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Krein 空間上の作用素:J 自己共役性・Pontryagin の定理・definitizable 作用素と J ユニタリな時間発展

対象読者: 本テーマ第 1 章の Krein 空間と J 内積、および Hilbert 空間上の非有界自己共役作用素とスペクトルの基礎を学んだ人。不定計量上の作用素論は仮定しません。

前提となる記事:Krein 空間と J 内積:基本分解・位相の一意性・最大非負部分空間・商空間による正定値化

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通常の量子力学では、エネルギーを表す作用素の固有値は実数で、時間がたっても確率の合計は 1 のままです。ところが、内積が負の値もとり得る空間(不定計量の空間)では、固有値が複素数になったり、ベクトルの長さが時間とともに増えたりすることがあります。この記事は、そうした空間の上の作用素について、通常の理論がどこまで使えるかを調べ、最後に確率の解釈を取り戻す方法を述べます。

  • Krein 空間の稠密に定義された作用素 AA の J 共役 A[∗]A^{[*]} を [Ax,y]=[x,A[∗]y][Ax,y]=[x,A^{[*]}y] で定めると、任意の基本対称 JJ について A[∗]=JA∗JA^{[*]}=JA^*J です。A=A[∗]A=A^{[*]} となる J 自己共役作用素は、JAJA が Hilbert 空間の意味で自己共役であることと同値です。
  • J 自己共役作用素のスペクトルは実軸に関して対称(z∈σ(A)⇔zˉ∈σ(A)z\in\sigma(A)\Leftrightarrow\bar z\in\sigma(A))ですが、実軸に乗るとは限りません。実でない固有値の固有ベクトルは中立([x,x]=0[x,x]=0 となるベクトル)で、2 次元の C1,1\mathbb{C}^{1,1} ですでに固有値 ±i\pm i や Jordan ブロックが現れ、無限次元ではスペクトルが複素平面全体になることさえあります。
  • Pontryagin 空間 Πκ\Pi_\kappa では状況が大きく改善します。実でない固有値は上半平面に重複度込みで高々 κ\kappa 個しかなく(本章で証明)、さらに Pontryagin の定理により κ\kappa 次元の非正な不変部分空間が存在します。ここから Πκ\Pi_\kappa の有界 J 自己共役作用素は definitizable であることが従います。
  • definitizable 作用素は、実係数多項式 p≠0p\ne0 で [p(A)x,x]≥0[p(A)x,x]\ge0 となるものが存在する J 自己共役作用素です。実でないスペクトルは pp の零点に限られ、有限個の臨界点を除けば、Hilbert 空間の自己共役作用素と同様のスペクトル分解(Langer のスペクトル関数)をもちます。ファインマンゲージの自由光子のハミルトニアンは J 自己共役ですが definitizable ではありません。
  • −iH-iH が強連続群を生成するとき、HH が J 自己共役であることと e−itHe^{-itH} が J ユニタリ(不定計量を保つ)であることは同値です。ただし J ユニタリ作用素のノルムは指数関数的に増大し得るので、確率の保存は自動的には成り立ちません。時間発展で不変な非負部分空間があれば、その商の完備化の上に通常のユニタリ時間発展が引き起こされます。これが不定計量の量子論で確率解釈を回復する標準的な手続きです。

前章で Krein 空間の幾何を整えました。物理で必要なのは、その上の作用素、とくにハミルトニアンと時間発展です。ファインマンゲージの光子では、ハミルトニアン H^\hat H は不定計量について「エルミート」でした(命題 4.3[電磁場の量子化とゲージ固定])。不定計量についてエルミートであるとは、Krein 空間の言葉では J 自己共役であることです。

Hilbert 空間の自己共役作用素には、実スペクトル、スペクトル定理、Stone の定理によるユニタリ群という 3 点が揃っています。J 自己共役作用素では、この 3 点がすべて崩れ得ます。スペクトルは複素数になり得て、固有ベクトルは完全系をなさず(Jordan ブロック)、時間発展 e−itHe^{-itH} は不定計量を保つ一方でノルムが増大し得ます。実際、Lee 模型やゴースト場を含む模型では、ハミルトニアンが複素固有値をもつことが知られています。

それでも、どの程度まで Hilbert 空間の理論が生き残るかには、はっきりした答えがあります。

  1. 負の方向が有限次元(Pontryagin 空間)なら、悪い部分は有限次元に閉じ込められます(Pontryagin の定理)。
  2. 負の方向が無限次元でも、多項式で「正にできる」作用素(definitizable 作用素)なら、有限個の点を除いてスペクトル分解が存在します(Langer の定理)。
  3. 時間発展について言えば、スペクトル理論を経由せずに、不変な非負部分空間の上で直接ユニタリ性を回復できます。

本章では 1 と 2 の主張を正確に述べ、証明が短い部分は証明します。3 は Gupta–Bleuler 形式(次章)と BRST 形式の数学的な核心なので、完全な証明を与えます。

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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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