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対称性・Wigner の定理・時間反転と Kramers 縮退:反ユニタリ作用素から偶数重縮退まで

対象読者: 角運動量とスピン、演算子と物理量、Hilbert 空間の基礎(射影定理・正規直交基底)を学んだ学部上級生。群の表現論は仮定しません。

前提となる記事:角運動量とスピン:交換関係から固有値・パウリ行列・合成則を導く、演算子と物理量:エルミート演算子と交換関係から不確定性関係へ、Hilbert 空間の基礎:射影定理・リースの表現定理・正規直交基底

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動画を逆再生しても、物理法則として不自然でない場面が多くあります。この記事は、その「時間を逆向きにする」操作を量子力学で正確に表し、結晶の中の電子のように、エネルギーの等しい状態が必ず 2 つ以上そろって現れる場合があることの理由を説明します。読み終えると、その縮退がなぜ磁場のないときだけ守られ、磁場を加えると解けるのかが分かります。途中の証明が読みにくければ、定理の主張と例だけを追っても後ろの節は読めます。

  • 量子力学の「対称性」とは、状態(射線。位相因子 eiθe^{i\theta} 倍を同じ状態とみなしたもの)の空間の全単射で、すべての遷移確率 ∣⟨φ,ψ⟩∣2|\langle\varphi,\psi\rangle|^2 を保つものです。Wigner の定理は、そのような変換が必ずユニタリ作用素か反ユニタリ作用素で実現され、位相を除いて一意であることを述べます。この記事では可分 Hilbert 空間で全体を証明します。
  • 反ユニタリ作用素(内積を複素共役にする反線形な変換)は、複素共役 KK(ある正規直交基底に関する成分の複素共役)とユニタリ作用素の積 T=UKT=UK として必ず書けます。T2T^2 が数なら T2=±1T^2=\pm1 で、UU の行列で言えば UT=±UU^{\mathsf T}=\pm U(対称かどうか)に対応します。
  • 時間反転は運動を逆向きにするので、エネルギーを保つ限りユニタリでは書けません(書けるのは H=0H=0 だけ)。スピンのない粒子では Θ=K\Theta=K、スピン 1/21/2 では Θ=iσyK\Theta=i\sigma_yK で、後者は Θ2=−1\Theta^2=-1 を満たします。
  • Kramers の定理: 時間反転対称なハミルトニアンで Θ2=−1\Theta^2=-1 なら、すべての固有値の重複度は偶数です。ψ\psi と Θψ\Theta\psi が直交することを使って、固有空間を 2 次元ずつ切り出して示します。
  • Θ2=+1\Theta^2=+1 なら Θ\Theta で不変なベクトルだけからなる正規直交基底が取れて、ハミルトニアン(系のエネルギーを表す演算子)は実対称行列で書けます。Θ2=−1\Theta^2=-1 のときは 2×22\times 2 ブロックが四元数的な形になります。
  • 例として、スピン軌道相互作用のある 1 電子は、結晶中の任意の実ポテンシャルのもとでも全準位が 2 重縮退します。磁場は時間反転で符号が変わる摂動なので、この縮退を 1 次で解きます。

1. 動機:縮退は偶然か、必然か

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水素原子の微細構造(定理 6.3[電磁場中の荷電粒子])では、準位 EnjE_{nj} に 2j+12j+1 個の状態が属し、jj は半整数なので 2j+12j+1 は偶数です。この偶数重の縮退は、球対称性から来る mjm_j の縮退として説明がつきます。ところが、同じ電子を球対称でないポテンシャル、たとえば結晶中の原子位置が作る電場の中に置き、スピン軌道相互作用を入れても、準位は 2 重に縮退したままです。回転対称性が無いのに縮退が残るのは、別の対称性が働いているからです。

その対称性が時間反転です。時間反転は「すべての速度を逆向きにする」変換ですが、量子力学では波動関数の複素共役を伴うため、通常の対称性(ユニタリ作用素で表される)とは違って反ユニタリ作用素になります。そして電子(スピン 1/21/2)に対しては、時間反転を 2 回行うと −1-1 が掛かります。この符号 −1-1 が、準位の偶数重縮退を強制します。

以下の順に進みます。まず、対称性とは何かを遷移確率を保つ変換として定義し、Wigner の定理でそれがユニタリか反ユニタリで実現されることを示します(§2〜§4)。次に時間反転作用素を構成し(§5)、Kramers の定理を証明します(§6)。最後に、Θ2=+1\Theta^2=+1 の場合の実表示、スピン軌道相互作用のある電子、磁場による縮退の解消を調べます(§7〜§8)。内積は第 2 引数について線形、第 1 引数について反線形とし、Hilbert 空間はすべて複素で可分とします。

状態ベクトル ψ\psi とその位相倍 eiθψe^{i\theta}\psi は、すべての測定確率が等しいので同じ物理状態を表します(注意 2.2[シュレーディンガー方程式と波動関数])。そこで状態を射線で表します。

定義 2.1(射線と遷移確率)↗

Hilbert 空間 H\mathcal{H} の単位ベクトル全体 S(H)={ψ:∥ψ∥=1}S(\mathcal{H})=\{\psi:\|\psi\|=1\} に、ψ∼φ  ⟺  φ=eiθψ\psi\sim\varphi\iff\varphi=e^{i\theta}\psi(θ∈R\theta\in\mathbb{R})で同値関係を入れる。同値類 [ψ][\psi] を射線と呼び、射線全体を R(H)=S(H)/ ⁣∼\mathcal{R}(\mathcal{H})=S(\mathcal{H})/\!\sim と書く。2 つの射線 [φ],[ψ][\varphi],[\psi] の遷移確率を

P([φ],[ψ])=∣⟨φ,ψ⟩∣2P([\varphi],[\psi])=|\langle\varphi,\psi\rangle|^2

で定める。代表元の取り方によらない。

PP は、状態 ψ\psi にある系が φ\varphi の射線に属する状態として見つかる確率(Born の規則)です。物理的に観測できるのは遷移確率だけなので、対称性は次のように定義するのが自然です。

定義 2.2(対称変換)↗

全単射 T^:R(H)→R(H)\hat T:\mathcal{R}(\mathcal{H})\to\mathcal{R}(\mathcal{H}) が、すべての [φ],[ψ][\varphi],[\psi] について

∣⟨T^[φ],T^[ψ]⟩∣=∣⟨φ,ψ⟩∣|\langle\hat T[\varphi],\hat T[\psi]\rangle|=|\langle\varphi,\psi\rangle|

を満たすとき、T^\hat T を対称変換という。左辺は T^[φ],T^[ψ]\hat T[\varphi],\hat T[\psi] の代表元の内積の絶対値で、代表元によらない。

ユニタリ作用素 UU は [ψ]↦[Uψ][\psi]\mapsto[U\psi] で対称変換を与えます。ユニタリでない対称変換を与えるのが次の節の反ユニタリ作用素で、時間反転がその実例です。H\mathcal{H} が 1 次元なら射線は 1 点だけで自明なので、以下では dim⁡H≥2\dim\mathcal{H}\ge2 とします。

定義 3.1(反線形・反ユニタリ作用素)↗

写像 T:H→HT:\mathcal{H}\to\mathcal{H} が反線形であるとは、T(αx+βy)=αˉ Tx+βˉ TyT(\alpha x+\beta y)=\bar\alpha\,Tx+\bar\beta\,Ty がすべての x,y∈Hx,y\in\mathcal{H}、α,β∈C\alpha,\beta\in\mathbb{C} で成り立つことをいう。反線形な全射 TT が

⟨Tx,Ty⟩=⟨x,y⟩‾(x,y∈H)\langle Tx,Ty\rangle=\overline{\langle x,y\rangle}\qquad(x,y\in\mathcal{H})

を満たすとき、反ユニタリ作用素という。

反ユニタリ作用素の基本例が、正規直交基底に関する複素共役です。H\mathcal{H} は可分なので正規直交基底は高々可算です(命題 6.7[Hilbert 空間の基礎])。それを {en}\{e_n\} と書き、

K(∑ncnen)=∑ncˉnenK\Bigl(\sum_n c_ne_n\Bigr)=\sum_n\bar c_n e_n

と定めます。Parseval の等式(定理 6.4[Hilbert 空間の基礎])から ∑∣cn∣2<∞\sum|c_n|^2<\infty のとき右辺も収束し、KK は反ユニタリで K2=1K^2=1 です。

命題 3.2(反ユニタリ作用素の基本性質)✓

S,TS,T を反ユニタリ作用素、UU をユニタリ作用素とする。

  1. 反線形な全射 TT について、∥Tx∥=∥x∥\|Tx\|=\|x\|(すべての xx)と ⟨Tx,Ty⟩=⟨x,y⟩‾\langle Tx,Ty\rangle=\overline{\langle x,y\rangle} は同値である。
  2. TT は全単射で、逆写像 T−1T^{-1} も反ユニタリである。
  3. 積 STST はユニタリ(線形)であり、UTUT と TUTU は反ユニタリである。
  4. ⟨x,Ty⟩=⟨T−1x,y⟩‾\langle x,Ty\rangle=\overline{\langle T^{-1}x,y\rangle} がすべての x,yx,y で成り立つ。
  5. TT は連続で、[ψ]↦[Tψ][\psi]\mapsto[T\psi] は対称変換を与える。
証明(命題 3.2)
  1. 内積を保つなら x=yx=y としてノルムが保たれる。逆にノルムが保たれるとする。TT は反線形なので Tx+iTy=T(x−iy)Tx+iTy=T(x-iy) であり、分極恒等式(命題 2.3[Hilbert 空間の基礎])に代入すると
⟨Tx,Ty⟩=14(∥Tx+Ty∥2−∥Tx−Ty∥2−i∥Tx+iTy∥2+i∥Tx−iTy∥2)=14(∥x+y∥2−∥x−y∥2−i∥x−iy∥2+i∥x+iy∥2)\langle Tx,Ty\rangle=\tfrac14\bigl(\|Tx+Ty\|^2-\|Tx-Ty\|^2-i\|Tx+iTy\|^2+i\|Tx-iTy\|^2\bigr) =\tfrac14\bigl(\|x+y\|^2-\|x-y\|^2-i\|x-iy\|^2+i\|x+iy\|^2\bigr)

となる。右辺は ⟨x,y⟩\langle x,y\rangle の分極恒等式の複素共役である。

  1. Tx=0Tx=0 なら ∥x∥=∥Tx∥=0\|x\|=\|Tx\|=0 で単射。全射は仮定なので全単射である。T−1T^{-1} の反線形性は、T(αˉT−1u+βˉT−1v)=αu+βvT(\bar\alpha T^{-1}u+\bar\beta T^{-1}v)=\alpha u+\beta v から従い、内積の性質は x=T−1u, y=T−1vx=T^{-1}u,\ y=T^{-1}v を ⟨Tx,Ty⟩=⟨x,y⟩‾\langle Tx,Ty\rangle=\overline{\langle x,y\rangle} に入れれば得られる。

  2. 線形性: ST(αx+βy)=S(αˉTx+βˉTy)=αSTx+βSTyST(\alpha x+\beta y)=S(\bar\alpha Tx+\bar\beta Ty)=\alpha STx+\beta STy。内積は ⟨STx,STy⟩=⟨Tx,Ty⟩‾=⟨x,y⟩\langle STx,STy\rangle=\overline{\langle Tx,Ty\rangle}=\langle x,y\rangle で、全射性もそのまま従う。UTUT の反線形性と ⟨UTx,UTy⟩=⟨Tx,Ty⟩=⟨x,y⟩‾\langle UTx,UTy\rangle=\langle Tx,Ty\rangle=\overline{\langle x,y\rangle} も同様で、TUTU も同じ。

  3. 2 で T−1T^{-1} が反ユニタリなので、⟨T(T−1x),Ty⟩=⟨T−1x,y⟩‾\langle T(T^{-1}x),Ty\rangle=\overline{\langle T^{-1}x,y\rangle} に TT−1x=xT T^{-1}x=x を代入すればよい。

  4. ノルムを保つ(等長)ので連続。位相倍 T(eiθψ)=e−iθTψT(e^{i\theta}\psi)=e^{-i\theta}T\psi は同じ射線に属するので写像 [ψ]↦[Tψ][\psi]\mapsto[T\psi] は代表元によらず定まり、遷移確率を保ち、[ψ]↦[T−1ψ][\psi]\mapsto[T^{-1}\psi] が逆写像になる。

性質 3 の「反ユニタリ同士の積はユニタリ」が次の分解定理の鍵です。

定理 3.3(反ユニタリ作用素の分解 T=UKT=UK)✓

正規直交基底 {en}\{e_n\} を 1 つ固定し、KK をそれに関する複素共役とする。任意の反ユニタリ作用素 TT は、ただ 1 つのユニタリ作用素 UU によって T=UKT=UK と書ける。逆に、任意のユニタリ UU について UKUK は反ユニタリである。

証明(定理 3.3)

KK は反ユニタリで K2=1K^2=1 なので K−1=KK^{-1}=K です。U:=TKU:=TK とおくと、命題 3.2 の 3 から UU はユニタリで、UK=TK2=TUK=TK^2=T です。一意性は U=TK−1=TKU=TK^{-1}=TK と書けることから明らか。逆向きは 命題 3.2 の 3 である。

分解は基底の取り方に依存します(基底を変えると KK も UU も変わる)。T2T^2 が数になる場合を UU の行列で見ておきます。基底 {en}\{e_n\} に関する UU の行列を UmnU_{mn}(Uen=∑mUmnemUe_n=\sum_mU_{mn}e_m)とし、Uˉ\bar U をその複素共役行列、UTU^{\mathsf T} を転置行列とします。

命題 3.4(T2T^2 の符号と UU の対称性)✓

T=UKT=UK について、T2=U KUKT^2=U\,KUK であり、KUKKUK は行列 Uˉ\bar U をもつ作用素である。したがって

  1. T2T^2 は常にユニタリ(線形)である。
  2. ある数 λ\lambda について T2=λ⋅1T^2=\lambda\cdot1 ならば λ=±1\lambda=\pm1 であり、λ=+1  ⟺  UT=U\lambda=+1\iff U^{\mathsf T}=U、λ=−1  ⟺  UT=−U\lambda=-1\iff U^{\mathsf T}=-U である。
  3. dim⁡H\dim\mathcal{H} が有限で T2=−1T^2=-1 となる反ユニタリ作用素 TT が存在するなら、dim⁡H\dim\mathcal{H} は偶数である。
  4. T↦eiθTT\mapsto e^{i\theta}T としても T2T^2 は変わらない。
証明(命題 3.4)

T2=UKUKT^2=UKUK で、KUKen=K∑mUmnem=∑mUˉmnemKUKe_n=K\sum_mU_{mn}e_m=\sum_m\bar U_{mn}e_m なので KUKKUK は行列 Uˉ\bar U をもつ。T2T^2 は 2 つの反ユニタリの積なので 命題 3.2 の 3 よりユニタリ(1)。

  1. T2=λT^2=\lambda とする。T3T^3 を 2 通りに計算すると、T⋅T2=T(λ⋅1)=λˉTT\cdot T^2=T(\lambda\cdot1)=\bar\lambda T、T2⋅T=λTT^2\cdot T=\lambda T なので λ=λˉ\lambda=\bar\lambda、すなわち λ\lambda は実数である。T2T^2 がユニタリであることから ∣λ∣=1|\lambda|=1 で、λ=±1\lambda=\pm1 を得る。さらに T2=UUˉT^2=U\bar U(行列の積)が λ\lambda に等しいことは Uˉ=λU−1=λU∗\bar U=\lambda U^{-1}=\lambda U^{*} と同値で、両辺の複素共役をとると U=λ U∗‾=λUTU=\lambda\,\overline{U^{*}}=\lambda U^{\mathsf T}、すなわち UT=λUU^{\mathsf T}=\lambda U(λ=±1\lambda=\pm1)となる。

  2. dim⁡H=n<∞\dim\mathcal{H}=n<\infty で UT=−UU^{\mathsf T}=-U とする。行列式をとると det⁡U=det⁡UT=(−1)ndet⁡U\det U=\det U^{\mathsf T}=(-1)^n\det U で、UU はユニタリなので det⁡U≠0\det U\ne0。よって (−1)n=1(-1)^n=1 で nn は偶数。

  3. (eiθT)2=eiθTeiθT=eiθe−iθT2=T2(e^{i\theta}T)^2=e^{i\theta}Te^{i\theta}T=e^{i\theta}e^{-i\theta}T^2=T^2 である。

4 により、「Θ2=−1\Theta^2=-1」は位相の選び方によらない性質です。

定理 4.1(Wigner の定理)✓

H\mathcal{H} を可分な複素 Hilbert 空間、dim⁡H≥2\dim\mathcal{H}\ge2 とし、T^\hat T を 定義 2.2 の意味の対称変換とする。このとき、ユニタリ作用素か反ユニタリ作用素 WW が存在して、すべての単位ベクトル ψ\psi について T^[ψ]=[Wψ]\hat T[\psi]=[W\psi] となる。さらに WW は位相因子を除いて一意である。すなわち W1,W2W_1,W_2 がともにこれを満たすなら、W2=eiθW1W_2=e^{i\theta}W_1 となる実数 θ\theta がある。

証明では、正規直交基底の像の位相を整えてから一般のベクトルの像を成分で決め、WW を組み立てます。ユニタリか反ユニタリかは、成分が複素共役されるかどうかを表す符号 ε\varepsilon で決まります。

全体の見取り図として、ステップ 0〜1 で基底の像がまた基底になり成分の大きさが保たれることを示し、ステップ 2〜4 で、像の成分が元の成分そのものか複素共役かのどちらかに決まることを、遷移確率の保存だけから導きます。ステップ 3 では、e1+ene_1+e_n との比較で成分の実部が、e1+iene_1+ie_n との比較で虚部が決まります。ステップ 5〜7 は、そこから WW を組み立て、残りのベクトルと一意性を確かめる部分です。

証明(定理 4.1)

{en}\{e_n\} を H\mathcal{H} の正規直交基底とし、n=1,2,…n=1,2,\ldots(有限なら n≤Nn\le N)と番号を振る(命題 6.7[Hilbert 空間の基礎])。dim⁡H≥2\dim\mathcal{H}\ge2 より n=2n=2 が存在する。各単位ベクトル ψ\psi の成分を cn=⟨en,ψ⟩c_n=\langle e_n,\psi\rangle と書く。

ステップ 0:基底の像は基底。 T^[en]\hat T[e_n] の代表元を fnf_n とする。∣⟨fm,fn⟩∣=∣⟨em,en⟩∣=δmn|\langle f_m,f_n\rangle|=|\langle e_m,e_n\rangle|=\delta_{mn} より {fn}\{f_n\} は正規直交系である。完全性を示す。単位ベクトル gg がすべての fnf_n と直交するとする。T^\hat T は全射なので T^[φ]=[g]\hat T[\varphi]=[g] となる単位ベクトル φ\varphi があり、∣⟨en,φ⟩∣=∣⟨fn,g⟩∣=0|\langle e_n,\varphi\rangle|=|\langle f_n,g\rangle|=0 がすべての nn で成り立つ。定理 6.4[Hilbert 空間の基礎] の 2({en}⊥={0}\{e_n\}^\perp=\{0\})より φ=0\varphi=0 となり矛盾する。したがって {fn}\{f_n\} も正規直交基底である。

ステップ 1:成分の絶対値。 単位ベクトル ψ\psi と、その像の代表元 ψ′\psi' について、cn′=⟨fn,ψ′⟩c'_n=\langle f_n,\psi'\rangle とおくと、遷移確率の保存から ∣cn′∣=∣⟨T^[en],T^[ψ]⟩∣=∣cn∣|c'_n|=|\langle \hat T[e_n],\hat T[\psi]\rangle|=|c_n| である。

ステップ 2:位相の正規化。 c1>0c_1>0 となる単位ベクトル ψ\psi(実数かつ正)だけを考える。このとき ∣c1′∣=c1>0|c_1'|=c_1>0 なので、ψ′\psi' の位相を選んで c1′=c1c'_1=c_1 とできる(この選び方を以後 ψ′\psi' の標準代表元と呼ぶ)。n≥2n\ge2 について ψn=(e1+en)/2\psi_n=(e_1+e_n)/\sqrt2 を考える。c1=cn=1/2c_1=c_n=1/\sqrt2 なので、ステップ 1 より標準代表元は ψn′=(f1+αnfn)/2\psi'_n=(f_1+\alpha_nf_n)/\sqrt2、∣αn∣=1|\alpha_n|=1 の形である(他の成分の絶対値は 00)。fnf_n を αnfn\alpha_nf_n に置き換えると(これも T^[en]\hat T[e_n] の代表元)、ψn′=(f1+fn)/2\psi'_n=(f_1+f_n)/\sqrt2 としてよい。以後 fnf_n はこの選び方とする。

ステップ 3:実部と虚部。 c1>0c_1>0 の単位ベクトル ψ=∑cnen\psi=\sum c_ne_n と、その標準代表元 ψ′=∑cn′fn\psi'=\sum c'_nf_n、n≥2n\ge2 をとる。ψn\psi_n との内積は

⟨ψn,ψ⟩=c1+cn2,⟨ψn′,ψ′⟩=c1+cn′2\langle\psi_n,\psi\rangle=\frac{c_1+c_n}{\sqrt2},\qquad\langle\psi'_n,\psi'\rangle=\frac{c_1+c'_n}{\sqrt2}

で、遷移確率の保存より ∣c1+cn∣=∣c1+cn′∣|c_1+c_n|=|c_1+c'_n| である。∣c1+cn∣2=c12+2c1Re cn+∣cn∣2|c_1+c_n|^2=c_1^2+2c_1\mathrm{Re}\,c_n+|c_n|^2 で、∣cn′∣=∣cn∣|c'_n|=|c_n| だったので、c1>0c_1>0 より

Re cn′=Re cn(∗)\mathrm{Re}\,c'_n=\mathrm{Re}\,c_n\qquad(\ast)

が従う。これを ψ=χn:=(e1+ien)/2\psi=\chi_n:=(e_1+ie_n)/\sqrt2 に適用すると、標準代表元は χn′=(f1+βnfn)/2\chi'_n=(f_1+\beta_nf_n)/\sqrt2、∣βn∣=1|\beta_n|=1 の形で、(∗)(\ast) から Re βn=Re i=0\mathrm{Re}\,\beta_n=\mathrm{Re}\,i=0、すなわち βn=iεn\beta_n=i\varepsilon_n(εn∈{+1,−1}\varepsilon_n\in\{+1,-1\})である。

次に、一般の ψ\psi(c1>0c_1>0)と χn\chi_n の内積を比べる。⟨χn,ψ⟩=(c1−icn)/2\langle\chi_n,\psi\rangle=(c_1-ic_n)/\sqrt2、⟨χn′,ψ′⟩=(c1−iεncn′)/2\langle\chi'_n,\psi'\rangle=(c_1-i\varepsilon_nc'_n)/\sqrt2 で、∣c1−icn∣2=c12+∣cn∣2+2c1Im cn|c_1-ic_n|^2=c_1^2+|c_n|^2+2c_1\mathrm{Im}\,c_n および ∣c1−iεncn′∣2=c12+∣cn′∣2+2c1εnIm cn′|c_1-i\varepsilon_nc'_n|^2=c_1^2+|c'_n|^2+2c_1\varepsilon_n\mathrm{Im}\,c'_n より、Im cn′=εnIm cn\mathrm{Im}\,c'_n=\varepsilon_n\mathrm{Im}\,c_n を得る。(∗)(\ast) とあわせて

cn′={cn(εn=+1),cˉn(εn=−1)(n≥2)c'_n=\begin{cases}c_n&(\varepsilon_n=+1),\\ \bar c_n&(\varepsilon_n=-1)\end{cases}\qquad(n\ge2)

である。n=1n=1 では c1′=c1=cˉ1c'_1=c_1=\bar c_1(c1c_1 は実数)なのでどちらの式も成り立つ。

ステップ 4:符号 εn\varepsilon_n は nn によらない。 m≠nm\ne n をともに 22 以上とする。2 つの単位ベクトル

φ1=e1+iem+en3,φ2=e1+em+ien3\varphi_1=\frac{e_1+ie_m+e_n}{\sqrt3},\qquad\varphi_2=\frac{e_1+e_m+ie_n}{\sqrt3}

はどちらも c1=1/3>0c_1=1/\sqrt3>0 をもつ。ステップ 3 より標準代表元は φ1′=(f1+iεmfm+fn)/3\varphi'_1=(f_1+i\varepsilon_mf_m+f_n)/\sqrt3、φ2′=(f1+fm+iεnfn)/3\varphi'_2=(f_1+f_m+i\varepsilon_nf_n)/\sqrt3 である。元の内積は ⟨φ1,φ2⟩=13(1−i+i)=13\langle\varphi_1,\varphi_2\rangle=\frac13(1-i+i)=\frac13 で、像の内積は 13(1−iεm+iεn)\frac13(1-i\varepsilon_m+i\varepsilon_n) である。両者の絶対値が等しいので ∣1+i(εn−εm)∣=1|1+i(\varepsilon_n-\varepsilon_m)|=1、すなわち εn=εm\varepsilon_n=\varepsilon_m となる(εn≠εm\varepsilon_n\ne\varepsilon_m なら左辺は 5\sqrt5)。したがって ε:=εn\varepsilon:=\varepsilon_n は nn によらない。

ステップ 5:WW の構成。 ε=+1\varepsilon=+1 のとき W(∑cnen)=∑cnfnW\bigl(\sum c_ne_n\bigr)=\sum c_nf_n、ε=−1\varepsilon=-1 のとき W(∑cnen)=∑cˉnfnW\bigl(\sum c_ne_n\bigr)=\sum\bar c_nf_n と定める。{fn}\{f_n\} は正規直交基底なので、前者はユニタリ、後者は反ユニタリである。ステップ 3 の結論は、c1>0c_1>0 の単位ベクトル ψ\psi について ψ′=Wψ\psi'=W\psi が T^[ψ]\hat T[\psi] の代表元であること、すなわち T^[ψ]=[Wψ]\hat T[\psi]=[W\psi] を意味する。c1=⟨e1,ψ⟩≠0c_1=\langle e_1,\psi\rangle\ne0 の一般の単位ベクトル ψ\psi は、位相倍で c1>0c_1>0 にでき(ψ=eiθψ0\psi=e^{i\theta}\psi_0)、W(eiθψ0)=e±iθWψ0W(e^{i\theta}\psi_0)=e^{\pm i\theta}W\psi_0 は [Wψ0][W\psi_0] に属するので、c1≠0c_1\ne0 のすべての ψ\psi で T^[ψ]=[Wψ]\hat T[\psi]=[W\psi] が成り立つ。

ステップ 6:c1=0c_1=0 の ψ\psi。 単位ベクトル ψ\psi が ⟨e1,ψ⟩=0\langle e_1,\psi\rangle=0 を満たすとし、ψ′\psi' を T^[ψ]\hat T[\psi] の代表元とする。W−1W^{-1} もユニタリまたは反ユニタリ(命題 3.2 の 2)なので、η=W−1ψ′\eta=W^{-1}\psi' は単位ベクトルである。D={φ:⟨e1,φ⟩≠0}D=\{\varphi:\langle e_1,\varphi\rangle\ne0\} の任意の単位ベクトル φ\varphi について、ステップ 5 より T^[φ]=[Wφ]\hat T[\varphi]=[W\varphi] なので

∣⟨η,φ⟩∣=∣⟨Wη,Wφ⟩∣=∣⟨ψ′,Wφ⟩∣=∣⟨T^[ψ],T^[φ]⟩∣=∣⟨ψ,φ⟩∣.|\langle\eta,\varphi\rangle|=|\langle W\eta,W\varphi\rangle|=|\langle\psi',W\varphi\rangle|=|\langle\hat T[\psi],\hat T[\varphi]\rangle|=|\langle\psi,\varphi\rangle|.

両辺は φ\varphi について連続で、DD は稠密(補集合は閉超平面)なので、この等式は φ\varphi の全体で成り立つ。とくに φ⊥ψ\varphi\perp\psi なら ⟨η,φ⟩=0\langle\eta,\varphi\rangle=0、つまり η∈(ψ⊥)⊥=Cψ\eta\in(\psi^\perp)^\perp=\mathbb{C}\psi(系 3.7[Hilbert 空間の基礎])で、∥η∥=∥ψ∥=1\|\eta\|=\|\psi\|=1 より η=eiθψ\eta=e^{i\theta}\psi となる。ゆえに ψ′=Wη=e±iθWψ\psi'=W\eta=e^{\pm i\theta}W\psi で T^[ψ]=[Wψ]\hat T[\psi]=[W\psi] である。以上で存在が示された。

ステップ 7:一意性。 W1,W2W_1,W_2 がともに T^\hat T を実現するとする。X=W2−1W1X=W_2^{-1}W_1 はユニタリまたは反ユニタリで、すべての ψ≠0\psi\ne0 について Xψ=λ(ψ)ψX\psi=\lambda(\psi)\psi、∣λ(ψ)∣=1|\lambda(\psi)|=1 である。

XX が線形の場合、1 次独立な x,yx,y について X(x+y)=λ(x)x+λ(y)y=λ(x+y)(x+y)X(x+y)=\lambda(x)x+\lambda(y)y=\lambda(x+y)(x+y) より λ(x)=λ(y)=λ(x+y)\lambda(x)=\lambda(y)=\lambda(x+y) となる。1 次従属な x,y≠0x,y\ne0 は、dim⁡H≥2\dim\mathcal{H}\ge2 より両者と 1 次独立な zz をとって λ(x)=λ(z)=λ(y)\lambda(x)=\lambda(z)=\lambda(y) とできる。よって λ\lambda は定数で、X=eiθ⋅1X=e^{i\theta}\cdot1、W1=W2X=W2eiθW_1=W_2X=W_2e^{i\theta} である。これは W2W_2 が線形なら eiθW2e^{i\theta}W_2、反線形なら e−iθW2e^{-i\theta}W_2 で、いずれにせよ W2W_2 の位相倍である。

XX が反線形の場合に矛盾が起きることを示す。直交する単位ベクトル x,yx,y をとる。Xx=λ1xXx=\lambda_1x、Xy=λ2yXy=\lambda_2y とおくと、X(x+y)=λ1x+λ2y∈C(x+y)X(x+y)=\lambda_1x+\lambda_2y\in\mathbb{C}(x+y) より λ1=λ2\lambda_1=\lambda_2。一方、X(x+iy)=λ1x−iλ2y∈C(x+iy)X(x+iy)=\lambda_1x-i\lambda_2y\in\mathbb{C}(x+iy) より −iλ2=iλ1-i\lambda_2=i\lambda_1、すなわち λ2=−λ1\lambda_2=-\lambda_1。∣λ1∣=1|\lambda_1|=1 に反する。したがって、実現するのがユニタリか反ユニタリかも T^\hat T から決まり、一意性が従う。

仮定 dim⁡H≥2\dim\mathcal{H}\ge2 は、ステップ 2・3 で e2e_2 を使って符号 ε\varepsilon を定めるところと、ステップ 7 で使いました(ステップ 4 は dim⁡H≥3\dim\mathcal{H}\ge3 のときだけ中身があります)。dim⁡H=1\dim\mathcal{H}=1 では T^\hat T は恒等写像で、ユニタリ 11 と反ユニタリ KK の両方が実現になり、「どちらか」が決まりません。可分性は基底に番号を振るためだけに使いました。非可分な空間でも同じ結論が成り立ちますが、本記事では扱いません(主張のみ)。

例 4.2(複素共役は反ユニタリでしか実現できない)

H=C2\mathcal{H}=\mathbb{C}^2 で、T^[ψ]=[ψˉ]\hat T[\psi]=[\bar\psi](成分の複素共役)は対称変換です。定理 4.1 によりこれを実現する WW があります。実際、標準基底に関する複素共役 KK が反ユニタリな実現です。一方、ユニタリ UU で Uψ∈CψˉU\psi\in\mathbb{C}\bar\psi がすべての ψ\psi で成り立つものはありません。ψ=(1,0)T,(0,1)T\psi=(1,0)^{\mathsf T},(0,1)^{\mathsf T} から U=diag(a,b)U=\mathrm{diag}(a,b) となり、ψ=(1,1)T\psi=(1,1)^{\mathsf T} から a=ba=b、ψ=(1,i)T\psi=(1,i)^{\mathsf T} から (a,ia)∈C(1,−i)(a,ia)\in\mathbb{C}(1,-i) すなわち ia=−iaia=-ia、つまり a=0a=0 となって矛盾します。ステップ 7 の「ユニタリかどうかは T^\hat T から決まる」の具体例です。

連続的な対称性(回転、並進など)がつねにユニタリになる理由も、定理から直ちに出ます。

系 4.3(連結な対称変換の族はユニタリ)✓

対称変換の 1 径数族 T^t\hat T_t(t∈Rt\in\mathbb{R})が T^s+t=T^sT^t\hat T_{s+t}=\hat T_s\hat T_t を満たすなら、各 T^t\hat T_t を実現する作用素 WtW_t はユニタリに取れる。

証明(系 4.3)

T^t=T^t/2T^t/2\hat T_{t}=\hat T_{t/2}\hat T_{t/2} で、T^t/2\hat T_{t/2} は 定理 4.1 によりある Wt/2W_{t/2}(ユニタリか反ユニタリ)で実現される。すると Wt/22W_{t/2}^2 が T^t\hat T_t を実現し、これは 命題 3.2 の 3 により(反ユニタリ同士の積も、ユニタリ同士の積も)ユニタリである。

時間反転は連続的な族に属さない離散的な変換なので、この論法は使えず、実際に反ユニタリになります。

ハミルトニアン HH(自己共役)が決める時間発展を U(t)=e−itH/ℏU(t)=e^{-itH/\hbar} とします(定理 3.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群])。時間反転とは「運動を逆向きに再生する」変換で、ψ\psi を tt だけ進めたものを時間反転したものが、時間反転した ψ\psi を tt だけ戻したものに等しいことを要求します。

定義 5.1(時間反転対称)↗

反ユニタリ作用素 Θ\Theta が HH の時間反転対称性であるとは、ΘD(H)=D(H)\Theta D(H)=D(H) かつ ΘHψ=HΘψ\Theta H\psi=H\Theta\psi(ψ∈D(H)\psi\in D(H))が成り立つことをいう。このとき HH は Θ\Theta について時間反転対称であるという。

命題 5.2(時間反転は運動を逆転する。ユニタリでは不可能)✓

Θ\Theta が HH の時間反転対称性なら、すべての t∈Rt\in\mathbb{R} で Θ U(t) Θ−1=U(−t)\Theta\,U(t)\,\Theta^{-1}=U(-t) である。一方、線形なユニタリ作用素 Θ\Theta が ΘD(H)=D(H)\Theta D(H)=D(H)、ΘHψ=HΘψ\Theta H\psi=H\Theta\psi(ψ∈D(H)\psi\in D(H))を満たし、かつ ΘU(t)Θ−1=U(−t)\Theta U(t)\Theta^{-1}=U(-t) もすべての tt で満たすなら、H=0H=0 である。

この命題の証明は、作用素の定義域や自己共役性といった関数解析の道具を使うため重く見えますが、言っていることは単純で、前半は「Θ\Theta を通すと e−itH/ℏe^{-itH/\hbar} の tt が −t-t に変わる」こと、後半は「線形なユニタリでそれをやろうとすると H=0H=0 になってしまう」ことです。証明を飛ばして次の段落に進んでも、以降の節は読めます。

証明(命題 5.2)

前半。W(t)=ΘU(−t)Θ−1W(t)=\Theta U(-t)\Theta^{-1} とおく。反線形・線形・反線形の合成なので W(t)W(t) は線形で、ユニタリ、W(s)W(t)=W(s+t)W(s)W(t)=W(s+t) を満たし、Θ\Theta の連続性から強連続である。ψ∈D(H)\psi\in D(H) とし、φ=Θ−1ψ∈D(H)\varphi=\Theta^{-1}\psi\in D(H) とおく。ddsU(s)φ∣s=0=−iHφ/ℏ\frac{d}{ds}U(s)\varphi|_{s=0}=-iH\varphi/\hbar より U(−t)φ−φt→iℏHφ\frac{U(-t)\varphi-\varphi}{t}\to\frac{i}{\hbar}H\varphi (t→0)(t\to0) で、tt は実数なので Θ\Theta を通せる。Θ\Theta の反線形性で

W(t)ψ−ψt=Θ(U(−t)φ−φt)⟶Θ(iℏHφ)=−iℏΘHφ=−iℏHΘφ=−iℏHψ\frac{W(t)\psi-\psi}{t}=\Theta\Bigl(\frac{U(-t)\varphi-\varphi}{t}\Bigr)\longrightarrow\Theta\Bigl(\frac{i}{\hbar}H\varphi\Bigr)=-\frac{i}{\hbar}\Theta H\varphi=-\frac{i}{\hbar}H\Theta\varphi=-\frac{i}{\hbar}H\psi

である。Stone の定理(定理 3.1[1 径数ユニタリ群と強連続半群])より、W(t)=eitAW(t)=e^{itA} となる自己共役作用素 AA があり、上の計算は AA が −H/ℏ-H/\hbar の拡張であることを意味する。−H/ℏ-H/\hbar は自己共役で、自己共役作用素は真の対称拡張をもたない(対称な B⊃A0B\supset A_0 で A0A_0 が自己共役なら B⊂B∗⊂A0∗=A0B\subset B^*\subset A_0^*=A_0)ので、A=−H/ℏA=-H/\hbar、したがって W(t)=U(t)W(t)=U(t) となる。t→−tt\to-t とすれば ΘU(t)Θ−1=U(−t)\Theta U(t)\Theta^{-1}=U(-t) である。

後半。同じ議論を、反線形性による符号の反転がない形で繰り返す。V(t)=ΘU(t)Θ−1V(t)=\Theta U(t)\Theta^{-1} は強連続ユニタリ群で、ψ∈D(H)\psi\in D(H) に対し V(t)ψ−ψt→Θ(−iℏHΘ−1ψ)=−iℏHψ\frac{V(t)\psi-\psi}{t}\to\Theta(-\tfrac{i}{\hbar}H\Theta^{-1}\psi)=-\tfrac{i}{\hbar}H\psi だから、前半と同じ理由で V(t)=U(t)V(t)=U(t) となる。仮定より V(t)=U(−t)V(t)=U(-t) でもあるので、U(2t)=1U(2t)=1 がすべての tt で成り立つ。ψ∈D(H)\psi\in D(H) に対し 0=U(2t)ψ−ψt→−2iℏHψ0=\frac{U(2t)\psi-\psi}{t}\to-\frac{2i}{\hbar}H\psi となり、HH は D(H)D(H) 上で 00 である。すべての ψ\psi で定義された 00 作用素は HH の対称拡張なので、上と同じく HH は 00 作用素に等しい。

定理 4.1 により対称変換はユニタリか反ユニタリなので、H≠0H\ne0 の系の時間反転は反ユニタリでなければなりません。e−iHt/ℏe^{-iHt/\hbar} で t→−tt\to-t とすることが i→−ii\to-i と同じ働きをする、というのが直観的な理由です。

スピンのない粒子の状態空間は L2(R3)L^2(\mathbb{R}^3) です。位置 r\boldsymbol{r}、運動量 p=−iℏ∇\boldsymbol{p}=-i\hbar\nabla、軌道角運動量 L=r×p\boldsymbol{L}=\boldsymbol{r}\times\boldsymbol{p} のうち、時間反転で位置は変わらず、運動量と角運動量は逆向きになるはずです。これを実現する作用素を作ります。

命題 5.3(スピンのない粒子の時間反転)✓

L2(R3)L^2(\mathbb{R}^3) 上の波動関数の複素共役 (Kψ)(r)=ψ(r)‾(K\psi)(\boldsymbol{r})=\overline{\psi(\boldsymbol{r})} は反ユニタリで、K2=1K^2=1 であり、

KrK−1=r,KpK−1=−p,KLK−1=−LK\boldsymbol{r}K^{-1}=\boldsymbol{r},\qquad K\boldsymbol{p}K^{-1}=-\boldsymbol{p},\qquad K\boldsymbol{L}K^{-1}=-\boldsymbol{L}

を満たす。VV が実数値のポテンシャルで H=p2/2m+V(r)H=\boldsymbol{p}^2/2m+V(\boldsymbol{r}) が自己共役なら、KK は HH の時間反転対称性である。

証明(命題 5.3)

複素共役は反線形で、∥Kψ∥=∥ψ∥\|K\psi\|=\|\psi\|、K2=1K^2=1(よって全射)なので、命題 3.2 の 1 より反ユニタリである。KK は座標の実関数による掛け算と可換なので KrK−1=rK\boldsymbol{r}K^{-1}=\boldsymbol{r}、VV が実数値なら KVK−1=VKVK^{-1}=V である。∇\nabla は実演算子(実関数を実関数に写す)なので K∇K−1=∇K\nabla K^{-1}=\nabla で、p=−iℏ∇\boldsymbol{p}=-i\hbar\nabla に対して KpK−1=+iℏ∇=−pK\boldsymbol{p}K^{-1}=+i\hbar\nabla=-\boldsymbol{p} となる。よって KLK−1=r×(−p)=−LK\boldsymbol{L}K^{-1}=\boldsymbol{r}\times(-\boldsymbol{p})=-\boldsymbol{L}。KK は Δ\Delta の定義域 H2(R3)H^2(\mathbb{R}^3) を保つので Θ=K\Theta=K は p2\boldsymbol{p}^2 と可換で、VV とも可換だから KH=HKKH=HK である。

位置表示で言えば KK は 定理 3.3 の複素共役で、U=1U=1 の場合に当たります。

注意 5.4

位置と運動量について上の変換則をもつ反ユニタリ作用素は、位相を除いて KK に限られます。Θ′\Theta' がそうなら、X=Θ′KX=\Theta'K は線形ユニタリで r,p\boldsymbol{r},\boldsymbol{p} と可換になります。L2(R3)L^2(\mathbb{R}^3) 上で位置と運動量の両方と可換な有界作用素が定数に限られること(Schrödinger 表現の既約性)を使えば XX は定数です。この既約性は本記事では証明せず、主張のみとします。

スピン 1/21/2 の状態空間は C2\mathbb{C}^2、スピンは S=ℏ2σ\boldsymbol{S}=\tfrac{\hbar}{2}\boldsymbol{\sigma} で(命題 5.2[角運動量とスピン])、時間反転は S→−S\boldsymbol{S}\to-\boldsymbol{S} を実現しなければなりません。複素共役 KK だけでは純虚数の σy\sigma_y しか符号を変えないので、yy 軸まわりの π\pi 回転 ∝σy\propto\sigma_y を合わせます。

命題 5.5(スピン 1/2 の時間反転)✓

Θ1/2=iσy K\Theta_{1/2}=i\sigma_y\,K(KK は C2\mathbb{C}^2 の標準基底に関する複素共役)は反ユニタリで、次を満たす。

  1. Θ1/2 σj Θ1/2−1=−σj\Theta_{1/2}\,\sigma_j\,\Theta_{1/2}^{-1}=-\sigma_j(j=x,y,zj=x,y,z)。
  2. Θ1/22=−1\Theta_{1/2}^2=-1。
  3. 反ユニタリ作用素 Θ′\Theta' が Θ′σjΘ′−1=−σj\Theta'\sigma_j\Theta'^{-1}=-\sigma_j(j=x,y,zj=x,y,z)を満たすなら、Θ′=eiθΘ1/2\Theta'=e^{i\theta}\Theta_{1/2} となる実数 θ\theta が存在する。
証明(命題 5.5)

ϵ:=iσy=(01−10)\epsilon:=i\sigma_y=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix} は実ユニタリ行列なので、Θ1/2=ϵK\Theta_{1/2}=\epsilon K は 定理 3.3 により反ユニタリである。

  1. KσxK=σxK\sigma_xK=\sigma_x、KσyK=σˉy=−σyK\sigma_yK=\bar\sigma_y=-\sigma_y、KσzK=σzK\sigma_zK=\sigma_z である。σyσxσy=−σx\sigma_y\sigma_x\sigma_y=-\sigma_x、σyσyσy=σy\sigma_y\sigma_y\sigma_y=\sigma_y、σyσzσy=−σz\sigma_y\sigma_z\sigma_y=-\sigma_z(命題 5.2[角運動量とスピン] の反交換関係)なので、ϵ(KσjK)ϵ−1\epsilon(K\sigma_jK)\epsilon^{-1} は j=x,y,zj=x,y,z でそれぞれ −σx-\sigma_x、−σy-\sigma_y、−σz-\sigma_z になる。

  2. ϵ\epsilon は実行列なので KϵK=ϵK\epsilon K=\epsilon で、Θ1/22=ϵKϵK=ϵ2=−σy2=−1\Theta_{1/2}^2=\epsilon K\epsilon K=\epsilon^2=-\sigma_y^2=-1。

  3. Y=Θ′Θ1/2−1Y=\Theta'\Theta_{1/2}^{-1} は線形ユニタリ(命題 3.2 の 3)。1 から Θ1/2−1σjΘ1/2=−σj\Theta_{1/2}^{-1}\sigma_j\Theta_{1/2}=-\sigma_j なので、YσjY−1=Θ′(−σj)Θ′−1=σjY\sigma_jY^{-1}=\Theta'(-\sigma_j)\Theta'^{-1}=\sigma_j、すなわち YY は σx,σy,σz\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z と可換である。1,σx,σy,σz1,\sigma_x,\sigma_y,\sigma_z は 2×22\times2 行列の空間の基底(互いにトレース内積で直交する)なので、YY はすべての 2×22\times2 行列と可換で、単位行列の定数倍である。Y=eiθY=e^{i\theta} より Θ′=eiθΘ1/2\Theta'=e^{i\theta}\Theta_{1/2}。

3 と 命題 3.4 の 4 により、Θ1/22=−1\Theta_{1/2}^2=-1 は位相の規約によらない事実です。

スピンのある粒子の全体は L2(R3;C2)=L2(R3)⊗C2L^2(\mathbb{R}^3;\mathbb{C}^2)=L^2(\mathbb{R}^3)\otimes\mathbb{C}^2 で、時間反転は

(Θψ)(r)=iσy ψ(r)‾(\Theta\psi)(\boldsymbol{r})=i\sigma_y\,\overline{\psi(\boldsymbol{r})}

です(2 成分スピノルの各点で Θ1/2\Theta_{1/2} を、位置依存性には KK を作用させる)。命題 5.3 と 命題 5.5 から、Θ\Theta は反ユニタリで ΘrΘ−1=r\Theta\boldsymbol{r}\Theta^{-1}=\boldsymbol{r}、ΘpΘ−1=−p\Theta\boldsymbol{p}\Theta^{-1}=-\boldsymbol{p}、ΘLΘ−1=−L\Theta\boldsymbol{L}\Theta^{-1}=-\boldsymbol{L}、ΘSΘ−1=−S\Theta\boldsymbol{S}\Theta^{-1}=-\boldsymbol{S} を満たし、Θ2=(iσy)(iσy)‾=ϵ2=−1\Theta^2=(i\sigma_y)\overline{(i\sigma_y)}=\epsilon^2=-1 です。

NN 個の電子では、各電子に同じ操作をして ΘN=ϵ⊗NK\Theta_N=\epsilon^{\otimes N}K が時間反転で、ϵ\epsilon が実行列だから ΘN2=(ϵ2)⊗N=(−1)N\Theta_N^2=(\epsilon^2)^{\otimes N}=(-1)^N です。

注意 5.6

一般のスピン jj でも、標準基底(SzS_z の固有基底)では Sx,SzS_x,S_z が実行列、SyS_y が虚行列なので、Θ=e−iπSy/ℏK\Theta=e^{-i\pi S_y/\hbar}K が S→−S\boldsymbol{S}\to-\boldsymbol{S} を実現し、Θ2=e−2πiSy/ℏ\Theta^2=e^{-2\pi iS_y/\hbar} です。SyS_y も角運動量の成分なので固有値は ℏm\hbar m(m=−j,…,jm=-j,\ldots,j。定理 3.6[角運動量とスピン])であり、e−2πim=(−1)2je^{-2\pi im}=(-1)^{2j} から Θ2=(−1)2j\Theta^2=(-1)^{2j} となります。j=1/2j=1/2 のとき e−iπσy/2=−iσye^{-i\pi\sigma_y/2}=-i\sigma_y で、上の Θ1/2\Theta_{1/2} と位相を除いて一致します。

場の理論での時間反転(反ユニタリ演算子として定義される。定義 5.1[ディラック場の量子化])は、この 1 粒子の時間反転を Fock 空間に持ち上げたものです。

補題 6.1(ψ\psi と TψT\psi は直交する)✓

反ユニタリ作用素 TT が T2=−1T^2=-1 を満たすなら、すべての ψ∈H\psi\in\mathcal{H} で ⟨ψ,Tψ⟩=0\langle\psi,T\psi\rangle=0 である。

証明(補題 6.1)

反ユニタリの定義で x=ψx=\psi、y=Tψy=T\psi とすると ⟨Tψ,T2ψ⟩=⟨ψ,Tψ⟩‾\langle T\psi,T^2\psi\rangle=\overline{\langle\psi,T\psi\rangle} である。左辺は T2=−1T^2=-1 より −⟨Tψ,ψ⟩=−⟨ψ,Tψ⟩‾-\langle T\psi,\psi\rangle=-\overline{\langle\psi,T\psi\rangle} なので、a=⟨ψ,Tψ⟩a=\langle\psi,T\psi\rangle について −aˉ=aˉ-\bar a=\bar a、すなわち a=0a=0 である。

T2=+1T^2=+1 なら Tψ=ψT\psi=\psi となる ψ\psi(実ベクトル)がありますが、T2=−1T^2=-1 では Tψ=cψT\psi=c\psi から T2ψ=∣c∣2ψ≠−ψT^2\psi=|c|^2\psi\ne-\psi となり、Tψ∝ψT\psi\propto\psi は起こりません。

補題 6.2(TT で閉じた有限次元部分空間の次元)✓

反ユニタリ作用素 TT が T2=−1T^2=-1 を満たし、有限次元の部分空間 VV が TV=VTV=V を満たすなら、dim⁡V\dim V は偶数である。

証明(補題 6.2)

dim⁡V\dim V についての帰納法による。dim⁡V=0\dim V=0 は自明。dim⁡V>0\dim V>0 とし、VV の単位ベクトル ψ\psi をとる。補題 6.1 から TψT\psi は ψ\psi と直交する単位ベクトルで、しかも VV に属する。M=span{ψ,Tψ}M=\mathrm{span}\{\psi,T\psi\} は 2 次元で、Tψ↦T2ψ=−ψT\psi\mapsto T^2\psi=-\psi より TM=MTM=M である。V′=V∩M⊥V'=V\cap M^\perp とおくと dim⁡V′=dim⁡V−2\dim V'=\dim V-2 である。TV′⊂V′T V'\subset V' を示す。φ∈V′\varphi\in V'、u∈Mu\in M とする。T−1=−TT^{-1}=-T なので 命題 3.2 の 4 から ⟨u,Tφ⟩=⟨T−1u,φ⟩‾=−⟨Tu,φ⟩‾\langle u,T\varphi\rangle=\overline{\langle T^{-1}u,\varphi\rangle}=-\overline{\langle Tu,\varphi\rangle} で、Tu∈MTu\in M より右辺は 00。つまり Tφ⊥MT\varphi\perp M で、Tφ∈TV=VT\varphi\in TV=V とあわせて Tφ∈V′T\varphi\in V' である。T−1=−TT^{-1}=-T も V′V' を V′V' に写すので TV′=V′TV'=V' となり、帰納法の仮定から dim⁡V′\dim V' は偶数で、dim⁡V\dim V も偶数である。

定理 6.3(Kramers の定理)✓

HH を自己共役作用素、Θ\Theta を HH の時間反転対称性(定義 5.1)とし、Θ2=−1\Theta^2=-1 とする。このとき、HH の任意の固有値 EE について、固有空間 ker⁡(H−E)\ker(H-E) は Θ\Theta で不変であり、その次元は偶数または無限大である。とくに、固有ベクトル ψ\psi に対して Θψ\Theta\psi は同じ固有値に属し、ψ\psi と直交する。したがって HH の固有値は非縮退ではあり得ない。

証明(定理 6.3)

Hψ=EψH\psi=E\psi なら EE は実数(定理 3.5[演算子と物理量])で、Θψ∈D(H)\Theta\psi\in D(H) かつ HΘψ=ΘHψ=Θ(Eψ)=Eˉ Θψ=E ΘψH\Theta\psi=\Theta H\psi=\Theta(E\psi)=\bar E\,\Theta\psi=E\,\Theta\psi である。固有空間 ker⁡(H−E)\ker(H-E) は Θ\Theta で閉じる(Θ−1=−Θ\Theta^{-1}=-\Theta も同じ空間を保つので ΘV=V\Theta V=V)。有限次元なら 補題 6.2 から偶数次元、ψ≠0\psi\ne0 があれば 補題 6.1 から Θψ⊥ψ\Theta\psi\perp\psi、よって次元は 22 以上である。

回転対称性による縮退はそれを壊す摂動で解けますが、Kramers の縮退は時間反転が保たれる限り解けません(§8)。

系 6.4(電子数が奇数の系)✓

NN 個の電子からなる系のハミルトニアン HH(外部磁場なし、すなわち ΘNH=HΘN\Theta_N H=H\Theta_N)について、NN が奇数なら、HH のすべての固有値の重複度は偶数である。

証明(系 6.4)

ΘN2=(−1)N=−1\Theta_N^2=(-1)^N=-1(§5.2)なので、定理 6.3 を適用すればよい。

NN が偶数のときは Θ2=+1\Theta^2=+1 で、Kramers の定理は何も言いません。この場合の構造を次節で調べます。

7. Θ2=+1\Theta^2=+1 のとき:ハミルトニアンの実表示

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定理 7.1(時間反転対称なハミルトニアンの実表示)✓

H\mathcal{H} を可分な複素 Hilbert 空間、TT を反ユニタリ作用素とする。

  1. T2=+1T^2=+1 ならば、Ten=enTe_n=e_n を満たす正規直交基底 {en}\{e_n\} が存在する。この基底に関して TT は成分の複素共役 KK に等しい。さらに、TT と可換な自己共役作用素 HH(有界、または基底が D(H)D(H) に入る場合)の行列要素 ⟨em,Hen⟩\langle e_m,He_n\rangle はすべて実数である。つまり HH は実対称行列で表される。
  2. dim⁡H=2m<∞\dim\mathcal{H}=2m<\infty、T2=−1T^2=-1 とし、HH を TT と可換な Hermite 行列とする。このとき、正規直交基底 {ψ1,…,ψm,Tψ1,…,Tψm}\{\psi_1,\ldots,\psi_m,T\psi_1,\ldots,T\psi_m\} が存在し、この基底での HH の行列は
(AB−BˉAˉ),A∗=A,BT=−B\begin{pmatrix}A&B\\-\bar B&\bar A\end{pmatrix},\qquad A^{*}=A,\quad B^{\mathsf T}=-B

の形をとる(A,BA,B は m×mm\times m 複素行列)。

証明(定理 7.1)
  1. HR={ψ:Tψ=ψ}\mathcal{H}_{\mathbb{R}}=\{\psi:T\psi=\psi\} とおく。TT は反線形なので実係数の線形結合で閉じ、連続なので閉集合である。任意の ψ∈H\psi\in\mathcal{H} は
ψ=x+iy,x=12(ψ+Tψ),y=12i(ψ−Tψ)\psi=x+iy,\qquad x=\tfrac12(\psi+T\psi),\quad y=\tfrac1{2i}(\psi-T\psi)

と書ける。Tx=12(Tψ+ψ)=xTx=\frac12(T\psi+\psi)=x なので x∈HRx\in\mathcal{H}_{\mathbb{R}} で、TT の反線形性と T2=1T^2=1 から Ty=(12i)‾(Tψ−ψ)=−12i(Tψ−ψ)=yTy=\overline{\bigl(\tfrac1{2i}\bigr)}(T\psi-\psi)=\tfrac{-1}{2i}(T\psi-\psi)=y なので y∈HRy\in\mathcal{H}_{\mathbb{R}} である。x,y∈HRx,y\in\mathcal{H}_{\mathbb{R}} に対し ⟨x,y⟩=⟨Tx,Ty⟩=⟨x,y⟩‾\langle x,y\rangle=\langle Tx,Ty\rangle=\overline{\langle x,y\rangle} なので、内積は実数値である。

HR\mathcal{H}_{\mathbb{R}} は可分な距離空間 H\mathcal{H} の部分集合なので可分である。可算稠密部分集合に実係数の Gram–Schmidt(定理 6.1[内積空間とグラム・シュミット直交化])を適用して、HR\mathcal{H}_{\mathbb{R}} の閉実線形包が HR\mathcal{H}_{\mathbb{R}} に等しい正規直交系 {en}\{e_n\} を得る。これは H\mathcal{H} の正規直交基底でもある。実際、すべての ene_n と直交する ψ=x+iy\psi=x+iy では、⟨en,x⟩\langle e_n,x\rangle と ⟨en,y⟩\langle e_n,y\rangle が実数なので ⟨en,x⟩=⟨en,y⟩=0\langle e_n,x\rangle=\langle e_n,y\rangle=0 となる。x∈HRx\in\mathcal{H}_{\mathbb{R}} は {en}\{e_n\} の実線形結合 sks_k の極限で、⟨sk,x⟩=0\langle s_k,x\rangle=0 だから ⟨x,x⟩=lim⁡k⟨sk,x⟩=0\langle x,x\rangle=\lim_k\langle s_k,x\rangle=0、すなわち x=0x=0 であり、同様に y=0y=0 である。よって {en}⊥={0}\{e_n\}^\perp=\{0\} で、定理 6.4[Hilbert 空間の基礎] の 2 から {en}\{e_n\} は正規直交基底である。Ten=enTe_n=e_n と反線形性・連続性から T∑cnen=∑cˉnenT\sum c_ne_n=\sum\bar c_ne_n である。

TH=HTTH=HT とする。基底が D(H)D(H) に入るなら、反ユニタリ性 ⟨Tx,Ty⟩=⟨x,y⟩‾\langle Tx,Ty\rangle=\overline{\langle x,y\rangle} から

⟨em,Hen⟩=⟨Tem,THen⟩‾=⟨em,HTen⟩‾=⟨em,Hen⟩‾\langle e_m,He_n\rangle=\overline{\langle Te_m,THe_n\rangle}=\overline{\langle e_m,HTe_n\rangle}=\overline{\langle e_m,He_n\rangle}

となり実数である。

  1. 補題 6.2 の証明の帰納を V=HV=\mathcal{H} で最後まで進めると、H\mathcal{H} は互いに直交する 2 次元部分空間 span{ψk,Tψk}\mathrm{span}\{\psi_k,T\psi_k\}(k=1,…,mk=1,\ldots,m)の直和になり、{ψk,Tψk}\{\psi_k,T\psi_k\} が求める基底である。行列要素を Ajk=⟨ψj,Hψk⟩A_{jk}=\langle\psi_j,H\psi_k\rangle、Bjk=⟨ψj,HTψk⟩B_{jk}=\langle\psi_j,HT\psi_k\rangle とおく。HH が Hermite なので A∗=AA^*=A。右下のブロックは、HT=THHT=TH と反ユニタリ性から ⟨Tψj,HTψk⟩=⟨Tψj,THψk⟩=Ajk‾\langle T\psi_j,HT\psi_k\rangle=\langle T\psi_j,TH\psi_k\rangle=\overline{A_{jk}}。左下のブロックは ⟨Tψj,Hψk⟩=⟨Hψk,Tψj⟩‾=⟨ψk,HTψj⟩‾=Bkj‾\langle T\psi_j,H\psi_k\rangle=\overline{\langle H\psi_k,T\psi_j\rangle}=\overline{\langle\psi_k,HT\psi_j\rangle}=\overline{B_{kj}} である。最後に BB の反対称性は、T−1=−TT^{-1}=-T と 命題 3.2 の 4 から
Bjk=⟨ψj,THψk⟩=⟨T−1ψj,Hψk⟩‾=−⟨Tψj,Hψk⟩‾=−BkjB_{jk}=\langle\psi_j,TH\psi_k\rangle=\overline{\langle T^{-1}\psi_j,H\psi_k\rangle}=-\overline{\langle T\psi_j,H\psi_k\rangle}=-B_{kj}

となる。左下のブロックは (Bkj‾)jk=BˉT=−Bˉ(\overline{B_{kj}})_{jk}=\bar B^{\mathsf T}=-\bar B で、主張の形になる。

1 から、固有関数が実にとれる理由が対称性として読み取れます。

系 7.2(非縮退な準位の固有関数は実にとれる)✓

T2=+1T^2=+1、HH が TT と可換な自己共役作用素で、固有値 EE の固有空間が 1 次元なら、固有ベクトル ϕ\phi を Tϕ=ϕT\phi=\phi となるように選べる。

証明(系 7.2)

固有空間 Cψ\mathbb{C}\psi は TT で不変なので(定理 6.3 の証明と同じ)、Tψ=cψT\psi=c\psi、∣c∣=1|c|=1 と書ける。実数 α\alpha を e−2iαc=1e^{-2i\alpha}c=1 となるように選び、ϕ=eiαψ\phi=e^{i\alpha}\psi とおくと Tϕ=e−iαcψ=e−2iαc ϕ=ϕT\phi=e^{-i\alpha}c\psi=e^{-2i\alpha}c\,\phi=\phi である。

たとえば磁場のない 1 次元の束縛状態の固有関数は、位相を除いて実関数です。T2=−1T^2=-1 ではこうは行かず、固有空間は 2 次元以上で、基底は常に ψ\psi と TψT\psi の対でなければなりません。

8. 例:スピン軌道相互作用と磁場

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例 8.1(スピン軌道相互作用のある 1 電子)

質量 mm の電子が実数値のポテンシャル V(r)V(\boldsymbol{r}) の中にあり、スピン軌道相互作用をもつとします。

H=p22m+V(r)+12m2c2 S⋅(∇V×p)H=\frac{\boldsymbol{p}^2}{2m}+V(\boldsymbol{r})+\frac{1}{2m^2c^2}\,\boldsymbol{S}\cdot\bigl(\nabla V\times\boldsymbol{p}\bigr)

VV が球対称 V(r)V(r) なら ∇V=V′(r)rr\nabla V=\frac{V'(r)}{r}\boldsymbol{r} で、最後の項は V′(r)2m2c2r L⋅S\frac{V'(r)}{2m^2c^2r}\,\boldsymbol{L}\cdot\boldsymbol{S} です(水素の微細構造の項。定理 6.3[電磁場中の荷電粒子])。

Θ=iσyK\Theta=i\sigma_yK(§5.2)を作用させます。ΘSΘ−1=−S\Theta\boldsymbol{S}\Theta^{-1}=-\boldsymbol{S}、ΘpΘ−1=−p\Theta\boldsymbol{p}\Theta^{-1}=-\boldsymbol{p} で、∇V\nabla V は実関数の勾配なので Θ\Theta と可換です。したがって Θ[S⋅(∇V×p)]Θ−1=(−S)⋅(∇V×(−p))\Theta\bigl[\boldsymbol{S}\cdot(\nabla V\times\boldsymbol{p})\bigr]\Theta^{-1}=(-\boldsymbol{S})\cdot(\nabla V\times(-\boldsymbol{p})) で、符号が 2 回出て元に戻ります。p2/2m+V\boldsymbol{p}^2/2m+V も不変なので、HH は時間反転対称です。Θ2=−1\Theta^2=-1 なので、定理 6.3 により HH のすべての固有値は偶数重に縮退します。

VV は回転対称でなくてかまいません。結晶場の中の不純物原子のように J\boldsymbol{J} も mjm_j も保存されない場合でも、束縛状態の準位は ψ\psi と Θψ\Theta\psi の対として 2 重以上に縮退します。スピン軌道相互作用がなければこれは単にスピンの上下ですが、相互作用があるとスピンは軌道と混ざり、縮退を守るのは時間反転だけになります。

周期ポテンシャル中の Bloch 電子では、Θ\Theta が波数 k\boldsymbol{k} の状態を −k-\boldsymbol{k} の状態に写すので、時間反転から言えるのは「k\boldsymbol{k} の状態と −k-\boldsymbol{k} の状態が対になって同じエネルギーをもつ」ことだけです。各 k\boldsymbol{k} での 2 重縮退には空間反転対称性も必要です。

磁場が加わるとどうなるでしょうか。磁場は時間反転で符号を変える量です(電流が逆向きになるため)。

命題 8.2(時間反転で偶な摂動と奇な摂動)✓

H0H_0 を時間反転対称、Θ2=−1\Theta^2=-1 とし、E0E_0 を H0H_0 の固有値で固有空間が span{ψ,Θψ}\mathrm{span}\{\psi,\Theta\psi\}(ψ\psi は単位ベクトル、2 次元)であるとする。MM を有界な自己共役作用素とする。

  1. ΘMΘ−1=M\Theta M\Theta^{-1}=M(偶)なら、H0+λMH_0+\lambda M もすべての実数 λ\lambda について時間反転対称で、そのすべての固有値は偶数重である。とくに E0E_0 から分かれて出る準位は 2 重縮退を保つ。
  2. ΘMΘ−1=−M\Theta M\Theta^{-1}=-M(奇)なら、λ\lambda の 1 次で準位は E0±λa2+∣b∣2E_0\pm\lambda\sqrt{a^2+|b|^2} に分かれる。ここで a=⟨ψ,Mψ⟩a=\langle\psi,M\psi\rangle、b=⟨ψ,MΘψ⟩b=\langle\psi,M\Theta\psi\rangle。準位の中心 E0E_0 は 1 次ではずれない。分裂が消えるのは a=b=0a=b=0 のときに限る。
証明(命題 8.2)
  1. Θ(H0+λM)=(H0+λM)Θ\Theta(H_0+\lambda M)=(H_0+\lambda M)\Theta なので(λ\lambda は実数)、定理 6.3 が H0+λMH_0+\lambda M に適用できる。

  2. {ψ,Θψ}\{\psi,\Theta\psi\} は正規直交基底である(補題 6.1)。縮退部分空間での 1 次摂動は、MM をこの部分空間へ射影した 2×22\times2 行列の固有値で決まる(定理 5.2[摂動論])。ΘM=−MΘ\Theta M=-M\Theta を使うと、⟨Θψ,MΘψ⟩=−⟨Θψ,ΘMψ⟩=−⟨ψ,Mψ⟩‾=−a\langle\Theta\psi,M\Theta\psi\rangle=-\langle\Theta\psi,\Theta M\psi\rangle=-\overline{\langle\psi,M\psi\rangle}=-a(MM は自己共役なので aa は実数)、⟨ψ,MΘψ⟩=b\langle\psi,M\Theta\psi\rangle=b、⟨Θψ,Mψ⟩=⟨Mψ,Θψ⟩‾=bˉ\langle\Theta\psi,M\psi\rangle=\overline{\langle M\psi,\Theta\psi\rangle}=\bar b である。行列は

(abbˉ−a)\begin{pmatrix}a&b\\\bar b&-a\end{pmatrix}

でトレースが 00、行列式が −(a2+∣b∣2)-(a^2+|b|^2) なので、固有値は ±a2+∣b∣2\pm\sqrt{a^2+|b|^2} である。

例 8.3(ナトリウム 3p1/23p_{1/2} 準位の Zeeman 分裂)

ナトリウムの 32P1/23^2P_{1/2}(l=1l=1、j=1/2j=1/2。例 5.6[電磁場中の荷電粒子])は、スピン軌道相互作用を含むハミルトニアンの下で 2j+1=22j+1=2 重に縮退した準位で、Kramers の対は ψ=∣j=12,m=12⟩\psi=|j=\tfrac12,m=\tfrac12\rangle と Θψ∝∣j=12,m=−12⟩\Theta\psi\propto|j=\tfrac12,m=-\tfrac12\rangle です(ΘJzΘ−1=−Jz\Theta J_z\Theta^{-1}=-J_z なので Θψ\Theta\psi は JzJ_z の固有値 −ℏ/2-\hbar/2 をもつ)。一様磁場 B=Bz^\boldsymbol{B}=B\hat{\boldsymbol{z}} の Zeeman 項

M=μBBℏ(Lz+2Sz)M=\frac{\mu_{\mathrm B}B}{\hbar}(L_z+2S_z)

は ΘMΘ−1=−M\Theta M\Theta^{-1}=-M(奇)です。多重項の中では MM は gJμBBJz/ℏg_J\mu_{\mathrm B}BJ_z/\hbar と同じ行列要素をもち(系 5.5[電磁場中の荷電粒子])、l=1l=1、s=j=12s=j=\tfrac12 の Landé の因子は

g1/2=1+34−2+342⋅34=23g_{1/2}=1+\frac{\tfrac34-2+\tfrac34}{2\cdot\tfrac34}=\frac23

です。したがって a=12g1/2μBB=13μBBa=\tfrac12g_{1/2}\mu_{\mathrm B}B=\tfrac13\mu_{\mathrm B}B、b=0b=0(JzJ_z の異なる固有値の状態の間)で、命題 8.2 から準位は ±13μBB\pm\tfrac13\mu_{\mathrm B}B に分かれます。B→0B\to0 で 2 つの準位は合流して 2 重縮退に戻ります。

BEB = 0: 各準位が ψ と Θψ の 2 重縮退+ g m μB B− g m μB B傾きは準位ごとの g で異なる
Kramers 縮退と磁場。B=0 では各準位が ψ と Θψ の対で 2 重縮退し、Θ に対して奇な磁場を加えると、対は中心を保ったまま B に比例して上下に分かれる(傾きは準位ごとの g 因子で決まる)。

注意 8.4

証明を省いた主張は、Wigner の定理の非可分空間への拡張、注意 5.4 の既約性、無限次元で Θ2=−1\Theta^2=-1 のときの 定理 7.1 の 2 に当たるブロック形の 3 つで、いずれも本記事の定理の証明には使っていません。

演習 9.1易

Θ=iσyK\Theta=i\sigma_yK が作用する C2\mathbb{C}^2 で、Θ(α,β)T\Theta(\alpha,\beta)^{\mathsf T} を求め、Θ2=−1\Theta^2=-1 を確かめよ。さらに、実数 h0h_0 と実ベクトル h\boldsymbol{h} による H=h0+h⋅σH=h_0+\boldsymbol{h}\cdot\boldsymbol{\sigma} が Θ\Theta について時間反転対称であるための条件を求め、その結果が Kramers の定理と整合することを説明せよ。

解答

iσy=(01−10)i\sigma_y=\begin{pmatrix}0&1\\-1&0\end{pmatrix} なので Θ(α,β)T=(βˉ,−αˉ)T\Theta(\alpha,\beta)^{\mathsf T}=(\bar\beta,-\bar\alpha)^{\mathsf T} である。もう一度かけると Θ(βˉ,−αˉ)T=(−α,−β)T\Theta(\bar\beta,-\bar\alpha)^{\mathsf T}=(-\alpha,-\beta)^{\mathsf T} で、Θ2=−1\Theta^2=-1。

ΘHΘ−1=h0+h⋅ΘσΘ−1=h0−h⋅σ\Theta H\Theta^{-1}=h_0+\boldsymbol{h}\cdot\Theta\boldsymbol{\sigma}\Theta^{-1}=h_0-\boldsymbol{h}\cdot\boldsymbol{\sigma}(h0,hh_0,\boldsymbol{h} は実数なので Θ\Theta を通しても変わらず、ΘσjΘ−1=−σj\Theta\sigma_j\Theta^{-1}=-\sigma_j を 命題 5.5 で使う)。これが HH に等しいのは h=0\boldsymbol{h}=0、すなわち H=h0⋅1H=h_0\cdot1 のときに限り、その固有値は 2 重縮退している。これが Kramers の定理の主張そのものである。h≠0\boldsymbol{h}\ne0 なら固有値 h0±∣h∣h_0\pm|\boldsymbol{h}| は縮退しないが、h⋅σ\boldsymbol{h}\cdot\boldsymbol{\sigma} は Zeeman 項と同じく時間反転で奇なので、矛盾しない。

演習 9.2標準

スピン 1 の状態空間 C3\mathbb{C}^3 で、デカルト基底 ∣x⟩,∣y⟩,∣z⟩|x\rangle,|y\rangle,|z\rangle をとり、スピン行列を (Sa)jk=−iεajk(S_a)_{jk}=-i\varepsilon_{ajk}(ℏ=1\hbar=1)とする。

(1) Θ=K\Theta=K(この基底での複素共役)が ΘSΘ−1=−S\Theta\boldsymbol{S}\Theta^{-1}=-\boldsymbol{S} と Θ2=+1\Theta^2=+1 を満たすことを示せ。

(2) H=DSz2+E(Sx2−Sy2)H=DS_z^2+E(S_x^2-S_y^2)(D,ED,E は実数)の固有値を求め、E≠0E\ne0、D≠±ED\ne\pm E のとき縮退しないことを示せ。これが Kramers の定理と矛盾しない理由を述べよ。

解答

(1) SaS_a は純虚数の行列なので KSaK=Sˉa=−SaKS_aK=\bar S_a=-S_a で、Θ=K\Theta=K は ΘSΘ−1=−S\Theta\boldsymbol{S}\Theta^{-1}=-\boldsymbol{S} を満たす。K2=1K^2=1 なので Θ2=+1\Theta^2=+1 である。

(2) (Sa2)jl=∑k(−iεajk)(−iεakl)=−∑kεajkεakl=δjl−δjaδla(S_a^2)_{jl}=\sum_k(-i\varepsilon_{ajk})(-i\varepsilon_{akl})=-\sum_k\varepsilon_{ajk}\varepsilon_{akl}=\delta_{jl}-\delta_{ja}\delta_{la} である。ここで ∑kεajkεakl=−∑kεajkεalk=−(δjl−δjaδla)\sum_k\varepsilon_{ajk}\varepsilon_{akl}=-\sum_k\varepsilon_{ajk}\varepsilon_{alk}=-(\delta_{jl}-\delta_{ja}\delta_{la}) を使った。したがって Sa2=1−∣a⟩⟨a∣S_a^2=1-|a\rangle\langle a| で、Sz2=diag(1,1,0)S_z^2=\mathrm{diag}(1,1,0)、Sx2=diag(0,1,1)S_x^2=\mathrm{diag}(0,1,1)、Sy2=diag(1,0,1)S_y^2=\mathrm{diag}(1,0,1) となる(基底の順は x,y,zx,y,z)。よって H=diag(D−E, D+E, 0)H=\mathrm{diag}(D-E,\ D+E,\ 0) で、固有値は D−E, D+E, 0D-E,\,D+E,\,0(固有ベクトルはそれぞれ ∣x⟩,∣y⟩,∣z⟩|x\rangle,|y\rangle,|z\rangle)である。条件のもとで 3 つは相異なる。HH は Θ=K\Theta=K について時間反転対称(行列が実)で、Θ2=+1\Theta^2=+1 なので、Kramers の定理は適用されず、非縮退でよい。定理 7.1 の 1 が言う実対称行列表示も確認できる。

  • E. P. Wigner, Group Theory and Its Application to the Quantum Mechanics of Atomic Spectra, Academic Press, 1959 — 時間反転と Kramers の定理は第 26 章。原著は Gruppentheorie und ihre Anwendung auf die Quantenmechanik der Atomspektren, Vieweg, 1931。
  • E. P. Wigner, “Über die Operation der Zeitumkehr in der Quantenmechanik”, Nachrichten von der Gesellschaft der Wissenschaften zu Göttingen (1932), 546–559.
  • V. Bargmann, “Note on Wigner’s theorem on symmetry operations”, Journal of Mathematical Physics 5 (1964), 862–868.
  • S. Weinberg, The Quantum Theory of Fields, Vol. 1, Cambridge University Press, 1995 — 第 2 章(Wigner の定理と時間反転)。
  • J. J. Sakurai, J. Napolitano, Modern Quantum Mechanics, 2nd ed., Cambridge University Press, 2017 — 第 4 章(離散対称性と時間反転、Kramers 縮退)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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