原子核やミューオンが別の粒子に変わる「崩壊」は、電磁気力でも強い力でも起こせない現象で、第 4 の力である「弱い力」が担っています。この記事では、その力のはたらき方を最小限の仮定で書き下し、ミューオンの寿命や、粒子の種類が飛んでいる間に入れ替わるニュートリノ振動といった実験の数値が、計算で出せることを見ます。読み終えると、弱い力の特徴(左巻きの粒子だけに効くこと)と、世代の混合から何が起こるかを式で追えるようになります。
- 核の β 崩壊やミューオン崩壊は、Fermi の 4 点相互作用 GF で記述できます。ゴールデンルールから β 崩壊の電子スペクトルと Q5 則が、ファインマン則からミューオン寿命 Γ=GF2mμ5/(192π3) が導けます。数値は τμ=2.19μs を再現します。
- 荷電カレントは V−A 構造、すなわち左巻きの成分だけが結合する形をもち、パリティ(空間を鏡のように反転する操作)に対する対称性が最大限に破れます。この構造は、パイ中間子崩壊の分岐比 Γ(π→eν)/Γ(π→μν)=1.28×10−4(ヘリシティ抑制)を予言し、実験と合います。
- クォークの質量固有状態と弱い固有状態の混合は CKM 行列で表されます。n 世代のユニタリ行列の物理的な自由度は、混合角 n(n−1)/2 個と位相 (n−1)(n−2)/2 個です。CP 非保存には 3 世代が必要で、その大きさは Jarlskog 不変量 J にまとまります。
- ニュートリノにも同様の混合があり、質量固有状態の位相差が ニュートリノ振動を生みます。2 世代では P=sin22θsin2(Δm2L/4E)、3 世代の CP の非対称度は 16JsinΔ21sinΔ32sinΔ31 です。物質中では電子数密度が混合角を変えます(MSW 効果。物質中を通るニュートリノが電子から受ける影響で、混合のしかたが変わる現象のことです)。
原子核の β 崩壊では、核の電荷が 1 だけ変わり電子が放出されます。1914 年からのチャドウィックの測定は、この電子のエネルギーが連続スペクトルであることを示しました。2 体崩壊なら電子のエネルギーは一つの値に決まるはずです。パウリ(1930)は、もう一つの中性で軽い粒子(ニュートリノ)が一緒に出ていると仮定してこれを救い、フェルミ(1934)が、これを 4 個の粒子が 1 点で相互作用する場の理論にまとめました。この理論は、1950 年代にパリティの破れが発見されて V−A 理論に書き換えられ、1960 年代には、W ボソンを交換する電弱理論の低エネルギー極限として理解されました(次の章で扱います)。
この記事では、前半(第 2〜3 節)でこの相互作用の形と効果を、GF と V−A の二つのパラメータで定式化し、後半(第 4〜5 節)で、世代間の混合(CKM 行列とニュートリノ混合)とその帰結である CP 非保存・ニュートリノ振動を扱います。使うのは、ディラック場の量子化(ディラック場)、ファインマン則による崩壊率の公式(ファインマン則と LSZ)、核の β 崩壊のエネルギー収支(原子核)です。以下 ℏ=c=1 とし、計量は (+,−,−,−)、γ5=iγ0γ1γ2γ3 です。
定義 2.1(Fermi の 4 点相互作用(V−A 型))↗
ミューオンの崩壊 μ−→νμ+e−+νˉe の相互作用ラグランジアンを
LF=−2GF[νˉμγμ(1−γ5)μ][eˉγμ(1−γ5)νe]+h.c.と定める。GF は Fermi 結合定数(次元 [質量]−2)で、実測値は GF=1.1664×10−5GeV−2 である。ここで場の記号はそれぞれの粒子の場を表す。核の β 崩壊 n→pe−νˉe では、μ→n、νμ→p と読み替え、結合を GFVud(ハドロンの構造補正を除く)にする。
(1−γ5) という因子は、あとで説明するように、左巻きの成分だけを取り出します。まず、この形の相互作用が含意する 2 つの定量的な結果を見ます。
命題 2.2(β 崩壊の電子スペクトルと Q5 則)✓
核の β 崩壊 (Z,A)→(Z+1,A)+e−+νˉe で、核の反跳とニュートリノの質量、クーロン補正を無視し、核の行列要素 MN(結合の規格化因子を含む)がエネルギーによらないとする。電子の全エネルギーを E、運動量を p とすると、崩壊率の分布は
dEdΓ=2π3G2∣MN∣2pE(E0−E)2(me≤E≤E0)(E0=Q+me は電子の全エネルギーの上限で、Q は β 崩壊の Q 値(命題 4.1)[原子核] である。ニュートリノのエネルギーは Eν=E0−E)。Q≫me では全崩壊率は Γ∝Q5(サージェントの法則)である。ここで G=GFVud とする。
証明(命題 2.2)
Fermi の黄金律(定理 5.4)[時間発展と時間依存摂動論] により Γ=2π∣Vfi∣2ρ である。体積 V の箱で規格化すると、電子とニュートリノの運動量 p,pν の状態密度は Vd3p/(2π)3 と Vd3pν/(2π)3 で、4 点相互作用の行列要素は Vfi=GMN/V(4 つの粒子の波動関数の規格化因子の積)だから、V は消えて
dΓ=2πG2∣MN∣2∫(2π)3d3p(2π)3d3pνδ(E0−E−Eν),E0 は電子とニュートリノに分配される全エネルギーである。質量ゼロのニュートリノでは Eν=pν で、d3pν=4πpν2dpν を δ 関数で積分すると 4πEν2、d3p=4πp2dp なので
dΓ=2πG2∣MN∣2(2π)6(4π)2p2dpEν2=2π3G2∣MN∣2p2Eν2dp.pdp=EdE より dΓ=2π3G2∣MN∣2pEEν2dE を得る(Eν=E0−E)。me を無視すると p=E、E0=Q で、全崩壊率は Γ=2π3G2∣MN∣2∫0QE2(Q−E)2dE、∫0QE2(Q−E)2dE=Q5(31−42+51)=Q5/30 から Γ∝Q5 である。
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この結果から、クーリー・プロット((dN/dE)/(pE) を E の関数として描いたもの)は (Q−E) に比例する直線になり、E 軸との交点が Q を与えます(質量があれば端点付近でこの直線が曲がるので、ニュートリノ質量の測定法になります)。連続スペクトルは、3 体崩壊で Ee が 0 から Q まで動くことの現れです。
定理 2.3(ミューオンの崩壊率)✓
電子質量を無視する近似で、定義 2.1 の相互作用が与える μ−→νμe−νˉe の崩壊率は
Γ=192π3GF2mμ5である。
証明に 2 つの補題を使います。1 つ目は、ミューオン崩壊の振幅の 2 乗のスピン和が、2 つの γ 行列のトレースの積として出てくるので、その積を内積の積 (a⋅c)(b⋅d) の形にまとめるためのものです。2 つ目は、質量ゼロの 2 粒子(2 個のニュートリノ)の位相空間を、テンソル kαk′β を掛けて積分するためのものです。どちらも計算の道具で、定理の内容そのものは次の証明で使われる形だけ追えば十分です。
補題 2.4(V−A のトレース縮約)✓
任意の 4 元ベクトル a,b,c,d に対し、
tr[aγμbγν(1−γ5)]tr[cγμdγν(1−γ5)]=64(a⋅c)(b⋅d)が成り立つ。
証明(補題 2.4)
γ 行列のトレース(補題 7.1)[摂動論とファインマン則] により tr[aγμbγν]=4(aμbν+aνbμ−gμνa⋅b)≡Sμν。γ5 を含む項は tr[γ5γαγμγβγν]=−4iϵαμβν(定理 2.2[アノマリーとインスタントン]。ϵ0123=+1。γ0γ1γ2γ3=−iγ5 から tr[γ5γ0γ1γ2γ3]=−4i となることで符号が決まる。ローレンツ群とポアンカレ群と同じ規約)で、tr[aγμbγν(1−γ5)]=Sμν+4iϵαμβνaαbβ≡Sμν+Aμν(A は μν について反対称)。第 2 のトレースも同じ形で Sμν′+Aμν′。対称×反対称は 0 になるので、積は S⋅S′+A⋅A′ である。
SμνSμν′=16[(aμbν+aνbμ−gμνa⋅b)(cμdν+cνdμ−gμνc⋅d)] を展開する。2(a⋅c)(b⋅d)+2(a⋅d)(b⋅c)−4(a⋅b)(c⋅d)+4(a⋅b)(c⋅d)(最後の 2 項は gμνgμν=4 から)なので S⋅S′=32[(a⋅c)(b⋅d)+(a⋅d)(b⋅c)]。
反対称部分は A⋅A′=(4i)2ϵαμβνϵγμδνaαbβcγdδ で、恒等式 ϵαμβνϵγμδν=−2(δγαδδβ−δδαδγβ)(補題 2.1[アノマリーとインスタントン] の縮約で、両方の ϵ の添字を μν が先頭に来るように並べ替えたもの)を使うと A⋅A′=32[(a⋅c)(b⋅d)−(a⋅d)(b⋅c)]。合計して 64(a⋅c)(b⋅d) を得る。
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補題 2.5(質量ゼロの 2 粒子の位相空間積分)✓
時間的な 4 元ベクトル q に対し
∫2k0d3k2k′0d3k′δ4(q−k−k′)kαk′β=24π(q2gαβ+2qαqβ)である(k2=k′2=0)。
証明(補題 2.5)
左辺は q のみに依存するローレンツ共変な対称テンソルなので Iαβ=Aq2gαβ+Bqαqβ の形である(不変測度と不変なデルタ関数から)。まず I0=∫2k0d3k2k′0d3k′δ4(q−k−k′) を q の静止系で求める。k′=−k、k0=k′0=∣k∣ で、I0=∫4k24πk2dkδ(q2−2k)=2π。次に縮約をとる。gαβIαβ では k⋅k′=q2/2(q2=(k+k′)2=2k⋅k′)より 2q2I0=4Aq2+Bq2 なので 4A+B=4π。qαqβIαβ では (q⋅k)(q⋅k′)=(q2/2)2(q⋅k=k⋅k′=q2/2 ゆえ)より 4q4I0=(A+B)q4、すなわち A+B=8π。連立して A=24π、B=12π を得る。
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証明(定理 2.3)
μ−(p)→νμ(k)e−(p′)νˉe(k′) の振幅は、定義 2.1 から M=2GF[uˉ(k)γμ(1−γ5)u(p)][uˉ(p′)γμ(1−γ5)v(k′)] である。スピン和(定理 3.3)[ディラック場の量子化] ∑uuˉ=p+m、∑vvˉ=k′(質量ゼロ)を使う。第 1 因子の絶対値の 2 乗のスピン和は tr[kγμ(1−γ5)(p+mμ)γν(1−γ5)] で、(1−γ5)γν(1−γ5)=γν(1+γ5)(1−γ5)=0 から質量の項は消え、(1−γ5)pγν(1−γ5)=pγν(1−γ5)2=2pγν(1−γ5) から 2tr[kγμpγν(1−γ5)]。第 2 因子も同様に 2tr[p′γμk′γν(1−γ5)]。補題 2.4 で a=k,b=p,c=p′,d=k′ とおくと、スピン和は 2GF2⋅4⋅64(k⋅p′)(p⋅k′)、始状態のスピン平均 21 を掛けて
⟨∣M∣2⟩=64GF2(p⋅k′)(p′⋅k).崩壊率の公式(定理 6.1)[摂動論とファインマン則] から Γ=2m1∫(2π)32E′d3p′(2π)32k0d3k(2π)32k′0d3k′(2π)4δ4(p−p′−k−k′)⟨∣M∣2⟩。q=p−p′ とおいてニュートリノについて 補題 2.5 を使うと、∫(p⋅k′)(p′⋅k)=pβpα′Iαβ=24π[q2(p⋅p′)+2(p′⋅q)(p⋅q)]。ミューオンの静止系で p⋅p′=mE′(m=mμ)、q2=m2−2mE′、p′⋅q=mE′、p⋅q=m2−mE′ なので括弧の中は mE′(m2−2mE′)+2mE′(m2−mE′)=3m3E′−4m2E′2。電子の質量を無視して d3p′=4πE′2dE′ とし、電子のエネルギーの上限が m/2 であること(他の 2 粒子が逆向きに出るとき)を使うと
Γ=2m1(2π)564GF224π∫0m/22E′4πE′2(3m3E′−4m2E′2)dE′=2m132π564GF224π⋅2π[m3E′3−m2E′4]0m/2.括弧は m6/8−m6/16=m6/16 で、係数は 2m1⋅32π564GF2⋅24π⋅2π⋅16m6=192π3GF2m5 である。
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例 2.6(ミューオン寿命から GF を測る)
mμ=0.10566GeV では mμ5=1.317×10−5GeV5、GF2=1.360×10−10GeV−4 で、Γ=192π31.360×10−10×1.317×10−5=3.01×10−19GeV、τ=ℏ/Γ=3.01×10−19GeV6.582×10−25GeVs=2.19×10−6s です。実測の 2.197μs と 0.5% 以内で一致し、逆に寿命から GF が最も精度よく決まります。
1956 年、リーとヤンは、弱い相互作用でのパリティ保存が実験的に確かめられていないことを指摘しました。パリティ変換 P は空間座標の反転 x→−x で、位置・運動量のような極性ベクトルは符号を変え、角運動量・スピンのような軸性ベクトルは符号を変えません。
命題 3.1(パリティ保存の検証可能な帰結)✓
相互作用がパリティを保存するなら、偏極した核(スピン J)の崩壊で放出される電子の運動量 p の角分布に、J⋅p に比例する項は現れない。すなわち、前方と後方への放出は等確率である。
証明(命題 3.1)
P のもとで p→−p(極性)、J→J(軸性)だから、J⋅p→−J⋅p(擬スカラー)。パリティが保存されるなら、観測される確率分布 w(p;J) は P の下で不変、w(p;J)=w(−p;J) である。cosθ=J^⋅p^ について w(cosθ)=w(−cosθ) で、奇関数の cosθ の項(1+acosθ の a)は 0 になる。
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ウー(1957)は、低温で偏極させた 60Co の β 崩壊 60Co(5+)→60Ni∗(4+)+e−+νˉe で、電子が核スピンと逆向きに優先的に出ることを見つけました。分布は 1+acosθ で、a≈−v/c です。V−A の構造から、この符号と大きさは次のようにわかります。ここで鍵になるのは、粒子が進む向きに対してスピンがどちらを向いているか(ヘリシティ)で、質量ゼロなら、弱い力は「スピンが進行方向と逆向き」の粒子(左巻き)だけに作用します。反粒子はその逆で、スピンが進行方向と同じ向き(右巻き)のものだけに作用します。
定義 3.2(カイラリティとヘリシティ)↗
ディラックスピノルの左巻き成分を ψL=PLψ、右巻き成分を ψR=PRψ とする。PL,R=21(1∓γ5)。V−A 相互作用 ψˉ′γμ(1−γ5)ψ=2ψˉ′γμPLψ は、左巻きの成分だけが参加する(ワイルスピノルとディラックスピノル(定義 5.4)[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類])。質量ゼロの粒子ではカイラリティがヘリシティ(運動方向のスピン成分)に等しく、粒子は左巻き(ヘリシティ −21)、反粒子は右巻き(ヘリシティ +21)になる。
例 3.3(60Co の電子の角分布)
核のスピンを z 方向に偏極させると Jz=5 で、崩壊後の 60Ni∗ は J=4 です。スピン保存から、e− と νˉe は合わせてスピン Jz=+1 を運び出す必要があります(軌道角運動量の寄与を無視。許容遷移)。最大の Jz をもつには、2 つのレプトンのスピンがともに +z を向きます。V−A により e− は左巻き(スピンと運動量が逆向き、v→c)、νˉe は右巻き(スピンと運動量が同じ向き)なので、e− は −z へ、νˉe は +z へ放出されます。つまり電子は核スピンと逆向きに出て、a=−1(v≈c)です。v<c では有限のヘリシティ −v/c だけ薄まり a=−v/c となります。パリティが保存されるなら a=0 のはずでした(命題 3.1)。
ウーの実験での向き(許容遷移、v≈c)。太い矢印が運動の向き、細い矢印がスピンの向き。核スピンは +z に偏極している。e⁻ は左巻きなので −z へ飛びスピンは +z、反ニュートリノは右巻きなので +z へ飛びスピンも +z。
次に、V−A の構造をはっきり示すのが、荷電パイ中間子の崩壊です。
定理 3.4(π−→ℓ−νˉℓ の崩壊率とヘリシティ抑制)✓
パイ中間子の崩壊定数 fπ(約 130MeV)を、ハドロンの荷電カレントの真空–パイ中間子行列要素の大きさ ∣⟨0∣Jhadμ∣π−(p)⟩∣=fπpμ で定義し、Vud を結合に含める。V−A 相互作用のもとで、π−→ℓ−νˉℓ(ℓ=e,μ、ニュートリノは質量ゼロ)の崩壊率は
Γ(π→ℓν)=8πGF2∣Vud∣2fπ2mπmℓ2(1−mπ2mℓ2)2であり、電子とミューオンの比は
Γ(π→μν)Γ(π→eν)=mμ2me2(mπ2−mμ2mπ2−me2)2=1.28×10−4(最低次)である。
証明(定理 3.4)
ハドロンの部分は、パイ中間子が 1 つの 4 元ベクトル pμ しか持たないことから ⟨0∣Jhadμ∣π(p)⟩∝fπpμ の形になる(ローレンツ共変性とパリティ。Jhadμ の軸性部分のみが寄与する)。レプトン側の流れと合わせて、振幅は M=2GFVudfπpμuˉ(pℓ)γμ(1−γ5)v(pν) となる。p=pℓ+pν を代入する。uˉ(pℓ)pℓ=mℓuˉ(pℓ) と、pνv(pν)=0(質量ゼロ)、γ5 と pν の反可換性より
uˉ(pℓ+pν)(1−γ5)v=mℓuˉ(1−γ5)v+uˉ(1+γ5)pνv=mℓuˉ(1−γ5)v.したがって M∝mℓ である。スピン和は ∑∣uˉ(1−γ5)v∣2=tr[(pℓ+mℓ)(1−γ5)pν(1+γ5)]=2tr[(pℓ+mℓ)pν(1+γ5)]=8pℓ⋅pν。ここで (1−γ5)pν(1+γ5)=2pν(1+γ5) を使い、γ5 や奇数個の γ を含むトレースは 0 とした。pℓ⋅pν=(mπ2−mℓ2)/2 だから ∑∣M∣2=2GF2∣Vud∣2fπ2mℓ2⋅4(mπ2−mℓ2)。崩壊幅は 2 体崩壊の公式(命題 6.1)[ハドロンとクォーク模型] Γ=8πmπ2p∗∑∣M∣2 に p∗=(mπ2−mℓ2)/(2mπ) を入れて、主張の式を得る。比は GF,fπ,Vud が共通で打ち消され、me=0.511、mμ=105.66、mπ=139.57MeV を入れると (0.511/105.66)2×[(19479.8−0.26)/(19479.8−11164.0)]2=2.339×10−5×5.486=1.283×10−4 である。
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軽い電子への崩壊が、位相空間が大きいにもかかわらず 10−4 に抑えられる理由は、ヘリシティで説明できます。パイ中間子は spin 0 なので、ℓ− と νˉℓ は反対向きに出てスピンが互いに打ち消さなければなりません。V−A により νˉℓ は右巻き(ヘリシティ +21)で、したがって ℓ− も同じヘリシティ +21 でなければなりません。ところが V−A は左巻きカイラリティだけを結合させるので、質量ゼロの極限では右巻きヘリシティの ℓ− は作れません。mℓ=0 の分だけ、右巻きヘリシティの成分が mℓ/E の大きさで混ざるので、振幅が mℓ に比例します。もしレプトンの側に擬スカラー型の結合(ℓˉγ5ν の形)があれば、この抑制は起こりません。実測の比は (1.230±0.004)×10−4 で、最低次の予言との差は放射補正で説明されます。
荷電カレントの結合 W+ が u 型クォークと d 型クォークの間をつなぐとき、質量が確定した状態(質量固有状態)の組合せが、世代をまたいで結合します。質量行列を対角化するユニタリ変換が u 型と d 型で異なると、その不一致が混合行列として現れるのです。
定義 4.1(CKM 行列と PMNS 行列)↗
u 型クォーク (u,c,t) と d 型クォーク (d,s,b) の質量固有状態に対し、荷電カレントは
JCCμ=i,j∑uˉiγμ(1−γ5)Vijdjと書かれる。3×3 のユニタリ行列 V を CKM 行列(Cabibbo–小林–益川)という。レプトンでは、荷電レプトン ℓα=(e,μ,τ) と質量固有状態のニュートリノ νi について ∑α,iℓˉαγμ(1−γ5)Uαiνi とし、U を PMNS 行列(Pontecorvo–牧–中川–坂田)という。ニュートリノのフレーバー状態は να=∑iUαiνi である。
次の定理は、混合行列の中の数のうち「本当に観測にかかるもの」が何個あるかを数えるものです。クォーク場に位相をかけても質量項やほかの相互作用の形は変わらない(証明の中で確かめます)ので、その分だけ行列の成分の位相は見かけ上の自由度になります。これを引いた残りが、実験で決める必要のあるパラメータです。
定理 4.3(混合行列の物理的パラメータ数)✓
n 世代の混合行列(n×n ユニタリ)のうち、場の位相の取り直しで変わらない独立なパラメータは (n−1)2 個で、その内訳は混合角 21n(n−1) 個と、複素位相 21(n−1)(n−2) 個である。特に n=2 では角 1 個・位相 0 個、n=3 では角 3 個・位相 1 個である。
証明(定理 4.3)
n×n のユニタリ行列は n2 個の実パラメータをもつ(n2 個の複素数 2n2 に対し、V†V=1 が n2 個の実条件を課す)。u 型の n 個と d 型の n 個のクォーク場に、独立な位相 ui→eiϕiui、dj→eiχjdj をかけても質量項とその他の相互作用は不変で、荷電カレントの係数だけが Vij→e−iϕiVijeiχj と変わる。2n 個の位相のうち、すべてを等しく c にとる変換(ϕi=χj=c)は V を変えないので、独立に行列を変える位相は 2n−1 個である。したがって物理的パラメータは n2−(2n−1)=(n−1)2 個。
そのうち、すべての成分を実数にしたとき(V が実直交行列)の自由度は直交行列の次元 21n(n−1) で、これが混合角の数である(実の行列では位相の取り直しは符号の変更しかできず、角を変えない)。残りが複素位相の数で、(n−1)2−21n(n−1)=21(n−1)(n−2) である。
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n=2 では位相が 0 個、つまり適当な位相の取り直しで V を実直交行列(カビボ角 θC の回転)にできます。CP 変換は結合 Vij を Vij∗ にするので、V を実にできるなら CP は保存します。CP 非保存には n≥3 世代が必要だ、というのが小林と益川(1973)の洞察で、当時は u,d,s と c の 2 世代しか知られていませんでした。
定理 4.4(Jarlskog 不変量)✓
3×3 ユニタリ行列 V について、位相の取り直しに依存しない量
Jαβ;ij=Im(VαiVβjVαj∗Vβi∗)は、すべての α,β,i,j について共通の実数 J を使って Jαβ;ij=J∑γ,kϵαβγϵijk と書ける。標準パラメータ化(混合角 θ12,θ23,θ13、位相 δ)では
J=c12c23c132s12s23s13sinδ(sij=sinθij、cij=cosθij)である。J=0 ならば、どんな位相の取り直しでも V を実にできない(したがって CP は保存しない)。
証明(定理 4.4)
位相の取り直し Vαi→e−iϕαVαieiχi で、積 VαiVβjVαj∗Vβi∗ は位相 e−iϕα+iχi−iϕβ+iχj+iϕα−iχj+iϕβ−iχi=1 となり不変である。定義から Jαβ;ij は α↔β と i↔j のそれぞれについて反対称である(入れ替えると積が複素共役になる)。
ユニタリ性 ∑jVβjVαj∗=δαβ は、α=β では 0 である。これに VαiVβi∗ をかけると ∑jVαiVβjVαj∗Vβi∗=0 となり、虚部をとって ∑jJαβ;ij=0 を得る(各 i について)。α=β や i=j では反対称性から J=0。
固定した α=β に対し、Aij=Jαβ;ij は 3×3 の反対称行列で各行の和が 0 である。A12=a、A13=b、A23=c とおくと、第 1 行 a+b=0、第 2 行 −a+c=0 だから b=−a、c=a で、Aij=a∑kϵijk である(A12=A23=A31=a)。同様に i,j を固定して α,β について反対称で、和が 0(∑βJαβ;ij=0 はユニタリ性 ∑βVβjVβi∗=δij から)なので、a 自身が αβ について a=J∑γϵαβγ の形になる。これが主張の前半である。
標準パラメータ化の成分は Vus=s12c13、Vub=s13e−iδ、Vcb=s23c13、Vcs=c12c23−s12s23s13eiδ で、J=Juc;sb=Im(VusVcbVub∗Vcs∗) を計算する(順序を α=u、β=c、i=s、j=b ととる)。Vub∗=s13eiδ、Vcs∗=c12c23−s12s23s13e−iδ から積は s12s23c132s13[c12c23eiδ−s12s23s13] で、虚部は c12c23s12s23c132s13sinδ。最後に、V を位相の取り直しで実にできれば、不変量 J は実数の積の虚部で 0 になる。対偶が主張の後半である。
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例 4.5(CKM 行列の J)
実測値 s12=0.225、s23=0.042、s13=0.0037、δ=1.14rad(sinδ=0.91)では、c12c23c132=0.974×0.999×1.000=0.973 なので J=0.973×0.225×0.042×0.0037×0.91=3.1×10−5 です。位相 δ≈65∘ は大きいにもかかわらず、混合角が小さいため CP 非保存の大きさ J は 3×10−5 と小さくなります。角が最大のとき、J は 1/(63)=0.096 を超えられません。クォークの CP 非保存はこの値の 3×10−4 倍です。
ユニタリティ三角形。ユニタリ性 V_ud V_ub* + V_cd V_cb* + V_td V_tb* = 0 は複素平面上の三角形をなし、V_cd V_cb* で規格化すると頂点は (0,0)、(1,0)、(ρ̄, η̄) になる。規格化する前の三角形の面積は常に |J|/2。
三角形の面積が ∣J∣/2 になることは、辺 z1=VudVub∗、z2=VcdVcb∗ が z1+z2+z3=0 を満たす三角形をなし、面積が 21∣Im(z1∗z2)∣ であることと、Im(z1∗z2)=Im(VubVcdVud∗Vcb∗)=Juc;bd が 定理 4.4 により ±J に等しいことから従います。この三角形の 3 つの角 α,β,γ を B 中間子の崩壊で測定することで、CKM 行列が整合的か(三角形が閉じるか)が検証されています。
ニュートリノは、荷電レプトンと対になるフレーバーの状態 νe,νμ,ντ で生成・検出されますが、真空中を伝わるのは質量の定まった状態 ν1,ν2,ν3 です。両者の食い違い(定義 4.1 の U)が、伝わる間にフレーバーが変わるニュートリノ振動を生みます。
定理 5.1(ニュートリノ振動の確率)✓
質量固有状態 νi(質量 mi)が同じ運動量で、超相対論的に(E≫mi)、距離 L だけ伝わるとき、フレーバー α で生成された状態がフレーバー β として検出される確率は
P(να→νβ)=δαβ−4i>j∑ReWijαβsin2Δij+2i>j∑ImWijαβsin2Δijである。ここで Wijαβ=UβiUαi∗Uβj∗Uαj、Δij=4EΔmij2L、Δmij2=mi2−mj2 である。反ニュートリノでは U→U∗、すなわち虚部の項の符号が反転する。
証明(定理 5.1)
始状態 ∣να⟩=∑iUαi∗∣νi⟩ (να=∑iUαiνi の双対)の各成分は、距離 L で位相 e−iϕi、ϕi=EiT−pL を得る。運動量 p が共通なら Ei=p2+mi2≃p+mi2/2p で、T≃L(超相対論的)、E≃p とすると、ϕi≃mi2L/2E に(共通の位相を除いて)等しい。検出振幅は Aαβ=⟨νβ∣να(L)⟩=∑iUβiUαi∗e−iϕi で、確率は P=∣A∣2=∑i,jUβiUαi∗Uβj∗Uαje−i(ϕi−ϕj)。i=j の項と i=j の項に分ける。i>j のペアと i<j のペアは互いに複素共役になるので、Wij=UβiUαi∗Uβj∗Uαj として
P=i∑∣Uαi∣2∣Uβi∣2+2i>j∑Re[Wije−iθij],θij=ϕi−ϕj=2EΔmij2L=2Δij.Re[We−iθ]=ReWcosθ+ImWsinθ である。ユニタリ性 ∑iUβiUαi∗=δαβ の絶対値の 2 乗をとると δαβ=∑i∣Uαi∣2∣Uβi∣2+2∑i>jReWij だから、第 1 項を δαβ−2∑i>jReWij に置き換えると、cosθ−1=−2sin2(θ/2)=−2sin2Δij から主張の式が出る。反ニュートリノの混合は U の代わりに U∗ を使うので、W→W∗ となり、ImW の符号だけが反転する。
∎
系 5.2(2 世代の振動)✓
2 つのフレーバーが回転角 θ の実直交行列で混合するとき、α=β に対し
P(να→νβ)=sin22θsin2(4EΔm2L)=sin22θsin2(1.267Δm2[eV2]L[km]/E[GeV]).
証明(系 5.2)
U=(cosθ−sinθsinθcosθ)(実)では W21αβ=Uβ2Uα2Uβ1Uα1 が実で、α=e、β=μ なら Uμ2Ue2Uμ1Ue1=cosθ⋅sinθ⋅(−sinθ)⋅cosθ=−41sin22θ。定理 5.1 で虚部は 0、P=−4⋅(−41sin22θ)sin2Δ21=sin22θsin2Δ21。数係数は、ℏc=1.973×10−16GeVm を使い、Δm2=1eV2=10−18GeV2、L=1km=103m=5.068×1018GeV−1 の組で Δm2L/(4E)=10−18×5.068×1018/4/E=1.267/E[GeV] から出る。
∎
例 5.3(実験の数値)
大気ニュートリノ・加速器ニュートリノでは ∣Δm322∣=2.5×10−3eV2、sin22θ23≈1 です。振動の第 1 極大は 1.267Δm2L/E=π/2 で、E=1GeV なら L=496km。T2K 実験(L=295km、ピークエネルギー E=0.6GeV)では位相が 1.267×2.5×10−3×295/0.6=1.56≈π/2 で、ミューニュートリノの生き残りはほぼ 0 です。原子炉ニュートリノ(L=1.6km、E=4MeV)では位相が 1.27、sin22θ13=0.086 から欠損は 0.086×sin2(1.27)=7.8% で、Daya Bay などが約 8% の欠損を測定しました。
質量二乗差 Δm2 を動かすと、振動の周期がどう変わるかを見てみましょう。青い曲線が現れる位置(第 1 極大)に注目してください。
2 世代の振動確率 P(νμ→ντ)=sin22θsin2(1.267Δm2L/E)(E=1GeV、sin22θ=1)。Δm2 を 1×10−3 から 5×10−3eV2 へ増やすと、第 1 極大の距離が L=πE/(2⋅1.267Δm2) に従って縮む。破線は 2.5×10−3eV2(第 1 極大 496km)。
3 世代では、虚部の項が CP 非保存を担います。
系 5.4(ニュートリノの CP 非対称度)✓
3 世代の振動で α=β のとき、ニュートリノと反ニュートリノの振動確率の差は
P(να→νβ)−P(νˉα→νˉβ)=16Jγ∑ϵαβγsinΔ21sinΔ32sinΔ31である(J は 定理 4.4 を V=U に適用したもの)。
証明(系 5.4)
定理 5.1 により、差は 4∑i>jImWijsin2Δij である。Wij=UαjUβiUαi∗Uβj∗ は 定理 4.4 の積の i↔j を入れ替えたもの、すなわち ImWij=Jαβ;ji=−Jϵαβγϵijk である。組 (i,j)=(2,1),(3,1),(3,2) について ϵijk は ϵ213=−1、ϵ312=+1、ϵ321=−1 だから、∑i>jImWijsin2Δij=Jϵαβγ[sin2Δ21−sin2Δ31+sin2Δ32]。Δ31=Δ21+Δ32 なので、a=Δ21、b=Δ32 として sin2a+sin2b−sin2(a+b)=4sinasinbsin(a+b)(和積公式から。sin2a+sin2b=2sin(a+b)cos(a−b)、sin2(a+b)=2sin(a+b)cos(a+b) で、差は 2sin(a+b)[cos(a−b)−cos(a+b)]=4sin(a+b)sinasinb)。ゆえに差は 4Jϵ⋅4sinΔ21sinΔ32sinΔ31 である。
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したがって、ニュートリノの CP 非保存を測るには J=0 のほかに、3 つの質量二乗差がすべて非零で、Δij がどれも小さすぎないことが要ります。レプトンの混合角(sin2θ12=0.307、sin2θ23≈0.55、sin2θ13=0.022)では J の最大値は 定理 4.4 の式で c12s12c23s23c132s13=0.033 となり、クォークの 3×10−5 より 3 桁大きく、δ が大きければ CP 非保存の効果が大きいことが期待されます(現在の実験で δ を測定中です)。
太陽や地球の内部を通るニュートリノは、電子から前方散乱を受けます。νe だけが荷電カレントで電子と相互作用できるので(νμ,ντ は中性カレントのみで、これは 3 つの世代に共通な位相として落ちる)、ポテンシャル V=2GFNe(Ne は電子数密度)が νe のみに加わります。ヴォルフェンシュタイン(1978)が指摘しました。この値は、4 点相互作用 定義 2.1 をフィアツ(Fierz)変換で [νˉeγμ(1−γ5)νe][eˉγμ(1−γ5)e] の形に書き換え、電子の背景について平均すると、静止した非偏極の電子では ⟨eˉγμe⟩=Neδμ0 のみが残ることから導かれます(Fierz 変換は 定理 2.4[アノマリーとインスタントン]、この平均の計算は 例 2.5[アノマリーとインスタントン])。数値は V=7.63×10−14eV×(ρ/gcm−3)Ye です。
定理 5.5(2 世代の物質中の混合(MSW 効果))✓
2 つのフレーバー (νe,νx) が、真空の質量二乗差 Δm2=m22−m12、混合角 θ で混合し、電子数密度 Ne が一定の物質中を伝わるとする。A=2EV/Δm2(V=2GFNe)と定めると、物質中の質量固有状態は混合角 θm と質量二乗差 Δmm2:
tan2θm=cos2θ−Asin2θ,Δmm2=Δm2(cos2θ−A)2+sin22θをもつ。A=cos2θ のとき sin22θm=1(共鳴)で、Δmm2 は最小になる。
証明(定理 5.5)
フレーバー基底での時間発展のハミルトニアンは、真空では質量行列から Hvac=2E1Udiag(m12,m22)UT、U=(cosθ−sinθsinθcosθ) で、定数項を除いて Hvac=4EΔm2(−cos2θsin2θsin2θcos2θ)((1,1) 成分は 2E1(m12cos2θ+m22sin2θ)=4Em12+m22−4EΔm2cos2θ から)。物質のポテンシャルは diag(V,0)=2V+2Vσ3 で、2V=4EΔm2A なので、単位行列に比例する部分を除いて
H=4EΔm2[(A−cos2θ)σ3+sin2θσ1](σ1,3 はパウリ行列)。エルミート行列のスペクトル定理(定理 4.2)[スペクトル定理] により、この実対称行列は回転で対角化され、固有値は ±4EΔm2(A−cos2θ)2+sin22θ で、差が 2EΔmm2 に等しい。回転角 θm は H∝−cos2θmσ3+sin2θmσ1 の形から cos2θm=(cos2θ−A)2+sin22θcos2θ−A、sin2θm=⋯sin2θ と決まり、tan2θm の式を得る。A=cos2θ では cos2θm=0 である。
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例 5.6(太陽ニュートリノ)
太陽の中心では ρ≈150gcm−3、Ye≈0.67 で V=7.7×10−12eV です。エネルギー E=10MeV の 8B ニュートリノでは、Δm212=7.4×10−5eV2 から A=2×107×7.7×10−12/7.4×10−5=2.1 です。sin2θ12=0.307 では cos2θ=0.39、sin2θ=0.92 なので tan2θm=0.92/(0.39−2.1)=−0.54、θm=76∘ となり、νe はほぼ純粋に ν2 の物質中の固有状態(sin2θm=0.94)として生成されます。密度がゆっくり変わる(断熱)なら、固有状態の成分は変わらないまま太陽の表面に出て真空の固有状態につながるので、地球に届いて νe として検出される確率は cos2θcos2θm+sin2θsin2θm=0.693×0.06+0.307×0.94=0.33 です(振動の位相が平均されるとして)。観測された 8B ニュートリノの νe の割合 ≈0.3〜0.35 とよく合います。真空振動の予想値 1−21sin22θ=0.58 ではこの欠損は説明できません。
演習 6.1標準
定理 3.4 の式を使って π+→μ+νμ の崩壊幅から π+ の寿命を見積もれ。GF=1.1664×10−5GeV−2、∣Vud∣=0.974、fπ=130.4MeV、mπ=139.57MeV、mμ=105.66MeV、ℏ=6.582×10−25GeVs。(π→μν が分岐比 99.99% を占める。)
解答
GF2∣Vud∣2fπ2/(8π)=1.3605×10−10×0.9487×0.017004/25.133=8.73×10−14GeV−2。mπmμ2=0.13957×0.011164=1.558×10−3GeV3、(1−mμ2/mπ2)2=(1−0.5731)2=0.1822。積は 8.73×10−14×1.558×10−3×0.1822=2.48×10−17GeV。寿命は τ=6.582×10−25/2.48×10−17=2.65×10−8s。実測 2.60×10−8s とよく合う。
演習 6.2易
Δm322=2.5×10−3eV2、sin22θ23=1 のとき、E=2GeV のミューニュートリノが L=1000km 飛んだ後の生き残り確率を求めよ。
解答
位相は 1.267×2.5×10−3×1000/2=1.584。sin2(1.584)=0.9999 に近く、P(νμ→νμ)=1−1×0.9999≈0。(ほぼ完全に ντ に変わる。)
演習 6.3標準
4 世代の混合行列の混合角と位相の数を 定理 4.3 から求めよ。また 2 世代では V を位相の取り直しで実直交行列にできることを、成分を使って示せ。
解答
n=4: 角 21⋅4⋅3=6 個、位相 21⋅3⋅2=3 個(物理パラメータ合計 9=(4−1)2)。n=2: V=(V11V21V12V22) をユニタリとして、u 型の位相 ϕ1,ϕ2 と d 型の位相 χ1,χ2 で行を e−iϕi、列を eiχj 倍できる。第 1 行と第 1 列の成分を実正にするように ϕ1,χ1 を取り、第 2 行を ϕ2 で調整して V21 を実にする。ユニタリ性(行の直交性)から第 2 列の成分は (V12,V22)=(sinθ,cosθ)eiχ の形に固定され、χ2 で位相を消すと実の回転行列になる。
演習 6.4易
標準パラメータ化で、θ12=13.0∘、θ23=2.4∘、θ13=0.21∘、δ=65∘ のとき J を求めよ。
解答
s12=0.225、c12=0.974、s23=0.0419、c23=0.9991、s13=0.00367、c132=1.0000、sin65∘=0.906。J=0.974×0.9991×1.0×0.225×0.0419×0.00367×0.906=3.05×10−5。
- David Griffiths, Introduction to Elementary Particles, 2nd ed., Wiley-VCH, 2008 — 弱い相互作用の章(ミューオン崩壊の計算、CKM 行列、ニュートリノ振動)。
- Carlo Giunti and Chung W. Kim, Fundamentals of Neutrino Physics and Astrophysics, Oxford University Press, 2007 — 振動の一般公式と物質効果。
- C. S. Wu et al., “Experimental Test of Parity Conservation in Beta Decay”, Phys. Rev. 105 (1957), 1413–1415。
- M. Kobayashi and T. Maskawa, “CP-Violation in the Renormalizable Theory of Weak Interaction”, Prog. Theor. Phys. 49 (1973), 652–657。
- Z. Maki, M. Nakagawa and S. Sakata, “Remarks on the Unified Model of Elementary Particles”, Prog. Theor. Phys. 28 (1962), 870–880。
- L. Wolfenstein, “Neutrino oscillations in matter”, Phys. Rev. D 17 (1978), 2369–2374。