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標準模型:SU(3)×SU(2)×U(1) の物質場、電弱統一、Higgs 粒子、QCD の漸近的自由性

対象読者: 本テーマ第 1〜3 章(原子核、ハドロン、弱い相互作用)と、場の量子論のゲージ理論・自発的対称性の破れ・非可換ゲージ理論の量子化(漸近的自由、アノマリー)を学んだ人。

前提となる記事:弱い相互作用とニュートリノ:Fermi 理論から V−A、CKM 行列、ニュートリノ振動まで、ゲージ理論と自発的対称性の破れ:ヒッグス機構はなぜ質量を生むのか、非可換ゲージ理論の量子化:FP ゴースト・BRST 対称性・漸近的自由・カイラル・アノマリー

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物質を作る粒子(クォークや電子)と、粒子の間に働く力(強い力・弱い力・電磁気力)、そして粒子に質量を与える Higgs 粒子を、一つの決まりごと(ゲージ理論)でまとめて説明するのが標準模型です。この記事では、その粒子の一覧表を作り、そこから ZZ 粒子の寿命、Higgs 粒子の崩壊の仕方、クォークの間の力の強さを実際に計算して、実験の数値と見比べます。読み終えると、標準模型の予言が数字としてどう出てくるかを追えるようになります。

  • 標準模型は、ゲージ群 SU(3)C×SU(2)L×U(1)Y\mathrm{SU}(3)_C\times\mathrm{SU}(2)_L\times\mathrm{U}(1)_Y と、1 世代あたり 1515 個の左巻きワイル場(QL,uc,dc,L,ecQ_L,u^c,d^c,L,e^c)、Higgs 二重項からなります。ハイパーチャージの値は、ゲージ・アノマリーが相殺する条件で(ほぼ)決まり、∑Q=0\sum Q=0 が Nc=3N_c=3 と結びつきます。
  • 電弱統一の帰結として、光子・WW・ZZ の結合は g,g′g,g' の二つで決まります。ZZ の結合は (g/cos⁡θW)(T3−Qsin⁡2θW)(g/\cos\theta_W)(T_3-Q\sin^2\theta_W)、光子は eQeQ で、e=gsin⁡θWe=g\sin\theta_W、GF/2=g2/(8MW2)G_F/\sqrt2=g^2/(8M_W^2) です。
  • ZZ の部分幅は Γ(Z→ffˉ)=Nc GFMZ3(gV2+gA2)/(62π)\Gamma(Z\to f\bar f)=N_c\,G_FM_Z^3(g_V^2+g_A^2)/(6\sqrt2\pi) と計算でき、sin⁡2θW=0.2312\sin^2\theta_W=0.2312 で全幅 2.42 GeV2.42\,\mathrm{GeV} を再現します(観測 2.50 GeV2.50\,\mathrm{GeV})。見えない幅の比較から軽いニュートリノは 33 種類と決まります。
  • Higgs 粒子はフェルミオンに質量 mfm_f に比例して結合し、崩壊幅は Γ(h→ffˉ)=Ncmfmh mfβ3/(8πv2)\Gamma(h\to f\bar f)=N_cm_fm_h\,m_f\beta^3/(8\pi v^2) です。質量が大きい終状態ほど優勢で、bbˉb\bar b が最大になります。
  • QCD では色因子 CF=4/3C_F=4/3 により、クォーク・反クォークの引力は −43αs/r-\tfrac43\alpha_s/r、クォーク対(3ˉ\bar{\mathbf 3})の引力は −23αs/r-\tfrac23\alpha_s/r です。結合定数は αs(Q2)=αs(μ2)/[1+b04παs(μ2)ln⁡(Q2/μ2)]\alpha_s(Q^2)=\alpha_s(\mu^2)/[1+\tfrac{b_0}{4\pi}\alpha_s(\mu^2)\ln(Q^2/\mu^2)] で走り、nf≤16n_f\le16 で漸近的自由です。

このテーマの前の 3 つの記事では、原子核(核力の結合エネルギー)、ハドロン(対称性とクォーク)、弱い相互作用(Fermi 理論と V−A)を、それぞれ別の道具で扱いました。標準模型は、これらすべてを一つのゲージ理論としてまとめた枠組みです。強い相互作用を SU(3)C\mathrm{SU}(3)_C、弱い相互作用と電磁相互作用を SU(2)L×U(1)Y\mathrm{SU}(2)_L\times\mathrm U(1)_Y で記述し、粒子の質量は Higgs 場との結合から生じます。

場の量子論の側(ゲージ理論と自発的対称性の破れ、非可換ゲージ理論の量子化)で、この理論の数学的な骨格は与えられています。この記事は、その現象論側の受け皿です。つまり、標準模型の粒子の表を整理し、場の理論の結果を使って、実験と比較できる数値(ZZ の幅、Higgs の崩壊幅、結合定数の走り、クォーク間の力)を具体的に計算します。計算は、ファインマン則による崩壊率の公式(ファインマン則と LSZ)とディラック場のスピン和だけで足りるように選んでいます。以下 ℏ=c=1\hbar=c=1 で、計量は (+,−,−,−)(+,-,-,-) です。

この節のねらいは、1 世代ぶんの粒子を一つの表にまとめ、量子化したときに理論が壊れないための条件(アノマリーの相殺)を確かめることです。右巻きの粒子は、その反粒子を考えると左巻きとして扱えます。すべてを左巻きの場(ワイル場、スピン 1/2 で片方の巻き方だけをもつ場)に統一しておくと、表の一行が一つの場に対応し、群の表現と YY だけで整理できます。表の「3\mathbf 3」「2\mathbf 2」は、その場が色・弱アイソスピンについて何個の成分をもつかを表します。

定義 2.1(標準模型の物質場(1 世代))↗

すべての物質場を左巻きのワイル場で表す(右巻き場は電荷共役の左巻き場に書き直す)。SU(3)C×SU(2)L×U(1)Y\mathrm{SU}(3)_C\times\mathrm{SU}(2)_L\times\mathrm U(1)_Y の表現は次の表のとおりで、世代は 33 組ある。

場SU(3)C\mathrm{SU}(3)_CSU(2)L\mathrm{SU}(2)_LYY内容
QLQ_L3\mathbf 32\mathbf 216\tfrac16(uL,dL)(u_L,d_L)
ucu^c3ˉ\bar{\mathbf 3}1\mathbf 1−23-\tfrac23uRu_R の電荷共役
dcd^c3ˉ\bar{\mathbf 3}1\mathbf 1+13+\tfrac13dRd_R の電荷共役
LL1\mathbf 12\mathbf 2−12-\tfrac12(νL,eL)(\nu_L,e_L)
ece^c1\mathbf 11\mathbf 1+1+1eRe_R の電荷共役
HH1\mathbf 12\mathbf 2+12+\tfrac12Higgs 二重項(スカラー)

電荷は Q=T3+YQ=T_3+Y で与えられる。

この割り当てで電荷が正しく出ることを確認します。QLQ_L は T3=±12T_3=\pm\tfrac12 に Y=16Y=\tfrac16 を足して uL:23u_L:\tfrac23、dL:−13d_L:-\tfrac13。ucu^c は T3=0T_3=0、Y=−23Y=-\tfrac23 で −23-\tfrac23(uRu_R の反粒子の電荷)、dcd^c は +13+\tfrac13、LL は νL:0\nu_L:0、eL:−1e_L:-1、ec:+1e^c:+1。Higgs 二重項は T3=±12T_3=\pm\tfrac12 に Y=12Y=\tfrac12 で (+1,0)(+1,0) です。

次の命題は、表の各場の YY に、場の成分の個数(色の 3 とアイソスピンの 2 の積など)を重みとして掛けて足すと、どの和も 00 になる、という計算です。たとえば QLQ_L は色 33 個とアイソスピン 22 個で成分が 66 個あるので、Y=16Y=\tfrac16 を 66 回数えます。

命題 2.2(標準模型のアノマリーの相殺)✓

定義 2.1 の 1 世代の場について、次の和はすべて 00 である。

  1. [SU(3)]2U(1)[\mathrm{SU}(3)]^2\mathrm U(1):∑色 3,3ˉY=2⋅16+(−23)+13\sum_{\text{色}\,\mathbf 3,\bar{\mathbf 3}}Y=2\cdot\tfrac16+\bigl(-\tfrac23\bigr)+\tfrac13(SU(2)\mathrm{SU}(2) 二重項は成分 22 個で数える)。
  2. [SU(2)]2U(1)[\mathrm{SU}(2)]^2\mathrm U(1):∑二重項Y=3⋅16+(−12)\sum_{\text{二重項}}Y=3\cdot\tfrac16+\bigl(-\tfrac12\bigr)(QLQ_L は色 33 個)。
  3. U(1)3\mathrm U(1)^3:∑Y3\sum Y^3。
  4. 重力–重力–U(1)\mathrm U(1):∑Y\sum Y。

さらに、SU(3)3\mathrm{SU}(3)^3 のアノマリーは 3\mathbf 3 が 22 個(QLQ_L の二重項)、3ˉ\bar{\mathbf 3} が 22 個(uc,dcu^c,d^c)で相殺し、SU(2)3\mathrm{SU}(2)^3 のアノマリーは SU(2)\mathrm{SU}(2) の表現が実または擬実なので存在しない。

証明(命題 2.2)

(1) は 13−23+13=0\tfrac13-\tfrac23+\tfrac13=0。(2) は 12−12=0\tfrac12-\tfrac12=0。(3) は各場の自由度(色×二重項)を掛けて、6⋅(16)3+3(−23)3+3(13)3+2(−12)3+13=136−89+19−14+16\cdot\bigl(\tfrac16\bigr)^3+3\bigl(-\tfrac23\bigr)^3+3\bigl(\tfrac13\bigr)^3+2\bigl(-\tfrac12\bigr)^3+1^3=\tfrac1{36}-\tfrac89+\tfrac19-\tfrac14+1。通分すると 1−32+4−9+3636=0\tfrac{1-32+4-9+36}{36}=0。(4) は 6⋅16+3(−23)+3⋅13+2(−12)+1=1−2+1−1+1=06\cdot\tfrac16+3\bigl(-\tfrac23\bigr)+3\cdot\tfrac13+2\bigl(-\tfrac12\bigr)+1=1-2+1-1+1=0。SU(3)3\mathrm{SU}(3)^3 は、基本表現と反基本表現のアノマリー係数が逆符号で、3\mathbf 3 が 22 個、3ˉ\bar{\mathbf 3} が 22 個だから和が 00。

これらの条件は、ゲージ・アノマリーの相殺条件(定理 6.5)[非可換ゲージ理論の量子化](群論的な構造は 定理 4.4[アノマリーとインスタントン])により、ゲージ理論が矛盾なく量子化できるために必要です。(4) からただちに、11 世代の電荷の和 ∑Q=∑Y=0\sum Q=\sum Y=0 が出ます。クォークだけ、あるいはレプトンだけでは相殺しないので、世代ごとにクォーク 33 色とレプトン 11 組がそろう必要があります(Nc=3N_c=3 と Qu−Qd=1Q_u-Q_d=1 が結びつく)。

命題 2.3(質量項はゲージ不変でない)✓

電子の質量項 ec Le^c\,L(SU(2)\mathrm{SU}(2) の二重項 LL と一重項 ece^c の積)は SU(2)L\mathrm{SU}(2)_L の二重項で Y=+12Y=+\tfrac12 をもつので、ゲージ不変ではない。ゲージ不変なのは Higgs 二重項を介した結合 ec (H†L)e^c\,(H^\dagger L)、uc ϵabQaHbu^c\,\epsilon_{ab}Q^aH^b、dc (H†Q)d^c\,(H^\dagger Q) である。

証明(命題 2.3)

ece^c は SU(2)\mathrm{SU}(2) 一重項なので、積 ecLe^cL は LL と同じく二重項であり、Y=1+(−12)=12≠0Y=1+(-\tfrac12)=\tfrac12\ne0。不変にはならない。H†LH^\dagger L は二重項どうしの縮約 ∑aHa∗La\sum_aH^{a*}L^a で SU(2)\mathrm{SU}(2) 一重項、ハイパーチャージは −12−12=−1-\tfrac12-\tfrac12=-1 で、ec(Y=+1)e^c(Y=+1) との積は Y=0Y=0 になり不変。ϵabQaHb\epsilon_{ab}Q^aH^b は一重項で Y=16+12=23Y=\tfrac16+\tfrac12=\tfrac23、uc(Y=−23)u^c(Y=-\tfrac23) との積は 00。H†QH^\dagger Q は Y=16−12=−13Y=\tfrac16-\tfrac12=-\tfrac13、dc(Y=+13)d^c(Y=+\tfrac13) との積は 00 で、いずれも不変。

したがって、Higgs 場が真空期待値 ⟨H⟩=(0,v/2)T\langle H\rangle=(0,v/\sqrt2)^{\mathsf T} をもつと、これらの結合から質量 mf=yfv/2m_f=y_fv/\sqrt2 が生まれます(数値を入れてみる(例 7.2)[ゲージ理論と自発的対称性の破れ] を参照)。

荷電カレントは前の記事で扱いました。次の定理の方針は、W3W^3 と BB という二つのゲージ場の組を回転して、質量をもつ ZZ と質量のない光子 AA に取り替え、フェルミオンとの結合を ZZ・AA・W±W^\pm ごとに読み取ることです。光子の結合が電荷 QQ に比例するように回転角 θW\theta_W を選ぶと、e=gsin⁡θWe=g\sin\theta_W という関係が自然に出ます。ここでは、SU(2)L×U(1)Y\mathrm{SU}(2)_L\times\mathrm U(1)_Y の共変微分からフェルミオンの結合をすべて導きます。

定理 3.1(電弱ゲージ場とフェルミオンの結合)✓

フェルミオン ψ\psi の共変微分 Dμ=∂μ−igWμaTa−ig′YBμD_\mu=\partial_\mu-igW^a_\mu T^a-ig'YB_\mu から、ゲージ理論と自発的対称性の破れ の第 7 節と同じ混合 Z=cos⁡θW W3−sin⁡θW BZ=\cos\theta_W\,W^3-\sin\theta_W\,B、A=sin⁡θW W3+cos⁡θW BA=\sin\theta_W\,W^3+\cos\theta_W\,B(tan⁡θW=g′/g\tan\theta_W=g'/g)、W±=(W1∓iW2)/2W^\pm=(W^1\mp iW^2)/\sqrt2 を行うと、相互作用は

Lint=e Aμ ψˉγμQψ+g2(Wμ+ ψˉγμT+ψ+h.c.)+gcos⁡θWZμ ψˉγμ(T3−Qsin⁡2θW)ψ\mathcal L_{\mathrm{int}}=e\,A_\mu\,\bar\psi\gamma^\mu Q\psi+\frac g{\sqrt2}\Bigl(W^+_\mu\,\bar\psi\gamma^\mu T^+\psi+\mathrm{h.c.}\Bigr)+\frac g{\cos\theta_W}Z_\mu\,\bar\psi\gamma^\mu\bigl(T_3-Q\sin^2\theta_W\bigr)\psi

の形になる(和は左巻き成分で TaT^a が働き、右巻きで Ta=0T^a=0)。ここで e=gsin⁡θW=g′cos⁡θWe=g\sin\theta_W=g'\cos\theta_W である。

証明(定理 3.1)

gWaTa+g′YB=g (W1T1+W2T2)+g W3T3+g′YBgW^aT^a+g'YB=g\,(W^1T^1+W^2T^2)+g\,W^3T_3+g'YB。第 1 項は W±W^\pm と T±=T1±iT2T^\pm=T^1\pm iT^2 で 12[(W1−iW2)(T1+iT2)+(W1+iW2)(T1−iT2)]=12(W+T++W−T−)\tfrac12\bigl[(W^1-iW^2)(T^1+iT^2)+(W^1+iW^2)(T^1-iT^2)\bigr]=\tfrac1{\sqrt2}(W^+T^++W^-T^-) と書けて、荷電カレントの結合 g/2g/\sqrt2 を与える。残りは W3=cos⁡θW Z+sin⁡θW AW^3=\cos\theta_W\,Z+\sin\theta_W\,A、B=−sin⁡θW Z+cos⁡θW AB=-\sin\theta_W\,Z+\cos\theta_W\,A を代入して、AA の係数 gsin⁡θWT3+g′cos⁡θWYg\sin\theta_WT_3+g'\cos\theta_WY と ZZ の係数 gcos⁡θWT3−g′sin⁡θWYg\cos\theta_WT_3-g'\sin\theta_WY を得る。tan⁡θW=g′/g\tan\theta_W=g'/g より gsin⁡θW=g′cos⁡θW≡eg\sin\theta_W=g'\cos\theta_W\equiv e なので、AA の係数は e(T3+Y)=eQe(T_3+Y)=eQ。ZZ の係数は g′=gtan⁡θWg'=g\tan\theta_W を使い gcos⁡θWT3−gsin⁡2θWcos⁡θWY=gcos⁡θW[cos⁡2θWT3−sin⁡2θWY]=gcos⁡θW[T3−sin⁡2θW(T3+Y)]g\cos\theta_WT_3-g\dfrac{\sin^2\theta_W}{\cos\theta_W}Y=\dfrac g{\cos\theta_W}\bigl[\cos^2\theta_WT_3-\sin^2\theta_WY\bigr]=\dfrac g{\cos\theta_W}\bigl[T_3-\sin^2\theta_W(T_3+Y)\bigr] である。

したがって、g=e/sin⁡θWg=e/\sin\theta_W なので、弱い相互作用の強さは電磁相互作用 α=e2/4π\alpha=e^2/4\pi と同程度です(g2/4π=α/sin⁡2θW≈1/30g^2/4\pi=\alpha/\sin^2\theta_W\approx1/30)。弱い相互作用が「弱い」のは、WW が重くて低エネルギーでは GF∼g2/MW2G_F\sim g^2/M_W^2 と抑制されるからで、結合そのものが小さいからではありません。

系 3.2(GFG_F と WW の質量)✓

低エネルギー(∣q2∣≪MW2|q^2|\ll M_W^2)の荷電カレント相互作用は、Fermi の 4 点相互作用(定義 2.1)[弱い相互作用とニュートリノ] に帰着し、

GF2=g28MW2=12v2,MW2=πα2 GFsin⁡2θW(最低次)\frac{G_F}{\sqrt2}=\frac{g^2}{8M_W^2}=\frac1{2v^2},\qquad M_W^2=\frac{\pi\alpha}{\sqrt2\,G_F\sin^2\theta_W}\quad(\text{最低次})

である。

証明(系 3.2)

荷電カレントの頂点 g2uˉγμPLd=g22uˉγμ(1−γ5)d\dfrac g{\sqrt2}\bar u\gamma^\mu P_Ld=\dfrac g{2\sqrt2}\bar u\gamma^\mu(1-\gamma^5)d を 2 つつなぎ、WW の伝播関数 −igμν/(q2−MW2)-ig_{\mu\nu}/(q^2-M_W^2) が ∣q2∣≪MW2|q^2|\ll M_W^2 で igμν/MW2ig_{\mu\nu}/M_W^2 になることから、有効振幅の係数 (g22)21MW2=g28MW2\bigl(\tfrac g{2\sqrt2}\bigr)^2\dfrac1{M_W^2}=\dfrac{g^2}{8M_W^2} が 定義 2.1[弱い相互作用とニュートリノ] の GF2\dfrac{G_F}{\sqrt2} に等しい。MW=gv/2M_W=gv/2(ゲージ理論と自発的対称性の破れ で導いた)を代入して GF/2=1/(2v2)G_F/\sqrt2=1/(2v^2)。さらに g2=e2/sin⁡2θW=4πα/sin⁡2θWg^2=e^2/\sin^2\theta_W=4\pi\alpha/\sin^2\theta_W を MW2=g2/(8GF/2)=g242GFM_W^2=g^2/(8G_F/\sqrt2)=\dfrac{g^2}{4\sqrt2G_F} に入れて、MW2=πα2GFsin⁡2θWM_W^2=\dfrac{\pi\alpha}{\sqrt2G_F\sin^2\theta_W}。

次の例では、sin⁡2θW\sin^2\theta_W の決め方によって結果が少し変わります。「オンシェル定義」とは sin⁡2θW=1−MW2/MZ2\sin^2\theta_W=1-M_W^2/M_Z^2 と質量から決める定義のことで、「輻射補正」とは、最低次の計算に加わる高次の量子効果による小さなずれのことです。

例 3.3(WW の質量の予言)

α=1/137.04\alpha=1/137.04、GF=1.1664×10−5 GeV−2G_F=1.1664\times10^{-5}\,\mathrm{GeV}^{-2}、sin⁡2θW=0.2312\sin^2\theta_W=0.2312 では MW=0.022927/(1.6495×10−5×0.2312)=77.5 GeVM_W=\sqrt{0.022927/(1.6495\times10^{-5}\times0.2312)}=77.5\,\mathrm{GeV} です。オンシェル定義の sin⁡2θW=1−MW2/MZ2=0.2229\sin^2\theta_W=1-M_W^2/M_Z^2=0.2229 を使うと 79.0 GeV79.0\,\mathrm{GeV}。観測値 80.4 GeV80.4\,\mathrm{GeV} との数 %\% の差は、輻射補正で説明されます。1983 年に CERN で発見された WW と ZZ の質量は、この予言の範囲にありました。

この節のねらいは、前節の結合から ZZ が各フェルミオン対に崩れる割合を計算し、実験で測られた幅と比べることです。証明の流れは、(1) 振幅を書く、(2) スピンと偏極について和をとる(ガンマ行列のトレースになる)、(3) 2 体崩壊の公式に入れる、の三段です。

定理 4.1(ZZ の部分幅)✓

フェルミオン ff(質量を無視)への ZZ の崩壊幅は、定理 3.1 の結合 g2cos⁡θWZμfˉγμ(gV−gAγ5)f\dfrac g{2\cos\theta_W}Z_\mu\bar f\gamma^\mu(g_V-g_A\gamma^5)f(gV=T3−2Qsin⁡2θWg_V=T_3-2Q\sin^2\theta_W、gA=T3g_A=T_3)から

Γ(Z→ffˉ)=Nc GFMZ362 π (gV2+gA2)\Gamma(Z\to f\bar f)=N_c\,\frac{G_FM_Z^3}{6\sqrt2\,\pi}\,\bigl(g_V^2+g_A^2\bigr)

である(NcN_c は色の数。レプトンでは 11、クォークでは 33)。ニュートリノ(左巻きのみ)は gV=gA=12g_V=g_A=\tfrac12 を用いる。

証明(定理 4.1)

左巻きの結合 gL=T3−Qsin⁡2θWg_L=T_3-Q\sin^2\theta_W、右巻きの結合 gR=−Qsin⁡2θWg_R=-Q\sin^2\theta_W を fˉγμ(gLPL+gRPR)f\bar f\gamma^\mu(g_LP_L+g_RP_R)f に入れて、PL,R=12(1∓γ5)P_{L,R}=\tfrac12(1\mp\gamma^5) より 12(gV−gAγ5)\tfrac12(g_V-g_A\gamma^5) (gV=gL+gRg_V=g_L+g_R、gA=gL−gRg_A=g_L-g_R)と書ける。Z(p,ε)→f(p1)fˉ(p2)Z(p,\varepsilon)\to f(p_1)\bar f(p_2) の振幅は M=g2cos⁡θWεμ uˉ(p1)γμ(gV−gAγ5)v(p2)\mathcal M=\dfrac g{2\cos\theta_W}\varepsilon_\mu\,\bar u(p_1)\gamma^\mu(g_V-g_A\gamma^5)v(p_2)。偏極和は ∑εμεν∗=−gμν+pμpν/MZ2\sum\varepsilon_\mu\varepsilon^*_\nu=-g_{\mu\nu}+p_\mu p_\nu/M_Z^2 で、p=p1+p2p=p_1+p_2 に比例する項は、質量ゼロのフェルミオン・カレントが保存する(pμuˉγμ(gV−gAγ5)v=0p_\mu\bar u\gamma^\mu(g_V-g_A\gamma^5)v=0)ので消える。スピン和は

∑∣M∣2=g24cos⁡2θW(−gμν) tr[̸p1γμ(gV−gAγ5)̸p2γν(gV−gAγ5)].\sum|\mathcal M|^2=\frac{g^2}{4\cos^2\theta_W}(-g_{\mu\nu})\,\mathrm{tr}\bigl[\not p_1\gamma^\mu(g_V-g_A\gamma^5)\not p_2\gamma^\nu(g_V-g_A\gamma^5)\bigr].

γ5\gamma^5 を左へ送ると (gV−gAγ5)̸p2γν(gV−gAγ5)≠p2γν(gV2+gA2−2gVgAγ5)(g_V-g_A\gamma^5)\not p_2\gamma^\nu(g_V-g_A\gamma^5)=\not p_2\gamma^\nu(g_V^2+g_A^2-2g_Vg_A\gamma^5) で、γ5\gamma^5 の項は μν\mu\nu について反対称(ϵαμβν\epsilon^{\alpha\mu\beta\nu}。定理 2.2[アノマリーとインスタントン])で −gμν-g_{\mu\nu} との縮約が 00 になる。残りは (gV2+gA2) tr[̸p1γμ̸p2γν]=4(gV2+gA2)(p1μp2ν+p1νp2μ−gμνp1 ⁣⋅ ⁣p2)(g_V^2+g_A^2)\,\mathrm{tr}[\not p_1\gamma^\mu\not p_2\gamma^\nu]=4(g_V^2+g_A^2)(p_1^\mu p_2^\nu+p_1^\nu p_2^\mu-g^{\mu\nu}p_1\!\cdot\!p_2) で、−gμν-g_{\mu\nu} を縮約すると −4(2p1 ⁣⋅ ⁣p2−4p1 ⁣⋅ ⁣p2)=8p1 ⁣⋅ ⁣p2=4MZ2-4(2p_1\!\cdot\!p_2-4p_1\!\cdot\!p_2)=8p_1\!\cdot\!p_2=4M_Z^2(p1 ⁣⋅ ⁣p2=MZ2/2p_1\!\cdot\!p_2=M_Z^2/2)。よって ∑∣M∣2=g2cos⁡2θWMZ2(gV2+gA2)\sum|\mathcal M|^2=\dfrac{g^2}{\cos^2\theta_W}M_Z^2(g_V^2+g_A^2)。ZZ の偏極についての平均 13\tfrac13 と、色の和 NcN_c を掛ける。2 体崩壊の公式(命題 6.1)[ハドロンとクォーク模型] で p∗=MZ/2p^*=M_Z/2 より Γ=p∗8πMZ2⟨∣M∣2⟩=Ncg2MZ(gV2+gA2)48πcos⁡2θW\Gamma=\dfrac{p^*}{8\pi M_Z^2}\langle|\mathcal M|^2\rangle=\dfrac{N_cg^2M_Z(g_V^2+g_A^2)}{48\pi\cos^2\theta_W}。最後に 系 3.2 の GF/2=g2/(8MW2)G_F/\sqrt2=g^2/(8M_W^2) と MW=MZcos⁡θWM_W=M_Z\cos\theta_W より g2/cos⁡2θW=42 GFMZ2g^2/\cos^2\theta_W=4\sqrt2\,G_FM_Z^2 なので、主張の式を得る。

例 4.2(ZZ の全幅とニュートリノの世代数)

GFMZ3/(62π)=0.3318 GeVG_FM_Z^3/(6\sqrt2\pi)=0.3318\,\mathrm{GeV}(MZ=91.19 GeVM_Z=91.19\,\mathrm{GeV})、sin⁡2θW=0.2312\sin^2\theta_W=0.2312 で各部分幅は次のとおりです。

終状態gVg_VgAg_AΓ\Gamma (MeV)観測 (MeV)
ννˉ\nu\bar\nu(1 種類)12\tfrac1212\tfrac12166167
ℓ+ℓ−\ell^+\ell^-(1 種類)−0.038-0.038−12-\tfrac1283.484.0
uuˉ, ccˉu\bar u,\ c\bar c(各)0.1920.19212\tfrac12285300
ddˉ, ssˉ, bbˉd\bar d,\ s\bar s,\ b\bar b(各)−0.346-0.346−12-\tfrac12368378〜383

全幅は 3×166+3×83.4+2×285+3×368=2422 MeV3\times166+3\times83.4+2\times285+3\times368=2422\,\mathrm{MeV} で、観測値 2495 MeV2495\,\mathrm{MeV} との差 3%3\% は QCD 補正(クォーク終状態の幅を約 4%4\% 増やす)で説明できます。LEP の測定では、ハドロンとレプトンの観測から決めた「見えない幅」499 MeV499\,\mathrm{MeV} を、ニュートリノ 1 種類の幅 166 MeV166\,\mathrm{MeV} で割ると Nν=3.0N_\nu=3.0 になり、質量が MZ/2M_Z/2 より軽いニュートリノは 3 種類であることが決まりました。

Higgs 場を H=12(0, v+h)TH=\tfrac1{\sqrt2}(0,\,v+h)^{\mathsf T} と展開します(ユニタリーゲージとは、ゲージ変換の自由度を使って、物理的でない成分を消した取り方のことです)。ポテンシャル V=−μ2∣H∣2+λ∣H∣4V=-\mu^2|H|^2+\lambda|H|^4 は −μ22(v+h)2+λ4(v+h)4-\tfrac{\mu^2}2(v+h)^2+\tfrac\lambda4(v+h)^4 となり、極小条件から v2=μ2/λv^2=\mu^2/\lambda、hh の質量は mh2=∂2V/∂h2∣h=0=−μ2+3λv2=2λv2m_h^2=\partial^2V/\partial h^2|_{h=0}=-\mu^2+3\lambda v^2=2\lambda v^2 です。観測された mh=125.2 GeVm_h=125.2\,\mathrm{GeV}、v=246.2 GeVv=246.2\,\mathrm{GeV} から λ=mh2/(2v2)=0.129\lambda=m_h^2/(2v^2)=0.129 です(ヒッグス機構(定理 6.1)[ゲージ理論と自発的対称性の破れ] の mh2=2λv2m_h^2=2\lambda v^2 と同じ)。

湯川結合(Higgs 場とフェルミオン場をつなぐ、結合定数 yfy_f の相互作用項)−yffˉLfR H0+h.c.-y_f\bar f_Lf_R\,H^0+\mathrm{h.c.} に H0=(v+h)/2H^0=(v+h)/\sqrt2 を代入すると、−yfv2fˉf−yf2hfˉf-\dfrac{y_fv}{\sqrt2}\bar ff-\dfrac{y_f}{\sqrt2}h\bar ff となり、前者が質量 mf=yfv/2m_f=y_fv/\sqrt2 で、後者が hh とフェルミオンの結合 −(mf/v) hfˉf-(m_f/v)\,h\bar ff です。Higgs 粒子は質量に比例して結合します。 WW との結合は、g24(v+h)2W+W−\dfrac{g^2}4(v+h)^2W^+W^- の hh の 1 次の項から g2v2hW+W−=2MW2vhW+W−\dfrac{g^2v}2hW^+W^-=\dfrac{2M_W^2}vhW^+W^- です。

定理 5.1(Higgs 粒子のフェルミオン対への崩壊幅)✓

h→ffˉh\to f\bar f の崩壊幅は、フェルミオンの質量を mfm_f、β=1−4mf2/mh2\beta=\sqrt{1-4m_f^2/m_h^2} として

Γ(h→ffˉ)=Nc mf2 mh8πv2 β3\Gamma(h\to f\bar f)=N_c\,\frac{m_f^2\,m_h}{8\pi v^2}\,\beta^3

である。

証明(定理 5.1)

振幅は M=−mfv uˉ(p1)v(p2)\mathcal M=-\dfrac{m_f}v\,\bar u(p_1)v(p_2)。スピン和は スピン和の公式(定理 3.3)[ディラック場の量子化] から ∑∣uˉv∣2=tr[(̸p1+mf)(̸p2−mf)]=4(p1 ⁣⋅ ⁣p2−mf2)\sum|\bar uv|^2=\mathrm{tr}[(\not p_1+m_f)(\not p_2-m_f)]=4(p_1\!\cdot\!p_2-m_f^2)。p1 ⁣⋅ ⁣p2=(mh2−2mf2)/2p_1\!\cdot\!p_2=(m_h^2-2m_f^2)/2 なので 4(p1 ⁣⋅ ⁣p2−mf2)=2mh2−8mf2=2mh2β24(p_1\!\cdot\!p_2-m_f^2)=2m_h^2-8m_f^2=2m_h^2\beta^2。よって ∑∣M∣2=2mf2mh2β2v2\sum|\mathcal M|^2=\dfrac{2m_f^2m_h^2\beta^2}{v^2}(hh はスピン 0 なので平均は不要)。2 体崩壊の公式(命題 6.1)[ハドロンとクォーク模型] の p∗=12mhβp^*=\tfrac12m_h\beta を Γ=p∗8πmh2∑∣M∣2\Gamma=\dfrac{p^*}{8\pi m_h^2}\sum|\mathcal M|^2 に入れ、NcN_c を掛けて主張を得る。

位相空間の因子 β3\beta^3 は、スカラー粒子がフェルミオン対に崩壊するとき対が P 波になる(閾値で β3\beta^3 に比例して開く)ことの現れです。

例 5.2(τ\tau と bb への崩壊)

τ\tau(mτ=1.777 GeVm_\tau=1.777\,\mathrm{GeV})では Γ=1×1.7772×125.2/(8π×246.22)=2.6×10−4 GeV=0.26 MeV\Gamma=1\times1.777^2\times125.2/(8\pi\times246.2^2)=2.6\times10^{-4}\,\mathrm{GeV}=0.26\,\mathrm{MeV}。bb クォークでは、質量に mb=4.18 GeVm_b=4.18\,\mathrm{GeV} を使うと Γ=4.3 MeV\Gamma=4.3\,\mathrm{MeV} ですが、この質量は mbm_b のスケールでの値で、Higgs の質量スケール 125 GeV125\,\mathrm{GeV} まで QCD で走らせると mb≈2.8 GeVm_b\approx2.8\,\mathrm{GeV} に減り、Γ≈1.9 MeV\Gamma\approx1.9\,\mathrm{MeV} になります。ここに QCD 補正が加わり、観測される全幅 4 MeV4\,\mathrm{MeV} 台の中で bbˉb\bar b が 58%58\%(約 2.4 MeV2.4\,\mathrm{MeV})を占めます。質量に比例した結合と mf2m_f^2 の依存が、より重い終状態を優勢にする仕組みです。電子(me=0.511 MeVm_e=0.511\,\mathrm{MeV})への崩壊は τ\tau の (me/mτ)2∼10−7(m_e/m_\tau)^2\sim10^{-7} 倍で、事実上観測できません。

定義 6.1(量子色力学)↗

クォーク場 qfq_f(f=u,d,s,c,b,tf=u,d,s,c,b,t)は SU(3)C\mathrm{SU}(3)_C の基本表現 3\mathbf 3 に属し、グルーオン場 GμaG^a_\mu(a=1,…,8a=1,\dots,8)がゲージ場である。ラグランジアンは

LQCD=−14GμνaGaμν+∑fqˉf(iD̸−mf)qf,Dμ=∂μ−igsGμaTa\mathcal L_{\mathrm{QCD}}=-\frac14G^a_{\mu\nu}G^{a\mu\nu}+\sum_f\bar q_f\bigl(i\not D-m_f\bigr)q_f,\qquad D_\mu=\partial_\mu-ig_sG^a_\mu T^a

で、Ta=λa/2T^a=\lambda^a/2 は SU(3)\mathrm{SU}(3) の生成子(ゲルマン行列の半分)、tr(TaTb)=12δab\mathrm{tr}(T^aT^b)=\tfrac12\delta^{ab} をみたす。αs=gs2/4π\alpha_s=g_s^2/4\pi である。

この節の最初のねらいは、電気の力で「電荷の積」が果たす役割を、色の力では「色荷の内積」が果たすと見て、クォーク間の力の強さを数にすることです。二つの粒子をひとまとめにした系の色荷の二乗(カシミール)は、それぞれの二乗と内積の和で書けます。したがって、まとめた系のカシミールが分かれば内積が逆算できます。

命題 6.2(色因子とクォーク間のポテンシャル)✓

(i) ∑aTaTa=CF 1\sum_aT^aT^a=C_F\,\mathbb 1 (基本表現)で、CF=N2−12N=43C_F=\dfrac{N^2-1}{2N}=\dfrac43(N=3N=3)。 (ii) 2 つのクォーク(または qqˉq\bar q)の色荷の内積は、合成表現のカシミール CRC_R を使って T1 ⁣⋅ ⁣T2=12(CR−C1−C2)T_1\!\cdot\!T_2=\tfrac12(C_R-C_1-C_2)。したがって色一重項の qqˉq\bar q では T1 ⁣⋅ ⁣T2=−CF=−43T_1\!\cdot\!T_2=-C_F=-\tfrac43、反基本表現 3ˉ\bar{\mathbf 3} のクォーク対では −12CF=−23-\tfrac12C_F=-\tfrac23。 (iii) 1 グルーオン交換のポテンシャルは V(r)=(T1 ⁣⋅ ⁣T2) αs/rV(r)=(T_1\!\cdot\!T_2)\,\alpha_s/r。すなわち、qqˉq\bar q の一重項で −43αs/r-\tfrac43\alpha_s/r(引力)、3ˉ\bar{\mathbf 3} の qqqq で −23αs/r-\tfrac23\alpha_s/r である。

証明(命題 6.2)

(i) ∑aTaTa\sum_aT^aT^a は SU(3)\mathrm{SU}(3) のすべての元と可換なので、既約表現上でスカラー CFC_F になる(シューアの補題)。トレースを両辺でとると、左辺は ∑atr(TaTa)=12(N2−1)\sum_a\mathrm{tr}(T^aT^a)=\tfrac12(N^2-1)、右辺は NCFNC_F なので CF=(N2−1)/(2N)C_F=(N^2-1)/(2N)。(ii) 合成系の色荷は T=T1+T2T=T_1+T_2 で、T2=T12+T22+2T1 ⁣⋅ ⁣T2T^2=T_1^2+T_2^2+2T_1\!\cdot\!T_2 から CR=C1+C2+2T1 ⁣⋅ ⁣T2C_R=C_1+C_2+2T_1\!\cdot\!T_2。qqˉq\bar q の一重項は CR=0C_R=0、C1=C2=CFC_1=C_2=C_F(反基本表現のカシミールは基本表現と同じ)で T1 ⁣⋅ ⁣T2=−CFT_1\!\cdot\!T_2=-C_F。qqqq の 3ˉ\bar{\mathbf 3} は 3 つのクォークの合成(定理 4.3)[ハドロンとクォーク模型] の証明で使った Λ2C3≅3ˉ\Lambda^2\mathbb C^3\cong\bar{\mathbf 3} に対応し、CR=CFC_R=C_F で T1 ⁣⋅ ⁣T2=12(CF−2CF)=−12CFT_1\!\cdot\!T_2=\tfrac12(C_F-2C_F)=-\tfrac12C_F。(iii) クーロン力との類推(電荷の積 e1e2e_1e_2 を T1 ⁣⋅ ⁣T2T_1\!\cdot\!T_2 に置き換える)による。

バリオンの色波動関数は完全反対称(色一重項)で、どの 2 つのクォークも 3ˉ\bar{\mathbf 3} にあります。3 つの対の引力を足すと 3×(−23)=−23\times(-\tfrac23)=-2。一方、色一重項では ∑iTi=0\sum_iT_i=0 なので 0=(∑Ti)2=3CF+2∑i<jTi ⁣⋅ ⁣Tj0=(\sum T_i)^2=3C_F+2\sum_{i<j}T_i\!\cdot\!T_j、∑i<jTi ⁣⋅ ⁣Tj=−32CF=−2\sum_{i<j}T_i\!\cdot\!T_j=-\tfrac32C_F=-2 となり、一致します(整合性の確認)。

定理 6.3(αs\alpha_s の走り)✓

1 ループの β\beta 関数 定理 5.1[非可換ゲージ理論の量子化](証明は 定理 5.6[次元正則化とくりこみ群])μ dgsdμ=−b016π2gs3\mu\,\dfrac{dg_s}{d\mu}=-\dfrac{b_0}{16\pi^2}g_s^3(b0=11−23nfb_0=11-\tfrac23n_f、nfn_f は質量を無視できるクォークの数)のもとで、

αs(Q2)=αs(μ2)1+b04π αs(μ2)ln⁡Q2μ2=4πb0ln⁡(Q2/Λ2)\alpha_s(Q^2)=\frac{\alpha_s(\mu^2)}{1+\dfrac{b_0}{4\pi}\,\alpha_s(\mu^2)\ln\dfrac{Q^2}{\mu^2}}=\frac{4\pi}{b_0\ln(Q^2/\Lambda^2)}

である。ここで Λ=μexp⁡[−2π/(b0αs(μ2))]\Lambda=\mu\exp\bigl[-2\pi/(b_0\alpha_s(\mu^2))\bigr]。b0>0b_0>0、すなわち nf≤16n_f\le16 のとき Q→∞Q\to\infty で αs→0\alpha_s\to0(漸近的自由)である。

証明(定理 6.3)

αs=gs2/4π\alpha_s=g_s^2/4\pi より μ dαs/dμ=2gsβ/(4π)=−b0gs432π3=−b02παs2\mu\,d\alpha_s/d\mu=2g_s\beta/(4\pi)=-\dfrac{b_0g_s^4}{32\pi^3}=-\dfrac{b_0}{2\pi}\alpha_s^2。ln⁡μ2=2ln⁡μ\ln\mu^2=2\ln\mu なので dαsdln⁡μ2=−b04παs2\dfrac{d\alpha_s}{d\ln\mu^2}=-\dfrac{b_0}{4\pi}\alpha_s^2、ddln⁡μ21αs=b04π\dfrac d{d\ln\mu^2}\dfrac1{\alpha_s}=\dfrac{b_0}{4\pi}。積分して 1αs(Q2)=1αs(μ2)+b04πln⁡Q2μ2\dfrac1{\alpha_s(Q^2)}=\dfrac1{\alpha_s(\mu^2)}+\dfrac{b_0}{4\pi}\ln\dfrac{Q^2}{\mu^2} で、第 1 の式を得る。1/αs(Q2)=b04πln⁡Q2Λ21/\alpha_s(Q^2)=\dfrac{b_0}{4\pi}\ln\dfrac{Q^2}{\Lambda^2} と書くと、ln⁡Λ2=ln⁡μ2−4πb0αs(μ2)\ln\Lambda^2=\ln\mu^2-\dfrac{4\pi}{b_0\alpha_s(\mu^2)} から Λ\Lambda の式が決まり、第 2 の式を得る。b0>0b_0>0 なら右辺の分母は QQ とともに増えて αs→0\alpha_s\to0。b0=11−23nf>0  ⟺  nf<16.5b_0=11-\tfrac23n_f>0\iff n_f<16.5 で、nf≤16n_f\le16 が漸近的自由の条件である。

結合定数がエネルギーに依存して走る結果、無次元の gsg_s の代わりに、次元をもつスケール Λ\Lambda が理論のただ一つのパラメータとして現れます(次元転換)。Q→ΛQ\to\Lambda で αs\alpha_s は発散し、摂動論は破綻して、クォークとグルーオンは閉じ込められてハドロンになります。

次の例の MS‾\overline{\mathrm{MS}} は、計算の発散を取り除く(くりこみ)際の約束の一つで、約束が違えば Λ\Lambda の数値も変わります。そのため、1 ループの値と高次を含めた値で Λ\Lambda に差が出ます。

例 6.4(αs\alpha_s の値と Λ\Lambda)

αs(MZ)=0.118\alpha_s(M_Z)=0.118、nf=5n_f=5(b0=23/3b_0=23/3)とすると、ln⁡(MZ2/Λ2)=4π/(b0αs)=13.89\ln(M_Z^2/\Lambda^2)=4\pi/(b_0\alpha_s)=13.89 から Λ=MZ e−6.95=88 MeV\Lambda=M_Z\,e^{-6.95}=88\,\mathrm{MeV}(1 ループ)。高次を含めた MS‾\overline{\mathrm{MS}} では Λ(5)≈210 MeV\Lambda^{(5)}\approx210\,\mathrm{MeV} ですが、桁は 100 MeV100\,\mathrm{MeV} 台で、陽子の質量 938 MeV938\,\mathrm{MeV} と同程度です。同じ式から αs(10 GeV)=0.173\alpha_s(10\,\mathrm{GeV})=0.173、αs(1 TeV)=0.088\alpha_s(1\,\mathrm{TeV})=0.088 と減ります。一方、e+e−→e^+e^-\to ハドロンの断面積の補正 R=Nc∑Qf2(1+αs/π)R=N_c\sum Q_f^2(1+\alpha_s/\pi)(R 比(定理 5.3)[ハドロンとクォーク模型] の QCD 補正)は、MZM_Z 付近で約 4%4\% です。

00.10.25101001000Q (GeV, 対数目盛)α_s(Q)M_Z: 0.118
QCD の結合定数の走り(1 ループ、n_f = 5 固定、α_s(M_Z) = 0.118)。エネルギーが上がると減る(漸近的自由)。Q = 5 GeV で 0.20、1 TeV で 0.09。

注意 6.5(陽子の質量はどこから来るか)

陽子を構成する u,u,du,u,d クォークの質量の和は 2×2.2+4.7≈9 MeV2\times2.2+4.7\approx9\,\mathrm{MeV} で、陽子の質量 938 MeV938\,\mathrm{MeV} の約 1%1\% にすぎません。残りは、クォークの運動エネルギーとグルーオン場のエネルギー、すなわち QCD の束縛エネルギーであり、そのスケールが ΛQCD\Lambda_{\mathrm{QCD}} です。Higgs 機構が与えるのは素粒子の質量であり、私たちの身の回りの物質の質量の大部分は、Higgs ではなく次元転換で決まります。

演習 7.1標準

ZZ の全幅が 2495 MeV2495\,\mathrm{MeV}、ハドロンへの幅が 1744 MeV1744\,\mathrm{MeV}、荷電レプトン 3 種類への幅が合わせて 251 MeV251\,\mathrm{MeV} と測られたとき、見えない幅と軽いニュートリノの世代数を求めよ。ニュートリノ 1 種類の幅は 定理 4.1 の 166 MeV166\,\mathrm{MeV} を用いてよい。

解答

見えない幅は 2495−1744−251=500 MeV2495-1744-251=500\,\mathrm{MeV}。500/166=3.0500/166=3.0 なので、軽いニュートリノは 33 種類である。

演習 7.2易

定理 4.1 を使って Z→bbˉZ\to b\bar b の幅を求めよ(bb の質量は無視、sin⁡2θW=0.2312\sin^2\theta_W=0.2312)。

解答

bb は T3=−12T_3=-\tfrac12、Q=−13Q=-\tfrac13 で gV=−12+23×0.2312=−0.3459g_V=-\tfrac12+\tfrac23\times0.2312=-0.3459、gA=−12g_A=-\tfrac12。gV2+gA2=0.1196+0.25=0.3696g_V^2+g_A^2=0.1196+0.25=0.3696。Γ=3×0.3318×0.3696=0.368 GeV=368 MeV\Gamma=3\times0.3318\times0.3696=0.368\,\mathrm{GeV}=368\,\mathrm{MeV}。(観測 ≈376 MeV\approx376\,\mathrm{MeV}。)

演習 7.3標準

αs(MZ)=0.118\alpha_s(M_Z)=0.118 から、nf=5n_f=5 の 1 ループ式で αs(4.18 GeV)\alpha_s(4.18\,\mathrm{GeV}) を求めよ。

解答

1/αs=1/0.118+23/34πln⁡4.18291.192=8.475+0.6101×(−6.165)=4.7141/\alpha_s=1/0.118+\dfrac{23/3}{4\pi}\ln\dfrac{4.18^2}{91.19^2}=8.475+0.6101\times(-6.165)=4.714 なので αs=0.212\alpha_s=0.212(1 ループ。高次を含めた値は約 0.2250.225)。

演習 7.4標準

h→ccˉh\to c\bar c の崩壊幅を 定理 5.1 で mc=0.62 GeVm_c=0.62\,\mathrm{GeV}(mhm_h のスケールでの質量)として求め、h→τ+τ−h\to\tau^+\tau^- と比べよ。

解答

Γ=3×0.622×125.2/(8π×246.22)×β3=9.5×10−5 GeV\Gamma=3\times0.62^2\times125.2/(8\pi\times246.2^2)\times\beta^3=9.5\times10^{-5}\,\mathrm{GeV}(β3≈1\beta^3\approx1)。τ\tau の 2.6×10−4 GeV2.6\times10^{-4}\,\mathrm{GeV} に対し比は 0.370.37。Nc=3N_c=3 の分、質量二乗の比 (0.62/1.777)2=0.12(0.62/1.777)^2=0.12 に 33 を掛けた値に一致する。

  • Michael E. Peskin and Daniel V. Schroeder, An Introduction to Quantum Field Theory, Westview Press, 1995 — 電弱理論と QCD の章。
  • David Griffiths, Introduction to Elementary Particles, 2nd ed., Wiley-VCH, 2008 — 電弱理論・QCD の現象論。
  • Matthew D. Schwartz, Quantum Field Theory and the Standard Model, Cambridge University Press, 2014 — 標準模型の構成と ZZ・Higgs の崩壊。
  • S. Weinberg, “A Model of Leptons”, Phys. Rev. Lett. 19 (1967), 1264–1266。
  • D. J. Gross and F. Wilczek, “Ultraviolet Behavior of Non-Abelian Gauge Theories”, Phys. Rev. Lett. 30 (1973), 1343–1346。
  • H. D. Politzer, “Reliable Perturbative Results for Strong Interactions?”, Phys. Rev. Lett. 30 (1973), 1346–1349。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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