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ポアンカレ予想 III:手術つき Ricci flow と有限時間消滅、予想の証明の論理

対象読者: ポアンカレ予想 I・II の内容(Ricci flow、エントロピー、非崩壊)と、基本群・被覆空間、管状近傍などの微分位相の初歩を学んだ人。3 次元多様体の分類論は仮定しません。

前提となる記事:ポアンカレ予想 I:命題と Ricci flow(スカラー曲率の発展方程式・最大値原理・Hamilton の定理)、ポアンカレ予想 II:Perelman のエントロピー公式と非崩壊定理、管状近傍・カラー・イソトピーの拡張、基本群と被覆空間:ループの代数で穴を数え、π₁(S¹)=ℤ・van Kampen・Galois 対応まで

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「単連結な 3 次元の閉じた図形は 3 次元球面しかない」というポアンカレ予想を、図形を少しずつ変形して調べる方法で示すとき、変形の途中で一部がくびれて切れそうになります。この記事は、そのくびれた部分を切って帽子をかぶせ、変形を続ける操作(手術)が位相の上で何をするのかを調べ、変形が最後に消えてしまうことから、元の図形が何だったかを逆にたどります。読み終えると、証明の中で解析に頼る部分と、位相の議論だけで閉じる部分がどこで分かれているかが分かります。

  • 対象は Perelman の第 2 論文 “Ricci flow with surgery on three-manifolds”(arXiv:math/0303109、2003 年 3 月)と第 3 論文 “Finite extinction time for the solutions to the Ricci flow on certain three-manifolds”(arXiv:math/0307245、2003 年 7 月)です。
  • 特異時刻で、曲率が有界にとどまる部分 Ω\Omega の端は細長い角(horn)になります。角の中の細い首を 22 次元球面で切り、帽子を貼って流れを続けるのが手術です。任意の初期計量から、手術の時刻が集積しない手術つき Ricci flow がすべての時間で作れます(定理 2.4、第 2 論文 §4〜§5。主張のみ)。
  • 手術は位相的には連結和の分解です。球面が多様体を 2 つに分けるなら M≅N1#N2M\cong N_1\# N_2、分けないなら M≅M′#(S2×S1)M\cong M'\#(S^2\times S^1) です(命題 3.4。証明します)。
  • 素因子に非球面的なものがなければ、とくに基本群が有限なら、手術つきの流れは有限時間で消滅します(定理 4.1、第 3 論文。主張のみ)。その核になる不等式、極小 22 球面の面積についての dAdt≤−4π−12Rmin⁡A\frac{dA}{dt}\le-4\pi-\frac12R_{\min}A は、滑らかな極小球面の場合に証明します(命題 4.4)。
  • 2 つの主定理を仮定すると、消滅する多様体は球面空間形と S2×S1S^2\times S^1 の連結和で、基本群が自明ならすべての因子が S3S^3 になります。こうしてポアンカレ予想が従います(定理 5.5。この導出は完全に証明します)。
  • 幾何化予想には長時間挙動の解析(第 2 論文 §6〜§8)が要りますが、ポアンカレ予想には要りません。3 本のプレプリントは査読誌に載っておらず、2006〜2008 年に公表された複数の独立した詳細な検証によって定理として受け入れられました。

第 4 章 で Hamilton の計画を述べました。Ricci flow で計量を流し、首がつぶれそうになったら切って帽子を貼り、また流す。これを繰り返して各成分が丸くなって消えれば、もとの多様体の位相が分かる、というものです。第 5 章 の非崩壊定理と標準近傍定理により、滑らかな流れの最初の特異時刻の直前では、曲率の大きい部分が首と帽子でできていることが分かりました。

残る問題は 3 つです。

  1. 手術の後の流れにも、非崩壊と標準近傍の性質が引き継がれるか。引き継がれなければ、2 回目の特異時刻で切る場所が見つからない。
  2. 手術の時刻が有限の時刻に集積しないか。集積すれば、流れをその先に続けられない。
  3. 流れは最終的にどうなるか。単連結な多様体から出発したら、有限時間で全部が消えるか。

第 2 論文は 1 と 2 を解決します。手術する首の細さ hh を、標準近傍のスケール rr に比べて十分小さく取り、帰納的にパラメータを選ぶことで、性質が保たれるようにします。手術 1 回ごとに体積が少なくとも h3h^3 減るので、有限時間内の手術は有限回です。第 3 論文は 3 を解決します。球面(または円板)の最小面積についての微分不等式から、基本群が有限なら流れが有限時間で消えることを示します。

この記事では、これら 2 つの主定理を正確に述べ、そこからポアンカレ予想に至る位相の議論を証明します。「消滅した多様体は何であったか」を逆向きにたどる議論で、van Kampen の定理と円板定理だけで閉じます。

2. 特異時刻の構造と手術(第 2 論文 §3〜§5)

Section titled “2. 特異時刻の構造と手術(第 2 論文 §3〜§5)”

この節の用語を先に整理します。細長い円筒 S2×IS^2\times I のような部分が首(ε\varepsilon-首は、その曲がり方が標準的な円筒にとても近いもの)、片方の端がふくらんで閉じた形になった部分が帽子です。特異時刻に近づくと、曲率が有界な本体から、先へ行くほど細く曲がりの強くなる首が伸びていきます。これが角です。以下の定義は、首の両端がどう終わるかによって、管・角・二重の角・帽子つきの角を呼び分けているだけです。

MM を向き付けられた閉 33 次元多様体、g(t)g(t)(t∈[0,T)t\in[0,T))を Ricci flow の解とし、T<∞T\lt\infty で曲率が有界にとどまらない(特異時刻である。第 4 章の 定理 6.2[ポアンカレ予想 I] (2))とします。記号 ε\varepsilon は、第 5 章の 定理 7.10[ポアンカレ予想 II] (4) と 定理 7.13[ポアンカレ予想 II] が成り立つ程度に小さく固定した正の数です。ε\varepsilon-首、ε\varepsilon-帽子は 定義 7.12[ポアンカレ予想 II] のものです。

定義 2.1(極限集合 Ω・厚い部分 ΩρΩ_ρ・角)↗

  1. Ω⊂M\Omega\subset M を、t↑Tt\uparrow T で曲率が有界にとどまる点の全体とする。Ω\Omega は開集合で、Ω\Omega の上で g(t)g(t) は t↑Tt\uparrow T で滑らかな計量 gˉ\bar g に収束する。gˉ\bar g のスカラー曲率を Rˉ\bar R と書く。
  2. ρ>0\rho\gt0 に対し Ωρ={x∈Ω:Rˉ(x)≤ρ−2}\Omega_\rho=\{x\in\Omega:\bar R(x)\le\rho^{-2}\} と置く。
  3. S2×IS^2\times I(II は開区間)の上の計量で、各点がある ε\varepsilon-首に含まれるものを、両端でスカラー曲率が有界なら ε\varepsilon-管、一方の端で有界で他方の端で無限大に発散するなら ε\varepsilon-角、両端で発散するなら二重 ε\varepsilon-角という。
  4. B3B^3 または RP3∖Bˉ3\mathbb{R}P^3\setminus\bar B^3 の上の計量で、あるコンパクト集合の外の各点が ε\varepsilon-首に含まれ、端でスカラー曲率が無限大に発散するものを帽子つき ε\varepsilon-角という。

(1)(2) は第 2 論文 §3、(3)(4) は同論文の冒頭 “Notation and terminology” の定義です。§3 では、標準近傍定理と κ\kappa-解の評価 ∣∇R∣<ηR3/2|\nabla R|\lt\eta R^{3/2}、∣∂tR∣<ηR2|\partial_tR|\lt\eta R^2 を使って次のことが示されます(ここでは主張として引用します)。

  • Ω\Omega が空なら、TT の直前で多様体全体が ε\varepsilon-首と ε\varepsilon-帽子で覆われるか、正の断面曲率を持つ閉多様体になっていて、MM は S3S^3、RP3\mathbb{R}P^3、S2×S1S^2\times S^1、RP3#RP3\mathbb{R}P^3\#\mathbb{R}P^3 または球面空間形に微分同相である。
  • Ω\Omega が空でなければ、Ωρ\Omega_\rho はコンパクトで、(Ω,gˉ)(\Omega,\bar g) の ε\varepsilon-首は、(a) 両端が Ωρ\Omega_\rho にある ε\varepsilon-管、(b) 境界が Ωρ\Omega_\rho にある ε\varepsilon-帽子、(c) 境界が Ωρ\Omega_\rho にある ε\varepsilon-角、(d) 帽子つき ε\varepsilon-角、(e) 二重 ε\varepsilon-角、のどれかに含まれる。Ωρ\Omega_\rho と交わる Ω\Omega の成分は有限個で、それぞれ有限個の端を持ち、各端は ε\varepsilon-角である。

特異時刻で多様体は、曲率が有界な「本体」Ωρ\Omega_\rho と、そこから伸びて先が無限に細くなる角とに分かれます。角の先は、時刻 TT の直前の多様体では、別の角か帽子につながっていました。

次の定義には r,δ,ρ,hr,\delta,\rho,h という小さい量が出ますが、順序は h<δρ=δ2rh\lt\delta\rho=\delta^2r です。rr は標準的な形が見えるスケール、hh は実際に切る首の半径で、hh をずっと小さく取るのは、切ったあとの貼り替えが曲率の大きい小さな領域だけに限られるようにするためです。

定義 2.2(δ-切断による手術)↗

r>0r\gt0(標準近傍のスケール)と小さい δ>0\delta\gt0 を取り、ρ=δr\rho=\delta r と置く。h∈(0,δρ)h\in(0,\delta\rho) を、「境界が Ωρ\Omega_\rho にある ε\varepsilon-角の中の点 xx で Rˉ(x)−1/2≤h\bar R(x)^{-1/2}\le h となるものは、強い δ\delta-首の中心である」ように選ぶ(第 2 論文 4.3 節の補題で存在が示される)。特異時刻 TT での手術を次の操作と定める。

  1. Ωρ\Omega_\rho が空なら、何も残さない(流れは時刻 TT で消滅したという)。
  2. Ωρ\Omega_\rho が空でなければ、Ωρ\Omega_\rho と交わらない Ω\Omega の成分を捨てる。残った各成分の各 ε\varepsilon-角について、半径 hh の δ\delta-首を 1 つ選び、その中央の 22 次元球面で切って、角の先の側を捨て、切り口に標準的な帽子(33 次元球体の上の、曲率の pinching を保つように作った回転対称な計量)を貼る。
  3. こうして得た閉多様体の成分のうち、丸い球面の商に ε\varepsilon-近いものは捨てる(消滅したとみなす)。

第 2 論文 4.4 節の定義です(そこでは “Ricci flow with δ\delta-cutoff” と呼ばれます)。rr より小さいスケールでは解が標準的な形をしており、それよりずっと小さい半径 hh の首で切る、という 2 つのスケールの使い分けが、論文の冒頭で強調されている点です。

定義 2.3(手術つき Ricci flow・消滅時刻)↗

向き付けられた閉 33 次元 Riemann 多様体 (M,g0)(M,g_0) から出発する手術つき Ricci flow とは、次の組をいう。

  • 時刻の列 0=t0<t1<t2<⋯0=t_0\lt t_1\lt t_2\lt\cdots(有限列、または集積点を持たない無限列)。
  • 向き付けられた閉 33 次元多様体 M0=M,M1,M2,…M_0=M,M_1,M_2,\dots(連結とは限らず、空でもよい)と、MkM_k 上の Ricci flow の滑らかな解 gk(t)g_k(t)(t∈[tk,tk+1)t\in[t_k,t_{k+1})、最後の kk については [tk,∞)[t_k,\infty))で、g0(0)=g0g_0(0)=g_0 を満たすもの。
  • 各 k≥1k\ge1 について、tkt_k は gk−1g_{k-1} の特異時刻で、(Mk,gk(tk))(M_k,g_k(t_k)) は (Mk−1,gk−1)(M_{k-1},g_{k-1}) から時刻 tkt_k での手術(定義 2.2)で得られる。

ある kk で Mk=∅M_k=\varnothing となるとき、流れは時刻 tkt_k で消滅するといい、tkt_k を消滅時刻という。

第 2 論文 4.1 節の定義にあたります。手術で貼り替えるのは曲率の大きい小さな領域だけで、Ωρ\Omega_\rho の近くでは手術の前後の計量は同じです。

定理 2.4(手術つき Ricci flow の存在(Perelman))※

(M,g0)(M,g_0) を向き付けられた閉 33 次元 Riemann 多様体とする。手術のパラメータ(時刻について非増加な正の関数 r(t)r(t)、δ(t)\delta(t))を適切に選ぶと、(M,g0)(M,g_0) から出発する手術つき Ricci flow がすべての時刻 t∈[0,∞)t\in[0,\infty) で定義され、次を満たす。

  1. (位相)各 k≥1k\ge1 について、MkM_k は、Mk−1M_{k-1} に互いに交わらない有限個の埋め込まれた 22 次元球面に沿った位相的な手術(定義 3.1)を施し、その結果の成分のうち、球面空間形、S2×S1S^2\times S^1、RP3#RP3\mathbb{R}P^3\#\mathbb{R}P^3 のいずれかに微分同相なものをいくつか捨てたものに、向きを保って微分同相である。
  2. (幾何)各有限区間 [0,t][0,t] の上で、流れは Hamilton–Ivey の pinching 評価、ある κ(t)>0\kappa(t)\gt0 についての非崩壊、パラメータ r(t)r(t) の標準近傍の性質を満たす。
  3. (スカラー曲率)時刻 tt の多様体の上のスカラー曲率の最小値 Rmin⁡(t)R_{\min}(t) は、手術の時刻をまたいでも、第 4 章の 系 5.2[ポアンカレ予想 I] (1)(3) の評価を満たす。

注意 2.5(主張のみ:理由と出典)

この定理は主張のみとし、証明を付けません。第 2 論文の §4〜§5 の内容で、中心は Proposition 5.1 です。そこでは、初期計量が正規化されている(断面曲率の絶対値が 11 以下で、半径 11 の球の体積が Euclid の単位球の半分以上。5.1 節の定義。任意の計量は定数倍で正規化でき、定数倍しても Ricci flow の解は時間を取り替えた解になる)とき、減少列 rj,κj,δˉjr_j,\kappa_j,\bar\delta_j があって、区間 [2j−1ε,2jε][2^{j-1}\varepsilon,2^j\varepsilon] で δ(t)<δˉj\delta(t)\lt\bar\delta_j となる任意の δ(t)\delta(t) について手術つきの流れが定義され、その区間で κj\kappa_j-非崩壊かつパラメータ rjr_j の標準近傍の性質を満たす、と述べられています。まとめは 6.1 節にあります。証明は区間ごとの帰納法で、手術の後も非崩壊が保たれること(Lemma 5.2。第 1 論文 §8 の簡約体積による局所版の非崩壊定理を、手術で切られる曲線を避けて使う)と、標準近傍の性質が保たれること(5.4 節。第 1 論文 Theorem 12.1 の証明の繰り返し)を示します。手術の時刻が集積しないことは、手術 1 回で体積が少なくとも h3h^3 減ること(4.4 節の末尾)によります。(1) は §3 の末尾と 4.4 節から読み取れる位相の記述で、捨てる成分の型は §3 にある一覧(S3S^3、RP3\mathbb{R}P^3、S2×S1S^2\times S^1、RP3#RP3\mathbb{R}P^3\#\mathbb{R}P^3)と 4.4 節の「丸い球面の商に近い成分は消滅したとみなす」によります。(3) は 7.1 節にあります。そこでは滑らかな解について式 (7.2) Rmin⁡(t)≥−32 (t+14)−1R_{\min}(t)\ge-\frac32\,(t+\frac14)^{-1} を導いた後、これらの不等式が δ(t)\delta(t)-切断つきの解でも成り立つと述べています(手術で貼り替えるのはスカラー曲率が大きな正の値を取る領域だけなので、最小値は手術で下がりません)。完全な証明は Kleiner–Lott の注釈、Morgan–Tian の本、Cao–Zhu の論文にあり、どれでも全体の中で最も長い部分です。Rikai で証明できる分量ではありません。

3.1. 位相的な手術と、球面との連結和

Section titled “3.1. 位相的な手術と、球面との連結和”

定理の (1) に現れた「位相的な手術」を定義し、連結和との関係を証明します。連結和の定義と記号は 定義 6.3[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] のものです。BR⊂RnB_R\subset\mathbb{R}^n は半径 RR の開球、DnD^n は閉単位球です。連結な向き付けられた多様体 M1,M2M_1,M_2、向きを保つ埋め込み f1 ⁣:BR→M1f_1\colon B_R\to M_1、向きを逆にする埋め込み f2 ⁣:BR→M2f_2\colon B_R\to M_2(R>1R\gt1)に対し、

M1#M2=(M1∖{f1(0)})⊔(M2∖{f2(0)})/ f1(tu)∼f2((1−t)u)(u∈Sn−1, 0<t<1)M_1\# M_2=\bigl(M_1\setminus\{f_1(0)\}\bigr)\sqcup\bigl(M_2\setminus\{f_2(0)\}\bigr)\Big/\ f_1(tu)\sim f_2\bigl((1-t)u\bigr)\quad(u\in S^{n-1},\ 0\lt t\lt1)

で、向きを保つ微分同相類は f1,f2f_1,f_2 の取り方によりません(系 6.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])。したがって、向きを保つ微分同相 M1≅M1′M_1\cong M_1'、M2≅M2′M_2\cong M_2' があれば M1#M2≅M1′#M2′M_1\# M_2\cong M_1'\# M_2' です(埋め込みを微分同相で写せばよい)。

定義 3.1(球面に沿った位相的な手術)↗

MM を向き付けられた境界のない nn 次元多様体(n≥2n\ge2)、e ⁣:Sn−1×(−2,2)→Me\colon S^{n-1}\times(-2,2)\to M を埋め込みとし、S=e(Sn−1×{0})S=e(S^{n-1}\times\{0\}) と置く。M∖SM\setminus S に 2 点 p+,p−p_+,p_- を付け加えた集合

MS=(M∖S)⊔{p+,p−}M_S=(M\setminus S)\sqcup\{p_+,p_-\}

に、M∖SM\setminus S のチャートと、次の 2 つの写像を逆写像とするチャートで多様体の構造を入れる。

c± ⁣:B2→MS,c±(su)=e(u,±s)(u∈Sn−1, 0<s<2),c±(0)=p±.c_\pm\colon B_2\to M_S,\qquad c_\pm(su)=e(u,\pm s)\quad(u\in S^{n-1},\ 0\lt s\lt2),\qquad c_\pm(0)=p_\pm .

MSM_S を、MM に SS に沿って手術を施した多様体という。互いに交わらない像を持つ有限個の埋め込み e1,…,eke_1,\dots,e_k についても同様に定める。

M∖SM\setminus S の 2 つの端 e(Sn−1×(0,2))e(S^{n-1}\times(0,2))、e(Sn−1×(−2,0))e(S^{n-1}\times(-2,0)) は、それぞれ穴あき球 B2∖{0}B_2\setminus\{0\} と微分同相で、手術はその穴を 1 点で埋めます。球を貼ると言っても同じことです。MS∖{p±}=M∖SM_S\setminus\{p_\pm\}=M\setminus S の向きは MSM_S 全体の向きに延びます(n≥2n\ge2 で穴あき球は連結なので、チャート c±c_\pm が向きを保つか逆にするかは全体で一定)。極座標の写像 (u,s)↦su(u,s)\mapsto su と (u,s)↦(u,−s)(u,s)\mapsto(u,-s) の合成で c+c_+ と c−c_- が移り合い、後者は向きを逆にするので、c+c_+ と c−c_- の一方は向きを保ち、他方は逆にします。必要なら e(u,s)e(u,s) を e(u,−s)e(u,-s) に替えて、以下 c+c_+ が向きを保ち c−c_- が逆にするとします。MM がコンパクトなら MSM_S もコンパクトです。

補題 3.2(球面との連結和は元の多様体)✓

MM を連結な向き付けられた境界のない nn 次元多様体(n≥2n\ge2)とする。M#SnM\# S^n は MM に向きを保って微分同相である。

証明(補題 3.2)

埋め込みの選び方。 f1 ⁣:BR→Mf_1\colon B_R\to M を向きを保つ埋め込みとします(チャートを縮めて作る)。SnS^n の側は、補題 5.2[微分可能多様体の定義] の立体射影 φN ⁣:Sn∖{N}→Rn\varphi_N\colon S^n\setminus\{N\}\to\mathbb{R}^n、φS ⁣:Sn∖{S}→Rn\varphi_S\colon S^n\setminus\{S\}\to\mathbb{R}^n を使います。JJ を Rn\mathbb{R}^n の恒等写像または 1 つの座標の符号を変える鏡映とし、f2=φS−1∘J ⁣:Rn→Snf_2=\varphi_S^{-1}\circ J\colon\mathbb{R}^n\to S^n が向きを逆にするように JJ を選びます。f2(0)=Nf_2(0)=N で、座標変換の式 φN∘φS−1(x)=x/∣x∣2\varphi_N\circ\varphi_S^{-1}(x)=x/|x|^2 から

φN(f2(x))=Jx∣x∣2(x≠0).\varphi_N\bigl(f_2(x)\bigr)=\frac{Jx}{|x|^2}\qquad(x\ne0).

系 6.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] により、この f1f_1 と f2∣BRf_2|_{B_R} で作った連結和について示せば十分です。

連結和の書き直し。 φN\varphi_N で Sn∖{N}S^n\setminus\{N\} を Rn\mathbb{R}^n と同一視すると、f2((1−t)u)f_2((1-t)u) は Ju/(1−t)Ju/(1-t) に対応するので

M#Sn=(M∖{f1(0)})⊔Rn/ f1(tu)∼Ju1−t(0<t<1)M\# S^n=\bigl(M\setminus\{f_1(0)\}\bigr)\sqcup\mathbb{R}^n\Big/\ f_1(tu)\sim\frac{Ju}{1-t}\quad(0\lt t\lt1)

です。Rn\mathbb{R}^n の点 yy のうち ∣y∣>1|y|\gt1 のものが、f1(B1∖{0})f_1(B_1\setminus\{0\}) の点とちょうど 1 対 1 に貼られています。

半径の付け替え。 χ ⁣:R→[0,1]\chi\colon\mathbb{R}\to[0,1] を、(−∞,2](-\infty,2] 上で 00、[3,∞)[3,\infty) 上で 11 の非減少な滑らかな関数とし、

θ(s)=(1−χ(s))s8+χ(s)(1−1s)(s≥0)\theta(s)=(1-\chi(s))\frac s8+\chi(s)\Bigl(1-\frac1s\Bigr)\qquad(s\ge0)

と置きます。θ′(s)=1−χ8+χs2+χ′(s)(1−1s−s8)\theta'(s)=\frac{1-\chi}{8}+\frac{\chi}{s^2}+\chi'(s)\bigl(1-\frac1s-\frac s8\bigr) で、[2,3][2,3] 上で凹な関数 1−1s−s81-\frac1s-\frac s8 は端点の値 14\frac14、724\frac7{24} 以上なので θ′>0\theta'\gt0 です。θ(s)=s/8\theta(s)=s/8(s≤2s\le2)、θ(s)=1−1/s\theta(s)=1-1/s(s≥3s\ge3)で、θ\theta は [0,∞)[0,\infty) から [0,1)[0,1) への微分同相です。

微分同相の構成。 写像 Ψ ⁣:M#Sn→M\Psi\colon M\# S^n\to M を

Ψ(y)=f1(θ(∣y∣) J−1y∣y∣) (y∈Rn),Ψ(z)=z (z∈M∖f1(B1)),Ψ(f1(tu))=f1(θ(11−t)u) (0<t<1)\Psi(y)=f_1\Bigl(\theta(|y|)\,\frac{J^{-1}y}{|y|}\Bigr)\ (y\in\mathbb{R}^n),\qquad \Psi(z)=z\ (z\in M\setminus f_1(B_1)),\qquad \Psi\bigl(f_1(tu)\bigr)=f_1\Bigl(\theta\Bigl(\frac{1}{1-t}\Bigr)u\Bigr)\ (0\lt t\lt1)

で定めます。y=Ju/(1−t)y=Ju/(1-t) のとき第 1 式は f1(θ(11−t)u)f_1(\theta(\frac1{1-t})u) で第 3 式と一致するので、Ψ\Psi は商の上で矛盾なく定まります。t≥23t\ge\frac23 では 11−t≥3\frac1{1-t}\ge3 で θ(11−t)=t\theta(\frac1{1-t})=t なので、第 3 式は恒等写像で、第 2 式と滑らかにつながります。∣y∣≤2|y|\le2 では第 1 式は f1(J−1y/8)f_1(J^{-1}y/8) で、原点でも滑らかです。Ψ\Psi は、Rn\mathbb{R}^n を f1(B1)f_1(B_1) の上へ、M∖{f1(0)}M\setminus\{f_1(0)\} を M∖f1(Bˉ1/8)M\setminus f_1(\bar B_{1/8}) の上へ、それぞれ微分同相に写します(t↦θ(11−t)t\mapsto\theta(\frac1{1-t}) は (0,1)(0,1) から (18,1)(\frac18,1) への微分同相)。集合として M#SnM\# S^n は M∖f1(B1)M\setminus f_1(B_1) と Rn\mathbb{R}^n の非交和なので Ψ\Psi は全単射で、2 つの開集合の上で微分同相だから、全体で微分同相です。M∖f1(B1)M\setminus f_1(B_1) の上で恒等写像なので向きを保ちます。

3.2. 球面が多様体を分ける場合と分けない場合

Section titled “3.2. 球面が多様体を分ける場合と分けない場合”

次の補題は、球面で切っても多様体が 2 つに分かれない場合に、何が起きるかを調べるためのものです。結論は、切り口の 2 つの穴を貼り合わせる操作が、Sn−1×S1S^{n-1}\times S^1(n=3n=3 なら S2×S1S^2\times S^1)との連結和をとる操作と同じだ、ということです。証明は、まず SnS^n の中での模型で貼り合わせた結果が円周と球面の積になることを示し、次に円板定理を使って一般の NN に移します。

補題 3.3(2 点での貼り合わせは S² × S¹ との連結和)✓

NN を連結な向き付けられた境界のない nn 次元多様体(n≥2n\ge2)、c+ ⁣:B2→Nc_+\colon B_2\to N を向きを保つ埋め込み、c− ⁣:B2→Nc_-\colon B_2\to N を向きを逆にする埋め込みとし、像は交わらないとする。

Self⁡(N;c+,c−)=(N∖{c+(0),c−(0)})/ c+(tu)∼c−((1−t)u)(u∈Sn−1, 0<t<1)\operatorname{Self}(N;c_+,c_-)=\bigl(N\setminus\{c_+(0),c_-(0)\}\bigr)\Big/\ c_+(tu)\sim c_-\bigl((1-t)u\bigr)\quad(u\in S^{n-1},\ 0\lt t\lt1)

は N#(Sn−1×S1)N\#(S^{n-1}\times S^1) に微分同相である。

証明(補題 3.3)

模型:SnS^n での貼り合わせは Sn−1×S1S^{n-1}\times S^1。 Sn=Rn∪{∞}S^n=\mathbb{R}^n\cup\{\infty\}(φN\varphi_N による同一視)とし、d+(x)=xd_+(x)=x、d−(x)=9x/∣x∣2d_-(x)=9x/|x|^2(x≠0x\ne0)、d−(0)=∞d_-(0)=\infty と置きます。d+d_+ は B2B_2 の包含、d−d_- は 補題 5.2[微分可能多様体の定義] の座標変換の式から ∞\infty のまわりのチャートの逆写像で、像は {∣y∣>92}∪{∞}\{|y|\gt\frac92\}\cup\{\infty\} です。像は交わらず、反転は向きを逆にするので d+d_+ は向きを保ち d−d_- は逆にします。X=Self⁡(Sn;d+,d−)X=\operatorname{Self}(S^n;d_+,d_-) と置きます。Rn∖{0}\mathbb{R}^n\setminus\{0\} を y=esuy=e^su で Sn−1×RS^{n-1}\times\mathbb{R} と同一視すると、同一視 tu∼9u/(1−t)tu\sim9u/(1-t) は、Sn−1S^{n-1} の成分を変えず、R\mathbb{R} の成分について

s∼β(s),β(s)=log⁡9−log⁡(1−es)(s<0)s\sim\beta(s),\qquad \beta(s)=\log9-\log(1-e^s)\qquad(s\lt0)

です。β\beta は (−∞,0)(-\infty,0) から (log⁡9,∞)(\log9,\infty) への増加な微分同相です。よって X=Sn−1×CX=S^{n-1}\times C、C=R/∼C=\mathbb{R}/{\sim} です。

CC が円周に微分同相であることを示します。商写像を q ⁣:R→Cq\colon\mathbb{R}\to C とします。開集合 WW の飽和 W∪β(W∩(−∞,0))∪β−1(W∩(log⁡9,∞))W\cup\beta(W\cap(-\infty,0))\cup\beta^{-1}(W\cap(\log9,\infty)) は開集合なので qq は開写像です。β\beta の値はすべて log⁡9\log9 より大きく、定義域は負の数なので、A=(−∞,log⁡9)A=(-\infty,\log9) の 2 点が同一視されることはなく、A′=(0,∞)A'=(0,\infty) についても同様です。したがって q∣Aq|_A、q∣A′q|_{A'} は開集合への同相で、C=q(A)∪q(A′)C=q(A)\cup q(A')、座標変換は β\beta とその逆で滑らかです。Hausdorff 性を確かめます。q(A)q(A) の 2 点、q(A′)q(A') の 2 点はそれぞれ分離できます。q(A)q(A) にあって q(A′)q(A') にない点は q(s)q(s)(s≤0s\le0 で、どの正の数とも同値でないもの)で、s<0s\lt0 は β(s)>0\beta(s)\gt0 と同値なので q(0)q(0) だけです。同様に q(A′)q(A') にあって q(A)q(A) にない点は q(log⁡9)q(\log9) だけです。小さい η>0\eta\gt0 について、(−η,η)(-\eta,\eta) の飽和は (−η,η)∪(β(−η),∞)(-\eta,\eta)\cup(\beta(-\eta),\infty)、(log⁡9−η,log⁡9+η)(\log9-\eta,\log9+\eta) の飽和は (log⁡9−η,log⁡9+η)∪(−∞,β−1(log⁡9+η))(\log9-\eta,\log9+\eta)\cup(-\infty,\beta^{-1}(\log9+\eta)) で、η→0\eta\to0 のとき β(−η)→∞\beta(-\eta)\to\infty、β−1(log⁡9+η)→−∞\beta^{-1}(\log9+\eta)\to-\infty なので、これらは交わりません。よって CC は Hausdorff な滑らかな 11 次元多様体です。s>β(−1)s\gt\beta(-1) はすべて (−1,0)(-1,0) の点と同値なので C=q([−1,β(−1)])C=q([-1,\beta(-1)]) はコンパクトで、連結です。コンパクトで連結な境界のない 11 次元多様体は S1S^1 に微分同相です(定理 4.4[横断性])。よって X≅Sn−1×S1X\cong S^{n-1}\times S^1 です。

N#SnN\# S^n の中に模型を置く。 SnS^n の点 y0=(3,0,…,0)∈Rny_0=(3,0,\dots,0)\in\mathbb{R}^n のまわりに、向きを逆にする埋め込み f2 ⁣:BR→Snf_2\colon B_R\to S^n(R>1R\gt1)で像が {∣y−y0∣<12}\{|y-y_0|\lt\frac12\} に入るものを取ります。この像は d±(B2)d_\pm(B_2) と交わりません。向きを保つ埋め込み f1 ⁣:BR→Nf_1\colon B_R\to N を取り、N#SnN\# S^n を作ります。d±d_\pm の像は Sn∖{f2(0)}S^n\setminus\{f_2(0)\} のうち貼り合わせに使わない部分にあるので、d±d_\pm は N#SnN\# S^n への埋め込みと見なせます。Self⁡(N#Sn;d+,d−)\operatorname{Self}(N\# S^n;d_+,d_-) は、(N∖{f1(0)})⊔(Sn∖{f2(0),0,∞})(N\setminus\{f_1(0)\})\sqcup(S^n\setminus\{f_2(0),0,\infty\}) に 2 種類の同一視を施した商で、同一視の領域は交わらないので、順序を入れ替えて

Self⁡(N#Sn;d+,d−)=N#X≅N#(Sn−1×S1)\operatorname{Self}(N\# S^n;d_+,d_-)=N\# X\cong N\#(S^{n-1}\times S^1)

です(右の連結和は f2f_2 を XX への埋め込みと見て作ったもので、系 6.4[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張] により埋め込みの取り方によらない)。

c±c_\pm に合わせる。 補題 3.2 により向きを保つ微分同相 Ψ ⁣:N#Sn→N\Psi\colon N\# S^n\to N があります。Ψ∘d+\Psi\circ d_+ は向きを保つ埋め込み B2→NB_2\to N です。円板定理(定理 6.2[管状近傍・カラー・イソトピーの拡張])により、NN の微分同相 Φ1\Phi_1(恒等写像にイソトピックなので向きを保つ)で DnD^n の上で Φ1Ψd+=c+\Phi_1\Psi d_+=c_+ となるものがあります。Y=N∖c+(Dn)Y=N\setminus c_+(D^n) は連結な向き付けられた境界のない多様体です(連結性は、第 4 章の 命題 2.7[ポアンカレ予想 I] の証明と同じく、閉球を通る道を球面 c+(∂B3/2)c_+(\partial B_{3/2}) の上で迂回させれば分かる)。ρ\rho を Rn\mathbb{R}^n の鏡映とすると、Φ1Ψd−∘ρ\Phi_1\Psi d_-\circ\rho と c−∘ρc_-\circ\rho は B2B_2 から YY への向きを保つ埋め込みです(像が c+(Dn)c_+(D^n) と交わらないのは、d±d_\pm の像、c±c_\pm の像がそれぞれ交わらないことによる)。再び円板定理により、YY の台がコンパクトな微分同相 Φ2\Phi_2 で DnD^n の上で Φ2Φ1Ψd−ρ=c−ρ\Phi_2\Phi_1\Psi d_-\rho=c_-\rho となるものがあります。Φ2\Phi_2 は c+(Dn)c_+(D^n) の近くで恒等写像なので、c+(Dn)c_+(D^n) の上で恒等写像として NN の微分同相に延びます。Φ=Φ2Φ1Ψ ⁣:N#Sn→N\Phi=\Phi_2\Phi_1\Psi\colon N\# S^n\to N は微分同相で、DnD^n の上で Φd±=c±\Phi d_\pm=c_\pm です。Self⁡\operatorname{Self} の同一視は開単位球の中だけで行うので、Φ\Phi は微分同相

Self⁡(N#Sn;d+,d−)≅Self⁡(N;c+,c−)\operatorname{Self}(N\# S^n;d_+,d_-)\cong\operatorname{Self}(N;c_+,c_-)

を誘導します。前段と合わせて主張を得ます。

命題 3.4(手術と連結和)✓

MM を連結な向き付けられた閉 nn 次元多様体(n≥2n\ge2)、e ⁣:Sn−1×(−2,2)→Me\colon S^{n-1}\times(-2,2)\to M を埋め込み、S=e(Sn−1×{0})S=e(S^{n-1}\times\{0\})、MSM_S を SS に沿った手術の結果(定義 3.1)とする。

  1. M∖SM\setminus S が連結でないとき、MSM_S はちょうど 2 つの成分 N1∋p+N_1\ni p_+、N2∋p−N_2\ni p_- を持ち、M≅N1#N2M\cong N_1\# N_2。
  2. M∖SM\setminus S が連結のとき、MSM_S は連結で、M≅MS#(Sn−1×S1)M\cong M_S\#(S^{n-1}\times S^1)。

したがって、連結な向き付けられた閉多様体のクラス C\mathcal{C} が連結和について閉じていて Sn−1×S1S^{n-1}\times S^1 を含むとき、MM に互いに交わらない有限個の球面に沿って手術を施した結果のすべての成分が C\mathcal{C} に属するならば、MM も C\mathcal{C} に属する。

証明(命題 3.4)

首を縮める写像。 χ ⁣:R→[0,1]\chi\colon\mathbb{R}\to[0,1] を、s≤−32s\le-\frac32 で 00、s≥32s\ge\frac32 で 11、0≤χ′≤120\le\chi'\le\frac12 を満たす滑らかな関数とし(幅 33 の区間で 11 増えるので、傾きを 12\frac12 以下にできる)、λ(s)=s−χ(s)\lambda(s)=s-\chi(s) と置きます。λ′≥12>0\lambda'\ge\frac12\gt0、λ(s)=s\lambda(s)=s(s≤−32s\le-\frac32)、λ(s)=s−1\lambda(s)=s-1(s≥32s\ge\frac32)で、λ\lambda は (−2,2)(-2,2) から (−2,1)(-2,1) への微分同相です。

QQ を、M∖SM\setminus S で e(u,t)∼e(u,t−1)e(u,t)\sim e(u,t-1)(u∈Sn−1u\in S^{n-1}、0<t<10\lt t\lt1)を同一視した商とします。写像 Ψ ⁣:M→Q\Psi\colon M\to Q を

Ψ(x)=[x]  (x∉e(Sn−1×(−2,2))),Ψ(e(u,s))={[e(u,λ(s))](λ(s)<0),[e(u,λ(s)+1)](λ(s)>−1)\Psi(x)=[x]\ \ (x\notin e(S^{n-1}\times(-2,2))),\qquad \Psi(e(u,s))=\begin{cases}[e(u,\lambda(s))]&(\lambda(s)\lt0),\\ [e(u,\lambda(s)+1)]&(\lambda(s)\gt-1)\end{cases}

で定めます。−1<λ(s)<0-1\lt\lambda(s)\lt0 のとき、t=λ(s)+1∈(0,1)t=\lambda(s)+1\in(0,1) について e(u,t)∼e(u,t−1)=e(u,λ(s))e(u,t)\sim e(u,t-1)=e(u,\lambda(s)) なので 2 つの式は一致します。s≤−32s\le-\frac32 では Ψ(e(u,s))=[e(u,s)]\Psi(e(u,s))=[e(u,s)]、s≥32s\ge\frac32 でも Ψ(e(u,s))=[e(u,s)]\Psi(e(u,s))=[e(u,s)] で、首の外の定義と滑らかにつながります。QQ の点は、e(Sn−1×(0,1))e(S^{n-1}\times(0,1)) の点がすべて e(Sn−1×(−1,0))e(S^{n-1}\times(-1,0)) の点と同一視されるので、M∖e(Sn−1×[0,1))M\setminus e(S^{n-1}\times[0,1)) の点でちょうど 1 回ずつ代表されます。Ψ\Psi は首の外では恒等写像、首の上では s↦λ(s)s\mapsto\lambda(s)(λ(s)<0\lambda(s)\lt0 のとき)または s↦λ(s)+1∈[1,2)s\mapsto\lambda(s)+1\in[1,2)(λ(s)≥0\lambda(s)\ge0 のとき)で、(−2,2)(-2,2) を (−2,0)∪[1,2)(-2,0)\cup[1,2) に全単射に写します。よって Ψ\Psi は全単射で、各点の近くで微分同相なので、M≅QM\cong Q です。

(1) M∖SM\setminus S が連結でないとします。M∖SM\setminus S の点は、MM の中の道で SS まで結べ、その道が最初に首 e(Sn−1×(−2,2))e(S^{n-1}\times(-2,2)) に入るところまでは SS と交わらないので、M∖SM\setminus S の各成分は連結な集合 e(Sn−1×(0,2))e(S^{n-1}\times(0,2))、e(Sn−1×(−2,0))e(S^{n-1}\times(-2,0)) のどちらかを含みます。したがって成分はちょうど 2 つで、前者を含む方を M+M_+、後者を含む方を M−M_- とすると、N1=M+∪{p+}N_1=M_+\cup\{p_+\}、N2=M−∪{p−}N_2=M_-\cup\{p_-\} が MSM_S の成分です。f1=c+ ⁣:B2→N1f_1=c_+\colon B_2\to N_1 は向きを保つ埋め込み、f2=c− ⁣:B2→N2f_2=c_-\colon B_2\to N_2 は向きを逆にする埋め込みで、これらで作った連結和は

N1#N2=M+⊔M−/ c+(tu)∼c−((1−t)u),すなわちe(u,t)∼e(u,−(1−t))=e(u,t−1)N_1\# N_2=M_+\sqcup M_-\Big/\ c_+(tu)\sim c_-\bigl((1-t)u\bigr),\qquad\text{すなわち}\quad e(u,t)\sim e(u,-(1-t))=e(u,t-1)

です。これは QQ そのものなので M≅N1#N2M\cong N_1\# N_2 です。

(2) M∖SM\setminus S が連結なら MS=(M∖S)∪{p±}M_S=(M\setminus S)\cup\{p_\pm\} も連結です。QQ の定義の同一視は c+(tu)∼c−((1−t)u)c_+(tu)\sim c_-((1-t)u) なので Q=Self⁡(MS;c+,c−)Q=\operatorname{Self}(M_S;c_+,c_-) で、補題 3.3 から M≅Q≅MS#(Sn−1×S1)M\cong Q\cong M_S\#(S^{n-1}\times S^1) です。

後半。 球面の個数 kk についての帰納法で示します。k=0k=0 は自明です。k≥1k\ge1 とし、MM に S1S_1 だけに沿って手術を施したものを M′M' とします。残りの球面 S2,…,SkS_2,\dots,S_k とその首は M∖S1⊂M′M\setminus S_1\subset M' に入っており、MM に S1,…,SkS_1,\dots,S_k に沿って手術を施した結果は、M′M' に S2,…,SkS_2,\dots,S_k に沿って手術を施した結果と同じです。M′M' の各成分 NN について、NN の中にある球面(k−1k-1 個以下)に沿った手術の結果は全体の結果の成分の合併で、その成分はすべて C\mathcal{C} に属するので、帰納法の仮定から N∈CN\in\mathcal{C} です。(1)(2) から MM は N1#N2N_1\# N_2 または M′#(Sn−1×S1)M'\#(S^{n-1}\times S^1) に微分同相で、C\mathcal{C} は連結和で閉じ Sn−1×S1S^{n-1}\times S^1 を含むので M∈CM\in\mathcal{C} です。

n=3n=3 の場合、手術は連結和の分解の逆操作です。球面が多様体を分けるなら 2 つの因子に分かれ、分けないなら S2×S1S^2\times S^1 の因子が 1 つ外れます。SS が球体の境界になっているときは、(1) の N2N_2(または N1N_1)が S3S^3 で、補題 3.2 により手術は位相を変えません。Perelman の第 3 論文 1.3 節はこの場合を「位相的に自明な手術」と呼んでいます。

連結な多様体 XX が非球面的(aspherical)であるとは、すべての k≥2k\ge2 でホモトピー群 πk(X)\pi_k(X)(定義 2.1[ホモトピー群とファイブレーション])が自明であることをいいます。普遍被覆が可縮な多様体、たとえばトーラスや閉双曲多様体がそうです。

定理 4.1(有限時間消滅(Perelman、Colding–Minicozzi))※

MM を連結な向き付けられた閉 33 次元多様体とする。

  1. MM の素分解(第 4 章の 定理 2.9[ポアンカレ予想 I])に非球面的な因子が現れないならば、MM 上の任意の初期計量から出発する 定理 2.4 の手術つき Ricci flow は、有限時間で消滅する。
  2. π1(M)\pi_1(M) が有限群ならば、とくに MM が単連結ならば、(1) の仮定は満たされる。

注意 4.2(主張のみ:理由と出典)

この定理は主張のみとし、証明を付けません。(1) は第 3 論文の Theorem 1.1 の主張そのものです。Perelman の証明(§1)は次のとおりです。可縮な閉曲線 cc に対し、cc を境界とする円板の面積の下限を A(c,g)A(c,g) とし、閉曲線の族についての min-max の値 A(α,g)A(\alpha,g) を、ループ空間の自明でない相対ホモトピー類 α\alpha について定めます。Lemma 1.2 は、滑らかな Ricci flow に沿って

ddtA(α,g(t))≤−2π−12Rmin⁡(t) A(α,g(t))\frac{d}{dt}A(\alpha,g(t))\le-2\pi-\frac12R_{\min}(t)\,A(\alpha,g(t))

(前進差分商の上極限の意味)が成り立つことを述べ、1.3 節でこれが手術つきの流れでも成り立つこと、Rmin⁡(t)≥−32(t+const)−1R_{\min}(t)\ge-\frac32(t+\mathrm{const})^{-1} と合わせると AA が有限時間で 00 になって矛盾することを示します。Lemma 1.2 の厳密な証明(§3)は、閉曲線を曲線短縮流で動かすときの特異点を、空間に 11 次元を足して正則化する方法(§2、Altschuler–Grayson の方法)で扱うもので、技術的な部分です。一般の MM への拡張は 1.5 節にあります。T. Colding と W. Minicozzi は、円板の代わりに 22 次元球面による掃き出し(sweepout)の min-max 値(幅)を使う別証明を与えました(J. Amer. Math. Soc. 18 (2005), 561–569、詳細は Geom. Topol. 12 (2008), 2537–2586)。この場合の不等式が 4.2 節で証明する −4π-4\pi の形です。どちらの証明も、min-max の値を実現する極小曲面の存在と正則性の理論(定理 4.6)に依ります。Morgan–Tian の本の最後の部分が、有限時間消滅の完全な証明にあてられています。

(2) の理由は次のとおりです。連結和の基本群は自由積で(第 4 章の 命題 2.7[ポアンカレ予想 I])、各因子の基本群は自由積に単射で入るので(補題 5.1)、π1(M)\pi_1(M) が有限なら素因子 PP の基本群も有限です。すると PP の普遍被覆 P~\tilde P は閉多様体で、閉多様体は可縮でない(Z/2\mathbb{Z}/2 係数の最高次のホモロジーが消えない)ので、PP は非球面的ではありません。この最後の事実に使うホモロジーの議論は Rikai にまだ無いので、(2) も主張の一部として置きます。第 3 論文の 1.4 節の注意は、ホモトピー球面から出発する場合には素分解の定理を使わずに直接同じ議論ができることを述べています。

有限時間消滅の証明の核は、「極小曲面の面積は Ricci flow のもとで一定以上の速さで減る」という不等式です。滑らかに埋め込まれた極小球面について、これを証明します。

曲面が周りの空間の中でどれだけ曲がっているかを測るのが第 2 基本形式 II\mathrm{II} です。平面なら 00 で、球面のような曲がった面ほど大きくなります(曲面の場合は 第二基本形式 として定義されています)。次の補題は、曲面自身の曲がり(Gauss 曲率)と、周りの空間の曲がりと、II\mathrm{II} の関係を与えるもので、この後の面積の計算に使います。

補題 4.3(3 次元多様体の中の曲面の Gauss 方程式)✓

(M,g)(M,g) を 33 次元 Riemann 多様体、Σ⊂M\Sigma\subset M を埋め込まれた曲面とし、Σ\Sigma に誘導計量を入れる。x∈Σx\in\Sigma の近くで単位法ベクトル場 ν\nu を取り、Σ\Sigma に接するベクトル場 X,YX,Y に対し第 2 基本形式を II(X,Y)=⟨∇XY,ν⟩\mathrm{II}(X,Y)=\langle\nabla_XY,\nu\rangle と置く(∇\nabla は MM の Levi-Civita 接続)。II\mathrm{II} は対称で、TxΣT_x\Sigma の正規直交基底 e1,e2e_1,e_2 について

KΣ(x)=KM(TxΣ)+II(e1,e1)II(e2,e2)−II(e1,e2)2.K_\Sigma(x)=K_M(T_x\Sigma)+\mathrm{II}(e_1,e_1)\mathrm{II}(e_2,e_2)-\mathrm{II}(e_1,e_2)^2 .

ここで KΣK_\Sigma は Σ\Sigma の Gauss 曲率(誘導計量の断面曲率)、KM(TxΣ)K_M(T_x\Sigma) は MM の断面曲率である。右辺の II\mathrm{II} の項 det⁡II\det\mathrm{II} と ∣II∣2=∑i,jII(ei,ej)2|\mathrm{II}|^2=\sum_{i,j}\mathrm{II}(e_i,e_j)^2 は ν\nu の符号の取り方によらない。

証明(補題 4.3)

接ベクトル場 X,YX,Y は xx の近くの MM のベクトル場に延長して考えます。Σ\Sigma の上で ∇XΣY=∇XY−II(X,Y)ν\nabla^\Sigma_XY=\nabla_XY-\mathrm{II}(X,Y)\nu(接成分)と置くと、これは Σ\Sigma 上のアフィン接続で、∇\nabla の捩れがないことから ∇XΣY−∇YΣX=[X,Y]−(II(X,Y)−II(Y,X))ν\nabla^\Sigma_XY-\nabla^\Sigma_YX=[X,Y]-(\mathrm{II}(X,Y)-\mathrm{II}(Y,X))\nu です。[X,Y][X,Y] は Σ\Sigma に接するので、法成分を比べて II\mathrm{II} は対称、接成分を比べて ∇Σ\nabla^\Sigma は捩れがありません。接ベクトル場 ZZ について X⟨Y,Z⟩=⟨∇XY,Z⟩+⟨Y,∇XZ⟩=⟨∇XΣY,Z⟩+⟨Y,∇XΣZ⟩X\langle Y,Z\rangle=\langle\nabla_XY,Z\rangle+\langle Y,\nabla_XZ\rangle=\langle\nabla^\Sigma_XY,Z\rangle+\langle Y,\nabla^\Sigma_XZ\rangle なので計量と両立し、一意性(定理 5.2[Riemann 計量と Levi-Civita 接続])から ∇Σ\nabla^\Sigma は誘導計量の Levi-Civita 接続です。

⟨ν,X⟩=0\langle\nu,X\rangle=0 を微分して ⟨∇Yν,X⟩=−II(Y,X)\langle\nabla_Y\nu,X\rangle=-\mathrm{II}(Y,X) です。これを使って

⟨∇X∇YY,X⟩=⟨∇X(∇YΣY+II(Y,Y)ν),X⟩=⟨∇XΣ∇YΣY,X⟩−II(Y,Y)II(X,X),\langle\nabla_X\nabla_YY,X\rangle=\bigl\langle\nabla_X\bigl(\nabla^\Sigma_YY+\mathrm{II}(Y,Y)\nu\bigr),X\bigr\rangle=\langle\nabla^\Sigma_X\nabla^\Sigma_YY,X\rangle-\mathrm{II}(Y,Y)\mathrm{II}(X,X),

同様に ⟨∇Y∇XY,X⟩=⟨∇YΣ∇XΣY,X⟩−II(X,Y)II(Y,X)\langle\nabla_Y\nabla_XY,X\rangle=\langle\nabla^\Sigma_Y\nabla^\Sigma_XY,X\rangle-\mathrm{II}(X,Y)\mathrm{II}(Y,X)、⟨∇[X,Y]Y,X⟩=⟨∇[X,Y]ΣY,X⟩\langle\nabla_{[X,Y]}Y,X\rangle=\langle\nabla^\Sigma_{[X,Y]}Y,X\rangle です(ν\nu の微分を含む項は XX との内積で、ν\nu に比例する項は消える)。曲率の定義(定義 2.1[曲率テンソル])から

Rm⁡M(X,Y,Y,X)=Rm⁡Σ(X,Y,Y,X)−II(X,X)II(Y,Y)+II(X,Y)2.\operatorname{Rm}_M(X,Y,Y,X)=\operatorname{Rm}_\Sigma(X,Y,Y,X)-\mathrm{II}(X,X)\mathrm{II}(Y,Y)+\mathrm{II}(X,Y)^2 .

X=e1X=e_1、Y=e2Y=e_2 とすると、断面曲率の定義(定義 4.1[曲率テンソル])から主張の式です。ν\nu を −ν-\nu に替えると II\mathrm{II} は符号を変えますが、2 次の量は変わりません。

曲面 Σ\Sigma が極小であるとは、平均曲率 II(e1,e1)+II(e2,e2)\mathrm{II}(e_1,e_1)+\mathrm{II}(e_2,e_2) が 00 であること(面積の第一変分が消えること)です。

命題 4.4(Ricci flow のもとでの球面の面積の変化)✓

g(t)g(t)(t∈[t1,t2]t\in[t_1,t_2])を 33 次元多様体 MM 上の Ricci flow の解、Σ⊂M\Sigma\subset M を滑らかに埋め込まれた 22 次元球面とし、A(t)A(t) を g(t)g(t) の誘導計量についての Σ\Sigma の面積とする。

  1. 各時刻で、TΣT\Sigma の正規直交基底 e1,e2e_1,e_2 と面積要素 dAdA について dAdt=−∫Σ(Ric⁡(e1,e1)+Ric⁡(e2,e2))dA=−∫Σ(R2+KM(TΣ))dA.\frac{dA}{dt}=-\int_\Sigma\bigl(\operatorname{Ric}(e_1,e_1)+\operatorname{Ric}(e_2,e_2)\bigr)dA=-\int_\Sigma\Bigl(\frac R2+K_M(T\Sigma)\Bigr)dA .
  2. Σ\Sigma が時刻 t0t_0 の計量 g(t0)g(t_0) について極小ならば dAdt(t0)=−4π−∫Σ(R2+12∣II∣2)dA ≤ −4π−12Rmin⁡(t0) A(t0),\frac{dA}{dt}(t_0)=-4\pi-\int_\Sigma\Bigl(\frac R2+\frac12|\mathrm{II}|^2\Bigr)dA\ \le\ -4\pi-\frac12R_{\min}(t_0)\,A(t_0), ここで Rmin⁡(t0)=inf⁡MR(⋅,t0)R_{\min}(t_0)=\inf_MR(\cdot,t_0)。
証明(命題 4.4)

(1) 包含写像を ι ⁣:Σ→M\iota\colon\Sigma\to M とすると、誘導計量 gΣ(t)=ι∗g(t)g_\Sigma(t)=\iota^*g(t) は ∂tgΣ=−2ι∗Ric⁡\partial_tg_\Sigma=-2\iota^*\operatorname{Ric} を満たします。第 4 章の変分公式(補題 4.1[ポアンカレ予想 I] (6))を Σ\Sigma の上の計量の族 gΣ(t)g_\Sigma(t) に使うと

∂∂tdA=12tr⁡gΣ(−2ι∗Ric⁡)dA=−(Ric⁡(e1,e1)+Ric⁡(e2,e2))dA\frac{\partial}{\partial t}dA=\frac12\operatorname{tr}_{g_\Sigma}\bigl(-2\iota^*\operatorname{Ric}\bigr)dA=-\bigl(\operatorname{Ric}(e_1,e_1)+\operatorname{Ric}(e_2,e_2)\bigr)dA

で、積分して第 1 の等号を得ます。e3=νe_3=\nu を足して TxMT_xM の正規直交基底とし、ei,eje_i,e_j の張る平面の断面曲率を KijK_{ij} と書くと、定義 4.1[曲率テンソル] から

Ric⁡(e1,e1)=K12+K13,Ric⁡(e2,e2)=K12+K23,R=2(K12+K13+K23),\operatorname{Ric}(e_1,e_1)=K_{12}+K_{13},\qquad \operatorname{Ric}(e_2,e_2)=K_{12}+K_{23},\qquad R=2(K_{12}+K_{13}+K_{23}),

よって Ric⁡(e1,e1)+Ric⁡(e2,e2)=K12+R2\operatorname{Ric}(e_1,e_1)+\operatorname{Ric}(e_2,e_2)=K_{12}+\frac R2 で、K12=KM(TΣ)K_{12}=K_M(T\Sigma) です。

(2) 時刻 t0t_0 で考えます。補題 4.3 から K12=KΣ−det⁡IIK_{12}=K_\Sigma-\det\mathrm{II} です。極小なので II(e2,e2)=−II(e1,e1)\mathrm{II}(e_2,e_2)=-\mathrm{II}(e_1,e_1) で

det⁡II=−II(e1,e1)2−II(e1,e2)2=−12∣II∣2,K12=KΣ+12∣II∣2.\det\mathrm{II}=-\mathrm{II}(e_1,e_1)^2-\mathrm{II}(e_1,e_2)^2=-\tfrac12|\mathrm{II}|^2,\qquad K_{12}=K_\Sigma+\tfrac12|\mathrm{II}|^2 .

Σ\Sigma は S2S^2 に微分同相なので、第 4 章の 命題 4.3[ポアンカレ予想 I] により ∫ΣKΣ dA=4π\int_\Sigma K_\Sigma\,dA=4\pi です。(1) に代入して等式を得ます。不等式は ∣II∣2≥0|\mathrm{II}|^2\ge0 と R≥Rmin⁡(t0)R\ge R_{\min}(t_0) によります。

−4π-4\pi は Gauss–Bonnet の定理から来る位相的な項で、球面である限り曲面の大きさによらず面積を一定の速さで減らします。33 次元であること(Ric⁡\operatorname{Ric} の接方向のトレースが R2+K12\frac R2+K_{12} と書けること)と、極小であること(det⁡II≤0\det\mathrm{II}\le0)の両方を使っています。Perelman の Lemma 1.2 の円板版では、円板の Gauss–Bonnet の定理で内部の項が −2π-2\pi になり、境界の測地的曲率の項は境界の曲線を曲線短縮流で動かすことで打ち消されます。

ただし 1 つの球面を追うだけでは証明になりません。時刻 t0t_0 で極小な球面は、少し後の時刻では極小でなくなるからです。そこで、各時刻の計量に対して min-max で定まる面積の値を考えます。

次の定義のねらいは、球面を点から点へ「掃き出す」ときに、途中で一番大きくなる面積を測る量を作ることです。3 次元球面を緯度一定の球面で切っていくと、北極の点から始まり、赤道で面積が最大になり、南極の点で終わります。ほかの掃き出し方も考え、最大面積が最小になるものを選んだ値が幅です。W1,2W^{1,2} は、面積やエネルギーが扱える程度になめらかな写像の集まりを指す記号だと読んでください。

定義 4.5(幅)↗

MM を連結で向き付け可能な閉 33 次元多様体で π3(M)≠0\pi_3(M)\ne0 を満たすものとし、β∈π3(M)\beta\in\pi_3(M) を自明でない元とする。連続写像 σ ⁣:S2×[0,1]→M\sigma\colon S^2\times[0,1]\to M で、σ(⋅,0)\sigma(\cdot,0) と σ(⋅,1)\sigma(\cdot,1) が定値写像、各 σ(⋅,s)\sigma(\cdot,s) が Sobolev 空間 W1,2W^{1,2} に属し ss について連続で、S2×[0,1]S^2\times[0,1] の両端をそれぞれ 1 点につぶして得られる写像 S3→MS^3\to M が β\beta を代表するものを、β\beta の掃き出しという。Riemann 計量 gg に対し

W(g)=W(g,β)=inf⁡σ max⁡s∈[0,1] Area⁡g(σ(⋅,s))W(g)=W(g,\beta)=\inf_{\sigma}\ \max_{s\in[0,1]}\ \operatorname{Area}_g\bigl(\sigma(\cdot,s)\bigr)

を (M,g)(M,g) の(β\beta についての)幅という。下限は β\beta の掃き出し全体で取る。

Colding–Minicozzi の定式化です(彼らはエネルギーによる定義も使い、両者が同じ値を与えることを示しています)。S3S^3 では、β\beta を π3(S3)≅Z\pi_3(S^3)\cong\mathbb{Z} の生成元(系 6.5[Hurewicz の定理と Freudenthal の懸垂定理])とし、緯度一定の球面による掃き出しを考えると、丸い単位球面の幅は赤道の大球面の面積 4π4\pi 以下です。

定理 4.6(幅を実現する極小球面と、幅の微分不等式)※

定義 4.5 の状況で、次が成り立つ。

  1. (存在)W(g)>0W(g)\gt0 であり、有限個の分岐つきの極小はめ込み u1,…,um ⁣:S2→Mu_1,\dots,u_m\colon S^2\to M(共形な調和写像)で、面積の和が W(g)W(g) に等しいものが、掃き出しの最小化列の切り口の極限として得られる。
  2. (微分不等式)g(t)g(t)(t∈[0,T)t\in[0,T))が MM 上の Ricci flow の解ならば、w(t)=W(g(t))w(t)=W(g(t)) は連続で、すべての tt で lim sup⁡h↓0w(t+h)−w(t)h≤−4π−12Rmin⁡(t) w(t).\limsup_{h\downarrow0}\frac{w(t+h)-w(t)}{h}\le-4\pi-\frac12R_{\min}(t)\,w(t).

注意 4.7(主張のみ:理由と出典)

この定理は主張のみとし、証明を付けません。(1) は、22 次元球面からの調和写像に対する Sacks–Uhlenbeck の存在理論(Ann. of Math. 113 (1981))と、エネルギーが泡(bubble)に集中するときの解析によるもので、Colding–Minicozzi の Geom. Topol. 12 (2008) の論文が、min-max の列のすべての切り口が極小球面の集まりに近づくという形で証明しています。極小曲面の正則性理論と調和写像のコンパクト性の理論が要り、Rikai にはまだありません。(2) は (1) から、命題 4.4 (2) の計算を分岐つきのはめ込みに対して行って導かれます。Colding–Minicozzi の 2005 年の論文の主定理は、MM が素で非球面的でない向き付け可能な閉 33 次元多様体(このとき π3(M)≠0\pi_3(M)\ne0)の場合に、Rmin⁡R_{\min} の下界を代入した形 −4π+34(t+C)w(t)-4\pi+\frac{3}{4(t+C)}w(t) でこの不等式を述べています。滑らかに埋め込まれた 1 つの極小球面の場合が 命題 4.4 です。

系 4.8(幅の常微分不等式から消滅時刻の上界)✓

C>0C\gt0 とし、連続関数 w ⁣:[0,T)→[0,∞)w\colon[0,T)\to[0,\infty) がすべての t∈[0,T)t\in[0,T) で

lim sup⁡h↓0w(t+h)−w(t)h≤−4π+34(t+C) w(t)\limsup_{h\downarrow0}\frac{w(t+h)-w(t)}{h}\le-4\pi+\frac{3}{4(t+C)}\,w(t)

を満たすとする。このとき、すべての t∈[0,T)t\in[0,T) で

w(t)(t+C)3/4≤w(0)C3/4−16π((t+C)1/4−C1/4),とくにT≤(C1/4+w(0)16πC3/4)4−C.\frac{w(t)}{(t+C)^{3/4}}\le\frac{w(0)}{C^{3/4}}-16\pi\bigl((t+C)^{1/4}-C^{1/4}\bigr),\qquad\text{とくに}\quad T\le\Bigl(C^{1/4}+\frac{w(0)}{16\pi C^{3/4}}\Bigr)^4-C .
証明(系 4.8)

上極限の微分が 00 以下の連続関数は非増加。 b ⁣:[t1,t2]→Rb\colon[t_1,t_2]\to\mathbb{R} を連続関数で、[t1,t2)[t_1,t_2) の各点で D+b(t):=lim sup⁡h↓0(b(t+h)−b(t))/h≤0D^+b(t):=\limsup_{h\downarrow0}(b(t+h)-b(t))/h\le0 を満たすものとします。η>0\eta\gt0 に対し bη(t)=b(t)−ηtb_\eta(t)=b(t)-\eta t と置くと D+bη≤−η<0D^+b_\eta\le-\eta\lt0 です。t∗=sup⁡{t∈[t1,t2]:[t1,t] 上で bη≤bη(t1)}t^*=\sup\{t\in[t_1,t_2]:[t_1,t]\text{ 上で }b_\eta\le b_\eta(t_1)\} と置くと、連続性から [t1,t∗][t_1,t^*] 上で bη≤bη(t1)b_\eta\le b_\eta(t_1) です。t∗<t2t^*\lt t_2 なら、D+bη(t∗)<0D^+b_\eta(t^*)\lt0 から十分小さい h>0h\gt0 で bη(t∗+h)<bη(t∗)≤bη(t1)b_\eta(t^*+h)\lt b_\eta(t^*)\le b_\eta(t_1) となり、t∗t^* の定義に反します。よって bη(t2)≤bη(t1)b_\eta(t_2)\le b_\eta(t_1) で、η→0\eta\to0 として b(t2)≤b(t1)b(t_2)\le b(t_1) です。

積分因子。 ϕ(t)=(t+C)−3/4\phi(t)=(t+C)^{-3/4}、b(t)=w(t)ϕ(t)+16π(t+C)1/4b(t)=w(t)\phi(t)+16\pi(t+C)^{1/4} と置きます。ϕ>0\phi\gt0 は滑らかなので

w(t+h)ϕ(t+h)−w(t)ϕ(t)h=ϕ(t+h)w(t+h)−w(t)h+w(t)ϕ(t+h)−ϕ(t)h\frac{w(t+h)\phi(t+h)-w(t)\phi(t)}{h}=\phi(t+h)\frac{w(t+h)-w(t)}{h}+w(t)\frac{\phi(t+h)-\phi(t)}{h}

の上極限を取って D+(wϕ)(t)≤ϕ(t)D+w(t)+w(t)ϕ′(t)D^+(w\phi)(t)\le\phi(t)D^+w(t)+w(t)\phi'(t) です。仮定と ϕ′=−34(t+C)−7/4\phi'=-\frac34(t+C)^{-7/4} から

D+b(t)≤(t+C)−3/4(−4π+3w(t)4(t+C))−34(t+C)−7/4w(t)+4π(t+C)−3/4=0.D^+b(t)\le(t+C)^{-3/4}\Bigl(-4\pi+\frac{3w(t)}{4(t+C)}\Bigr)-\frac34(t+C)^{-7/4}w(t)+4\pi(t+C)^{-3/4}=0 .

前段から bb は非増加で、b(t)≤b(0)b(t)\le b(0) が第 1 の不等式です。左辺は 00 以上なので (t+C)1/4≤C1/4+w(0)16πC3/4(t+C)^{1/4}\le C^{1/4}+\frac{w(0)}{16\pi C^{3/4}} で、TT の上界を得ます。

閉 33 次元多様体上の Ricci flow で Rmin⁡(0)≥−ρ0R_{\min}(0)\ge-\rho_0(ρ0>0\rho_0\gt0)とすると、第 4 章の 系 5.2[ポアンカレ予想 I] (3) から −12Rmin⁡(t)≤34(t+C)-\frac12R_{\min}(t)\le\frac{3}{4(t+C)}、C=32ρ0C=\frac{3}{2\rho_0} です。定理 4.6 (2) と合わせると w(t)=W(g(t))w(t)=W(g(t)) は 系 4.8 の仮定を満たします。π3(M)≠0\pi_3(M)\ne0 である限り幅は正(定理 4.6 (1))なので、滑らかな流れは初期計量の幅と ρ0\rho_0 だけで決まる時刻までしか続きません。手術つきの流れでは、手術で幅が増えないこと(手術の前の多様体から後の多様体へ、距離をほとんど伸ばさない写像があること。第 3 論文 1.3 節)を加えて、同じ上界までに消滅することになります。単連結な閉 33 次元多様体では π3(M)≅Z≠0\pi_3(M)\cong\mathbb{Z}\ne0 なので(第 4 章の 注意 2.3[ポアンカレ予想 I])、この議論が使えます。これが Colding–Minicozzi による 定理 4.1 の証明の筋道です。

5. 2 つの主定理からポアンカレ予想へ

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自由積 G∗HG*H は第 4 章 2.2 節で、準同型 jG ⁣:G→G∗Hj_G\colon G\to G*H、jH ⁣:H→G∗Hj_H\colon H\to G*H と普遍性によって定めました。

補題 5.1(自由積の因子は単射で入り、両方が自明でなければ無限群)✓

GG、HH を群とする。

  1. jGj_G、jHj_H は単射である。とくに G∗HG*H が自明な群ならば GG も HH も自明である。
  2. a∈Ga\in G、b∈Hb\in H がどちらも単位元でなければ、jG(a)jH(b)j_G(a)j_H(b) の位数は無限である。とくに GG、HH がどちらも自明でなければ G∗HG*H は無限群である。
証明(補題 5.1)

(1) 普遍性を K=GK=G、φG=idG\varphi_G=\mathrm{id}_G、φH=\varphi_H=(自明な準同型)で使うと、準同型 Φ ⁣:G∗H→G\Phi\colon G*H\to G で ΦjG=idG\Phi j_G=\mathrm{id}_G となるものがあります。よって jGj_G は単射です。jHj_H も同様です。G∗H=1G*H=1 なら単射性から G=H=1G=H=1 です。

(2) G∖{1}G\setminus\{1\} と H∖{1}H\setminus\{1\} の元を交互に並べた有限列(長さ 00 の空の列 ∅\varnothing を含む)の全体を W0\mathcal{W}_0 とします。g∈Gg\in G の W0\mathcal{W}_0 への作用を次で定めます。列 ww を、先頭が GG の元 xx なら w=(x,w′)w=(x,w') と書き、そうでなければ x=1x=1、w′=ww'=w とします。y∈Gy\in G に対し、[y]w′[y]w' を「y≠1y\ne1 なら (y,w′)(y,w')、y=1y=1 なら w′w'」と定めると w=[x]w′w=[x]w' で、w′w' は GG の元で始まりません。そこで

g⋅w=[gx] w′g\cdot w=[gx]\,w'

と置きます。1⋅w=[x]w′=w1\cdot w=[x]w'=w、g⋅(g′⋅w)=g⋅[g′x]w′=[gg′x]w′=(gg′)⋅wg\cdot(g'\cdot w)=g\cdot[g'x]w'=[gg'x]w'=(gg')\cdot w なので、これは GG の作用で、準同型 G→Sym⁡(W0)G\to\operatorname{Sym}(\mathcal{W}_0)(W0\mathcal{W}_0 の全単射のなす群)を与えます。HH についても同じように定めます。普遍性から、両方を延長する準同型 Φ ⁣:G∗H→Sym⁡(W0)\Phi\colon G*H\to\operatorname{Sym}(\mathcal{W}_0) があります。空の列に Φ(jH(b))\Phi(j_H(b)) を施すと (b)(b)、続けて Φ(jG(a))\Phi(j_G(a)) を施すと (a,b)(a,b) です。繰り返して、Φ((jG(a)jH(b))k)\Phi\bigl((j_G(a)j_H(b))^k\bigr) は空の列を長さ 2k2k の列 (a,b,a,b,…,a,b)(a,b,a,b,\dots,a,b) に写します。k≥1k\ge1 でこれは空の列でないので (jG(a)jH(b))k≠1(j_G(a)j_H(b))^k\ne1 です。

定義 5.2(クラス 𝒮)↗

連結な向き付けられた閉 33 次元多様体のクラス S\mathcal{S} を、次の (a)(b) を満たす最小のクラスとする。

  • (a) 球面空間形 S3/ΓS^3/\Gamma(どちらの向きでもよい。S3S^3 を含む)と S2×S1S^2\times S^1 に向きを保って微分同相な多様体は S\mathcal{S} に属する。
  • (b) X,Y∈SX,Y\in\mathcal{S} ならば X#YX\# Y に向きを保って微分同相な多様体は S\mathcal{S} に属する。

S\mathcal{S} は、有限個の球面空間形と S2×S1S^2\times S^1 の連結和として書ける多様体の全体です。RP3=S3/{±1}\mathbb{R}P^3=S^3/\{\pm1\} なので RP3#RP3∈S\mathbb{R}P^3\#\mathbb{R}P^3\in\mathcal{S} です。

補題 5.3(クラス 𝒮 の多様体の基本群)✓

X∈SX\in\mathcal{S} とする。

  1. π1(X)\pi_1(X) が自明ならば、XX は S3S^3 に微分同相である。
  2. π1(X)\pi_1(X) が有限群ならば、XX は球面空間形に微分同相である。
証明(補題 5.3)

S\mathcal{S} は (a) から (b) を有限回使って得られる多様体の全体なので、(b) を使う回数についての帰納法で示します。

(a) の場合。 X≅S3/ΓX\cong S^3/\Gamma とします。第 4 章の 補題 2.12[ポアンカレ予想 I] により π1(X)≅Γ\pi_1(X)\cong\Gamma です。XX 自身が球面空間形なので (2) は成り立ち、π1(X)=1\pi_1(X)=1 なら Γ=1\Gamma=1 で X≅S3X\cong S^3 です。X≅S2×S1X\cong S^2\times S^1 なら π1(X)≅π1(S2)×π1(S1)≅Z\pi_1(X)\cong\pi_1(S^2)\times\pi_1(S^1)\cong\mathbb{Z}(命題 2.11[基本群と被覆空間]、命題 6.3[基本群と被覆空間]、定理 4.1[基本群と被覆空間])は無限群なので、(1)(2) の仮定を満たしません。

(b) の場合。 X≅Y#ZX\cong Y\# Z、Y,Z∈SY,Z\in\mathcal{S} とし、YY、ZZ については主張が成り立つとします。第 4 章の 命題 2.7[ポアンカレ予想 I] から π1(X)≅π1(Y)∗π1(Z)\pi_1(X)\cong\pi_1(Y)*\pi_1(Z) です。

(1) π1(X)=1\pi_1(X)=1 なら、補題 5.1 (1) から π1(Y)=π1(Z)=1\pi_1(Y)=\pi_1(Z)=1 で、帰納法の仮定から Y≅S3Y\cong S^3、Z≅S3Z\cong S^3 です。S3S^3 は向きを逆にする微分同相(鏡映)を持つので、これらの微分同相は向きを保つように取れます。よって X≅S3#S3X\cong S^3\# S^3 で、補題 3.2 から S3#S3≅S3S^3\# S^3\cong S^3 です。

(2) π1(X)\pi_1(X) が有限なら、補題 5.1 (1) から π1(Y)\pi_1(Y)、π1(Z)\pi_1(Z) も有限で、同じ補題の (2) からどちらかは自明です。π1(Z)=1\pi_1(Z)=1 とすると、(1)(帰納法の仮定)から Z≅S3Z\cong S^3(向きを保つように取れる)で、補題 3.2 から X≅Y#S3≅YX\cong Y\# S^3\cong Y です。π1(Y)\pi_1(Y) は有限なので、帰納法の仮定から YY は球面空間形です。π1(Y)=1\pi_1(Y)=1 の場合も同様です。

補題 5.4(消滅する流れの初期多様体はクラス 𝒮 に属する)△

MM を連結な向き付けられた閉 33 次元多様体とし、MM から出発する手術つき Ricci flow で 定理 2.4 (1) を満たすものが有限時間で消滅する(ある KK で MK=∅M_K=\varnothing)とする。このとき M∈SM\in\mathcal{S}。

証明(補題 5.4)

S\mathcal{S} は向きの取り替えで閉じている。 向き付けられた多様体 XX の向きを逆にしたものを −X-X と書きます。X∈SX\in\mathcal{S} なら −X∈S-X\in\mathcal{S} であることを、定義 5.2 の (b) を使う回数についての帰納法で示します。(a) の球面空間形はどちらの向きでもよいとしました。S2×S1S^2\times S^1 は S1S^1 の鏡映 (u,z)↦(u,zˉ)(u,z)\mapsto(u,\bar z) という向きを逆にする微分同相を持つので、−(S2×S1)-(S^2\times S^1) は S2×S1S^2\times S^1 に向きを保って微分同相です。(b) については、X#YX\# Y を向きを保つ埋め込み f1f_1 と向きを逆にする埋め込み f2f_2 で作ったとき、R3\mathbb{R}^3 の鏡映 ρ\rho について f1∘ρf_1\circ\rho は −X-X への向きを保つ埋め込み、f2∘ρf_2\circ\rho は −Y-Y への向きを逆にする埋め込みで、同一視 f1ρ(tu)∼f2ρ((1−t)u)f_1\rho(tu)\sim f_2\rho((1-t)u) は uu を ρu\rho u に替えただけなので同じ商を与えます。よって −(X#Y)=(−X)#(−Y)-(X\# Y)=(-X)\#(-Y) です。したがって、S\mathcal{S} の多様体に(向きを保つとは限らない)微分同相な連結な向き付けられた閉 33 次元多様体は S\mathcal{S} に属します。

帰納法。 k=K,K−1,…,0k=K,K-1,\dots,0 の順に、「MkM_k のすべての成分は S\mathcal{S} に属する」ことを示します。MKM_K は空なので成り立ちます。MkM_k について成り立つとします。定理 2.4 (1) により、Mk−1M_{k-1} に有限個の交わらない球面に沿って手術を施した結果 Mk−1′M'_{k-1} の成分は、MkM_k の成分に微分同相であるか、球面空間形、S2×S1S^2\times S^1、RP3#RP3\mathbb{R}P^3\#\mathbb{R}P^3 のいずれかに微分同相で、どちらの場合も S\mathcal{S} に属します。S\mathcal{S} は連結和について閉じていて S2×S1S^2\times S^1 を含むので、命題 3.4 の後半(n=3n=3、C=S\mathcal{C}=\mathcal{S})を Mk−1M_{k-1} の各成分に使って、Mk−1M_{k-1} のすべての成分は S\mathcal{S} に属します。k=0k=0 で M=M0∈SM=M_0\in\mathcal{S} です。

定理 5.5(手術つき Ricci flow の存在と有限時間消滅からポアンカレ予想が従う)△

定理 2.4 と 定理 4.1 が成り立つとする。このとき、連結で単連結な閉 33 次元多様体は S3S^3 に微分同相である。

証明(定理 5.5)

MM を連結で単連結な閉 33 次元多様体とします。

  1. MM は向き付け可能です(第 4 章の 補題 2.5[ポアンカレ予想 I])。向きを 1 つ決めます。
  2. MM は Riemann 計量 g0g_0 を持ちます(定理 3.6[Riemann 計量と Levi-Civita 接続])。
  3. 定理 2.4 により、(M,g0)(M,g_0) から出発する手術つき Ricci flow がすべての時間で定義され、同定理の (1) を満たします。
  4. π1(M)=1\pi_1(M)=1 なので、定理 4.1 (2) により同定理の (1) の仮定が満たされ、この流れは有限時間で消滅します。
  5. 補題 5.4 により M∈SM\in\mathcal{S} です。
  6. π1(M)=1\pi_1(M)=1 なので、補題 5.3 (1) により MM は S3S^3 に微分同相です。

これが第 4 章の 定義 2.1[ポアンカレ予想 I] の命題です。証明の中で Ricci flow が働くのは 3 と 4 だけで、そこでは計量の選び方は何でもかまいません。5 と 6 は位相の議論で、消滅したという事実だけから、多様体が何であったかを逆算しています。同じ議論で、基本群が有限の場合も分かります。

系 5.6(楕円化(球面空間形予想))△

定理 2.4 と 定理 4.1 が成り立つとする。このとき、基本群が有限な連結で向き付け可能な閉 33 次元多様体は、球面空間形 S3/ΓS^3/\Gamma に微分同相である。

証明(系 5.6)

定理 5.5 の証明の 2〜5 は、π1(M)\pi_1(M) が有限であれば同じように進み(4 で 定理 4.1 (2) を使う)、M∈SM\in\mathcal{S} です。補題 5.3 (2) から MM は球面空間形です。

第 3 論文の 1.4 節の注意が述べているのがこの系です(そこでは “elliptization conjecture” と呼ばれています)。有限群が S3S^3 に自由に作用するとき、その作用は直交変換による作用と共役である、と言っても同じです。第 2 論文の §6〜§8(長時間挙動)はここまでの議論に使われていません。

3 章にわたる証明の依存関係。太い実線の枠は Rikai の中で証明した段、点線の枠は主張のみの段です。主張のみの段はすべて Perelman の 3 本の論文(および Hamilton、Colding–Minicozzi の論文)に証明があります。

例 5.7(S² × S¹ は首がつぶれて消滅する)

S2×S1S^2\times S^1 の積計量から出発する Ricci flow は g(t)=(r02−2t)gS2+dz2g(t)=(r_0^2-2t)g_{S^2}+dz^2 で、T=r02/2T=r_0^2/2 ですべての点の曲率が発散します(第 4 章の 例 7.5[ポアンカレ予想 I])。TT の直前で、多様体全体が細い首 S2×S^2\times(区間)で覆われています。定義 2.1 の Ω\Omega は空で、流れは時刻 TT で消滅します。手術は一度も行われません。S2×S1∈SS^2\times S^1\in\mathcal{S} は定義どおりです。基本群 Z\mathbb{Z} は有限でありませんが、S2×S1S^2\times S^1 は素で、普遍被覆 S2×RS^2\times\mathbb{R} について π2(S2×S1)≅π2(S2×R)≅π2(S2)≅Z≠0\pi_2(S^2\times S^1)\cong\pi_2(S^2\times\mathbb{R})\cong\pi_2(S^2)\cong\mathbb{Z}\ne0(系 3.8[ホモトピー群とファイブレーション]、系 6.1[Hurewicz の定理と Freudenthal の懸垂定理])なので非球面的でなく、定理 4.1 (1) の仮定を満たしています。

例 5.8(ℝP³ # ℝP³ の基本群は無限群)

π1(RP3#RP3)≅Z/2∗Z/2\pi_1(\mathbb{R}P^3\#\mathbb{R}P^3)\cong\mathbb{Z}/2*\mathbb{Z}/2 です。生成元を a,ba,b とすると、補題 5.1 (2) により abab の位数は無限で、この群は無限群です(無限二面体群で、⟨ab⟩≅Z\langle ab\rangle\cong\mathbb{Z} が指数 22 の部分群)。有限群どうしの自由積は、一方が自明でない限り有限になりません。したがって「基本群が有限」は「消滅する」ための十分条件であって、必要条件ではありません。RP3#RP3\mathbb{R}P^3\#\mathbb{R}P^3 は S\mathcal{S} に属し、第 2 論文 §3 の、特異時刻で全体が消える場合の一覧にも現れます。補題 5.3 (2) の証明で「どちらかの因子は自明」と言えたのは、この現象の裏返しです。

例 5.9(消滅するが S³ でない多様体)

レンズ空間 L(p,q)L(p,q)(π1=Z/p\pi_1=\mathbb{Z}/p)に丸い計量を入れると、Ricci flow は丸いまま縮んで有限時間で消滅します(第 4 章の 命題 3.6[ポアンカレ予想 I] の解は等長変換で不変なので、商に降りる)。Poincaré ホモロジー球面 S3/I∗S^3/I^* も同じです。ここで I∗⊂SU(2)=S3I^*\subset SU(2)=S^3 は位数 120120 の二項正二十面体群で、左からの積で S3S^3 に自由に作用します。I∗I^* は交換子群が自分自身に等しい群なので、S3/I∗S^3/I^* の 11 次のホモロジーは消え、ホモロジーでは S3S^3 と区別できません。これが Poincaré の 1904 年の例です。消滅するという性質だけでは S3S^3 は特定できず、補題 5.3 で基本群の条件を使うところが本質的です。

6. 長時間挙動と幾何化予想(第 2 論文 §6〜§8)

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流れが有限時間で消滅しない場合、たとえば MM が双曲多様体やトーラスを因子に持つ場合には、t→∞t\to\infty での計量の形を調べることになります。ポアンカレ予想には不要ですが、幾何化予想(第 4 章の 定理 2.14[ポアンカレ予想 I])はここから出ます。

コンパクトな 33 次元多様体がグラフ多様体であるとは、互いに交わらない有限個の埋め込まれたトーラスで切ると、各部分が曲面上の円周束(一般には Seifert ファイバー空間)になることをいいます。

定理 6.1(長時間での厚い部分と薄い部分(Perelman))※

(M,g0)(M,g_0) を向き付けられた閉 33 次元 Riemann 多様体とし、定理 2.4 の手術つき Ricci flow が有限時間で消滅しないとする。時刻 tt の多様体の点 xx に対し、球 B(x,t,ρ)B(x,t,\rho) の上の断面曲率の下限がちょうど −ρ−2-\rho^{-2} となる半径を ρ(x,t)\rho(x,t) とし、w>0w\gt0 に対して vol⁡B(x,t,ρ(x,t))<w ρ(x,t)3\operatorname{vol}B(x,t,\rho(x,t))\lt w\,\rho(x,t)^3 となる点の全体を薄い部分 M−(w,t)M^-(w,t)、その補集合を厚い部分 M+(w,t)M^+(w,t) という。このとき、有限個(00 個でもよい)の完備で体積有限な双曲多様体 H1,…,HiH_1,\dots,H_i(断面曲率 −14-\frac14)があって、十分小さい ww と十分大きい tt について次が成り立つ。

  1. 厚い部分は、計量を t−1t^{-1} 倍すると、HjH_j のカスプを切り落としたコンパクトな部分 Hj(w)H_j(w) のほぼ等長な埋め込みで覆われる。
  2. Hj(w)H_j(w) の境界のトーラスは、時刻 tt の多様体の中で非圧縮である。
  3. Hj(w)H_j(w) の埋め込みの補集合(薄い部分)は、グラフ多様体に微分同相である。

したがって、十分大きい tt で、時刻 tt の多様体の各成分は、グラフ多様体であるか、閉双曲多様体であるか、有限個の交わらない非圧縮トーラスで、グラフ多様体と体積有限の非コンパクトな完備双曲多様体とに切り分けられる。

注意 6.2(主張のみ:理由と出典)

この定理は主張のみとし、証明を付けません。構想は第 1 論文 13.1 節にあり、手術つきの流れに対する証明は第 2 論文の §6〜§7 です。(1)(2) は 7.3 節で、スカラー曲率の最小値と体積から作るスケール不変量の単調性(7.1 節)と、Hamilton の 1999 年の論文(“Non-singular solutions of the Ricci flow on three-manifolds”, Comm. Anal. Geom. 7)の議論を、曲率の有界性を仮定せずに行ったものです。そのために第 1 論文 Theorem 12.2・12.3 の手術つきの版が §6 で証明されます(6.2 節には第 1 論文 Theorem 12.2 の主張の訂正があります)。(3) は 7.4 節で、「局所的に断面曲率が下から抑えられて体積が崩壊する 33 次元多様体はグラフ多様体である」という定理に帰着されます。Perelman はこの定理の証明を別の論文に回すと書きましたが、その論文は公表されていません。証明は T. Shioya と T. Yamaguchi(Math. Ann. 333 (2005))、J. Morgan と G. Tian(The Geometrization Conjecture, Clay Mathematics Monographs 5, 2014)、B. Kleiner と J. Lott(Astérisque 365 (2014))らが与えました。L. Bessières、G. Besson、M. Boileau、S. Maillot、J. Porti の本(Geometrisation of 3-Manifolds, EMS Tracts in Mathematics 13, 2010)は、崩壊の定理を別の議論で置き換えた証明を与えています。第 2 論文 8.2 節は、λ\lambda(第 5 章の 定義 4.1[ポアンカレ予想 II])を使った別の定式化を述べています。

幾何化予想はこの定理から、消滅する場合の 補題 5.4、素分解の定理、グラフ多様体が Seifert ファイバー空間に切り分けられること(Waldhausen)、Seifert ファイバー空間が 6 つの幾何のどれかを持つことを合わせて導かれます。ポアンカレ予想と楕円化(系 5.6)にはこの定理は使いません。第 3 論文 1.4 節の注意に、その場合は第 2 論文の §6〜§8 の解析が不要であると明記されています。

Perelman の 3 本の論文はプレプリントサーバ arXiv に置かれただけで、査読誌には投稿されていません。論文は圧縮された書き方で、とくに第 2 論文には “the proof is exactly the same as…” のように詳細を読者に委ねる箇所が多くあります。定理として受け入れられたのは、複数のグループが独立に全体を追い、詳細を補った文書を公表したことによります。出典のある事実を年表にまとめます。

時期出来事
2002 年 11 月 11 日第 1 論文(arXiv:math/0211159)。エントロピー、非崩壊定理、κ\kappa-解、標準近傍定理、幾何化予想の証明の素描(§13)
2003 年 3 月 10 日第 2 論文(arXiv:math/0303109)。手術つき Ricci flow の構成と長時間挙動。冒頭で、第 1 論文 §13 の主張のうち 1 つ(角の体積の下界)が正当化できず、他の結論には不要であったと訂正
2003 年 7 月 17 日第 3 論文(arXiv:math/0307245)。有限時間消滅。ポアンカレ予想に限れば長時間挙動の解析が不要になる
2003 年Colding–Minicozzi が、幅を使う有限時間消滅の別証明のプレプリントを公表(J. Amer. Math. Soc. 18 (2005) に掲載)
2003 年〜2006 年Kleiner–Lott が第 1・第 2 論文の節ごとの注釈をウェブで公開し、書き足していく。2006 年 5 月に arXiv:math/0605667、2008 年に Geom. Topol. 12 に掲載
2006 年 6 月Cao–Zhu の論文が Asian J. Math. 10 に掲載。同年 12 月に題を改めた改訂版(arXiv:math/0612069)
2006 年 7 月Morgan–Tian の原稿(arXiv:math/0607607)。ポアンカレ予想の証明に必要な部分の完全な記述。2007 年に Clay Mathematics Monographs 3 として刊行
2006 年 8 月国際数学者会議(マドリード)で Perelman に Fields 賞が授与される。Perelman は受賞を辞退した
2010 年 3 月 18 日Clay 数学研究所が、ポアンカレ予想の解決に対するミレニアム賞を Perelman に授与すると発表
2010 年 7 月Perelman が賞を辞退したことが報じられる(7 月 1 日)

第 2 論文の冒頭は、Hamilton の手術の議論(1997 年の論文)にも正当化されていない主張が 1 か所あり、それを直せなかったので別の方法を取った、と書いています。検証の過程でも、Perelman の論文の中に、主張の訂正が必要な箇所(第 2 論文 1.1 節と 6.2 節で本人が訂正したもの)や、証明が省かれた定理(崩壊の定理。前節)が見つかっています。いずれも補われ、主定理は変わっていません。Clay 数学研究所の問題のページは、ポアンカレ予想を解決済み(“Solved”)と表示しています(2026 年 10 月 8 日に確認)。

査読誌に載っていない証明が定理として扱われているのは、数学では珍しいことです。その根拠は、掲載の有無ではなく、Kleiner–Lott、Morgan–Tian、Cao–Zhu の 3 つの独立した詳細な記述(合わせて 1000 ページを超える)が査読誌と単行本として公表され、その後の多数の研究がこれらを土台にしていることにあります。この記事で「主張のみ」とした段の証明を確かめたい場合は、これらの文献にあたってください。

演習 8.1易

MM を π3(M)≠0\pi_3(M)\ne0 を満たす連結で向き付け可能な閉 33 次元多様体、g(t)g(t)(t∈[0,T)t\in[0,T))を R(⋅,0)≥0R(\cdot,0)\ge0 を満たす Ricci flow の解とする。定理 4.6 を認めて、T≤W(g(0))/(4π)T\le W(g(0))/(4\pi) を示せ。丸い S3S^3(半径 r0r_0)の場合に、この上界と実際の消滅時刻を比べよ。

解答

第 4 章の 系 5.2[ポアンカレ予想 I] (1) から、すべての tt で Rmin⁡(t)≥Rmin⁡(0)≥0R_{\min}(t)\ge R_{\min}(0)\ge0 です。w(t)=W(g(t))w(t)=W(g(t)) は 定理 4.6 (2) から D+w(t)≤−4π−12Rmin⁡(t)w(t)≤−4πD^+w(t)\le-4\pi-\frac12R_{\min}(t)w(t)\le-4\pi を満たします。b(t)=w(t)+4πtb(t)=w(t)+4\pi t は連続で D+b≤0D^+b\le0 なので、系 4.8 の証明の前半から非増加で、w(t)≤w(0)−4πtw(t)\le w(0)-4\pi t です。w(t)>0w(t)\gt0(定理 4.6 (1))なので t<w(0)/(4π)t\lt w(0)/(4\pi) です。丸い S3S^3 では、緯度一定の球面による掃き出しから W(g(0))≤4πr02W(g(0))\le4\pi r_0^2(赤道の面積)で、上界は r02r_0^2 以下です。実際の消滅時刻は r02/4r_0^2/4(第 4 章の 命題 3.6[ポアンカレ予想 I])なので、この上界は 44 倍ゆるい評価です。12Rmin⁡w\frac12R_{\min}w の項を捨てたためで、次の演習のとおり、この項まで入れると赤道の面積の変化はちょうど再現されます。

演習 8.2標準

次の 2 つの場合に、命題 4.4 (2) の等式を直接の計算で確かめよ。(a) 半径 r(t)r(t)、r(t)2=r02−4tr(t)^2=r_0^2-4t の丸い S3S^3 の赤道の大球面。(b) S2×S1S^2\times S^1 の積計量の流れ g(t)=(r02−2t)gS2+dz2g(t)=(r_0^2-2t)g_{S^2}+dz^2 の中の S2×{z0}S^2\times\{z_0\}。

解答

どちらの球面も、多様体の等長変換である鏡映((a) では赤道に関する鏡映、(b) では z↦2z0−zz\mapsto2z_0-z)の固定点集合です。鏡映で ν\nu は −ν-\nu に写り、II\mathrm{II} は不変かつ符号を変えるので II=0\mathrm{II}=0 です。したがって極小で、命題 4.4 (2) の等式は dAdt=−4π−∫ΣR2 dA\frac{dA}{dt}=-4\pi-\int_\Sigma\frac R2\,dA となります。

(a) 面積は A(t)=4πr(t)2=4π(r02−4t)A(t)=4\pi r(t)^2=4\pi(r_0^2-4t) で dAdt=−16π\frac{dA}{dt}=-16\pi です。右辺は、R=6/r2R=6/r^2 から −4π−3r2⋅4πr2=−16π-4\pi-\frac{3}{r^2}\cdot4\pi r^2=-16\pi で一致します。

(b) 面積は A(t)=4π(r02−2t)A(t)=4\pi(r_0^2-2t) で dAdt=−8π\frac{dA}{dt}=-8\pi です。右辺は、R=2/(r02−2t)R=2/(r_0^2-2t) から −4π−1r02−2t⋅4π(r02−2t)=−8π-4\pi-\frac{1}{r_0^2-2t}\cdot4\pi(r_0^2-2t)=-8\pi で一致します。

(a) では RR が定数なので、不等式 dAdt≤−4π−12Rmin⁡A\frac{dA}{dt}\le-4\pi-\frac12R_{\min}A も等号です。

演習 8.3標準

M=S2×S1M=S^2\times S^1 に、球面 S=S2×{z0}S=S^2\times\{z_0\} に沿って手術(定義 3.1)を施すと S3S^3 に同相な多様体が得られることを示し、命題 3.4 (2) と 補題 3.2 の結論と整合することを確かめよ。

解答

S1∖{z0}S^1\setminus\{z_0\} は開区間と同相なので、M∖S≅S2×RM\setminus S\cong S^2\times\mathbb{R} で、これは (u,s)↦esu(u,s)\mapsto e^su により R3∖{0}\mathbb{R}^3\setminus\{0\} と同相です。手術は 2 つの端 s→−∞s\to-\infty、s→+∞s\to+\infty にそれぞれ 1 点を付け加える操作で、前者は原点、後者は無限遠点にあたります。よって MS≅R3∪{∞}=S3M_S\cong\mathbb{R}^3\cup\{\infty\}=S^3 です(滑らかな構造まで合わせるには、補題 3.2 の証明のように半径方向の径数を取り替えます)。M∖SM\setminus S は連結なので 命題 3.4 (2) が使え、結論は S2×S1≅MS#(S2×S1)≅S3#(S2×S1)S^2\times S^1\cong M_S\#(S^2\times S^1)\cong S^3\#(S^2\times S^1) です。補題 3.2 により右辺は S2×S1S^2\times S^1 に微分同相で、矛盾はありません。S2×S1S^2\times S^1 は「S3S^3 の 2 点のまわりを貼り合わせたもの」で、これが 補題 3.3 の証明の模型 XX です。

  1. G. Perelman, “Ricci flow with surgery on three-manifolds”, arXiv:math/0303109 (2003); “Finite extinction time for the solutions to the Ricci flow on certain three-manifolds”, arXiv:math/0307245 (2003). この記事の節番号はこれらのプレプリントのもの。
  2. T. H. Colding, W. P. Minicozzi II, “Estimates for the extinction time for the Ricci flow on certain 3-manifolds and a question of Perelman”, J. Amer. Math. Soc. 18 (2005), 561–569; “Width and finite extinction time of Ricci flow”, Geom. Topol. 12 (2008), 2537–2586.
  3. B. Kleiner, J. Lott, “Notes on Perelman’s papers”, Geom. Topol. 12 (2008), 2587–2855, arXiv:math/0605667.
  4. J. Morgan, G. Tian, Ricci Flow and the Poincaré Conjecture, Clay Mathematics Monographs 3, American Mathematical Society, 2007, arXiv:math/0607607.
  5. H.-D. Cao, X.-P. Zhu, “A complete proof of the Poincaré and geometrization conjectures — application of the Hamilton–Perelman theory of the Ricci flow”, Asian J. Math. 10 (2006), 165–492. 改訂版 “Hamilton–Perelman’s Proof of the Poincaré Conjecture and the Geometrization Conjecture”, arXiv:math/0612069.
  6. J. Morgan, G. Tian, The Geometrization Conjecture, Clay Mathematics Monographs 5, American Mathematical Society, 2014. 崩壊の定理と幾何化予想の証明。
  7. Clay Mathematics Institute, “Poincaré Conjecture”, https://www.claymath.org/millennium/poincare-conjecture/(2026 年 10 月 8 日に確認。2010 年 3 月 18 日付の授与の発表への案内がある)。

このテーマの 100 本ノック(50 問)

執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12

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