コンテンツにスキップ

線形化重力の Krein 量子化:Fierz–Pauli 場・de Donder ゲージ・Gupta–Bleuler 型条件と重力子の Fock 空間

対象読者: 本テーマ第 1〜3 章と Proca 場の章の内容、および一般相対論の計量テンソルと線形化の初歩を学んだ人。重力子の量子化は仮定しません。

前提となる記事:質量のあるベクトル場:Proca 場の Fock 量子化・Stueckelberg 場の Krein–Fock 実現と物理商・質量 0 極限

生 Markdown

重力波のように弱い重力を量子の言葉で扱うと、「重力子」の状態にはどの向きの揺れが本当に物理的なのか、という問いが出ます。時空の揺れを表す場は 10 個の成分をもちますが、実際に伝わる向きは 2 種類だけです。この記事は、計算しやすい共変な形で 10 成分すべてを一度量子化し、そこから物理的な 2 種類だけを取り出す手順を、電磁場での同じ手順を手がかりに、厳密に示します。読み終えると、余分な成分が観測量に影響しない理由を説明できます。

  • 線形化重力の場 hμνh_{\mu\nu} は 10 成分の対称テンソル場で、Fierz–Pauli 作用から de Donder 条件 Dν=∂μhμν−12∂νh=0D_\nu=\partial^\mu h_{\mu\nu}-\frac12\partial_\nu h=0 の 2 乗を引くと、ラグランジアンは −12Gμνρσ∂λhμν∂λhρσ-\frac12G^{\mu\nu\rho\sigma}\partial_\lambda h_{\mu\nu}\partial^\lambda h_{\rho\sigma} という「10 個の質量 0 のスカラー場」の形になります。係数行列 Gμνρσ=12(gμρgνσ+gμσgνρ−gμνgρσ)G^{\mu\nu\rho\sigma}=\frac12(g^{\mu\rho}g^{\nu\sigma}+g^{\mu\sigma}g^{\nu\rho}-g^{\mu\nu}g^{\rho\sigma})(DeWitt 計量)は符号数 (6,4)(6,4) です。
  • この GG を 1 粒子空間の不定内積(正にも負にもなる内積)として、場を Krein–Fock 空間(不定内積をもつ Fock 空間。もとになる空間は Krein 空間)上の作用素値超関数(試験関数ごとに作用素が決まる対応)として構成します。2 点関数は GμνρσD+G^{\mu\nu\rho\sigma}D^+ で、場は J 対称(不定内積の意味での対称性)・局所的で、□h=0\Box h=0 を満たします。負ノルムの方向は、混合成分 h0ih_{0i} の 3 つと共形モード hμν∝gμνh_{\mu\nu}\propto g_{\mu\nu} の 1 つです。
  • de Donder 条件の正振動数部分で物理的状態を選ぶと、1 粒子空間では中立(部分空間のどの 2 つの元の内積も 00)な「ゲージ重力子」の部分空間 g\mathfrak g(4 次元/運動量)と、その J 直交補空間 hphys={kμaμν=0}\mathfrak h_{\mathrm{phys}}=\{k^\mu a_{\mu\nu}=0\}(6 次元/運動量)が現れ、hphys\mathfrak h_{\mathrm{phys}} は横波・トレースレス(TT)の 2 偏極 t\mathfrak t と g\mathfrak g の直交直和になります。これは 前章 の Gupta–Bleuler 三つ組で、物理的な商は 2 偏極の重力子の Fock 空間と等長同型です。
  • 零ノルム状態の付加は、場の行列要素を試験関数の発散 ∂μfμν\partial^\mu f_{\mu\nu} だけに依存する量だけずらします。これは線形化された座標変換 hμν↦hμν+∂μξν+∂νξμh_{\mu\nu}\mapsto h_{\mu\nu}+\partial_\mu\xi_\nu+\partial_\nu\xi_\mu の量子版です。発散が 00 の試験関数で均した場、とくに線形化された Riemann テンソルは商空間に降ります。

Einstein 方程式 の第 6・7 節で見たように、平坦な時空からのずれ hμνh_{\mu\nu} を 1 次まで扱うと、一般相対性理論は Minkowski 時空の上の対称テンソル場の理論になり、その作用は Fierz–Pauli 作用(定理 7.1[Einstein 方程式])です。座標変換の自由度はゲージ変換 hμν↦hμν+∂μξν+∂νξμh_{\mu\nu}\mapsto h_{\mu\nu}+\partial_\mu\xi_\nu+\partial_\nu\xi_\mu(命題 6.2[Einstein 方程式])として現れ、物理的な自由度は重力波の 2 偏極だけです。

これは電磁場とまったく同じ構造です。ゲージ不変性のために正準量子化がそのままではできず、Coulomb ゲージに相当する TT ゲージで物理的な自由度だけを残すと Lorentz 共変性が見えなくなり、共変なゲージ(de Donder ゲージ、調和ゲージ)を選ぶと不定計量が現れます。Gupta(1952)は電磁場の Gupta–Bleuler 形式を線形化重力に拡張しました。本章はその数学的な内容を、前章で用意した Gupta–Bleuler 三つ組の定理(定理 4.3[質量のあるベクトル場])の応用として完結した形で述べます。

電磁場との違いは主に 2 つあります。第 1 に、ゲージ自由度が 1 つではなくベクトル ξν\xi_\nu の 4 つで、補助条件も 4 本です。第 2 に、場の 1 粒子空間の不定内積が単純な −gμν-g_{\mu\nu} ではなく、トレースの項を含む DeWitt 計量で、負の方向が 4 つあります。そのうち共形モード(トレース部分)の負ノルムは、Euclid 化した重力の経路積分で作用が下に有界でない「共形因子の問題」と同じ起源をもちます。

本章の流れは次のとおりです。第 2 節で DeWitt 計量の符号数を決め、Fierz–Pauli 作用との関係を確かめます。第 3 節で Krein–Fock 空間上の重力場を構成します。第 4 節で de Donder 条件の 1 粒子構造を決めて主定理を証明し、第 5 節でゲージ変換と観測量を扱います。

記法は前章までに従います。g=diag(1,−1,−1,−1)g=\mathrm{diag}(1,-1,-1,-1)、dμ0=d3k/((2π)32∣k∣)d\mu_0=d^3k/((2\pi)^32|\boldsymbol k|)、k=(∣k∣,k)k=(|\boldsymbol k|,\boldsymbol k)、f^(k)=∫eik⋅xf(x) d4x\hat f(k)=\int e^{ik\cdot x}f(x)\,d^4x、(Ef)(k)=f^(∣k∣,k)(Ef)(\boldsymbol k)=\hat f(|\boldsymbol k|,\boldsymbol k)、S0(φ,ψ)=∫φˉ^‾ψ^ dμ0S_0(\varphi,\psi)=\int\overline{\widehat{\bar\varphi}}\hat\psi\,d\mu_0 です(補題 2.1[質量のあるベクトル場] の前の定義)。

ここから先は有料(買い切り ¥200)の内容です。

この章は博士課程以上・研究水準の内容です。続き(定義・定理・証明・例・演習)は ¥200 の買い切りで、他の有料章と 100 本ノックも含めてすべて読めます。無料の章は最後まで読めます。

購入する ログイン

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。