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行列 Lie 群と指数写像:閉部分群定理・BCH 公式・SU(2)→SO(3) と Spin 群

対象読者: 学部の線形代数と多様体入門(接空間・滑らかな写像)、および基礎のリー群とリー環(左不変ベクトル場・指数写像)を学んだ人。位相群の一般論やリー環の構造論は仮定しません。

前提となる記事:リー群とリー環:連続的な対称性を接空間の線形代数へ翻訳する

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回転を表す行列や、量子力学で使う行列など、「ある条件を満たす行列を全部集めた集合」は、物理や数学のあちこちに出てきます。この記事は、そうした行列の集合が、条件が「極限をとっても崩れない」というだけで、なめらかな曲面のような形をもつことを示します。さらに、行列の積と、行列の交換関係との間にある深い関係を調べ、最後に、3 次元の回転を 2 周すると元に戻るという不思議な性質を、はっきりした式で説明します。

  • 閉部分群定理: GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の閉部分群 GG は、それだけで埋め込み部分多様体になり、Lie 群になります。その Lie 環は g={X:etX∈G (∀t∈R)}\mathfrak{g}=\lbrace X : e^{tX}\in G\ (\forall t\in\mathbb{R})\rbrace で、指数写像が単位元の近くで g\mathfrak{g} と GG を同相に結びます。
  • 行列 Lie 群の間の連続な準同型 Φ\Phi は自動的に滑らかで、Φ(eX)=eφ(X)\Phi(e^X)=e^{\varphi(X)} を満たす Lie 環の準同型 φ\varphi をただ 1 つ定めます。
  • BCH 公式: ∥X∥+∥Y∥<1/4\|X\|+\|Y\|\lt 1/4 なら log⁡(eXeY)\log(e^Xe^Y) は X,YX,Y の反復交換子の絶対収束級数 X+Y+12[X,Y]+112[X,[X,Y]]−112[Y,[X,Y]]+⋯X+Y+\frac12[X,Y]+\frac1{12}[X,[X,Y]]-\frac1{12}[Y,[X,Y]]+\cdots で書けます。鍵は指数写像の微分公式です。
  • BCH 公式から局所準同型が作れ、道に沿って延長することで、単連結な群からは Lie 環の準同型が群の準同型に持ち上がることが示せます(単連結とは、群の中の輪っかがどれも一点に縮められること)。
  • SU(2)→SO(3)SU(2)\to SO(3) は 2 対 1 の被覆で、SU(2)≅S3SU(2)\cong S^3 が単連結なので普遍被覆です。一般の nn では Clifford 代数(ベクトルの二乗が −∣v∣2-|v|^2 になるように掛け算を入れた代数)の中に Spin(n)\mathrm{Spin}(n) を作り、Spin(n)→SO(n)\mathrm{Spin}(n)\to SO(n) が連結な 2 重被覆であることを示します。

リー群とリー環 では、Lie 群を「多様体であって群演算が滑らかなもの」として定義し、左不変ベクトル場から Lie 環を作り、指数写像で両者を結びました。そこでは古典群 O(n)O(n)、U(n)U(n) などが多様体であることを、毎回、正則値定理で確かめていました。

物理や表現論で実際に出会う群は、ほとんどが行列の群です。回転群 SO(3)SO(3)、Lorentz 群 SO+(1,3)SO^+(1,3)、ゲージ群 SU(3)SU(3)、シンプレクティック群 Sp(2n,R)Sp(2n,\mathbb{R}) などです。これらはどれも「ある代数的な条件を満たす可逆行列の全体」であり、行列の収束について閉じています。この記事の第一の主題は、閉じていることだけから多様体の構造が自動的に従うという事実(閉部分群定理)です。これにより、群ごとに正則値定理を当てはめる手間がなくなり、さらに、たとえば「連続な準同型は自動的に滑らか」といった、Lie 群論を表現論に使うための基本的な道具が手に入ります。

第二の主題は、群の積と Lie 環の括弧の関係です。行列の積 eXeYe^Xe^Y は、XX と YY が可換でなければ eX+Ye^{X+Y} とは異なります。差は [X,Y]=XY−YX[X,Y]=XY-YX から始まる補正で、驚くべきことに、補正の全体が括弧だけで書けます(BCH 公式)。これは「群の積の局所構造は Lie 環で完全に決まる」ことを意味し、そこから Lie 環の準同型を群の準同型に持ち上げる定理が出てきます。

第三の主題は被覆です。SU(2)SU(2) と SO(3)SO(3) は同じ Lie 環をもちますが、群としては異なります。量子力学のスピン 1/21/2 はこの違いの現れで、SO(3)SO(3) の「2 価表現」は SU(2)SU(2) の本物の表現です。一般次元の回転群 SO(n)SO(n) に対して同じ役割をする Spin(n)\mathrm{Spin}(n) を、Clifford 代数を使って具体的に構成します。これはこのテーマの最終章(Lorentz 群・Poincaré 群の表現)と、場の量子論のスピノル場の前提になります。

2. 準備:行列の指数関数と対数関数

Section titled “2. 準備:行列の指数関数と対数関数”

Mn(C)M_n(\mathbb{C}) に作用素ノルム ∥A∥=sup⁡∣v∣=1∣Av∣\|A\|=\sup_{|v|=1}|Av| を入れます。これは劣乗法的(積のノルムが、ノルムの積以下になること)∥AB∥≤∥A∥∥B∥\|AB\|\le\|A\|\|B\| で、Mn(C)M_n(\mathbb{C}) はこのノルムで完備です。Mn(C)M_n(\mathbb{C}) は実ベクトル空間として R2n2\mathbb{R}^{2n^2} と同一視し、GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) はその開集合として多様体とみなします。

行列指数関数 eX=∑k≥0Xk/k!e^X=\sum_{k\ge0}X^k/k! の収束、ddtetX=XetX\frac{d}{dt}e^{tX}=Xe^{tX}、e(s+t)X=esXetXe^{(s+t)X}=e^{sX}e^{tX} は 補題 8.5[リー群とリー環] で示されています(そこでは実行列ですが、複素行列でも証明は同じです)。また XY=YXXY=YX なら eX+Y=eXeYe^{X+Y}=e^Xe^Y であること、egXg−1=geXg−1e^{gXg^{-1}}=ge^Xg^{-1} であることは、級数を項ごとに比べればわかります。

対数関数は、∥A−I∥<1\|A-I\|\lt1 を満たす AA に対して

log⁡A=∑m≥1(−1)m+1m(A−I)m\log A=\sum_{m\ge1}\frac{(-1)^{m+1}}{m}(A-I)^m

で定義します。∥(A−I)m∥≤∥A−I∥m\|(A-I)^m\|\le\|A-I\|^m なので絶対収束します。

補題 2.1(指数関数と対数関数の基本性質)✓

  1. ∥B∥<1\|B\|\lt1 ならば elog⁡(I+B)=I+Be^{\log(I+B)}=I+B であり、∥log⁡(I+B)∥≤−log⁡(1−∥B∥)\|\log(I+B)\|\le-\log(1-\|B\|)、∥log⁡(I+B)−B∥≤∥B∥21−∥B∥\|\log(I+B)-B\|\le\dfrac{\|B\|^2}{1-\|B\|} が成り立つ。
  2. ∥X∥<log⁡2\|X\|\lt\log2 ならば ∥eX−I∥<1\|e^X-I\|\lt1 であり、log⁡(eX)=X\log(e^X)=X が成り立つ。

次の証明のねらいは、実数で知っている elog⁡(1+x)=1+xe^{\log(1+x)}=1+x や log⁡ex=x\log e^x=x が行列でも成り立つことの確認です。BB の冪の級数を代入して展開し、BjB^j の係数を集め直すと、実数の場合と同じ係数が出ます。集め直しが許される理由は、すべての項の絶対値の和が有限だからです。

証明(補題 2.1)

ノルムの評価。 ∥log⁡(I+B)∥≤∑m≥1∥B∥m/m=−log⁡(1−∥B∥)\|\log(I+B)\|\le\sum_{m\ge1}\|B\|^m/m=-\log(1-\|B\|) です。また ∥log⁡(I+B)−B∥≤∑m≥2∥B∥m/m≤∥B∥2∑j≥0∥B∥j=∥B∥2/(1−∥B∥)\|\log(I+B)-B\|\le\sum_{m\ge2}\|B\|^m/m\le\|B\|^2\sum_{j\ge0}\|B\|^j=\|B\|^2/(1-\|B\|) です。

合成の恒等式。 cm=(−1)m+1/mc_m=(-1)^{m+1}/m とおくと

elog⁡(I+B)=∑k≥01k!(∑m≥1cmBm)k.e^{\log(I+B)}=\sum_{k\ge0}\frac1{k!}\Bigl(\sum_{m\ge1}c_mB^m\Bigr)^k .

各 kk の項を展開すると BB の冪の和になり、展開したすべての項のノルムの和は ∑k1k!(∑m∣cm∣∥B∥m)k=e−log⁡(1−∥B∥)=1/(1−∥B∥)<∞\sum_k\frac1{k!}\bigl(\sum_m|c_m|\|B\|^m\bigr)^k=e^{-\log(1-\|B\|)}=1/(1-\|B\|)\lt\infty で抑えられます。行列の各成分の絶対値は作用素ノルム以下なので、成分ごとに見れば絶対収束する多重級数で、定理 7.11[級数と収束判定]により自由にまとめ直せます(添字 (k;m1,…,mk)(k;m_1,\ldots,m_k) の集合 ⨆kNk\bigsqcup_k\mathbb{N}^k は可算なので全単射で N2\mathbb{N}^2 に移して 2 を使い、kk ごとのまとまりと j=m1+⋯+mkj=m_1+\cdots+m_k ごとのまとまりを比べる。kk ごとのまとまりの和が 1k!(∑mcmBm)k\frac1{k!}\bigl(\sum_mc_mB^m\bigr)^k になることは、同じ定理を二つずつまとめて繰り返し使う)。したがって右辺は ∑jdjBj\sum_j d_jB^j の形に整理でき、係数 djd_j は形式的冪級数 exp⁡(log⁡(1+x))\exp(\log(1+x)) の xjx^j の係数です。実数 ∣x∣<1|x|\lt1 では elog⁡(1+x)=1+xe^{\log(1+x)}=1+x が成り立ち、同じ並べ替えから ∑jdjxj=1+x\sum_jd_jx^j=1+x がすべての ∣x∣<1|x|\lt1 で成り立つので、冪級数の一意性から d0=d1=1d_0=d_1=1、dj=0d_j=0(j≥2j\ge2)です。よって elog⁡(I+B)=I+Be^{\log(I+B)}=I+B です。

2 も同様です。∥eX−I∥≤e∥X∥−1<1\|e^X-I\|\le e^{\|X\|}-1\lt1 であり、log⁡(eX)=∑mcm(eX−I)m\log(e^X)=\sum_mc_m(e^X-I)^m を XX の冪に展開したときのノルムの和は ∑m1m(e∥X∥−1)m=−log⁡(2−e∥X∥)<∞\sum_m\frac1m(e^{\|X\|}-1)^m=-\log(2-e^{\|X\|})\lt\infty で抑えられます。実数 ∣x∣<log⁡2|x|\lt\log2 で log⁡(ex)=x\log(e^x)=x が成り立つことから、上と同じ議論で log⁡(eX)=X\log(e^X)=X を得ます。

この補題の 2 から、exp⁡\exp は {∥X∥<log⁡2}\lbrace\|X\|\lt\log2\rbrace 上で単射で、逆写像が log⁡\log で与えられます。次の極限公式は、行列 Lie 群の Lie 環がベクトル空間になることの根拠です。

命題 2.2(Lie–Trotter の積公式)✓

任意の X,Y∈Mn(C)X,Y\in M_n(\mathbb{C}) に対して

lim⁡m→∞(eX/meY/m)m=eX+Y.\lim_{m\to\infty}\bigl(e^{X/m}e^{Y/m}\bigr)^m=e^{X+Y}.
証明(命題 2.2)

eX/meY/m=I+Bme^{X/m}e^{Y/m}=I+B_m と書くと、級数を掛け合わせて Bm=X+Ym+RmB_m=\frac{X+Y}{m}+R_m、∥Rm∥≤C/m2\|R_m\|\le C/m^2(CC は X,YX,Y だけによる定数)です。mm が大きければ ∥Bm∥<1/2\|B_m\|\lt1/2 なので 補題 2.1 の 1 により Zm:=log⁡(I+Bm)Z_m:=\log(I+B_m) が定義され、eZm=eX/meY/me^{Z_m}=e^{X/m}e^{Y/m}、かつ

∥Zm−X+Ym∥≤∥Zm−Bm∥+∥Rm∥≤2∥Bm∥2+Cm2=O(1m2)\Bigl\|Z_m-\frac{X+Y}{m}\Bigr\|\le\|Z_m-B_m\|+\|R_m\|\le2\|B_m\|^2+\frac{C}{m^2}=O\Bigl(\frac1{m^2}\Bigr)

です。よって mZm→X+YmZ_m\to X+Y で、(eX/meY/m)m=emZm(e^{X/m}e^{Y/m})^m=e^{mZ_m}(ZmZ_m は自分自身と可換なので)と exp⁡\exp の連続性から結論を得ます。

定義 3.1(行列 Lie 群とその Lie 環)↗

GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の部分群 GG が GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の中で閉集合であるとき、GG を行列 Lie 群という。GG の Lie 環を

g=Lie⁡(G)={X∈Mn(C):すべての t∈R について etX∈G}\mathfrak{g}=\operatorname{Lie}(G)=\lbrace X\in M_n(\mathbb{C}) : \text{すべての } t\in\mathbb{R} \text{ について } e^{tX}\in G\rbrace

で定める。

「GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の中で閉」であって、Mn(C)M_n(\mathbb{C}) の中で閉である必要はありません。GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) 自身がその例です。

定理 3.2(行列 Lie 群の Lie 環は実 Lie 環)✓

GG を行列 Lie 群とする。

  1. g\mathfrak{g} は Mn(C)M_n(\mathbb{C}) の実部分空間である。
  2. g∈Gg\in G、X∈gX\in\mathfrak{g} ならば gXg−1∈ggXg^{-1}\in\mathfrak{g} である。
  3. X,Y∈gX,Y\in\mathfrak{g} ならば [X,Y]=XY−YX∈g[X,Y]=XY-YX\in\mathfrak{g} である。

すなわち g\mathfrak{g} は交換子を括弧とする実 Lie 環である。

証明(定理 3.2)

1。 X∈gX\in\mathfrak{g}、s∈Rs\in\mathbb{R} なら et(sX)=e(ts)X∈Ge^{t(sX)}=e^{(ts)X}\in G なので sX∈gsX\in\mathfrak{g} です。X,Y∈gX,Y\in\mathfrak{g} なら、命題 2.2 により et(X+Y)=lim⁡m(etX/metY/m)me^{t(X+Y)}=\lim_m(e^{tX/m}e^{tY/m})^m です。右辺の各項は GG の元で、極限 et(X+Y)e^{t(X+Y)} は GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) に属し、GG は GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) で閉なので et(X+Y)∈Ge^{t(X+Y)}\in G です。

2。 et gXg−1=getXg−1∈Ge^{t\,gXg^{-1}}=ge^{tX}g^{-1}\in G です。

3。 X,Y∈gX,Y\in\mathfrak{g} とします。2 から c(t):=etXYe−tX∈gc(t):=e^{tX}Ye^{-tX}\in\mathfrak{g} です。g\mathfrak{g} は有限次元の部分空間なので Mn(C)M_n(\mathbb{C}) で閉であり、cc は滑らかなので、その微分 c′(0)=lim⁡t→0(c(t)−Y)/tc'(0)=\lim_{t\to0}(c(t)-Y)/t も g\mathfrak{g} に入ります。積の微分から c′(0)=XY−YXc'(0)=XY-YX です。

例 3.3(古典群の Lie 環)

次の群はすべて行列 Lie 群です(条件が連続関数の等式なので閉)。それぞれの Lie 環を、定義から求めます。

群定義Lie 環実次元
SL(n,C)SL(n,\mathbb{C})det⁡g=1\det g=1tr⁡X=0\operatorname{tr}X=02(n2−1)2(n^2-1)
U(n)U(n)g∗g=Ig^*g=IX∗=−XX^*=-Xn2n^2
SU(n)SU(n)g∗g=Ig^*g=I, det⁡g=1\det g=1X∗=−XX^*=-X, tr⁡X=0\operatorname{tr}X=0n2−1n^2-1
SO(n)SO(n)g∈Mn(R)g\in M_n(\mathbb{R}), gTg=Ig^{\mathsf T}g=I, det⁡g=1\det g=1X∈Mn(R)X\in M_n(\mathbb{R}), XT=−XX^{\mathsf T}=-Xn(n−1)/2n(n-1)/2
O(1,3)O(1,3)g∈M4(R)g\in M_4(\mathbb{R}), gTηg=ηg^{\mathsf T}\eta g=\etaXTη+ηX=0X^{\mathsf T}\eta+\eta X=066

たとえば U(n)U(n) では、X∗=−XX^*=-X なら (etX)∗=e−tX=(etX)−1(e^{tX})^*=e^{-tX}=(e^{tX})^{-1} です。逆に etX∈U(n)e^{tX}\in U(n) がすべての tt で成り立てば、(etX)∗etX=I(e^{tX})^*e^{tX}=I を t=0t=0 で微分して X∗+X=0X^*+X=0 です。det⁡etX=ettr⁡X\det e^{tX}=e^{t\operatorname{tr}X} から、det⁡=1\det=1 の条件は tr⁡X=0\operatorname{tr}X=0 に対応します(ettr⁡X=1e^{t\operatorname{tr}X}=1 がすべての tt で成り立つことと tr⁡X=0\operatorname{tr}X=0 は同値です)。O(1,3)O(1,3) の η=diag⁡(1,−1,−1,−1)\eta=\operatorname{diag}(1,-1,-1,-1) は Minkowski 計量です。

行列 Lie 群は閉部分群として定義しただけで、多様体であるとはまだ言っていません。それを示すのがこの節の定理です。

補題 4.1(Lie 環に横断的な小さい元は群に入らない)✓

GG を行列 Lie 群、d\mathfrak{d} を Mn(C)=g⊕dM_n(\mathbb{C})=\mathfrak{g}\oplus\mathfrak{d} を満たす実部分空間とする。Yk∈d∖{0}Y_k\in\mathfrak{d}\setminus\lbrace0\rbrace、Yk→0Y_k\to0 である列で、すべての kk について eYk∈Ge^{Y_k}\in G となるものは存在しない。

証明(補題 4.1)

そのような列があったとします。Yk/∥Yk∥Y_k/\|Y_k\| は単位球面上にあるので、部分列をとって Yk/∥Yk∥→YY_k/\|Y_k\|\to Y としてよく、d\mathfrak{d} は閉なので Y∈dY\in\mathfrak{d}、∥Y∥=1\|Y\|=1 です。t∈Rt\in\mathbb{R} を任意にとり、nk=⌊t/∥Yk∥⌋n_k=\lfloor t/\|Y_k\|\rfloor とおくと ∣nk∥Yk∥−t∣≤∥Yk∥→0|n_k\|Y_k\|-t|\le\|Y_k\|\to0 なので

nkYk=nk∥Yk∥⋅Yk∥Yk∥→tYn_kY_k=n_k\|Y_k\|\cdot\frac{Y_k}{\|Y_k\|}\to tY

です。enkYk=(eYk)nk∈Ge^{n_kY_k}=(e^{Y_k})^{n_k}\in G であり、極限 etYe^{tY} は GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の元なので、GG が閉であることから etY∈Ge^{tY}\in G です。tt は任意なので Y∈gY\in\mathfrak{g} となり、Y∈g∩d={0}Y\in\mathfrak{g}\cap\mathfrak{d}=\lbrace0\rbrace が ∥Y∥=1\|Y\|=1 に矛盾します。

定理 4.2(閉部分群定理(行列 Lie 群版))✓

GG を行列 Lie 群、g\mathfrak{g} をその Lie 環とする。このとき 0∈Mn(C)0\in M_n(\mathbb{C}) の開近傍 UU と II の開近傍 VV で、exp⁡ ⁣:U→V\exp\colon U\to V が微分同相であり、かつ

exp⁡(U∩g)=V∩G\exp(U\cap\mathfrak{g})=V\cap G

となるものが存在する。したがって GG は GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の dim⁡Rg\dim_{\mathbb{R}}\mathfrak{g} 次元の埋め込み部分多様体であり、相対位相と誘導される多様体構造について Lie 群で、TIG=gT_IG=\mathfrak{g} である。

証明の方針は次のとおりです。まず GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の座標を、g\mathfrak{g} の方向と、それに横断する方向(補空間 d\mathfrak{d} の方向)に分けます。直前の補題は、d\mathfrak{d} の方向に小さくずれた元が GG に入らないことを言っています。したがって単位元の近くでは、GG は g\mathfrak{g} の方向だけに広がっていて、これが部分多様体の座標になります。

証明(定理 4.2)

局所座標。 補空間 d\mathfrak{d} を 1 つ選び、Φ ⁣:g⊕d→GL(n,C)\Phi\colon\mathfrak{g}\oplus\mathfrak{d}\to GL(n,\mathbb{C})、Φ(X+Y)=eXeY\Phi(X+Y)=e^Xe^Y とおきます。Φ(tX)=I+tX+O(t2)\Phi(tX)=I+tX+O(t^2)、Φ(tY)=I+tY+O(t2)\Phi(tY)=I+tY+O(t^2) なので dΦ0d\Phi_0 は恒等写像で、逆関数定理(定理 2.1[部分多様体と正則値定理])により、00 の近傍で Φ\Phi は微分同相です。同様に exp⁡\exp も 00 の近傍で微分同相です(定理 6.4[リー群とリー環]、あるいは dexp⁡0=idd\exp_0=\mathrm{id} から直接)。

主張: 十分小さい ε>0\varepsilon\gt0 について、∥X∥<ε\|X\|\lt\varepsilon、∥Y∥<ε\|Y\|\lt\varepsilon(X∈gX\in\mathfrak{g}、Y∈dY\in\mathfrak{d})かつ eXeY∈Ge^Xe^Y\in G ならば Y=0Y=0。 そうでなければ、Xk→0X_k\to0、Yk→0Y_k\to0、Yk≠0Y_k\ne0、eXkeYk∈Ge^{X_k}e^{Y_k}\in G となる列があります。eXk∈Ge^{X_k}\in G なので eYk=e−Xk(eXkeYk)∈Ge^{Y_k}=e^{-X_k}(e^{X_k}e^{Y_k})\in G となり、補題 4.1 に矛盾します。

スライスチャート。 ε\varepsilon を、B={X+Y:∥X∥,∥Y∥<ε}B=\lbrace X+Y : \|X\|,\|Y\|\lt\varepsilon\rbrace 上で Φ\Phi が微分同相になるようにさらに小さくとり、W=Φ(B)W=\Phi(B) とします。主張から

W∩G=Φ(B∩g)={eX:X∈g, ∥X∥<ε}W\cap G=\Phi(B\cap\mathfrak{g})=\lbrace e^X : X\in\mathfrak{g},\ \|X\|\lt\varepsilon\rbrace

です(右辺が GG に含まれるのは g\mathfrak{g} の定義によります)。したがって Φ−1\Phi^{-1} を g⊕d≅Rk×R2n2−k\mathfrak{g}\oplus\mathfrak{d}\cong\mathbb{R}^k\times\mathbb{R}^{2n^2-k} への座標とみなすと、II における GG のスライスチャートになります(定義 4.1[部分多様体と正則値定理])。g∈Gg\in G では、左移動 Lg(h)=ghL_g(h)=gh が GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) の微分同相で GG を GG に写すので、Φ−1∘Lg−1\Phi^{-1}\circ L_g^{-1} が gg のスライスチャートです。よって GG は埋め込み部分多様体です(命題 4.2[部分多様体と正則値定理])。

Lie 群であること。 積と逆元は GL(n,C)GL(n,\mathbb{C}) 上の滑らかな写像の制限で、値は GG に入ります。スライスチャートで見ると、G×GG\times G のチャート表示は「GLGL 上の滑らかな写像を Rk×{0}\mathbb{R}^k\times\lbrace0\rbrace に制限し、最初の kk 成分をとる」写像なので滑らかです。

exp⁡\exp について。 U={∥Z∥<ε′}U=\lbrace\|Z\|\lt\varepsilon'\rbrace を、exp⁡∣U\exp|_U が微分同相かつ exp⁡(U)⊂W\exp(U)\subset W となるようにとり、V=exp⁡(U)V=\exp(U) とします。X∈U∩gX\in U\cap\mathfrak{g} なら eX∈V∩Ge^X\in V\cap G です。逆に g∈V∩Gg\in V\cap G なら、上の記述から g=eX′g=e^{X'}(X′∈gX'\in\mathfrak{g}、∥X′∥<ε\|X'\|\lt\varepsilon)であり、一方 g=eZg=e^Z(Z∈UZ\in U)とも書けます。ε,ε′<12log⁡2\varepsilon,\varepsilon'\lt\frac12\log2 にとっておけば、補題 2.1 の 2 により X′=log⁡g=ZX'=\log g=Z なので Z∈gZ\in\mathfrak{g} です。

接空間。 X∈gX\in\mathfrak{g} に対し曲線 t↦etXt\mapsto e^{tX} は GG 内にあり速度 XX をもつので g⊂TIG\mathfrak{g}\subset T_IG で、両者の次元は k=dim⁡Rgk=\dim_{\mathbb{R}}\mathfrak{g} で等しいので一致します。

この定理により、リー群とリー環 の意味での Lie 環 TIGT_IG と、定義 3.1 の g\mathfrak{g} が同じものだとわかります。行列 Lie 群の指数写像が行列指数関数であることは 定理 6.2[リー群とリー環] のとおりです。

注意 4.3(閉性を落とすと何が壊れるか)

α\alpha を無理数として、トーラス T2={diag⁡(eiθ,eiϕ)}T^2=\lbrace\operatorname{diag}(e^{i\theta},e^{i\phi})\rbrace の部分群 H={diag⁡(eit,eiαt):t∈R}H=\lbrace\operatorname{diag}(e^{it},e^{i\alpha t}) : t\in\mathbb{R}\rbrace を考えます。HH は T2T^2 で稠密ですが T2T^2 全体ではないので閉ではありません。定義どおり {X:etX∈H ∀t}\lbrace X : e^{tX}\in H\ \forall t\rbrace を計算すると R diag⁡(i,iα)\mathbb{R}\,\operatorname{diag}(i,i\alpha) で 1 次元ですが、HH の II の近くには、tt が大きいところから戻ってくる点が無数にあり、どんな近傍 VV でも V∩HV\cap H は 1 本の曲線になりません。HH は相対位相では多様体ではありません(演習で確かめます)。

閉部分群定理のもっとも重要な帰結は、連続性から滑らかさが出ることです。

補題 4.4(連続な 1 径数部分群)✓

A ⁣:R→GL(n,C)A\colon\mathbb{R}\to GL(n,\mathbb{C}) が連続な群準同型ならば、ただ 1 つの Y∈Mn(C)Y\in M_n(\mathbb{C}) があって A(t)=etYA(t)=e^{tY} である。

証明(補題 4.4)

r=14log⁡2r=\frac14\log2 とし、∥eZ−I∥<1\|e^Z-I\|\lt1 かつ log⁡\log が exp⁡\exp の逆になる範囲を使います。連続性から t0>0t_0\gt0 を、∣t∣≤t0|t|\le t_0 で ∥A(t)−I∥\|A(t)-I\| が十分小さく ∥log⁡A(t)∥<r\|\log A(t)\|\lt r となるようにとります。W=log⁡A(t0/2)W=\log A(t_0/2) とおくと e2W=A(t0/2)2=A(t0)e^{2W}=A(t_0/2)^2=A(t_0) で、∥2W∥<2r<log⁡2\|2W\|\lt2r\lt\log2 なので 補題 2.1 の 2 から 2W=log⁡A(t0)2W=\log A(t_0) です。これを繰り返すと log⁡A(t0/2k)=2−klog⁡A(t0)\log A(t_0/2^k)=2^{-k}\log A(t_0) です。Y=t0−1log⁡A(t0)Y=t_0^{-1}\log A(t_0) とおくと、整数 mm について A(mt0/2k)=A(t0/2k)m=emt0Y/2kA(mt_0/2^k)=A(t_0/2^k)^m=e^{mt_0Y/2^k} となり、A(t)=etYA(t)=e^{tY} が 2 進有理数 t/t0t/t_0 で成り立ちます。両辺は連続なので、すべての tt で成り立ちます。Y=A′(0)Y=A'(0) なので YY は一意です。

定理 5.1(連続準同型は Lie 環の準同型を誘導する)✓

G,HG,H を行列 Lie 群、Φ ⁣:G→H\Phi\colon G\to H を連続な群準同型とする。このとき実線形写像 φ ⁣:g→h\varphi\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{h} がただ 1 つ存在して、すべての X∈gX\in\mathfrak{g} について

Φ(eX)=eφ(X)\Phi(e^X)=e^{\varphi(X)}

が成り立つ。さらに

  1. φ([X,Y])=[φ(X),φ(Y)]\varphi([X,Y])=[\varphi(X),\varphi(Y)](Lie 環の準同型)、
  2. φ(gXg−1)=Φ(g)φ(X)Φ(g)−1\varphi(gXg^{-1})=\Phi(g)\varphi(X)\Phi(g)^{-1}(g∈Gg\in G)、
  3. Φ\Phi は滑らかで、dΦI=φd\Phi_I=\varphi

が成り立つ。φ\varphi を Φ\Phi の微分と呼び、dΦd\Phi と書く。

証明(定理 5.1)

φ\varphi の構成。 X∈gX\in\mathfrak{g} に対し t↦Φ(etX)t\mapsto\Phi(e^{tX}) は R\mathbb{R} から GLGL への連続準同型なので、補題 4.4 によりただ 1 つの YY で Φ(etX)=etY\Phi(e^{tX})=e^{tY} と書けます。etY∈He^{tY}\in H なので Y∈hY\in\mathfrak{h} です。φ(X)=Y\varphi(X)=Y と定めます。一意性は φ(X)=ddt∣t=0Φ(etX)\varphi(X)=\frac{d}{dt}\big|_{t=0}\Phi(e^{tX}) から明らかです。

線形性。 φ(sX)=sφ(X)\varphi(sX)=s\varphi(X) は定義から従います。加法性は 命題 2.2 と Φ\Phi の連続性から

Φ(et(X+Y))=lim⁡mΦ(etX/metY/m)m=lim⁡m(etφ(X)/metφ(Y)/m)m=et(φ(X)+φ(Y))\Phi(e^{t(X+Y)})=\lim_m\Phi\bigl(e^{tX/m}e^{tY/m}\bigr)^m=\lim_m\bigl(e^{t\varphi(X)/m}e^{t\varphi(Y)/m}\bigr)^m=e^{t(\varphi(X)+\varphi(Y))}

となり、一意性から φ(X+Y)=φ(X)+φ(Y)\varphi(X+Y)=\varphi(X)+\varphi(Y) です。

2。 Φ(et gXg−1)=Φ(getXg−1)=Φ(g)etφ(X)Φ(g)−1=et Φ(g)φ(X)Φ(g)−1\Phi(e^{t\,gXg^{-1}})=\Phi(ge^{tX}g^{-1})=\Phi(g)e^{t\varphi(X)}\Phi(g)^{-1}=e^{t\,\Phi(g)\varphi(X)\Phi(g)^{-1}} です。

1。 2 で g=esXg=e^{sX} とおくと φ(esXYe−sX)=esφ(X)φ(Y)e−sφ(X)\varphi(e^{sX}Ye^{-sX})=e^{s\varphi(X)}\varphi(Y)e^{-s\varphi(X)} です。φ\varphi は有限次元空間の線形写像なので連続であり、両辺を s=0s=0 で微分すると φ([X,Y])=[φ(X),φ(Y)]\varphi([X,Y])=[\varphi(X),\varphi(Y)] を得ます。

3。 g∈Gg\in G のまわりでは、定理 4.2 により X↦geXX\mapsto ge^X(X∈U∩gX\in U\cap\mathfrak{g})が GG の局所座標を与え、このとき Φ(geX)=Φ(g)eφ(X)\Phi(ge^X)=\Phi(g)e^{\varphi(X)} は XX の滑らかな関数です。dΦI=φd\Phi_I=\varphi は φ\varphi の定義そのものです。

系 5.2

GG が連結ならば、連続準同型 Φ ⁣:G→H\Phi\colon G\to H は微分 φ\varphi によって一意に決まる。

証明(系 5.2)

連結 Lie 群は exp⁡(g)\exp(\mathfrak{g}) で生成されます(系 6.5[リー群とリー環])。Φ(eX1⋯eXk)=eφ(X1)⋯eφ(Xk)\Phi(e^{X_1}\cdots e^{X_k})=e^{\varphi(X_1)}\cdots e^{\varphi(X_k)} なので、Φ\Phi は φ\varphi で決まります。

補題 5.3(随伴表現の微分は ad)✓

行列 X,YX,Y について ddt∣t=0etXYe−tX=[X,Y]\frac{d}{dt}\big|_{t=0}e^{tX}Ye^{-tX}=[X,Y] であり、eXYe−X=ead⁡XY=Y+[X,Y]+12![X,[X,Y]]+⋯e^XYe^{-X}=e^{\operatorname{ad}X}Y=Y+[X,Y]+\frac1{2!}[X,[X,Y]]+\cdots が成り立つ。ここで ad⁡X=[X,⋅ ]\operatorname{ad}X=[X,\cdot\,] である。

証明(補題 5.3)

F(t)=etXYe−tXF(t)=e^{tX}Ye^{-tX} は tt について微分可能で、積の微分から F′(t)=XetXYe−tX−etXYe−tXX=[X,F(t)]=(ad⁡X)F(t)F'(t)=Xe^{tX}Ye^{-tX}-e^{tX}Ye^{-tX}X=[X,F(t)]=(\operatorname{ad}X)F(t) です。t=0t=0 で F′(0)=[X,Y]F'(0)=[X,Y] が第 1 式です。FF は行列空間上の線形な微分方程式 F′=(ad⁡X)FF'=(\operatorname{ad}X)F、F(0)=YF(0)=Y の解で、この方程式の解は一意(G(t)=e−tad⁡XF(t)G(t)=e^{-t\operatorname{ad}X}F(t) とおくと G′=0G'=0)なので F(t)=etad⁡XYF(t)=e^{t\operatorname{ad}X}Y です。t=1t=1 とおけば第 2 式を得ます。

例 5.4(随伴表現の微分は ad)

Ad⁡ ⁣:G→GL(g)\operatorname{Ad}\colon G\to GL(\mathfrak{g})、Ad⁡(g)X=gXg−1\operatorname{Ad}(g)X=gXg^{-1} は連続準同型です。ddt∣t=0etXYe−tX=[X,Y]\frac{d}{dt}\big|_{t=0}e^{tX}Ye^{-tX}=[X,Y] なので、その微分は ad⁡X=[X,⋅ ]\operatorname{ad}X=[X,\cdot\,] です。定理 5.1 の等式 Φ(eX)=eφ(X)\Phi(e^X)=e^{\varphi(X)} は、この場合

eXYe−X=ead⁡XY=Y+[X,Y]+12![X,[X,Y]]+⋯e^XYe^{-X}=e^{\operatorname{ad}X}Y=Y+[X,Y]+\frac1{2!}[X,[X,Y]]+\cdots

となります。この式は以下で何度も使います。

eXeY=eZe^Xe^Y=e^Z となる ZZ を、X,YX,Y の括弧だけで書くのがこの節の目標です。鍵は次の補題です。

補題 6.1(指数写像の微分公式)✓

X(t)X(t) を Mn(C)M_n(\mathbb{C}) に値をとる滑らかな曲線とすると

e−X(t)ddteX(t)=I−e−ad⁡X(t)ad⁡X(t)(X′(t)):=∑k≥0(−1)k(k+1)!(ad⁡X(t))k(X′(t)).e^{-X(t)}\frac{d}{dt}e^{X(t)}=\frac{I-e^{-\operatorname{ad}X(t)}}{\operatorname{ad}X(t)}\bigl(X'(t)\bigr):=\sum_{k\ge0}\frac{(-1)^k}{(k+1)!}\bigl(\operatorname{ad}X(t)\bigr)^k\bigl(X'(t)\bigr).
証明(補題 6.1)

tt を固定し、Y(s)=e−sX(t) ∂t(esX(t))Y(s)=e^{-sX(t)}\,\partial_t\bigl(e^{sX(t)}\bigr) とおきます(esX(t)e^{sX(t)} は (s,t)(s,t) の滑らかな関数なので偏微分の順序は交換できます)。∂t(XesX)=X′esX+X∂tesX\partial_t(Xe^{sX})=X'e^{sX}+X\partial_te^{sX} と、XX が e±sXe^{\pm sX} と可換であることを使うと

∂sY=−Xe−sX∂tesX+e−sX∂t(XesX)=−XY+e−sXX′esX+XY=e−sad⁡X(X′)\partial_sY=-Xe^{-sX}\partial_te^{sX}+e^{-sX}\partial_t\bigl(Xe^{sX}\bigr)=-XY+e^{-sX}X'e^{sX}+XY=e^{-s\operatorname{ad}X}(X')

です(最後に 補題 5.3 を使いました)。Y(0)=0Y(0)=0 なので

Y(1)=∫01e−sad⁡X(X′) ds=∑k≥0(−1)kk!∫01sk ds (ad⁡X)k(X′)Y(1)=\int_0^1e^{-s\operatorname{ad}X}(X')\,ds=\sum_{k\ge0}\frac{(-1)^k}{k!}\int_0^1s^k\,ds\,(\operatorname{ad}X)^k(X')

で、これが主張の式です(級数は ad⁡X\operatorname{ad}X について絶対収束するので項別積分できます)。

ad⁡X\operatorname{ad}X は Mn(C)M_n(\mathbb{C}) 上の線形作用素で、∥ad⁡X∥≤2∥X∥\|\operatorname{ad}X\|\le2\|X\| です(∥XY−YX∥≤2∥X∥∥Y∥\|XY-YX\|\le2\|X\|\|Y\|)。関数

ψ(w)=wlog⁡ww−1=1+∑m≥1(−1)m+1m(m+1)(w−1)m(∣w−1∣<1)\psi(w)=\frac{w\log w}{w-1}=1+\sum_{m\ge1}\frac{(-1)^{m+1}}{m(m+1)}(w-1)^m\qquad(|w-1|\lt1)

を導入します。右辺は wlog⁡w=(1+u)log⁡(1+u)w\log w=(1+u)\log(1+u)(u=w−1u=w-1)を展開して uu で割れば得られます。

定理 6.2(BCH 公式(積分表示と収束域))✓

X,Y∈Mn(C)X,Y\in M_n(\mathbb{C}) が ∥X∥+∥Y∥<14\|X\|+\|Y\|\lt\frac14 を満たすとき、Z=log⁡(eXeY)Z=\log(e^Xe^Y) が定義されて eZ=eXeYe^Z=e^Xe^Y であり、

Z=X+∫01ψ(ead⁡Xetad⁡Y)(Y) dtZ=X+\int_0^1\psi\bigl(e^{\operatorname{ad}X}e^{t\operatorname{ad}Y}\bigr)(Y)\,dt

が成り立つ。右辺の ψ(⋯ )\psi(\cdots) を冪級数で展開し、さらに ead⁡Xetad⁡Ye^{\operatorname{ad}X}e^{t\operatorname{ad}Y} を展開して得られる X,YX,Y の反復交換子の級数は絶対収束し、その最初の項は

Z=X+Y+12[X,Y]+112[X,[X,Y]]−112[Y,[X,Y]]+(4 次以上の反復交換子)Z=X+Y+\frac12[X,Y]+\frac1{12}[X,[X,Y]]-\frac1{12}[Y,[X,Y]]+(\text{4 次以上の反復交換子})

である。特に ZZ は X,YX,Y が生成する Lie 部分環に属する。

証明(定理 6.2)

定義域。 r=∥X∥+∥Y∥<14r=\|X\|+\|Y\|\lt\frac14 とおきます。t∈[0,1]t\in[0,1] に対し ∥eXetY−I∥≤er−1<1\|e^Xe^{tY}-I\|\le e^{r}-1\lt1 なので、Z(t)=log⁡(eXetY)Z(t)=\log(e^Xe^{tY}) が定義され、補題 2.1 の 1 により eZ(t)=eXetYe^{Z(t)}=e^Xe^{tY}、∥Z(t)∥≤−log⁡(2−er)\|Z(t)\|\le-\log(2-e^r) です。e1/4≈1.284<2−2−1/2≈1.293e^{1/4}\approx1.284\lt2-2^{-1/2}\approx1.293 なので ∥Z(t)∥<12log⁡2\|Z(t)\|\lt\frac12\log2、したがって ∥ad⁡Z(t)∥<log⁡2\|\operatorname{ad}Z(t)\|\lt\log2 です。

微分方程式。 eZ(t)=eXetYe^{Z(t)}=e^Xe^{tY} を微分すると e−ZddteZ=e−tYe−XeXetYY=Ye^{-Z}\frac{d}{dt}e^{Z}=e^{-tY}e^{-X}e^Xe^{tY}Y=Y なので、補題 6.1 から

I−e−ad⁡Zad⁡Z(Z′(t))=Y.\frac{I-e^{-\operatorname{ad}Z}}{\operatorname{ad}Z}\bigl(Z'(t)\bigr)=Y .

一方、補題 5.3 の式を Ad⁡\operatorname{Ad} に使うと ead⁡Z(t)=Ad⁡(eZ(t))=Ad⁡(eX)Ad⁡(etY)=ead⁡Xetad⁡Y=:w(t)e^{\operatorname{ad}Z(t)}=\operatorname{Ad}(e^{Z(t)})=\operatorname{Ad}(e^X)\operatorname{Ad}(e^{tY})=e^{\operatorname{ad}X}e^{t\operatorname{ad}Y}=:w(t) です。∥w(t)−I∥≤e2r−1<1\|w(t)-I\|\le e^{2r}-1\lt1 で、∥ad⁡Z∥<log⁡2\|\operatorname{ad}Z\|\lt\log2 なので 補題 2.1 の 2 を Mn(C)M_n(\mathbb{C}) 上の作用素に適用して ad⁡Z(t)=log⁡w(t)\operatorname{ad}Z(t)=\log w(t) です。

逆に解く。 冪級数 f(z)=(1−e−z)/zf(z)=(1-e^{-z})/z と g(w)=wlog⁡w/(w−1)g(w)=w\log w/(w-1) は、w=ezw=e^z のとき f(z) g(ez)=1f(z)\,g(e^z)=1 を満たします(ez⋅z⋅(1−e−z)/((ez−1)z)=1e^z\cdot z\cdot(1-e^{-z})/((e^z-1)z)=1)。補題 2.1 の証明と同じ「絶対収束する級数の並べ替え(定理 7.11[級数と収束判定])と冪級数の一意性」の議論により、作用素についても f(ad⁡Z) ψ(ead⁡Z)=If(\operatorname{ad}Z)\,\psi(e^{\operatorname{ad}Z})=I が成り立ちます。よって

Z′(t)=ψ(ead⁡Z(t))(Y)=ψ(ead⁡Xetad⁡Y)(Y)Z'(t)=\psi\bigl(e^{\operatorname{ad}Z(t)}\bigr)(Y)=\psi\bigl(e^{\operatorname{ad}X}e^{t\operatorname{ad}Y}\bigr)(Y)

で、Z(0)=log⁡eX=XZ(0)=\log e^X=X と合わせて積分すれば積分表示を得ます。

級数の絶対収束。 w(t)−I=∑(p,q)≠(0,0)tqp!q!(ad⁡X)p(ad⁡Y)qw(t)-I=\sum_{(p,q)\ne(0,0)}\frac{t^q}{p!q!}(\operatorname{ad}X)^p(\operatorname{ad}Y)^q で、この展開の各項のノルムの和は e2r−1<1e^{2r}-1\lt1 以下です。ψ(w)=1+∑mcm(w−1)m\psi(w)=1+\sum_m c_m(w-1)^m、∣cm∣≤1|c_m|\le1 なので、全部を展開した級数のノルムの和は ∥Y∥∑m(e2r−1)m<∞\|Y\|\sum_m(e^{2r}-1)^m\lt\infty で抑えられます。展開した各項は (ad⁡X)p1(ad⁡Y)q1⋯(Y)(\operatorname{ad}X)^{p_1}(\operatorname{ad}Y)^{q_1}\cdots(Y) の形の反復交換子です。有限次元空間の部分空間は閉なので、ZZ は X,YX,Y が生成する Lie 部分環に入ります。

低次の項。 (ad⁡Y)(Y)=0(\operatorname{ad}Y)(Y)=0 に注意して、3 次までを拾います。ψ(w)=1+12(w−1)−16(w−1)2+⋯\psi(w)=1+\frac12(w-1)-\frac16(w-1)^2+\cdots、w−1=ad⁡X+tad⁡Y+12(ad⁡X)2+tad⁡Xad⁡Y+t22(ad⁡Y)2+⋯w-1=\operatorname{ad}X+t\operatorname{ad}Y+\frac12(\operatorname{ad}X)^2+t\operatorname{ad}X\operatorname{ad}Y+\frac{t^2}2(\operatorname{ad}Y)^2+\cdots です。

  • 1 次: ∫01Y dt=Y\int_0^1Y\,dt=Y。
  • 2 次: 12∫01[X,Y] dt=12[X,Y]\frac12\int_0^1[X,Y]\,dt=\frac12[X,Y]。
  • 3 次: 12⋅12[X,[X,Y]]−16∫01([X,[X,Y]]+t[Y,[X,Y]])dt=112[X,[X,Y]]−112[Y,[X,Y]]\frac12\cdot\frac12[X,[X,Y]]-\frac16\int_0^1\bigl([X,[X,Y]]+t[Y,[X,Y]]\bigr)dt=\frac1{12}[X,[X,Y]]-\frac1{12}[Y,[X,Y]]。

XX を足して主張の展開を得ます。

例 6.3(Heisenberg 群では BCH 公式が 2 次で終わる)

X=(0ac00b000)X=\begin{pmatrix}0&a&c\\0&0&b\\0&0&0\end{pmatrix} の形の行列全体 n\mathfrak{n} では、[X,Y][X,Y] は右上の成分だけをもち、[X,[X,Y]]=[Y,[X,Y]]=0[X,[X,Y]]=[Y,[X,Y]]=0 です。よって 3 次以上の反復交換子はすべて 00 で、eXeY=eX+Y+12[X,Y]e^Xe^Y=e^{X+Y+\frac12[X,Y]} がノルムの制限なしに成り立ちます(両辺は成分の多項式なので、小さい X,YX,Y で一致すればすべてで一致します)。量子力学の正準交換関係 [x^,p^]=iℏ[\hat x,\hat p]=i\hbar から得られる Weyl 関係 eiαx^eiβp^=eiαx^+iβp^e−iαβℏ/2e^{i\alpha\hat x}e^{i\beta\hat p}=e^{i\alpha\hat x+i\beta\hat p}e^{-i\alpha\beta\hbar/2} は、この式の無限次元版です。

BCH 公式は「群の積が、単位元の近くでは Lie 環の括弧だけで決まる」ことを言っています。これを使うと、Lie 環の準同型から群の準同型を作れます。

定理 7.1(単連結な群への持ち上げ(Lie の第 2 定理))✓

G,HG,H を行列 Lie 群とし、GG は連結かつ単連結とする。任意の Lie 環準同型 φ ⁣:g→h\varphi\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{h} に対し、dΦ=φd\Phi=\varphi を満たす連続(したがって滑らかな)群準同型 Φ ⁣:G→H\Phi\colon G\to H がただ 1 つ存在する。

証明の方針は次のとおりです。単位元の近くでは BCH 公式のおかげで、φ\varphi から局所的な準同型 ff が作れます。GG 全体では、II から gg への道を細かく区切り、各区間の変化に ff を当てて掛け合わせます。この値が道の選び方によらないことを示すところで、単連結性(道が互いに変形できること)を使います。

証明(定理 7.1)

一意性は 系 5.2 です。存在を 4 段階で示します。

(a) 局所準同型。 φ\varphi は線形なので ∥φ(X)∥≤C∥X∥\|\varphi(X)\|\le C\|X\| となる C≥1C\ge1 があります。δ>0\delta\gt0 を 4Cδ<144C\delta\lt\frac14 かつ δ<18\delta\lt\frac18 ととり、さらに 定理 4.2 の近傍に収まるように小さくします。Uδ={X∈g:∥X∥<δ}U_\delta=\lbrace X\in\mathfrak{g} : \|X\|\lt\delta\rbrace、Vδ=exp⁡(Uδ)V_\delta=\exp(U_\delta) とおき、f ⁣:Vδ→Hf\colon V_\delta\to H を f(eX)=eφ(X)f(e^X)=e^{\varphi(X)} で定めます(補題 2.1 により X=log⁡gX=\log g は一意)。X,Y∈UδX,Y\in U_{\delta} で eXeY∈Vδe^Xe^Y\in V_\delta のとき、Z=log⁡(eXeY)Z=\log(e^Xe^Y) は 定理 6.2 の反復交換子の級数で与えられ、φ\varphi は連続な Lie 環準同型なので項ごとに φ\varphi をかけて φ(Z)=log⁡(eφ(X)eφ(Y))\varphi(Z)=\log(e^{\varphi(X)}e^{\varphi(Y)}) を得ます(右辺も ∥φX∥+∥φY∥<14\|\varphi X\|+\|\varphi Y\|\lt\frac14 なので BCH 級数で与えられます)。よって

f(ab)=f(a)f(b)(a,b∈Vδ, ab∈Vδ)f(ab)=f(a)f(b)\qquad(a,b\in V_\delta,\ ab\in V_\delta)

です。f(a−1)=f(a)−1f(a^{-1})=f(a)^{-1} も e−Xe^{-X} を考えればわかります。

(b) 道に沿った定義。 以下 V=Vδ/2V=V_{\delta/2} とおきます。GG は連結な多様体なので弧状連結です。g∈Gg\in G と、II から gg への道 γ ⁣:[0,1]→G\gamma\colon[0,1]\to G をとります。[0,1][0,1] はコンパクトなので、分割 0=t0<t1<⋯<tm=10=t_0\lt t_1\lt\cdots\lt t_m=1 を、∣s−s′∣≤max⁡j(tj−tj−1)|s-s'|\le\max_j(t_j-t_{j-1}) ならば γ(s)−1γ(s′)∈V\gamma(s)^{-1}\gamma(s')\in V となるようにとれます(γ(s)−1γ(s′)\gamma(s)^{-1}\gamma(s') の一様連続性)。このとき

Φγ(g)=f(γ(t0)−1γ(t1))f(γ(t1)−1γ(t2))⋯f(γ(tm−1)−1γ(tm))\Phi_\gamma(g)=f\bigl(\gamma(t_0)^{-1}\gamma(t_1)\bigr)f\bigl(\gamma(t_1)^{-1}\gamma(t_2)\bigr)\cdots f\bigl(\gamma(t_{m-1})^{-1}\gamma(t_m)\bigr)

と定めます。分割に 1 点 s∈(tj−1,tj)s\in(t_{j-1},t_j) を追加しても値は変わりません。a=γ(tj−1)−1γ(s)a=\gamma(t_{j-1})^{-1}\gamma(s)、b=γ(s)−1γ(tj)b=\gamma(s)^{-1}\gamma(t_j) はともに VV に入り、ab∈Vab\in V なので (a) から f(a)f(b)=f(ab)f(a)f(b)=f(ab) だからです。2 つの分割は共通の細分をもつので、Φγ(g)\Phi_\gamma(g) は分割によりません。

(c) 道によらないこと。 γ0,γ1\gamma_0,\gamma_1 を II から gg への 2 本の道とすると、GG は単連結なので端点を固定したホモトピー F ⁣:[0,1]2→GF\colon[0,1]^2\to G、F(⋅,0)=γ0F(\cdot,0)=\gamma_0、F(⋅,1)=γ1F(\cdot,1)=\gamma_1 があります。一様連続性から NN を、辺の長さ 1/N1/N の正方形の中の任意の 2 点 p,qp,q について F(p)−1F(q)∈VF(p)^{-1}F(q)\in V となるようにとります。γ0\gamma_0 から出発し、格子の小正方形を 1 つずつ越えて道を変形していくと、各段階で道は「小正方形の 2 辺」を「残りの 2 辺」に置き換えるだけです。正方形の頂点を p0,p1,p2,p3p_0,p_1,p_2,p_3 とすると、(a) により

f(F(p0)−1F(p1))f(F(p1)−1F(p2))=f(F(p0)−1F(p2))=f(F(p0)−1F(p3))f(F(p3)−1F(p2))f\bigl(F(p_0)^{-1}F(p_1)\bigr)f\bigl(F(p_1)^{-1}F(p_2)\bigr)=f\bigl(F(p_0)^{-1}F(p_2)\bigr)=f\bigl(F(p_0)^{-1}F(p_3)\bigr)f\bigl(F(p_3)^{-1}F(p_2)\bigr)

なので値は変わりません(現れる 3 つの元 F(p0)−1F(p1)F(p_0)^{-1}F(p_1)、F(p1)−1F(p2)F(p_1)^{-1}F(p_2)、F(p0)−1F(p2)F(p_0)^{-1}F(p_2) はどれも V⊂VδV\subset V_\delta に入るので、(a) が使えます)。正方形の辺 s=0s=0、s=1s=1 上では FF は定数 II、gg で f(I)=If(I)=I なので寄与しません。N2N^2 回で γ1\gamma_1 に到達するので Φγ0(g)=Φγ1(g)\Phi_{\gamma_0}(g)=\Phi_{\gamma_1}(g) です。これを Φ(g)\Phi(g) と書きます。

(d) 準同型であること。 γ\gamma を II から gg、η\eta を II から hh への道とすると、γ\gamma のあとに gηg\eta をつないだ道は II から ghgh への道で、(gη(s))−1gη(s′)=η(s)−1η(s′)(g\eta(s))^{-1}g\eta(s')=\eta(s)^{-1}\eta(s') なので Φ(gh)=Φ(g)Φ(h)\Phi(gh)=\Phi(g)\Phi(h) です。g∈Vg\in V なら直線的な道 s↦eslog⁡gs\mapsto e^{s\log g} を使って Φ(g)=f(g)\Phi(g)=f(g) なので、Φ\Phi は II の近くで連続、したがって準同型であることから至るところ連続です。Φ(etX)=etφ(X)\Phi(e^{tX})=e^{t\varphi(X)}(tt が小さいとき)から dΦ=φd\Phi=\varphi です。

注意 7.2(Lie の第 1・第 3 定理について)

リー群とリー環 の 注意 7.2[リー群とリー環] に挙げた 3 つの定理のうち、この記事で証明したのは第 2 定理(定理 7.1)です。第 1 定理(部分 Lie 環と連結 Lie 部分群の対応)は、左不変な分布に Frobenius の定理(定理 6.2[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理])を適用し、極大積分多様体を構成して示します。第 3 定理は、有限次元 Lie 環が忠実な有限次元表現をもつこと(Ado の定理)に帰着します。このテーマの後続の章では、第 2 定理と閉部分群定理だけを使います。

単連結性の仮定は外せません。次の節で見るように SO(3)SO(3) は単連結ではなく、Lie 環の同型 so(3)→su(2)\mathfrak{so}(3)\to\mathfrak{su}(2) は SO(3)→SU(2)SO(3)\to SU(2) の準同型には持ち上がりません(演習 3)。

8. 被覆準同型:SU(2)→SO(3) と Spin(n)→SO(n)

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補題 8.1(微分が同型な全射準同型は被覆写像)✓

p ⁣:G→Hp\colon G\to H を行列 Lie 群の連続な全射準同型とし、微分 dp ⁣:g→hdp\colon\mathfrak{g}\to\mathfrak{h} が線形同型であるとする。このとき K=ker⁡pK=\ker p は離散的な正規部分群であり、pp は被覆写像(定義 3.1[基本群と被覆空間])で、各点の逆像は KK の剰余類である。

証明(補題 8.1)

φ=dp\varphi=dp とおきます。定理 4.2 の近傍を GG と HH の両方でとり、U⊂gU\subset\mathfrak{g} を十分小さい 00 の開近傍として VG=exp⁡(U)V_G=\exp(U)、VH=exp⁡(φ(U))V_H=\exp(\varphi(U)) とします。φ(U)\varphi(U) は h\mathfrak{h} の開集合なので VHV_H は HH の開集合で、p(eX)=eφ(X)p(e^X)=e^{\varphi(X)} により p∣VG ⁣:VG→VHp|_{V_G}\colon V_G\to V_H は全単射、逆写像 eY↦eφ−1(Y)e^Y\mapsto e^{\varphi^{-1}(Y)} も連続です。特に K∩VG={I}K\cap V_G=\lbrace I\rbrace で、KK は離散です。

II の開近傍 WW を、W=W−1W=W^{-1} かつ WW⊂VGWW\subset V_G となるようにとります。h∈Hh\in H に対し p(g)=hp(g)=h となる gg をとると、hp(W)hp(W) は hh の開近傍で

p−1(hp(W))=⨆k∈KgkWp^{-1}\bigl(hp(W)\bigr)=\bigsqcup_{k\in K}gkW

です。実際、p(x)=hp(w)p(x)=hp(w) なら k:=g−1xw−1∈Kk:=g^{-1}xw^{-1}\in K で x=gkwx=gkw です。また gkw=gk′w′gkw=gk'w' なら k′−1k=w′w−1∈WW∩K={I}k'^{-1}k=w'w^{-1}\in WW\cap K=\lbrace I\rbrace なので和は互いに素です。各 gkWgkW 上で p(x)=h p((gk)−1x)p(x)=h\,p\bigl((gk)^{-1}x\bigr) は、同相写像 p∣W ⁣:W→p(W)p|_W\colon W\to p(W) を左移動ではさんだものなので、gkW→hp(W)gkW\to hp(W) は同相です。

su(2)\mathfrak{su}(2) の基底 Ek=−i2σkE_k=-\frac{i}{2}\sigma_k(σk\sigma_k は Pauli 行列)をとると、σ1σ2=iσ3\sigma_1\sigma_2=i\sigma_3 などから

[E1,E2]=E3,[E2,E3]=E1,[E3,E1]=E2,tr⁡(EjEk)=−12δjk[E_1,E_2]=E_3,\qquad[E_2,E_3]=E_1,\qquad[E_3,E_1]=E_2,\qquad\operatorname{tr}(E_jE_k)=-\tfrac12\delta_{jk}

です。内積 ⟨X,Y⟩=−2tr⁡(XY)\langle X,Y\rangle=-2\operatorname{tr}(XY) で E1,E2,E3E_1,E_2,E_3 は正規直交基底になり、su(2)≅R3\mathfrak{su}(2)\cong\mathbb{R}^3 と同一視できます。

定理 8.2(SU(2) は SO(3) の普遍被覆)✓

Ad⁡ ⁣:SU(2)→GL(su(2))≅GL(3,R)\operatorname{Ad}\colon SU(2)\to GL(\mathfrak{su}(2))\cong GL(3,\mathbb{R}) は SO(3)SO(3) への連続な全射準同型で、核は {±I}\lbrace\pm I\rbrace、被覆写像である。SU(2)SU(2) は単連結なので、これは普遍被覆であり、π1(SO(3))≅Z/2\pi_1(SO(3))\cong\mathbb{Z}/2 である。

証明(定理 8.2)

像は SO(3)SO(3)。 ⟨gXg−1,gYg−1⟩=−2tr⁡(gXYg−1)=⟨X,Y⟩\langle gXg^{-1},gYg^{-1}\rangle=-2\operatorname{tr}(gXYg^{-1})=\langle X,Y\rangle なので Ad⁡(g)∈O(3)\operatorname{Ad}(g)\in O(3) です。SU(2)={(a−bˉbaˉ):∣a∣2+∣b∣2=1}SU(2)=\Bigl\{\begin{pmatrix}a&-\bar b\\ b&\bar a\end{pmatrix}:|a|^2+|b|^2=1\Bigr\} は (a,b)∈S3⊂C2(a,b)\in S^3\subset\mathbb{C}^2 と同相で、S3S^3 は道連結なので連結です。したがって det⁡∘Ad⁡\det\circ\operatorname{Ad} は連続で ±1\pm1 に値をとり、g=Ig=I で 11 ですから、像は SO(3)SO(3) に入ります。

微分は同型。 補題 5.3 より微分は ad⁡ ⁣:su(2)→so(3)\operatorname{ad}\colon\mathfrak{su}(2)\to\mathfrak{so}(3) です。ad⁡X=0\operatorname{ad}X=0 なら XX はすべての σk\sigma_k と可換で、I,σ1,σ2,σ3I,\sigma_1,\sigma_2,\sigma_3 は M2(C)M_2(\mathbb{C}) を張るので XX はスカラー行列、トレース 00 から X=0X=0 です。両辺とも 3 次元なので ad⁡\operatorname{ad} は同型です。

全射。 R∈SO(3)R\in SO(3) は固有値 11 をもちます(det⁡(R−I)=det⁡(RT)det⁡(I−RT)⋅det⁡R=−det⁡(R−I)\det(R-I)=\det(R^{\mathsf T})\det(I-R^{\mathsf T})\cdot\det R=-\det(R-I) より det⁡(R−I)=0\det(R-I)=0)。回転軸 n\boldsymbol n とそれに直交する平面を基底にとると、RR はその平面内の角 θ\theta の回転で、R=eθAR=e^{\theta A}(A∈so(3)A\in\mathfrak{so}(3) はその平面の無限小回転)と書けます。A=ad⁡XA=\operatorname{ad}X となる XX をとれば Ad⁡(eθX)=eθad⁡X=R\operatorname{Ad}(e^{\theta X})=e^{\theta\operatorname{ad}X}=R です。

核。 Ad⁡(g)=id\operatorname{Ad}(g)=\mathrm{id} なら gg はすべての EkE_k と可換なので、上と同じ理由でスカラー行列 g=λIg=\lambda I、det⁡g=λ2=1\det g=\lambda^2=1 から g=±Ig=\pm I です。

被覆と基本群。 補題 8.1 により Ad⁡\operatorname{Ad} は被覆写像です。S3S^3 は単連結(命題 6.3[基本群と被覆空間])なので普遍被覆です。g↦−gg\mapsto-g は被覆変換で、定理 7.2[基本群と被覆空間] の 1 により被覆変換は II の行き先(±I\pm I)で決まるので、被覆変換群は位数 22 です。同じ定理の 2 から π1(SO(3))≅Z/2\pi_1(SO(3))\cong\mathbb{Z}/2 です。

1−1Spin(n)ρ(2 対 1)ISO(n)
2 重被覆 Spin(n)→SO(n) の模式図。上の閉路 θ↦cos θ+sin θ·c(e₁)c(e₂)(θ∈[0,2π])は、下では 2θ の回転として SO(n) の閉路を 2 周する。θ∈[0,π] の半分だけで下の閉路は 1 周するが、上では 1 から −1 への道にしかならない。

一般の nn に対して同じことをするには、Rn\mathbb{R}^n の「平方根」をとる代数が必要です。外積代数 Λ=Λ(Rn)\Lambda=\Lambda(\mathbb{R}^n)(命題 5.5[テンソル積と外積代数])の中で、それを具体的に作ります。e1,…,ene_1,\dots,e_n を標準基底、I={i1<⋯<ik}I=\lbrace i_1\lt\cdots\lt i_k\rbrace に対し eI=ei1∧⋯∧eike_I=e_{i_1}\wedge\cdots\wedge e_{i_k}(e∅=1e_\emptyset=1)とし、{eI}\lbrace e_I\rbrace が正規直交基底となる内積を Λ\Lambda に入れます。v∈Rnv\in\mathbb{R}^n に対し、外積 ε(v)ω=v∧ω\varepsilon(v)\omega=v\wedge\omega と、その随伴作用素 ι(v)=ε(v)∗\iota(v)=\varepsilon(v)^{*}(縮約)を考えます。

補題 8.3(Clifford 関係式)✓

c(v)=ε(v)−ι(v)∈End⁡(Λ)c(v)=\varepsilon(v)-\iota(v)\in\operatorname{End}(\Lambda) とおくと、v,w∈Rnv,w\in\mathbb{R}^n について

c(v)c(w)+c(w)c(v)=−2⟨v,w⟩ Ic(v)c(w)+c(w)c(v)=-2\langle v,w\rangle\,I

が成り立つ。特に ∣u∣=1|u|=1 なら c(u)2=−Ic(u)^2=-I で、c(u)c(u) は直交変換である。

この補題のねらいは、c(v)c(v) という作用素を、二乗すると −∣v∣2-|v|^2 になるものとして作ることです。ベクトル vv を二乗して数 −∣v∣2-|v|^2 にする、いわば「Rn\mathbb{R}^n の平方根」にあたり、これを使って鏡映を表します。証明は、v,wv,w が基底ベクトルの場合に符号を丁寧に数えるだけの計算です。

証明(補題 8.3)

ε(v)2=0\varepsilon(v)^2=0 は v∧v=0v\wedge v=0 から、ι(v)2=(ε(v)2)∗=0\iota(v)^2=(\varepsilon(v)^2)^*=0 です。残るのは ε(v)ι(w)+ι(w)ε(v)=⟨v,w⟩I\varepsilon(v)\iota(w)+\iota(w)\varepsilon(v)=\langle v,w\rangle I で、両辺は v,wv,w について双線形なので v=ejv=e_j、w=elw=e_l で確かめれば十分です。随伴の定義から ι(el)eI\iota(e_l)e_I は、l=ip∈Il=i_p\in I なら (−1)p−1eI∖{l}(-1)^{p-1}e_{I\setminus\lbrace l\rbrace}、l∉Il\notin I なら 00 です。j=lj=l のとき、j∈Ij\in I なら ει eI=(−1)p−1ej∧eI∖{j}=eI\varepsilon\iota\,e_I=(-1)^{p-1}e_j\wedge e_{I\setminus\lbrace j\rbrace}=e_I、ιε eI=0\iota\varepsilon\,e_I=0 です。j∉Ij\notin I なら ej∧eI=(−1)qeI∪{j}e_j\wedge e_I=(-1)^qe_{I\cup\lbrace j\rbrace}(qq は II のうち jj より小さい元の個数)で、jj は I∪{j}I\cup\lbrace j\rbrace の q+1q+1 番目なので ιε eI=eI\iota\varepsilon\,e_I=e_I、ει eI=0\varepsilon\iota\,e_I=0 です。j≠lj\ne l のとき、2 つの項がともに 00 でないのは l∈Il\in I、j∉Ij\notin I の場合だけで、どちらも ±e(I∖{l})∪{j}\pm e_{(I\setminus\lbrace l\rbrace)\cup\lbrace j\rbrace} になります。符号の指数を数えると、ει\varepsilon\iota の項は(ll の II での位置 −1-1)++(I∖{l}I\setminus\lbrace l\rbrace のうち jj より小さい元の個数)、ιε\iota\varepsilon の項はそれに [l<j]+[j<l]=1[l\lt j]+[j\lt l]=1 を加えたものなので、和は 00 です。以上から関係式を得ます。

∣u∣=1|u|=1 なら c(u)2=−Ic(u)^2=-I で、c(u)∗=ι(u)−ε(u)=−c(u)c(u)^*=\iota(u)-\varepsilon(u)=-c(u) なので c(u)∗c(u)=−c(u)2=Ic(u)^*c(u)=-c(u)^2=I です。

c(ej)c(e_j) たちが生成する End⁡(Λ)\operatorname{End}(\Lambda) の部分代数を Clifford 代数 CℓnC\ell_n と書きます。cI=c(ei1)⋯c(eik)c_I=c(e_{i_1})\cdots c(e_{i_k}) とおくと、cI(1)=eIc_I(1)=e_I なので {cI}\lbrace c_I\rbrace は線形独立で、関係式から CℓnC\ell_n を張ります。よって dim⁡Cℓn=2n\dim C\ell_n=2^n です。∣I∣|I| が偶数の cIc_I が張る部分代数を Cℓn0C\ell_n^0 と書きます。

定義 8.4(Spin 群)↗

n≥2n\ge2 とする。単位ベクトル u1,…,u2k∈Sn−1u_1,\dots,u_{2k}\in S^{n-1}(k≥0k\ge0)の積 c(u1)c(u2)⋯c(u2k)c(u_1)c(u_2)\cdots c(u_{2k}) 全体を Spin(n)\mathrm{Spin}(n) と書く。

c(u)−1=−c(u)c(u)^{-1}=-c(u) なので Spin(n)\mathrm{Spin}(n) は GL(Λ)GL(\Lambda) の部分群です。

補題 8.5(直交変換は鏡映の積)✓

O(n)O(n) の任意の元は、高々 nn 個の超平面鏡映 Ru(x)=x−2⟨u,x⟩uR_u(x)=x-2\langle u,x\rangle u(∣u∣=1|u|=1)の積である。特に SO(n)SO(n) の元は偶数個の鏡映の積である。

証明(補題 8.5)

nn についての帰納法です。A∈O(n)A\in O(n) とします。Aen≠enAe_n\ne e_n なら u=(Aen−en)/∣Aen−en∣u=(Ae_n-e_n)/|Ae_n-e_n| とおくと、∣Aen∣=∣en∣|Ae_n|=|e_n| から Ru(Aen)=enR_u(Ae_n)=e_n です。Aen=enAe_n=e_n なら RuR_u を省きます。いずれにしても A′=RuAA'=R_uA(または AA)は ene_n を固定し、en⊥≅Rn−1e_n^\perp\cong\mathbb{R}^{n-1} を保つ直交変換なので、帰納法の仮定から en⊥e_n^\perp 内の単位ベクトルによる高々 n−1n-1 個の鏡映の積です。それらは Rn\mathbb{R}^n の鏡映としても ene_n を固定するので、AA は高々 nn 個の鏡映の積です。det⁡Ru=−1\det R_u=-1 なので後半も従います。

定理 8.6(Spin(n) は SO(n) の連結な 2 重被覆)✓

n≥2n\ge2 とする。a∈Spin(n)a\in\mathrm{Spin}(n) と x∈Rnx\in\mathbb{R}^n に対し a c(x) a−1=c(ρ(a)x)a\,c(x)\,a^{-1}=c\bigl(\rho(a)x\bigr) で ρ(a)∈SO(n)\rho(a)\in SO(n) が定まり、ρ ⁣:Spin(n)→SO(n)\rho\colon\mathrm{Spin}(n)\to SO(n) は連続な全射準同型で、核は {±1}\lbrace\pm1\rbrace である。Spin(n)\mathrm{Spin}(n) はコンパクトかつ連結な行列 Lie 群で、ρ\rho は被覆写像である。

証明(定理 8.6)

鏡映との関係。 ∣u∣=1|u|=1 とすると、補題 8.3 から c(u)c(x)=−c(x)c(u)−2⟨u,x⟩c(u)c(x)=-c(x)c(u)-2\langle u,x\rangle なので

c(u)c(x)c(u)−1=−c(u)c(x)c(u)=c(x)c(u)2+2⟨u,x⟩c(u)=−c(Ru(x))c(u)c(x)c(u)^{-1}=-c(u)c(x)c(u)=c(x)c(u)^2+2\langle u,x\rangle c(u)=-c\bigl(R_u(x)\bigr)

です。偶数個の積では符号が打ち消し合い、a=c(u1)⋯c(u2k)a=c(u_1)\cdots c(u_{2k}) について ac(x)a−1=c(Ru1⋯Ru2kx)ac(x)a^{-1}=c(R_{u_1}\cdots R_{u_{2k}}x) です。cc は単射な線形写像なので ρ(a)=Ru1⋯Ru2k∈SO(n)\rho(a)=R_{u_1}\cdots R_{u_{2k}}\in SO(n) が well-defined で、準同型かつ連続です。補題 8.5 により全射です。

核。 ρ(a)=I\rho(a)=I なら aa はすべての c(ej)c(e_j) と可換です。a∈Cℓn0a\in C\ell_n^0 を a=∑∣I∣ 偶aIcIa=\sum_{|I|\text{ 偶}}a_Ic_I と展開します。I≠∅I\ne\emptyset、∣I∣|I| 偶数で j∈Ij\in I なら、c(ej)c(e_j) は cIc_I の中の自分以外の奇数個の因子と反可換なので c(ej)cI=−cIc(ej)c(e_j)c_I=-c_Ic(e_j) です。c(ej)ac(ej)−1=ac(e_j)ac(e_j)^{-1}=a の cIc_I の係数を比べて aI=−aI=0a_I=-a_I=0 です。よって a=λIa=\lambda I で、aa は直交変換(補題 8.3)の積なので λ=±1\lambda=\pm1 です。逆に −1=c(e1)c(e1)∈Spin(n)-1=c(e_1)c(e_1)\in\mathrm{Spin}(n) です。

コンパクト性と連結性。 S2k⊂Spin(n)S_{2k}\subset\mathrm{Spin}(n) を、ちょうど 2k2k 個の単位ベクトルの積全体とします。c(u)c(−u)=−c(u)2=1c(u)c(-u)=-c(u)^2=1 なので S2k⊂S2k+2S_{2k}\subset S_{2k+2} です。a∈Spin(n)a\in\mathrm{Spin}(n) なら ρ(a)\rho(a) は 2j≤n2j\le n 個の鏡映の積なので、a=±a′a=\pm a'(a′∈S2ja'\in S_{2j})であり、−a′=c(e1)c(e1)a′∈S2j+2-a'=c(e_1)c(e_1)a'\in S_{2j+2} です。よって m=2⌊n/2⌋+2m=2\lfloor n/2\rfloor+2 とおくと Spin(n)=Sm\mathrm{Spin}(n)=S_m で、これはコンパクト連結な (Sn−1)m(S^{n-1})^m の連続像なのでコンパクト(とくに GL(Λ)GL(\Lambda) で閉)かつ連結です。

被覆。 eθc(ei)c(ej)=cos⁡θ+sin⁡θ c(ei)c(ej)=c(ei) c(−cos⁡θ ei+sin⁡θ ej)∈Spin(n)e^{\theta c(e_i)c(e_j)}=\cos\theta+\sin\theta\,c(e_i)c(e_j)=c(e_i)\,c(-\cos\theta\,e_i+\sin\theta\,e_j)\in\mathrm{Spin}(n)(i≠ji\ne j、(c(ei)c(ej))2=−1(c(e_i)c(e_j))^2=-1 を使う)なので、線形独立な n(n−1)2\frac{n(n-1)}2 個の c(ei)c(ej)c(e_i)c(e_j)(i<ji\lt j)は Spin(n)\mathrm{Spin}(n) の Lie 環に入ります。一方 dρ(X)=0d\rho(X)=0 なら ρ(etX)=I\rho(e^{tX})=I、すなわち etX∈{±1}e^{tX}\in\lbrace\pm1\rbrace がすべての tt で成り立ち、連続性から etX=1e^{tX}=1、よって X=0X=0 です。dρd\rho は単射で、dim⁡spin(n)≥dim⁡so(n)\dim\mathfrak{spin}(n)\ge\dim\mathfrak{so}(n) なので同型です。補題 8.1 から ρ\rho は被覆写像です。

命題 8.7(Spin(n) の単連結性)✓

n≥3n\ge3 ならば π1(SO(n))≅Z/2\pi_1(SO(n))\cong\mathbb{Z}/2 であり、Spin(n)\mathrm{Spin}(n) は単連結である。したがって ρ ⁣:Spin(n)→SO(n)\rho\colon\mathrm{Spin}(n)\to SO(n) は普遍被覆である。

この命題のねらいは、SO(n)SO(n) の輪っかの様子を、次元を 1 つ下げた SO(n−1)SO(n-1) に落として調べることです。SO(n)SO(n) の元 AA を、ene_n の行き先 AenAe_n という球面 Sn−1S^{n-1} の点と、その点を決めたうえでの残りの自由度(SO(n−1)SO(n-1))に分けて考えます。球面が十分高次元なら輪っかは縮むので、π1\pi_1 が次元を上げても変わらない、という流れです。

証明(命題 8.7)

π1(SO(n))\pi_1(SO(n))。 n≥2n\ge2 について、p ⁣:SO(n)→Sn−1p\colon SO(n)\to S^{n-1}、p(A)=Aenp(A)=Ae_n を考えます。これは全射で、ファイバー p−1(en)p^{-1}(e_n) は ene_n を固定する SO(n)SO(n) の元の全体、つまり SO(n−1)SO(n-1) です。ファイバー束であることは次のとおりです。Sn−1∖{−en}S^{n-1}\setminus\lbrace-e_n\rbrace 上で、vv を ene_n と vv の張る平面内の最短の回転で ene_n から vv に送る回転 T(v)∈SO(n)T(v)\in SO(n) が vv の連続関数として定まり(v=env=e_n で T=IT=I)、(v,B)↦T(v)B(v,B)\mapsto T(v)B が (Sn−1∖{−en})×SO(n−1)→p−1(Sn−1∖{−en})(S^{n-1}\setminus\lbrace-e_n\rbrace)\times SO(n-1)\to p^{-1}(S^{n-1}\setminus\lbrace-e_n\rbrace) の同相写像を与えます(逆は A↦(Aen,T(Aen)−1A)A\mapsto(Ae_n,T(Ae_n)^{-1}A))。−en-e_n のまわりも、ene_n を別の単位ベクトルに替えて同様です。したがって 命題 3.6[ホモトピー群とファイブレーション] によりファイブレーションで、定理 3.7[ホモトピー群とファイブレーション] から

π2(Sn−1)→π1(SO(n−1))→π1(SO(n))→π1(Sn−1)\pi_2(S^{n-1})\to\pi_1(SO(n-1))\to\pi_1(SO(n))\to\pi_1(S^{n-1})

が完全です。n≥4n\ge4 なら両端は 00(命題 2.6[ホモトピー群とファイブレーション])なので π1(SO(n−1))≅π1(SO(n))\pi_1(SO(n-1))\cong\pi_1(SO(n)) です。π1(SO(3))≅Z/2\pi_1(SO(3))\cong\mathbb{Z}/2(定理 8.2)から、帰納的に n≥3n\ge3 で π1(SO(n))≅Z/2\pi_1(SO(n))\cong\mathbb{Z}/2 です。

Spin(n)\mathrm{Spin}(n)。 Spin(n)\mathrm{Spin}(n) は連結(定理 8.6)なので、11 から −1-1 への道 γ~\tilde\gamma があります。γ=ρ∘γ~\gamma=\rho\circ\tilde\gamma は SO(n)SO(n) の閉路で、γ~\tilde\gamma はその持ち上げであり終点が始点と異なるので、閉路として持ち上がりません。π1(SO(n))={0,[γ]}\pi_1(SO(n))=\lbrace0,[\gamma]\rbrace です([γ]≠0[\gamma]\ne0 は、零ホモトピックなら持ち上げの終点が始点に戻るはずだからです。定理 3.6[基本群と被覆空間])。ρ∗ ⁣:π1(Spin(n))→π1(SO(n))\rho_*\colon\pi_1(\mathrm{Spin}(n))\to\pi_1(SO(n)) は単射(命題 3.8[基本群と被覆空間])で、像は閉路として持ち上がる類からなるので [γ][\gamma] を含みません。よって像は 00、π1(Spin(n))=0\pi_1(\mathrm{Spin}(n))=0 です。

したがって n≥3n\ge3 では Spin(n)→SO(n)\mathrm{Spin}(n)\to SO(n) は普遍被覆です。物理で「スピノル」と呼ばれるのは、ρ\rho を経由しない Spin(n)\mathrm{Spin}(n) の表現、つまり −1-1 を −I-I で表す表現です。Λ\Lambda 自身への作用はその例です。

演習 9.1標準

注意 4.3 の部分群 H={diag⁡(eit,eiαt)}H=\lbrace\operatorname{diag}(e^{it},e^{i\alpha t})\rbrace(α\alpha は無理数)について、次を示してください。(1) HH の閉包は T2T^2 全体である。(2) HH に T2T^2 からの相対位相を入れると、II の十分小さい近傍はどれも弧状連結でない。したがって HH は相対位相で多様体ではない。(ヒント: (1) は {nα mod 1}\lbrace n\alpha\bmod1\rbrace が [0,1)[0,1) で稠密であることを使ってよい。)

解答

(1) t=2πnt=2\pi n(n∈Zn\in\mathbb{Z})とおくと diag⁡(1,e2πinα)∈H\operatorname{diag}(1,e^{2\pi in\alpha})\in H で、{nα mod 1}\lbrace n\alpha\bmod1\rbrace の稠密性から {1}×S1⊂H‾\lbrace1\rbrace\times S^1\subset\overline H です。任意の (eiθ,eiϕ)(e^{i\theta},e^{i\phi}) は diag⁡(eiθ,eiαθ)⋅diag⁡(1,ei(ϕ−αθ))\operatorname{diag}(e^{i\theta},e^{i\alpha\theta})\cdot\operatorname{diag}(1,e^{i(\phi-\alpha\theta)}) と書けるので、H‾=T2\overline H=T^2 です。

(2) 被覆 R2→T2\mathbb{R}^2\to T^2、(θ,ϕ)↦diag⁡(eiθ,eiϕ)(\theta,\phi)\mapsto\operatorname{diag}(e^{i\theta},e^{i\phi}) で HH の逆像は、互いに平行な可算個の直線 Lm,n={(t+2πm,αt+2πn)}L_{m,n}=\lbrace(t+2\pi m,\alpha t+2\pi n)\rbrace の和です。HH 内の道を R2\mathbb{R}^2 に持ち上げると(定理 3.6[基本群と被覆空間])、その像は連結で、直線に垂直な方向の座標は可算集合に値をとるので定数、すなわち持ち上げは 1 本の直線に留まります。よって HH 内の道は diag⁡(eit(τ),eiαt(τ))\operatorname{diag}(e^{it(\tau)},e^{i\alpha t(\tau)})(t(τ)t(\tau) は連続)の形です。ε<π\varepsilon\lt\pi として N={∣θ∣<ε,∣ϕ∣<ε}N=\lbrace|\theta|\lt\varepsilon,|\phi|\lt\varepsilon\rbrace(偏角で表す)の中の道では、t(τ)t(\tau) は 2πZ2\pi\mathbb{Z} の 1 つの元の ε\varepsilon 近傍から出られません。ところが (1) の議論から、II の任意の近傍は t∈2πn+(−ε,ε)t\in2\pi n+(-\varepsilon,\varepsilon)(n≠0n\ne0)の形の点を含みます。したがって N∩HN\cap H に含まれる II の近傍は、II と道で結べない点を含み、弧状連結ではありません。多様体は局所弧状連結なので、HH は相対位相で多様体ではありません。

演習 9.2標準

n=3n=3 とし、Spin(3)⊂Cℓ30\mathrm{Spin}(3)\subset C\ell_3^0 を考えます。q1=c(e2)c(e3)q_1=c(e_2)c(e_3)、q2=c(e3)c(e1)q_2=c(e_3)c(e_1)、q3=c(e1)c(e2)q_3=c(e_1)c(e_2) とおきます。(1) qk2=−1q_k^2=-1、q1q2=−q3q_1q_2=-q_3 などの関係を確かめ、Cℓ30C\ell_3^0 が四元数体 H\mathbb{H} と同型であることを示してください。(2) Spin(3)\mathrm{Spin}(3) が単位四元数の群、したがって SU(2)SU(2) と同型であることを示してください。

解答

(1) cj=c(ej)c_j=c(e_j) とおくと cjck=−ckcjc_jc_k=-c_kc_j(j≠kj\ne k)、cj2=−1c_j^2=-1 です。q12=c2c3c2c3=−c2c2c3c3=−1q_1^2=c_2c_3c_2c_3=-c_2c_2c_3c_3=-1 で、他も同様です。q1q2=c2(c3c3)c1=−c2c1=c1c2=q3q_1q_2=c_2(c_3c_3)c_1=-c_2c_1=c_1c_2=q_3 で、同様に q2q3=q1q_2q_3=q_1、q3q1=q2q_3q_1=q_2 です。よって i↦q1i\mapsto q_1、j↦q2j\mapsto q_2、k↦q3k\mapsto q_3 とすると ij=kij=k などの四元数の関係を満たし、{1,q1,q2,q3}\lbrace1,q_1,q_2,q_3\rbrace は Cℓ30C\ell_3^0 の基底なので Cℓ30≅HC\ell_3^0\cong\mathbb{H} です。

(2) a=a0+∑akqka=a_0+\sum a_kq_k に対し aˉ=a0−∑akqk\bar a=a_0-\sum a_kq_k とすると aaˉ=∑aμ2a\bar a=\sum a_\mu^2 です。単位ベクトルの積 c(u)c(w)=−⟨u,w⟩+(u×w の成分を係数とする qk の和)c(u)c(w)=-\langle u,w\rangle+(u\times w\text{ の成分を係数とする }q_k\text{ の和}) はノルム ∣u∣∣w∣=1|u||w|=1 をもつので、Spin(3)\mathrm{Spin}(3) は単位四元数に含まれます。両者とも連結な 3 次元の群で、単位四元数の群は S3S^3 でコンパクト連結、Spin(3)\mathrm{Spin}(3) はその閉部分群で同じ次元なので開かつ閉、よって一致します。単位四元数の群が SU(2)SU(2) と同型であることは a0+a1i+a2j+a3k↦a0I−i(a1σ1+a2σ2+a3σ3)a_0+a_1i+a_2j+a_3k\mapsto a_0I-i(a_1\sigma_1+a_2\sigma_2+a_3\sigma_3) で確かめられます(−iσ1,−iσ2,−iσ3-i\sigma_1,-i\sigma_2,-i\sigma_3 は四元数の関係 (−iσ1)(−iσ2)=−iσ3(-i\sigma_1)(-i\sigma_2)=-i\sigma_3 を満たします)。

演習 9.3易

Lie 環の同型 ψ=ad⁡−1 ⁣:so(3)→su(2)\psi=\operatorname{ad}^{-1}\colon\mathfrak{so}(3)\to\mathfrak{su}(2) に対し、dΦ=ψd\Phi=\psi を満たす連続準同型 Φ ⁣:SO(3)→SU(2)\Phi\colon SO(3)\to SU(2) が存在しないことを示してください。

解答

存在したとすると、Ad⁡∘Φ ⁣:SO(3)→SO(3)\operatorname{Ad}\circ\Phi\colon SO(3)\to SO(3) の微分は ad⁡∘ψ=id\operatorname{ad}\circ\psi=\mathrm{id} なので、系 5.2 により Ad⁡∘Φ=id\operatorname{Ad}\circ\Phi=\mathrm{id} です(SO(3)SO(3) は 定理 8.2 により連結な SU(2)SU(2) の像なので連結)。A∈so(3)A\in\mathfrak{so}(3) を軸 e3e_3 まわりの無限小回転とすると e2πA=Ie^{2\pi A}=I なので Φ(I)=Φ(e2πA)=e2πψ(A)\Phi(I)=\Phi(e^{2\pi A})=e^{2\pi\psi(A)} です。ψ(A)=E3=−i2σ3\psi(A)=E_3=-\frac i2\sigma_3 なので e2πE3=diag⁡(e−iπ,eiπ)=−Ie^{2\pi E_3}=\operatorname{diag}(e^{-i\pi},e^{i\pi})=-I となり、Φ(I)=I\Phi(I)=I に矛盾します。

演習 9.4難

定理 6.2 の積分表示から、ZZ の 4 次の項が −124[Y,[X,[X,Y]]]-\frac1{24}[Y,[X,[X,Y]]] であることを示してください。

解答

ad⁡Y(Y)=0\operatorname{ad}Y(Y)=0 を使いながら、ψ(w)=1+12u−16u2+112u3−⋯\psi(w)=1+\frac12u-\frac16u^2+\frac1{12}u^3-\cdots(u=w−1u=w-1)の各項から 4 次の寄与を拾います。A=ad⁡XA=\operatorname{ad}X、B=ad⁡YB=\operatorname{ad}Y と書き、u=A+tB+12A2+tAB+t22B2+16A3+t2A2B+t22AB2+t36B3+⋯u=A+tB+\frac12A^2+tAB+\frac{t^2}2B^2+\frac16A^3+\frac t2A^2B+\frac{t^2}2AB^2+\frac{t^3}6B^3+\cdots です。YY に作用させたとき右端の BB は消えます。

  • 12u\frac12u から: 12(16A3+t2A2B+t22AB2)Y=112A3Y\frac12\bigl(\frac16A^3+\frac t2A^2B+\frac{t^2}2AB^2\bigr)Y=\frac1{12}A^3Y。
  • −16u2-\frac16u^2 から 4 次: −16[(A+tB)(12A2+tAB)+(12A2+tAB+t22B2)(A+tB)]Y=−16[12A3+t2BA2+12A3+tABA+t22B2A]Y-\frac16\bigl[(A+tB)(\frac12A^2+tAB)+(\frac12A^2+tAB+\frac{t^2}2B^2)(A+tB)\bigr]Y=-\frac16\bigl[\frac12A^3+\frac t2BA^2+\frac12A^3+tABA+\frac{t^2}2B^2A\bigr]Y(AB YAB\,Y、A2BYA^2BY などは 00)。
  • 112u3\frac1{12}u^3 から: 112(A+tB)3Y=112(A3+tBA2+tABA+t2B2A+tA2B+⋯ )Y\frac1{12}(A+tB)^3Y=\frac1{12}\bigl(A^3+tBA^2+tABA+t^2B^2A+tA^2B+\cdots\bigr)Y のうち YY の右端が AA の項 112(A3+tBA2+tABA+t2BBA)Y\frac1{12}(A^3+tBA^2+tABA+t^2BBA)Y。

tt で積分すると、A3YA^3Y の係数は 112−16+112=0\frac1{12}-\frac16+\frac1{12}=0、BA2YBA^2Y は −124+124=0-\frac1{24}+\frac1{24}=0、ABAYABAY は −112+124=−124-\frac1{12}+\frac1{24}=-\frac1{24}、B2AYB^2AY は −136+136=0-\frac1{36}+\frac1{36}=0 です。ABAY=[X,[Y,[X,Y]]]ABAY=[X,[Y,[X,Y]]] で、Jacobi 恒等式と [X,Y][X,Y] の反対称性から [X,[Y,[X,Y]]]=[Y,[X,[X,Y]]][X,[Y,[X,Y]]]=[Y,[X,[X,Y]]] なので、4 次の項は −124[Y,[X,[X,Y]]]-\frac1{24}[Y,[X,[X,Y]]] です。

  • B. C. Hall, Lie Groups, Lie Algebras, and Representations: An Elementary Introduction, 2nd ed., Springer GTM 222, 2015 — 第 2〜5 章(行列 Lie 群、閉部分群定理、BCH 公式、準同型の持ち上げ)。
  • W. Rossmann, Lie Groups: An Introduction through Linear Groups, Oxford University Press, 2002 — 第 1〜2 章。
  • J. J. Duistermaat and J. A. C. Kolk, Lie Groups, Springer Universitext, 2000 — 第 1 章(BCH 公式と収束域)。
  • H. B. Lawson and M.-L. Michelsohn, Spin Geometry, Princeton University Press, 1989 — 第 I 章(Clifford 代数と Spin 群)。
  • 小林俊行・大島利雄『リー群と表現論』岩波書店、2005 — 第 1〜3 章。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 4 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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