Euclid 経路積分と転送行列:虚時間の格子から質量ギャップと相関長へ
対象読者: 学部の量子力学(Schrödinger 方程式・ハミルトニアン・調和振動子)と、測度論に基づく確率論・Hilbert 空間の基礎を学んだ人。場の量子論の公理的定式化の予備知識は仮定しません。
前提となる記事:なぜ場の量子論が必要か:一粒子の量子力学が相対論と両立しない理由、Wightman 公理と再構成定理:作用素値超関数・Wightman 関数・Reeh–Schlieder の定理、確率空間とコルモゴロフの公理:確率を「全測度 1 の測度」として定義する、Hilbert 空間の基礎:射影定理・リースの表現定理・正規直交基底
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”量子力学の計算に出てくる「あらゆる道筋を足し合わせる」という考え方(経路積分)は、そのままでは数学的にうまく扱えません。この記事では、時間を虚数にずらして足し算を正の数だけの安定した計算に直し、時間を細かい刻みに区切ることで、系のエネルギーの差と「離れた 2 点がどれだけ影響し合うか」が一本の線でつながることを確かめます。読み終えると、離れた点の影響が距離とともに弱まる速さから、系の最低励起エネルギーを読み取れる理由が分かります。
- 実時間の経路積分は振動する積分で、測度としては存在しません。時間を虚軸に回すと(Euclid 化)、時間分割した積分は正の重み をもつ有限次元積分の極限になり、Trotter 積公式( を の 乗で近似する公式)から の積分核への強収束(各 ごとの での収束)として厳密に導けます。極限の経路測度は Wiener 測度で、これが Feynman–Kac 公式です。
- 時間間隔 の格子では、1 ステップの時間発展 が転送行列です。 は有界・自己共役・正・単射・正値性改良(0 以上で 0 でない関数を、ほとんど至るところ正の関数に写す性質)で、 ならトレースクラス(トレースが定まる、固有値の和が有限な作用素)になります。格子ハミルトニアンを で定義します。
- 周期的な時間格子( 点)上の分配関数は 、相関関数は転送行列の積のトレースで書けます。 で基底状態への射影が起き、連結相関関数は で減衰します。相関長(格子単位)は 、 は質量ギャップです。
- 調和振動子の格子経路積分は厳密に解けて、格子上の振動数は で決まる です。 で連続理論の分配関数と相関関数がそのまま再現されます。
- 次元の Euclid 場の理論は 次元の古典統計系そのものです。物理的な質量 を固定して とするには格子単位の相関長 が発散しなければならず、連続極限は統計系の臨界点で取ることになります。
格子場の理論は、場の量子論を「時空を格子に置き換えた有限自由度の積分」として定義し直す枠組みです。そのためには 2 つの段階が要ります。第 1 に、実時間の振動積分 を、収束する正の重みの積分 に置き換えること(Euclid 化)。第 2 に、離散化した Euclid 積分から、元の量子論の Hilbert 空間・ハミルトニアン・スペクトルを読み出すことです。
第 2 の段階で中心になるのが転送行列です。格子の時間方向に 1 ステップ進める演算子 を作れば、分配関数は 、相関関数の時間依存は の固有値の比で決まり、相関関数が指数減衰する速さがそのまま最低励起エネルギー(質量)になります。格子 QCD でハドロン質量を「相関関数の指数減衰率」として測るのは、この関係に基づいています。
この章では、量子力学(有限自由度)でこの構造を厳密に組み立てます。場の理論の格子正則化は、空間格子点の数だけ自由度をもつ量子力学なので、ここで示す定理は空間体積が有限な格子場の理論にそのまま当てはまります(例 6.1)。転送行列が正であることを、作用の形から直接ではなく相関関数の性質(反射正値性)から導く話は次章 反射正値性と格子からの Hilbert 空間の再構成 で扱います。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記
© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。