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Lie 環の構造論:Engel・Lie の定理、Killing 形式と Cartan の判定法、Weyl の完全可約性

対象読者: 学部の線形代数(ジョルダン標準形・トレース)と、本テーマ第 1 章の行列 Lie 群・Lie 環・指数写像を学んだ人。可解・冪零 Lie 環や Killing 形式は知らなくて構いません。

前提となる記事:行列 Lie 群と指数写像:閉部分群定理・BCH 公式・SU(2)→SO(3) と Spin 群、対角化とジョルダン標準形:変換が一番簡単に見える座標を探す

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行列の集まりに、交換子 [x,y]=xy−yx[x,y]=xy-yx を組み合わせて考えたものが Lie 環でした。大きな Lie 環を調べるとき、素朴な疑問は「どこまで小さな部品に分けられるのか」「分けた部品はそれ以上こわれない形なのか」です。この記事は、分けにくい部分とうまく分けられる部分を見分ける判定法を作り、最後に最も小さい非可換な例 sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の表現をすべて書き下します。

  • Lie 環は「可解な部分(根基)」と「半単純な部分」に分けて調べます。この記事は両者を判定する道具をそろえます。
  • Engel の定理: すべての ad⁡x\operatorname{ad}x(y↦[x,y]y\mapsto[x,y] という線形変換)が冪零なら Lie 環は冪零です。Lie の定理: C\mathbb{C} 上の可解 Lie 環の有限次元表現は同時に上三角化できます。
  • Cartan の判定法: tr⁡(xy)=0\operatorname{tr}(xy)=0(x∈[g,g]x\in[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]、y∈gy\in\mathfrak{g})なら可解です。証明の鍵は行列の Jordan–Chevalley 分解と、固有値の Q\mathbb{Q} 線形汎関数を使う巧妙な議論です。
  • その帰結として、半単純であることと Killing 形式 κ(x,y)=tr⁡(ad⁡xad⁡y)\kappa(x,y)=\operatorname{tr}(\operatorname{ad}x\operatorname{ad}y) が非退化であることは同値で、半単純 Lie 環は単純イデアルの直和に一意に分解し、微分はすべて内部微分です。
  • Weyl の完全可約性: 半単純 Lie 環の有限次元表現は既約表現の直和です。Casimir 作用素(表現ごとに決まる、すべての作用と可換な作用素)で 1 次元の補空間を切り出すのが要点です。
  • sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の既約表現は各次元に 1 つずつで、hh の固有値は m,m−2,…,−mm,m-2,\dots,-m です。これは次章以降のルート系と最高ウェイト理論の基礎になります。

前章 で、連結 Lie 群の準同型は Lie 環の準同型で決まり、単連結な群では Lie 環の準同型がそのまま群に持ち上がることを見ました。したがって Lie 群の表現を調べることの大部分は、Lie 環の表現を調べることに帰着します。この章からしばらくは、群を忘れて有限次元 Lie 環そのものの構造を調べます。

有限群の表現論では、Maschke の定理(定理 3.1[有限群の表現])によりすべての表現が既約表現の直和に分解しました。Lie 環ではそうはいきません。たとえば 1 次元の可換 Lie 環 C\mathbb{C} の表現 t↦(0t00)t\mapsto\begin{pmatrix}0&t\\0&0\end{pmatrix} は、不変部分空間 Ce1\mathbb{C}e_1 をもちますが、不変な補空間はもちません。上三角行列の Lie 環でも同様です。補空間がないことは次のように確かめられます。不変な 1 次元の補空間があるとして、その基底を v=ae1+be2v=ae_1+be_2 とすると e1e_1 と独立なので b≠0b\ne0 です。ところが φ(t)v=tb e1\varphi(t)v=tb\,e_1 は vv の定数倍になれないので、t≠0t\ne0 では不変になりません。このように「直和に分解しない」現象を起こすのは、可解な Lie 環です。

一方、su(n)\mathfrak{su}(n) や so(n)\mathfrak{so}(n) のようにコンパクト群からくる Lie 環では、群の上で平均をとってユニタリ化すれば完全可約性がすぐに出ます(命題 7.2[Haar 測度])。この章の目標は、群を使わずに純代数的に同じ結論を得ることです。そのための概念が 半単純性 で、その判定法が Killing 形式 です。Killing 形式は、コンパクト群の不変内積の代数的な類似物であり、物理で使う「生成子の規格化 tr⁡(TaTb)=12δab\operatorname{tr}(T^aT^b)=\frac12\delta^{ab}」もその一種です。

この章では体を C\mathbb{C} とし、Lie 環と表現はすべて有限次元とします(Engel の定理だけは任意の体で成り立ちます)。

Lie 環 g\mathfrak{g} の部分空間 a\mathfrak{a} が イデアル であるとは [g,a]⊂a[\mathfrak{g},\mathfrak{a}]\subset\mathfrak{a} を満たすことです。このとき商空間 g/a\mathfrak{g}/\mathfrak{a} に括弧が自然に入ります。イデアル a,b\mathfrak{a},\mathfrak{b} について a+b\mathfrak{a}+\mathfrak{b} と [a,b][\mathfrak{a},\mathfrak{b}] もイデアルです(後者は Jacobi 恒等式による)。中心 Z(g)={x:[x,g]=0}Z(\mathfrak{g})=\lbrace x : [x,\mathfrak{g}]=0\rbrace もイデアルです。

g\mathfrak{g} の 表現(g\mathfrak{g} 加群)とは、Lie 環の準同型 φ ⁣:g→gl(V)\varphi\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(V) のことで、φ([x,y])=φ(x)φ(y)−φ(y)φ(x)\varphi([x,y])=\varphi(x)\varphi(y)-\varphi(y)\varphi(x) を満たします。φ(x)v\varphi(x)v を x⋅vx\cdot v と略記します。部分加群・既約・直和などの言葉は群の表現と同じです。随伴表現 ad⁡ ⁣:g→gl(g)\operatorname{ad}\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(\mathfrak{g})、ad⁡x(y)=[x,y]\operatorname{ad}x(y)=[x,y] が表現であることは Jacobi 恒等式そのものです。加群 V,WV,W があれば、Hom⁡(V,W)\operatorname{Hom}(V,W) は (x⋅f)(v)=x⋅f(v)−f(x⋅v)(x\cdot f)(v)=x\cdot f(v)-f(x\cdot v) で加群になり、x⋅f=0x\cdot f=0(すべての xx)は ff が加群の準同型であることと同値です。

既約加群については Schur の補題 が使えます。VV が既約で T∈End⁡(V)T\in\operatorname{End}(V) がすべての φ(x)\varphi(x) と可換なら、TT の固有値 λ\lambda について ker⁡(T−λ)\ker(T-\lambda) は 00 でない部分加群なので VV 全体、すなわち T=λIT=\lambda I です(定理 4.1[有限群の表現] と同じ議論です)。

定義 3.1(可解・冪零・半単純)↗

g(0)=g\mathfrak{g}^{(0)}=\mathfrak{g}、g(k+1)=[g(k),g(k)]\mathfrak{g}^{(k+1)}=[\mathfrak{g}^{(k)},\mathfrak{g}^{(k)}](導来列)、C0g=gC^0\mathfrak{g}=\mathfrak{g}、Ck+1g=[g,Ckg]C^{k+1}\mathfrak{g}=[\mathfrak{g},C^k\mathfrak{g}](降中心列)とおく。

  1. ある kk で g(k)=0\mathfrak{g}^{(k)}=0 となるとき g\mathfrak{g} は 可解 である。
  2. ある kk で Ckg=0C^k\mathfrak{g}=0 となるとき g\mathfrak{g} は 冪零 である。
  3. g\mathfrak{g} の最大の可解イデアルを 根基 Rad⁡g\operatorname{Rad}\mathfrak{g} という。Rad⁡g=0\operatorname{Rad}\mathfrak{g}=0 のとき g\mathfrak{g} は 半単純 である。g\mathfrak{g} が可換でなく、00 と自分以外のイデアルをもたないとき 単純 である。

g(k)⊂Ckg\mathfrak{g}^{(k)}\subset C^k\mathfrak{g} なので冪零なら可解です。上三角行列全体 bn\mathfrak{b}_n は可解、狭義上三角行列全体 nn\mathfrak{n}_n は冪零で、bn\mathfrak{b}_n は n≥2n\ge2 で冪零ではありません([diag⁡(1,0,… ),E12]=E12[\operatorname{diag}(1,0,\dots),E_{12}]=E_{12} が消えないので)。

命題 3.2(可解性の遺伝と根基の存在)✓

  1. 可解 Lie 環の部分環と準同型像は可解である。
  2. a\mathfrak{a} が可解イデアルで g/a\mathfrak{g}/\mathfrak{a} が可解なら、g\mathfrak{g} は可解である。
  3. 可解イデアル a,b\mathfrak{a},\mathfrak{b} の和 a+b\mathfrak{a}+\mathfrak{b} は可解イデアルである。したがって根基は存在し、g/Rad⁡g\mathfrak{g}/\operatorname{Rad}\mathfrak{g} は半単純である。
証明(命題 3.2)

1 は h(k)⊂g(k)\mathfrak{h}^{(k)}\subset\mathfrak{g}^{(k)}、π(g)(k)=π(g(k))\pi(\mathfrak{g})^{(k)}=\pi(\mathfrak{g}^{(k)}) からです。2: (g/a)(k)=0(\mathfrak{g}/\mathfrak{a})^{(k)}=0 なら g(k)⊂a\mathfrak{g}^{(k)}\subset\mathfrak{a} で、g(k+l)⊂a(l)=0\mathfrak{g}^{(k+l)}\subset\mathfrak{a}^{(l)}=0 です。3: (a+b)/b≅a/(a∩b)(\mathfrak{a}+\mathfrak{b})/\mathfrak{b}\cong\mathfrak{a}/(\mathfrak{a}\cap\mathfrak{b}) は可解な a\mathfrak{a} の像なので可解で、2 から a+b\mathfrak{a}+\mathfrak{b} は可解です。有限次元なので次元最大の可解イデアルがあり、3 によりそれはすべての可解イデアルを含みます。g/Rad⁡g\mathfrak{g}/\operatorname{Rad}\mathfrak{g} の可解イデアルの逆像は 2 により可解なので Rad⁡g\operatorname{Rad}\mathfrak{g} に含まれ、よって 00 です。

補題 4.1(冪零行列の ad は冪零)✓

x∈gl(V)x\in\mathfrak{gl}(V) が冪零なら、ad⁡x ⁣:gl(V)→gl(V)\operatorname{ad}x\colon\mathfrak{gl}(V)\to\mathfrak{gl}(V) も冪零である。

証明(補題 4.1)

λx(y)=xy\lambda_x(y)=xy、ρx(y)=yx\rho_x(y)=yx とおくと ad⁡x=λx−ρx\operatorname{ad}x=\lambda_x-\rho_x で、λx\lambda_x と ρx\rho_x は可換です。xk=0x^k=0 なら λxk=ρxk=0\lambda_x^k=\rho_x^k=0 で、二項展開から (λx−ρx)2k=0(\lambda_x-\rho_x)^{2k}=0 です。

定理 4.2(Engel の定理(線形版))✓

g⊂gl(V)\mathfrak{g}\subset\mathfrak{gl}(V) を部分 Lie 環とし、V≠0V\ne0、g\mathfrak{g} の元はすべて冪零な線形変換であるとする。このとき v≠0v\ne0 で、すべての x∈gx\in\mathfrak{g} について xv=0x v=0 となるものが存在する。

証明の方針は、次元についての帰納法です。極大な真部分環が「余次元 1(次元がちょうど 1 小さい)のイデアル」になることを示し、その共通の核を使って 1 つ次元の大きい場合に持ち上げます。

証明(定理 4.2)

dim⁡g\dim\mathfrak{g} についての帰納法です。dim⁡g≤1\dim\mathfrak{g}\le1 なら、冪零な 1 つの線形変換の核をとればよいです。dim⁡g≥2\dim\mathfrak{g}\ge2 とし、k\mathfrak{k} を g\mathfrak{g} の極大な真部分環とします(00 は真部分環なので存在します)。

k\mathfrak{k} は余次元 1 のイデアル。 k\mathfrak{k} は ad⁡\operatorname{ad} で g/k\mathfrak{g}/\mathfrak{k} に作用し、補題 4.1 によりその作用は冪零です。dim⁡k<dim⁡g\dim\mathfrak{k}\lt\dim\mathfrak{g} なので、帰納法の仮定(k\mathfrak{k} の像の部分環に適用)から y∉ky\notin\mathfrak{k} で [k,y]⊂k[\mathfrak{k},y]\subset\mathfrak{k} となるものがあります。k+Cy\mathfrak{k}+\mathbb{C}y は k\mathfrak{k} より真に大きい部分環なので g\mathfrak{g} に等しく、k\mathfrak{k} は余次元 1 のイデアルです。

共通の核。 帰納法の仮定から W={v:kv=0}≠0W=\lbrace v : \mathfrak{k}v=0\rbrace\ne0 です。x∈gx\in\mathfrak{g}、w∈Ww\in W、k∈kk\in\mathfrak{k} について kxw=xkw−[x,k]w=0kxw=xkw-[x,k]w=0([x,k]∈k[x,k]\in\mathfrak{k})なので WW は g\mathfrak{g} で不変です。y∣Wy|_W は冪零なので WW の中に yv=0yv=0 となる v≠0v\ne0 があり、g=k+Cy\mathfrak{g}=\mathfrak{k}+\mathbb{C}y なので gv=0\mathfrak{g}v=0 です。

系 4.3(Engel の定理)✓

g\mathfrak{g} が冪零であることと、すべての x∈gx\in\mathfrak{g} について ad⁡x\operatorname{ad}x が冪零であることは同値である。

証明(系 4.3)

冪零で Ckg=0C^k\mathfrak{g}=0 なら (ad⁡x)kg⊂Ckg=0(\operatorname{ad}x)^k\mathfrak{g}\subset C^k\mathfrak{g}=0 です。逆を dim⁡g\dim\mathfrak{g} の帰納法で示します。定理 4.2 を ad⁡g⊂gl(g)\operatorname{ad}\mathfrak{g}\subset\mathfrak{gl}(\mathfrak{g}) に適用すると、x0≠0x_0\ne0 で [g,x0]=0[\mathfrak{g},x_0]=0 となるものがあり、Z(g)≠0Z(\mathfrak{g})\ne0 です。g/Z(g)\mathfrak{g}/Z(\mathfrak{g}) でも ad⁡\operatorname{ad} は冪零なので、帰納法の仮定から冪零で、Ck(g/Z)=0C^k(\mathfrak{g}/Z)=0 なら Ckg⊂ZC^k\mathfrak{g}\subset Z、Ck+1g=0C^{k+1}\mathfrak{g}=0 です。

定理 5.1(Lie の定理)✓

g⊂gl(V)\mathfrak{g}\subset\mathfrak{gl}(V) を可解な部分 Lie 環、V≠0V\ne0 を C\mathbb{C} 上の有限次元空間とする。このとき g\mathfrak{g} のすべての元の共通の固有ベクトルが存在する。したがって VV の基底を適当にとると、g\mathfrak{g} のすべての元は上三角行列で表される。

証明の方針は Engel の定理と同じく帰納法です。余次元 1 のイデアル k\mathfrak{k} の共通固有ベクトルの空間 WW をとり、残りの 1 方向 zz が WW の外へ出さないこと(下の「不変性の補題」)を確かめれば、zz の固有ベクトルが共通の固有ベクトルになります。補題の部分は、w,xw,x2w,…w,xw,x^2w,\dots を並べて跡を比べるという少し細かい計算です。

証明(定理 5.1)

dim⁡g\dim\mathfrak{g} の帰納法です。g=0\mathfrak{g}=0 なら自明です。g\mathfrak{g} は可解なので [g,g]≠g[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]\ne\mathfrak{g} で、[g,g][\mathfrak{g},\mathfrak{g}] を含む余次元 1 の部分空間 k\mathfrak{k} はイデアルです([g,k]⊂[g,g]⊂k[\mathfrak{g},\mathfrak{k}]\subset[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]\subset\mathfrak{k})。g=k+Cz\mathfrak{g}=\mathfrak{k}+\mathbb{C}z と書きます。k\mathfrak{k} は可解なので、帰納法の仮定から線形形式 λ ⁣:k→C\lambda\colon\mathfrak{k}\to\mathbb{C} で

W={v∈V:kv=λ(k)v (∀k∈k)}≠0W=\lbrace v\in V : kv=\lambda(k)v\ (\forall k\in\mathfrak{k})\rbrace\ne0

となるものがあります。

不変性の補題: WW は g\mathfrak{g} で不変。 x∈gx\in\mathfrak{g}、w∈Ww\in W について kxw=xkw−[x,k]w=λ(k)xw−λ([x,k])wkxw=xkw-[x,k]w=\lambda(k)xw-\lambda([x,k])w なので、λ([x,k])=0\lambda([x,k])=0 を示せば十分です。w,xw,x2w,…w,xw,x^2w,\dots が線形独立である最大の個数を nn とし、Wi=span⁡(w,xw,…,xi−1w)W_i=\operatorname{span}(w,xw,\dots,x^{i-1}w) とおきます。k∈kk\in\mathfrak{k} について、ii の帰納法で

kxiw≡λ(k)xiw(modWi)kx^iw\equiv\lambda(k)x^iw\pmod{W_i}

を示します。i=0i=0 は定義です。kxiw=xkxi−1w−[x,k]xi−1wkx^iw=xkx^{i-1}w-[x,k]x^{i-1}w で、帰納法の仮定(kk と [x,k][x,k] の両方に適用)から右辺は x(λ(k)xi−1w+Wi−1)+Wi⊂λ(k)xiw+Wix(\lambda(k)x^{i-1}w+W_{i-1})+W_{i}\subset\lambda(k)x^iw+W_i です。よって WnW_n は kk で不変で、基底 w,…,xn−1ww,\dots,x^{n-1}w に関して k∣Wnk|_{W_n} は対角成分 λ(k)\lambda(k) の上三角行列、tr⁡Wnk=nλ(k)\operatorname{tr}_{W_n}k=n\lambda(k) です。WnW_n は xx でも不変なので、[x,k]∈k[x,k]\in\mathfrak{k} に適用して nλ([x,k])=tr⁡Wn[x,k]=tr⁡Wn(xk−kx)=0n\lambda([x,k])=\operatorname{tr}_{W_n}[x,k]=\operatorname{tr}_{W_n}(xk-kx)=0 です。標数 00 なので λ([x,k])=0\lambda([x,k])=0 です。

結論。 WW は zz で不変なので、C\mathbb{C} が代数閉であることから z∣Wz|_W の固有ベクトル vv があり、これが共通の固有ベクトルです。上三角化は、V/CvV/\mathbb{C}v に帰納的に適用して得られます。

系 5.2

g\mathfrak{g} が可解であることと [g,g][\mathfrak{g},\mathfrak{g}] が冪零であることは同値である。

証明(系 5.2)

冪零なら可解なので、[g,g][\mathfrak{g},\mathfrak{g}] が冪零なら g\mathfrak{g} は 命題 3.2 の 2 により可解です。逆に可解なら、定理 5.1 を ad⁡g\operatorname{ad}\mathfrak{g} に適用して ad⁡x\operatorname{ad}x をすべて上三角にできます。交換子は狭義上三角なので、x∈[g,g]x\in[\mathfrak{g},\mathfrak{g}] について ad⁡gx\operatorname{ad}_{\mathfrak{g}}x は冪零、その制限 ad⁡[g,g]x\operatorname{ad}_{[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]}x も冪零で、系 4.3 から [g,g][\mathfrak{g},\mathfrak{g}] は冪零です。

命題 6.1(Jordan–Chevalley 分解)✓

x∈End⁡(V)x\in\operatorname{End}(V) に対し、対角化可能な xsx_s と冪零な xnx_n で x=xs+xnx=x_s+x_n、xsxn=xnxsx_sx_n=x_nx_s を満たすものがただ 1 組存在する。さらに定数項をもたない多項式 p,qp,q で xs=p(x)x_s=p(x)、xn=q(x)x_n=q(x) となるものがある。

証明(命題 6.1)

xx の相異なる固有値を a1,…,ara_1,\dots,a_r、特性多項式を ∏i(T−ai)mi\prod_i(T-a_i)^{m_i} とすると、V=⨁iViV=\bigoplus_iV_i、Vi=ker⁡(x−ai)miV_i=\ker(x-a_i)^{m_i}(一般固有空間分解)です(定理 6.2[対角化とジョルダン標準形] の Jordan 標準形から読み取れます)。多項式 (T−ai)mi(T-a_i)^{m_i} と、00 が固有値でなければさらに TT は互いに素なので、中国式剰余定理により

p(T)≡ai(mod(T−ai)mi) (各 i),p(T)≡0(modT)p(T)\equiv a_i\pmod{(T-a_i)^{m_i}}\ (\text{各 } i),\qquad p(T)\equiv0\pmod T

となる pp があります(互いに素な f,gf,g について C[T]\mathbb{C}[T] が単項イデアル整域であることから uf+vg=1uf+vg=1 となる u,vu,v がとれ、これを組み合わせて作れます。定理 2.5[多項式環と体の拡大])。p(x)p(x) は ViV_i 上で aia_i 倍なので対角化可能で、x−p(x)x-p(x) は ViV_i 上で x−aix-a_i に等しく冪零です。xs=p(x)x_s=p(x)、q(T)=T−p(T)q(T)=T-p(T) とおけば存在がいえます。

一意性: x=s′+n′x=s'+n' を別の分解とすると、s′,n′s',n' は xx と可換なので p(x)=xsp(x)=x_s、q(x)=xnq(x)=x_n とも可換です。xs−s′=n′−xnx_s-s'=n'-x_n の左辺は可換な対角化可能変換の差なので対角化可能、右辺は可換な冪零変換の差なので冪零です。対角化可能かつ冪零なら 00 です。

補題 6.2(ad と Jordan 分解)✓

x∈gl(V)x\in\mathfrak{gl}(V) について (ad⁡x)s=ad⁡xs(\operatorname{ad}x)_s=\operatorname{ad}x_s、(ad⁡x)n=ad⁡xn(\operatorname{ad}x)_n=\operatorname{ad}x_n である。

証明(補題 6.2)

xsx_s を対角化する基底 viv_i(xsvi=aivix_sv_i=a_iv_i)をとると、行列単位 EijE_{ij} について ad⁡xs(Eij)=(ai−aj)Eij\operatorname{ad}x_s(E_{ij})=(a_i-a_j)E_{ij} なので ad⁡xs\operatorname{ad}x_s は対角化可能です。ad⁡xn\operatorname{ad}x_n は 補題 4.1 により冪零で、[ad⁡xs,ad⁡xn]=ad⁡[xs,xn]=0[\operatorname{ad}x_s,\operatorname{ad}x_n]=\operatorname{ad}[x_s,x_n]=0 です。命題 6.1 の一意性から結論を得ます。

この節の目標は、「跡の条件を調べるだけで可解かどうかが分かる」という判定法です。まず次の補題で、跡がたくさん消えていれば行列が冪零になることを示します。固有値は複素数なので扱いにくく、そこで Q\mathbb{Q} 線形写像(有理数倍と和を保つ写像)ff を使って固有値を有理数に写し、「有理数の二乗和が 00 なら全部 00」という性質を使います。

補題 7.1(跡が消えれば冪零)✓

A⊂BA\subset B を gl(V)\mathfrak{gl}(V) の部分空間とし、M={x∈gl(V):[x,B]⊂A}M=\lbrace x\in\mathfrak{gl}(V) : [x,B]\subset A\rbrace とおく。x∈Mx\in M がすべての y∈My\in M について tr⁡(xy)=0\operatorname{tr}(xy)=0 を満たすならば、xx は冪零である。

証明(補題 7.1)

x=s+nx=s+n を Jordan–Chevalley 分解とし、ss を対角化する基底で s=diag⁡(a1,…,am)s=\operatorname{diag}(a_1,\dots,a_m) とします。aia_i たちが Q\mathbb{Q} 上張る C\mathbb{C} の部分空間を EE とし、E=0E=0、すなわち s=0s=0 を示します。そのためには、任意の Q\mathbb{Q} 線形写像 f ⁣:E→Qf\colon E\to\mathbb{Q} が 00 であることを示せば十分です。

y=diag⁡(f(a1),…,f(am))y=\operatorname{diag}(f(a_1),\dots,f(a_m)) とおきます。行列単位について ad⁡s(Eij)=(ai−aj)Eij\operatorname{ad}s(E_{ij})=(a_i-a_j)E_{ij}、ad⁡y(Eij)=(f(ai)−f(aj))Eij\operatorname{ad}y(E_{ij})=(f(a_i)-f(a_j))E_{ij} です。ai−aj=ak−ala_i-a_j=a_k-a_l なら ff の線形性から f(ai)−f(aj)=f(ak)−f(al)f(a_i)-f(a_j)=f(a_k)-f(a_l) なので、Lagrange 補間により定数項のない多項式 rr で r(ai−aj)=f(ai)−f(aj)r(a_i-a_j)=f(a_i)-f(a_j)(すべての i,ji,j)となるものがあり(0↦00\mapsto0 も整合的です)、ad⁡y=r(ad⁡s)\operatorname{ad}y=r(\operatorname{ad}s) です。補題 6.2 と 命題 6.1 により ad⁡s=(ad⁡x)s\operatorname{ad}s=(\operatorname{ad}x)_s は ad⁡x\operatorname{ad}x の定数項のない多項式なので、ad⁡y\operatorname{ad}y も ad⁡x\operatorname{ad}x の定数項のない多項式です。ad⁡x(B)⊂A⊂B\operatorname{ad}x(B)\subset A\subset B から ad⁡y(B)⊂A\operatorname{ad}y(B)\subset A、すなわち y∈My\in M です。

仮定から tr⁡(xy)=0\operatorname{tr}(xy)=0 です。yy も ss の多項式(ai↦f(ai)a_i\mapsto f(a_i) の補間)なので nn と可換で、nyny は冪零、tr⁡(ny)=0\operatorname{tr}(ny)=0 です。よって 0=tr⁡(sy)=∑iaif(ai)0=\operatorname{tr}(sy)=\sum_ia_if(a_i) です。左辺は EE の元なので ff を施すと ∑if(ai)2=0\sum_if(a_i)^2=0 となり、f(ai)∈Qf(a_i)\in\mathbb{Q} だから f(ai)=0f(a_i)=0、f=0f=0 です。

この証明の要は、複素数の固有値 aia_i をそのまま扱うのではなく、Q\mathbb{Q} 線形汎関数 ff で有理数に「射影」して、∑f(ai)2=0\sum f(a_i)^2=0 という実数の正値性を使えるようにするところです。aia_i が実数なら y=sˉ=sy=\bar s=s として ∑ai2=0\sum a_i^2=0 から直ちに結論が出ますが、一般の複素数ではこの手は使えません。ff をとる操作は「固有値を共役で実数に寄せる」ことの代数的な代用品になっています。

定理 7.2(Cartan の判定法)✓

g⊂gl(V)\mathfrak{g}\subset\mathfrak{gl}(V) を部分 Lie 環とする。すべての x∈[g,g]x\in[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]、y∈gy\in\mathfrak{g} について tr⁡(xy)=0\operatorname{tr}(xy)=0 ならば、g\mathfrak{g} は可解である。

証明(定理 7.2)

系 5.2 により、[g,g][\mathfrak{g},\mathfrak{g}] が冪零であることを示せばよく、補題 4.1 と 系 4.3 により、[g,g][\mathfrak{g},\mathfrak{g}] の各元が冪零な線形変換であることを示せば十分です。補題 7.1 を A=[g,g]A=[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]、B=gB=\mathfrak{g} に適用します。M={x:[x,g]⊂[g,g]}⊃gM=\lbrace x : [x,\mathfrak{g}]\subset[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]\rbrace\supset\mathfrak{g} です。x=∑i[ai,bi]∈[g,g]x=\sum_i[a_i,b_i]\in[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]、y∈My\in M について

tr⁡([a,b]y)=tr⁡(aby−bay)=tr⁡(a[b,y])\operatorname{tr}([a,b]y)=\operatorname{tr}(aby-bay)=\operatorname{tr}(a[b,y])

で、[b,y]=−[y,b]∈[g,g][b,y]=-[y,b]\in[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]、a∈ga\in\mathfrak{g} なので仮定から 00 です。よって tr⁡(xy)=0\operatorname{tr}(xy)=0 で、補題から xx は冪零です。

定義 7.3(Killing 形式)↗

Lie 環 g\mathfrak{g} の対称双線形形式 κ(x,y)=tr⁡(ad⁡x ad⁡y)\kappa(x,y)=\operatorname{tr}(\operatorname{ad}x\,\operatorname{ad}y) を Killing 形式 という。

Killing 形式は 不変 です: κ([x,y],z)=κ(x,[y,z])\kappa([x,y],z)=\kappa(x,[y,z])。tr⁡([X,Y]Z)=tr⁡(X[Y,Z])\operatorname{tr}([X,Y]Z)=\operatorname{tr}(X[Y,Z]) を X=ad⁡xX=\operatorname{ad}x などに適用すればわかります。したがって、イデアル a\mathfrak{a} の直交補空間 a⊥={x:κ(x,a)=0}\mathfrak{a}^\perp=\lbrace x : \kappa(x,\mathfrak{a})=0\rbrace もイデアルです。また a\mathfrak{a} がイデアルなら a\mathfrak{a} 自身の Killing 形式は κ∣a×a\kappa|_{\mathfrak{a}\times\mathfrak{a}} です(x,y∈ax,y\in\mathfrak{a} なら ad⁡xad⁡y\operatorname{ad}x\operatorname{ad}y は g\mathfrak{g} を a\mathfrak{a} に写すので、跡は a\mathfrak{a} 上の跡に等しい)。

例 7.4(sl(2,C) の Killing 形式)

sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の基底 e=(0100)e=\begin{pmatrix}0&1\\0&0\end{pmatrix}、f=(0010)f=\begin{pmatrix}0&0\\1&0\end{pmatrix}、h=(100−1)h=\begin{pmatrix}1&0\\0&-1\end{pmatrix} は [h,e]=2e[h,e]=2e、[h,f]=−2f[h,f]=-2f、[e,f]=h[e,f]=h を満たします。基底 (e,h,f)(e,h,f) で ad⁡h=diag⁡(2,0,−2)\operatorname{ad}h=\operatorname{diag}(2,0,-2) なので κ(h,h)=8\kappa(h,h)=8 です。ad⁡e\operatorname{ad}e は h↦−2eh\mapsto-2e、f↦hf\mapsto h、ad⁡f\operatorname{ad}f は e↦−he\mapsto-h、h↦2fh\mapsto2f なので ad⁡ead⁡f\operatorname{ad}e\operatorname{ad}f は e↦2ee\mapsto2e、h↦2hh\mapsto2h、f↦0f\mapsto0 で κ(e,f)=4\kappa(e,f)=4 です。残りは 00 で、κ(x,y)=4tr⁡(xy)\kappa(x,y)=4\operatorname{tr}(xy) が成り立ちます。行列式は det⁡(004080400)=−128≠0\det\begin{pmatrix}0&0&4\\0&8&0\\4&0&0\end{pmatrix}=-128\ne0 なので非退化です。

定理 8.1(半単純性と Killing 形式)✓

g\mathfrak{g} が半単純であることと、Killing 形式 κ\kappa が非退化であることは同値である。

証明(定理 8.1)

S=g⊥={x:κ(x,g)=0}S=\mathfrak{g}^\perp=\lbrace x : \kappa(x,\mathfrak{g})=0\rbrace とおくと、SS はイデアルです。

半単純 ⇒ 非退化。 x∈[S,S]x\in[S,S]、y∈Sy\in S について tr⁡(ad⁡xad⁡y)=0\operatorname{tr}(\operatorname{ad}x\operatorname{ad}y)=0 なので、定理 7.2 を ad⁡g(S)⊂gl(g)\operatorname{ad}_{\mathfrak{g}}(S)\subset\mathfrak{gl}(\mathfrak{g}) に適用すると ad⁡g(S)\operatorname{ad}_{\mathfrak{g}}(S) は可解です。ad⁡\operatorname{ad} の SS 上の核 S∩Z(g)S\cap Z(\mathfrak{g}) は可換なので、命題 3.2 の 2 から SS は可解なイデアルで、S⊂Rad⁡g=0S\subset\operatorname{Rad}\mathfrak{g}=0 です。

非退化 ⇒ 半単純。 まず可換イデアル a\mathfrak{a} は SS に含まれることを示します。x∈ax\in\mathfrak{a}、y∈gy\in\mathfrak{g} について、ad⁡xad⁡y\operatorname{ad}x\operatorname{ad}y は g\mathfrak{g} を a\mathfrak{a} に写し、a\mathfrak{a} を ad⁡x(a)=0\operatorname{ad}x(\mathfrak{a})=0 に写すので (ad⁡xad⁡y)2=0(\operatorname{ad}x\operatorname{ad}y)^2=0、したがって κ(x,y)=0\kappa(x,y)=0 です。Rad⁡g≠0\operatorname{Rad}\mathfrak{g}\ne0 なら、その導来列の最後の 00 でない項 a\mathfrak{a} は可換で、Jacobi 恒等式から g\mathfrak{g} のイデアルです(イデアル b\mathfrak{b} について [b,b][\mathfrak{b},\mathfrak{b}] はイデアル)。よって 0≠a⊂S0\ne\mathfrak{a}\subset S となり、S=0S=0 に反します。

定理 8.2(単純イデアルへの分解)✓

g\mathfrak{g} を半単純とする。g\mathfrak{g} の単純イデアル g1,…,gr\mathfrak{g}_1,\dots,\mathfrak{g}_r で g=g1⊕⋯⊕gr\mathfrak{g}=\mathfrak{g}_1\oplus\cdots\oplus\mathfrak{g}_r(Lie 環の直和)となるものがあり、g\mathfrak{g} の単純イデアルはこれらに限られる。さらに [g,g]=g[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=\mathfrak{g} であり、半単純 Lie 環のイデアルと商は半単純である。

証明(定理 8.2)

a\mathfrak{a} をイデアルとすると a⊥\mathfrak{a}^\perp もイデアルで、a∩a⊥\mathfrak{a}\cap\mathfrak{a}^\perp 上では κ=0\kappa=0 なので、定理 7.2 を前定理の証明と同様に適用して a∩a⊥\mathfrak{a}\cap\mathfrak{a}^\perp は可解、よって 00 です。κ\kappa は非退化なので dim⁡a⊥=dim⁡g−dim⁡a\dim\mathfrak{a}^\perp=\dim\mathfrak{g}-\dim\mathfrak{a} で、g=a⊕a⊥\mathfrak{g}=\mathfrak{a}\oplus\mathfrak{a}^\perp です。[a,a⊥]⊂a∩a⊥=0[\mathfrak{a},\mathfrak{a}^\perp]\subset\mathfrak{a}\cap\mathfrak{a}^\perp=0 なので、これは Lie 環の直和で、a\mathfrak{a} のイデアルは g\mathfrak{g} のイデアルです。a\mathfrak{a} の Killing 形式は κ∣a\kappa|_{\mathfrak{a}} で、直和分解から非退化なので a\mathfrak{a} は半単純です。g/a≅a⊥\mathfrak{g}/\mathfrak{a}\cong\mathfrak{a}^\perp も同様です。

g\mathfrak{g} の極小な 00 でないイデアル g1\mathfrak{g}_1 をとると、そのイデアルは g\mathfrak{g} のイデアルなので g1\mathfrak{g}_1 は単純です(可換なら Rad⁡g≠0\operatorname{Rad}\mathfrak{g}\ne0 になるので非可換)。g=g1⊕g1⊥\mathfrak{g}=\mathfrak{g}_1\oplus\mathfrak{g}_1^\perp として g1⊥\mathfrak{g}_1^\perp に帰納法を適用すれば分解を得ます。i\mathfrak{i} を単純イデアルとすると、Z(g)=0Z(\mathfrak{g})=0(可換イデアル)なので [i,g]=⨁j[i,gj]≠0[\mathfrak{i},\mathfrak{g}]=\bigoplus_j[\mathfrak{i},\mathfrak{g}_j]\ne0 で、これは i\mathfrak{i} の 00 でないイデアルなので i\mathfrak{i} に等しく、ある jj で [i,gj]≠0[\mathfrak{i},\mathfrak{g}_j]\ne0 です。[i,gj][\mathfrak{i},\mathfrak{g}_j] は i\mathfrak{i} と gj\mathfrak{g}_j の両方のイデアルなので i=[i,gj]=gj\mathfrak{i}=[\mathfrak{i},\mathfrak{g}_j]=\mathfrak{g}_j です。最後に、単純 Lie 環は非可換なので [gj,gj]=gj[\mathfrak{g}_j,\mathfrak{g}_j]=\mathfrak{g}_j で、[g,g]=g[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=\mathfrak{g} です。

定理 8.3(半単純 Lie 環の微分は内部微分)✓

g\mathfrak{g} を半単純とすると、ad⁡ ⁣:g→Der⁡g\operatorname{ad}\colon\mathfrak{g}\to\operatorname{Der}\mathfrak{g} は同型である。ここで Der⁡g\operatorname{Der}\mathfrak{g} は δ[x,y]=[δx,y]+[x,δy]\delta[x,y]=[\delta x,y]+[x,\delta y] を満たす線形写像全体である。

証明(定理 8.3)

Z(g)=0Z(\mathfrak{g})=0 なので ad⁡\operatorname{ad} は単射です。D=Der⁡gD=\operatorname{Der}\mathfrak{g}、M=ad⁡gM=\operatorname{ad}\mathfrak{g} とおくと、[δ,ad⁡x]=ad⁡(δx)[\delta,\operatorname{ad}x]=\operatorname{ad}(\delta x) なので MM は DD のイデアルです。DD の Killing 形式 κD\kappa_D を MM に制限したものは M≅gM\cong\mathfrak{g} の Killing 形式で、非退化です。よって M⊥M^\perp(κD\kappa_D に関する直交)について M∩M⊥=0M\cap M^\perp=0 で、dim⁡M⊥≥dim⁡D−dim⁡M\dim M^\perp\ge\dim D-\dim M から D=M⊕M⊥D=M\oplus M^\perp です。M⊥M^\perp はイデアルなので [M,M⊥]⊂M∩M⊥=0[M,M^\perp]\subset M\cap M^\perp=0 で、δ∈M⊥\delta\in M^\perp なら ad⁡(δx)=[δ,ad⁡x]=0\operatorname{ad}(\delta x)=[\delta,\operatorname{ad}x]=0、δx∈Z(g)=0\delta x\in Z(\mathfrak{g})=0 です。よって M⊥=0M^\perp=0、D=MD=M です。

定理 8.4(抽象 Jordan 分解)✓

g\mathfrak{g} を半単純とする。各 x∈gx\in\mathfrak{g} に対し、x=s+nx=s+n、[s,n]=0[s,n]=0、ad⁡s\operatorname{ad}s は対角化可能、ad⁡n\operatorname{ad}n は冪零、を満たす s,n∈gs,n\in\mathfrak{g} がただ 1 組存在する。ad⁡s\operatorname{ad}s が対角化可能な元 ss を 半単純元 と呼ぶ。

証明の流れは次のとおりです。微分(積の規則 δ[x,y]=[δx,y]+[x,δy]\delta[x,y]=[\delta x,y]+[x,\delta y] を満たす線形写像)の対角化可能な部分も微分になることを示し、半単純なら微分はすべて内部微分 ad⁡s\operatorname{ad}s の形なので、それを ss と書き戻して x=s+nx=s+n を作ります。

証明(定理 8.4)

δ∈Der⁡g\delta\in\operatorname{Der}\mathfrak{g} なら δs\delta_s も微分であることを示します。ga\mathfrak{g}_a を δ\delta の固有値 aa の一般固有空間とすると、

(δ−a−b)m[x,y]=∑i=0m(mi)[(δ−a)ix,(δ−b)m−iy](\delta-a-b)^m[x,y]=\sum_{i=0}^m\binom mi\bigl[(\delta-a)^ix,(\delta-b)^{m-i}y\bigr]

(mm の帰納法と微分の性質から)により [ga,gb]⊂ga+b[\mathfrak{g}_a,\mathfrak{g}_b]\subset\mathfrak{g}_{a+b} です。δs\delta_s は ga\mathfrak{g}_a 上で aa 倍なので、x∈gax\in\mathfrak{g}_a、y∈gby\in\mathfrak{g}_b について δs[x,y]=(a+b)[x,y]=[δsx,y]+[x,δsy]\delta_s[x,y]=(a+b)[x,y]=[\delta_sx,y]+[x,\delta_sy] で、δs\delta_s は微分、δn=δ−δs\delta_n=\delta-\delta_s も微分です。定理 8.3 から (ad⁡x)s=ad⁡s(\operatorname{ad}x)_s=\operatorname{ad}s、(ad⁡x)n=ad⁡n(\operatorname{ad}x)_n=\operatorname{ad}n となる s,ns,n があり、ad⁡\operatorname{ad} の単射性から x=s+nx=s+n、[s,n]=0[s,n]=0 です。一意性は 命題 6.1 の一意性と ad⁡\operatorname{ad} の単射性から従います。

この定理は次章で決定的な役割を果たします。半単純 Lie 環 g≠0\mathfrak{g}\ne0 のすべての元が ad⁡\operatorname{ad} 冪零だとすると、系 4.3 により g\mathfrak{g} は冪零、したがって可解になり、半単純性に反します。よって g\mathfrak{g} には 00 でない半単純元 ss があり、ad⁡s\operatorname{ad}s の固有空間分解が使えます。これを可換な半単純元の族に広げたものがルート空間分解です。なお、g⊂gl(V)\mathfrak{g}\subset\mathfrak{gl}(V) が半単純な線形 Lie 環のとき、抽象 Jordan 分解と行列としての Jordan–Chevalley 分解は一致します。この記事ではこの事実を使わず、次章以降では必要な対角化可能性を sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の表現論から直接導きます。

φ ⁣:g→gl(V)\varphi\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{gl}(V) を半単純 Lie 環の 忠実な(単射な)表現とします。β(x,y)=tr⁡(φ(x)φ(y))\beta(x,y)=\operatorname{tr}(\varphi(x)\varphi(y)) は不変な対称双線形形式で、その根基は φ\varphi による像が 定理 7.2 の仮定を満たすので可解イデアル、よって 00 です。β\beta に関する双対基底 x1,…,xdx_1,\dots,x_d と y1,…,ydy_1,\dots,y_d(β(xi,yj)=δij\beta(x_i,y_j)=\delta_{ij})をとり、

cφ=∑i=1dφ(xi)φ(yi)∈End⁡(V)c_\varphi=\sum_{i=1}^d\varphi(x_i)\varphi(y_i)\in\operatorname{End}(V)

を φ\varphi の Casimir 作用素 と呼びます。

補題 9.1(Casimir 作用素の性質)✓

cφc_\varphi はすべての φ(x)\varphi(x) と可換で、tr⁡cφ=dim⁡g\operatorname{tr}c_\varphi=\dim\mathfrak{g} である。特に VV が既約なら cφc_\varphi はスカラー dim⁡g/dim⁡V\dim\mathfrak{g}/\dim V 倍である。

証明(補題 9.1)

[x,xi]=∑jaijxj[x,x_i]=\sum_ja_{ij}x_j、[x,yi]=∑jbijyj[x,y_i]=\sum_jb_{ij}y_j と書くと、不変性から aik=β([x,xi],yk)=−β(xi,[x,yk])=−bkia_{ik}=\beta([x,x_i],y_k)=-\beta(x_i,[x,y_k])=-b_{ki} です。よって

[φ(x),cφ]=∑i,jaijφ(xj)φ(yi)+∑i,jbijφ(xi)φ(yj)=∑i,j(aij+bji)φ(xj)φ(yi)=0[\varphi(x),c_\varphi]=\sum_{i,j}a_{ij}\varphi(x_j)\varphi(y_i)+\sum_{i,j}b_{ij}\varphi(x_i)\varphi(y_j)=\sum_{i,j}(a_{ij}+b_{ji})\varphi(x_j)\varphi(y_i)=0

です。tr⁡cφ=∑iβ(xi,yi)=d\operatorname{tr}c_\varphi=\sum_i\beta(x_i,y_i)=d です。既約なら Schur の補題(§2)からスカラーで、跡を比べて値が決まります。

Casimir 作用素は、普遍包絡環の Casimir 元(Casimir 作用素と群上のラプラシアン の 定義 3.3[Casimir 作用素と群上のラプラシアン])を表現した作用素で、物理では J2\boldsymbol J^2 などに相当します。ここではその代数的な役割、すなわち「既約成分を固有値で見分ける」ことだけを使います。

定理 9.2(Weyl の完全可約性定理)✓

半単純 Lie 環 g\mathfrak{g} の有限次元表現 VV の任意の部分加群 WW は、加群としての補空間をもつ。したがって VV は既約加群の直和である。

証明の方針は 2 段階です。段階 1 では、WW が余次元 1 のときに Casimir 作用素の核が補空間になることを示します。段階 2 では、一般の WW に対し、VV から WW への線形写像の空間 Hom⁡(V,W)\operatorname{Hom}(V,W) の中に余次元 1 の部分加群を作り、段階 1 に帰着させます。そこで得られる加群準同型 f0f_0 が VV から WW への射影になり、その核が補空間です。

証明(定理 9.2)

準備。 [g,g]=g[\mathfrak{g},\mathfrak{g}]=\mathfrak{g}(定理 8.2)なので、1 次元の表現 φ\varphi は φ([x,y])=0\varphi([x,y])=0 から自明です。φ\varphi の核 k\mathfrak{k} はイデアルで、g=k⊕k⊥\mathfrak{g}=\mathfrak{k}\oplus\mathfrak{k}^\perp と分解し、k⊥\mathfrak{k}^\perp は半単純で忠実に作用し、部分加群の概念は変わりません。以下 φ\varphi は忠実とし、c=cφc=c_\varphi とします。

段階 1: WW が余次元 1 の場合。 dim⁡W\dim W の帰納法です。WW が既約でなく、0≠W′⊊W0\ne W'\subsetneq W を部分加群とすると、V/W′V/W' の余次元 1 の部分加群 W/W′W/W' は帰納法の仮定から補空間 Y~/W′\tilde Y/W'(1 次元)をもちます。Y~\tilde Y の中で W′W' は余次元 1 で dim⁡Y~<dim⁡V\dim\tilde Y\lt\dim V なので、Y~=W′⊕X\tilde Y=W'\oplus X と分かれます。X∩W⊂Y~∩W=W′X\cap W\subset\tilde Y\cap W=W' かつ X∩W′=0X\cap W'=0 なので X∩W=0X\cap W=0、次元から V=W⊕XV=W\oplus X です。

WW が既約の場合を考えます(g=0\mathfrak{g}=0 なら主張は自明なので g≠0\mathfrak{g}\ne0 とします)。g\mathfrak{g} は 1 次元の V/WV/W に自明に作用するので φ(x)V⊂W\varphi(x)V\subset W で、c(V)⊂Wc(V)\subset W です。補題 9.1 により cc は加群の準同型なので、既約な WW 上では Schur の補題からスカラー γ\gamma 倍です。c(V)⊂Wc(V)\subset W なので tr⁡Vc=tr⁡Wc=γdim⁡W\operatorname{tr}_Vc=\operatorname{tr}_Wc=\gamma\dim W で、一方 tr⁡Vc=dim⁡g≠0\operatorname{tr}_Vc=\dim\mathfrak{g}\ne0 ですから γ≠0\gamma\ne0 です。よって ker⁡c\ker c は WW と交わらない部分加群で、dim⁡ker⁡c≥dim⁡V−dim⁡W=1\dim\ker c\ge\dim V-\dim W=1 なので V=W⊕ker⁡cV=W\oplus\ker c です。

段階 2: 一般の場合。 V={f∈Hom⁡(V,W):f∣W はスカラー倍}\mathcal{V}=\lbrace f\in\operatorname{Hom}(V,W) : f|_W\text{ はスカラー倍}\rbrace、W={f:f∣W=0}\mathcal{W}=\lbrace f : f|_W=0\rbrace とおきます。x∈gx\in\mathfrak{g}、f∣W=a idf|_W=a\,\mathrm{id} なら、w∈Ww\in W について (x⋅f)(w)=xf(w)−f(xw)=axw−axw=0(x\cdot f)(w)=xf(w)-f(xw)=axw-axw=0 なので、V\mathcal{V}、W\mathcal{W} は部分加群で g⋅V⊂W\mathfrak{g}\cdot\mathcal{V}\subset\mathcal{W}、W\mathcal{W} は V\mathcal{V} の余次元 1 です。段階 1 により V=W⊕Cf0\mathcal{V}=\mathcal{W}\oplus\mathbb{C}f_0 と分かれ、Cf0\mathbb{C}f_0 は 1 次元の加群なので g⋅f0=0\mathfrak{g}\cdot f_0=0、すなわち f0f_0 は加群準同型です。f0∣W=idf_0|_W=\mathrm{id} と正規化できるので、ker⁡f0\ker f_0 が WW の補加群です。

段階 1 の「WW が既約」の場合の議論のうち、決め手は跡の計算 tr⁡Vc=dim⁡g≠0\operatorname{tr}_Vc=\dim\mathfrak{g}\ne0 です。ここで忠実性を使っているので、最初に核を除いておいたのでした。

例 9.3(半単純性を落とすと完全可約性は壊れる)

§1 で触れた 1 次元可換 Lie 環 C\mathbb{C} の表現 t↦(0t00)t\mapsto\begin{pmatrix}0&t\\0&0\end{pmatrix} を、証明のどこが通らないかという目で見直します。φ(1)2=0\varphi(1)^2=0 なので β(x,y)=tr⁡(φ(x)φ(y))≡0\beta(x,y)=\operatorname{tr}(\varphi(x)\varphi(y))\equiv0 で、Casimir 作用素が作れません。実際、不変部分空間 W=Ce1W=\mathbb{C}e_1 に対し、C\mathbb{C} は WW にも V/WV/W にも自明に作用しますが VV には自明でなく作用しており、段階 1 で使った「cc が WW 上で 00 でないスカラー」という性質の出番がないのです。上三角行列の Lie 環 b2\mathfrak{b}_2 の自然表現 C2\mathbb{C}^2 も、Ce1\mathbb{C}e_1 が不変で補空間をもたない例です。Lie の定理(定理 5.1)が保証する「上三角化」は、可解 Lie 環ではそれ以上の分解が一般には期待できないことの裏返しです。

注意 9.4(コンパクト群の Lie 環との関係)

連結コンパクト Lie 群 KK の Lie 環 k\mathfrak{k} には Ad⁡(K)\operatorname{Ad}(K) 不変な内積があります(Haar 測度で平均すればよい)。その内積に関して ad⁡X\operatorname{ad}X は反対称なので、κ(X,X)=tr⁡(ad⁡X)2=−∥ad⁡X∥HS2≤0\kappa(X,X)=\operatorname{tr}(\operatorname{ad}X)^2=-\|\operatorname{ad}X\|_{\mathrm{HS}}^2\le0 です。中心が 00 なら κ\kappa は負定値で、複素化 kC=k⊕ik\mathfrak{k}_{\mathbb{C}}=\mathfrak{k}\oplus i\mathfrak{k} は 定理 8.1 により半単純です。su(n)C=sl(n,C)\mathfrak{su}(n)_{\mathbb{C}}=\mathfrak{sl}(n,\mathbb{C})、so(n)C=so(n,C)\mathfrak{so}(n)_{\mathbb{C}}=\mathfrak{so}(n,\mathbb{C}) がその例です。物理で生成子を tr⁡(TaTb)=12δab\operatorname{tr}(T^aT^b)=\frac12\delta^{ab} と規格化するのは、この負定値性(TaT^a をエルミートにとると符号が反転して正定値)を使っているのです。こうしてコンパクト群の表現論と半単純 Lie 環の表現論が結びつき、「平均をとるユニタリ化」と「Casimir 作用素」という 2 つの異なる道具が、同じ完全可約性を与えることになります。

例 7.4 の基底 e,f,he,f,h を使います。sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) は単純です(00 でないイデアルは hh の固有ベクトルの和として e,f,he,f,h のどれかを含み、そこから括弧で全体が出ます)。VV を有限次元加群とし、hh の固有値 μ\mu の固有空間 Vμ={v:hv=μv}V_\mu=\lbrace v : hv=\mu v\rbrace を ウェイト空間 と呼びます。hev=ehv+[h,e]v=(μ+2)evhev=ehv+[h,e]v=(\mu+2)ev から

eVμ⊂Vμ+2,fVμ⊂Vμ−2eV_\mu\subset V_{\mu+2},\qquad fV_\mu\subset V_{\mu-2}

です。v≠0v\ne0 が ev=0ev=0 かつ hv=λvhv=\lambda v を満たすとき 最高ウェイトベクトル と呼びます。

定理 10.1(sl(2,C) の既約表現の分類)✓

各整数 m≥0m\ge0 に対し、m+1m+1 次元の既約 sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) 加群 V(m)V(m) が同型を除いてただ 1 つ存在する。V(m)V(m) は基底 v0,…,vmv_0,\dots,v_m をもち

hvk=(m−2k)vk,fvk=(k+1)vk+1,evk=(m−k+1)vk−1hv_k=(m-2k)v_k,\qquad fv_k=(k+1)v_{k+1},\qquad ev_k=(m-k+1)v_{k-1}

(v−1=vm+1=0v_{-1}=v_{m+1}=0)と作用する。

証明(定理 10.1)

一意性。 VV を既約加群とします。hh は固有ベクトル vv をもち、v,ev,e2v,…v,ev,e^2v,\dots は 00 でない限り相異なる固有値の固有ベクトルなので、ある kk で ekv≠0e^kv\ne0、ek+1v=0e^{k+1}v=0 です。v0=ekvv_0=e^kv は最高ウェイトベクトルで、hv0=λv0hv_0=\lambda v_0 とします。vk=fkv0/k!v_k=f^kv_0/k! とおくと、hvk=(λ−2k)vkhv_k=(\lambda-2k)v_k、fvk=(k+1)vk+1fv_k=(k+1)v_{k+1} は定義から、evk=(λ−k+1)vk−1ev_k=(\lambda-k+1)v_{k-1} は kk の帰納法で

kevk=efvk−1=[e,f]vk−1+fevk−1=(λ−2k+2)vk−1+(λ−k+2)(k−1)vk−1=k(λ−k+1)vk−1kev_k=efv_{k-1}=[e,f]v_{k-1}+fev_{k-1}=(\lambda-2k+2)v_{k-1}+(\lambda-k+2)(k-1)v_{k-1}=k(\lambda-k+1)v_{k-1}

から従います。00 でない vkv_k は相異なる固有値をもつので線形独立で、有限次元性から vm≠0v_m\ne0、vm+1=0v_{m+1}=0 となる mm があります。0=evm+1=(λ−m)vm0=ev_{m+1}=(\lambda-m)v_m から λ=m\lambda=m です。span⁡(v0,…,vm)\operatorname{span}(v_0,\dots,v_m) は e,f,he,f,h で不変なので、既約性から VV 全体です。こうして VV の作用は上の式で決まります。

存在。 上の式で V(m)V(m) を定義すると、[h,e]=2e[h,e]=2e、[h,f]=−2f[h,f]=-2f は固有値の差から、[e,f]=h[e,f]=h は (ef−fe)vk=((k+1)(m−k)−k(m−k+1))vk=(m−2k)vk(ef-fe)v_k=\bigl((k+1)(m-k)-k(m-k+1)\bigr)v_k=(m-2k)v_k から確かめられます。部分加群は hh の固有ベクトル vkv_k のいくつかを含み、e,fe,f を繰り返し作用させれば(係数 k+1k+1、m−k+1m-k+1 は 0≤k≤m0\le k\le m の範囲で 00 でない)全部の vjv_j が得られるので、既約です。

−4−2024fe右端が最高ウェイト m
sl(2,C) の既約表現 V(m) のウェイト図(m=4)。f は 1 段下へ、e は 1 段上へ移し、端では 0 になる。ウェイトは −m から m まで 2 刻みで対称に並ぶ。

系 10.2(sl(2,C) の有限次元加群の構造)✓

VV を sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の有限次元加群とする。

  1. hh は VV 上で対角化可能で、固有値はすべて整数である。
  2. 各整数 μ\mu について dim⁡Vμ=dim⁡V−μ\dim V_\mu=\dim V_{-\mu} であり、μ≥0\mu\ge0 なら fμ ⁣:Vμ→V−μf^\mu\colon V_\mu\to V_{-\mu} は同型である。
  3. VV の既約成分の個数は dim⁡V0+dim⁡V1\dim V_0+\dim V_1 である。
証明(系 10.2)

定理 9.2 により VV は V(m)V(m) たちの直和で、各 V(m)V(m) について 1〜3 を確かめれば十分です。V(m)V(m) では hh は固有値 m,m−2,…,−mm,m-2,\dots,-m で対角化され、各固有空間は 1 次元なので 1, 2 の次元の主張は明らかです。μ=m−2k≥0\mu=m-2k\ge0 なら fμvkf^\mu v_k は vk+μ=vm−kv_{k+\mu}=v_{m-k} の 00 でない倍数なので 2 の同型がいえます。V(m)V(m) は、mm が偶数ならウェイト 00 を、奇数ならウェイト 11 をちょうど 1 回もつので 3 も成り立ちます。

この系は次章で、ルートの「列」(α\alpha を何回足せるか)を数えるのに使います。また 2 の対称性は Weyl 群による対称性の最も簡単な場合です。物理の言葉では V(m)V(m) はスピン j=m/2j=m/2 の表現で、h=2J3h=2J_3、e=J+e=J_+、f=J−f=J_- です。SU(2)SU(2) の既約表現の分類(定理 4.6[指標と SU(2)・SU(N) の表現])と照らし合わせてください。

演習 11.1易

3 次元 Heisenberg Lie 環 n\mathfrak{n}(基底 x,y,zx,y,z、[x,y]=z[x,y]=z、他は 00)の Killing 形式が恒等的に 00 であることを示し、n\mathfrak{n} が冪零であることを確かめてください。

解答

ad⁡x\operatorname{ad}x は y↦zy\mapsto z だけが 00 でなく、ad⁡y\operatorname{ad}y は x↦−zx\mapsto-z だけ、ad⁡z=0\operatorname{ad}z=0 です。どの積 ad⁡aad⁡b\operatorname{ad}a\operatorname{ad}b も、像が Cz\mathbb{C}z に入り zz を 00 に写すので冪零で、跡は 00 です。よって κ≡0\kappa\equiv0 です。C1n=CzC^1\mathfrak{n}=\mathbb{C}z、C2n=[n,Cz]=0C^2\mathfrak{n}=[\mathfrak{n},\mathbb{C}z]=0 なので冪零です。定理 8.1 と整合して、半単純ではありません。

演習 11.2標準

gl(n,C)\mathfrak{gl}(n,\mathbb{C}) の Killing 形式が κ(x,y)=2ntr⁡(xy)−2tr⁡xtr⁡y\kappa(x,y)=2n\operatorname{tr}(xy)-2\operatorname{tr}x\operatorname{tr}y であることを示し、その根基を求めてください。また sl(n,C)\mathfrak{sl}(n,\mathbb{C})(n≥2n\ge2)が半単純であることを結論してください。

解答

行列単位 EijE_{ij} について ad⁡xad⁡y(Eij)=xyEij−xEijy−yEijx+Eijyx\operatorname{ad}x\operatorname{ad}y(E_{ij})=xyE_{ij}-xE_{ij}y-yE_{ij}x+E_{ij}yx です。z↦xyzz\mapsto xyz の跡は ntr⁡(xy)n\operatorname{tr}(xy)、z↦zyxz\mapsto zyx も ntr⁡(xy)n\operatorname{tr}(xy)、z↦xzyz\mapsto xzy の跡は ∑i,jxiiyjj=tr⁡xtr⁡y\sum_{i,j}x_{ii}y_{jj}=\operatorname{tr}x\operatorname{tr}y で、z↦yzxz\mapsto yzx も同じです。よって κ(x,y)=2ntr⁡(xy)−2tr⁡xtr⁡y\kappa(x,y)=2n\operatorname{tr}(xy)-2\operatorname{tr}x\operatorname{tr}y です。κ(x,⋅)=0\kappa(x,\cdot)=0 は 2ntr⁡(xy)=2tr⁡xtr⁡y2n\operatorname{tr}(xy)=2\operatorname{tr}x\operatorname{tr}y(すべての yy)で、y=Ejiy=E_{ji} とおくと nxij=δijtr⁡xnx_{ij}=\delta_{ij}\operatorname{tr}x、すなわち xx はスカラー行列です。根基はスカラー行列 CI\mathbb{C}I で、gl(n)\mathfrak{gl}(n) は半単純ではありません。sl(n)\mathfrak{sl}(n) はイデアルなので Killing 形式は κ∣sl(n)=2ntr⁡(xy)\kappa|_{\mathfrak{sl}(n)}=2n\operatorname{tr}(xy) で、x∈sl(n)x\in\mathfrak{sl}(n) がすべての y∈sl(n)y\in\mathfrak{sl}(n) に対して tr⁡(xy)=0\operatorname{tr}(xy)=0 なら、y=Ejiy=E_{ji}(i≠ji\ne j)と y=Eii−Ejjy=E_{ii}-E_{jj} から xij=0x_{ij}=0、xii=xjjx_{ii}=x_{jj}、トレース 00 から x=0x=0 です。定理 8.1 から半単純です。

演習 11.3標準

系 10.2 を使って、V(m)⊗V(n)≅V(m+n)⊕V(m+n−2)⊕⋯⊕V(∣m−n∣)V(m)\otimes V(n)\cong V(m+n)\oplus V(m+n-2)\oplus\cdots\oplus V(|m-n|) を示してください(x⋅(v⊗w)=xv⊗w+v⊗xwx\cdot(v\otimes w)=xv\otimes w+v\otimes xw)。

解答

hh の固有ベクトル vk⊗wlv_k\otimes w_l のウェイトは (m−2k)+(n−2l)(m-2k)+(n-2l) なので、dim⁡(V(m)⊗V(n))μ\dim(V(m)\otimes V(n))_\mu は (m−2k)+(n−2l)=μ(m-2k)+(n-2l)=\mu となる (k,l)(k,l) の個数です。m≥nm\ge n とすると、μ=m+n−2j\mu=m+n-2j について個数は j+1j+1(0≤j≤n0\le j\le n)、n+1n+1(n≤j≤mn\le j\le m)、以降対称に減ります。完全可約性から V(m)⊗V(n)=⨁pV(p)apV(m)\otimes V(n)=\bigoplus_pV(p)^{a_p} で、V(p)V(p) はウェイト p,p−2,…p,p-2,\dots を 1 回ずつもつので ap=dim⁡Vp−dim⁡Vp+2a_p=\dim V_p-\dim V_{p+2} です。これは p=m+n−2jp=m+n-2j(0≤j≤n0\le j\le n)で 11、それ以外で 00 です。

  • J. E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory, Springer GTM 9, 1972 — 第 I〜II 章(§3〜§7)。
  • N. Jacobson, Lie Algebras, Interscience, 1962(Dover 再版 1979)— 第 II〜III 章。
  • J.-P. Serre, Complex Semisimple Lie Algebras, Springer, 1987 — 第 I〜IV 章。
  • K. Erdmann and M. J. Wildon, Introduction to Lie Algebras, Springer, 2006 — 第 6〜9 章。
  • 佐武一郎『リー環の話』日本評論社、2002(新版)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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