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格子 Higgs 模型と湯川模型:Fradkin–Shenker の相補性

対象読者: 本テーマ第 5〜9 章の格子ゲージ理論と Wilson 作用を学び、Higgs 機構の基礎と解析関数・級数展開の扱いに慣れている人。クラスター展開は導入から扱います。

前提となる記事:格子 QCD:連続極限・スケール設定・ハドロン質量・有限温度

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ゲージ理論で粒子に質量を与える Higgs 機構は、ふつう「真空で値をもつ場がゲージ対称性を壊す」と説明されます。ところが格子の上では、その値が必ず 0 になってしまい、「Higgs 相」と「閉じ込め相」を区別する目印が見つかりません。この記事では、両者が実は 1 つの相の両端にすぎない、という Fradkin–Shenker の結果を証明つきで読みます。後半では、湯川結合でフェルミオンを加えると何が困るのかを見ます。

  • 格子ゲージ–Higgs 模型は、Wilson ゲージ作用に、リンク変数で平行移動した Higgs 場のホッピング項を足したものです。パラメータはゲージ結合 β\beta、ホッピングパラメータ κ\kappa、4 次結合 λ\lambda で、λ→∞\lambda\to\infty では Higgs 場の長さが固定されます。
  • Higgs 場がゲージ群の元で表せる場合(SU(2)\mathrm{SU}(2) の 2 重項で長さを固定したもの、U(1)\mathrm{U}(1) の電荷 1 など)は、ユニタリゲージ(ゲージ変換で Higgs 場を自明な値に固定する取り方)に移ると、模型は「プラケット項とリンク項をもつ純ゲージ理論」と厳密に同じになります。このとき Higgs 場の期待値は常に 00 で、Wilson ループは閉じ込め的な領域でも周長則(ループの期待値が長さに応じて減る振る舞い。面積に応じて減るのが面積則)に従う(β=0\beta=0 では厳密に計算できる)ので、どちらも相を区別する秩序変数になりません。
  • Osterwalder–Seiler と Fradkin–Shenker の定理: そのような模型では、β\beta が小さい領域と、κ/β\kappa/\beta が大きい領域の和集合の上で、自由エネルギーとゲージ不変な局所観測量が解析的です。この連結な領域は「閉じ込め的」な点と「Higgs 的」な点を両方含むので、両者は 1 つの相の 2 つの領域にすぎません(相補性)。本章ではクラスター展開による証明を書きます。
  • Higgs 場の電荷が 2 以上(離散的な中心が残る場合)では定理の仮定が外れ、閉じ込め相と Higgs 相は本当に別の相になります。
  • 物理的な粒子は、ゲージ不変な合成演算子 Φ†Φ\Phi^\dagger\Phi や tr(τaX†DμX)\mathrm{tr}(\tau^aX^\dagger D_\mu X) の極として現れます。ユニタリゲージで展開すると、その主要項は素の Higgs 場と WW 場の伝播関数になります(Fröhlich–Morchio–Strocchi)。
  • 湯川結合をもつ格子模型では、カイラル対称性と局所性を保つと Nielsen–Ninomiya の定理によって逆カイラリティ(左巻きと右巻きの向きが逆)の「ミラーフェルミオン」が現れます。湯川模型も φ⁴ 理論と同じく自明であると考えられ、フェルミオン質量と Higgs 質量に切断依存の上限・下限を与えます。

連続理論の教科書では、Higgs 機構は「スカラー場が真空期待値 ⟨Φ⟩=v≠0\langle\Phi\rangle=v\ne0 をもち、ゲージ対称性が自発的に破れる」と説明されます(ゲージ理論と自発的対称性の破れ)。しかし格子の上では、Elitzur の定理(定理 6.1[格子ゲージ場])によって局所ゲージ対称性は自発的に破れず、⟨Φ⟩=0\langle\Phi\rangle=0 が常に成り立ちます。すると「Higgs 相」とは何か、それは閉じ込め相とどう違うのか、という問いが生じます。

Fradkin と Shenker(1979)は、この問いに驚くべき答えを出しました。Higgs 場がゲージ群の基本表現にある場合、閉じ込め領域と Higgs 領域の間には相転移の線が端点をもって途切れており、その脇を回り込めば、非解析性に出会わずに一方から他方へ移れるのです。気体と液体が臨界点を回り込んでつながるのと同じ構図です。この結果は Osterwalder と Seiler(1978)がクラスター展開で厳密に証明した解析性に基づいています。

この「相補性」は哲学的な注意にとどまりません。電弱理論の物理的な粒子(WW, ZZ, Higgs)はゲージ不変な合成状態としてどう記述されるのか、有限温度の電弱相転移は本当に相転移なのか、といった具体的な問いに直結しています。後半では、フェルミオンを湯川結合で加えた格子模型と、そこで現れるミラーフェルミオンの問題、Higgs 質量の上限と下限の考え方に触れます。

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執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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