# 線形化重力の Krein 量子化：Fierz–Pauli 場・de Donder ゲージ・Gupta–Bleuler 型条件と重力子の Fock 空間

> 線形化重力の対称テンソル場を de Donder ゲージで固定し、符号数 (6,4) の DeWitt 計量をもつ Krein–Fock 空間上に構成する。de Donder 条件の正振動数部分で選んだ物理的状態の商が、2 偏極の重力子の Fock 空間と等長同型であることを Gupta–Bleuler 三つ組として証明する。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/indefinite-metric/linearized-gravity-krein

## 0. この記事の要点

重力波のように弱い重力を量子の言葉で扱うと、「重力子」の状態にはどの向きの揺れが本当に物理的なのか、という問いが出ます。時空の揺れを表す場は 10 個の成分をもちますが、実際に伝わる向きは 2 種類だけです。この記事は、計算しやすい共変な形で 10 成分すべてを一度量子化し、そこから物理的な 2 種類だけを取り出す手順を、電磁場での同じ手順を手がかりに、厳密に示します。読み終えると、余分な成分が観測量に影響しない理由を説明できます。

- 線形化重力の場 $h_{\mu\nu}$ は 10 成分の対称テンソル場で、Fierz–Pauli 作用から de Donder 条件 $D_\nu=\partial^\mu h_{\mu\nu}-\frac12\partial_\nu h=0$ の 2 乗を引くと、ラグランジアンは $-\frac12G^{\mu\nu\rho\sigma}\partial_\lambda h_{\mu\nu}\partial^\lambda h_{\rho\sigma}$ という「10 個の質量 0 のスカラー場」の形になります。係数行列 $G^{\mu\nu\rho\sigma}=\frac12(g^{\mu\rho}g^{\nu\sigma}+g^{\mu\sigma}g^{\nu\rho}-g^{\mu\nu}g^{\rho\sigma})$（DeWitt 計量）は符号数 $(6,4)$ です。
- この $G$ を 1 粒子空間の不定内積（正にも負にもなる内積）として、場を Krein–Fock 空間（不定内積をもつ [Fock 空間](/physics/qft/why-quantum-field-theory#def-fock-space)。もとになる空間は [Krein 空間](/physics/indefinite-metric/krein-spaces#def-krein-space)）上の作用素値超関数（試験関数ごとに作用素が決まる対応）として構成します。2 点関数は $G^{\mu\nu\rho\sigma}D^+$ で、場は [J 対称](/physics/indefinite-metric/krein-operators#def-j-selfadjoint)（不定内積の意味での対称性）・局所的で、$\Box h=0$ を満たします。負ノルムの方向は、混合成分 $h_{0i}$ の 3 つと共形モード $h_{\mu\nu}\propto g_{\mu\nu}$ の 1 つです。
- de Donder 条件の正振動数部分で物理的状態を選ぶと、1 粒子空間では中立（部分空間のどの 2 つの元の内積も $0$）な「ゲージ重力子」の部分空間 $\mathfrak g$（4 次元/運動量）と、その J 直交補空間 $\mathfrak h_{\mathrm{phys}}=\{k^\mu a_{\mu\nu}=0\}$（6 次元/運動量）が現れ、$\mathfrak h_{\mathrm{phys}}$ は横波・トレースレス（TT）の 2 偏極 $\mathfrak t$ と $\mathfrak g$ の直交直和になります。これは [前章](/physics/indefinite-metric/proca-stueckelberg) の Gupta–Bleuler 三つ組で、物理的な商は 2 偏極の重力子の Fock 空間と等長同型です。
- 零ノルム状態の付加は、場の行列要素を試験関数の発散 $\partial^\mu f_{\mu\nu}$ だけに依存する量だけずらします。これは線形化された座標変換 $h_{\mu\nu}\mapsto h_{\mu\nu}+\partial_\mu\xi_\nu+\partial_\nu\xi_\mu$ の量子版です。発散が $0$ の試験関数で均した場、とくに線形化された Riemann テンソルは商空間に降ります。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **Fierz–Pauli 作用**: 平坦な時空からのわずかなずれ $h_{\mu\nu}$ を動的な場と見たときの、線形化重力の作用。→ [Einstein 方程式](/physics/general-relativity/einstein-equations)
- **de Donder ゲージ**: 座標の取り方の自由度を、$D_\nu=0$ という条件で固定する共変な選び方。→ [Einstein 方程式](/physics/general-relativity/einstein-equations)
- **符号数**: 不定内積の行列で、正の固有値と負の固有値がそれぞれ何個あるかを表す組。この記事では $(6,4)$。
- **Krein 空間と J 対称**: 負のノルムも許す内積空間と、その内積について対称な作用素。→ [Krein 空間](/physics/indefinite-metric/krein-spaces#def-krein-space)、[J 対称](/physics/indefinite-metric/krein-operators#def-j-selfadjoint)
- **Gupta–Bleuler 三つ組**: 物理的な部分空間とゲージ部分空間の組み合わせ方を定めた枠組み。→ [Proca 場の章](/physics/indefinite-metric/proca-stueckelberg#thm-gb-triple)
- **TT ゲージ**: 横波かつトレースレスの成分だけを残す非共変なゲージ。重力波の 2 偏極に当たる。

</Aside>

## 1. 動機

[Einstein 方程式](/physics/general-relativity/einstein-equations) の第 6・7 節で見たように、平坦な時空からのずれ $h_{\mu\nu}$ を 1 次まで扱うと、一般相対性理論は Minkowski 時空の上の対称テンソル場の理論になり、その作用は Fierz–Pauli 作用（<Ref to="physics/general-relativity/einstein-equations#thm-fierz-pauli" />）です。座標変換の自由度はゲージ変換 $h_{\mu\nu}\mapsto h_{\mu\nu}+\partial_\mu\xi_\nu+\partial_\nu\xi_\mu$（<Ref to="physics/general-relativity/einstein-equations#prop-linear-gauge" />）として現れ、物理的な自由度は重力波の 2 偏極だけです。

これは電磁場とまったく同じ構造です。ゲージ不変性のために正準量子化がそのままではできず、Coulomb ゲージに相当する TT ゲージで物理的な自由度だけを残すと Lorentz 共変性が見えなくなり、共変なゲージ（de Donder ゲージ、調和ゲージ）を選ぶと不定計量が現れます。Gupta（1952）は電磁場の Gupta–Bleuler 形式を線形化重力に拡張しました。本章はその数学的な内容を、前章で用意した Gupta–Bleuler 三つ組の定理（<Ref to="physics/indefinite-metric/proca-stueckelberg#thm-gb-triple" />）の応用として完結した形で述べます。

電磁場との違いは主に 2 つあります。第 1 に、ゲージ自由度が 1 つではなくベクトル $\xi_\nu$ の 4 つで、補助条件も 4 本です。第 2 に、場の 1 粒子空間の不定内積が単純な $-g_{\mu\nu}$ ではなく、トレースの項を含む DeWitt 計量で、負の方向が 4 つあります。そのうち共形モード（トレース部分）の負ノルムは、Euclid 化した重力の経路積分で作用が下に有界でない「共形因子の問題」と同じ起源をもちます。

本章の流れは次のとおりです。第 2 節で DeWitt 計量の符号数を決め、Fierz–Pauli 作用との関係を確かめます。第 3 節で Krein–Fock 空間上の重力場を構成します。第 4 節で de Donder 条件の 1 粒子構造を決めて主定理を証明し、第 5 節でゲージ変換と観測量を扱います。

記法は前章までに従います。$g=\mathrm{diag}(1,-1,-1,-1)$、$d\mu_0=d^3k/((2\pi)^32|\boldsymbol k|)$、$k=(|\boldsymbol k|,\boldsymbol k)$、$\hat f(k)=\int e^{ik\cdot x}f(x)\,d^4x$、$(Ef)(\boldsymbol k)=\hat f(|\boldsymbol k|,\boldsymbol k)$、$S_0(\varphi,\psi)=\int\overline{\widehat{\bar\varphi}}\hat\psi\,d\mu_0$ です（<Ref to="physics/indefinite-metric/proca-stueckelberg#lem-scalar-locality" /> の前の定義）。

（この章の続きは購入者向けです。）
