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ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類:SL(2,C) の被覆からウィグナーの小群の方法まで

対象読者: 本テーマ前章までの場の量子論と、学部の線形代数・群と表現の基礎(SU(2)・回転群)を学んだ人。ローレンツ群の表現論は未習で構いません。

前提となる記事:ゲージ理論と自発的対称性の破れ:ヒッグス機構はなぜ質量を生むのか

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電子や光子のような「粒子」を、特定の理論の式に頼らずに、時空の対称性(回転・ブースト・並進)だけから定義し分類できるでしょうか。この記事は、その答えが「質量と、スピン(光子のような質量ゼロの粒子ではヘリシティ)の 2 つの数で決まる」ことを、対称性の群の構造から導きます。読み終えると、スピノルがなぜ現れるのか、粒子の種類がなぜこの 2 つの数で尽きるのかを説明できるようになります。

  • ローレンツ群 O(1,3)O(1,3) は 4 つの連結成分に分かれます。行列式の符号と Λ00\Lambda^0{}_0 の符号が成分を区別し、単位元を含む成分 L+↑=SO+(1,3)\mathcal{L}^\uparrow_+ = SO^{+}(1,3)(固有直交時ローレンツ群)だけが連続的な対称性として物理に入ります。
  • SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は X=x01+xiσi↦AXA†X = x^0\mathbb{1} + x^i\sigma^i \mapsto AXA^\dagger によって L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ を 2 対 1 に被覆し、しかも単連結(群の中のどんな輪も連続的に 1 点へ縮められること)です。2π2\pi 回転で符号を変える「スピノル」は、この被覆の表現として必然的に現れます。
  • ローレンツ代数は複素化すると 2 つの su(2)\mathfrak{su}(2) の直和に分かれ、有限次元既約表現は (j1,j2)(j_1,j_2) で分類されます。ワイルスピノルは (12,0)(\tfrac12,0) と (0,12)(0,\tfrac12)、ディラックスピノルはその直和で、ガンマ行列のクリフォード代数(γμγν+γνγμ=2ημν\gamma^\mu\gamma^\nu+\gamma^\nu\gamma^\mu=2\eta^{\mu\nu} という関係で生まれる代数)がその生成子を与えます。
  • ポアンカレ群のカシミール演算子(すべての生成子と可換な演算子)は P2P^2 とパウリ–ルバンスキーベクトルの 2 乗 W2W^2 です。粒子とはポアンカレ群(の被覆)の既約ユニタリ表現である、というのがウィグナーの定義です。
  • 小群の方法により、質量 m>0m > 0 の表現は SU(2)SU(2) の表現、すなわちスピン ss で、質量 00 の表現(有限自由度のもの)はヘリシティ h∈12Zh \in \tfrac12\mathbb{Z} で分類されます。運動量空間の不変測度 d3p/2ωpd^3p/2\omega_{\boldsymbol p} は、この構成の中で自然に現れます。
  • 有限次元の表現は場を、無限次元のユニタリ表現は粒子を記述します。非コンパクトなローレンツ群では両者が一致しえないことが、場の量子論の構造を決めています。

スカラー場の正準量子化では、古典場から出発して量子化し、ハミルトニアンのスペクトルから「質量 mm の粒子」を見つけました(定理 6.2[スカラー場の正準量子化])。この論理には 1 つ気になる点があります。粒子の概念が、特定のラグランジアンに依存して見えることです。電子はスピン 12\tfrac12、光子はヘリシティ ±1\pm1 をもちますが、その「スピン」や「ヘリシティ」とは、理論の詳細によらずどう定義されるのでしょうか。

1939 年に Wigner が与えた答えは、相互作用の詳細に一切触れないものでした。特殊相対性理論が正しいなら、時空の並進とローレンツ変換からなるポアンカレ群は、量子力学の状態空間にユニタリに作用しなければなりません(Wigner の定理により、確率を保つ対称性はユニタリまたは反ユニタリ作用素で実現されるからです)。そのうえで、1 個の粒子の状態空間とは、それ以上分解できない最小の表現空間、すなわち既約ユニタリ表現である、と定義します。すると「粒子の種類」の分類は、ポアンカレ群の既約ユニタリ表現の分類という純粋に数学的な問題になります。答えが質量とスピン(またはヘリシティ)という 2 つの数で尽きる、というのが本章の中心結果です。

もう 1 つの動機はスピノルです。角運動量とスピンで見たとおり、スピン 12\tfrac12 の状態は 2π2\pi 回転で符号を変えます。これは回転群 SO(3)SO(3) の表現ではなく、その 2 重被覆 SU(2)SU(2) の表現です。相対論でも同じことが起こり、L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の代わりに 2 重被覆 SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) を考える必要があります。なぜ場の量子論が必要かでディラック方程式が 4 成分を要求したこと(注意 4.4[なぜ場の量子論が必要か])の群論的な理由も、ここで明らかになります。本章の結果は次章のディラック場の量子化でそのまま使います。

自然単位系 ℏ=c=1\hbar = c = 1、計量 ημν=diag(+1,−1,−1,−1)\eta_{\mu\nu} = \mathrm{diag}(+1,-1,-1,-1) を用います(Peskin–Schroeder と同じ)。x⋅y=ημνxμyνx\cdot y = \eta_{\mu\nu}x^\mu y^\nu、x2=x⋅xx^2 = x\cdot x です。完全反対称記号は ϵ0123=+1\epsilon^{0123} = +1 と約束します(したがって ϵ0123=−1\epsilon_{0123} = -1。Peskin–Schroeder は逆符号の規約を採るので、パウリ–ルバンスキーベクトルの全体の符号が異なります)。

パウリ行列を σ1,σ2,σ3\sigma^1,\sigma^2,\sigma^3 とし、σμ=(1,σ)\sigma^\mu = (\mathbb{1},\boldsymbol\sigma)、σˉμ=(1,−σ)\bar\sigma^\mu = (\mathbb{1},-\boldsymbol\sigma) とおきます。4 元ベクトル pp に対し p⋅σ=pμσμ=p0−p⋅σp\cdot\sigma = p_\mu\sigma^\mu = p^0 - \boldsymbol p\cdot\boldsymbol\sigma、p⋅σˉ=p0+p⋅σp\cdot\bar\sigma = p^0 + \boldsymbol p\cdot\boldsymbol\sigma です。また実ベクトル x∈R4x \in \mathbb{R}^4 に 2×22\times2 エルミート行列

X(x)=x01+xiσi=(x0+x3x1−ix2x1+ix2x0−x3)X(x) = x^0\mathbb{1} + x^i\sigma^i = \begin{pmatrix} x^0 + x^3 & x^1 - ix^2 \\ x^1 + ix^2 & x^0 - x^3 \end{pmatrix}

を対応させます。これは R4\mathbb{R}^4 から 2×22\times2 エルミート行列全体への線形同型で、det⁡X(x)=(x0)2−∣x∣2=x2\det X(x) = (x^0)^2 - |\boldsymbol x|^2 = x^2 が成り立ちます。この等式が、本章の 2 対 1 被覆の出発点です。

質量殻を Ωm+={p∈R4:p2=m2, p0>0}\Omega_m^+ = \lbrace p\in\mathbb{R}^4 : p^2 = m^2,\ p^0 > 0\rbrace、ωp=∣p∣2+m2\omega_{\boldsymbol p} = \sqrt{|\boldsymbol p|^2 + m^2} と書きます。

定義 3.1(ローレンツ群)↗

実 4×44\times4 行列 Λ\Lambda であって

ημνΛμρΛνσ=ηρσ(行列で書けば ΛTηΛ=η)\eta_{\mu\nu}\Lambda^\mu{}_\rho\Lambda^\nu{}_\sigma = \eta_{\rho\sigma}\qquad(\text{行列で書けば } \Lambda^{\mathsf T}\eta\Lambda = \eta)

を満たすもの全体をローレンツ群 O(1,3)O(1,3) と呼びます。そのうち det⁡Λ=+1\det\Lambda = +1 かつ Λ00≥1\Lambda^0{}_0 \ge 1 を満たすもの全体を L+↑=SO+(1,3)\mathcal{L}^\uparrow_+ = SO^{+}(1,3) と書き、固有直交時ローレンツ群と呼びます。空間反転 P=diag(1,−1,−1,−1)\mathsf P = \mathrm{diag}(1,-1,-1,-1)、時間反転 T=diag(−1,1,1,1)\mathsf T = \mathrm{diag}(-1,1,1,1) も O(1,3)O(1,3) の元です。

定義の条件は「すべての xx について (Λx)2=x2(\Lambda x)^2 = x^2」と同値です(2 次形式を保つことと、偏極恒等式により双線形形式を保つことは同値だからです)。ローレンツ変換で導いたブーストと空間回転は、いずれも L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の元です。

命題 3.2(ローレンツ群の連結成分)✓

Λ∈O(1,3)\Lambda \in O(1,3) について次が成り立ちます。

  1. det⁡Λ=±1\det\Lambda = \pm1 かつ ∣Λ00∣≥1|\Lambda^0{}_0| \ge 1。
  2. L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ は O(1,3)O(1,3) の部分群です。
  3. 任意の Λ∈L+↑\Lambda\in\mathcal{L}^\uparrow_+ は、空間回転 R1,R2∈SO(3)R_1,R_2 \in SO(3) と x3x^3 方向のブースト B3(η)B_3(\eta)(η∈R\eta\in\mathbb{R})を用いて Λ=R1B3(η)R2\Lambda = R_1B_3(\eta)R_2 と書けます。特に L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ は連結です。
  4. O(1,3)O(1,3) はちょうど 4 つの連結成分 L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+、PL+↑\mathsf P\mathcal{L}^\uparrow_+、TL+↑\mathsf T\mathcal{L}^\uparrow_+、PTL+↑\mathsf{PT}\mathcal{L}^\uparrow_+ に分かれます。
証明(命題 3.2)

1。 ΛTηΛ=η\Lambda^{\mathsf T}\eta\Lambda = \eta の行列式を取ると (det⁡Λ)2=1(\det\Lambda)^2 = 1 です。また ρ=σ=0\rho = \sigma = 0 成分は (Λ00)2−∑i(Λi0)2=1(\Lambda^0{}_0)^2 - \sum_i(\Lambda^i{}_0)^2 = 1 なので (Λ00)2≥1(\Lambda^0{}_0)^2 \ge 1 です。

2。 ΛTηΛ=η\Lambda^{\mathsf T}\eta\Lambda = \eta から Λ−1=ηΛTη\Lambda^{-1} = \eta\Lambda^{\mathsf T}\eta、したがって ΛηΛT=η\Lambda\eta\Lambda^{\mathsf T} = \eta も成り立ち、その 0000 成分は (Λ00)2−∑i(Λ0i)2=1(\Lambda^0{}_0)^2 - \sum_i(\Lambda^0{}_i)^2 = 1 です。Λ,Λ′∈L+↑\Lambda,\Lambda' \in \mathcal{L}^\uparrow_+ とし、Λ00=cosh⁡α\Lambda^0{}_0 = \cosh\alpha、Λ′00=cosh⁡β\Lambda'^0{}_0 = \cosh\beta(α,β≥0\alpha,\beta\ge0)と書くと、行ベクトル (Λ0i)(\Lambda^0{}_i) の長さは sinh⁡α\sinh\alpha、列ベクトル (Λ′i0)(\Lambda'^i{}_0) の長さは sinh⁡β\sinh\beta です。コーシー–シュワルツの不等式より

(ΛΛ′)00=Λ00Λ′00+∑iΛ0iΛ′i0≥cosh⁡αcosh⁡β−sinh⁡αsinh⁡β=cosh⁡(α−β)≥1(\Lambda\Lambda')^0{}_0 = \Lambda^0{}_0\Lambda'^0{}_0 + \sum_i\Lambda^0{}_i\Lambda'^i{}_0 \ge \cosh\alpha\cosh\beta - \sinh\alpha\sinh\beta = \cosh(\alpha-\beta) \ge 1

です。行列式は乗法的なので det⁡(ΛΛ′)=1\det(\Lambda\Lambda') = 1。逆元についても Λ−1=ηΛTη\Lambda^{-1} = \eta\Lambda^{\mathsf T}\eta から (Λ−1)00=Λ00(\Lambda^{-1})^0{}_0 = \Lambda^0{}_0 なので閉じています。

3。 e0=(1,0,0,0)e_0 = (1,0,0,0) とし、u=Λe0u = \Lambda e_0 とおきます。u2=1u^2 = 1、u0=Λ00≥1u^0 = \Lambda^0{}_0 \ge 1 なので u=(cosh⁡η, sinh⁡η n)u = (\cosh\eta,\ \sinh\eta\,\boldsymbol n)(η≥0\eta \ge 0、n\boldsymbol n は単位ベクトル)と書けます。e3\boldsymbol e_3 を n\boldsymbol n に移す回転を R1R_1 とすると R1B3(η)e0=uR_1B_3(\eta)e_0 = u です。R2=(R1B3(η))−1ΛR_2 = (R_1B_3(\eta))^{-1}\Lambda は 2 より L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の元で e0e_0 を固定するので、e0e_0 の η\eta 直交補空間(空間部分 R3\mathbb{R}^3)を保ち、そこでユークリッド内積(−η-\eta の制限)を保ちます。よって R2R_2 は O(3)O(3) の元で、det⁡R2=1\det R_2 = 1 から SO(3)SO(3) の元です。SO(3)SO(3) は連結なので、R1,R2R_1,R_2 を単位元へつなぐ道 R1(t),R2(t)R_1(t),R_2(t) を取り、t↦R1(t)B3(tη)R2(t)t\mapsto R_1(t)B_3(t\eta)R_2(t) が Λ\Lambda と 1\mathbb{1} を結びます。

4。 det⁡Λ\det\Lambda と sign Λ00\mathrm{sign}\,\Lambda^0{}_0 は Λ\Lambda の連続関数で、1 より離散的な値しか取りません。したがって 4 つの組 (±,±)(\pm,\pm) は互いに別の成分に属します。P,T,PT\mathsf P,\mathsf T,\mathsf{PT} はそれぞれ (−,+)(-,+)、(−,−)(-,-)、(+,−)(+,-) の代表であり、たとえば (−,+)(-,+) の Λ\Lambda に対し PΛ\mathsf P\Lambda は (+,+)(+,+) の元(P\mathsf P は Λ00\Lambda^0{}_0 を変えない)なので、その組全体は PL+↑\mathsf P\mathcal{L}^\uparrow_+ です。各組は連結集合 L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の像なので連結です。

det = −1det = +1Λ⁰₀ ≥ 1Λ⁰₀ ≤ −1PL↑₊(空間反転を含む)TL↑₊(時間反転を含む)PTL↑₊(P と T の両方)L↑₊ = SO⁺(1,3)(単位元を含む成分)
ローレンツ群 の 4 つの連結成分。横軸は の符号、縦軸は の符号( か )。右上が単位元を含む で、ほかの 3 つは を掛けて得られる。

この命題のいう「直交時」の条件(Λ00≥1\Lambda^0{}_0 \ge 1)は、未来向きの時間的ベクトルを未来向きに移すことと同値です。補題 2.1[スカラー場の正準量子化] で θ(k0)\theta(k^0) の不変性に使ったのは、まさにこの性質でした。連続変換から得られる保存量(エネルギー・運動量・角運動量)は L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ だけから決まり、P,T\mathsf P,\mathsf T は自然界で破れうる離散対称性として別扱いになります。

次が本章の 1 つ目の主定理です。連続に動かせるローレンツ変換を、2×22\times2 の複素行列 AA の言葉で書き直すのがねらいです。このとき AA と −A-A が同じローレンツ変換を与えるので、2π2\pi 回転で符号が変わるスピノルが自然に現れます。定理の 3 の「基本群が Z2\mathbb{Z}_2」は、2π2\pi 回転の道は縮められず、4π4\pi 回転の道なら縮められる、ということの言い換えです(例 3.4 で具体的に見ます)。

定理 3.3(SL(2,C) による 2 対 1 被覆)✓

A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) に対し、線形写像 Λ(A):R4→R4\Lambda(A):\mathbb{R}^4\to\mathbb{R}^4 を

X(Λ(A)x)=A X(x) A†X\big(\Lambda(A)x\big) = A\,X(x)\,A^\dagger

で定めます。このとき次が成り立ちます。

  1. Λ(A)∈L+↑\Lambda(A)\in\mathcal{L}^\uparrow_+ であり、A↦Λ(A)A\mapsto\Lambda(A) は連続な群準同型です。
  2. この準同型は全射で、核は {1,−1}\lbrace\mathbb{1},-\mathbb{1}\rbrace です。したがって L+↑≅SL(2,C)/{±1}\mathcal{L}^\uparrow_+ \cong \mathrm{SL}(2,\mathbb{C})/\lbrace\pm\mathbb{1}\rbrace です。
  3. SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は単連結です。したがって SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の普遍被覆群であり、π1(L+↑)≅Z2\pi_1(\mathcal{L}^\uparrow_+) \cong \mathbb{Z}_2 です。
証明(定理 3.3)

well-definedness と準同型性。 AXA†AXA^\dagger はエルミートなので、XX の同型性から Λ(A)x\Lambda(A)x が一意に定まり、xx について線形です。det⁡(AXA†)=∣det⁡A∣2det⁡X=det⁡X\det(AXA^\dagger) = |\det A|^2\det X = \det X と §2 の det⁡X(x)=x2\det X(x) = x^2 より (Λ(A)x)2=x2(\Lambda(A)x)^2 = x^2、すなわち Λ(A)∈O(1,3)\Lambda(A)\in O(1,3) です。X(Λ(AB)x)=ABXB†A†=X(Λ(A)Λ(B)x)X(\Lambda(AB)x) = ABXB^\dagger A^\dagger = X(\Lambda(A)\Lambda(B)x) より準同型であり、行列成分は AA の成分の多項式なので連続です。

像が L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ に入ること。 極分解により任意の A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は A=UeHA = U e^{H}(U∈SU(2)U\in SU(2)、HH はトレース 00 のエルミート行列)と一意に書け、(U,H)↦UeH(U,H)\mapsto Ue^H は SU(2)×R3SU(2)\times\mathbb{R}^3 から SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) への同相写像です。SU(2)≅S3SU(2)\cong S^3 は連結なので SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) も連結です。連続写像による連結集合の像は、Λ(1)=1\Lambda(\mathbb{1}) = \mathbb{1} を含む連結成分、すなわち 命題 3.2 の 4 より L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ に含まれます。

核。 Λ(A)=1\Lambda(A) = \mathbb{1} とすると、すべてのエルミート XX について AXA†=XAXA^\dagger = X です。X=1X = \mathbb{1} から AA†=1AA^\dagger = \mathbb{1}、つまり AA はユニタリで、AXA−1=XAXA^{-1} = X となります。X=σiX = \sigma^i と取れば AA は 3 つのパウリ行列すべてと可換で、それらは M2(C)M_2(\mathbb{C}) を(1\mathbb{1} とともに)張るので A=c1A = c\mathbb{1} です。det⁡A=c2=1\det A = c^2 = 1 から A=±1A = \pm\mathbb{1} です。

全射性。 U=exp⁡(−iθσ3/2)U = \exp(-i\theta\sigma^3/2) とすると XX の (1,2)(1,2) 成分 x1−ix2x^1 - ix^2 は e−iθ(x1−ix2)e^{-i\theta}(x^1 - ix^2) に変わり、対角成分は不変です。これは x3x^3 軸まわりの角 θ\theta の回転です。同様に一般の exp⁡(−iθ n⋅σ/2)\exp(-i\theta\,\boldsymbol n\cdot\boldsymbol\sigma/2) は n\boldsymbol n まわりの角 θ\theta の回転を与えるので、SO(3)SO(3) はすべて像に入ります。また A=exp⁡(ησ3/2)=diag(eη/2,e−η/2)A = \exp(\eta\sigma^3/2) = \mathrm{diag}(e^{\eta/2},e^{-\eta/2}) に対しては

x0±x3  ↦  e±η(x0±x3),x1±ix2  ↦  x1±ix2x^0 \pm x^3 \;\mapsto\; e^{\pm\eta}(x^0\pm x^3),\qquad x^1 \pm ix^2 \;\mapsto\; x^1\pm ix^2

なので、Λ(A)\Lambda(A) はラピディティ η\eta の x3x^3 方向ブースト B3(η)B_3(\eta) です。命題 3.2 の 3 により L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の元はすべて R1B3(η)R2R_1B_3(\eta)R_2 の形なので、全射です。

単連結性。 上の同相写像により SL(2,C)≅S3×R3\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})\cong S^3\times\mathbb{R}^3 で、S3S^3 と R3\mathbb{R}^3 はともに単連結です。核 {±1}\lbrace\pm\mathbb{1}\rbrace は離散なので、Λ\Lambda は被覆写像であり、被覆の枚数 2 が基本群の位数を与えます。

この定理の物理的な意味を述べます。量子力学では状態ベクトルは位相を除いてしか決まらないので、対称性は群の射影表現として実現されれば十分です。Bargmann の定理により、L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ およびポアンカレ群の連続な射影ユニタリ表現は、普遍被覆群の通常のユニタリ表現に持ち上げられます。つまり物理で考えるべきは L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ ではなく SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の表現であり、そこには −1-\mathbb{1} を −1-1 で表現する「2 価の」表現が含まれます。これがスピノルの起源です。

例 3.4(2π 回転は恒等変換だが、スピノルの符号を変える)

U(θ)=exp⁡(−iθσ3/2)=diag(e−iθ/2,eiθ/2)U(\theta) = \exp(-i\theta\sigma^3/2) = \mathrm{diag}(e^{-i\theta/2},e^{i\theta/2}) を考えます。定理 3.3 の証明で見たとおり、Λ(U(θ))\Lambda(U(\theta)) は x3x^3 軸まわりの角 θ\theta の回転です。θ=2π\theta = 2\pi で Λ(U(2π))=1\Lambda(U(2\pi)) = \mathbb{1} ですが、U(2π)=−1U(2\pi) = -\mathbb{1} です。θ∈[0,2π]\theta\in[0,2\pi] の閉じた道 Λ(U(θ))\Lambda(U(\theta)) を SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) に持ち上げると、1\mathbb{1} から −1-\mathbb{1} への閉じていない道になります。これは L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の中で 2π2\pi 回転の道が 11 点に縮められないことを表し、θ∈[0,4π]\theta\in[0,4\pi] まで回すと初めて持ち上げが閉じます。C2\mathbb{C}^2 に AA がそのまま作用する表現では、2π2\pi 回転は状態ベクトルに −1-1 を掛けます。これは中性子干渉実験で直接観測されています。

4. ローレンツ代数と有限次元表現

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定義 4.1(ローレンツ代数の生成子)↗

反対称な実数 ωμν=−ωνμ\omega_{\mu\nu} = -\omega_{\nu\mu} に対して L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の元を Λ=exp⁡(−i2ωμνJμν)\Lambda = \exp\left(-\tfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}J^{\mu\nu}\right) と書き、4 元ベクトル表現での生成子を

(Jμν)αβ=i(ημαδνβ−ηναδμβ)(J^{\mu\nu})^\alpha{}_\beta = i\left(\eta^{\mu\alpha}\delta^\nu{}_\beta - \eta^{\nu\alpha}\delta^\mu{}_\beta\right)

と定めます。さらに Ji=12ϵijkJjkJ^i = \tfrac12\epsilon^{ijk}J^{jk}(回転)、Ki=J0iK^i = J^{0i}(ブースト)とおきます。ここで ϵijk\epsilon^{ijk} は 3 次元の完全反対称記号(ϵ123=1\epsilon^{123} = 1)です。

この規約で exp⁡(−iθJ3)\exp(-i\theta J^3) は x3x^3 軸まわりの角 θ\theta の回転、exp⁡(−iηK3)\exp(-i\eta K^3) はラピディティ η\eta の x3x^3 方向ブーストになります(たとえば (J12)12=−i(J^{12})^1{}_2 = -i、(J12)21=i(J^{12})^2{}_1 = i から −iJ12-iJ^{12} は (x1,x2)(x^1,x^2) 平面の無限小回転です)。無限小形では Λμν=δμν+ωμν+O(ω2)\Lambda^\mu{}_\nu = \delta^\mu{}_\nu + \omega^\mu{}_\nu + O(\omega^2) です。

命題 4.2(ローレンツ代数の交換関係と su(2) ⊕ su(2) への分解)✓

定義 4.1 の生成子は

[Jμν,Jρσ]=i(ηνρJμσ−ημρJνσ−ηνσJμρ+ημσJνρ)[J^{\mu\nu},J^{\rho\sigma}] = i\left(\eta^{\nu\rho}J^{\mu\sigma} - \eta^{\mu\rho}J^{\nu\sigma} - \eta^{\nu\sigma}J^{\mu\rho} + \eta^{\mu\sigma}J^{\nu\rho}\right)

を満たし、成分で書くと

[Ji,Jj]=iϵijkJk,[Ji,Kj]=iϵijkKk,[Ki,Kj]=−iϵijkJk[J^i,J^j] = i\epsilon^{ijk}J^k,\qquad [J^i,K^j] = i\epsilon^{ijk}K^k,\qquad [K^i,K^j] = -i\epsilon^{ijk}J^k

です。複素線形結合 Ai=12(Ji+iKi)\mathcal{A}^i = \tfrac12(J^i + iK^i)、Bi=12(Ji−iKi)\mathcal{B}^i = \tfrac12(J^i - iK^i) を作ると

[Ai,Aj]=iϵijkAk,[Bi,Bj]=iϵijkBk,[Ai,Bj]=0[\mathcal{A}^i,\mathcal{A}^j] = i\epsilon^{ijk}\mathcal{A}^k,\qquad [\mathcal{B}^i,\mathcal{B}^j] = i\epsilon^{ijk}\mathcal{B}^k,\qquad [\mathcal{A}^i,\mathcal{B}^j] = 0

が成り立ちます。

証明(命題 4.2)

1 つ目の式は、JμνJ^{\mu\nu} の行列成分を代入して積を計算すれば得られます((JμνJρσ)αβ(J^{\mu\nu}J^{\rho\sigma})^\alpha{}_\beta を展開すると、η\eta が 1 つ縮約された 4 項が現れます)。i,j,ki,j,k の式はその特殊化です。たとえば K1=i(E01+E10)K^1 = i(E_{01}+E_{10})、K2=i(E02+E20)K^2 = i(E_{02}+E_{20})(EabE_{ab} は (a,b)(a,b) 成分だけが 11 の行列単位)から [K1,K2]=−(E12−E21)[K^1,K^2] = -(E_{12}-E_{21}) で、一方 J3=J12=−i(E12−E21)J^3 = J^{12} = -i(E_{12}-E_{21}) なので [K1,K2]=−iJ3[K^1,K^2] = -iJ^3 です。A,B\mathcal{A},\mathcal{B} の関係は代入するだけです。[Ki,Jj]=iϵijkKk[K^i,J^j] = i\epsilon^{ijk}K^k に注意すると

[Ai,Aj]=14(iϵijkJk+i⋅iϵijkKk+i⋅iϵijkKk+iϵijkJk)=i2ϵijk(Jk+iKk)=iϵijkAk[\mathcal{A}^i,\mathcal{A}^j] = \tfrac14\left(i\epsilon^{ijk}J^k + i\cdot i\epsilon^{ijk}K^k + i\cdot i\epsilon^{ijk}K^k + i\epsilon^{ijk}J^k\right) = \tfrac{i}{2}\epsilon^{ijk}(J^k + iK^k) = i\epsilon^{ijk}\mathcal{A}^k

で、B\mathcal{B} も同様です。[Ai,Bj]=14([Ji,Jj]−i[Ji,Kj]+i[Ki,Jj]+[Ki,Kj])=14(iϵijkJk+ϵijkKk−ϵijkKk−iϵijkJk)=0[\mathcal{A}^i,\mathcal{B}^j] = \tfrac14\left([J^i,J^j] - i[J^i,K^j] + i[K^i,J^j] + [K^i,K^j]\right) = \tfrac14(i\epsilon^{ijk}J^k + \epsilon^{ijk}K^k - \epsilon^{ijk}K^k - i\epsilon^{ijk}J^k) = 0 です。

[Ki,Kj]=−iϵijkJk[K^i,K^j] = -i\epsilon^{ijk}J^k の負号が、ローレンツ群を回転群と区別する唯一の点です。2 つのブーストの交換子は回転を生みます(トーマス歳差の起源)。符号が負であるために、実リー代数としては so(1,3)\mathfrak{so}(1,3) はコンパクトな su(2)⊕su(2)\mathfrak{su}(2)\oplus\mathfrak{su}(2) とは異なり、A,B\mathcal{A},\mathcal{B} への分解は複素化して初めて可能になります。

ここからの目標は、ローレンツ群の表現を、すでに知っている SU(2)SU(2)(角運動量)の表現の組として整理することです。JiJ^i と KiK^i を複素数係数で組み合わせると、互いに可換な 2 組の角運動量の交換関係の形になるので、角運動量の合成の知識がそのまま使えます。次の定理は、その結果として表現が 2 つのスピンの組 (j1,j2)(j_1,j_2) で分類されることを述べます。

定理 4.3(有限次元既約表現の分類)✓

SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の有限次元の既約な(連続、複素線形空間上の)表現は、同値を除いて、非負の半整数の組 (j1,j2)(j_1,j_2)(j1,j2∈{0,12,1,…}j_1,j_2\in\lbrace0,\tfrac12,1,\ldots\rbrace)で過不足なく分類されます。表現 (j1,j2)(j_1,j_2) は次元 (2j1+1)(2j2+1)(2j_1+1)(2j_2+1) をもち、その生成子は Ai\mathcal{A}^i がスピン j1j_1、Bi\mathcal{B}^i がスピン j2j_2 の su(2)\mathfrak{su}(2) 表現行列として作用するものです。回転部分群 SU(2)SU(2) に制限すると、Ji=Ai+BiJ^i = \mathcal{A}^i + \mathcal{B}^i なので角運動量の合成と同じく

(j1,j2)∣SU(2)=∣j1−j2∣⊕(∣j1−j2∣+1)⊕⋯⊕(j1+j2)(j_1,j_2)\big|_{SU(2)} = |j_1 - j_2| \oplus (|j_1-j_2|+1)\oplus\cdots\oplus(j_1+j_2)

と分解します。(j1,j2)(j_1,j_2) が L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の(1 価の)表現になるのは j1+j2j_1 + j_2 が整数のとき、かつそのときに限ります。

証明(定理 4.3)

定理 4.1[Lorentz 群・Poincaré 群の表現] で証明されています。対応を確認します。そこでの D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} は、その 5 により Ai\mathcal{A}^i がスピン j1j_1、Bi\mathcal{B}^i がスピン j2j_2 の表現行列として作用する表現で、ここでの表現 (j1,j2)(j_1,j_2) にほかなりません。分類(既約性・次元・非同型性・網羅性)はその 1 と 2、SU(2)SU(2) への制限の分解は 3 です。最後の主張は 4 です。L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ は SL(2,C)/{±1}\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})/\{\pm\mathbb 1\} と同型(定理 3.3)なので、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の表現が L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の 1 価の表現を誘導することは、−1-\mathbb 1 が恒等写像で表されることと同値です。

注意 4.4(有限次元表現の分類の証明の筋道)

証明は次の筋道です。単連結性(定理 3.3)により、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の有限次元表現は実リー代数 sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の表現と 1 対 1 に対応します。実リー代数の複素表現は複素化 sl(2,C)C≅sl(2,C)⊕sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})_\mathbb{C}\cong\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\oplus\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の複素線形な表現と同じであり、命題 4.2 の A,B\mathcal{A},\mathcal{B} がこの 2 つの直和因子の基底です。半単純リー代数の直和の既約表現は各因子の既約表現のテンソル積であり、sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の既約表現は最高ウェイト jj で分類されます(角運動量とスピンの昇降演算子による議論と同じ)。最後の主張は、−1=exp⁡(−2πiJ3)-\mathbb{1} = \exp(-2\pi iJ^3) が (−1)2(j1+j2)(-1)^{2(j_1+j_2)} で表現されることから従います。詳細は Weinberg 第 I 巻 5.6 節、または Sternberg『Group Theory and Physics』第 3 章を参照してください。

代表的な表現を表にまとめます。

(j1,j2)(j_1,j_2)次元回転に関する成分物理での例
(0,0)(0,0)1スピン 0スカラー場 ϕ\phi
(12,0)(\tfrac12,0), (0,12)(0,\tfrac12)2スピン 12\tfrac12左巻き・右巻きワイルスピノル
(12,12)(\tfrac12,\tfrac12)40⊕10\oplus14 元ベクトル AμA^\mu(A0A^0 がスピン 0、A\boldsymbol A がスピン 1)
(1,0)⊕(0,1)(1,0)\oplus(0,1)61⊕11\oplus1反対称テンソル FμνF^{\mu\nu}(E±iB\boldsymbol E \pm i\boldsymbol B)
(12,0)⊕(0,12)(\tfrac12,0)\oplus(0,\tfrac12)412⊕12\tfrac12\oplus\tfrac12ディラックスピノル

ここで重要な事実を、反例の形で確認しておきます。

例 4.5(有限次元の表現はユニタリになりえない)

4 元ベクトル表現 Λ↦Λ\Lambda\mapsto\Lambda を考えます。R4\mathbb{R}^4(あるいは C4\mathbb{C}^4)上のどんな正定値内積に関しても、この表現はユニタリになりません。実際、ブースト B3(η)B_3(\eta) は (x0±x3)(x^0\pm x^3) 方向に固有値 e±ηe^{\pm\eta} をもちますが、ユニタリ作用素の固有値は絶対値 11 でなければなりません。保たれる双線形形式は ημν\eta_{\mu\nu} であって正定値ではないのです。

一般に、連結で非コンパクトな単純リー群の有限次元ユニタリ表現は自明なものしかありません。SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の場合は直接確かめられます。有限次元ユニタリ表現なら生成子 Ji,KiJ^i,K^i はエルミート行列で表されますが、命題 4.2 の [K1,K2]=−iJ3[K^1,K^2] = -iJ^3 の負号のために、トレースを使った評価で tr((K2)2)=−tr((J3)2)\mathrm{tr}\big((K^2)^2\big) = -\mathrm{tr}\big((J^3)^2\big) が導かれ、左辺は非負、右辺は非正なので両方とも 00 になってしまいます(演習 8.1 で実行します)。回転群のようにコンパクトな場合は、同じ計算で符号が正になり矛盾は生じません。

この事実の帰結は重大です。場はローレンツ変換で成分が有限次元表現に従って混ざる量(ϕ\phi, ψ\psi, AμA^\mu)として定義されますが、その表現はユニタリではありません。一方、粒子の状態空間はユニタリ表現でなければならず、したがって無限次元です。場と粒子が別の数学的対象であり、両者を結ぶ手続き(モード展開)が必要になる理由がここにあります。

5. ガンマ行列とワイル・ディラックスピノル

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定義 5.1(クリフォード代数とガンマ行列)↗

4×44\times4 複素行列 γ0,γ1,γ2,γ3\gamma^0,\gamma^1,\gamma^2,\gamma^3 であって

{γμ,γν}=γμγν+γνγμ=2ημν14\lbrace\gamma^\mu,\gamma^\nu\rbrace = \gamma^\mu\gamma^\nu + \gamma^\nu\gamma^\mu = 2\eta^{\mu\nu}\mathbb{1}_4

を満たすものをガンマ行列と呼び、この関係式で生成される代数を(ミンコフスキー計量に付随する)クリフォード代数と呼びます。本章と次章ではワイル表示(カイラル表示)

γμ=(0σμσˉμ0),γ5=iγ0γ1γ2γ3=(−1001)\gamma^\mu = \begin{pmatrix} 0 & \sigma^\mu \\ \bar\sigma^\mu & 0\end{pmatrix},\qquad \gamma^5 = i\gamma^0\gamma^1\gamma^2\gamma^3 = \begin{pmatrix} -\mathbb{1} & 0 \\ 0 & \mathbb{1}\end{pmatrix}

を用います。さらに Sμν=i4[γμ,γν]S^{\mu\nu} = \tfrac{i}{4}[\gamma^\mu,\gamma^\nu] とおき、ψˉ=ψ†γ0\bar\psi = \psi^\dagger\gamma^0 をディラック共役と呼びます。

ワイル表示が関係式を満たすことは、σμσˉν+σνσˉμ=2ημν12\sigma^\mu\bar\sigma^\nu + \sigma^\nu\bar\sigma^\mu = 2\eta^{\mu\nu}\mathbb{1}_2(パウリ行列の反交換関係 {σi,σj}=2δij\lbrace\sigma^i,\sigma^j\rbrace = 2\delta^{ij} から直ちに出ます)で確かめられます。また γ0\gamma^0 はエルミート、γi\gamma^i は反エルミートで、γ0γμ†γ0=γμ\gamma^0\gamma^{\mu\dagger}\gamma^0 = \gamma^\mu が成り立ちます。

注意 5.2(ガンマ行列の一意性)

クリフォード関係式を満たす 4×44\times4 行列の組は、相似変換 γμ↦MγμM−1\gamma^\mu\mapsto M\gamma^\mu M^{-1} を除いて一意です(パウリの基本定理)。また 4 次元より小さい行列では実現できません(なぜ場の量子論が必要かの演習で 2×22\times2 が不可能なことを見ました)。証明は、16 個の積 γμ1⋯γμk\gamma^{\mu_1}\cdots\gamma^{\mu_k}(μ1<⋯<μk\mu_1 < \cdots < \mu_k)が張る代数が M4(C)M_4(\mathbb{C}) と同型な単純環であることによります。ディラック表示など他の表示を用いても物理的結論は変わりません。

次の命題のねらいは、ガンマ行列から、ローレンツ変換に対応する具体的な 4×44\times4 行列 S(Λ)S(\Lambda) を作ることです。まず 1 でガンマ行列が添字についてベクトルのように振る舞うことを確かめ、それを積み重ねて 3 の変換則を得ます。

命題 5.3(スピノル表現)✓

定義 5.1 の SμνS^{\mu\nu} について次が成り立ちます。

  1. [γμ,Sρσ]=(Jρσ)μν γν[\gamma^\mu,S^{\rho\sigma}] = (J^{\rho\sigma})^\mu{}_\nu\,\gamma^\nu。
  2. SμνS^{\mu\nu} は 命題 4.2 と同じ交換関係を満たします。したがって Λ=exp⁡(−i2ωμνJμν)\Lambda = \exp(-\tfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}J^{\mu\nu}) に対して S(Λ)=exp⁡(−i2ωμνSμν)S(\Lambda) = \exp(-\tfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}S^{\mu\nu}) とおくと、これは SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の 4 次元表現を定めます。
  3. S(Λ)−1γμS(Λ)=ΛμνγνS(\Lambda)^{-1}\gamma^\mu S(\Lambda) = \Lambda^\mu{}_\nu\gamma^\nu。
  4. ワイル表示では S0i=−i2(σi00−σi)S^{0i} = -\tfrac{i}{2}\begin{pmatrix}\sigma^i & 0\\ 0 & -\sigma^i\end{pmatrix}、12ϵijkSjk=12(σi00σi)\tfrac12\epsilon^{ijk}S^{jk} = \tfrac12\begin{pmatrix}\sigma^i & 0\\ 0&\sigma^i\end{pmatrix} であり、A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) に対応する元は
S(Λ(A))=((A†)−100A)S\big(\Lambda(A)\big) = \begin{pmatrix} (A^\dagger)^{-1} & 0 \\ 0 & A\end{pmatrix}

です。特に S(Λ(−1))=−14S(\Lambda(-\mathbb{1})) = -\mathbb{1}_4 で、これは L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の表現ではなく、その 2 重被覆の表現です。

証明(命題 5.3)

1。 ρ≠σ\rho\ne\sigma のとき Sρσ=i2γργσS^{\rho\sigma} = \tfrac{i}{2}\gamma^\rho\gamma^\sigma です。[γμ,γργσ]={γμ,γρ}γσ−γρ{γμ,γσ}=2ημργσ−2ημσγρ[\gamma^\mu,\gamma^\rho\gamma^\sigma] = \lbrace\gamma^\mu,\gamma^\rho\rbrace\gamma^\sigma - \gamma^\rho\lbrace\gamma^\mu,\gamma^\sigma\rbrace = 2\eta^{\mu\rho}\gamma^\sigma - 2\eta^{\mu\sigma}\gamma^\rho なので、[γμ,Sρσ]=i(ηρμγσ−ησμγρ)[\gamma^\mu,S^{\rho\sigma}] = i(\eta^{\rho\mu}\gamma^\sigma - \eta^{\sigma\mu}\gamma^\rho) で、これは 定義 4.1 の (Jρσ)μνγν(J^{\rho\sigma})^\mu{}_\nu\gamma^\nu に一致します。

2。 Sμν=i2γμγνS^{\mu\nu} = \tfrac{i}{2}\gamma^\mu\gamma^\nu(μ≠ν\mu\ne\nu)に 1 を 2 回使うと [Sρσ,Sμν]=−i2((Jρσ)μαγαγν+(Jρσ)ναγμγα)[S^{\rho\sigma},S^{\mu\nu}] = -\tfrac{i}{2}\left((J^{\rho\sigma})^\mu{}_\alpha\gamma^\alpha\gamma^\nu + (J^{\rho\sigma})^\nu{}_\alpha\gamma^\mu\gamma^\alpha\right) となり、右辺を SS で書き直すと、ベクトル添字 2 つをもつ反対称テンソルの変換則、すなわち 命題 4.2 の右辺が出ます。リー代数の表現は単連結群 SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の表現に一意に持ち上がります。

3。 無限小で示せば十分です(Λ\Lambda についての両辺はともに準同型的に振る舞い、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は連結なので無限小生成元の指数関数で生成されます)。S=1−i2ωρσSρσS = 1 - \tfrac{i}{2}\omega_{\rho\sigma}S^{\rho\sigma} として、1 より

S−1γμS=γμ−i2ωρσ[γμ,Sρσ]=γμ−i2ωρσ(Jρσ)μνγν=(δμν+ωμν)γνS^{-1}\gamma^\mu S = \gamma^\mu - \tfrac{i}{2}\omega_{\rho\sigma}[\gamma^\mu,S^{\rho\sigma}] = \gamma^\mu - \tfrac{i}{2}\omega_{\rho\sigma}(J^{\rho\sigma})^\mu{}_\nu\gamma^\nu = (\delta^\mu{}_\nu + \omega^\mu{}_\nu)\gamma^\nu

です。

4。 γ0γi=diag(−σi,σi)\gamma^0\gamma^i = \mathrm{diag}(-\sigma^i,\sigma^i) から S0i=i2γ0γiS^{0i} = \tfrac{i}{2}\gamma^0\gamma^i の式を得ます。γiγj=diag(−σiσj,−σiσj)\gamma^i\gamma^j = \mathrm{diag}(-\sigma^i\sigma^j,-\sigma^i\sigma^j) と σiσj=iϵijkσk\sigma^i\sigma^j = i\epsilon^{ijk}\sigma^k(i≠ji\ne j)から回転の式を得ます。したがって回転 U=exp⁡(−iθ⋅σ/2)U = \exp(-i\boldsymbol\theta\cdot\boldsymbol\sigma/2) には diag(U,U)\mathrm{diag}(U,U) が、ブースト A=exp⁡(η⋅σ/2)A = \exp(\boldsymbol\eta\cdot\boldsymbol\sigma/2)(定理 3.3 の証明でブーストを与えた元)には exp⁡(−iηiS0i)=diag(e−η⋅σ/2,eη⋅σ/2)=diag((A†)−1,A)\exp(-i\eta^iS^{0i}) = \mathrm{diag}(e^{-\boldsymbol\eta\cdot\boldsymbol\sigma/2},e^{\boldsymbol\eta\cdot\boldsymbol\sigma/2}) = \mathrm{diag}((A^\dagger)^{-1},A) が対応します。UU については (U†)−1=U(U^\dagger)^{-1} = U です。両辺は SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) 上の準同型で、極分解 A=UeHA = Ue^H により回転とブーストの元で生成されるので、一般の AA で一致します。

この命題の 3 は「ガンマ行列はベクトルの添字をもつ不変テンソルである」と読めます。これによりディラック方程式の共変性が直ちに従います。

定義 5.4(ワイルスピノルとディラックスピノル)↗

C2\mathbb{C}^2 上で A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) が (A†)−1(A^\dagger)^{-1} として作用する表現 (12,0)(\tfrac12,0) の元を左巻きワイルスピノル ψL\psi_L、AA として作用する表現 (0,12)(0,\tfrac12) の元を右巻きワイルスピノル ψR\psi_R と呼びます。その直和 ψ=(ψL,ψR)T∈C4\psi = (\psi_L,\psi_R)^{\mathsf T}\in\mathbb{C}^4 をディラックスピノルと呼び、ψ↦S(Λ)ψ\psi\mapsto S(\Lambda)\psi と変換させます。ディラックスピノル場 ψ(x)\psi(x) のローレンツ変換は

ψ(x)  ↦  ψ′(x)=S(Λ) ψ(Λ−1x)\psi(x)\;\mapsto\;\psi'(x) = S(\Lambda)\,\psi(\Lambda^{-1}x)

です。γ5\gamma^5 の固有値 ∓1\mp1 の固有空間への射影 PL,R=12(1∓γ5)P_{L,R} = \tfrac12(1\mp\gamma^5) が ψL,ψR\psi_L,\psi_R を取り出します。

ラベルの確認をしておきます。命題 5.3 の 4 より、上段では J=σ/2\boldsymbol J = \boldsymbol\sigma/2、K=−iσ/2\boldsymbol K = -i\boldsymbol\sigma/2 なので A=12(J+iK)=σ/2\boldsymbol{\mathcal A} = \tfrac12(\boldsymbol J + i\boldsymbol K) = \boldsymbol\sigma/2、B=0\boldsymbol{\mathcal B} = 0 で、確かに (12,0)(\tfrac12,0) です。下段では K=+iσ/2\boldsymbol K = +i\boldsymbol\sigma/2 なので (0,12)(0,\tfrac12) です。2 つは回転に対しては同じふるまいをし、ブーストに対してだけ逆向きに変換します。パリティ P\mathsf P はブーストの向きを反転させるので ψL↔ψR\psi_L\leftrightarrow\psi_R を入れ替えます。パリティを含めて既約になるのが、ディラックスピノルを使う理由です。

命題 5.5(ディラック方程式の共変性)✓

ψ\psi がディラック方程式 (iγμ∂μ−m)ψ=0(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi = 0 を満たすならば、任意の Λ∈L+↑\Lambda\in\mathcal{L}^\uparrow_+(の持ち上げ)に対して ψ′(x)=S(Λ)ψ(Λ−1x)\psi'(x) = S(\Lambda)\psi(\Lambda^{-1}x) も同じ方程式を満たします。また ψˉψ\bar\psi\psi はスカラー、ψˉγμψ\bar\psi\gamma^\mu\psi はベクトルとして変換します。

証明(命題 5.5)

連鎖律から ∂μ[ψ(Λ−1x)]=(Λ−1)νμ(∂νψ)(Λ−1x)\partial_\mu[\psi(\Lambda^{-1}x)] = (\Lambda^{-1})^\nu{}_\mu(\partial_\nu\psi)(\Lambda^{-1}x) です。命題 5.3 の 3 を使って γμS=S Λμργρ\gamma^\mu S = S\,\Lambda^\mu{}_\rho\gamma^\rho と書き換えると

(iγμ∂μ−m)ψ′(x)=S(iΛμρ(Λ−1)νμγρ∂ν−m)ψ(Λ−1x)=S [(iγν∂ν−m)ψ](Λ−1x)=0(i\gamma^\mu\partial_\mu - m)\psi'(x) = S\left(i\Lambda^\mu{}_\rho(\Lambda^{-1})^\nu{}_\mu\gamma^\rho\partial_\nu - m\right)\psi(\Lambda^{-1}x) = S\,\big[(i\gamma^\nu\partial_\nu - m)\psi\big](\Lambda^{-1}x) = 0

です((Λ−1)νμΛμρ=δνρ(\Lambda^{-1})^\nu{}_\mu\Lambda^\mu{}_\rho = \delta^\nu{}_\rho)。次に、γ0Sμν†γ0=Sμν\gamma^0S^{\mu\nu\dagger}\gamma^0 = S^{\mu\nu}(γ0γμ†γ0=γμ\gamma^0\gamma^{\mu\dagger}\gamma^0 = \gamma^\mu から従う)により、指数関数を取って γ0S(Λ)†γ0=S(Λ)−1\gamma^0S(\Lambda)^\dagger\gamma^0 = S(\Lambda)^{-1} です。よって ψˉ′=ψ†S†γ0=ψˉS−1\bar\psi' = \psi^\dagger S^\dagger\gamma^0 = \bar\psi S^{-1} となり、ψˉ′ψ′=ψˉψ\bar\psi'\psi' = \bar\psi\psi、ψˉ′γμψ′=ψˉS−1γμSψ=Λμνψˉγνψ\bar\psi'\gamma^\mu\psi' = \bar\psi S^{-1}\gamma^\mu S\psi = \Lambda^\mu{}_\nu\bar\psi\gamma^\nu\psi です(引数はいずれも Λ−1x\Lambda^{-1}x)。

S(Λ)S(\Lambda) 自身はユニタリでない(ブーストの生成子 S0iS^{0i} が反エルミート)ことに注意してください。例 4.5 のとおりです。保存されるのは正定値な ψ†ψ\psi^\dagger\psi ではなく、不定値な ψˉψ\bar\psi\psi です。

6. ポアンカレ群とカシミール演算子

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定義 6.1(ポアンカレ群とそのユニタリ表現)↗

組 (a,Λ)(a,\Lambda)(a∈R4a\in\mathbb{R}^4、Λ∈L+↑\Lambda\in\mathcal{L}^\uparrow_+)に積 (a,Λ)(b,Λ′)=(a+Λb, ΛΛ′)(a,\Lambda)(b,\Lambda') = (a + \Lambda b,\ \Lambda\Lambda') を入れた群を**(固有直交時)ポアンカレ群** P+↑\mathcal{P}^\uparrow_+ と呼びます。時空点には x↦Λx+ax\mapsto\Lambda x + a と作用します。その普遍被覆 P~=R4⋊SL(2,C)\tilde{\mathcal{P}} = \mathbb{R}^4\rtimes\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は、積 (a,A)(b,B)=(a+Λ(A)b, AB)(a,A)(b,B) = (a + \Lambda(A)b,\ AB) をもちます。

ヒルベルト空間 H\mathcal{H} 上の P~\tilde{\mathcal{P}} の強連続ユニタリ表現 UU に対して、ストーンの定理により自己共役作用素 PμP^\mu(互いに可換)と Mμν=−MνμM^{\mu\nu} = -M^{\nu\mu} が存在して

U(a,1)=eiPμaμ,U(0, exp⁡(−i2ωμνΣμν))=exp⁡(−i2ωμνMμν)U(a,\mathbb{1}) = e^{iP_\mu a^\mu},\qquad U\big(0,\ \exp(-\tfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}\Sigma^{\mu\nu})\big) = \exp\left(-\tfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}M^{\mu\nu}\right)

と書けます。ここで Σμν\Sigma^{\mu\nu} は sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の元で、Λ\Lambda を通して JμνJ^{\mu\nu} に写るもの((0,12)(0,\tfrac12) 表現では SμνS^{\mu\nu} の下段)です。P0=HP^0 = H をハミルトニアン、P\boldsymbol P を運動量、Ji=12ϵijkMjkJ^i = \tfrac12\epsilon^{ijk}M^{jk} を角運動量、Ki=M0iK^i = M^{0i} をブーストの生成子と呼びます。

U(a,1)=eiP⋅a=eiHt−iP⋅aU(a,\mathbb{1}) = e^{iP\cdot a} = e^{iHt - i\boldsymbol P\cdot\boldsymbol a} という符号は、時間並進 t↦t+a0t\mapsto t + a^0 が状態に eiHa0e^{iHa^0} を掛けることに対応しています。関数への作用 (U(a,Λ)f)(x)=f(Λ−1(x−a))(U(a,\Lambda)f)(x) = f(\Lambda^{-1}(x-a)) で確かめると、Pμ=i∂μP_\mu = i\partial_\mu、Mμν=i(xμ∂ν−xν∂μ)M^{\mu\nu} = i(x^\mu\partial^\nu - x^\nu\partial^\mu) となり、正振動数解 e−ip⋅xe^{-ip\cdot x} が PμP^\mu の固有値 pμp^\mu をもちます。

命題 6.2(ポアンカレ代数)✓

定義 6.1 の生成子は次を満たします。

[Pμ,Pν]=0,[Mμν,Pρ]=i(ηνρPμ−ημρPν),[P^\mu,P^\nu] = 0,\qquad [M^{\mu\nu},P^\rho] = i\left(\eta^{\nu\rho}P^\mu - \eta^{\mu\rho}P^\nu\right),[Mμν,Mρσ]=i(ηνρMμσ−ημρMνσ−ηνσMμρ+ημσMνρ).[M^{\mu\nu},M^{\rho\sigma}] = i\left(\eta^{\nu\rho}M^{\mu\sigma} - \eta^{\mu\rho}M^{\nu\sigma} - \eta^{\nu\sigma}M^{\mu\rho} + \eta^{\mu\sigma}M^{\nu\rho}\right).

また有限変換では U(0,A) Pρ U(0,A)−1=(Λ−1)ρσPσU(0,A)\,P^\rho\,U(0,A)^{-1} = (\Lambda^{-1})^\rho{}_\sigma P^\sigma(Λ=Λ(A)\Lambda = \Lambda(A))です。特に ∣p⟩|p\rangle が運動量 pp の(一般化)固有ベクトルならば、U(0,A)∣p⟩U(0,A)|p\rangle は運動量 Λp\Lambda p の固有ベクトルです。

証明(命題 6.2)

並進どうしは可換なので [Pμ,Pν]=0[P^\mu,P^\nu] = 0 です。群の積から (0,A)(a,1)(0,A)−1=(Λa,1)(0,A)(a,\mathbb{1})(0,A)^{-1} = (\Lambda a,\mathbb{1}) なので、U(0,A)eiP⋅aU(0,A)−1=eiP⋅ΛaU(0,A)e^{iP\cdot a}U(0,A)^{-1} = e^{iP\cdot\Lambda a} です。aa で微分して U(0,A)PμU(0,A)−1=PνΛνμU(0,A)P_\mu U(0,A)^{-1} = P_\nu\Lambda^\nu{}_\mu、添字を上げると (Λ−1)ρσ=Λσρ(\Lambda^{-1})^\rho{}_\sigma = \Lambda_\sigma{}^\rho を使って主張の形になります。これを Λ=1+ω\Lambda = 1 + \omega で 1 次まで展開すると、左辺は Pρ−i2ωμν[Mμν,Pρ]P^\rho - \tfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}[M^{\mu\nu},P^\rho]、右辺は Pρ−ωρσPσ=Pρ+i2ωμν(Jμν)ρσPσP^\rho - \omega^\rho{}_\sigma P^\sigma = P^\rho + \tfrac{i}{2}\omega_{\mu\nu}(J^{\mu\nu})^\rho{}_\sigma P^\sigma なので、[Mμν,Pρ]=−(Jμν)ρσPσ=i(ηνρPμ−ημρPν)[M^{\mu\nu},P^\rho] = -(J^{\mu\nu})^\rho{}_\sigma P^\sigma = i(\eta^{\nu\rho}P^\mu - \eta^{\mu\rho}P^\nu) を得ます。MM どうしの関係は、UU が準同型であることから生成子の写像がリー代数準同型になり、命題 4.2 がそのまま移ることによります。最後の主張は、PρU∣p⟩=U (U−1PρU)∣p⟩=U ΛρσPσ∣p⟩=(Λp)ρ U∣p⟩P^\rho U|p\rangle = U\,(U^{-1}P^\rho U)|p\rangle = U\,\Lambda^\rho{}_\sigma P^\sigma|p\rangle = (\Lambda p)^\rho\,U|p\rangle です。

既約表現を分類するには、表現全体で定数になる量、すなわちすべての生成子と可換な演算子(カシミール演算子)を探すのが定石です。P2=PμPμP^2 = P_\mu P^\mu はその 1 つです。もう 1 つを作るのが次の定義です。

定義 6.3(パウリ–ルバンスキーベクトル)↗

Wμ=−12ϵμνρσMνρPσW^\mu = -\tfrac12\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma}M_{\nu\rho}P_\sigma

をパウリ–ルバンスキーベクトルと呼びます。

成分を書くと、W0=J⋅PW^0 = \boldsymbol J\cdot\boldsymbol P です(ϵ0ijk=ϵijk\epsilon^{0ijk} = \epsilon^{ijk}、Mij=MijM_{ij} = M^{ij}、Pk=−PkP_k = -P^k を使うと W0=12ϵijkMijPk=JkPkW^0 = \tfrac12\epsilon^{ijk}M^{ij}P^k = J^kP^k)。静止系 P=(m,0)P = (m,\boldsymbol 0) では Wi=−12ϵijk0Mjk m=mJiW^i = -\tfrac12\epsilon^{ijk0}M_{jk}\,m = mJ^i(ϵijk0=−ϵ0ijk\epsilon^{ijk0} = -\epsilon^{0ijk})です。つまり WμW^\mu は「運動している系で見たスピン」を共変に書いたものです。

命題 6.4(カシミール演算子)✓

定義 6.3 の WμW^\mu について、

  1. WμPμ=0W_\mu P^\mu = 0。
  2. [Pμ,Wν]=0[P^\mu,W^\nu] = 0。
  3. U(0,A) Wμ U(0,A)−1=(Λ(A)−1)μνWνU(0,A)\,W^\mu\,U(0,A)^{-1} = (\Lambda(A)^{-1})^\mu{}_\nu W^\nu。

したがって P2=PμPμP^2 = P_\mu P^\mu と W2=WμWμW^2 = W_\mu W^\mu はすべての PμP^\mu、MμνM^{\mu\nu} と可換です。既約ユニタリ表現上では、(シューアの補題により)両者は定数倍で作用します。

証明(命題 6.4)

1。 WμPμ=−12ϵμνρσMνρPσPμW_\mu P^\mu = -\tfrac12\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma}M_{\nu\rho}P_\sigma P_\mu で、PσPμP_\sigma P_\mu は [P,P]=0[P,P] = 0 より σ,μ\sigma,\mu について対称、ϵ\epsilon は反対称なので 00 です。

2。 命題 6.2 より [Pλ,Mνρ]=−i(δλρPν−δλνPρ)[P^\lambda,M_{\nu\rho}] = -i(\delta^\lambda{}_\rho P_\nu - \delta^\lambda{}_\nu P_\rho) です。これを ϵμνρσ(⋅)Pσ\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma}(\cdot)P_\sigma と縮約すると、ϵμνλσPνPσ\epsilon^{\mu\nu\lambda\sigma}P_\nu P_\sigma と ϵμλρσPρPσ\epsilon^{\mu\lambda\rho\sigma}P_\rho P_\sigma の形の項だけが現れ、いずれも 1 と同じ理由で 00 です。

3。 群の関係 U(0,A)U(0,B)U(0,A)−1=U(0,ABA−1)U(0,A)U(0,B)U(0,A)^{-1} = U(0,ABA^{-1}) を微分すると、MμνM^{\mu\nu} が 2 階テンソルとして U(0,A)MμνU(0,A)−1=(Λ−1)μα(Λ−1)νβMαβU(0,A)M^{\mu\nu}U(0,A)^{-1} = (\Lambda^{-1})^\mu{}_\alpha(\Lambda^{-1})^\nu{}_\beta M^{\alpha\beta} と変換することが分かります。PP の変換則(命題 6.2)と合わせ、ϵμνρσ\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma} が det⁡Λ=1\det\Lambda = 1 の変換で不変であること(ϵαβγδΛμαΛνβΛργΛσδ=det⁡Λ⋅ϵμνρσ\epsilon^{\alpha\beta\gamma\delta}\Lambda^\mu{}_\alpha\Lambda^\nu{}_\beta\Lambda^\rho{}_\gamma\Lambda^\sigma{}_\delta = \det\Lambda\cdot\epsilon^{\mu\nu\rho\sigma})を使えば WW の変換則が出ます。

ベクトルの 2 乗はローレンツ変換で不変なので P2,W2P^2,W^2 は U(0,A)U(0,A) と可換、すなわち MμνM^{\mu\nu} と可換です。PμP^\mu との可換性は [P,P]=0[P,P] = 0 と 2 から従います。

7. ウィグナーの分類:小群の方法

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既約ユニタリ表現の上で PμP^\mu は可換な自己共役作用素なので、同時スペクトルをもちます。命題 6.2 により、ローレンツ変換は運動量 pp の状態を Λp\Lambda p の状態に移すので、スペクトルは L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の作用で閉じた集合(軌道の和)です。分類の第 1 段は軌道の分類、第 2 段は軌道上の 1 点を固定する部分群の表現です。

命題 7.1(運動量空間の軌道)✓

L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の R4\mathbb{R}^4 への作用の軌道は、次のいずれかです。

  1. Ωm±={p:p2=m2, ±p0>0}\Omega_m^\pm = \lbrace p : p^2 = m^2,\ \pm p^0 > 0\rbrace(m>0m > 0)。代表元 k=(±m,0,0,0)k = (\pm m,0,0,0)。
  2. Ω0±={p:p2=0, ±p0>0}\Omega_0^\pm = \lbrace p : p^2 = 0,\ \pm p^0 > 0\rbrace。代表元 k=(±κ,0,0,κ)k = (\pm\kappa,0,0,\kappa)(κ>0\kappa > 0 は任意に 1 つ固定)。
  3. {p:p2=−μ2}\lbrace p : p^2 = -\mu^2\rbrace(μ>0\mu > 0)。代表元 k=(0,0,0,μ)k = (0,0,0,\mu)。
  4. {0}\lbrace 0\rbrace。
証明(命題 7.1)

p2p^2 は不変で、命題 3.2 の議論により p2≥0p^2\ge0、p≠0p\ne0 のとき p0p^0 の符号も不変です。したがって各集合は作用で閉じており、残るのは推移性です。1 では p=(cosh⁡η,sinh⁡η n)mp = (\cosh\eta,\sinh\eta\,\boldsymbol n)m と書けるので、e3\boldsymbol e_3 を n\boldsymbol n に移す回転とブースト B3(η)B_3(\eta) の積が kk を pp に移します。2 では回転で p\boldsymbol p を x3x^3 軸の正の向きに揃え、B3(η)B_3(\eta) が (κ,0,0,κ)(\kappa,0,0,\kappa) を eη(κ,0,0,κ)e^{\eta}(\kappa,0,0,\kappa) に移すことを使います。3 は x0x^0 方向へのブーストと回転で同様です。

p⁰p³m−mΩ⁺ₘΩ⁻ₘ光円錐 Ω⁺₀光円錐 Ω⁻₀p² = −μ²
運動量空間の軌道を 平面で切った断面( の場合)。上下の双曲線が 、斜めの直線が光円錐 、左右の双曲線が の軌道。4 次元では の軌道は 1 枚の連結な双曲面で、図の左右の枝はその断面である。ブーストは各曲線に沿って点を動かす。

物理的な状態ではエネルギーが下に有界であること(スペクトル条件 p0≥0p^0\ge0、p2≥0p^2\ge0)を要請するので、1 粒子状態に現れるのは Ωm+\Omega_m^+(m>0m>0)と Ω0+\Omega_0^+ だけです。{0}\lbrace0\rbrace は真空に対応し、3 はタキオン、すなわち空間的運動量の「粒子」です。

各軌道上には、L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ で不変な測度がスカラー倍を除いて一意に存在します。Ωm+\Omega_m^+ の場合が次の例です。

例 7.2(質量殻上の不変測度 d3p/2ωpd³p/2ω_p の導出)

Ωm+\Omega_m^+ を p∈R3\boldsymbol p\in\mathbb{R}^3 で座標付けし(p0=ωpp^0 = \omega_{\boldsymbol p})、測度 dμ(p)=f(p) d3pd\mu(\boldsymbol p) = f(\boldsymbol p)\,d^3p が不変になる ff を求めます。回転不変性から ff は ∣p∣|\boldsymbol p| だけの関数です。次に、ラピディティ η\eta の x3x^3 方向ブーストを β=tanh⁡η\beta = \tanh\eta、γ=cosh⁡η\gamma = \cosh\eta で書くと

p′1=p1,p′2=p2,p′3=γ(p3+βωp),ωp′=γ(ωp+βp3)p'^1 = p^1,\qquad p'^2 = p^2,\qquad p'^3 = \gamma(p^3 + \beta\omega_{\boldsymbol p}),\qquad \omega_{\boldsymbol p'} = \gamma(\omega_{\boldsymbol p} + \beta p^3)

です。∂ωp/∂p3=p3/ωp\partial\omega_{\boldsymbol p}/\partial p^3 = p^3/\omega_{\boldsymbol p} に注意すると、写像 p↦p′\boldsymbol p\mapsto\boldsymbol p' のヤコビアンは

∂(p′1,p′2,p′3)∂(p1,p2,p3)=∂p′3∂p3=γ(1+βp3ωp)=ωp′ωp\frac{\partial(p'^1,p'^2,p'^3)}{\partial(p^1,p^2,p^3)} = \frac{\partial p'^3}{\partial p^3} = \gamma\left(1 + \beta\frac{p^3}{\omega_{\boldsymbol p}}\right) = \frac{\omega_{\boldsymbol p'}}{\omega_{\boldsymbol p}}

です(∂p′3/∂p1\partial p'^3/\partial p^1 などの非対角成分は行列式に寄与しません。ヤコビ行列は 3 行目以外が単位行列だからです)。したがって d3p′ωp′=d3pωp\dfrac{d^3p'}{\omega_{\boldsymbol p'}} = \dfrac{d^3p}{\omega_{\boldsymbol p}} であり、f=c/ωpf = c/\omega_{\boldsymbol p} のとき測度は回転と B3B_3 で不変、命題 3.2 の 3 により L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ 全体で不変です。逆に、不変な ff は f ωpf\,\omega_{\boldsymbol p} がブーストで不変な関数、すなわち推移的な軌道上の定数でなければなりません。規約として

dμm(p)=d3p(2π)3 2ωpd\mu_m(\boldsymbol p) = \frac{d^3p}{(2\pi)^3\,2\omega_{\boldsymbol p}}

を採ります。d3pd^3p 単独は不変ではなく、ブーストでヤコビアン ωp′/ωp\omega_{\boldsymbol p'}/\omega_{\boldsymbol p} だけ伸び縮みすることに注意してください。デルタ関数を用いた別の導出は 補題 2.1[スカラー場の正準量子化] にあります。両者は δ(p2−m2)θ(p0)d4p\delta(p^2-m^2)\theta(p^0)d^4p の p0p^0 積分が d3p/2ωpd^3p/2\omega_{\boldsymbol p} を与えるという同じ事実の 2 つの見方です。

小群の方法の発想は次のとおりです。各軌道から代表の運動量 kk を 1 つ選び、まず kk を動かさない変換(小群)だけを調べます。ほかの運動量の状態は、kk から標準ブーストで運んだものとして扱えます。質量をもつ粒子なら kk は静止系の運動量で、それを動かさない変換は回転なので、小群の表現がスピンになります。

定義 7.3(小群と標準ブースト)↗

軌道の代表元 kk に対し、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の部分群 Gk={A:Λ(A)k=k}G_k = \lbrace A : \Lambda(A)k = k\rbrace を kk の小群(固定部分群)と呼びます。軌道上の各 pp に対して Λ(L(p))k=p\Lambda(L(p))k = p を満たす L(p)∈SL(2,C)L(p)\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) を 1 つずつ(pp について可測に)選び、標準ブーストと呼びます。A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) と軌道上の pp に対し

W(A,p)=L(Λ(A)p)−1 A L(p)W(A,p) = L\big(\Lambda(A)p\big)^{-1}\,A\,L(p)

をウィグナー回転と呼びます。Λ(W(A,p))k=k\Lambda(W(A,p))k = k なので W(A,p)∈GkW(A,p)\in G_k です。

Ωm+\Omega_m^+ では k=(m,0)k = (m,\boldsymbol 0)、X(k)=m1X(k) = m\mathbb{1} なので、AX(k)A†=X(k)AX(k)A^\dagger = X(k) は AA†=1AA^\dagger = \mathbb{1}、すなわち Gk=SU(2)G_k = SU(2) です。標準ブーストとして L(p)=(X(p)/m)1/2L(p) = \left(X(p)/m\right)^{1/2}(正定値エルミート行列の正の平方根)を取れば、L(p)X(k)L(p)†=mL(p)2=X(p)L(p)X(k)L(p)^\dagger = m L(p)^2 = X(p) です。

小群の方法の核心は、ポアンカレ群の表現が小群の表現から完全に復元されるという次の命題です。

命題 7.4(小群の表現への帰着)✓

UU を P~\tilde{\mathcal{P}} のユニタリ表現とし、運動量 kk の(一般化)固有ベクトル ∣k,σ⟩|k,\sigma\rangle(σ=1,…,n\sigma = 1,\ldots,n)が P=kP = k の固有空間の正規直交基底をなすとします。このとき

  1. A∈GkA\in G_k に対して U(0,A)∣k,σ⟩=∑σ′Dσ′σ(A)∣k,σ′⟩U(0,A)|k,\sigma\rangle = \sum_{\sigma'}D_{\sigma'\sigma}(A)|k,\sigma'\rangle と書け、DD は GkG_k の nn 次元ユニタリ表現です。
  2. ∣p,σ⟩=U(0,L(p))∣k,σ⟩|p,\sigma\rangle = U(0,L(p))|k,\sigma\rangle と定めると、Pμ∣p,σ⟩=pμ∣p,σ⟩P^\mu|p,\sigma\rangle = p^\mu|p,\sigma\rangle であり、任意の (a,A)∈P~(a,A)\in\tilde{\mathcal{P}} に対して
U(a,A)∣p,σ⟩=ei(Λp)⋅a∑σ′Dσ′σ(W(A,p)) ∣Λp,σ′⟩,Λ=Λ(A)U(a,A)|p,\sigma\rangle = e^{i(\Lambda p)\cdot a}\sum_{\sigma'}D_{\sigma'\sigma}\big(W(A,p)\big)\,|\Lambda p,\sigma'\rangle,\qquad \Lambda = \Lambda(A)

が成り立ちます。 3. UU が既約ならば DD も既約です。

証明(命題 7.4)

1。 命題 6.2 より U(0,A)∣k,σ⟩U(0,A)|k,\sigma\rangle は運動量 Λ(A)k=k\Lambda(A)k = k をもつので固有空間に入り、基底で展開できます。U(0,AB)=U(0,A)U(0,B)U(0,AB) = U(0,A)U(0,B) から D(AB)=D(A)D(B)D(AB) = D(A)D(B)、UU のユニタリ性と基底の正規直交性から D(A)D(A) はユニタリ行列です。

2。 運動量の主張は 命題 6.2 の最後の主張を A=L(p)A = L(p) に適用したものです。U(0,A)U(0,L(p))=U(0,L(Λp)) U(0,W(A,p))U(0,A)U(0,L(p)) = U(0,L(\Lambda p))\,U(0,W(A,p)) は 定義 7.3 の定義を書き換えただけなので、1 を W(A,p)∈GkW(A,p)\in G_k に適用して

U(0,A)∣p,σ⟩=U(0,L(Λp))∑σ′Dσ′σ(W(A,p))∣k,σ′⟩=∑σ′Dσ′σ(W(A,p))∣Λp,σ′⟩U(0,A)|p,\sigma\rangle = U(0,L(\Lambda p))\sum_{\sigma'}D_{\sigma'\sigma}(W(A,p))|k,\sigma'\rangle = \sum_{\sigma'}D_{\sigma'\sigma}(W(A,p))|\Lambda p,\sigma'\rangle

です。U(a,A)=U(a,1)U(0,A)U(a,A) = U(a,\mathbb{1})U(0,A) と U(a,1)=eiP⋅aU(a,\mathbb{1}) = e^{iP\cdot a} が運動量 Λp\Lambda p の状態に ei(Λp)⋅ae^{i(\Lambda p)\cdot a} を掛けることから主張を得ます。

3。 DD が非自明な不変部分空間 V⊊CnV\subsetneq\mathbb{C}^n をもつとします。v∈Vv\in V の成分で作った ∑σvσ∣p,σ⟩\sum_\sigma v_\sigma|p,\sigma\rangle(pp について波束で重ねたもの)全体の閉包を HV\mathcal{H}_V とすると、2 の変換則で D(W(A,p))D(W(A,p)) は VV を保つので、HV\mathcal{H}_V はすべての U(a,A)U(a,A) で不変であり、{0}\lbrace0\rbrace でも全体でもありません。これは既約性に反します。

この命題が「小群への帰着」です。運動量を動かす部分は標準ブーストが一手に引き受け、残りの自由度は小群の表現 DD だけで決まります。以上を合わせて、質量をもつ粒子の分類が得られます。

定理 7.5(ウィグナーの分類:質量正の場合)△

m>0m > 0 と s∈{0,12,1,32,…}s\in\lbrace0,\tfrac12,1,\tfrac32,\ldots\rbrace に対し、D(s)D^{(s)} を SU(2)SU(2) のスピン ss の既約ユニタリ表現とし、

Hm,s=L2(Ωm+, dμm; C2s+1),(Um,s(a,A)ψ)(p)=eip⋅a D(s)(W(A,Λ−1p)) ψ(Λ−1p)\mathcal{H}_{m,s} = L^2\big(\Omega_m^+,\ d\mu_m;\ \mathbb{C}^{2s+1}\big),\qquad \big(U_{m,s}(a,A)\psi\big)(p) = e^{ip\cdot a}\,D^{(s)}\big(W(A,\Lambda^{-1}p)\big)\,\psi(\Lambda^{-1}p)

(Λ=Λ(A)\Lambda = \Lambda(A)、dμmd\mu_m は 例 7.2 の不変測度、L(p)L(p) は上で選んだ標準ブースト)と定めます。このとき次が成り立ちます。

  1. Um,sU_{m,s} は P~\tilde{\mathcal{P}} の強連続ユニタリ表現です。
  2. Hm,s\mathcal{H}_{m,s} 上で P2=m2P^2 = m^2、W2=−m2s(s+1)W^2 = -m^2s(s+1) です。
  3. Um,sU_{m,s} は既約であり、(m,s)≠(m′,s′)(m,s)\ne(m',s') ならば Um,sU_{m,s} と Um′,s′U_{m',s'} はユニタリ同値ではありません。
  4. 逆に、P~\tilde{\mathcal{P}} の既約な強連続ユニタリ表現で、PP の同時スペクトルが Ωm+\Omega_m^+ に含まれるものは、ある ss について Um,sU_{m,s} とユニタリ同値です。

ss を粒子のスピンと呼びます。ss が半整数の表現は (0,−1)(0,-\mathbb{1}) を −1-1 で表現し、P+↑\mathcal{P}^\uparrow_+ の射影表現になります。

証明(定理 7.5)

1 と 2 を示し、3 と 4 を小群に帰着させます。 ウィグナー回転はコサイクル関係

W(A,ΛBq) W(B,q)=L(ΛABq)−1A L(ΛBq) L(ΛBq)−1B L(q)=W(AB,q)W(A,\Lambda_B q)\,W(B,q) = L(\Lambda_{AB}q)^{-1}A\,L(\Lambda_Bq)\,L(\Lambda_Bq)^{-1}B\,L(q) = W(AB,q)

を満たします(ΛA=Λ(A)\Lambda_A = \Lambda(A))。q=ΛAB−1pq = \Lambda_{AB}^{-1}p とおいてこれを使うと Um,s(0,A)Um,s(0,B)=Um,s(0,AB)U_{m,s}(0,A)U_{m,s}(0,B) = U_{m,s}(0,AB) が確かめられます。また Um,s(0,A)U_{m,s}(0,A) は掛け算作用素 eip⋅be^{ip\cdot b} を ei(Λ−1p)⋅b=eip⋅Λbe^{i(\Lambda^{-1}p)\cdot b} = e^{ip\cdot\Lambda b} に共役変換するので、P~\tilde{\mathcal{P}} の積の規則と整合します。ユニタリ性は、D(s)D^{(s)} がユニタリであることと、測度 dμmd\mu_m のローレンツ不変性(補題 2.1[スカラー場の正準量子化])による変数変換 p↦Λpp\mapsto\Lambda p から従います。強連続性は L(p)L(p) の連続性と優収束定理によります。

2 について、PμP^\mu は pμp^\mu による掛け算作用素なので P2=m2P^2 = m^2 です。W2W^2 は 命題 6.4 によりすべての U(0,A)U(0,A) と可換なので、運動量 k=(m,0)k = (m,\boldsymbol 0) の状態で計算すれば十分です。そこでは §6 で見たとおり W0=J⋅P=0W^0 = \boldsymbol J\cdot\boldsymbol P = 0、Wi=mJiW^i = mJ^i です。A∈SU(2)A\in SU(2) に対しては L(k)=1L(k) = \mathbb{1}、Λ(A)k=k\Lambda(A)k = k なので W(A,k)=AW(A,k) = A であり、J\boldsymbol J は運動量 kk の成分に D(s)D^{(s)} の生成子として作用します。よって W2=(W0)2−∣W∣2=−m2J2=−m2s(s+1)W^2 = (W^0)^2 - |\boldsymbol W|^2 = -m^2\boldsymbol J^2 = -m^2s(s+1) です。

3 と 4 は小群 Gk=SU(2)G_k = SU(2) の表現論に帰着します。物理的には 命題 7.4 の 2 の変換則が Um,sU_{m,s} の定義式そのもので(ψ(p)\psi(p) を ∣p,σ⟩|p,\sigma\rangle の係数と読めばよい)、(m,s)(m,s) はカシミール演算子の値 P2,W2P^2,W^2 で読み取れます。連続スペクトルの一般化固有ベクトルを使わない証明は次のとおりです。Um,sU_{m,s} は Lorentz 群・Poincaré 群の表現 の誘導表現 UΩm+,πsU^{\Omega_m^+,\pi_s}(同じ標準ブースト L(p)L(p) を取る)そのものなので、3 は 系 7.1[Lorentz 群・Poincaré 群の表現] の 1 です。4: 既約表現 UU は、Mackey の定理(定理 7.3[Lorentz 群・Poincaré 群の表現])により、SU(2)SU(2) のある既約ユニタリ表現 σ\sigma からの誘導表現 UΩm+,σU^{\Omega_m^+,\sigma} と同値です。コンパクト群の既約ユニタリ表現は有限次元なので(定理 6.1[Peter–Weyl の定理])、定理 4.6[指標と SU(2)・SU(N) の表現] からある ss について σ≅πs\sigma\cong\pi_s で、定理 6.5[Lorentz 群・Poincaré 群の表現] の 2 から U≅Um,sU\cong U_{m,s} です。

注意 7.6(厳密な証明の所在)

命題 7.4 のうち「固有ベクトル ∣k,σ⟩|k,\sigma\rangle が存在する」という部分は、連続スペクトルに対しては文字通りには正しくありません。そこで上の証明の 3 と 4 は、Lorentz 群・Poincaré 群の表現 の誘導表現の既約性と同値類の分類(証明つき)と、Mackey の定理(同記事では主張のみ)に帰着させました。Mackey の定理の部分は、PP の同時スペクトル測度が軌道上に集中すること(既約性とエルゴード性から従う)、およびマッキーの非原始性定理(imprimitivity theorem)を用いて、表現が小群の表現からの誘導表現であることを示します。原論文は E. Wigner, “On unitary representations of the inhomogeneous Lorentz group”, Annals of Mathematics 40 (1939), 149–204 で、現代的な証明は V. S. Varadarajan『Geometry of Quantum Theory』第 IX 章、物理的な導出は Weinberg 第 I 巻 2.5 節にあります。筋道は次のとおりです。(i) 並進の表現にストーンの定理(SNAG の定理)を適用し、PP のスペクトル測度 EE を得る。(ii) U(0,A)E(Δ)U(0,A)−1=E(ΛΔ)U(0,A)E(\Delta)U(0,A)^{-1} = E(\Lambda\Delta) が非原始系をなす。(iii) 既約性から EE は 1 つの軌道に集中する。(iv) マッキーの定理から UU は GkG_k のある既約表現からの誘導表現と同値になる。

質量ゼロの場合は小群が異なります。

補題 7.7(質量ゼロの小群とその生成子)✓

k=(κ,0,0,κ)k = (\kappa,0,0,\kappa)(κ>0\kappa\gt0)とし、θ∈R\theta\in\mathbb{R}、z∈Cz\in\mathbb{C} について A(θ,z)=(e−iθ/2z0eiθ/2)A(\theta,z) = \begin{pmatrix} e^{-i\theta/2} & z\\ 0 & e^{i\theta/2}\end{pmatrix} とおく。

  1. Gk={A(θ,z):θ∈[0,4π), z∈C}G_k = \lbrace A(\theta,z) : \theta\in[0,4\pi),\ z\in\mathbb{C}\rbrace。
  2. A(θ,z)A(θ′,z′)=A(θ+θ′, e−iθ/2z′+eiθ′/2z)A(\theta,z)A(\theta',z') = A(\theta+\theta',\ e^{-i\theta/2}z' + e^{i\theta'/2}z)。特に {A(0,z)}\lbrace A(0,z)\rbrace は C\mathbb{C} と同型な可換正規部分群で、A(θ,0)A(0,z)A(θ,0)−1=A(0,e−iθz)A(\theta,0)A(0,z)A(\theta,0)^{-1} = A(0,e^{-i\theta}z)。
  3. (0,12)(0,\tfrac12) 表現での生成子の行列 Ji=σi/2J^i = \sigma^i/2、Ki=iσi/2K^i = i\sigma^i/2(命題 5.3 の 4 の下段)について、t∈Rt\in\mathbb{R} のとき A(θ,0)=exp⁡(−iθJ3),A(0,t)=exp⁡(it(J2−K1)),A(0,it)=exp⁡(it(J1+K2)).A(\theta,0) = \exp(-i\theta J^3),\qquad A(0,t) = \exp\bigl(it(J^2 - K^1)\bigr),\qquad A(0,it) = \exp\bigl(it(J^1 + K^2)\bigr).
証明(補題 7.7)

1。 Λ(A)\Lambda(A) は X(Λ(A)x)=AX(x)A†X(\Lambda(A)x) = AX(x)A^\dagger で定まるので(定理 3.3)、A∈GkA\in G_k は AX(k)A†=X(k)AX(k)A^\dagger = X(k) と同値です。X(k)=diag(2κ,0)X(k) = \mathrm{diag}(2\kappa,0)、A=(abcd)A = \begin{pmatrix}a&b\\c&d\end{pmatrix} について

AX(k)A†=2κ(∣a∣2acˉcaˉ∣c∣2)AX(k)A^\dagger = 2\kappa\begin{pmatrix}|a|^2 & a\bar c\\ c\bar a & |c|^2\end{pmatrix}

なので、条件は ∣a∣=1|a| = 1、c=0c = 0 と同値で、det⁡A=ad=1\det A = ad = 1 から d=1/a=aˉd = 1/a = \bar a です。a=e−iθ/2a = e^{-i\theta/2}、z=bz = b と書けば主張の形で、θ\theta は 4π4\pi を法として定まります。

2。 行列の積を計算すると、対角成分は e∓i(θ+θ′)/2e^{\mp i(\theta+\theta')/2}、右上成分は e−iθ/2z′+zeiθ′/2e^{-i\theta/2}z' + ze^{i\theta'/2} です。A(0,z)A(0,z′)=A(0,z+z′)A(0,z)A(0,z') = A(0,z+z') から {A(0,z)}≅C\lbrace A(0,z)\rbrace\cong\mathbb{C}。A(θ,0)−1=A(−θ,0)A(\theta,0)^{-1} = A(-\theta,0) に積の規則を 2 回使うと A(θ,0)A(0,z)A(−θ,0)=A(θ,e−iθ/2z)A(−θ,0)=A(0,e−iθz)A(\theta,0)A(0,z)A(-\theta,0) = A(\theta,e^{-i\theta/2}z)A(-\theta,0) = A(0,e^{-i\theta}z) で、正規性も従います。

3。 −iθJ3=diag(−iθ/2, iθ/2)-i\theta J^3 = \mathrm{diag}(-i\theta/2,\ i\theta/2) なので第 1 式です。E=(0100)E = \begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix} とおくと σ1+iσ2=2E\sigma^1 + i\sigma^2 = 2E で、i(J2−K1)=12(iσ2+σ1)=Ei(J^2 - K^1) = \tfrac12(i\sigma^2 + \sigma^1) = E、i(J1+K2)=i2(σ1+iσ2)=iEi(J^1 + K^2) = \tfrac{i}{2}(\sigma^1 + i\sigma^2) = iE です。E2=0E^2 = 0 から exp⁡(wE)=1+wE=A(0,w)\exp(wE) = \mathbb{1} + wE = A(0,w) で、w=tw = t、w=itw = it とすれば残りの 2 式を得ます。

例 7.8(質量ゼロの小群は平面の運動群の 2 重被覆)

補題 7.7 の A(θ,0)A(\theta,0) は x3x^3 軸(運動方向)まわりの角 θ\theta の回転で、A(0,z)A(0,z) どうしは zz の和として可換に合成されます。積の規則 A(θ,z)A(θ′,z′)=A(θ+θ′, e−iθ/2z′+eiθ′/2z)A(\theta,z)A(\theta',z') = A(\theta+\theta',\ e^{-i\theta/2}z' + e^{i\theta'/2}z) を見ると、回転 A(θ,0)A(\theta,0) が並進 zz を角 θ\theta だけ回すので、これは平面の運動群 E(2)E(2)(回転と並進)の 2 重被覆です(θ\theta は 4π4\pi で一周)。並進の生成子 J2−K1J^2 - K^1 と J1+K2J^1 + K^2 は、運動方向に垂直な回転とブーストを組み合わせたもので、光速で走る粒子の静止系が存在しないことの代わりに現れる自由度です。

質量ゼロの粒子には静止系がなく、小群は回転だけでなく「並進」も含みます。次の定理の流れは、(i) 並進が非自明に作用すると有限次元性に反するので並進は自明に作用する、(ii) 残った回転の指標がヘリシティを決める、というものです。

定理 7.9(ウィグナーの分類:質量ゼロの場合とヘリシティ)△

UU を P~\tilde{\mathcal{P}} の既約な強連続ユニタリ表現とし、PP の同時スペクトルが Ω0+\Omega_0^+ に含まれ、さらに運動量 k=(κ,0,0,κ)k = (\kappa,0,0,\kappa) の固有空間が有限次元であるとします。このとき次が成り立ちます。

  1. 小群 GkG_k の表現 DD は 1 次元で、ある h∈12Zh\in\tfrac12\mathbb{Z} に対して D(A(θ,z))=e−ihθD(A(\theta,z)) = e^{-ih\theta} です。特に小群の「並進」A(0,z)A(0,z) は自明に作用します。
  2. UU 上で P2=0P^2 = 0、Wμ=hPμW^\mu = hP^\mu が成り立ちます。とくに W2=0W^2 = 0 で、h=J⋅P/∣P∣h = \boldsymbol J\cdot\boldsymbol P/|\boldsymbol P| です。
  3. 各 h∈12Zh\in\tfrac12\mathbb{Z} に対して、条件を満たす既約表現 U0,hU_{0,h} がユニタリ同値を除いてちょうど 1 つ存在し、H0,h=L2(Ω0+,dμ0)\mathcal{H}_{0,h} = L^2(\Omega_0^+,d\mu_0)、(U0,h(a,A)ψ)(p)=eip⋅a e−ihθ(A,Λ−1p) ψ(Λ−1p)(U_{0,h}(a,A)\psi)(p) = e^{ip\cdot a}\,e^{-ih\theta(A,\Lambda^{-1}p)}\,\psi(\Lambda^{-1}p) で与えられます。ここで dμ0=d3p/((2π)32∣p∣)d\mu_0 = d^3p/((2\pi)^3 2|\boldsymbol p|)、θ(A,p)\theta(A,p) は W(A,p)=A(θ,z)W(A,p) = A(\theta,z) の角度成分です。

hh をヘリシティと呼びます。hh と −h-h の表現は P+↑\mathcal{P}^\uparrow_+ の下では別の粒子ですが、パリティ P\mathsf P はそれらを入れ替えます。

証明(定理 7.9)

1。 命題 7.4 より、DD は GkG_k の有限次元既約ユニタリ表現です。可換な正規部分群 {A(0,z)}≅C\lbrace A(0,z)\rbrace\cong\mathbb{C} のユニタリ表現は指標 z↦eiRe(wˉz)z\mapsto e^{i\mathrm{Re}(\bar w z)} の直和に分解します。ある w≠0w\ne0 の指標が現れたとすると、A(θ,0)A(\theta,0) による共役 A(θ,0)A(0,z)A(θ,0)−1=A(0,e−iθz)A(\theta,0)A(0,z)A(\theta,0)^{-1} = A(0,e^{-i\theta}z) により、eiθwe^{i\theta}w の指標もすべて現れます。これは円周上の連続無限個の互いに直交する固有空間を意味し、有限次元性に反します。よって w=0w = 0、すなわち並進は自明に作用し、DD は商群 {A(θ,0)}≅U(1)\lbrace A(\theta,0)\rbrace\cong U(1)(θ∈[0,4π)\theta\in[0,4\pi))の既約ユニタリ表現、すなわち 1 次元の指標 e−ihθe^{-ih\theta} です。θ∼θ+4π\theta\sim\theta+4\pi との整合性から e−4πih=1e^{-4\pi ih} = 1、すなわち h∈12Zh\in\tfrac12\mathbb{Z} です。

2。 命題 6.4 の 3 により Wμ−hPμW^\mu - hP^\mu はベクトルとして変換するので、運動量 kk の状態で Wμ=hkμW^\mu = hk^\mu を示せば十分です。定義 6.3 に P0=κP_0 = \kappa、P3=−κP_3 = -\kappa を代入し、ϵ\epsilon の符号を数えると

W0=W3=κJ3,W1=κ(J1+K2),W2=κ(J2−K1)W^0 = W^3 = \kappa J^3,\qquad W^1 = \kappa(J^1 + K^2),\qquad W^2 = \kappa(J^2 - K^1)

です。補題 7.7 の 3 より J1+K2J^1 + K^2 と J2−K1J^2 - K^1 は小群の並進 A(0,it)A(0,it)、A(0,t)A(0,t) の生成子なので 1 により 00 で作用し、J3J^3 は A(θ,0)=exp⁡(−iθJ3)A(\theta,0) = \exp(-i\theta J^3) の生成子なので hh で作用します。よって Wμ=h(κ,0,0,κ)=hkμW^\mu = h(\kappa,0,0,\kappa) = hk^\mu です。第 0 成分 W0=J⋅P=h∣P∣W^0 = \boldsymbol J\cdot\boldsymbol P = h|\boldsymbol P| からヘリシティの解釈が出ます。

3。 標準ブースト L(p)L(p) を Lorentz 群・Poincaré 群の表現 §5 のものに取ると、U0,hU_{0,h} はそこでの誘導表現 UΩ0+,χhU^{\Omega_0^+,\chi_h}(χh(A(θ,z))=e−ihθ\chi_h(A(\theta,z)) = e^{-ih\theta})そのものです。存在、すなわち U0,hU_{0,h} が強連続ユニタリ表現で既約であることは 定理 5.3[Lorentz 群・Poincaré 群の表現] と 系 7.1[Lorentz 群・Poincaré 群の表現] の 2 です。一意性: 条件を満たす既約表現 UU は、Mackey の定理(定理 7.3[Lorentz 群・Poincaré 群の表現])により GkG_k のある既約ユニタリ表現 σ\sigma からの誘導表現 UΩ0+,σU^{\Omega_0^+,\sigma} と同値です。誘導表現では運動量 kk の成分が σ\sigma の表現空間に当たるので、運動量 kk の固有空間が有限次元という仮定は σ\sigma が有限次元であることを意味し、系 7.1[Lorentz 群・Poincaré 群の表現] の 3 からある h′h' について σ=χh′\sigma = \chi_{h'} です。1 から h′=hh' = h で、U≅U0,hU\cong U_{0,h} です。パリティについては、P\mathsf P が P↦−P\boldsymbol P\mapsto-\boldsymbol P、J↦J\boldsymbol J\mapsto\boldsymbol J と作用するので J⋅P/∣P∣\boldsymbol J\cdot\boldsymbol P/|\boldsymbol P| の符号が反転します。

有限次元性の仮定を外すと、小群の並進が非自明に作用する表現(連続スピン表現)が現れます。そこでは W2=−ρ2W^2 = -\rho^2(ρ>0\rho > 0 は上の ∣w∣|w|)で、1 つの運動量に無限個の内部状態が付随します。自然界でこのような粒子は見つかっていません。光子が h=±1h = \pm1、重力子が h=±2h = \pm2 という 2 つの偏光しかもたないこと(質量のあるスピン 1 粒子は 3 つの偏光をもつのに)は、定理 7.9 の直接の帰結です。

最後に、場との関係をまとめておきます。有限次元表現 (j1,j2)(j_1,j_2) の場からスピン ss の粒子を作るには、(j1,j2)∣SU(2)(j_1,j_2)|_{SU(2)} が ss を含むこと、すなわち ∣j1−j2∣≤s≤j1+j2|j_1-j_2|\le s\le j_1+j_2 が必要です(定理 4.3)。質量ゼロの場合はさらに強く、ヘリシティ hh の粒子を記述する場は (j1,j2)(j_1,j_2) が j2−j1=hj_2 - j_1 = h を満たすものに限られることが知られています(Weinberg 第 I 巻 5.9 節)。光子 h=±1h = \pm1 を (12,12)(\tfrac12,\tfrac12) のベクトル場 AμA^\mu で記述しようとするとこの条件を満たさないため、ゲージ自由度が不可避に入ってきます。これはゲージ理論と自発的対称性の破れで見たゲージ不変性の、表現論からの説明です。

演習 8.1難

L+↑\mathcal{L}^\uparrow_+ の有限次元ユニタリ表現 ρ\rho(正定値内積をもつ Cn\mathbb{C}^n 上)を考え、生成子 ρ(Ji)\rho(J^i)、ρ(Ki)\rho(K^i) がエルミート行列で表されるとします。命題 4.2 の交換関係を使って ρ(Ki)=0\rho(K^i) = 0 を示してください。さらに、このとき ρ(Ji)=0\rho(J^i) = 0 でもあること、すなわち ρ\rho が自明表現であることを示してください。

解答

ρ(⋅)\rho(\cdot) を省略して書きます。[K1,K2]=−iJ3[K^1,K^2] = -iJ^3 と [J3,K1]=iK2[J^3,K^1] = iK^2 を使います。後者より K2=−i[J3,K1]K^2 = -i[J^3,K^1] です。tr((K2)2)\mathrm{tr}\big((K^2)^2\big) を 2 通りに計算します。

tr(K2K2)=−i tr([J3,K1]K2)=−i tr(J3[K1,K2])=−i tr(J3⋅(−iJ3))=−tr((J3)2)\mathrm{tr}\big(K^2K^2\big) = -i\,\mathrm{tr}\big([J^3,K^1]K^2\big) = -i\,\mathrm{tr}\big(J^3[K^1,K^2]\big) = -i\,\mathrm{tr}\big(J^3\cdot(-iJ^3)\big) = -\mathrm{tr}\big((J^3)^2\big)

です(2 つ目の等号はトレースの巡回性 tr([X,Y]Z)=tr(X[Y,Z])\mathrm{tr}([X,Y]Z) = \mathrm{tr}(X[Y,Z]))。左辺は K2K^2 がエルミートなので tr((K2)†K2)≥0\mathrm{tr}\big((K^2)^\dagger K^2\big)\ge0、右辺は J3J^3 がエルミートなので −tr((J3)†J3)≤0-\mathrm{tr}\big((J^3)^\dagger J^3\big)\le0 です。両者が等しいので両方とも 00 で、K2=0K^2 = 0、J3=0J^3 = 0 です。添字を巡回させれば([K2,K3]=−iJ1[K^2,K^3] = -iJ^1 等)すべての KiK^i と JiJ^i が 00 となり、ρ\rho は自明表現です。これは 例 4.5 の主張の証明になっています。回転群のようにコンパクトな場合は [J1,J2]=+iJ3[J^1,J^2] = +iJ^3 なので同じ計算で tr((J2)2)=tr((J3)2)\mathrm{tr}((J^2)^2) = \mathrm{tr}((J^3)^2) となり、矛盾は生じません。違いは交換関係の符号 1 つです。

演習 8.2易

定義 5.1 のクリフォード関係式だけを使って、次を示してください。(a) γμγμ=4\gamma^\mu\gamma_\mu = 4、(b) γμγνγμ=−2γν\gamma^\mu\gamma^\nu\gamma_\mu = -2\gamma^\nu、(c) tr(γμ)=0\mathrm{tr}(\gamma^\mu) = 0、(d) tr(γμγν)=4ημν\mathrm{tr}(\gamma^\mu\gamma^\nu) = 4\eta^{\mu\nu}。

解答

(a) γμγμ=12ημν{γμ,γν}=ημνημν=δμμ=4\gamma^\mu\gamma_\mu = \tfrac12\eta_{\mu\nu}\lbrace\gamma^\mu,\gamma^\nu\rbrace = \eta_{\mu\nu}\eta^{\mu\nu} = \delta^\mu{}_\mu = 4。

(b) γνγμ=−γμγν+2δνμ\gamma^\nu\gamma_\mu = -\gamma_\mu\gamma^\nu + 2\delta^\nu{}_\mu を代入して γμγνγμ=−γμγμγν+2γν=−4γν+2γν=−2γν\gamma^\mu\gamma^\nu\gamma_\mu = -\gamma^\mu\gamma_\mu\gamma^\nu + 2\gamma^\nu = -4\gamma^\nu + 2\gamma^\nu = -2\gamma^\nu。

(c) γ5=iγ0γ1γ2γ3\gamma^5 = i\gamma^0\gamma^1\gamma^2\gamma^3 は各 γμ\gamma^\mu と反可換で(γμ\gamma^\mu を 4 つの因子のうち 3 つと入れ替えるので符号 (−1)3(-1)^3)、(γ5)2=1(\gamma^5)^2 = 1 です(ワイル表示で diag(−1,1)\mathrm{diag}(-1,1) の 2 乗)。トレースの巡回性より tr(γμ)=tr(γ5γ5γμ)=tr(γ5γμγ5)=−tr(γ5γ5γμ)=−tr(γμ)\mathrm{tr}(\gamma^\mu) = \mathrm{tr}(\gamma^5\gamma^5\gamma^\mu) = \mathrm{tr}(\gamma^5\gamma^\mu\gamma^5) = -\mathrm{tr}(\gamma^5\gamma^5\gamma^\mu) = -\mathrm{tr}(\gamma^\mu) なので 00 です。

(d) 巡回性より tr(γμγν)=12tr({γμ,γν})=ημνtr(14)=4ημν\mathrm{tr}(\gamma^\mu\gamma^\nu) = \tfrac12\mathrm{tr}(\lbrace\gamma^\mu,\gamma^\nu\rbrace) = \eta^{\mu\nu}\mathrm{tr}(\mathbb{1}_4) = 4\eta^{\mu\nu}。

これらは次章のスピン和の計算で使います。

演習 8.3標準

質量ゼロのディラック方程式 iγμ∂μψ=0i\gamma^\mu\partial_\mu\psi = 0 をワイル表示で書くと、ψL\psi_L と ψR\psi_R が分離した方程式(ワイル方程式)になることを示してください。さらに、平面波解 ψR=ξ e−ip⋅x\psi_R = \xi\,e^{-ip\cdot x}、ψL=ζ e−ip⋅x\psi_L = \zeta\,e^{-ip\cdot x}(p0=∣p∣>0p^0 = |\boldsymbol p| > 0)について、スピン演算子 S=σ/2\boldsymbol S = \boldsymbol\sigma/2 の運動方向成分 p^⋅S\hat{\boldsymbol p}\cdot\boldsymbol S が ψR\psi_R では +12+\tfrac12、ψL\psi_L では −12-\tfrac12 であることを示し、定理 7.9 のヘリシティと対応づけてください。

解答

ワイル表示で iγμ∂μ=(0iσμ∂μiσˉμ∂μ0)i\gamma^\mu\partial_\mu = \begin{pmatrix}0 & i\sigma^\mu\partial_\mu\\ i\bar\sigma^\mu\partial_\mu & 0\end{pmatrix} なので、方程式は

iσμ∂μψR=0,iσˉμ∂μψL=0i\sigma^\mu\partial_\mu\psi_R = 0,\qquad i\bar\sigma^\mu\partial_\mu\psi_L = 0

の 2 つに分かれます(質量項 −mψ-m\psi があれば ψL\psi_L と ψR\psi_R が結合しますが、m=0m = 0 では結合しません)。平面波を代入すると i∂μ→pμi\partial_\mu\to p_\mu なので、1 つ目は (p⋅σ)ξ=(p0−p⋅σ)ξ=0(p\cdot\sigma)\xi = (p^0 - \boldsymbol p\cdot\boldsymbol\sigma)\xi = 0、すなわち (p^⋅σ)ξ=ξ(\hat{\boldsymbol p}\cdot\boldsymbol\sigma)\xi = \xi です。よって p^⋅S=+12\hat{\boldsymbol p}\cdot\boldsymbol S = +\tfrac12。2 つ目は (p0+p⋅σ)ζ=0(p^0 + \boldsymbol p\cdot\boldsymbol\sigma)\zeta = 0 で p^⋅S=−12\hat{\boldsymbol p}\cdot\boldsymbol S = -\tfrac12 です。

定理 7.9 の 2 によりヘリシティは J⋅P/∣P∣\boldsymbol J\cdot\boldsymbol P/|\boldsymbol P| の値で、平面波(軌道角運動量の運動方向成分は (x×p)⋅p=0(\boldsymbol x\times\boldsymbol p)\cdot\boldsymbol p = 0)ではスピン部分だけが寄与します。したがって右巻きワイル場の正振動数解は h=+12h = +\tfrac12、左巻きは h=−12h = -\tfrac12 の粒子を記述します。これは本文末尾の条件 h=j2−j1h = j_2 - j_1 とも合っています((0,12)(0,\tfrac12) で h=12h = \tfrac12、(12,0)(\tfrac12,0) で h=−12h = -\tfrac12)。

演習 8.4標準

質量 m>0m > 0 の場合、定義 7.3 の標準ブースト L(p)=(X(p)/m)1/2L(p) = (X(p)/m)^{1/2} を使います。A=U∈SU(2)A = U\in SU(2)(純粋な回転)のとき、ウィグナー回転が W(U,p)=UW(U,p) = U となること、すなわち回転は運動量によらずスピンを D(s)(U)D^{(s)}(U) で回すだけであることを示してください。

解答

UU はユニタリなので X(Λ(U)p)=UX(p)U†=UX(p)U−1X(\Lambda(U)p) = UX(p)U^\dagger = UX(p)U^{-1} です。正定値エルミート行列の正の平方根はユニタリ共役と可換なので(UXU−1UX U^{-1} の正の平方根は UX1/2U−1U X^{1/2}U^{-1}。実際、後者は正定値エルミートで 2 乗すると UXU−1UXU^{-1} になり、正の平方根は一意)、

L(Λ(U)p)=(UX(p)U−1/m)1/2=U L(p) U−1L(\Lambda(U)p) = \left(UX(p)U^{-1}/m\right)^{1/2} = U\,L(p)\,U^{-1}

です。したがって W(U,p)=L(Λ(U)p)−1UL(p)=UL(p)−1U−1UL(p)=UW(U,p) = L(\Lambda(U)p)^{-1}UL(p) = UL(p)^{-1}U^{-1}UL(p) = U です。命題 7.4 の 2 より U(0,U)∣p,σ⟩=∑σ′Dσ′σ(s)(U)∣Λ(U)p,σ′⟩U(0,U)|p,\sigma\rangle = \sum_{\sigma'}D^{(s)}_{\sigma'\sigma}(U)|\Lambda(U)p,\sigma'\rangle となり、回転は運動量とスピンを同時に回すだけです。ブーストではこの単純さは失われ、W(A,p)W(A,p) は pp に依存する非自明な回転になります(トーマス–ウィグナー回転)。

  • M. E. Peskin and D. V. Schroeder, An Introduction to Quantum Field Theory, Westview Press, 1995 — 第 3 章 3.1–3.2 節(ローレンツ群の表現とディラック方程式)。ガンマ行列のワイル表示と SμνS^{\mu\nu} の規約は本書に合わせました。
  • S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Volume I: Foundations, Cambridge University Press, 1995 — 第 2 章(ポアンカレ群と 1 粒子状態、小群の方法)と第 5 章(有限次元表現と場)。
  • E. Wigner, “On unitary representations of the inhomogeneous Lorentz group”, Annals of Mathematics 40 (1939), 149–204.
  • V. S. Varadarajan, Geometry of Quantum Theory, 2nd ed., Springer, 1985 — 誘導表現とマッキーの理論による厳密な分類。
  • S. Sternberg, Group Theory and Physics, Cambridge University Press, 1994 — 第 3 章(SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) とローレンツ群)。

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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