格子ゲージ場:Wilson 作用・Haar 測度・Elitzur の定理
対象読者: 本テーマ第 1〜4 章を学び、学部の群論(行列群 SU(N)・U(1))とゲージ理論の初歩を知っている人。コンパクト群の Haar 測度は必要な性質を導入します。
前提となる記事:φ⁴ 理論の自明性・有限体積効果・O(N) 模型:くりこまれた結合が消える理由と Higgs 質量の上限
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”空間を碁盤の目に区切り、隣り合う点を結ぶ矢印のひとつひとつに群の元を割り当てるだけで、ゲージ理論を有限個の変数の積分として厳密に定義できる、というのがこの記事の話です。連続のゲージ理論では、自由度が無限にあるために積分そのものが定義できず、さらに同じ物理を表す配位が無限に重なるために積分が無限大になるという困難がありました。格子にして群をコンパクトにすると、この 2 つの困難はどちらも現れません。読み終えると、Wilson 作用がなぜ連続理論の格子版と言えるのか、なぜゲージ固定なしで確率として扱えるのか、そしてなぜゲージ対称性は自発的に破れないのかを説明できるようになります。
- 格子上のゲージ場は、隣り合う格子点を結ぶ向き付きリンクごとに置いた群の元 (平行移動)です。ゲージ変換(各点で群の元をかけて見かけの値を取り替える操作)は各格子点で独立に と作用し、閉じた経路に沿った積のトレースだけが不変量になります。
- 最小の閉路であるプラケット から作る Wilson 作用 は、滑らかなゲージ場に対して で Yang–Mills 作用に収束します。そのための対応が ()、()です。
- 経路積分の測度はコンパクト群の Haar 測度(群の元をかけても変わらない確率測度)の積で、有限格子では分配関数が正の有限値になります。ゲージ軌道(ゲージ変換で互いにうつり合う配位全体)の体積が有限なので、ゲージ固定(ゲージ変換の自由度を条件で 1 つに決めること)は不要です。それでも、木の上のリンクを に固定してよいこと(木ゲージ)は証明できます。
- Elitzur の定理: 外部ソース で対称性を陽に破っても、局所観測量のゲージ非不変部分の期待値は体積によらない評価 で抑えられ、 で消えます。局所ゲージ対称性は自発的に破れません。大域対称性(Ising 模型)ではこの評価が体積に比例してしまい、自発的破れが起こります。
- コンパクト と非コンパクト は連続極限では同じ Maxwell 理論を目指しますが、後者はゲージ軌道が非コンパクトなので分配関数が発散し、ゲージ固定が必要です。前者には磁気単極子が自然に含まれ、強結合で閉じ込めを示します。
連続時空のゲージ理論を経路積分で量子化しようとすると、すぐに 2 つの困難にぶつかります。1 つは無限次元の測度 が数学的に定義できないこと、もう 1 つはゲージ軌道に沿った積分が無限大になるので Faddeev–Popov のゲージ固定を持ち込む必要があり、それが摂動論の枠組みに強く結びついていることです。強い相互作用の閉じ込めのように本質的に非摂動的な現象を扱うには、どちらも障害になります。
Wilson(1974)の処方は、ゲージ場の基本変数をベクトルポテンシャル ではなく平行移動そのものにすることでした。格子間隔 の Euclid 格子では、平行移動は隣接点の間の群の元として有限個の変数になります。群がコンパクトなら各変数の積分は Haar 測度という自然な確率測度で行え、ゲージ軌道の「体積」も有限になります。こうして、ゲージ不変性を厳密に保ったまま、有限次元の、しかも確率論的に意味のある積分として理論が定義されます。
この記事では、その定義を整え、それが連続理論の正しい離散化であること(古典連続極限)と、ゲージ不変性から直ちに従う構造的な帰結(ゲージ固定の不要性、Elitzur の定理)を証明します。閉じ込めそのものは次章 強結合展開と閉じ込め で扱います。転送行列と Hilbert 空間の再構成は 反射正値性と格子からの Hilbert 空間の再構成 を参照してください。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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