Coulomb ゲージのハミルトニアン形式:Christ–Lee ハミルトニアン・Gribov 領域・格子上の Gauss 法則・Schwinger 模型
対象読者: 本テーマ第 5 章のゲージの同値性と非可換ゲージ理論の量子化(FP ゴースト・BRST)を学び、Yang-Mills 理論と格子ゲージ理論の初歩を知っている人。Gribov 領域は仮定しません。
前提となる記事:ゲージの同値性:Lorenz ゲージと Coulomb ゲージのユニタリ同値・外部電流・切断つき QED・ξ 族、非可換ゲージ理論の量子化:FP ゴースト・BRST 対称性・漸近的自由・カイラル・アノマリー
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”電磁気では、電荷から電場が決まる関係(Gauss 法則)を解けば、電場の「電荷で決まる部分」を電荷の分布だけで書き直せます。この記事は、同じことを、力の担い手自身も電荷をもつ非可換ゲージ理論でやろうとすると何が起こるかを調べます。解くために必要な作用素が、場の大きさによっては逆を持てなくなるため、「どこまでの場なら安全か」という領域の形が問題になります。読み終えると、その領域の形、格子の上でこの問題が厳密に解けること、空間 1 次元の解ける模型で光子が質量をもつ様子が分かります。
- Coulomb ゲージ では、Gauss 法則 を電場の縦成分について解けます。電場を と分けると、 は Faddeev–Popov 作用素 を使った方程式 の解で、エネルギーは横成分の運動エネルギーと「Coulomb 項」 の和になります。これが Christ–Lee ハミルトニアンの古典的な骨格で、量子論では FP 行列式 が測度と演算子の順序に入ります。この順序(微分と行列式の掛け算をどの順に並べるか)の意味を、2 次元の回転対称性という最も簡単な模型で厳密に確かめます。
- Coulomb 項が意味をもつには が可逆でなければなりません。 となる横波の配位の集合が Gribov 領域 です。3 次元トーラスの上で、 が凸で の近傍を含み、非可換な場合にはすべての方向に有界であること、その境界(Gribov 地平線)で無限小の Gribov コピー(同じゲージ軌道上の、Coulomb ゲージ条件を満たす別の配位)が現れること、ゲージ軌道上でノルムを極小にする配位が に入ることを証明します。
- 格子ゲージ理論では Gauss 法則を厳密に解けます。全域木の上のリンクを に固定する木ゲージで、物理的状態空間は「木に入らないリンクの関数で、根での大域的な色回転に対して共変なもの」とユニタリ同値になり、Gauss 法則を根以外で課した空間は全色電荷で分類される超選択セクター(観測量では互いに行き来できない状態空間の部分)に分かれます。これは Kijowski–Rudolph の物理的観測量の代数の骨格です。
- 1+1 次元の QED(Schwinger 模型)では、Coulomb ゲージで Gauss 法則を解いた Coulomb 項が、ボソン化(フェルミオンの理論を等価なスカラー場の理論で書き直すこと)した場 の質量項 に化け、光子は質量 のボソンになります。共変なゲージでの Lowenstein–Swieca の演算子解は、質量 の正ノルムと負ノルムの場の対を含む Krein 空間(内積が負になる方向を許す空間)に住み、その物理的な商は質量 の自由ボソンの Fock 空間だけになります。
ゲージの同値性 では、電磁場について Coulomb ゲージの Hilbert 空間と共変ゲージの Gupta–Bleuler 商がユニタリ同値であることを証明しました。Coulomb ゲージの利点は、最初から正定値の Hilbert 空間の上で、ゲージの自由度を消した物理的な自由度だけを扱えることです。代償は Lorentz 共変性で、さらに相互作用のある理論では、Gauss 法則を解いて縦の電場を消去するときに非局所的な Coulomb 相互作用が現れます。
非可換ゲージ理論では、この消去がずっと難しくなります。電磁場では Gauss 法則 の解は の逆で書けましたが、非可換の場合は共変微分 が場 に依存するので、逆にすべき作用素は場に依存する FP 作用素 です。 は が小さければ可逆ですが、 が大きくなると零固有値をもつことがあります(非可換ゲージ場の量子化 の 注意 3.4[非可換ゲージ理論の量子化])。そこではゲージ固定が破綻し(Gribov コピー)、Coulomb 相互作用も発散します。
本章では、Coulomb ゲージのハミルトニアン形式を 4 つの角度から扱います。
- 古典場の Gauss 法則を解いて Christ–Lee 型のハミルトニアンを導き、その量子化で FP 行列式が現れる仕組みを有限次元の模型で厳密に示す(第 3 節)。
- Gribov 領域の幾何学的な性質を証明する(第 4 節)。
- 格子上では Gauss 法則が厳密に解けることを示し、物理的状態空間と色電荷の超選択則を決める(第 5 節)。
- 厳密に解ける Schwinger 模型で、Coulomb ゲージの質量生成と、共変ゲージの演算子解の Krein 構造を比べる(第 6 節)。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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