PCT 定理・スピン統計定理・Haag の定理:複素 Lorentz 群と Wightman 関数の解析性
対象読者: 本テーマ第 1 章の Wightman 公理と Wightman 関数、およびディラック場の量子化を学んだ人。複素 Lorentz 群と多変数の解析接続は本章で導入します。
前提となる記事:Wightman 公理と再構成定理:作用素値超関数・Wightman 関数・Reeh–Schlieder の定理
0. この記事の要点
Section titled “0. この記事の要点”粒子と反粒子の質量は等しいのか、スピンが半整数の粒子はなぜ反交換関係に従うのか。この章は、こうした問いが個別のモデルの事情ではなく、場が時空の中で局所的にふるまうという要請から一般に答えられることを示します。道具は、座標に複素数を許して考える解析接続です。読み終えると、PCT 定理とスピン統計定理がどの仮定からどう出るか、そして相互作用表示がなぜ成り立たないかを、証明の骨組みごとに説明できるようになります。
- 複素 Lorentz 群 は連結で、実 Lorentz 群では恒等成分に属さない全反転 (時空反転 PT)を含みます。これが PCT 定理の幾何学的な源です。
- Bargmann–Hall–Wightman の定理: 前方管上の 不変な正則関数は、拡大管へ一価に解析接続され、 不変になります。拡大管に含まれる実点(Jost 点)は「差のベクトルの正係数結合がすべて空間的」な点として特徴づけられます。
- PCT 定理(Jost): Wightman 関数の PCT 対称性 は、Jost 点での弱局所可換性(離れた点の場の順序を入れ替えてよいという条件の、弱い版)と同値で、さらに真空を保つ反ユニタリ作用素 の存在と同値です。局所可換性は弱局所可換性を含むので、すべての Wightman 理論は PCT 対称です。
- スピン統計定理: 整数スピンの場を反交換関係で、半整数スピンの場を交換関係で局所化しようとすると、場は になります。証明は 2 点関数の 不変性と正値性だけで済みます。
- Jost–Schroer の定理: 2 点関数が質量 の自由場と同じなら、その場は自由場です。
- Haag の定理: 時刻 の場が自由場の時刻 の場とユニタリ同値なら、その場は自由場です。したがって相互作用表示は(Euclid 共変な無限体積の理論では)存在しません。
ディラック場の量子化 では、Dirac 場を交換関係で量子化するとエネルギーが下に有界でなくなり、因果律も破れることを見ました。スカラー場を反交換関係で量子化しようとしても同様に破綻します。これは個別のモデルの事情なのでしょうか、それとも相対論的な量子論一般の性質なのでしょうか。同じ問いは C, P, T にも立てられます。弱い相互作用は P も C も破りますが、3 つを組み合わせた PCT(以下では文献の慣習に従い PCT と書きます)はどんな局所的な理論でも保存されると言われます。
Wightman 公理の立場からは、どちらの問いにも構造的な答えが出ます。鍵は 前章 で見た「Wightman 関数は前方管の正則関数の境界値である」という事実です。正則関数の不変性は実 Lorentz 群から複素 Lorentz 群へ自動的に広がり、複素 Lorentz 群は連続変形で に達します。この 不変性から、PCT とスピン統計の両方が出てきます。
本章の後半では、同じ解析性の議論を使って Haag の定理を証明します。これは、教科書的な摂動論の出発点である相互作用表示(自由場の Fock 空間の上に相互作用する場を載せる)が、そのままでは数学的に成り立たないことを示す定理です。摂動論がそれでも機能する理由と、くりこみ・構成的場の理論との関係もあわせて述べます。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 3 回(Claude Code)・最終 2026-10-12
この記事の誤りを報告する ・運営: 夢現技研合同会社 ・料金 ・利用条件 ・特定商取引法に基づく表記
© 2026 夢現技研合同会社 ・コード例は MIT ライセンスです。