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ハドロンとクォーク模型:保存則・アイソスピン・SU(3) からクォークの存在まで

対象読者: 学部の量子力学(角運動量とスピンの合成)と特殊相対論、および本テーマ第 1 章の原子核の結合エネルギーを学んだ人。群論や素粒子の知識は仮定しません。

前提となる記事:原子核:結合エネルギーの質量公式から、殻模型・α/β/γ 崩壊・核反応まで、角運動量とスピン:交換関係から固有値・パウリ行列・合成則を導く、相対論的力学:4元運動量が語る E=mc² の意味

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陽子や中性子のほかにも、加速器や宇宙線の実験では数百種類もの粒子が見つかりました。この記事は、それらがばらばらの粒子ではなく、少数の部品(クォーク)の組合せとして整理できることを、保存則・対称性・簡単な計算で順に確かめていく話です。読み終えると、ある反応が起こるかどうかを量子数の足し算で判定でき、断面積の比や磁気モーメントの比を計算で予言できるようになります。次の箇条書きの用語は本文で一つずつ導入するので、最初からすべて分かる必要はありません。

  • ハドロン(強い相互作用をする粒子。陽子・中性子・パイ中間子など)は、バリオン数(陽子や中性子の仲間を数える量)・ストレンジネス(KK 中間子や Λ\Lambda などが持つ「奇妙さ」の量子数)・電荷などの量子数で分類され、強い相互作用は アイソスピン II(陽子と中性子を同じ粒子の別の状態とみなす量)とストレンジネス SS を保存し、弱い相互作用は SS を保存しません。この違いが寿命の桁(10−23 s10^{-23}\,\mathrm s と 10−10 s10^{-10}\,\mathrm s)を分けます。
  • アイソスピンの代数は角運動量と同じ su(2)\mathfrak{su}(2) です。合成則だけから、Δ(1232)\Delta(1232) 共鳴の断面積比 σ(π+p):σ(π−p)=3:1\sigma(\pi^+p):\sigma(\pi^-p)=3:1 が出ます。
  • アイソスピンを SU(3)\mathrm{SU}(3) に拡張したフレーバー SU(3)\mathrm{SU}(3) では、3⊗3ˉ=8⊕1\mathbf 3\otimes\bar{\mathbf 3}=\mathbf 8\oplus\mathbf 1(メソン八重項と一重項)、3⊗3⊗3\mathbf 3\otimes\mathbf 3\otimes\mathbf 3 が 10⊕8⊕8⊕1\mathbf{10}\oplus\mathbf 8\oplus\mathbf 8\oplus\mathbf 1 と分解することを、不変部分空間の構成として証明できます。Ω−\Omega^- の質量はクォーク質量の差から予言されました。
  • クォーク模型は、陽子・中性子の磁気モーメント比 μn/μp=−2/3\mu_n/\mu_p=-2/3(実測 −0.685-0.685)を説明します。一方 Δ++=uuu\Delta^{++}=uuu はパウリの原理に反するので、クォークは 色 という新しい自由度を持たねばならず、e+e−→e^+e^-\to ハドロンの断面積比 RR が色の数 33 を決めます。
  • 崩壊幅・断面積の計算に要る運動学(2 体崩壊の運動量、マンデルスタム変数、寿命と幅の関係、ブライト–ウィグナー共鳴)を整理します。

1950 年代、加速器と宇宙線の実験から、陽子・中性子・パイ中間子のほかに、KK 中間子、Λ\Lambda、Σ\Sigma、Ξ\Xi、Δ\Delta といった数百種類の粒子(ハドロン)が見つかりました。これらを全部「素粒子」とみなすと、整理がつきません。ところが、ハドロンを電荷や奇妙さなどの量子数で並べると、質量のほぼ等しい粒子の組(多重項)が現れ、その配置がある対称性群の表現の形をしていることに気づかれました(ゲルマンの「八道説」、1961)。さらに 1964 年、ゲルマンとツヴァイクは、その表現が 3 種類の基本的な構成要素(クォーク)の組合せで説明できることを指摘しました。

この記事では、「保存則」「アイソスピン」「フレーバー SU(3)\mathrm{SU}(3)」の順に対称性を積み上げ、最後にそれを背後で支えるクォーク模型と色の自由度を扱います。使う数学は、角運動量の代数(角運動量とスピン)と、行列の対角化(対角化とジョルダン標準形)が中心です。クォークは単独では取り出されない(閉じ込め)ため、ここで述べる結論は「ハドロンのスペクトルと反応から間接的にクォークの存在を示す」論法になります。単位は ℏ=c=1\hbar=c=1 を併用し、必要なとき戻します。

定義 2.1(ハドロンの量子数)↗

ハドロンには次の量子数が割り当てられる。

  • 電荷 QQ(ee を単位とする)。
  • バリオン数 BB:バリオンは +1+1、反バリオンは −1-1、メソンは 00。
  • ストレンジネス SS:K+,K0K^+,K^0 は +1+1、Λ,Σ\Lambda,\Sigma は −1-1、Ξ\Xi は −2-2、Ω−\Omega^- は −3-3、陽子・中性子・π\pi は 00。
  • ハイパーチャージ Y=B+SY=B+S。
  • アイソスピン (I,I3)(I,I_3):荷電多重項(質量がほぼ等しい粒子の組)に対し、su(2)\mathfrak{su}(2) の表現として 2I+12I+1 個の状態を持つ(後述)。
  • ゲル・マン–西島の関係:Q=I3+Y2Q=I_3+\dfrac Y2。

たとえば陽子は (B,S,I,I3)=(1,0,12,12)(B,S,I,I_3)=(1,0,\tfrac12,\tfrac12) で Q=12+12=1Q=\tfrac12+\tfrac12=1、中性子は I3=−12I_3=-\tfrac12 で Q=0Q=0、Λ\Lambda は (1,−1,0,0)(1,-1,0,0) で Q=0+02=0Q=0+\tfrac{0}{2}=0(Y=0Y=0)、K+K^+ は (0,+1,12,12)(0,+1,\tfrac12,\tfrac12) で Y=1Y=1、Q=12+12=1Q=\tfrac12+\tfrac12=1 です。

定義 2.2(保存則の適用範囲)↗

次の保存量は、相互作用ごとに次のように保存される。

量強い相互作用電磁相互作用弱い相互作用
QQ、BB、レプトン数保存保存保存
SS(YY)保存保存ΔS=0,±1\Delta S=0,\pm1
II保存ΔI3=0\Delta I_3=0(II は破れる)II も I3I_3 も破れる

この表は 実験事実で、各行の保存は、その相互作用を記述する理論がもつ対称性(第 4 章の標準模型)として後に理解されます。ストレンジネスの保存は、KK や Λ\Lambda が 対で生成される(連合生成)という観測を最初に説明しました。

例 2.3(連合生成と寿命の階層)

π−+p→K0+Λ\pi^-+p\to K^0+\Lambda は強い相互作用で起こります。始状態は S=0S=0、終状態は S=+1+(−1)=0S=+1+(-1)=0 で、BB、QQ も保存されます。一方、π−+p→K0+n\pi^-+p\to K^0+n は S=+1S=+1 なので強い相互作用では起こりません。生成された Λ\Lambda は、Λ→p+π−\Lambda\to p+\pi^- と崩壊しますが、この崩壊は ΔS=1\Delta S=1 なので、強い相互作用では禁止され、弱い相互作用のみで起こります。平均寿命は 2.6×10−10 s2.6\times10^{-10}\,\mathrm s で、強い相互作用による共鳴 Δ(1232)\Delta(1232) の約 6×10−24 s6\times10^{-24}\,\mathrm s より 101410^{14} 倍長いのです。電磁崩壊 π0→γγ\pi^0\to\gamma\gamma の寿命は 8.5×10−17 s8.5\times10^{-17}\,\mathrm s で、その中間にあります。寿命は、どの相互作用で崩壊するかを示す指標です。

陽子と中性子の質量は 0.1%0.1\% しか違いません(938.3938.3 と 939.6 MeV939.6\,\mathrm{MeV})。核力の電荷独立性(陽子–陽子、中性子–中性子、陽子–中性子の核力がほぼ等しい)と合わせて、ハイゼンベルク(1932)は、陽子と中性子を同じ粒子「核子」の 2 つの状態とみなす考えを提案しました。核子を 2 成分の状態 (pn)\binom{p}{n} とみなすと、その上のユニタリ変換 SU(2)\mathrm{SU}(2) に対して強い相互作用が不変である、という形で書けます。

定義 3.1(アイソスピン)↗

アイソスピンの演算子 I=(I1,I2,I3)\boldsymbol I=(I_1,I_2,I_3) は、角運動量と同じ交換関係 [Ia,Ib]=iϵabcIc[I_a,I_b]=i\epsilon_{abc}I_c をみたす。強い相互作用のハミルトニアンは I\boldsymbol I の各成分と可換とする。固有状態 ∣I,I3⟩|I,I_3\rangle は I2=I(I+1)\boldsymbol I^2=I(I+1)、I3I_3 の固有値をもち、同じ II の状態は強い相互作用で縮退する(電磁相互作用が mp≠mnm_p\ne m_n などの質量差を与える)。

アイソスピンの代数が角運動量と同じなので、角運動量の固有値(定理 3.6)[角運動量とスピン] と 合成則(定理 6.2)[角運動量とスピン] がそのまま使えます。つまり II は整数または半整数で、2 つの系の合成の II は ∣I1−I2∣|I_1-I_2| から I1+I2I_1+I_2 までです。核子は I=12I=\tfrac12、π+,π0,π−\pi^+,\pi^0,\pi^- は I=1I=1 の 3 重項(I3=+1,0,−1I_3=+1,0,-1)、Δ(1232)\Delta(1232) は I=32I=\tfrac32 の 4 重項(Δ++,Δ+,Δ0,Δ−\Delta^{++},\Delta^+,\Delta^0,\Delta^-)です。

次の定理のねらいは、パイ中間子と陽子の散乱を、アイソスピンの値ごとの成分に分けて考えることにあります。強い相互作用はアイソスピン II を保存するので、散乱の前後で II は変わらず、II ごとに別々の強さ(振幅)が決まります。π+p\pi^+p と π−p\pi^-p では、それぞれの状態がどの II をどれだけ含むかが違い、その違いが断面積の比になります。証明は、角運動量の合成と同じ手順で、昇降演算子を使って I=32I=\tfrac32 の状態を順に作ります。

定理 3.2(Δ\Delta 共鳴での断面積比)✓

パイ中間子と核子の散乱 πN\pi N のエネルギーが I=32I=\tfrac32 のチャンネルの共鳴 Δ(1232)\Delta(1232) の付近にあり、I=12I=\tfrac12 の寄与が無視できるならば、終状態の電荷の組をすべて足した全断面積について

σ(π+p)σ(π−p)=3\frac{\sigma(\pi^+p)}{\sigma(\pi^-p)}=3

である。ただし π+p\pi^+p は純粋な I=32I=\tfrac32 状態、π−p\pi^-p は I=32I=\tfrac32 を確率 13\tfrac13、I=12I=\tfrac12 を確率 23\tfrac23 で含む。

証明(定理 3.2)

アイソスピンの合成 1⊗121\otimes\tfrac12 の固有状態を、昇降演算子 I±=I1±iI2I_\pm=I_1\pm iI_2 から作る。I−∣I,m⟩=I(I+1)−m(m−1) ∣I,m−1⟩I_-|I,m\rangle=\sqrt{I(I+1)-m(m-1)}\,|I,m-1\rangle (昇降演算子の基本関係(補題 3.5)[角運動量とスピン])である。パイ中間子の状態を ∣1,m⟩|1,m\rangle、核子を ∣↑⟩=p|\uparrow\rangle=p、∣↓⟩=n|\downarrow\rangle=n と書く。π+p=∣1,1⟩∣↑⟩\pi^+p=|1,1\rangle|\uparrow\rangle は I3=32I_3=\tfrac32 で、I3=32I_3=\tfrac32 の状態はこれ 1 つしかなく I≥32I\ge\tfrac32 でなければならないから、これは合成 I=32I=\tfrac32 の最高状態 ∣32,32⟩|\tfrac32,\tfrac32\rangle に等しい。 全体の I−=I−(π)+I−(N)I_-=I_-^{(\pi)}+I_-^{(N)} を作用させる。左辺は 15/4−3/4=3\sqrt{15/4-3/4}=\sqrt3 を掛けて ∣32,12⟩|\tfrac32,\tfrac12\rangle になり、右辺は 2∣1,0⟩∣↑⟩+∣1,1⟩∣↓⟩\sqrt2|1,0\rangle|\uparrow\rangle+|1,1\rangle|\downarrow\rangle になる。よって

∣32,12⟩=23 ∣1,0⟩∣↑⟩+13 ∣1,1⟩∣↓⟩.|\tfrac32,\tfrac12\rangle=\sqrt{\tfrac23}\,|1,0\rangle|\uparrow\rangle+\sqrt{\tfrac13}\,|1,1\rangle|\downarrow\rangle.

もう一度 I−I_- を作用させる。左辺の係数は 15/4−(1/2)(−1/2)=2\sqrt{15/4-(1/2)(-1/2)}=2、右辺は I−∣1,0⟩=2∣1,−1⟩I_-|1,0\rangle=\sqrt2|1,-1\rangle、I−∣1,1⟩=2∣1,0⟩I_-|1,1\rangle=\sqrt2|1,0\rangle、I−∣↑⟩=∣↓⟩I_-|\uparrow\rangle=|\downarrow\rangle なので

2∣32,−12⟩=23(2∣1,−1⟩∣↑⟩+∣1,0⟩∣↓⟩)+132 ∣1,0⟩∣↓⟩=23∣1,−1⟩∣↑⟩+223∣1,0⟩∣↓⟩.2|\tfrac32,-\tfrac12\rangle=\sqrt{\tfrac23}\bigl(\sqrt2|1,-1\rangle|\uparrow\rangle+|1,0\rangle|\downarrow\rangle\bigr)+\sqrt{\tfrac13}\sqrt2\,|1,0\rangle|\downarrow\rangle=\frac{2}{\sqrt3}|1,-1\rangle|\uparrow\rangle+2\sqrt{\tfrac23}|1,0\rangle|\downarrow\rangle.

したがって ∣32,−12⟩=13 π−p+23 π0n|\tfrac32,-\tfrac12\rangle=\tfrac1{\sqrt3}\,\pi^-p+\sqrt{\tfrac23}\,\pi^0n である。π−p\pi^-p の I=32I=\tfrac32 成分への射影の係数は 13\tfrac1{\sqrt3} なので、確率は 13\tfrac13、残る 23\tfrac23 は直交する I=12I=\tfrac12 成分である。

強い相互作用は II を保存するから、遷移演算子は T=T3/2P3/2+T1/2P1/2T=T_{3/2}P_{3/2}+T_{1/2}P_{1/2}(PIP_I は全アイソスピン II への射影、TIT_I は数)と書ける。始状態 ii から、同じ I3I_3 の終状態 ff(π−p\pi^-p なら π−p\pi^-p と π0n\pi^0n)への遷移確率を ff について足すと、完全性により ∑f∣⟨f∣T∣i⟩∣2=⟨i∣T†T∣i⟩=∣T3/2∣2⟨i∣P3/2∣i⟩+∣T1/2∣2⟨i∣P1/2∣i⟩\sum_f|\langle f|T|i\rangle|^2=\langle i|T^\dagger T|i\rangle=|T_{3/2}|^2\langle i|P_{3/2}|i\rangle+|T_{1/2}|^2\langle i|P_{1/2}|i\rangle となる。π+p\pi^+p では ⟨P3/2⟩=1\langle P_{3/2}\rangle=1、⟨P1/2⟩=0\langle P_{1/2}\rangle=0 なので σ(π+p)∝∣T3/2∣2\sigma(\pi^+p)\propto|T_{3/2}|^2。π−p\pi^-p では σ(π−p)∝13∣T3/2∣2+23∣T1/2∣2\sigma(\pi^-p)\propto\tfrac13|T_{3/2}|^2+\tfrac23|T_{1/2}|^2。∣T1/2∣≪∣T3/2∣|T_{1/2}|\ll|T_{3/2}| なら、比は 33 である。

注意 3.3(弾性散乱だけで比べると)

π−p\pi^-p の弾性散乱の振幅は 13T3/2+23T1/2\tfrac13T_{3/2}+\tfrac23T_{1/2}、荷電交換 π−p→π0n\pi^-p\to\pi^0n の振幅は 23(T3/2−T1/2)\tfrac{\sqrt2}3(T_{3/2}-T_{1/2}) です(上の射影の係数から)。共鳴の中心 T1/2→0T_{1/2}\to0 では、弾性が 19∣T3/2∣2\tfrac19|T_{3/2}|^2、荷電交換が 29∣T3/2∣2\tfrac29|T_{3/2}|^2 で、合計 13∣T3/2∣2\tfrac13|T_{3/2}|^2 は定理と一致します。弾性だけで比べると 9:19:1 になるので、実験の比較では終状態を区別せず足した全断面積を使います。

実測では、Δ\Delta のピーク付近の π+p\pi^+p の全断面積は約 200 mb200\,\mathrm{mb}、π−p\pi^-p は約 70 mb70\,\mathrm{mb} で、比は約 33 です。さらに、ピークの高さは第 6 節のブライト–ウィグナーの公式で説明できます。

1960 年代初め、KK や Λ\Lambda の発見により、u,du,d の 2 つのフレーバーだけでは足りなくなりました。ストレンジネスを担うクォーク ss を加えて、3 つのフレーバー (u,d,s)(u,d,s) に対して SU(3)\mathrm{SU}(3) 変換を考えます。

定義 4.1(フレーバー SU(3))↗

3 次元複素ベクトル空間 C3\mathbb C^3 の基底を q1=u, q2=d, q3=sq_1=u,\ q_2=d,\ q_3=s とする。SU(3)\mathrm{SU}(3) の元 UU は qi↦∑jUjiqjq_i\mapsto\sum_jU_{ji}q_j と作用する(基本表現 3\mathbf 3)。反クォークは複素共役表現 3ˉ\bar{\mathbf 3} で、qˉi↦∑jUji‾ qˉj\bar q_i\mapsto\sum_j\overline{U_{ji}}\,\bar q_j と作用する。対角のカルタン生成子は

I3=diag(12,−12,0),Y=diag(13,13,−23)I_3=\mathrm{diag}\bigl(\tfrac12,-\tfrac12,0\bigr),\qquad Y=\mathrm{diag}\bigl(\tfrac13,\tfrac13,-\tfrac23\bigr)

で、状態の固有値の組 (I3,Y)(I_3,Y) を ウェイトという。Q=I3+Y/2Q=I_3+Y/2 により u,d,su,d,s の電荷は 23,−13,−13\tfrac23,-\tfrac13,-\tfrac13 になる。

クォークは B=13B=\tfrac13 をもち、ss は S=−1S=-1(Y=B+S=−23Y=B+S=-\tfrac23)、u,du,d は S=0S=0(Y=13Y=\tfrac13)です。複合粒子のウェイトは構成要素のウェイトの和で、反クォークは符号が反転します。

定理 4.2(クォークと反クォークの合成)✓

3⊗3ˉ\mathbf 3\otimes\bar{\mathbf 3} は、SU(3)\mathrm{SU}(3) の作用で不変な 1 次元部分空間(一重項)と、既約な 8 次元部分空間(八重項)の直和に分解する。一重項は 13(uuˉ+ddˉ+ssˉ)\tfrac1{\sqrt3}(u\bar u+d\bar d+s\bar s) で張られる。

この定理は、9 個のクォーク・反クォーク対 qiqˉjq_i\bar q_j が 8 個と 1 個の組に分かれる、という主張です。ここでの qiq_i は個々の粒子というより、フレーバーを表す 3 次元の状態ベクトルの基底で、SU(3)\mathrm{SU}(3) はそれらを混ぜる変換です。証明の方針は 3 段階です。(1) 対を 3×33\times3 行列とみなすと、変換は M↦UMU†M\mapsto UMU^\dagger になる。(2) 単位行列とトレース零の行列がそれぞれ変換で閉じる。(3) トレース零の部分がそれ以上分けられないこと(既約)を、行列単位どうしの交換子で確かめる。(3) は少し長いので、初めて読むときは結論(8 個と 1 個に分かれること)だけ追っても、先の節は読めます。

証明(定理 4.2)

3⊗3ˉ\mathbf 3\otimes\bar{\mathbf 3} の元 ∑ijMij qiqˉj\sum_{ij}M_{ij}\,q_i\bar q_j を 3×33\times3 行列 MM と同一視する。UU の作用は qiqˉj↦∑klUkiUlj‾ qkqˉlq_i\bar q_j\mapsto\sum_{kl}U_{ki}\overline{U_{lj}}\,q_k\bar q_l なので、M↦UMU†M\mapsto UMU^\dagger である(随伴表現)。

(i) 単位行列 1\mathbb 1 は U1U†=1U\mathbb 1U^\dagger=\mathbb 1 で不変、これが一重項 13∑iqiqˉi\tfrac1{\sqrt3}\sum_iq_i\bar q_i である。トレース tr M\mathrm{tr}\,M は不変量なので、trM=0\mathrm{tr}M=0 の部分空間 WW(次元 88)も不変であり、3⊗3ˉ=C1⊕W\mathbf 3\otimes\bar{\mathbf 3}=\mathbb C\mathbb 1\oplus W を得る。

(ii) WW が既約であることを示す。WW の不変な部分空間 V′≠0V'\ne0 をとる。SU(3)\mathrm{SU}(3) の作用の微分から、V′V' は交換子 M↦[X,M]M\mapsto[X,M](XX はトレース零のエルミート行列、およびその複素線形結合として任意のトレース零行列)で閉じる。行列単位 eije_{ij} について [eij,ekl]=δjkeil−δliekj[e_{ij},e_{kl}]=\delta_{jk}e_{il}-\delta_{li}e_{kj} が成り立つ。 M∈V′M\in V' に対して、対角行列 H=diag(h1,h2,h3)H=\mathrm{diag}(h_1,h_2,h_3)(hih_i の差が互いに異なるものを選ぶ)をとると [H,M]ij=(hi−hj)Mij[H,M]_{ij}=(h_i-h_j)M_{ij} である。ad H\mathrm{ad}\,H の固有値 00(対角成分)と hi−hjh_i-h_j(i≠ji\ne j、6 個)は互いに異なるから、adH\mathrm{ad}H の多項式で各固有空間への射影が作れ、V′V' は MM の各固有空間成分を含む。したがって、V′V' は「対角成分」または「ある 1 つの eabe_{ab}(a≠ba\ne b)」を含む。

  • eab∈V′e_{ab}\in V' ならば、[eba,eab]=ebb−eaa[e_{ba},e_{ab}]=e_{bb}-e_{aa}、第 3 の添字 c≠a,bc\ne a,b について [eca,eab]=ecb[e_{ca},e_{ab}]=e_{cb}、[eab,ebc]=eac[e_{ab},e_{bc}]=e_{ac}、さらに [ebc,eca][e_{bc},e_{ca}] などを繰り返せば、すべての eije_{ij}(i≠ji\ne j)とすべての eii−ejje_{ii}-e_{jj} が V′V' に入る。これは WW 全体を張る。
  • 対角成分 D≠0D\ne0 を含む場合、DD はトレース零なので成分がすべて等しくはなく、Daa≠DbbD_{aa}\ne D_{bb} となる a,ba,b がある。[eab,D]=(Dbb−Daa)eab∈V′[e_{ab},D]=(D_{bb}-D_{aa})e_{ab}\in V' から、前の場合に帰着する。 ゆえに V′=WV'=W で、WW は既約である。

これで 9 個のクォーク・反クォーク対が 8 個と 1 個に分かれることが示せました。ウェイトを並べると、udˉu\bar d は (1,0)(1,0)、usˉu\bar s は (12,1)(\tfrac12,1)、dsˉd\bar s は (−12,1)(-\tfrac12,1)、suˉs\bar u は (−12,−1)(-\tfrac12,-1)、sdˉs\bar d は (12,−1)(\tfrac12,-1) で、これらはそれぞれ π+,K+,K0,K−,Kˉ0\pi^+,K^+,K^0,K^-,\bar K^0 に対応します。零ウェイトの 2 状態が π0\pi^0 と η\eta です(もう 1 つの混合が一重項 η′\eta')。

定理 4.3(3 つのクォークの合成)✓

(3)⊗3(\mathbf 3)^{\otimes 3}(次元 2727)は、SU(3)\mathrm{SU}(3) で不変な部分空間に

3⊗3⊗3=10S⊕8M⊕8M′⊕1A\mathbf 3\otimes\mathbf 3\otimes\mathbf 3=\mathbf{10}_S\oplus\mathbf 8_{M}\oplus\mathbf 8_{M'}\oplus\mathbf 1_A

と分解する。ここで 10S\mathbf{10}_S は完全対称テンソル(次元 (3+23)=10\binom{3+2}{3}=10)、1A\mathbf 1_A は完全反対称テンソル(次元 (33)=1\binom33=1)、残りの 16 次元は、2 つの 8 次元の不変部分空間(混合対称性)に分かれる。

3 つのクォークから作るバリオンの場合も、考え方はメソンと同じで、27 個の組を SU(3)\mathrm{SU}(3) で閉じた部分空間に分けます。手がかりは、3 つの因子を入れ替える操作(置換)です。入れ替えても符号が変わらない組(完全対称)、符号が変わる組(完全反対称)が、それぞれ閉じた部分空間になります。残りは、一部だけ対称・反対称の組で、前の定理の結果に帰着して調べます。

証明(定理 4.3)

置換群 S3S_3 は 3 つの因子の入れ替えとして (C3)⊗3(\mathbb C^3)^{\otimes3} に作用し、U⊗U⊗UU\otimes U\otimes U と可換である。よって完全対称部分空間 Sym3\mathrm{Sym}^3 と完全反対称部分空間 Λ3\Lambda^3 は SU(3)\mathrm{SU}(3) の作用で不変である。Sym3\mathrm{Sym}^3 の基底は、{1,2,3}\{1,2,3\} の重複組合せ qiqjqkq_iq_jq_k(i≤j≤ki\le j\le k)の個数 (53)=10\binom{5}{3}=10 個、Λ3\Lambda^3 の基底は q1∧q2∧q3q_1\wedge q_2\wedge q_3 のみで次元 11 である。 残りを調べるため、C3⊗C3=Sym2⊕Λ2\mathbb C^3\otimes\mathbb C^3=\mathrm{Sym}^2\oplus\Lambda^2 を使って (C3)⊗3=(Sym2⊗C3)⊕(Λ2⊗C3)(\mathbb C^3)^{\otimes3}=(\mathrm{Sym}^2\otimes\mathbb C^3)\oplus(\Lambda^2\otimes\mathbb C^3) と分ける(次元は 18+918+9)。どちらも不変である。 Λ2C3\Lambda^2\mathbb C^3 は ϵijk\epsilon_{ijk} を使った写像 qi∧qj↦∑kϵijkqˉkq_i\wedge q_j\mapsto\sum_k\epsilon_{ijk}\bar q_k により 3ˉ\bar{\mathbf 3} と同型である(det⁡U=1\det U=1 なので UU の作用と可換)。したがって Λ2⊗3≅3ˉ⊗3\Lambda^2\otimes\mathbf 3\cong\bar{\mathbf 3}\otimes\mathbf 3 で、前の定理により不変な 1 次元部分空間と 8 次元部分空間に分かれる。完全反対称な Λ3\Lambda^3 は Λ2⊗C3\Lambda^2\otimes\mathbb C^3 に含まれる不変な 1 次元部分空間であり、その一重項は一意なので、Λ3\Lambda^3 に一致する。残りの 8 次元不変部分空間を 8M\mathbf 8_M とする。 同様に Sym3⊂Sym2⊗C3\mathrm{Sym}^3\subset\mathrm{Sym}^2\otimes\mathbb C^3 で、ユニタリ作用に関する直交補空間は次元 18−10=818-10=8 の不変部分空間 8M′\mathbf 8_{M'} である。次元は 10+8+8+1=2710+8+8+1=27 で、全体と一致する。

注意 4.4(既約性について)

定理の 10\mathbf{10} と 8M′\mathbf 8_{M'} の既約性は、メソンの場合と同様に最高ウェイトの議論で示せますが、長いので省略します(最高ウェイトによる既約表現の分類と次元公式は 最高ウェイト定理(定理 5.1)[最高ウェイト理論] と sl(3) の表現の次元(例 6.6)[最高ウェイト理論] にあり、10\mathbf{10} は最高ウェイト 3ω13\omega_1 の既約表現として次元 1010 をもちます)。以下で使うのは、これらが不変部分空間であること、およびウェイトの分布だけです。

完全対称な 10 次元のウェイトは、3 つのフレーバーの重複組合せです。uuuuuu は (I3,Y)=(32,1)(I_3,Y)=(\tfrac32,1)、uuduud は (12,1)(\tfrac12,1)、uddudd は (−12,1)(-\tfrac12,1)、dddddd は (−32,1)(-\tfrac32,1)(Δ++,Δ+,Δ0,Δ−\Delta^{++},\Delta^+,\Delta^0,\Delta^-)、uusuus は (1,0)(1,0)、udsuds は (0,0)(0,0)、ddsdds は (−1,0)(-1,0)(Σ∗+,0,−\Sigma^{*+,0,-})、ussuss は (12,−1)(\tfrac12,-1)、dssdss は (−12,−1)(-\tfrac12,-1)(Ξ∗0,−\Xi^{*0,-})、ssssss は (0,−2)(0,-2)(Ω−\Omega^-)です。逆三角形に並びます。バリオン八重項は p,np,n(Y=1Y=1)、Σ+,0,−\Sigma^{+,0,-} と Λ\Lambda(Y=0Y=0)、Ξ0,−\Xi^{0,-}(Y=−1Y=-1)です。

π⁺π⁻π⁰, ηK⁺K⁰K⁻K̄⁰Δ⁻Δ⁰Δ⁺Δ⁺⁺Σ*⁻Σ*⁰Σ*⁺Ξ*⁻Ξ*⁰Ω⁻I₃YI₃Y
ウェイト図(横軸 I₃、縦軸 Y)。左はメソン八重項(中央の点は π⁰・η の 2 状態が重なる)、右はバリオン十重項。右の図では下の段ほど質量が一定間隔で重くなる。

命題 4.5(デカプレットの等間隔則と Ω−\Omega^- の予言)✓

クォーク質量を mu=md=m<msm_u=m_d=m<m_s として、バリオン質量が構成クォークの質量の和(近似)で与えられるとき、デカプレットの質量は YY について線形である:

M(Y)=M0−(ms−m) (Y−1)(=3m+ns(ms−m)),M(Y)=M_0-\bigl(m_s-m\bigr)\,(Y-1)\quad(=3m+n_s(m_s-m)),

ここで nsn_s は ss クォークの数。したがって隣り合う段(Y=1,0,−1,−2Y=1,0,-1,-2)の質量差はすべて等しい。

証明(命題 4.5)

デカプレットの粒子は uuuuuu 型で、ss クォークの個数 ns=0,1,2,3n_s=0,1,2,3 に応じて Y=B+S=1−nsY=B+S=1-n_s(B=1B=1、S=−nsS=-n_s)である。質量は M=(3−ns)m+nsms=3m+ns(ms−m)M=(3-n_s)m+n_sm_s=3m+n_s(m_s-m) で、ns=1−Yn_s=1-Y を代入して主張を得る。差は ms−mm_s-m で一定。

Δ(1232),Σ∗(1385),Ξ∗(1530)\Delta(1232),\Sigma^*(1385),\Xi^*(1530) の質量差は 153153、145 MeV145\,\mathrm{MeV} で、等間隔則がよく成り立ちます。1962 年、ゲル・マンはこの規則から、まだ見つかっていなかった Ω−\Omega^- の質量を約 1530+145≈1680 MeV1530+145\approx1680\,\mathrm{MeV} と予言しました。1964 年にブルックヘブンで見つかった Ω−\Omega^- の質量は 1672 MeV1672\,\mathrm{MeV} でした。ssssss という構成のため、Ω−\Omega^- は S=−3S=-3 を持ち、ΔS=±1\Delta S=\pm1 の弱い崩壊しかできず、寿命が 8×10−11 s8\times10^{-11}\,\mathrm s と長いことも、軌跡の発見を助けました。

クォーク模型では、メソンを qqˉq\bar q、バリオンを qqqqqq とし、基底状態では軌道角運動量 L=0L=0、バリオンのスピンは 3 つのクォークスピン 12\tfrac12 の合成です。

次の命題は、クォーク模型が実験の数字を説明する最初の例です。陽子を uuduud の 3 つのクォークでできているとし、各クォークのスピンの向きと u,du,d の並びをうまく組み合わせた状態(下の式)を考えます。この式は、全体のスピンが 12\tfrac12 で、3 つのクォークの入れ替えに対して対称になるように作ったもので、証明の中でスピンが 12\tfrac12 になることを確かめます。あとは、各クォークの磁気モーメントを足し合わせるだけです。

命題 5.1(核子の磁気モーメント比)✓

クォークのスピン磁気モーメントを μq=Qq e/(2mq)\mu_q=Q_q\,e/(2m_q)(ディラック粒子の値、QqQ_q はクォークの電荷)、mu=mdm_u=m_d とする。陽子のスピン・フレーバー波動関数を(スピン上向き)

∣p↑⟩=118[2 u↑u↑d↓−u↑u↓d↑−u↓u↑d↑]+(3 つの位置の入れ替え)|p\uparrow\rangle=\frac1{\sqrt{18}}\Bigl[2\,u_\uparrow u_\uparrow d_\downarrow-u_\uparrow u_\downarrow d_\uparrow-u_\downarrow u_\uparrow d_\uparrow\Bigr]+\text{(3 つの位置の入れ替え)}

とすると、陽子と中性子の磁気モーメントは μp=43μu−13μd\mu_p=\tfrac43\mu_u-\tfrac13\mu_d、μn=43μd−13μu\mu_n=\tfrac43\mu_d-\tfrac13\mu_u で、

μp=e2m,μn=−23 e2m,μnμp=−23\mu_p=\frac{e}{2m},\quad\mu_n=-\frac23\,\frac{e}{2m},\qquad\frac{\mu_n}{\mu_p}=-\frac23

である。ここで m=mu=mdm=m_u=m_d とした。

証明(命題 5.1)

波動関数は 3 つのクォークの入れ替えで対称で(上の 3 項を位置 (1,2,3)(1,2,3) の入れ替えで 9 項に展開したもの)、規格化は 3×(4+1+1)/18=13\times(4+1+1)/18=1。スピン 12\tfrac12 であることは、上昇演算子 J+=∑iJ+(i)J_+=\sum_iJ_+^{(i)} を作用させて確かめる。第 1 の組の 3 項に作用させると、2u↑u↑d↑−u↑u↑d↑−u↑u↑d↑=02u_\uparrow u_\uparrow d_\uparrow-u_\uparrow u_\uparrow d_\uparrow-u_\uparrow u_\uparrow d_\uparrow=0(係数 2−1−1=02-1-1=0)で、他の位置の入れ替えも同様に 00 となる。したがって J+∣p↑⟩=0J_+|p\uparrow\rangle=0 で、Jz=12J_z=\tfrac12 の最高ウェイト状態だから J=12J=\tfrac12 である。 uu クォークのスピン σz=±1\sigma_z=\pm1 の和の期待値を求める。第 1 項(係数 22、重み 44)では uu のスピンが ↑↑\uparrow\uparrow で和 +2+2、第 2・3 項(重み 11)では ↑↓\uparrow\downarrow または ↓↑\downarrow\uparrow で和 00 なので、⟨∑uσz⟩=318(4×2+0+0)=43\langle\sum_u\sigma_z\rangle=\tfrac{3}{18}(4\times2+0+0)=\tfrac43。dd クォークは第 1 項で ↓\downarrow(−1-1、重み 44)、第 2・3 項で ↑\uparrow(+1+1、重み 11 ずつ)だから ⟨∑dσz⟩=318(−4+1+1)=−13\langle\sum_d\sigma_z\rangle=\tfrac3{18}(-4+1+1)=-\tfrac13。磁気モーメントは μ=∑qμq⟨σz⟩q\mu=\sum_q\mu_q\langle\sigma_z\rangle_q だから μp=43μu−13μd\mu_p=\tfrac43\mu_u-\tfrac13\mu_d。μu=23e2m\mu_u=\tfrac23\frac e{2m}、μd=−13e2m\mu_d=-\tfrac13\frac e{2m} を入れて μp=89+19=1\mu_p=\tfrac89+\tfrac19=1(単位 e/2me/2m)。中性子は u↔du\leftrightarrow d の入れ替えで μn=43μd−13μu=−49−29=−23\mu_n=\tfrac43\mu_d-\tfrac13\mu_u=-\tfrac49-\tfrac29=-\tfrac23。

実測の値は μp=2.793μN\mu_p=2.793\mu_N、μn=−1.913μN\mu_n=-1.913\mu_N(μN\mu_N は核磁子)で、比は −0.685-0.685 です。理論値 −23=−0.667-\tfrac23=-0.667 と 3%3\% で合います。また、μp=e/2m\mu_p=e/2m を実測値 2.793μN2.793\mu_N に合わせると、構成クォーク質量 m=mp2.793≈336 MeVm=\tfrac{m_p}{2.793}\approx336\,\mathrm{MeV} になり、陽子質量のほぼ 13\tfrac13 に一致します。

次に、クォークに「色」が必要な理由です。

命題 5.2(色の必要性(Δ++\Delta^{++} の問題))✓

Δ++\Delta^{++}(uuuuuu、J=32J=\tfrac32、Jz=32J_z=\tfrac32)の基底状態の波動関数が、空間・スピン・フレーバーの自由度だけで書けると仮定すると、フェルミ粒子の統計に反する。クォークがさらに 3 値を取る 色の自由度を持ち、バリオンの色の部分が完全反対称な ϵabc/6\epsilon_{abc}/\sqrt6(色一重項)であれば、矛盾は解消する。

証明(命題 5.2)

Δ++\Delta^{++} では、3 つのクォークがすべて uu なので、フレーバー部分は ∣uuu⟩|uuu\rangle で入れ替えに対して対称。Jz=32J_z=\tfrac32 はスピンがすべて上向きの ∣↑↑↑⟩|\uparrow\uparrow\uparrow\rangle でしか実現できず、これも対称。基底状態は L=0L=0(空間部分は ψ(r1,r2,r3)\psi(\boldsymbol r_1,\boldsymbol r_2,\boldsymbol r_3) が入れ替えに対して対称な最低エネルギー状態)。よって全体が完全対称となる。これは、2 つの同種フェルミオンの入れ替えに対して波動関数が反対称でなければならないというパウリの原理に反する。色の自由度 ci∈{1,2,3}c_i\in\{1,2,3\} を加え、色の部分を ϵc1c2c3\epsilon_{c_1c_2c_3}(任意の 2 個の入れ替えで符号が変わる)とすれば、全体は反対称になる。

定理 5.3(RR 比と色の数)✓

e+e−e^+e^- の衝突のエネルギー s\sqrt s が、クォーク対の生成が開く範囲にあり、クォーク質量が無視できるとき、最低次で

R≡σ(e+e−→ハドロン)σ(e+e−→μ+μ−)=Nc∑fQf2R\equiv\frac{\sigma(e^+e^-\to\text{ハドロン})}{\sigma(e^+e^-\to\mu^+\mu^-)}=N_c\sum_fQ_f^2

である。ここで和は生成可能なフレーバー ff にわたり、NcN_c は色の数である。

証明(定理 5.3)

e+e−→μ+μ−e^+e^-\to\mu^+\mu^- の最低次の微分断面積 e⁺e⁻ → μ⁺μ⁻ の微分断面積(命題 7.2)[摂動論とファインマン則] は、質量を無視すると dσ/dΩ=α2(1+cos⁡2θ)/(4s)d\sigma/d\Omega=\alpha^2(1+\cos^2\theta)/(4s) で、角度積分 ∫(1+cos⁡2θ)dΩ=2π(2+23)=16π3\int(1+\cos^2\theta)d\Omega=2\pi(2+\tfrac23)=\tfrac{16\pi}3 より σμμ=4πα23s\sigma_{\mu\mu}=\tfrac{4\pi\alpha^2}{3s} である。 クォーク対 qqˉq\bar q の生成は、ミューオンの電荷 −1-1 を QqQ_q に置き換えるだけで、振幅は QqQ_q 倍、断面積は Qq2Q_q^2 倍になる。クォークは終状態の色 a=1,…,Nca=1,\dots,N_c で区別でき、始状態の電子・陽電子は色を持たないから、NcN_c 通りの終状態が足し合わされて断面積は NcN_c 倍になる。ハドロン化は確率 11(全断面積はクォーク対生成の断面積で決まる)として σハドロン=Nc∑fQf2 σμμ\sigma_{\text{ハドロン}}=N_c\sum_fQ_f^2\,\sigma_{\mu\mu} を得る。

u,d,su,d,s のみが開いているとき ∑Qf2=49+19+19=23\sum Q_f^2=\tfrac49+\tfrac19+\tfrac19=\tfrac23 なので、Nc=3N_c=3 なら R=2R=2、cc が開けば 23+49=109\tfrac23+\tfrac49=\tfrac{10}9 ですから R=103R=\tfrac{10}3、bb が開けば R=103+13=113R=\tfrac{10}{3}+\tfrac13=\tfrac{11}{3} です。実測の RR は s≈2〜3 GeV\sqrt s\approx2\text{〜}3\,\mathrm{GeV} で約 2.22.2、ccˉc\bar c 閾値より上で約 3.63.6、bbˉb\bar b 閾値より上で約 3.93.9 で、いずれも Nc=3N_c=3 の予測に QCD の補正(約 1+αs/π1+\alpha_s/\pi)を加えて説明できます。Nc=1N_c=1 なら R=2/3R=2/3 となり、全く合いません。

反応の速さを決める量が、崩壊幅 Γ\Gamma と断面積 σ\sigma です。幅は寿命と τ=ℏ/Γ\tau=\hbar/\Gamma で結びついています。断面積と崩壊率の公式(定理 6.1)[摂動論とファインマン則] で、運動学の部分は位相空間 dΠnd\Pi_n に集約されていました。この節では、その運動学を整理します。

命題 6.1(2 体崩壊の運動量)✓

質量 MM の粒子が静止系で質量 m1,m2m_1,m_2 の 2 粒子に崩壊するとき(M>m1+m2M>m_1+m_2)、2 粒子の運動量の大きさは

p∗=[M2−(m1+m2)2][M2−(m1−m2)2]2M,E1∗=M2+m12−m222Mp^*=\frac{\sqrt{\bigl[M^2-(m_1+m_2)^2\bigr]\bigl[M^2-(m_1-m_2)^2\bigr]}}{2M},\qquad E_1^*=\frac{M^2+m_1^2-m_2^2}{2M}

である。また、崩壊幅は ∣M∣2|\mathcal M|^2 が角度によらない(スピン 0 の崩壊など)とき Γ=p∗8πM2∣M∣2\Gamma=\dfrac{p^*}{8\pi M^2}|\mathcal M|^2 である。

証明(命題 6.1)

運動量保存より 2 粒子の運動量は逆向きで大きさ p∗p^*。エネルギー保存 M=E1+E2M=E_1+E_2 から E2=M−E1E_2=M-E_1、E22=m22+p∗2E_2^2=m_2^2+p^{*2}、E12=m12+p∗2E_1^2=m_1^2+p^{*2} なので (M−E1)2−E12=m22−m12(M-E_1)^2-E_1^2=m_2^2-m_1^2、すなわち M2−2ME1=m22−m12M^2-2ME_1=m_2^2-m_1^2 となり E1∗E_1^* の式を得る。p∗2=E1∗2−m12=[(M2+m12−m22)2−4M2m12]/(4M2)p^{*2}=E_1^{*2}-m_1^2=\bigl[(M^2+m_1^2-m_2^2)^2-4M^2m_1^2\bigr]/(4M^2) で、分子は (M2+m12−m22−2Mm1)(M2+m12−m22+2Mm1)=[(M−m1)2−m22][(M+m1)2−m22](M^2+m_1^2-m_2^2-2Mm_1)(M^2+m_1^2-m_2^2+2Mm_1)=[(M-m_1)^2-m_2^2][(M+m_1)^2-m_2^2] であり、因数分解して [M2−(m1+m2)2][M2−(m1−m2)2][M^2-(m_1+m_2)^2][M^2-(m_1-m_2)^2] に一致する((M−m1−m2)(M−m1+m2)(M+m1−m2)(M+m1+m2)(M-m_1-m_2)(M-m_1+m_2)(M+m_1-m_2)(M+m_1+m_2) の並べ替え)。幅は 定理 6.1[摂動論とファインマン則] と 命題 6.2[摂動論とファインマン則] から Γ=12M∣M∣24πp∗16π2M=p∗8πM2∣M∣2\Gamma=\dfrac1{2M}|\mathcal M|^2\dfrac{4\pi p^*}{16\pi^2M}=\dfrac{p^*}{8\pi M^2}|\mathcal M|^2。

例 6.2(π+→μ+νμ\pi^+\to\mu^+\nu_\mu)

mπ=139.57 MeVm_\pi=139.57\,\mathrm{MeV}、mμ=105.66 MeVm_\mu=105.66\,\mathrm{MeV}、mν=0m_\nu=0 では、p∗=(mπ2−mμ2)/(2mπ)=(19481−11164)/279.14=29.8 MeV/cp^*=(m_\pi^2-m_\mu^2)/(2m_\pi)=(19481-11164)/279.14=29.8\,\mathrm{MeV}/c です。ミューオンの運動エネルギーは 105.662+29.82−105.66=4.1 MeV\sqrt{105.66^2+29.8^2}-105.66=4.1\,\mathrm{MeV} で、パイ中間子が止まって崩壊するときのミューオンのエネルギーは常にこの値になります(単色の飛跡)。

反応の運動学を記述するローレンツ不変量が、マンデルスタム変数です。

命題 6.3(マンデルスタム変数)✓

p1+p2→p3+p4p_1+p_2\to p_3+p_4 に対して s=(p1+p2)2s=(p_1+p_2)^2、t=(p1−p3)2t=(p_1-p_3)^2、u=(p1−p4)2u=(p_1-p_4)^2 と定める(計量は (+,−,−,−)(+,-,-,-)、pi2=mi2p_i^2=m_i^2)。このとき

s+t+u=m12+m22+m32+m42.s+t+u=m_1^2+m_2^2+m_3^2+m_4^2.
証明(命題 6.3)

s=m12+m22+2p1 ⁣⋅ ⁣p2s=m_1^2+m_2^2+2p_1\!\cdot\!p_2、t=m12+m32−2p1 ⁣⋅ ⁣p3t=m_1^2+m_3^2-2p_1\!\cdot\!p_3、u=m12+m42−2p1 ⁣⋅ ⁣p4u=m_1^2+m_4^2-2p_1\!\cdot\!p_4 の和は、3m12+m22+m32+m42+2p1 ⁣⋅ ⁣(p2−p3−p4)3m_1^2+m_2^2+m_3^2+m_4^2+2p_1\!\cdot\!(p_2-p_3-p_4) である。4 元運動量保存 p3+p4=p1+p2p_3+p_4=p_1+p_2 から p2−p3−p4=−p1p_2-p_3-p_4=-p_1 で、最後の項は −2m12-2m_1^2。ゆえに和は m12+m22+m32+m42m_1^2+m_2^2+m_3^2+m_4^2 である。

ss は重心系エネルギーの 2 乗です。たとえば 不変質量(定理 6.2)[相対論的力学] として、s\sqrt s が生成粒子の質量を超えると共鳴が起こります。

次の定理は、共鳴のピークの高さを決める式です。スピンのない散乱ではピークの高さが 4π(2l+1)/k24\pi(2l+1)/k^2 でした。粒子にスピンがあると、入射するスピン状態のうち共鳴に入るものだけが寄与するので、その割合 gg が掛かります。

定理 6.4(スピンのある共鳴の断面積(ピークの高さ))✓

スピン sa,sbs_a,s_b の 2 粒子の散乱で、全角運動量 JJ の共鳴(質量 ErE_r、幅 Γ\Gamma)が弾性チャンネルだけに崩壊するなら、重心系の運動量を kk として、共鳴エネルギーでの断面積は

σ(Er)=4πk2 g,g=2J+1(2sa+1)(2sb+1)\sigma(E_r)=\frac{4\pi}{k^2}\,g,\qquad g=\frac{2J+1}{(2s_a+1)(2s_b+1)}

である。エネルギー依存は Breit–Wigner の公式(定理 6.2)[散乱理論] と同じローレンツ型 Γ2/4(E−Er)2+Γ2/4\dfrac{\Gamma^2/4}{(E-E_r)^2+\Gamma^2/4} である。

証明(定理 6.4)

スピンのない場合は 定理 6.2[散乱理論] により、ピークの高さは 4π(2l+1)/k24\pi(2l+1)/k^2 で、2l+12l+1 は部分波 ll の磁気量子数の個数である。スピンがあるときは、始状態の (2sa+1)(2sb+1)(2s_a+1)(2s_b+1) 個のスピン状態が等確率で入射すると平均し、そのうち全角運動量 JJ の共鳴に入るのは 2J+12J+1 個の状態だけなので、平均の重みは g=(2J+1)/[(2sa+1)(2sb+1)]g=(2J+1)/[(2s_a+1)(2s_b+1)] になる。共鳴の部分波ではユニタリ性の上限(4π/k24\pi/k^2 に対応)まで散乱が起こる。

例 6.5(Δ(1232)\Delta(1232) のピーク)

W=1232 MeVW=1232\,\mathrm{MeV}、mN=938.9 MeVm_N=938.9\,\mathrm{MeV}、mπ=139.6 MeVm_\pi=139.6\,\mathrm{MeV} では、命題 6.1 により p∗=226.6 MeV/cp^*=226.6\,\mathrm{MeV}/c、k=p∗/ℏc=1.148 fm−1k=p^*/\hbar c=1.148\,\mathrm{fm}^{-1}。J=32J=\tfrac32、sπ=0s_\pi=0、sN=12s_N=\tfrac12 で g=4/2=2g=4/2=2 なので、純粋な I=32I=\tfrac32 である π+p\pi^+p のピークは σ=8πk2=19.1 fm2=191 mb\sigma=\dfrac{8\pi}{k^2}=19.1\,\mathrm{fm}^2=191\,\mathrm{mb}(1 fm2=10 mb1\,\mathrm{fm}^2=10\,\mathrm{mb})。実測は約 200 mb200\,\mathrm{mb} です。π−p\pi^-p はその 13\tfrac13(定理 3.2)で約 64 mb64\,\mathrm{mb} です。幅 Γ=117 MeV\Gamma=117\,\mathrm{MeV} から寿命は τ=ℏ/Γ=6.58×10−22 MeV s/117 MeV=5.6×10−24 s\tau=\hbar/\Gamma=6.58\times10^{-22}\,\mathrm{MeV\,s}/117\,\mathrm{MeV}=5.6\times10^{-24}\,\mathrm s で、光が陽子の大きさ(約 1 fm1\,\mathrm{fm})を横切る時間 3×10−24 s3\times10^{-24}\,\mathrm s と同程度です。

演習 7.1易

次の反応・崩壊のうち、強い相互作用で許されるものはどれか。(a) K−+p→Λ+π0K^-+p\to\Lambda+\pi^0 (b) p+p→p+Σ++K0p+p\to p+\Sigma^++K^0 (c) π−+p→K−+Σ+\pi^-+p\to K^-+\Sigma^+ (d) Ξ−→Λ+π−\Xi^-\to\Lambda+\pi^-

解答

(a) 左辺は S=−1S=-1、右辺は S=−1+0=−1S=-1+0=-1。B=1B=1、Q=0Q=0 も保存。許される。(b) 左辺 S=0S=0、右辺 S=0−1+1=0S=0-1+1=0 で B=2B=2、Q=2Q=2 も保存。許される。(c) 左辺 S=0S=0、右辺 S=−1−1=−2S=-1-1=-2。ΔS=−2\Delta S=-2 で禁止。(d) SS: −2→−1-2\to-1 で ΔS=+1\Delta S=+1。強い相互作用では禁止(弱崩壊で実際に起こる)。

演習 7.2標準

反応 d+d→α+π0d+d\to\alpha+\pi^0 は、エネルギー的に許される領域でも強い相互作用では起こらないことを、アイソスピンで示せ。dd、α\alpha はアイソスピン 00 である。

解答

始状態は I=0⊗0=0I=0\otimes0=0。終状態は α\alpha が I=0I=0、π0\pi^0 が I=1I=1 だから全体は I=1I=1。強い相互作用は II を保存するので 0→10\to1 は禁止される。実験でも断面積は電磁相互作用の程度に小さい。

演習 7.3標準

Σ∗(1385)\Sigma^*(1385)、Ξ∗(1533)\Xi^*(1533) の質量から、デカプレットの等間隔則(命題 4.5)で Ω−\Omega^- の質量を予言し、実測 1672 MeV1672\,\mathrm{MeV} と比較せよ。さらに ss クォークと u,du,d クォークの質量差の目安を求めよ。

解答

間隔は 1533−1385=148 MeV1533-1385=148\,\mathrm{MeV} なので M(Ω−)=1533+148=1681 MeVM(\Omega^-)=1533+148=1681\,\mathrm{MeV} で、実測 16721672 との差は 0.5%0.5\%。質量差は間隔そのもので ms−m≈145〜150 MeVm_s-m\approx145\text{〜}150\,\mathrm{MeV} になる。

演習 7.4標準

K+→μ+νμK^+\to\mu^+\nu_\mu の静止系でのミューオンの運動量を求めよ。mK=493.7 MeVm_K=493.7\,\mathrm{MeV}、mμ=105.66 MeVm_\mu=105.66\,\mathrm{MeV}、mν=0m_\nu=0 とする。

解答

命題 6.1 により p∗=(mK2−mμ2)/(2mK)=(243,740−11,164)/987.4=235.6 MeV/cp^*=(m_K^2-m_\mu^2)/(2m_K)=(243{,}740-11{,}164)/987.4=235.6\,\mathrm{MeV}/c。(mK2=493.72=243,740m_K^2=493.7^2=243{,}740。)

  • David Griffiths, Introduction to Elementary Particles, 2nd ed., Wiley-VCH, 2008 — 第 4 章(アイソスピンと八道説)、第 5 章(クォーク模型)。
  • Donald H. Perkins, Introduction to High Energy Physics, 4th ed., Cambridge University Press, 2000 — アイソスピンと SU(3)、R 比。
  • M. Gell-Mann, “A schematic model of baryons and mesons”, Phys. Lett. 8 (1964), 214–215 — クォーク模型の提案。
  • G. Zweig, “An SU(3) model for strong interaction symmetry and its breaking”, CERN-TH-412 (1964) — 同時期の独立な提案。
  • V. E. Barnes et al., “Observation of a hyperon with strangeness minus three”, Phys. Rev. Lett. 12 (1964), 204–206 — Ω−\Omega^- の発見。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Sonnet 5.5)、Claude Code(Opus 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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