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ルート系と Weyl 群:Cartan 部分環・ルート空間分解から Dynkin 図まで

対象読者: 学部の線形代数と、本テーマ第 1〜2 章の内容(Lie 環の表現、Killing 形式、半単純 Lie 環、sl(2) の表現)を学んだ人。ルート系や Dynkin 図は仮定しません。

前提となる記事:Lie 環の構造論:Engel・Lie の定理、Killing 形式と Cartan の判定法、Weyl の完全可約性

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量子力学のスピンでは、状態を一段上げたり下げたりする操作が中心的な役割を果たします。大きな対称性を表す Lie 環にも、同じように「状態をずらす操作」が何種類もあります。この記事では、そのずらし方の向きを矢印の集まり(ルート系)として取り出すと、平面や空間に描ける整った図形になることを見ます。矢印の集まりが満たす性質を調べるだけで、対称性の種類を A,B,C,DA,B,C,D の 4 系列と 5 つの例外に分類するところまで進みます。

  • 半単純 Lie 環 g\mathfrak{g} の Cartan 部分環 h\mathfrak{h}(極大トーラス部分環)は可換で、自分の中心化環(h\mathfrak{h} のすべての元と交換する元の全体)に一致します。これから ルート空間分解 g=h⊕⨁α∈Φgα\mathfrak{g}=\mathfrak{h}\oplus\bigoplus_{\alpha\in\Phi}\mathfrak{g}_\alpha が得られます。
  • 各ルート α\alpha に sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の複製 sα\mathfrak{s}_\alpha が付随し、前章の sl(2)\mathfrak{sl}(2) の表現論から、dim⁡gα=1\dim\mathfrak{g}_\alpha=1、α\alpha の倍数のルートは ±α\pm\alpha だけ、⟨β,α∨⟩=2(β,α)/(α,α)∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=2(\beta,\alpha)/(\alpha,\alpha)\in\mathbb{Z}、α\alpha 鎖は途切れない、が従います。
  • Killing 形式から得た内積で、Φ\Phi はユークリッド空間の ルート系 になります。ルート系は鏡映で閉じた有限なベクトルの集まりで、その対称性の群が Weyl 群 WW です。
  • ルート系には 単純ルート(基底)Δ\Delta があり、WW は単純鏡映で生成され、基底の全体に単純推移的に作用します。各ベクトルは WW でちょうど 1 つの支配的なベクトルに移ります。
  • 単純ルートの内積を Cartan 行列 と Dynkin 図 にまとめると、既約ルート系は An,Bn,Cn,Dn,E6,E7,E8,F4,G2A_n,B_n,C_n,D_n,E_6,E_7,E_8,F_4,G_2 に分類されます(定理 7.7)。証明は、正規化した単純ルートの Gram 行列が正定値であることだけを使う組合せ論で、各型は格子の短いベクトルとして具体的に作れます。

su(2)\mathfrak{su}(2) の表現を調べるとき、物理ではまず J3J_3 を対角化し、J±J_\pm を「J3J_3 の固有値を ±1\pm1 ずらす演算子」として使います。su(3)\mathfrak{su}(3) のクォーク模型では、互いに可換な 2 つの生成子 T3T_3、YY(アイソスピンとハイパーチャージ)を同時に対角化し、残りの 6 つの生成子をそれらの固有値をずらす演算子として分類します。この「互いに可換で同時対角化できる生成子を最大限とり、残りをずらし演算子として整理する」という手続きを、任意の半単純 Lie 環で行うのがこの記事です。

最大限とった可換な部分が Cartan 部分環 h\mathfrak{h} で、ずらす量の一覧がルートの集合 Φ⊂h∗\Phi\subset\mathfrak{h}^* です。驚くべきことに、Φ\Phi は少数の幾何学的な公理を満たす有限集合になり、その公理だけから強い制約(ルートどうしの角度は 30∘30^\circ の倍数か 45∘45^\circ の倍数、長さの比は 1,2,31,\sqrt2,\sqrt3 のどれか、など)が出て、最終的にルート系が完全に分類されます。これが半単純 Lie 環の分類の核心です。

この記事の後半はルート系の組合せ論で、Weyl 群が主役です。su(2)\mathfrak{su}(2) ではウェイトの集合が m↦−mm\mapsto-m で対称でしたが、その一般化が Weyl 群による対称性で、次章の Weyl の指標公式の分母と分子はどちらも Weyl 群の上の交代和になります。

この記事では g\mathfrak{g} を C\mathbb{C} 上の有限次元半単純 Lie 環、κ\kappa をその Killing 形式とします。前章の結果のうち、抽象 Jordan 分解、Engel・Lie の定理、Weyl の完全可約性、sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の表現の分類を繰り返し使います。

2. Cartan 部分環とルート空間分解

Section titled “2. Cartan 部分環とルート空間分解”

定義 2.1(トーラス部分環と Cartan 部分環)↗

g\mathfrak{g} の部分 Lie 環で、すべての元が半単純(ad⁡\operatorname{ad} が対角化可能)であるものを トーラス部分環 という。包含関係について極大なトーラス部分環を Cartan 部分環 という。

定理 8.4[Lie 環の構造論] の後で述べたとおり、g≠0\mathfrak{g}\ne0 は 00 でない半単純元 ss をもち、Cs\mathbb{C}s はトーラス部分環です。次元が有限なので Cartan 部分環は存在します。

補題 2.2(トーラス部分環は可換)✓

トーラス部分環 t\mathfrak{t} は可換である。

証明(補題 2.2)

x∈tx\in\mathfrak{t} について ad⁡tx=0\operatorname{ad}_{\mathfrak{t}}x=0 を示せば十分です。ad⁡tx\operatorname{ad}_{\mathfrak{t}}x は対角化可能なので、固有値 a≠0a\ne0 の固有ベクトル y∈ty\in\mathfrak{t}、[x,y]=ay[x,y]=ay がないことを示します。ad⁡ty\operatorname{ad}_{\mathfrak{t}}y も対角化可能なので x=∑ivix=\sum_iv_i([y,vi]=bivi[y,v_i]=b_iv_i)と固有ベクトルで書くと、[y,x]=−ay[y,x]=-ay は ad⁡y\operatorname{ad}y の固有値 00 の固有空間に入ります。一方 [y,x]=∑ibivi[y,x]=\sum_ib_iv_i で、bi≠0b_i\ne0 の成分だけからなります。固有空間分解の一意性から [y,x]=0[y,x]=0、すなわち ay=0ay=0 です。

以下 h\mathfrak{h} を 1 つの Cartan 部分環とします。ad⁡h\operatorname{ad}\mathfrak{h} は互いに可換な対角化可能変換の族なので、同時に対角化でき、

g=⨁α∈h∗gα,gα={x∈g:[h,x]=α(h)x (∀h∈h)}\mathfrak{g}=\bigoplus_{\alpha\in\mathfrak{h}^*}\mathfrak{g}_\alpha,\qquad\mathfrak{g}_\alpha=\lbrace x\in\mathfrak{g} : [h,x]=\alpha(h)x\ (\forall h\in\mathfrak{h})\rbrace

と分解します。g0=Cg(h)\mathfrak{g}_0=C_{\mathfrak{g}}(\mathfrak{h}) は h\mathfrak{h} の中心化環で、補題 2.2 より h⊂g0\mathfrak{h}\subset\mathfrak{g}_0 です。α≠0\alpha\ne0 で gα≠0\mathfrak{g}_\alpha\ne0 となる α\alpha を ルート と呼び、その全体を Φ\Phi と書きます。

命題 2.3(ルート空間の基本性質)✓

  1. [gα,gβ]⊂gα+β[\mathfrak{g}_\alpha,\mathfrak{g}_\beta]\subset\mathfrak{g}_{\alpha+\beta}。特に α≠0\alpha\ne0、x∈gαx\in\mathfrak{g}_\alpha なら ad⁡x\operatorname{ad}x は冪零である。
  2. α+β≠0\alpha+\beta\ne0 なら κ(gα,gβ)=0\kappa(\mathfrak{g}_\alpha,\mathfrak{g}_\beta)=0。
  3. κ\kappa の g0\mathfrak{g}_0 への制限は非退化である。
証明(命題 2.3)

1 は Jacobi 恒等式 [h,[x,y]]=[[h,x],y]+[x,[h,y]][h,[x,y]]=[[h,x],y]+[x,[h,y]] からです。Φ\Phi は有限集合なので ad⁡x\operatorname{ad}x を繰り返すとやがて 00 になります。2: α(h)+β(h)≠0\alpha(h)+\beta(h)\ne0 となる hh をとると、不変性から α(h)κ(x,y)=κ([h,x],y)=−κ(x,[h,y])=−β(h)κ(x,y)\alpha(h)\kappa(x,y)=\kappa([h,x],y)=-\kappa(x,[h,y])=-\beta(h)\kappa(x,y) なので κ(x,y)=0\kappa(x,y)=0 です。3: z∈g0z\in\mathfrak{g}_0 が κ(z,g0)=0\kappa(z,\mathfrak{g}_0)=0 なら、2 から κ(z,gα)=0\kappa(z,\mathfrak{g}_\alpha)=0(α≠0\alpha\ne0)でもあり、κ(z,g)=0\kappa(z,\mathfrak{g})=0、非退化性から z=0z=0 です。

次の定理は、「h\mathfrak{h} と交換する元は h\mathfrak{h} の元に限る」という主張で、g0=h\mathfrak{g}_0=\mathfrak{h} を保証してルート空間分解をきれいな形にします。証明は長いので、方針だけ述べます。まず中心化環 CC の元を抽象 Jordan 分解で半単純部分と冪零部分に分け、半単純部分は極大性から h\mathfrak{h} に入ることを使います。次に、冪零部分が Killing 形式の非退化性に反して残れないことを、Engel の定理を使って示します。各段階の理由は、前章の結果を一つずつ当てはめるものです。

定理 2.4(Cartan 部分環は自分の中心化環に一致する)✓

Cg(h)=hC_{\mathfrak{g}}(\mathfrak{h})=\mathfrak{h} である。したがって κ∣h×h\kappa|_{\mathfrak{h}\times\mathfrak{h}} は非退化で、

g=h⊕⨁α∈Φgα\mathfrak{g}=\mathfrak{h}\oplus\bigoplus_{\alpha\in\Phi}\mathfrak{g}_\alpha

(ルート空間分解)が成り立つ。

証明(定理 2.4)

C=Cg(h)C=C_{\mathfrak{g}}(\mathfrak{h}) とおき、7 段階で示します。x∈gx\in\mathfrak{g} の抽象 Jordan 分解を x=xs+xnx=x_s+x_n と書きます(定理 8.4[Lie 環の構造論])。

(1) x∈Cx\in C なら xs,xn∈Cx_s,x_n\in C。 ad⁡xs=(ad⁡x)s\operatorname{ad}x_s=(\operatorname{ad}x)_s は ad⁡x\operatorname{ad}x の定数項のない多項式なので、ad⁡x\operatorname{ad}x と同様に h\mathfrak{h} を 00 に写します。xnx_n も同様です。

(2) CC の半単純元は h\mathfrak{h} に入る。 s∈Cs\in C が半単純なら ss は h\mathfrak{h} と可換で、h+Cs\mathfrak{h}+\mathbb{C}s の元は可換な対角化可能変換の和なので半単純、つまり h+Cs\mathfrak{h}+\mathbb{C}s はトーラス部分環です。極大性から s∈hs\in\mathfrak{h} です。

(3) κ∣h\kappa|_{\mathfrak{h}} は非退化。 h∈hh\in\mathfrak{h} が κ(h,h)=0\kappa(h,\mathfrak{h})=0 を満たすとします。x∈Cx\in C について xs∈hx_s\in\mathfrak{h}((1)(2))なので κ(h,xs)=0\kappa(h,x_s)=0 です。xn∈Cx_n\in C は hh と可換なので ad⁡xnad⁡h\operatorname{ad}x_n\operatorname{ad}h は冪零で、κ(h,xn)=0\kappa(h,x_n)=0 です。よって κ(h,C)=0\kappa(h,C)=0 で、命題 2.3 の 3 から h=0h=0 です。

(4) CC は冪零。 x∈Cx\in C について、ad⁡Cxs=0\operatorname{ad}_Cx_s=0(xs∈hx_s\in\mathfrak{h} は CC と可換)、ad⁡Cxn\operatorname{ad}_Cx_n は冪零なので ad⁡Cx\operatorname{ad}_Cx は冪零です。系 4.3[Lie 環の構造論] から CC は冪零です。

(5) h∩[C,C]=0\mathfrak{h}\cap[C,C]=0。 κ(h,[C,C])=κ([h,C],C)=0\kappa(\mathfrak{h},[C,C])=\kappa([\mathfrak{h},C],C)=0 と (3) からです。

(6) CC は可換。 [C,C]≠0[C,C]\ne0 とします。冪零 Lie 環 CC が ad⁡\operatorname{ad} で冪零に作用する 00 でないイデアル [C,C][C,C] には、定理 4.2[Lie 環の構造論] により [C,z]=0[C,z]=0 となる z≠0z\ne0 があります。zz が半単純なら (2) から z∈h∩[C,C]z\in\mathfrak{h}\cap[C,C] で (5) に反するので zn≠0z_n\ne0 です。(1) と同じ理由で zn∈Cz_n\in C かつ [C,zn]=0[C,z_n]=0 です。y∈Cy\in C について ad⁡zn\operatorname{ad}z_n は ad⁡y\operatorname{ad}y と可換で冪零なので κ(zn,y)=0\kappa(z_n,y)=0、すなわち κ(zn,C)=0\kappa(z_n,C)=0 となり、命題 2.3 の 3 に反します。

(7) C=hC=\mathfrak{h}。 x∈Cx\in C について xn∈Cx_n\in C は、(6) から CC のすべての元と可換なので、(6) と同じ議論で κ(xn,C)=0\kappa(x_n,C)=0、xn=0x_n=0 です。よって x=xs∈hx=x_s\in\mathfrak{h} です。

注意 2.5(Cartan 部分環の選び方と極大トーラス)

Cartan 部分環は一意ではありませんが、どの 2 つも g\mathfrak{g} の内部自己同型(ead⁡xe^{\operatorname{ad}x}、xx は ad⁡\operatorname{ad} 冪零、の積)で移り合います。これは Chevalley の共役定理で、証明は Humphreys の §16 にあります。この記事では共役定理を使わず、1 つの h\mathfrak{h} を固定して議論します。そのため以下で得られるルート系は、厳密には「(g,h)(\mathfrak{g},\mathfrak{h}) のルート系」です。コンパクト群の言葉では、g\mathfrak{g} がコンパクト連結 Lie 群 KK の Lie 環の複素化のとき、KK の極大トーラス TT の Lie 環を複素化したものが Cartan 部分環になり、共役定理は「極大トーラスはすべて共役」という定理に対応します。SU(n)SU(n) では TT は対角行列のなす群で、それが 例 2.6 の h\mathfrak{h} に対応します。

κ∣h\kappa|_{\mathfrak{h}} が非退化なので、各 λ∈h∗\lambda\in\mathfrak{h}^* に対し κ(tλ,h)=λ(h)\kappa(t_\lambda,h)=\lambda(h)(すべての h∈hh\in\mathfrak{h})となる tλ∈ht_\lambda\in\mathfrak{h} がただ 1 つあります。h∗\mathfrak{h}^* に双線形形式 (λ,μ)=κ(tλ,tμ)(\lambda,\mu)=\kappa(t_\lambda,t_\mu) を入れます。

例 2.6(sl(n,C) のルート)

g=sl(n,C)\mathfrak{g}=\mathfrak{sl}(n,\mathbb{C})、h\mathfrak{h} をトレース 00 の対角行列全体とします。h=diag⁡(h1,…,hn)h=\operatorname{diag}(h_1,\dots,h_n) に対し [h,Eij]=(hi−hj)Eij[h,E_{ij}]=(h_i-h_j)E_{ij} なので、εi(h)=hi\varepsilon_i(h)=h_i とおくと gεi−εj=CEij\mathfrak{g}_{\varepsilon_i-\varepsilon_j}=\mathbb{C}E_{ij}(i≠ji\ne j)で、Cg(h)C_{\mathfrak{g}}(\mathfrak{h}) は対角行列だけからなり h\mathfrak{h} に等しいです。h\mathfrak{h} を含むトーラス部分環は h\mathfrak{h} を中心化するので h\mathfrak{h} に含まれ、h\mathfrak{h} は Cartan 部分環です。ルートは Φ={εi−εj:i≠j}\Phi=\lbrace\varepsilon_i-\varepsilon_j : i\ne j\rbrace で n(n−1)n(n-1) 個あります。物理で su(3)\mathfrak{su}(3) の T±T_\pm、U±U_\pm、V±V_\pm と呼ぶ演算子が EijE_{ij} にあたります。

命題 3.1(各ルートに付随する sl(2))✓

  1. Φ\Phi は h∗\mathfrak{h}^* を張る。
  2. α∈Φ\alpha\in\Phi なら −α∈Φ-\alpha\in\Phi。
  3. x∈gαx\in\mathfrak{g}_\alpha、y∈g−αy\in\mathfrak{g}_{-\alpha} なら [x,y]=κ(x,y)tα[x,y]=\kappa(x,y)t_\alpha。
  4. (α,α)=α(tα)≠0(\alpha,\alpha)=\alpha(t_\alpha)\ne0。
  5. 0≠xα∈gα0\ne x_\alpha\in\mathfrak{g}_\alpha に対し yα∈g−αy_\alpha\in\mathfrak{g}_{-\alpha} を選んで、hα=[xα,yα]=2tα(α,α)h_\alpha=[x_\alpha,y_\alpha]=\dfrac{2t_\alpha}{(\alpha,\alpha)} とできる。このとき α(hα)=2\alpha(h_\alpha)=2 で、xα,yα,hαx_\alpha,y_\alpha,h_\alpha は sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) の基底 e,f,he,f,h と同じ関係式を満たす。これらが張る部分環を sα≅sl(2,C)\mathfrak{s}_\alpha\cong\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) と書く。
証明(命題 3.1)

1: 張らなければ h≠0h\ne0 ですべての α\alpha について α(h)=0\alpha(h)=0 となるものがあり、hh は各 gα\mathfrak{g}_\alpha と h\mathfrak{h} に可換で Z(g)=0Z(\mathfrak{g})=0 に反します。2: −α∉Φ-\alpha\notin\Phi なら 命題 2.3 の 2 から κ(gα,g)=0\kappa(\mathfrak{g}_\alpha,\mathfrak{g})=0 となり非退化性に反します。3: [x,y]∈g0=h[x,y]\in\mathfrak{g}_0=\mathfrak{h} で、h∈hh\in\mathfrak{h} について κ(h,[x,y])=κ([h,x],y)=α(h)κ(x,y)=κ(κ(x,y)tα,h)\kappa(h,[x,y])=\kappa([h,x],y)=\alpha(h)\kappa(x,y)=\kappa(\kappa(x,y)t_\alpha,h) なので、κ∣h\kappa|_{\mathfrak{h}} の非退化性から従います。

4: α(tα)=0\alpha(t_\alpha)=0 とします。2 と非退化性から κ(x,y)=1\kappa(x,y)=1 となる x∈gαx\in\mathfrak{g}_\alpha、y∈g−αy\in\mathfrak{g}_{-\alpha} があり、3 から [x,y]=tα[x,y]=t_\alpha、さらに [tα,x]=α(tα)x=0[t_\alpha,x]=\alpha(t_\alpha)x=0、[tα,y]=0[t_\alpha,y]=0 です。s=span⁡(x,y,tα)\mathfrak{s}=\operatorname{span}(x,y,t_\alpha) は可解なので、系 5.2[Lie 環の構造論] の証明と同様に、Lie の定理で ad⁡gs\operatorname{ad}_{\mathfrak{g}}\mathfrak{s} を上三角化すると ad⁡tα∈ad⁡[s,s]\operatorname{ad}t_\alpha\in\operatorname{ad}[\mathfrak{s},\mathfrak{s}] は冪零です。ad⁡tα\operatorname{ad}t_\alpha は半単純でもあるので 00 で、tα∈Z(g)=0t_\alpha\in Z(\mathfrak{g})=0 となり矛盾します。

5: κ(xα,yα)=2/(α,α)\kappa(x_\alpha,y_\alpha)=2/(\alpha,\alpha) となる yαy_\alpha をとれば 3 から [xα,yα]=hα[x_\alpha,y_\alpha]=h_\alpha です。α(hα)=2α(tα)/(α,α)=2\alpha(h_\alpha)=2\alpha(t_\alpha)/(\alpha,\alpha)=2 なので [hα,xα]=2xα[h_\alpha,x_\alpha]=2x_\alpha、[hα,yα]=−2yα[h_\alpha,y_\alpha]=-2y_\alpha です。

g\mathfrak{g} は ad⁡\operatorname{ad} によって sα\mathfrak{s}_\alpha 加群です。sα\mathfrak{s}_\alpha の元 hαh_\alpha は gβ\mathfrak{g}_\beta 上で β(hα)\beta(h_\alpha) 倍に作用するので、gβ\mathfrak{g}_\beta は sα\mathfrak{s}_\alpha 加群としての「ウェイト β(hα)\beta(h_\alpha) の空間」に入ります。以下

⟨β,α∨⟩:=β(hα)=2(β,α)(α,α)\langle\beta,\alpha^\vee\rangle:=\beta(h_\alpha)=\frac{2(\beta,\alpha)}{(\alpha,\alpha)}

と書きます(hα=2tα/(α,α)h_\alpha=2t_\alpha/(\alpha,\alpha) から 2 つの式は等しい)。

定理 3.2(ルートの整数性と鎖の性質)✓

α,β∈Φ\alpha,\beta\in\Phi とする。

  1. dim⁡gα=1\dim\mathfrak{g}_\alpha=1 であり、α\alpha の複素数倍で Φ\Phi に入るのは ±α\pm\alpha だけである。
  2. ⟨β,α∨⟩∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\in\mathbb{Z} であり、β−⟨β,α∨⟩α∈Φ\beta-\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\alpha\in\Phi。
  3. β≠±α\beta\ne\pm\alpha とし、r,q≥0r,q\ge0 を β−rα,…,β+qα\beta-r\alpha,\dots,\beta+q\alpha がすべてルートで β−(r+1)α,β+(q+1)α\beta-(r+1)\alpha,\beta+(q+1)\alpha がルートでないような最大の整数とすると、この間にルートでないものはなく(α\alpha 鎖は途切れない)、r−q=⟨β,α∨⟩r-q=\langle\beta,\alpha^\vee\rangle である。
  4. α+β∈Φ\alpha+\beta\in\Phi ならば [gα,gβ]=gα+β[\mathfrak{g}_\alpha,\mathfrak{g}_\beta]=\mathfrak{g}_{\alpha+\beta}。
証明(定理 3.2)

1。 M=h⊕⨁c∈C×gcαM=\mathfrak{h}\oplus\bigoplus_{c\in\mathbb{C}^\times}\mathfrak{g}_{c\alpha} は sα\mathfrak{s}_\alpha 加群です。gcα\mathfrak{g}_{c\alpha} 上の hαh_\alpha の固有値は 2c2c で、系 10.2[Lie 環の構造論] により整数なので c∈12Zc\in\frac12\mathbb{Z} です。MM のウェイト 00 の空間は h\mathfrak{h} です。h=ker⁡α⊕Chα\mathfrak{h}=\ker\alpha\oplus\mathbb{C}h_\alpha で、sα\mathfrak{s}_\alpha は ker⁡α\ker\alpha に自明に作用し([h,xα]=α(h)xα=0[h,x_\alpha]=\alpha(h)x_\alpha=0 など)、sα\mathfrak{s}_\alpha 自身は既約部分加群 V(2)V(2) です。偶数のウェイトをもつ既約成分はウェイト 00 をちょうど 1 回もつので、その個数は dim⁡M0=dim⁡h\dim M_0=\dim\mathfrak{h} に等しく、それらは ker⁡α\ker\alpha の dim⁡h−1\dim\mathfrak{h}-1 個の自明表現と sα\mathfrak{s}_\alpha で尽きます。よって MM のウェイト 22 の空間 gα\mathfrak{g}_\alpha は sα\mathfrak{s}_\alpha に含まれて 1 次元、ウェイト 44 の空間 g2α\mathfrak{g}_{2\alpha} は 00 です。α\alpha を任意のルートとしてこれを使うと、12α∈Φ\frac12\alpha\in\Phi なら α=2⋅12α∉Φ\alpha=2\cdot\frac12\alpha\notin\Phi となり矛盾するので 12α∉Φ\frac12\alpha\notin\Phi です。すると MM はウェイト 11 をもたず、奇数ウェイトの既約成分もないので、M=h+sαM=\mathfrak{h}+\mathfrak{s}_\alpha です。

2 と 3。 β≠±α\beta\ne\pm\alpha のとき K=⨁i∈Zgβ+iαK=\bigoplus_{i\in\mathbb{Z}}\mathfrak{g}_{\beta+i\alpha} を考えます。1 から β+iα≠0\beta+i\alpha\ne0 なので、KK は sα\mathfrak{s}_\alpha 加群で、各ウェイト β(hα)+2i\beta(h_\alpha)+2i の空間は 00 か 1 次元です。整数性から ⟨β,α∨⟩=β(hα)∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=\beta(h_\alpha)\in\mathbb{Z} です。ウェイトはすべて同じ偶奇で、ウェイト 00 と 11 の空間の次元の和は 11 以下なので、系 10.2[Lie 環の構造論] の 3 から KK は既約です。既約加群 V(m)V(m) のウェイトは m,m−2,…,−mm,m-2,\dots,-m と途切れずに並ぶので、β+iα\beta+i\alpha(−r≤i≤q-r\le i\le q)はすべてルートで、β(hα)+2q=m\beta(h_\alpha)+2q=m、β(hα)−2r=−m\beta(h_\alpha)-2r=-m から r−q=β(hα)r-q=\beta(h_\alpha) です。β−⟨β,α∨⟩α=β+(q−r)α\beta-\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\alpha=\beta+(q-r)\alpha は −r≤q−r≤q-r\le q-r\le q なので鎖に入り、ルートです。β=±α\beta=\pm\alpha のときは 2 は自明です。

4。 β≠±α\beta\ne\pm\alpha(1 より β=α\beta=\alpha はありえず、β=−α\beta=-\alpha なら α+β=0∉Φ\alpha+\beta=0\notin\Phi)です。既約な V(m)V(m) では、xαx_\alpha は最高ウェイト以外のウェイト空間を次のウェイト空間に単射に写すので(定理 10.1[Lie 環の構造論] の係数 m−k+1≠0m-k+1\ne0)、ad⁡xα ⁣:gβ→gα+β\operatorname{ad}x_\alpha\colon\mathfrak{g}_\beta\to\mathfrak{g}_{\alpha+\beta} は 00 でなく、1 次元どうしなので全射です。

この定理の証明は、どれも同じ型をしています。調べたい部分空間を sα\mathfrak{s}_\alpha 加群として取り出し、前章の sl(2)\mathfrak{sl}(2) の結果(ウェイトは整数、ウェイトは途切れない、ウェイト 00 と 11 の空間の次元で既約成分を数えられる)を当てはめるのです。物理の言葉でいえば、どのルート方向にも「スピン」の昇降演算子 xαx_\alpha、yαy_\alpha と J3J_3 に当たる 12hα\frac12h_\alpha があり、g\mathfrak{g} 全体がそのスピン多重項に分かれるということです。dim⁡gα=1\dim\mathfrak{g}_\alpha=1 は、ある方向へのずらし演算子が本質的に 1 つしかないことを意味し、これがルートだけで Lie 環が決まる(注意 7.8 で述べる Lie 環の分類)ことの根拠になっています。

次の命題は、ルートどうしの内積が有理数になることを示し、ルートの張る空間を実数に広げてユークリッド空間とみなせるようにするためのものです。鍵は、Killing 形式をルート空間分解に沿って計算すると、各ルート空間が γ(tλ)γ(tμ)\gamma(t_\lambda)\gamma(t_\mu) を寄与する、という点です。

命題 3.3(ルートの張る実空間)✓

α1,…,αℓ∈Φ\alpha_1,\dots,\alpha_\ell\in\Phi を h∗\mathfrak{h}^* の基底とする(命題 3.1 の 1)。

  1. すべての α,β∈Φ\alpha,\beta\in\Phi について (α,β)∈Q(\alpha,\beta)\in\mathbb{Q} であり、各 β∈Φ\beta\in\Phi は αi\alpha_i の有理数係数の 1 次結合である。
  2. EQ=span⁡QΦE_{\mathbb{Q}}=\operatorname{span}_{\mathbb{Q}}\Phi 上で (⋅,⋅)(\cdot,\cdot) は正定値である。したがって E=R⊗QEQE=\mathbb{R}\otimes_{\mathbb{Q}}E_{\mathbb{Q}} は ℓ\ell 次元のユークリッド空間になる。
証明(命題 3.3)

λ,μ∈h∗\lambda,\mu\in\mathfrak{h}^* について、ルート空間分解で ad⁡tλad⁡tμ\operatorname{ad}t_\lambda\operatorname{ad}t_\mu の跡を計算すると、h\mathfrak{h} 上では 00、1 次元の gγ\mathfrak{g}_\gamma 上では γ(tλ)γ(tμ)\gamma(t_\lambda)\gamma(t_\mu) なので

(λ,μ)=∑γ∈Φ(γ,λ)(γ,μ)(\lambda,\mu)=\sum_{\gamma\in\Phi}(\gamma,\lambda)(\gamma,\mu)

です。λ=μ=β∈Φ\lambda=\mu=\beta\in\Phi とし (β,β)2(\beta,\beta)^2 で割ると 1(β,β)=∑γ((γ,β)(β,β))2=14∑γ⟨γ,β∨⟩2∈Q\frac1{(\beta,\beta)}=\sum_\gamma\bigl(\frac{(\gamma,\beta)}{(\beta,\beta)}\bigr)^2=\frac14\sum_\gamma\langle\gamma,\beta^\vee\rangle^2\in\mathbb{Q} なので (β,β)∈Q(\beta,\beta)\in\mathbb{Q}、(γ,β)=12⟨γ,β∨⟩(β,β)∈Q(\gamma,\beta)=\frac12\langle\gamma,\beta^\vee\rangle(\beta,\beta)\in\mathbb{Q} です。β=∑ciαi\beta=\sum c_i\alpha_i と書くと (β,αj)=∑ici(αi,αj)(\beta,\alpha_j)=\sum_ic_i(\alpha_i,\alpha_j) で、Gram 行列 ((αi,αj))((\alpha_i,\alpha_j)) は有理数成分で可逆((⋅,⋅)(\cdot,\cdot) は κ∣h\kappa|_{\mathfrak{h}} を移したもので非退化)なので ci∈Qc_i\in\mathbb{Q} です。これで 1 が示され、EQE_{\mathbb{Q}} は ℓ\ell 次元です。2: λ∈EQ\lambda\in E_{\mathbb{Q}} なら (γ,λ)∈Q(\gamma,\lambda)\in\mathbb{Q} で、(λ,λ)=∑γ(γ,λ)2≥0(\lambda,\lambda)=\sum_\gamma(\gamma,\lambda)^2\ge0、等号なら (γ,λ)=0(\gamma,\lambda)=0(すべての γ\gamma)で λ=0\lambda=0 です。

ここからは Lie 環を離れ、§3 で得た性質だけを公理として取り出します。

定義 4.1(ルート系)↗

EE を有限次元の実内積空間とする。部分集合 Φ⊂E\Phi\subset E が次を満たすとき ルート系 という。λ∈E\lambda\in E と α≠0\alpha\ne0 に対し ⟨λ,α∨⟩=2(λ,α)/(α,α)\langle\lambda,\alpha^\vee\rangle=2(\lambda,\alpha)/(\alpha,\alpha)、sα(λ)=λ−⟨λ,α∨⟩αs_\alpha(\lambda)=\lambda-\langle\lambda,\alpha^\vee\rangle\alpha(α\alpha に直交する超平面に関する鏡映)とおく。

  1. Φ\Phi は有限で EE を張り、0∉Φ0\notin\Phi。
  2. α∈Φ\alpha\in\Phi の実数倍で Φ\Phi に入るのは ±α\pm\alpha だけ。
  3. α∈Φ\alpha\in\Phi なら sα(Φ)=Φs_\alpha(\Phi)=\Phi。
  4. α,β∈Φ\alpha,\beta\in\Phi なら ⟨β,α∨⟩∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\in\mathbb{Z}。

sαs_\alpha(α∈Φ\alpha\in\Phi)が生成する O(E)O(E) の部分群 WW を Weyl 群 という。dim⁡E\dim E を 階数 という。

定理 4.2(半単純 Lie 環のルート系)✓

半単純 Lie 環 g\mathfrak{g} と Cartan 部分環 h\mathfrak{h} に対し、Φ\Phi は 命題 3.3 のユークリッド空間 EE のルート系である。

証明(定理 4.2)

1 は 命題 3.1 の 1 と Φ\Phi の有限性、2 は 定理 3.2 の 1、3 と 4 は同じ定理の 2 です。

WW は有限な Φ\Phi の置換として忠実に作用する(Φ\Phi は EE を張る)ので有限群です。w∈O(E)w\in O(E) が wΦ=Φw\Phi=\Phi を満たせば swα=wsαw−1s_{w\alpha}=ws_\alpha w^{-1} です(右辺は wαw\alpha を −wα-w\alpha に写し、wαw\alpha の直交補空間を固定する)。

命題 4.3(2 つのルートの位置関係)✓

α,β∈Φ\alpha,\beta\in\Phi、β≠±α\beta\ne\pm\alpha とし、なす角を θ\theta とする。

  1. ⟨α,β∨⟩⟨β,α∨⟩=4cos⁡2θ∈{0,1,2,3}\langle\alpha,\beta^\vee\rangle\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=4\cos^2\theta\in\lbrace0,1,2,3\rbrace。したがって θ∈{π2,π3,2π3,π4,3π4,π6,5π6}\theta\in\lbrace\frac\pi2,\frac\pi3,\frac{2\pi}3,\frac\pi4,\frac{3\pi}4,\frac\pi6,\frac{5\pi}6\rbrace で、(α,β)≠0(\alpha,\beta)\ne0 なら長さの比 ∣β∣/∣α∣|\beta|/|\alpha| は 1,2,31,\sqrt2,\sqrt3 のいずれか(またはその逆数)である。
  2. (α,β)>0(\alpha,\beta)\gt0 なら α−β∈Φ\alpha-\beta\in\Phi、(α,β)<0(\alpha,\beta)\lt0 なら α+β∈Φ\alpha+\beta\in\Phi。
証明(命題 4.3)

1: 積は 4(α,β)2/(∣α∣2∣β∣2)=4cos⁡2θ4(\alpha,\beta)^2/(|\alpha|^2|\beta|^2)=4\cos^2\theta で、整数かつ β≠±α\beta\ne\pm\alpha から 44 未満です。長さの比の 2 乗は ⟨β,α∨⟩/⟨α,β∨⟩\langle\beta,\alpha^\vee\rangle/\langle\alpha,\beta^\vee\rangle で、積が 1,2,31,2,3 の正整数の組の比として 1,2,31,2,3 かその逆数です。2: (α,β)>0(\alpha,\beta)\gt0 なら 2 つの整数 ⟨α,β∨⟩\langle\alpha,\beta^\vee\rangle、⟨β,α∨⟩\langle\beta,\alpha^\vee\rangle は正で積が 33 以下なので一方は 11 です。⟨α,β∨⟩=1\langle\alpha,\beta^\vee\rangle=1 なら sβ(α)=α−β∈Φs_\beta(\alpha)=\alpha-\beta\in\Phi、⟨β,α∨⟩=1\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=1 なら β−α∈Φ\beta-\alpha\in\Phi で、sβ−αs_{\beta-\alpha} を施せば α−β∈Φ\alpha-\beta\in\Phi です。(α,β)<0(\alpha,\beta)\lt0 なら −β-\beta に適用します。

α₁α₂α₁+α₂A₂α₁(短)α₂(長)B₂
階数 2 のルート系 A₂(左)と B₂(右)。A₂ は sl(3,C) のルート系で 6 本の同じ長さのルートが 60° 間隔に並ぶ。B₂ は so(5,C) のルート系で、短いルート 4 本と長いルート 4 本が 45° 間隔に並ぶ。塗りつぶした矢印が単純ルート、破線が鏡映面の例。

定義 5.1(基底(単純ルート))↗

Δ⊂Φ\Delta\subset\Phi が EE の基底であり、各 β∈Φ\beta\in\Phi が β=∑α∈Δkαα\beta=\sum_{\alpha\in\Delta}k_\alpha\alpha と、すべて kα≥0k_\alpha\ge0 またはすべて kα≤0k_\alpha\le0 の 整数 係数で書けるとき、Δ\Delta を 基底、その元を 単純ルート という。前者の β\beta の全体を 正ルート Φ+\Phi^+、後者を 負ルート Φ−=−Φ+\Phi^-=-\Phi^+ と書き、ht⁡β=∑kα\operatorname{ht}\beta=\sum k_\alpha を高さという。

次の定理で使う 正則元 γ\gamma とは、どのルートとも直交しないベクトルのことです。γ\gamma を 1 つ固定すると、(γ,α)(\gamma,\alpha) の符号で各ルートを正と負に振り分けられます。そのうえで「正のルートのうち、これ以上分解できないもの」を単純ルートとして取り出すのが、この定理の方針です。

定理 5.2(基底の存在)✓

すべての α∈Φ\alpha\in\Phi について (γ,α)≠0(\gamma,\alpha)\ne0 となる γ∈E\gamma\in E(正則元)をとり、Φ+(γ)={α:(γ,α)>0}\Phi^+(\gamma)=\lbrace\alpha : (\gamma,\alpha)\gt0\rbrace とおく。Φ+(γ)\Phi^+(\gamma) の元のうち、Φ+(γ)\Phi^+(\gamma) の 2 元の和として書けないもの全体 Δ(γ)\Delta(\gamma) は基底であり、それに関する正ルートは Φ+(γ)\Phi^+(\gamma) である。

証明(定理 5.2)

正則元は有限個の超平面 α⊥\alpha^\perp の和の外にあるので存在します。Φ=Φ+(γ)⊔(−Φ+(γ))\Phi=\Phi^+(\gamma)\sqcup(-\Phi^+(\gamma)) です。

(i) Φ+(γ)\Phi^+(\gamma) の各元は Δ(γ)\Delta(\gamma) の非負整数結合。 そうでない元のうち (γ,α)(\gamma,\alpha) が最小のものをとると、α∉Δ(γ)\alpha\notin\Delta(\gamma) なので α=β1+β2\alpha=\beta_1+\beta_2(βi∈Φ+(γ)\beta_i\in\Phi^+(\gamma))で、(γ,βi)<(γ,α)(\gamma,\beta_i)\lt(\gamma,\alpha) だから βi\beta_i は非負整数結合で書け、α\alpha も書けて矛盾します。

(ii) α≠β∈Δ(γ)\alpha\ne\beta\in\Delta(\gamma) なら (α,β)≤0(\alpha,\beta)\le0。 (α,β)>0(\alpha,\beta)\gt0 なら 命題 4.3 の 2 から α−β∈Φ\alpha-\beta\in\Phi です。α−β∈Φ+(γ)\alpha-\beta\in\Phi^+(\gamma) なら α=β+(α−β)\alpha=\beta+(\alpha-\beta)、β−α∈Φ+(γ)\beta-\alpha\in\Phi^+(\gamma) なら β=α+(β−α)\beta=\alpha+(\beta-\alpha) と分解でき、矛盾します。

(iii) Δ(γ)\Delta(\gamma) は線形独立。 ∑αrαα=0\sum_\alpha r_\alpha\alpha=0 とし、正の係数と負の係数に分けて ε=∑α∈Ssαα=∑β∈Ttββ\varepsilon=\sum_{\alpha\in S}s_\alpha\alpha=\sum_{\beta\in T}t_\beta\beta(s,t>0s,t\gt0、S∩T=∅S\cap T=\emptyset)と書くと、(ii) から (ε,ε)=∑sαtβ(α,β)≤0(\varepsilon,\varepsilon)=\sum s_\alpha t_\beta(\alpha,\beta)\le0 なので ε=0\varepsilon=0、0=(γ,ε)=∑sα(γ,α)0=(\gamma,\varepsilon)=\sum s_\alpha(\gamma,\alpha) から S=∅S=\emptyset、同様に T=∅T=\emptyset です。

(i) と Φ=Φ+(γ)⊔(−Φ+(γ))\Phi=\Phi^+(\gamma)\sqcup(-\Phi^+(\gamma)) から Δ(γ)\Delta(\gamma) は Φ\Phi を、したがって EE を張り、(iii) と合わせて基底です。

補題 5.3(単純鏡映は他の正ルートを置換する)✓

α∈Δ\alpha\in\Delta ならば sαs_\alpha は Φ+∖{α}\Phi^+\setminus\lbrace\alpha\rbrace を置換する。したがって ρ=12∑β∈Φ+β\rho=\frac12\sum_{\beta\in\Phi^+}\beta について sαρ=ρ−αs_\alpha\rho=\rho-\alpha、すなわち ⟨ρ,α∨⟩=1\langle\rho,\alpha^\vee\rangle=1 である。

証明(補題 5.3)

β∈Φ+∖{α}\beta\in\Phi^+\setminus\lbrace\alpha\rbrace は公理 2 から α\alpha の倍数でないので、β=∑kγγ\beta=\sum k_\gamma\gamma で kγ>0k_\gamma\gt0 となる γ≠α\gamma\ne\alpha があります。sαβ=β−⟨β,α∨⟩αs_\alpha\beta=\beta-\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\alpha の γ\gamma 係数も kγ>0k_\gamma\gt0 なので sαβ∈Φ+s_\alpha\beta\in\Phi^+ で、α\alpha ではありません。sαs_\alpha は全単射なので置換です。ρ\rho の和のうち α\alpha 以外の項は sαs_\alpha で並べ替わるだけで、α\alpha は −α-\alpha になるので sαρ=ρ−αs_\alpha\rho=\rho-\alpha です。

以下、基底 Δ\Delta を 1 つ固定し、si=sαis_i=s_{\alpha_i}(αi∈Δ\alpha_i\in\Delta)を 単純鏡映 と呼びます。w∈Ww\in W に対し n(w)=∣{β∈Φ+:wβ∈Φ−}∣n(w)=|\lbrace\beta\in\Phi^+ : w\beta\in\Phi^-\rbrace| とおきます。補題 5.3 から、α∈Δ\alpha\in\Delta について

n(wsα)={n(w)−1(wα∈Φ−)n(w)+1(wα∈Φ+)n(ws_\alpha)=\begin{cases}n(w)-1&(w\alpha\in\Phi^-)\\ n(w)+1&(w\alpha\in\Phi^+)\end{cases}

です(wsαws_\alpha は Φ+∖{α}\Phi^+\setminus\lbrace\alpha\rbrace 上では ww と同じ集合に値をとり、α\alpha を −wα-w\alpha に写すので)。

次の補題は、単純鏡映の積の表示から無駄な 2 個を取り除けることを述べるもので、Weyl 群の基本定理の 4 を示すために使います。直感的には、積 s1⋯sts_1\cdots s_t の途中で正ルートが一度負になったなら、その前後で同じ鏡映が打ち消し合っている、ということです。

補題 6.1(削除条件)✓

α1,…,αt∈Δ\alpha_1,\dots,\alpha_t\in\Delta(重複可)とし、s1⋯st−1(αt)∈Φ−s_1\cdots s_{t-1}(\alpha_t)\in\Phi^- とする。このとき、ある 1≤i<t1\le i\lt t について s1⋯st=s1⋯si^⋯st−1s_1\cdots s_t=s_1\cdots\widehat{s_i}\cdots s_{t-1}(sis_i と sts_t を除いた積)が成り立つ。

証明(補題 6.1)

βi=si+1⋯st−1(αt)\beta_i=s_{i+1}\cdots s_{t-1}(\alpha_t)(βt−1=αt\beta_{t-1}=\alpha_t)とおくと、βt−1∈Φ+\beta_{t-1}\in\Phi^+、β0∈Φ−\beta_0\in\Phi^- なので、βi∈Φ+\beta_i\in\Phi^+ かつ βi−1=siβi∈Φ−\beta_{i-1}=s_i\beta_i\in\Phi^- となる ii があります。補題 5.3 から βi=αi\beta_i=\alpha_i です。v=si+1⋯st−1v=s_{i+1}\cdots s_{t-1} とおくと v(αt)=αiv(\alpha_t)=\alpha_i なので si=svαt=vstv−1s_i=s_{v\alpha_t}=vs_tv^{-1}、すなわち sisi+1⋯st−1=si+1⋯st−1sts_is_{i+1}\cdots s_{t-1}=s_{i+1}\cdots s_{t-1}s_t です。両辺に左から s1⋯si−1s_1\cdots s_{i-1}、右から sts_t を掛けて(st2=1s_t^2=1)結論を得ます。

定理 6.2(Weyl 群の基本定理)✓

  1. 任意の β∈Φ\beta\in\Phi に対し、単純鏡映の積 ww で wβ∈Δw\beta\in\Delta となるものがある。
  2. WW は単純鏡映 sαs_\alpha(α∈Δ\alpha\in\Delta)で生成される。
  3. WW は基底全体の集合に推移的に作用する。
  4. w∈Ww\in W が n(w)=0n(w)=0 を満たせば w=1w=1。特に wΔ=Δw\Delta=\Delta なら w=1w=1 で、WW は基底全体に単純推移的に作用する。
証明(定理 6.2)

W′W' を単純鏡映が生成する部分群とします。

1。 β∈Φ+\beta\in\Phi^+ について高さの帰納法を使います。β=∑kαα\beta=\sum k_\alpha\alpha について 0<(β,β)=∑kα(β,α)0\lt(\beta,\beta)=\sum k_\alpha(\beta,\alpha) なので (β,α)>0(\beta,\alpha)\gt0 となる α∈Δ\alpha\in\Delta があります。β=α\beta=\alpha なら終わりです。そうでなければ 補題 5.3 から sαβ∈Φ+s_\alpha\beta\in\Phi^+ で、高さは ⟨β,α∨⟩>0\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\gt0 だけ減るので帰納法の仮定が使えます。β∈Φ−\beta\in\Phi^- なら w(−β)=α∈Δw(-\beta)=\alpha\in\Delta となる ww をとり、sαwβ=αs_\alpha w\beta=\alpha です。

2。 β∈Φ\beta\in\Phi について 1 の w∈W′w\in W' で wβ=α∈Δw\beta=\alpha\in\Delta とすると sβ=w−1sαw∈W′s_\beta=w^{-1}s_\alpha w\in W' です。

3。 Δ′\Delta' を別の基底、Φ′+\Phi'^+ をその正ルートとし、r=∣Φ+∩(−Φ′+)∣r=|\Phi^+\cap(-\Phi'^+)| の帰納法で Δ′∈WΔ\Delta'\in W\Delta を示します。r=0r=0 なら Φ+⊂Φ′+\Phi^+\subset\Phi'^+ で、どちらも ∣Φ∣/2|\Phi|/2 個なので等しく、Δ\Delta の各元は Δ′\Delta' の非負整数結合、逆も同様です。互いに逆な非負整数行列は置換行列なので((AB)ii=1(AB)_{ii}=1 から各行の非零成分は 1 つで 11)、Δ=Δ′\Delta=\Delta' です。r>0r\gt0 なら、Δ⊂Φ′+\Delta\subset\Phi'^+ とすると Φ+⊂Φ′+\Phi^+\subset\Phi'^+ で r=0r=0 となるので、α∈Δ∩(−Φ′+)\alpha\in\Delta\cap(-\Phi'^+) があります。基底 sαΔ′s_\alpha\Delta' の正ルートは sαΦ′+s_\alpha\Phi'^+ で、

∣Φ+∩(−sαΦ′+)∣=∣sαΦ+∩(−Φ′+)∣=∣((Φ+∖{α})∪{−α})∩(−Φ′+)∣=r−1|\Phi^+\cap(-s_\alpha\Phi'^+)|=|s_\alpha\Phi^+\cap(-\Phi'^+)|=|\bigl((\Phi^+\setminus\lbrace\alpha\rbrace)\cup\lbrace-\alpha\rbrace\bigr)\cap(-\Phi'^+)|=r-1

なので、帰納法の仮定から sαΔ′=wΔs_\alpha\Delta'=w\Delta、Δ′=sαwΔ\Delta'=s_\alpha w\Delta です。

4。 w≠1w\ne1 を単純鏡映の積 s1⋯sts_1\cdots s_t として t≥1t\ge1 が最小になるように書きます。n(w)=0n(w)=0 なら w(αt)∈Φ+w(\alpha_t)\in\Phi^+、すなわち s1⋯st−1(αt)=−w(αt)∈Φ−s_1\cdots s_{t-1}(\alpha_t)=-w(\alpha_t)\in\Phi^- で、補題 6.1 から ww は t−2t-2 個の積で書け、最小性に反します。wΔ=Δw\Delta=\Delta なら wΦ+=Φ+w\Phi^+=\Phi^+ で n(w)=0n(w)=0 です。

この証明から、ww を単純鏡映の積で書くときの最小の個数 ℓ(w)\ell(w)(長さ)は n(w)n(w) に等しいこともわかります(n(wsα)=n(w)±1n(ws_\alpha)=n(w)\pm1 から n≤ℓn\le\ell、削除条件から ℓ≤n\ell\le n)。det⁡sα=−1\det s_\alpha=-1 なので det⁡w=(−1)ℓ(w)\det w=(-1)^{\ell(w)} で、これを ε(w)\varepsilon(w) と書きます。次章の Weyl の指標公式はこの符号を使います。

幾何学的には、超平面 α⊥\alpha^\perp(α∈Φ\alpha\in\Phi)たちは EE を有限個の開錐(Weyl 部屋)に切り分け、正則元 γ\gamma の属する部屋と基底 Δ(γ)\Delta(\gamma) が 1 対 1 に対応します。定理 6.2 の 3 と 4 は「WW は Weyl 部屋全体に単純推移的に作用する」と言い換えられ、とくに Weyl 部屋の個数は ∣W∣|W| です。A2A_2 では 3 本の直線が平面を 6 つの部屋に分け、∣W∣=∣S3∣=6|W|=|S_3|=6 です。コンパクト群の側では、WW は極大トーラスの正規化群を TT で割った有限群 N(T)/TN(T)/T として現れ、類関数をトーラスに制限すると WW 不変な関数になります。注意 4.5[指標と SU(2)・SU(N) の表現] に現れる ∣W∣|W| はこの群の位数です。

α₁α₂CA₂
A₂ の 3 本の鏡映面(破線)は平面を 6 つの Weyl 部屋に分ける。塗った部屋は、単純ルート α₁、α₂ に対して (λ,α₁)>0 かつ (λ,α₂)>0 となる部屋で、基底 {α₁,α₂} に対応する。α₁ に直交する直線と α₂ に直交する直線が、この部屋の壁になる。

A2A_2 で、CC と反対側の部屋にある λ\lambda を単純鏡映だけで CC へ運ぶ様子を見てみましょう。(λ,α)<0(\lambda,\alpha)\lt0 となる単純ルート α\alpha で鏡映するたびに λ\lambda は隣の部屋へ移り、n(w)n(w) が 1 ずつ増えて、3 回で CC に入ります。

A2 のルート系で、点 λ が部屋を 1 つずつ移りながら、単純鏡映 s1, s2, s1 の 3 回で支配的な部屋 C に入る動画。内積 (λ,α1)、(λ,α2) の符号が負から正に変わっていく。
A₂ で、C の反対側の部屋にある λ に単純鏡映 s₁, s₂, s₁ を順に施すと、3 回で支配的な部屋 C に入る。左の数値は (λ,α₁)、(λ,α₂) の符号の変化(赤が負、緑が正)を表す。

定義 6.3(支配的なベクトル)↗

λ∈E\lambda\in E がすべての α∈Δ\alpha\in\Delta について (λ,α)≥0(\lambda,\alpha)\ge0 を満たすとき 支配的、(λ,α)>0(\lambda,\alpha)\gt0 を満たすとき 狭義支配的 という。

命題 6.4(支配的な代表元)✓

  1. 各 λ∈E\lambda\in E の WW 軌道は、支配的なベクトルをちょうど 1 つ含む。
  2. λ\lambda が狭義支配的で wλ=λw\lambda=\lambda なら w=1w=1。
証明(命題 6.4)

存在。 WW は有限なので (wλ,ρ)(w\lambda,\rho) が最大となる ww をとります。α∈Δ\alpha\in\Delta について 補題 5.3 から (sαwλ,ρ)=(wλ,sαρ)=(wλ,ρ)−(wλ,α)(s_\alpha w\lambda,\rho)=(w\lambda,s_\alpha\rho)=(w\lambda,\rho)-(w\lambda,\alpha) で、最大性から (wλ,α)≥0(w\lambda,\alpha)\ge0 です。

一意性。 λ\lambda と wλw\lambda がともに支配的なら wλ=λw\lambda=\lambda であることを n(w)n(w) の帰納法で示します。n(w)>0n(w)\gt0 なら wα∈Φ−w\alpha\in\Phi^- となる α∈Δ\alpha\in\Delta があります(なければ wΦ+⊂Φ+w\Phi^+\subset\Phi^+ で n(w)=0n(w)=0)。0≤(λ,α)=(wλ,wα)≤00\le(\lambda,\alpha)=(w\lambda,w\alpha)\le0(wλw\lambda は支配的で −wα-w\alpha は正ルートの非負結合)なので (λ,α)=0(\lambda,\alpha)=0、sαλ=λs_\alpha\lambda=\lambda です。wλ=wsαλw\lambda=ws_\alpha\lambda で n(wsα)=n(w)−1n(ws_\alpha)=n(w)-1 なので、帰納法の仮定から wλ=λw\lambda=\lambda です。2 は同じ議論で、w≠1w\ne1 なら 定理 6.2 の 4 から n(w)>0n(w)\gt0、(λ,α)=0(\lambda,\alpha)=0 となる α∈Δ\alpha\in\Delta が出て狭義支配性に反します。

Δ={α1,…,αℓ}\Delta=\lbrace\alpha_1,\dots,\alpha_\ell\rbrace に対し、Aij=⟨αi,αj∨⟩A_{ij}=\langle\alpha_i,\alpha_j^\vee\rangle を Cartan 行列 といいます。対角成分は 22、非対角成分は 定理 5.2 の証明 (ii) と 命題 4.3 から 0,−1,−2,−30,-1,-2,-3 のいずれかです。定理 6.2 の 3 により、基底の取り方による違いは添字の並べ替えだけです。

命題 7.1(Cartan 行列はルート系を決める)✓

2 つのルート系 Φ⊂E\Phi\subset E、Φ′⊂E′\Phi'\subset E' の基底 Δ,Δ′\Delta,\Delta' の Cartan 行列が(添字の対応のもとで)一致すれば、αi↦αi′\alpha_i\mapsto\alpha_i' で定まる線形同型 E→E′E\to E' は Φ\Phi を Φ′\Phi' に写す。

証明(命題 7.1)

線形同型を ϕ\phi とします。si(αj)=αj−Ajiαis_i(\alpha_j)=\alpha_j-A_{ji}\alpha_i なので、単純鏡映の作用は基底 Δ\Delta に関して Cartan 行列だけで書け、ϕsiϕ−1=si′\phi s_i\phi^{-1}=s_i' です。定理 6.2 の 2 から ϕWϕ−1=W′\phi W\phi^{-1}=W'、1 から Φ=WΔ\Phi=W\Delta なので ϕ(Φ)=W′Δ′=Φ′\phi(\Phi)=W'\Delta'=\Phi' です。

例 7.2(B₂ の Cartan 行列と α 鎖)

図の B2B_2 で α1=(1,0)\alpha_1=(1,0)(短)、α2=(−1,1)\alpha_2=(-1,1)(長)とすると (α1,α2)=−1(\alpha_1,\alpha_2)=-1、∣α1∣2=1|\alpha_1|^2=1、∣α2∣2=2|\alpha_2|^2=2 なので

⟨α1,α2∨⟩=−1,⟨α2,α1∨⟩=−2,A=(2−1−22)\langle\alpha_1,\alpha_2^\vee\rangle=-1,\qquad\langle\alpha_2,\alpha_1^\vee\rangle=-2,\qquad A=\begin{pmatrix}2&-1\\-2&2\end{pmatrix}

です。正ルートは α1, α2, α1+α2=(0,1), 2α1+α2=(1,1)\alpha_1,\ \alpha_2,\ \alpha_1+\alpha_2=(0,1),\ 2\alpha_1+\alpha_2=(1,1) の 4 つで、α2\alpha_2 を通る α1\alpha_1 鎖は α2,α2+α1,α2+2α1\alpha_2,\alpha_2+\alpha_1,\alpha_2+2\alpha_1 です。定理 3.2 の 3 の記号で r=0r=0、q=2q=2、r−q=−2=⟨α2,α1∨⟩r-q=-2=\langle\alpha_2,\alpha_1^\vee\rangle となり、定理と一致します。逆向きの α2\alpha_2 鎖 α1,α1+α2\alpha_1,\alpha_1+\alpha_2 は長さ 2 で、r−q=−1=⟨α1,α2∨⟩r-q=-1=\langle\alpha_1,\alpha_2^\vee\rangle です。このように Cartan 行列の非対称性は、短いルートと長いルートで鎖の長さが違うことを表しています。また ρ=12(4α1+3α2)=(12,32)\rho=\frac12(4\alpha_1+3\alpha_2)=(\frac12,\frac32) で、⟨ρ,α1∨⟩=2⋅12/1=1\langle\rho,\alpha_1^\vee\rangle=2\cdot\frac12/1=1、⟨ρ,α2∨⟩=2⋅(−12+32)/2=1\langle\rho,\alpha_2^\vee\rangle=2\cdot(-\frac12+\frac32)/2=1 となり、補題 5.3 の ⟨ρ,α∨⟩=1\langle\rho,\alpha^\vee\rangle=1 が確かめられます。

Dynkin 図 は、単純ルートを頂点とし、i≠ji\ne j の頂点を AijAjiA_{ij}A_{ji} 本の線で結び、2 本以上のときは長い方から短い方へ矢印をつけたグラフです。Cartan 行列は Dynkin 図から復元できます。実際、i≠ji\ne j について AijA_{ij} と AjiA_{ji} は 00 以下の整数で、積が線の本数 nijn_{ij} です。nij=0n_{ij}=0 なら両方 00、nij=1n_{ij}=1 なら両方 −1-1 です。nij∈{2,3}n_{ij}\in\lbrace2,3\rbrace なら一方が −1-1、他方が −nij-n_{ij} で、Aij/Aji=∣αi∣2/∣αj∣2A_{ij}/A_{ji}=|\alpha_i|^2/|\alpha_j|^2 なので、αj\alpha_j が長い(矢印が αj\alpha_j から出る)ときに Aij=−1A_{ij}=-1、Aji=−nijA_{ji}=-n_{ij} です。ルート系が、互いに直交する空でない 2 つの部分集合の和 Φ=Φ1∪Φ2\Phi=\Phi_1\cup\Phi_2 に分かれないとき 既約 といいます。

補題 7.3(既約性と Dynkin 図の連結性)✓

ルート系 Φ\Phi が既約であることと、その Dynkin 図が連結であることは同値である。

証明(補題 7.3)

連結でなければ可約。 頂点を、互いに線で結ばれない空でない 2 組 Δ=Δ1⊔Δ2\Delta=\Delta_1\sqcup\Delta_2 に分けられたとします。AijAji=0A_{ij}A_{ji}=0 は (αi,αj)=0(\alpha_i,\alpha_j)=0 と同値なので Δ1⊥Δ2\Delta_1\perp\Delta_2 で、Ek=span⁡ΔkE_k=\operatorname{span}\Delta_k とおくと E=E1⊕E2E=E_1\oplus E_2 は直交分解です。α∈Δ1\alpha\in\Delta_1 の鏡映 sαs_\alpha は E1E_1 を保ち、α\alpha に直交する E2E_2 の各点を固定します。Δ2\Delta_2 の元についても同様なので、単純鏡映で生成される WW(定理 6.2 の 2)は E1E_1 と E2E_2 をそれぞれ保ちます。定理 6.2 の 1 から各 β∈Φ\beta\in\Phi は wβ∈Δw\beta\in\Delta となる w∈Ww\in W をもつので、β=w−1(wβ)\beta=w^{-1}(w\beta) は E1E_1 か E2E_2 に入ります。よって Φ=(Φ∩E1)∪(Φ∩E2)\Phi=(\Phi\cap E_1)\cup(\Phi\cap E_2) で、両者は空でなく(Δk\Delta_k を含む)直交し、Φ\Phi は可約です。

可約なら連結でない。 Φ=Φ1∪Φ2\Phi=\Phi_1\cup\Phi_2(空でなく直交)とし、Δk=Δ∩Φk\Delta_k=\Delta\cap\Phi_k とおくと、Δ=Δ1⊔Δ2\Delta=\Delta_1\sqcup\Delta_2 で Δ1\Delta_1 と Δ2\Delta_2 の間に線はありません。Δ2=∅\Delta_2=\varnothing なら Φ⊂span⁡Δ=span⁡Δ1⊂span⁡Φ1\Phi\subset\operatorname{span}\Delta=\operatorname{span}\Delta_1\subset\operatorname{span}\Phi_1 ですが、Φ2\Phi_2 の元は Φ1\Phi_1 に直交する 00 でないベクトルなので span⁡Φ1\operatorname{span}\Phi_1 に入らず、矛盾します。同様に Δ1≠∅\Delta_1\ne\varnothing で、Dynkin 図は連結ではありません。

分類の証明は、Dynkin 図から矢印を取り除いたグラフについての組合せ論です。単純ルートを単位ベクトルに正規化すると、次の性質だけが残ります。

定義 7.4(許容系)↗

実内積空間の単位ベクトルの組 A={ε1,…,εℓ}\mathfrak{A}=\lbrace\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_\ell\rbrace が一次独立で、i≠ji\ne j について (εi,εj)≤0(\varepsilon_i,\varepsilon_j)\le0 かつ 4(εi,εj)2∈{0,1,2,3}4(\varepsilon_i,\varepsilon_j)^2\in\lbrace0,1,2,3\rbrace をみたすとき、許容系 という。εi\varepsilon_i を頂点とし、i≠ji\ne j の頂点を 4(εi,εj)24(\varepsilon_i,\varepsilon_j)^2 本の線で結んだグラフを Γ(A)\Gamma(\mathfrak{A}) と書く。

基底 Δ\Delta に対し εi=αi/∣αi∣\varepsilon_i=\alpha_i/|\alpha_i| とおくと許容系になり、Γ\Gamma は Dynkin 図から矢印を除いたものです。実際、αi−αj\alpha_i-\alpha_j(i≠ji\ne j)は係数の符号が混ざるのでルートでなく、命題 4.3 の 2 から (αi,αj)≤0(\alpha_i,\alpha_j)\le0、同じ命題の 1 から 4(εi,εj)2=AijAji∈{0,1,2,3}4(\varepsilon_i,\varepsilon_j)^2=A_{ij}A_{ji}\in\lbrace0,1,2,3\rbrace です。以下、頂点 vv に接続する線の本数は多重度を込めて数え、3 つ以上の頂点と結ばれた頂点を分岐点と呼びます。

補題 7.5(許容系のグラフの制約)✓

A\mathfrak{A} を許容系、Γ=Γ(A)\Gamma=\Gamma(\mathfrak{A}) とする。

  1. A\mathfrak{A} の空でない部分集合も許容系で、そのグラフは Γ\Gamma の対応する頂点と、その間の線だけを残したものである。
  2. 線で結ばれた頂点の組の個数は ℓ\ell より小さい。特に Γ\Gamma は閉路を含まない。
  3. 各頂点に接続する線は 3 本以下である。
  4. Γ\Gamma が連結で三重線を含むなら、Γ\Gamma は 2 頂点と三重線 1 本だけからなる。
  5. (鎖の縮約){ε1,…,εk}⊂A\lbrace\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_k\rbrace\subset\mathfrak{A} が単線の鎖(εi\varepsilon_i と εi+1\varepsilon_{i+1} が 1 本の線で結ばれ、それ以外の組は結ばれない)ならば、ε=∑i=1kεi\varepsilon=\sum_{i=1}^k\varepsilon_i について A′=(A∖{ε1,…,εk})∪{ε}\mathfrak{A}'=(\mathfrak{A}\setminus\lbrace\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_k\rbrace)\cup\lbrace\varepsilon\rbrace は許容系で、Γ(A′)\Gamma(\mathfrak{A}') は鎖を 1 頂点に縮めたグラフである。
  6. Γ\Gamma が連結なら、Γ\Gamma は「二重線 2 本」「二重線と分岐点」「分岐点 2 つ」のいずれも含まない。
証明(補題 7.5)

1。 定義の条件は部分集合に遺伝します。

2。 ε=∑iεi\varepsilon=\sum_i\varepsilon_i は一次独立性から 00 でなく、

0<(ε,ε)=ℓ+2∑i<j(εi,εj)0\lt(\varepsilon,\varepsilon)=\ell+2\sum_{i\lt j}(\varepsilon_i,\varepsilon_j)

です。εi,εj\varepsilon_i,\varepsilon_j が結ばれていれば 4(εi,εj)2≥14(\varepsilon_i,\varepsilon_j)^2\ge1 かつ (εi,εj)≤0(\varepsilon_i,\varepsilon_j)\le0 なので 2(εi,εj)≤−12(\varepsilon_i,\varepsilon_j)\le-1 で、結ばれた組の個数を NN とすると 0<ℓ−N0\lt\ell-N です。k≥3k\ge3 個の頂点 η1,…,ηk\eta_1,\dots,\eta_k が閉路(ηi\eta_i と ηi+1\eta_{i+1}、ηk\eta_k と η1\eta_1 が結ばれる)をなすと、部分集合 {η1,…,ηk}\lbrace\eta_1,\dots,\eta_k\rbrace(1 により許容系)で結ばれた組が kk 個以上になり、矛盾します。

3。 頂点 ε\varepsilon と結ばれた頂点を η1,…,ηk\eta_1,\dots,\eta_k とします。2 から閉路がないので i≠ji\ne j なら ηi,ηj\eta_i,\eta_j は結ばれず、(ηi,ηj)=0(\eta_i,\eta_j)=0 です。span⁡{ε,η1,…,ηk}\operatorname{span}\lbrace\varepsilon,\eta_1,\dots,\eta_k\rbrace は k+1k+1 次元なので、そこに η1,…,ηk\eta_1,\dots,\eta_k と直交する単位ベクトル η0\eta_0 があり、η0,…,ηk\eta_0,\dots,\eta_k はその正規直交基底です。ε=∑i=0k(ε,ηi)ηi\varepsilon=\sum_{i=0}^k(\varepsilon,\eta_i)\eta_i から 1=∑i=0k(ε,ηi)21=\sum_{i=0}^k(\varepsilon,\eta_i)^2 で、(ε,η0)≠0(\varepsilon,\eta_0)\ne0(00 なら ε∈span⁡{η1,…,ηk}\varepsilon\in\operatorname{span}\lbrace\eta_1,\dots,\eta_k\rbrace となり一次独立性に反する)なので ∑i=1k4(ε,ηi)2<4\sum_{i=1}^k4(\varepsilon,\eta_i)^2\lt4 です。左辺が ε\varepsilon に接続する線の本数です。

4。 三重線で結ばれた 2 頂点は、3 によりほかの頂点と結ばれません。連結なのでこの 2 頂点がすべてです。

5。 単線では (εi,εi+1)=−12(\varepsilon_i,\varepsilon_{i+1})=-\frac12 なので (ε,ε)=k+2∑i=1k−1(εi,εi+1)=k−(k−1)=1(\varepsilon,\varepsilon)=k+2\sum_{i=1}^{k-1}(\varepsilon_i,\varepsilon_{i+1})=k-(k-1)=1 です。鎖の外の η∈A\eta\in\mathfrak{A} は、鎖の頂点の高々 1 つとしか結ばれません(2 つと結ばれれば鎖の一部と閉路をなし、2 に反する)。したがって (η,ε)(\eta,\varepsilon) は、その頂点 εi\varepsilon_i との内積 (η,εi)(\eta,\varepsilon_i) か 00 で、η\eta と ε\varepsilon の間の線は η\eta と εi\varepsilon_i の間の線と同じです。A′\mathfrak{A}' の一次独立性は、A′\mathfrak{A}' の 1 次結合が A\mathfrak{A} の 1 次結合(ε1,…,εk\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_k の係数が等しいもの)であることから従います。

6。 二重線と分岐点を特別な部分と呼びます。特別な部分 XX の足とは、XX が分岐点ならその頂点、XX が二重線ならその 2 端点のことです。2 つの特別な部分を含むとして、XX の足 v0v_0 から YY の足 vmv_m への道 v0,v1,…,vmv_0,v_1,\dots,v_m(m≥0m\ge0。2 から木なので 2 点を結ぶ道は一意)が最短になるように X≠YX\ne Y と足を選びます。最短性から、道の上の線はすべて単線です(道の上に二重線があれば、それは XX により近い特別な部分になる)。次の頂点からなる部分集合 B\mathfrak{B} を考えます: 道の頂点 v0,…,vmv_0,\dots,v_m と、XX が二重線ならそのもう一方の端点、XX が分岐点なら v0v_0 に結ばれた頂点のうち道の上にないもの 2 つ(v0v_0 は 3 つ以上の頂点と結ばれ、道の上で v0v_0 と結ばれるのは v1v_1 だけ)、YY についても同様に vmv_m の側で選んだもの(m=0m=0 で YY が分岐点のときは、XX の側で加えた頂点と異なる 2 つを選ぶ。v0v_0 は 3 つ以上の頂点と結ばれるので選べる)。2 から木なので、これらの頂点はすべて相異なり、B\mathfrak{B} の頂点の間の線は道の線と、加えた頂点を v0v_0 または vmv_m に結ぶ線だけです。1 から B\mathfrak{B} は許容系で、{v0,…,vm}\lbrace v_0,\dots,v_m\rbrace は単線の鎖(m=0m=0 なら 1 頂点)なので、5 で 1 頂点 ε\varepsilon に縮められます。すると ε\varepsilon には XX の側から 2 本(二重線、または分岐点の残りの枝 2 本)、YY の側から 2 本、合わせて 4 本以上の線が接続し、3 に反します。

補題 7.6(基底の部分集合が定めるルート系)✓

Δ\Delta をルート系 Φ⊂E\Phi\subset E の基底、Δ′⊂Δ\Delta'\subset\Delta を空でない部分集合とし、E′=span⁡Δ′E'=\operatorname{span}\Delta'、Φ′=Φ∩E′\Phi'=\Phi\cap E' とおく。このとき Φ′\Phi' は E′E' のルート系で、Δ′\Delta' はその基底であり、その Dynkin 図は Φ\Phi の Dynkin 図から Δ′\Delta' の頂点とその間の線だけを残したものである。

証明(補題 7.6)

Φ′\Phi' は有限で 00 を含まず、Δ′\Delta' を含むので E′E' を張ります。定義 4.1 の 2 と 4 は Φ\Phi から遺伝します。α∈Φ′\alpha\in\Phi' なら sα(v)=v−⟨v,α∨⟩αs_\alpha(v)=v-\langle v,\alpha^\vee\rangle\alpha は E′E' を保ち、Φ\Phi も保つので Φ′\Phi' を保ちます。β∈Φ′\beta\in\Phi' を Δ\Delta で β=∑α∈Δkαα\beta=\sum_{\alpha\in\Delta}k_\alpha\alpha(すべて同符号の整数)と書くと、β∈E′\beta\in E' で Δ\Delta は一次独立なので Δ∖Δ′\Delta\setminus\Delta' の係数は 00 です。よって Δ′\Delta' は Φ′\Phi' の基底で、Cartan 行列は Φ\Phi の Cartan 行列の Δ′\Delta' に対応する部分です。

次の定理の証明は二つの部分に分かれます。前半は、Dynkin 図にできるグラフが上のどれかに限られることを、単位ベクトルの内積の不等式だけで絞り込みます。後半は、列挙した各図に対応するルート系を座標で実際に作ります。後半の座標の選び方は一見天下り的ですが、どれも「整数の格子に入るベクトルのうち、決まった長さのもの」という同じ型の構成です。

定理 7.7(既約ルート系の分類)✓

既約ルート系の Dynkin 図は、次のいずれかである(添字は頂点の数)。

  • Aℓ (ℓ≥1)A_\ell\ (\ell\ge1):ℓ\ell 個の頂点が単線で一列につながった鎖。
  • Bℓ (ℓ≥2)B_\ell\ (\ell\ge2)、Cℓ (ℓ≥3)C_\ell\ (\ell\ge3):ℓ\ell 個の頂点の鎖で、最後の 1 組だけが二重線のもの。BℓB_\ell は矢印が端の頂点を向き(端が短いルート)、CℓC_\ell は端の頂点から出る(端が長いルート)。
  • Dℓ (ℓ≥4)D_\ell\ (\ell\ge4):ℓ−2\ell-2 個の頂点の単線の鎖の一端に、2 つの頂点をそれぞれ単線で結んだもの。
  • E6E_6、E7E_7、E8E_8:分岐点が 1 つで、そこから単線の腕が 3 本出て、腕の頂点数(分岐点を除く)が (1,2,2)(1,2,2)、(1,2,3)(1,2,3)、(1,2,4)(1,2,4) のもの。
  • F4F_4:4 頂点の鎖で、中央の組が二重線、両端の組が単線のもの。
  • G2G_2:2 頂点を三重線で結んだもの。

逆に、これらの各図に対して、それを Dynkin 図とする既約ルート系が存在し、それは Φ\Phi を Φ′\Phi' に写す線形同型を除いてただ一つである。

証明(定理 7.7)

必要性の準備。 Φ\Phi を既約、Δ\Delta を基底、Γ\Gamma を Dynkin 図から矢印を除いたグラフとします。Γ\Gamma は上で述べたように許容系のグラフで、補題 7.3 から連結、補題 7.5 の 2 から閉路のない木です。三重線があれば 補題 7.5 の 4 から G2G_2 です。以下三重線はないとします。

二重線がある場合。 補題 7.5 の 6 から、二重線はただ 1 本で分岐点はありません。分岐点のない連結な木は鎖なので、Γ\Gamma は鎖 ε1,…,εp,ηq,…,η1\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_p,\eta_q,\dots,\eta_1(εp\varepsilon_p と ηq\eta_q の間だけが二重線)です。ε=∑i=1piεi\varepsilon=\sum_{i=1}^pi\varepsilon_i、η=∑j=1qjηj\eta=\sum_{j=1}^qj\eta_j とおくと、単線では 2(εi,εi+1)=−12(\varepsilon_i,\varepsilon_{i+1})=-1 なので

(ε,ε)=∑i=1pi2−∑i=1p−1i(i+1)=p2−p(p−1)2=p(p+1)2,(\varepsilon,\varepsilon)=\sum_{i=1}^pi^2-\sum_{i=1}^{p-1}i(i+1)=p^2-\frac{p(p-1)}2=\frac{p(p+1)}2,

同様に (η,η)=q(q+1)/2(\eta,\eta)=q(q+1)/2 です。結ばれているのは εp\varepsilon_p と ηq\eta_q だけで (εp,ηq)2=12(\varepsilon_p,\eta_q)^2=\frac12 なので (ε,η)2=p2q2/2(\varepsilon,\eta)^2=p^2q^2/2 です。ε,η\varepsilon,\eta は一次独立なので Cauchy–Schwarz の不等式は狭義で、p2q2/2<p(p+1)q(q+1)/4p^2q^2/2\lt p(p+1)q(q+1)/4、すなわち (p−1)(q−1)<2(p-1)(q-1)\lt2 です。よって p=1p=1 または q=1q=1(二重線が鎖の端にある)か、p=q=2p=q=2(F4F_4 の形)です。前者で頂点数を ℓ=p+q≥2\ell=p+q\ge2 とすると、矢印の向きは 2 通りで、端の頂点が短いものを BℓB_\ell、長いものを CℓC_\ell と呼びます。ℓ=2\ell=2 では 2 つの向きは頂点の付け替えで移り合うので B2=C2B_2=C_2 で、CℓC_\ell は ℓ≥3\ell\ge3 で数えます。F4F_4 の形では、2 つの向きは鎖を逆からたどることで移り合うので、図は 1 つです。

単線だけの場合。 分岐点がなければ Γ\Gamma は鎖で AℓA_\ell です。分岐点があれば 補題 7.5 の 6 からただ 1 つで、3 からちょうど 3 頂点と結ばれ、それを除くと 3 本の単線の鎖(腕)が残ります。腕を ε1,…,εp−1\varepsilon_1,\dots,\varepsilon_{p-1}、η1,…,ηq−1\eta_1,\dots,\eta_{q-1}、ζ1,…,ζr−1\zeta_1,\dots,\zeta_{r-1}(添字の大きい端が分岐点 ψ\psi と結ばれる。p,q,r≥2p,q,r\ge2)とし、ε=∑iiεi\varepsilon=\sum_ii\varepsilon_i、η=∑jjηj\eta=\sum_jj\eta_j、ζ=∑kkζk\zeta=\sum_kk\zeta_k とおきます。上と同じ計算で (ε,ε)=p(p−1)/2(\varepsilon,\varepsilon)=p(p-1)/2、(ε,ψ)=(p−1)(εp−1,ψ)=−(p−1)/2(\varepsilon,\psi)=(p-1)(\varepsilon_{p-1},\psi)=-(p-1)/2 なので、ε\varepsilon と ψ\psi のなす角 θ1\theta_1 について

cos⁡2θ1=(ε,ψ)2(ε,ε)=p−12p=12(1−1p)\cos^2\theta_1=\frac{(\varepsilon,\psi)^2}{(\varepsilon,\varepsilon)}=\frac{p-1}{2p}=\frac12\Bigl(1-\frac1p\Bigr)

です(∣ψ∣=1|\psi|=1)。η\eta、ζ\zeta についても同様です。ε,η,ζ\varepsilon,\eta,\zeta は互いに直交し(異なる腕の頂点は結ばれない)、ψ\psi はそれらの張る空間に入らない(一次独立性)ので、補題 7.5 の 3 の証明と同じく、ψ\psi を ε/∣ε∣,η/∣η∣,ζ/∣ζ∣\varepsilon/|\varepsilon|,\eta/|\eta|,\zeta/|\zeta| と、それらに直交する単位ベクトルで展開して cos⁡2θ1+cos⁡2θ2+cos⁡2θ3<1\cos^2\theta_1+\cos^2\theta_2+\cos^2\theta_3\lt1 を得ます。これは

1p+1q+1r>1\frac1p+\frac1q+\frac1r\gt1

と同値です。p≥q≥r≥2p\ge q\ge r\ge2 と並べると、r≥3r\ge3 なら左辺は 11 以下なので r=2r=2 です。q=2q=2 なら pp は任意で、頂点数 ℓ=p+q+r−2=p+2≥4\ell=p+q+r-2=p+2\ge4 の DℓD_\ell です。q≥4q\ge4 なら 1p+14+12≤1\frac1p+\frac14+\frac12\le1 なので q=3q=3 で、1p>16\frac1p\gt\frac16 から p∈{3,4,5}p\in\lbrace3,4,5\rbrace、それぞれ E6,E7,E8E_6,E_7,E_8 です。以上で Dynkin 図は列挙したもののいずれかです。

存在。 以下 e1,…,eNe_1,\dots,e_N を RN\mathbb{R}^N の標準基底とし、各 Φ\Phi について E=span⁡ΦE=\operatorname{span}\Phi とします。公理(定義 4.1)の確認には次の考え方を使います。Φ\Phi が、ある加法部分群 L⊂RNL\subset\mathbb{R}^N と正数の有限集合 SS によって Φ={v∈L:(v,v)∈S}\Phi=\lbrace v\in L : (v,v)\in S\rbrace と書け、すべての α∈Φ\alpha\in\Phi、β∈L\beta\in L について ⟨β,α∨⟩∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\in\mathbb{Z} ならば、sα(β)=β−⟨β,α∨⟩α∈Ls_\alpha(\beta)=\beta-\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\alpha\in L で長さも変わらないので sα(Φ)=Φs_\alpha(\Phi)=\Phi(公理 3)、公理 4 も成り立ちます。LL が 12ZN\frac12\mathbb{Z}^N に含まれれば Φ\Phi は有限です。公理 2 は個別に確かめます。基底の確認では、Φ\Phi を正ルートとその符号反転に分け(E8E_8 と G2G_2 では個別に指定し、それ以外では最初の 00 でない座標が正のルートを正ルートとする)、指定した ℓ\ell 個のルートが正ルートを非負整数係数で表すことを示します。そうすれば全ルートがその整数結合なので、ℓ\ell 個のベクトルは ℓ\ell 次元の EE を張り、一次独立で、定義 5.1 の基底です。

  • AℓA_\ell。 L={x∈Zℓ+1:∑xi=0}L=\lbrace x\in\mathbb{Z}^{\ell+1} : \sum x_i=0\rbrace、S={2}S=\lbrace2\rbrace で Φ={ei−ej:i≠j}\Phi=\lbrace e_i-e_j : i\ne j\rbrace、⟨β,α∨⟩=(β,α)∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=(\beta,\alpha)\in\mathbb{Z} です。αi=ei−ei+1\alpha_i=e_i-e_{i+1} とすると ei−ej=αi+⋯+αj−1e_i-e_j=\alpha_i+\dots+\alpha_{j-1}(i<ji\lt j)で、(αi,αi+1)=−1(\alpha_i,\alpha_{i+1})=-1、離れた組は直交するので AℓA_\ell です(sl(ℓ+1,C)\mathfrak{sl}(\ell+1,\mathbb{C}) のルート系と同じもの)。
  • BℓB_\ell(ℓ≥2\ell\ge2)。 L=ZℓL=\mathbb{Z}^\ell、S={1,2}S=\lbrace1,2\rbrace で Φ={±ei}∪{±ei±ej:i<j}\Phi=\lbrace\pm e_i\rbrace\cup\lbrace\pm e_i\pm e_j : i\lt j\rbrace です。(α,α)∈{1,2}(\alpha,\alpha)\in\lbrace1,2\rbrace と (β,α)∈Z(\beta,\alpha)\in\mathbb{Z} から ⟨β,α∨⟩∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle\in\mathbb{Z} です。±ei\pm e_i と ±ei±ej\pm e_i\pm e_j は比例しないので公理 2 も成り立ちます。αi=ei−ei+1\alpha_i=e_i-e_{i+1}(i<ℓi\lt\ell)、αℓ=eℓ\alpha_\ell=e_\ell とすると、正ルート(最初の 00 でない座標が正のもの)のうち、ei=αi+⋯+αℓe_i=\alpha_i+\dots+\alpha_\ell、ei−eje_i-e_j は上と同じ、ei+eje_i+e_j は eie_i と eje_j の和です。(αℓ−1,αℓ)=−1(\alpha_{\ell-1},\alpha_\ell)=-1、∣αℓ−1∣2=2|\alpha_{\ell-1}|^2=2、∣αℓ∣2=1|\alpha_\ell|^2=1 から最後の組は二重線で、端の αℓ\alpha_\ell が短く、BℓB_\ell です。
  • CℓC_\ell(ℓ≥3\ell\ge3)。 Φ={±2ei}∪{±ei±ej:i<j}\Phi=\lbrace\pm2e_i\rbrace\cup\lbrace\pm e_i\pm e_j : i\lt j\rbrace とします。この集合は座標の置換と符号の反転で保たれ、鏡映 s2eis_{2e_i}(第 ii 座標の符号反転)、sei−ejs_{e_i-e_j}(第 i,ji,j 座標の入れ替え)、sei+ejs_{e_i+e_j}(xi↦−xjx_i\mapsto-x_j、xj↦−xix_j\mapsto-x_i)はいずれもそのような変換なので公理 3 が成り立ちます。β∈Zℓ\beta\in\mathbb{Z}^\ell について ⟨β,(2ei)∨⟩=βi\langle\beta,(2e_i)^\vee\rangle=\beta_i、⟨β,(ei±ej)∨⟩=βi±βj\langle\beta,(e_i\pm e_j)^\vee\rangle=\beta_i\pm\beta_j は整数で、公理 2 も明らかです。αi=ei−ei+1\alpha_i=e_i-e_{i+1}(i<ℓi\lt\ell)、αℓ=2eℓ\alpha_\ell=2e_\ell とすると、ei+ej=(ei−eℓ)+(ej−eℓ)+2eℓe_i+e_j=(e_i-e_\ell)+(e_j-e_\ell)+2e_\ell、2ei=2(ei−eℓ)+2eℓ2e_i=2(e_i-e_\ell)+2e_\ell で、ei−eℓe_i-e_\ell は αi,…,αℓ−1\alpha_i,\dots,\alpha_{\ell-1} の和です。(αℓ−1,αℓ)=−2(\alpha_{\ell-1},\alpha_\ell)=-2、∣αℓ∣2=4|\alpha_\ell|^2=4 から Aℓ−1,ℓ=−1A_{\ell-1,\ell}=-1、Aℓ,ℓ−1=−2A_{\ell,\ell-1}=-2 で、端の αℓ\alpha_\ell が長く、CℓC_\ell です。
  • DℓD_\ell(ℓ≥4\ell\ge4)。 L=ZℓL=\mathbb{Z}^\ell、S={2}S=\lbrace2\rbrace で Φ={±ei±ej:i<j}\Phi=\lbrace\pm e_i\pm e_j : i\lt j\rbrace です。αi=ei−ei+1\alpha_i=e_i-e_{i+1}(i<ℓi\lt\ell)、αℓ=eℓ−1+eℓ\alpha_\ell=e_{\ell-1}+e_\ell とすると、ei+ej=(ei−eℓ−1)+(ej−eℓ)+αℓe_i+e_j=(e_i-e_{\ell-1})+(e_j-e_\ell)+\alpha_\ell(i<ji\lt j。ei−eℓ−1e_i-e_{\ell-1}、ej−eℓe_j-e_\ell は 00 か αk\alpha_k の和)です。αℓ\alpha_\ell は αℓ−2\alpha_{\ell-2} とだけ単線で結ばれ((αℓ−1,αℓ)=0(\alpha_{\ell-1},\alpha_\ell)=0、(αℓ−2,αℓ)=−1(\alpha_{\ell-2},\alpha_\ell)=-1)、DℓD_\ell です。
  • E8E_8。 L={x∈Z8∪(Z+12)8:∑xi∈2Z}L=\lbrace x\in\mathbb{Z}^8\cup(\mathbb{Z}+\frac12)^8 : \sum x_i\in2\mathbb{Z}\rbrace とします。1=(1,…,1)\mathbf{1}=(1,\dots,1) として、x,y∈Lx,y\in L の内積を場合分けで調べると、x∈Z8x\in\mathbb{Z}^8、y=121+zy=\frac12\mathbf{1}+z(z∈Z8z\in\mathbb{Z}^8)なら (x,y)=12∑xi+(x,z)∈Z(x,y)=\frac12\sum x_i+(x,z)\in\mathbb{Z}、x=121+zx=\frac12\mathbf{1}+z、y=121+wy=\frac12\mathbf{1}+w なら ∑zi,∑wi\sum z_i,\sum w_i が偶数なので (x,y)=2+12(∑zi+∑wi)+(z,w)∈Z(x,y)=2+\frac12(\sum z_i+\sum w_i)+(z,w)\in\mathbb{Z} です。LL は加法で閉じています。S={2}S=\lbrace2\rbrace とすると ⟨β,α∨⟩=(β,α)∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=(\beta,\alpha)\in\mathbb{Z} です。Φ\Phi は ±ei±ej\pm e_i\pm e_j(112112 個)と、全成分が ±12\pm\frac12 で負の成分が偶数個のもの(128128 個)からなり、公理 2 は長さが等しいことから明らかです。 α1=12(e1+e8−e2−⋯−e7)\alpha_1=\frac12(e_1+e_8-e_2-\dots-e_7)、α2=e1+e2\alpha_2=e_1+e_2、αk=ek−1−ek−2\alpha_k=e_{k-1}-e_{k-2}(3≤k≤83\le k\le8)とします。γ=(0,1,2,3,4,5,6,23)\gamma=(0,1,2,3,4,5,6,23) との内積で正負を分けると、正ルートは ej±eie_j\pm e_i(i<ji\lt j)と、e8e_8 の係数が +12+\frac12 の半整数ルートです(1+2+⋯+6=21<231+2+\dots+6=21\lt23)。1≤i<j≤71\le i\lt j\le7 では ej−eie_j-e_i は α3,…,α8\alpha_3,\dots,\alpha_8 の連続する和、ei+ej=α2+(ei−e1)+(ej−e2)e_i+e_j=\alpha_2+(e_i-e_1)+(e_j-e_2) です。半整数の正ルート xx について、x−α1x-\alpha_1 は、α1\alpha_1 と符号の異なる成分の集合 T⊂{1,…,7}T\subset\lbrace1,\dots,7\rbrace(負の成分の個数がともに偶数なので ∣T∣|T| は偶数)を使って −[1∈T]e1+∑i∈T∖{1}ei-[1\in T]e_1+\sum_{i\in T\setminus\lbrace1\rbrace}e_i と書けます。1∉T1\notin T なら TT の元を 2 つずつ組にして ea+ebe_a+e_b の和、1∈T1\in T なら T∖{1}T\setminus\lbrace1\rbrace の 1 元 bb で eb−e1e_b-e_1 を作り残りを組にすれば、非負整数結合です。最後に e8±eie_8\pm e_i(i≤7i\le7)は、e8±eie_8\pm e_i の残り 6 成分に ±12\pm\frac12 を互いに逆符号で配った 2 つの半整数の正ルートの和で(負の成分の個数がともに偶数になるように配れる)、やはり非負整数結合です。内積を計算すると、α3,…,α8\alpha_3,\dots,\alpha_8 が単線の鎖、α1\alpha_1 は α3\alpha_3 とだけ、α2\alpha_2 は α4\alpha_4 とだけ単線で結ばれます。よって分岐点 α4\alpha_4 から腕 {α2}\lbrace\alpha_2\rbrace、{α3,α1}\lbrace\alpha_3,\alpha_1\rbrace、{α5,…,α8}\lbrace\alpha_5,\dots,\alpha_8\rbrace が出て、E8E_8 です。
  • E7E_7、E6E_6。 補題 7.6 を E8E_8 の基底の部分集合 {α1,…,α7}\lbrace\alpha_1,\dots,\alpha_7\rbrace、{α1,…,α6}\lbrace\alpha_1,\dots,\alpha_6\rbrace に適用すると、長い腕を 1 つ、2 つ短くした図、すなわち E7E_7、E6E_6 をもつルート系を得ます。
  • F4F_4。 L=Z4∪(Z4+121)L=\mathbb{Z}^4\cup(\mathbb{Z}^4+\frac12\mathbf{1})、S={1,2}S=\lbrace1,2\rbrace で、Φ\Phi は ±ei\pm e_i、±ei±ej\pm e_i\pm e_j、12(±e1±e2±e3±e4)\frac12(\pm e_1\pm e_2\pm e_3\pm e_4) の 4848 個です。短いルート α\alpha(長さ 11)では ⟨β,α∨⟩=2(β,α)\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=2(\beta,\alpha) で、β∈L\beta\in L について 2(β,α)2(\beta,\alpha) は整数です(α\alpha が半整数で β\beta も半整数なら、2(β,α)=∑k±βk2(\beta,\alpha)=\sum_k\pm\beta_k は Z+12\mathbb{Z}+\frac12 の元 4 つの符号つきの和で整数)。長いルート α=±ei±ej\alpha=\pm e_i\pm e_j では (β,α)∈Z(\beta,\alpha)\in\mathbb{Z} です。2α\sqrt2\alpha、α/2\alpha/\sqrt2 は LL に入らないので公理 2 も成り立ちます。α1=e2−e3\alpha_1=e_2-e_3、α2=e3−e4\alpha_2=e_3-e_4、α3=e4\alpha_3=e_4、α4=12(e1−e2−e3−e4)\alpha_4=\frac12(e_1-e_2-e_3-e_4) とし、最初の 00 でない座標が正のルートを正ルートとします(eie_i、ei±eje_i\pm e_j(i<ji\lt j)、e1e_1 の係数が +12+\frac12 の半整数ルートの 24 個)。e2,e3,e4e_2,e_3,e_4 と ei±eje_i\pm e_j(2≤i<j2\le i\lt j)は α1,α2,α3\alpha_1,\alpha_2,\alpha_3 の非負結合、12(e1±e2±e3±e4)=α4+∑(符号が+のek)\frac12(e_1\pm e_2\pm e_3\pm e_4)=\alpha_4+\sum(\text{符号が}+\text{の}e_k)、e1e_1 と e1±eje_1\pm e_j は半整数の正ルート 2 つの和です。内積は (α1,α2)=−1(\alpha_1,\alpha_2)=-1、(α2,α3)=−1(\alpha_2,\alpha_3)=-1(長さ 22 と 11 で二重線)、(α3,α4)=−12(\alpha_3,\alpha_4)=-\frac12(長さ 11 どうしで単線)、他は 00 なので F4F_4 です。
  • G2G_2。 L={x∈Z3:∑xi=0}L=\lbrace x\in\mathbb{Z}^3 : \sum x_i=0\rbrace、S={2,6}S=\lbrace2,6\rbrace で、Φ\Phi は ±(ei−ej)\pm(e_i-e_j) と ±(2ei−ej−ek)\pm(2e_i-e_j-e_k)({i,j,k}={1,2,3}\lbrace i,j,k\rbrace=\lbrace1,2,3\rbrace)の 1212 個です。長いルート α=2ei−ej−ek\alpha=2e_i-e_j-e_k について β∈L\beta\in L なら (β,α)=3βi−∑mβm=3βi(\beta,\alpha)=3\beta_i-\sum_m\beta_m=3\beta_i なので ⟨β,α∨⟩=βi∈Z\langle\beta,\alpha^\vee\rangle=\beta_i\in\mathbb{Z}、短いルートでは (β,α)∈Z(\beta,\alpha)\in\mathbb{Z} です。長さの比は 3\sqrt3 で公理 2 も成り立ちます。α1=e1−e2\alpha_1=e_1-e_2、α2=−2e1+e2+e3\alpha_2=-2e_1+e_2+e_3 とすると、α1,α2,α1+α2,2α1+α2,3α1+α2,3α1+2α2\alpha_1,\alpha_2,\alpha_1+\alpha_2,2\alpha_1+\alpha_2,3\alpha_1+\alpha_2,3\alpha_1+2\alpha_2 はそれぞれ e1−e2e_1-e_2、−2e1+e2+e3-2e_1+e_2+e_3、e3−e1e_3-e_1、e3−e2e_3-e_2、e1−2e2+e3e_1-2e_2+e_3、−e1−e2+2e3-e_1-e_2+2e_3 で、Φ\Phi はこの 6 個(正ルート)とその符号反転からなります。(α1,α2)=−3(\alpha_1,\alpha_2)=-3 から A12=−1A_{12}=-1、A21=−3A_{21}=-3、三重線の G2G_2 です。

いずれの図も連結なので、補題 7.3 からこれらのルート系は既約です。

一意性。 冒頭で見たように Cartan 行列は Dynkin 図から復元できるので、同じ図をもつ 2 つのルート系は(基底の添字を図の頂点で対応させて)同じ Cartan 行列をもち、命題 7.1 から Φ\Phi を Φ′\Phi' に写す線形同型があります。

注意 7.8(Lie 環の分類との関係(この記事では証明しない部分))

定理 7.7 はルート系の分類です。これを複素単純 Lie 環の分類にするには、さらに次の 2 つが要ります。(a) Cartan 部分環はすべて内部自己同型で共役であり、したがってルート系は g\mathfrak{g} だけで決まる(Humphreys §16)。(b) ルート系から生成元と関係式で Lie 環を再構成する Serre の定理により、同じルート系をもつ単純 Lie 環は同型で、各既約ルート系に対応する単純 Lie 環が存在する(Humphreys §18)。この 2 つを合わせると「複素単純 Lie 環は同型を除いて既約ルート系の型で決まり、各型が実現される」ことになりますが、どちらも Lie 環の構造論の 1 章分の議論が要るので、この記事では主張せず、後続の章でも使いません。この記事で証明したのは、与えられた g\mathfrak{g} と h\mathfrak{h} からルート系を作り、その性質と分類を使う部分です。

型複素単純 Lie 環dim⁡g\dim\mathfrak{g}∣Φ∣\lvert\Phi\rvert∣W∣\lvert W\rvert
AℓA_\ellsl(ℓ+1,C)\mathfrak{sl}(\ell+1,\mathbb{C})ℓ(ℓ+2)\ell(\ell+2)ℓ(ℓ+1)\ell(\ell+1)(ℓ+1)!(\ell+1)!
BℓB_\ellso(2ℓ+1,C)\mathfrak{so}(2\ell+1,\mathbb{C})ℓ(2ℓ+1)\ell(2\ell+1)2ℓ22\ell^22ℓℓ!2^\ell\ell!
CℓC_\ellsp(2ℓ,C)\mathfrak{sp}(2\ell,\mathbb{C})ℓ(2ℓ+1)\ell(2\ell+1)2ℓ22\ell^22ℓℓ!2^\ell\ell!
DℓD_\ellso(2ℓ,C)\mathfrak{so}(2\ell,\mathbb{C})ℓ(2ℓ−1)\ell(2\ell-1)2ℓ(ℓ−1)2\ell(\ell-1)2ℓ−1ℓ!2^{\ell-1}\ell!
G2G_2例外型141412121212
F4F_4例外型5252484811521152
E6,E7,E8E_6,E_7,E_8例外型78,133,24878,133,24872,126,24072,126,24051840, 2903040, 69672960051840,\ 2903040,\ 696729600

例 7.9(An−1A_{n−1}:sl(n,C) のルート系と対称群)

例 2.6 で、h∗\mathfrak{h}^* を Rn\mathbb{R}^n の ∑xi=0\sum x_i=0 の部分空間(の複素化)と同一視すると、Killing 形式から得た内積は標準内積の定数倍です(演習 11.2[Lie 環の構造論] の κ=2ntr⁡\kappa=2n\operatorname{tr} から)。γ=(n−1,n−2,…,0)\gamma=(n-1,n-2,\dots,0)(の射影)は正則で、Φ+={εi−εj:i<j}\Phi^+=\lbrace\varepsilon_i-\varepsilon_j : i\lt j\rbrace、単純ルートは αi=εi−εi+1\alpha_i=\varepsilon_i-\varepsilon_{i+1}(1≤i≤n−11\le i\le n-1)です。sεi−εjs_{\varepsilon_i-\varepsilon_j} は座標 ii と jj の入れ替えなので W≅SnW\cong S_n(座標の置換)で、ε(w)\varepsilon(w) は置換の符号です。Cartan 行列は対角が 22、隣接成分が −1-1 の三重対角行列で、Dynkin 図は n−1n-1 個の頂点が 1 本ずつの線で一列につながった An−1A_{n-1} です。また

ρ=12∑i<j(εi−εj)=∑i=1nn+1−2i2εi\rho=\frac12\sum_{i\lt j}(\varepsilon_i-\varepsilon_j)=\sum_{i=1}^n\frac{n+1-2i}{2}\varepsilon_i

で、∑xi=0\sum x_i=0 の条件を除けば ρ≡(n−1,n−2,…,1,0)\rho\equiv(n-1,n-2,\dots,1,0) です。この ρ\rho が、Schur 多項式の分母に現れる δ=(n−1,…,1,0)\delta=(n-1,\dots,1,0) の正体です。

演習 8.1易

定理 3.2 の 3 の記号で、α\alpha 鎖の長さについて r+q≤3r+q\le3 を示してください。

解答

鎖の始点 β′=β−rα\beta'=\beta-r\alpha を考えると、β′≠±α\beta'\ne\pm\alpha(β′\beta' は α\alpha の倍数でない)で、β′\beta' の α\alpha 鎖は r′=0r'=0、q′=r+qq'=r+q です。同じ定理から r′−q′=⟨β′,α∨⟩r'-q'=\langle\beta',\alpha^\vee\rangle、すなわち r+q=−⟨β′,α∨⟩r+q=-\langle\beta',\alpha^\vee\rangle です。命題 4.3 の 1 から ∣⟨β′,α∨⟩∣≤3|\langle\beta',\alpha^\vee\rangle|\le3(積が 33 以下の整数の組の一方)なので r+q≤3r+q\le3 です。G2G_2 で等号が起こります。

演習 8.2標準

WW にはただ 1 つの元 w0w_0 で w0Φ+=Φ−w_0\Phi^+=\Phi^- となるものがあり、w02=1w_0^2=1、ℓ(w0)=∣Φ+∣\ell(w_0)=|\Phi^+| であることを示してください。An−1A_{n-1} では w0w_0 は何ですか。

解答

−Δ-\Delta は基底(正ルートは Φ−\Phi^-)なので、定理 6.2 の 3 と 4 から w0Δ=−Δw_0\Delta=-\Delta となる w0w_0 がただ 1 つあり、w0Φ+=Φ−w_0\Phi^+=\Phi^- です。w0Φ+=Φ−w_0\Phi^+=\Phi^- を満たす ww は wΔ=−Δw\Delta=-\Delta(基底は正ルートで決まる)なので一意です。w02Φ+=Φ+w_0^2\Phi^+=\Phi^+ から n(w02)=0n(w_0^2)=0、w02=1w_0^2=1 です。n(w0)=∣Φ+∣n(w_0)=|\Phi^+| で、長さは nn に等しいので ℓ(w0)=∣Φ+∣\ell(w_0)=|\Phi^+| です。An−1A_{n-1} では εi−εj↦εn+1−i−εn+1−j\varepsilon_i-\varepsilon_j\mapsto\varepsilon_{n+1-i}-\varepsilon_{n+1-j} とする逆順の置換 i↦n+1−ii\mapsto n+1-i で、長さは n(n−1)/2n(n-1)/2(転倒数)です。

演習 8.3標準

so(4,C)={X∈M4(C):XT=−X}\mathfrak{so}(4,\mathbb{C})=\lbrace X\in M_4(\mathbb{C}) : X^{\mathsf T}=-X\rbrace について、h\mathfrak{h} を X12=−X21=iaX_{12}=-X_{21}=ia、X34=−X43=ibX_{34}=-X_{43}=ib(他は 00)の形の行列全体とします。ルートが ±(ε1+ε2)\pm(\varepsilon_1+\varepsilon_2)、±(ε1−ε2)\pm(\varepsilon_1-\varepsilon_2)(ε1(h)=a\varepsilon_1(h)=a、ε2(h)=b\varepsilon_2(h)=b)であることを示し、ルート系が A1×A1A_1\times A_1、したがって so(4,C)≅sl(2,C)⊕sl(2,C)\mathfrak{so}(4,\mathbb{C})\cong\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\oplus\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) と整合することを説明してください。

解答

hh は e1±ie2e_1\pm ie_2 に ∓a\mp a、e3±ie4e_3\pm ie_4 に ∓b\mp b を掛けるので(he1=−iae2he_1=-iae_2、he2=iae1he_2=iae_1 から h(e1+ie2)=−a(e1+ie2)h(e_1+ie_2)=-a(e_1+ie_2) などを確かめます)、C4\mathbb{C}^4 のウェイトは ±a\pm a、±b\pm b です。線形写像 x∧y↦xyT−yxTx\wedge y\mapsto xy^{\mathsf T}-yx^{\mathsf T} は Λ2C4\Lambda^2\mathbb{C}^4 から so(4,C)\mathfrak{so}(4,\mathbb{C}) への同型で、hT=−hh^{\mathsf T}=-h を使うと [h,xyT]=(hx)yT+x(hy)T[h,xy^{\mathsf T}]=(hx)y^{\mathsf T}+x(hy)^{\mathsf T} なので、ad⁡h\operatorname{ad}h と hh の Λ2\Lambda^2 への作用 x∧y↦hx∧y+x∧hyx\wedge y\mapsto hx\wedge y+x\wedge hy が対応します。よって ad⁡h\operatorname{ad}\mathfrak{h} のウェイトは C4\mathbb{C}^4 の相異なる 2 つのウェイトの和、すなわち ±a±b\pm a\pm b(各 1 次元)と 00(2 次元)です。ウェイト 00 の空間は h\mathfrak{h} 自身なので Cg(h)=hC_{\mathfrak{g}}(\mathfrak{h})=\mathfrak{h} で、h\mathfrak{h} は Cartan 部分環、ルートは ±(ε1+ε2)\pm(\varepsilon_1+\varepsilon_2)、±(ε1−ε2)\pm(\varepsilon_1-\varepsilon_2) です。この 2 本は直交し、和も差もルートでないので、ルート系は直交する 2 つの A1A_1 の和で既約ではありません。Lie 環の同型も直接わかります。α=ε1+ε2\alpha=\varepsilon_1+\varepsilon_2、β=ε1−ε2\beta=\varepsilon_1-\varepsilon_2 について 命題 3.1 の 5 の sα\mathfrak{s}_\alpha、sβ\mathfrak{s}_\beta(ともに sl(2,C)\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) と同型)を取ると、hα,hβh_\alpha,h_\beta は一次独立な tα,tβt_\alpha,t_\beta の定数倍なので h=span⁡(hα,hβ)\mathfrak{h}=\operatorname{span}(h_\alpha,h_\beta) で、ルート空間分解から g=sα⊕sβ\mathfrak{g}=\mathfrak{s}_\alpha\oplus\mathfrak{s}_\beta(線形空間として)です。α±β=±2εi\alpha\pm\beta=\pm2\varepsilon_i は 00 でもルートでもないので [g±α,g±β]=0[\mathfrak{g}_{\pm\alpha},\mathfrak{g}_{\pm\beta}]=0(命題 2.3 の 1)、また (α,β)=0(\alpha,\beta)=0 から、x∈g±βx\in\mathfrak{g}_{\pm\beta} について [hα,x]=±⟨β,α∨⟩x=0[h_\alpha,x]=\pm\langle\beta,\alpha^\vee\rangle x=0 で、hβh_\beta と g±α\mathfrak{g}_{\pm\alpha} についても同様です。よって [sα,sβ]=0[\mathfrak{s}_\alpha,\mathfrak{s}_\beta]=0 で、so(4,C)≅sl(2,C)⊕sl(2,C)\mathfrak{so}(4,\mathbb{C})\cong\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C})\oplus\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) です。これは最終章で Lorentz 代数の複素化を 2 つの sl(2)\mathfrak{sl}(2) に分けるときの代数的な理由です。

  • J. E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory, Springer GTM 9, 1972 — 第 III 章(§8〜§11)、§16、§18。
  • N. Bourbaki, Lie Groups and Lie Algebras, Chapters 4–6, Springer, 2002 — 第 VI 章(ルート系)。
  • J.-P. Serre, Complex Semisimple Lie Algebras, Springer, 1987 — 第 III, V 章。
  • W. Fulton and J. Harris, Representation Theory: A First Course, Springer GTM 129, 1991 — 第 14, 21 講。
  • R. Carter, Lie Algebras of Finite and Affine Type, Cambridge University Press, 2005 — 第 5〜8 章。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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