギー変化は μ0MdH-\mu_{0}M\,dH の積算なので、体積 vv の試料では

ΔU=μ0v0HxχHdH=12μ0χvHx2\Delta U=-\mu_{0}v\int_{0}^{H_{x}}\chi H\,dH=-\frac{1}{2}\mu_{0}\chi vH_{x}^{2}

が答えです。χ>0\chi>0 なら ΔU<0\Delta U<0 で、磁場の強いところほどエネルギーが低くなります。永久双極子の μ0mH-\mu_{0}\boldsymbol{m}\cdot\boldsymbol{H} に比べて 1/21/2 がつくのは、モーメントが磁場に比例して誘起されるためです。

力は位置エネルギーの勾配から得られます。

fy=ΔUy=12μ0χvd(Hx2)dy=μ0χvαHx(y)f_{y}=-\frac{\partial\Delta U}{\partial y}=\frac{1}{2}\mu_{0}\chi v\frac{d\bigl(H_{x}^{2}\bigr)}{dy}=-\mu_{0}\chi v\alpha H_{x}(y)

αyH0\lvert\alpha y\rvert\ll H_{0} の範囲では Hx(y)H0H_{x}(y)\simeq H_{0} なので

fyμ0χvαH0f_{y}\simeq-\mu_{0}\chi v\alpha H_{0}

です。大きさは μ0χvαH0\mu_{0}\chi v\alpha H_{0}、向きは yy の負の向き、すなわち下向きです。HxH_{x}yy が小さいほど大きいので、常磁性試料は磁場の強い側(下)へ引かれます。次元も確認できます。μ0H02\mu_{0}H_{0}^{2} がエネルギー密度、これに vv を掛けてエネルギー、さらに α/H0\alpha/H_{0}(長さの逆数)を掛けて力になります。

IIff に比例するので、装置定数を κ\kappa として I=κf=κμ0χvαH0I=\kappa f=\kappa\mu_{0}\chi v\alpha H_{0} と書けます。同じ装置(同じ κ\kappaα\alpha)で測るので

A=κμ0αχRvR,B=κμ0αχvA=\kappa\mu_{0}\alpha\chi_{\mathrm{R}}v_{\mathrm{R}},\qquad B=\kappa\mu_{0}\alpha\chi v

であり、比をとると B/A=χv/(χRvR)B/A=\chi v/(\chi_{\mathrm{R}}v_{\mathrm{R}})、したがって

χ=BAvRvχR\chi=\frac{B}{A}\cdot\frac{v_{\mathrm{R}}}{v}\,\chi_{\mathrm{R}}

が答えです。未知の装置定数 κ\kappa と磁場勾配 α\alpha が比の中で消えることが、既知試料で校正する意味です。

キュリー則を

χNm=(peffμB)2μ03kB1T\frac{\chi}{N_{m}}=\frac{(p_{\mathrm{eff}}\mu_{\mathrm{B}})^{2}\mu_{0}}{3k_{\mathrm{B}}}\cdot\frac{1}{T}

と書くと、縦軸に χ/Nm\chi/N_{m}、横軸に 1/T1/T をとれば原点を通る直線になります。プロットすべき点は

(1T,χNm)=(2.00×102,3.30×1030), (1.00×102,1.65×1030), (5.00×103,0.83×1030), (3.33×103,0.55×1030)\left(\frac{1}{T},\frac{\chi}{N_{m}}\right)=(2.00\times10^{-2},\,3.30\times10^{-30}),\ (1.00\times10^{-2},\,1.65\times10^{-30}),\ (5.00\times10^{-3},\,0.83\times10^{-30}),\ (3.33\times10^{-3},\,0.55\times10^{-30})

(単位は K1\mathrm{K^{-1}}m3\mathrm{m^{3}})で、(χ/Nm)T(\chi/N_{m})T はそれぞれ 1.65, 1.65, 1.66, 1.651.65,\ 1.65,\ 1.66,\ 1.65(単位 1028 m3K10^{-28}\ \mathrm{m^{3}\cdot K})と一定です。4点は原点を通る直線上に乗り、傾きは S=1.65×1028 m3KS=1.65\times10^{-28}\ \mathrm{m^{3}\cdot K} です。

0.0050.0100.0150.02012301/T (K⁻¹)χ/N_m (10⁻³⁰ m³)傾き 1.65×10⁻²⁸ m³·K

傾きから

peff2=3kBSμ0μB2=3×1.38×1023×1.65×10281.26×106×(9.27×1024)2=6.83×10511.08×1052=63p_{\mathrm{eff}}^{2}=\frac{3k_{\mathrm{B}}S}{\mu_{0}\mu_{\mathrm{B}}^{2}}=\frac{3\times1.38\times10^{-23}\times1.65\times10^{-28}}{1.26\times10^{-6}\times(9.27\times10^{-24})^{2}}=\frac{6.83\times10^{-51}}{1.08\times10^{-52}}=63

です。有効数字2桁で peff2=63p_{\mathrm{eff}}^{2}=63peff=7.9p_{\mathrm{eff}}=7.9)が答えです。次元も合っています。μ0μB2\mu_{0}\mu_{\mathrm{B}}^{2}(TmA1)(Am2)(JT1)=Jm3(\mathrm{T\cdot m\cdot A^{-1}})(\mathrm{A\cdot m^{2}})(\mathrm{J\cdot T^{-1}})=\mathrm{J\cdot m^{3}} で、分子の 3kBS3k_{\mathrm{B}}SJm3\mathrm{J\cdot m^{3}} です。

4f4f 殻は =3\ell=3 なので z=3,2,1,0,1,2,3\ell_{z}=3,2,1,0,-1,-2,-3 の7軌道があり、スピンを含めると14個の電子を収容できます。Gd3+\mathrm{Gd^{3+}} は7電子でちょうど半分です。フント則 (A) で SS を最大にするには7個の電子のスピンをすべて平行にする必要があり、Pauli 原理からそれには7個の軌道状態を1個ずつ占める配置しかありません。したがって

S=7×12=72S=7\times\frac{1}{2}=\frac{7}{2}

です。この配置は一意なので (B) で選ぶ余地はなく、

L=zz=3+2+1+0123=0L=\sum_{\ell_{z}}\ell_{z}=3+2+1+0-1-2-3=0

となります。(C) からも J=LS=7/2=SJ=\lvert L-S\rvert=7/2=S です。L=0L=0 なので軌道角運動量からの寄与がなく、磁気モーメントは電子スピンだけから生じます。Landé の gg 因子も

gJ=1+J(J+1)+S(S+1)L(L+1)2J(J+1)=1+1=2(L=0, J=S)g_{J}=1+\frac{J(J+1)+S(S+1)-L(L+1)}{2J(J+1)}=1+1=2\qquad(L=0,\ J=S)

とスピンの値 g=2g=2 に一致し、これが磁気モーメントがスピンのみからなることの表れです。

g=2g=2S=7/2S=7/2 から予想される値は

peff2=g2S(S+1)=4×72×92=63p_{\mathrm{eff}}^{2}=g^{2}S(S+1)=4\times\frac{7}{2}\times\frac{9}{2}=63

で、設問4の実験値 63 と一致します。半充填殻で軌道角運動量が消えるためスピンのみのモーメントがそのまま観測される、という Gd3+\mathrm{Gd^{3+}} の性質が実験で確認されたことになります。

前半は地上でのミューオンの飛行時間測定です。厚さ d=0.5 cmd=0.5\ \mathrm{cm}、密度 ρ=1.1 g/cm3\rho=1.1\ \mathrm{g/cm^{3}} のプラスチックシンチレータ2台を 30 m30\ \mathrm{m} 離して置き、2本の PMT 信号の時間差から速度を求めます。mμc2=100 MeVm_{\mu}c^{2}=100\ \mathrm{MeV}c=3.00×108 m/sc=3.00\times10^{8}\ \mathrm{m/s} で、単位質量厚あたりのエネルギー損失 ε\varepsilonβγ\beta\gamma の関数として図2に与えられています。後半は、地球に対して静止した天体 A から、地球の方向と角 θ\theta をなす向きに速さ vv で放出された物体 B と、同時に逆向きに放出された物体 C について、天球面内の見かけの速さを考えます。

β=0.9\beta=0.9 では

γ=110.81=10.19=2.29\gamma=\frac{1}{\sqrt{1-0.81}}=\frac{1}{\sqrt{0.19}}=2.29

なので全エネルギーは

E=γmμc2=2.29×100 MeV=2×102 MeVE=\gamma m_{\mu}c^{2}=2.29\times100\ \mathrm{MeV}=2\times10^{2}\ \mathrm{MeV}

です。βγ=0.9×2.29=2.1\beta\gamma=0.9\times2.29=2.1 なので、図2でこの横軸位置を読むと ε2 MeVg1cm2\varepsilon\simeq2\ \mathrm{MeV\,g^{-1}cm^{2}}(曲線の最小値 1.81.8 のすぐ上)です。シンチレータ1台の質量厚は ρd=1.1×0.5=0.55 g/cm2\rho d=1.1\times0.5=0.55\ \mathrm{g/cm^{2}} なので

ΔE=ερd=2×0.551 MeV\Delta E=\varepsilon\rho d=2\times0.55\simeq1\ \mathrm{MeV}

が失うエネルギーです。全エネルギー 230 MeV230\ \mathrm{MeV} の 1 パーセントに満たないので、通過による減速は以下の議論では無視できます。

β=0.990\beta=0.990 での飛行時間は

Δt=30 m0.990×3.00×108 m/s=1.0101×107 s=101 ns\Delta t=\frac{30\ \mathrm{m}}{0.990\times3.00\times10^{8}\ \mathrm{m/s}}=1.0101\times10^{-7}\ \mathrm{s}=101\ \mathrm{ns}

です。2台の測定時刻は独立で標準偏差がそれぞれ σ=0.7 ns\sigma=0.7\ \mathrm{ns} なので、その差の標準偏差は

σΔt=2×0.7=0.99 ns\sigma_{\Delta t}=\sqrt{2}\times0.7=0.99\ \mathrm{ns}

です。よって時間差は 101 ns±0.99 ns101\ \mathrm{ns}\pm0.99\ \mathrm{ns} です。速度は

v=30 mΔt=2.97×108 m/sv=\frac{30\ \mathrm{m}}{\Delta t}=2.97\times10^{8}\ \mathrm{m/s}

で、飛行距離は誤差を持たないので相対誤差は時間差と同じ 0.99/101=0.980.99/101=0.98 パーセント、すなわち δv=2.9×106 m/s\delta v=2.9\times10^{6}\ \mathrm{m/s} です。答えは

v=(2.97±0.03)×108 m/sv=(2.97\pm0.03)\times10^{8}\ \mathrm{m/s}

です。

測定値が光速を超えるのは Δt<30 m/c=100.0 ns\Delta t<30\ \mathrm{m}/c=100.0\ \mathrm{ns} となる場合です。真の値 101.01 ns101.01\ \mathrm{ns} からの隔たりは

101.01100.00.99=1.02σ\frac{101.01-100.0}{0.99}=1.02\,\sigma

なので、標準正規分布の下側確率から

P=Φ(1.02)0.152×101P=\Phi(-1.02)\simeq0.15\simeq2\times10^{-1}

です。6回に1回程度は見かけ上の超光速が観測されます。時間分解能 0.99 ns0.99\ \mathrm{ns} が、光速で飛んだ場合との時間差 1.0 ns1.0\ \mathrm{ns} と同程度である限り、この種の誤りは避けられません。

天体 A の静止系(地球の静止系)の時刻で ΔtA\Delta t_{\mathrm{A}} の間に、B は距離 vΔtAv\Delta t_{\mathrm{A}} を進みます。その視線方向成分 vΔtAcosθv\Delta t_{\mathrm{A}}\cos\theta の分だけ地球までの距離が短くなるので、後から出た光の到達が vΔtAcosθ/cv\Delta t_{\mathrm{A}}\cos\theta/c だけ早まります。したがって地上で観測される時間間隔は

Δt=ΔtAvΔtAcosθc=ΔtA(1βcosθ)\Delta t=\Delta t_{\mathrm{A}}-\frac{v\Delta t_{\mathrm{A}}\cos\theta}{c}=\Delta t_{\mathrm{A}}(1-\beta\cos\theta)

です。一方で天球面内の見かけの移動距離は Δx=vΔtAsinθ\Delta x=v\Delta t_{\mathrm{A}}\sin\theta なので

ub=ΔxΔt=βcsinθ1βcosθu_{\mathrm{b}}=\frac{\Delta x}{\Delta t}=\frac{\beta c\sin\theta}{1-\beta\cos\theta}

が答えです。分母が 11 より小さくなることが、ubu_{\mathrm{b}}cc を超えうる理由です。β0\beta\to0 では ubvsinθu_{\mathrm{b}}\to v\sin\theta という素朴な射影に戻ります。

θ\theta で微分すると

ddθsinθ1βcosθ=cosθ(1βcosθ)βsin2θ(1βcosθ)2=cosθβ(1βcosθ)2\frac{d}{d\theta}\frac{\sin\theta}{1-\beta\cos\theta}=\frac{\cos\theta(1-\beta\cos\theta)-\beta\sin^{2}\theta}{(1-\beta\cos\theta)^{2}}=\frac{\cos\theta-\beta}{(1-\beta\cos\theta)^{2}}

なので、ubu_{\mathrm{b}} の最大値を与える θ\theta の条件は

cosθ=β\cos\theta=\beta

です。このとき sinθ=1β2=1/γ\sin\theta=\sqrt{1-\beta^{2}}=1/\gamma1βcosθ=1β2=1/γ21-\beta\cos\theta=1-\beta^{2}=1/\gamma^{2} なので

ubmax=βc1γγ2=βγcu_{\mathrm{b}}^{\max}=\beta c\cdot\frac{1}{\gamma}\cdot\gamma^{2}=\beta\gamma c

となります。β=0.99\beta=0.99 では γ=1/10.9801=7.09\gamma=1/\sqrt{1-0.9801}=7.09βγ=7.02\beta\gamma=7.02 なので、最大値は光速の約 7 倍です。

C は B と逆向きなので、視線方向成分は地球から遠ざかる vcosθ-v\cos\theta、天球面内成分は vsinθ-v\sin\theta です。遠ざかる分だけ後から出た光の到達が遅れるので観測時間間隔は Δt=ΔtA(1+βcosθ)\Delta t=\Delta t_{\mathrm{A}}(1+\beta\cos\theta) となり、x-x 方向の見かけの速さは

uc=βcsinθ1+βcosθu_{\mathrm{c}}=\frac{\beta c\sin\theta}{1+\beta\cos\theta}

です。分母が 11 より大きいので uc<cu_{\mathrm{c}}<c で、こちらは超光速には見えません。

S=βsinθS=\beta\sin\thetaK=βcosθK=\beta\cos\theta と置くと、ub=2cu_{\mathrm{b}}=2cuc=0.25cu_{\mathrm{c}}=0.25c

S=2(1K),S=0.25(1+K)S=2(1-K),\qquad S=0.25(1+K)

を意味します。第1式と第2式から 22K=0.25+0.25K2-2K=0.25+0.25K、すなわち

K=79=0.778,S=49=0.444K=\frac{7}{9}=0.778,\qquad S=\frac{4}{9}=0.444

です。したがって

β=S2+K2=659=0.8960.9,sinθ=Sβ=465=0.4960.5\beta=\sqrt{S^{2}+K^{2}}=\frac{\sqrt{65}}{9}=0.896\simeq0.9,\qquad \sin\theta=\frac{S}{\beta}=\frac{4}{\sqrt{65}}=0.496\simeq0.5

が答えです(θ30\theta\simeq30 度)。逆数をとって足し引きすると 1/ub+1/uc=2/(βcsinθ)1/u_{\mathrm{b}}+1/u_{\mathrm{c}}=2/(\beta c\sin\theta)1/uc1/ub=2cosθ/(csinθ)1/u_{\mathrm{c}}-1/u_{\mathrm{b}}=2\cos\theta/(c\sin\theta) となり、4.5/c4.5/c3.5/c3.5/c からそれぞれ βsinθ=4/9\beta\sin\theta=4/9tanθ=4/7\tan\theta=4/7 が直ちに出ます。同じ答えを別経路で確認できました。得られた β=65/9\beta=\sqrt{65}/9 では γ=9/4\gamma=9/4 なので設問4の上限は βγc=(65/4)c=2.02c\beta\gamma c=(\sqrt{65}/4)c=2.02c で、ub=2cu_{\mathrm{b}}=2c がその直下に収まっていることも整合的です(最大を与える角は sinθ=1/γ=0.444\sin\theta=1/\gamma=0.444 で、求めた 0.4960.496 はそこから少しずれた値です)。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成27年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。

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