コンテンツにスキップ

Wightman 公理と再構成定理:作用素値超関数・Wightman 関数・Reeh–Schlieder の定理

対象読者: 量子力学の Hilbert 空間論(射影定理・Riesz の表現定理)と対称テンソル積による多粒子 Fock 空間、場の量子論の入門を学んだ大学院生。超関数の予備知識は仮定しません。

前提となる記事:なぜ場の量子論が必要か:一粒子の量子力学が相対論と両立しない理由、Hilbert 空間の基礎:射影定理・リースの表現定理・正規直交基底、対称・反対称テンソル積と多粒子の Hilbert 空間:対称化作用素・次元公式・パウリの排他律

生 Markdown

素粒子の場は「空間の各点に値をもつ波」のように語られますが、一点での値を取り出そうとすると数学的に意味が壊れます。この記事は、場を一点ではなく少し広がりをもたせて測るものとして扱い、相対性理論と量子力学が両立する理論が満たすべき条件を 6 つの要請として書き下します。読み終えると、その要請から真空についてどんな性質が導かれるか(遠く離れた実験の独立性、小さな領域からでも全体に届く性質)と、性質だけから理論を作り直せることがわかります。

  • 量子場は時空の点での作用素ではなく、試験関数 f∈S(R4)f\in\mathcal{S}(\mathbb{R}^4) で均した作用素値緩増加超関数(試験関数 ff に作用素を対応させる、関数の一般化)ϕ(f)\phi(f) です。自由場でさえ ϕ(x)Ω\phi(x)\Omega はノルム無限大になり、点での値は意味を持ちません。
  • Wightman 公理は、Poincaré 群のユニタリ表現、スペクトル条件(エネルギー運動量が前方光錐に入る)、真空の一意性、場の定義域と共変性、局所可換性、真空の巡回性の 6 つの要請からなります。自由スカラー場はこれをすべて満たします。
  • 真空期待値 Wn(x1,…,xn)=⟨Ω,ϕ(x1)⋯ϕ(xn)Ω⟩W_n(x_1,\dots,x_n)=\langle\Omega,\phi(x_1)\cdots\phi(x_n)\Omega\rangle(Wightman 関数)は、共変性・エルミート性・正値性・局所性を満たし、スペクトル条件から前方管(時空座標に、前向きの光錐に入る虚部を足した複素領域)への解析接続を持ちます。真空が一意なら空間的方向へのクラスター性が成り立ちます。
  • 再構成定理: これらの性質を満たす超関数の列 {Wn}\lbrace W_n\rbrace が与えられれば、Hilbert 空間・場・真空がユニタリ同値を除いて一意に復元できます。構成は Borchers 代数上の GNS 構成で、真空の一意性はクラスター性と同値です。
  • Reeh–Schlieder の定理: どんなに小さな開領域 O\mathcal{O} でも、そこに局在した場の多項式を真空に作用させたベクトルは H\mathcal{H} で稠密です。系として、有界領域に局在した作用素が真空を消せばその作用素は 00 です。

なぜ場の量子論が必要か や スカラー場の正準量子化 で見たように、教科書的な場の量子論は、Fock 空間の上に自由場を作り、相互作用を摂動として足すという手順で進みます。この手順は実験と驚くほどよく合いますが、数学的には二つの問題を抱えています。第一に、摂動級数は項ごとに紫外発散を含み、くりこみで有限にしても級数自体が収束するとは限りません。第二に、相互作用する場が「どの Hilbert 空間の上の、どんな作用素なのか」が手順の中で決まっていません。次章で扱う Haag の定理は、相互作用表示という前提そのものが成り立たないことを示します。

1950 年代に Wightman、Gårding、Jost、Haag らは逆の方向から問題を立てました。個々のモデルを作る前に、相対論的な量子場の理論であれば満たすべき性質を公理として書き下し、その公理だけから何が導けるかを調べる、という方針です。この方針から、PCT 定理やスピンと統計の関係のように、Lagrangian の詳細に依らない構造的な定理が得られました。さらに、公理は「理論を構成した」と言うための判定基準にもなります。2 次元・3 次元の構成的場の理論は、この公理(あるいは Euclid 版の Osterwalder–Schrader 公理)を満たす対象を作ることを目標にしました。

本章では、Hermite なスカラー場 1 個の場合に Wightman 公理を定式化し、真空期待値(Wightman 関数)の性質を導き、逆に Wightman 関数から理論全体を再構成できることを示します。最後に、真空と局所性の関係を表す Reeh–Schlieder の定理を述べます。スピノル場を含む場の族への一般化は 注意 3.3 にまとめ、次章 PCT 定理・スピン統計定理・Haag の定理 で使います。

ここから先は有料(買い切り ¥200)の内容です。

この章は博士課程以上・研究水準の内容です。続き(定義・定理・証明・例・演習)は ¥200 の買い切りで、他の有料章と 100 本ノックも含めてすべて読めます。無料の章は最後まで読めます。

購入する ログイン

このテーマの 100 本ノック(100 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記

© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。