球面の上で矢印を持って小さな輪を一周歩くと、矢印は出発点で少し回って戻ってきます。平らな紙の上ではこのずれは起きません。この記事は、「曲がっている」ことをこのずれの大きさとして数で表す道具(曲率)を作り、その基本的な性質を証明します。読み終えると、球面や双曲平面の曲がり具合を計算でき、重力の理論で出てくる式がなぜ矛盾なく成り立つかの数学的な理由が分かります。
- Riemann 曲率テンソル R(X,Y)Z=∇X∇YZ−∇Y∇XZ−∇[X,Y]Z は共変微分の非可換性を測るテンソル場です(命題 2.2)。R≡0 であることと、局所的に Euclid 空間と等長であることは同値です(定理 2.4)。
- R(X,Y,Z,W)=⟨R(X,Y)Z,W⟩ は 4 つの対称性(反対称性 2 つ、第 1 Bianchi 恒等式、対の対称性)を持ちます(命題 3.1)。
- 2 次元平面ごとの断面曲率 K(σ) だけで R は完全に決まります(命題 4.2)。Ricci 曲率 Ric とスカラー曲率 s は R のトレース(添字を 1 組選んで対角成分を足し合わせる操作)です。
- 第 2 Bianchi 恒等式(定理 5.1)を縮約すると divRic=21ds となり、Einstein テンソル Ric−21sg の発散は 0 です(系 5.2)。これが Einstein 方程式とエネルギー運動量保存の整合性を保証します。
- 正規直交枠を使うと、接続は反対称行列値の 1 形式 ω、曲率は 2 形式 Ω=dω+ω∧ω で表されます(Cartan の構造方程式、定理 6.2)。曲面 dr2+f(r)2dθ2 の Gauss 曲率は −f′′/f です。
前章 の 例 6.4[Riemann 計量と Levi-Civita 接続] では、球面の緯線を一周する平行移動が、囲む球帽の面積と同じ角度の回転になりました。小さな閉曲線を一周したときの平行移動のずれを、囲む面積で割って極限を取ったもの、それが曲率です。この量は座標微分の可換性 ∂i∂j=∂j∂i が共変微分では崩れることとして現れます。
下の動画で、緯線を一周するあいだにベクトル(赤)が緯線の向きに対して少しずつ回り、戻ったときに出発時のベクトル(灰)からずれる様子を見てください。
球面 S2 の余緯度 55∘ の緯線に沿った平行移動を数値積分したもの。一周後のずれの角は、緯線が囲む球帽の面積 2π(1−cosθ0) に一致する。
曲率はさまざまな場面で中心的な役割を担います。
- 一般相対論:Einstein 方程式 Ric−21sg=8πGT の左辺は曲率のトレースから作られます。右辺のエネルギー運動量テンソルは保存則 divT=0 を満たさねばならないので、左辺も発散ゼロでなければなりません。これを保証するのが縮約 Bianchi 恒等式です。
- ゲージ理論:ゲージ場の強さ F は主束の接続の曲率で、Bianchi 恒等式 DF=0 は Maxwell 方程式の半分(dF=0)の一般化です。U(1) 格子ゲージ理論で、立方体の表面をなす 6 枚のプラケット角の向き付きの和が(各リンクが逆向きに 2 回現れるので)恒等的に 0 になることは、dF=0 の離散版です(格子ゲージ場)。
以下、(M,g) を n 次元 Riemann 多様体、∇ をその Levi-Civita 接続とします(定理 5.2[Riemann 計量と Levi-Civita 接続])。
定義 2.1(Riemann 曲率テンソル)↗
X,Y,Z∈X(M) に対し
R(X,Y)Z=∇X∇YZ−∇Y∇XZ−∇[X,Y]Zと定める。また R(X,Y,Z,W)=⟨R(X,Y)Z,W⟩ と書く。座標では R(∂i,∂j)∂k=∑lRijkl∂l と成分を定める。
符号の規約は文献によって異なります。本記事の規約では、半径 r の球面で R(X,Y,Y,X)=r−2(∣X∣2∣Y∣2−⟨X,Y⟩2)>0 となります(例 2.3)。
命題 2.2(曲率はテンソル場)✓
R は X,Y,Z のそれぞれについて C∞(M) 線形であり、したがって (1,3) 型テンソル場である。成分は
Rijkl=∂iΓjkl−∂jΓikl+m∑(ΓjkmΓiml−ΓikmΓjml).
証明(命題 2.2)
X について:∇fX=f∇X と [fX,Y]=f[X,Y]−(Yf)X(命題 2.2[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理] (3))から
R(fX,Y)Z=f∇X∇YZ−∇Y(f∇XZ)−f∇[X,Y]Z+(Yf)∇XZ=fR(X,Y)Z.ここで ∇Y(f∇XZ)=(Yf)∇XZ+f∇Y∇XZ を使いました。Y については R(X,Y)=−R(Y,X) から従います。Z について:
∇X∇Y(fZ)=(XYf)Z+(Yf)∇XZ+(Xf)∇YZ+f∇X∇YZ,で、X,Y を入れ替えて引き、∇[X,Y](fZ)=([X,Y]f)Z+f∇[X,Y]Z を引くと、f の微分を含む項は (XYf−YXf−[X,Y]f)Z=0 と対称な 1 階の項に分かれて消えます。補題 2.1[Riemann 計量と Levi-Civita 接続] によりテンソル場です。成分は [∂i,∂j]=0 から R(∂i,∂j)∂k=∇∂i(∑mΓjkm∂m)−(i↔j) を展開すれば得られます。
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テンソルであることから、R(X,Y)Z の点 p での値は Xp,Yp,Zp だけで決まります。これは、∇X∇YZ 自体は Y,Z の 2 階微分を含むのに、交換子を取ると微分がすべて消えるという、ある種の奇跡です。
例 2.3(球面の曲率(Gauss 方程式))
M⊂RN を部分多様体とし、∇ˉ を平坦接続とする。X,Y∈X(M) に対し ∇ˉXY の法成分を II(X,Y)(第 2 基本形式)と書くと、命題 5.4[Riemann 計量と Levi-Civita 接続] により ∇ˉXY=∇XY+II(X,Y)。II は対称で(∇ˉXY−∇ˉYX=[X,Y] が接ベクトル)、
R(X,Y,Z,W)=⟨II(Y,Z),II(X,W)⟩−⟨II(X,Z),II(Y,W)⟩(Gauss 方程式)が成り立つ。実際、平坦接続の曲率は 0 なので ⟨∇ˉX∇ˉYZ−∇ˉY∇ˉXZ−∇ˉ[X,Y]Z,W⟩=0。法ベクトル場 N と接ベクトル場 W について ⟨∇ˉXN,W⟩=−⟨N,∇ˉXW⟩=−⟨N,II(X,W)⟩ だから ⟨∇ˉX∇ˉYZ,W⟩=⟨∇X∇YZ,W⟩−⟨II(Y,Z),II(X,W)⟩ で、これを代入すれば Gauss 方程式を得る。
半径 r の球面 Sn(r)⊂Rn+1 では、外向き単位法線 ν=x/r について ⟨∇ˉXY,ν⟩=−⟨Y,∇ˉXν⟩=−⟨Y,X⟩/r なので II(X,Y)=−r−1⟨X,Y⟩ν。Gauss 方程式から
R(X,Y)Z=r21(⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y).
曲率が消えることの幾何学的な意味が次の定理です。証明の方針は、曲率が 0 なら平行移動が経路によらないことを使って、各点で互いに平行な正規直交枠を作り、その双対形式が閉であることから Poincaré の補題で座標を取り出す、というものです。
定理 2.4(平坦性の判定)✓
(M,g) について次は同値である。
- R≡0。
- 各点 p に、ある開近傍 U と、Rn の開集合への等長写像(g=∑i(dxi)2 となる座標)が存在する。
証明(定理 2.4)
2 ⇒ 1。 座標で gij=δij なら Christoffel 記号は 0 で、命題 2.2 の成分表示から R=0 です。
1 ⇒ 2。 3 段階に分けます。
(a) 平行な正規直交枠の構成。 p を中心とする立方体チャート C=(−ε,ε)n を取ります。v∈TpM を、まず x1 軸に沿って平行移動し、次に x1 軸上の各点から x2 方向の直線に沿って平行移動し、…と、k 段目では {xk+1=⋯=xn=0} 上の各点から xk 方向に平行移動します。各段の方程式は ∂kV=−Γk(x)V(Γk は行列 (Γkjl)l,j)という線形方程式なので、解は区間全体で存在し(定理 2.1[線形微分方程式系])、初期値と残りの座標に滑らかに依存します((x,V) 空間のベクトル場 ∂k−∑Γk(x)V⋅∂V の流れとみて 定理 2.3[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理] を適用)。こうして C 上の滑らかなベクトル場 V を得ます。
k 段目の後、スライス Sk={xk+1=⋯=xn=0} 上で i≤k に対し ∇∂iV=0 であることを k についての帰納法で示します。i=k は構成そのものです。i<k とします。k−1 段目までの帰納法の仮定により、Sk−1=Sk∩{xk=0} 上で ∇∂iV=0 です。xk 方向の直線に沿って、[∂k,∂i]=0 と R=0 から
∇∂k(∇∂iV)=∇∂i∇∂kV+R(∂k,∂i)V=0なので、∇∂iV はその直線に沿って平行で、初期値 0 を持ちます。平行移動の一意性(定理 6.2[Riemann 計量と Levi-Civita 接続])から Sk 上で ∇∂iV=0 です。k=n で C 上 ∇V=0 を得ます。
TpM の正規直交基底からこうして作った E1,…,En は平行で、平行移動は等長(定理 6.3[Riemann 計量と Levi-Civita 接続])なので、各点で正規直交基底です。
(b) 双対形式は閉。 双対な 1 形式 θi(θi(Ej)=δji)を取ります。捩れがないので [Ei,Ej]=∇EiEj−∇EjEi=0 で、外微分の公式(系 4.3[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理])から
dθi(Ej,Ek)=Ej(θi(Ek))−Ek(θi(Ej))−θi([Ej,Ek])=0.(c) 座標の構成。 立方体は星形なので、Poincaré の補題(定理 3.4[de Rham コホモロジー])により θi=dyi となる関数 yi が存在します。dy1,…,dyn は各点で一次独立なので、逆関数定理(系 2.2[部分多様体と正則値定理])により (yi) は p の近傍で座標で、g=∑i(θi)2=∑i(dyi)2 です。
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たとえば円柱 S1×R や平坦トーラス R2/Z2 は R=0 で、局所的には平面と区別できません。一方、球面は R=0 なので、どんな小さな部分も歪めずに平面へ写せません(地図の歪みが避けられない理由です)。
命題 3.1(曲率テンソルの対称性)✓
任意の X,Y,Z,W について次が成り立つ。
- R(X,Y,Z,W)=−R(Y,X,Z,W)。
- R(X,Y,Z,W)=−R(X,Y,W,Z)。
- (第 1 Bianchi 恒等式)R(X,Y)Z+R(Y,Z)X+R(Z,X)Y=0。
- R(X,Y,Z,W)=R(Z,W,X,Y)。
証明(命題 3.1)
R はテンソルなので、点ごとの主張は座標ベクトル場(互いの括弧が 0)で示せば十分です。以下 X,Y,Z,W は座標ベクトル場とし、R(X,Y)=∇X∇Y−∇Y∇X です。
1 は定義から明らかです。
2。 計量との両立から Y⟨Z,Z⟩=2⟨∇YZ,Z⟩、さらに X で微分すると
21XY⟨Z,Z⟩=⟨∇X∇YZ,Z⟩+⟨∇YZ,∇XZ⟩.X,Y を入れ替えて引くと、左辺は 21[X,Y]⟨Z,Z⟩=0、右辺の第 2 項は対称なので消え、⟨R(X,Y)Z,Z⟩=0 です。Z を Z+W に置き換えて展開すれば 2 を得ます。
3。 捩れがないので ∇YZ=∇ZY などが成り立ち、
R(X,Y)Z+R(Y,Z)X+R(Z,X)Y=∇X(∇YZ−∇ZY)+∇Y(∇ZX−∇XZ)+∇Z(∇XY−∇YX)=0.4。 3 を (X,Y,Z;W)、(Y,Z,W;X)、(Z,W,X;Y)、(W,X,Y;Z) の 4 通りに書いて ⟨⋅,最後の文字⟩ を取り、すべて足します。1、2 を使うと 12 項のうち 8 項が対ごとに打ち消し合い、
R(Z,X,Y,W)+R(W,Y,Z,X)+R(X,Z,W,Y)+R(Y,W,X,Z)=0が残ります。1、2 により第 3 項は第 1 項に、第 4 項は第 2 項に等しいので、R(Z,X,Y,W)=−R(W,Y,Z,X)=R(Y,W,Z,X) です。文字を付け替えれば 4 になります。
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対称性の数え上げから、n 次元での曲率テンソルの独立成分の数は n2(n2−1)/12 です(1、2、4 から Λ2 上の対称形式で N(N+1)/2 個、N=n(n−1)/2、そこから 3 が課す (4n) 個の条件を引く)。n=2 で 1、n=3 で 6、n=4 で 20 です。2 次元では曲率はただ一つの関数(Gauss 曲率)で決まり、3 次元では Ricci 曲率(6 成分)で決まります。
定義 4.1(断面曲率・Ricci 曲率・スカラー曲率)↗
- σ⊂TpM を 2 次元部分空間、X,Y をその基底とする。K(σ)=∣X∣2∣Y∣2−⟨X,Y⟩2R(X,Y,Y,X) を σ の断面曲率という(命題 3.1 1、2 により基底の取り方によらない)。
- Ricci 曲率 Ric(Y,Z)=tr(X↦R(X,Y)Z)=∑iR(Ei,Y,Z,Ei)(Ei は正規直交基底)。命題 3.1 4 により対称な (0,2) テンソル場である。
- スカラー曲率 s=trgRic=∑iRic(Ei,Ei)。
基底の取り方によらないことを確かめておきます。X′=aX+bY、Y′=cX+dY とすると、1、2 から R(X′,Y′,Y′,X′)=(ad−bc)2R(X,Y,Y,X) で、分母も Gram 行列式なので (ad−bc)2 倍になります。
単位ベクトル v に対して Ric(v,v)=∑i≥2K(v,Ei)(E1=v と補った正規直交基底)なので、Ricci 曲率は「v を含む平面の断面曲率の和」、スカラー曲率は「すべての座標平面の断面曲率の和の 2 倍」です。
命題 4.2(断面曲率は曲率テンソルを決める)✓
R,R′ がともに 命題 3.1 の 1〜4 を満たす TpM 上の 4 重線形形式で、すべての X,Y について R(X,Y,Y,X)=R′(X,Y,Y,X) ならば R=R′ である。とくに、断面曲率がすべての平面で定数 κ なら
R(X,Y)Z=κ(⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y).
証明(命題 4.2)
D=R−R′ は 1〜4 を満たし、D(X,Y,Y,X)=0 です。X を X+Z に置き換えて展開すると D(X,Y,Y,Z)+D(Z,Y,Y,X)=0 で、4 から 2 項は等しいので D(X,Y,Y,Z)=0 がすべての X,Y,Z について成り立ちます。次に Y を Y+W に置き換えて展開すると D(X,Y,W,Z)+D(X,W,Y,Z)=0、すなわち
D(X,Y,W,Z)=−D(X,W,Y,Z)=D(W,X,Y,Z)です。これは最初の 3 つの引数の巡回置換で D が不変であることを意味します。第 1 Bianchi 恒等式から D(X,Y,W,Z)+D(Y,W,X,Z)+D(W,X,Y,Z)=0 で、3 項はすべて等しいので 3D(X,Y,W,Z)=0 です。
後半は、右辺 R0(X,Y)Z=κ(⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y) が 1〜4 を満たし(直接確かめられる)、R0(X,Y,Y,X)=κ(∣X∣2∣Y∣2−⟨X,Y⟩2) となることから、前半を適用すれば従います。
∎
断面曲率が定数 κ の空間では Ric=(n−1)κg、s=n(n−1)κ です(命題 4.2 の式でトレースを取る)。例 2.3 の球面 Sn(r) は κ=1/r2、平坦な Rn は κ=0、そして §6 で計算する双曲平面は κ=−1 です。
接続はテンソル場にも作用するので(命題 5.5[Riemann 計量と Levi-Civita 接続] の前の段落)、曲率テンソル自身を共変微分できます。(1,3) テンソル場としての R の共変微分は
(∇XR)(Y,Z)W=∇X(R(Y,Z)W)−R(∇XY,Z)W−R(Y,∇XZ)W−R(Y,Z)∇XW
です。
定理 5.1(第 2 Bianchi 恒等式)✓
任意の X,Y,Z について
(∇XR)(Y,Z)+(∇YR)(Z,X)+(∇ZR)(X,Y)=0.
証明(定理 5.1)
左辺は X,Y,Z(と作用させる W)についてテンソルなので、互いに可換な座標ベクトル場で示せば十分です。このとき R(Y,Z)=[∇Y,∇Z](作用素の交換子)で、上の定義式は
(∇XR)(Y,Z)=[∇X,[∇Y,∇Z]]−R(∇XY,Z)−R(Y,∇XZ)と書けます(∇X(R(Y,Z)W)−R(Y,Z)∇XW=[∇X,R(Y,Z)]W)。巡回和を取ると、交換子の部分は作用素の Jacobi 恒等式 [A,[B,C]]+[B,[C,A]]+[C,[A,B]]=0 により消えます。残りは
−巡回∑(R(∇XY,Z)−R(∇XZ,Y))で、6 項を並べ替えると −R(∇XY−∇YX,Z)−R(∇YZ−∇ZY,X)−R(∇ZX−∇XZ,Y) になります。捩れがなく括弧が 0 なので ∇XY−∇YX=[X,Y]=0 などで、これも 0 です。
∎
次の系の狙いは、第 2 Bianchi 恒等式の添字を 2 回縮約して、Ricci 曲率の発散とスカラー曲率の微分を結びつけることです。縮約とは、同じ添字を上下で揃えて和を取る操作で、テンソルの階数を 2 つ下げます。
縮約するために、正規直交枠 E1,…,En での成分 Rabcd=R(Ea,Eb,Ec,Ed)、Rabcd;e=(∇EeR)(Ea,Eb,Ec,Ed) を使います。∇g=0 なので、共変微分は計量によるトレース(縮約)と可換です(トレースは g−1 との縮約で、Leibniz 則により ∇ は g−1 を素通りする)。とくに Ricbc;e=∑aRabca;e、s;e=∑bRicbb;e=Ees です。発散を (divh)c=∑ahac;a と書きます。
系 5.2(縮約 Bianchi 恒等式)✓
divRic=21ds。したがって Einstein テンソル G=Ric−21sg は divG=0 を満たす。
証明(系 5.2)
定理 5.1 を W=Ej に作用させ Ei との内積を取ると Rklji;m+Rlmji;k+Rmkji;l=0 です。k=i として i について和を取ります。第 1 項は ∑iRilji;m=Riclj;m、第 3 項は 命題 3.1 1 により ∑iRmiji;l=−Ricmj;l です。よって
Riclj;m−Ricmj;l+i∑Rlmji;i=0.さらに l=j として j について和を取ります。第 1 項は s;m、第 2 項は −(divRic)m です(Ric は対称)。第 3 項は 命題 3.1 4、2 により ∑jRjmji=∑jRjijm=−∑jRjimj=−Ricim なので −∑iRicim;i=−(divRic)m です。合わせて s;m=2(divRic)m です。
後半は div(sg)=ds(∇g=0 より (sg)ac;a=s;aδac)から divG=21ds−21ds=0 です。
∎
一般相対論の Einstein 方程式 G=8πGNT(G は Einstein テンソル、GN は Newton 定数)では、左辺が恒等的に発散ゼロなので、方程式が解を持つためには物質のエネルギー運動量テンソルが divT=0 を満たす必要があります。つまり局所的なエネルギー運動量保存は、場の方程式の「積分可能条件」として自動的に組み込まれています。逆に、Ric=8πGT という一見自然な方程式は、divT=0 と合わせると ds=0、さらにトレースから s=8πGtrT が一定であることを要求してしまい、物質分布に不自然な制約を課します。−21sg の項はこれを避けるために必要です。Einstein 方程式の物理的な導入とニュートン極限は 曲がった時空 で扱っています。
縮約 Bianchi 恒等式のもう一つの帰結が、次の剛性定理です。
系 5.3(Schur の定理)✓
M は連結で n≥3 とする。各点 p で断面曲率が平面 σ⊂TpM によらず K(p) であるならば、K は M 上の定数である。同様に、n≥3 で Ric=fg(f は関数)ならば f は定数である。
証明(系 5.3)
後半から示します。Ric=fg なら s=nf です。div(fg)=df と 系 5.2 から df=2ndf、すなわち (1−2n)df=0 です。n≥3 なら df=0 で、M は連結なので f は定数です。前半は、命題 4.2 から Ric=(n−1)Kg なので後半に帰着します。
∎
n=2 では結論が成り立ちません。2 次元ではどの点でも平面は TpM そのもの一つだけなので仮定は空虚で、Gauss 曲率は一般に変化します(たとえば回転楕円面)。
座標の代わりに正規直交枠を使うと、計算が大幅に簡単になります。開集合 U 上の正規直交枠 E1,…,En と双対な 1 形式 θ1,…,θn を取ります。
定理 6.2(Cartan の構造方程式)✓
Levi-Civita 接続について、次が成り立つ。
- ωij=−ωji(ω は so(n) 値)。
- (第 1 構造方程式)dθi=−∑jωij∧θj。
- (第 2 構造方程式)Ωij=dωij+∑kωik∧ωkj。行列記法で Ω=dω+ω∧ω。
さらに、1 と 2 を満たす行列値 1 形式 ω はただ一つである。
証明(定理 6.2)
ウェッジ積と外微分の規約は ベクトル場と微分形式 に従い、2 形式では (α∧β)(X,Y)=α(X)β(Y)−α(Y)β(X)、dα(X,Y)=Xα(Y)−Yα(X)−α([X,Y]) です(系 4.3[ベクトル場の流れ・Lie 微分・Frobenius の定理])。
1。 ⟨Ei,Ej⟩=δij を X で微分すると、計量との両立から 0=⟨∇XEi,Ej⟩+⟨Ei,∇XEj⟩=ωji(X)+ωij(X) です。
2。 Y=∑jθj(Y)Ej を共変微分すると ∇XY=∑jX(θj(Y))Ej+∑i,jθj(Y)ωij(X)Ei、すなわち θi(∇XY)=Xθi(Y)+∑jωij(X)θj(Y) です。捩れなしの条件 [X,Y]=∇XY−∇YX に θi を作用させて
θi([X,Y])=Xθi(Y)−Yθi(X)+j∑(ωij(X)θj(Y)−ωij(Y)θj(X)),すなわち dθi(X,Y)=−∑j(ωij∧θj)(X,Y) です。
3。 ∇X∇YEj=∑kX(ωkj(Y))Ek+∑i,kωkj(Y)ωik(X)Ei です。X,Y を入れ替えて引き、∇[X,Y]Ej=∑iωij([X,Y])Ei を引くと、Ei の係数は
Xωij(Y)−Yωij(X)−ωij([X,Y])+k∑(ωik(X)ωkj(Y)−ωik(Y)ωkj(X))=(dωij+k∑ωik∧ωkj)(X,Y)です。
一意性。 ω,ω′ がともに 1、2 を満たすとし、η=ω−ω′、ηij=∑kaijkθk と書きます。2 から ∑jηij∧θj=0、すなわち aijk=aikj(j,k について対称)、1 から aijk=−ajik(i,j について反対称)です。対称と反対称を交互に使うと
aijk=aikj=−akij=−akji=ajki=ajik=−aijk(添字の位置は計量 δ で上下させた)なので a=0 です。
∎
なお、so(n) は n×n の反対称行列全体のことで、1 は「接続形式を並べた行列が反対称である」という意味です。
一意性の主張が実用上重要です。dθ を計算し、2 を満たす反対称な ω を一つ見つけられれば、それが Levi-Civita 接続の接続形式です。Christoffel 記号を n3 個計算するより、ずっと手早く曲率に到達できます。
2 次元では ω=(0−ω12ω120) で、ω∧ω の (1,2) 成分は ω11∧ω12+ω12∧ω22=0 です。よって Ω12=dω12 で、Gauss 曲率 K=R(E1,E2,E2,E1)=Ω12(E1,E2) について
dω12=Kθ1∧θ2
が成り立ちます。この式を領域上で積分し Stokes の定理を使うと、Gauss–Bonnet の定理(曲線と曲面)の局所版になります。ω12 は U(1) ゲージ場、Kθ1∧θ2 はその場の強さの役を演じており、Chern–Weil 理論への入口になっています。
例 6.3(回転対称な計量の曲率)
g=dr2+f(r)2dθ2(f>0)とする。θ1=dr、θ2=fdθ と置くと dθ1=0、dθ2=f′dr∧dθ である。ω12=−f′dθ と置けば、
−ω12∧θ2=f′fdθ∧dθ=0=dθ1,−ω21∧θ1=ω12∧dr=f′dr∧dθ=dθ2で、構造方程式 2 を満たす。一意性から、これが接続形式である。dω12=−f′′dr∧dθ=−(f′′/f)θ1∧θ2 なので
K=−f(r)f′′(r).f=r(平面の極座標)で K=0、f=sinr(単位球面、r は北極からの距離)で K=1、f=sinhr で K=−1(双曲平面の測地極座標)。
例 6.4(上半平面モデルの曲率)
H の g=(dx2+dy2)/y2 で θ1=dx/y、θ2=dy/y とする。dθ1=−y−2dy∧dx=θ1∧θ2、dθ2=0。ω12=−θ1=−dx/y と置くと −ω12∧θ2=θ1∧θ2=dθ1、ω12∧θ1=0=dθ2 で構造方程式を満たす。dω12=y−2dy∧dx=−θ1∧θ2 なので K=−1 である。
演習 7.1易
M=S2×S2(各因子は単位球面、積計量)の点 p で、断面曲率が取りうる値の範囲を求めよ。また Ricci 曲率とスカラー曲率を求めよ。
解答
積計量では Levi-Civita 接続も成分ごとに分かれ(各因子の接続の直和が捩れなしで計量と両立するので、一意性から)、R=R1⊕R2 です。TpM=V1⊕V2 の正規直交基底 e1,e2∈V1、e3,e4∈V2 で、平面 σ を単位ベクトル X=a1+a2、Y=b1+b2(ai,bi∈Vi、X⊥Y)で張ると、R(X,Y,Y,X)=R1(a1,b1,b1,a1)+R2(a2,b2,b2,a2)=∣a1∧b1∣2+∣a2∧b2∣2 です。これは 0(σ=span(e1,e3))から 1(σ=V1)までの値を取り、∣a1∧b1∣2+∣a2∧b2∣2≤∣a1∣2∣b1∣2+∣a2∣2∣b2∣2≤(∣a1∣2+∣a2∣2)(∣b1∣2+∣b2∣2)=1 なので範囲は [0,1] です。Ricci 曲率は各因子の Ricci 曲率の和で Ric=g、s=4 です。
演習 7.2標準
dimM=2 のとき、R(X,Y)Z=K(⟨Y,Z⟩X−⟨X,Z⟩Y)、Ric=Kg、s=2K を示せ(K は Gauss 曲率)。また G=Ric−21sg が恒等的に 0 であることを確かめ、2 次元では Einstein 方程式が意味を持たないことを説明せよ。
解答
各点で平面は TpM ただ一つなので、命題 4.2 を κ=K(p) として各点で適用でき、最初の式を得ます。トレースを取ると Ric(Y,Z)=K(2⟨Y,Z⟩−⟨Y,Z⟩)=K⟨Y,Z⟩、s=2K です。よって G=Kg−Kg=0 です。Einstein 方程式 G=8πGNT は T=0 を強制し、計量に何の制約も課さないので、2 次元の重力は(この形では)力学を持ちません。
演習 7.3難
第 2 構造方程式 Ω=dω+ω∧ω を外微分して、dΩ=Ω∧ω−ω∧Ω を示せ(行列値形式の積は行列の積とウェッジ積を組み合わせたもの)。また第 1 構造方程式を外微分して Ω∧θ=0(成分で ∑jΩij∧θj=0)を示し、これが第 1 Bianchi 恒等式であることを説明せよ。
解答
d(ω∧ω)=dω∧ω−ω∧dω(1 形式なので符号 −1)なので
dΩ=dω∧ω−ω∧dω=(Ω−ω∧ω)∧ω−ω∧(Ω−ω∧ω)=Ω∧ω−ω∧Ωです(行列値形式の積は結合的なので (ω∧ω)∧ω=ω∧(ω∧ω))。これが第 2 Bianchi 恒等式の形式版で、ゲージ理論の DΩ=0 と同じ形です。
第 1 構造方程式 dθ=−ω∧θ を外微分すると、0=−dω∧θ+ω∧dθ=−dω∧θ−ω∧ω∧θ=−Ω∧θ です。成分で ∑jΩij∧θj を (X,Y,Z) に代入すると、θj(Z)Ωij(X,Y) の巡回和、すなわち θi(R(X,Y)Z+R(Y,Z)X+R(Z,X)Y) になります。これが 0 であることが第 1 Bianchi 恒等式です。
- M. P. do Carmo, Riemannian Geometry, Birkhäuser, 1992 — Chapter 4(曲率、断面曲率、Ricci 曲率)、Chapter 6(Gauss 方程式)。
- J. M. Lee, Introduction to Riemannian Manifolds, 2nd ed., Springer (GTM 176), 2018 — Chapter 7(曲率、平坦性の判定)、Chapter 8。
- S. Kobayashi, K. Nomizu, Foundations of Differential Geometry, Vol. I, Wiley, 1963 — Chapter III(構造方程式と Bianchi 恒等式)。
- C. W. Misner, K. S. Thorne, J. A. Wheeler, Gravitation, W. H. Freeman, 1973 — Chapter 14–15(曲率形式の計算と Bianchi 恒等式)。
- 小林昭七『曲線と曲面の微分幾何(改訂版)』裳華房、1995 — 第 4 章(構造方程式による Gauss 曲率)。
執筆: Claude Code(Opus 5.5)、Claude Code(Sonnet 5.5)・監査 2 回(Claude Code)・最終 2026-10-12