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Yang–Mills 理論と質量ギャップ I:問題の命題(Jaffe–Witten)と、何が難しいのか

対象読者: 学部の量子力学と、ファイバー束・接続、非有界自己共役作用素のスペクトル定理、Peter–Weyl の定理を学んだ修士課程の人。場の量子論の公理系は仮定しません。

前提となる記事:ファイバー束・主束と接続:ゲージ場の幾何学、スペクトル定理と関数計算:非有界自己共役作用素を射影値測度で対角化する、Peter–Weyl の定理:Schur の直交関係、L²(G) の完全分解、ユニタリ表現の有限次元への還元

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強い力は、なぜ原子核の大きさ程度の短い距離までしか届かないのでしょうか。この力を記述する方程式には「長さ」を決める定数が入っていないのに、現実の世界には決まった長さがあります。この記事は、この「長さはどこから来るのか」という問いを数学の問題として正確に述べ直し、すでに解けている易しい場合と、まだ解けていない 4 次元の場合の違いを整理します。読み終えると、問題が何を求めていて、どこが難しいのかを自分の言葉で説明できるようになります。

  • Clay 数学研究所の問題は「任意のコンパクト単純 Lie 群 GG について、R4\mathbb{R}^4 上の非自明な量子 Yang–Mills 理論が存在し、質量ギャップ Δ>0\Delta\gt0 をもつことを証明せよ」です。存在とは、Wightman 公理や Osterwalder–Schrader 公理(場の量子論が満たすべき条件を並べたもの。§3.1)と少なくとも同じ強さの公理的性質を確立することを含みます(定義 3.2)。2026 年 10 月の時点で未解決です。
  • 質量ギャップとは、ハミルトニアン HH(系のエネルギーを表す作用素)のスペクトルが (0,Δ)(0,\Delta) に点をもたないことです。これは、真空を除いた相関が Euclid 時間(時間を虚数に取り替えた時間)について率 Δ\Delta で指数的に減衰することと同値です(定理 3.4)。
  • 古典論にはスケールがありません。4 次元の Yang–Mills 作用は共形不変で(命題 2.3)、古典解は質量ギャップを示しません。質量の次元をもつ量 Λ=μ e−1/(2b0g2(μ))\Lambda=\mu\,e^{-1/(2b_0g^2(\mu))} は量子論で初めて現れ、g2g^2 の摂動展開(結合が小さいとみて級数で近似する方法)のどの次数にも現れません(命題 6.1)。
  • 「存在するがギャップが無い」例が自由な Maxwell 場です(定理 4.1)。「ギャップも閉じ込めもすべての結合定数で示せる」例が 2 次元の格子 Yang–Mills 理論です(定理 5.1)。4 次元の非可換な理論は、このどちらの方法も届かない位置にあります。
  • 解決には (1) 紫外:連続極限の存在、(2) 公理の検証、(3) 非自明性、(4) 赤外:無限体積極限と質量ギャップ、の 4 段階が要ります(§7)。格子の質量ギャップが正であることと、連続極限で質量ギャップが残ることは別の主張です(命題 6.2)。

量子色力学(QCD)は、陽子や中性子を作る強い力を SU(3)SU(3) をゲージ群とする Yang–Mills 理論で記述します。この理論の方程式には質量の次元をもつ定数が 1 つも入っていません。ところが実験で見える強い力は到達距離が 10−1510^{-15} m 程度と短く、力を媒介する粒子が質量をもつかのようにふるまいます。方程式に無い長さがどこから現れるのか。これが質量ギャップの問いです。

物理では、この現象は数値計算(格子 QCD)と多くの実験で確かめられています。数学の問題は、その手前にあります。そもそも「4 次元の量子 Yang–Mills 理論」という数学的対象が存在することが証明されていません。4 次元時空で相互作用のある場の量子論を、公理を満たす形で構成した例は、2026 年の時点で 1 つもありません。Jaffe と Witten による問題記述も、この点を強調しています。

したがって問題は 2 つの部分からなります。

  1. 存在: 公理を満たす Hilbert 空間・ハミルトニアン・場の作用素を構成する。
  2. 質量ギャップ: その HH のスペクトルが 00 の上に隙間をもつことを示す。

この記事では、2 つの部分の正確な意味を命題の形で述べ、どの部分がどの次元まで解けているかを整理します。個々のアプローチ(構成的場の理論、Bałaban のくりこみ群、確率量子化、確率論からの研究)は第 13 章で扱います。

年人内容
1954Yang, Mills非可換ゲージ群 SU(2)SU(2) をもつ場の理論を導入
1971–72‘t Hooft, VeltmanYang–Mills 理論が摂動論の意味でくりこみ可能であることを示す
1973Gross, Wilczek; Politzer漸近的自由(短距離で結合が弱くなること)を発見
1973–75Osterwalder, SchraderEuclid 的な公理(反射正値性)から相対論的な場の量子論を再構成
1974Wilson格子ゲージ理論を導入し、強結合で閉じ込め(面積則)を示す
1978Osterwalder, Seiler格子ゲージ理論の反射正値性と、強結合展開の収束を証明
1980 年代Bałaban3 次元と 4 次元の格子 Yang–Mills 理論の紫外安定性を証明
2000Clay 数学研究所7 つのミレニアム問題の 1 つとして公表(問題記述は Jaffe と Witten)

漸近的自由は、短距離では結合定数が小さくなることを意味します。これは紫外(短距離)の解析には有利ですが、同時に長距離では結合が大きくなることも意味します。質量ギャップは長距離の性質なので、摂動論が使えない領域の問題です。

エネルギー μ(対数目盛)g²(μ)Λ赤外:強結合質量ギャップ・閉じ込め紫外:弱結合(漸近的自由)連続極限・摂動論
走る結合定数 g²(μ) と 2 つの領域。エネルギー μ が Λ より十分大きいところでは摂動論が使える。質量ギャップは μ が Λ 程度の領域で決まる。

量子論の問題を述べる前に、古典論の対象を定めます。主束と接続の一般論は主束と接続にあります(定義 3.1[ファイバー束・主束と接続]、定義 4.1[ファイバー束・主束と接続])。この記事では Rd\mathbb{R}^d 上の自明な束だけを使うので、接続は大域的なゲージポテンシャルで表せます。

定義 2.1(ゲージ群・接続・曲率・Yang–Mills 作用)↗

GG をコンパクト単純 Lie 群(コンパクトな連結 Lie 群で、Lie 環 g\mathfrak{g} が非可換かつ {0}\{0\} と g\mathfrak{g} 以外のイデアルをもたないもの。例: SU(N)SU(N)(N≥2N\ge2)、SO(N)SO(N)(N=3N=3 または N≥5N\ge5)、Sp(N)Sp(N)、例外群)とし、ユニタリ行列の群 G⊂U(n)G\subset U(n) として実現しておく。g\mathfrak{g} は反 Hermite 行列からなる。

  1. g\mathfrak{g} 上の Ad\mathrm{Ad} 不変内積を ⟨X,Y⟩=−2 tr(XY)\langle X,Y\rangle=-2\,\mathrm{tr}(XY) とする。
  2. Rd\mathbb{R}^d 上の(自明束の)接続とは、滑らかな写像 Aμ ⁣:Rd→gA_\mu\colon\mathbb{R}^d\to\mathfrak{g}(μ=1,…,d\mu=1,\dots,d)の組 A=∑μAμ dxμA=\sum_\mu A_\mu\,dx^\mu をいう。
  3. AA の曲率を FA=dA+A∧AF_A=dA+A\wedge A、成分で Fμν=∂μAν−∂νAμ+[Aμ,Aν]F_{\mu\nu}=\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu+[A_\mu,A_\nu] とする。共変微分を DμX=∂μX+[Aμ,X]D_\mu X=\partial_\mu X+[A_\mu,X](X ⁣:Rd→gX\colon\mathbb{R}^d\to\mathfrak{g})とする。
  4. 結合定数 g>0g\gt0 について、(Euclid 的)Yang–Mills 作用を S(A)=14g2∫Rd∣FA∣2 ddx,∣FA∣2=∑μ,ν=1d⟨Fμν,Fμν⟩S(A)=\frac{1}{4g^2}\int_{\mathbb{R}^d}|F_A|^2\,d^dx,\qquad|F_A|^2=\sum_{\mu,\nu=1}^d\langle F_{\mu\nu},F_{\mu\nu}\rangle とする(右辺が有限のとき)。
  5. 滑らかな h ⁣:Rd→Gh\colon\mathbb{R}^d\to G によるゲージ変換を Aμh=h−1Aμh+h−1∂μhA^h_\mu=h^{-1}A_\mu h+h^{-1}\partial_\mu h とする。

内積の正規化は SU(N)SU(N) の標準的な生成子 tat^a(tr(tatb)=12δab\mathrm{tr}(t^at^b)=\frac12\delta^{ab})に合わせてあります。Xa=−itaX_a=-it^a は ⟨⋅,⋅⟩\langle\cdot,\cdot\rangle の正規直交基底で、Fμν=∑aFμνaXaF_{\mu\nu}=\sum_aF^a_{\mu\nu}X_a と書けば S=14g2∫∑a,μ,ν(Fμνa)2S=\frac{1}{4g^2}\int\sum_{a,\mu,\nu}(F^a_{\mu\nu})^2 となり、物理の教科書の形(定義 2.6[非可換ゲージ理論の量子化] の Euclid 版で、AA を gAgA に置き換えたもの)に一致します。

ゲージ変換は主束の言葉では束の自己同型です(定義 6.1[ファイバー束・主束と接続])。物理的に意味があるのは、ゲージ変換で変わらない量だけです。

定義 2.2(ゲージ不変な観測量)↗

  1. 局所的な観測量: FF とその共変微分の、ゲージ不変な多項式。たとえば O(x)=∑μ,ν⟨Fμν(x),Fμν(x)⟩\mathcal{O}(x)=\sum_{\mu,\nu}\langle F_{\mu\nu}(x),F_{\mu\nu}(x)\rangle(trF2\mathrm{tr}F^2 と略記する)。
  2. Wilson ループ: 区分的に滑らかな閉曲線 C ⁣:[0,1]→RdC\colon[0,1]\to\mathbb{R}^d と GG の有限次元表現 ρ\rho について、CC に沿う平行移動(常微分方程式 u˙(t)=−∑μAμ(C(t))C˙μ(t) u(t)\dot u(t)=-\sum_\mu A_\mu(C(t))\dot C^\mu(t)\,u(t)、u(0)=1u(0)=1 の解 u(1)∈Gu(1)\in G。これを HolC(A)\mathrm{Hol}_C(A) と書く)を使って Wρ(C)=1dim⁡ρ tr ρ(HolC(A)).W_\rho(C)=\frac{1}{\dim\rho}\,\mathrm{tr}\,\rho\bigl(\mathrm{Hol}_C(A)\bigr).

ゲージ変換で Fμν↦h−1FμνhF_{\mu\nu}\mapsto h^{-1}F_{\mu\nu}h(命題 6.2[ファイバー束・主束と接続])、HolC(A)↦h(C(0))−1HolC(A) h(C(0))\mathrm{Hol}_C(A)\mapsto h(C(0))^{-1}\mathrm{Hol}_C(A)\,h(C(0)) となるので、どちらもゲージ不変です。ポテンシャル Aμ(x)A_\mu(x) そのものはゲージ不変ではありません。この事情が量子論で大きな困難になります(§6.3)。

2.2. 運動方程式とスケール不変性

Section titled “2.2. 運動方程式とスケール不変性”

命題 2.3(Yang–Mills 方程式・ゲージ不変性・共形不変性)✓

定義 2.1 の記号で次が成り立つ。

  1. (ゲージ不変性)FAh=h−1FAhF_{A^h}=h^{-1}F_Ah であり、S(Ah)=S(A)S(A^h)=S(A)。
  2. (Bianchi 恒等式)DλFμν+DμFνλ+DνFλμ=0D_\lambda F_{\mu\nu}+D_\mu F_{\nu\lambda}+D_\nu F_{\lambda\mu}=0。
  3. (Yang–Mills 方程式)S(A)<∞S(A)\lt\infty とする。コンパクト台をもつ滑らかな ημ ⁣:Rd→g\eta_\mu\colon\mathbb{R}^d\to\mathfrak{g} について ddtS(A+tη)∣t=0=−1g2∫∑μ,ν⟨DμFμν,ην⟩ ddx.\frac{d}{dt}S(A+t\eta)\Big|_{t=0}=-\frac{1}{g^2}\int\sum_{\mu,\nu}\langle D_\mu F_{\mu\nu},\eta_\nu\rangle\,d^dx . したがって AA がすべてのコンパクト台の変分について SS の停留点であることは、∑μDμFμν=0\sum_\mu D_\mu F_{\mu\nu}=0(ν=1,…,d\nu=1,\dots,d)と同値である。
  4. (スケール変換)λ>0\lambda\gt0 について Aμλ(x)=λAμ(λx)A^\lambda_\mu(x)=\lambda A_\mu(\lambda x) と置くと S(Aλ)=λ4−dS(A)S(A^\lambda)=\lambda^{4-d}S(A)。とくに d=4d=4 では S(Aλ)=S(A)S(A^\lambda)=S(A)。
  5. (共形不変性)d=4d=4 のとき、∣FA∣2 d4x|F_A|^2\,d^4x は計量 δμν\delta_{\mu\nu} を Ω(x)2δμν\Omega(x)^2\delta_{\mu\nu}(Ω>0\Omega\gt0 は滑らかな関数)に取り替えても変わらない。
証明(命題 2.3)

1. FAh=h−1FAhF_{A^h}=h^{-1}F_Ah は 命題 6.2[ファイバー束・主束と接続] の 2 です。内積は ⟨h−1Xh,h−1Yh⟩=−2 tr(h−1XYh)=⟨X,Y⟩\langle h^{-1}Xh,h^{-1}Yh\rangle=-2\,\mathrm{tr}(h^{-1}XYh)=\langle X,Y\rangle を満たすので ∣FAh∣2=∣FA∣2|F_{A^h}|^2=|F_A|^2 です。

2. 命題 5.1[ファイバー束・主束と接続] の 2(dF+A∧F−F∧A=0dF+A\wedge F-F\wedge A=0)を成分で書いたものです。dxλ∧dxμ∧dxνdx^\lambda\wedge dx^\mu\wedge dx^\nu の係数を取ると、∂λFμν+[Aλ,Fμν]\partial_\lambda F_{\mu\nu}+[A_\lambda,F_{\mu\nu}] の巡回和が 00 になります。

3. FA+tη=FA+t (Dη)+t2 η∧ηF_{A+t\eta}=F_A+t\,(D\eta)+t^2\,\eta\wedge\eta、(Dη)μν=Dμην−Dνημ(D\eta)_{\mu\nu}=D_\mu\eta_\nu-D_\nu\eta_\mu です。実際、FμνF_{\mu\nu} の定義に A+tηA+t\eta を代入すると、tt の 1 次の項は ∂μην−∂νημ+[Aμ,ην]+[ημ,Aν]\partial_\mu\eta_\nu-\partial_\nu\eta_\mu+[A_\mu,\eta_\nu]+[\eta_\mu,A_\nu] です。η\eta の台はコンパクトなので tt で微分でき、

ddtS(A+tη)∣t=0=12g2∫∑μ,ν⟨Fμν,Dμην−Dνημ⟩=1g2∫∑μ,ν⟨Fμν,Dμην⟩\frac{d}{dt}S(A+t\eta)\Big|_{t=0}=\frac{1}{2g^2}\int\sum_{\mu,\nu}\langle F_{\mu\nu},D_\mu\eta_\nu-D_\nu\eta_\mu\rangle=\frac{1}{g^2}\int\sum_{\mu,\nu}\langle F_{\mu\nu},D_\mu\eta_\nu\rangle

(Fμν=−FνμF_{\mu\nu}=-F_{\nu\mu} を使った)。内積の Ad\mathrm{Ad} 不変性を微分した ⟨[Z,X],Y⟩+⟨X,[Z,Y]⟩=0\langle[Z,X],Y\rangle+\langle X,[Z,Y]\rangle=0 から ∂μ⟨X,Y⟩=⟨DμX,Y⟩+⟨X,DμY⟩\partial_\mu\langle X,Y\rangle=\langle D_\mu X,Y\rangle+\langle X,D_\mu Y\rangle です。X=FμνX=F_{\mu\nu}、Y=ηνY=\eta_\nu に使い、左辺の積分が(η\eta の台がコンパクトなので)00 であることから

∫⟨Fμν,Dμην⟩=−∫⟨DμFμν,ην⟩\int\langle F_{\mu\nu},D_\mu\eta_\nu\rangle=-\int\langle D_\mu F_{\mu\nu},\eta_\nu\rangle

を得ます。η\eta は任意なので、停留条件は ∑μDμFμν=0\sum_\mu D_\mu F_{\mu\nu}=0 と同値です。

4. FAλ(x)μν=λ2(∂μAν−∂νAμ+[Aμ,Aν])(λx)=λ2Fμν(λx)F_{A^\lambda}(x)_{\mu\nu}=\lambda^2\bigl(\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu+[A_\mu,A_\nu]\bigr)(\lambda x)=\lambda^2F_{\mu\nu}(\lambda x) です。y=λxy=\lambda x と変数変換すると S(Aλ)=14g2∫λ4∣FA(λx)∣2ddx=λ4−dS(A)S(A^\lambda)=\frac{1}{4g^2}\int\lambda^4|F_A(\lambda x)|^2d^dx=\lambda^{4-d}S(A)。

5. 正規直交余枠 θμ=dxμ\theta^\mu=dx^\mu について ∣FA∣2d4x=2∑aFa∧⋆Fa|F_A|^2d^4x=2\sum_a F^a\wedge\star F^a(Fa=12∑Fμνaθμ∧θνF^a=\frac12\sum F^a_{\mu\nu}\theta^\mu\wedge\theta^\nu)です。実際、Hodge スターの定義 α∧⋆β=⟨α,β⟩ vol\alpha\wedge\star\beta=\langle\alpha,\beta\rangle\,\mathrm{vol}(定義 2.1[Hodge 理論と Laplace–Beltrami 作用素])と、2 形式の内積が ⟨Fa,Fa⟩=∑μ<ν(Fμνa)2=12∑μ,ν(Fμνa)2\langle F^a,F^a\rangle=\sum_{\mu\lt\nu}(F^a_{\mu\nu})^2=\frac12\sum_{\mu,\nu}(F^a_{\mu\nu})^2 であることから、2∑aFa∧⋆Fa=∑a,μ,ν(Fμνa)2 vol=∣FA∣2d4x2\sum_aF^a\wedge\star F^a=\sum_{a,\mu,\nu}(F^a_{\mu\nu})^2\,\mathrm{vol}=|F_A|^2d^4x です。計量を Ω2\Omega^2 倍すると正規直交余枠は θ′μ=Ωθμ\theta'^\mu=\Omega\theta^\mu になります。命題 2.2[Hodge 理論と Laplace–Beltrami 作用素] の 1 から、新しい Hodge スター ⋆′\star' は ⋆′(θ′μ∧θ′ν)=θ′ρ∧θ′σ\star'(\theta'^{\mu}\wedge\theta'^{\nu})=\theta'^{\rho}\wedge\theta'^{\sigma}((μ,ν,ρ,σ)(\mu,\nu,\rho,\sigma) は偶置換)を満たし、両辺の Ω2\Omega^2 が打ち消すので、2 形式の上で ⋆′=⋆\star'=\star です。FaF^a は計量によらない 2 形式なので、Fa∧⋆′Fa=Fa∧⋆FaF^a\wedge\star'F^a=F^a\wedge\star F^a です。

4 と 5 は、4 次元の古典 Yang–Mills 理論には長さの尺度が無いことを意味します。解 AA があれば、それを拡大・縮小した AλA^\lambda も同じ作用をもつ解です。したがって古典解の中に「質量ギャップ Δ\Delta」に相当する固有の長さ 1/Δ1/\Delta は現れません。質量ギャップは量子論で初めて生じる性質です。

4 次元では、作用が位相的な量で下から抑えられます。これは古典論に非自明な解があることと、汎関数積分の「主要な寄与」が自明な A=0A=0 の近くだけではないことを示します。

d=4d=4 とし、(⋆F)μν=12∑ρ,σεμνρσFρσ(\star F)_{\mu\nu}=\frac12\sum_{\rho,\sigma}\varepsilon_{\mu\nu\rho\sigma}F_{\rho\sigma} と書きます。∣FA∣2|F_A|^2 が可積分な接続について

k(A)=132π2∫R4∑μ,ν⟨Fμν,(⋆F)μν⟩ d4x=−18π2∫R4tr(FA∧FA)k(A)=\frac{1}{32\pi^2}\int_{\mathbb{R}^4}\sum_{\mu,\nu}\langle F_{\mu\nu},(\star F)_{\mu\nu}\rangle\,d^4x=-\frac{1}{8\pi^2}\int_{\mathbb{R}^4}\mathrm{tr}(F_A\wedge F_A)

を位相電荷と呼びます(第 2 の等号は tr(F∧F)=14∑εμνρσtr(FμνFρσ) d4x\mathrm{tr}(F\wedge F)=\frac14\sum\varepsilon_{\mu\nu\rho\sigma}\mathrm{tr}(F_{\mu\nu}F_{\rho\sigma})\,d^4x と ⟨X,Y⟩=−2tr(XY)\langle X,Y\rangle=-2\mathrm{tr}(XY) から)。被積分関数は第 2 Chern 形式(定義 3.1[Chern–Weil 理論と特性類])の −1-1 倍です。

命題 2.4(作用の下限と自己双対性)✓

d=4d=4 とし、AA を ∣FA∣2|F_A|^2 が可積分な接続とする。

  1. S(A)≥8π2g2 ∣k(A)∣S(A)\ge\dfrac{8\pi^2}{g^2}\,|k(A)|。等号は F=⋆FF=\star F(自己双対)または F=−⋆FF=-\star F(反自己双対)のとき、そのときに限る。
  2. F=±⋆FF=\pm\star F を満たす接続は Yang–Mills 方程式 ∑μDμFμν=0\sum_\mu D_\mu F_{\mu\nu}=0 を満たす。
  3. A′−AA'-A がコンパクト台をもつなら k(A′)=k(A)k(A')=k(A)。
証明(命題 2.4)

1. ε\varepsilon の縮約公式 ∑μ,νεμνρσεμνρ′σ′=2(δρρ′δσσ′−δρσ′δσρ′)\sum_{\mu,\nu}\varepsilon_{\mu\nu\rho\sigma}\varepsilon_{\mu\nu\rho'\sigma'}=2(\delta_{\rho\rho'}\delta_{\sigma\sigma'}-\delta_{\rho\sigma'}\delta_{\sigma\rho'}) から

∑μ,ν⟨(⋆F)μν,(⋆F)μν⟩=14⋅2∑ρ,σ(⟨Fρσ,Fρσ⟩−⟨Fρσ,Fσρ⟩)=∑ρ,σ⟨Fρσ,Fρσ⟩=∣F∣2.\sum_{\mu,\nu}\langle(\star F)_{\mu\nu},(\star F)_{\mu\nu}\rangle=\frac14\cdot2\sum_{\rho,\sigma}\bigl(\langle F_{\rho\sigma},F_{\rho\sigma}\rangle-\langle F_{\rho\sigma},F_{\sigma\rho}\rangle\bigr)=\sum_{\rho,\sigma}\langle F_{\rho\sigma},F_{\rho\sigma}\rangle=|F|^2 .

したがって各点で

0≤∑μ,ν⟨Fμν∓(⋆F)μν, Fμν∓(⋆F)μν⟩=2∣F∣2∓2∑μ,ν⟨Fμν,(⋆F)μν⟩.0\le\sum_{\mu,\nu}\bigl\langle F_{\mu\nu}\mp(\star F)_{\mu\nu},\,F_{\mu\nu}\mp(\star F)_{\mu\nu}\bigr\rangle=2|F|^2\mp2\sum_{\mu,\nu}\langle F_{\mu\nu},(\star F)_{\mu\nu}\rangle .

積分して ∫∣F∣2≥±32π2k(A)\int|F|^2\ge\pm32\pi^2k(A)、すなわち S(A)=14g2∫∣F∣2≥8π2g2∣k(A)∣S(A)=\frac{1}{4g^2}\int|F|^2\ge\frac{8\pi^2}{g^2}|k(A)| です。等号は、符号を k(A)k(A) の符号に合わせたとき被積分関数(非負の連続関数)が恒等的に 00、すなわち F=±⋆FF=\pm\star F のときに限ります(k(A)=0k(A)=0 で等号なら S=0S=0、F=0F=0 で、これも F=±⋆FF=\pm\star F を満たします)。

2. F=±⋆FF=\pm\star F なら ∑μDμFμν=±12∑μ,ρ,σεμνρσDμFρσ\sum_\mu D_\mu F_{\mu\nu}=\pm\frac12\sum_{\mu,\rho,\sigma}\varepsilon_{\mu\nu\rho\sigma}D_\mu F_{\rho\sigma} です。εμνρσ\varepsilon_{\mu\nu\rho\sigma} は (μ,ρ,σ)(\mu,\rho,\sigma) について完全反対称なので、DμFρσD_\mu F_{\rho\sigma} を巡回和の 13\frac13 で置き換えられ、それは Bianchi 恒等式(命題 2.3 の 2)により 00 です。

3. tr(XY)\mathrm{tr}(XY) は g\mathfrak{g} 上の次数 2 の不変多項式なので、Chern–Weil の定理(定理 2.3[Chern–Weil 理論と特性類] の 2)から、η=A′−A\eta=A'-A、At=A+tηA_t=A+t\eta として

tr(FA′∧FA′)−tr(FA∧FA)=d(2∫01tr(η∧FAt) dt)\mathrm{tr}(F_{A'}\wedge F_{A'})-\mathrm{tr}(F_A\wedge F_A)=d\Bigl(2\int_0^1\mathrm{tr}(\eta\wedge F_{A_t})\,dt\Bigr)

です。右辺の括弧の中は η\eta の台に台をもつ滑らかな 3 形式なので、Stokes の定理によりその外微分の R4\mathbb{R}^4 上の積分は 00 です。

同じ下限は物理の記法で 定理 5.3[アノマリーとインスタントン] にもあります。

例 2.5(BPST インスタントン)

G=SU(2)G=SU(2)、Xa=−i2σaX_a=-\frac{i}{2}\sigma_a(σa\sigma_a は Pauli 行列)とすると [Xa,Xb]=∑cεabcXc[X_a,X_b]=\sum_c\varepsilon_{abc}X_c、⟨Xa,Xb⟩=δab\langle X_a,X_b\rangle=\delta_{ab} です。‘t Hooft 記号 ημνa\eta^a_{\mu\nu}(a=1,2,3a=1,2,3、μ,ν=1,…,4\mu,\nu=1,\dots,4)を、反対称で ηija=εaij\eta^a_{ij}=\varepsilon_{aij}、ηi4a=δai\eta^a_{i4}=\delta_{ai}(i,j≤3i,j\le3)と定めます。ηa\eta^a は自己双対(12εμνρσηρσa=ημνa\frac12\varepsilon_{\mu\nu\rho\sigma}\eta^a_{\rho\sigma}=\eta^a_{\mu\nu})で、

∑b,cεabcημκbηνλc=δμνηκλa−δμληκνa−δκνημλa+δκλημνa,∑a,μ,ν(ημνa)2=12\sum_{b,c}\varepsilon_{abc}\eta^b_{\mu\kappa}\eta^c_{\nu\lambda}=\delta_{\mu\nu}\eta^a_{\kappa\lambda}-\delta_{\mu\lambda}\eta^a_{\kappa\nu}-\delta_{\kappa\nu}\eta^a_{\mu\lambda}+\delta_{\kappa\lambda}\eta^a_{\mu\nu},\qquad\sum_{a,\mu,\nu}(\eta^a_{\mu\nu})^2=12

を満たします(前者は有限個の成分の恒等式で、定義から直接確かめられます)。ρ>0\rho\gt0、D(x)=∣x∣2+ρ2D(x)=|x|^2+\rho^2 として

Aμa(x)=2∑νημνaxνD(x)A^a_\mu(x)=\frac{2\sum_\nu\eta^a_{\mu\nu}x_\nu}{D(x)}

と置きます。微分の項は

∂μAνa−∂νAμa=−4ημνaD−4D2∑κ(xμηνκa−xνημκa)xκ,\partial_\mu A^a_\nu-\partial_\nu A^a_\mu=-\frac{4\eta^a_{\mu\nu}}{D}-\frac{4}{D^2}\sum_\kappa\bigl(x_\mu\eta^a_{\nu\kappa}-x_\nu\eta^a_{\mu\kappa}\bigr)x_\kappa ,

交換子の項は、上の恒等式と ∑κ,ληκλaxκxλ=0\sum_{\kappa,\lambda}\eta^a_{\kappa\lambda}x_\kappa x_\lambda=0 から

∑b,cεabcAμbAνc=4D2(∑κ(xμηνκa−xνημκa)xκ+∣x∣2ημνa)\sum_{b,c}\varepsilon_{abc}A^b_\mu A^c_\nu=\frac{4}{D^2}\Bigl(\sum_\kappa\bigl(x_\mu\eta^a_{\nu\kappa}-x_\nu\eta^a_{\mu\kappa}\bigr)x_\kappa+|x|^2\eta^a_{\mu\nu}\Bigr)

です。足すと

Fμνa=−4ημνaD+4∣x∣2ημνaD2=−4ρ2 ημνa(∣x∣2+ρ2)2.F^a_{\mu\nu}=-\frac{4\eta^a_{\mu\nu}}{D}+\frac{4|x|^2\eta^a_{\mu\nu}}{D^2}=-\frac{4\rho^2\,\eta^a_{\mu\nu}}{(|x|^2+\rho^2)^2}.

ηa\eta^a が自己双対なので F=⋆FF=\star F です。作用は、R4\mathbb{R}^4 の単位球面の面積が 2π22\pi^2 であることと ∫0∞r3 dr(r2+ρ2)4=112ρ4\int_0^\infty\frac{r^3\,dr}{(r^2+\rho^2)^4}=\frac{1}{12\rho^4} から

S=14g2∫16ρ4⋅12(∣x∣2+ρ2)4 d4x=48ρ4g2⋅2π2⋅112ρ4=8π2g2,S=\frac{1}{4g^2}\int\frac{16\rho^4\cdot12}{(|x|^2+\rho^2)^4}\,d^4x=\frac{48\rho^4}{g^2}\cdot2\pi^2\cdot\frac{1}{12\rho^4}=\frac{8\pi^2}{g^2},

したがって k(A)=1k(A)=1 で、命題 2.4 の等号が成り立ちます。この解は中心と大きさ ρ\rho を自由に選べます。ρ\rho が任意であることは、スケール不変性(命題 2.3 の 4)の現れです。

古典論の解析の基礎になるのは、次の Uhlenbeck の定理です。量子論の構成でも、「曲率が小さい配位は、うまくゲージを選べばポテンシャルも小さい」という形の評価が各スケールで必要になります(第 13 章の Bałaban の方法)。

定理 2.6(Uhlenbeck のゲージ固定とコンパクト性)※

GG をコンパクト Lie 群とする。

  1. (局所 Coulomb ゲージ)4 次元の単位球 B4B^4 上の自明束について、定数 ε>0\varepsilon\gt0 と C<∞C\lt\infty(GG だけで決まる)があって次が成り立つ。Sobolev 空間 W1,2W^{1,2} に属する接続 AA が ∥FA∥L2(B4)<ε\|F_A\|_{L^2(B^4)}\lt\varepsilon を満たすなら、W2,2W^{2,2} に属するゲージ変換 hh があって、A′=AhA'=A^h は ∑μ∂μAμ′=0\sum_\mu\partial_\mu A'_\mu=0、境界で法線成分が 00、かつ ∥A′∥W1,2(B4)≤C∥FA∥L2(B4)\|A'\|_{W^{1,2}(B^4)}\le C\|F_A\|_{L^2(B^4)} を満たす。
  2. (弱コンパクト性)MM をコンパクトな 4 次元 Riemann 多様体、P→MP\to M を主 GG 束、p>2p\gt2 とする。PP の W1,pW^{1,p} 接続の列 AnA_n が sup⁡n∥FAn∥Lp<∞\sup_n\|F_{A_n}\|_{L^p}\lt\infty を満たすなら、部分列とゲージ変換 hnh_n があって AnhnA_n^{h_n} は W1,pW^{1,p} で弱収束する。

注意 2.7(主張のみとする理由)

定理 2.6 は主張のみです。証明は非線形楕円型方程式の連続法と Sobolev 空間での陰関数定理を使う 1 編の論文(K. Uhlenbeck, “Connections with LpL^p bounds on curvature”, Comm. Math. Phys. 83 (1982))で、この記事の範囲を超えます。この記事の定理の証明には使いません。4 次元で p=2p=2 がちょうど境界になること(1 は L2L^2 ノルムが小さいときだけ成り立ち、2 は p>2p\gt2 を要すること)は、命題 2.3 の 4 のスケール不変性の反映です。

場の量子論が「存在する」とは何かを定めるのが公理系です。Wightman 公理は Minkowski 時空のHilbert 空間・ユニタリ表現・作用素値超関数に対する条件、Osterwalder–Schrader(OS)公理は Euclid 空間の相関関数(Schwinger 関数)に対する条件で、OS 公理から Wightman 理論が再構成されます。Rikai ではWightman 公理と Osterwalder–Schrader 公理で扱っています。ここでは、この記事で使う形に述べ直します。

次の定義は条件の列挙ですが、ねらいは 2 つです。Wightman 公理は、「量子力学の Hilbert 空間とエネルギー H≥0H\ge0 の上に、相対性理論と両立する場の作用素がある」ことを言葉にしたものです。Osterwalder–Schrader 公理は、時間を虚数に取り替えた Euclid 空間での相関関数(Schwinger 関数)に条件を課します。中心の反射正値性は、時間を反転して重ねた量が「内積として負にならない」という要請で、これにより相関関数から Hilbert 空間を作れます。

定義 3.1(Wightman 公理と OS 公理(要約))↗

Wightman 公理(定義 3.2[Wightman 公理と再構成定理])。組 (H,U,Ω,{ϕj})(\mathcal{H},U,\Omega,\{\phi_j\}) が次を満たすこと。

  • (W0) H\mathcal{H} は可分な Hilbert 空間、UU は Poincaré 群の強連続ユニタリ表現。
  • (W1) スペクトル条件: 並進の生成子 (H,P)(H,\boldsymbol{P}) の結合スペクトルは閉前方光錐 {p:p0≥∣p∣}\{p:p^0\ge|\boldsymbol{p}|\} に含まれる。とくに H≥0H\ge0。
  • (W2) 真空: 単位ベクトル Ω\Omega は UU で不変で、並進で不変なベクトルは Ω\Omega のスカラー倍に限る。
  • (W3) 場: 各 ϕj\phi_j は、共通の稠密な不変定義域の上の作用素値緩増加超関数 f↦ϕj(f)f\mapsto\phi_j(f)。
  • (W4) 共変性: U(a,Λ)ϕj(f)U(a,Λ)−1U(a,\Lambda)\phi_j(f)U(a,\Lambda)^{-1} は、ϕj\phi_j のテンソルの型に応じた変換則で表される。
  • (W5) 局所可換性: 台が空間的に離れた f,gf,g について [ϕi(f),ϕj(g)]=0[\phi_i(f),\phi_j(g)]=0。
  • (W6) 巡回性: ϕj1(f1)⋯ϕjn(fn)Ω\phi_{j_1}(f_1)\cdots\phi_{j_n}(f_n)\Omega の線形包は稠密。

OS 公理(定義 3.1[Euclid 場の理論と Osterwalder–Schrader 再構成])。Schwinger 関数の列 {Sn}\{S_n\} が、(E0) 緩増加性と成長条件、(E1) Euclid 共変性、(E2) 反射正値性 ∑n,mSn+m(Θfn∗⊗fm)≥0\sum_{n,m}S_{n+m}(\Theta f_n^*\otimes f_m)\ge0(fnf_n は正の時刻に台をもつ試験関数、Θ\Theta は時間反転と複素共役)、(E3) 対称性、(E4) クラスター性、を満たすこと。

再構成定理(定理 4.3[Euclid 場の理論と Osterwalder–Schrader 再構成])。(E0)〜(E4) を満たす {Sn}\{S_n\} から、Wightman 公理を満たす理論がユニタリ同値を除いて一意に定まる。Hilbert 空間は反射正値性の定める内積の完備化、ハミルトニアン H≥0H\ge0 は時間方向の並進が誘導する縮小半群 e−tHe^{-tH} の生成作用素である(定理 4.1[Euclid 場の理論と Osterwalder–Schrader 再構成])。

Yang–Mills 理論では、基本の場 AμA_\mu がゲージ不変でないので、公理に現れる場 ϕj\phi_j として何を取るかを決めなければなりません。Jaffe と Witten の問題記述は、これを次のように定めています。

定義 3.2(Yang–Mills の存在と質量ギャップ(Jaffe–Witten の問題記述))↗

GG をコンパクト単純 Lie 群とする。

  1. ゲージ群 GG の 4 次元量子 Yang–Mills 理論とは、定義 3.1 の意味の場の量子論で、次を満たすものをいう。
    • (a) 局所的な量子場の作用素が、曲率 FF とその共変微分のゲージ不変な局所多項式(trFijFkl(x)\mathrm{tr}F_{ij}F_{kl}(x) など。定義 2.2 の 1)に対応して存在する。
    • (b) それらの相関関数は、短距離で、漸近的自由と摂動論的くりこみ理論の予言に一致する(エネルギー運動量テンソルと作用素積展開が存在し、その局所的な特異性が漸近的自由の予言どおりであることを含む)。
  2. Ω\Omega は Poincaré 不変なので HΩ=0H\Omega=0、また H≥0H\ge0 である。理論が質量ギャップ Δ>0\Delta\gt0 をもつとは、HH が区間 (0,Δ)(0,\Delta) にスペクトルをもたないことをいう。そのような Δ\Delta の上限 mm を質量といい、m<∞m\lt\infty を要求する。
  3. 問題: 任意のコンパクト単純ゲージ群 GG について、R4\mathbb{R}^4 上の非自明な量子 Yang–Mills 理論が存在し、質量ギャップ Δ>0\Delta\gt0 をもつことを証明せよ。存在は、Streater–Wightman の本と Osterwalder–Schrader の論文にある公理と少なくとも同じ強さの公理的性質を確立することを含む。

原文の中心の文は “a non-trivial quantum Yang–Mills theory exists on R4\mathbb{R}^4 and has a mass gap Δ>0\Delta>0“(A. Jaffe, E. Witten, “Quantum Yang–Mills theory”)です。同じ内容を Rikai では 定義 8.1[構成的場の理論の地図] にも置いています。問題記述について、読み落としやすい点を 4 つ挙げます。

  • 「非自明」の意味。 自由場(Gauss 的な理論)を持ってきて「存在する」と言うことは認められません。条件 1(b) が、短距離のふるまいを指定することでこれを排除しています。
  • m<∞m\lt\infty の要求。 HH のスペクトルが {0}\{0\} だけ(H=CΩ\mathcal{H}=\mathbb{C}\Omega)という自明な理論を除きます。
  • R4\mathbb{R}^4 全体であること。 トーラス T4T^4 上の構成は、それだけで大きな進展ですが、問題の解決ではありません。Jaffe と Witten は、コンパクトな時空での構成ができたとしても、体積について一様な質量ギャップと無限体積極限 T4→R4T^4\to\mathbb{R}^4 を得る方法は知られていないと述べています。
  • コンパクト性の議論だけでは足りないこと。 問題記述の脚注は、部分列の収束(弱い意味の存在)だけでは存在の部分の解決と認めず、極限の性質(質量ギャップと公理)を別の方法で確立することを求めています。

Rikai の規約に従い、未解決の主張であることを明示して置きます。

公理 3.3(Yang–Mills の存在と質量ギャップ(未解決の主張))↗

任意のコンパクト単純 Lie 群 GG について、定義 3.2 の意味の非自明な 4 次元量子 Yang–Mills 理論が R4\mathbb{R}^4 上に存在し、質量ギャップ Δ>0\Delta\gt0 をもつ。

これは未解決の主張です。どの 1 つの GG についても証明されていません。この記事と次の章では、この主張を仮定した命題は立てません。

Jaffe と Witten は、QCD が強い力を記述するために量子論のレベルで必要な性質として、(1) 質量ギャップ、(2) クォークの閉じ込め、(3) カイラル対称性の破れ、の 3 つを挙げています。ミレニアム問題が求めているのは (1) だけです。(2) は、物質場のない理論では Wilson ループの面積則(定義 3.5[強結合展開と閉じ込め]:大きな長方形ループの期待値が e−σ⋅面積e^{-\sigma\cdot\text{面積}} のように減衰すること)として定式化されます。面積則と質量ギャップは別の命題で、一方から他方が出ることは知られていません。

3.2. 質量ギャップと相関の指数的減衰

Section titled “3.2. 質量ギャップと相関の指数的減衰”

質量ギャップは HH のスペクトルについての条件です。これを相関関数の言葉に直したものが次の定理で、格子の計算や確率論の方法で質量ギャップを示すときの入口になります。有限自由度の格子模型での対応する主張は 系 4.5[Euclid 経路積分と転送行列](連結相関関数は e−(E1−E0)te^{-(E_1-E_0)t} で減衰し、E1−E0E_1-E_0 が質量ギャップ 定義 4.4[Euclid 経路積分と転送行列])です。そこでは HH のスペクトルが離散的でした。連続の理論では連続スペクトルを扱う必要があるので、スペクトル測度で証明します。

直感はこうです。e−tHe^{-tH} は、エネルギー λ\lambda の成分を e−tλe^{-t\lambda} 倍する操作です。時間 tt が大きくなると、エネルギーの大きい成分ほど速く消え、真空(エネルギー 00)の成分だけが残ります。エネルギーが 00 と Δ\Delta の間に空きがあれば、真空以外で最後まで残る成分でも減衰の速さは e−tΔe^{-t\Delta} 以上になります。逆に、00 のすぐ上にスペクトルがあれば、いくらでも遅く減衰する成分が残ります。次の定理は、この対応を正確にしたものです。

定理 3.4(質量ギャップと指数的クラスター性の同値)✓

H\mathcal{H} を Hilbert 空間、H≥0H\ge0 を自己共役作用素、Ω\Omega を HΩ=0H\Omega=0 を満たす単位ベクトル、D⊂HD\subset\mathcal{H} を稠密な部分空間とする。Δ>0\Delta\gt0 について次の 3 つは同値である。

  1. Ker H=CΩ\mathrm{Ker}\,H=\mathbb{C}\Omega(真空の一意性)かつ σ(H)∩(0,Δ)=∅\sigma(H)\cap(0,\Delta)=\emptyset(質量ギャップ Δ\Delta)。
  2. すべての ψ,χ∈H\psi,\chi\in\mathcal{H} と t≥0t\ge0 について ∣⟨ψ,e−tHχ⟩−⟨ψ,Ω⟩⟨Ω,χ⟩∣≤e−tΔ ∥ψ∥ ∥χ∥.\bigl|\langle\psi,e^{-tH}\chi\rangle-\langle\psi,\Omega\rangle\langle\Omega,\chi\rangle\bigr|\le e^{-t\Delta}\,\|\psi\|\,\|\chi\|.
  3. すべての ψ∈D\psi\in D について定数 Cψ<∞C_\psi\lt\infty があって、すべての t≥0t\ge0 で 0≤⟨ψ,e−tHψ⟩−∣⟨Ω,ψ⟩∣2≤Cψ e−tΔ.0\le\langle\psi,e^{-tH}\psi\rangle-|\langle\Omega,\psi\rangle|^2\le C_\psi\,e^{-t\Delta}.
証明(定理 3.4)

EE を HH のスペクトル測度(定理 5.5[スペクトル定理と関数計算])とします。H≥0H\ge0 なので EE は [0,∞)[0,\infty) に台をもち、e−tH=∫[0,∞)e−tλdE(λ)e^{-tH}=\int_{[0,\infty)}e^{-t\lambda}dE(\lambda)、E({0})E(\{0\}) は Ker H\mathrm{Ker}\,H への直交射影です。PΩP_\Omega を CΩ\mathbb{C}\Omega への直交射影とします。Ω∈Ker H\Omega\in\mathrm{Ker}\,H なので PΩ≤E({0})P_\Omega\le E(\{0\}) です。

1 ⇒ 2. 仮定から E({0})=PΩE(\{0\})=P_\Omega、E((0,Δ))=0E((0,\Delta))=0(命題 5.6[スペクトル定理と関数計算])なので

e−tH−PΩ=∫[Δ,∞)e−tλ dE(λ).e^{-tH}-P_\Omega=\int_{[\Delta,\infty)}e^{-t\lambda}\,dE(\lambda).

被積分関数は [Δ,∞)[\Delta,\infty) 上で e−tΔe^{-t\Delta} 以下なので、関数計算のノルム評価(定理 6.2[スペクトル定理と関数計算] の 2)により ∥e−tH−PΩ∥≤e−tΔ\|e^{-tH}-P_\Omega\|\le e^{-t\Delta} です。⟨ψ,PΩχ⟩=⟨ψ,Ω⟩⟨Ω,χ⟩\langle\psi,P_\Omega\chi\rangle=\langle\psi,\Omega\rangle\langle\Omega,\chi\rangle と Cauchy–Schwarz の不等式から 2 が出ます。

2 ⇒ 3. χ=ψ\chi=\psi と置けば上界が Cψ=∥ψ∥2C_\psi=\|\psi\|^2 で成り立ちます。下界は、μψ(B)=⟨ψ,E(B)ψ⟩\mu_\psi(B)=\langle\psi,E(B)\psi\rangle と書くと

⟨ψ,e−tHψ⟩=μψ({0})+∫(0,∞)e−tλ dμψ(λ) ≥ ∥E({0})ψ∥2 ≥ ∥PΩψ∥2=∣⟨Ω,ψ⟩∣2\langle\psi,e^{-tH}\psi\rangle=\mu_\psi(\{0\})+\int_{(0,\infty)}e^{-t\lambda}\,d\mu_\psi(\lambda)\ \ge\ \|E(\{0\})\psi\|^2\ \ge\ \|P_\Omega\psi\|^2=|\langle\Omega,\psi\rangle|^2

から出ます(これは仮定なしで成り立ちます)。

3 ⇒ 1. ψ∈D\psi\in D とします。上の分解から、3 は

(∥E({0})ψ∥2−∥PΩψ∥2)+∫(0,∞)e−tλ dμψ(λ)≤Cψe−tΔ(t≥0)\bigl(\|E(\{0\})\psi\|^2-\|P_\Omega\psi\|^2\bigr)+\int_{(0,\infty)}e^{-t\lambda}\,d\mu_\psi(\lambda)\le C_\psi e^{-t\Delta}\qquad(t\ge0)

を意味します。左辺の 2 つの項はどちらも非負です。

まず t→∞t\to\infty とすると右辺は 00 に収束するので、∥E({0})ψ∥2=∥PΩψ∥2\|E(\{0\})\psi\|^2=\|P_\Omega\psi\|^2 です。Q=E({0})−PΩQ=E(\{0\})-P_\Omega は直交射影で ∥Qψ∥2=∥E({0})ψ∥2−∥PΩψ∥2=0\|Q\psi\|^2=\|E(\{0\})\psi\|^2-\|P_\Omega\psi\|^2=0。DD は稠密で QQ は有界なので Q=0Q=0、すなわち Ker H=CΩ\mathrm{Ker}\,H=\mathbb{C}\Omega です。

次に 0<δ<Δ0\lt\delta\lt\Delta を取ります。(0,Δ−δ](0,\Delta-\delta] の上で e−tλ≥e−t(Δ−δ)e^{-t\lambda}\ge e^{-t(\Delta-\delta)} なので

e−t(Δ−δ) μψ((0,Δ−δ])≤∫(0,∞)e−tλ dμψ(λ)≤Cψe−tΔ,e^{-t(\Delta-\delta)}\,\mu_\psi\bigl((0,\Delta-\delta]\bigr)\le\int_{(0,\infty)}e^{-t\lambda}\,d\mu_\psi(\lambda)\le C_\psi e^{-t\Delta},

したがって μψ((0,Δ−δ])≤Cψe−tδ\mu_\psi((0,\Delta-\delta])\le C_\psi e^{-t\delta} がすべての t≥0t\ge0 で成り立ち、t→∞t\to\infty として ∥E((0,Δ−δ])ψ∥2=0\|E((0,\Delta-\delta])\psi\|^2=0 を得ます。DD の稠密性から E((0,Δ−δ])=0E((0,\Delta-\delta])=0。δ↓0\delta\downarrow0 として、射影値測度の可算加法性から E((0,Δ))=0E((0,\Delta))=0。命題 5.6[スペクトル定理と関数計算] により σ(H)∩(0,Δ)=∅\sigma(H)\cap(0,\Delta)=\emptyset です。

3 ⇒ 1 の向きが、構成の側から質量ギャップを示すときに使う向きです。稠密な DD として「正の時刻に台をもつ観測量を真空に作用させたベクトル」を取れば、3 は Euclid 的な相関関数の時間方向の減衰の評価になります。減衰率は一様に Δ\Delta でなければなりませんが、定数 CψC_\psi は ψ\psi ごとに違ってかまいません。

スペクトル(エネルギー λ)0(真空)Δ空(ギャップ)スペクトルは [Δ, ∞) に載るEuclid 時間 t真空を除いた相関≲ e^(−Δt)(指数的に減衰)
H のスペクトル(上)と相関の時間減衰(下)の対応。0 に真空があり、(0,Δ) は空で、Δ 以上にスペクトルが載る。このとき真空を除いた相関は Euclid 時間 t とともに e^(−Δt) 以下の速さで指数的に減衰する。

問題記述にある形(空間方向に離れた相関の減衰)との関係を、OS 公理の言葉で述べておきます。Euclid 空間には時間と空間の区別がないので、時間方向の減衰は、回転すればどの方向の減衰にもなります。

系 3.5(Schwinger 関数のすべての方向への指数的減衰)✓

{Sn}\{S_n\} を (E0)(E1)(E2) を満たす Rd\mathbb{R}^d 上の Schwinger 関数(定義 3.1)、H\mathcal{H}、Ω\Omega、HH を反射正値性から作った Hilbert 空間・真空・ハミルトニアンとし、定理 3.4 の条件 1 が Δ>0\Delta\gt0 で成り立つとする。f,g∈S(Rd)f,g\in\mathcal{S}(\mathbb{R}^d) の台が原点中心・半径 rr の球に含まれるとき、任意の単位ベクトル e∈Rde\in\mathbb{R}^d と δ>0\delta\gt0 について定数 C<∞C\lt\infty があって、すべての s≥2(r+δ)s\ge2(r+\delta) で

∣S2(f⊗gse)−S1(f) S1(g)∣≤C e−Δ(s−2r−2δ),gse(x)=g(x−se).\bigl|S_2(f\otimes g_{se})-S_1(f)\,S_1(g)\bigr|\le C\,e^{-\Delta(s-2r-2\delta)},\qquad g_{se}(x)=g(x-se).
証明(系 3.5)

RR を Re0=eRe_0=e となる回転(e0e_0 は時間方向の単位ベクトル)とし、fR(x)=f(Rx)f^R(x)=f(Rx)、gR(x)=g(Rx)g^R(x)=g(Rx) と置きます。Euclid 共変性 (E1) から S2(f⊗gse)=S2(fR⊗(gR)se0)S_2(f\otimes g_{se})=S_2(f^R\otimes(g^R)_{se_0})、S1(f)=S1(fR)S_1(f)=S_1(f^R)、S1(g)=S1(gR)S_1(g)=S_1(g^R) です。fR,gRf^R,g^R の台も半径 rr の球に含まれます。

c=r+δc=r+\delta とし、f1(x)=fR(x+ce0)f_1(x)=f^R(x+ce_0)、g1(x)=gR(x−ce0)g_1(x)=g^R(x-ce_0) と置きます。f1f_1 の台は時刻が (−c−r,−c+r)⊂(−∞,0)(-c-r,-c+r)\subset(-\infty,0) の範囲に、g1g_1 の台は時刻が正の範囲にあります。並進不変性 (E1) で全変数を −ce0-ce_0 だけずらすと

S2(fR⊗(gR)se0)=S2(f1⊗Ts−2c g1),(Ttg1)(x)=g1(x−te0).S_2\bigl(f^R\otimes(g^R)_{se_0}\bigr)=S_2\bigl(f_1\otimes T_{s-2c}\,g_1\bigr),\qquad(T_tg_1)(x)=g_1(x-te_0).

h(x)=f1(θx)‾h(x)=\overline{f_1(\theta x)}(θ\theta は時間反転)は正の時刻に台をもち、Θh∗=f1\Theta h^*=f_1 です。したがって、hh と g1g_1 の定める H\mathcal{H} のベクトルを [h],[g1][h],[g_1] と書くと、定理 4.1[Euclid 場の理論と Osterwalder–Schrader 再構成](内積は ⟨[h],[g]⟩=S2(Θh∗⊗g)\langle[h],[g]\rangle=S_2(\Theta h^*\otimes g) で、時間並進 TtT_t は e−tHe^{-tH} を誘導する)により、t=s−2c≥0t=s-2c\ge0 として

S2(f1⊗Ttg1)=⟨[h],e−tH[g1]⟩,⟨[h],Ω⟩=S1(f1)=S1(f),⟨Ω,[g1]⟩=S1(g1)=S1(g).S_2(f_1\otimes T_tg_1)=\langle[h],e^{-tH}[g_1]\rangle,\qquad\langle[h],\Omega\rangle=S_1(f_1)=S_1(f),\qquad\langle\Omega,[g_1]\rangle=S_1(g_1)=S_1(g).

定理 3.4 の 2 から、左辺と S1(f)S1(g)S_1(f)S_1(g) の差の絶対値は e−tΔ∥[h]∥ ∥[g1]∥e^{-t\Delta}\|[h]\|\,\|[g_1]\| 以下です。C=∥[h]∥ ∥[g1]∥C=\|[h]\|\,\|[g_1]\| と置けば主張を得ます。

注意 3.6(Minkowski 時空での形)

問題記述のコメントには、質量ギャップ Δ\Delta の帰結として、真空期待値が 00 の局所的な作用素 O\mathcal{O} について、任意の C<ΔC\lt\Delta で ∣⟨Ω,O(x)O(y)Ω⟩∣≤e−C∣x−y∣|\langle\Omega,\mathcal{O}(\boldsymbol{x})\mathcal{O}(\boldsymbol{y})\Omega\rangle|\le e^{-C|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}|}(∣x−y∣|\boldsymbol{x}-\boldsymbol{y}| が十分大きいとき)が成り立つことが挙げられています。これは同時刻の実時間の相関についての主張で、Wightman 公理(スペクトル条件・局所可換性・Lorentz 共変性)から導かれます(Araki–Hepp–Ruelle 1962、Fredenhagen 1985)。系 3.5 はその Euclid 版で、基本の場の 2 点関数の場合です。この記事の後の議論では 定理 3.4 だけを使います。

4. 「存在するが質量ギャップが無い」例:Maxwell 場

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ゲージ群が可換な U(1)U(1) のとき、Yang–Mills 理論は電磁場(Maxwell 場)の理論になります。相互作用が無いので、Fock 空間の上に厳密に構成できます。しかしこの理論には質量ギャップがありません。光子の質量が 00 だからです。問題記述がゲージ群を単純群(とくに非可換)に限っているのは、このためです。

この節の定理 定理 4.1 は、「光子の集まりとして Hilbert 空間を作ると、公理の主な条件は満たせるが、エネルギーがいくらでも 00 に近い光子がいるので質量ギャップは無い」と言っています。ここで Fock 空間とは、光子(粒子)が 0 個、1 個、2 個、…ある状態を全部まとめた Hilbert 空間のことで、生成作用素・消滅作用素は粒子を 1 個増やす・減らす作用素です。定理は番号が多いので、1 から 4 が公理の確認、5 が相関のべき減衰、6 がギャップの不在、と読み分けると追いやすくなります。

ここだけ Minkowski 計量 η=diag(1,−1,−1,−1)\eta=\mathrm{diag}(1,-1,-1,-1) を使い、添字は η\eta で上げ下げします。k⋅x=k0x0−k⋅xk\cdot x=k^0x^0-\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x} です。場の強さ Fμν(x)F_{\mu\nu}(x) は反対称テンソルなので、試験関数も反対称テンソル f=(fμν)f=(f^{\mu\nu})、fμν=−fνμ∈S(R4;R)f^{\mu\nu}=-f^{\nu\mu}\in\mathcal{S}(\mathbb{R}^4;\mathbb{R}) に取り、形式的に F(f)=12∫∑Fμν(x)fμν(x) d4xF(f)=\frac12\int\sum F_{\mu\nu}(x)f^{\mu\nu}(x)\,d^4x と考えます。このような ff の全体を T\mathcal{T} と書きます。f∈Tf\in\mathcal{T} について

f^μν(k)=∫eik⋅xfμν(x) d4x,jf(k)ν=∑μkμf^μν(k)∣k=(∣k∣,k),dμ0(k)=d3k(2π)3 2∣k∣\hat f^{\mu\nu}(k)=\int e^{ik\cdot x}f^{\mu\nu}(x)\,d^4x,\qquad j_f(\boldsymbol{k})_\nu=\sum_\mu k^\mu\hat f_{\mu\nu}(k)\Big|_{k=(|\boldsymbol{k}|,\boldsymbol{k})},\qquad d\mu_0(\boldsymbol{k})=\frac{d^3k}{(2\pi)^3\,2|\boldsymbol{k}|}

と置き、空間成分 jf=(j1,j2,j3)\boldsymbol{j}_f=(j_1,j_2,j_3) の k\boldsymbol{k} に垂直な部分を vf(k)=jf−k^(k^⋅jf)v_f(\boldsymbol{k})=\boldsymbol{j}_f-\hat{\boldsymbol{k}}(\hat{\boldsymbol{k}}\cdot\boldsymbol{j}_f)(k^=k/∣k∣\hat{\boldsymbol{k}}=\boldsymbol{k}/|\boldsymbol{k}|)とします。1 粒子空間を、横波の空間

h={v∈L2(R3,dμ0;C3): k⋅v(k)=0 (ほとんどすべての k)}\mathfrak{h}=\bigl\{v\in L^2(\mathbb{R}^3,d\mu_0;\mathbb{C}^3):\ \boldsymbol{k}\cdot v(\boldsymbol{k})=0\ \text{(ほとんどすべての }\boldsymbol{k}\text{)}\bigr\}

とし、F=Fb(h)\mathcal{F}=\mathcal{F}_{\mathrm{b}}(\mathfrak{h}) をその上のボソン Fock 空間(定義 3.1[ボソン Fock 空間と生成・消滅作用素]:h\mathfrak{h} の対称テンソル積の直和。Ω\Omega は真空、F0\mathcal{F}_0 は有限粒子部分空間)、a(v),a(v)∗a(v),a(v)^* を消滅・生成作用素とします。

定理 4.1(自由な Maxwell 場は存在するが質量ギャップをもたない)✓

f∈Tf\in\mathcal{T} について、F0\mathcal{F}_0 上の作用素 F(f)=a(vf)+a(vf)∗F(f)=a(v_f)+a(v_f)^* を考える。

  1. (場)vf∈hv_f\in\mathfrak{h} で、f↦F(f)f\mapsto F(f) は実線形、F(f)F(f) は F0\mathcal{F}_0 上の対称作用素である。⟨Ω,F(f)F(g)Ω⟩=⟨vf,vg⟩\langle\Omega,F(f)F(g)\Omega\rangle=\langle v_f,v_g\rangle で、F(f1)⋯F(fn)ΩF(f_1)\cdots F(f_n)\Omega(n≥0n\ge0)の線形包は F\mathcal{F} で稠密である。
  2. (Maxwell 方程式)h=(hν)h=(h^\nu)、hν∈S(R4;R)h^\nu\in\mathcal{S}(\mathbb{R}^4;\mathbb{R}) について、fμν=∂μhν−∂νhμf^{\mu\nu}=\partial^\mu h^\nu-\partial^\nu h^\mu または fμν=∑ρ,σεμνρσ∂ρhσf^{\mu\nu}=\sum_{\rho,\sigma}\varepsilon^{\mu\nu\rho\sigma}\partial_\rho h_\sigma ならば F(f)=0F(f)=0。すなわち超関数の意味で ∂μFμν=0\partial^\mu F_{\mu\nu}=0、εμνρσ∂νFρσ=0\varepsilon^{\mu\nu\rho\sigma}\partial_\nu F_{\rho\sigma}=0。
  3. (並進とスペクトル条件)(u(a)v)(k)=eik⋅av(k)(u(a)v)(\boldsymbol{k})=e^{ik\cdot a}v(\boldsymbol{k})(k=(∣k∣,k)k=(|\boldsymbol{k}|,\boldsymbol{k}))は h\mathfrak{h} 上の強連続ユニタリ表現で、U(a)=Γ(u(a))U(a)=\Gamma(u(a)) は U(a)Ω=ΩU(a)\Omega=\Omega、U(a)F(f)U(a)−1=F(f(⋅−a))U(a)F(f)U(a)^{-1}=F(f(\cdot-a)) を満たす。時間並進は U((t,0))=eitHU((t,\boldsymbol{0}))=e^{itH}、H=dΓ(ω)H=\mathrm{d}\Gamma(\omega)(ω\omega は ∣k∣|\boldsymbol{k}| を掛ける作用素)で、エネルギー運動量の結合スペクトルは閉前方光錐に含まれる。
  4. (局所可換性)f,g∈Tf,g\in\mathcal{T} の台がコンパクトで、互いに空間的に離れている(x∈suppfx\in\mathrm{supp}f、y∈suppgy\in\mathrm{supp}g なら (x−y)2<0(x-y)^2\lt0)ならば、F0\mathcal{F}_0 上で [F(f),F(g)]=0[F(f),F(g)]=0。
  5. (べき減衰)f12=−f21=f0f^{12}=-f^{21}=f_0、g12=−g21=g0g^{12}=-g^{21}=g_0 で他の成分が 00 のとき ⟨Ω,F(f)F(g)Ω⟩=∬f0(x) g0(y) W(x−y) d4x d4y\langle\Omega,F(f)F(g)\Omega\rangle=\iint f_0(x)\,g_0(y)\,\mathcal{W}(x-y)\,d^4x\,d^4y と書け、超関数 W\mathcal{W} は空間的な ξ=(t,x)\xi=(t,\boldsymbol{x})(ϱ=∣x∣2−t2>0\varrho=|\boldsymbol{x}|^2-t^2\gt0)の上で関数 W(ξ)=1π2(1ϱ2−2(x12+x22)ϱ3)\mathcal{W}(\xi)=\frac{1}{\pi^2}\Bigl(\frac{1}{\varrho^2}-\frac{2(x_1^2+x_2^2)}{\varrho^3}\Bigr) に等しい。とくに W(λξ)=λ−4W(ξ)\mathcal{W}(\lambda\xi)=\lambda^{-4}\mathcal{W}(\xi) で、ξ=(0,0,0,r)\xi=(0,0,0,r) では W=1π2r4\mathcal{W}=\dfrac{1}{\pi^2r^4}。
  6. (ギャップが無い)Ker H=CΩ\mathrm{Ker}\,H=\mathbb{C}\Omega かつ σ(H)=[0,∞)\sigma(H)=[0,\infty)。したがって、どの Δ>0\Delta\gt0 についても σ(H)∩(0,Δ)≠∅\sigma(H)\cap(0,\Delta)\ne\emptyset である。
証明(定理 4.1)

準備:vf∈hv_f\in\mathfrak{h} と内積の形。 f^μν\hat f_{\mu\nu} は反対称なので ∑νkνjν=∑μ,νkμkνf^μν=0\sum_\nu k^\nu j_\nu=\sum_{\mu,\nu}k^\mu k^\nu\hat f_{\mu\nu}=0、すなわち ∣k∣ j0+k⋅j=0|\boldsymbol{k}|\,j_0+\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{j}=0 で、j0=−k^⋅jj_0=-\hat{\boldsymbol{k}}\cdot\boldsymbol{j} です。したがって

−∑νjν‾ jν=−∣j0∣2+∣j∣2=∣j∣2−∣k^⋅j∣2=∣vf∣2 ≥0.-\sum_\nu\overline{j_\nu}\,j^\nu=-|j_0|^2+|\boldsymbol{j}|^2=|\boldsymbol{j}|^2-|\hat{\boldsymbol{k}}\cdot\boldsymbol{j}|^2=|v_f|^2\ \ge0 .

f^\hat f は急減少で、∣kμ∣≤∣k∣|k^\mu|\le|\boldsymbol{k}| から ∣jf,ν(k)∣≤4∣k∣max⁡μ,ν∣f^μν(k)∣|j_{f,\nu}(\boldsymbol{k})|\le4|\boldsymbol{k}|\max_{\mu,\nu}|\hat f_{\mu\nu}(k)| なので ∫∣vf∣2dμ0<∞\int|v_f|^2d\mu_0\lt\infty、また k⋅vf=0\boldsymbol{k}\cdot v_f=0 なので vf∈hv_f\in\mathfrak{h} です。偏極化して ⟨vf,vg⟩=−∫∑νjf,ν‾ jg ν dμ0\langle v_f,v_g\rangle=-\int\sum_\nu\overline{j_{f,\nu}}\,j_g^{\ \nu}\,d\mu_0 です。

1. f↦vff\mapsto v_f は実線形で、a(v)∗a(v)^* は vv について線形、a(v)a(v) は反線形なので(命題 4.5[ボソン Fock 空間と生成・消滅作用素])、f↦F(f)f\mapsto F(f) は実線形です。a(v)a(v) と a(v)∗a(v)^* は F0\mathcal{F}_0 上で互いに共役なので(定理 4.3[ボソン Fock 空間と生成・消滅作用素])F(f)F(f) は対称です。a(v)Ω=0a(v)\Omega=0 と正準交換関係 [a(u),a(v)∗]=⟨u,v⟩[a(u),a(v)^*]=\langle u,v\rangle(定理 5.2[ボソン Fock 空間と生成・消滅作用素])から

⟨Ω,F(f)F(g)Ω⟩=⟨a(vf)∗Ω,a(vg)∗Ω⟩=⟨Ω,a(vf)a(vg)∗Ω⟩=⟨vf,vg⟩.\langle\Omega,F(f)F(g)\Omega\rangle=\langle a(v_f)^*\Omega,a(v_g)^*\Omega\rangle=\langle\Omega,a(v_f)a(v_g)^*\Omega\rangle=\langle v_f,v_g\rangle .

稠密性を示します。まず {vf}\{v_f\} の複素線形包 DD が h\mathfrak{h} で稠密であることを見ます。f0i=−fi0=α(x0)βi(x)f^{0i}=-f^{i0}=\alpha(x^0)\beta_i(\boldsymbol{x})(i=1,2,3i=1,2,3)、他の成分 00 とします。f0i=−f0if_{0i}=-f^{0i} なので ji=k0f^0i=−∣k∣ α^(∣k∣) β~i(k)j_i=k^0\hat f_{0i}=-|\boldsymbol{k}|\,\hat\alpha(|\boldsymbol{k}|)\,\tilde\beta_i(\boldsymbol{k})(α^(s)=∫eisx0α\hat\alpha(s)=\int e^{isx^0}\alpha、β~i(k)=∫e−ik⋅xβi\tilde\beta_i(\boldsymbol{k})=\int e^{-i\boldsymbol{k}\cdot\boldsymbol{x}}\beta_i)です。α\alpha を Gauss 関数に取れば α^(s)=e−s2/2\hat\alpha(s)=e^{-s^2/2} とできます。u∈hu\in\mathfrak{h} がすべての vfv_f と直交するとすると、uu は横波なので ⟨u,vf⟩=⟨u,jf⟩\langle u,v_f\rangle=\langle u,\boldsymbol{j}_f\rangle で、

0=∫u(k)‾⋅β~(k) e−∣k∣2/2 d3k2(2π)30=\int\overline{u(\boldsymbol{k})}\cdot\tilde\beta(\boldsymbol{k})\,e^{-|\boldsymbol{k}|^2/2}\,\frac{d^3k}{2(2\pi)^3}

がすべての実の βi∈S(R3)\beta_i\in\mathcal{S}(\mathbb{R}^3)、したがって複素線形包を取ってすべての β~∈S(R3;C3)\tilde\beta\in\mathcal{S}(\mathbb{R}^3;\mathbb{C}^3) で成り立ちます。uu は d3kd^3k について局所可積分(∫∣k∣≤R∣u∣ d3k≤(∫∣u∣2d3k∣k∣)1/2(∫∣k∣≤R∣k∣ d3k)1/2\int_{|\boldsymbol{k}|\le R}|u|\,d^3k\le(\int|u|^2\frac{d^3k}{|\boldsymbol{k}|})^{1/2}(\int_{|\boldsymbol{k}|\le R}|\boldsymbol{k}|\,d^3k)^{1/2})なので、u=0u=0 がほとんどいたるところで成り立ちます。よって DD は稠密です。

次に、F(f1)⋯F(fn)ΩF(f_1)\cdots F(f_n)\Omega の線形包 D\mathcal{D} が a(vf1)∗⋯a(vfn)∗Ωa(v_{f_1})^*\cdots a(v_{f_n})^*\Omega をすべて含むことを nn についての帰納法で示します。F(f1)⋯F(fn)ΩF(f_1)\cdots F(f_n)\Omega を a,a∗a,a^* で展開すると、a∗a^* だけの項 a(vf1)∗⋯a(vfn)∗Ωa(v_{f_1})^*\cdots a(v_{f_n})^*\Omega のほかは、交換関係で aa を右へ送ると粒子数が n−2n-2 以下の同じ形のベクトルの線形結合になり、帰納法の仮定で D\mathcal{D} に入ります。a(v)∗a(v)^* は vv について複素線形なので、D\mathcal{D} は vj∈Dv_j\in D についての a(v1)∗⋯a(vn)∗Ωa(v_1)^*\cdots a(v_n)^*\Omega もすべて含みます。DD が稠密なので、真空の巡回性(定理 7.2[ボソン Fock 空間と生成・消滅作用素])により D\mathcal{D} は F\mathcal{F} で稠密です。

2. fμν=∂μhν−∂νhμf^{\mu\nu}=\partial^\mu h^\nu-\partial^\nu h^\mu のとき、部分積分で f^μν(k)=−i(kμh^ν−kνh^μ)\hat f_{\mu\nu}(k)=-i(k_\mu\hat h_\nu-k_\nu\hat h_\mu) です。光錐上では k2=∑kμkμ=0k^2=\sum k^\mu k_\mu=0 なので

jν=∑μkμf^μν=−i(k2h^ν−kν(k⋅h^))=i (k⋅h^) kν.j_\nu=\sum_\mu k^\mu\hat f_{\mu\nu}=-i\bigl(k^2\hat h_\nu-k_\nu(k\cdot\hat h)\bigr)=i\,(k\cdot\hat h)\,k_\nu .

空間成分は j=−i(k⋅h^)k\boldsymbol{j}=-i(k\cdot\hat h)\boldsymbol{k} で k\boldsymbol{k} に平行なので vf=0v_f=0、F(f)=0F(f)=0 です。fμν=∑εμνρσ∂ρhσf^{\mu\nu}=\sum\varepsilon^{\mu\nu\rho\sigma}\partial_\rho h_\sigma のときは jνj_\nu が ∑kμkρ εμνρσh^σ\sum k^\mu k_\rho\,\varepsilon_{\mu\nu}{}^{\rho\sigma}\hat h_\sigma の定数倍で、ε\varepsilon の反対称性から 00 です。F(f)=12∫FμνfμνF(f)=\frac12\int F_{\mu\nu}f^{\mu\nu} に前者を入れて形式的に部分積分すると −∫(∂μFμν)hν-\int(\partial^\mu F_{\mu\nu})h^\nu なので、これは ∂μFμν=0\partial^\mu F_{\mu\nu}=0 を表します。後者も同様です。

3. ∣eik⋅a∣=1|e^{ik\cdot a}|=1 で eik⋅ae^{ik\cdot a} はスカラーなので、u(a)u(a) は横波の条件を保つユニタリで、aa についての強連続性は優収束定理から出ます。f(⋅−a)^(k)=eik⋅af^(k)\widehat{f(\cdot-a)}(k)=e^{ik\cdot a}\hat f(k) から vf(⋅−a)=u(a)vfv_{f(\cdot-a)}=u(a)v_f。Γ(u)\Gamma(u) はユニタリで Γ(u)Ω=Ω\Gamma(u)\Omega=\Omega(命題 3.2[第二量子化作用素 Γ(U) と dΓ(A)])、Γ(u)a(v)∗Γ(u)−1=a(uv)∗\Gamma(u)a(v)^{*}\Gamma(u)^{-1}=a(uv)^{*}(命題 3.3[第二量子化作用素 Γ(U) と dΓ(A)])なので共変性が成り立ちます。u((t,0))=eitωu((t,\boldsymbol{0}))=e^{it\omega} なので U((t,0))=Γ(eitω)=eitdΓ(ω)U((t,\boldsymbol{0}))=\Gamma(e^{it\omega})=e^{it\mathrm{d}\Gamma(\omega)} です(定理 4.2[第二量子化作用素 Γ(U) と dΓ(A)] の 3)。nn 粒子空間の上でエネルギー運動量は ∑j=1n(∣kj∣,kj)\sum_{j=1}^n(|\boldsymbol{k}_j|,\boldsymbol{k}_j) を掛ける作用素で、各項は前方光錐の境界上にあり、閉前方光錐は和について閉じているので、結合スペクトルは閉前方光錐に含まれます。

4. 正準交換関係から、F0\mathcal{F}_0 上で [F(f),F(g)]=⟨vf,vg⟩−⟨vg,vf⟩[F(f),F(g)]=\langle v_f,v_g\rangle-\langle v_g,v_f\rangle です。ff は実なので f^(k)‾=∫e−ik⋅xf(x)d4x\overline{\hat f(k)}=\int e^{-ik\cdot x}f(x)d^4x で、準備の式から

⟨vf,vg⟩=−∑μ,ν,ρ∬fμν(x) gρν(y)∫kμkρe−ik⋅(x−y) dμ0(k) d4x d4y.\langle v_f,v_g\rangle=-\sum_{\mu,\nu,\rho}\iint f_{\mu\nu}(x)\,g_\rho{}^{\nu}(y)\int k^\mu k^\rho e^{-ik\cdot(x-y)}\,d\mu_0(\boldsymbol{k})\,d^4x\,d^4y .

W0W_0 を緩増加超関数 W0(φ)=∫(∫e−ik⋅ξφ(ξ)d4ξ)dμ0(k)W_0(\varphi)=\int\bigl(\int e^{-ik\cdot\xi}\varphi(\xi)d^4\xi\bigr)d\mu_0(\boldsymbol{k}) とすると、kμkρe−ik⋅ξ=−∂μ∂ρe−ik⋅ξk^\mu k^\rho e^{-ik\cdot\xi}=-\partial^\mu\partial^\rho e^{-ik\cdot\xi} なので

⟨vf,vg⟩=∑μ,ν,ρ(∂μ∂ρW0)(φμρ),φμρ(ξ)=∑ν∫fμν(ξ+y) gρν(y) d4y\langle v_f,v_g\rangle=\sum_{\mu,\nu,\rho}(\partial^\mu\partial^\rho W_0)(\varphi_{\mu\rho}),\qquad\varphi_{\mu\rho}(\xi)=\sum_\nu\int f_{\mu\nu}(\xi+y)\,g_\rho{}^{\nu}(y)\,d^4y

です。⟨vg,vf⟩\langle v_g,v_f\rangle は、同じ式で W0(ξ)W_0(\xi) を Wˇ0(ξ)=W0(−ξ)\check W_0(\xi)=W_0(-\xi) に替えたものになります(f,gf,g と x,yx,y を入れ替え、∑νgμνfρν=∑νfρνgμν\sum_\nu g_{\mu\nu}f_\rho{}^\nu=\sum_\nu f_{\rho\nu}g_\mu{}^\nu を使う)。φμρ\varphi_{\mu\rho} の台はコンパクト集合 suppf−suppg\mathrm{supp}f-\mathrm{supp}g に含まれ、仮定からこれは空間的な点だけからなります。したがって、W0−Wˇ0W_0-\check W_0 が空間的な点の全体(開集合)の上で 00 であることを示せば十分です。

ε>0\varepsilon\gt0 について W0ε(ξ)=∫e−ik⋅ξ−ε∣k∣dμ0W_0^\varepsilon(\xi)=\int e^{-ik\cdot\xi-\varepsilon|\boldsymbol{k}|}d\mu_0 と置きます。ξ=(t,x)\xi=(t,\boldsymbol{x})、r=∣x∣r=|\boldsymbol{x}|、s=ε+its=\varepsilon+it として極座標で計算すると、角度積分が 4πsin⁡κrκr4\pi\frac{\sin\kappa r}{\kappa r} を与え、

W0ε(ξ)=14π2r∫0∞sin⁡(κr) e−sκ dκ=14π2r⋅rr2+s2=14π2(r2−(t−iε)2).W_0^\varepsilon(\xi)=\frac{1}{4\pi^2r}\int_0^\infty\sin(\kappa r)\,e^{-s\kappa}\,d\kappa=\frac{1}{4\pi^2r}\cdot\frac{r}{r^2+s^2}=\frac{1}{4\pi^2\bigl(r^2-(t-i\varepsilon)^2\bigr)} .

ε↓0\varepsilon\downarrow0 で、W0εW_0^\varepsilon は超関数として W0W_0 に収束します(φ\varphi の Fourier 変換は dμ0d\mu_0 可積分なので優収束定理)。一方、r>∣t∣r\gt|t| となる点のコンパクト集合の上では W0ε(ξ)W_0^\varepsilon(\xi) は 14π2(r2−t2)\frac{1}{4\pi^2(r^2-t^2)} に一様収束します。よって空間的な点の集合の上で W0W_0 は関数 14π2(r2−t2)\frac{1}{4\pi^2(r^2-t^2)} に等しく、これは ξ↦−ξ\xi\mapsto-\xi で不変です。したがってそこで W0−Wˇ0=0W_0-\check W_0=0 です。

5. この ff では f12=f12=f0f_{12}=f^{12}=f_0 なので j2=k1f^0j_2=k^1\hat f_0、j1=k2f^21=−k2f^0j_1=k^2\hat f_{21}=-k^2\hat f_0、j0=j3=0j_0=j_3=0 です。j=(−k2,k1,0)f^0\boldsymbol{j}=(-k^2,k^1,0)\hat f_0 は k\boldsymbol{k} に垂直なので vf=jv_f=\boldsymbol{j} で、

⟨vf,vg⟩=∫(k12+k22) f^0(k)‾ g^0(k) dμ0=∬f0(x)g0(y) [−(∂12+∂22)W0](x−y) d4x d4y.\langle v_f,v_g\rangle=\int(k_1^2+k_2^2)\,\overline{\hat f_0(k)}\,\hat g_0(k)\,d\mu_0=\iint f_0(x)g_0(y)\,\bigl[-(\partial_1^2+\partial_2^2)W_0\bigr](x-y)\,d^4x\,d^4y .

空間的な点では 4 で見たとおり W0=14π2ϱW_0=\frac{1}{4\pi^2\varrho} です。∂12ϱ−1=−2ϱ−2+8x12ϱ−3\partial_1^2\varrho^{-1}=-2\varrho^{-2}+8x_1^2\varrho^{-3} なので −(∂12+∂22)ϱ−1=4ϱ−2−8(x12+x22)ϱ−3-(\partial_1^2+\partial_2^2)\varrho^{-1}=4\varrho^{-2}-8(x_1^2+x_2^2)\varrho^{-3} で、14π2\frac{1}{4\pi^2} を掛けて主張の式を得ます。ϱ\varrho は 2 次の同次式なので W\mathcal{W} は −4-4 次の同次関数です。

6. ω\omega は h\mathfrak{h} 上で ∣k∣|\boldsymbol{k}| を掛ける自己共役作用素です。任意の λ0≥0\lambda_0\ge0 と ε>0\varepsilon\gt0 について、{k:λ0−ε<∣k∣<λ0+ε}\{\boldsymbol{k}:\lambda_0-\varepsilon\lt|\boldsymbol{k}|\lt\lambda_0+\varepsilon\} に台をもつ 00 でない横波の v∈hv\in\mathfrak{h} があり(たとえば v=(−k2,k1,0)χ(∣k∣)v=(-k^2,k^1,0)\chi(|\boldsymbol{k}|)、χ\chi はその区間の定義関数)、∥(ω−λ0)v∥≤ε∥v∥\|(\omega-\lambda_0)v\|\le\varepsilon\|v\| なので、λ0∈σ(ω)\lambda_0\in\sigma(\omega) です(命題 5.6[スペクトル定理と関数計算] の 3)。よって σ(ω)=[0,∞)\sigma(\omega)=[0,\infty)。また ωv=λv\omega v=\lambda v なら vv は球面 ∣k∣=λ|\boldsymbol{k}|=\lambda(測度 00)の外で 00 なので v=0v=0、すなわち ω\omega は固有値をもちません。定理 7.1[第二量子化作用素 Γ(U) と dΓ(A)](σ(dΓ(ω))\sigma(\mathrm{d}\Gamma(\omega)) は {0}\{0\} と σ(ω)\sigma(\omega) の有限和の全体の閉包)から σ(H)=[0,∞)\sigma(H)=[0,\infty)、命題 7.2[第二量子化作用素 Γ(U) と dΓ(A)](ω\omega が固有値をもたなければ Ker dΓ(ω)=CΩ\mathrm{Ker}\,\mathrm{d}\Gamma(\omega)=\mathbb{C}\Omega)から真空の一意性が出ます。

1〜4 は、反対称テンソル場 FμνF_{\mu\nu} についての Wightman 公理の (W1)〜(W3)、(W5)、(W6) と並進についての (W4) に当たります。ここで証明していないのは、Lorentz 変換についての共変性((W0) の Poincaré 群の表現と (W4) の残り)と、(W3) のうち f↦⟨ψ,F(f)χ⟩f\mapsto\langle\psi,F(f)\chi\rangle の S\mathcal{S} の位相での連続性です。どちらも成り立つことが知られていますが、この記事では使いません。この意味で Maxwell 場は「存在」の条件を満たす理論です。しかし 6 により質量ギャップはなく、5 のとおり相関は距離の −4-4 乗でしか減衰しません。定理 3.4 の言葉では、条件 3 がどの Δ>0\Delta\gt0 でも成り立ちません。

非可換な理論との違いは、古典作用の形にはっきり現れます。U(1)U(1) では [Aμ,Aν]=0[A_\mu,A_\nu]=0 で FF は AA の 1 次式、作用は 2 次式で、理論は自由場です。非可換な GG では FF に [Aμ,Aν][A_\mu,A_\nu] があり、作用に AA の 3 次と 4 次の項が現れて、ゲージ場が自分自身と相互作用します。質量ギャップは、この自己相互作用の効果として期待されています。

理論公理を満たす構成質量ギャップ根拠
質量 m>0m\gt0 の自由スカラー場(4 次元)あるある(Δ=m\Delta=m)命題 4.1[Wightman 公理と再構成定理]、演習 8.1
自由な Maxwell 場(4 次元)あるない定理 4.1
P(ϕ)2P(\phi)_2(2 次元、弱結合)あるある定理 4.4[構成的場の理論の地図]、Glimm–Jaffe–Spencer 1974
2 次元 Yang–Mills(格子、すべての結合)格子の測度として面積則が厳密に成り立つ定理 5.1
4 次元 Yang–Mills(GG 単純)未解決未解決公理 3.3

5. 解けている場合:2 次元の格子 Yang–Mills 理論

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2 次元では、格子の上で Wilson ループの期待値が厳密に計算でき、すべての結合定数で面積則が成り立ちます。理由は、2 次元のゲージ場には局所的な自由度が無いことです。ゲージを固定すると、プラケットごとの変数が独立になります。Rikai では G=U(1),SU(N)G=U(1),SU(N) と Wilson 作用の場合を 定理 6.3[格子ゲージ理論で使う群積分の公式] で扱っています。ここでは一般のコンパクト群と一般のプラケット重みについて、直接証明します。

ねらいは、長方形の Wilson ループ(長方形の縁を 1 周する平行移動の平均)の期待値を、面積 RTRT の関数として厳密に書き下すことです。証明の流れは、(1) ゲージを固定して変数を減らし、(2) 変数をプラケット(格子の最小の正方形)ごとの独立な変数に取り替え、(3) 1 つのプラケットの平均を計算し、(4) それを面積の分だけ掛け合わせる、の 4 段です。

設定。 格子は自由境界の長方形 Λ={0,…,L1}×{0,…,L2}⊂Z2\Lambda=\{0,\dots,L_1\}\times\{0,\dots,L_2\}\subset\mathbb{Z}^2 とします。水平なリンク((x,y)(x,y) から (x+1,y)(x+1,y) へ)に Ux,y∈GU_{x,y}\in G、垂直なリンク((x,y)(x,y) から (x,y+1)(x,y+1) へ)に Vx,y∈GV_{x,y}\in G を置き、プラケット p=(x,y)p=(x,y)(0≤x<L10\le x\lt L_1、0≤y<L20\le y\lt L_2)の変数を、左下の頂点から反時計回りに回った積

Up=Ux,y Vx+1,y Ux,y+1−1 Vx,y−1U_p=U_{x,y}\,V_{x+1,y}\,U_{x,y+1}^{-1}\,V_{x,y}^{-1}

とします。GG をコンパクト群、dUdU を正規化された Haar 測度(群の左右の移動で不変な確率測度。定理 4.1[格子ゲージ場]:左右の移動と反転で不変な確率測度)、w ⁣:G→Rw\colon G\to\mathbb{R} を連続な類関数(w(gUg−1)=w(U)w(gUg^{-1})=w(U))で ∫Gw dU≠0\int_Gw\,dU\ne0 を満たすものとし、

Z=∫∏pw(Up)∏リンクdUb,⟨Φ⟩μ=1Z∫Φ ∏pw(Up)∏リンクdUbZ=\int\prod_pw(U_p)\prod_{\text{リンク}}dU_b,\qquad\langle\Phi\rangle_\mu=\frac1Z\int\Phi\,\prod_pw(U_p)\prod_{\text{リンク}}dU_b

と置きます(下の定理の 1 により Z≠0Z\ne0)。w>0w\gt0 のとき、これは確率測度 μ\mu による期待値です。ww に符号を許すのは、第 13 章で熱核を重みに使うときに、その正値性を別に証明しなくて済むようにするためです。Wilson 作用(定義 3.4[格子ゲージ場])は w(U)=e−Sp(U)w(U)=e^{-S_p(U)}、Sp(U)=β(1−1NRe tr U)S_p(U)=\beta\bigl(1-\frac1N\mathrm{Re}\,\mathrm{tr}\,U\bigr) の場合です。ゲージ変換 h ⁣:Λ→Gh\colon\Lambda\to G はリンク b=(z→z′)b=(z\to z') の変数を h(z)Ubh(z′)−1h(z)U_bh(z')^{-1} に変え、UpU_p を共役 h(z)Uph(z)−1h(z)U_ph(z)^{-1} に変えるので、μ\mu はゲージ不変です。

定理 5.1(2 次元格子 Yang–Mills 理論の厳密解)✓

上の設定で、ρ\rho を GG の有限次元既約ユニタリ表現、dρd_\rho をその次元、χρ=tr ρ\chi_\rho=\mathrm{tr}\,\rho とし、

cρ=1dρ⋅∫Gχρ(U) w(U) dU∫Gw(U) dUc_\rho=\frac{1}{d_\rho}\cdot\frac{\int_G\chi_\rho(U)\,w(U)\,dU}{\int_Gw(U)\,dU}

と置く。

  1. Z=(∫Gw dU)L1L2Z=\bigl(\int_Gw\,dU\bigr)^{L_1L_2}。
  2. C\mathcal{C} を Λ\Lambda の中の R×TR\times T の長方形の境界を反時計回りに 1 周する閉路、UCU_{\mathcal{C}} をそれに沿うリンク変数の積とすると ⟨1dρχρ(UC)⟩μ=cρ RT.\Bigl\langle\frac{1}{d_\rho}\chi_\rho(U_{\mathcal{C}})\Bigr\rangle_\mu=c_\rho^{\,RT}.
  3. w>0w\gt0 とする。ρ\rho が自明表現でなければ ∣cρ∣<1|c_\rho|\lt1。したがって σρ=−log⁡∣cρ∣>0\sigma_\rho=-\log|c_\rho|\gt0 として、Wilson ループの期待値の絶対値は e−σρRTe^{-\sigma_\rho RT} で、ww の取り方(結合定数の値)によらず面積則に従う。
証明(定理 5.1)

第 1 段:ゲージ固定。 TT を、すべての垂直リンクと、最下段 y=0y=0 の水平リンクからなる集合とします。TT は閉路を含まず、すべての頂点をつなぎます(木)。配位 (U,V)(U,V) に対し、h(0,0)=1h(0,0)=1 から始めて、TT のリンク b=(z→z′)b=(z\to z') をたどるごとに h(z′)=h(z)Ubh(z')=h(z)U_b と定めると、h ⁣:Λ→Gh\colon\Lambda\to G が一意に決まり、ゲージ変換した配位では TT 上のリンク変数がすべて h(z)Ubh(z′)−1=1h(z)U_bh(z')^{-1}=1 になります。hh は TT 上の変数だけで決まります。Φ\Phi をゲージ不変な有界可測関数とします。TT 上の変数を固定すると、TT に属さないリンク b=(z→z′)b=(z\to z') の変数の変換 Ub↦h(z)Ubh(z′)−1U_b\mapsto h(z)U_bh(z')^{-1} は固定した元による左右の移動なので、Haar 測度を保ちます。したがって、TT の外の変数について先に積分し、Φ\Phi のゲージ不変性を使うと

∫Φ∏bdUb=∫Φ∣T 上で 1∏b∉TdUb\int\Phi\prod_bdU_b=\int\Phi\big|_{T\text{ 上で }1}\prod_{b\notin T}dU_b

です(TT 上の変数についての積分は、被積分関数がそれらによらなくなるので 11 を与えます)。これは木ゲージ(定理 4.8[格子ゲージ場])の、この格子での形です。

第 2 段:プラケット変数への変数変換。 TT 上で 11 と置くと、残る変数は Ux,yU_{x,y}(1≤y≤L21\le y\le L_2)で、Ux,0=1U_{x,0}=1 として

Up=Ux,y Ux,y+1−1=:Px,y(p=(x,y)).U_p=U_{x,y}\,U_{x,y+1}^{-1}=:P_{x,y}\qquad(p=(x,y)).

xx を固定して、変数変換 (Ux,1,…,Ux,L2)↦(Px,0,…,Px,L2−1)(U_{x,1},\dots,U_{x,L_2})\mapsto(P_{x,0},\dots,P_{x,L_2-1}) を考えます。Px,0=Ux,1−1P_{x,0}=U_{x,1}^{-1}、Px,y=Ux,yUx,y+1−1P_{x,y}=U_{x,y}U_{x,y+1}^{-1} です。Ux,L2U_{x,L_2} から順に積分します。他を固定したとき Ux,y+1↦Ux,yUx,y+1−1U_{x,y+1}\mapsto U_{x,y}U_{x,y+1}^{-1} は反転と左移動の合成なので Haar 測度を保ち、最後の Ux,1↦Ux,1−1U_{x,1}\mapsto U_{x,1}^{-1} も保ちます。したがって、任意の有界可測関数 Ψ\Psi について

∫Ψ((Px,y))∏x∏y=1L2dUx,y=∫Ψ((Px,y))∏x,ydPx,y\int\Psi\bigl((P_{x,y})\bigr)\prod_{x}\prod_{y=1}^{L_2}dU_{x,y}=\int\Psi\bigl((P_{x,y})\bigr)\prod_{x,y}dP_{x,y}

です。Ψ=∏pw(Pp)\Psi=\prod_pw(P_p) と取れば、右辺は 1 変数の積分の積なので、1 の Z=(∫w)L1L2Z=(\int w)^{L_1L_2} が出ます。w~=w/∫w\tilde w=w/\int w と置くと、ゲージ不変な Φ\Phi の期待値は、ゲージ固定した Φ\Phi を Px,yP_{x,y} の関数として書いて ∏x,yw~(Px,y) dPx,y\prod_{x,y}\tilde w(P_{x,y})\,dP_{x,y} で積分したものです。w>0w\gt0 のとき、これは「(Px,y)(P_{x,y}) が独立で、それぞれ密度 w~\tilde w をもつ」ことを意味します。

第 3 段:1 つのプラケットの平均。 M=∫Gρ(U)w~(U) dUM=\int_G\rho(U)\tilde w(U)\,dU と置きます。g∈Gg\in G について、Haar 測度の両側不変性と w~\tilde w が類関数であることから

ρ(g) M ρ(g)−1=∫ρ(gUg−1)w~(U) dU=∫ρ(U′)w~(g−1U′g) dU′=M.\rho(g)\,M\,\rho(g)^{-1}=\int\rho(gUg^{-1})\tilde w(U)\,dU=\int\rho(U')\tilde w(g^{-1}U'g)\,dU'=M .

よって MM は ρ\rho と可換で、Schur の補題(定理 3.1[Peter–Weyl の定理] の 2)によりスカラー c 1c\,1 です。トレースを取ると c dρ=∫χρw~c\,d_\rho=\int\chi_\rho\tilde w、すなわち c=cρc=c_\rho です。したがって、任意の行列 A,BA,B について ∫A ρ(U) B w~(U) dU=cρ AB\int A\,\rho(U)\,B\,\tilde w(U)\,dU=c_\rho\,AB です。

第 4 段:ループの期待値。 χρ(UC)∏pw(Up)\chi_\rho(U_{\mathcal{C}})\prod_pw(U_p) はゲージ不変なので、第 1 段によりゲージ固定して計算できます。長方形を [x0,x0+R]×[y0,y0+T][x_0,x_0+R]\times[y_0,y_0+T] とします。垂直リンクは 11 なので、Ux=Ux,y0U_x=U_{x,y_0}、Ux′=Ux,y0+TU'_x=U_{x,y_0+T} と書くと

UC=Ux0Ux0+1⋯Ux0+R−1⋅Ux0+R−1′−1⋯Ux0+1′−1Ux0′−1.U_{\mathcal{C}}=U_{x_0}U_{x_0+1}\cdots U_{x_0+R-1}\cdot U'^{-1}_{x_0+R-1}\cdots U'^{-1}_{x_0+1}U'^{-1}_{x_0}.

第 2 段の関係 Ux,y+1−1=Ux,y−1Px,yU_{x,y+1}^{-1}=U_{x,y}^{-1}P_{x,y} を繰り返すと Ux′−1=Ux−1QxU'^{-1}_x=U_x^{-1}Q_x、Qx=Px,y0Px,y0+1⋯Px,y0+T−1Q_x=P_{x,y_0}P_{x,y_0+1}\cdots P_{x,y_0+T-1} です。UxU_x は Px,yP_{x,y}(y<y0y\lt y_0)だけの関数で、QxQ_x は Px,yP_{x,y}(y0≤y<y0+Ty_0\le y\lt y_0+T)だけの関数です。そこで

ρ(UC)=ρ(Ux0⋯Ux0+R−1) ρ(Ux0+R−1)−1ρ(Qx0+R−1) ρ(Ux0+R−2)−1ρ(Qx0+R−2)⋯ρ(Ux0)−1ρ(Qx0)\rho(U_{\mathcal{C}})=\rho(U_{x_0}\cdots U_{x_0+R-1})\,\rho(U_{x_0+R-1})^{-1}\rho(Q_{x_0+R-1})\,\rho(U_{x_0+R-2})^{-1}\rho(Q_{x_0+R-2})\cdots\rho(U_{x_0})^{-1}\rho(Q_{x_0})

を、まず Px,yP_{x,y}(x0≤x<x0+Rx_0\le x\lt x_0+R、y0≤y<y0+Ty_0\le y\lt y_0+T)について ∏w~(Px,y) dPx,y\prod\tilde w(P_{x,y})\,dP_{x,y} で積分します(Fubini の定理)。これらの RTRT 個の変数は、右辺の積の中にそれぞれちょうど 1 回、ρ(Px,y)\rho(P_{x,y}) の形で現れるので、第 3 段を 1 変数ずつ使うと、各 ρ(Px,y)\rho(P_{x,y}) がスカラー cρc_\rho に置き換わります。すなわち各 ρ(Qx)\rho(Q_x) が cρTc_\rho^T に置き換わり、残りは ρ(Ux0⋯Ux0+R−1)ρ(Ux0+R−1)−1⋯ρ(Ux0)−1=1\rho(U_{x_0}\cdots U_{x_0+R-1})\rho(U_{x_0+R-1})^{-1}\cdots\rho(U_{x_0})^{-1}=1 です。残りの変数についての ∏w~ dP\prod\tilde w\,dP の積分は 11 です。よって ⟨ρ(UC)⟩μ=cρRT 1\langle\rho(U_{\mathcal{C}})\rangle_\mu=c_\rho^{RT}\,1 で、トレースを取って 2 を得ます。

第 5 段:∣cρ∣<1|c_\rho|\lt1。 ρ(U)\rho(U) はユニタリなので ∣χρ(U)∣≤dρ|\chi_\rho(U)|\le d_\rho、したがって ∣cρ∣≤1|c_\rho|\le1 です。∣cρ∣=1|c_\rho|=1 と仮定します。cρ=eiαc_\rho=e^{i\alpha} と書くと ∫(dρ−Re(e−iαχρ(U)))w~(U) dU=0\int\bigl(d_\rho-\mathrm{Re}(e^{-i\alpha}\chi_\rho(U))\bigr)\tilde w(U)\,dU=0 で、被積分関数は非負の連続関数、w~>0\tilde w\gt0、Haar 測度は空でない開集合で正(命題 3.6[Haar 測度])なので、すべての UU で χρ(U)=eiαdρ\chi_\rho(U)=e^{i\alpha}d_\rho です。U=1U=1 と置くと eiα=1e^{i\alpha}=1 で、tr ρ(U)=dρ\mathrm{tr}\,\rho(U)=d_\rho はユニタリ行列 ρ(U)\rho(U) の固有値がすべて 11 であること、すなわち ρ(U)=1\rho(U)=1 を意味します。これは ρ\rho が自明表現(の直和、既約なので自明表現そのもの)であることを意味し、仮定に反します。

例 5.2(U(1) と SU(2) の Wilson 作用での係数)

整数 n≥0n\ge0 と β>0\beta\gt0 について In(β)=1π∫0πeβcos⁡θcos⁡nθ dθI_n(\beta)=\frac1\pi\int_0^\pi e^{\beta\cos\theta}\cos n\theta\,d\theta(変形 Bessel 関数)と置きます。部分積分で

In−1(β)−In+1(β)=2π∫0πeβcos⁡θsin⁡nθ sin⁡θ dθ=2nπβ∫0πeβcos⁡θcos⁡nθ dθ=2nβIn(β)I_{n-1}(\beta)-I_{n+1}(\beta)=\frac2\pi\int_0^\pi e^{\beta\cos\theta}\sin n\theta\,\sin\theta\,d\theta=\frac{2n}{\pi\beta}\int_0^\pi e^{\beta\cos\theta}\cos n\theta\,d\theta=\frac{2n}{\beta}I_n(\beta)

です(sin⁡θ eβcos⁡θ=−1βddθeβcos⁡θ\sin\theta\,e^{\beta\cos\theta}=-\frac1\beta\frac{d}{d\theta}e^{\beta\cos\theta} を使い、境界項は sin⁡nθ\sin n\theta が消すので 00)。

U(1)U(1)。 U=eiθU=e^{i\theta}、w=e−β(1−cos⁡θ)w=e^{-\beta(1-\cos\theta)}、Haar 測度は dθ2π\frac{d\theta}{2\pi}、既約表現は χn(eiθ)=einθ\chi_n(e^{i\theta})=e^{in\theta}(n∈Zn\in\mathbb{Z})です。e−βe^{-\beta} は分子と分母で打ち消し、sin⁡nθ\sin n\theta の部分は奇関数で消えるので

cn=∫−ππeinθeβcos⁡θdθ∫−ππeβcos⁡θdθ=I∣n∣(β)I0(β),基本表現(n=1)では c1=I1(β)I0(β).c_n=\frac{\int_{-\pi}^{\pi}e^{in\theta}e^{\beta\cos\theta}d\theta}{\int_{-\pi}^{\pi}e^{\beta\cos\theta}d\theta}=\frac{I_{|n|}(\beta)}{I_0(\beta)},\qquad\text{基本表現(}n=1\text{)では }c_1=\frac{I_1(\beta)}{I_0(\beta)}.

SU(2)SU(2)。 類関数の積分は、固有値を e±iφe^{\pm i\varphi} として ∫f dU=2π∫0πf sin⁡2φ dφ\int f\,dU=\frac2\pi\int_0^\pi f\,\sin^2\varphi\,d\varphi です(Weyl の積分公式 定理 4.4[指標と SU(2)・SU(N) の表現] で θ=2φ\theta=2\varphi と置いたもの)。w=e−β(1−12trU)=e−βeβcos⁡φw=e^{-\beta(1-\frac12\mathrm{tr}U)}=e^{-\beta}e^{\beta\cos\varphi}、基本表現は χF=2cos⁡φ\chi_F=2\cos\varphi、dF=2d_F=2 です。sin⁡2φ=12(1−cos⁡2φ)\sin^2\varphi=\frac12(1-\cos2\varphi)、cos⁡φsin⁡2φ=14(cos⁡φ−cos⁡3φ)\cos\varphi\sin^2\varphi=\frac14(\cos\varphi-\cos3\varphi) と上の漸化式から

∫w dU=e−β(I0−I2)=e−β2I1β,12∫χFw dU=e−β⋅12(I1−I3)=e−β2I2β,\int w\,dU=e^{-\beta}\bigl(I_0-I_2\bigr)=e^{-\beta}\frac{2I_1}{\beta},\qquad\frac12\int\chi_Fw\,dU=e^{-\beta}\cdot\frac12\bigl(I_1-I_3\bigr)=e^{-\beta}\frac{2I_2}{\beta},

したがって

cF=I2(β)I1(β).c_F=\frac{I_2(\beta)}{I_1(\beta)} .

どちらの場合も 0<c<10\lt c\lt1 で、β→0\beta\to0 で c→0c\to0(弦張力 −log⁡c→∞-\log c\to\infty)、β→∞\beta\to\infty で c→1c\to1(弦張力 →0\to0)です。β→∞\beta\to\infty で格子単位の弦張力が 00 に近づくことが、連続極限が取れることに対応します(第 13 章の 定理 3.1[Yang–Mills 理論と質量ギャップ II])。

2 次元で計算ができた理由を振り返ります。第 2 段で、ゲージ固定後の変数 Ux,yU_{x,y} とプラケット変数 Px,yP_{x,y} が 1 対 1 に対応しました。リンクの数(から木の分を引いたもの)とプラケットの数が等しいからです。3 次元以上ではプラケットの方が多く、プラケット変数の間に関係式(格子の Bianchi 恒等式。立方体の 6 面の積が自明になること)が生じて、独立になりません。この関係式が、ゲージ場の局所的な自由度(波として伝わるグルーオン)に対応します。

命題 6.1(結合定数の次元と、摂動論で見えないスケール Λ)✓

  1. (次元勘定)dd 次元の Yang–Mills 作用を SgS_g と書き、Aμλ(x)=λAμ(λx)A^\lambda_\mu(x)=\lambda A_\mu(\lambda x) とすると Sg(Aλ)=Sg′(A)S_g(A^\lambda)=S_{g'}(A)、g′2=g2λd−4g'^2=g^2\lambda^{d-4}。すなわち、長さを ℓ\ell 倍に見直す(λ=1/ℓ\lambda=1/\ell)と結合定数は g2ℓ4−dg^2\ell^{4-d} になり、g2g^2 は質量の次元 4−d4-d をもつ。無次元の有効結合 g2ℓ4−dg^2\ell^{4-d} は、d<4d\lt4 では短距離 ℓ→0\ell\to0 で 00 に近づき、d=4d=4 では ℓ\ell によらない。
  2. (1 ループの走る結合)b0>0b_0\gt0 とし、g(μ)>0g(\mu)\gt0 が μdgdμ=−b0g3\mu\dfrac{dg}{d\mu}=-b_0g^3 を満たすとする。このとき 1g(μ)2=1g(μ0)2+2b0log⁡μμ0,Λ:=μ exp⁡(−12b0 g(μ)2)\frac{1}{g(\mu)^2}=\frac{1}{g(\mu_0)^2}+2b_0\log\frac{\mu}{\mu_0},\qquad\Lambda:=\mu\,\exp\Bigl(-\frac{1}{2b_0\,g(\mu)^2}\Bigr) で、Λ\Lambda は μ\mu によらない。g(μ)2=12b0log⁡(μ/Λ)g(\mu)^2=\dfrac{1}{2b_0\log(\mu/\Lambda)}(μ>Λ\mu\gt\Lambda)である。
  3. (摂動展開は 00)c>0c\gt0 とし、ϕ(x)=e−c/x\phi(x)=e^{-c/x}(x>0x\gt0)とする。任意の整数 n≥0n\ge0 について lim⁡x↓0ϕ(x)/xn=0\lim_{x\downarrow0}\phi(x)/x^n=0。したがって、ϕ(x)=∑j=0najxj+o(xn)\phi(x)=\sum_{j=0}^na_jx^j+o(x^n)(x↓0x\downarrow0)を満たす係数はすべての nn で a0=⋯=an=0a_0=\dots=a_n=0 に限る。
証明(命題 6.1)

1. 命題 2.3 の 4 から Sg(Aλ)=λ4−dSg(A)=λ4−d4g2∫∣FA∣2=Sg′(A)S_g(A^\lambda)=\lambda^{4-d}S_g(A)=\frac{\lambda^{4-d}}{4g^2}\int|F_A|^2=S_{g'}(A)、g′2=g2λd−4g'^2=g^2\lambda^{d-4} です。λ=1/ℓ\lambda=1/\ell なら g′2=g2ℓ4−dg'^2=g^2\ell^{4-d}。

2. ddlog⁡μg−2=−2g−3μdgdμ=2b0\frac{d}{d\log\mu}g^{-2}=-2g^{-3}\mu\frac{dg}{d\mu}=2b_0 を積分すれば第 1 式です。log⁡Λ=log⁡μ−12b0g(μ)2\log\Lambda=\log\mu-\frac{1}{2b_0g(\mu)^2} に代入すると log⁡μ−12b0g(μ0)2−log⁡μμ0=log⁡μ0−12b0g(μ0)2\log\mu-\frac{1}{2b_0g(\mu_0)^2}-\log\frac{\mu}{\mu_0}=\log\mu_0-\frac{1}{2b_0g(\mu_0)^2} で、μ\mu によりません。log⁡(μ/Λ)=12b0g(μ)2\log(\mu/\Lambda)=\frac{1}{2b_0g(\mu)^2} を解けば最後の式です。

3. y=c/x→∞y=c/x\to\infty とすると ϕ(x)/xn=c−nyne−y\phi(x)/x^n=c^{-n}y^ne^{-y} です。ey≥yn+1(n+1)!e^y\ge\frac{y^{n+1}}{(n+1)!} なので yne−y≤(n+1)!y→0y^ne^{-y}\le\frac{(n+1)!}{y}\to0。後半は帰納法で示します。ϕ(x)=∑j≤najxj+o(xn)\phi(x)=\sum_{j\le n}a_jx^j+o(x^n) とし、a0=⋯=am−1=0a_0=\dots=a_{m-1}=0(m≤nm\le n)がわかっているとすると、xmx^m で割って x↓0x\downarrow0 とすれば、左辺は 00 に、右辺は ama_m に収束するので am=0a_m=0 です。

2 の微分方程式は、非可換ゲージ理論の 1 ループの β\beta 関数です。物質場のない理論では b0=11 CG3⋅16π2>0b_0=\dfrac{11\,C_G}{3\cdot16\pi^2}\gt0(CGC_G は随伴表現の Casimir、SU(N)SU(N) では NN)で、これは Rikai では摂動論の定理 定理 5.1[非可換ゲージ理論の量子化] です。μ→∞\mu\to\infty で g(μ)→0g(\mu)\to0 となる性質が漸近的自由(系 5.3[非可換ゲージ理論の量子化]、命題 4.5[次元正則化とくりこみ群] の 2)、無次元の gg の代わりに質量の次元をもつ Λ\Lambda が理論のパラメータになることが次元転換です。

この命題の意味を整理します。

  • d=2,3d=2,3 では、短距離で有効結合が ℓ4−d\ell^{4-d} のべきで小さくなります(超くりこみ可能)。紫外発散は有限個の図形にしか現れません。
  • d=4d=4 では、古典的には有効結合がスケールによらず(限界的)、量子補正で初めて 1log⁡(μ/Λ)\frac{1}{\log(\mu/\Lambda)} という対数の速さで小さくなります。べきではなく対数であることが、連続極限の制御を難しくします(§6.3)。
  • 4 次元の理論で質量ギャップがあるなら、質量の次元をもつ量は Λ\Lambda しかないので、Δ=CΛ=Cμ e−1/(2b0g(μ)2)\Delta=C\Lambda=C\mu\,e^{-1/(2b_0g(\mu)^2)}(CC は無次元の定数)の形になるはずです。3 により、この関数は g2g^2 の漸近展開としては恒等的に 00 です。質量ギャップは摂動論のどの次数にも現れません。 摂動論をどれだけ高次まで厳密に制御しても、質量ギャップの証明にはなりません。

6.2. 格子から連続へ:質量ギャップが残る条件

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格子ゲージ理論は、ゲージ不変性と反射正値性を保つ正則化です(§7)。格子の上の質量ギャップと、連続極限での質量ギャップの関係を命題にします。格子間隔 aa の格子で、逆結合 β\beta の無限体積の理論の相関が格子単位で e−m(β)∣x∣e^{-m(\beta)|x|}(x∈Z4x\in\mathbb{Z}^4)のように減衰するとき、物理的な距離 a∣x∣a|x| で測った減衰率は m(β)/am(\beta)/a です。

命題 6.2(連続極限で質量ギャップが残るための条件)✓

m ⁣:(0,∞)→(0,∞)m\colon(0,\infty)\to(0,\infty)(格子単位の質量ギャップ)と、β→∞\beta\to\infty で a(β)→0a(\beta)\to0 となる a ⁣:(0,∞)→(0,∞)a\colon(0,\infty)\to(0,\infty)(格子間隔の選び方)について、物理的な質量ギャップを M(β)=m(β)/a(β)M(\beta)=m(\beta)/a(\beta) と置く。

  1. lim⁡β→∞M(β)=M∈(0,∞)\lim_{\beta\to\infty}M(\beta)=M\in(0,\infty) が存在するなら、lim⁡β→∞m(β)=0\lim_{\beta\to\infty}m(\beta)=0 である。すなわち、格子単位の相関長 1/m(β)1/m(\beta) は発散する。
  2. SU(N)SU(N) の格子間隔が 2 ループの漸近スケーリング a(β)=R(β)ΛL,R(β)=(β2Nb0)b1/(2b02)exp⁡(−β4Nb0)a(\beta)=\frac{R(\beta)}{\Lambda_{\mathrm{L}}},\qquad R(\beta)=\Bigl(\frac{\beta}{2Nb_0}\Bigr)^{b_1/(2b_0^2)}\exp\Bigl(-\frac{\beta}{4Nb_0}\Bigr) (ΛL>0\Lambda_{\mathrm{L}}\gt0 は定数、b0>0b_0\gt0、b1∈Rb_1\in\mathbb{R})で与えられるとき、M(β)→M∈(0,∞)M(\beta)\to M\in(0,\infty) は lim⁡β→∞m(β)/R(β)=M/ΛL\lim_{\beta\to\infty}m(\beta)/R(\beta)=M/\Lambda_{\mathrm{L}} と同値で、このとき log⁡m(β)=−β4Nb0+b12b02log⁡β+O(1)(β→∞).\log m(\beta)=-\frac{\beta}{4Nb_0}+\frac{b_1}{2b_0^2}\log\beta+O(1)\qquad(\beta\to\infty).
  3. 「すべての β\beta で m(β)>0m(\beta)\gt0」かつ「m(β)→0m(\beta)\to0」であっても、M(β)M(\beta) の極限については何も言えない。実際、2 の a(β)a(\beta) について、m1(β)=e−β2m_1(\beta)=e^{-\beta^2} なら M(β)→0M(\beta)\to0、m2(β)=11+βm_2(\beta)=\frac{1}{1+\beta} なら M(β)→∞M(\beta)\to\infty、m3(β)=R(β)m_3(\beta)=R(\beta) なら M(β)=ΛLM(\beta)=\Lambda_{\mathrm{L}} である。
証明(命題 6.2)

1. m(β)=M(β)a(β)m(\beta)=M(\beta)a(\beta) で、M(β)→M<∞M(\beta)\to M\lt\infty、a(β)→0a(\beta)\to0 なので積は 00 に収束します。

2. M(β)=ΛL m(β)/R(β)M(\beta)=\Lambda_{\mathrm{L}}\,m(\beta)/R(\beta) なので、M(β)→MM(\beta)\to M と m(β)/R(β)→M/ΛLm(\beta)/R(\beta)\to M/\Lambda_{\mathrm{L}} は同じ主張です。m(β)/R(β)→M/ΛL∈(0,∞)m(\beta)/R(\beta)\to M/\Lambda_{\mathrm{L}}\in(0,\infty) なら log⁡m(β)=log⁡R(β)+O(1)\log m(\beta)=\log R(\beta)+O(1) で、log⁡R(β)=−β4Nb0+b12b02log⁡β−b12b02log⁡(2Nb0)\log R(\beta)=-\frac{\beta}{4Nb_0}+\frac{b_1}{2b_0^2}\log\beta-\frac{b_1}{2b_0^2}\log(2Nb_0) です。

3. log⁡(m1/R)=−β2+β4Nb0−b12b02log⁡β2Nb0→−∞\log(m_1/R)=-\beta^2+\frac{\beta}{4Nb_0}-\frac{b_1}{2b_0^2}\log\frac{\beta}{2Nb_0}\to-\infty なので M→0M\to0。log⁡(m2/R)=−log⁡(1+β)+β4Nb0−b12b02log⁡β2Nb0→+∞\log(m_2/R)=-\log(1+\beta)+\frac{\beta}{4Nb_0}-\frac{b_1}{2b_0^2}\log\frac{\beta}{2Nb_0}\to+\infty なので M→∞M\to\infty。m3m_3 では M=ΛLM=\Lambda_{\mathrm{L}}。3 つとも正で β→∞\beta\to\infty で 00 に収束します。

2 の R(β)R(\beta) は、命題 6.1 の 2 の Λ/μ=e−1/(2b0g2)\Lambda/\mu=e^{-1/(2b_0g^2)} に、μ=1/a\mu=1/a、g2=2N/βg^2=2N/\beta を代入し、2 ループの補正を付けたものです(定理 3.2[格子 QCD]:格子の β\beta 関数が −b0g03−b1g05+O(g07)-b_0g_0^3-b_1g_0^5+O(g_0^7) の形なら aΛLa\Lambda_{\mathrm{L}} はこの形の漸近形をもつ)。

この命題から、既知の結果の射程がわかります。

  • 強結合展開は、β<β0\beta\lt\beta_0 で m(β)>0m(\beta)\gt0 を示します(定理 3.6[強結合展開と閉じ込め]:β\beta が小さいとき、ゲージ不変な局所観測量の相関は指数的に減衰し、Wilson ループは面積則に従う)。しかし連続極限は β→∞\beta\to\infty にあります。β<β0\beta\lt\beta_0 の情報は 1〜3 のどれにも関わりません。
  • 仮に「すべての β\beta で m(β)>0m(\beta)\gt0」が示せたとしても、3 により、連続極限で質量ギャップが残ることは出ません。必要なのは、β→∞\beta\to\infty で m(β)m(\beta) がちょうど e−β/(4Nb0)e^{-\beta/(4Nb_0)} の速さ(べきの補正つき)で小さくなることです。指数の係数 14Nb0=12π211N2\frac{1}{4Nb_0}=\frac{12\pi^2}{11N^2} は 1 ループの摂動計算で決まる数で、非摂動的な量 m(β)m(\beta) がこの数に従うことを示さなければなりません。

問題の難しさを、評価できない量を明示して 6 つに分けます。

(a) 小さいパラメータが無い。 構成的場の理論の成功例(P(ϕ)2P(\phi)_2、ϕ34\phi^4_3)では、結合定数が小さいことを使って、自由場からのずれを収束する展開で制御しました。Yang–Mills 理論では、結合定数は 命題 6.1 の 2 のとおりスケールとともに動きます。紫外 μ≫Λ\mu\gg\Lambda では g(μ)2=12b0log⁡(μ/Λ)g(\mu)^2=\frac{1}{2b_0\log(\mu/\Lambda)} は小さいのですが、μ→Λ\mu\to\Lambda で発散します。質量ギャップが決まる μ∼Λ\mu\sim\Lambda の領域には、小さいパラメータがありません。物質場のない理論には、調節できる無次元のパラメータが 1 つもありません(Λ\Lambda は単位の取り方を決めるだけです)。

(b) 4 次元は限界的で、紫外の制御が対数的。 格子間隔 aa から出発し、スケールを LL 倍ずつ粗くするくりこみ群変換を nn 回行うとします(格子を LL 倍ずつ粗く見直し、各段で細かい揺らぎを積分して消していく操作です。ここで比べるのは、各段で摂動論による近似からどれだけずれるかという誤差を、全段で足し合わせたものです)。第 kk 段での有効結合を gkg_k とすると、各段での摂動論からのずれは gk2g_k^2 のべきで評価されます。d=3d=3 なら gk2∝g2aLkg_k^2\propto g^2aL^{k}(命題 6.1 の 1)で、紫外側(kk が小さい側)に向かって等比級数的に小さく、誤差の和 ∑kgk2\sum_kg_k^2 は収束します。d=4d=4 では

gk2≈12b0log⁡(1/(aLkΛ))=12b0 (n∗−k)log⁡L,n∗=log⁡(1/aΛ)log⁡L,g_k^2\approx\frac{1}{2b_0\log\bigl(1/(aL^k\Lambda)\bigr)}=\frac{1}{2b_0\,(n_*-k)\log L},\qquad n_*=\frac{\log(1/a\Lambda)}{\log L},

で、∑kgk2\sum_kg_k^2 は log⁡n∗\log n_* のように発散します。1 段ごとの誤差を O(gk2)O(g_k^2) で抑えるだけでは足りず、gk2g_k^2 の次数の項を厳密に取り出して(裸の結合 g(a)g(a) を漸近的自由の式に従って選ぶことで)打ち消し、残りが O(gk4)O(g_k^4)(∑kgk4<∞\sum_kg_k^4\lt\infty)であることを示す必要があります。これはすべてのスケールで同時に成り立つ、aa について一様な評価でなければなりません。

(c) 大きな場の領域。 上の議論は、場が小さい(各スケールで ∣F∣≲gk−1×|F|\lesssim g_k^{-1}\times 小さい定数)領域での話です。配位空間には場が大きい領域もあり、そこでは摂動展開が意味をもちません。その領域の確率が e−c/gk2e^{-c/g_k^2} のように小さいことを、ゲージ不変な形で、すべてのスケールで示す必要があります。Wilson 作用 1−1NRe tr Up1-\frac1N\mathrm{Re}\,\mathrm{tr}\,U_p は UpU_p の凸関数ではなく、群が非可換なので、Gauss 測度の評価をそのまま使うこともできません。

(d) ゲージ固定と Gribov の曖昧さ。 摂動論では、ゲージ軌道ごとに代表元を 1 つ選ぶ条件(たとえば Coulomb ゲージ ∑i∂iAi=0\sum_i\partial_iA_i=0)を課して、Gauss 積分の退化を除きます。非可換な理論では、1 つのゲージ軌道が条件を満たす点を複数もちます(Gribov 1978)。Rikai では、トーラス上の Coulomb ゲージについて次を証明しています(定理 4.1[Coulomb ゲージのハミルトニアン形式]): Faddeev–Popov 作用素 M(A)=−∑i∂iDi(A)M(A)=-\sum_i\partial_iD_i(A) が正である領域(Gribov 領域)は凸で有界であり、その境界では M(A)ϕ=0M(A)\phi=0 となる ϕ≠0\phi\ne0 があって、無限小ゲージ変換 D(A)ϕD(A)\phi がゲージ条件を保つ。つまり、場が大きくなるとゲージ条件は軌道を一意に切らなくなり、Faddeev–Popov 行列式 det⁡M(A)\det M(A) は符号を変えます。大域的に連続なゲージ固定は存在しないので(Singer 1978)、非摂動的な構成ではゲージ固定を局所的に(場が小さい領域ごと、スケールごとに)行い、それらをつなぐ必要があります。

(e) 反射正値性を保つ正則化が限られる。 連続の理論を直接正則化する方法(運動量の切断、高階の共変微分の項を加える方法、次元正則化)は、ゲージ不変性か反射正値性のどちらかを壊します。たとえば伝播関数を

1p2 ⟶ 1p2(1+p2/κ2)=1p2−1p2+κ2\frac{1}{p^2}\ \longrightarrow\ \frac{1}{p^2(1+p^2/\kappa^2)}=\frac{1}{p^2}-\frac{1}{p^2+\kappa^2}

と正則化すると、右辺の第 2 項は質量 κ\kappa の粒子が負の重みで寄与することを表し、Hilbert 空間の内積が正定値でなくなります。反射正値性は Hilbert 空間そのものを作る性質なので、極限で回復することを別に示さなければなりません。格子の Wilson 作用は、ゲージ不変性と反射正値性の両方を保つ数少ない正則化です(Osterwalder–Seiler 1978。Rikai では格子上の反射正値性)。その代わり、格子は回転不変性を壊し、連続極限が上の (b)(c) の問題になります。

(f) 観測量が局所的でなく、くりこみが要る。 基本の場 Aμ(x)A_\mu(x) はゲージ不変でないので、観測量にできません。ゲージ不変な Wilson ループは曲線に沿って広がった量で、期待値は連続極限で周長に比例する発散 ⟨W(C)⟩∼exp⁡(−c g2∣C∣/a)\langle W(C)\rangle\sim\exp\bigl(-c\,g^2|C|/a\bigr)(d=4d=4)をもち、これを取り除く必要があります。局所的な場 trF2(x)\mathrm{tr}F^2(x) も、積の定義にくりこみが要ります。OS 公理は点の上の場の相関関数について述べられているので、Wilson ループを基本にするなら公理系の方を作り直すことになります(Seiler の本の第 8 章にその案があります)。

これらに加えて、4 次元では自明性の例があることが問題を深刻にします。同じく 4 次元で限界的な ϕ4\phi^4 理論は、格子からの連続極限がすべて Gauss 的(自由場)になります(定理 6.1[構成的場の理論の地図]:Z4\mathbb{Z}^4 上の最近接強磁性の格子 ϕ4\phi^4 模型を、臨界点以下の結合で、相関長以下のスケールでならして規格化した場のスケーリング極限は、部分列極限を含めてすべて Gauss 的で、ならした切断 4 点関数は 00 に行く)。ϕ44\phi^4_4 は β\beta 関数が正で、短距離で結合が大きくなる側にあります。Yang–Mills 理論は β\beta 関数が負で、短距離で結合が小さくなる側にあるので、非自明な連続極限があると期待されています。この「期待」を定理にすることが、存在の部分の中身です。

問題を 4 つの段階に分けます。格子から出発する場合を念頭に置きますが、他の正則化でも段階の中身は同じです。

段階示すべきこと数学的な形
(1) 紫外:連続極限体積を固定し、格子間隔 a→0a\to0 で観測量の期待値が収束するg(a)g(a) を 命題 6.1 の 2 に従って選び、lim⁡a→0⟨O1⋯On⟩a,L\lim_{a\to0}\langle\mathcal{O}_1\cdots\mathcal{O}_n\rangle_{a,L} の存在(部分列ではなく)と、aa に一様な評価
(2) 公理極限が OS 公理を満たす反射正値性(格子で成り立ち、極限で保たれる)、Euclid 不変性(格子が壊した回転不変性の回復)、正則性((E0) の成長条件)
(3) 非自明性極限が Gauss 的でない。短距離のふるまいが漸近的自由の予言に一致する切断 4 点関数 ≠0\ne0、⟨trF2(x) trF2(0)⟩\langle\mathrm{tr}F^2(x)\,\mathrm{tr}F^2(0)\rangle の x→0x\to0 での特異性
(4) 赤外:無限体積と質量ギャップ体積 L→∞L\to\infty の極限が存在し、質量ギャップをもつ体積に一様な指数的減衰(定理 3.4 の 3 を、LL によらない Δ\Delta で)

(1) と (4) の順序は入れ替えられますが、どちらの順でも「aa と LL の両方について一様な評価」が要ります。Jaffe と Witten は、体積について一様な質量ギャップが無限体積極限の存在そのものの鍵になるだろうと述べています。

各段階が、次元とゲージ群ごとにどこまで証明されているかをまとめます。個々の定理の正確な主張と出典は第 13 章にあります。

d=2d=2d=3d=3d=4d=4
(1) 連続極限:可換 U(1)U(1)証明済み(Higgs 場つきも)証明済み(Gross 1983、Higgs 場つきは King 1986)証明済み(Driver 1987。自由場)
(1) 連続極限:非可換証明済み(Wilson ループの期待値が明示的)紫外安定性まで(Bałaban)。観測量の極限は未解決紫外安定性まで(Bałaban)。観測量の極限は未解決
(2) OS 公理U(1)U(1) Higgs 模型で証明済み(Brydges–Fröhlich–Seiler)非可換は未解決非可換は未解決
(3) 非自明性非可換:局所的な自由度は無いが面積則は非自明未解決未解決
(4) 質量ギャップ・面積則:格子、強結合証明済み証明済み(Osterwalder–Seiler)証明済み(Osterwalder–Seiler)
(4) 格子、すべての結合定数証明済み(定理 5.1)U(1)U(1) の面積則は証明済み(Göpfert–Mack)。非可換は未解決非可換は未解決。U(1)U(1) は弱結合で面積則が成り立たない
(4) 連続極限でのギャップU(1)U(1) Higgs 模型に質量ギャップがあると Jaffe–Witten は述べている(引用されている Bałaban–Brydges–Imbrie–Jaffe 1984 の題は単位格子上の Higgs 模型の質量ギャップ。原論文で未照合)未解決未解決(ミレニアム問題)

表の右下に向かうほど空欄(未解決)になります。4 次元の非可換な理論について証明されているのは、有限体積での紫外安定性(分配関数の aa に一様な評価)と、連続極限から遠い強結合での面積則・質量ギャップだけです。

演習 8.1標準

質量 m>0m\gt0 の自由スカラー場を考える。1 粒子空間を L2(R3,d3k)L^2(\mathbb{R}^3,d^3k)、ω(k)=∣k∣2+m2\omega(\boldsymbol{k})=\sqrt{|\boldsymbol{k}|^2+m^2} を掛ける作用素を 1 粒子ハミルトニアン、H=dΓ(ω)H=\mathrm{d}\Gamma(\omega) とする。(1) HH は質量ギャップ mm をもち、mm より大きいギャップはもたないことを示せ。(2) u∈L2(R3)u\in L^2(\mathbb{R}^3) が原点の近傍でほとんどいたるところ 00 でないとき、1 粒子ベクトル ψ=a(u)∗Ω\psi=a(u)^*\Omega について lim⁡t→∞−1tlog⁡⟨ψ,e−tHψ⟩=m\lim_{t\to\infty}-\frac1t\log\langle\psi,e^{-tH}\psi\rangle=m を示せ。

解答

(1) σ(ω)=[m,∞)\sigma(\omega)=[m,\infty) で、ω\omega は固有値をもちません(ω=λ\omega=\lambda となる集合は球面で測度 00)。定理 7.1[第二量子化作用素 Γ(U) と dΓ(A)] により σ(H)\sigma(H) は {0}\{0\} と [m,∞)[m,\infty) の元の有限和の全体の閉包、すなわち {0}∪[m,∞)\{0\}\cup[m,\infty) です。命題 7.2[第二量子化作用素 Γ(U) と dΓ(A)] により Ker H=CΩ\mathrm{Ker}\,H=\mathbb{C}\Omega。よって 定理 3.4 の条件 1 は Δ=m\Delta=m で成り立ち、m∈σ(H)m\in\sigma(H) なので Δ>m\Delta\gt m では成り立ちません。

(2) HH は 1 粒子空間の上で ω\omega として作用するので、⟨ψ,e−tHψ⟩=∫∣u(k)∣2e−tω(k)d3k\langle\psi,e^{-tH}\psi\rangle=\int|u(\boldsymbol{k})|^2e^{-t\omega(\boldsymbol{k})}d^3k です。ω≥m\omega\ge m から上界 ≤∥u∥2e−tm\le\|u\|^2e^{-tm}。下界は、ε>0\varepsilon\gt0 について Bε={ω<m+ε}B_\varepsilon=\{\omega\lt m+\varepsilon\}(原点の近傍)とすると ∫∣u∣2e−tω≥e−t(m+ε)∫Bε∣u∣2\int|u|^2e^{-t\omega}\ge e^{-t(m+\varepsilon)}\int_{B_\varepsilon}|u|^2 で、仮定から ∫Bε∣u∣2>0\int_{B_\varepsilon}|u|^2\gt0 です。対数を取って tt で割ると m≤lim inf⁡≤lim sup⁡≤m+εm\le\liminf\le\limsup\le m+\varepsilon で、ε\varepsilon は任意なので極限は mm です。

演習 8.2標準

定理 3.4 の条件 3 で、DD の稠密性が必要であることを例で示せ。すなわち、H≥0H\ge0、Ker H=CΩ\mathrm{Ker}\,H=\mathbb{C}\Omega で、稠密でない部分空間 D1D_1 の上では条件 3 が Δ=2\Delta=2 で成り立つのに、質量ギャップは 11 である例を作れ。

解答

H=C3\mathcal{H}=\mathbb{C}^3、標準基底を Ω=e0,e1,e2\Omega=e_0,e_1,e_2、H=diag(0,1,2)H=\mathrm{diag}(0,1,2) とします。D1=span{e0,e2}D_1=\mathrm{span}\{e_0,e_2\} とすると、ψ=αe0+γe2∈D1\psi=\alpha e_0+\gamma e_2\in D_1 について ⟨ψ,e−tHψ⟩−∣⟨Ω,ψ⟩∣2=∣γ∣2e−2t\langle\psi,e^{-tH}\psi\rangle-|\langle\Omega,\psi\rangle|^2=|\gamma|^2e^{-2t} で、条件 3 は Δ=2\Delta=2 で成り立ちます。しかし σ(H)∩(0,2)={1}≠∅\sigma(H)\cap(0,2)=\{1\}\ne\emptyset で、質量ギャップは 11 です。D1D_1 は固有値 11 の固有ベクトル e1e_1 と直交しているので、その状態を「見て」いません。物理的には、選んだ観測量が最も軽い粒子と結合しない場合に当たります。質量ギャップを相関の減衰から読み取るには、真空の巡回性 (W6) のような稠密性が必要です。

演習 8.3易

命題 6.1 の 2 の状況で、μ1=91\mu_1=91、g(μ1)2=1.5g(\mu_1)^2=1.5、b0=11⋅33⋅16π2b_0=\frac{11\cdot3}{3\cdot16\pi^2}(SU(3)SU(3)、物質場なし)とする(μ\mu の単位は任意)。(1) Λ\Lambda を求めよ。(2) μ2=10\mu_2=10 での g(μ2)2g(\mu_2)^2 を求め、μ2\mu_2 から計算した Λ\Lambda が (1) と一致することを確かめよ。

解答

b0=1116π2≈0.06966b_0=\frac{11}{16\pi^2}\approx0.06966。(1) 12b0g(μ1)2=12⋅0.06966⋅1.5≈4.785\frac{1}{2b_0g(\mu_1)^2}=\frac{1}{2\cdot0.06966\cdot1.5}\approx4.785 なので Λ=91 e−4.785≈91×0.00835≈0.760\Lambda=91\,e^{-4.785}\approx91\times0.00835\approx0.760。(2) 1g(μ2)2=11.5+2b0log⁡1091≈0.6667+0.13932×(−2.2083)≈0.3590\frac{1}{g(\mu_2)^2}=\frac{1}{1.5}+2b_0\log\frac{10}{91}\approx0.6667+0.13932\times(-2.2083)\approx0.3590、g(μ2)2≈2.785g(\mu_2)^2\approx2.785。12b0g(μ2)2=0.35900.13932≈2.577\frac{1}{2b_0g(\mu_2)^2}=\frac{0.3590}{0.13932}\approx2.577、Λ=10 e−2.577≈10×0.0760=0.760\Lambda=10\,e^{-2.577}\approx10\times0.0760=0.760 で一致します。μ\mu が Λ\Lambda に近づくにつれて g2g^2 が大きくなり、1 ループの式自体が信用できなくなる様子もわかります。

演習 8.4難

例 5.2 の U(1)U(1) の場合に、格子単位の弦張力 σ(β)=−log⁡I1(β)I0(β)\sigma(\beta)=-\log\frac{I_1(\beta)}{I_0(\beta)} について次を示せ。(1) β→0\beta\to0 で σ(β)=−log⁡β2+O(β2)\sigma(\beta)=-\log\frac\beta2+O(\beta^2)。(2) β→∞\beta\to\infty で σ(β)=12β+O(β−2)\sigma(\beta)=\frac{1}{2\beta}+O(\beta^{-2})。(3) β=1g2a2\beta=\frac{1}{g^2a^2} として、物理単位の弦張力 σ(β)/a2\sigma(\beta)/a^2 の a→0a\to0 での極限を求めよ。

解答

(1) eβcos⁡θ=1+βcos⁡θ+β22cos⁡2θ+O(β3)e^{\beta\cos\theta}=1+\beta\cos\theta+\frac{\beta^2}{2}\cos^2\theta+O(\beta^3) を代入すると I0=1+β24+O(β4)I_0=1+\frac{\beta^2}{4}+O(\beta^4)、I1=β2+O(β3)I_1=\frac\beta2+O(\beta^3)(1π∫0πcos⁡2θ=12\frac1\pi\int_0^\pi\cos^2\theta=\frac12、奇数次の項は cos⁡\cos の対称性で消える)。よって I1I0=β2(1+O(β2))\frac{I_1}{I_0}=\frac\beta2(1+O(\beta^2))。

(2) t=1−cos⁡θt=1-\cos\theta と置換すると dθ=dtt(2−t)d\theta=\frac{dt}{\sqrt{t(2-t)}} で

I0=eβπ∫02e−βtt(2−t) dt,I0−I1=eβπ∫02e−βtt2−t dt.I_0=\frac{e^\beta}{\pi}\int_0^2\frac{e^{-\beta t}}{\sqrt{t(2-t)}}\,dt,\qquad I_0-I_1=\frac{e^\beta}{\pi}\int_0^2e^{-\beta t}\sqrt{\frac{t}{2-t}}\,dt .

[1,2][1,2] の部分は e−β∫12(2−t)−1/2dt⋅2e^{-\beta}\int_1^2(2-t)^{-1/2}dt\cdot\sqrt2 以下で指数的に小さく、[0,1][0,1] では (2−t)−1/2=2−1/2(1+r(t))(2-t)^{-1/2}=2^{-1/2}(1+r(t))、0≤r(t)≤t0\le r(t)\le t です。∫01e−βtts−1dt=Γ(s)β−s+O(e−β)\int_0^1e^{-\beta t}t^{s-1}dt=\Gamma(s)\beta^{-s}+O(e^{-\beta}) なので

I0=eβπ2 Γ(12)β−1/2(1+O(β−1)),I0−I1=eβπ2 Γ(32)β−3/2(1+O(β−1)).I_0=\frac{e^\beta}{\pi\sqrt2}\,\Gamma(\tfrac12)\beta^{-1/2}\bigl(1+O(\beta^{-1})\bigr),\qquad I_0-I_1=\frac{e^\beta}{\pi\sqrt2}\,\Gamma(\tfrac32)\beta^{-3/2}\bigl(1+O(\beta^{-1})\bigr).

比を取ると 1−I1I0=Γ(3/2)Γ(1/2)β−1(1+O(β−1))=12β+O(β−2)1-\frac{I_1}{I_0}=\frac{\Gamma(3/2)}{\Gamma(1/2)}\beta^{-1}(1+O(\beta^{-1}))=\frac{1}{2\beta}+O(\beta^{-2})、σ=−log⁡(1−12β+O(β−2))=12β+O(β−2)\sigma=-\log(1-\frac{1}{2\beta}+O(\beta^{-2}))=\frac{1}{2\beta}+O(\beta^{-2})。

(3) σ/a2=g2a22a2+O(g4a2)→g22\sigma/a^2=\frac{g^2a^2}{2a^2}+O(g^4a^2)\to\frac{g^2}{2}。2 次元では g2g^2 が質量の 2 乗の次元をもつ(命題 6.1 の 1)ので、弦張力 g22\frac{g^2}{2} は古典論にすでにあるスケールで書けます。物理的には、1 次元空間での Coulomb ポテンシャルが距離に比例することの現れです。4 次元との違いはここにあります。

  • A. Jaffe, E. Witten, “Quantum Yang–Mills theory”, in The Millennium Prize Problems, Clay Mathematics Institute / American Mathematical Society, 2006。Clay 数学研究所の公開版(2026-10-08 確認)— 問題記述。§3 の定義と §7 の段階分けはこの文書による。
  • C. N. Yang, R. L. Mills, “Conservation of isotopic spin and isotopic gauge invariance”, Phys. Rev. 96 (1954), 191–195。
  • D. J. Gross, F. Wilczek, “Ultraviolet behavior of non-abelian gauge theories”, Phys. Rev. Lett. 30 (1973), 1343–1346;H. D. Politzer, “Reliable perturbative results for strong interactions?”, Phys. Rev. Lett. 30 (1973), 1346–1349。
  • K. G. Wilson, “Confinement of quarks”, Phys. Rev. D 10 (1974), 2445–2459。
  • K. Osterwalder, E. Seiler, “Gauge field theories on a lattice”, Ann. Physics 110 (1978), 440–471。
  • K. Uhlenbeck, “Connections with LpL^p bounds on curvature”, Comm. Math. Phys. 83 (1982), 31–42。
  • E. Seiler, Gauge Theories as a Problem of Constructive Quantum Field Theory and Statistical Mechanics, Lecture Notes in Physics 159, Springer, 1982 — 格子ゲージ理論の構成的な扱い。第 8 章に Wilson ループを基本にした公理の案。
  • R. F. Streater, A. S. Wightman, PCT, Spin and Statistics, and All That, Benjamin, 1964 — Wightman 公理。
  • J. Glimm, A. Jaffe, Quantum Physics: A Functional Integral Point of View, 2nd ed., Springer, 1987 — OS 公理と構成的場の理論。
  • K. Fredenhagen, “A remark on the cluster theorem”, Comm. Math. Phys. 97 (1985), 461–463。
  • S. Chatterjee, “Yang–Mills for probabilists”, arXiv:1803.01950 — 確率論の言葉での問題の定式化と文献の概観。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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