コンテンツにスキップ

最高ウェイト理論:PBW の定理・Verma 加群・Weyl の指標公式と積分公式

対象読者: 学部の線形代数・抽象代数(環と加群の基礎)と、本テーマ第 1〜3 章の内容(半単純 Lie 環、Cartan 部分環、ルート系、Weyl 群)を学んだ人。Verma 加群は仮定しません。

前提となる記事:ルート系と Weyl 群:Cartan 部分環・ルート空間分解から Dynkin 図まで

生 Markdown

回転の対称性をもつ系(たとえば原子の中の電子)の状態は、対称性の「表現」でそろえて整理できます。この記事では、その表現を一つひとつ分類する方法と、各表現が何次元になるかを一本の公式で書き下す方法を作ります。出発点は su(2)\mathfrak{su}(2) の角運動量で、最も高い状態から J−J_- で段を下りて全体を組み立てる、という考え方をそのまま一般の場合に広げます。読み終えると、su(3)\mathfrak{su}(3) の 8\mathbf8 や 10\mathbf{10} の次元が、公式から計算で出てくるようになります。

  • PBW の定理: Lie 環 g\mathfrak{g} の基底 x1,…,xnx_1,\dots,x_n について、順序づけた単項式 xi1⋯xikx_{i_1}\cdots x_{i_k}(i1≤⋯≤iki_1\le\cdots\le i_k)は普遍包絡環 U(g)U(\mathfrak{g})(生成子の非可換な多項式全体のなす代数)の基底です。多項式環の上に g\mathfrak{g} の表現を帰納的に組み立てて証明します。
  • Verma 加群 M(λ)M(\lambda) は、最高ウェイト λ\lambda の「最も自由な」加群で、U(n−)U(\mathfrak{n}^-) と同型です。その唯一の既約商が L(λ)L(\lambda) です。
  • 半単純 Lie 環の有限次元既約表現は L(λ)L(\lambda)(λ\lambda は 支配的整ウェイト)で尽き、互いに非同型です。L(λ)L(\lambda) が有限次元であることは、sl(2)\mathfrak{sl}(2) の表現論と Weyl 群の作用から示します。
  • Weyl の指標公式 ch⁡L(λ)=∑w∈Wε(w)ew(λ+ρ)eρ∏α>0(1−e−α)\displaystyle\operatorname{ch}L(\lambda)=\frac{\sum_{w\in W}\varepsilon(w)e^{w(\lambda+\rho)}}{e^\rho\prod_{\alpha\gt0}(1-e^{-\alpha})} と 次元公式 dim⁡L(λ)=∏α>0(λ+ρ,α)(ρ,α)\dim L(\lambda)=\prod_{\alpha\gt0}\frac{(\lambda+\rho,\alpha)}{(\rho,\alpha)} を、Casimir 元の固有値と Verma 加群の指標から導きます。
  • Weyl の積分公式(U(N)U(N)、SU(N)SU(N)): 類関数の Haar 積分は、対角行列上の積分 1N!∫Tf(t)∏j<k∣tj−tk∣2 dt\frac1{N!}\int_Tf(t)\prod_{j\lt k}|t_j-t_k|^2\,dt に等しくなります。共役写像の Jacobian が ∏∣tj−tk∣2\prod|t_j-t_k|^2 であることが核心です。

su(2)\mathfrak{su}(2) の既約表現は最高ウェイト jj で分類されました。前章で、一般の半単純 Lie 環にも sl(2)\mathfrak{sl}(2) の複製が各ルート方向にあることを見ました。この記事では、su(2)\mathfrak{su}(2) の「最高ウェイトベクトルから J−J_- を繰り返し作用させて多重項を作る」構成を、一般の半単純 Lie 環で行います。

J−J_- に当たるのは負ルートのルートベクトル yαy_\alpha たちですが、これらは互いに可換ではないので、どの順序で作用させるかが問題になります。そこで、生成子の非可換な多項式を 1 つの代数として扱う普遍包絡環を導入し、その「大きさ」を PBW の定理で確定させます。これで、最高ウェイト λ\lambda をもつ最も大きい加群(Verma 加群)が構成でき、すべての既約表現はその商として得られます。

既約表現が分類できたら、次は各表現の中身、すなわちウェイトの重複度(指標)を知りたくなります。Weyl の指標公式は、指標が Weyl 群の上の交代和を共通の分母で割った形をしていることを主張します。物理で使う次元の公式(su(3)\mathfrak{su}(3) の 8\mathbf{8}、10\mathbf{10} など)はその系です。

最後に、コンパクト群の側で同じ交代和が現れる理由を説明するのが Weyl の積分公式です。U(N)U(N) 上の類関数の積分を、固有値の分布 ∏∣tj−tk∣2\prod|t_j-t_k|^2 で重みづけた対角行列上の積分に直します。これは 指標と SU(2)・SU(N) の表現 の 注意 4.5[指標と SU(2)・SU(N) の表現] で主張されていた公式の U(N)U(N)、SU(N)SU(N) の場合の証明であり、次章で SU(N)SU(N) の既約指標が Schur 多項式であることを示す道具になります。

g\mathfrak{g} を C\mathbb{C} 上の有限次元 Lie 環とします。普遍包絡環 U(g)U(\mathfrak{g}) は、テンソル代数 T(g)T(\mathfrak{g}) を x⊗y−y⊗x−[x,y]x\otimes y-y\otimes x-[x,y] が生成する両側イデアルで割った結合代数です(Casimir 作用素と群上のラプラシアン の 定義 3.1[Casimir 作用素と群上のラプラシアン])。g\mathfrak{g} の表現は U(g)U(\mathfrak{g}) の左加群に一意に延び、逆も成り立ちます(命題 3.2[Casimir 作用素と群上のラプラシアン])。以下、g\mathfrak{g} 加群と U(g)U(\mathfrak{g}) 加群を同一視します。

次の PBW の定理は、U(g)U(\mathfrak{g}) がどれだけ大きいかを正確に述べるものです。生成子の積は一般に順序を入れ替えられませんが、入れ替えるたびに [x,y][x,y] という短い項が出るだけなので、「順序をそろえた積」だけで全体が張られる、というのが直感です。難しいのは、それらが線形独立であること、つまり関係式から余計な等式が出てこないことの確認です。証明では、独立性を直接示す代わりに、順序づけた単項式を基底とする多項式環の上に g\mathfrak{g} の作用を実際に作ります。この作用で単項式が互いに異なる元に写れば、独立性が従います。

定理 2.1(Poincaré–Birkhoff–Witt の定理)✓

x1,…,xnx_1,\dots,x_n を g\mathfrak{g} の基底とすると、単項式 xi1xi2⋯xikx_{i_1}x_{i_2}\cdots x_{i_k}(k≥0k\ge0、i1≤i2≤⋯≤iki_1\le i_2\le\cdots\le i_k)は U(g)U(\mathfrak{g}) の基底である。特に g→U(g)\mathfrak{g}\to U(\mathfrak{g}) は単射である。

証明(定理 2.1)

張ること。 U(g)U(\mathfrak{g}) は xix_i の積で張られます。長さ kk の積について、隣り合う 2 つを入れ替えると、xixj=xjxi+[xi,xj]x_ix_j=x_jx_i+[x_i,x_j] により長さ k−1k-1 以下の積の差しか生じません。長さの帰納法と、長さ kk の中での転倒数の帰納法で、任意の積は順序づけた単項式の 1 次結合になります。

独立性: 多項式環上の表現。 S=C[z1,…,zn]S=\mathbb{C}[z_1,\dots,z_n] とし、広義単調増加な添字列 M=(j1≤⋯≤jk)M=(j_1\le\cdots\le j_k) に対し zM=zj1⋯zjkz_M=z_{j_1}\cdots z_{j_k}、SmS_m を次数 mm 以下の多項式全体とします。i≤Mi\le M は i≤j1i\le j_1(M=∅M=\emptyset を含む)を意味します。x⋅wx\cdot w を f(x⊗w)f(x\otimes w) の略記として、次の条件を満たす双線形写像 f ⁣:g×S→Sf\colon\mathfrak{g}\times S\to S を作ります。

  • (A) i≤Mi\le M なら xi⋅zM=zizMx_i\cdot z_M=z_iz_M。
  • (B) zM∈Sqz_M\in S_q なら xi⋅zM−zizM∈Sqx_i\cdot z_M-z_iz_M\in S_q。
  • (C) xi⋅(xj⋅w)−xj⋅(xi⋅w)=[xi,xj]⋅wx_i\cdot(x_j\cdot w)-x_j\cdot(x_i\cdot w)=[x_i,x_j]\cdot w。

(C) は SS が g\mathfrak{g} 加群であることを意味します。これができれば、順序づけた単項式を 1∈S1\in S に作用させると、(A) を右から順に使って xi1⋯xik⋅1=zi1⋯zikx_{i_1}\cdots x_{i_k}\cdot1=z_{i_1}\cdots z_{i_k} となり、相異なる単項式は線形独立な像をもつので、独立性がいえます。

帰納的な構成。 mm についての帰納法で、g×Sm\mathfrak{g}\times S_m 上に (A)、(B) と、w∈Sm−1w\in S_{m-1} についての (C) を満たす fmf_m がただ 1 つあり、fmf_m は fm−1f_{m-1} の延長であることを示します。m=0m=0 では xi⋅1=zix_i\cdot1=z_i と定めるしかなく、(C) は空条件です。fm−1f_{m-1} ができているとし、長さ mm の MM について xi⋅zMx_i\cdot z_M を定めます。i≤Mi\le M なら (A) で定めます。そうでなければ M=(j,N)M=(j,N)、j<ij\lt i、j≤Nj\le N と書けて、(A) から zM=xj⋅zNz_M=x_j\cdot z_N なので、(C) が成り立つためには

xi⋅zM=xj⋅(xi⋅zN)+[xi,xj]⋅zNx_i\cdot z_M=x_j\cdot(x_i\cdot z_N)+[x_i,x_j]\cdot z_N

でなければなりません。(B) により xi⋅zN=zizN+yx_i\cdot z_N=z_iz_N+y(y∈Sm−1y\in S_{m-1})で、j≤(i,N)j\le(i,N) なので xj⋅(zizN)=zjzizNx_j\cdot(z_iz_N)=z_jz_iz_N は (A) で決まり、xj⋅yx_j\cdot y と [xi,xj]⋅zN[x_i,x_j]\cdot z_N は fm−1f_{m-1} で決まります。そこで

xi⋅zM:=zizM+xj⋅y+[xi,xj]⋅zNx_i\cdot z_M:=z_iz_M+x_j\cdot y+[x_i,x_j]\cdot z_N

と定めます。(A)、(B) は成り立ち、一意性は構成の仕方から明らかです。

(C) の検証。 w=zNw=z_N(長さ m−1m-1)について示せば十分です(短い ww では帰納法の仮定)。構成から、j<ij\lt i、j≤Nj\le N のときは成り立ち、i,ji,j を入れ替えれば i<ji\lt j、i≤Ni\le N のときも、i=ji=j のときも成り立ちます。残るのは i,ji,j のどちらも ≤N\le N でない場合で、N=(k,Q)N=(k,Q)、k<ik\lt i、k<jk\lt j、k≤Qk\le Q と書けます。zN=xk⋅zQz_N=x_k\cdot z_Q で、帰納法の仮定から xj⋅zN=xk⋅(xj⋅zQ)+[xj,xk]⋅zQx_j\cdot z_N=x_k\cdot(x_j\cdot z_Q)+[x_j,x_k]\cdot z_Q です。xj⋅zQ=zjzQ+w′x_j\cdot z_Q=z_jz_Q+w'(w′∈Sm−2w'\in S_{m-2})で、k≤(j,Q)k\le(j,Q) なので zjzQz_jz_Q には既に示した場合の (C) が、w′w' には帰納法の仮定が使えて

xi⋅xk⋅(xj⋅zQ)=xk⋅xi⋅(xj⋅zQ)+[xi,xk]⋅(xj⋅zQ)x_i\cdot x_k\cdot(x_j\cdot z_Q)=x_k\cdot x_i\cdot(x_j\cdot z_Q)+[x_i,x_k]\cdot(x_j\cdot z_Q)

です。i,ji,j を入れ替えた式との差をとり、次数 m−1m-1 以下の元に対しては (C) が使えることから

xi⋅xj⋅zN−xj⋅xi⋅zN=xk⋅[xi,xj]⋅zQ+[[xi,xk],xj]⋅zQ+[xi,[xj,xk]]⋅zQ\begin{aligned} x_i\cdot x_j\cdot z_N-x_j\cdot x_i\cdot z_N &=x_k\cdot[x_i,x_j]\cdot z_Q+[[x_i,x_k],x_j]\cdot z_Q+[x_i,[x_j,x_k]]\cdot z_Q \end{aligned}

を得ます。一方、[xi,xj][x_i,x_j] は xlx_l の 1 次結合なので帰納法の仮定から [xi,xj]⋅zN=xk⋅[xi,xj]⋅zQ+[[xi,xj],xk]⋅zQ[x_i,x_j]\cdot z_N=x_k\cdot[x_i,x_j]\cdot z_Q+[[x_i,x_j],x_k]\cdot z_Q です。両者の差は Jacobi 恒等式 [[xi,xk],xj]+[xi,[xj,xk]]−[[xi,xj],xk]=0[[x_i,x_k],x_j]+[x_i,[x_j,x_k]]-[[x_i,x_j],x_k]=0 により 00 です。

系 2.2(部分環への分解)✓

g=a⊕b\mathfrak{g}=\mathfrak{a}\oplus\mathfrak{b}(ベクトル空間として)で a,b\mathfrak{a},\mathfrak{b} が部分 Lie 環なら、積写像 U(a)⊗U(b)→U(g)U(\mathfrak{a})\otimes U(\mathfrak{b})\to U(\mathfrak{g}) は線形同型である。特に U(g)U(\mathfrak{g}) は右 U(b)U(\mathfrak{b}) 加群として自由で、U(a)U(\mathfrak{a}) の PBW 基底がその基底になる。

証明(系 2.2)

g\mathfrak{g} の基底を、a\mathfrak{a} の基底のあとに b\mathfrak{b} の基底を並べたものにとると、定理 2.1 の順序づけた単項式は「a\mathfrak{a} の順序づけた単項式」×「b\mathfrak{b} の順序づけた単項式」で、U(a)U(\mathfrak{a})、U(b)U(\mathfrak{b}) の PBW 基底の積と一致します。

3. ウェイトと最高ウェイト加群

Section titled “3. ウェイトと最高ウェイト加群”

以下 g\mathfrak{g} は半単純で、前章 の記号を使います: Cartan 部分環 h\mathfrak{h}、ルート系 Φ\Phi、基底 Δ={α1,…,αℓ}\Delta=\lbrace\alpha_1,\dots,\alpha_\ell\rbrace、正ルート Φ+\Phi^+、Weyl 群 WW、ρ=12∑α>0α\rho=\frac12\sum_{\alpha\gt0}\alpha。各 α∈Φ+\alpha\in\Phi^+ についてルートベクトル xα∈gαx_\alpha\in\mathfrak{g}_\alpha、yα∈g−αy_\alpha\in\mathfrak{g}_{-\alpha}、hα=[xα,yα]h_\alpha=[x_\alpha,y_\alpha] を 命題 3.1[ルート系と Weyl 群] のように選び、xi=xαix_i=x_{\alpha_i} などと書きます。

n+=⨁α>0gα,n−=⨁α>0g−α,b=h⊕n+,g=n−⊕b\mathfrak{n}^+=\bigoplus_{\alpha\gt0}\mathfrak{g}_\alpha,\qquad\mathfrak{n}^-=\bigoplus_{\alpha\gt0}\mathfrak{g}_{-\alpha},\qquad\mathfrak{b}=\mathfrak{h}\oplus\mathfrak{n}^+,\qquad\mathfrak{g}=\mathfrak{n}^-\oplus\mathfrak{b}

とおきます(Borel 部分環 b\mathfrak{b})。λ,μ∈h∗\lambda,\mu\in\mathfrak{h}^* について、λ−μ\lambda-\mu が単純ルートの非負整数結合であるとき μ≤λ\mu\le\lambda と書きます。Q+Q^+ を単純ルートの非負整数結合全体とします。

g\mathfrak{g} 加群 VV と μ∈h∗\mu\in\mathfrak{h}^* について Vμ={v:hv=μ(h)v (∀h∈h)}V_\mu=\lbrace v : hv=\mu(h)v\ (\forall h\in\mathfrak{h})\rbrace を ウェイト空間 と呼び、V=⨁μVμV=\bigoplus_\mu V_\mu のとき VV を ウェイト加群 といいます。ルート空間の場合と同じ計算で gαVμ⊂Vμ+α\mathfrak{g}_\alpha V_\mu\subset V_{\mu+\alpha} です。

補題 3.1(ウェイト加群の部分加群)✓

ウェイト加群の部分加群と商加群はウェイト加群である。

証明(補題 3.1)

W⊂VW\subset V を部分加群、w=v1+⋯+vr∈Ww=v_1+\cdots+v_r\in W(vi∈Vμiv_i\in V_{\mu_i}、μi\mu_i は相異なる)とし、各 vi∈Wv_i\in W を示します。μi\mu_i が相異なるので、すべての差 μi−μj\mu_i-\mu_j を 00 にしない h∈hh\in\mathfrak{h} があり、μi(h)\mu_i(h) は相異なります。hkw=∑iμi(h)kvi∈Wh^kw=\sum_i\mu_i(h)^kv_i\in W(k=0,…,r−1k=0,\dots,r-1)で、Vandermonde 行列 (μi(h)k)(\mu_i(h)^k) は可逆なので各 viv_i は hkwh^kw の 1 次結合です。商については VμV_\mu の像を考えればよいです。

定義 3.2(最高ウェイトベクトルと最高ウェイト加群)↗

0≠v+∈Vλ0\ne v^+\in V_\lambda が n+v+=0\mathfrak{n}^+v^+=0 を満たすとき、ウェイト λ\lambda の最高ウェイトベクトル(極大ベクトル)という。V=U(g)v+V=U(\mathfrak{g})v^+ となる最高ウェイトベクトル v+v^+ があるとき、VV を 最高ウェイト λ\lambda の最高ウェイト加群 という。

命題 3.3(最高ウェイト加群の性質)✓

V=U(g)v+V=U(\mathfrak{g})v^+ を最高ウェイト λ\lambda の最高ウェイト加群とする。

  1. V=U(n−)v+V=U(\mathfrak{n}^-)v^+ で、VV は yβ1⋯yβkv+y_{\beta_1}\cdots y_{\beta_k}v^+(βj∈Φ+\beta_j\in\Phi^+)で張られる。したがって VV はウェイト加群で、ウェイトはすべて ≤λ\le\lambda、dim⁡Vλ=1\dim V_\lambda=1、各 dim⁡Vμ<∞\dim V_\mu\lt\infty である。
  2. VV の真の部分加群の和は真の部分加群である。したがって VV はただ 1 つの極大な真部分加群をもち、ただ 1 つの既約商をもつ。
証明(命題 3.3)

1: 系 2.2 から U(g)=U(n−)U(b)U(\mathfrak{g})=U(\mathfrak{n}^-)U(\mathfrak{b}) で、U(b)v+=Cv+U(\mathfrak{b})v^+=\mathbb{C}v^+(h\mathfrak{h} はスカラー、n+\mathfrak{n}^+ は 00)なので V=U(n−)v+V=U(\mathfrak{n}^-)v^+ です。U(n−)U(\mathfrak{n}^-) は yβy_\beta の積で張られ、yβ1⋯yβkv+y_{\beta_1}\cdots y_{\beta_k}v^+ はウェイト λ−∑βj\lambda-\sum\beta_j をもちます。ウェイト μ\mu を与えるのは ∑βj=λ−μ\sum\beta_j=\lambda-\mu となる有限個の組だけなので dim⁡Vμ<∞\dim V_\mu\lt\infty、λ\lambda を与えるのは k=0k=0 だけです。

2: 真の部分加群 WW は 補題 3.1 によりウェイト加群で、Wλ≠0W_\lambda\ne0 なら v+∈Wv^+\in W、W=VW=V となるので、Wλ=0W_\lambda=0 です。真の部分加群の和もウェイト λ\lambda の成分をもたないので真です。その和が唯一の極大部分加群で、それによる商が唯一の既約商です。

最高ウェイトベクトル v+v^+ からは、U(n−)U(\mathfrak{n}^-) の元を作用させる以外の操作で新しいベクトルは得られません(前節の命題)。そこで、v+v^+ について n+v+=0\mathfrak{n}^+v^+=0 と hv+=λ(h)v+hv^+=\lambda(h)v^+ 以外の関係を課さない「最も自由な」加群を作ります。それが Verma 加群で、次の定理の 1 は、この加群が U(n−)U(\mathfrak{n}^-) そのものと同じ大きさであることを述べます。su(2)\mathfrak{su}(2) なら、vλv_\lambda に J−J_- をいくらでも作用させられる、ということです。

定義 4.1(Verma 加群)↗

λ∈h∗\lambda\in\mathfrak{h}^* に対し、左イデアル I(λ)=U(g)n++∑h∈hU(g)(h−λ(h))I(\lambda)=U(\mathfrak{g})\mathfrak{n}^++\sum_{h\in\mathfrak{h}}U(\mathfrak{g})(h-\lambda(h)) による商 M(λ)=U(g)/I(λ)M(\lambda)=U(\mathfrak{g})/I(\lambda) を Verma 加群 といい、11 の像を vλv_\lambda と書く。M(λ)M(\lambda) の唯一の既約商(命題 3.3 の 2)を L(λ)L(\lambda) と書く。

定理 4.2(Verma 加群の構造と普遍性)✓

  1. M(λ)M(\lambda) は最高ウェイト λ\lambda の最高ウェイト加群で、u↦uvλu\mapsto uv_\lambda は線形同型 U(n−)≅M(λ)U(\mathfrak{n}^-)\cong M(\lambda) を与える。特に Φ+={β1,…,βm}\Phi^+=\lbrace\beta_1,\dots,\beta_m\rbrace と並べると yβ1k1⋯yβmkmvλy_{\beta_1}^{k_1}\cdots y_{\beta_m}^{k_m}v_\lambda が基底で、
dim⁡M(λ)λ−ν=P(ν):=∣{(kβ)∈Z≥0Φ+:∑βkββ=ν}∣\dim M(\lambda)_{\lambda-\nu}=P(\nu):=\Bigl|\Bigl\lbrace(k_\beta)\in\mathbb{Z}_{\ge0}^{\Phi^+} : \sum_\beta k_\beta\beta=\nu\Bigr\rbrace\Bigr|

(Kostant の分割関数)である。 2. 最高ウェイト λ\lambda の最高ウェイト加群 V=U(g)v+V=U(\mathfrak{g})v^+ は M(λ)M(\lambda) の商である。 3. 最高ウェイト λ\lambda の既約最高ウェイト加群は L(λ)L(\lambda) と同型なものに限る。

証明(定理 4.2)

1: b\mathfrak{b} の 1 次元表現 χλ\chi_\lambda(h↦λ(h)h\mapsto\lambda(h)、n+↦0\mathfrak{n}^+\mapsto0。[b,b]⊂n+[\mathfrak{b},\mathfrak{b}]\subset\mathfrak{n}^+ なので準同型)を U(b)→CU(\mathfrak{b})\to\mathbb{C} に延ばすと、その核 JJ は左イデアルとして n+\mathfrak{n}^+ と h−λ(h)h-\lambda(h) で生成されます(b\mathfrak{b} の PBW 基底を h\mathfrak{h} の元、n+\mathfrak{n}^+ の元の順に並べ、hkh_k を hk−λ(hk)h_k-\lambda(h_k) に置き換えた基底で見れば、11 以外の基底元はすべてそれらの左倍元の和です)。系 2.2 により U(g)=U(n−)⊗U(b)U(\mathfrak{g})=U(\mathfrak{n}^-)\otimes U(\mathfrak{b}) なので I(λ)=U(g)J=U(n−)⊗JI(\lambda)=U(\mathfrak{g})J=U(\mathfrak{n}^-)\otimes J、したがって

M(λ)=U(n−)⊗U(b)/U(n−)⊗J≅U(n−)⊗(U(b)/J)≅U(n−)M(\lambda)=U(\mathfrak{n}^-)\otimes U(\mathfrak{b})/U(\mathfrak{n}^-)\otimes J\cong U(\mathfrak{n}^-)\otimes(U(\mathfrak{b})/J)\cong U(\mathfrak{n}^-)

です。n+vλ=0\mathfrak{n}^+v_\lambda=0、hvλ=λ(h)vλhv_\lambda=\lambda(h)v_\lambda は I(λ)I(\lambda) の定義そのものです。基底と次元は U(n−)U(\mathfrak{n}^-) の PBW 基底から従います。

2: u↦uv+u\mapsto uv^+ は I(λ)I(\lambda) を 00 に写すので、全射 M(λ)→VM(\lambda)\to V を誘導します。3: 既約な VV は 2 により M(λ)/KM(\lambda)/K と書け、KK は極大部分加群なので、命題 3.3 の 2 の唯一性から V≅L(λ)V\cong L(\lambda) です。

例 4.3(sl(2) の Verma 加群)

g=sl(2,C)\mathfrak{g}=\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) で λ(h)=c\lambda(h)=c とすると、M(λ)M(\lambda) は基底 vk=fkvλ/k!v_k=f^kv_\lambda/k!(k≥0k\ge0)をもち、定理 10.1[Lie 環の構造論] の証明と同じ計算で evk=(c−k+1)vk−1ev_k=(c-k+1)v_{k-1} です。c=m∈Z≥0c=m\in\mathbb{Z}_{\ge0} なら evm+1=0ev_{m+1}=0 で、vm+1v_{m+1} は最高ウェイトベクトル、span⁡(vm+1,vm+2,… )≅M(−m−2)\operatorname{span}(v_{m+1},v_{m+2},\dots)\cong M(-m-2) が真部分加群で、商は V(m)=L(λ)V(m)=L(\lambda) です。c∉Z≥0c\notin\mathbb{Z}_{\ge0} なら係数 c−k+1c-k+1 は k≥1k\ge1 で 00 にならず、M(λ)M(\lambda) は既約で無限次元です(演習 1)。

Λ={λ∈h∗:⟨λ,αi∨⟩=λ(hαi)∈Z (1≤i≤ℓ)}\Lambda=\lbrace\lambda\in\mathfrak{h}^* : \langle\lambda,\alpha_i^\vee\rangle=\lambda(h_{\alpha_i})\in\mathbb{Z}\ (1\le i\le\ell)\rbrace を 整ウェイト の全体、Λ+={λ∈Λ:λ(hαi)≥0}\Lambda^+=\lbrace\lambda\in\Lambda : \lambda(h_{\alpha_i})\ge0\rbrace を 支配的整ウェイト の全体とします。命題 3.3[ルート系と Weyl 群] の実空間 EE を h∗\mathfrak{h}^* の中で考えると Λ⊂E\Lambda\subset E で、Λ+\Lambda^+ は 定義 6.3[ルート系と Weyl 群] の意味で支配的な整ウェイトです。補題 5.3[ルート系と Weyl 群] から ρ∈Λ+\rho\in\Lambda^+ で、ρ(hαi)=1\rho(h_{\alpha_i})=1 です。

定理 5.1(有限次元既約表現の分類(最高ウェイト定理))✓

  1. VV を有限次元 g\mathfrak{g} 加群とすると、VV はウェイト加群で、ウェイトはすべて整ウェイトであり、dim⁡Vμ=dim⁡Vwμ\dim V_\mu=\dim V_{w\mu}(w∈Ww\in W)が成り立つ。
  2. 有限次元既約加群 VV は、ただ 1 つの λ∈Λ+\lambda\in\Lambda^+ について L(λ)L(\lambda) と同型である。
  3. λ∈Λ+\lambda\in\Lambda^+ なら L(λ)L(\lambda) は有限次元である。

したがって λ↦L(λ)\lambda\mapsto L(\lambda) は Λ+\Lambda^+ と有限次元既約加群の同型類との全単射である。

証明(定理 5.1)

1。 各 α>0\alpha\gt0 について VV は sα≅sl(2,C)\mathfrak{s}_\alpha\cong\mathfrak{sl}(2,\mathbb{C}) 加群なので、系 10.2[Lie 環の構造論] により hαh_\alpha は対角化可能で固有値は整数です。hαh_\alpha は tαt_\alpha の定数倍で、tαt_\alpha(α∈Φ\alpha\in\Phi)は h\mathfrak{h} を張る(Φ\Phi が h∗\mathfrak{h}^* を張るので)ので、互いに可換な対角化可能変換 hα1,…,hαℓh_{\alpha_1},\dots,h_{\alpha_\ell} の同時対角化により VV はウェイト加群で、ウェイト μ\mu は μ(hαi)∈Z\mu(h_{\alpha_i})\in\mathbb{Z} を満たします。α∈Φ\alpha\in\Phi とウェイト μ\mu について、K=⨁k∈ZVμ+kαK=\bigoplus_{k\in\mathbb{Z}}V_{\mu+k\alpha} は sα\mathfrak{s}_\alpha 加群で、hαh_\alpha のウェイト μ(hα)+2k\mu(h_\alpha)+2k の空間がちょうど Vμ+kαV_{\mu+k\alpha} です。同じ系の 2 から dim⁡Vμ=dim⁡Vμ−μ(hα)α=dim⁡Vsαμ\dim V_\mu=\dim V_{\mu-\mu(h_\alpha)\alpha}=\dim V_{s_\alpha\mu} で、WW は鏡映で生成されるので主張を得ます。

2。 ウェイトは有限個なので、μ+α\mu+\alpha(α>0\alpha\gt0)がウェイトでないようなウェイト λ\lambda(1 からウェイトは EE に入るので、(λ,ρ)(\lambda,\rho) が最大のものを選べばよい。(α,ρ)>0(\alpha,\rho)\gt0 だから)があり、0≠v+∈Vλ0\ne v^+\in V_\lambda は最高ウェイトベクトルです。既約性から V=U(g)v+V=U(\mathfrak{g})v^+ で、定理 4.2 の 3 から V≅L(λ)V\cong L(\lambda) です。v+v^+ は sαi\mathfrak{s}_{\alpha_i} 加群の最高ウェイトベクトルなので λ(hαi)∈Z≥0\lambda(h_{\alpha_i})\in\mathbb{Z}_{\ge0}、すなわち λ∈Λ+\lambda\in\Lambda^+ です。λ\lambda は VV のウェイトのうち他のすべてより大きい唯一のものなので、VV から一意に決まります。

3。 λ∈Λ+\lambda\in\Lambda^+、mi=λ(hαi)m_i=\lambda(h_{\alpha_i})、v+v^+ を L(λ)L(\lambda) の最高ウェイトベクトルとします。

(a) yimi+1v+=0y_i^{m_i+1}v^+=0。j≠ij\ne i なら αj−αi\alpha_j-\alpha_i は係数の符号が混ざるのでルートでなく、[xj,yi]=0[x_j,y_i]=0、よって xjyimi+1v+=yimi+1xjv+=0x_jy_i^{m_i+1}v^+=y_i^{m_i+1}x_jv^+=0 です。xiyikv+=k(mi−k+1)yik−1v+x_iy_i^kv^+=k(m_i-k+1)y_i^{k-1}v^+(sl(2)\mathfrak{sl}(2) の計算)は k=mi+1k=m_i+1 で 00 です。n+\mathfrak{n}^+ は x1,…,xℓx_1,\dots,x_\ell で生成されます(単純でない β∈Φ+\beta\in\Phi^+ には (β,αi)>0(\beta,\alpha_i)\gt0 となる ii があり、命題 4.3[ルート系と Weyl 群] の 2 から β−αi∈Φ+\beta-\alpha_i\in\Phi^+、定理 3.2[ルート系と Weyl 群] の 4 から gβ=[xi,gβ−αi]\mathfrak{g}_\beta=[x_i,\mathfrak{g}_{\beta-\alpha_i}] なので、高さの帰納法でわかります)。よって yimi+1v+y_i^{m_i+1}v^+ は 00 でなければウェイト λ−(mi+1)αi\lambda-(m_i+1)\alpha_i の最高ウェイトベクトルで、それが生成する部分加群のウェイトは λ\lambda より真に小さいので真の部分加群です。L(λ)L(\lambda) は既約なので yimi+1v+=0y_i^{m_i+1}v^+=0 です。

(b) 各 ii について、L(λ)L(\lambda) は有限次元 sαi\mathfrak{s}_{\alpha_i} 部分加群の和である。有限次元 sαi\mathfrak{s}_{\alpha_i} 部分加群の和を L′L' とします。YY が有限次元 sαi\mathfrak{s}_{\alpha_i} 部分加群なら gY\mathfrak{g}Y も有限次元で、s∈sαis\in\mathfrak{s}_{\alpha_i} について s(xy)=[s,x]y+x(sy)∈gYs(xy)=[s,x]y+x(sy)\in\mathfrak{g}Y なので sαi\mathfrak{s}_{\alpha_i} で不変です。よって L′L' は g\mathfrak{g} 部分加群です。(a) から span⁡(v+,yiv+,…,yimiv+)\operatorname{span}(v^+,y_iv^+,\dots,y_i^{m_i}v^+) は有限次元の sαi\mathfrak{s}_{\alpha_i} 部分加群なので v+∈L′v^+\in L' で、L′=L(λ)L'=L(\lambda) です。

(c) ウェイトの WW 不変性。μ\mu をウェイトとし、K=⨁kL(λ)μ+kαiK=\bigoplus_kL(\lambda)_{\mu+k\alpha_i} を考えます。(b) から KK は有限次元 sαi\mathfrak{s}_{\alpha_i} 加群の和(したがって既約な有限次元加群の直和)で、各既約成分は hαih_{\alpha_i} のウェイトについて対称です。よって 1 と同じ議論で dim⁡L(λ)μ=dim⁡L(λ)siμ\dim L(\lambda)_\mu=\dim L(\lambda)_{s_i\mu} で、WW は単純鏡映で生成される(定理 6.2[ルート系と Weyl 群])ので、ウェイトの集合は WW 不変です。

(d) 有限性。ウェイト μ\mu は整ウェイトで、命題 6.4[ルート系と Weyl 群] により WW で支配的な μˉ\bar\mu に移り、(c) から μˉ\bar\mu もウェイトなので μˉ≤λ\bar\mu\le\lambda です。支配的な μˉ≤λ\bar\mu\le\lambda は有限個です。実際 λ−μˉ=π∈Q+\lambda-\bar\mu=\pi\in Q^+ について (λ,λ)−(μˉ,μˉ)=(λ+μˉ,π)≥0(\lambda,\lambda)-(\bar\mu,\bar\mu)=(\lambda+\bar\mu,\pi)\ge0(支配的なベクトルと Q+Q^+ の内積は非負)なので μˉ\bar\mu は有界な格子点です。各 μˉ\bar\mu の WW 軌道は有限なので、ウェイトは有限個で、各ウェイト空間は有限次元(命題 3.3 の 1)ですから、L(λ)L(\lambda) は有限次元です。

物理の言葉では、Λ+\Lambda^+ の元は「Dynkin ラベル」(m1,…,mℓ)=(λ(hα1),…,λ(hαℓ))(m_1,\dots,m_\ell)=(\lambda(h_{\alpha_1}),\dots,\lambda(h_{\alpha_\ell})) で表されます。sl(3)\mathfrak{sl}(3) では (1,0)(1,0) がクォーク 3\mathbf3、(0,1)(0,1) が反クォーク 3ˉ\bar{\mathbf3}、(1,1)(1,1) が随伴表現 8\mathbf8、(3,0)(3,0) が 10\mathbf{10} です。基本ウェイト ϖi\varpi_i(ϖi(hαj)=δij\varpi_i(h_{\alpha_j})=\delta_{ij})を使うと λ=∑miϖi\lambda=\sum m_i\varpi_i、ρ=∑ϖi\rho=\sum\varpi_i です。

形式指標。 関数 f ⁣:Λ→Zf\colon\Lambda\to\mathbb{Z} で、台が有限個の集合 λj−Q+\lambda_j-Q^+ の和に含まれるもの全体を X\mathfrak{X} とし、畳み込み (fg)(μ)=∑νf(ν)g(μ−ν)(fg)(\mu)=\sum_\nu f(\nu)g(\mu-\nu) を積とします(和は有限)。eμe^\mu を μ\mu での指示関数とすると eμeν=eμ+νe^\mu e^\nu=e^{\mu+\nu} で、有限和 ∑cμeμ\sum c_\mu e^\mu の全体 Z[Λ]\mathbb{Z}[\Lambda] は部分環、WW は Z[Λ]\mathbb{Z}[\Lambda] に w(eμ)=ewμw(e^\mu)=e^{w\mu} で作用します。ウェイトが Λ\Lambda に入り、各ウェイト空間が有限次元で、ウェイトが有限個の λj−Q+\lambda_j-Q^+ に含まれる加群 VV に対し、形式指標 を ch⁡V=∑μdim⁡Vμ eμ∈X\operatorname{ch}V=\sum_\mu\dim V_\mu\,e^\mu\in\mathfrak{X} と定めます。完全列に対して加法的です(補題 3.1)。

Weyl の分母。 q=eρ∏α>0(1−e−α)∈Z[Λ]q=e^\rho\prod_{\alpha\gt0}(1-e^{-\alpha})\in\mathbb{Z}[\Lambda] とおきます。ρ∈Λ\rho\in\Lambda に注意してください。

補題 6.1(Weyl の分母の性質)✓

  1. w∈Ww\in W について w(q)=ε(w)qw(q)=\varepsilon(w)q。
  2. λ∈Λ\lambda\in\Lambda について q⋅ch⁡M(λ)=eλ+ρq\cdot\operatorname{ch}M(\lambda)=e^{\lambda+\rho}。
証明(補題 6.1)

1: 単純鏡映で確かめれば十分です。補題 5.3[ルート系と Weyl 群] から sis_i は Φ+∖{αi}\Phi^+\setminus\lbrace\alpha_i\rbrace を置換し、siρ=ρ−αis_i\rho=\rho-\alpha_i なので

si(q)=eρ−αi(1−eαi)∏α>0,α≠αi(1−e−α)=eρ(e−αi−1)∏α≠αi(1−e−α)=−qs_i(q)=e^{\rho-\alpha_i}(1-e^{\alpha_i})\prod_{\alpha\gt0,\alpha\ne\alpha_i}(1-e^{-\alpha})=e^\rho(e^{-\alpha_i}-1)\prod_{\alpha\ne\alpha_i}(1-e^{-\alpha})=-q

です。2: 定理 4.2 の 1 から ch⁡M(λ)=eλ∑ν∈Q+P(ν)e−ν=eλ∏α>0(1+e−α+e−2α+⋯ )\operatorname{ch}M(\lambda)=e^\lambda\sum_{\nu\in Q^+}P(\nu)e^{-\nu}=e^\lambda\prod_{\alpha\gt0}(1+e^{-\alpha}+e^{-2\alpha}+\cdots) で、(1−e−α)(1+e−α+⋯ )=1(1-e^{-\alpha})(1+e^{-\alpha}+\cdots)=1 です。

Casimir 元。 指標公式の証明の方針は次のとおりです。L(λ)L(\lambda) の指標を Verma 加群の指標の整数係数の和で書き(次の「Verma 加群の部分商の指標」の補題)、その和に現れうる Verma 加群を、Casimir 元がそろって同じ値をとるものだけに絞り込みます。そうすると候補が有限個になり、あとは Weyl 群の対称性で係数が決まります。そのために、Casimir 元が最高ウェイト加群の上でどう作用するかを先に計算します。

g\mathfrak{g} の基底 uku_k と、Killing 形式に関する双対基底 uku^k をとり、Ω=∑kukuk∈U(g)\Omega=\sum_ku_ku^k\in U(\mathfrak{g}) とおきます。

補題 6.2(Casimir 元の固有値)✓

Ω\Omega は U(g)U(\mathfrak{g}) の中心に属し、最高ウェイト λ\lambda の最高ウェイト加群の上で (λ+ρ,λ+ρ)−(ρ,ρ)(\lambda+\rho,\lambda+\rho)-(\rho,\rho) 倍として作用する。

証明(補題 6.2)

中心性は 補題 9.1[Lie 環の構造論] の証明と同じ計算で [x,Ω]=0[x,\Omega]=0(x∈gx\in\mathfrak{g})が示され、U(g)U(\mathfrak{g}) は g\mathfrak{g} で生成されるので従います。Ω\Omega は基底の取り方によらないので、h\mathfrak{h} の基底 hih_i とその双対基底 hih^i、および α>0\alpha\gt0 について xα,yαx_\alpha,y_\alpha をとります。cα=κ(xα,yα)c_\alpha=\kappa(x_\alpha,y_\alpha) とおくと xαx_\alpha の双対は yα/cαy_\alpha/c_\alpha、yαy_\alpha の双対は xα/cαx_\alpha/c_\alpha なので

Ω=∑ihihi+∑α>0xαyα+yαxαcα\Omega=\sum_ih_ih^i+\sum_{\alpha\gt0}\frac{x_\alpha y_\alpha+y_\alpha x_\alpha}{c_\alpha}

です。最高ウェイトベクトル v+v^+ には yαxαv+=0y_\alpha x_\alpha v^+=0、xαyαv+=[xα,yα]v+=cαtαv+=cα(λ,α)v+x_\alpha y_\alpha v^+=[x_\alpha,y_\alpha]v^+=c_\alpha t_\alpha v^+=c_\alpha(\lambda,\alpha)v^+(命題 3.1[ルート系と Weyl 群] の 3)です。また tλ=∑iλ(hi)hit_\lambda=\sum_i\lambda(h_i)h^i なので ∑iλ(hi)λ(hi)=λ(tλ)=(λ,λ)\sum_i\lambda(h_i)\lambda(h^i)=\lambda(t_\lambda)=(\lambda,\lambda) です。よって Ωv+=((λ,λ)+2(λ,ρ))v+\Omega v^+=\bigl((\lambda,\lambda)+2(\lambda,\rho)\bigr)v^+ で、Ω\Omega は中心元なので U(g)v+U(\mathfrak{g})v^+ 全体で同じスカラーです。

補題 6.3(Verma 加群の部分商の指標)✓

λ∈Λ\lambda\in\Lambda とし、S(λ)={μ∈Λ:μ≤λ, (μ+ρ,μ+ρ)=(λ+ρ,λ+ρ)}S(\lambda)=\lbrace\mu\in\Lambda : \mu\le\lambda,\ (\mu+\rho,\mu+\rho)=(\lambda+\rho,\lambda+\rho)\rbrace とおく。S(λ)S(\lambda) は有限集合であり、M(λ)M(\lambda) の任意の部分商 VV について、非負整数 aμa_\mu により ch⁡V=∑μ∈S(λ)aμch⁡L(μ)\operatorname{ch}V=\sum_{\mu\in S(\lambda)}a_\mu\operatorname{ch}L(\mu) と書ける。

証明(補題 6.3)

有限性。 μ=λ−π\mu=\lambda-\pi(π∈Q+\pi\in Q^+)なら、条件は (π,π)=2(λ+ρ,π)≤2∣λ+ρ∣∣π∣(\pi,\pi)=2(\lambda+\rho,\pi)\le2|\lambda+\rho||\pi| となり ∣π∣≤2∣λ+ρ∣|\pi|\le2|\lambda+\rho| です。Q+Q^+ は離散的なので、そのような π\pi は有限個です。

帰納法。 N(V)=∑μ∈S(λ)dim⁡VμN(V)=\sum_{\mu\in S(\lambda)}\dim V_\mu についての帰納法です。V≠0V\ne0 とし、ウェイト μ\mu を λ−μ\lambda-\mu の高さが最小になるように選ぶと、μ+α\mu+\alpha(α>0\alpha\gt0)はウェイトでないので、0≠v∈Vμ0\ne v\in V_\mu は最高ウェイトベクトルです。補題 6.2 により Ω\Omega は M(λ)M(\lambda) とその部分商の上で (λ+ρ,λ+ρ)−(ρ,ρ)(\lambda+\rho,\lambda+\rho)-(\rho,\rho) 倍で、vv の上では (μ+ρ,μ+ρ)−(ρ,ρ)(\mu+\rho,\mu+\rho)-(\rho,\rho) 倍なので μ∈S(λ)\mu\in S(\lambda) です。特に N(V)=0N(V)=0 なら V=0V=0 です。X=U(g)vX=U(\mathfrak{g})v は最高ウェイト μ\mu の最高ウェイト加群なので、極大部分加群 X′X' について X/X′≅L(μ)X/X'\cong L(\mu)(定理 4.2 の 3)で

ch⁡V=ch⁡(V/X)+ch⁡X′+ch⁡L(μ)\operatorname{ch}V=\operatorname{ch}(V/X)+\operatorname{ch}X'+\operatorname{ch}L(\mu)

です。V/XV/X、X′X' も M(λ)M(\lambda) の部分商で、N(L(μ))≥dim⁡L(μ)μ=1N(L(\mu))\ge\dim L(\mu)_\mu=1 から N(V/X),N(X′)<N(V)N(V/X),N(X')\lt N(V) なので、帰納法の仮定を適用できます。

定理 6.4(Weyl の指標公式)✓

λ∈Λ+\lambda\in\Lambda^+ ならば

q⋅ch⁡L(λ)=∑w∈Wε(w) ew(λ+ρ),すなわちch⁡L(λ)=∑w∈Wε(w)ew(λ+ρ)eρ∏α>0(1−e−α).q\cdot\operatorname{ch}L(\lambda)=\sum_{w\in W}\varepsilon(w)\,e^{w(\lambda+\rho)},\qquad\text{すなわち}\qquad\operatorname{ch}L(\lambda)=\frac{\sum_{w\in W}\varepsilon(w)e^{w(\lambda+\rho)}}{e^\rho\prod_{\alpha\gt0}(1-e^{-\alpha})}.
証明(定理 6.4)

Verma 加群による展開。 μ∈S(λ)\mu\in S(\lambda) なら S(μ)⊂S(λ)S(\mu)\subset S(\lambda) です。補題 6.3 を V=M(μ)V=M(\mu) に適用すると ch⁡M(μ)=∑ν∈S(λ)aμνch⁡L(ν)\operatorname{ch}M(\mu)=\sum_{\nu\in S(\lambda)}a_{\mu\nu}\operatorname{ch}L(\nu) で、aμν≠0a_{\mu\nu}\ne0 なら ν≤μ\nu\le\mu、また eμe^\mu の係数を比べて aμμ=1a_{\mu\mu}=1 です。S(λ)S(\lambda) を ≤\le と両立する全順序で並べると、行列 (aμν)(a_{\mu\nu}) は対角成分 11 の整数三角行列なので、逆行列も同じ形で、

ch⁡L(λ)=∑μ∈S(λ)bμch⁡M(μ),bλ=1, bμ∈Z\operatorname{ch}L(\lambda)=\sum_{\mu\in S(\lambda)}b_\mu\operatorname{ch}M(\mu),\qquad b_\lambda=1,\ b_\mu\in\mathbb{Z}

と書けます。補題 6.1 の 2 をかけて qch⁡L(λ)=∑μbμeμ+ρq\operatorname{ch}L(\lambda)=\sum_\mu b_\mu e^{\mu+\rho} です。

交代性。 定理 5.1 により L(λ)L(\lambda) は有限次元で ch⁡L(λ)∈Z[Λ]\operatorname{ch}L(\lambda)\in\mathbb{Z}[\Lambda] は WW 不変、補題 6.1 の 1 により qch⁡L(λ)q\operatorname{ch}L(\lambda) は ww で ε(w)\varepsilon(w) 倍されます。eνe^\nu の係数を c(ν)c(\nu)(ν−ρ∈S(λ)\nu-\rho\in S(\lambda) なら bν−ρb_{\nu-\rho}、それ以外は 00)とすると c(wν)=ε(w)c(ν)c(w\nu)=\varepsilon(w)c(\nu) です。

係数の決定。 c(ν)≠0c(\nu)\ne0 とし、命題 6.4[ルート系と Weyl 群] で νˉ=wν\bar\nu=w\nu を支配的にとると c(νˉ)≠0c(\bar\nu)\ne0 なので、νˉ−ρ∈S(λ)\bar\nu-\rho\in S(\lambda)、すなわち π=λ+ρ−νˉ∈Q+\pi=\lambda+\rho-\bar\nu\in Q^+ かつ ∣νˉ∣=∣λ+ρ∣|\bar\nu|=|\lambda+\rho| です。∣λ+ρ∣2=∣νˉ∣2+2(νˉ,π)+∣π∣2|\lambda+\rho|^2=|\bar\nu|^2+2(\bar\nu,\pi)+|\pi|^2 で、νˉ\bar\nu は支配的なので (νˉ,π)≥0(\bar\nu,\pi)\ge0、よって π=0\pi=0、νˉ=λ+ρ\bar\nu=\lambda+\rho です。したがって cc の台は W(λ+ρ)W(\lambda+\rho) に含まれ、λ+ρ\lambda+\rho は狭義支配的なので w↦w(λ+ρ)w\mapsto w(\lambda+\rho) は単射です(同じ命題の 2)。c(w(λ+ρ))=ε(w)c(λ+ρ)=ε(w)bλ=ε(w)c(w(\lambda+\rho))=\varepsilon(w)c(\lambda+\rho)=\varepsilon(w)b_\lambda=\varepsilon(w) から結論を得ます。

λ=0\lambda=0 とすると L(0)L(0) は自明な 1 次元表現(自明表現は最高ウェイト 00 の既約最高ウェイト加群)なので、Weyl の分母公式 q=∑w∈Wε(w)ewρq=\sum_{w\in W}\varepsilon(w)e^{w\rho} を得ます。

系 6.5(Weyl の次元公式)✓

λ∈Λ+\lambda\in\Lambda^+ ならば dim⁡L(λ)=∏α∈Φ+(λ+ρ,α)(ρ,α)\displaystyle\dim L(\lambda)=\prod_{\alpha\in\Phi^+}\frac{(\lambda+\rho,\alpha)}{(\rho,\alpha)}。

証明(系 6.5)

ν∈E\nu\in E に対し、環準同型 ϕν ⁣:Z[Λ]→C∞(R)\phi_\nu\colon\mathbb{Z}[\Lambda]\to C^\infty(\mathbb{R}) を eμ↦et(μ,ν)e^\mu\mapsto e^{t(\mu,\nu)} で定めます。(wμ,ν)=(μ,w−1ν)(w\mu,\nu)=(\mu,w^{-1}\nu) と ε(w−1)=ε(w)\varepsilon(w^{-1})=\varepsilon(w) から

ϕρ(∑wε(w)ew(λ+ρ))=∑wε(w)et(wρ,λ+ρ)=ϕλ+ρ(q)=∏α>0(et(α,λ+ρ)/2−e−t(α,λ+ρ)/2)\phi_\rho\Bigl(\sum_w\varepsilon(w)e^{w(\lambda+\rho)}\Bigr)=\sum_w\varepsilon(w)e^{t(w\rho,\lambda+\rho)}=\phi_{\lambda+\rho}(q)=\prod_{\alpha\gt0}\bigl(e^{t(\alpha,\lambda+\rho)/2}-e^{-t(\alpha,\lambda+\rho)/2}\bigr)

です(2 つ目の等号は分母公式、3 つ目は (ρ,⋅)=12∑α>0(α,⋅)(\rho,\cdot)=\frac12\sum_{\alpha\gt0}(\alpha,\cdot))。同様に ϕρ(q)=∏α>0(et(α,ρ)/2−e−t(α,ρ)/2)\phi_\rho(q)=\prod_{\alpha\gt0}(e^{t(\alpha,\rho)/2}-e^{-t(\alpha,\rho)/2}) で、(α,ρ)>0(\alpha,\rho)\gt0 なので t≠0t\ne0 で 00 になりません。指標公式に ϕρ\phi_\rho を施して割ると

∑μdim⁡L(λ)μ et(μ,ρ)=∏α>0sinh⁡(t(α,λ+ρ)/2)sinh⁡(t(α,ρ)/2)\sum_\mu\dim L(\lambda)_\mu\,e^{t(\mu,\rho)}=\prod_{\alpha\gt0}\frac{\sinh\bigl(t(\alpha,\lambda+\rho)/2\bigr)}{\sinh\bigl(t(\alpha,\rho)/2\bigr)}

で、t→0t\to0 とすれば左辺は dim⁡L(λ)\dim L(\lambda)、右辺は主張の積に収束します。

例 6.6(sl(3) の表現の次元)

A2A_2 では正ルートは α1,α2,α1+α2\alpha_1,\alpha_2,\alpha_1+\alpha_2 で長さが等しく、λ=aϖ1+bϖ2\lambda=a\varpi_1+b\varpi_2 について (λ+ρ,αi)/(ρ,αi)(\lambda+\rho,\alpha_i)/(\rho,\alpha_i) は a+1a+1、b+1b+1、(a+b+2)/2(a+b+2)/2 です。よって dim⁡L(λ)=12(a+1)(b+1)(a+b+2)\dim L(\lambda)=\frac12(a+1)(b+1)(a+b+2) で、(1,0),(0,1),(1,1),(2,0),(3,0)(1,0),(0,1),(1,1),(2,0),(3,0) に対して 3,3,8,6,103,3,8,6,10 です。sl(2)\mathfrak{sl}(2) では ρ=ϖ1=12α\rho=\varpi_1=\frac12\alpha で、指標公式は ch⁡L(mϖ1)=e(m+1)ϖ1−e−(m+1)ϖ1eϖ1−e−ϖ1\operatorname{ch}L(m\varpi_1)=\dfrac{e^{(m+1)\varpi_1}-e^{-(m+1)\varpi_1}}{e^{\varpi_1}-e^{-\varpi_1}} となり、eϖ1↦eiθ/2e^{\varpi_1}\mapsto e^{i\theta/2} とすれば SU(2)SU(2) の指標 sin⁡(m+1)θ2/sin⁡θ2\sin\frac{(m+1)\theta}2/\sin\frac\theta2(定理 4.6[指標と SU(2)・SU(N) の表現])です。

最後にコンパクト群の側に移ります。G=U(N)G=U(N)、TT を対角ユニタリ行列のなす極大トーラス、dgdg、dtdt を正規化 Haar 測度とし、t=diag⁡(t1,…,tN)t=\operatorname{diag}(t_1,\dots,t_N) に対して

Δ(t)=∏1≤j<k≤N(tj−tk)\Delta(t)=\prod_{1\le j\lt k\le N}(t_j-t_k)

とおきます。TregT_{\mathrm{reg}} を tjt_j が相異なる tt の全体、GregG_{\mathrm{reg}} を固有値が相異なる gg の全体とします。

定理 7.1(Weyl の積分公式(U(N)・SU(N)))✓

ff を U(N)U(N) 上の連続な類関数とすると

∫U(N)f(g) dg=1N!∫Tf(t) ∣Δ(t)∣2 dt\int_{U(N)}f(g)\,dg=\frac1{N!}\int_Tf(t)\,|\Delta(t)|^2\,dt

が成り立つ。SU(N)SU(N) についても、TT を T∩SU(N)T\cap SU(N)(その正規化 Haar 測度)に置き換えて同じ式が成り立つ。

証明の核心は次の計算です。g=u(N)\mathfrak{g}=\mathfrak{u}(N) に Ad⁡\operatorname{Ad} 不変な内積 ⟨X,Y⟩=−tr⁡(XY)\langle X,Y\rangle=-\operatorname{tr}(XY) を入れ、t=Lie⁡(T)\mathfrak{t}=\operatorname{Lie}(T)(純虚数の対角行列)とその直交補空間 m\mathfrak{m}(対角成分 00 の反エルミート行列)に分けます。m\mathfrak{m} と t\mathfrak{t} に正規直交基底をとり、命題 6.1[Haar 測度] の測度(左不変形式の絶対値)を μG\mu_G、μT\mu_T と書きます。dg=μG/μG(G)dg=\mu_G/\mu_G(G)、dt=μT/μT(T)dt=\mu_T/\mu_T(T) です。

補題 7.2(共役写像の微分)✓

Φ(h,t)=hth−1\Phi(h,t)=hth^{-1}(h∈Gh\in G、t∈Tt\in T)とすると、Y∈gY\in\mathfrak{g}、H∈tH\in\mathfrak{t} について

ddϵ∣ϵ=0Φ(heϵY,teϵH)=Φ(h,t)⋅Ad⁡(h)[(Ad⁡(t−1)−1)Y+H]\frac{d}{d\epsilon}\Big|_{\epsilon=0}\Phi(he^{\epsilon Y},te^{\epsilon H})=\Phi(h,t)\cdot\operatorname{Ad}(h)\bigl[(\operatorname{Ad}(t^{-1})-1)Y+H\bigr]

が成り立つ。Ad⁡(t−1)−1\operatorname{Ad}(t^{-1})-1 は t\mathfrak{t} を 00 に写し、m\mathfrak{m} を保ち、その m\mathfrak{m} 上の行列式は ∣Δ(t)∣2|\Delta(t)|^2 である。

証明(補題 7.2)

heϵYteϵHe−ϵYh−1=hth−1⋅h(t−1eϵYt eϵHe−ϵY)h−1he^{\epsilon Y}te^{\epsilon H}e^{-\epsilon Y}h^{-1}=hth^{-1}\cdot h\bigl(t^{-1}e^{\epsilon Y}t\,e^{\epsilon H}e^{-\epsilon Y}\bigr)h^{-1} を ϵ\epsilon で微分すれば最初の式です。m=⨁j<kmjk\mathfrak{m}=\bigoplus_{j\lt k}\mathfrak{m}_{jk}、mjk={zEjk−zˉEkj:z∈C}\mathfrak{m}_{jk}=\lbrace zE_{jk}-\bar zE_{kj} : z\in\mathbb{C}\rbrace と分け、mjk≅C\mathfrak{m}_{jk}\cong\mathbb{C} と同一視すると、Ad⁡(t−1)\operatorname{Ad}(t^{-1}) は mjk\mathfrak{m}_{jk} 上で z↦tj−1tkzz\mapsto t_j^{-1}t_kz と作用します(∣tj∣=1|t_j|=1 を使う)。Ad⁡(t−1)−1\operatorname{Ad}(t^{-1})-1 は実 2 次元の mjk\mathfrak{m}_{jk} 上で複素数 tk/tj−1t_k/t_j-1 の掛け算なので、実行列式は ∣tk/tj−1∣2=∣tj−tk∣2|t_k/t_j-1|^2=|t_j-t_k|^2 で、積をとって ∣Δ(t)∣2|\Delta(t)|^2 です。t\mathfrak{t} 上で 00 なのは TT が可換だからです。

証明(定理 7.1)

(a) 管状座標。 X∈mX\in\mathfrak{m} について DX=1−e−ad⁡Xad⁡XD_X=\frac{1-e^{-\operatorname{ad}X}}{\operatorname{ad}X}(補題 6.1[行列 Lie 群と指数写像])とし、PmP_{\mathfrak{m}} を m\mathfrak{m} への直交射影、c(X)=∣det⁡(PmDX∣m)∣c(X)=|\det(P_{\mathfrak{m}}D_X|_{\mathfrak{m}})| とおきます。c(0)=1c(0)=1 なので、十分小さい球 B⊂mB\subset\mathfrak{m} 上で c>0c\gt0 です。(X,H)↦eXeH(X,H)\mapsto e^Xe^H は m⊕t=g\mathfrak{m}\oplus\mathfrak{t}=\mathfrak{g} の 00 の近傍で微分同相なので、BB を小さくとれば、各 g0∈Gg_0\in G について κg0(X,s)=g0eXs\kappa_{g_0}(X,s)=g_0e^Xs は B×TB\times T から開集合 Ug0=g0eBTU_{g_0}=g_0e^BT への単射です(g0eXs=g0eX′s′g_0e^Xs=g_0e^{X'}s' なら eX=eX′(s′s−1)e^X=e^{X'}(s's^{-1}) で、s′s−1∈Ts's^{-1}\in T は II に近く eHe^{H} の形なので、局所単射性から X=X′X=X')。s=s0eHs=s_0e^H と TT の局所座標をとると、κg0\kappa_{g_0} の左平行移動した微分は (X′,H′)↦Ad⁡(s−1)DXX′+H′(X',H')\mapsto\operatorname{Ad}(s^{-1})D_XX'+H' です。Ad⁡(s−1)\operatorname{Ad}(s^{-1}) は m\mathfrak{m}、t\mathfrak{t} を保つ直交変換なので、この行列はブロック三角形で行列式の絶対値は c(X)c(X) です。命題 6.1[Haar 測度] から、Ug0U_{g_0} 上で μG=c(X) dX μT(s)\mu_G=c(X)\,dX\,\mu_T(s)(dXdX は m\mathfrak{m} の Lebesgue 測度)です。

(b) 共役写像の座標。 ψg0(X,t)=g0eXte−Xg0−1=Φ(g0eX,t)\psi_{g_0}(X,t)=g_0e^Xte^{-X}g_0^{-1}=\Phi(g_0e^X,t) とおくと、補題 7.2 と (a) の計算から、左平行移動した微分は (X′,H′)↦Ad⁡(g0eX)[(Ad⁡(t−1)−1)PmDXX′+H′](X',H')\mapsto\operatorname{Ad}(g_0e^X)\bigl[(\operatorname{Ad}(t^{-1})-1)P_{\mathfrak{m}}D_XX'+H'\bigr] で、その行列式の絶対値は ∣Δ(t)∣2c(X)|\Delta(t)|^2c(X) です。B×TregB\times T_{\mathrm{reg}} 上で ψg0\psi_{g_0} は単射です。実際 eXte−X=eX′t′e−X′e^Xte^{-X}=e^{X'}t'e^{-X'} なら k=e−X′eXk=e^{-X'}e^X は tt を t′t' に共役で写し、t,t′t,t' は相異なる固有値をもつ対角行列なので kk は座標軸を座標軸に写す単項行列です。BB が小さければ kk は II に近いので対角行列、すなわち k∈Tk\in T で、t′=tt'=t、(a) の単射性から X=X′X=X' です。こうして ψg0\psi_{g_0} は B×TregB\times T_{\mathrm{reg}} から開集合 Vg0V_{g_0} への微分同相で、そこで μG=∣Δ(t)∣2c(X) dX μT(t)\mu_G=|\Delta(t)|^2c(X)\,dX\,\mu_T(t) です。

(c) 台が GregG_{\mathrm{reg}} に入る関数。 uu を GregG_{\mathrm{reg}} にコンパクトな台をもつ連続関数とし、I(u)=∫G∫Tu(gtg−1)∣Δ(t)∣2 μT(t) μG(g)I(u)=\int_G\int_Tu(gtg^{-1})|\Delta(t)|^2\,\mu_T(t)\,\mu_G(g) とおきます。有限個の UgkU_{g_k} で GG を覆い、それに従属する連続な 1 の分割 φk\varphi_k(定理 6.3[部分多様体と正則値定理])を TT で平均して φ~k(g)=∫Tφk(gs) ds\tilde\varphi_k(g)=\int_T\varphi_k(gs)\,ds とすると、φ~k\tilde\varphi_k は右 TT 不変で ∑kφ~k=1\sum_k\tilde\varphi_k=1、台は UgkU_{g_k} に含まれます。F(g)=∫Tu(gtg−1)∣Δ(t)∣2μT(t)F(g)=\int_Tu(gtg^{-1})|\Delta(t)|^2\mu_T(t) も右 TT 不変なので、(a) と (b) から

∫Gφ~kF μG=μT(T)∫Bφ~k(gkeX)F(gkeX)c(X) dX=μT(T)∫Vgkϑk u μG\int_G\tilde\varphi_kF\,\mu_G=\mu_T(T)\int_B\tilde\varphi_k(g_ke^X)F(g_ke^X)c(X)\,dX=\mu_T(T)\int_{V_{g_k}}\vartheta_k\,u\,\mu_G

です。ここで ϑk(ψgk(X,t))=φ~k(gkeX)\vartheta_k(\psi_{g_k}(X,t))=\tilde\varphi_k(g_ke^X) は (b) の単射性から VgkV_{g_k} 上で定義でき、最後の等号は ψgk\psi_{g_k} による変数変換です。x∈Gregx\in G_{\mathrm{reg}} に対し、gtg−1=xgtg^{-1}=x となる剰余類 gTgT は、gg の列を xx の固有ベクトルとして並べる順序に対応してちょうど N!N! 個あり、各 kk について UgkU_{g_k} に入るものは高々 1 つで、それが x∈Vgkx\in V_{g_k} の場合に対応します。よって ∑k1Vgk(x)ϑk(x)=∑gT∑kφ~k(g)=N!\sum_k1_{V_{g_k}}(x)\vartheta_k(x)=\sum_{gT}\sum_k\tilde\varphi_k(g)=N! で、

I(u)=N! μT(T)∫Gu μG,すなわち∫G∫Tu(gtg−1)∣Δ(t)∣2 dt dg=N!∫Gu dgI(u)=N!\,\mu_T(T)\int_Gu\,\mu_G,\qquad\text{すなわち}\qquad\int_G\int_Tu(gtg^{-1})|\Delta(t)|^2\,dt\,dg=N!\int_Gu\,dg

です。

(d) 一般の類関数。 D(g)=∏j<k∣λj−λk∣2D(g)=\prod_{j\lt k}|\lambda_j-\lambda_k|^2(λj\lambda_j は gg の固有値)は特性多項式の判別式の絶対値なので連続な類関数で、Greg={D>0}G_{\mathrm{reg}}=\lbrace D\gt0\rbrace です。ηn(s)=min⁡(1,max⁡(0,ns−1))\eta_n(s)=\min(1,\max(0,ns-1)) として un=ηn∘Du_n=\eta_n\circ D とおくと、unu_n は GregG_{\mathrm{reg}} にコンパクトな台をもつ類関数で、n→∞n\to\infty で 1Greg1_{G_{\mathrm{reg}}} に単調に収束します。連続な類関数 ff に (c) を u=funu=fu_n で適用すると、f(gtg−1)un(gtg−1)=f(t)un(t)f(gtg^{-1})u_n(gtg^{-1})=f(t)u_n(t) なので

∫Tf(t)un(t)∣Δ(t)∣2 dt=N!∫Gfun dg\int_Tf(t)u_n(t)|\Delta(t)|^2\,dt=N!\int_Gfu_n\,dg

です。n→∞n\to\infty とすると、優収束定理により左辺は ∫Tf∣Δ∣2dt\int_Tf|\Delta|^2dt(T∖TregT\setminus T_{\mathrm{reg}} 上では Δ=0\Delta=0)、右辺は N!∫Gregf dgN!\int_{G_{\mathrm{reg}}}f\,dg に収束します。f=1f=1 とおき、∣Δ∣2=∑σ,τ∈SNε(σ)ε(τ)tσ(δ)tˉτ(δ)|\Delta|^2=\sum_{\sigma,\tau\in S_N}\varepsilon(\sigma)\varepsilon(\tau)t^{\sigma(\delta)}\bar t^{\tau(\delta)}(δ=(N−1,…,0)\delta=(N-1,\dots,0))と TT 上の単項式の直交性から ∫T∣Δ∣2dt=N!\int_T|\Delta|^2dt=N! なので、∫Gregdg=1\int_{G_{\mathrm{reg}}}dg=1、すなわち G∖GregG\setminus G_{\mathrm{reg}} は測度 00 です。よって右辺は N!∫Gf dgN!\int_Gf\,dg となり、定理が示されました。

SU(N)SU(N) では、TT を T′=T∩SU(N)T'=T\cap SU(N)、t\mathfrak{t} を跡 00 の部分に置き換えます。m\mathfrak{m} は同じなので (a)〜(d) はそのまま成り立ち、(d) の最後の計算は ∫T′∣Δ∣2dt′=N!\int_{T'}|\Delta|^2dt'=N! に変わります(T′T' 上でも tσ(δ)tˉτ(δ)t^{\sigma(\delta)}\bar t^{\tau(\delta)} の積分は σ=τ\sigma=\tau のとき 11、それ以外で 00 です。指数の差 σ(δ)−τ(δ)\sigma(\delta)-\tau(\delta) は (1,…,1)(1,\dots,1) の倍数ではない 00 でない整数ベクトルだからです)。

N=2N=2 では Δ=t1−t2\Delta=t_1-t_2 で、SU(2)SU(2) の t=diag⁡(eiθ/2,e−iθ/2)t=\operatorname{diag}(e^{i\theta/2},e^{-i\theta/2}) について ∣Δ∣2=4sin⁡2θ2|\Delta|^2=4\sin^2\frac\theta2 となり、定理 4.4[指標と SU(2)・SU(N) の表現] と一致します。積分公式の右辺に現れる Δ(t)\Delta(t) は、tδt^\delta の交代和 ∑σε(σ)tσ(δ)\sum_{\sigma}\varepsilon(\sigma)t^{\sigma(\delta)}(Vandermonde 行列式)であり、例 7.9[ルート系と Weyl 群] により Weyl の分母 ∑wε(w)ewρ\sum_w\varepsilon(w)e^{w\rho} を TT 上の関数とみなしたもの(の det⁡(N−1)/2\det^{(N-1)/2} 倍)です。こうして、代数的な Weyl の分母とコンパクト群上の積分の密度が同じ対象であることがわかります。次章では、この公式と Peter–Weyl の定理を組み合わせて、U(N)U(N) の既約指標が Schur 多項式であることを示します。

演習 8.1易

例 4.3 で、c=λ(h)∉Z≥0c=\lambda(h)\notin\mathbb{Z}_{\ge0} なら M(λ)M(\lambda) は既約であることを示してください。

解答

0≠W⊂M(λ)0\ne W\subset M(\lambda) を部分加群とします。補題 3.1 から WW はある vkv_k を含みます(ウェイト空間は 1 次元)。evj=(c−j+1)vj−1ev_j=(c-j+1)v_{j-1} の係数は j≥1j\ge1 で c−j+1≠0c-j+1\ne0(c∉Z≥0c\notin\mathbb{Z}_{\ge0})なので、ee を kk 回作用させて v0∈Wv_0\in W、よって W=M(λ)W=M(\lambda) です。

演習 8.2標準

g\mathfrak{g} の随伴表現が既約(g\mathfrak{g} 単純)のとき、その最高ウェイトは最高ルート θ\theta(高さ最大の正ルート)であることを示し、A2A_2 で Weyl の次元公式が 88 を与えることを確かめてください。

解答

随伴表現のウェイトは 00 とルートで、gθ\mathfrak{g}_\theta は θ+α\theta+\alpha(α>0\alpha\gt0)がルートでないので n+\mathfrak{n}^+ で消され、最高ウェイトベクトルです。g\mathfrak{g} が単純なら随伴表現は既約なので g≅L(θ)\mathfrak{g}\cong L(\theta) です。A2A_2 では θ=α1+α2=ϖ1+ϖ2\theta=\alpha_1+\alpha_2=\varpi_1+\varpi_2(⟨θ,α1∨⟩=2−1=1\langle\theta,\alpha_1^\vee\rangle=2-1=1 など)で、例 6.6 の式に a=b=1a=b=1 を入れて 12⋅2⋅2⋅4=8\frac12\cdot2\cdot2\cdot4=8 です。

演習 8.3標準

定理 7.1 を使って、U(2)U(2) について ∫∣tr⁡g∣2dg=1\int|\operatorname{tr}g|^2dg=1、∫∣tr⁡g∣4dg=2\int|\operatorname{tr}g|^4dg=2 を示してください。

解答

tr⁡t=t1+t2\operatorname{tr}t=t_1+t_2 です。(t1+t2)(t1−t2)=t12−t22(t_1+t_2)(t_1-t_2)=t_1^2-t_2^2 は相異なる単項式 2 つ(係数 ±1\pm1)の和なので ∫T∣t12−t22∣2dt=2\int_T|t_1^2-t_2^2|^2dt=2、12⋅2=1\frac12\cdot2=1 です。(t1+t2)2(t1−t2)=t13+t12t2−t1t22−t23(t_1+t_2)^2(t_1-t_2)=t_1^3+t_1^2t_2-t_1t_2^2-t_2^3 は相異なる単項式 4 つ(係数 ±1\pm1)の和なので ∫T∣⋅∣2dt=4\int_T|\cdot|^2dt=4、12⋅4=2\frac12\cdot4=2 です。前者は tr⁡\operatorname{tr} が既約表現の指標であること、後者は C2⊗C2\mathbb{C}^2\otimes\mathbb{C}^2 が 2 つの既約成分(対称・反対称テンソル)に分かれることを表しています。

  • J. E. Humphreys, Introduction to Lie Algebras and Representation Theory, Springer GTM 9, 1972 — 第 V〜VI 章(§17 PBW、§20〜§24)。
  • J. Dixmier, Enveloping Algebras, AMS Graduate Studies in Mathematics 11, 1996(原著 1974)— 第 2, 7 章。
  • T. Bröcker and T. tom Dieck, Representations of Compact Lie Groups, Springer GTM 98, 1985 — 第 IV〜VI 章(Weyl の積分公式・指標公式)。
  • D. Bump, Lie Groups, 2nd ed., Springer GTM 225, 2013 — 第 17, 22 章。
  • B. C. Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations, 2nd ed., Springer GTM 222, 2015 — 第 9〜12 章。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。