指標と SU(2)・SU(N) の表現:指標の直交性・Weyl の積分公式・Clebsch–Gordan 分解
対象読者: 本テーマ第 1〜2 章の Haar 測度と Peter–Weyl の定理、学部の線形代数(行列のトレース、テンソル積)を学んだ人。SU(N) の表現論は仮定しません。
前提となる記事:Peter–Weyl の定理:Schur の直交関係、L²(G) の完全分解、ユニタリ表現の有限次元への還元
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”回転や行列の対称性をもつ対象を調べるとき、行列そのものを全部追いかけると情報が多すぎます。そこで、行列から数を 1 つだけ取り出す「トレース」に注目すると、表現(対称性を行列で表したもの)の中身が驚くほどよく分かります。この記事では、そのトレースを使って、表現がどんな部品に分かれるかを数える方法を学びます。読み終えると、スピン 2 つを合成したときにどんなスピンが現れるかを、三角関数の計算だけで説明できるようになります。
- 有限次元ユニタリ表現 の指標 は類関数(共役で値が変わらない関数)で、既約表現の指標は で正規直交系をなします。表現は指標だけで同値を除いて決まり、重複度(各既約表現が何回含まれるか)は内積 で読めます。
- 既約指標 は類関数の 空間の正規直交基底です。格子ゲージ理論の Boltzmann 重みの「指標展開」はこの定理の特別な場合です。
- の既約表現は 変数の 次斉次多項式の空間 (、次元 )で尽くされ、指標は です。
- Weyl の積分公式 ( は類関数)で、指標の直交性が三角関数の直交性に帰着します。
- Clebsch–Gordan 分解 は、指標に を掛けると 1 行で示せます。
- では基本表現 、随伴表現 と を示し、既約表現が Young 図形(箱を並べた図)で分類されることを述べます。
前章の Peter–Weyl の定理 により、コンパクト群 上の 関数は既約表現の行列成分で展開できます。しかし物理で現れる関数の多くは、もっと対称性の高い類関数、つまり共役 で不変な関数です。Wilson ループ (格子上の閉じた経路に沿ったリンク変数の積のトレース)、プラケット作用 、その指数関数 、ハミルトニアン形式の転送行列の核はすべて類関数です。類関数を展開するには行列成分の全体は多すぎ、各既約表現から 1 つずつ、すなわち指標 だけで足ります。
指標はもう 1 つの役割を持ちます。表現 を既約成分に分解したいとき、不変部分空間を探す代わりに、関数 を既約指標で展開すればよいのです。テンソル積の分解(角運動量の合成)、 の分解(メソンの色の 1 重項)、Wilson ループの期待値の選択則は、どれも「指標の積を指標の和に書き直す」計算です。
この章では、まず一般のコンパクト群で指標の直交関係と類関数の展開を示し、それを で完全に具体化します。 では類関数が 変数の関数になり、Haar 積分が 次元の積分(Weyl の積分公式)に落ちるので、直交関係も Clebsch–Gordan 分解も三角関数の計算で確かめられます。最後に の基本表現・随伴表現を扱い、一般の既約表現の分類(Young 図形)を述べます。次章の Casimir 作用素と群上のラプラシアン では、ここで分類した表現の上で Casimir 作用素の値を計算します。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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