局所 definitizability と Krein 空間の摂動論:Pontryagin・Langer の定理の証明、正型スペクトル点、例外点
対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の Krein 空間と J 自己共役作用素、Hilbert 空間のスペクトル定理と不動点定理(Schauder 型)の初歩を学んだ人。Langer の証明は仮定しません。
前提となる記事:Krein 空間上の作用素:J 自己共役性・Pontryagin の定理・definitizable 作用素と J ユニタリな時間発展
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”普通の量子力学では、状態ベクトルの長さの二乗は必ず正です。この記事では、その長さの二乗が負になる状態も許す空間で、エネルギーを表す作用素のスペクトルを調べます。結論を先取りすると、正の長さをもつ状態だけに対応するスペクトルの部分は、通常の量子力学と同じ道具で扱えます。負の状態が同じエネルギー領域に混ざる点でだけ、複素数のエネルギーのような新しい現象が起こります。読み終えると、どの範囲で通常の理論を使ってよく、どこから使えないかを見分けられるようになります。
- Krein 空間上の作用素 で主張だけを述べた 2 つの基本定理を証明します。Pontryagin の不変部分空間定理は、角作用素の空間の弱コンパクト性と Schauder–Tychonoff の不動点定理、そして作用素を と「散逸的」にずらす近似で証明できます。Langer のスペクトル関数は、J 非負な有界作用素 について、形式 を内積とする Hilbert 空間に を持ち上げ、そこでのスペクトル測度を を掛けて引き戻すことで構成できます。
- 実の点 が**正型のスペクトル点であることは、近似固有ベクトル( で がほぼ になるベクトルの列)が一様に正であることと言い換えられ、その近傍では実でないスペクトルがなく、レゾルベントは で抑えられます。スペクトルがすべて実で正型の点だけからなる有界 J 自己共役作用素の空間は、Stone の公式を Krein 空間で使うことで一様に正、すなわち Hilbert 空間であることが示せます(Langer–Markus–Matsaev の定理)。ここから、端点がレゾルベント集合に入る区間の局所スペクトル関数**が得られます。
- 正型の点はコンパクトな摂動で「有限個の例外を許す正型」(型 )に変わります(Azizov–Jonas–Trunk)。埋め込まれた負ノルムの固有値が正ノルムの連続スペクトルと結合すると、Hilbert 空間なら共鳴になるところが、Krein 空間では本物の複素固有値の対になることを例で確かめます。
- 擬エルミート量子論の計量作用素 は、スペクトルが正型の部分と負型の部分に分かれれば として有界・有界な逆つきで作れます。臨界点に例外点(行列が対角化できなくなるパラメータの値)が集積すると計量は非有界になり、ハミルトニアンは自己共役作用素と相似でなくなります。2 次元の例外点では固有値は の Puiseux 展開をもち、固有ベクトルは中立に近づきます。定まった型の固有値は小さな摂動で実軸を離れません(Krein–Gelfand–Lidskii)。
Krein 空間上の作用素の章では、Krein 空間の J 自己共役作用素について 2 つの大きな定理を述べました。1 つは Pontryagin 空間での不変部分空間の存在、もう 1 つは definitizable 作用素の Langer スペクトル関数です。どちらも証明は筋道だけでした。さらに、物理で出会う作用素はしばしば definitizable ではありません。自由光子のハミルトニアンがその例でした(例 5.7[Krein 空間上の作用素])。正ノルムと負ノルムの状態が同じエネルギー領域に重なっているからです。
それでも、スペクトルの一部分だけを見れば Hilbert 空間のように振る舞うことはよくあります。たとえば 不定計量の模型 の Lee 模型では、ゴースト(負ノルムの束縛状態)は孤立した点で、散乱状態のエネルギー領域は正ノルムの状態だけでできています。このような「局所的に正」の状況を扱うのが、Langer・Markus・Matsaev と Jonas による局所 definitizability の理論です。本章ではその骨格を、次の順で証明つきで述べます。
- Pontryagin の定理(第 3 節)と、J 非負作用素の Langer スペクトル関数(第 4 節)を証明し、Krein 空間上の作用素の章の主張に証明を与えます。
- 正型のスペクトル点を近似固有ベクトルで特徴づけ、正型の点だけからなるスペクトル集合が Hilbert 空間を張ることを示します(第 5 節)。
- コンパクトな摂動で正型がどう変わるかを調べます(第 6 節)。
- 物理への応用として、擬エルミート量子論の計量作用素の有界性(第 7 節)と、例外点での固有値の振る舞い(第 8 節)を扱います。
記法は前章までに従います。 は Krein 空間、 は許容的な基本対称、 と はその J 内積と J ノルム、 は不定内積で、 です(命題 3.4[Krein 空間と J 内積])。本章の作用素は断らない限り有界です。 と書きます。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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