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非可換ゲージ理論の量子化:FP ゴースト・BRST 対称性・漸近的自由・カイラル・アノマリー

対象読者: 本テーマ前章までのQED量子化・経路積分・ファデーエフ-ポポフの方法と、リー代数の基礎を学んだ人。非可換ゲージ理論は未習で構いません。

前提となる記事:QED の 1 ループ:真空偏極・電子の異常磁気モーメント・Ward–高橋恒等式

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電磁気の理論では、光子は電荷をもたず、光子どうしは直接ぶつかりません。ところが、強い力を伝える粒子(グルーオン)は自分自身が「色」という荷をもち、互いに引き合ったり散乱したりします。この記事では、そのような理論を量子論として矛盾なく扱うために、ゲージ場の「冗長さ」を片付ける新しい道具(ゴーストと BRST 対称性)が必要になる理由を順に見ます。読み終えると、結合定数が高エネルギーで弱くなる理由と、ゲージ理論に載せられるフェルミオンの電荷に制約がつく理由を説明できます。

  • 非可換ゲージ理論は、Lie 代数の生成子 [ta,tb]=ifabctc[t^a,t^b]=if^{abc}t^c と共変微分 Dμ=∂μ−igAμataD_\mu=\partial_\mu-igA^a_\mu t^a で定まります。場の強さ Fμνa=∂μAνa−∂νAμa+gfabcAμbAνcF^a_{\mu\nu}=\partial_\mu A^a_\nu-\partial_\nu A^a_\mu+gf^{abc}A^b_\mu A^c_\nu が AA の 2 次の項を含むので、ゲージ場自身が「色荷」をもち、自己相互作用します。
  • ファデーエフ–ポポフの方法でゲージを固定すると、行列式 det⁡(∂μDμ)\det(\partial^\mu D_\mu) が AA に依存するので定数として外に出せず、反可換なスカラー場(ゴースト c,cˉc,\bar c)の積分として作用に取り込む必要があります。QED では fabc=0f^{abc}=0 なのでゴーストは結合しません。大域的には、ゲージ固定面が軌道と複数回交わるグリボフ曖昧さ(ゲージ固定の条件を満たす配位が、同じ物理的状態に対して複数あること)が残ります。
  • ゲージ固定した作用は BRST 変換 ss の下で不変で、s2=0s^2=0(べき零)です。補助場 BaB^a を入れないとべき零性は運動方程式を使わなければ成り立ちません。物理的状態は BRST 電荷のコホモロジー Ker Q^B/Im Q^B\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B}/\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B}(Q^B\hat Q_{\mathrm B} を作用させて 00 になる状態の集まりを、Q^B\hat Q_{\mathrm B} の像にあたる状態を同一視して整理したもの)で与えられ、その上で計量は正定値、S 行列はユニタリです(Kugo–Ojima)。
  • 1 ループのβ関数は β(g)=−(113N−23nf)g316π2\beta(g)=-\big(\frac{11}{3}N-\frac23n_f\big)\frac{g^3}{16\pi^2}(SU(N)SU(N)、基本表現の Dirac フェルミオン nfn_f 種)で、nf<112Nn_f\lt\frac{11}{2}N なら負です。結合は高エネルギーで 00 に近づき(漸近的自由)、QED の Landau 極とは逆の振る舞いをします。
  • 軸性カレントは古典的には(質量 00 で)保存しますが、量子論では三角図により ∂μj^μ5=−e216π2ϵαβμνFαβFμν\partial_\mu\hat j^{\mu5}=-\frac{e^2}{16\pi^2}\epsilon^{\alpha\beta\mu\nu}F_{\alpha\beta}F_{\mu\nu} と破れます(ABJ アノマリー)。ゲージ対称性に結合するカイラルなフェルミオンについては、tr(ta{tb,tc})\mathrm{tr}\big(t^a\{t^b,t^c\}\big) が左巻きと右巻きで打ち消し合うことが理論の無矛盾性の条件です。

1. 動機:自分自身に電荷をもつゲージ場

Section titled “1. 動機:自分自身に電荷をもつゲージ場”

ゲージ理論と自発的対称性の破れでは、位相変換 U(1)U(1) を時空の各点で独立に行えるように要請すると電磁場が現れることを見ました。Yang と Mills は 1954 年、この考えをアイソスピン SU(2)SU(2) のような可換でない群に拡張しました。その結果生じるゲージ場は、光子と違って自分自身と相互作用します。量子色力学(QCD、SU(3)SU(3))と電弱理論(SU(2)×U(1)SU(2)\times U(1))はいずれもこの型の理論です。

量子化は QED よりずっと難しくなります。困難は 3 つあります。

  1. ゲージ固定。 経路積分ではゲージ軌道の体積を割り出す必要があり、定理 7.2[経路積分量子化] のファデーエフ–ポポフ(FP)行列式が現れます。非可換の場合この行列式は場に依存し、新しい場(ゴースト)を導入しないと摂動論が書けません。
  2. 状態空間。 共変ゲージでは負ノルムの状態が現れます。QED では Gupta–Bleuler 条件で処理できましたが、非可換の場合は自己相互作用のためにこの条件が時間発展で保たれません。その一般化が BRST 対称性です。
  3. くりこみ。 ゲージ場の自己相互作用のために、β関数の符号が QED と逆になります。これが漸近的自由で、高エネルギーでクォークがほぼ自由に振る舞うこと(深非弾性散乱のスケーリング)を説明しました。

最後に、ゲージ対称性と両立しない量子効果としてカイラル・アノマリーを扱います。アノマリーは π0→γγ\pi^0\to\gamma\gamma の崩壊率を決める一方、ゲージ理論に現れると理論を壊すので、標準模型のフェルミオンの電荷には強い制約が付きます。記法は前章までと同じで、Peskin–Schroeder 第 15・16・19 章に従います。

定義 2.1(生成子と構造定数)↗

GG をコンパクトな単純 Lie 群(例:SU(N)SU(N))とし、その Lie 代数の基底を Hermite 行列 tat^a(a=1,…,dim⁡Ga=1,\dots,\dim G)で表します。構造定数 fabcf^{abc} を

[ta,tb]=ifabctc[t^a,t^b]=if^{abc}t^c

で定めます。基底を tr(tatb)∝δab\mathrm{tr}(t^at^b)\propto\delta^{ab} となるように選ぶと fabcf^{abc} は実数で、3 つの添字について完全反対称です。表現 rr の生成子 trat^a_r は同じ交換関係を満たす dim⁡r\dim r 次の Hermite 行列で、

tr(tratrb)=C(r)δab,tratra=C2(r)1\mathrm{tr}(t^a_rt^b_r)=C(r)\delta^{ab},\qquad t^a_rt^a_r=C_2(r)\mathbf 1

で表現の指数 C(r)C(r) と 2 次の Casimir 演算子 C2(r)C_2(r) を定めます。SU(N)SU(N) の基本表現 FF では C(F)=12C(F)=\frac12 と規格化します。

tr(tratra)\mathrm{tr}(t^a_rt^a_r) を 2 通りに計算すると C2(r)dim⁡r=C(r)dim⁡GC_2(r)\dim r=C(r)\dim G です。tatat^at^a が群の作用と可換なので、既約表現では Schur の補題により単位行列の定数倍になり、C2(r)C_2(r) が well-defined です。

定義 2.2(随伴表現)↗

dim⁡G\dim G 次の行列

(tGb)ac=ifabc(t^b_G)_{ac}=if^{abc}

を随伴表現の生成子と呼びます。CG≡C(G)=C2(G)C_G\equiv C(G)=C_2(G) と書きます。

命題 2.3(随伴表現は表現である)✓

tGbt^b_G は Hermite 行列で、[tGa,tGb]=ifabctGc[t^a_G,t^b_G]=if^{abc}t^c_G を満たします。この等式は Jacobi 恒等式

fabefecd+fbcefead+fcaefebd=0f^{abe}f^{ecd}+f^{bce}f^{ead}+f^{cae}f^{ebd}=0

と同値です。

証明(命題 2.3)

ff が実で完全反対称なので (tGb)ca‾=−ifcba=ifabc\overline{(t^b_G)_{ca}}=-if^{cba}=if^{abc} となり、Hermite です。任意の表現で [[ta,tb],tc]+[[tb,tc],ta]+[[tc,ta],tb]=0[[t^a,t^b],t^c]+[[t^b,t^c],t^a]+[[t^c,t^a],t^b]=0 が成り立ちます。左辺は ifabe[te,tc]=−fabefecdtdif^{abe}[t^e,t^c]=-f^{abe}f^{ecd}t^d などの和なので、tdt^d の線形独立性から Jacobi 恒等式が出ます。一方

([tGa,tGb])de=(ifdak)(ifkbe)−(ifdbk)(ifkae)=−fdakfkbe+fdbkfkae([t^a_G,t^b_G])_{de}=(if^{dak})(if^{kbe})-(if^{dbk})(if^{kae})=-f^{dak}f^{kbe}+f^{dbk}f^{kae}

で、ifabc(tGc)de=−fabcfdceif^{abc}(t^c_G)_{de}=-f^{abc}f^{dce} です。ff の反対称性で fdbkfkae=−fbdkfkaef^{dbk}f^{kae}=-f^{bdk}f^{kae}、fabkfdke=−fabkfkdef^{abk}f^{dke}=-f^{abk}f^{kde} と書き直すと、両者の差は

−fdakfkbe+fdbkfkae+fabkfdke=−(fabkfkde+fbdkfkae+fdakfkbe)-f^{dak}f^{kbe}+f^{dbk}f^{kae}+f^{abk}f^{dke}=-\big(f^{abk}f^{kde}+f^{bdk}f^{kae}+f^{dak}f^{kbe}\big)

で、括弧の中は Jacobi 恒等式(添字 (a,b,c,d)(a,b,c,d) を (a,b,d,e)(a,b,d,e) に、和の添字を kk に付け替えたもの)なので 00 です。

随伴表現は Lie 代数そのものへの作用 X↦[tb,X]X\mapsto[t^b,X] です。ゲージ場 AμaA^a_\mu とゴースト cac^a はこの表現に属し、その共変微分は (Dμϕ)a=∂μϕa+gfabcAμbϕc(D_\mu\phi)^a=\partial_\mu\phi^a+gf^{abc}A^b_\mu\phi^c、すなわち Dμac=δac∂μ+gfabcAμbD^{ac}_\mu=\delta^{ac}\partial_\mu+gf^{abc}A^b_\mu です。

例 2.4(SU(2) の構造定数と Casimir)

SU(2)SU(2) では ta=σa/2t^a=\sigma^a/2(Pauli 行列)で [ta,tb]=iϵabctc[t^a,t^b]=i\epsilon^{abc}t^c、つまり fabc=ϵabcf^{abc}=\epsilon^{abc} です。基本表現は C(F)=12C(F)=\frac12、C2(F)=12(12+1)=34C_2(F)=\frac12\big(\frac12+1\big)=\frac34 で、確かに C2(F)⋅2=C(F)⋅3C_2(F)\cdot2=C(F)\cdot3 です。随伴表現は (tGb)ac=iϵabc(t^b_G)_{ac}=i\epsilon^{abc} で、tr(tGatGb)=−ϵcadϵdbc=∑c,dϵacdϵbcd=2δab\mathrm{tr}(t^a_Gt^b_G)=-\epsilon^{cad}\epsilon^{dbc}=\sum_{c,d}\epsilon^{acd}\epsilon^{bcd}=2\delta^{ab} なので CG=2C_G=2 です。これはスピン 1 の j(j+1)=2j(j+1)=2 に一致します。一般の SU(N)SU(N) では C2(F)=N2−12NC_2(F)=\frac{N^2-1}{2N}、CG=NC_G=N です(次の補題)。

補題 2.5(SU(N) の Casimir)✓

SU(N)SU(N) の基本表現の生成子を tr(tatb)=12δab\mathrm{tr}(t^at^b)=\frac12\delta^{ab}(すなわち C(F)=12C(F)=\frac12)と規格化すると、

∑a(ta)ij(ta)kl=12(δilδjk−1Nδijδkl),C2(F)=N2−12N,facdfbcd=Nδab  (CG=N).\sum_a(t^a)_{ij}(t^a)_{kl}=\frac12\Big(\delta_{il}\delta_{jk}-\frac1N\delta_{ij}\delta_{kl}\Big),\qquad C_2(F)=\frac{N^2-1}{2N},\qquad f^{acd}f^{bcd}=N\delta^{ab}\ \ (C_G=N).
証明(補題 2.5)

完全性。 N×NN\times N 複素行列の空間に内積 (X,Y)=tr(X†Y)(X,Y)=\mathrm{tr}(X^\dagger Y) を入れると、{2 ta}\{\sqrt2\,t^a\} と 1N1\frac{1}{\sqrt N}\mathbf 1 は正規直交基底です(tat^a はトレース 00 の Hermite 行列 N2−1N^2-1 個で、1\mathbf 1 と直交)。正規直交基底 {eα}\{e_\alpha\} について ∑α(eα)ij(eα)lk‾=δilδjk\sum_\alpha(e_\alpha)_{ij}\overline{(e_\alpha)_{lk}}=\delta_{il}\delta_{jk} で、Hermite 性から (ta)lk‾=(ta)kl\overline{(t^a)_{lk}}=(t^a)_{kl} なので 2∑a(ta)ij(ta)kl+1Nδijδkl=δilδjk2\sum_a(t^a)_{ij}(t^a)_{kl}+\frac1N\delta_{ij}\delta_{kl}=\delta_{il}\delta_{jk} です。

C2(F)C_2(F)。 j=kj=k として和をとると ∑a(tata)il=12(N−1N)δil=N2−12Nδil\sum_a(t^at^a)_{il}=\frac12\big(N-\frac1N\big)\delta_{il}=\frac{N^2-1}{2N}\delta_{il} です。

CGC_G。 完全性から、任意の行列 X,YX,Y について ∑dtdXtd=12(trX 1−1NX)\sum_dt^dXt^d=\frac12\big(\mathrm{tr}X\,\mathbf 1-\frac1NX\big)、∑dtr(Xtd)tr(Ytd)=12(tr(XY)−1NtrX trY)\sum_d\mathrm{tr}(Xt^d)\mathrm{tr}(Yt^d)=\frac12\big(\mathrm{tr}(XY)-\frac1N\mathrm{tr}X\,\mathrm{tr}Y\big) です。[ta,tb]=ifabdtd[t^a,t^b]=if^{abd}t^d と規格化から fabc=−2i tr([ta,tb]tc)f^{abc}=-2i\,\mathrm{tr}([t^a,t^b]t^c) なので、tr[ta,tc]=0\mathrm{tr}[t^a,t^c]=0 に注意して

facdfbcd=−4∑c,dtr([ta,tc]td) tr([tb,tc]td)=−2∑ctr([ta,tc][tb,tc])f^{acd}f^{bcd}=-4\sum_{c,d}\mathrm{tr}([t^a,t^c]t^d)\,\mathrm{tr}([t^b,t^c]t^d)=-2\sum_c\mathrm{tr}\big([t^a,t^c][t^b,t^c]\big)

です。展開した 4 項 tr(tatctbtc)−tr(tatctctb)−tr(tctatbtc)+tr(tctatctb)\mathrm{tr}(t^at^ct^bt^c)-\mathrm{tr}(t^at^ct^ct^b)-\mathrm{tr}(t^ct^at^bt^c)+\mathrm{tr}(t^ct^at^ct^b) の cc の和は、上の公式と tr ta=0\mathrm{tr}\,t^a=0 から順に −14Nδab-\frac{1}{4N}\delta^{ab}、−12C2(F)δab-\frac12C_2(F)\delta^{ab}、−12C2(F)δab-\frac12C_2(F)\delta^{ab}、−14Nδab-\frac1{4N}\delta^{ab} です。和は −(12N+N2−12N)δab=−N2δab-\big(\frac1{2N}+\frac{N^2-1}{2N}\big)\delta^{ab}=-\frac N2\delta^{ab} で、−2-2 を掛けて facdfbcd=Nδabf^{acd}f^{bcd}=N\delta^{ab} です。随伴表現では tr(tGatGb)=(ifcad)(ifdbc)=facdfbcd\mathrm{tr}(t^a_Gt^b_G)=(if^{cad})(if^{dbc})=f^{acd}f^{bcd} なので CG=NC_G=N です。

2.2. ヤン–ミルズ・ラグランジアン

Section titled “2.2. ヤン–ミルズ・ラグランジアン”

定義 2.6(ヤン–ミルズ・ラグランジアン)↗

Aμ=AμataA_\mu=A^a_\mu t^a、結合定数を gg とし、表現 rr の Dirac 場 ψ\psi に対して共変微分と場の強さを

Dμ=∂μ−igAμatra,Fμνa=∂μAνa−∂νAμa+gfabcAμbAνcD_\mu=\partial_\mu-igA^a_\mu t^a_r,\qquad F^a_{\mu\nu}=\partial_\mu A^a_\nu-\partial_\nu A^a_\mu+gf^{abc}A^b_\mu A^c_\nu

で定めます。ヤン–ミルズ理論(物質場を含む)のラグランジアン密度は

Linv=−14FμνaFaμν+ψˉ(iD̸−m)ψ\mathcal L_{\mathrm{inv}}=-\frac14F^a_{\mu\nu}F^{a\mu\nu}+\bar\psi(i\not{D}-m)\psi

です。ゲージ変換は、αa(x)\alpha^a(x) を実関数、V(x)=exp⁡(iαa(x)ta)V(x)=\exp(i\alpha^a(x)t^a) として

ψ↦Vψ,Aμ↦VAμV−1−ig(∂μV)V−1\psi\mapsto V\psi,\qquad A_\mu\mapsto VA_\mu V^{-1}-\frac ig(\partial_\mu V)V^{-1}

で、無限小では δψ=iαataψ\delta\psi=i\alpha^at^a\psi、δAμa=1gDμabαb\delta A^a_\mu=\frac1gD^{ab}_\mu\alpha^b です。

命題 2.7(ゲージ共変性)✓

定義 2.6 の変換の下で Dμψ↦VDμψD_\mu\psi\mapsto V D_\mu\psi、Fμν≡Fμνata↦VFμνV−1F_{\mu\nu}\equiv F^a_{\mu\nu}t^a\mapsto VF_{\mu\nu}V^{-1} で、Linv\mathcal L_{\mathrm{inv}} は不変です。また Fμν=ig[Dμ,Dν]F_{\mu\nu}=\frac ig[D_\mu,D_\nu] です。

証明(命題 2.7)

変換後の共変微分は

(∂μ−igAμ′)Vψ=V∂μψ+(∂μV)ψ−igVAμψ−(∂μV)ψ=VDμψ(\partial_\mu-igA'_\mu)V\psi=V\partial_\mu\psi+(\partial_\mu V)\psi-igVA_\mu\psi-(\partial_\mu V)\psi=V D_\mu\psi

です(−igAμ′V=−igVAμ−(∂μV)-igA'_\mu V=-igVA_\mu-(\partial_\mu V) を代入しました)。よって作用素として Dμ′=VDμV−1D'_\mu=VD_\mu V^{-1} で、[Dμ′,Dν′]=V[Dμ,Dν]V−1[D'_\mu,D'_\nu]=V[D_\mu,D_\nu]V^{-1} です。[Dμ,Dν]=−ig(∂μAν−∂νAμ)+(−ig)2[Aμ,Aν][D_\mu,D_\nu]=-ig(\partial_\mu A_\nu-\partial_\nu A_\mu)+(-ig)^2[A_\mu,A_\nu] に [Aμ,Aν]=ifabcAμaAνbtc[A_\mu,A_\nu]=if^{abc}A^a_\mu A^b_\nu t^c を代入すると ig[Dμ,Dν]=Fμνata\frac ig[D_\mu,D_\nu]=F^a_{\mu\nu}t^a を得ます。基本表現で −14FaFa=−12tr(FμνFμν)-\frac14F^aF^a=-\frac12\mathrm{tr}(F_{\mu\nu}F^{\mu\nu}) で、トレースの巡回性から不変です。フェルミオンの項は ψˉ↦ψˉV−1\bar\psi\mapsto\bar\psi V^{-1}(VV はユニタリ)と Dψ↦VDψD\psi\mapsto VD\psi から不変です。無限小形は V=1+iαataV=1+i\alpha^at^a を代入し、i[αbtb,Actc]=−fbcaαbActai[\alpha^bt^b,A^ct^c]=-f^{bca}\alpha^bA^ct^a を使うと得られます。

注意 2.8(自己相互作用と QED との対応)

−14FaFa-\frac14F^aF^a を展開すると、自由なマクスウェル項 N2−1N^2-1 個のほかに、−gfabc(∂μAνa)AbμAcν-gf^{abc}(\partial_\mu A^a_\nu)A^{b\mu}A^{c\nu} と −g24feabfecdAμaAνbAcμAdν-\frac{g^2}4f^{eab}f^{ecd}A^a_\mu A^b_\nu A^{c\mu}A^{d\nu} が現れます。これが 3 点・4 点のグルーオン頂点です。ゲージ場がゲージ群の随伴表現に属して自分自身に荷電していることの表れで、光子が中性であることと対照的です。群を U(1)U(1)、t=1t=1、g=−eg=-e とすると Dμ=∂μ+ieAμD_\mu=\partial_\mu+ieA_\mu となり、前章までの QED の規約に戻ります(注意 4.6[摂動論とファインマン則])。

3. ファデーエフ–ポポフの方法とゴースト

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例 7.1[経路積分量子化] で見たように、ゲージ場の 2 次の作用はゲージ方向に退化していて、そのままでは伝播関数が定義できません。定理 7.2[経路積分量子化] はこの退化をゲージ固定条件 G(A)=ωG(A)=\omega とヤコビ行列式で処理する公式でした。これを非可換の場合に具体化します。

ここでの要点は、行列式を「反可換な数(グラスマン数)」の積分として書き直せる、という事実です。ゴーストは時空の上のスカラー場ですが、値が反可換な数なので、実際の粒子としては現れず、行列式を摂動論の頂点として扱うための計算上の道具にとどまります。

定理 3.1(ヤン–ミルズ理論のファデーエフ–ポポフ量子化)✓

次を仮定します。(i) 作用 Sinv=∫LinvS_{\mathrm{inv}}=\int\mathcal L_{\mathrm{inv}} と測度 DA Dψ Dψˉ\mathcal DA\,\mathcal D\psi\,\mathcal D\bar\psi はゲージ不変である。(ii) 各 AA と各 ωa(x)\omega^a(x) について、∂μ(Aα)μa=ωa\partial^\mu(A^\alpha)^a_\mu=\omega^a を満たすゲージ変換 α\alpha がただ 1 つ存在し、そこで FP 演算子 ∂μDμ\partial^\mu D_\mu は可逆である。(iii) O\mathcal O はゲージ不変な汎関数である。このとき、形式的な経路積分の意味で

⟨O⟩=∫DA Dψ Dψˉ Dc Dcˉ  O  eiSeff∫DA Dψ Dψˉ Dc Dcˉ  eiSeff,Leff=Linv−12ξ(∂μAμa)2+cˉa(−∂μDμab)cb\langle\mathcal O\rangle=\frac{\int\mathcal DA\,\mathcal D\psi\,\mathcal D\bar\psi\,\mathcal Dc\,\mathcal D\bar c\;\mathcal O\;e^{iS_{\mathrm{eff}}}}{\int\mathcal DA\,\mathcal D\psi\,\mathcal D\bar\psi\,\mathcal Dc\,\mathcal D\bar c\;e^{iS_{\mathrm{eff}}}},\qquad \mathcal L_{\mathrm{eff}}=\mathcal L_{\mathrm{inv}}-\frac{1}{2\xi}\big(\partial^\mu A^a_\mu\big)^2+\bar c^a\big(-\partial^\mu D^{ab}_\mu\big)c^b

が成り立ち、右辺は ξ>0\xi\gt0 によりません。ca,cˉac^a,\bar c^a は随伴表現に属する独立な反可換スカラー場(ファデーエフ–ポポフ・ゴースト)です。

証明(定理 3.1)

仮定 (i)(ii) の下で 定理 7.2[経路積分量子化] を Ga(A)=∂μAμaG^a(A)=\partial^\mu A^a_\mu に適用します。O\mathcal O はゲージ不変なので、同定理の証明の変数変換 A→A−αA\to A^{-\alpha} で O\mathcal O も変わらず、分子と分母に同じ Vol(G)\mathrm{Vol}(\mathcal G) が現れて約分されます。ヤコビ行列式は、無限小変換 δAμa=1gDμabαb\delta A^a_\mu=\frac1gD^{ab}_\mu\alpha^b から

δGa(Aα)δαb(y)∣α=0=1g∂μDμab δ4(x−y)\frac{\delta G^a(A^\alpha)}{\delta\alpha^b(y)}\Big|_{\alpha=0}=\frac1g\partial^\mu D^{ab}_\mu\,\delta^4(x-y)

です(行列式はゲージ不変なので、ゲージ固定面上の AA について α=0\alpha=0 で評価してよい)。定数 1/g1/g は分子と分母で約分されます。等式は任意の ω\omega で成り立つので、両辺に exp⁡(−i2ξ∫ωaωa)\exp\big(-\frac{i}{2\xi}\int\omega^a\omega^a\big) を掛けて ω\omega で積分しても分子と分母の比は変わらず、δ[∂A−ω]\delta[\partial A-\omega] が ω=∂A\omega=\partial A を強制してゲージ固定項 −12ξ(∂A)2-\frac{1}{2\xi}(\partial A)^2 を生みます。この操作は ξ\xi によらない量を ξ\xi に依存する形で書き直しただけなので、比は ξ\xi によりません。最後に、経路積分量子化の Appendix のグラスマン積分の公式 ∫∏dθˉidθi e−θˉTMθ=det⁡M\int\prod d\bar\theta_id\theta_i\,e^{-\bar\theta^{\mathsf T}M\theta}=\det M を無限次元に適用して det⁡(−∂μDμ)=∫Dc Dcˉ exp⁡(i∫cˉ(−∂D)c)\det(-\partial^\mu D_\mu)=\int\mathcal Dc\,\mathcal D\bar c\,\exp\big(i\int\bar c(-\partial D)c\big)(定数倍を除く)と書きます。

例 3.2(可換な場合はゴーストが切り離される)

G=U(1)G=U(1) では fabc=0f^{abc}=0 なので Dμ=∂μD_\mu=\partial_\mu となり、ゴーストのラグランジアンは cˉ(−∂2)c\bar c(-\partial^2)c です。これは AA にも ψ\psi にも結合しない自由場で、その経路積分は場によらない定数 det⁡(−∂2)\det(-\partial^2) を与えるだけです。分子と分母で約分されるので、QED ではゴーストを無視できます。電磁場の量子化で共変ゲージの量子化がゴーストなしに完結したのはこのためです。非可換の場合、ゴーストは頂点 cˉAc\bar cAc でグルーオンと結合し、ループの中を走ります。ゴーストを落とすと、グルーオンのループに含まれる縦波・時間成分の偏極の寄与が打ち消されず、光学定理(ユニタリ性)が破れます(Peskin–Schroeder 第 16 章 §16.3)。

注意 3.3(非可換ゲージ理論のファインマン則)

定理 3.1 の Leff\mathcal L_{\mathrm{eff}} から、摂動論とファインマン則と同じ手順で次の規則が得られます(Peskin–Schroeder 第 16 章 §16.2)。

要素因子
グルーオンの伝播関数−iδabk2+iε(gμν−(1−ξ)kμkνk2)\dfrac{-i\delta^{ab}}{k^2+i\varepsilon}\Big(g^{\mu\nu}-(1-\xi)\dfrac{k^\mu k^\nu}{k^2}\Big)
ゴーストの伝播関数iδabp2+iε\dfrac{i\delta^{ab}}{p^2+i\varepsilon}
フェルミオン–グルーオン頂点igγμtraig\gamma^\mu t^a_r
ゴースト–グルーオン頂点(cˉa\bar c^a 側の出射運動量 pp)−gfabcpμ-gf^{abc}p^\mu
3 グルーオン頂点(運動量 k,p,qk,p,q はすべて流入)gfabc[gμν(k−p)ρ+gνρ(p−q)μ+gρμ(q−k)ν]gf^{abc}\big[g^{\mu\nu}(k-p)^\rho+g^{\nu\rho}(p-q)^\mu+g^{\rho\mu}(q-k)^\nu\big]

4 グルーオン頂点は −ig2[fabefcde(gμρgνσ−gμσgνρ)+(b↔c, ν↔ρ)+(b↔d, ν↔σ)]-ig^2\big[f^{abe}f^{cde}(g^{\mu\rho}g^{\nu\sigma}-g^{\mu\sigma}g^{\nu\rho})+(b\leftrightarrow c,\ \nu\leftrightarrow\rho)+(b\leftrightarrow d,\ \nu\leftrightarrow\sigma)\big] です。ゴーストの閉じたループには、フェルミオンと同じく因子 −1-1 が付きます。ゴースト頂点は cˉa\bar c^a に微分を移した (∂μcˉa)gfabcAμbcc(\partial^\mu\bar c^a)gf^{abc}A^b_\mu c^c から読み取ります(aa は出射ゴースト、bb はグルーオン、cc は入射ゴーストの添字)。

注意 3.4(グリボフ曖昧さとシンガーの定理)

仮定 (ii) は摂動論の範囲(AA が小さい近傍)では成り立ちますが、大域的には成り立ちません(注意 7.3[経路積分量子化])。Gribov(1978)は、ローレンツゲージ ∂μAμ=0\partial^\mu A_\mu=0 を満たす配位の中に、互いにゲージ変換で移り合う別の配位(グリボフ・コピー)が存在し、それは FP 演算子 −∂μDμ-\partial^\mu D_\mu が零固有値をもつところで現れることを示しました。Singer(1978)は、時空を S4S^4 にコンパクト化した非可換ゲージ理論では、どの連続なゲージ固定も大域的には不可能であることを位相幾何学的に示しました(ゲージ場の空間をゲージ群で割った商が自明な主束にならないため)。したがって 定理 3.1 は摂動論のための公式であり、閉じ込めのような非摂動的現象を扱うには格子ゲージ理論のようにゲージ固定を必要としない定式化が必要です。

定理 3.1 で固定したラグランジアンはもはやゲージ不変ではありません。それでも理論にはゲージ不変性の名残となる対称性が残っており、それがユニタリ性とくりこみ可能性を保証します。補助場(中西–Lautrup 場)BaB^a を導入して

Leff=Linv+ξ2BaBa+Ba∂μAμa+cˉa(−∂μDμab)cb\mathcal L_{\mathrm{eff}}=\mathcal L_{\mathrm{inv}}+\frac\xi2B^aB^a+B^a\partial^\mu A^a_\mu+\bar c^a\big(-\partial^\mu D^{ab}_\mu\big)c^b

と書きます。BaB^a について平方完成(Ba=−1ξ∂μAμaB^a=-\frac1\xi\partial^\mu A^a_\mu を代入)すると 定理 3.1 の形に戻ります。

次の BRST 変換の考え方は、「ゲージ変換のパラメータ αa(x)\alpha^a(x) を、反可換な場 gca(x)gc^a(x) に置き換える」ことです。ゲージ固定で壊れたゲージ不変性を、ゴーストを使った新しい対称性として取り戻します。scasc^a の式は、この置き換えを 2 回続けても 00 になる(s2=0s^2=0)ように選ばれています。

定義 4.1(BRST 変換)↗

場の多項式に作用する反可換な(グラスマン奇の)微分 ss を

sAμa=Dμabcb,sψ=igcataψ,sca=−g2fabccbcc,scˉa=Ba,sBa=0sA^a_\mu=D^{ab}_\mu c^b,\qquad s\psi=igc^at^a\psi,\qquad sc^a=-\frac g2f^{abc}c^bc^c,\qquad s\bar c^a=B^a,\qquad sB^a=0

と、Leibniz 則 s(XY)=(sX)Y+(−1)∣X∣X(sY)s(XY)=(sX)Y+(-1)^{|X|}X(sY)(∣X∣|X| は XX のグラスマン次数)、s∂μ=∂μss\partial_\mu=\partial_\mu s で定めます。ss を BRST 変換と呼びます。Aμ=AμataA_\mu=A^a_\mu t^a、c=catac=c^at^a と行列で書くと、sAμ=∂μc−ig[Aμ,c]sA_\mu=\partial_\mu c-ig[A_\mu,c]、sc=igc csc=igc\,c です。

AA と ψ\psi に対する ss は、ゲージ変換のパラメータ αa\alpha^a を gcagc^a に置き換えた無限小ゲージ変換です(定義 2.6)。cac^a はグラスマン数なので cbcc=−cccbc^bc^c=-c^cc^b で、scsc の式は c c=i2fabccacbtcc\,c=\frac i2f^{abc}c^ac^bt^c から成分の式と一致します。

定理 4.2(BRST 変換のべき零性と不変性)✓

定義 4.1 の ss は、すべての場の上で s2=0s^2=0 を満たします。さらに Ψ=cˉa(ξ2Ba+∂μAμa)\Psi=\bar c^a\big(\frac\xi2B^a+\partial^\mu A^a_\mu\big) と置くと

Leff=Linv+sΨ,sLeff=0\mathcal L_{\mathrm{eff}}=\mathcal L_{\mathrm{inv}}+s\Psi,\qquad s\mathcal L_{\mathrm{eff}}=0

です。

証明(定理 4.2)

ss は奇の微分なので s2s^2 は偶の微分であり(s2(XY)=(s2X)Y+X(s2Y)s^2(XY)=(s^2X)Y+X(s^2Y))、生成元となる場で s2=0s^2=0 を示せば十分です。

ゴースト。 sc=igccsc=igcc と Leibniz 則(cc は奇)から

s2c=ig[(sc)c−c(sc)]=ig[igccc−c igcc]=0s^2c=ig\big[(sc)c-c(sc)\big]=ig\big[igccc-c\,igcc\big]=0

です(行列の積の結合法則)。

物質場。 s2ψ=ig(sc)ψ−igc(sψ)=ig⋅igccψ−igc⋅igcψ=−g2ccψ+g2ccψ=0s^2\psi=ig(sc)\psi-igc(s\psi)=ig\cdot igcc\psi-igc\cdot igc\psi=-g^2cc\psi+g^2cc\psi=0 です。

ゲージ場。 sAμ=∂μc−ig(Aμc−cAμ)sA_\mu=\partial_\mu c-ig(A_\mu c-cA_\mu) です。s(Aμc)=(sAμ)c+Aμ(sc)s(A_\mu c)=(sA_\mu)c+A_\mu(sc)、s(cAμ)=(sc)Aμ−c(sAμ)s(cA_\mu)=(sc)A_\mu-c(sA_\mu) なので

s2Aμ=ig ∂μ(cc)−ig[(sAμ)c+c(sAμ)]−ig[Aμ(sc)−(sc)Aμ]s^2A_\mu=ig\,\partial_\mu(cc)-ig\big[(sA_\mu)c+c(sA_\mu)\big]-ig\big[A_\mu(sc)-(sc)A_\mu\big]

です。(sAμ)c+c(sAμ)=(∂μc)c+c ∂μc−ig(Aμcc−ccAμ)(sA_\mu)c+c(sA_\mu)=(\partial_\mu c)c+c\,\partial_\mu c-ig(A_\mu cc-ccA_\mu)(cAμccA_\mu c の項は打ち消し合います)、Aμ(sc)−(sc)Aμ=ig(Aμcc−ccAμ)A_\mu(sc)-(sc)A_\mu=ig(A_\mu cc-ccA_\mu) を代入すると、∂μ(cc)=(∂μc)c+c ∂μc\partial_\mu(cc)=(\partial_\mu c)c+c\,\partial_\mu c の項どうしと、(ig)2(Aμcc−ccAμ)(ig)^2(A_\mu cc-ccA_\mu) の項どうしがそれぞれ打ち消し合い、s2Aμ=0s^2A_\mu=0 です。

反ゴーストと補助場。 s2cˉa=sBa=0s^2\bar c^a=sB^a=0、s2Ba=0s^2B^a=0 は定義そのものです。

不変性。 cˉ\bar c が奇であることに注意して

sΨ=Ba(ξ2Ba+∂μAμa)−cˉa∂μ(sAμa)=ξ2BaBa+Ba∂μAμa−cˉa∂μDμabcbs\Psi=B^a\Big(\frac\xi2B^a+\partial^\mu A^a_\mu\Big)-\bar c^a\partial^\mu\big(sA^a_\mu\big)=\frac\xi2B^aB^a+B^a\partial^\mu A^a_\mu-\bar c^a\partial^\mu D^{ab}_\mu c^b

で、Leff=Linv+sΨ\mathcal L_{\mathrm{eff}}=\mathcal L_{\mathrm{inv}}+s\Psi です。Linv\mathcal L_{\mathrm{inv}} は任意の αa(x)\alpha^a(x) による無限小ゲージ変換で不変で、その変分は α\alpha とその微分について線形なので、αa\alpha^a を(左に置いた)gcagc^a に置き換えても sLinv=0s\mathcal L_{\mathrm{inv}}=0 です。s(sΨ)=0s(s\Psi)=0 はべき零性です。

例 4.3(補助場がないとべき零性は運動方程式を要する)

BaB^a を消去した形 Linv−12ξ(∂A)2+cˉ(−∂D)c\mathcal L_{\mathrm{inv}}-\frac1{2\xi}(\partial A)^2+\bar c(-\partial D)c でも、scˉa=−1ξ∂μAμas\bar c^a=-\frac1\xi\partial^\mu A^a_\mu(他の場は同じ)と置けば L\mathcal L は不変です。ところがこのとき

s2cˉa=−1ξ∂μ(sAμa)=−1ξ∂μDμabcbs^2\bar c^a=-\frac1\xi\partial^\mu\big(sA^a_\mu\big)=-\frac1\xi\partial^\mu D^{ab}_\mu c^b

で、これは一般の場の配位では 00 ではありません。00 になるのはゴーストの運動方程式 ∂μDμabcb=0\partial^\mu D^{ab}_\mu c^b=0 が成り立つときだけです。つまり 定理 4.2 の s2=0s^2=0 は、補助場 BaB^a を独立な場として残す(off-shell の定式化)という仮定に依存しています。べき零性が運動方程式なしに成り立つことは、くりこみの議論(相関関数の恒等式を全次数で導く)とコホモロジーの定義の両方に必要です。

BRST 対称性は大域的な(定数パラメータの)対称性なので、ネーターの定理から保存電荷 Q^B\hat Q_{\mathrm B} が得られ、量子論では sX^=i[Q^B,X^}s\hat X=i[\hat Q_{\mathrm B},\hat X\}(X^\hat X が奇なら反交換子)として作用します。s2=0s^2=0 に対応して Q^B2=0\hat Q_{\mathrm B}^2=0 が成り立ちます。状態空間は共変ゲージの量子化なので不定計量(ノルムが負や 00 になる状態を許す内積)をもち、Q^B\hat Q_{\mathrm B} はその計量について自己共役です。

次の定義の狙いは、不定計量の空間から、負ノルムの余計な状態を取り除いて物理的な状態だけを残すことです。Q^B\hat Q_{\mathrm B} で 00 になる状態(Ker)のうち、Q^B\hat Q_{\mathrm B} の像(Im)になっている状態は物理に寄与しないので、それらを同一視した商が物理的状態の空間になります。

状態空間 VKer Q(Q を作用させると 0)Im QKer Q / Im Q が物理的状態
状態空間 V の中の Im Q ⊂ Ker Q。物理的状態は、Ker Q の中で Im Q の状態を同一視して得られる商です。

定義 4.4(BRST コホモロジーと物理的状態)↗

不定計量の内積 ⟨⋅,⋅⟩\langle\cdot,\cdot\rangle をもつ状態空間 V\mathcal V 上で、自己共役で Q^B2=0\hat Q_{\mathrm B}^2=0 を満たす Q^B\hat Q_{\mathrm B} について

Vphys=Ker Q^B,Hphys=Ker Q^B/Im Q^B\mathcal V_{\mathrm{phys}}=\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B},\qquad \mathcal H_{\mathrm{phys}}=\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B}/\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B}

と定め、Vphys\mathcal V_{\mathrm{phys}} の元を物理的状態、Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} を BRST コホモロジーと呼びます。Q^B2=0\hat Q_{\mathrm B}^2=0 より Im Q^B⊂Ker Q^B\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B}\subset\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B} です。

命題 4.5(BRST 完全な状態は物理に寄与しない)✓

定義 4.4 の設定で、∣ψ⟩,∣ϕ⟩∈Ker Q^B|\psi\rangle,|\phi\rangle\in\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B} と任意の ∣χ⟩,∣χ′⟩|\chi\rangle,|\chi'\rangle について

⟨ψ+Q^Bχ, ϕ+Q^Bχ′⟩=⟨ψ,ϕ⟩\big\langle\psi+\hat Q_{\mathrm B}\chi,\ \phi+\hat Q_{\mathrm B}\chi'\big\rangle=\langle\psi,\phi\rangle

です。特に Im Q^B\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B} の状態はノルム 00 で、すべての物理的状態と直交し、内積は Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} 上に well-defined に降ります。さらにハミルトニアンが [H^,Q^B]=0[\hat H,\hat Q_{\mathrm B}]=0 を満たせば、時間発展は Ker Q^B\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B} と Im Q^B\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B} をそれぞれ保ち、Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} 上の作用を誘導します。

証明(命題 4.5)

自己共役性から ⟨Q^Bχ,ϕ⟩=⟨χ,Q^Bϕ⟩=0\langle\hat Q_{\mathrm B}\chi,\phi\rangle=\langle\chi,\hat Q_{\mathrm B}\phi\rangle=0、同様に ⟨ψ,Q^Bχ′⟩=⟨Q^Bψ,χ′⟩=0\langle\psi,\hat Q_{\mathrm B}\chi'\rangle=\langle\hat Q_{\mathrm B}\psi,\chi'\rangle=0、⟨Q^Bχ,Q^Bχ′⟩=⟨χ,Q^B2χ′⟩=0\langle\hat Q_{\mathrm B}\chi,\hat Q_{\mathrm B}\chi'\rangle=\langle\chi,\hat Q_{\mathrm B}^2\chi'\rangle=0 です。展開すれば主張の等式です。[H^,Q^B]=0[\hat H,\hat Q_{\mathrm B}]=0 なら Q^Be−iH^t∣ψ⟩=e−iH^tQ^B∣ψ⟩\hat Q_{\mathrm B}e^{-i\hat Ht}|\psi\rangle=e^{-i\hat Ht}\hat Q_{\mathrm B}|\psi\rangle なので、e−iH^te^{-i\hat Ht} は核を核に、像を像に写します。

定理 4.6(BRST コホモロジーの正定値性(Kugo–Ojima))✓

非可換ゲージ理論の共変ゲージでの量子化で、漸近場が完全系をなし、色の大域的対称性が自発的に破れていない(Kugo–Ojima の条件)とします。このとき Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} の内積は正定値で、Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} は横波(ヘリシティ ±1\pm1)のゲージ粒子と物質粒子の Fock 空間と同型です。S 行列は Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} 上でユニタリです。

証明(定理 4.6)

Kugo–Ojima の条件は、次の形で使います。漸近場の完全性により、状態空間は漸近場の超 Krein–Fock 空間と同一視され、BRST 電荷は漸近場の上で自由場と同じ 1 粒子の形 Q^B=Dq\hat Q_{\mathrm B}=D_q をとります。色の対称性が破れていないことから、漸近場の 1 粒子空間は四重項分解(定義 4.1[BRST コホモロジーと物理的状態])をもちます。四重項は各色の縦成分のグルーオン・BB・cc・cˉ\bar c からなり、四重項に属さない部分 p\mathfrak p は横波のゲージ粒子と物質粒子の 1 粒子空間です。この部分の計量は正定値です。以上が条件の物理的な中身で、ここから先は代数的に従います(定理 4.2[BRST コホモロジーと物理的状態] の直後の説明を参照)。

正定値性と Fock 空間。 定理 4.2[BRST コホモロジーと物理的状態] の 3 により、Ψ↦[Ψ]\Psi\mapsto[\Psi] は p\mathfrak p 上の超 Krein–Fock 空間の p\mathfrak p だけで作った部分 D(p)\mathcal D(\mathfrak p) から Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} への、形式を保つ線形同型です。p\mathfrak p の形式は偶(ボソン)の部分でも奇(物質のフェルミオン)の部分でも正定値です。したがって p\mathfrak p 上の超 Krein–Fock 空間の形式は、通常のボソン Fock 空間とフェルミオン Fock 空間のテンソル積の内積に一致し、正定値です(p\mathfrak p がボソンだけのときは同じ定理の 4 そのものです)。よって Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} の内積は正定値で、完備化は横波のゲージ粒子と物質粒子の Fock 空間に等しくなります。

S 行列のユニタリ性。 S 行列 S^\hat S は不定計量の内積を保つ全単射で(擬ユニタリ性)、Q^B\hat Q_{\mathrm B} と可換です([H^,Q^B]=0[\hat H,\hat Q_{\mathrm B}]=0 と漸近場での Q^B\hat Q_{\mathrm B} の一致による)。可換性から S^\hat S と S^−1\hat S^{-1} はともに Ker Q^B\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B} を Ker Q^B\mathrm{Ker}\,\hat Q_{\mathrm B} に、Im Q^B\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B} を Im Q^B\mathrm{Im}\,\hat Q_{\mathrm B} に写します(S^Q^Bχ=Q^BS^χ\hat S\hat Q_{\mathrm B}\chi=\hat Q_{\mathrm B}\hat S\chi)。したがって [ψ]↦[S^ψ][\psi]\mapsto[\hat S\psi] は Hphys\mathcal H_{\mathrm{phys}} 上の well-defined な全単射で、命題 4.5 により内積は代表元の内積なので、⟨[S^ψ],[S^ϕ]⟩=⟨S^ψ,S^ϕ⟩=⟨ψ,ϕ⟩\langle[\hat S\psi],[\hat S\phi]\rangle=\langle\hat S\psi,\hat S\phi\rangle=\langle\psi,\phi\rangle を保ちます。正定値な内積空間の上で内積を保つ全単射は、完備化の上のユニタリ作用素に一意に延びます。

注意 4.7(四重項機構と Gupta–Bleuler 条件)

この主張は Kugo–Ojima(1979)によります。筋道は次のとおりです。漸近場のレベルでは Q^B\hat Q_{\mathrm B} は自由場と同じ形になり、ゲージ場の縦波成分 ALA_{\mathrm L}、補助場 BB、ゴースト cc、反ゴースト cˉ\bar c が Q^B\hat Q_{\mathrm B} で 2 組ずつ結ばれた四重項(sAL∼csA_{\mathrm L}\sim c、scˉ=Bs\bar c=B)をなします。四重項の粒子を 1 個以上含む状態は、Q^B\hat Q_{\mathrm B} の核に入らないか、入っても像に属するかのどちらかで、コホモロジーには寄与しません(線形代数の補題として示せます)。残るのは四重項に属さない横波の 2 偏極だけで、それらは正ノルムです。Q^B\hat Q_{\mathrm B} が H^\hat H と可換なので、命題 4.5 により S 行列はコホモロジー上の写像を誘導し、全空間での擬ユニタリ性からその上でのユニタリ性が出ます。可換な場合はゴーストが自由場なので、Q^B∣ψ⟩=0\hat Q_{\mathrm B}|\psi\rangle=0 はゴーストを含まない状態について B^(+)∣ψ⟩=0\hat B^{(+)}|\psi\rangle=0、すなわち ∂μA^μ(+)∣ψ⟩=0\partial^\mu\hat A^{(+)}_\mu|\psi\rangle=0 に帰着し、電磁場の量子化の 定義 5.2[電磁場の量子化とゲージ固定] と 定理 5.4[電磁場の量子化とゲージ固定] がその特別な場合です。

経路積分の言葉では、BRST 対称性は相関関数の恒等式として現れます。

命題 4.8(BRST の Ward 恒等式)✓

経路積分の測度が BRST 変換の下で不変であるとき、任意の場の多項式 XX について ⟨sX⟩=0\langle sX\rangle=0 です。ここで ⟨⋅⟩\langle\cdot\rangle は eiSeffe^{iS_{\mathrm{eff}}} を重みとする(分母で割った)期待値です。

証明(命題 4.8)

グラスマン数の定数 θ\theta について、すべての場 Φ\Phi を Φ′=Φ+θ sΦ\Phi'=\Phi+\theta\,s\Phi と変数変換します。定理 4.2 により SeffS_{\mathrm{eff}} は不変で、仮定により測度も不変です。X(Φ′)=X(Φ)+θ sXX(\Phi')=X(\Phi)+\theta\,sX なので、∫DΦ X eiSeff=∫DΦ′ X(Φ′) eiSeff[Φ′]=∫DΦ (X+θ sX)eiSeff\int\mathcal D\Phi\,X\,e^{iS_{\mathrm{eff}}}=\int\mathcal D\Phi'\,X(\Phi')\,e^{iS_{\mathrm{eff}}[\Phi']}=\int\mathcal D\Phi\,(X+\theta\,sX)e^{iS_{\mathrm{eff}}} となり、θ\theta の係数を比べて主張を得ます。測度の不変性は、変換のヤコビアン(超行列式)の無限小部分が ∑Φ±∂(sΦ)∂Φ\sum_\Phi\pm\frac{\partial(s\Phi)}{\partial\Phi} に比例し、scasc^a からは faab=0f^{aab}=0、sAsA からは faab=0f^{aab}=0、sψs\psi からは tr ta=0\mathrm{tr}\,t^a=0(単純 Lie 群)の寄与しか出ないことから確かめられます。

この恒等式から、ゲージ不変な量の期待値が ξ\xi によらないこと(演習 7.2)や、QED の Ward–高橋恒等式(定理 3.2[QED の 1 ループ])の非可換版である Slavnov–Taylor 恒等式が導かれます。

5. 1 ループのβ関数と漸近的自由

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定理 5.1(非可換ゲージ理論の 1 ループのβ関数)✓

コンパクトな単純 Lie 群 GG のゲージ理論に、表現 rr の Dirac フェルミオンが nfn_f 種類あるとします。次元正則化と最小引き算でくりこんだ結合 g(μ)g(\mu) のβ関数(定義 6.1[くりこみ理論入門])は

β(g)=μdgdμ=−g316π2[113CG−43nfC(r)]+O(g5)\beta(g)=\mu\frac{dg}{d\mu}=-\frac{g^3}{16\pi^2}\Big[\frac{11}{3}C_G-\frac43n_fC(r)\Big]+O(g^5)

です。G=SU(N)G=SU(N)、rr が基本表現なら β(g)=−(11N3−2nf3)g316π2\beta(g)=-\big(\frac{11N}{3}-\frac{2n_f}{3}\big)\frac{g^3}{16\pi^2} です。

証明(定理 5.1)

定理 5.6[次元正則化とくりこみ群] で複素スカラーの数を ns=0n_s=0 とした場合です。そこでは背景場法で同じ MS スキームの β(g)=−b0g316π2+O(g5)\beta(g)=-\frac{b_0g^3}{16\pi^2}+O(g^5)、b0=113CG−43nfC(r)b_0=\frac{11}{3}C_G-\frac43n_fC(r) を示しています。SU(N)SU(N) の基本表現では CG=NC_G=N、C(r)=12C(r)=\frac12(補題 2.5)なので、b0=11N3−2nf3b_0=\frac{11N}{3}-\frac{2n_f}{3} です。

注意 5.2(β関数の導出の筋道)

導出は Peskin–Schroeder 第 16 章 §16.5 にあります(背景場法による証明は 定理 5.6[次元正則化とくりこみ群])。QED の 定理 5.2[QED の 1 ループ] と同じく、g0=με/2gZ1Z2−1Z3−1/2g_0=\mu^{\varepsilon/2}gZ_1Z_2^{-1}Z_3^{-1/2}(Z1Z_1 はフェルミオン–グルーオン頂点、Z2Z_2 はフェルミオン場、Z3Z_3 はグルーオン場のくりこみ定数)から計算します。ファインマンゲージで 2εg216π2\frac{2}{\varepsilon}\frac{g^2}{16\pi^2} の係数は

δ2=−C2(r),δ3=53CG−43nfC(r),δ1=−[C2(r)+CG]\delta_2=-C_2(r),\qquad \delta_3=\frac53C_G-\frac43n_fC(r),\qquad \delta_1=-\big[C_2(r)+C_G\big]

です。δ3\delta_3 の 53CG\frac53C_G はグルーオンとゴーストのループの和、−43nfC(r)-\frac43n_fC(r) は QED の真空偏極と同じフェルミオン・ループです。δ1\delta_1 の CGC_G は、3 グルーオン頂点を含む頂点補正から来ます。QED と違い Z1≠Z2Z_1\ne Z_2 ですが、比 Z1/Z2Z_1/Z_2 はどの頂点(ゴースト頂点、3 グルーオン頂点)で測っても同じであることが Slavnov–Taylor 恒等式から保証され、結合 gg が一意に定まります。δ1−δ2−12δ3\delta_1-\delta_2-\frac12\delta_3 の係数は −[116CG−23nfC(r)]-\big[\frac{11}6C_G-\frac23n_fC(r)\big] で、定理 5.2[QED の 1 ループ] の証明と同じ計算により主張の式を得ます。CG=0C_G=0、C(r)=1C(r)=1、g→eg\to e とすると QED の e312π2\frac{e^3}{12\pi^2} に戻ります。

系 5.3(漸近的自由と次元転換)✓

b0=113CG−43nfC(r)>0b_0=\frac{11}{3}C_G-\frac43n_fC(r)\gt0 とします。1 ループのβ関数で αs=g24π\alpha_s=\frac{g^2}{4\pi} を走らせると、ある質量スケール Λ\Lambda を用いて

αs(μ)=2πb0ln⁡(μ/Λ)(μ>Λ)\alpha_s(\mu)=\frac{2\pi}{b_0\ln(\mu/\Lambda)}\qquad(\mu\gt\Lambda)

となり、μ→∞\mu\to\infty で αs(μ)→0\alpha_s(\mu)\to0 です。Λ\Lambda は 1 点 μ0\mu_0 での値から Λ=μ0exp⁡(−2πb0αs(μ0))\Lambda=\mu_0\exp\big(-\frac{2\pi}{b_0\alpha_s(\mu_0)}\big) で決まります。

証明(系 5.3)

定理 5.1 より μdαsdμ=2gβ4π=−b0g432π3=−b02παs2\mu\frac{d\alpha_s}{d\mu}=\frac{2g\beta}{4\pi}=-\frac{b_0g^4}{32\pi^3}=-\frac{b_0}{2\pi}\alpha_s^2 なので、d(1/αs)dln⁡μ=b02π\frac{d(1/\alpha_s)}{d\ln\mu}=\frac{b_0}{2\pi} です。積分すると 1αs(μ)=1αs(μ0)+b02πln⁡μμ0=b02πln⁡μΛ\frac{1}{\alpha_s(\mu)}=\frac{1}{\alpha_s(\mu_0)}+\frac{b_0}{2\pi}\ln\frac{\mu}{\mu_0}=\frac{b_0}{2\pi}\ln\frac\mu\Lambda で、Λ\Lambda の定義はこの右辺が μ=Λ\mu=\Lambda で 00 になる条件です。b0>0b_0\gt0 なので右辺は μ\mu について単調増加で +∞+\infty に発散します。

ラグランジアン(m=0m=0 のとき)には質量のパラメータがないのに、量子論では無次元の結合 gg が次元をもつ Λ\Lambda に置き換わります。これを次元転換と呼びます。QCD では Λ\Lambda が数百 MeV で、陽子の質量の大部分はこのスケールから来ています。逆に μ→Λ\mu\to\Lambda では結合が大きくなり摂動論は使えません。これはクォークの閉じ込めと整合的ですが、閉じ込めそのものは非摂動的な問題です(くりこみ理論入門の 例 6.5[くりこみ理論入門])。

例 5.4(フェルミオンが多すぎると漸近的自由は失われる)

SU(3)SU(3) で基本表現の Dirac フェルミオンが nfn_f 種あると b0=11−23nfb_0=11-\frac23n_f で、nf≤16n_f\le16 なら正、nf≥17n_f\ge17 なら負です。nf=17n_f=17 では β関数が QED と同じ符号になり、結合は高エネルギーで増えて 例 5.3[QED の 1 ループ] と同じ問題に戻ります。U(1)U(1)(CG=0C_G=0)ではどんな物質を入れても b0<0b_0\lt0 です。漸近的自由は「ゲージ群が非可換で、ゲージ場の寄与 113CG\frac{11}{3}C_G が物質の寄与に勝つ」という仮定に依存しています。複素スカラーを含めるとそれぞれ −13C(r)-\frac13C(r) が加わり、やはり b0b_0 を減らします。

注意 5.5(反遮蔽の描像)

QED の真空偏極が電荷を遮蔽するのに対し、グルーオンの寄与は色荷を反遮蔽します。背景場ゲージやクーロンゲージでの解析によると、113=4−13\frac{11}{3}=4-\frac13 と分解でき、−13-\frac13 は荷電粒子の軌道運動による反磁性的な遮蔽、44 はスピン 11 のグルーオンの磁気モーメントによる常磁性的な反遮蔽に対応します(Nielsen、Hughes による解釈)。真空を誘電率 ϵ\epsilon・透磁率 μm\mu_{\mathrm m} の媒質とみなすと、Lorentz 不変性から ϵμm=1\epsilon\mu_{\mathrm m}=1 なので、常磁性(μm>1\mu_{\mathrm m}\gt1)が勝つと ϵ<1\epsilon\lt1、すなわち反遮蔽になります。

質量 00 の Dirac 場のラグランジアン ψˉiD̸ψ\bar\psi i\not{D}\psi は、ベクトル変換 ψ↦eiαψ\psi\mapsto e^{i\alpha}\psi のほかに軸性変換 ψ↦eiαγ5ψ\psi\mapsto e^{i\alpha\gamma^5}\psi でも不変です。γ5=iγ0γ1γ2γ3\gamma^5=i\gamma^0\gamma^1\gamma^2\gamma^3 は前章までと同じです。

定義 6.1(軸性カレント)↗

Dirac 場について、ベクトルカレントと軸性カレントを

j^μ=ψˉ^γμψ^,j^μ5=ψˉ^γμγ5ψ^\hat j^\mu=\hat{\bar\psi}\gamma^\mu\hat\psi,\qquad \hat j^{\mu5}=\hat{\bar\psi}\gamma^\mu\gamma^5\hat\psi

で定めます。古典的な運動方程式 (iD̸−m)ψ=0(i\not{D}-m)\psi=0 を使うと ∂μjμ=0\partial_\mu j^\mu=0、∂μjμ5=2imψˉγ5ψ\partial_\mu j^{\mu5}=2im\bar\psi\gamma^5\psi です。完全反対称テンソルは ϵ0123=+1\epsilon^{0123}=+1 と規格化します(このとき tr(γμγνγργσγ5)=−4iϵμνρσ\mathrm{tr}(\gamma^\mu\gamma^\nu\gamma^\rho\gamma^\sigma\gamma^5)=-4i\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma})。

定理 6.2(Adler–Bell–Jackiw アノマリー)✓

質量 mm、電荷 ee の Dirac 場 1 種類の QED(Dμ=∂μ+ieAμD_\mu=\partial_\mu+ieA_\mu)で、ベクトルカレントの保存 ∂μj^μ=0\partial_\mu\hat j^\mu=0 を保つように正則化すると、軸性カレントは演算子の等式として

∂μj^μ5=2im ψˉ^γ5ψ^−e216π2ϵαβμνF^αβF^μν\partial_\mu\hat j^{\mu5}=2im\,\hat{\bar\psi}\gamma^5\hat\psi-\frac{e^2}{16\pi^2}\epsilon^{\alpha\beta\mu\nu}\hat F_{\alpha\beta}\hat F_{\mu\nu}

を満たします。ϵαβμνFαβFμν=−8E⋅B\epsilon^{\alpha\beta\mu\nu}F_{\alpha\beta}F_{\mu\nu}=-8\boldsymbol E\cdot\boldsymbol B なので、右辺第 2 項は e22π2E⋅B\frac{e^2}{2\pi^2}\boldsymbol E\cdot\boldsymbol B です。

証明(定理 6.2)

等式は 定理 3.1[アノマリーとインスタントン] の QED の場合です。そこではフェルミオンの測度を D̸\not D の固有モードについてゲージ不変な減衰因子で正則化しており、この正則化はベクトルカレントの位相変換 ψ↦eiαψ\psi\mapsto e^{i\alpha}\psi のヤコビアンを 11 に保つので、∂μj^μ=0\partial_\mu\hat j^\mu=0 を保つ正則化になっています(ベクトル変換では ψ\psi と ψˉ\bar\psi のヤコビアンが打ち消し合います)。ϵαβμνFαβFμν=−8E⋅B\epsilon^{\alpha\beta\mu\nu}F_{\alpha\beta}F_{\mu\nu}=-8\boldsymbol E\cdot\boldsymbol B は、F0i=EiF_{0i}=E^i、Fij=−ϵijkBkF_{ij}=-\epsilon^{ijk}B^k を代入して ϵ0ijk\epsilon^{0ijk} の項を数えれば確かめられます(ϵ0123=+1\epsilon^{0123}=+1)。

この等式は摂動の高次で補正を受けないことが知られています(Adler–Bardeen の定理)。この記事ではこれを定理の主張には含めず、紹介にとどめます(注意 3.3[アノマリーとインスタントン])。

注意 6.3(アノマリーの導出の筋道)

導出は Peskin–Schroeder 第 19 章 §19.2 にあります((c) の方法による証明は 定理 3.1[アノマリーとインスタントン])。3 つの方法が同じ結果を与えます。(a) 三角図。 ⟨j^μ5j^νj^λ⟩\langle\hat j^{\mu5}\hat j^\nu\hat j^\lambda\rangle の 1 ループの三角図は線形発散し、ループ運動量の平行移動で値が変わります(例 4.3[QED の 1 ループ] と同じ種類の曖昧さ)。この曖昧さを 2 つのベクトルカレントの保存を満たすように固定すると、軸性カレントの発散に有限な残差が残ります。(b) 点分離。 j^μ5\hat j^{\mu5} を ψˉ^(x+ϵ2)γμγ5e−ie∫Aψ^(x−ϵ2)\hat{\bar\psi}(x+\frac\epsilon2)\gamma^\mu\gamma^5e^{-ie\int A}\hat\psi(x-\frac\epsilon2) とゲージ不変に定義すると、ϵ→0\epsilon\to0 で特異な項が FμνF_{\mu\nu} の 2 次の有限項を残します。(c) 藤川の方法。 経路積分の変数変換 ψ↦eiα(x)γ5ψ\psi\mapsto e^{i\alpha(x)\gamma^5}\psi のヤコビアンを、D̸\not{D} の固有関数展開とゲージ不変な正則化 e−(D̸)2/M2e^{-(\not{D})^2/M^2} で計算すると exp⁡(i∫α⋅e216π2ϵFF)\exp\big(i\int\alpha\cdot\frac{e^2}{16\pi^2}\epsilon FF\big) に比例する因子が出ます。測度が軸性変換で不変でないことがアノマリーの本質です。非可換の場合、表現 rr のフェルミオン 1 種類について右辺の第 2 項は −g2C(r)16π2ϵαβμνFαβaFμνa-\frac{g^2C(r)}{16\pi^2}\epsilon^{\alpha\beta\mu\nu}F^a_{\alpha\beta}F^a_{\mu\nu} になります。

例 6.4(π⁰ → γγ)

u,du,d クォークのアイソスピン 3 成分の軸性カレント j^μ5,3=qˉ^γμγ5τ32q^\hat j^{\mu5,3}=\hat{\bar q}\gamma^\mu\gamma^5\frac{\tau^3}{2}\hat q には、電磁場とのアノマリーが Nc(Qu2−Qd2)N_c(Q_u^2-Q_d^2) に比例して現れます。このカレントは π0\pi^0 を消滅させる演算子(⟨0∣j^μ5,3∣π0(p)⟩∝fπpμ\langle0|\hat j^{\mu5,3}|\pi^0(p)\rangle\propto f_\pi p^\mu)なので、アノマリーは π0→γγ\pi^0\to\gamma\gamma の振幅を直接決め、

Γ(π0→γγ)=α2mπ364π3fπ2[Nc(Qu2−Qd2)]2\Gamma(\pi^0\to\gamma\gamma)=\frac{\alpha^2m_\pi^3}{64\pi^3f_\pi^2}\Big[N_c\big(Q_u^2-Q_d^2\big)\Big]^2

を与えます(Peskin–Schroeder 第 19 章 §19.4)。Nc=3N_c=3、Qu=23Q_u=\frac23、Qd=−13Q_d=-\frac13 では括弧は 11 で、mπ=135 MeVm_\pi=135\ \mathrm{MeV}、fπ=92.4 MeVf_\pi=92.4\ \mathrm{MeV} とすると Γ≈7.7 eV\Gamma\approx7.7\ \mathrm{eV} となり、実測値約 7.8 eV7.8\ \mathrm{eV} とよく合います。Nc=1N_c=1 なら 9 分の 1 になるので、この崩壊率はクォークの色が 3 つあることの証拠の 1 つです。

ABJ アノマリーは大域的な対称性の破れなので、理論を壊しはしません。ところが、カイラルなカレントがゲージ場に結合している場合は事情が違います。ゲージカレントが量子論で保存しないと、命題 4.8 の測度の不変性が破れ、Ward 恒等式が成り立たず、負ノルム状態の分離(定理 4.6)も、くりこみ可能性も失われます。

次の定理は、「どんなフェルミオンの組ならこの破れが出ないか」を答えます。右巻きの場は複素共役表現の左巻き場に書き直せるので、すべての場を左巻き Weyl 場(2 成分のフェルミオン)として一括して数えられます。三角図の 3 つの頂点にゲージ群の生成子 ta,tb,tct^a,t^b,t^c が付くので、群の因子は tr(ta{tb,tc})\mathrm{tr}(t^a\{t^b,t^c\}) の形にまとまります。

定理 6.5(ゲージ・アノマリーの相殺条件)✓

正則化について アノマリーとインスタントン の §4 の仮定 (R1)(R2) をおき、ゲージ群 GG に結合するフェルミオンを、すべて左巻き Weyl 場として(右巻きの場は複素共役表現の左巻き場に書き直して)表現 RR(一般に可約)にまとめます。1 ループの三角図から生じるゲージ・アノマリーは

Aabc(R)=trR(ta{tb,tc})A^{abc}(R)=\mathrm{tr}_R\big(t^a\{t^b,t^c\}\big)

に比例し(最低次で 148π2Aabc(R)ϵμνρσ∂μAνb∂ρAσc\frac{1}{48\pi^2}A^{abc}(R)\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma}\partial_\mu A^b_\nu\partial_\rho A^c_\sigma)、局所的な counterterm では取り除けません。したがってゲージ理論が摂動論的に無矛盾であるためには、すべての a,b,ca,b,c について Aabc(R)=0A^{abc}(R)=0 であることが必要です。左巻きと右巻きの場を区別して書けば、条件は ∑Ltr(ta{tb,tc})−∑Rtr(ta{tb,tc})=0\sum_{\mathrm L}\mathrm{tr}\big(t^a\{t^b,t^c\}\big)-\sum_{\mathrm R}\mathrm{tr}\big(t^a\{t^b,t^c\}\big)=0 です。

証明(定理 6.5)

アノマリーとインスタントン の 定理 4.4[アノマリーとインスタントン] そのものです。そこでは、正則化の違いが局所 counterterm だけであること(同章の仮定 (R1))のもとで、三角図の群の因子が対称化されたトレース Aabc(R)A^{abc}(R) にまとまることを示し、係数 148π2\frac{1}{48\pi^2} を、左右の Weyl 成分を別々に正則化した Dirac 場の軸性アノマリーを 定理 6.2 の値と比べて決め、最後に ϵ\epsilon を含む 3 次の counterterm の変分が係数の完全対称部分を変えないことを確かめています。

注意 6.6(相殺条件の根拠と注意)

三角図の 3 つの頂点にそれぞれ ta,tb,tct^a,t^b,t^c が付き、2 つの向きのループが対称化された積 tr(ta{tb,tc})\mathrm{tr}(t^a\{t^b,t^c\}) を与えます。左巻きと右巻きでは γ5\gamma^5 の符号が逆なので寄与の符号も逆です。ベクトル的な理論(QED や QCD のように、左右が同じ表現に属する理論)では自動的に 00 です。実表現・擬実表現(SU(2)SU(2) の任意の表現など)では tr(ta{tb,tc})=0\mathrm{tr}(t^a\{t^b,t^c\})=0 なので摂動論的アノマリーはありませんが、SU(2)SU(2) には Weyl 2 重項の数が奇数だと理論が定義できないという大域的アノマリー(Witten 1982、定理 4.6[アノマリーとインスタントン])があります。重力との混合アノマリーを含めると、U(1)U(1) 電荷の和 ∑LQ−∑RQ=0\sum_{\mathrm L}Q-\sum_{\mathrm R}Q=0 も条件に加わります。逆向き、すなわち Aabc=0A^{abc}=0 なら全次数でゲージ・アノマリーが現れずに理論がくりこめることは、Adler–Bardeen の定理(注意 3.3[アノマリーとインスタントン])と BRST コホモロジーによる議論(Becchi–Rouet–Stora、Piguet–Sorella『Algebraic Renormalization』)によるもので、本章では主張として述べるにとどめます。導出の教科書的な説明は Peskin–Schroeder 第 19 章 §19.4・第 20 章 §20.2、Bertlmann『Anomalies in Quantum Field Theory』にあります。

例 6.7(左巻き Weyl フェルミオン 1 個の U(1) ゲージ理論は矛盾する)

U(1)U(1) ゲージ場に電荷 qq の左巻き Weyl フェルミオンが 1 個だけ結合する理論では A=tr(q{q,q})=2q3≠0A=\mathrm{tr}(q\{q,q\})=2q^3\ne0 で、定理 6.5 の条件を満たしません。具体的には、ゲージカレント j^Lμ\hat j^\mu_{\mathrm L} が ∂μj^Lμ∝q3ϵαβμνFαβFμν\partial_\mu\hat j^\mu_{\mathrm L}\propto q^3\epsilon^{\alpha\beta\mu\nu}F_{\alpha\beta}F_{\mu\nu} と保存せず、縦波の光子が物理的状態から切り離されなくなります。同じ電荷の右巻き Weyl フェルミオンを 1 個加える(つまり Dirac フェルミオンにする)と 2q3−2q3=02q^3-2q^3=0 で無矛盾になります。これが QED です。電荷 qiq_i の左巻き Weyl 場を複数もつ理論では ∑iqi3=0\sum_iq_i^3=0(と ∑iqi=0\sum_iq_i=0)が条件で、たとえば電荷 (5,−4,−4,1,1,1)(5,-4,-4,1,1,1) は ∑qi=0\sum q_i=0、∑qi3=125−128+3=0\sum q_i^3=125-128+3=0 を満たす、Dirac 対に組めない(カイラルな)解です。一方、条件を満たさない電荷の組は許されません。

標準模型では、各世代のフェルミオンの超電荷がこの条件を満たすように並んでいます(演習 7.3)。クォークとレプトンの寄与が打ち消し合うので、クォークだけ、あるいはレプトンだけの世代は無矛盾ではありません。

演習 7.1難

SU(N)SU(N) の基本表現の生成子(tr(tatb)=12δab\mathrm{tr}(t^at^b)=\frac12\delta^{ab})について、完全性関係

∑a(ta)ij(ta)kl=12(δilδjk−1Nδijδkl)\sum_a(t^a)_{ij}(t^a)_{kl}=\frac12\Big(\delta_{il}\delta_{jk}-\frac1N\delta_{ij}\delta_{kl}\Big)

を示し、これを使って C2(F)=N2−12NC_2(F)=\frac{N^2-1}{2N} と facdfbcd=Nδabf^{acd}f^{bcd}=N\delta^{ab}(CG=NC_G=N)を導いてください。

解答

完全性。 N×NN\times N 複素行列の空間に内積 (X,Y)=tr(X†Y)(X,Y)=\mathrm{tr}(X^\dagger Y) を入れると、{2 ta}\{\sqrt2\,t^a\} と 1N1\frac{1}{\sqrt N}\mathbf 1 は正規直交基底です(tat^a はトレース 00 の Hermite 行列 N2−1N^2-1 個で、1\mathbf 1 と直交)。正規直交基底 {eα}\{e_\alpha\} について ∑α(eα)ij(eα)lk‾=δilδjk\sum_\alpha(e_\alpha)_{ij}\overline{(e_\alpha)_{lk}}=\delta_{il}\delta_{jk} で、Hermite 性から (ta)lk‾=(ta)kl\overline{(t^a)_{lk}}=(t^a)_{kl} なので 2∑a(ta)ij(ta)kl+1Nδijδkl=δilδjk2\sum_a(t^a)_{ij}(t^a)_{kl}+\frac1N\delta_{ij}\delta_{kl}=\delta_{il}\delta_{jk} です。

C2(F)C_2(F)。 j=kj=k として和をとると ∑a(tata)il=12(N−1N)δil=N2−12Nδil\sum_a(t^at^a)_{il}=\frac12\big(N-\frac1N\big)\delta_{il}=\frac{N^2-1}{2N}\delta_{il} です。

CGC_G。 完全性から、任意の行列 X,YX,Y について ∑dtdXtd=12(trX 1−1NX)\sum_dt^dXt^d=\frac12\big(\mathrm{tr}X\,\mathbf 1-\frac1NX\big)、∑dtr(Xtd)tr(Ytd)=12(tr(XY)−1NtrX trY)\sum_d\mathrm{tr}(Xt^d)\mathrm{tr}(Yt^d)=\frac12\big(\mathrm{tr}(XY)-\frac1N\mathrm{tr}X\,\mathrm{tr}Y\big) です。[ta,tb]=ifabdtd[t^a,t^b]=if^{abd}t^d と規格化から fabc=−2i tr([ta,tb]tc)f^{abc}=-2i\,\mathrm{tr}([t^a,t^b]t^c) なので、tr[ta,tc]=0\mathrm{tr}[t^a,t^c]=0 に注意して

facdfbcd=−4∑c,dtr([ta,tc]td) tr([tb,tc]td)=−2∑ctr([ta,tc][tb,tc])f^{acd}f^{bcd}=-4\sum_{c,d}\mathrm{tr}([t^a,t^c]t^d)\,\mathrm{tr}([t^b,t^c]t^d)=-2\sum_c\mathrm{tr}\big([t^a,t^c][t^b,t^c]\big)

です。展開した 4 項 tr(tatctbtc)−tr(tatctctb)−tr(tctatbtc)+tr(tctatctb)\mathrm{tr}(t^at^ct^bt^c)-\mathrm{tr}(t^at^ct^ct^b)-\mathrm{tr}(t^ct^at^bt^c)+\mathrm{tr}(t^ct^at^ct^b) の cc の和は、上の公式と tr ta=0\mathrm{tr}\,t^a=0 から順に −14Nδab-\frac{1}{4N}\delta^{ab}、−12C2(F)δab-\frac12C_2(F)\delta^{ab}、−12C2(F)δab-\frac12C_2(F)\delta^{ab}、−14Nδab-\frac1{4N}\delta^{ab} です。和は −(12N+N2−12N)δab=−N2δab-\big(\frac1{2N}+\frac{N^2-1}{2N}\big)\delta^{ab}=-\frac N2\delta^{ab} で、−2-2 を掛けて facdfbcd=Nδabf^{acd}f^{bcd}=N\delta^{ab} です。随伴表現では tr(tGatGb)=(ifcad)(ifdbc)=facdfbcd\mathrm{tr}(t^a_Gt^b_G)=(if^{cad})(if^{dbc})=f^{acd}f^{bcd} なので CG=NC_G=N です。

演習 7.2標準

O\mathcal O を BRST 不変(sO=0s\mathcal O=0)な場の多項式とします。定理 4.2 の Leff\mathcal L_{\mathrm{eff}} について、ddξ⟨O⟩ξ=0\frac{d}{d\xi}\langle\mathcal O\rangle_\xi=0 を 命題 4.8 から示してください。ゲージ不変な O\mathcal O(A,ψA,\psi だけで書けてゲージ不変なもの)は BRST 不変であることも確かめてください。

解答

Leff\mathcal L_{\mathrm{eff}} の ξ\xi 依存性は ξ2BaBa\frac\xi2B^aB^a だけで、これは s(12cˉaBa)=12BaBas\big(\frac12\bar c^aB^a\big)=\frac12B^aB^a と書けます(sB=0sB=0)。⟨O⟩ξ=Z−1∫DΦ O eiSeff\langle\mathcal O\rangle_\xi=Z^{-1}\int\mathcal D\Phi\,\mathcal O\,e^{iS_{\mathrm{eff}}}(ZZ は O=1\mathcal O=1 の積分)を ξ\xi で微分すると

ddξ⟨O⟩ξ=i⟨O∫d4x s(12cˉaBa)⟩−i⟨O⟩⟨∫d4x s(12cˉaBa)⟩\frac{d}{d\xi}\langle\mathcal O\rangle_\xi=i\Big\langle\mathcal O\int d^4x\,s\Big(\frac12\bar c^aB^a\Big)\Big\rangle-i\langle\mathcal O\rangle\Big\langle\int d^4x\,s\Big(\frac12\bar c^aB^a\Big)\Big\rangle

です。sO=0s\mathcal O=0 と Leibniz 則から O sY=±s(OY)\mathcal O\,sY=\pm s(\mathcal OY)(O\mathcal O が偶なら符号 ++)なので、第 1 項は ⟨s(⋯ )⟩\langle s(\cdots)\rangle の形で 00、第 2 項も同様に 00 です。よって ⟨O⟩ξ\langle\mathcal O\rangle_\xi は ξ\xi によりません。

ゲージ不変な O[A,ψ]\mathcal O[A,\psi] は任意の無限小ゲージ変換で変化しないので、パラメータを gcagc^a に置き換えた ss についても sO=0s\mathcal O=0 です(変分が α\alpha について線形であることを使います)。これは 定理 6.2[電磁場の量子化とゲージ固定] の非可換版です。

演習 7.3標準

標準模型の 1 世代のフェルミオンは、SU(3)×SU(2)×U(1)YSU(3)\times SU(2)\times U(1)_Y の表現として、左巻きの QL=(3,2)1/6Q_{\mathrm L}=(\mathbf 3,\mathbf 2)_{1/6}、LL=(1,2)−1/2L_{\mathrm L}=(\mathbf 1,\mathbf 2)_{-1/2}、右巻きの uR=(3,1)2/3u_{\mathrm R}=(\mathbf 3,\mathbf 1)_{2/3}、dR=(3,1)−1/3d_{\mathrm R}=(\mathbf 3,\mathbf 1)_{-1/3}、eR=(1,1)−1e_{\mathrm R}=(\mathbf 1,\mathbf 1)_{-1} です(下付きは超電荷 YY、Q=T3+YQ=T_3+Y)。定理 6.5 の条件のうち U(1)Y3U(1)_Y^3、SU(2)2U(1)YSU(2)^2U(1)_Y、SU(3)2U(1)YSU(3)^2U(1)_Y、SU(3)3SU(3)^3 と重力混合 ∑Y\sum Y がすべて満たされることを確かめてください。

解答

各条件で「左巻きの和 −- 右巻きの和」を、色と弱アイソスピンの多重度を掛けて計算します。

  • U(1)Y3U(1)_Y^3:左は 6⋅(16)3+2⋅(−12)3=136−14=−296\cdot\big(\frac16\big)^3+2\cdot\big(-\frac12\big)^3=\frac1{36}-\frac14=-\frac29、右は 3⋅827+3⋅(−127)+(−1)=89−19−1=−293\cdot\frac{8}{27}+3\cdot\big(-\frac1{27}\big)+(-1)=\frac89-\frac19-1=-\frac29。差は 00。
  • SU(2)2U(1)YSU(2)^2U(1)_Y:2 重項だけが寄与し、tr(tatb)=12δab\mathrm{tr}(t^at^b)=\frac12\delta^{ab} を除いて 3⋅16+(−12)=03\cdot\frac16+\big(-\frac12\big)=0。
  • SU(3)2U(1)YSU(3)^2U(1)_Y:3 重項だけが寄与し、左 2⋅16=132\cdot\frac16=\frac13、右 23−13=13\frac23-\frac13=\frac13。差は 00。
  • SU(3)3SU(3)^3:左に 3 重項 2 個(QLQ_{\mathrm L} の 2 成分)、右に 3 重項 2 個(uR,dRu_{\mathrm R},d_{\mathrm R})で、表現が同じなので打ち消します。
  • 重力混合:左 6⋅16+2⋅(−12)=06\cdot\frac16+2\cdot\big(-\frac12\big)=0、右 3⋅23+3⋅(−13)−1=03\cdot\frac23+3\cdot\big(-\frac13\big)-1=0。

SU(2)3SU(2)^3 は 2 重項が擬実表現なので自動的に 00 です。また 2 重項は 1 世代に 3+1=43+1=4 個(偶数)なので、Witten の大域的アノマリーもありません。U(1)Y3U(1)_Y^3 の相殺はクォークの色の数 33 とレプトンの寄与が組み合わさって初めて成り立っています。

演習 7.4易

αs(mZ)=0.118\alpha_s(m_Z)=0.118(mZ=91.19 GeVm_Z=91.19\ \mathrm{GeV})とし、nf=5n_f=5 の 1 ループのβ関数を使って、系 5.3 の Λ\Lambda と αs(1 TeV)\alpha_s(1\ \mathrm{TeV}) を求めてください(トップクォークの閾値は無視します)。

解答

N=3N=3、nf=5n_f=5 で b0=11−103=233b_0=11-\frac{10}3=\frac{23}3、b02π=1.2202\frac{b_0}{2\pi}=1.2202 です。1αs(mZ)=8.475\frac1{\alpha_s(m_Z)}=8.475 なので ln⁡mZΛ=8.4751.2202=6.946\ln\frac{m_Z}{\Lambda}=\frac{8.475}{1.2202}=6.946、Λ=91.19 e−6.946 GeV≈0.088 GeV\Lambda=91.19\,e^{-6.946}\ \mathrm{GeV}\approx0.088\ \mathrm{GeV} です。1αs(1 TeV)=8.475+1.2202ln⁡100091.19=8.475+1.2202×2.395=11.40\frac1{\alpha_s(1\ \mathrm{TeV})}=8.475+1.2202\ln\frac{1000}{91.19}=8.475+1.2202\times2.395=11.40 なので αs(1 TeV)≈0.088\alpha_s(1\ \mathrm{TeV})\approx0.088 です。Λ\Lambda の値は nfn_f やループの次数、スキームに依存するので、文献の ΛMS‾(5)≈0.21 GeV\Lambda_{\overline{\mathrm{MS}}}^{(5)}\approx0.21\ \mathrm{GeV}(2 ループ以上)とは一致しません。αs\alpha_s そのものの走り方は 1 ループでもよく再現されます。

  • M. E. Peskin, D. V. Schroeder『An Introduction to Quantum Field Theory』Addison-Wesley、1995 — 第 15 章(非可換ゲージ不変性)、第 16 章(§16.2 ファデーエフ–ポポフ、§16.4 BRST、§16.5 1 ループのβ関数)、第 19 章(§19.2 ABJ アノマリー、§19.4 π0→γγ\pi^0\to\gamma\gamma)、第 20 章 §20.2。
  • C. N. Yang, R. L. Mills, “Conservation of isotopic spin and isotopic gauge invariance”, Physical Review 96 (1954), 191.
  • L. D. Faddeev, V. N. Popov, “Feynman diagrams for the Yang–Mills field”, Physics Letters B 25 (1967), 29.
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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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