Haag–Ruelle の散乱理論:Wightman 公理から漸近状態・S 行列・厳密な LSZ を導く
対象読者: 本テーマの Wightman 公理と関数の解析性を学び、場の量子論の模型の散乱理論(漸近場・LSZ の考え方)を知っている博士課程の人。Haag–Ruelle の議論は仮定しません。
前提となる記事:Wightman 公理と再構成定理:作用素値超関数・Wightman 関数・Reeh–Schlieder の定理、Wightman 関数の解析性:前方管・edge-of-the-wedge・BHW の定理と Jost–Schroer の定理の証明、場の量子論の模型の散乱理論:漸近場・漸近完全性・Haag–Ruelle 理論と赤外問題
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”粒子が衝突して散らばる実験では、衝突の前と後の粒子は互いに遠く離れていて、ほぼ自由に飛んでいると考えます。ところが、相互作用する場の理論では、「粒子」とは何かがもともと自明ではありません。この記事は、公理だけを出発点にして、遠い過去と未来の「自由に飛ぶ粒子」の状態を場から取り出し、衝突前後を結ぶ S 行列を定める方法(Haag–Ruelle の理論)を説明します。読み終えると、S 行列がどういう極限として定義されるかが分かります。
- 1 粒子の質量殻 が他のエネルギー運動量スペクトルから孤立していれば、運動量空間で の近くにだけ台をもつ試験関数で場を均すことで、真空からちょうど 1 粒子状態を作る作用素が得られます。
- その試験関数にさらに Klein–Gordon 方程式の時間発展を逆向きにかけた ()を使うと、 は時刻 に依らず、速度の台が互いに交わらない波束の積 は で収束します(Cook の方法)。
- 収束の鍵は「速度の異なる波束は時間とともに空間的に離れ、局所可換性によって交換子が で消える」ことです。証明はクラスター定理を使わず、非停留位相の評価と、試験関数を局在部分と残りに分ける議論だけで済みます。
- 極限ベクトルの内積はボソン Fock 空間のパーマネント(符号をつけない行列式)になり、等長な波動作用素 と S 行列 が定まります。ここではエネルギー運動量の移動についての補題(前章)が、交換子を真空に当てた結果を 1 粒子の内積に変えます。
- 厳密な LSZ: S 行列要素は、波束で均した場の Wightman 関数の の極限です。また , は漸近的に生成・消滅作用素として振る舞います。漸近完全性( がユニタリ。散乱状態で全空間が尽くされること)は公理からは従わず、一般化自由場が反例です。
教科書的な散乱理論は、「相互作用は遠い過去と未来では切れていて、粒子は自由に飛んでいる」という描像から出発します。しかし PCT 定理・スピン統計定理・Haag の定理 の Haag の定理によれば、相互作用する場を自由場の Fock 空間に載せる相互作用表示は存在しません。では、粒子・散乱状態・S 行列は、相互作用する理論の中からどうやって取り出せるのでしょうか。
Haag(1958)と Ruelle(1962)の答えは、場そのものではなく、エネルギー運動量で 1 粒子殻に絞り込み、Klein–Gordon 波束で時空に広げた場を使うことでした。こうして作った作用素 は真空に当てると時刻に依らない 1 粒子状態を作り、速度の異なる 個の波束の積は、時刻 で 個の自由粒子のように振る舞う状態に収束します。その内積が Fock 空間と同じであることから、漸近的な Fock 構造と S 行列が、相互作用表示を経由せずに公理だけから得られます。
構成的場の理論の地図 の 定理 7.2[構成的場の理論の地図] と 場の量子論の模型の散乱理論 の 定理 5.2[場の量子論の模型の散乱理論] では主張と筋道だけを述べました。本章はそれを証明します。標準的な証明は切断 Wightman 関数のクラスター定理(Araki–Hepp–Ruelle)を使いますが、ここでは Wightman 関数の解析性 で示したエネルギー運動量の移動の補題と、局所可換性を試験関数の局在部分に直接使う議論で、より短く済ませます。最後に、摂動論とファインマン則 の LSZ 簡約公式(定理 5.2[摂動論とファインマン則])の厳密な対応物を述べます。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
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