物質を作る粒子(クォークや電子)と、粒子の間に働く力(強い力・弱い力・電磁気力)、そして粒子に質量を与える Higgs 粒子を、一つの決まりごと(ゲージ理論)でまとめて説明するのが標準模型です。この記事では、その粒子の一覧表を作り、そこから Z 粒子の寿命、Higgs 粒子の崩壊の仕方、クォークの間の力の強さを実際に計算して、実験の数値と見比べます。読み終えると、標準模型の予言が数字としてどう出てくるかを追えるようになります。
- 標準模型は、ゲージ群 SU(3)C×SU(2)L×U(1)Y と、1 世代あたり 15 個の左巻きワイル場(QL,uc,dc,L,ec)、Higgs 二重項からなります。ハイパーチャージの値は、ゲージ・アノマリーが相殺する条件で(ほぼ)決まり、∑Q=0 が Nc=3 と結びつきます。
- 電弱統一の帰結として、光子・W・Z の結合は g,g′ の二つで決まります。Z の結合は (g/cosθW)(T3−Qsin2θW)、光子は eQ で、e=gsinθW、GF/2=g2/(8MW2) です。
- Z の部分幅は Γ(Z→ffˉ)=NcGFMZ3(gV2+gA2)/(62π) と計算でき、sin2θW=0.2312 で全幅 2.42GeV を再現します(観測 2.50GeV)。見えない幅の比較から軽いニュートリノは 3 種類と決まります。
- Higgs 粒子はフェルミオンに質量 mf に比例して結合し、崩壊幅は Γ(h→ffˉ)=Ncmfmhmfβ3/(8πv2) です。質量が大きい終状態ほど優勢で、bbˉ が最大になります。
- QCD では色因子 CF=4/3 により、クォーク・反クォークの引力は −34αs/r、クォーク対(3ˉ)の引力は −32αs/r です。結合定数は αs(Q2)=αs(μ2)/[1+4πb0αs(μ2)ln(Q2/μ2)] で走り、nf≤16 で漸近的自由です。
このテーマの前の 3 つの記事では、原子核(核力の結合エネルギー)、ハドロン(対称性とクォーク)、弱い相互作用(Fermi 理論と V−A)を、それぞれ別の道具で扱いました。標準模型は、これらすべてを一つのゲージ理論としてまとめた枠組みです。強い相互作用を SU(3)C、弱い相互作用と電磁相互作用を SU(2)L×U(1)Y で記述し、粒子の質量は Higgs 場との結合から生じます。
場の量子論の側(ゲージ理論と自発的対称性の破れ、非可換ゲージ理論の量子化)で、この理論の数学的な骨格は与えられています。この記事は、その現象論側の受け皿です。つまり、標準模型の粒子の表を整理し、場の理論の結果を使って、実験と比較できる数値(Z の幅、Higgs の崩壊幅、結合定数の走り、クォーク間の力)を具体的に計算します。計算は、ファインマン則による崩壊率の公式(ファインマン則と LSZ)とディラック場のスピン和だけで足りるように選んでいます。以下 ℏ=c=1 で、計量は (+,−,−,−) です。
この節のねらいは、1 世代ぶんの粒子を一つの表にまとめ、量子化したときに理論が壊れないための条件(アノマリーの相殺)を確かめることです。右巻きの粒子は、その反粒子を考えると左巻きとして扱えます。すべてを左巻きの場(ワイル場、スピン 1/2 で片方の巻き方だけをもつ場)に統一しておくと、表の一行が一つの場に対応し、群の表現と Y だけで整理できます。表の「3」「2」は、その場が色・弱アイソスピンについて何個の成分をもつかを表します。
定義 2.1(標準模型の物質場(1 世代))↗
すべての物質場を左巻きのワイル場で表す(右巻き場は電荷共役の左巻き場に書き直す)。SU(3)C×SU(2)L×U(1)Y の表現は次の表のとおりで、世代は 3 組ある。
| 場 | SU(3)C | SU(2)L | Y | 内容 |
|---|
| QL | 3 | 2 | 61 | (uL,dL) |
| uc | 3ˉ | 1 | −32 | uR の電荷共役 |
| dc | 3ˉ | 1 | +31 | dR の電荷共役 |
| L | 1 | 2 | −21 | (νL,eL) |
| ec | 1 | 1 | +1 | eR の電荷共役 |
| H | 1 | 2 | +21 | Higgs 二重項(スカラー) |
電荷は Q=T3+Y で与えられる。
この割り当てで電荷が正しく出ることを確認します。QL は T3=±21 に Y=61 を足して uL:32、dL:−31。uc は T3=0、Y=−32 で −32(uR の反粒子の電荷)、dc は +31、L は νL:0、eL:−1、ec:+1。Higgs 二重項は T3=±21 に Y=21 で (+1,0) です。
次の命題は、表の各場の Y に、場の成分の個数(色の 3 とアイソスピンの 2 の積など)を重みとして掛けて足すと、どの和も 0 になる、という計算です。たとえば QL は色 3 個とアイソスピン 2 個で成分が 6 個あるので、Y=61 を 6 回数えます。
命題 2.2(標準模型のアノマリーの相殺)✓
定義 2.1 の 1 世代の場について、次の和はすべて 0 である。
- [SU(3)]2U(1):∑色3,3ˉY=2⋅61+(−32)+31(SU(2) 二重項は成分 2 個で数える)。
- [SU(2)]2U(1):∑二重項Y=3⋅61+(−21)(QL は色 3 個)。
- U(1)3:∑Y3。
- 重力–重力–U(1):∑Y。
さらに、SU(3)3 のアノマリーは 3 が 2 個(QL の二重項)、3ˉ が 2 個(uc,dc)で相殺し、SU(2)3 のアノマリーは SU(2) の表現が実または擬実なので存在しない。
証明(命題 2.2)
(1) は 31−32+31=0。(2) は 21−21=0。(3) は各場の自由度(色×二重項)を掛けて、6⋅(61)3+3(−32)3+3(31)3+2(−21)3+13=361−98+91−41+1。通分すると 361−32+4−9+36=0。(4) は 6⋅61+3(−32)+3⋅31+2(−21)+1=1−2+1−1+1=0。SU(3)3 は、基本表現と反基本表現のアノマリー係数が逆符号で、3 が 2 個、3ˉ が 2 個だから和が 0。
∎
これらの条件は、ゲージ・アノマリーの相殺条件(定理 6.5)[非可換ゲージ理論の量子化](群論的な構造は 定理 4.4[アノマリーとインスタントン])により、ゲージ理論が矛盾なく量子化できるために必要です。(4) からただちに、1 世代の電荷の和 ∑Q=∑Y=0 が出ます。クォークだけ、あるいはレプトンだけでは相殺しないので、世代ごとにクォーク 3 色とレプトン 1 組がそろう必要があります(Nc=3 と Qu−Qd=1 が結びつく)。
命題 2.3(質量項はゲージ不変でない)✓
電子の質量項 ecL(SU(2) の二重項 L と一重項 ec の積)は SU(2)L の二重項で Y=+21 をもつので、ゲージ不変ではない。ゲージ不変なのは Higgs 二重項を介した結合 ec(H†L)、ucϵabQaHb、dc(H†Q) である。
証明(命題 2.3)
ec は SU(2) 一重項なので、積 ecL は L と同じく二重項であり、Y=1+(−21)=21=0。不変にはならない。H†L は二重項どうしの縮約 ∑aHa∗La で SU(2) 一重項、ハイパーチャージは −21−21=−1 で、ec(Y=+1) との積は Y=0 になり不変。ϵabQaHb は一重項で Y=61+21=32、uc(Y=−32) との積は 0。H†Q は Y=61−21=−31、dc(Y=+31) との積は 0 で、いずれも不変。
∎
したがって、Higgs 場が真空期待値 ⟨H⟩=(0,v/2)T をもつと、これらの結合から質量 mf=yfv/2 が生まれます(数値を入れてみる(例 7.2)[ゲージ理論と自発的対称性の破れ] を参照)。
荷電カレントは前の記事で扱いました。次の定理の方針は、W3 と B という二つのゲージ場の組を回転して、質量をもつ Z と質量のない光子 A に取り替え、フェルミオンとの結合を Z・A・W± ごとに読み取ることです。光子の結合が電荷 Q に比例するように回転角 θW を選ぶと、e=gsinθW という関係が自然に出ます。ここでは、SU(2)L×U(1)Y の共変微分からフェルミオンの結合をすべて導きます。
定理 3.1(電弱ゲージ場とフェルミオンの結合)✓
フェルミオン ψ の共変微分 Dμ=∂μ−igWμaTa−ig′YBμ から、ゲージ理論と自発的対称性の破れ の第 7 節と同じ混合 Z=cosθWW3−sinθWB、A=sinθWW3+cosθWB(tanθW=g′/g)、W±=(W1∓iW2)/2 を行うと、相互作用は
Lint=eAμψˉγμQψ+2g(Wμ+ψˉγμT+ψ+h.c.)+cosθWgZμψˉγμ(T3−Qsin2θW)ψの形になる(和は左巻き成分で Ta が働き、右巻きで Ta=0)。ここで e=gsinθW=g′cosθW である。
証明(定理 3.1)
gWaTa+g′YB=g(W1T1+W2T2)+gW3T3+g′YB。第 1 項は W± と T±=T1±iT2 で 21[(W1−iW2)(T1+iT2)+(W1+iW2)(T1−iT2)]=21(W+T++W−T−) と書けて、荷電カレントの結合 g/2 を与える。残りは W3=cosθWZ+sinθWA、B=−sinθWZ+cosθWA を代入して、A の係数 gsinθWT3+g′cosθWY と Z の係数 gcosθWT3−g′sinθWY を得る。tanθW=g′/g より gsinθW=g′cosθW≡e なので、A の係数は e(T3+Y)=eQ。Z の係数は g′=gtanθW を使い gcosθWT3−gcosθWsin2θWY=cosθWg[cos2θWT3−sin2θWY]=cosθWg[T3−sin2θW(T3+Y)] である。
∎
したがって、g=e/sinθW なので、弱い相互作用の強さは電磁相互作用 α=e2/4π と同程度です(g2/4π=α/sin2θW≈1/30)。弱い相互作用が「弱い」のは、W が重くて低エネルギーでは GF∼g2/MW2 と抑制されるからで、結合そのものが小さいからではありません。
系 3.2(GF と W の質量)✓
低エネルギー(∣q2∣≪MW2)の荷電カレント相互作用は、Fermi の 4 点相互作用(定義 2.1)[弱い相互作用とニュートリノ] に帰着し、
2GF=8MW2g2=2v21,MW2=2GFsin2θWπα(最低次)である。
証明(系 3.2)
荷電カレントの頂点 2guˉγμPLd=22guˉγμ(1−γ5)d を 2 つつなぎ、W の伝播関数 −igμν/(q2−MW2) が ∣q2∣≪MW2 で igμν/MW2 になることから、有効振幅の係数 (22g)2MW21=8MW2g2 が 定義 2.1[弱い相互作用とニュートリノ] の 2GF に等しい。MW=gv/2(ゲージ理論と自発的対称性の破れ で導いた)を代入して GF/2=1/(2v2)。さらに g2=e2/sin2θW=4πα/sin2θW を MW2=g2/(8GF/2)=42GFg2 に入れて、MW2=2GFsin2θWπα。
∎
次の例では、sin2θW の決め方によって結果が少し変わります。「オンシェル定義」とは sin2θW=1−MW2/MZ2 と質量から決める定義のことで、「輻射補正」とは、最低次の計算に加わる高次の量子効果による小さなずれのことです。
例 3.3(W の質量の予言)
α=1/137.04、GF=1.1664×10−5GeV−2、sin2θW=0.2312 では MW=0.022927/(1.6495×10−5×0.2312)=77.5GeV です。オンシェル定義の sin2θW=1−MW2/MZ2=0.2229 を使うと 79.0GeV。観測値 80.4GeV との数 % の差は、輻射補正で説明されます。1983 年に CERN で発見された W と Z の質量は、この予言の範囲にありました。
この節のねらいは、前節の結合から Z が各フェルミオン対に崩れる割合を計算し、実験で測られた幅と比べることです。証明の流れは、(1) 振幅を書く、(2) スピンと偏極について和をとる(ガンマ行列のトレースになる)、(3) 2 体崩壊の公式に入れる、の三段です。
定理 4.1(Z の部分幅)✓
フェルミオン f(質量を無視)への Z の崩壊幅は、定理 3.1 の結合 2cosθWgZμfˉγμ(gV−gAγ5)f(gV=T3−2Qsin2θW、gA=T3)から
Γ(Z→ffˉ)=Nc62πGFMZ3(gV2+gA2)である(Nc は色の数。レプトンでは 1、クォークでは 3)。ニュートリノ(左巻きのみ)は gV=gA=21 を用いる。
証明(定理 4.1)
左巻きの結合 gL=T3−Qsin2θW、右巻きの結合 gR=−Qsin2θW を fˉγμ(gLPL+gRPR)f に入れて、PL,R=21(1∓γ5) より 21(gV−gAγ5) (gV=gL+gR、gA=gL−gR)と書ける。Z(p,ε)→f(p1)fˉ(p2) の振幅は M=2cosθWgεμuˉ(p1)γμ(gV−gAγ5)v(p2)。偏極和は ∑εμεν∗=−gμν+pμpν/MZ2 で、p=p1+p2 に比例する項は、質量ゼロのフェルミオン・カレントが保存する(pμuˉγμ(gV−gAγ5)v=0)ので消える。スピン和は
∑∣M∣2=4cos2θWg2(−gμν)tr[p1γμ(gV−gAγ5)p2γν(gV−gAγ5)].γ5 を左へ送ると (gV−gAγ5)p2γν(gV−gAγ5)=p2γν(gV2+gA2−2gVgAγ5) で、γ5 の項は μν について反対称(ϵαμβν。定理 2.2[アノマリーとインスタントン])で −gμν との縮約が 0 になる。残りは (gV2+gA2)tr[p1γμp2γν]=4(gV2+gA2)(p1μp2ν+p1νp2μ−gμνp1⋅p2) で、−gμν を縮約すると −4(2p1⋅p2−4p1⋅p2)=8p1⋅p2=4MZ2(p1⋅p2=MZ2/2)。よって ∑∣M∣2=cos2θWg2MZ2(gV2+gA2)。Z の偏極についての平均 31 と、色の和 Nc を掛ける。2 体崩壊の公式(命題 6.1)[ハドロンとクォーク模型] で p∗=MZ/2 より Γ=8πMZ2p∗⟨∣M∣2⟩=48πcos2θWNcg2MZ(gV2+gA2)。最後に 系 3.2 の GF/2=g2/(8MW2) と MW=MZcosθW より g2/cos2θW=42GFMZ2 なので、主張の式を得る。
∎
例 4.2(Z の全幅とニュートリノの世代数)
GFMZ3/(62π)=0.3318GeV(MZ=91.19GeV)、sin2θW=0.2312 で各部分幅は次のとおりです。
| 終状態 | gV | gA | Γ (MeV) | 観測 (MeV) |
|---|
| ννˉ(1 種類) | 21 | 21 | 166 | 167 |
| ℓ+ℓ−(1 種類) | −0.038 | −21 | 83.4 | 84.0 |
| uuˉ, ccˉ(各) | 0.192 | 21 | 285 | 300 |
| ddˉ, ssˉ, bbˉ(各) | −0.346 | −21 | 368 | 378〜383 |
全幅は 3×166+3×83.4+2×285+3×368=2422MeV で、観測値 2495MeV との差 3% は QCD 補正(クォーク終状態の幅を約 4% 増やす)で説明できます。LEP の測定では、ハドロンとレプトンの観測から決めた「見えない幅」499MeV を、ニュートリノ 1 種類の幅 166MeV で割ると Nν=3.0 になり、質量が MZ/2 より軽いニュートリノは 3 種類であることが決まりました。
Higgs 場を H=21(0,v+h)T と展開します(ユニタリーゲージとは、ゲージ変換の自由度を使って、物理的でない成分を消した取り方のことです)。ポテンシャル V=−μ2∣H∣2+λ∣H∣4 は −2μ2(v+h)2+4λ(v+h)4 となり、極小条件から v2=μ2/λ、h の質量は mh2=∂2V/∂h2∣h=0=−μ2+3λv2=2λv2 です。観測された mh=125.2GeV、v=246.2GeV から λ=mh2/(2v2)=0.129 です(ヒッグス機構(定理 6.1)[ゲージ理論と自発的対称性の破れ] の mh2=2λv2 と同じ)。
湯川結合(Higgs 場とフェルミオン場をつなぐ、結合定数 yf の相互作用項)−yffˉLfRH0+h.c. に H0=(v+h)/2 を代入すると、−2yfvfˉf−2yfhfˉf となり、前者が質量 mf=yfv/2 で、後者が h とフェルミオンの結合 −(mf/v)hfˉf です。Higgs 粒子は質量に比例して結合します。 W との結合は、4g2(v+h)2W+W− の h の 1 次の項から 2g2vhW+W−=v2MW2hW+W− です。
定理 5.1(Higgs 粒子のフェルミオン対への崩壊幅)✓
h→ffˉ の崩壊幅は、フェルミオンの質量を mf、β=1−4mf2/mh2 として
Γ(h→ffˉ)=Nc8πv2mf2mhβ3である。
証明(定理 5.1)
振幅は M=−vmfuˉ(p1)v(p2)。スピン和は スピン和の公式(定理 3.3)[ディラック場の量子化] から ∑∣uˉv∣2=tr[(p1+mf)(p2−mf)]=4(p1⋅p2−mf2)。p1⋅p2=(mh2−2mf2)/2 なので 4(p1⋅p2−mf2)=2mh2−8mf2=2mh2β2。よって ∑∣M∣2=v22mf2mh2β2(h はスピン 0 なので平均は不要)。2 体崩壊の公式(命題 6.1)[ハドロンとクォーク模型] の p∗=21mhβ を Γ=8πmh2p∗∑∣M∣2 に入れ、Nc を掛けて主張を得る。
∎
位相空間の因子 β3 は、スカラー粒子がフェルミオン対に崩壊するとき対が P 波になる(閾値で β3 に比例して開く)ことの現れです。
例 5.2(τ と b への崩壊)
τ(mτ=1.777GeV)では Γ=1×1.7772×125.2/(8π×246.22)=2.6×10−4GeV=0.26MeV。b クォークでは、質量に mb=4.18GeV を使うと Γ=4.3MeV ですが、この質量は mb のスケールでの値で、Higgs の質量スケール 125GeV まで QCD で走らせると mb≈2.8GeV に減り、Γ≈1.9MeV になります。ここに QCD 補正が加わり、観測される全幅 4MeV 台の中で bbˉ が 58%(約 2.4MeV)を占めます。質量に比例した結合と mf2 の依存が、より重い終状態を優勢にする仕組みです。電子(me=0.511MeV)への崩壊は τ の (me/mτ)2∼10−7 倍で、事実上観測できません。
定義 6.1(量子色力学)↗
クォーク場 qf(f=u,d,s,c,b,t)は SU(3)C の基本表現 3 に属し、グルーオン場 Gμa(a=1,…,8)がゲージ場である。ラグランジアンは
LQCD=−41GμνaGaμν+f∑qˉf(iD−mf)qf,Dμ=∂μ−igsGμaTaで、Ta=λa/2 は SU(3) の生成子(ゲルマン行列の半分)、tr(TaTb)=21δab をみたす。αs=gs2/4π である。
この節の最初のねらいは、電気の力で「電荷の積」が果たす役割を、色の力では「色荷の内積」が果たすと見て、クォーク間の力の強さを数にすることです。二つの粒子をひとまとめにした系の色荷の二乗(カシミール)は、それぞれの二乗と内積の和で書けます。したがって、まとめた系のカシミールが分かれば内積が逆算できます。
命題 6.2(色因子とクォーク間のポテンシャル)✓
(i) ∑aTaTa=CF1 (基本表現)で、CF=2NN2−1=34(N=3)。
(ii) 2 つのクォーク(または qqˉ)の色荷の内積は、合成表現のカシミール CR を使って T1⋅T2=21(CR−C1−C2)。したがって色一重項の qqˉ では T1⋅T2=−CF=−34、反基本表現 3ˉ のクォーク対では −21CF=−32。
(iii) 1 グルーオン交換のポテンシャルは V(r)=(T1⋅T2)αs/r。すなわち、qqˉ の一重項で −34αs/r(引力)、3ˉ の qq で −32αs/r である。
証明(命題 6.2)
(i) ∑aTaTa は SU(3) のすべての元と可換なので、既約表現上でスカラー CF になる(シューアの補題)。トレースを両辺でとると、左辺は ∑atr(TaTa)=21(N2−1)、右辺は NCF なので CF=(N2−1)/(2N)。(ii) 合成系の色荷は T=T1+T2 で、T2=T12+T22+2T1⋅T2 から CR=C1+C2+2T1⋅T2。qqˉ の一重項は CR=0、C1=C2=CF(反基本表現のカシミールは基本表現と同じ)で T1⋅T2=−CF。qq の 3ˉ は 3 つのクォークの合成(定理 4.3)[ハドロンとクォーク模型] の証明で使った Λ2C3≅3ˉ に対応し、CR=CF で T1⋅T2=21(CF−2CF)=−21CF。(iii) クーロン力との類推(電荷の積 e1e2 を T1⋅T2 に置き換える)による。
∎
バリオンの色波動関数は完全反対称(色一重項)で、どの 2 つのクォークも 3ˉ にあります。3 つの対の引力を足すと 3×(−32)=−2。一方、色一重項では ∑iTi=0 なので 0=(∑Ti)2=3CF+2∑i<jTi⋅Tj、∑i<jTi⋅Tj=−23CF=−2 となり、一致します(整合性の確認)。
定理 6.3(αs の走り)✓
1 ループの β 関数 定理 5.1[非可換ゲージ理論の量子化](証明は 定理 5.6[次元正則化とくりこみ群])μdμdgs=−16π2b0gs3(b0=11−32nf、nf は質量を無視できるクォークの数)のもとで、
αs(Q2)=1+4πb0αs(μ2)lnμ2Q2αs(μ2)=b0ln(Q2/Λ2)4πである。ここで Λ=μexp[−2π/(b0αs(μ2))]。b0>0、すなわち nf≤16 のとき Q→∞ で αs→0(漸近的自由)である。
証明(定理 6.3)
αs=gs2/4π より μdαs/dμ=2gsβ/(4π)=−32π3b0gs4=−2πb0αs2。lnμ2=2lnμ なので dlnμ2dαs=−4πb0αs2、dlnμ2dαs1=4πb0。積分して αs(Q2)1=αs(μ2)1+4πb0lnμ2Q2 で、第 1 の式を得る。1/αs(Q2)=4πb0lnΛ2Q2 と書くと、lnΛ2=lnμ2−b0αs(μ2)4π から Λ の式が決まり、第 2 の式を得る。b0>0 なら右辺の分母は Q とともに増えて αs→0。b0=11−32nf>0⟺nf<16.5 で、nf≤16 が漸近的自由の条件である。
∎
結合定数がエネルギーに依存して走る結果、無次元の gs の代わりに、次元をもつスケール Λ が理論のただ一つのパラメータとして現れます(次元転換)。Q→Λ で αs は発散し、摂動論は破綻して、クォークとグルーオンは閉じ込められてハドロンになります。
次の例の MS は、計算の発散を取り除く(くりこみ)際の約束の一つで、約束が違えば Λ の数値も変わります。そのため、1 ループの値と高次を含めた値で Λ に差が出ます。
例 6.4(αs の値と Λ)
αs(MZ)=0.118、nf=5(b0=23/3)とすると、ln(MZ2/Λ2)=4π/(b0αs)=13.89 から Λ=MZe−6.95=88MeV(1 ループ)。高次を含めた MS では Λ(5)≈210MeV ですが、桁は 100MeV 台で、陽子の質量 938MeV と同程度です。同じ式から αs(10GeV)=0.173、αs(1TeV)=0.088 と減ります。一方、e+e−→ ハドロンの断面積の補正 R=Nc∑Qf2(1+αs/π)(R 比(定理 5.3)[ハドロンとクォーク模型] の QCD 補正)は、MZ 付近で約 4% です。
QCD の結合定数の走り(1 ループ、n_f = 5 固定、α_s(M_Z) = 0.118)。エネルギーが上がると減る(漸近的自由)。Q = 5 GeV で 0.20、1 TeV で 0.09。
演習 7.1標準
Z の全幅が 2495MeV、ハドロンへの幅が 1744MeV、荷電レプトン 3 種類への幅が合わせて 251MeV と測られたとき、見えない幅と軽いニュートリノの世代数を求めよ。ニュートリノ 1 種類の幅は 定理 4.1 の 166MeV を用いてよい。
解答
見えない幅は 2495−1744−251=500MeV。500/166=3.0 なので、軽いニュートリノは 3 種類である。
演習 7.2易
定理 4.1 を使って Z→bbˉ の幅を求めよ(b の質量は無視、sin2θW=0.2312)。
解答
b は T3=−21、Q=−31 で gV=−21+32×0.2312=−0.3459、gA=−21。gV2+gA2=0.1196+0.25=0.3696。Γ=3×0.3318×0.3696=0.368GeV=368MeV。(観測 ≈376MeV。)
演習 7.3標準
αs(MZ)=0.118 から、nf=5 の 1 ループ式で αs(4.18GeV) を求めよ。
解答
1/αs=1/0.118+4π23/3ln91.1924.182=8.475+0.6101×(−6.165)=4.714 なので αs=0.212(1 ループ。高次を含めた値は約 0.225)。
演習 7.4標準
h→ccˉ の崩壊幅を 定理 5.1 で mc=0.62GeV(mh のスケールでの質量)として求め、h→τ+τ− と比べよ。
解答
Γ=3×0.622×125.2/(8π×246.22)×β3=9.5×10−5GeV(β3≈1)。τ の 2.6×10−4GeV に対し比は 0.37。Nc=3 の分、質量二乗の比 (0.62/1.777)2=0.12 に 3 を掛けた値に一致する。
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