# 格子 Higgs 模型と湯川模型：Fradkin–Shenker の相補性

> ゲージ–Higgs 模型の格子作用と相構造を定め、基本表現の Higgs では閉じ込め領域と Higgs 領域が解析的につながるという Osterwalder–Seiler・Fradkin–Shenker の定理をクラスター展開で証明し、ゲージ不変な Higgs 機構の記述と格子湯川模型のミラーフェルミオン問題を扱う。
> https://rikai.mugen-giken.com/physics/lattice-field-theory/lattice-higgs-yukawa

## 0. この記事の要点

ゲージ理論で粒子に質量を与える Higgs 機構は、ふつう「真空で値をもつ場がゲージ対称性を壊す」と説明されます。ところが格子の上では、その値が必ず 0 になってしまい、「Higgs 相」と「閉じ込め相」を区別する目印が見つかりません。この記事では、両者が実は 1 つの相の両端にすぎない、という Fradkin–Shenker の結果を証明つきで読みます。後半では、湯川結合でフェルミオンを加えると何が困るのかを見ます。

- 格子ゲージ–Higgs 模型は、Wilson ゲージ作用に、リンク変数で平行移動した Higgs 場のホッピング項を足したものです。パラメータはゲージ結合 $\beta$、ホッピングパラメータ $\kappa$、4 次結合 $\lambda$ で、$\lambda\to\infty$ では Higgs 場の長さが固定されます。
- Higgs 場がゲージ群の元で表せる場合（$\mathrm{SU}(2)$ の 2 重項で長さを固定したもの、$\mathrm{U}(1)$ の電荷 1 など）は、ユニタリゲージ（ゲージ変換で Higgs 場を自明な値に固定する取り方）に移ると、模型は「プラケット項とリンク項をもつ純ゲージ理論」と厳密に同じになります。このとき Higgs 場の期待値は常に $0$ で、[Wilson ループ](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-loop)は閉じ込め的な領域でも周長則（ループの期待値が長さに応じて減る振る舞い。面積に応じて減るのが面積則）に従う（$\beta=0$ では厳密に計算できる）ので、どちらも相を区別する秩序変数になりません。
- Osterwalder–Seiler と Fradkin–Shenker の定理: そのような模型では、$\beta$ が小さい領域と、$\kappa/\beta$ が大きい領域の和集合の上で、自由エネルギーとゲージ不変な局所観測量が解析的です。この連結な領域は「閉じ込め的」な点と「Higgs 的」な点を両方含むので、両者は 1 つの相の 2 つの領域にすぎません（相補性）。本章ではクラスター展開による証明を書きます。
- Higgs 場の電荷が 2 以上（離散的な中心が残る場合）では定理の仮定が外れ、閉じ込め相と Higgs 相は本当に別の相になります。
- 物理的な粒子は、ゲージ不変な合成演算子 $\Phi^\dagger\Phi$ や $\mathrm{tr}(\tau^aX^\dagger D_\mu X)$ の極として現れます。ユニタリゲージで展開すると、その主要項は素の Higgs 場と $W$ 場の伝播関数になります（Fröhlich–Morchio–Strocchi）。
- 湯川結合をもつ格子模型では、カイラル対称性と局所性を保つと Nielsen–Ninomiya の定理によって逆カイラリティ（左巻きと右巻きの向きが逆）の「ミラーフェルミオン」が現れます。湯川模型も φ⁴ 理論と同じく自明であると考えられ、フェルミオン質量と Higgs 質量に切断依存の上限・下限を与えます。

<Aside type="tip" title="この記事で使う事前知識">

- **格子ゲージ作用**: リンク変数 $U_\mu(x)$ のプラケット（最小の正方形）の積で作るゲージ場の作用。→ [格子 QCD](/physics/lattice-field-theory/lattice-qcd)
- **Wilson ループ**: 閉じた経路に沿ってリンク変数を掛け、跡をとった量。面積則なら閉じ込め、周長則なら閉じ込めなし、の目安になる。→ [Wilson ループ](/physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#def-wilson-loop)
- **Haar 測度**: コンパクト群の上の、群の元を左から掛けても右から掛けても変わらない積分の測り方。本記事の変数変換で何度も使う。
- **自発的対称性の破れ**: 作用は対称でも、真空（基底状態）が対称性を保たないこと。→ [自発的対称性の破れ](/physics/qft/gauge-theory-and-symmetry-breaking#def-ssb)
- **素朴な格子 Dirac 作用素**: 連続の Dirac 作用素の微分を中心差分に置き換えたもの。16 個の「重複」粒子を生む。→ [素朴な格子 Dirac 作用素](/physics/lattice-field-theory/lattice-fermions#def-naive-lattice-dirac)

</Aside>

## 1. 動機

連続理論の教科書では、Higgs 機構は「スカラー場が真空期待値 $\langle\Phi\rangle=v\ne0$ をもち、ゲージ対称性が自発的に破れる」と説明されます（[ゲージ理論と自発的対称性の破れ](/physics/qft/gauge-theory-and-symmetry-breaking)）。しかし格子の上では、Elitzur の定理（<Ref to="physics/lattice-field-theory/lattice-gauge-fields#thm-elitzur" />）によって局所ゲージ対称性は自発的に破れず、$\langle\Phi\rangle=0$ が常に成り立ちます。すると「Higgs 相」とは何か、それは閉じ込め相とどう違うのか、という問いが生じます。

Fradkin と Shenker（1979）は、この問いに驚くべき答えを出しました。Higgs 場がゲージ群の基本表現にある場合、閉じ込め領域と Higgs 領域の間には相転移の線が端点をもって途切れており、その脇を回り込めば、非解析性に出会わずに一方から他方へ移れるのです。気体と液体が臨界点を回り込んでつながるのと同じ構図です。この結果は Osterwalder と Seiler（1978）がクラスター展開で厳密に証明した解析性に基づいています。

この「相補性」は哲学的な注意にとどまりません。電弱理論の物理的な粒子（$W$, $Z$, Higgs）はゲージ不変な合成状態としてどう記述されるのか、有限温度の電弱相転移は本当に相転移なのか、といった具体的な問いに直結しています。後半では、フェルミオンを湯川結合で加えた格子模型と、そこで現れるミラーフェルミオンの問題、Higgs 質量の上限と下限の考え方に触れます。

（この章の続きは購入者向けです。）
