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平成15年度 東大院 物理学専攻 修士 物理学 解答

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4時間30分で9問から5問を選ぶ形式です。量子力学・統計力学・電磁気学・力学の標準的な4問に加えて、測定誤差論、加速器を使った原子核実験、相対論的運動学、蛋白質の熱力学が並んでおり、実験系・生物物理系の受験者が選べるように配慮された構成になっています。計算量が重いのは第1問設問6(断熱定理の証明)と第3問設問4(円筒に対する電気映像)で、逆に第5問と第8問は式の導出そのものより「なぜそうなるか」を日本語で書き切れるかが問われます。

問題分野主題
第1問量子力学井戸型ポテンシャルの障壁除去と断熱定理
第2問統計力学二元合金の平均場近似と相分離
第3問電磁気学円筒導体の内部の導線、電気映像法
第4問力学・剛体慣性モーメントと球の転がり運動
第5問確率統計測定誤差の扱いと最小二乗法
第6問原子核・実験物理プラズマ中での荷電交換とエネルギー損失
第7問相対論・素粒子反陽子対生成のしきい値
第8問熱力学・生物物理蛋白質の熱転移の熱力学
第9問統計力学2原子分子の回転比熱と核スピン統計

9問から5問を選択する形式ですが、ここでは全問の解答を載せます。

第1問 井戸型ポテンシャルの障壁除去と断熱定理

Section titled “第1問 井戸型ポテンシャルの障壁除去と断熱定理”

0<x<2L0<x<2L を高さ無限大の壁で囲んだ一次元井戸に、x=Lx=L に高さ無限大で幅の無視できる障壁を立て、質量 mm の粒子を左半分 0<x<L0<x<L に閉じ込めます。井戸の底をエネルギーの原点とします。障壁を突然取り去る場合(設問2から設問4)と、障壁をゆっくり右端まで動かす場合(設問5から設問7)を比べる問題です。

\ell の無限に深い井戸の固有関数と固有エネルギーは

φn(x)=2sinnπx,εn=n2π222m2(n=1,2,)\varphi_n(x)=\sqrt{\frac{2}{\ell}}\sin\frac{n\pi x}{\ell},\qquad \varepsilon_n=\frac{n^2\pi^2\hbar^2}{2m\ell^2}\quad (n=1,2,\dots)

です。問題文は設問6で量子数を負でない整数としていますが、以下では基底状態を n=1n=1 とする慣用の番号付けを使います(nn+1n\to n+1 と読み替えれば同じです)。

粒子は幅 LL の井戸に閉じ込められているので、=L\ell=Ln=1n=1 として

E0=π222mL2E_0=\frac{\pi^2\hbar^2}{2mL^2}

が答えです。障壁の幅は LL に比べて十分小さいので、左半分の井戸の幅は LL としてよく、障壁の存在は境界条件 ψ(L)=0\psi(L)=0 としてのみ効きます。

障壁を取り去った直後の波動関数は、取り去る前の基底状態

ψ(x,0)={2LsinπxL(0<x<L)0(L<x<2L)\psi(x,0)=\begin{cases}\sqrt{\dfrac{2}{L}}\sin\dfrac{\pi x}{L} & (0<x<L)\\ 0 & (L<x<2L)\end{cases}

のままです。幅 2L2L の井戸の固有関数と固有エネルギーは

Φn(x)=1Lsinnπx2L,εn=n2π228mL2=n24E0\Phi_n(x)=\frac{1}{\sqrt{L}}\sin\frac{n\pi x}{2L},\qquad \varepsilon_n=\frac{n^2\pi^2\hbar^2}{8mL^2}=\frac{n^2}{4}E_0

なので、展開係数は

cn=02LΦn(x)ψ(x,0)dx=2L0Lsinnπx2LsinπxLdxc_n=\int_0^{2L}\Phi_n(x)\psi(x,0)\,dx=\frac{\sqrt{2}}{L}\int_0^{L}\sin\frac{n\pi x}{2L}\sin\frac{\pi x}{L}\,dx

です。n=2n=2 のときは被積分関数が sin2(πx/L)\sin^2(\pi x/L) になり c2=1/2c_2=1/\sqrt{2}n2n\neq2 のときは積和の公式で積分して

cn=42πsin(nπ/2)n24c_n=-\frac{4\sqrt{2}}{\pi}\,\frac{\sin(n\pi/2)}{n^2-4}

となります。sin(nπ/2)\sin(n\pi/2) は偶数 nn でゼロなので、n=2n=2 と奇数 nn だけが残ります。

基底状態 n=1n=1 にある確率は c1=42/(3π)c_1=4\sqrt{2}/(3\pi) から

c12=329π20.36|c_1|^2=\frac{32}{9\pi^2}\simeq0.36

です。エネルギー期待値は、障壁を取り去っても波動関数が変わらず、しかも障壁は幅ゼロで内部のポテンシャルはどちらも 00 なので、運動エネルギーの期待値がそのまま残り

E=22m02Ldψdx2dx=π222mL2=E0\langle E\rangle=\frac{\hbar^2}{2m}\int_0^{2L}\left|\frac{d\psi}{dx}\right|^2dx=\frac{\pi^2\hbar^2}{2mL^2}=E_0

です。級数からも確認できます。c22ε2=12E0|c_2|^2\varepsilon_2=\frac12E_0、奇数 nn の和は n:oddn2/(n24)2=π2/16\sum_{n:\text{odd}}n^2/(n^2-4)^2=\pi^2/16 を使って 8E0π2π216=12E0\frac{8E_0}{\pi^2}\cdot\frac{\pi^2}{16}=\frac12E_0 となり、合計 E0E_0 になります(同じ和の計算で ncn2=1\sum_n|c_n|^2=1 も確かめられます)。

位置の確率密度は ψ(x,t)2|\psi(x,t)|^2 で、左半分は 0<x<L0<x<L なので

Pleft(t)=0Lψ(x,t)2dxP_{\text{left}}(t)=\int_0^{L}|\psi(x,t)|^2\,dx

と書けます。ψ\psi が規格化されているので Pleft+Pright=1P_{\text{left}}+P_{\text{right}}=1 です。

各固有状態に位相因子 eiεnt/e^{-i\varepsilon_nt/\hbar} を付けて重ね合わせればよく、εn=n2E0/4\varepsilon_n=n^2E_0/4、奇数 n=2k+1n=2k+1sin(nπ/2)=(1)k\sin(n\pi/2)=(-1)^k を使うと

ψ(x,t)=12LsinπxLeiE0t/42πLk=0(1)k(2k+1)24sin(2k+1)πx2Lexp ⁣[i(2k+1)2E0t4]\psi(x,t)=\frac{1}{\sqrt{2L}}\sin\frac{\pi x}{L}\,e^{-iE_0t/\hbar} -\frac{4\sqrt{2}}{\pi\sqrt{L}}\sum_{k=0}^{\infty}\frac{(-1)^k}{(2k+1)^2-4}\, \sin\frac{(2k+1)\pi x}{2L}\,\exp\!\left[-\frac{i(2k+1)^2E_0t}{4\hbar}\right]

です。第1項が n=2n=2 の寄与で、その固有エネルギーはちょうど E0E_0 になっています。

断熱定理により、障壁の位置 aa をゆっくり動かす間、粒子は左側の井戸の基底状態(量子数 n=1n=1)にとどまります。したがって a=2La=2L に達したときのエネルギーは幅 2L2L の井戸の基底エネルギー

E=π222m(2L)2=E04\langle E\rangle=\frac{\pi^2\hbar^2}{2m(2L)^2}=\frac{E_0}{4}

です。突然取り去った設問2では E=E0\langle E\rangle=E_0 で変わらなかったのに対し、ゆっくり動かすと粒子が壁を押す仕事の分だけエネルギーが減り、1/41/4 になります。

aa の井戸の固有関数 ϕn(x,a)\phi_n(x,a)H(a)ϕn=εn(a)ϕnH(a)\phi_n=\varepsilon_n(a)\phi_nϕnϕm=δnm\langle\phi_n|\phi_m\rangle=\delta_{nm} を満たします。展開

ψ(x,t)=ncn(t)ϕn(x,a)exp{i0tεn(a)dτ}\psi(x,t)=\sum_n c_n(t)\phi_n(x,a)\exp\left\{-\frac{i}{\hbar}\int_0^t\varepsilon_n(a)\,d\tau\right\}

itψ=H(a)ψi\hbar\,\partial_t\psi=H(a)\psi に代入します。a=a(t)a=a(t) なので tϕn=a˙aϕn\partial_t\phi_n=\dot a\,\partial_a\phi_n であり、

in[c˙nϕn+cna˙aϕniεncnϕn]ei0tεndτ=ncnεnϕnei0tεndτi\hbar\sum_n\left[\dot c_n\phi_n+c_n\dot a\,\partial_a\phi_n-\frac{i}{\hbar}\varepsilon_nc_n\phi_n\right]e^{-\frac{i}{\hbar}\int_0^t\varepsilon_nd\tau} =\sum_nc_n\varepsilon_n\phi_n\,e^{-\frac{i}{\hbar}\int_0^t\varepsilon_nd\tau}

となります。εn\varepsilon_n の項が両辺で消え、ϕn\phi_n の係数に ϕk\phi_k^* を掛けて積分すると

dcn(t)dt=mcm(t)a˙ϕnaϕmexp{+i0t[εn(a)εm(a)]dτ}\frac{dc_n(t)}{dt}=-\sum_m c_m(t)\,\dot a\,\langle\phi_n|\partial_a\phi_m\rangle \exp\left\{+\frac{i}{\hbar}\int_0^t[\varepsilon_n(a)-\varepsilon_m(a)]d\tau\right\}

が得られます。これを問題文の形と比べると

Jmn=a0aϕn(x,a)ϕm(x,a)adxJ_{mn}=a\int_0^{a}\phi_n(x,a)\,\frac{\partial\phi_m(x,a)}{\partial a}\,dx

です。ϕm=2/asin(mπx/a)\phi_m=\sqrt{2/a}\sin(m\pi x/a) を微分すると

ϕma=12aϕmmπxa22acosmπxa\frac{\partial\phi_m}{\partial a}=-\frac{1}{2a}\phi_m-\frac{m\pi x}{a^2}\sqrt{\frac{2}{a}}\cos\frac{m\pi x}{a}

で、第1項は直交性から nmn\neq m では効きません。第2項の積分は 0πssin(ns)cos(ms)ds=πn(1)m+n/(n2m2)\int_0^\pi s\sin(ns)\cos(ms)\,ds=-\pi n(-1)^{m+n}/(n^2-m^2) を使って評価でき、

Jmn=2mn(1)m+nn2m2(mn),Jnn=0J_{mn}=\frac{2mn\,(-1)^{m+n}}{n^2-m^2}\quad(m\neq n),\qquad J_{nn}=0

となります。aa にも tt にもよらない定数行列です。対角成分が消えるのは、規格化条件 aϕnϕn=0\partial_a\langle\phi_n|\phi_n\rangle=0ϕn\phi_n が実であることから直ちに従います。また Jnm=JmnJ_{nm}=-J_{mn} という反対称性ももちます。

断熱定理は次のように従います。関係式を tt で積分すると

cn(t)cn(0)=mn0tdtcma˙aJmneiΘnm(t),dΘnmdt=εnεmc_n(t)-c_n(0)=-\sum_{m\neq n}\int_0^t dt'\,c_m\frac{\dot a}{a}J_{mn}\,e^{i\Theta_{nm}(t')}, \qquad \frac{d\Theta_{nm}}{dt'}=\frac{\varepsilon_n-\varepsilon_m}{\hbar}

です。a˙/a|\dot a/a| の変化が緩やかで、位相 Θnm\Theta_{nm} の振動が速いとき、部分積分すると右辺は

cn(t)cn(0)εnεma˙aJmn\left|c_n(t)-c_n(0)\right|\sim\frac{\hbar}{|\varepsilon_n-\varepsilon_m|}\left|\frac{\dot a}{a}\right|\,|J_{mn}|

のオーダーになります。したがって

a˙aminmnεn(a)εm(a)\hbar\left|\frac{\dot a}{a}\right|\ll\min_{m\neq n}|\varepsilon_n(a)-\varepsilon_m(a)|

すなわち aa が有意に変わる時間 Ta/a˙T\sim a/|\dot a| が準位間隔で決まる時間 /Δε\hbar/\Delta\varepsilon よりずっと長いとき、cn(t)cn(0)c_n(t)\simeq c_n(0) となり、粒子は同じ量子数の固有状態にとどまります。逆に言えば、準位が縮退する(Δε0\Delta\varepsilon\to0)場合には、どんなにゆっくり動かしても断熱定理は破れます。

古典粒子は幅 aa の領域を速さ vv で往復し、右の壁が速さ u=a˙>0u=\dot a>0 で遠ざかります。壁との弾性衝突で壁の静止系を経由して考えると、1回の衝突ごとに速さは vv2uv\to v-2u と変わります。衝突の間隔は Δt=2a/v\Delta t=2a/v なので、多数回の衝突を平均して

dvdt=2u2a/v=vadadtdvv=daa\frac{dv}{dt}=\frac{-2u}{2a/v}=-\frac{v}{a}\frac{da}{dt} \quad\Longrightarrow\quad \frac{dv}{v}=-\frac{da}{a}

となり、va=constva=\text{const}、すなわち断熱不変量 pdq=2mva\oint p\,dq=2mva が保存します。これは uvu\ll v すなわち壁の運動が十分ゆっくりであることを使っています。運動エネルギーは

E=12mv21a2E=\frac12mv^2\propto\frac{1}{a^2}

なので、a:L2La:L\to2LE:E0E0/4E:E_0\to E_0/4 となり、設問5の量子力学の結果と一致します。量子系で εnn2/a2\varepsilon_n\propto n^2/a^2nn が保たれることと、古典系で vava が保たれることが同じ内容を述べているわけです。

第2問 二元合金の平均場近似と相分離

Section titled “第2問 二元合金の平均場近似と相分離”

イオン半径のほぼ等しい2元素 A、B を 50:50 で混ぜた単純立方格子(配位数 z=6z=6、全格子点数 NN、周期境界条件)の合金です。最近接対の相互作用エネルギーは、同種対(AA、BB)で共通の値、異種対(AB)で別の値をとり、同種対のほうが低いとされています。そこで同種対のエネルギーを ϵAA=ϵBB=a\epsilon_{AA}=\epsilon_{BB}=a、異種対を ϵAB=b\epsilon_{AB}=b とし、条件 a<ba<b をそのまま「同種対が低い」と読みます。格子点 ii が A なら σi=+1\sigma_i=+1、B なら σi=1\sigma_i=-1 とすると、イジング模型に写ります。

最近接対 i,j\langle i,j\rangle が同種か異種かは

1+σiσj2={1(同種)0(異種),1σiσj2={0(同種)1(異種)\frac{1+\sigma_i\sigma_j}{2}=\begin{cases}1&(\text{同種})\\0&(\text{異種})\end{cases},\qquad \frac{1-\sigma_i\sigma_j}{2}=\begin{cases}0&(\text{同種})\\1&(\text{異種})\end{cases}

という射影で書けます。したがって1つの対のエネルギーは

ϵij=a1+σiσj2+b1σiσj2=ab2σiσj+a+b2\epsilon_{ij}=a\cdot\frac{1+\sigma_i\sigma_j}{2}+b\cdot\frac{1-\sigma_i\sigma_j}{2} =\frac{a-b}{2}\sigma_i\sigma_j+\frac{a+b}{2}

となり、全体は H=i,j(Pσiσj+Q)H=\sum_{\langle i,j\rangle}(P\sigma_i\sigma_j+Q) の形に書けます。答えは

P=ab2 (<0),Q=a+b2P=\frac{a-b}{2}\ (<0),\qquad Q=\frac{a+b}{2}

です。a<ba<b より P<0P<0 で、これは強磁性的な結合、つまり隣同士が同種であることを好む符号です。

A と B の原子数濃度が等しいので、σi=+1\sigma_i=+1σi=1\sigma_i=-1 の格子点が同数あり

p=σi=0p=\langle\sigma_i\rangle=0

です。これは組成比が決めている値で、温度によらず固定されています。

置き換え σiσj(σi+σj)mm2\sigma_i\sigma_j\to(\sigma_i+\sigma_j)m-m^2 を行うと、各格子点が z=6z=6 本の結合に現われ、最近接対の総数が zN/2=3NzN/2=3N 本であることから

H=6Pmiσi+3N(QPm2)H=6Pm\sum_i\sigma_i+3N(Q-Pm^2)

となります。各 σi\sigma_i が独立になったので、β=1/kBT\beta=1/k_BT として分配関数は

Z=e3Nβ(QPm2)iσi=±1e6βPmσi=[2cosh3(ba)mkBT]Nexp[3NkBT(a+b2+(ba)m22)]Z=e^{-3N\beta(Q-Pm^2)}\prod_i\sum_{\sigma_i=\pm1}e^{-6\beta Pm\sigma_i} =\left[2\cosh\frac{3(b-a)m}{k_BT}\right]^N \exp\left[-\frac{3N}{k_BT}\left(\frac{a+b}{2}+\frac{(b-a)m^2}{2}\right)\right]

です。自由エネルギー F=kBTlnZF=-k_BT\ln Z

F=3N(a+b)2+3N(ba)2m2NkBTln[2cosh3(ba)mkBT]F=\frac{3N(a+b)}{2}+\frac{3N(b-a)}{2}m^2-Nk_BT\ln\left[2\cosh\frac{3(b-a)m}{k_BT}\right]

となります。m=0m=0 とすれば F=3N(a+b)/2NkBTln2F=3N(a+b)/2-Nk_BT\ln2 で、無秩序な固溶体の混合エントロピー NkBln2Nk_B\ln2 を正しく含んでいます。

ba>0b-a>0 を使い、ln(2coshx)=ln2+x22x412+O(x6)\ln(2\cosh x)=\ln2+\dfrac{x^2}{2}-\dfrac{x^4}{12}+O(x^6)x=3(ba)m/kBTx=3(b-a)m/k_BT に適用して整理すると F=u+vm2+wm4F=u+vm^2+wm^4 の形になり

u=3N(a+b)2NkBTln2,v=3N(ba)2[13(ba)kBT],w=27N(ba)44(kBT)3u=\frac{3N(a+b)}{2}-Nk_BT\ln2,\qquad v=\frac{3N(b-a)}{2}\left[1-\frac{3(b-a)}{k_BT}\right],\qquad w=\frac{27N(b-a)^4}{4(k_BT)^3}

が答えです。w>0w>0 は常に成り立ち、vv

kBTc=3(ba)k_BT_c=3(b-a)

を境に符号を変えます。u,v,wu,v,w はいずれもエネルギーの次元をもち(mm は無次元)、次元は整合しています。

F/m=2vm+4wm3=0\partial F/\partial m=2vm+4wm^3=0 より m=0m=0 または m2=v/(2w)m^2=-v/(2w) です。v>0v>0kBT>3(ba)k_BT>3(b-a))では m=0m=0 が唯一の極小、v<0v<0kBT<3(ba)k_BT<3(b-a))では m=0m=0 は極大に変わり

m=±v2w=±kBT3(ba)3(ba)kBTbam=\pm\sqrt{-\frac{v}{2w}}=\pm\frac{k_BT}{3(b-a)}\sqrt{\frac{3(b-a)-k_BT}{b-a}}

の2つが極小になります。TcT_c の直下では kBT=3(ba)(1ε)k_BT=3(b-a)(1-\varepsilon) として m±3ε=±3(1T/Tc)m\simeq\pm\sqrt{3\varepsilon}=\pm\sqrt{3(1-T/T_c)} となり、平均場近似の指数 1/21/2 が出ます。kBT=2(ba)k_BT=2(b-a) では m=±2/3m=\pm2/3 です。

グラフは、T>TcT>T_cm=0m=0TcT_c の直下で TcT\sqrt{T_c-T} 型に立ち上がり(TcT_c での傾きは無限大)、kBT=2(ba)k_BT=2(b-a)m=2/3|m|=2/3 に達する2本の枝になります。

+2/3-2/3mk_B T /(b-a)23 (=T_c)

kBT<2(ba)k_BT<2(b-a) を除いてあるのは、この範囲では4次までの展開が破綻するためです。実際 m2(kBT)2[3(ba)kBT]m^2\propto(k_BT)^2[3(b-a)-k_BT]kBT=2(ba)k_BT=2(b-a) で極大となり、それより低温では mm が減る(本来は m1m\to1 に飽和すべき)という誤った振舞いを与えます。厳密な平均場の自己無撞着方程式 m=tanh[3(ba)m/kBT]m=\tanh[3(b-a)m/k_BT]kBT=2(ba)k_BT=2(b-a)m0.86m\simeq0.86 を与え、2/32/3 という値も「おおざっぱ」な近似にすぎません。

設問5は mm を自由に選べるとしたときの話です。実際には組成比が 50:50 に固定されているので、系全体の平均は設問2の m=p=0m=p=0 に固定されています。ところが kBT<3(ba)k_BT<3(b-a) では v<0v<0 となり、m=0m=0 は自由エネルギーの極大です(2F/m2=2v<0\partial^2F/\partial m^2=2v<0)。すなわち一様な固溶体は不安定になります。

このとき系は、m=+m0m=+m_0(A に富む相)と m=m0m=-m_0(B に富む相)の2つの相に、体積比 1:1 で分離します。全体の平均は 12(+m0)+12(m0)=0\frac12(+m_0)+\frac12(-m_0)=0 で組成の拘束を満たしつつ、自由エネルギーは F(0)F(0) より F(m0)<F(0)F(m_0)<F(0) の分だけ低くなります。つまり温度を下げると

kBTc=3(ba)k_BT_c=3(b-a)

で一様固溶体が2相共存へ移る相分離(不混和ギャップの生成、スピノーダル分解)が起こります。P<0P<0 が「A同士・B同士が隣り合うほうが得」を意味することの帰結で、規則格子的な秩序(AB が交互に並ぶ超格子)ではありません。実際の合金では界面エネルギーのために A に富む領域と B に富む領域が成長・粗大化していきます。T>TcT>T_c では混合エントロピーが勝って一様に混ざったままです。

第3問 円筒導体の内部の導線、電気映像法

Section titled “第3問 円筒導体の内部の導線、電気映像法”

真空中に、半径 RR の無限に長い中空円筒導体(薄い殻)があり、その内部に無限に長い直線導線が軸に平行に置かれています。導線は中心 OO から xx 軸方向に x0x_00x0<R0\le x_0<R)ずれた位置にあります。円筒の軸を zz 軸に取り、点 A\mathrm{A} の位置を (r,ϕ)(r,\phi) で表します。電流は軸方向に流れるものとし、導線の電流の向きを +z+z(r,ϕ,z)(r,\phi,z) を右手系(ϕ\phixx 軸から反時計まわりに測る)と取ります。電流の向きを逆に取れば BϕB_\phi の符号が反転するだけです。

系は zz 方向の並進と ϕ\phi の回転に対して不変で、電流は zz 方向のみです。B=0\nabla\cdot\boldsymbol{B}=0 を半径 rr の円筒面に適用すると 2πrBr×(長さ)=02\pi r\,B_r\times(\text{長さ})=0 すなわち Br=0B_r=0 です。BϕB_\phi は半径 rr の円周にアンペールの法則を使って求まります。円筒の壁は r=Rr=R にあるので、r<Rr<R で囲まれる電流は導線の II だけ、r>Rr>R では II=0I-I=0 です。したがって

r<R:Br=0,Bϕ=μ0I2πr,r<R:\quad B_r=0,\qquad B_\phi=\frac{\mu_0I}{2\pi r}, r>R:Br=0,Bϕ=0r>R:\quad B_r=0,\qquad B_\phi=0

が答えです。外部で磁場が消えるのは、行きと帰りの電流が同軸で完全に打ち消し合う同軸ケーブルの性質です。

(a) 円筒の内側の空洞では、導線の電荷 λ\lambda と円筒内面の一様な誘導電荷がつくる場を重ねます。円筒面上の誘導電荷は軸対称に一様に分布し、その内部には場をつくらないので、半径 rr の円筒面にガウスの法則を適用して

r<R:Er=λ2πϵ0r,Eϕ=0r<R:\quad E_r=\frac{\lambda}{2\pi\epsilon_0r},\qquad E_\phi=0

です。円筒が接地されているとポテンシャルは rRr\ge R で恒等的に 00 に保たれ、外部に場は漏れません(接地線を通って λ-\lambda が流れ込み、外部の電荷を完全に遮蔽します)。したがって

r>R:Er=0,Eϕ=0r>R:\quad E_r=0,\qquad E_\phi=0

です。

(b) 導体表面の面電荷密度は、空洞側の法線成分から σ=ϵ0Er(R)\sigma=-\epsilon_0E_r(R) で決まります(円筒の外側の場が 00、内側が ErE_r なので、ガウスの法則を薄い箱に適用すればよい)。よって

σ=λ2πR,λt=2πRσ=λ\sigma=-\frac{\lambda}{2\pi R},\qquad \lambda_t=2\pi R\,\sigma=-\lambda

です。単位長さ当りの誘導電荷が λ-\lambda になるのは、外部で E=0E=0 であることとガウスの法則から要求される値でもあります。

(c) 絶縁されていて全体として中性の場合、内面には静電遮蔽のため依然として λ-\lambda が誘導され、その分の +λ+\lambda が外面に現われます。空洞内の場は電荷分布が変わらないので設問2(a) と同じ

r<R:Er=λ2πϵ0r,Eϕ=0r<R:\quad E_r=\frac{\lambda}{2\pi\epsilon_0r},\qquad E_\phi=0

です。一方 r>Rr>R では囲まれる総電荷が λ+0=λ\lambda+0=\lambda なので

r>R:Er=λ2πϵ0r,Eϕ=0r>R:\quad E_r=\frac{\lambda}{2\pi\epsilon_0r},\qquad E_\phi=0

となり、円筒がないのと同じ場が現われます。接地された場合と違い、外部が遮蔽されないのが違いです。

導線の電流 II(x0,0)(x_0,0) を通る直線を流れ、円筒には I-I が一様に流れます。一様な円筒面電流は外部では軸上の線電流 I-I と同じ場をつくるので、r>Rr>R での磁束密度は「(x0,0)(x_0,0)+I+I」と「原点の I-I」の重ね合わせです。導線から測った距離の2乗を D0=r22rx0cosϕ+x02D_0=r^2-2rx_0\cos\phi+x_0^2 と書くと

B=μ0I2πz^×(rx0x^)D0μ0I2πrϕ^\boldsymbol{B}=\frac{\mu_0I}{2\pi}\frac{\hat{z}\times(\boldsymbol{r}-x_0\hat{x})}{D_0}-\frac{\mu_0I}{2\pi r}\hat{\phi}

です。z^×(rx0x^)=rϕ^x0y^\hat{z}\times(\boldsymbol{r}-x_0\hat{x})=r\hat{\phi}-x_0\hat{y}y^=sinϕr^+cosϕϕ^\hat{y}=\sin\phi\,\hat{r}+\cos\phi\,\hat{\phi} を使って成分に分けると

Br=μ0I2πx0sinϕr22rx0cosϕ+x02,B_r=-\frac{\mu_0I}{2\pi}\cdot\frac{x_0\sin\phi}{r^2-2rx_0\cos\phi+x_0^2}, Bϕ=μ0Ix02πrcosϕx0r(r22rx0cosϕ+x02)B_\phi=\frac{\mu_0Ix_0}{2\pi}\cdot\frac{r\cos\phi-x_0}{r\,(r^2-2rx_0\cos\phi+x_0^2)}

が答えです。x0=0x_0=0 とすれば両成分が消え、設問1に戻ります。rRr\gg R では

Brμ0Ix0sinϕ2πr2,Bϕμ0Ix0cosϕ2πr2B_r\simeq-\frac{\mu_0Ix_0\sin\phi}{2\pi r^2},\qquad B_\phi\simeq\frac{\mu_0Ix_0\cos\phi}{2\pi r^2}

となり、1/r21/r^2 で減衰する2次元的な双極子場です。行きと帰りの電流がずれている分だけ外部に漏れる、という結果になっています。

(a) 単位長さ当りの線電荷 λ\lambda が位置 a\boldsymbol{a} にあるときのポテンシャルは λ2πϵ0lnra-\dfrac{\lambda}{2\pi\epsilon_0}\ln|\boldsymbol{r}-\boldsymbol{a}| です。導線 λ\lambda(x0,0)(x_0,0) に、映像 λ-\lambda(x1,0)(x_1,0)x1=R2/x0x_1=R^2/x_0 に置くと

V(r)=λ2πϵ0lnrx0x^rx1x^+constV(\boldsymbol{r})=-\frac{\lambda}{2\pi\epsilon_0}\ln\frac{|\boldsymbol{r}-x_0\hat{x}|}{|\boldsymbol{r}-x_1\hat{x}|}+\text{const}

です。r=Rr=R の上では

rx1x^2=R22R3cosϕx0+R4x02=R2x02(R22Rx0cosϕ+x02)=R2x02rx0x^2|\boldsymbol{r}-x_1\hat{x}|^2=R^2-\frac{2R^3\cos\phi}{x_0}+\frac{R^4}{x_0^2} =\frac{R^2}{x_0^2}\left(R^2-2Rx_0\cos\phi+x_0^2\right) =\frac{R^2}{x_0^2}\,|\boldsymbol{r}-x_0\hat{x}|^2

なので、比 rx0x^/rx1x^=x0/R|\boldsymbol{r}-x_0\hat{x}|/|\boldsymbol{r}-x_1\hat{x}|=x_0/Rϕ\phi によらない定数になります。つまり定数を const=λ2πϵ0lnx0R\text{const}=\dfrac{\lambda}{2\pi\epsilon_0}\ln\dfrac{x_0}{R} と選べば r=Rr=RV=0V=0 となり、接地円筒の境界条件を満たします。x1=R2/x0>Rx_1=R^2/x_0>R なので映像電荷は空洞の外にあり、空洞内では λ\lambda 以外の電荷を加えていません。ポアソン方程式の解の一意性から、これが求める解です。

内部の電場は E=V\boldsymbol{E}=-\nabla V から得られます。位置 (α,0)(\alpha,0) の線電荷による場の成分が r^\hat{r} 方向に rαcosϕr-\alpha\cos\phiϕ^\hat{\phi} 方向に αsinϕ\alpha\sin\phi に比例することを使い、x1=R2/x0x_1=R^2/x_0 を代入して整理すると、r<Rr<R

Er=λ2πϵ0[rx0cosϕr22rx0cosϕ+x02x0(rx0R2cosϕ)r2x022rx0R2cosϕ+R4],E_r=\frac{\lambda}{2\pi\epsilon_0}\left[\frac{r-x_0\cos\phi}{r^2-2rx_0\cos\phi+x_0^2} -\frac{x_0(rx_0-R^2\cos\phi)}{r^2x_0^2-2rx_0R^2\cos\phi+R^4}\right], Eϕ=λx0sinϕ2πϵ0[1r22rx0cosϕ+x02R2r2x022rx0R2cosϕ+R4]E_\phi=\frac{\lambda x_0\sin\phi}{2\pi\epsilon_0}\left[\frac{1}{r^2-2rx_0\cos\phi+x_0^2} -\frac{R^2}{r^2x_0^2-2rx_0R^2\cos\phi+R^4}\right]

です。r=Rr=R を代入すると Eϕ=0E_\phi=0(導体表面で接線成分が消える)となることが確かめられ、x00x_0\to0 の極限では第2項が消えて設問2(a) に一致します。

(b) r=Rr=R で上式の ErE_r を評価すると、2つの項の分母が共通になって

Er(R,ϕ)=λ2πϵ0R2x02R(R22Rx0cosϕ+x02)E_r(R,\phi)=\frac{\lambda}{2\pi\epsilon_0}\cdot\frac{R^2-x_0^2}{R\left(R^2-2Rx_0\cos\phi+x_0^2\right)}

となります。したがって面電荷密度は

σ(ϕ)=ϵ0Er(R,ϕ)=λ2πRR2x02R22Rx0cosϕ+x02\sigma(\phi)=-\epsilon_0E_r(R,\phi)=-\frac{\lambda}{2\pi R}\cdot\frac{R^2-x_0^2}{R^2-2Rx_0\cos\phi+x_0^2}

です。検算として全電荷を求めると、02πdϕABcosϕ=2πA2B2\int_0^{2\pi}\dfrac{d\phi}{A-B\cos\phi}=\dfrac{2\pi}{\sqrt{A^2-B^2}}A=R2+x02A=R^2+x_0^2B=2Rx0B=2Rx_0A2B2=R2x02\sqrt{A^2-B^2}=R^2-x_0^2)から

02πσRdϕ=λ\int_0^{2\pi}\sigma R\,d\phi=-\lambda

となり、接地円筒として正しい値です。x0=0x_0=0 では σ=λ/(2πR)\sigma=-\lambda/(2\pi R) に戻ります。

(c) x0Rx_0\ll R として σ\sigma を1次まで展開します。x02x_0^2 を落として

σλ2πR(1+2x0Rcosϕ)\sigma\simeq-\frac{\lambda}{2\pi R}\left(1+\frac{2x_0}{R}\cos\phi\right)

です。x>0x>0 側は π/2<ϕ<π/2-\pi/2<\phi<\pi/2x<0x<0 側は π/2<ϕ<3π/2\pi/2<\phi<3\pi/2 なので、π/2π/2cosϕdϕ=2\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\cos\phi\,d\phi=2π/23π/2cosϕdϕ=2\int_{\pi/2}^{3\pi/2}\cos\phi\,d\phi=-2 を使って

λ+=Rπ/2π/2σdϕ=λ22λx0πR,λ=λ2+2λx0πR\lambda_+=R\int_{-\pi/2}^{\pi/2}\sigma\,d\phi=-\frac{\lambda}{2}-\frac{2\lambda x_0}{\pi R},\qquad \lambda_-=-\frac{\lambda}{2}+\frac{2\lambda x_0}{\pi R}

が得られます。導線が近い側(x>0x>0)に、より多くの逆符号電荷が集まっています。λ++λ=λ\lambda_++\lambda_-=-\lambda(全電荷)、λ+λ=4λx0/(πR)\lambda_+-\lambda_-=-4\lambda x_0/(\pi R) なので

λ+λλ++λ=4x0πRS=4πR\frac{\lambda_+-\lambda_-}{\lambda_++\lambda_-}=\frac{4x_0}{\pi R} \quad\Longrightarrow\quad S=\frac{4}{\pi R}

が答えです。SS は長さの逆数の次元をもち、Sx0=4x0/(πR)Sx_0=4x_0/(\pi R) は無次元で x0Rx_0\ll R のとき小さく、左右の非対称性が導線のずれに比例して現われることを示しています。この関係は、電荷分布の左右非対称性から導線の位置を読み取るビーム位置モニタの原理そのものです。

第4問 慣性モーメントと球の転がり運動

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前半は慣性モーメントの計算、後半は摩擦のある面の上を滑りながら転がり始める球の運動です。球は半径 aa、質量 MM の一様な剛体球、面との静止摩擦係数を μ\mu、動摩擦係数を μ\mu' とし、転がり摩擦は無視します。重力加速度を gg とします。

半径 aa、厚さ d (a)d\ (\ll a)、密度 ρ\rho の円板の質量は Md=πa2dρM_{\mathrm{d}}=\pi a^2d\rho です。面に垂直な中心軸(zz 軸)まわりでは、半径 ss、幅 dsds の輪の質量が 2πsdsdρ2\pi s\,ds\,d\rho なので

Iz=0as22πsdρds=πρda42=12Mda2I_z=\int_0^a s^2\cdot2\pi s\,d\rho\,ds=\frac{\pi\rho d a^4}{2}=\frac{1}{2}M_{\mathrm{d}}a^2

です。面に平行な中心軸まわりは、直交軸の定理 Iz=Ix+IyI_z=I_x+I_y と対称性 Ix=IyI_x=I_y(厚さを無視するので板は xyxy 面内にあるとみなせる)から

Ix=12Iz=πρda44=14Mda2I_x=\frac{1}{2}I_z=\frac{\pi\rho da^4}{4}=\frac{1}{4}M_{\mathrm{d}}a^2

です。

密度 ρ=3M4πa3\rho=\dfrac{3M}{4\pi a^3} の球を、zz 軸に垂直な厚さ dzdz の薄い円板に分けます。高さ zz の円板の半径は a2z2\sqrt{a^2-z^2}、質量は ρπ(a2z2)dz\rho\pi(a^2-z^2)dz なので、設問1の Iz=12Md(半径)2I_z=\frac12M_{\mathrm d}(\text{半径})^2 を使って

I=aa12ρπ(a2z2)dz(a2z2)=πρ2aa(a2z2)2dz=πρ216a515=8πρa515I=\int_{-a}^{a}\frac{1}{2}\rho\pi(a^2-z^2)\,dz\,(a^2-z^2) =\frac{\pi\rho}{2}\int_{-a}^{a}(a^2-z^2)^2dz =\frac{\pi\rho}{2}\cdot\frac{16a^5}{15}=\frac{8\pi\rho a^5}{15}

となります。ρ\rho を代入すると

I=8πa5153M4πa3=25Ma2I=\frac{8\pi a^5}{15}\cdot\frac{3M}{4\pi a^3}=\frac{2}{5}Ma^2

で、示すべき式が得られました。球は等方的なので、質量中心を通るどの軸についてもこの値です。

突いた直後は v=v0v=v_0ω=0\omega=0 なので接触点は前方に滑っており、動摩擦力 μMg\mu'Mg が後ろ向きに働きます。並進と回転の運動方程式は

Mv˙=μMg,25Ma2ω˙=μMgaM\dot v=-\mu'Mg,\qquad \frac{2}{5}Ma^2\dot\omega=\mu'Mga

なので

v(t)=v0μgt,ω(t)=5μg2atv(t)=v_0-\mu'gt,\qquad \omega(t)=\frac{5\mu'g}{2a}t

です。滑りが止まる条件 v=aωv=a\omega

v0μgt=5μg2tt1=2v07μgv_0-\mu'gt=\frac{5\mu'g}{2}t \quad\Longrightarrow\quad t_1=\frac{2v_0}{7\mu'g}

を与えます。この間に質量中心が進む距離は

s=v0t112μgt12=2v027μg2v0249μg=12v0249μgs=v_0t_1-\frac{1}{2}\mu'gt_1^2=\frac{2v_0^2}{7\mu'g}-\frac{2v_0^2}{49\mu'g}=\frac{12v_0^2}{49\mu'g}

です。転がり始めてからの速さと角速度は

v=v0μgt1=57v0,ω=va=5v07av=v_0-\mu'gt_1=\frac{5}{7}v_0,\qquad \omega=\frac{v}{a}=\frac{5v_0}{7a}

で、以後は摩擦力が働かず(転がり摩擦を無視するので)等速で転がり続けます。静止摩擦係数 μ\mu はこの過程には現われません。

検算として、接触線まわりの角運動量 L=Mva+25Ma2ωL=Mva+\frac25Ma^2\omega を考えます。摩擦力・重力・垂直抗力はいずれもこの線に対するモーメントをもたないので LL は保存し、初期値 Mv0aMv_0a と転がり始めの値 75Mva\frac{7}{5}Mva を等置して v=57v0v=\frac57v_0 が直ちに出ます。またこの間の力学的エネルギーの減少 12Mv02710Mv2=Mv027\frac12Mv_0^2-\frac{7}{10}Mv^2=\frac{Mv_0^2}{7} は、動摩擦力 μMg\mu'Mg と相対滑り距離 saθ=v027μgs-a\theta=\dfrac{v_0^2}{7\mu'g} の積に一致します。

斜面上で滑らずに転がるときの運動方程式を、斜面に沿って上向きを正として書きます。摩擦力を ff(上向き正)とすると

Mv˙=Mgsinθ+f,25Ma2ω˙=fa,v=aωM\dot v=-Mg\sin\theta+f,\qquad \frac{2}{5}Ma^2\dot\omega=-fa,\qquad v=a\omega

です。第2式から f=25Mv˙f=-\frac{2}{5}M\dot v で、これを第1式に入れると

v˙=57gsinθ,f=27Mgsinθ (>0)\dot v=-\frac{5}{7}g\sin\theta,\qquad f=\frac{2}{7}Mg\sin\theta\ (>0)

となります。必要な摩擦力は斜面上向きで、その大きさが最大静止摩擦力を超えなければ滑りません。条件は

27MgsinθμMgcosθtanθ7μ2\frac{2}{7}Mg\sin\theta\le\mu Mg\cos\theta \quad\Longleftrightarrow\quad \tan\theta\le\frac{7\mu}{2}

なので、滑り始める境目は

θ=arctan7μ2\theta=\arctan\frac{7\mu}{2}

です。これより大きい θ\theta では滑りながら斜面を上ります。μ0\mu\to0θ0\theta\to0μ\mu\to\inftyθπ/2\theta\to\pi/2 となり、極限の振舞いも妥当です。

摩擦がある(滑らずに転がって上る)場合のほうが高く上れます。滑らない転がりでは静止摩擦力の作用点が静止しているため摩擦は仕事をせず、力学的エネルギーが保存します。斜面下端での速さを vv とすると

12Mv2+1225Ma2(va)2=710Mv2=Mghrollhroll=7v210g\frac{1}{2}Mv^2+\frac{1}{2}\cdot\frac{2}{5}Ma^2\left(\frac{v}{a}\right)^2=\frac{7}{10}Mv^2=Mgh_{\text{roll}} \quad\Longrightarrow\quad h_{\text{roll}}=\frac{7v^2}{10g}

です。一方、斜面が滑らかな場合は球に力のモーメントが働かないので角速度は変わらず、回転エネルギーは高さに変換されません。並進エネルギーだけが使われて

12Mv2=Mghsliphslip=v22g=5v210g\frac{1}{2}Mv^2=Mgh_{\text{slip}}\quad\Longrightarrow\quad h_{\text{slip}}=\frac{v^2}{2g}=\frac{5v^2}{10g}

となります。よって hroll/hslip=7/5h_{\text{roll}}/h_{\text{slip}}=7/5 で、摩擦のある斜面のほうが 1.41.4 倍高くまで上ります。摩擦は「エネルギーを失わせるもの」ではなく、ここでは回転エネルギーを並進・位置エネルギーに橋渡しする役割を果たしています。

第5問 測定誤差の扱いと最小二乗法

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測定値と誤差の取り扱いについての問題です。設問2以降は統計誤差だけを考え、その分布はガウス分布に従うと仮定します。以下、NN 回の独立な測定値を xix_i、真の値を xtx_{\mathrm{t}}、1回の測定の母標準偏差を σ\sigma と書きます。

系統誤差とは、測定を繰り返しても同じ向きに同じ大きさだけ現われる、測定値の偏りのことです。例えば目盛が正しく刻まれていない物差しで長さを測る場合や、電圧計のゼロ点がずれている場合、あるいは差し引くべきバックグラウンドを見落としている場合で、平均をとっても消えず、測定法や校正の見直しでしか除けません。

(統計誤差が 1/N1/\sqrt{N} で減るのに対し、系統誤差は NN を増やしても減らないという点が本質的な違いです。)

S=i=1N(xiX)2S=\sum_{i=1}^N(x_i-X)^2 を最小にする条件は

dSdX=2i=1N(xiX)=0\frac{dS}{dX}=-2\sum_{i=1}^N(x_i-X)=0

です。d2SdX2=2N>0\dfrac{d^2S}{dX^2}=2N>0 なので極小で、

X=1Ni=1Nxi=xˉX=\frac{1}{N}\sum_{i=1}^{N}x_i=\bar{x}

が答えです。相加平均が最尤値になるのは、各測定が独立で同じ分散のガウス分布に従うとき、尤度 iexp[(xiX)2/2σ2]\prod_i\exp[-(x_i-X)^2/2\sigma^2] の最大化が SS の最小化と同じになるからです。

1回の測定のばらつき(標準偏差)は、残差の二乗平均から

s=1N1i=1N(xiX)2s=\sqrt{\frac{1}{N-1}\sum_{i=1}^{N}(x_i-X)^2}

と推定されます。分母が NN ではなく N1N-1 なのは、XX を同じデータから決めたために自由度が1つ失われているからです。実際 i(xixˉ)2=(N1)σ2\langle\sum_i(x_i-\bar x)^2\rangle=(N-1)\sigma^2 であり、N1N-1 で割ってはじめて s2s^2σ2\sigma^2 の不偏推定量になります。真の値 xtx_{\mathrm{t}} が既知なら 1N(xixt)2\sqrt{\frac{1}{N}\sum(x_i-x_{\mathrm{t}})^2} を使います。

X=1NxiX=\frac1N\sum x_i は独立な確率変数の和なので、分散は

(δX)2=1N2i=1Nσ2=σ2N(\delta X)^2=\frac{1}{N^2}\sum_{i=1}^{N}\sigma^2=\frac{\sigma^2}{N}

です。σ\sigmass で置き換えて

δX=sN=i=1N(xiX)2N(N1)\delta X=\frac{s}{\sqrt{N}}=\sqrt{\frac{\sum_{i=1}^{N}(x_i-X)^2}{N(N-1)}}

と推定されます。NN を大きくすると δX1/N\delta X\propto1/\sqrt{N} で減少し、いくらでも小さくできます。ただし前提は統計誤差のみであること、実際には設問1の系統誤差が残るので、ある NN を超えると精度は系統誤差で決まってしまいます。

XXYY の測定は独立なので、それぞれの誤差 ΔX=Xxt\Delta X=X-x_{\mathrm{t}}ΔY=Yyt\Delta Y=Y-y_{\mathrm{t}} は独立な確率変数です。和の誤差は ΔX+ΔY\Delta X+\Delta Y で、その平均は 00、分散は

(ΔX+ΔY)2=ΔX2+2ΔXΔY+ΔY2=(δX)2+(δY)2\langle(\Delta X+\Delta Y)^2\rangle=\langle\Delta X^2\rangle+2\langle\Delta X\rangle\langle\Delta Y\rangle+\langle\Delta Y^2\rangle =(\delta X)^2+(\delta Y)^2

です(独立性から交差項が ΔXΔY=0\langle\Delta X\rangle\langle\Delta Y\rangle=0 になります)。またガウス分布同士の畳み込みは再びガウス分布なので、X+YX+Y の分布もガウス分布で、その標準偏差は

δ(X+Y)=(δX)2+(δY)2\delta(X+Y)=\sqrt{(\delta X)^2+(\delta Y)^2}

です。単純な足し算 δX+δY\delta X+\delta Y にならないのは、2つの誤差の符号が独立に正負をとり、部分的に打ち消し合うからです。最悪の場合を見積もるなら δX+δY\delta X+\delta Y ですが、典型的な大きさは二乗和の平方根になります。差 XYX-Y でも符号が変わるだけなので同じ式です。

一般に f(X,Y)f(X,Y) の誤差は、δXX\delta X\ll|X|δYY\delta Y\ll|Y| のもとでテイラー展開の1次で

(δf)2=(fX)2(δX)2+(fY)2(δY)2(\delta f)^2=\left(\frac{\partial f}{\partial X}\right)^2(\delta X)^2+\left(\frac{\partial f}{\partial Y}\right)^2(\delta Y)^2

と書けます(設問5と同じ理由で、独立なガウス誤差の線形結合の分散が加わります)。積 f=XYf=XY では Xf=Y\partial_Xf=YYf=X\partial_Yf=X なので

(δf)2=Y2(δX)2+X2(δY)2δ(XY)XY=(δXX)2+(δYY)2(\delta f)^2=Y^2(\delta X)^2+X^2(\delta Y)^2 \quad\Longrightarrow\quad \frac{\delta(XY)}{\lvert XY\rvert}=\sqrt{\left(\frac{\delta X}{X}\right)^2+\left(\frac{\delta Y}{Y}\right)^2}

です。商 f=X/Yf=X/Y では Xf=1/Y\partial_Xf=1/YYf=X/Y2\partial_Yf=-X/Y^2 なので

(δf)2=(δX)2Y2+X2(δY)2Y4δ(X/Y)X/Y=(δXX)2+(δYY)2(\delta f)^2=\frac{(\delta X)^2}{Y^2}+\frac{X^2(\delta Y)^2}{Y^4} \quad\Longrightarrow\quad \frac{\delta(X/Y)}{\lvert X/Y\rvert}=\sqrt{\left(\frac{\delta X}{X}\right)^2+\left(\frac{\delta Y}{Y}\right)^2}

となり、積でも商でも相対誤差が二乗和で加わります。和・差では絶対誤差、積・商では相対誤差が二乗和で伝わるという対応です。

XkX_k に誤差がなく、YkY_k が誤差 δYk\delta Y_k をもつガウス分布に従うので、尤度は

Lk=1Mexp[(YkpXkq)22(δYk)2]\mathcal{L}\propto\prod_{k=1}^{M}\exp\left[-\frac{(Y_k-pX_k-q)^2}{2(\delta Y_k)^2}\right]

です。最尤条件は重み wk=1/(δYk)2w_k=1/(\delta Y_k)^2 を付けた二乗和

S(p,q)=k=1Mwk(YkpXkq)2S(p,q)=\sum_{k=1}^{M}w_k\left(Y_k-pX_k-q\right)^2

の最小化になります。S/p=S/q=0\partial S/\partial p=\partial S/\partial q=0 から

pkwkXk2+qkwkXk=kwkXkYk,pkwkXk+qkwk=kwkYk\begin{aligned} p\sum_kw_kX_k^2+q\sum_kw_kX_k&=\sum_kw_kX_kY_k,\\ p\sum_kw_kX_k+q\sum_kw_k&=\sum_kw_kY_k \end{aligned}

という連立1次方程式(正規方程式)が得られます。W=wkW=\sum w_kWx=wkXkW_x=\sum w_kX_kWy=wkYkW_y=\sum w_kY_kWxx=wkXk2W_{xx}=\sum w_kX_k^2Wxy=wkXkYkW_{xy}=\sum w_kX_kY_k と略記すると

p=WWxyWxWyWWxxWx2,q=WxxWyWxWxyWWxxWx2p=\frac{W\,W_{xy}-W_xW_y}{W\,W_{xx}-W_x^2},\qquad q=\frac{W_{xx}W_y-W_xW_{xy}}{W\,W_{xx}-W_x^2}

が答えです。分母は Wkwk(XkXw)2W\sum_kw_k(X_k-\langle X\rangle_w)^2 に等しく、XkX_k が全て同じ値でなければ正で、解は一意に決まります。

すべての δYk\delta Y_k が等しい場合は wkw_k が約せて、よく知られた形

p=MkXkYkkXkkYkMkXk2(kXk)2,q=kXk2kYkkXkkXkYkMkXk2(kXk)2p=\frac{M\sum_kX_kY_k-\sum_kX_k\sum_kY_k}{M\sum_kX_k^2-\left(\sum_kX_k\right)^2},\qquad q=\frac{\sum_kX_k^2\sum_kY_k-\sum_kX_k\sum_kX_kY_k}{M\sum_kX_k^2-\left(\sum_kX_k\right)^2}

になります。誤差の大きな点の重みを小さくするのが重み付き最小二乗法の要点で、設問4で δYk\delta Y_k を求めておいたのはこのためです。

第6問 プラズマ中での荷電交換とエネルギー損失

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核子当り 350keV350\,\mathrm{keV}(速度 v=8.2×106m/sv=8.2\times10^6\,\mathrm{m/s})の炭素イオン C2+\mathrm{C}^{2+} を、厚さ dd の完全電離水素プラズマ(陽子密度・電子密度がともに nn で一様定常)に入射し、通過後の荷電状態を磁気スペクトログラフで分析し、飛行時間からエネルギー損失を求める実験です。炭素は A=12A=12Z=6Z=6、核子質量 mn=1.7×1027kgm_n=1.7\times10^{-27}\,\mathrm{kg}e=1.6×1019Ce=1.6\times10^{-19}\,\mathrm{C}c=3.0×108m/sc=3.0\times10^8\,\mathrm{m/s}exp(2.0)=7.4\exp(2.0)=7.4 を使います。炭素イオンの質量は M=Amn=2.0×1026kgM=Am_n=2.0\times10^{-26}\,\mathrm{kg}v/c=2.7×102v/c=2.7\times10^{-2} なので相対論補正(γ14×104\gamma-1\simeq4\times10^{-4})は無視できます。

(a) 深さ xx から x+dxx+dx の層で、q=+2q=+2 のイオンが電離(断面積 σi\sigma_i)または再結合(断面積 σr\sigma_r)で q=+2q=+2 を離れる確率は n(σi+σr)dxn(\sigma_i+\sigma_r)dx です。したがって

dN2dx=n(σi+σr)N2N2(x)=N0exp[n(σi+σr)x]\frac{dN_2}{dx}=-n(\sigma_i+\sigma_r)N_2 \quad\Longrightarrow\quad N_2(x)=N_0\exp\left[-n(\sigma_i+\sigma_r)x\right]

が答えです(N2(0)=N0N_2(0)=N_0)。

(b) q=+1q=+1q=+3q=+3q=+2q=+2 から供給されるだけで(一度変化したイオンのその後の変化は無視する)、生成率はそれぞれ nσrN2n\sigma_rN_2nσiN2n\sigma_iN_2 です。積分して

N1(x)=σrσi+σrN0{1en(σi+σr)x},N3(x)=σiσi+σrN0{1en(σi+σr)x}N_1(x)=\frac{\sigma_r}{\sigma_i+\sigma_r}N_0\left\{1-e^{-n(\sigma_i+\sigma_r)x}\right\},\qquad N_3(x)=\frac{\sigma_i}{\sigma_i+\sigma_r}N_0\left\{1-e^{-n(\sigma_i+\sigma_r)x}\right\}

です。N1+N2+N3=N0N_1+N_2+N_3=N_0 が任意の xx で成り立ち、個数が保存しています。N1:N3=σr:σiN_1:N_3=\sigma_r:\sigma_i で、分岐比が断面積比で決まります。

(c) 数値を入れます。σi=1.0×1017cm2\sigma_i=1.0\times10^{-17}\,\mathrm{cm^2}σr=1.0×1022cm2\sigma_r=1.0\times10^{-22}\,\mathrm{cm^2}n=1×1018cm3n=1\times10^{18}\,\mathrm{cm^{-3}}d=0.2cmd=0.2\,\mathrm{cm} なので

nσid=1018×1.0×1017×0.2=2.0,nσrd=2.0×105n\sigma_id=10^{18}\times1.0\times10^{-17}\times0.2=2.0,\qquad n\sigma_rd=2.0\times10^{-5}

で、指数は n(σi+σr)d2.0n(\sigma_i+\sigma_r)d\simeq2.0 です。e2.0=1/7.4=0.135e^{-2.0}=1/7.4=0.135 を使うと

N2(d)N0=0.135,N3(d)N0=σiσi+σr×0.8650.865,N1(d)N0=σrσi+σr×0.8658.7×106\frac{N_2(d)}{N_0}=0.135,\qquad \frac{N_3(d)}{N_0}=\frac{\sigma_i}{\sigma_i+\sigma_r}\times0.865\simeq0.865,\qquad \frac{N_1(d)}{N_0}=\frac{\sigma_r}{\sigma_i+\sigma_r}\times0.865\simeq8.7\times10^{-6}

となります。すなわち q=+1q=+1 が約 8.7×104%8.7\times10^{-4}\,\%q=+2q=+2 が約 13.5%13.5\,\%q=+3q=+3 が約 86.5%86.5\,\% です。再結合断面積が電離断面積の 10510^{-5} しかないので、q=+1q=+1 はほとんど生じません。

速度が同じで電荷だけが違うので、運動量は共通です。

p=Mv=2.04×1026×8.2×106=1.67×1019kgm/sp=Mv=2.04\times10^{-26}\times8.2\times10^6=1.67\times10^{-19}\,\mathrm{kg\,m/s}

磁束密度 BB に垂直に入ると、qevB=Mv2ρqevB=\dfrac{Mv^2}{\rho} より

ρ=pqeB=1.67×1019q×1.6×1019×0.1=10.5q m\rho=\frac{p}{qeB}=\frac{1.67\times10^{-19}}{q\times1.6\times10^{-19}\times0.1}=\frac{10.5}{q}\ \mathrm{m}

です。したがって

ρ110.5m,ρ25.2m,ρ33.5m\rho_1\simeq10.5\,\mathrm{m},\qquad \rho_2\simeq5.2\,\mathrm{m},\qquad \rho_3\simeq3.5\,\mathrm{m}

となり、曲率半径は電荷に反比例して 1:1/2:1/31:1/2:1/3 に分かれます。この分離を使って荷電状態ごとに検出器を並べます(プラズマ中でのエネルギー損失は設問4のとおり 2%2\,\% 程度なので、運動量への影響は 1%1\,\% 程度でこの分離を乱しません)。

(a) 電池につないだ直線状の針金を磁極間の隙間に、磁束密度に垂直に張ります。針金には F=IL×B\boldsymbol{F}=I\boldsymbol{L}\times\boldsymbol{B} の力が働くので、電流の向き(電池の極性から分かる)と針金が振れる向きを見れば、B\boldsymbol{B} の向きが決まります。B\boldsymbol{B} は磁石の外部では N 極から S 極へ向かうので、これで N 極・S 極が判定できます。

下図のように、針金を紙面に垂直に張って電流を紙面の手前向きに流したとします。針金が上向きに振れたなら、F=IL×B\boldsymbol{F}=I\boldsymbol{L}\times\boldsymbol{B} が上向きになるのは B\boldsymbol{B} が左から右を向くときなので、左の磁極が N 極、右の磁極が S 極です。下向きに振れたなら逆です。

磁極 1磁極 2BI (紙面手前向き)F

(b) ホール素子を使う方法があります。厚さ tt の半導体薄片に電流 II を流し、これに垂直に磁場をかけると、キャリアが受けるローレンツ力によって電流と磁場の両方に垂直な方向に電荷が偏り、ホール電圧

VH=IBncetV_H=\frac{IB}{n_ce\,t}

ncn_c はキャリア密度)が現われます。II を一定にしておけば VHBV_H\propto B なので、既知の磁場で校正しておけば BB が読めます。他に、面積 AA、巻数 MM の小さなコイルを磁場中から素早く引き抜き、誘導起電力を積分して Vdt=MAB\int V\,dt=MAB から求める方法(サーチコイル)や、プロトンの核磁気共鳴周波数 f=γB/2πf=\gamma B/2\pi を測る方法(最も精度が高い)があります。

飛行距離 L0L_0、速さ vv の飛行時間は t=L0/vt=L_0/v です。全運動エネルギーを Etot=12Mv2E_{\mathrm{tot}}=\frac12Mv^2、プラズマ中での損失を ΔE\Delta E とすると、通過後の速さは v=v1ΔE/Etotv'=v\sqrt{1-\Delta E/E_{\mathrm{tot}}} なので

Δt=L0vL0v=L0v[(1ΔEEtot)1/21]\Delta t=\frac{L_0}{v'}-\frac{L_0}{v}=\frac{L_0}{v}\left[\left(1-\frac{\Delta E}{E_{\mathrm{tot}}}\right)^{-1/2}-1\right]

すなわち

ΔE=Etot[1(1+vΔtL0)2]2EtotvΔtL0(ΔEEtot)\Delta E=E_{\mathrm{tot}}\left[1-\left(1+\frac{v\,\Delta t}{L_0}\right)^{-2}\right] \simeq\frac{2E_{\mathrm{tot}}\,v\,\Delta t}{L_0}\qquad(\Delta E\ll E_{\mathrm{tot}})

が関係式です。核子当りで書いても同じ形になります。

数値を入れます。t=L0/v=4/(8.2×106)=4.9×107s=4.9×102nst=L_0/v=4/(8.2\times10^6)=4.9\times10^{-7}\,\mathrm{s}=4.9\times10^2\,\mathrm{ns} なので Δt/t=5/490=1.0×102\Delta t/t=5/490=1.0\times10^{-2} です。全運動エネルギーは Etot=12×350keV=4.2MeVE_{\mathrm{tot}}=12\times350\,\mathrm{keV}=4.2\,\mathrm{MeV} なので

ΔE2×4.2MeV×1.0×102=8.6×101keV\Delta E\simeq2\times4.2\,\mathrm{MeV}\times1.0\times10^{-2}=8.6\times10^{1}\,\mathrm{keV}

です(厳密式でも 85keV85\,\mathrm{keV})。核子当りでは 7keV7\,\mathrm{keV}、入射エネルギーの約 2%2\,\% にあたります。

プラスティックシンチレーターが適当です。この測定では Δt=5ns\Delta t=5\,\mathrm{ns} という時間差を数 %\% の精度で測る必要があり、要求される時間分解能はサブナノ秒です。プラスティックシンチレーターの蛍光の減衰時間は 2ns2\,\mathrm{ns} 程度で立ち上がりも速いので、この時間分解能が得られます。一方 NaI シンチレーターの減衰時間は 230ns230\,\mathrm{ns} 程度と桁違いに遅く、5ns5\,\mathrm{ns} の差を分離できません。NaI の長所であるエネルギー分解能は、数 MeV\mathrm{MeV} の重イオンが表面のごく薄い層で止まってしまうこの実験では活かせず、しかも潮解性のため薄い入射窓を作りにくいという難点もあります。飛行時間測定では時間応答の速さが最優先です。

静止した陽子標的に高エネルギー陽子ビームを当てて

p+pp+p+p+pˉ\mathrm{p}+\mathrm{p}\to\mathrm{p}+\mathrm{p}+\mathrm{p}+\bar{\mathrm{p}}

を起こす反応です。陽子の質量 mp=1.7×1027kgm_{\mathrm p}=1.7\times10^{-27}\,\mathrm{kg}、電荷 e=1.6×1019Ce=1.6\times10^{-19}\,\mathrm{C}、光速 c=3.0×108m/sc=3.0\times10^8\,\mathrm{m/s} とします。mpc2=1.53×1010J=0.96GeVm_{\mathrm p}c^2=1.53\times10^{-10}\,\mathrm{J}=0.96\,\mathrm{GeV} です。

左手座標系なので x^×y^=z^\hat{x}\times\hat{y}=-\hat{z}、したがって x^×z^=+y^\hat{x}\times\hat{z}=+\hat{y} です。図では xx を右、yy を上に取るので、zz 軸は紙面の裏向きになり、B=Bz^\boldsymbol{B}=B\hat{z} も紙面の裏向きです。陽子(電荷 +e+e)が +x+x 方向に入射したときのローレンツ力は

F=ev×B=evB(x^×z^)=+evBy^\boldsymbol{F}=e\boldsymbol{v}\times\boldsymbol{B}=evB\,(\hat{x}\times\hat{z})=+evB\,\hat{y}

で、+y+y 方向(円の中心の側)を向きます。回転軸は円の中心を通る zz 軸に平行な直線で、角速度ベクトルは ω=eBγmpz^\boldsymbol{\omega}=-\dfrac{eB}{\gamma m_{\mathrm p}}\hat{z}、すなわち B\boldsymbol{B} と逆向き(紙面の手前向き)です。速度の向きは +x+yxy+x\to+y\to-x\to-y の順に回ります。

xyOP_pρω (紙面手前向き)B (+z 方向, 紙面の裏向き)

曲率半径は evB=γmpv2ρ=PpvρevB=\dfrac{\gamma m_{\mathrm p}v^2}{\rho}=\dfrac{P_{\mathrm p}v}{\rho} から

ρ=PpeB\rho=\frac{P_{\mathrm p}}{eB}

です。この関係は相対論的な運動量 Pp=γmpvP_{\mathrm p}=\gamma m_{\mathrm p}v に対してそのまま成り立つので、cc は現われません(運動量をエネルギー単位 PpcP_{\mathrm p}c で表すなら ρ=Ppc/(ecB)\rho=P_{\mathrm p}c/(ecB) と書けます)。

等しくなる例は、質量(mpˉ=mpm_{\bar{\mathrm p}}=m_{\mathrm p})とスピン(ともに 1/21/2)です。これらは CPT 定理が保証しており、寿命や電荷・磁気モーメントの大きさも等しくなります。

異なる例は、電荷の符号(+e+ee-e)とバリオン数(+1+11-1)です。磁気モーメントのスピンに対する向き(符号)も逆になります。

第一に、電荷の符号が逆であることを使います。既知の磁場中に入れると、同じ運動量で同じ向きに入射した陽子と反陽子は反対側に曲がるので、飛跡の曲がる向きで区別できます(電場で偏向させても同じ)。

第二に、バリオン数の符号が逆であることを使います。反陽子は物質中で陽子や中性子と対消滅し、静止質量の合計 2mpc21.9GeV2m_{\mathrm p}c^2\simeq1.9\,\mathrm{GeV} が数個のパイ中間子として一挙に放出されます。陽子にはこの現象がないので、止まった粒子の位置から多重のパイ中間子が出るかどうかで判別できます。

実験室系では、ビーム陽子の運動量が PpP_{\mathrm p}、標的陽子は静止しているので

ビーム: Eb=Pp2c2+mp2c4,pb=Pp,標的: Et=mpc2,pt=0\text{ビーム}:\ E_{\mathrm b}=\sqrt{P_{\mathrm p}^2c^2+m_{\mathrm p}^2c^4},\quad p_{\mathrm b}=P_{\mathrm p}, \qquad \text{標的}:\ E_{\mathrm t}=m_{\mathrm p}c^2,\quad p_{\mathrm t}=0

です。重心系では全運動量が 00 で、2粒子の質量が等しいので運動量の大きさも等しく、向きは反対です。ビーム陽子の重心系での運動量の大きさを PpP_{\mathrm p}^{*} とすると

ビーム: Eb=Pp2c2+mp2c4,pb=+Pp,標的: Et=Pp2c2+mp2c4,pt=Pp\text{ビーム}:\ E_{\mathrm b}^{*}=\sqrt{P_{\mathrm p}^{*2}c^2+m_{\mathrm p}^2c^4},\quad p_{\mathrm b}^{*}=+P_{\mathrm p}^{*}, \qquad \text{標的}:\ E_{\mathrm t}^{*}=\sqrt{P_{\mathrm p}^{*2}c^2+m_{\mathrm p}^2c^4},\quad p_{\mathrm t}^{*}=-P_{\mathrm p}^{*}

となります。両者のエネルギーは等しく、全エネルギーは 2Pp2c2+mp2c42\sqrt{P_{\mathrm p}^{*2}c^2+m_{\mathrm p}^2c^4}、全運動量は 00 です。

ローレンツ不変量 s=(E)2(pc)2s=(\sum E)^2-(\sum \boldsymbol{p}c)^2 を使います。実験室系では

s=(Pp2c2+mp2c4+mpc2)2Pp2c2=2mpc2(Eb+mpc2)s=\left(\sqrt{P_{\mathrm p}^2c^2+m_{\mathrm p}^2c^4}+m_{\mathrm p}c^2\right)^2-P_{\mathrm p}^2c^2 =2m_{\mathrm p}c^2\left(E_{\mathrm b}+m_{\mathrm p}c^2\right)

です。しきい値では終状態の4個の粒子が重心系で静止するので s=4mpc2\sqrt{s}=4m_{\mathrm p}c^2 であり

2mpc2(Eb+mpc2)=16mp2c4Eb=7mpc22m_{\mathrm p}c^2\left(E_{\mathrm b}+m_{\mathrm p}c^2\right)=16m_{\mathrm p}^2c^4 \quad\Longrightarrow\quad E_{\mathrm b}=7m_{\mathrm p}c^2

となります。運動エネルギーで書くと

Emin=Ebmpc2=6mpc25.7GeVE_{\min}=E_{\mathrm b}-m_{\mathrm p}c^2=6m_{\mathrm p}c^2\simeq5.7\,\mathrm{GeV}

が答えです。生成に必要な静止質量は 2mpc22m_{\mathrm p}c^2 だけなのに 6mpc26m_{\mathrm p}c^2 も要るのは、固定標的では重心の運動エネルギーが反応に使えないためです。

しきい値では Eb=7mpc2E_{\mathrm b}=7m_{\mathrm p}c^2 なので

Ppc=Eb2mp2c4=48mpc2=43mpc2P_{\mathrm p}c=\sqrt{E_{\mathrm b}^2-m_{\mathrm p}^2c^4}=\sqrt{48}\,m_{\mathrm p}c^2=4\sqrt{3}\,m_{\mathrm p}c^2

です。重心系は実験室系に対して

βCM=PpcEb+mpc2=438=320.87\beta_{\mathrm{CM}}=\frac{P_{\mathrm p}c}{E_{\mathrm b}+m_{\mathrm p}c^2}=\frac{4\sqrt{3}}{8}=\frac{\sqrt{3}}{2}\simeq0.87

の速さで進みます。実験室系で静止していた標的陽子は、重心系では逆向きに同じ速さで動くので

v=32c0.87cv^{*}=\frac{\sqrt{3}}{2}c\simeq0.87\,c

です。γCM=(13/4)1/2=2\gamma_{\mathrm{CM}}=(1-3/4)^{-1/2}=2 なので重心系での各陽子のエネルギーは 2mpc22m_{\mathrm p}c^2、全エネルギーは 4mpc2=s4m_{\mathrm p}c^2=\sqrt{s} となり、設問5のしきい値条件と整合します。

しきい値では終状態の4粒子はすべて重心系で静止しているので、実験室系では一様に βCM=3/2\beta_{\mathrm{CM}}=\sqrt3/2γCM=2\gamma_{\mathrm{CM}}=2 で動きます。したがって反陽子の運動量は

ppˉ=γCMmpβCMc=2mp32c=3mpcp_{\bar{\mathrm p}}=\gamma_{\mathrm{CM}}m_{\mathrm p}\beta_{\mathrm{CM}}c=2m_{\mathrm p}\cdot\frac{\sqrt3}{2}c=\sqrt{3}\,m_{\mathrm p}c

です。4粒子の運動量の和 43mpc4\sqrt3\,m_{\mathrm p}c が入射運動量 Pp=43mpcP_{\mathrm p}=4\sqrt3\,m_{\mathrm p}c に一致しており、運動量保存が確かめられます。

球状蛋白質の熱アンフォールディング転移を、示差走査型熱量計(DSC)と 230nm230\,\mathrm{nm} の円二色性(CD)で、1気圧の定圧下で測定した結果が図1です。A は蛋白質水溶液の熱量計データ、B は溶媒緩衝液だけのベースライン、C は CD の温度依存性です。図2 はこれらから得た熱力学量で描いた ΔG(T)\Delta G(T) の理論曲線です。転移は天然状態 N とアンフォールド状態 U の二状態転移

NU,K=[U][N]\mathrm{N}\rightleftharpoons\mathrm{U},\qquad K=\frac{[\mathrm{U}]}{[\mathrm{N}]}

で近似できるものとします。ΔG\Delta GΔH\Delta HΔS\Delta SΔCp\Delta C_p はいずれも N から U への変化量です。

二状態転移では、CD 強度は N と U の分率で線形に配分されます。転移前後の CD の温度依存性を転移領域に直線的に外挿し、測定点からアンフォールド側の外挿線までの隔たりを aa、天然状態側の外挿線までの隔たりを bb とすると、アンフォールドした分率は

fapp=ba+bf_{\mathrm{app}}=\frac{b}{a+b}

です。平衡定数は U と N の存在比なので

K=fapp1fapp=baK=\frac{f_{\mathrm{app}}}{1-f_{\mathrm{app}}}=\frac{b}{a}

と与えられ、標準自由エネルギー変化は

ΔG=RTlnK=RTlnba=RTlnab\Delta G=-RT\ln K=-RT\ln\frac{b}{a}=RT\ln\frac{a}{b}

です。転移点 TmT_{\mathrm m}fapp=1/2f_{\mathrm{app}}=1/2、すなわち a=ba=bK=1K=1ΔG=0\Delta G=0 の温度として決まります。図1のこの試料では Tm313KT_{\mathrm m}\simeq313\,\mathrm{K} です。

ΔG=RTlnK\Delta G=-RT\ln KΔG=ΔHTΔS\Delta G=\Delta H-T\Delta S から

RlnK=ΔGT=ΔHTΔS-R\ln K=\frac{\Delta G}{T}=\frac{\Delta H}{T}-\Delta S

です。両辺を TT で(圧力一定のまま)微分します。定圧では (ΔHT)P=ΔCp\left(\dfrac{\partial\Delta H}{\partial T}\right)_P=\Delta C_p(ΔST)P=ΔCpT\left(\dfrac{\partial\Delta S}{\partial T}\right)_P=\dfrac{\Delta C_p}{T} なので

RlnKT=1TΔCpΔHT2ΔCpT=ΔHT2-R\frac{\partial\ln K}{\partial T} =\frac{1}{T}\Delta C_p-\frac{\Delta H}{T^2}-\frac{\Delta C_p}{T} =-\frac{\Delta H}{T^2}

となり、ΔCp\Delta C_p の項が打ち消し合って

ΔHvH=RT2lnKT\Delta H_{\mathrm{vH}}=RT^2\frac{\partial\ln K}{\partial T}

が得られます。これは Gibbs–Helmholtz の関係 [(ΔG/T)/T]P=ΔH/T2\left[\partial(\Delta G/T)/\partial T\right]_P=-\Delta H/T^2 と同じ内容で、ΔCp0\Delta C_p\neq0 でも成り立ちます。この式で得られる ΔH\Delta H を van’t Hoff エンタルピーと呼びます。実際には lnK\ln K1/T1/T に対してプロットし、その傾き ΔHvH/R-\Delta H_{\mathrm{vH}}/R から求めます。

まず A(蛋白質水溶液)から B(緩衝液のみ)を差し引き、蛋白質に由来する過剰熱容量 Cpexc(T)C_p^{\mathrm{exc}}(T) を取り出します。次に、転移領域の前後の CpexcC_p^{\mathrm{exc}} の水平部分をそれぞれ外挿し、その間を fapp(T)f_{\mathrm{app}}(T) に沿ってつなぐ内挿線(化学ベースライン)を引きます。この内挿線から上にはみ出したピークの面積が転移の吸熱量そのものなので

ΔHcal=1nT1T2[Cpexc(T)Cpbase(T)]dT\Delta H_{\mathrm{cal}}=\frac{1}{n}\int_{T_1}^{T_2}\left[C_p^{\mathrm{exc}}(T)-C_p^{\mathrm{base}}(T)\right]dT

nn は溶液中の蛋白質のモル数)としてモル当りのエンタルピー変化が求まります。定圧下では dH=CpdTdH=C_pdT なので、熱容量の温度積分がそのままエンタルピー変化になるからです。転移前と転移後でベースラインの高さが食い違う分(段差)が転移に伴う熱容量変化 ΔCp\Delta C_p で、これが設問5・設問7で使われます。この方法は平衡定数を経由しないので、モデルに依らない直接測定です。

転移が真に二状態的で、しかも協同単位が分子1個に一致していれば

ΔHvH=ΔHcal\Delta H_{\mathrm{vH}}=\Delta H_{\mathrm{cal}}

が成り立ちます。ΔHvH\Delta H_{\mathrm{vH}} は平衡定数の温度変化、すなわち「一気に転移する協同単位1個あたり」の吸熱量を測り、ΔHcal\Delta H_{\mathrm{cal}} は「分子1モルあたり」の全吸熱量を測るので、両者の比

ΔHcalΔHvH\frac{\Delta H_{\mathrm{cal}}}{\Delta H_{\mathrm{vH}}}

は1分子に含まれる協同単位の数を与えます。中間状態を伴う場合、転移は複数の段階に分かれて広がり、見かけの平衡定数の温度変化はなまされるので ΔHvH<ΔHcal\Delta H_{\mathrm{vH}}<\Delta H_{\mathrm{cal}} となります(比が協同単位の数、たとえばドメインの数になります)。逆に会合体を作りながら転移する場合は分子間の協同性のため ΔHvH>ΔHcal\Delta H_{\mathrm{vH}}>\Delta H_{\mathrm{cal}} となります。

ΔCp\Delta C_p が温度によらないとすると、Kirchhoff の関係の積分から

ΔH(T)=ΔH(Tm)+TmTΔCpdT=ΔH(Tm)+ΔCp(TTm),\Delta H(T)=\Delta H(T_{\mathrm m})+\int_{T_{\mathrm m}}^{T}\Delta C_p\,dT'=\Delta H(T_{\mathrm m})+\Delta C_p(T-T_{\mathrm m}), ΔS(T)=ΔS(Tm)+TmTΔCpTdT=ΔS(Tm)+ΔCplnTTm\Delta S(T)=\Delta S(T_{\mathrm m})+\int_{T_{\mathrm m}}^{T}\frac{\Delta C_p}{T'}\,dT'=\Delta S(T_{\mathrm m})+\Delta C_p\ln\frac{T}{T_{\mathrm m}}

です。これを ΔG(T)=ΔH(T)TΔS(T)\Delta G(T)=\Delta H(T)-T\Delta S(T) に代入すれば

ΔG(T)=ΔH(Tm)+ΔCp(TTm)T(ΔS(Tm)+ΔCplnTTm)\Delta G(T)=\Delta H(T_{\mathrm m})+\Delta C_p\cdot(T-T_{\mathrm m})-T\left(\Delta S(T_{\mathrm m})+\Delta C_p\ln\frac{T}{T_{\mathrm m}}\right)

が示されました。T=TmT=T_{\mathrm m} では ΔG=ΔH(Tm)TmΔS(Tm)=0\Delta G=\Delta H(T_{\mathrm m})-T_{\mathrm m}\Delta S(T_{\mathrm m})=0、すなわち ΔS(Tm)=ΔH(Tm)/Tm\Delta S(T_{\mathrm m})=\Delta H(T_{\mathrm m})/T_{\mathrm m} なので、独立なパラメータは TmT_{\mathrm m}ΔH(Tm)\Delta H(T_{\mathrm m})ΔCp\Delta C_p の3つです。この3つを図1から決めれば図2の曲線が描けます。ΔCp=0\Delta C_p=0 とすると ΔG\Delta GTT の1次関数(直線)になり、図2の曲率はまさに ΔCp>0\Delta C_p>0 が大きいことの現われです。

遠紫外領域(おおよそ 190190 から 250nm250\,\mathrm{nm})の円二色性は、主鎖のペプチド結合(アミド発色団)が不斉な立体配置に規則的に並ぶことで生じます。α\alpha ヘリックスは 208nm208\,\mathrm{nm}222nm222\,\mathrm{nm} に強い負のバンド、β\beta シートは 218nm218\,\mathrm{nm} 付近に負のバンドをもち、ランダムコイルではこれらが失われます。したがってこの波長域の CD 強度は二次構造の量の目安になります(230nm230\,\mathrm{nm} ではさらに、非対称な環境に置かれた芳香族側鎖の寄与も加わり、三次構造の崩れも反映します)。

図1の C で 230nm230\,\mathrm{nm} の CD の強度(負の値の大きさ)が熱転移に伴って減少しているのは、α\alpha ヘリックスなどの規則的な二次構造がほどけてランダムコイルに近づき、同時に芳香族側鎖を特定の向きに固定していた三次構造(疎水コア)も崩れて、発色団の配向の規則性が失われたことを示しています。つまり CD の変化はアンフォールディングそのものを追跡しており、DSC で見た吸熱ピークと同じ転移を別の物理量で見ていることになります。

熱転移も冷却転移も、大きな正の ΔCp\Delta C_p が生じる原因、すなわち折り畳まれた分子の内部に埋もれていた疎水性(無極性)基がアンフォールディングによって水に露出することに由来します。無極性表面のまわりの水は構造化して大きな熱容量を与えるため ΔCp>0\Delta C_p>0 が大きくなり、設問5の式のとおり ΔH\Delta HΔS\Delta S が強い温度依存性をもちます。

高温側の熱転移は主にエントロピーが駆動します。高温では ΔS>0\Delta S>0 が大きく、ほどけた主鎖のとりうる配座の数が莫大に増える(配座エントロピーの利得)ことが、水素結合や疎水的接触を壊す ΔH>0\Delta H>0 の損失を上回って ΔG=ΔHTΔS<0\Delta G=\Delta H-T\Delta S<0 となり、変性します。温度が高いほど TΔST\Delta S が効くので、これは直観的にも分かりやすい変性です。

低温側の冷却転移はエンタルピーが駆動します。ΔS(T)=ΔS(Tm)+ΔCpln(T/Tm)\Delta S(T)=\Delta S(T_{\mathrm m})+\Delta C_p\ln(T/T_{\mathrm m}) は温度を下げると減少して負に転じ、ΔH(T)=ΔH(Tm)+ΔCp(TTm)\Delta H(T)=\Delta H(T_{\mathrm m})+\Delta C_p(T-T_{\mathrm m}) も負になります。物理的には、無極性基を水和するときのエントロピー損失(水の構造化の代償)が低温では小さくなり、水和のエンタルピー利得が相対的に勝つ、つまり疎水性相互作用そのものが低温で弱くなるということです。その結果 Tc<TmT_{\mathrm c}<T_{\mathrm m} で再び ΔG<0\Delta G<0 となり、冷やすことでほどける冷却転移が起こります。図2で ΔG(T)\Delta G(T) が上に凸の曲線になり、ΔS=0\Delta S=0 となる温度で極大をとって高温・低温の両側で 00 を切るのは、この描像の直接の反映です。実際の TcT_{\mathrm c} は水の氷点より低いことが多く、圧力を加えるか変性剤を少量加えて ΔG\Delta G を下げてはじめて観測されます。

第9問 2原子分子の回転比熱と核スピン統計

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慣性モーメント II の2原子分子の回転運動を、古典・量子の両面から扱い、後半では等核分子での核スピン統計の効果を調べます。比熱は1分子あたり、ボルツマン定数を kBk_B とします。慣性モーメントの記号 II と混同しないよう、2つの核の合成スピンを SS と書きます。回転の特性温度を

Θ=2IkB\Theta=\frac{\hbar^2}{Ik_B}

と置くと見通しがよくなります。

剛体的な直線回転子のハミルトニアンは、極座標で

H=pθ22I+pϕ22Isin2θH=\frac{p_\theta^2}{2I}+\frac{p_\phi^2}{2I\sin^2\theta}

です。古典分配関数は運動量についてガウス積分すればよく

Zcl=1h20π ⁣ ⁣dθ02π ⁣ ⁣dϕ ⁣ ⁣dpθdpϕeβH=2πIh2β0πsinθdθ02πdϕ=2IkBT2Z_{\mathrm{cl}}=\frac{1}{h^2}\int_0^{\pi}\!\!d\theta\int_0^{2\pi}\!\!d\phi\int\!\!dp_\theta\,dp_\phi\,e^{-\beta H} =\frac{2\pi I}{h^2\beta}\int_0^\pi\sin\theta\,d\theta\int_0^{2\pi}d\phi =\frac{2Ik_BT}{\hbar^2}

となります。ZclTZ_{\mathrm{cl}}\propto T なので

E=lnZclβ=kBT,C=dEdT=kB\langle E\rangle=-\frac{\partial\ln Z_{\mathrm{cl}}}{\partial\beta}=k_BT, \qquad C=\frac{d\langle E\rangle}{dT}=k_B

が答えです。2次形式の運動量が2つ(回転の自由度が2つ)あることによるエネルギー等分配 2×12kBT2\times\frac12k_BT の結果で、温度によらない一定値です。

L2\boldsymbol{L}^2 の固有値は 2l(l+1)\hbar^2l(l+1)、その固有関数は球面調和関数 YlmY_{lm}m=l,,lm=-l,\dots,l)なので

El=2l(l+1)2I,gl=2l+1(l=0,1,2,)E_l=\frac{\hbar^2\,l(l+1)}{2I},\qquad g_l=2l+1\qquad(l=0,1,2,\dots)

です。

縮重度を重みとして

Z=l=0gleEl/kBT,E=l=0glEleEl/kBTl=0gleEl/kBT=kBT2lnZTZ=\sum_{l=0}^{\infty}g_l\,e^{-E_l/k_BT}, \qquad \langle E\rangle=\frac{\displaystyle\sum_{l=0}^{\infty}g_lE_l\,e^{-E_l/k_BT}}{\displaystyle\sum_{l=0}^{\infty}g_l\,e^{-E_l/k_BT}} =k_BT^2\frac{\partial\ln Z}{\partial T}

です。高温 kBT2/2Ik_BT\gg\hbar^2/2I では和を積分で置き換えられて Z2IkBT/2Z\to2Ik_BT/\hbar^2 となり、設問1の古典結果を再現します。

低温 kBTE1k_BT\ll E_1 では l2l\ge2 の項が二重に指数的に小さいので、l=0l=0E0=0E_0=0g0=1g_0=1)と l=1l=1E1=2/IE_1=\hbar^2/Ig1=3g_1=3)だけを残して

Z1+g1eE1/kBT=1+3e2/(IkBT)Z\simeq1+g_1e^{-E_1/k_BT}=1+3e^{-\hbar^2/(Ik_BT)}

です。このとき Eg1E1eE1/kBT\langle E\rangle\simeq g_1E_1e^{-E_1/k_BT}(分母を1とした)なので

C(T)g1kB(E1kBT)2eE1/kBT=3kB(2IkBT)2exp(2IkBT)C(T)\simeq g_1k_B\left(\frac{E_1}{k_BT}\right)^2e^{-E_1/k_BT} =3k_B\left(\frac{\hbar^2}{Ik_BT}\right)^2\exp\left(-\frac{\hbar^2}{Ik_BT}\right)

が答えです。近似が成り立つ条件は kBTE1=2/Ik_BT\ll E_1=\hbar^2/I、すなわち TΘT\ll\Theta です。T0T\to0 で指数因子が効いて C0C\to0 となり、回転の自由度が凍結します。古典値 kBk_B に対して指数的に小さいこの振舞いが、低温で回転比熱が消える理由です。

核スピン 1/21/2 を2つ合成すると、S=1S=1 の3重項(状態数 3、核スピン部分は2核の交換に対して対称)と S=0S=0 の1重項(状態数 1、交換に対して反対称)の2通りが得られます。2つの核は同種のフェルミ粒子なので、全波動関数は核の交換に対して反対称でなければなりません。電子系の合成スピンはゼロで、電子状態は核の交換(分子の反転)に対して対称とすると、回転部分 YlmY_{lm} が交換で (1)l(-1)^l の符号をもつことから、許される組合せは

S=0  l=0,2,4,,S=1  l=1,3,5,S=0\ \Longrightarrow\ l=0,2,4,\dots,\qquad S=1\ \Longrightarrow\ l=1,3,5,\dots

すなわち核スピン1重項には偶数の ll、3重項には奇数の ll だけが対応します。エネルギー固有値はどちらの場合も

El=2l(l+1)2IE_l=\frac{\hbar^2\,l(l+1)}{2I}

で、縮重度は核スピンの状態数を掛けて

S=0: gl=2l+1 (l 偶数),S=1: gl=3(2l+1) (l 奇数)S=0:\ g_l=2l+1\ (l\ \text{偶数}),\qquad S=1:\ g_l=3(2l+1)\ (l\ \text{奇数})

となります。水素分子で言えば前者がパラ水素、後者がオルソ水素です。

核スピンの状態も含めて熱平衡にあるとすると、分配関数は

Z=l:(2l+1)eEl/kBT+3l:(2l+1)eEl/kBTZ=\sum_{l:\text{偶}}(2l+1)e^{-E_l/k_BT}+3\sum_{l:\text{奇}}(2l+1)e^{-E_l/k_BT}

です。低温極限では最低の2準位、l=0l=0E0=0E_0=0、縮重度 11)と l=1l=1E1=2/IE_1=\hbar^2/I、縮重度 3×3=93\times3=9)だけが効くので Z1+9eE1/kBTZ\simeq1+9e^{-E_1/k_BT} となり

C(T)9kB(2IkBT)2exp(2IkBT)C(T)\simeq9k_B\left(\frac{\hbar^2}{Ik_BT}\right)^2\exp\left(-\frac{\hbar^2}{Ik_BT}\right)

が答えです。準位間隔は異核分子(設問4)と同じですが、l=1l=1 の縮重度が核スピンの3重項の分だけ3倍になるので、比熱も3倍になります。T0T\to0 ではすべての分子が l=0l=0(したがって S=0S=0 のパラ状態)に落ちます。

核スピンの向きを変える相互作用は非常に弱く、オルソ・パラ間の転換は自然には極端に遅い(水素では数日から数年、触媒がなければ気体中でほとんど進まない)という事実が原因です。

十分高温では偶数 ll と奇数 ll の準位が同じように励起されるので、核スピンの重み 1:31:3 がそのまま分子数の比になり、パラ(偶数 ll)が 1/41/4、オルソ(奇数 ll)が 3/43/4 です。急冷するとこの比が凍結したまま低温になります。凍結したオルソ分子は奇数 ll の中でしか遷移できず、その最低状態は l=1l=1 のままで l=0l=0 へは落ちません。したがって低温比熱に寄与する準位間隔は、パラでは E2E0=32/IE_2-E_0=3\hbar^2/I、オルソでは E3E1=52/IE_3-E_1=5\hbar^2/I となり

C1145kB(32/IkBT)2e32/(IkBT)+34219kB(52/IkBT)2e52/(IkBT)C_1\simeq\frac{1}{4}\cdot5k_B\left(\frac{3\hbar^2/I}{k_BT}\right)^2e^{-3\hbar^2/(Ik_BT)} +\frac{3}{4}\cdot\frac{21}{9}k_B\left(\frac{5\hbar^2/I}{k_BT}\right)^2e^{-5\hbar^2/(Ik_BT)}

l=2l=2 の縮重度 55l=3l=3l=1l=1 の縮重度の比 21/921/9 を使いました)となります。一方、ゆっくり冷やして常に平衡を保った場合はオルソがパラに転換して全分子が l=0l=0 に落ち、設問6の

C29kB(2IkBT)2e2/(IkBT)C_2\simeq9k_B\left(\frac{\hbar^2}{Ik_BT}\right)^2e^{-\hbar^2/(Ik_BT)}

になります。指数の肩が 32/I3\hbar^2/I52/I5\hbar^2/I2/I\hbar^2/I とで違うため、低温では C1C2C_1\ll C_2 となり、両者は明確に異なります。これが水素の比熱の測定からオルソ・パラ混合比が決定できた(Dennison)という有名な例で、核スピンという「見えない」自由度が比熱に効くことを示しています。

出典: 東京大学大学院理学系研究科 物理学専攻 平成15年度 修士課程 入学試験問題 物理学。問題文は要約して引用しています。

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