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Lorentz 群・Poincaré 群の表現:SL(2,C) の有限次元表現と Wigner–Mackey の誘導表現

対象読者: 学部の線形代数・測度論の基礎と、本テーマ第 1〜2 章(行列 Lie 群、SU(2)→SO(3)、半単純 Lie 環の表現)を学んだ人。特殊相対論のローレンツ変換の初歩があると読みやすく、誘導表現は仮定しません。

前提となる記事:行列 Lie 群と指数写像:閉部分群定理・BCH 公式・SU(2)→SO(3) と Spin 群、Lie 環の構造論:Engel・Lie の定理、Killing 形式と Cartan の判定法、Weyl の完全可約性、ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類:SL(2,C) の被覆からウィグナーの小群の方法まで

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相対性理論では、観測者が変わると、同じ粒子の見え方(運動量やスピンの向き)が変わります。この記事は、そうした「観測者の取り替え」に対して粒子の状態がどう変わるかを、行列と関数空間を使って正確に書き表します。前半は場の成分が混ざる仕方を行列で分類し、後半は運動する粒子の状態を関数として表して、それ以上分けられない型がどう決まるかを示します。読み終えると、粒子の種類が質量とスピン(質量 00 ならヘリシティ)で決まる、という分類の数学的な裏づけが追えるようになります。

  • ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類 では、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の有限次元表現の分類と、Wigner の小群の方法による粒子の分類が、証明の筋道とともに述べられていました。この記事はその数学的な部分に証明を与えます。
  • SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の連続な有限次元既約表現は D(j1,j2)=Sym2j1(Aˉ)⊗Sym2j2(A)D^{(j_1,j_2)}=\mathrm{Sym}^{2j_1}(\bar A)\otimes\mathrm{Sym}^{2j_2}(A) で尽き、互いに非同型です。鍵は、実 Lie 環 sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の複素化が sl(2,C)⊕sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\oplus\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) に分かれることと、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の単連結性です。
  • Poincaré 群 P~=R4⋊SL(2,C)\tilde{\mathcal{P}}=\mathbb{R}^4\rtimes\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) では、運動量の軌道 O\mathcal{O} と、その上の点 kk の小群 GkG_k(kk を動かさない変換の全体)のユニタリ表現 σ\sigma から、L2(O,μ;K)L^2(\mathcal{O},\mu;K) 上の 誘導表現 UO,σU^{\mathcal{O},\sigma} が作れます。
  • σ\sigma が既約なら UO,σU^{\mathcal{O},\sigma} は既約で、UO,σ≅UO′,σ′U^{\mathcal{O},\sigma}\cong U^{\mathcal{O}',\sigma'} は O=O′\mathcal{O}=\mathcal{O}' かつ σ≅σ′\sigma\cong\sigma' と同値です。証明は、並進と可換な作用素が掛け算作用素になること(Fourier 変換の一意性)と、軌道上の不変関数が定数であること(エルゴード性)の 2 段階です。
  • 逆に「すべての既約表現が誘導表現である」ことは Mackey の非原始性定理によるもので、この記事では主張として述べます。

場の量子論では、Lorentz 群について 2 種類の表現を使います。場 ϕ(x)\phi(x)、ψ(x)\psi(x)、Aμ(x)A^\mu(x) の成分を混ぜる 有限次元 の表現と、粒子の状態空間に作用する 無限次元のユニタリ 表現です。前者は (j1,j2)(j_1,j_2) というラベルで分類され、後者は質量 mm とスピン ss(質量 00 ならヘリシティ hh)で分類されます。

ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類 では、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) が Lorentz 群の 2 重被覆で単連結であることを証明したうえで、有限次元表現の分類(定理 4.3[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類])と Wigner の分類(定理 7.5[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類]、定理 7.9[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類])を、証明の筋道(注意 4.4[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類]、注意 7.6[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類])とともに述べました。そこで使われた事実のうち、

  1. 単連結な群の表現と Lie 環の表現の対応、
  2. 実 Lie 環の複素化と、sl(2)⊕sl(2)\mathfrak{sl}(2)\oplus\mathfrak{sl}(2) の既約表現がテンソル積であること、
  3. 誘導表現が既約であり、軌道と小群の表現で同値類が決まること、

は、このテーマの前の章までの道具で証明できます。この記事の目的はそれを実行することです。1 と 2 は第 1 章(閉部分群定理と準同型の持ち上げ)と第 2 章(Weyl の完全可約性と sl(2)\mathfrak{sl}(2) の表現)を組み合わせるだけで済みますが、3 には無限次元の Hilbert 空間の上での議論が必要です。そこで使うのは、Fourier 変換の一意性、掛け算作用素の可換子、沈め込みと零集合の関係という、解析学の標準的な 3 つの道具です。ただし 4 番目の事実「Poincaré 群の既約ユニタリ表現はすべて誘導表現である」は、作用素値測度の理論(SNAG の定理と Mackey の非原始性定理)を要するので、主張と文献を示すにとどめます。

記法は ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類 に合わせます。計量は η=diag⁡(1,−1,−1,−1)\eta=\operatorname{diag}(1,-1,-1,-1)、x∈R4x\in\mathbb{R}^4 に X(x)=x0I+xiσiX(x)=x^0I+x^i\sigma^i を対応させ、A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) に対し X(Λ(A)x)=AX(x)A†X(\Lambda(A)x)=AX(x)A^\dagger で Λ(A)∈SO+(1,3)\Lambda(A)\in SO^+(1,3) を定めます。定理 3.3[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] により Λ\Lambda は核 {±I}\lbrace\pm I\rbrace の全射準同型で、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は連結かつ単連結です。SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は GL(2,C)GL(2,\mathbb{C}) の閉部分群なので行列 Lie 群で、その Lie 環は跡 00 の複素行列全体 sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) を 実 Lie 環とみたもの(実 6 次元)です(例 3.3[行列 Lie 群と指数写像])。これを gR\mathfrak{g}_{\mathbb{R}} と書きます。

Poincaré 群の普遍被覆は P~=R4⋊SL(2,C)\tilde{\mathcal{P}}=\mathbb{R}^4\rtimes\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})、積は (a,A)(b,B)=(a+Λ(A)b,AB)(a,A)(b,B)=(a+\Lambda(A)b,AB) です。Λ(A)\Lambda(A) を ΛA\Lambda_A と略記します。

3. 実 Lie 環の複素化と sl(2)⊕sl(2) の表現

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複素ベクトル空間 VV 上の表現 φ ⁣:gR→gl(V)\varphi\colon\mathfrak{g}_{\mathbb{R}}\to\mathfrak{gl}(V) は実線形ですが、gR⊗RC\mathfrak{g}_{\mathbb{R}}\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C} 上の複素線形な表現 φC(X⊗z)=zφ(X)\varphi_{\mathbb{C}}(X\otimes z)=z\varphi(X) に一意に延びます。複素化の構造は次のとおりです。Xˉ\bar X は成分ごとの複素共役を表します。

補題 3.1(sl(2,C) の複素化)✓

ι(X⊗z)=(zX, zXˉ)\iota(X\otimes z)=(zX,\ z\bar X) で定まる写像 ι ⁣:gR⊗RC→sl(2,C)⊕sl(2,C)\iota\colon\mathfrak{g}_{\mathbb{R}}\otimes_{\mathbb{R}}\mathbb{C}\to\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\oplus\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) は複素 Lie 環の同型である。

証明(補題 3.1)

ι\iota は zz について複素線形で、[X,Y]‾=[Xˉ,Yˉ]\overline{[X,Y]}=[\bar X,\bar Y] なので括弧を保ちます。X∈sl(2,C)X\in\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) について

ι(X⊗12+(iX)⊗(−i2))=(X2+X2, Xˉ2−Xˉ2)=(X,0),ι(X⊗12+(iX)⊗i2)=(0,Xˉ)\iota\Bigl(X\otimes\tfrac12+(iX)\otimes\bigl(-\tfrac i2\bigr)\Bigr)=\Bigl(\tfrac X2+\tfrac X2,\ \tfrac{\bar X}2-\tfrac{\bar X}2\Bigr)=(X,0),\qquad\iota\Bigl(X\otimes\tfrac12+(iX)\otimes\tfrac i2\Bigr)=(0,\bar X)

なので全射で、両辺とも複素 6 次元なので同型です。

物理の生成子で言えば、回転 JiJ^i とブースト KiK^i から作った Ai=12(Ji+iKi)\mathcal{A}^i=\frac12(J^i+iK^i)、Bi=12(Ji−iKi)\mathcal{B}^i=\frac12(J^i-iK^i)(命題 4.2[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類])が、この 2 つの直和因子の基底になっています。[Ki,Kj]=−iϵijkJk[K^i,K^j]=-i\epsilon^{ijk}J^k の負号のために、この分解は実数の範囲では起こらず、複素化して初めて可能になります。

次の補題のねらいは、sl(2)\mathfrak{sl}(2) を 2 つ並べた Lie 環の既約表現が、それぞれの既約表現を掛け合わせたものに限る、と示すことです。これが分かれば、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の既約表現のラベルが (j1,j2)(j_1,j_2) の 2 つ組になる理由が見えます。証明の方針は、まず片方の sl(2)\mathfrak{sl}(2) について表現を既約成分に分け、もう片方の作用がその成分の「重複の数え方」の空間に働く、と見ることです。

補題 3.2(直和 Lie 環の既約表現)✓

g1,g2\mathfrak{g}_1,\mathfrak{g}_2 をともに sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) と同型な複素 Lie 環とする。g1⊕g2\mathfrak{g}_1\oplus\mathfrak{g}_2 の有限次元既約表現は、ただ 1 組の (m,n)(m,n) について外部テンソル積 V(m)⊠V(n)V(m)\boxtimes V(n)((x1,x2)⋅(v⊗w)=x1v⊗w+v⊗x2w(x_1,x_2)\cdot(v\otimes w)=x_1v\otimes w+v\otimes x_2w)と同型である。逆に V(m)⊠V(n)V(m)\boxtimes V(n) はすべて既約である。

証明(補題 3.2)

VV を既約とします。定理 9.2[Lie 環の構造論] から VV は g1\mathfrak{g}_1 加群として V(m)V(m) たちの直和で、V(m)V(m) の重複成分の和(等型成分)V[m]V_{[m]} は g2\mathfrak{g}_2 の作用で保たれます(g2\mathfrak{g}_2 は g1\mathfrak{g}_1 と可換なので、g1\mathfrak{g}_1 準同型 V(m)→VV(m)\to V の像を g2\mathfrak{g}_2 の元で写したものも g1\mathfrak{g}_1 準同型の像)。既約性から V=V[m]V=V_{[m]} です。M=Hom⁡g1(V(m),V)M=\operatorname{Hom}_{\mathfrak{g}_1}(V(m),V) は (x2f)(v)=x2f(v)(x_2f)(v)=x_2f(v) で g2\mathfrak{g}_2 加群になり、評価写像 V(m)⊗M→VV(m)\otimes M\to V、v⊗f↦f(v)v\otimes f\mapsto f(v) は g1⊕g2\mathfrak{g}_1\oplus\mathfrak{g}_2 加群の準同型で、V≅V(m)⊕rV\cong V(m)^{\oplus r} と Schur の補題から同型です。MM の部分加群 M′M' に対し V(m)⊗M′V(m)\otimes M' は部分加群なので、MM は既約、すなわち M≅V(n)M\cong V(n) です。(m,n)(m,n) は h1,h2h_1,h_2 の最高ウェイトとして決まります。

逆に 0≠W⊂V(m)⊠V(n)0\ne W\subset V(m)\boxtimes V(n) を部分加群とすると、g1\mathfrak{g}_1 加群として WW は等型成分 V(m)⊗Cn+1V(m)\otimes\mathbb{C}^{n+1} の部分加群なので、上と同じ議論で W=V(m)⊗M′W=V(m)\otimes M'(M′=Hom⁡g1(V(m),W)⊂V(n)M'=\operatorname{Hom}_{\mathfrak{g}_1}(V(m),W)\subset V(n))と書け、M′M' は g2\mathfrak{g}_2 不変なので V(n)V(n) 全体です。

Symn(C2)\mathrm{Sym}^n(\mathbb{C}^2) を C2\mathbb{C}^2 の nn 次対称テンソル(2 変数の nn 次斉次多項式)の空間とし、A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の誘導する作用を Symn(A)\mathrm{Sym}^n(A) と書きます。半整数 j1,j2∈{0,12,1,… }j_1,j_2\in\lbrace0,\frac12,1,\dots\rbrace に対し

D(j1,j2)(A)=Sym2j1(Aˉ)⊗Sym2j2(A)onSym2j1(C2)⊗Sym2j2(C2)D^{(j_1,j_2)}(A)=\mathrm{Sym}^{2j_1}(\bar A)\otimes\mathrm{Sym}^{2j_2}(A)\quad\text{on}\quad\mathrm{Sym}^{2j_1}(\mathbb{C}^2)\otimes\mathrm{Sym}^{2j_2}(\mathbb{C}^2)

とおきます。A↦AˉA\mapsto\bar A は群の自己同型なので、これは連続な表現です。

定理 4.1(SL(2,C) の有限次元表現の分類)✓

  1. D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} は (2j1+1)(2j2+1)(2j_1+1)(2j_2+1) 次元の既約表現で、(j1,j2)≠(j1′,j2′)(j_1,j_2)\ne(j_1',j_2') なら非同型である。
  2. SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の連続な有限次元既約表現は、ただ 1 つの D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} と同値である。
  3. D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} の SU(2)SU(2) への制限は π∣j1−j2∣⊕π∣j1−j2∣+1⊕⋯⊕πj1+j2\pi_{|j_1-j_2|}\oplus\pi_{|j_1-j_2|+1}\oplus\cdots\oplus\pi_{j_1+j_2} と分解する(πj\pi_j はスピン jj の既約表現)。
  4. D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} が SO+(1,3)SO^+(1,3) の表現を誘導する(−I-I を恒等写像で表す)ための必要十分条件は j1+j2∈Zj_1+j_2\in\mathbb{Z} である。
  5. ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類 の生成子で読むと、D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} では Ai\mathcal{A}^i がスピン j1j_1、Bi\mathcal{B}^i がスピン j2j_2 の表現行列として作用する。
証明(定理 4.1)

(a) 群の表現と Lie 環の表現の対応。 連続な表現 π ⁣:SL(2,C)→GL(V)≅GL(n,C)\pi\colon\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})\to GL(V)\cong GL(n,\mathbb{C}) は、定理 5.1[行列 Lie 群と指数写像] により滑らかで、微分 dπ ⁣:gR→gl(V)d\pi\colon\mathfrak{g}_{\mathbb{R}}\to\mathfrak{gl}(V) は実 Lie 環の準同型です。逆に任意の実 Lie 環準同型 φ ⁣:gR→gl(V)\varphi\colon\mathfrak{g}_{\mathbb{R}}\to\mathfrak{gl}(V) は、SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) の単連結性と 定理 7.1[行列 Lie 群と指数写像] によりただ 1 つの π\pi の微分になります。SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は連結なので、部分空間 WW が π\pi で不変であることと dπ(gR)d\pi(\mathfrak{g}_{\mathbb{R}}) で不変であることは同値です(dπ(X)=ddtπ(etX)∣t=0d\pi(X)=\frac{d}{dt}\pi(e^{tX})|_{t=0} と、群が eXe^X たちで生成されること 系 6.5[リー群とリー環])。同様に、線形写像 TT が絡作用素であることは dπd\pi と dπ′d\pi' を絡めることと同値です。WW は複素部分空間なので、dπ(gR)d\pi(\mathfrak{g}_{\mathbb{R}}) で不変なことはその複素線形な延長で不変なことと同値です。以上と 補題 3.1 から、π↦dπC∘ι−1\pi\mapsto d\pi_{\mathbb{C}}\circ\iota^{-1} は、連続な有限次元表現の同値類と sl(2,C)⊕sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\oplus\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の有限次元複素表現の同値類との全単射で、既約性を保ちます。

(b) D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} の微分。 Symn(A)\mathrm{Sym}^n(A) の微分 X↦d Symn(X)X\mapsto d\,\mathrm{Sym}^n(X) は XX について複素線形なので、その複素化は ι\iota で見ると (Y,Z)↦d Symn(Y)(Y,Z)\mapsto d\,\mathrm{Sym}^n(Y) です。Symn(Aˉ)\mathrm{Sym}^n(\bar A) の微分は X↦d Symn(Xˉ)X\mapsto d\,\mathrm{Sym}^n(\bar X) で、複素化は (Y,Z)↦d Symn(Z)(Y,Z)\mapsto d\,\mathrm{Sym}^n(Z) です。sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) 加群として Symn(C2)\mathrm{Sym}^n(\mathbb{C}^2) は V(n)V(n) と同型です(e1n−le2le_1^{n-l}e_2^l は hh のウェイト n−2ln-2l をもち、各ウェイトの重複度が 1 なので、系 10.2[Lie 環の構造論] の 3 から既約成分は 1 つ)。したがって D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} には V(2j2)⊠V(2j1)V(2j_2)\boxtimes V(2j_1)(第 1 因子が第 1 成分 YY に対応)が対応します。

1 と 2。 (a)、(b) と 補題 3.2 から直ちに従います。

3。 U∈SU(2)U\in SU(2) について σ2Uˉσ2=U\sigma^2\bar U\sigma^2=U(U=(a−bˉbaˉ)U=\begin{pmatrix}a&-\bar b\\b&\bar a\end{pmatrix} を代入して確かめられます)なので、SU(2)SU(2) 上で Symn(Uˉ)≅Symn(U)≅πn/2\mathrm{Sym}^n(\bar U)\cong\mathrm{Sym}^n(U)\cong\pi_{n/2} で、D(j1,j2)∣SU(2)≅πj1⊗πj2D^{(j_1,j_2)}|_{SU(2)}\cong\pi_{j_1}\otimes\pi_{j_2} です。Clebsch–Gordan 分解(定理 4.8[指標と SU(2)・SU(N) の表現])から主張を得ます。

4。 D(j1,j2)(−I)=(−1)2j1(−1)2j2D^{(j_1,j_2)}(-I)=(-1)^{2j_1}(-1)^{2j_2} です。SO+(1,3)≅SL(2,C)/{±I}SO^+(1,3)\cong\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})/\lbrace\pm I\rbrace で、商写像 Λ\Lambda は開写像(被覆写像)なので、−I-I が恒等的に作用することと連続表現が商に降りることは同値です。

5。 C2\mathbb{C}^2 上の表現 A↦AA\mapsto A では、回転 e−iθσ3/2e^{-i\theta\sigma^3/2}、ブースト eησ3/2e^{\eta\sigma^3/2}(定理 3.3[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の証明)から Ji=σi/2J^i=\sigma^i/2、Ki=iσi/2K^i=i\sigma^i/2 で、Ai=0\mathcal{A}^i=0、Bi=σi/2\mathcal{B}^i=\sigma^i/2 です。A↦AˉA\mapsto\bar A では Ji=−σˉi/2J^i=-\bar\sigma^i/2、Ki=iσˉi/2K^i=i\bar\sigma^i/2 で、Ai=−σˉi/2\mathcal{A}^i=-\bar\sigma^i/2(スピン 12\frac12 の表現行列)、Bi=0\mathcal{B}^i=0 です。対称冪とテンソル積では生成子は微分として作用するので、主張が従います。

例 4.2((½,½) は 4 元ベクトル表現)

D(12,12)(A)=Aˉ⊗AD^{(\frac12,\frac12)}(A)=\bar A\otimes A を考えます。C2⊗C2\mathbb{C}^2\otimes\mathbb{C}^2 を 2×22\times2 行列の空間と v⊗w↔wvTv\otimes w\leftrightarrow wv^{\mathsf T} で同一視すると、Aˉ⊗A\bar A\otimes A は Y↦AYAˉT=AYA†Y\mapsto AY\bar A^{\mathsf T}=AYA^\dagger に対応します。これはエルミート行列を保ち、X(ΛAx)=AX(x)A†X(\Lambda_Ax)=AX(x)A^\dagger なので、D(12,12)D^{(\frac12,\frac12)} は ΛA\Lambda_A の複素化 C4\mathbb{C}^4 上の作用と同値です。3 の分解 π0⊕π1\pi_0\oplus\pi_1 は x0x^0(スカラー)と x\boldsymbol x(ベクトル)への分解です。

これらの表現はユニタリではありません(例 4.5[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類])。粒子の状態を記述するには、無限次元のユニタリ表現が必要です。

軌道と不変測度。 O\mathcal{O} を SO+(1,3)SO^+(1,3) の R4\mathbb{R}^4 への作用の軌道のうち、質量殻 Ωm+\Omega_m^+(m>0m\gt0)または正の光錐 Ω0+\Omega_0^+ とします(命題 7.1[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類])。代表元を k=(m,0)k=(m,\boldsymbol0)、または k=(κ,0,0,κ)k=(\kappa,0,0,\kappa) とします。O\mathcal{O} を p∈R3\boldsymbol p\in\mathbb{R}^3(光錐では p≠0\boldsymbol p\ne0)で座標づけ、p0=ωp=∣p∣2+m2p^0=\omega_{\boldsymbol p}=\sqrt{|\boldsymbol p|^2+m^2} とおき、

dμ(p)=d3p(2π)3 2ωpd\mu(p)=\frac{d^3p}{(2\pi)^3\,2\omega_{\boldsymbol p}}

を R4\mathbb{R}^4 上の(O\mathcal{O} に集中した)Borel 測度とみなします。μ\mu は p\boldsymbol p 座標で正の連続な密度をもつので、μ\mu の零集合は Lebesgue 零集合と一致します。μ\mu は ΛA\Lambda_A で不変です(m>0m\gt0 の場合の計算は 例 7.2[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] にもあります)。

補題 5.1(軌道上の不変測度)✓

O=Ωm+\mathcal{O}=\Omega_m^+(m>0m\gt0)または Ω0+\Omega_0^+ とする。すべての A∈SL(2,C)A\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) と Borel 関数 f ⁣:O→[0,∞]f\colon\mathcal{O}\to[0,\infty] について ∫f(ΛAp) dμ(p)=∫f(p) dμ(p)\int f(\Lambda_Ap)\,d\mu(p)=\int f(p)\,d\mu(p)。

証明(補題 5.1)

命題 3.2[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の 3 から ΛA=R1B3(η)R2\Lambda_A=R_1B_3(\eta)R_2(R1,R2R_1,R_2 は空間回転、B3(η)B_3(\eta) は x3x^3 方向のブースト)と書けるので、回転とブースト B3(η)B_3(\eta) のそれぞれについて示せば十分です。回転は p\boldsymbol p を直交変換し ωp\omega_{\boldsymbol p} を変えないので、系 3.5[ℝ^d の変数変換公式と極座標] の 3 から従います。B3(η)B_3(\eta) は、γ=cosh⁡η\gamma=\cosh\eta、β=tanh⁡η\beta=\tanh\eta として p\boldsymbol p 座標で

Φ(p)=(p1, p2, γ(p3+βωp)),ωΦ(p)=γ(ωp+βp3)\Phi(\boldsymbol p)=\bigl(p^1,\ p^2,\ \gamma(p^3+\beta\omega_{\boldsymbol p})\bigr),\qquad\omega_{\Phi(\boldsymbol p)}=\gamma(\omega_{\boldsymbol p}+\beta p^3)

と書けます。Φ\Phi は R3\mathbb{R}^3(m=0m=0 では R3∖{0}\mathbb{R}^3\setminus\{0\})上の C1C^1 写像で、逆写像は B3(−η)B_3(-\eta) の同じ形の写像なので C1C^1 微分同相です。ヤコビ行列は 3 行目以外が単位行列なので、∂ωp/∂p3=p3/ωp\partial\omega_{\boldsymbol p}/\partial p^3=p^3/\omega_{\boldsymbol p} から

det⁡DΦ(p)=∂Φ3∂p3=γ(1+βp3ωp)=ωΦ(p)ωp>0.\det D\Phi(\boldsymbol p)=\frac{\partial\Phi^3}{\partial p^3}=\gamma\Bigl(1+\beta\frac{p^3}{\omega_{\boldsymbol p}}\Bigr)=\frac{\omega_{\Phi(\boldsymbol p)}}{\omega_{\boldsymbol p}}\gt0 .

変数変換公式(定理 4.5[ℝ^d の変数変換公式と極座標] の 2)を g=f/ωg=f/\omega に使うと ∫f(Φ(p)) ωp−1d3p=∫g(Φ(p)) ∣det⁡DΦ(p)∣ d3p=∫g(p′) d3p′=∫f(p′) ωp′−1d3p′\int f(\Phi(\boldsymbol p))\,\omega_{\boldsymbol p}^{-1}d^3p=\int g(\Phi(\boldsymbol p))\,|\det D\Phi(\boldsymbol p)|\,d^3p=\int g(\boldsymbol p')\,d^3p'=\int f(\boldsymbol p')\,\omega_{\boldsymbol p'}^{-1}d^3p' です(m=0m=0 では除いた 1 点は零集合)。定数倍 (2π)−3/2(2\pi)^{-3}/2 を掛ければ主張を得ます。

小群と標準ブースト。 Gk={A:ΛAk=k}G_k=\lbrace A : \Lambda_Ak=k\rbrace を小群とします。m>0m\gt0 なら Gk=SU(2)G_k=SU(2)、m=0m=0 なら Gk={(e−iθ/2z0eiθ/2)}G_k=\lbrace\begin{pmatrix}e^{-i\theta/2}&z\\0&e^{i\theta/2}\end{pmatrix}\rbrace です(補題 7.7[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類]。例 7.8[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] も参照)。各 p∈Op\in\mathcal{O} に ΛL(p)k=p\Lambda_{L(p)}k=p となる L(p)∈SL(2,C)L(p)\in\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) を、L(k)=IL(k)=I で、Borel 可測かつ零集合 Z⊂OZ\subset\mathcal{O} の外で連続になるように選びます。m>0m\gt0 では L(p)=(X(p)/m)1/2L(p)=(X(p)/m)^{1/2}(正定値エルミート行列の正の平方根、Z=∅Z=\emptyset)、m=0m=0 では p^\hat{\boldsymbol p} の球座標 (ϑ,φ)(\vartheta,\varphi) を使って L(p)=e−iφσ3/2e−iϑσ2/2diag⁡((∣p∣/κ)1/2,(∣p∣/κ)−1/2)L(p)=e^{-i\varphi\sigma^3/2}e^{-i\vartheta\sigma^2/2}\operatorname{diag}\bigl((|\boldsymbol p|/\kappa)^{1/2},(|\boldsymbol p|/\kappa)^{-1/2}\bigr)(ZZ は p3p^3 軸上の点。p^=e3\hat{\boldsymbol p}=\boldsymbol e_3 では φ=0\varphi=0 とする)がその例です。Wigner 回転 を

W(A,p)=L(ΛAp)−1AL(p)∈GkW(A,p)=L(\Lambda_Ap)^{-1}AL(p)\in G_k

と定めます(ΛW(A,p)k=ΛL(ΛAp)−1ΛAp=k\Lambda_{W(A,p)}k=\Lambda_{L(\Lambda_Ap)}^{-1}\Lambda_Ap=k)。定義から直ちに コサイクル関係

W(AB,p)=W(A,ΛBp) W(B,p),W(C,k)=C(C∈Gk)W(AB,p)=W(A,\Lambda_Bp)\,W(B,p),\qquad W(C,k)=C\quad(C\in G_k)

が成り立ちます。

kpΛ_A pL(p)L(Λ_A p)AW(A,p) ∈ G_k質量殻 Ω⁺ₘ
Wigner 回転の幾何。質量殻上の点 p を Λ_A で Λ_A p に移す変換 A を、標準ブーストで静止系 k に引き戻すと、k を固定する変換(小群の元)W(A,p)=L(Λ_A p)⁻¹ A L(p) が残る。誘導表現では、運動量の移動は L が受け持ち、内部自由度は W(A,p) によって σ で回される。

次の定義の式は、「運動量 pp の成分をそのまま移す」部分と「内部自由度を回す」部分に分けて読めます。並進は位相 eip⋅ae^{ip\cdot a} を掛けるだけです。Lorentz 変換 AA は、運動量 q=ΛA−1pq=\Lambda_A^{-1}p にあった成分を pp に運び、同時に内部自由度を Wigner 回転 W(A,q)W(A,q) の分だけ σ\sigma で回します。標準ブースト L(p)L(p) は、kk にいる粒子を運動量 pp の粒子へ運ぶ基準の変換で、Wigner 回転はそれを取り替えたときに残る、kk を動かさない変換の分のずれです。

定義 5.2(誘導表現)↗

σ\sigma を GkG_k の有限次元空間 KK 上の連続なユニタリ表現とする。H=L2(O,μ;K)\mathcal{H}=L^2(\mathcal{O},\mu;K) 上の作用素

(U(a,A)ψ)(p)=eip⋅a σ(W(A,ΛA−1p)) ψ(ΛA−1p)\bigl(U(a,A)\psi\bigr)(p)=e^{ip\cdot a}\,\sigma\bigl(W(A,\Lambda_A^{-1}p)\bigr)\,\psi(\Lambda_A^{-1}p)

を σ\sigma から 誘導された表現 と呼び、UO,σU^{\mathcal{O},\sigma} と書く。

定理 5.3(誘導表現は強連続ユニタリ表現)✓

UO,σU^{\mathcal{O},\sigma} は P~\tilde{\mathcal{P}} の強連続なユニタリ表現である。

証明(定理 5.3)

準同型。 q=ΛA−1pq=\Lambda_A^{-1}p とおくと

U(a,A)U(b,B)ψ(p)=eip⋅aeiq⋅b σ(W(A,q))σ(W(B,ΛB−1q))ψ(ΛAB−1p)U(a,A)U(b,B)\psi(p)=e^{ip\cdot a}e^{iq\cdot b}\,\sigma\bigl(W(A,q)\bigr)\sigma\bigl(W(B,\Lambda_B^{-1}q)\bigr)\psi(\Lambda_{AB}^{-1}p)

です。q⋅b=p⋅ΛAbq\cdot b=p\cdot\Lambda_Ab(Lorentz 不変性)と、コサイクル関係 W(A,q)W(B,ΛB−1q)=W(AB,ΛAB−1p)W(A,q)W(B,\Lambda_B^{-1}q)=W(AB,\Lambda_{AB}^{-1}p) から、右辺は U(a+ΛAb,AB)ψ(p)U(a+\Lambda_Ab,AB)\psi(p) に等しく、積の規則と一致します。

ユニタリ性。 σ\sigma はユニタリなので ∥U(a,A)ψ∥2=∫∣ψ(ΛA−1p)∣2dμ(p)=∥ψ∥2\|U(a,A)\psi\|^2=\int|\psi(\Lambda_A^{-1}p)|^2d\mu(p)=\|\psi\|^2(補題 5.1)で、U(a,A)U(a,A) は逆 U((a,A)−1)U((a,A)^{-1}) をもつのでユニタリです。

強連続性。 ψ\psi を O\mathcal{O} 上の連続でコンパクトな台をもつ関数とし、(a,A)→(a0,A0)(a,A)\to(a_0,A_0) とします。p∉Z∪ΛA0Zp\notin Z\cup\Lambda_{A_0}Z(零集合)なら LL は pp と ΛA0−1p\Lambda_{A_0}^{-1}p で連続なので、U(a,A)ψ(p)→U(a0,A0)ψ(p)U(a,A)\psi(p)\to U(a_0,A_0)\psi(p) です。AA が A0A_0 の近くにあれば ΛAsupp⁡ψ\Lambda_A\operatorname{supp}\psi は 1 つのコンパクト集合 CC に含まれ、∣U(a,A)ψ∣≤sup⁡∣ψ∣ 1C|U(a,A)\psi|\le\sup|\psi|\,1_C なので、優収束定理から L2L^2 で収束します。そのような ψ\psi は H\mathcal{H} で稠密で(μ\mu は Radon 測度)、∥U(a,A)∥=1\|U(a,A)\|=1 なので、3ε3\varepsilon 論法で任意の ψ\psi に延びます。

σ\sigma を SU(2)SU(2) のスピン ss の表現 πs\pi_s にとったものが 定理 7.5[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の Um,sU_{m,s} で、光錐上で 1 次元の表現 A(θ,z)↦e−ihθA(\theta,z)\mapsto e^{-ih\theta} にとったものが 定理 7.9[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の U0,hU_{0,h} です。並進 U(a,I)U(a,I) は掛け算作用素 eip⋅ae^{ip\cdot a} なので、その生成子 PμP^\mu(定理 3.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群] の Stone の定理による)は pμp^\mu による掛け算で、同時スペクトルは O\mathcal{O} の閉包です。

この節では、誘導表現が既約で、軌道と小群の表現で完全に区別されることを示します。4 つの補題を準備します。

補題 6.1(有限測度の Fourier 変換の一意性)✓

ν\nu を Rn\mathbb{R}^n 上の有限な複素 Borel 測度とする。すべての a∈Rna\in\mathbb{R}^n について ∫eip⋅a dν(p)=0\int e^{ip\cdot a}\,d\nu(p)=0 ならば ν=0\nu=0 である。

証明(補題 6.1)

gε(x)=(2πε)−n/2e−∣x∣2/2εg_\varepsilon(x)=(2\pi\varepsilon)^{-n/2}e^{-|x|^2/2\varepsilon} について、Gauss 積分から gε(x−p)=(2π)−n∫ei(p−x)⋅ae−ε∣a∣2/2 dag_\varepsilon(x-p)=(2\pi)^{-n}\int e^{i(p-x)\cdot a}e^{-\varepsilon|a|^2/2}\,da です(ここでの p⋅ap\cdot a はユークリッド内積で、Minkowski 内積の場合は aa の成分の符号を変えれば同じです)。Fubini の定理(定理 3.4[直積測度と Fubini–Tonelli の定理]。被積分関数は e−ε∣a∣2/2e^{-\varepsilon|a|^2/2} で抑えられる)から

∫gε(x−p) dν(p)=(2π)−n∫e−ix⋅ae−ε∣a∣2/2(∫eip⋅adν(p))da=0\int g_\varepsilon(x-p)\,d\nu(p)=(2\pi)^{-n}\int e^{-ix\cdot a}e^{-\varepsilon|a|^2/2}\Bigl(\int e^{ip\cdot a}d\nu(p)\Bigr)da=0

です。ϕ\phi をコンパクトな台をもつ連続関数とすると、もう一度 Fubini から ∫(ϕ∗gε) dν=0\int(\phi*g_\varepsilon)\,d\nu=0 で、ϕ∗gε→ϕ\phi*g_\varepsilon\to\phi は一様収束(ϕ\phi の一様連続性)なので ∫ϕ dν=0\int\phi\,d\nu=0 です。開集合 UU の指示関数は、そのような ϕ\phi の単調増加列の極限なので ν(U)=0\nu(U)=0 です。ν\nu の実部・虚部の正部分と負部分は開集合(π 系)の上で一致する有限測度なので、定理 4.5[測度空間と Carathéodory の拡張定理] により一致し、ν=0\nu=0 です。

補題 6.2(掛け算作用素の可換子)✓

(X,μ)(X,\mu) を σ 有限な測度空間、K,K′K,K' を有限次元 Hilbert 空間とし、有界作用素 T ⁣:L2(X;K)→L2(X;K′)T\colon L^2(X;K)\to L^2(X;K') がすべての ϕ∈L∞(X)\phi\in L^\infty(X) について TMϕ=MϕTTM_\phi=M_\phi T(MϕM_\phi はスカラー関数 ϕ\phi の掛け算)を満たすとする。このとき有界可測な F ⁣:X→Hom⁡(K,K′)F\colon X\to\operatorname{Hom}(K,K') で T=MFT=M_F となるものがある。

証明(補題 6.2)

σ 有限性から、至るところ正で有界な w∈L2(X)w\in L^2(X) がとれます。KK の正規直交基底 ele_l について、F(x)el=(T(wel))(x)/w(x)F(x)e_l=(T(we_l))(x)/w(x) と定めます。ϕ∈L∞\phi\in L^\infty について T(ϕwel)=ϕ T(wel)=F(ϕwel)T(\phi we_l)=\phi\,T(we_l)=F(\phi we_l) なので、TT と MFM_F は ψ=∑lϕlwel\psi=\sum_l\phi_lwe_l(ϕl∈L∞\phi_l\in L^\infty)の形の関数の上で一致します。そのような関数は L2L^2 で稠密です(ψ∈L2\psi\in L^2 を ∣ψ∣≤nw|\psi|\le nw となる部分に切り詰めたものは、この形で、優収束定理により ψ\psi に収束します)。有界性: vv を KK の有理係数の単位ベクトルとすると、すべての ϕ\phi について ∫∣ϕ∣2∣Fv∣2w2≤∥T∥2∫∣ϕ∣2w2\int|\phi|^2|F v|^2w^2\le\|T\|^2\int|\phi|^2w^2 なので、ほとんどいたるところ ∣F(x)v∣≤∥T∥|F(x)v|\le\|T\| です。可算個の vv について合わせて、ほとんどいたるところ ∥F(x)∥≤∥T∥\|F(x)\|\le\|T\| で、MFM_F は有界、稠密な部分空間で TT と一致するので T=MFT=M_F です。

補題 6.3(軌道写像と零集合)✓

πk ⁣:SL(2,C)→O\pi_k\colon\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})\to\mathcal{O}、πk(A)=ΛAk\pi_k(A)=\Lambda_Ak は全射な沈め込みである。Borel 集合 N⊂ON\subset\mathcal{O} について、μ(N)=0\mu(N)=0 と πk−1(N)\pi_k^{-1}(N) が Haar 零集合であることは同値である。

証明(補題 6.3)

全射性は軌道の定義です。πk(AB)=ΛAπk(B)\pi_k(AB)=\Lambda_A\pi_k(B) なので πk\pi_k の階数は一定で、A=IA=I で調べれば十分です。m>0m\gt0 では xix^i 方向のブーストの生成子が kk を meim\boldsymbol e_i 方向に動かし、m=0m=0 では x3x^3 方向のブーストが (κ,0,0,κ)(\kappa,0,0,\kappa) 方向、x1x^1、x2x^2 軸まわりの回転が e2\boldsymbol e_2、e1\boldsymbol e_1 方向に動かすので、いずれも 3 次元の接空間 TkOT_k\mathcal{O} を張ります。よって πk\pi_k は沈め込みです。沈め込みの局所標準形(定理 3.2[部分多様体と正則値定理])により、各点の近くで座標 (x,y)∈R3×R3(x,y)\in\mathbb{R}^3\times\mathbb{R}^3 をとると πk(x,y)=x\pi_k(x,y)=x です。Haar 測度は局所座標で正の連続な密度をもち(命題 6.1[Haar 測度])、μ\mu も同様なので、Fubini の定理から、その座標近傍の中で πk−1(N)\pi_k^{-1}(N) が零集合であることと N∩(像)N\cap(\text{像}) が零集合であることは同値です。SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) は可算個の座標近傍で覆われ、その像は O\mathcal{O} を覆うので結論を得ます。

この補題のねらいは、群の移動で変わらない関数は定数に限る、という事実を使える形にすることです。定理の証明の段階 3 で、軌道上の関数を群上の関数に引き戻して、定数と結論するために使います。証明の方針は、関数を滑らかな重みで平均して連続関数に直し、連続なら 1 点の値で決まる、というものです。

補題 6.4(左不変な可測関数は定数)✓

Φ\Phi を SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) 上の有界可測関数(有限次元ベクトル空間に値をとる)とし、各 AA について Φ(AB)=Φ(B)\Phi(AB)=\Phi(B) がほとんどすべての BB で成り立つとする。このとき Φ\Phi はほとんどいたるところ定数である。

証明(補題 6.4)

dAdA を左 Haar 測度、Δ\Delta をモジュラー関数とします(命題 4.2[Haar 測度])。{(A,B):Φ(AB)≠Φ(B)}\lbrace(A,B) : \Phi(AB)\ne\Phi(B)\rbrace は各 AA 断面が零集合なので、Fubini の定理からほとんどすべての BB について AA 断面も零集合です。ρ≥0\rho\ge0 を ∫ρ=1\int\rho=1 のコンパクトな台をもつ連続関数とすると、そのような BB について

Φ(B)=∫ρ(A)Φ(AB) dA=c(B)∫ρ(A′B−1)Φ(A′) dA′\Phi(B)=\int\rho(A)\Phi(AB)\,dA=c(B)\int\rho(A'B^{-1})\Phi(A')\,dA'

(A′=ABA'=AB と置換。c(B)>0c(B)\gt0 は右移動 A↦ABA\mapsto AB による左 Haar 測度の伸縮率で、BB の連続関数です)で、ρ\rho の一様連続性と Φ\Phi の有界性から、右辺は BB の連続関数 Φ~(B)\tilde\Phi(B) です。各 AA について Φ~(AB)=Φ~(B)\tilde\Phi(AB)=\tilde\Phi(B) がほとんどすべての BB、したがって連続性からすべての BB で成り立つ(Haar 測度は空でない開集合で正)ので、B=IB=I とおいて Φ~(A)=Φ~(I)\tilde\Phi(A)=\tilde\Phi(I) です。

次の定理の証明は、2 つの誘導表現の間の絡作用素 TT を調べ、可能な TT を 4 つの段階で絞り込みます。

段階 1 並進と可換 ⇒ T は掛け算と可換(Fourier 変換の一意性)段階 2 T は軌道 O 上の関数 F(p) の掛け算 M_F段階 3 Lorentz 変換との整合 ⇒ F は 1 点 k の値 C で決まる段階 4 C は小群 G_k の表現 σ から σ’ への絡作用素
定理の証明の流れ。段階を追うごとに、絡作用素 T の候補が絞られていく。

定理 6.5(誘導表現の既約性と同値類)✓

  1. σ\sigma が既約なら UO,σU^{\mathcal{O},\sigma} は既約である。
  2. σ,σ′\sigma,\sigma' を既約とすると、UO,σU^{\mathcal{O},\sigma} と UO′,σ′U^{\mathcal{O}',\sigma'} がユニタリ同値であるための必要十分条件は、O=O′\mathcal{O}=\mathcal{O}' かつ σ≅σ′\sigma\cong\sigma' である。
証明(定理 6.5)

2 つの表現 U=UO,σU=U^{\mathcal{O},\sigma}、U′=UO′,σ′U'=U^{\mathcal{O}',\sigma'} の間の有界な絡作用素 T ⁣:H→H′T\colon\mathcal{H}\to\mathcal{H}'(TU(g)=U′(g)TTU(g)=U'(g)T)を調べます。1 は H′=H\mathcal{H}'=\mathcal{H} の場合で、既約性は「絡作用素がスカラーに限る」ことから従います(閉不変部分空間への射影は絡作用素なので)。

段階 1: TT は掛け算と可換。 f∈Hf\in\mathcal{H}、g∈H′g\in\mathcal{H}' について、R4\mathbb{R}^4 上の有限な複素測度 ν=⟨g,Tf⟩′μ′−⟨T∗g,f⟩μ\nu=\langle g,Tf\rangle'\mu'-\langle T^*g,f\rangle\mu(⟨⋅,⋅⟩\langle\cdot,\cdot\rangle は各点での KK、K′K' の内積)を考えると、有界 Borel 関数 ϕ\phi について

⟨g,Mϕ′Tf⟩−⟨g,TMϕf⟩=∫ϕ dν\langle g,M'_\phi Tf\rangle-\langle g,TM_\phi f\rangle=\int\phi\,d\nu

です。ϕ(p)=eip⋅a\phi(p)=e^{ip\cdot a} では Mϕ=U(a,I)M_\phi=U(a,I) なので左辺は 00、補題 6.1 から ν=0\nu=0 で、すべての有界 Borel 関数 ϕ\phi について TMϕ=Mϕ′TTM_\phi=M'_\phi T です。

段階 2: 軌道が異なれば同値でない。 O≠O′\mathcal{O}\ne\mathcal{O}' なら両者は交わらず、ϕ=1O\phi=1_{\mathcal{O}} について Mϕ=IM_\phi=I、Mϕ′=0M'_\phi=0 なので T=0T=0 です。以下 O=O′\mathcal{O}=\mathcal{O}' とすると、補題 6.2 により有界 Borel 関数 F ⁣:O→Hom⁡(K,K′)F\colon\mathcal{O}\to\operatorname{Hom}(K,K') で T=MFT=M_F となります。

段階 3: 共変性。 TU(0,A)=U′(0,A)TTU(0,A)=U'(0,A)T を書き下し、χ(p)=ψ(ΛA−1p)\chi(p)=\psi(\Lambda_A^{-1}p) が H\mathcal{H} 全体を動くことに注意すると、各 AA についてほとんどすべての pp で

F(ΛAp) σ(W(A,p))=σ′(W(A,p))F(p)F(\Lambda_Ap)\,\sigma\bigl(W(A,p)\bigr)=\sigma'\bigl(W(A,p)\bigr)F(p)

です。Φ(B)=σ′(W(B,k))−1F(ΛBk) σ(W(B,k))\Phi(B)=\sigma'(W(B,k))^{-1}F(\Lambda_Bk)\,\sigma(W(B,k)) とおくと、補題 6.3 により Φ\Phi は FF の代表の取り方によらず Haar 測度についてほとんどいたるところ定まり、上の式を p=ΛBkp=\Lambda_Bk で使ってコサイクル関係 W(AB,k)=W(A,ΛBk)W(B,k)W(AB,k)=W(A,\Lambda_Bk)W(B,k) を代入すると、各 AA についてほとんどすべての BB で Φ(AB)=Φ(B)\Phi(AB)=\Phi(B) です。補題 6.4 から Φ=C\Phi=C(定数行列)がほとんどいたるところ成り立ちます。

段階 4: 小群との絡み。 C′∈GkC'\in G_k について、ΛBC′k=ΛBk\Lambda_{BC'}k=\Lambda_Bk と W(BC′,k)=W(B,k)C′W(BC',k)=W(B,k)C' から、すべての BB で Φ(BC′)=σ′(C′)−1Φ(B)σ(C′)\Phi(BC')=\sigma'(C')^{-1}\Phi(B)\sigma(C') です。右移動は Haar 零集合を保つので、ほとんどすべての BB で両辺が CC に等しく、σ′(C′)C=Cσ(C′)\sigma'(C')C=C\sigma(C') です。すなわち CC は σ\sigma から σ′\sigma' への絡作用素です。逆に F(ΛBk)=σ′(W(B,k)) C σ(W(B,k))−1F(\Lambda_Bk)=\sigma'(W(B,k))\,C\,\sigma(W(B,k))^{-1} がほとんどすべての BB で成り立ち、補題 6.3 から FF は CC で決まります。

結論。 1: σ′=σ\sigma'=\sigma のとき、Schur の補題(定理 3.1[Peter–Weyl の定理] の 2。証明は群のコンパクト性を使いません)から C=cIC=cI、したがって F=cIF=cI、T=cIT=cI です。2: U≅U′U\cong U' なら、ユニタリな絡作用素 T≠0T\ne0 に対して C≠0C\ne0 で、同じ補題の 1 から CC は全単射、σ≅σ′\sigma\cong\sigma' です。逆に σ′=VσV−1\sigma'=V\sigma V^{-1}(VV ユニタリ)なら (Tψ)(p)=Vψ(p)(T\psi)(p)=V\psi(p) がユニタリな絡作用素です。

この定理の証明の構造は、物理の言葉に翻訳するとわかりやすくなります。段階 1 は「並進と可換な観測量は運動量の関数である」こと、段階 3 は「その関数が Lorentz 変換と整合するなら、1 点 kk での値で全体が決まる」こと、段階 4 は「kk での値は、kk を動かさない変換(静止系の回転、あるいは光子の運動方向まわりの回転)と可換でなければならない」ことです。粒子の内部自由度(スピンの向き、ヘリシティ)が小群の表現として現れるのはこのためで、運動量を動かす部分は標準ブーストがすべて引き受けます。U(a,A)U(a,A) が運動量 pp の成分を ΛAp\Lambda_Ap の成分に移すとき、内部自由度は Wigner 回転 W(A,p)W(A,p) だけ回されます。これが、運動する粒子のスピンの向きが観測者によって変わる現象(Wigner 回転、Thomas 歳差)の数学的な表現です。

標準ブースト LL を別の L′L' に取り替えると、h(p)=L(p)−1L′(p)∈Gkh(p)=L(p)^{-1}L'(p)\in G_k について (Vψ)(p)=σ(h(p))ψ(p)(V\psi)(p)=\sigma(h(p))\psi(p) が 2 つの誘導表現の間のユニタリな絡作用素になります(演習 3)。したがって誘導表現の同値類は (O,σ)(\mathcal{O},\sigma) だけで決まります。

7. Wigner の分類への応用と Mackey の定理

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系 7.1(質量正・質量ゼロの粒子表現)✓

  1. m>0m\gt0、s∈12Z≥0s\in\frac12\mathbb{Z}_{\ge0} について、Um,s=UΩm+,πsU_{m,s}=U^{\Omega_m^+,\pi_s} は既約で、(m,s)≠(m′,s′)(m,s)\ne(m',s') なら同値でない。
  2. h∈12Zh\in\frac12\mathbb{Z} について、U0,h=UΩ0+,χhU_{0,h}=U^{\Omega_0^+,\chi_h}(χh(A(θ,z))=e−ihθ\chi_h(A(\theta,z))=e^{-ih\theta})は既約で、h≠h′h\ne h' なら同値でない。
  3. 光錐の小群 GkG_k の有限次元既約ユニタリ表現は χh\chi_h(h∈12Zh\in\frac12\mathbb{Z})に限る。
証明(系 7.1)

1: πs\pi_s は SU(2)SU(2) の既約表現(定理 4.6[指標と SU(2)・SU(N) の表現])なので、定理 6.5 から従います(m≠m′m\ne m' なら軌道が異なり、s≠s′s\ne s' なら πs≇πs′\pi_s\not\cong\pi_{s'})。2: χh\chi_h は 1 次元で既約、h≠h′h\ne h' なら χh≠χh′\chi_h\ne\chi_{h'} です。3: σ\sigma を GkG_k の有限次元空間 KK 上の既約な連続ユニタリ表現とします。並進部分 {A(0,z)}≅C\lbrace A(0,z)\rbrace\cong\mathbb{C}(補題 7.7[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の 2)に制限した表現は、命題 2.2[Peter–Weyl の定理] により既約な部分表現の直交和に分かれ、可換群の既約な有限次元ユニタリ表現は 1 次元なので(系 3.2[Peter–Weyl の定理]。どちらの証明も群のコンパクト性を使いません)、KK は σ(A(0,z))\sigma(A(0,z)) の同時固有ベクトルからなる正規直交基底をもちます。各同時固有ベクトル上で z↦σ(A(0,z))z\mapsto\sigma(A(0,z)) は連続な準同型 χ ⁣:C→U(1)\chi\colon\mathbb{C}\to U(1) として働きます。z=x+iyz=x+iy の各成分について 1 次元の強連続ユニタリ群なので、Stone の定理(定理 3.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群])から χ(x)=eiax\chi(x)=e^{iax}、χ(iy)=eiby\chi(iy)=e^{iby}(a,b∈Ra,b\in\mathbb{R})で、χ(z)=eiRe(wˉz)\chi(z)=e^{i\mathrm{Re}(\bar wz)}(w=a+ibw=a+ib)です。現れる ww の集合 Σ\Sigma は有限です。共役 A(θ,0)A(0,z)A(θ,0)−1=A(0,e−iθz)A(\theta,0)A(0,z)A(\theta,0)^{-1}=A(0,e^{-i\theta}z)(同補題の 2)から、vv が指標 ww の同時固有ベクトルなら σ(A(θ,0))−1v\sigma(A(\theta,0))^{-1}v は指標 eiθwe^{i\theta}w の同時固有ベクトルなので、Σ\Sigma は回転で閉じています。有限集合なので Σ={0}\Sigma=\{0\}、すなわち並進は自明に作用します。すると σ\sigma は可換群 {A(θ,0)}\lbrace A(\theta,0)\rbrace の既約表現でもあり(GkG_k の不変部分空間と同じ)、系 3.2[Peter–Weyl の定理] から 1 次元で、θ↦σ(A(θ,0))\theta\mapsto\sigma(A(\theta,0)) は 4π4\pi 周期の連続準同型 R→U(1)\mathbb{R}\to U(1) です。Stone の定理から e−ihθe^{-ih\theta}(h∈Rh\in\mathbb{R})と書け、周期性から e−4πih=1e^{-4\pi ih}=1、すなわち h∈12Zh\in\tfrac12\mathbb{Z} で σ=χh\sigma=\chi_h です。

注意 7.2(他の軌道と無限次元の小群表現)

定義 5.2 と 定理 6.5 では σ\sigma を有限次元としましたが、誘導表現の構成と 定理 5.3 は KK が可分 Hilbert 空間でもそのまま成り立ち、既約性の証明も、補題 6.2 を作用素値関数の可測性に注意して延ばせば同様に通ります。光錐の小群 GkG_k の無限次元既約ユニタリ表現(並進部分 C\mathbb{C} が半径 ρ>0\rho\gt0 の円上の指標として作用するもの)から誘導した表現が、定理 7.9[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の後で触れられた連続スピン表現です。また空間的な軌道 p2=−μ2p^2=-\mu^2(小群は SL(2,R)\mathrm{SL}(2,\mathbb{R}) と局所同型)や p=0p=0(小群は SL(2,C)\mathrm{SL}(2,\mathbb{C}) 全体)からも同じ構成で表現が作れますが、エネルギーが下に有界という条件(スペクトル条件)を満たさないので、粒子の状態としては使われません。

こうして 定理 7.5[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の 1〜3 と、定理 7.9[ローレンツ群・ポアンカレ群と粒子の分類] の 3 のうち「各 hh に既約表現 U0,hU_{0,h} が存在し、誘導表現のなかでは hh で決まる」ことが証明されました。残るのは、「既約表現はすべて誘導表現である」という逆向きの主張です。

定理 7.3(Mackey の定理(主張))※

UU を P~\tilde{\mathcal{P}} の強連続な既約ユニタリ表現とし、並進の生成子 PμP^\mu の同時スペクトルが Ωm+\Omega_m^+(m>0m\gt0)または Ω0+\Omega_0^+ に含まれるとする。このとき UU は、その軌道 O\mathcal{O} と小群 GkG_k のある既約ユニタリ表現 σ\sigma(一般には無限次元でもよい)について UO,σU^{\mathcal{O},\sigma} とユニタリ同値である。

注意 7.4(証明の筋道と文献)

証明は次の 3 段階です。(i) 並進の表現 a↦U(a,I)a\mapsto U(a,I) に SNAG の定理(Stone の定理 定理 3.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群] の多変数・可換群版)を適用し、R4\mathbb{R}^4 上の射影値測度 EE で U(a,I)=∫eip⋅adE(p)U(a,I)=\int e^{ip\cdot a}dE(p) となるものを得る。(ii) U(0,A)E(Δ)U(0,A)−1=E(ΛAΔ)U(0,A)E(\Delta)U(0,A)^{-1}=E(\Lambda_A\Delta) により (U∣SL(2,C),E)(U|_{\mathrm{SL}(2,\mathbb{C})},E) は非原始系をなす。既約性から EE は 1 つの軌道に集中する(エルゴード性。補題 6.4 と同種の議論)。(iii) 推移的な非原始系は、固定部分群の表現からの誘導表現と同値である(Mackey の非原始性定理)。この記事では 定理 7.3 を主張のみとします。理由は (iii) にあります。(i) は Stone の定理と結合スペクトル測度(定理 7.3[スペクトル定理と関数計算])で得られ、(ii) も、仮定によりスペクトルが 1 つの軌道に入るので、EE の零集合と μ\mu の零集合が一致することを 補題 6.3 と同種の議論で示せば済みます。しかし (iii) には、(a) 射影値測度を「重複度つきの掛け算作用素」に直す重複度理論(Hahn–Hellinger の定理)と、(b) 小群の(一般には無限次元の)ユニタリ表現に値をとる可測なコサイクルを、ほとんど至るところの等式から真のコサイクルに直す議論が必要です。Rikai には可換 von Neumann 環の構造定理(定理 6.9[von Neumann 環と二重可換子定理])はありますが、それを射影値測度の重複度による分類(重複度関数が μ\mu についてほとんど至るところ定まり、共変性から定数になること)にまで進める部分と (b) はまだ扱っていません。(a)(b) を合わせると教科書の 1 章分(Varadarajan の第 VI 章、Folland の第 6 章)になるので、重複度理論の章が整うまで主張のみに置きます。原論文は E. Wigner (1939) と G. W. Mackey (1952) です。この記事の段階 1〜4 は、(iii) で得られた表現が誘導表現のどれと同値かを決める部分に当たります。

演習 8.1易

D(0,12)(A)=AD^{(0,\frac12)}(A)=A と D(12,0)(A)=AˉD^{(\frac12,0)}(A)=\bar A が同値でないことを、定理 4.1 を使わずに、A=diag⁡(eη/2+iθ/2,e−η/2−iθ/2)A=\operatorname{diag}(e^{\eta/2+i\theta/2},e^{-\eta/2-i\theta/2}) の固有値を比べて示してください。また SU(2)SU(2) に制限すると同値になることを確かめてください。

解答

同値な表現では表現行列の固有値が一致します。AA の固有値は e±(η+iθ)/2e^{\pm(\eta+i\theta)/2}、Aˉ\bar A の固有値は e±(η−iθ)/2e^{\pm(\eta-i\theta)/2} で、η≠0\eta\ne0、θ∉2πZ\theta\notin2\pi\mathbb{Z} なら集合として異なります(e(η+iθ)/2e^{(\eta+i\theta)/2} が e(η−iθ)/2e^{(\eta-i\theta)/2} に等しいには eiθ=1e^{i\theta}=1、e−(η−iθ)/2e^{-(\eta-i\theta)/2} に等しいには eη=1e^\eta=1 が必要)。よって同値ではありません。U∈SU(2)U\in SU(2) では σ2Uˉσ2=U\sigma^2\bar U\sigma^2=U なので、σ2\sigma^2 が Uˉ\bar U と UU の絡作用素です(η=0\eta=0 なら固有値の集合 {e±iθ/2}\lbrace e^{\pm i\theta/2}\rbrace は一致します)。物理では、これが左巻きと右巻きの Weyl スピノルが回転では区別できず、ブーストで区別されることに対応します。

演習 8.2標準

補題 3.2 と 演習 11.3[Lie 環の構造論] を使って、D(12,0)⊗D(0,12)≅D(12,12)D^{(\frac12,0)}\otimes D^{(0,\frac12)}\cong D^{(\frac12,\frac12)}、D(12,0)⊗D(12,0)≅D(1,0)⊕D(0,0)D^{(\frac12,0)}\otimes D^{(\frac12,0)}\cong D^{(1,0)}\oplus D^{(0,0)} を示してください。後者の D(1,0)D^{(1,0)} は何に対応しますか。

解答

群の表現のテンソル積の微分は X⊗1+1⊗XX\otimes1+1\otimes X なので、Lie 環の側でテンソル積をとればよいです。定理 4.1 の証明 (b) から D(j1,j2)D^{(j_1,j_2)} には V(2j2)⊠V(2j1)V(2j_2)\boxtimes V(2j_1) が対応するので、D(12,0)↔V(0)⊠V(1)D^{(\frac12,0)}\leftrightarrow V(0)\boxtimes V(1)、D(0,12)↔V(1)⊠V(0)D^{(0,\frac12)}\leftrightarrow V(1)\boxtimes V(0) です。因子ごとにテンソル積をとると (V(0)⊠V(1))⊗(V(1)⊠V(0))≅V(1)⊠V(1)(V(0)\boxtimes V(1))\otimes(V(1)\boxtimes V(0))\cong V(1)\boxtimes V(1)、(V(0)⊠V(1))⊗2≅V(0)⊠(V(1)⊗V(1))≅V(0)⊠(V(2)⊕V(0))(V(0)\boxtimes V(1))^{\otimes2}\cong V(0)\boxtimes(V(1)\otimes V(1))\cong V(0)\boxtimes(V(2)\oplus V(0)) で、証明 (a) の対応で群の表現に戻すと主張を得ます。D(1,0)D^{(1,0)} は反対称テンソル FμνF^{\mu\nu} の(反)自己双対部分、すなわち E±iB\boldsymbol E\pm i\boldsymbol B の一方に相当する 3 成分で、D(0,0)D^{(0,0)} は 2 つのスピノルの反対称な縮約 ϵabψaχb\epsilon^{ab}\psi_a\chi_b です。

演習 8.3標準

標準ブースト LL と L′L'(ともに §5 の条件を満たす)に対し、h(p)=L(p)−1L′(p)∈Gkh(p)=L(p)^{-1}L'(p)\in G_k とおき、(Vψ)(p)=σ(h(p))ψ(p)(V\psi)(p)=\sigma(h(p))\psi(p) が L′L' で定めた誘導表現から LL で定めた誘導表現へのユニタリな絡作用素であることを示してください。

解答

Λh(p)k=ΛL(p)−1p=k\Lambda_{h(p)}k=\Lambda_{L(p)}^{-1}p=k なので h(p)∈Gkh(p)\in G_k です。W′(A,p)=L′(ΛAp)−1AL′(p)=h(ΛAp)−1W(A,p)h(p)W'(A,p)=L'(\Lambda_Ap)^{-1}AL'(p)=h(\Lambda_Ap)^{-1}W(A,p)h(p) です。q=ΛA−1pq=\Lambda_A^{-1}p として

(VU′(a,A)ψ)(p)=eip⋅aσ(h(p))σ(h(p)−1W(A,q)h(q))ψ(q)=eip⋅aσ(W(A,q))σ(h(q))ψ(q)=(U(a,A)Vψ)(p)(VU'(a,A)\psi)(p)=e^{ip\cdot a}\sigma(h(p))\sigma\bigl(h(p)^{-1}W(A,q)h(q)\bigr)\psi(q)=e^{ip\cdot a}\sigma(W(A,q))\sigma(h(q))\psi(q)=(U(a,A)V\psi)(p)

です。σ(h(p))\sigma(h(p)) はユニタリなので VV もユニタリです。

  • E. Wigner, “On unitary representations of the inhomogeneous Lorentz group”, Annals of Mathematics 40 (1939), 149–204.
  • G. W. Mackey, “Induced representations of locally compact groups I”, Annals of Mathematics 55 (1952), 101–139.
  • V. S. Varadarajan, Geometry of Quantum Theory, 2nd ed., Springer, 1985.
  • G. B. Folland, A Course in Abstract Harmonic Analysis, CRC Press, 1995 — 第 6 章(誘導表現と非原始性定理)。
  • S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Vol. I, Cambridge University Press, 1995 — 2.5 節、5.6 節。
  • A. W. Knapp, Representation Theory of Semisimple Groups: An Overview Based on Examples, Princeton University Press, 1986 — 第 II 章(SL(2,C) の表現)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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